アバン


まぁ端から見れば滑稽なことでもやっている本人達は真面目なわけで。
真面目なだけに結構本気になったりもしますが、視野が狭くなったりしてませんか?
ともかく、南アフリカ同盟は提督の宝物と肋骨を犠牲に欧州同盟の艦隻数を1/3に減らすことと数日という時間稼ぎに成功しました。それが木連やナデシコにどれだけの奇貨をもたらしたかはわかりませんが、ひとまずは落ち着くところに落ち着いたようで。

さてお話は我らがナデシコに戻しましょう。
ナデシコCは通常航行で火星に向かい、クリムゾン姉妹もその後を追うように追撃しています。私とユリカさんは月からゲートを使い、一足先に火星に到着しました。

さてさて、この先どうなることやら

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



ニュース速報


TVでは連日のように新プラント調査隊の実況中継が繰り返されていた。

『こちらは木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび(以下略)の艦隊です。
 秋山源八郎少将旗下の精鋭が本国出発より数日、新プラントへあと数日という距離にまで到達しました。
 現在本艦隊は新プラントまで一番近い距離に位置し、一番乗りは確実と思われます』
「ということは既に勝利のムードが流れていると?」
『いえ、実は2日前に欧州同盟艦隊が木連本国に到着し、現在本艦隊を猛追しているという報告があがっております。実際にその追い上げのピッチも速く、新プラント到着の時点では追いつかれるのではないかとの試算もされているため、本艦隊では緊迫したムードが流れております』
「そうですか・・・それで秋山少将のインタビューは可能でしょうか?」
『軍広報部からはノーコメントとのことです』
「そうですか」
『以上、木連艦隊からの従軍レポートでした』

スクリーンは従軍取材班の映像からスタジオのショットに切り替わった。
キャスターとコメンテーターが映る。

「ということで目下一番手の木連がこの位置に、二番手の欧州同盟が2、3日後方にいるわけですが、欧州同盟は追いつけそうですか?」
「ええ。事故により当初の艦隊構成から大分減じてしまいましたが、かえって巡航速度の遅い艦がふるい落とされた事が幸いしておりますね」

軍事コメンテーターもレポーターの現場予想を肯定した。

「他の調査隊の様子ですが・・・この2国に追いつくことは可能でしょうか?」
「微妙ですね。多くの国が木連側のゲート使用許可待ち、もしくはゲートを抜けたばかりで絶対的な距離を縮めきれないでしょう」
「木連ルートを採らなかった調査隊の方はどうでしょうか?」
「火星ルートを採ったのがナデシコ、宇宙軍、そしてクリムゾンの調査隊ですが・・・
 宇宙軍が既に火星に到着しているものの動きがなく、今の時期から新プラントに向かったとしてもかなり微妙でしょう。ナデシコとクリムゾンがようやく火星に到着する頃ですので、こちらはもっと期待薄ですね」
「そうですか・・・それでは木連と欧州同盟の一騎打ちになりそうですね。
 では実際に今後想定される事態に関してですが・・・」

キャスターとコメンテーターの関心はナデシコ達にはなく、木連と欧州同盟が新プラントに到着した時点でどのような軍事的衝突が起こるか、その艦隊構成などから戦術論に展開していった。



火星上空・宇宙軍旗艦ライラック・ブリッジ


それを聞いた当事者達の意見はまちまちだった。

ルリ「まぁ私達はミソッカスですからね」
ユリカ「ルリちゃん(汗)」
ルリ「事実ですよ。戦況分析だってTVのニュース番組に頼っているぐらいですから」

報道番組を見て呟くルリの皮肉に冷汗をかくユリカ。
そんなルリにジト目で睨まれているアララギは恐縮しきっていた。

アララギ「済みません、なにぶん宇宙軍は予算が少ないもので・・・」
ルリ「本当ですか?」
アララギ「ほ、本当ですよ!?」
ルリ「まぁ無理矢理乗り込みましたし、逃げたナデシコを捕まえても処分に困りますしねぇ〜」
アララギ「ホシノ大佐〜」
ルリ「元です。今は退役軍人ですので」

ルリはあっさりと痛いところを突いてアララギを狼狽えさせる。
確かに宇宙軍の戦艦ライラックは微妙な立場にいる。

名目上はナデシコC追跡及び拿捕というのが任務ではあるが、それが宇宙軍の本意でもない。確かに同乗しているユリカら管理公団の依頼と自軍の失態を挽回するためにナデシコCを拿捕するという対外アピールの意味はある。
しかし、ナデシコCを拿捕したら拿捕したで、次は処分の話になってしまう。処分といってもミスマル・コウイチロウの件もあるので対応が悩ましい。
何よりライラック自身もそこで航海が終了してしまう。

ルリ「可能であればナデシコCには新プラントに到着するまで捕まって欲しくないですよね。一番乗りしてくれれば宇宙軍としても万々歳。それを理由に新プラントの実質的な占有権を主張できますしね」
アララギ「ホシノ大・・・」
ルリ「ルリで構いませんよ」
アララギ「ルリさん〜」

隣で聞いていたユリカは苦笑する。そういうのは言わぬが花なのだが、どうもルリはハッキリ言ってしまうタイプらしい。
ユリカは笑顔でポーカーフェイスを押し通して勝つタイプで、ルリはオープンカードで手の内を見せても勝ってしまうタイプだ。
こんな二人の天才に抗えるほど、アララギは自分を過信していない。
こういうときはひたすら平身低頭しておくに限る。

ユリカ「ルリちゃん、アララギさんが困ってるよ」
ルリ「・・・まぁそういうことにしておきますか」
アララギ「ありがとうございます〜」

ルリも仕方がないので諦める。
それよりも今後の方針を立てなければいけない。

ルリ「で、ユリカさん、これからどうするんですか?」
ユリカ「どうするって?」
ルリ「火星でナデシコが来るまで待ってるんですか?」
ユリカ「何を当たり前なことを」
ルリ「でもアララギ大佐は不満そうですよ」
アララギ「いや、それは〜」

