アバン


まぁレースをやる以上、いろんな人が参加しているわけで、中にはおかしな人達もいるのですが、前回のあれは極端すぎるのではないでしょうか?

ということで今回はもう少しマシなサンプルをお届けいたしましょう。
欧州同盟とその道案内をさせられる南アフリカ同盟のチームです。
片や少しでも先に進みたい、片やそれを出来るだけ阻止したい、そんな中で起こるかくも面白くかくも馬鹿馬鹿しいお話だったりします。

あれ?まともなサンプルだったはずなのですが・・・

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



サハラ砂漠上空


そこは南アフリカのサハラ砂漠。
砂以外に何もないただ広い領域である。
こんな所を通行する航空機やホバー船などは年間でも数えるほどしかない。
ましてや戦艦など天然記念物並の希少価値である。
その戦艦が現在は10年分は存在していた。

砂漠に住む蜥蜴も驚いて砂の中に潜り込んだ。
しかし理由が珍しい来訪者だったから・・・というわけではない。その一団から放出される険悪なムードが蜥蜴を怯えさせたのだ。

大きな一団とそれに付随する小さな一団。
前者は欧州同盟の遺跡調査団の艦隊であり、後者は南アフリカ同盟の艦隊である。
二つの艦隊はサハラ砂漠に存在する木星直通のパブリックゲートを目指していた。

しかしである。

通常、このゲートに到着するのはものの数時間しかからないはずであるが、その一団は優に数日はこの一帯をウロウロしているのだ。希少価値を通り越して酔狂とすら言えるかもしれない。
もちろん、彼らの内90%はこの状況を好ましくは思っていない。むしろ我慢の限界といった様子であり、その彼らのイライラがこの険悪な空気をまき散らしていると言っても良い。
その蜥蜴さえ恐れさせる険悪な空気は一点に小さな一団に向けられている。普通ならそんな険悪な空気をぶつけられたら誰でも逃げ出すだろうが、当人達は全く柳に風の状態である。

「提督〜やっぱり恐いですよ〜」
「若いのに気にしすぎじゃぞ。そんな事じゃ若ハゲになるぞ」
「そう、最近薄いんですが・・・って何を言わせるんですか!」

南アフリカ同盟艦隊のブリッジでは心配性の副官がフクベ提督に不安感を漏らしていた。

「第一、なんで僕らが木連のために欧州同盟の足止めしなければいけないんですか?」
「まぁ大人の事情って奴かのぉ」
「政治のツケをこちらに回して欲しくないですよ」
「軍隊とは須くその為に存在するものじゃよ」
「過去にクーデターを起こした軍隊の気持ちが良くわかりました」
「思っていても口にするものじゃないぞい」
「わかってます。第一本当にクーデターを起こすつもりなら口外などしません」
「ま、道理じゃな」

副官の愚痴へ適当に相づちを打つフクベ。
気持ちは分からなくはない。
数時間しかからないパブリックゲートへの航行を数日をかけている。道案内された側なら既にのろまな道案内をブチ殺したい気持ちになるだろうし、自分が同じ立場ならとっくに主砲の発射ボタンを押しているだろう。

一触即発・・・

彼らは大軍団でこちらはオンボロの小艦隊である。実際に彼らが行動を起こせば木っ端微塵にされるのは目に見えている。そんな環境でさらに時間を引き延ばせというのは並の神経では保たない。
軍令でなければとっくに逃げ出すかさっさと目的地に彼らを案内している。
全ては南アフリカ同盟と木連のかわした密約に起因する・・・



数日前・南アフリカ同盟某所


スクリーンに映された交渉相手に南アフリカ同盟の参謀達は一様に驚きの声を上げた。

「あ、あなたは・・・」
「誰だったかいの?」
「フクベ提督!!!」

思わず痴呆症でも始まったのかと思われるくらいすっとぼけるフクベに周りの参謀達は突っ込む。それぐらい、スクリーンに映された交渉人は有名人であった。

「どこかで見た覚えがあるのじゃが・・・」
「提督、呆けましたか?」
「フォッフォッフォッ」
「宇宙軍の秋山源八郎少将ですよ」
「わかっておるわい」

そう、スクリーンに映された交渉人とは秋山源八郎である。しかし彼は今宇宙軍の制服を着ていない。着ているのは木連の軍服だ。

「こういう場合はすっとぼけてやるのが思いやりってもんじゃろ?」
「は、はぁ・・・」
『かたじけないです!』

スクリーンの向こうの快男児は深々と頭を下げた。

「しかしお主も大変じゃのぉ。宇宙軍に出向の木連武官という立場も」
『まぁ宇宙軍の方が気が楽で良かったのですが』
「お主も因果な性格をしておるのぉ。こんな微妙な時期に探索隊の指揮官なんぞになるなんて」
『いや、ご推察恐れ入ります』

秋山はスクリーンの向こうで恐縮しているが、フクベの副官は隣でクエスチョンマークを飛ばしていた。『どういうことですか?』と耳打ちするのでフクベは答える。

「この時期、ちょっと間違えば新プラントの利権を争って戦争になりかねん。そんな中で喜んで調査隊に加わるなど出世を焦った軍人か、心配性の気苦労人しかおわんわ」
「そんなものですか?」
「そんなもんじゃよ」

スクリーンの向こうではその意見に同意なのか、秋山が頬をポリポリとかいていた。

戦争やら事変やらがようやく終わってそれなりに平和になった今日この頃。
新プラントの利権を手に入れてウハウハになれるものならなりたいだろうが、どこかと戦争までして欲しいなんて輩はどこぞの窓際軍人か覇権主義な大国か斜陽な大企業ぐらいで、偶発だろうが戦端を切ったなんて悪名は着たくないものだ。

