ママは司会の仕事で外出してた。2時半ごろ、晃志が突然大泣きした。お昼はすでに食べていたが、すぐにまた、お腹が空いたというので、インスタントラーメンを作っているときのことだ。亮佑になんで晃志が泣いているのか確かめると、亮佑がジャンプしたら晃志にぶつかり、それで本箱の角に頭をぶつけたらしい。どのくらいの勢いでぶつかったのか分からないが、ラーメンができてたので、二人とも気をつけやと軽く叱って、ラーメンを食べさせた。
晃志は泣きながらラーメン食べてたが、しばらくすると、もういらん、といって寝て
しまった。ほとんど食べていない。そのまま畳に寝かしてやった。いつも食べながら
寝るので、そのときはそう思っていた。ところが横になった晃志の頭をよく確かめる
と、頭頂部付近が、たんこぶかくぼみか区別がつかいほど凸凹になっていた。傷も確
認できた。
あわてて氷で冷やし始めたが、手足がぴくぴくしているし、動転して、119に電話す
ると、ああしろこうしろという指示があるかと思っていたら、すぐに救急車を手配し
てくれた。救急車は呼んでもすぐに来てくれないと、おふくろのときに経験している
ので、ひょっとしたらやばいかもしれないと思った。
救急隊は5分でやってきて、事情を冷静に聞きつつ晃志の手当をしてくれる。救命士
が、こうじくん! こうじくん!と呼んでも反応しないのは、眠っているからか、意
識がないのか、わからない。ライトをあてて瞳孔をみているが、いいのかわるいのか
分からない。ぶつけた場所を確認しても、なにも言ってくれない。いろいろと手当し
たあと「おとうさん、保険証を持って来て下さい」と言われた。晃志は抱きかかえら
れて先に連れて行かれた。あわてて保険証を探すが、あるだろうと思っているところ
にない。とりあえず母子手帳をもって亮佑と一緒に救急車に駆けつけた。
晃志は救急車のなかで意識を回復していた。救命士は、まだ4歳だからただ眠かった
のかもしれません、といってくれた。晃志の表情をみてホッとした。しかし一応病院
に行って診てもらうことになった。救命士が病院をいくつか当たってやっと見つけた
病院は川西の久代の病院。そこに向かう途中、救急隊員が晃志に話しかける。救急車
乗ったのはじめてやろ? うん、と晃志は眼を輝かしてニコニコしている。この段階
で実はとても申し訳なくなってきた。
病院では、ERほどの慌ただしさはないものの、急患としての対応をうけた。救急隊は
いつのまにか姿を消していた。医者の説明では、意識もはっきりしているし、手足の
しびれもなくちゃんと動くので、問題はないとは思う。頭を検査しますか?と聞くも
のの、医者の判断としては必要ないだろうということなので、精密検査もしなかった。
明日一日様子を見て下さいと言われた。
晃志は救急処置室をでるとケロリとして、亮佑と一緒にはしゃいでいる。救急隊や医
者にお世話になり、なにかとても申し訳なくなってきた。なんだか、とても自分が情
けなくて、どうしてこんなことで救急車をよんだんだろう、と自問した。なんともな
くてホッとした気持ちと、判断を早まったかという自責の念が交差する。それに持ち
合わせがなくて翌日支払いをしてくれることになったが、空っぽの財布しかもってい
ない自分も惨めだった。帰宅の手段はタクシーしかない。クレジットが使えるタクシ
ー会社を呼んで、帰ってきた。
亮佑は、まさか救急車を呼んだとは思ってなくて、驚いていたらいい。氷袋をもって
晃志の頭を冷やしながら、こうちゃん、こうちゃん、と呼ぶ姿は、ちょっと頼もしか
った。しかし、すこし強張った表情から、ことの重大さに気づいたのかもしれない。
こういうとき、亮佑が怪我をさせたとかそういうことは問題ではなく、晃志が大丈夫
かどうかだけを思っている自分だったので、ホッとした。これで亮佑に怒鳴り散らし
たりしてたら、亮佑の立つ瀬がないからね。
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