命の欠片の一紡ぎ。
親から子へ、子から孫へ、綿々と人から人へ紡がれている。
もちろん私達の一人一人にも紡がれている。
彼女は待っている。
命の欠片を受け取るために
彼女は待っている。
暗い闇の底で・・・
ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜
「ねぇねぇ、いい加減帰ってもらってよ」
「いや、そんなこと俺に言われても」
「大体なんで甘酒だけ一つであそこまで粘られなきゃいけないのよ」
「酔って現実逃避したいんだろ?第一あそこまで追いつめたのはお前だろう」
「え?そうだっけ?」
すっかり自分のやったことを忘れているシオンにアキトは溜息をついた。
食堂の一角にはそこだけどんより曇り空のように真っ暗であった。
「ルリさん、違うんです〜〜
僕は覗き魔でもないしあそこの毛がないわけでもないんですぅ〜〜」
もちろん頭の上に雨雲を生み出しているのはハーリーである。
よっぽど銭湯で弄ばれたのが堪えたらしい。
「なぁそれはどうでも良いとして」
「シオン、あっさりとハーリーの事を無視してやるなよ」
「そんな些細な事は良いじゃない♪」
「まぁ・・・確かにそうだが・・・」
「それよりもパパ、武術を教えてよ♪」
「武術?」
「そう♪」
パパ一筋なシオンはアキトに思いっきり甘えまくる。
「あのなぁ〜」
「ねぇ良いでしょ」
「あ・・・」
つい先日、シオンの幼少期の話を聞いたばかりで、あまり無下にも出来ない。
「はいはい、わかりました。付き合ってやるよ」
「やった♪ラッキー♪」
武術の訓練の確約を取り付けたシオンは大喜び。
「あ、それ良いですね」
「そうそう、私達も所望」
「え?」
声がするので振り返るとそこにはテンクウ・ケンとマキ・イズミがいた。
「テンカワさんに稽古を付けてもらえるなんて」
「ちょっと待って、パパは私と・・・」
「フフフ、独り占めなんて許さない」
「そんなぁ〜」
体を鍛えたくてうずうずしている二人は父親と二人きりになりたいシオンにお構いなしにこのチャンスを強引にもぎ取ろうとした。
「俺の意思は無視かよ」
溜息をつくアキトであるが、火星に着くまではとりあえず暇なのでそれも止む無しと諦めるのであった。
空と言うには真っ黒な宇宙の星空に一隻の戦艦が出航していった。
物干し竿のような細長い船体、ユーチャリス級二番艦ロベリア。
ネルガル会長であるアカツキ・ナガレの専用艦である。
見送るユリカ達は悠長に手を振っていた。
「行ってらっしゃい〜♪」
「本当に通常航行で追いかけていきましたね」
「そうだね」
「まぁ今から頑張れば何とかナデシコCに追いつくかもしれませんけど・・・
良いんですか?ユリカさん」
「何が?」
ユリカに疑問を呈するルリの気持ちも分からなくはない。
「確かにPゲートを使えばナデシコCより先に火星へ先回り出来ますけど、万が一ロベリアの方が先にナデシコCに接触しちゃったら無駄になりません?」
「ルリちゃん、私達新プラントに行くのがお仕事なんだけど(汗)」
「それはそうですが、なんかこう癪じゃないですか」
「まぁそれはそうだけど・・・」
確かにナデシコCがロベリアに捕まって回れ右して地球に帰りでもしたら火星に先回りしても無駄骨に終わる。それはそれで面白くない。
「そうだけど・・・大丈夫なんじゃない?」
「どうしてですか?」
「予感というか、アキト達は無事火星に到着するって感じるの」
「・・・その根拠は?」
「アハハハ、私のカン♪」
「なんか、当てにして良いのか悪いのか・・・」
ユリカの自信たっぷりの当てずっぽうに溜息をつくルリ。
「それに」
「それに?」
「なんかエリナさんご愁傷様って予感がするんだよねぇ」
「それもカンですか?」
「あら、カンは今までの経験から導き出される高度な推論なんだよ♪」
「本当ですか?」
ユリカのウインクをいまいち信用できないルリであった。
「ねぇパパ。剣術を教えてよ」
「剣術?柔術から宗旨替えするのか?」
「そうじゃなくて、剣術使いにどうしても勝ちたいの」
シオンはアキトに敵が抜刀術を使う場合の戦闘方法を教えて欲しいと頼んだ。
「いや、まぁ教えなくはないけど・・・そんな強い相手でもいるのか?」
「うん、悔しいけど」
シオンの脳裏にあの女の顔が浮かぶ。
牛乳瓶の底の様な眼鏡にお下げ、服は桜色の和服。
時代がかったふざけた格好だが、その強さといったら!