それほどまでに今回の新プラントは一歩判断を間違うと各国の抗争まで飛び火しかねない。

「それほど難しい役ならなぜ少将は引き受けたのですか?
 出向先の宇宙軍の事もあるでしょうに・・・」
「だからじゃよ。木連と宇宙軍の関係を崩したくない。わざわざ間に入るために自分から出張るなんて貧乏くじも良い所なのに、なかなか出来ることではないぞ」
『いやぁ、恐縮です』

快男児はスクリーンの向こうで照れていた。

『というわけで、こういう事を言うのは大変恐縮なのですが・・・』
「つまり、欧州同盟を足止めしておけと?」
『いや、そうハッキリ言われると・・・』
「なんじゃ?せんでいいのか」
『いや、そうではなく・・・』
「フォフォフォ♪冗談じゃよ。そう直接頼めば何かと角が立つしのぉ」
『ご配慮痛み入ります』
「噂ではお主も最後まで出兵を反対したらしいし、まぁその心意気に免じて出来る限り足止めしてみよう」
『お願いします』

秋山は深々と礼をすると通信を切った。
隣で副官が溜息をついた。

「足止めするって、相手は欧州同盟ですよ?
 上が抵抗しきれなかったのに、ウチの軍事力じゃ足止めにすら・・・」
「心配するな、なんとかなるなる」
「なんとかって」

アロハ姿にウクレレを奏でる提督の太鼓判を今一つ信用しきれない副官であった。



NadesicoNG(Next Generation)
第16話 じいちゃん達の狂想曲(カプリッチオ)



南アフリカ同盟艦隊・旗艦ブリッジ


本日何度目かの雷が南アフリカ同盟のブリッジに落ちた。

『いつまでトロトロ進むつもりだ!!!』
「そんなに青筋を立てて怒鳴ると脳梗塞になるぞ?」
『ふざけるんじゃない!』
「いや、大事な事じゃぞ。儂らも年なんじゃ、健康には気をつけた方が・・・」
『だから話を逸らすな!』

相変わらずのらりくらりとかわそうとするフクベだが、今回のアズマは不退転の決意で挑みかかってきた。

『大体直線で進めば1時間で到着するものを何を右に左に蛇行しながら何日もかけなければいけないんだ!』
「じゃから、名物サハラ砂漠饅頭や名産星の砂にヒヨコ煎餅やら欲しいじゃろ?」
『我々は観光に来たのではない!第一全部パクリじゃないか!』
「そうなんじゃ。砂漠には名産がなくてなぁ〜商品開発には毎度苦労するのじゃ」
『そんなに金に困っているならピラミッドの石でもうっぱらえ!』
「おお、それは名案じゃなぁ♪
 ・・・だがそれじゃ数年後にはピラミッドがなくなってしまうのぉ〜」
『だからそんなことはどうでもいいんだ!』

まさに三歩進んで二歩下がる状態であるが、アズマは懸命に強行突破しようとした。

『お前達が引き延ばし作戦に出ているのはわかっている!』
「いや、そんなつもりは全然ないぞぃ」
『嘘をつけ!儂らを案内するつもりなぞ最初からないだろ!』
「まさか。そんなつもりは露ほどもないぞぃ」
『その眼でそんな台詞を語るか、貴様!』

とうとう頭に血が上って火星会戦の英雄を貴様呼ばわりである。
それでもマイペースを崩さないのが老獪であるフクベであろう。
そういう意味では完全にフクベのペースではあるのだが、不倶戴天の決意をしている今宵のアズマは違っていた。

『もう案内は無用だ!我々はこのままゲートに向かわせてもらう!』
「え!?いや、それは・・・」

アズマの宣言に驚く副官。

「領空内の案内は我々の先導で・・・」
『もうたくさんだ!貴様らは最初から儂らを足止めにするつもりだったのだろう!
 ならばこんな茶番にいつまでも付き合っている義理はない!』
「ですが、規則は規則ですし・・・」
『邪魔をするというのなら排除するまで!』

アズマの宣言とともに欧州同盟艦隊は一斉に主砲を南アフリカ同盟艦隊へ向けた。
その光景はまるで警官の大軍に囲まれて両手をあげた銀行強盗みたいなものである。

「領空内での発砲は条約で・・・」
『我々に非協力的な態度を示しておいて条約うんぬんを言うか!
 お情けで結んでやっている条約に縋るぐらいなら最初から隷属していれば良いのだ!
 これまで無礼な振る舞いをしておいて、問答無用で砲撃されないだけありがたいと思え!』

副官の抗議も全く受け付けずにアズマはそう言い放った。
狼狽える副官に対してフクベは動じずアズマに忠告した。

「じゃがのぉ〜」
『実力で止めるというのなら相手になるぞ』
「いや、別に止めはせんよ。じゃがお主らの安全を思って忠告しているのじゃ。我らの先導に従っておいた方が良いと思うぞ」
『儂らのため?何をふざけたことを』
「いや、サハラ砂漠饅頭ぐらい真面目じゃぞ」
『もう結構だ!』

アズマはもう結構とばかりに通信を切った。
それと同時に欧州同盟艦隊は先導の艦隊を無視して直進し始めた。

「あぁ〜とうとう怒らせちゃいましたよ〜」
「まぁあの短気な男にしては保った方かのぉ」
「そんな呑気な〜」

あくまでもマイペースなフクベに対して副官は事態の問題性を訴える。

「どうするんですか〜
 このまま直進されたら木連との密約に違反しますが、戦闘してもかないませんし・・・」
「儂は忠告したぞ」
「忠告?」
「砂漠には危険が一杯じゃからなぁ〜そうじゃろ?」
「危険?」
「ホ♪ホ♪ホ♪」