本当にナデシコを捕まえるだけが役目でもない様子のアララギ大佐の狼狽ぶり。
しかしユリカはナデシコCを拿捕したら本当に新プラントに向かわずにそのまま地球に戻ってしまいそうな口調だった。

ルリ「トップ集団に追いつくつもりなら今からでも新プラントに向かった方が・・・」
ユリカ「その必要はないよ」
ルリ「どうしてです?」
ユリカ「それじゃ勝ち馬に乗れないじゃない」
ルリ「勝ち馬って、どういう事ですか?」

ルリの質問に自信満々に答えるユリカ。その回答に思わず問い返すアララギ。
ユリカはウインクして説明する

ユリカ「向こうはボソンジャンプ出来ると言って地球を飛び出したんだよね?」
ルリ「まぁそんなことを言ってましたね」
ユリカ「でもなんでナデシコCは地道に通常航行で火星を目指しているの?」
ルリ「そういえばそうですねぇ〜」

前にも聞いた気がするが、ユリカの説明に頷くアララギ。
しかしルリは買いかぶりすぎだろうという顔をしていた。

ルリ「ただのハッタリだったという可能性は?」
ユリカ「ルリちゃんならここまで大騒ぎにしておいて、勝算もなしに飛び出す?」
ルリ「・・・いえ」

そう、これだけ騒ぎを起こしておいてビリで到着というのはプライドが許さないだろう。
特に今回の騒動を引き起こしたあの娘ならなおさらあり得ない話だ。

ルリ「でも、どんな方法を使うんでしょうか?」
ユリカ「まぁ、それは見てからのお楽しみじゃない♪」

溜息をつくルリにユリカはのほほんと答える。
しかし、いざナデシコが火星に到着したらそんな呑気な状態ではなくなることを彼女達はまだ知らなかった・・・



NadesicoNG(Next Generation)
第17話 火星攻防戦



ナデシコC・トレーニングルーム


さて、噂をされたお騒がせ娘はその父親と武術の稽古をしていた。

シオン「はあぁぁぁぁぁ!」
アキト「ふ!」
シオン「おぉぉぉぉぉぉ!」
アキト「ふ!」

二人の稽古の様子を見ているギャラリーは口々に感想を述べた。

ヒカル「やっぱアキト君強いねぇ〜」
イズミ「・・・ライバル!」
ヒカル「イズミちゃん、それはかなり無理っぽそうだからやめた方がいいよ〜」
イズミ「いや、ライバルはもう一人のほう」
ヒカル「アキさん・・・じゃなかった、シオンちゃんの方?」
イズミ「メラミ!」
ヒカル「某RPGの呪文名で表現されても本気度がわかりづらいんだけど」
イズミ「でもあの子、大分使えるようになってきた」
ヒカル「ああ、結構良い線行くようになったよねぇ」

ヒカルとイズミがシオンの上達ぶりに感心した。
最初はアキトに手も足も出なかったが、今ではかなり食いつけるようになっていた。もっともアキトはその状態でも全然攻めに転じていないのでまだまだなのだが。

ケン「お二人ともお仕事して下さいよ〜」
ヒカル&イズミ「「や〜だ♪」」

艦長のテンクウ・ケンがヒカル達に泣きながら懇願するが二人はキッパリ無視する。
そんな外野のノイズは無視してアキトは娘シオンに稽古をつける。
確かに攻撃を全て防いではいるが、余裕はなくなってきている。感覚的に掴めてきているのか、動きに無駄がなくなってきた。

これならそろそろ次の段階に進んでも良いかもしれない。

アキト「それじゃ、今日はこのぐらいにするか」
シオン「え〜〜まだまだがんばれるよ〜〜」
アキト「明日からもっと厳しくする」
シオン「・・・やった♪」

アキトの言葉の意味を理解したシオンは喜んだ。
だが・・・

アキト「しかし、火星に着いたらどうするつもりだ?」
シオン「どうするって?」
アキト「降下軌道を指示してるだろう。通常は重力ターンを使って新プラントへの軌道に入る所だろうが」

アキトにだって通常航行を行うなら火星の地表に下りる意味がないことぐらい知っている。火星の重力を使って加速した方がよっぽど早く新プラントに到着出来るはずだ。

シオン「前にも言ったでしょ。火星のチューリップを使うって」
アキト「言ってたっけ?」
シオン「言ったよ!」
ケン「そうそう、その秘密のチューリップってどこなんですか?」

二人の会話にケンが口を挟む。とりあえず火星に向かえと言われたきり、何も教えてもらっていないのだから無理はない。

シオン「まぁそれは着いてからのお楽しみ♪」
ヒカル「出し惜しみだねぇ」
イズミ「ダシおみそ汁・・・なんちって」
シオン「トレジャーハンターたるもの、チューリップの位置は自分で見つけ出すものです!」

ブーブー騒ぐヒカルらに威張るシオン。

シオン「ちなみに私は100個も知ってるよ♪」
アキト「あ、そう」

アキトは興味なさそうに溜息をつく。まぁアキト自身、巻き込まれるようにここまで連れてこられているので辟易しているだけなのだが。

ケン「で、火星に降りるとして、どこに行くんですか?」
シオン「えっとね、とりあえず火星極冠へ。一応火星の警戒システム全域にハッキングしてこちらの存在を消してってハーリーおじさまにお願いして下さい」
ケン「どうしてです?」

シオンに尋ね返したケンが不思議そうに尋ねる。
もちろん、そんな事は言わなくてもわかる。

シオン「だって他の人に知られたくないじゃないですか。チューリップの位置を」
ケン「別に知られたって・・・」
シオン「知られたら他の人も簡単に新プラントへ行けるようになるじゃないですか」
一同「あ!」

あ、じゃない。そりゃそうだ。パブリックゲートと違ってチューリップゲートは一対一。入り口が決まれば出口も決まっている。ナデシコに続いて後追いをされたらナデシコ側のアドバンテージがなくなる。