今の自分が一歩も二歩も劣っていることをまざまざと思い知らされた。
「剣術使いって、まさか・・・」
「それはないでしょう。第一あいつは死んでるし」
一緒に練習に来たケンとイズミの脳裏にあいつの顔が浮かぶ。
『我が生涯の伴侶!』
「北辰は死んだ。っていうか思いださせるな。身の毛がよだつ」
「す、済みません」
アキトにくぎを差されて恐縮するケンだが、剣術を使ってそこまで強い人物をみんな思い浮かばない。
『そういえばそんなのが一人いたような、いなかったような・・・』
アキトは自分が足蹴にした相手などすっかり覚えていなかったりする。
「くしゅん!」
「風邪?」
「いえ、そんなことは・・・」
と風の噂をされた少女は言ったが・・・
「サクラ姉さまが風邪なんかひくはずないですわ」
「だよねぇ」
「そうですよね」
「バカだし」
「そんなにハッキリ言っちゃダメでしょ、ウメちゃん」
「ウメって言わないで!って私が言ったわけじゃないよ〜!」
少女の妹分達は主を思いっきりバカにしている。
「あなた達!黙りなさい!」
「まぁそれは良いとして、何で私は剣術なんか習わされているの?」
いい加減に訓練がイヤになったのか、文句を言ってやめさせようとするシャロン。
「やはり殺陣は盛り上がる場面ですわ」
「いや、少女漫画に日本刀で切り結ぶなんてあり得ないし」
「日本刀?」
「いや、あなたが手に持っているものは・・・」
そう、サクラが手に持っている刀は純和風である。シャロンが持っているのは洋風の刀レイピアである。けれどサクラは否定した。
「これは日本刀ではなく、太刀ですわ」
「太刀?日本刀と何か違うの?」
「大違いですわ」
と言ってシャロンは腰に差している鞘に佩刀を半分まで納める。
「ほら、刃が下を向いてますでしょ?」
「えっと・・・よくわからない」
「仕方がないですわね」
サクラはまるで手品のようにどこからか日本刀を取り出した。例の偽村正だ。
「時代劇で見る日本刀は弓なりの部分が刃になっていてここに触れると切れます」
「そのぐらい知っているわよ」
「で、腰に刀を差す場合はこの弓なり部分が上になるように帯刀するのです」
「あ、そうなの?」
「そして抜刀する時はこう腕を山なりに動かすように・・・」
サクラは普段瞬く間にやってみせる抜刀をスローモーションの様にゆっくり見せてみる。
「あ、なんかそんな動き、時代劇で見たことがあるわ」
「で、太刀は刃を下にして帯刀します。直刀ですからさっきのような抜刀も無しです」
「そっちは見たことないなぁ・・・
で、それがどう違うの?」
「日本刀は切るのが目的で、太刀は断つのが目的ですから」
「一緒じゃないの?」
「全然違いますよ」
サクラはうんちくを語り始めた。
「日本刀は切るのが目的ですから振りかぶったときに包丁のように相手の皮膚を刃が撫でないといけませんわ。刀に反りがあることで自然と相手の皮膚を撫でるように動きますわ」
サクラは手近なモノを切ってみて刀が鍔元から刃先まで満遍なくスライドしているのを実演した。
「対する太刀はほとんどが直刀ですわ。切ろうと思えば相手に当てた後、ノコギリのように引かないといけません」
サクラはわざとらしくモノを叩き、そこからノコギリの要領で大げさに剣を引く。
「剣の振るい方が違うのはわかったけど・・・何が違うのか正直わからないわ」
刀マニアではないシャロンには剣の振るい方の違いはわかっても、その違いが何を意味するのかわからなかった。
「人骨というのは意外と堅いのです。いくら日本刀が鍛えてあっても下手に人を骨ごと切ろうとすると刃こぼれしますわ。数人切ったら刃はボロボロになりますし、第一人の脂肪油で切れ難くなります」
サクラは時代劇のようにバッサバッサと人を切る事なんて出来ないと言う。
「ですので普通日本刀は突いたり、首筋を薙ぐのが剣客の業です。
袈裟切りなんかで骨ごとぶった切ろうというのは素人のやる事ですわ」
「じゃ、時代劇で一刀両断!ってのも嘘なの?」
「まぁ、妾の様な達人が振るえば鉄でも切れますが、そんな事が出来るのは5代目石川五右衛門か愚父くらいしかいませんわ♪」
「あ、そう・・・」
鉄まで切れるなんて非常識な事が出来るのは漫画の世界か変態親子ぐらいのモノだ。
「それに対して太刀は切ると言うよりも断つと言いましたわよね?」
「ええ」
「では切ると断つの違いを実演しましょう」
そう言ってサクラは手近なセット目掛けて佩刀を振りかぶった。
「ハァァァァア!!!」
ベキベキベキ!