フクベはそう笑うと彼の忠実な僕のナインティーンくんはピピピと相づちを打った。



欧州同盟艦隊・ブリッジ


「ワッハッハッ!奴らめ、所詮は姑息な足止めしか出来なかったようだな♪
 少し脅してやれば震え上がって何も出来ぬではないか♪」

アズマはご機嫌であった。
この数日の不満を全てぶつけてすっきりしたようだ。

「しかし、よろしいのですか?先導の艦隊を無視して領空内を航行しても。
 向こうの政府が抗議してきませんか?」
「かまわん!こちらも無為な足止めをされたのだ。
 逆に賠償を要求して返り討ちにしてくれる!」

アズマが大きな口を叩けるのは両国の国力の差や結ばれている条約の数々、経済援助などの政治的背景がものを言っている。そしてこの戦力差だ。
半分脅し文句を使って横暴を通すのは強者の権利であり、それに大人しく従うのが弱者の義務である。少なくともアズマはそう信じており、火星会戦時にネルガル等に虐げられた経験から来る反動でもあった。

「木連が新プラントへの調査隊の派兵を遅蒔きながら決めたようだが、おそらくは木連に協力しての足止め工作だろう。見え透いた小細工だ」

これでまっすぐゲートまで進めば今までの遅れを取り戻せる。そうすれば木連の艦隊に追いつくことも可能だ。

「ワハハハハ!どんな敵が出てきても蹴散らしてくれる。遺跡は我々のものだ!」
最大の調査艦隊を派兵した余裕からか、アズマは既に大船に乗ったつもりでいた。
これまでの軍人人生、蹴躓きまくりであるが、これでようやく手柄を立てることが出来る。
そう確信していた。

しかしそれは早計というものであった。

「前方5kmにUnknownを発見!」
「なに!?」

ズモモモモーーー!

スクリーンに拡大投影されたのは、砂の中から現れるチューリップである。
チューリップはパカっと桃が割れるかのように真っ二つに割れた。
そしてその中から黒い物体が現れた。
カンの良い人ならすぐにわかるだろう。
いや、ナデシコクルーなら、あるいはロシア方面の連合軍に所属していた軍人なら気づいたはずだ。

「黒い物体から高エネルギー反応!」
「なんだと!」
「照合中・・・ナナフシと思われます!」
「なにぃ!?」

オペレーターの報告が済む前に黒い物体もといナナフシは収納していた尻尾のような砲身をビヨヨ〜ンと欧州艦隊の方に伸ばした。

「エネルギー収束中!」
「ナナフシとはあのクルスクで猛威を振るったというアレか!?」
「マイクロブラックホール砲、来ます」
「どうしましょう、提督〜」
「馬鹿もん!散開しろ!それぐらい命令される前にやれ!!!」

アズマの怒号が各艦に伝わる頃、ナナフシの砲身は黒い光を放った!

ゴゴゴゴゴゴォォォォォ!

艦隊中央部を稲妻のような黒い光の柱が艦隊中央部を貫いた。

「艦隊の被害を報告しろ!」

揺れる艦橋からアズマは周りの騒音に負けないくらいの怒号で指示を出した。

「フリージア、ジャスミン、エーデルワイスが機関部に中破、他の艦は軽微の被害です」
「幸い軽傷者のみで死者はありません」
「フリージアから救命艇が出ました」
「救命艇の受け入れ作業入ります」
「マイクロブラックホールは成層圏を突破して消滅しました。周囲に汚染ありません」

艦隊はてんやわんやの大騒動となっていた。被害は大きかったが死人が出なかったのは不幸中の幸いであろう。しかし一番の被害は血管が切れそうな程に青筋を浮かび上がらせている司令官殿の様子であろう。

「あのクソジジイ!!!」
「アズマ提督、ちょ、ちょっと・・・」
「フクベのタヌキジジイを今すぐ呼び出せ!」

ナナフシに攻撃されて怒らない方がおかしい。
アズマは南アフリカ同盟の艦隊に怒鳴りながら通信を入れた。



南アフリカ同盟艦隊・ブリッジ


「おお、ナインティーン君、うまいぞ♪」
「ピピピ!」
「あの〜アズマ提督から通信が・・・」
「5万点突破じゃ、これでニューラリーZが出来るようになったぞい」
「ピピピ!」
「ですから提督から連絡が・・・」
「ナインティーン君はPSZの名人じゃなぁ〜」
「ピピピ!」
「あの〜提督が」
『いい加減に返事をせんか!!!』

無視してバッタと携帯ゲームに興じるフクベに対してアズマはとうとう怒鳴り声をあげた。

「おお、どうしたんじゃ?なにやら攻撃されているようじゃが」
『何をとぼけておるか!』

怒鳴り込んで来た相手の姿を見てもフクベは飄々としていた。その姿が余計にアズマの癇癪に触ったらしい。

「言い忘れておったが、この砂漠には先の火星会戦で送り込まれたチューリップが放置されたままじゃなのじゃが」
『言い忘れただ!?』
「災難じゃのぉ〜迂闊に近づいて埋まっていたチューリップを起こしたのじゃな。軽率な行動はやめた方がいいと忠告したつもりなんじゃが」
『白々しい!』
「いやいや、お主らが説明する前に先に行ってしまったんじゃぞ?」
『言うつもりもなかったくせに!』
「そんなことありませんぞ」
『嘘つけ!実は貴様らがアレを埋めていたんだろ!』
「はて、何の事ですかな?」