アキト「考えすぎだろ?」
シオン「念には念を入れてね」

さすがにトレジャーハンターとして活躍していた経験から培われた用心深さである。



火星上空・宇宙軍旗艦ライラック・ブリッジ


もちろん、その注意深さは正しい認識である。が、中途半端であると逆に頭かくして尻隠さずな不自然さをまき散らすものである。ましてや、ここには装備不足とはいえ二人も電子の妖精がいるのだから。

ラピス「なんか、私は最近忘れられがちだけどね」
ルリ「そんなに拗ねないで下さい」
ユリカ「で、ルリちゃん、ラピスちゃん、状況はどう?」
ルリ「えっとライラックのシステムに侵入を開始されました」
ユリカ「こっちの存在を知られない?」
ルリ「大丈夫です。デコイを配置してますから。夢中でそっちを漁ってます」
アララギ「い、いつの間にそんなものを・・・」

自分の所のシステムを勝手に弄られていることにさりげなく抗議をするアララギだが、少女達は思いっきり無視する。

ラピス「でも本気で調べられたら気づかれるかも」
ユリカ「いくらラピスちゃん達でもオモイカネなしじゃ仕方がないよ。向こうはナデシコCだしね」
アララギ「うちのコンピューターがしょぼくて申し訳ありませんねぇ」
ルリ「まぁ相手がハーリー君ならデコイでももう少し保つでしょう」

電脳戦では多少分が悪いが、ナデシコCの動向がハッキリする間まで保てばいい。
そう割り切るユリカ陣営であった。



ナデシコC・ブリッジ


ハーリー「本当に良いんですかねぇ〜」

ナデシコCのブリッジではハーリーが溜息をつきながら黙々とシステム掌握を実行していた。罪悪感にまみれているので、手の進み具合は緩やかであった。

シオン「ハーリーおじさま、もっとチャッチャとやってよね」
ハーリー「でも・・・」

ブリッジにあがってきたシオンがハーリーを叱る。そのやる気のなさを見れば言いたい気持ちも分からなくはないが、ハーリーにだって言い分がある。

ハーリー「だって、これどう考えたって違法行為ですよ」
シオン「気にしない気にしない♪気づかれなければなかったことと同じだから♪」
ハーリー「いや、気づかれなくても違法ですって。第一、気づかれたら国際問題に発展しますよ」
シオン「大丈夫♪見つかっても捕まるのはハーリーおじさまだけだから♪」
ハーリー「え〜〜!そんなぁ〜〜!」
シオン「ハッカーはそのぐらいの覚悟でハッキングをする!」

シオンの意見はある意味正論であろうが、責任を押しつけられた側としてはたまったものではない。しかしそんな覚悟の無さをシオンがなじる。

ハーリー「でもですねぇ。これはどう考えても公私混同というか・・・」
シオン「そんなグダグダで後ろ向きだからホシノ・ルリに振り向いてもらえないのよ」
ハーリー「ふえぇぇぇ〜〜ん」
シオン「泣いている暇があったらさっさと手を動かしなさい!
 かじるわよ!」
ハーリー「は、はい!」

『お前は一生女性の尻に敷かれる生活を送るのか?ハーリー君よ』と周りの人間は心の中で思いっきり同情した。

シオン「進路は?」
ハーリー「クリアーです」
シオン「システム掌握下の全レーダーへの記録改竄は完了?」
ハーリー「完了です」
シオン「じゃ、さっさと侵入しましょう」
ハーリー「はい」
ケン「あの〜艦長は僕なんですけど・・・」

艦長のテンクウ・ケンを無視してシオンは指示をする。傍若無人ぶりはさすがだ。

ハーリー「降下軌道に入りま〜す」
ケン「ここまでは順調ですね」
シオン「そうね・・・」

上手く行き過ぎていることに若干の不安を感じるシオンであった。



宇宙軍旗艦ライラック・ブリッジ


ラピス「ナデシコC、降下軌道に入った」
ユリカ「何とかここまで気づかれずに済んだね」
ルリ「この降下コースですと火星極冠ですか・・・」
ユリカ「う〜ん、極冠遺跡にでも用があるのかな?」
ルリ「何のためですか?」
ユリカ「そんなこと私に聞かれても・・・」

息をひそめてナデシコCの動向を監視する者たちは監視対象の行動に対して頻りに首を傾げる。

ルリ「ラピス、向こうはこちらの存在に気づいた様子はありますか?」
ラピス「ん、まだない・・・あ、」
ルリ「どうしました?」

幾分旧式のコンソールを操るラピスが何かに気づいたようだ。

ラピス「このハッキングパターンはハーリーだけじゃないみたい」
ユリカ「それって・・・」
ルリ「シオンですか?」
ラピス「わからないけど、手際は良い」
ルリ「デコイに気づかれたのですか?」
ラピス「いや、逆」
ルリ「逆?」
ラピス「ここ数日の管制記録を探り始めている」
ユリカ「それって・・・」
ラピス「火星圏全域の航宙管制ステーションの管制情報を猛烈な勢いで探り始めている」
ルリ「・・・良いところを突きますね」
アララギ「つまりどういうことですか?」

アララギはすぐに察しがつかなかったが、女性陣はナデシコCが何をしようとしているかすぐに気づいた。

ナデシコCは火星全域の宇宙船の入港、出港情報を探り始めている。
そうすれば今どの艦が火星にいて、どの艦が火星から出ていったのか詳細にわかる。それがどういう事なのかというと・・・



ナデシコC・ブリッジ


シオンが自分の席でウインドウを数枚展開している。本人曰く、この程度のウインドウ表示でハーリーが展開しているウインドウボールと同じ量の情報処理をしているらしい。その様子をケンやハーリーが注目していた。

ハーリー「なにやってるんですか?」
シオン「ハーリーおじさまってひょっとしてバカ?」
ハーリー「ば、バカって言われた〜」
シオン「宇宙軍の動向を探っているに決まっているでしょ!」
ケン「なぜ宇宙港やPゲートの管制履歴を調べてるんですか?」
シオン「艦長もバカ?」
ケン「僕もバカって言われました〜」

嘆く二人にシオンはヤレヤレと肩をすくめる。苦笑してアキトが呟く。

アキト「ライラックは何日前に火星入りした?」
ハーリー「え?それは・・・」
ケン「確かもうかれこれ1週間前には・・・」
アキト「で、今は何をしている?」
ハーリー「え?」

