マネージャー稼業の研究
何年か前から、マネージャー稼業に精を出すようになった。
マネージャー稼業、と言いのは、平たく言えば自分以外の人が飛ぶ(主には大会出場)為に、あれこれ計画し斡旋する作業である。
具体的にどんなことをするのかと言えば、たとえば気球の大会に出る場合に、どの気球を使うか、交通手段、宿はどうするか、助っ人を何処に頼むかなどを考え、交渉し、それぞれの役割分担を決める、などがある。
つまり大会前の事前準備全てがはいる。一番極端な場合は、パイロットが体一つで大会のある現地に行っても、そのままで飛べる状態まで下準備をしておく場合もあった。
その反面、マネージャーは裏方作業なので、大会の最中は、自分が飛ぶことは滅多にない。
仕方のないことだが。
正直、自分が飛べないのは残念であるが、僕が飛んだって意味がないので、そこは堪えて裏方に徹する。
マネージャー稼業を始める前は、自分がエントリーして、スタッフでみんなを連れて行く、と言うパターンを何回かやってみた。
しかし、結局スタッフで連れて行っても所詮は自分がエントリーパイロットじゃないので、そのことで気球に対する何かが変わる、と言うことは少なかった。
やっぱり、自分がやらなければ、自分が飛ばなければ、人は変わらないのだ。
そう思って、僕は気球から降りた。
ところが、このマネージャー稼業、やってみると奥が深い。
気球に関する知識はもちろん、交渉術、裏技などありとあらゆる能力を要求される。
交通手段も陸、海、空の全てを網羅してなければならない。鉄道オタクでもないのに、時刻表とにらめっこする日が続いたりする。
カレンダーやシステム手帳に、パイロットや助っ人の行動予定、連絡先をびっちり書き込む。
インターネットで宿を予約する…。
細々とした作業も多いが、慣れるとけっこう楽しい。『旅を作っているんだなぁ』なんて考える余裕もある。
ところが一転、これが海外の大会のエントリーともなるとマネージャー稼業は楽しむ余裕なんか無くなる。
何しろ、交渉ごとが全て英語である。
英語でメールが来て、英語で返事を出し、英語で質問して、英語で答えが来るのである。
しかし、英語が通じるうちは良い。
フランスの大会では、やはりというか、当然というか、フランス語しか通じなかった。もちろん通訳などいない。
エントリーしている僕らは、別に招待されたお客様じゃないので、自力で何とかする意外になかった。実に辛かった…
しかし、フランス、フィリピンのエントリー、国内も卑弥呼杯で佐賀まで遠征など、マネージャー稼業も着実にレベルアップし、もはやどんな大会も、僕に行けないところなど無い、とまで思っていたのだが、ここに来てその考えが甘かったことを思い知る。
今年に入り、僕にマネージャー稼業の挫折感を味合わせたのは、某池田町温泉ホテルの社長だった。
彼は、八月に突如、佐賀のバルーンフェスタに行きたいからマネージャーをしてくれと言ってきたのである。
佐賀のバルーンフェスタと言えば、日本では最大、世界でも有数の大会だ。まともにエントリーをするなら半年前から準備が必要となる。
それを三ヶ月前になってからマネージャーを…と言われてもかなりきつい。
しかも、この時は、十月にあるアルバカーキーのバルーンフェスタを下見にに行くつもりで、計画を練っていた。
しかし、ここで断れば『悪のマネージャー』として気球界に名を轟かせ(?)た、僕のメンツがすたる。
僕は潔く、アルバカーキーを諦め、佐賀のエントリーに向けあれこれ準備を始めるのだが、この社長、コロコロと意見が変わるのである。
最初は『全てお任せで』『大会日程、フルエントリーで』と言っていたのが、『宿は知り合いのところが良い』とか『向こうでゴルフがやりたい』とか、色々言い出し、あげくに『途中で帰るかも…』などと言い出す始末。
いかに、今まで困難なエントリーもこなして来たとはいえ、所詮は身内だけでのエントリー。何とか僕のコントロールの訊く範疇だった。この人は違った。やはり社長たる者、人の指図は受けないのである。
そんなこんなで、部外者のエントリーをマネージメントするのが、これほど大変なこととは思わなかった。
もっとも部外者一般がこれほど我儘とは思わないが。
しかし、僕のマネージャー稼業に決定的なダメージを与えたのは、その後に予定されていたのマレーシアのエアゲームだ。12月に開かれる予定のこのフェスティバル、参加の打診があったのが9月だった。
それだけでも余裕がないのに、先に書いたような『わがまま社長』のマネージメントも重なり、(他にも1つマネージメントする大会を抱えていた)正直「きついなぁ」とは思った。
しかしマネージメントを希望しているのが風船塾の塾長と女王様なので、二人とも身内だ。僕は何とかなるだろうと思い、マネージャーを引き受けた。
そして、あわただしく準備に入り、職場に休みの申請をし、飛行機チケットの購入、エントリーフィーの海外送金、気球運搬の交渉…
余裕はなかったが、過去の経験で何とかスムーズにこなし、その完璧なマネージャー稼業振りを自画自賛していた。
……が、甘かった。予想だにしないとんでもない出来事が起こり、僕のマネージャーとしてのメンツは粉々になってしまった。
大会まであと1ヶ月を切った段階で、マレーシアから連絡があり、なんと大会自体が消滅してしまったのである。
うっそ〜!!何だそれ〜!!
理由はスポンサー絡みらしいが、もうこっちは休みもお金もすべて準備し終わっているのに、どうしてくれる!
訳知りの人に訊いたら、「あー彼ら、前にも大会をドタキャンして、迷惑掛けたことがあったんだよねぇー」だって。
ダメじゃん!
結論 どんなに優秀なマネージャーでも、どうにもならないことがある。

←大会の中止を知った時の
僕の状態。
そして、今もこの状態。