思いっきりしらばっくれるフクベ。

『自国の領域内にあるチューリップの位置を知らないはずがないだろ!
 わざと配置したな!』
「言いがかりじゃ。ほれ、この砂漠は無駄に広いからのぉ。それにウチの軍は人手も少ない事もあって全てを把握し切れておらんのじゃ」
『嘘をつくな!』
「第一、我が軍にチューリップなんかを罠に使うだけの技術力があるはずなかろう。
 買いかぶりというものじゃ」
『しらばっくれおって!』

アズマは絶対信じていない。だからといってフクベが頷く義理もない。

「儂にもこの砂漠のどこにに何が埋まっているかわからないんじゃ。
 だからこの砂漠もまっすぐに進めなかったわけじゃが・・・」
『ほぉ、そういう言い訳をするのか』
「事実を言ったまでじゃ」
『嘘をつけ!隣の副官は初耳という顔をしているじゃないか!!!』

フクベの隣の副官は慌てて表情を変えるが時既に遅し。
フクベも一瞬副官をチラリと見て舌打ちしたが、すぐにいつもの好々爺な顔に戻った。

「このまままっすぐ進むのは危険じゃぞ?
 今からでも遅くない。儂らの先導で先を進むことをお勧めするぞい」
『結構だ!こんな姑息なトラップなど我が軍の兵力で撃破してくれるわ!』

アズマは終始怒気をまき散らしながら通信を切った。

「提督〜いつの間に?」
「まぁ小国の知恵という奴じゃ」

ウインドウの消えたメインスクリーンを眺めながら、副官は胃の辺りを抑えて上官に訴えた。フクベは相変わらず好々爺を崩さない。

「知りませんよ〜あの人、本当に手加減無しに武装全開で直進していきますよ?」
「亥年生まれみたいじゃしな」
「なんですか?それ」
「干支は難しいかのぉ」

彼らは突進する欧州同盟の艦隊を生暖かく見守る二人であった。



欧州同盟艦隊


最初の一撃よりおよそ2時間後、欧州同盟の艦隊は攻撃されたナナフシをスクランブル戦闘機とステルンクーゲルを繰り出し、これを何とか撃破することに成功した。

「ナナフシ、活動を停止しました」
「スクランブル戦闘機23機、ステルンクーゲル5機中破」
「・・・ふふふ、見ろ!我が軍の力を!5年前の我らではない!」
「ですが被害が大きすぎます」

当初の戦力の1/3が何かしらの損傷を受けている。まぁ5年前はクルスクで欧州方面軍がことごとく撃破されているので進歩していると言えば進歩しているが、誇るには損害が大きすぎる。

「よし、このまま先に進むぞ!」

被害を確認すると怯むことなく前進を選択するアズマ。
こういったときでも前向きな性格はいいのだが・・・

「前方にまたエネルギー反応!」
「なにぃ!?」

再びの報告と同時にまたもや前方の砂漠の地下からズズズとチューリップが浮上してきた。またもやナナフシか!?と全員は固唾を呑んで見守ったが、ある意味ホッとしたが、反面驚いた。

「・・・でかいですね」
「でかいね」
「でかいよ」
「何倍だ?」

ブリッジの面々が異口同音の様に言う。

「ジョロ?」
「ジョロだね」
「ジョロだ」
「でかいジョロだ」
「「「キショイ!」」」
「つべこべ言わずにさっさと攻撃しろ!」

今度現れたのはいつかテニシアン島でナデシコクルーがみたあのでかいジョロであった。ただし当社比500%というさらに巨大なジョロである。

でかいジョロはまるで巣穴から這い出てきた虫のように辺りをキョロキョロ見回すと前足で顔の砂を払い、そのついでに欧州同盟の艦隊に気づいた。
するとでかいジョロはいきなり背中のカーゴを開き大量のミサイルを撃ちだした。

「ジョロがミサイル!?」
「避けろ!」
「ばか、フィールドで防げ!」

でかいジョロのミサイルサイトは通常のそれの10倍以上はある。一度に吐き出されるミサイルで辺りはパニックに陥った。

「撃て!撃ち落とせ!何でもかまわん、弾幕を張れ!」

アズマがパニックに陥っている艦隊を叱咤するように叫ぶが、混乱はすぐには収まらなかった。



南アフリカ同盟艦隊・ブリッジ


さらに30分後、ようやくでかいジョロはスクラップになって沈黙した。

「おお、ピエトロ〜!」
「ピピピ〜!」
「なんて悲しい運命なのじゃ〜!」
「ピピピ〜!」
「ナインティーン君もわかるか!さすがは我が友じゃ〜」
「ピピピ〜!」
「ところでアイテムは全て集めたかの?」
「ピピピ!」
「やはりクリア後はレベル99にするのが王道かのぉ。レベル上げ頼むぞい」
「ピピピ!」
「あの〜そろそろ提督から抗議の通信が〜」
「まぁまぁ今エンディングの良いところなんじゃ。待たせておけ」
「ピピピ!」
「ですから提督から・・・」
『ゲームはやめろと言っているだろう!!!』

再び抗議と通信を入れるアズマを無視して携帯ゲームに興じるナインティーン君とそれを見守るフクベ。完全におちょくっている。

「まぁうちの砂漠は面積も広い分、いろんなものが埋まっておるからなぁ」
『白々しい!』
「どうじゃ?いい加減儂らの先導で進むつもりにはならんか?」
『ふざけるな!お主らの考えはわかっている!その手には乗るか!』
「いや、既に戦力の半数は無傷じゃないのじゃ。あまり無理するものじゃないぞい」
『いらんお世話だ!』