言われて初めて気づく。
1週間、宇宙軍の戦艦ライラックが一体何をしているのか?
アキトは自分の仕事が終わったかのようにいつもの無口に戻った。

ハーリー「えっとまだ港に停泊中だと・・・」
シオン「1週間も?一体何しているの?」
ハーリー「ほ、補給とか・・・」
シオン「補給の記録は?」
ハーリー「でも座標は変わってませんし・・・」
シオン「港の滞在記録、停泊料金の支払い記録は?
 港の停泊費は結構高いわよ」
ハーリー「えっと、出航して港の近くをグルグル回っているとか・・・」
シオン「出航記録は?」
ハーリー「え?えっと・・・」
シオン「で、港の周りをグルグル回って何してるの?」
ハーリー「えっと・・・か、観光旅行とか・・・」
シオン「ビザの申請、滞在許可証の発行、各種交通機関の利用記録は?」
ハーリー「えっと、えっと・・・」

答えに窮するハーリー。
当たり前の話だが、1週間も前に到着しているライラックが今何をしているか?
その問いに答えるには当然その行動を裏付ける情報が必要だ。
戦艦ライラックの管制システムへハッキング出来たからといって、その行動の裏付ける情報を見つけられなければ安心してはいけない。

シオン「いくらルリママやラピスママでもこんな所のデータまでオモイカネを使わずに改竄しているなんて思えない。どこかに綻びがあるはずよ。
 軍人が軍関係の情報を探って満足しているなんて怠慢以外の何者でもない。
 ルリママもハーリーおじさまにどんな教育をしたんだか」
ハーリー「うわぁぁぁぁぁぁ〜ん!」

ヘタレ泣きするハーリーを無視してシオンは情報をハッキングし続けた。
何のことはない。情報のイロハを未来のルリやラピスに叩き込まれた。シオンはそれを忠実に実行しているだけなのである。

二人の電子の妖精と、未来の彼女達の弟子との電子情報合戦。
キツネとタヌキの化かし合い。
その戦いは白熱したものになるかと思われたが、その勝負は意外な方向に傾いていった。

シオン「やっぱり怪しい・・・ライラックは・・・」
通信士「Unknownがものすごい勢いで接近中です」
一同「え!?」
ケン「メインスクリーンに映して」
ハーリー「はい!」

突然の報にナデシコCのブリッジは騒然となった。
そして数秒後にはあまりの光景に愕然となった。



革命学園エルドラドレリルレル・シーン30・決闘


「なぜ私達が決闘しなければいけないの!」
「愚問ですわ!逆さまの城に行けるのは決闘に勝った紅薔薇、白薔薇、黄薔薇のいずれか一人のみ!その為には紅薔薇の騎士像、白薔薇の騎士像、黄薔薇の騎士像にて決闘を行わなければいけませんわ!」
「そんな!」
「でなければ、逆さまの城への道は開かれません。
 その城に眠る闇のお姫様が持つという世界を革命する力を手に入れるためには決闘に勝つしかありませんのよ!」
「何故そんな力が必要なの!」
「そんなこともわかりませんの!」
「え!?」
「今生では妾とあなたが結ばれることは叶わぬ夢。なれど世界を革命する力があればあるいは・・・」
「あ、あなた・・・そんなに私のことを・・・
 でも、でも、その為にどうして私達が戦わなければならないの!」
「それが薔薇の掟!」

飛び散る火花が真っ赤な薔薇の花びらが舞い散るようで物悲しかった・・・



高速巡洋艦ハルシオン


アクア「ああ〜ん♪この背徳感がたまらないわ♪」
シャロン&サクラ『ちょっと待った!』

相変わらず自分の作った超脚本で萌え上がるアクアに思いっきり突っ込むパイロット達。

シャロン『決闘は良いとして、私が何でこいつと妖しい関係にならないといけないの!』
サクラ『そうですわ!妾は闇のお姫様一筋ですわ!』
アクア「まぁまぁ、あくまでも映画の中での話よ♪」
シャロン『却下だ、却下!』
サクラ『猛烈に却下ですわ!』

アクアの周りでウインドウが必死の猛抗議を行っているが、本人はいつものホンワカした笑みで適当に流した。それよりもハルシオンのレーダーには火星に降下中のナデシコCの姿が捉えられていた。

アクア「さぁ、シャロンちゃん、サクラちゃん、やっておしまい♪」
シャロン&サクラ『あらほらさっさ〜〜って何を言わせるか!』

ノリの良い二人の機動兵器がナデシコCに襲いかかった。



戦艦ライラック・ブリッジ


ユリカ「あ、あれ、なに!?」
ルリ「さ、さぁ・・・」
ラピス「その手があったか!」
アララギ「ど、どういう意味ですか!?」

遠くの彼方でナデシコCの様子をうかがっていた宇宙軍の面々もその光景に唖然としていた。



ナデシコC・ブリッジ


ヒカル「あはははははは♪良い♪最高♪」
イズミ「最高にサイコ・・・なんちって♪」
ケン「あ、あれは何ですか?」
ハーリー「き、機動兵器のようですが・・・」

こちらの方もかなりのビジュアルショックを受けているようであった。
それもそのはず、おおよそ無骨なはずの赤光に赤や黄色の原色でペイントしてあり、何を間違ったのか、羽や角など色々な装飾具が下品なほどに飾り付けられていた。まるで宝塚のレビューにでも出るつもりのような姿である。
ある者はあまりの非常識さに言葉を失い、ある者はツボに入ったらしく大爆笑を巻き起こした。

シオン「や、やな予感・・・」
ラピ「まぁまぁ♪」
アキト「なんだ?お前、あんなのに知り合いがいるのか?」
シオン「いや、全く知らない」

なんとなく心当たりがあるのだが、それを認めるのはあまりにもイヤすぎるので他人のフリをしようとするシオン。しかし相手はそれを許さなかった。

『お姉さま、迎えに来ましたわ♪』

どげしぃぃぃぃ!