またもや怒鳴りながら通信を切ったアズマ。

「一体、何のために通信をしてきたのじゃろうなぁ〜」
「それは・・・いえ、何でもないです」

口八丁でアズマを煙に巻くフクベに言葉を失う副官であった。



欧州同盟艦隊


それからも欧州同盟の涙ぐましい・・・もとい果敢な砂漠横断作戦は敢行されたが、そのたびに愉快で楽しい騒がしい罠に引っかかっていった。

「提督!目の前に暴れチューリップの大群が!!!」
「なに!?」
「ゲートが開いて駆逐艦が吸い込まれております!」
「何だと!?」

いきなり地中から飛び出してきたチューリップの大群がその口を開けて周りの艦隊を吸い込み始めた。

『す、吸い込まれます〜〜』
『ディストーションフィールド全開!ジャンパーを早く叩き起こしてこい!』
『ど、どこかに飛ばされてしまいます〜』

という断末魔の叫びを残しながら次々と戦艦がチューリップに吸い込まれていく。

「艦隊の30%ロスト!」
「吸い込まれた艦はどこに行った!」
「えっと・・・砂漠の入り口付近です」
「なに!?」
「えっと・・・『ふりだしに戻る』らしいです」
「なにぃ!?」

艦隊を吸い込んだチューリップの胴体にはデカデカと『ふりだしに戻る』と書かれていた。
それだけではなく、他のチューリップにも色々文字が書かれていた。もちろん、吸い込まれた艦からはチューリップに書かれた内容に相当する阿鼻叫喚が聞かれることになった。

一回休み

『うわぁぁぁ、ここはどこだ!』
『暗いよ、狭いよ、恐いよ〜』
『ここはどこ?私は誰?』
『お願いだ!ここから出してくれ!』
『僕の方がガンダムを上手く動かせるんだ〜』

ジョロの巣に落ちる

『ジョロだ』
『ジョロだね』
『ジョロなのか?』
『絶対ジョロだね』
『でも小さいよ』
『うん、小さいね』
『うわぁ〜小ジョロだ〜』
『呑気に言っている場合か!』
『ジョロの大群だ〜』
『気色悪いよ〜』

射撃ゲーム、ナナフシから逃げて下さい

『ふぅ、どうやら助かったみたいだ・・・』
『そ、そうでもないみたいですよ・・・』
『ナナフシがこちらに照準を合わせています!』
『何!?』
『よ、よけろ!』
『撃ってきました〜』
『ひょえええええ!』

結婚祝い5000ドル払う

『健やかなるときも病めるときも・・・』
『なんでバッタとジョロの結婚式を見なければいけないんですか?』
『いやぁ、でもバッタでもウエディングドレスを着ると、なんかこうキレイですよね』
『ああ、バージンロードの先の父親らしいバッタが泣いていますよ〜』
『なんか感動的ですね♪』
『そうだな。結婚祝いなんて安いものだな』
『結婚おめでとう♪』

悲惨!交通事故に遭い乗艦を破損する

『前方からでかいジョロが居眠り運転で迫ってきます!』
『なにぃ!?回避だ!』
『反対側から酔っぱらい運転のでかいジョロが!』
『そんな馬鹿な!』
『後方から携帯電話に夢中なでかいジョロが!しかもFOMAを持ってます!』
『なぜFOMAを!?というか、そもそも機動兵器に携帯電話が必要なのか!!!』

などなど、吸い込まれた先での様子がおもしろおかしく旗艦のブリッジに伝わってきていた。

「・・・我々は人生ゲームの駒ですか?」
「ふざけおって、あのクソジジイ!!!」

あまりの光景にアズマの堪忍袋の緒が切れたのは言うまでもなかった。



南アフリカ同盟艦隊・ブリッジ


「ピピピ〜」
「おおナインティーンくん、サイコロの目が良いのぉ〜」
「ピピピ〜」
「何を言う。ワシもこれからじゃぞい」
「ピピピ〜」

フクベとナインティーンくんは仲良く新発売の最新携帯ゲームに興じていた。
無線通信を利用したなかなか白熱した対戦らしい。
だからだろうか?それともあえて無視していたのだろうか?
青筋が一つどころではないおじさんが睨んでいても平気でゲームをしていた。

『貴様ら、いい加減にしろ!』
「ほら、ナインティーンくんの番じゃ」
「ピピピ〜」
『おい、こら、お前ら無視するな!』
「おお、なんと振り出しに戻るに止まってしまった〜!」
「ピピピ♪」
『おい、こら!!!』

アズマを無視してゲームに興じるフクベ達。
しかしアズマはあることに気づいた。

『こちらヒヤシンス、チューリップに吸い込まれます!
 わぁぁぁぁ!』
『ヒヤシンス、砂漠の入り口に飛ばされました』
『何!?』

何か違和感を感じる。

「次はナインティーンくんの番じゃぞ」
「ピピピ〜」
『おい、お前ら・・・』
「おお、射撃ゲームか。でもさっきは思いっきり外しておるぞ」
「ピピピ〜」
「自信満々じゃのぉ。お手並み拝見じゃな」

構わずゲームを続けるフクベ達。
するとウインドウの向こうではまた一騒動が起きた。

『またナナフシが現れました!』
『今度はこちらを狙ってきます』
『面舵いっぱい!回避だ!』

すると何故かフクベ達もしゃべり始める。

「ほれ、ナインティーンくん、右じゃ、右!」
「ピピピ〜」
『取り舵いっぱい!』
「左じゃ、左!」
「ピピピ〜」
『緊急浮上!』
「上に逃げたぞい!」
「ピピピ〜」

・・・・・・

アズマの顔が見る間に赤くなっていった。いや、元から赤かったが。

『お、お前達か・・・』
「そこだ、いいぞナインティーンくん」
「ピピピ♪」
『ヒルガオ、エンジンをやられました!総員退避します〜』
『お前達の仕業か・・・』
「ナインティーンくんはゲームがうまいのぉ〜」
「ピピピ♪」
『あのチューリップを操っていたのは貴様らか!』

本日一番の大噴火が炸裂した。

「どうしたのじゃ?いきなり怒り出して」
『まだぼけ通すつもりか!手元のコントローラーであのチューリップを操っているだろう!!!』
「はて、何の事じゃ?儂らはゲームに興じているだけじゃぞい」

アズマの出した推論にもあくまでとぼけ続けるフクベ。
しかし・・・

「ピピピ♪」
「お、また仕留めたか?」
『ユウガオ轟沈!』
「あ・・・」

今度こそ完全にナインティーンくんの手元のゲーム機の動きと連動して欧州同盟の戦艦が火を噴いた。
慌ててナインティーンくんは携帯ゲーム機を後ろ手に隠すが時既に遅し。
アズマは怒りで完全に目が据わっている。

『そうか、そうか、お前らがやっていたのか・・・
 貴様らが諸悪の根元というなら今すぐ地獄に送ってやる!首を洗って待っておれ!!!

アズマはフクベに宣戦布告をするとブチン!というノイズと共に通信を切った。

「怒らせてしまったかのぉ〜」
「ピピピ〜」
「どうするんですか、提督!
 欧州同盟の艦隊が反転してこちらに大挙して迫ってきますよ!」

副官が泣きそうな顔をして訴えてくるのも無理はない。
チューリップの大群に翻弄されて数を減らされているとはいえ、こちらよりも圧倒的に大戦力なのだ。もっとも南アフリカ同盟の艦隊が貧弱すぎるのだが。
しかし提督殿は落ち着き払っていた。

「まぁまぁ心配するな」
「心配するなって言われても・・・」
「儂とナインティーンくんで何とかしてみせるぞい。のぉナインティーンくん」
「ピピピ!」

フクベのウインクにナインティーンくんは器用に片足をあげて答えた。



サハラ砂漠


「フフフ、あのタヌキジジイめ、目にもの見せてくれるわ!」

既に目が逝っちゃっているアズマの指揮の元、損害を免れた艦隊を集結しつつあった。
既に半数以下に減ってしまったがそれでも南アフリカ同盟の艦隊を圧倒できるだけの艦隻数は残っている。力にものを言わせて攻め込めば容易に勝利できるであろう。

「ようし!照準、南アフリカ同盟の艦隊!」
「照準合わせます!」

みんな、本当に砲火を開いて良いのか?とか疑問が頭をよぎったが、先ほどのおちょくられようから正常な判断が出来なくなっており、みんなアズマの指示に素直に従おうとしていた。

と、その時である。

「前方より小型の機動兵器が接近!」
「なんだと?」
「え・・・バッタと思われます」
「大きいのか?」
「いえ」
「小さいのか?」
「いえ、普通のサイズみたいで・・・」
「なら何を驚いておる!南アフリカの連中と一緒に吹き飛ばしてしまえ!」
「そ、それが・・・」

要領の得ない報告に首を傾げるアズマへ、オペレーターは百聞は一見に如かずとその光景をスクリーンに映し出した。

「なんだぁ!?」

アズマも思わず驚嘆の声を上げる。
それもそのはず、バッタはその背中に人間を乗せていたからだ。しかもその人間はアロハシャツにサングラス、麦わら帽子をかぶりながらウクレレを弾いていたからだ。

誰もが思った。

『馬鹿がバッタに乗ってやってくる』と・・・

シャンジャカシャンジャカ♪

バッタはウクレレの奏でる陽気なメロディーを纏いながら砂漠をやってきた。そのメロディーは『勝利のVだ、ゲキガンガー3』をコミックソング風にアレンジしたものであった。

「夢が明日を呼んでいる〜♪」
「ピピピ〜ピピ〜ピ〜ピピ♪」
バッタも電子音で伴奏する。二人の息はピッタリ合っているようだ。

「まぁ申し開き程度が出来る程度には蛸入道の足をひっぱってやろうかのぉ」
「ピピピ!」
「さぁ、ナインティーンくん、儂らの仲間を呼ぶのじゃ」
「ピピピ!」

ウクレレを弾く男、フクベがバッタの友人に告げると、彼は前足二つで信号旗を取り出し、見事な旗振りで周りにサインを送った。

We Love Fukube♪
We Love Fukube♪
We Love Fukube♪

そのサインに砂漠の各地に生息していたバッタ達が呼応した。

『おお、チームの再結成か!』
『ナインティーン兄貴、待ってました!』
『あなた、私を置いていくの?』
『離してくれ、ナインティーン兄貴には借りがあるんだ!』
『よし、ひと暴れしようぜ!』
『やっぱり兄貴には俺の力が必要のようだな』
『野郎ども、いくぜ!』
『おーーーー!』

などと物言わぬ機動兵器が言うはずもないのだが、各所でそれに似た光景が繰り広げられながらバッタ達が現れてきたのだ。

「バッタの大群が現れました!」
「なに!?」

1匹のバッタだったはずがいつの間にか数十、数百に増えていき、最終的には1000匹にも膨れ上がっていった。効果音に『ブンブンブン!パラリラパラリラ!』などと聞こえそうである。