開いたウインドウはどこかの映画の設定資料集から抜き出したキャラクターが描かれていた。和風な少女ではあるが、ヘアースタイルは縦ロール、どこか耽美調なテイストで描かれていた。その下には『黄薔薇さま(案)』とのテロップがついていた。
けれど、この絵の中の人は絵の雰囲気から何となく察しがついた。

それを見たシオンが座っていた椅子から思いっきり転げ落ちたのは言うまでもない。

シオン「あんなの、絶対知り合いじゃな〜い!」
アキト「・・・その気持ちは分かる」

嫌がるシオンの横でアキトも頷く。何故アキトにその気持ちが分かるかは内緒であるが。

コトネ「機動兵器2機、ナデシコCに接近中・・・いえ、さらに6機増えました」
ミカ「照合かかりました。白眉です」
ケン「地球を出発するときに襲ってきたアレか」
ハーリー「どうしますか?このまま火星極冠に直行します?」
ジュン「でも、それだと火星への侵入ルートが知られてしまうんじゃないか?」
シオン「存在感の薄いジュンおじさまは黙っていて下さい!」

ようやく出番が見つかったジュンの意見を却下するシオン。

「僕、ナデシコCの提督なんだけど・・・っていうか、出番これだけ!?」

そんなジュンの嘆きを無視してシオンは決断する。

シオン「このまま火星極冠に直進!」
ケン「ええ!?でも一度あの変な機動兵器を迎撃してからの方が・・・」
シオン「どうせルリママ達が近くで見ているはずだし、チューリップを使う作戦をもう見抜いているかもしれない。時間をかけたら先を越されるかもしれないわ。
 それなら先に通過して向こうのチューリップを破壊すれば、ルリママやあの馬鹿どもをまとめてボソンゲート空間の迷子に出来るかも」

フフフと笑いながらブツブツ言うシオンが少し恐い。考えていることが結構外道だ。

ハーリー「でもこのままだと振り切れませんよ!」
シオン「こちらも機動兵器で向かい撃ちます!」
アキト「イヤだ」

アキトはシオンが自分の名前を出すことを見越して拒絶した。

シオン「まだ何も言っていない〜」
アキト「出航時に出撃はしないと明言したはずだ」
シオン「そんなこと言ってて良いの?あの変態さん達に捕まったら何をされるか!」

そう言われてアキトも冷汗を流す。
心当たりが・・・心当たりが・・・心当たりが・・・心当たりが激しくあった。

『妾の愛しのお姉さま〜♪』
『我が生涯の伴侶よ!』

何故か娘だけではなくその父親の記憶もリフレインしてしまった。

アキト「・・・仕方がない」
シオン「やった♪あとヒカルさんにイズミさんも出撃お願い!」
ヒカル「どうする?」
イズミ「見学している方が面白い気が・・・」
シオン「お願いします!
ヒカル&イズミ「ラジャー!」

睨み付けて二人を従わせるシオン。

ケン「あの〜僕、一応艦長なんですけど・・・」
ジュン「同じく提督なんですけど・・・」

責任者二人をまったく無視して戦闘は開始されるのであった。



火星極冠上空


飛び出したPODとアキト達のアルストロメリアが非常識な姿をした機動兵器の一団を迎え撃った。

サクラ「お姉さま、会いたかったですわ♪」
シオン「私は全然会いたくなかったわよ!」

ガキン!ガキン!

黒水晶の乙女のフィールドランサーと黄薔薇の騎士像のハードナックルが激しくぶつかり合う。

アクア『シャロンちゃ〜ん♪六人衆娘。ちゃん達♪二人のシーンをバッチリカメラに収めてね♪』
シャロン「待て、アクア!私達はナデシコを・・・」
六人衆娘。「「「「「「は〜い、わかりました〜♪」」」」」」

紅薔薇の騎士像を差し置いて6機の白眉がその周りを勝手に飛び回っていた。

イズミ「そうはい神崎!」
ヒカル「あはははは♪」
アキト「帰りたい・・・」

彼らを迎え撃つナデシコCのアルストロメリア部隊。

ナデシコCとハルシオンが戦闘を続けながら、もみ合うように火星極冠のある場所を目指して行った。



戦艦ライラック・ブリッジ


高みの見物を決め込んでいた宇宙軍の方でも事態の正確な把握は難しそうである。

アララギ「こ、これはどういうことでしょうかね」
ルリ「それは・・・ナデシコとクリムゾンの啀み合いってところでしょうか?」
アララギ「でも何故?」
ラピス「そんなの簡単」

アララギの疑問にラピスがコンソールを操って無線傍受した音声をブリッジに流す。

『お姉さま、妾だけのお姉さまになって下さい〜♪』
『イヤだって言ってるでしょ!』
『そんな、恥ずかしがらないで良いですわ♪』
『恥ずかしがってないわよ!嫌がってるの!』
『お姉さまと妾の関係が秘密だってことはわかってます。でも忍れど色に出にけり我が恋はと申しますわ』
『秘密でもないし、忍んでもない!』
『では公認の仲なのですか!?妾、うれしいです!』
『あんた、一度逝かす!』

などという会話がブリッジに響きわたるボリュームでだだ流れであった。
誰の胸の中にも一瞬『痴情のもつれ』という単語がよぎったことであろう。

ルリ「・・・頭が痛いです」
アララギ「で、どうします?様子を見ますか」
ルリ「そうですね。関わりあいになりたくないですし・・・」
ユリカ「私達も参戦しましょう」
一同「え!?」

ユリカの発言に一同は耳を疑った。

『お姉さま、妾と接吻を♪』
『近寄るな、変態!』

アレに巻き込まれたいか?と誰もが思った。
けれどユリカの考えは違っていた。

ユリカ「ナデシコがスピードを緩めるどころか速度を速めてるよね。どうやら先行逃げ切りを狙っているみたいです。ここで離されるのは得策ではないと思うんだけど」
ルリ「そう言われるとそうですが」
アララギ「だからといって・・・」
ユリカ「先行逃げ切り。トリックがバレても構わない。ということは・・・」
ラピス「見当がついたの?」
ユリカ「なんとなく」
アララギ「それって・・・」