「どうしましょう、提督〜」
「かまわん、なぎ払え!!!」
「了解!」

欧州同盟艦隊はバッタの群にグラビティーブラストの照準を当てた。
しかし、バッタ達の行動は素早かった。

「ピピピ!」←全員散開!と言っているらしい
「「「ピピピ!」」」←了解!と言っているらしい

グラビティーブラストの掃射は砂漠に砂の煙をまき散らしたが、バッタ達は既に散開してその場にはいなかった。
ナインティーンくんは続けて手旗信号で指示を送る。

「ピピピ!」←フォーメーションA!と言っているらしい
「「「ピピピ!」」」←了解!と言っているらしい

バッタ達は艦隊の砲撃をからかうように辺りをめったやたらに飛び回り攪乱した。

「撃て!」
「ど、どこにですか〜」
「四方八方にバッタがいます〜」
「どこでもかまわん!撃って撃って撃ちまくれ!!!」

艦隊はやけになりながら砲撃を繰り返す。
機銃はバッタの速さに着いていっていない。
ミサイルを撃つが、逆にバッタのミサイルで撃墜される。
無人兵器の動きではない。まるで人間が乗っているかのような動きだ。

「ええい、こちらも機動兵器を出せ!」
「え!?虎の子のステルンクーゲルをですか!?」
「あいつらを打ち落とすんだ!出し惜しみをするな!」

既に見境を失っているアズマに何を言っても聞くはずがない。
もっともバッタを排除するならやはりこちらも機動兵器を出さざるを得ないだろう。

「ステルンクーゲル部隊出撃して下さい!」
「全機出撃しました!」




数分後・・・



「ステルンクーゲル撃墜されています!」
「なにぃ!?」
「バッタに取り付かれて手も足も出ません!」
「そんな馬鹿な!」

戦場ではバッタに絡まれて身動きのとれないステルンクーゲルが続出した。
砲撃戦メインのステルンクーゲルは一度接近されてしまうと極端に弱かった。これがエステバリスならもっとマシな戦闘が出来たかもしれない。
もっとも一番の原因は圧倒的な戦力差にあったようだ。

「やはり多勢に無勢だったようです〜」
「くそ、あのジジイ!」

十数倍のバッタに一度に飛びかかられたら、いくら砲撃戦で近寄らせないステルンクーゲルでもひとたまりもなかったようだ。

「見事な指揮じゃったぞ、ナインティーンくん」
「ピピピ♪」
「それじゃ、そろそろあの蛸入道の説得にでも行くかのぉ」

バッタチームが艦隊のほとんどを無力化したところでフクベは欧州同盟の旗艦に向かうのであった。



欧州艦隊旗艦


「ひええええ〜〜」
「バッタ達が侵入してきた〜」
「馬鹿もん、応戦しろ!」

艦内に侵入してきたバッタの大群を見てクルー達は騒然となった。
しかし、艦内に侵入された無人兵器に対して有効な攻撃などほとんどなかった。そんなものがあるなら火星会戦の頃に火星が無人兵器に蹂躙されるような事はなかっただろう。

散発的に銃声が響くものの、すぐに殺到するバッタの大群にあっという間に押しつぶされてしまった。むしろ踏みつけにされたぐらいで大した怪我もしていないのが幸運なぐらいだ。

「フォフォフォ♪そろそろブリッジに向かおうかのぉ」
「ピピピ♪」

フクベとナインティーンくんはバッタの大群の中央で大軍をコントロールしながら、目標をトップに絞ることにした。



欧州艦隊旗艦・ブリッジ


「バッタの大群、ブリッジに押し寄せてきます!」
「応戦しろ!」
「持ちこたえられません!」

アズマは叱咤激励するが、多勢に無勢、ブリッジの入り口にバリケードを張っていたが物量の前にはあっさりと覆されてしまった。

「もう持ちません!」
「うわぁぁぁぁ!」

どぉぉぉぉぉん!

あっさりとバリケードが突破されてしまった。もうもうと爆風で煙る中、一機のバッタがブリッジの中に入ってきた。

「フォフォフォ♪どうやら勝負あったようじゃな」
「ピピピ♪」
「貴様ら!」

見覚えのある顔が現れてアズマは怒りと屈辱で顔が歪んだ。
ウインドウ越しに散々アズマをおちょくったフクベ提督だったからである。

「やっぱり裏で操っていたのは貴様だったのか!」
「操っていたとは心外な。これは儂とナインティーンくんとの深い友情の成せる技じゃぞ」
「ピピピ♪」
「友情だろうとなんだろうと関係ない!どうして我々の邪魔をする!!!」
「いや、それはお互い様じゃろ?
 お偉いさんどもがどう考えているかはしらんが、お主までそんなにしゃかりきにならんでもいいじゃろうに」

フクベはそう諭す。しかしアズマには届かない言葉であった。

「うるさい!新たなるプラントの英知を我が手に入れるのだ!それが我が欧州同盟の繁栄に繋がる!」
「その為には力の論理で他国を虐げていくのか?」
「そうしなければネルガルや他国の馬鹿者に新プラントへ先を越される!
 あんな愚民どもが古代火星人の英知を手に入れてもろくな使い方をせん!」
「まったく、その思いこみが先の戦争の原因だったというのにのぉ・・・
 せっかく平和になったのにまた争乱の種をばらまこうというのか?」

フクベはやれやれと嘆く。
結局人間は歴史に学ばないのだろうか?
力を持った者は驕りを持ち、その驕りから争いの歴史は繰り返される。
争いにこりごりしたのもつかの間、しばらく平和な時を過ごせばもうそれを忘れて誇るためと驕るための力を欲したがり、また争う。

それが人の性だといわれると空しくなる。

「うるさい!軍は国民の利益を守るために存在する!
 その為に与えられた指令を守る!当たり前のことではないか!」
「兵は引かぬか・・・」
「もちろんだ!」

石頭にフクベの言葉は通じなかった。
それどころかアズマは懐に手を入れた。




バーーーーーーン!



乾いた銃声がブリッジに中に響く。
副官や周りのクルーも驚くほどその動きは意外なものであった。
アズマは懐から取り出した拳銃を構えて迷わずに引き金を引いた。
警告もなくいきなりであり、誰も止める間がなかった。
もちろん撃たれた方も対処など出来るはずもなかった。

「う、うう・・・」
「ピピピ〜〜!」

ドドドドドーーー!

ナインティーンくんの背中で蹲るように崩れ落ちるフクベ。
赤い液体がポタポタと床を汚し始めた。
するとバッタ達はオロオロし始め、潮が退くようにブリッジから退却していった。
さっきまでの劣勢が嘘のようである。

「ふん、所詮無人兵器など犬畜生と同じ。入れ知恵をしている人間を倒せば有象無象な集団だ。恐れるに足りん!」

吐き捨てるように言うアズマ。

「こら!さっさと艦隊を再編してゲートに向かうぞ!」

あまりのことに呆然としていたクルー達を叱咤する。
その声に目が覚めた様にクルー達は我を取り戻した。

「あ、アズマ提督!いくら何でも殺してしまったら国際問題に・・・」
「ふん、我々を欺いていた時点で既に国際問題だ。後は政治が勝手に決着をつけてくれるわ」
狼狽える副官に吐き捨てるように言うアズマ。

『本当に殺しておけば良かった』
と彼は心の中で舌打ちする。結果的にはフクベの思惑に乗ってしまったことが少し悔しかった。

欧州同盟遺跡調査艦隊・アズマ提督
時に大局を見て指揮をしないと言われつつも、現場指揮官としては優秀なのかも知れなかった。



南アフリカ同盟旗艦・ブリッジ


提督を失った彼らにとって、ただ欧州同盟艦隊が艦隊を再編してPゲートへ向かうのを為す術もなく見守るしかなかった。
見守ることしかできない彼らの元に傷ついたフクベをナインティーンくんが連れ帰ってきた。

「ピピピ!」
「て、提督〜」
「早く救急医療班を呼べ!」
「誰か応急手当を!」

ぐったりしているフクベを見てみんな動揺していた。
しかし・・・

「まぁ静かにせんか・・・」
「しかし・・・って提督!?」

重傷患者の意外に力強い声に驚く一同。
フクベはよっこいしょっと起きあがって見せる。

「なんじゃ、人を死人みたいな顔で見おって」
「いや、撃たれたのでは・・・」
「血糊じゃ」
「でも服には弾痕が・・・」
「ああ、これか?胸の超合金ゲキガンガー3が救ってくれた」
「あ、あははは・・・」

フクベは胸から取り出した超合金ゲキガンガーを見せる。弾丸が見事にめり込んでいた。

「笑い事じゃないぞ。親友からもらった大事なコレクションだったのじゃぞ」
「笑い事じゃないのはこちらの方です。ダイキャストなんかで銃弾を受け止めるなんて無謀にも程があります!」
「ダイキャストじゃないぞ。本当の超合金じゃ」
「どっちだって一緒です!」

どっちにしろ、司令官が撃たれる可能性のある場所に突入することそのものが無謀な事だ。

「怒鳴るな。これでも肋骨にヒビが入っているのじゃ」
「なんであんな無茶なことを・・・」
「まぁここら辺が落としどころじゃろうからのぉ」
「落としどころ?」

フクベは言う。
木連の手前、欧州同盟を足止めしなければいけないが、そのために南アフリカが被害を出してまで戦うのはあまりにも馬鹿らしすぎる。だが無傷で欧州同盟を通せば木連との関係にヒビが入りかねない。
さりとて欧州同盟と本気で戦った場合、損害も馬鹿にならない。
仮に圧勝出来るだけの戦法があったとしても、圧勝してしまえば欧州同盟を本気で敵に回しかねない。本気で欧州同盟と戦争をして勝てる見込みなどない。木連からの援軍があったとしても大勢は変わらないだろう。

ほどほどに欧州同盟の足を引っ張り、なおかつ溜飲を下げられるだけの南アフリカの損害を受けておかなければならない。後で政治問題になった場合でもその事実があれば事をうやむやに出来る。
反対に木連に対してもPゲートを通してしまった事に対する理由として南アフリカもそれなりに犠牲を払った事をアピールしなければならない。

その落としどころが欧州同盟の艦隊にかなりのダメージを与えながらも、南アフリカ同盟の提督が重傷を負わされる、である。

「しかしその為にどうして提督が・・・」
「まぁ腐っても提督とか英雄とか呼ばれておるしなぁ。天秤にかけるには少しハッタリが効いておるがなぁ〜」

フクベは器用にウインクして見せた。しかし彼の副官は自分の上司がどうしてもそんなに切れ者には全然思えなかった。

「ピピピ♪」

彼の親友だけは彼の事をわかっていた。

新プラント争奪レース・・・南アフリカ同盟脱落



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第16話をお届けしました。

えっとお久しぶりです〜〜長かったなぁ〜2ヶ月以上かかってるなぁ〜
しかしサブキャラだけで1話まるまる書くのは辛いですねぇ〜
でもフクベとアズマのキャラが濃いので何とか乗り切れたような気もしますが。
今回はレースに参加する人達のサンプルという事で次回からはシオンやアキトにルリ達のお話に戻ろうかと思っております。

っていうか新プラント編でここまで引き延ばすつもりなんかなかったの(苦笑)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・くぅ 様
・龍崎海 様
・kakikaki 様