ユリカが何かを言おうとしたその時、ライラックのそばにも変なオマケが現れた。

『はい、こちら突撃レポーターのメグミ・レイナードです♪
 宇宙軍の動向ですが、今もオリンポスコロニー上空を旋回中であり、何かを伺っているようであります。我々も宇宙軍に随行してその真意を確かめたいと思います♪』

どこからかぎつけたのか、TV局の報道船がライラックの周りを飛び回っていた。

ルリ「・・・メグミさん、私達から絶対離れないつもりですね」
ラピス「月からずっとへばりついてきた」
ルリ「どうします?追い払います?砲撃の一つでもすれば・・・」
アララギ「いや、さすがに民間の船へそれはまずいのでは・・・というか、指揮するのは私なんですけど・・・」
ユリカ「さしあたって、外野はいるけど参戦する?しない?」
ルリ「そうですね・・・」

喧々囂々の議論がしばらく行われたが、混戦だろうと参戦するしかないだろうという結論になり、宇宙軍も行動を起こした。



火星極冠上空


ミカ『南方100kmより宇宙軍ライラック出現』
シオン「何ですって!?」
ケン『えっと、このまま北進しますか?』

突然の伏兵に驚くナデシコCのクルー達。
忌々しげに表情が歪むシオンだが、打算という名の計算とプライドという名の理性とを天秤に架けて即断即決した。もちろんプライドが勝った。

シオン「もちろん直進。最大船速!」
ケン『うえぇぇぇぇ!』
シオン「まとめて異次元の彼方に送ってあげるわ!」

フフフと不気味な笑みを浮かべるシオンに引きまくるナデシコCクルー。
さて、本来なら娘の暴挙を諫めるはずの父親はというと・・・

シャロン「テンカワ・アキト!ここであったが百年目!」
アキト「・・・えっと、誰でしたっけ?」
シャロン「あなた、私のこと、忘れたの!?」
アキト「っていうか、そんな派手な機体になんか見覚えはない」
シャロン「機体のことはどうでも良いのよ!!!
 どうして私のことを覚えてないのよ!」
アキト「そんなこと言われても・・・」
シャロン「あなた、ことごとく私のプラントを潰してくれたわよね」
アキト「あ・・・クリムゾン関係ね」
シャロン「何の恨みがあって私のプラントを潰したのよ」
アキト「いや、恨みはいっぱいあったんだけど・・・」
シャロン「うるさい!うるさい!うるさい!あの時の恨み、晴らさでおくべきか!」

世間は広いようで狭く、ひょんな事で縁のあったアキトとシャロンも機動兵器戦へ突入していった。

ヒカル「どうする?イズミちゃん。なんか痴話喧嘩に巻き込まれただけのような気がして、真面目に戦う気も起きないよねぇ」
イズミ「確かに」

シオンとアキトの戦いを他人事のように見守るヒカル達であったが、彼女達にも試練は待ちかまえていた。

「かえで!」
「すみれですわ!」
「つばきです」
「かすみよ!」
「やっほ〜もみじだよ♪」
「は〜い♪アイリスで〜す♪」
「「「「「あんた、うめじゃん」」」」」
「それは言わないでって言ったじゃない〜」
「「「「「「えっと・・・6人揃って六人衆娘。参上!」」」」」」

6体の機動兵器が妖しげなポーズを取りながらヒカル達の前でワイワイ騒いでいた。

ヒカル「・・・なに?あれ」
イズミ「師匠!」
ヒカル「え!?」
イズミ「弟子入りする」
ヒカル「ちょ、ちょっと」

別の意味でシンパシーを感じた二人は六人衆娘。と対決することになった。



シオン vs.サクラ


黄薔薇の騎士像は機体の倍ほどあろうかと思われる帯剣を振りかぶった。

「北辰一刀流、参りますわ」
「その構え、どう見たって北辰一刀流じゃないじゃないの!」
「あら、我流ですわ」
「どっちなのよ!」
「妾の一刀、かわして下され!」

ブンッッッッ!

黄薔薇の騎士像はその大きな剣をものすごい勢いで振りかぶった。その剣速は機動兵器で可能なのか?と思われるほどのスピードで繰り出された。

「当たるか!」

シオンはPODを操ってぎりぎりその切っ先をかわすことに成功した。少し前ならその一撃でバラバラに破壊されたことであろう。

「まだですわ!」
「なに!?」

その大刀はまるで今までの勢いを無視するかのように真横に進行方向を変えた。かわしたPODを追いかけるかのように薙いだのだ。

「しゃんなろぉぉぉ!!!」

PODは薙ぎに来た大剣にかかと落としを食らわせた。その勢いで剣の軌道を変えつつ、まるでその剣の上に乗るかのように足を進める。そのままPODは黄薔薇の騎士像にフィールドランサーを突き刺そうとした。

「沈めぇぇぇぇ!」
「甘いですわ!」

黄薔薇の騎士像は上体を反らせつつ、剣を捻るように振り回した。剣に乗り上がったPODは若干バランスを崩したようになり、フィールドランサーの剣先がわずかに逸れた。

「なろぉぉぉ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁですわ!」

PODはバランスを崩しながらもキックにパンチを繰り出そうとしたが、黄薔薇の騎士像は捻った剣をさらに跳ね上げ、剣に乗り上げていたPODをそのまま振り落とした。

「なにをぉぉぉ!」

振り落とされそうになる間際にキックを放つPOD。危うくかすりそうになるが黄薔薇の騎士像は何とかかわした。

「やりますわね」
「ふん!まだまだこれからよ」

二人は拮抗した戦いを繰り広げていた。



アキト vs.シャロン


「お〜〜あいつだいぶ上達したなぁ〜〜」
「こら!テンカワ・アキト!もっと真面目に戦いなさい!!!」
「いや、だって・・・」
「なんだ!その嫌々関わっているみたいな表情は!!!」

シャロンが怒るのも無理はない。アキトのアルストロメリアはシャロンが操る紅薔薇の騎士像からの攻撃を左手だけで全て防いでいたのだ。

剣での攻撃は受け流す。
蹴りは受け止める。
ライフルの攻撃は全てヒラヒラとかわす。
しかも余裕たっぷり・・・いや、すごくイヤそうに、関わり合いになるだけでも迷惑そうな動きで受け流してるのだ。これが頭に来ないはずはない。

「オレはそんな変な機動兵器に乗る奴と戦いたくない」
「私だって好きで乗っているんじゃないわよ!」
「・・・」
「なによ!その『いや、実は趣味なんだろう』っていう表情は!」
「・・・」
「ち、違うわよ!私はあの子みたいに『痛い趣味の持ち主』なんかじゃないわよ!」
「・・・」
「だから私は百合なんかじゃないわよ!!!」

ここまで戦闘に対する意識が違うのに何となく戦闘が成立しているところが恐ろしいところである。



ヒカル&イズミ vs.六人衆娘。


「はぁ〜い♪お姉様方、視線をこちらに〜」
「何をおっしゃるの、かすみさん!視線は私に頂かないと!」
「すみれちゃん、勝手だよ〜次は私の番なのに〜」
「それなら私の方も!」
「私も!」

何をしているかというと、ヒカルとイズミのアルストロメリアの周りを6機の白眉が飛び回っているのだが、戦闘をしているかと思えばそうでもないらしい。

「ローアングルから攻めますよ〜♪」
「はい、そこで決めポーズ下さい〜♪」
「ちょんまげ」
「ギャグは良いですから」
「否定された〜」

アルストロメリアでギャグをかましたイズミは少女達から総ツッコミを受けた。どうやら男装の麗人風なイメージを求められているらしい。



ナデシコC・ブリッジ


ハーリー「艦長、これをどうしましょうか?」
ケン「どうするって言われても・・・」

ブリッジでは某民放で流れているニュース番組がメインスクリーンに映し出されていた。
『我々は宇宙軍の動向を追いかけていましたが、今し方火星極冠の上空でナデシコCとクリムゾンの艦隊と思わしき機動兵器が戦っております!
 ・・・戦っておりますが、あれは本当に戦闘なのでしょうか!?』

レポーターであるメグミ・レイナードの実況中継であの非常識な戦闘が火星圏のみならず地球圏全域に配信されているかと思うとクルー全員が目眩を起こしかけていた。

ケン「とりあえず、システム掌握であの放送をジャミングしてくれる?」
ハーリー「はぁ、それはかまいませんが・・・一緒についてきてるライラックをどうするんですか?」
ケン「どうせルリさん達が乗ってるんだよね?」
ハーリー「おそらく・・・」
ケン「多分システム掌握するだけ無駄だと思うんで、最大船速ってことで・・・」
ハーリー「はい・・・」

とりあえず色々見たくない事は見なかった事にして、指示を出すナデシコCの本当の首脳陣達。でもその勤勉さはすぐに実った。

コトネ「前方30kmにチューリップ発見」
ハーリー「うわぁ〜見つけにくい所にありますねぇ〜」
ケン「確かに教えてもらわないとわからないけど・・・本当にあそこで良いの?」
シオン『そこよ!そのまま突っ込んで!』

見つけたチューリップをシオンに速攻で認定してもらう。

ハーリー「でも、これってライラックやクリムゾンにも位置を知らせる事になりませんか?」
ケン「お姫様が良いって言ってるんだから良いと思うけど・・・」

既に細かい事を考えるのは止めたようだった。



戦艦ライラック・ブリッジ


その光景を見ていたユリカ達もようやくナデシコ側の真意に気づいたようだ。

ユリカ「やっぱり」
ルリ「チューリップ・・・ですか?」
ユリカ「うん。あのチューリップが入り口だとしたら?」
ルリ「・・・あ!」
アララギ「なるほど。入り口がある以上、出口もあると」
ユリカ「そういう事。出口は多分新プラント付近でしょうね」
ラピス「それなら一発逆転可能」

あのチューリップに侵入出来れば新プラントまでの距離の差なんか一気に解消される。という事はアレへ最初に侵入した者が新プラントへ一番乗りという事になる。

ルリ「アララギ艦長、最大船速お願い出来ますか?」
アララギ「了解しました!」

ユリカ達も俄然混戦への参加意欲を燃やした。



高速巡洋艦ハルシオン


アクア「まぁまぁ面白そう♪皆さん〜私達も行きますわよ〜♪」
六人衆娘。『『『『『『は〜い♪』』』』』』
サクラ『お姉様♪』
シャロン『ちょっと待て!どういう意味だ』

こちらはあまり事態を把握していなかったが、祭りに乗り遅れるつもりは全然ないようだった。



火星極冠上空


三隻の戦艦及びTVの報道艇が一直線にチューリップを目指していた。
そんな中で機動兵器同士の戦いも激化していた。

シオン「いい加減にあんたは墜ちなさいよ!」
サクラ「ふふふ、妾のお姉様になってくれるまで離しませんわ♪」

抱きつこうとする黄薔薇の騎士像を足蹴にしながら引き離そうとする。

シオン「私はあなたのお姉様になんかなるつもりはないの!っていうか私はパパが好きなのよ!」
サクラ「そんな!」

その通信を聞いていたみんなが『オオーーー!』とどよめいた。アキトも一層沈痛な面持ちになった。
でも爆弾発言はそれからである。

サクラ「わかりました」
シオン「何がわかったのよ」
サクラ「お姉様が不浄な男に心を奪われているというのは悲しいですが・・・お姉様が巷で『ふぁざこん』と呼ばれている属性であられるのであれば致し方ありません」
シオン「ちょっと待ちなさい!誰がファザコンよ!」
サクラ「不本意ですが、お姉様に好まれる妹になるのも妾の望み」
シオン「ちょ、ちょっと待って・・・」

するとサクラはいきなり何か拝み始めた。

「ああ、あれは!」
「え?なに?」
「アレはサクラ姉さま禁断の秘技!」
「禁断の秘技って・・・」
「実はサクラ姉さまはイタコの修行をしていた事もあるのです」
「イタコって・・・」
「でも呼び出せた霊はたったの一体だけだったのです」

ヒカルの疑問に六人衆娘。達が沈痛の面持ちで答える。彼女達にも頭の痛い秘技らしい。

「降りてきませい、父上〜!」

サクラがそう呟いたかと思うとなにやら白い煙のようなものが黄薔薇の騎士像にまとわりついた。その瞬間、黄薔薇の騎士像から発せられる雰囲気が変わった。

「『我が生涯の伴侶よ!』」

ズズズズズゥゥゥゥ!

その発言に心当たりがある者は皆座っていたシートから滑り落ちた。

黄薔薇の騎士像の立ち振る舞い、雰囲気が、何よりオーラーが、あの思い出したくない男が蘇ったかのような錯覚に陥らせた。

「『さぁ、給料の三ヶ月分だ。受け取るが良い』」
「受け取るわけないでしょ!」
「『なるほど、一刻も早く祝言を挙げたいのだな?』」
「違う!」
「『遠慮をするな。我はいつでも心の準備は出来ている』」
「私が出来てないわよ!っていうか、一生するつもりなんかないし!!!」

声はサクラのままなのだが、知らず知らずのうちに忌まわしきあの男の声に脳内変換されるから余計に始末が悪い。

「どうした、テンカワ・アキト?」
「いや、急に寒気と吐き気が・・・」

という会話が戦場の片隅で行われていたが、言い寄られている本人が一番悲惨だった。

「『さぁ、永遠の契りを・・・』」
「いやぁ〜!!!」

オラオラオラオラオラ!

気味悪く迫ってくる黄薔薇の騎士像に激しい拒絶反応を起こすシオン。
PODは両手のハードナックルへのエネルギーを最大出力にして相手に目掛けてボッコボコにパンチを食らわせた。

「『無駄無駄無駄無駄!』」
「イヤイヤイヤイヤ!!!」

激しい拳のぶつかり合いが火星極冠の上空で繰り広げられる。
それに呼応するように反応する物体があった。

コトネ「目標のチューリップが活性化しています!」
ケン「なに!?」

活性化しだしたチューリップは周りのものを手当たり次第に吸い込み始めた。

ハーリー「チューリップに吸い寄せられています。このままですと相転移エンジンを臨界に上げてもチューリップの引力から逃れられなくなります!」
ケン「緊急回避!全速で脱出を・・・」
シオン「このまま突っ込んで!」
ケン「え?でも・・・」
シオン「それが私達の目標でしょ!」

誰だって渦潮に巻き込まれようとしてる船の船長だったら同じ行動をとるであろうが、あの中に飛び込まなければ木星圏にある新プラントまで辿り着けないのだ。

ケン「でも・・・テンカワさん、どうしましょう?」
アキト『オレに聞くな』
ケン「ヒカルさん〜イズミさん〜」
ヒカル『私達〜ただのパイロットだし〜』
ケン「わかりました。ハーリー君、あのチューリップに突っ込んで下さい!」
ハーリー「えええぇぇぇ〜!」

ナデシコCも腹を決めたのか、チューリップに突っ込む事を決意したようだ。
そして他の艦もそれぞれ判断に迫られた。

ルリ「どうしますか?」
ユリカ「聞くまでもないと思うけど。それとも引き返したい?」
ルリ「ですよね・・・」
ラピス「アキト死守!」
ルリ「という事でよろしいですか?」
アララギ「わかりました。もう何も言いません」

宇宙軍ライラックも腹を決めたようだ。

アクア「うわぁ〜凄い♪凄い♪凄い♪」
かすみ『でもどうされますか?』
アクア「もちろん、そのまま突っ込みます〜♪面白そうだし〜♪」
シャロン『冗談じゃないわよ!死んじゃうじゃない!』
アクア「でも〜このままシャッターチャンスを逃しちゃったら一生後悔しちゃうわよ♪」
シャロン『後悔する方がまだマシよ!』
サクラ@父親降臨中『逃げる者は滅する!』
シャロン『イヤァァァ!!!』
アクア「という事で、レッツゴー♪」
六人衆娘。『やっぱり・・・』

クリムゾンの愉快な面々も火事場見物に参加する気満々だった。

「はい、こちら火星現場です・・・って映ってない!?
 どうして!?これからっていうところで・・・
 え?吸い込まれる?回避不能?
 これからどうするつもりですか!!!
 という事でお届け出来ていないかもしれませんがメグミ・レイナードが現場からお送りしました〜〜」

良く事情を飲み込めていないTVの報道艇も巻き込まれたみたいだ。

ゴォォォォォォォ!!!

「一番乗りするわよ!!!」

ナデシコやライラック、ハルシオンは疎か、報道船や諸々の機動兵器が吸い込まれる中、シオンは一番にチューリップへ飛び込むのであった。



新プラント・タナトス


そこは星々がくっきり見える宇宙空間。
その中にポツリと漂う城のような建造物。
忘れられた聖地、辺境に漂う城
主が戻ることをただひたすら待ち続ける存在・・・

その建造物は嬉しそうに各所に淡い光を灯し始めた。
彼らの待ちこがれた者が訪れた事を祝福するかのように。

そんな廃墟に総髪の少年が立っていた。
彼は冷ややかな瞳でその様子を眺めていた。

「ようやく来たようだね、遺跡に愛されし娘が。
 けれど真実はいつも残酷だ。君はそれを受け入れる準備が出来ているのかな?」

少年は誰とはなしに呟く。
遙か彼方にあるチューリップが何者かを吐き出すのを見ながら・・・



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第17話をお届けしました。

お待たせしました、という言葉でも平服しなくてはいけないぐらいブランクが空いての発表ですが、時間をかけたから内容が素晴らしく良くなっているわけでもなく、むしろ無駄なところとかあるから切った方が良いかもという感じだったりもしますが(汗)

とはいえ、まだカンが戻っていないというか、エンジンが回っていないというか、以前のペースには戻っておりませんが、ボチボチ書きますので今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・望月 コウ 様
・戸豚 様
・kakikaki 様