それは切るというよりもまさに断つであった。
セットは真っ二つになった。しかしそれはハサミで割り箸を切るというよりも両手で割り箸を折るという感じであった。
切れたのではなく潰されたという表現の方が正しいかもしれない。
「太刀は剣の重さで相手を叩き伏せるための剣ですわ。
その昔、合戦の場で鎧を着込んだ相手を倒すためのモノと聞いておりますわ」
「・・・本当なの?その話」
シャロンは指につばを付けて眉を抑える。
それはともかく結局サクラは何のために日本刀と太刀の違いを解説したかというと・・・
「つまり妾の佩刀は日本刀ではなく太刀ですわ」
「それはわかったけど・・・」
「シャロン様の佩刀はレイピアですわよね」
「そうだけど・・・それが何か?」
「つまり、そんな細い剣で下手に妾の斬撃を受けようとなされば・・・
イリャァァァァ!」
サクラの気勢に驚くシャロン。
彼女は手近なセットに張り付いている大理石目掛けて剣を振るった。
バキィ!
大理石は木っ端微塵に砕け散った。
「と、こうなりたくなかったら少しでも妾の斬撃をかわす訓練をしていただかないと」
「わ、わかったわ・・・」
シャロンは彼女の剣の威力を知って青くなるのであった。
「あらあらサクラちゃん、すごいわねぇ♪」
「い、いえ、そんなことありませんわ」
3時のお茶の用意をもって現れたアクアがサクラの腕前を誉めた。
「でもセットの修理代は弁償してね♪」
「え?」
「これでサクラちゃん、当分ただ働きね♪」
アクアに見せられた電卓の金額を見てがっくり項垂れるサクラであった。
「しかし本当に追いつくのかねぇ〜」
「大丈夫よ!サツキミドリ2号からタギツのPゲートを使ってショートカットしたんだから3日は取り戻せているはずよ!」
「だったら最初からユリカ君達と一緒に火星辺りで待ち伏せしていれば手っ取り早かったんじゃないのかい?」
「そんな消極的な事でどうするのよ!」
バン!
やる気のないアカツキの台詞に怒るエリナ。
けれど、ほとんど二人の個人的な思惑のみで航行させられているのだからアカツキを含めその他のスタッフにやる気がないのも無理はない。
「行け!どんどん行け!そしてナナコさんに追いつくのだ!」
「月臣君、うるさいって・・・」
「何を言う!貴様達はやる気がないのか!」
長髪に白い長ラン姿の男は周りに対して必死に士気を鼓舞しようとするが、クルー達は全く無視していた。
『やる気なんかあるはずない』
表情や心の中でそう言いながらも、クルー達は決して声には出さない。
相手はバカでも武術の達人なのだ。何をされるかわかったモノではない。
かなりうるさいが、何かのBGMと思い込むことで月臣の存在を無視しようとしていた。
それにしても・・・
既に数日分先を進んでいる宇宙戦艦を追いかけることは並大抵のことではない。
特にロベリアはナデシコCと設計時期もそれほど違わず、単独ボソンジャンプ全盛の頃に設計されるために巡航速度は誇るほど速くはない。
一足飛びに長距離のPゲートを使わない代わりに、火星航路を沿うように小規模のPゲートを利用して距離を詰めていた。
「でもそう簡単には追いつけないんじゃない?」
「それでも火星に着くまでには追いつけるわ」
「それでもタッチの差なんじゃない?」
「かもね」
「なら最初からユリカ君達と火星に行ってから引き返した方が早かったんじゃ・・・」
「一緒に行ったら抜け駆け出来ないでしょ!」
「やっぱり」
「あ・・・」
まんまとアカツキの誘導尋問に引っかかってしまったエリナはしまったという顔をする。
夫婦喧嘩は犬も食わぬ。
他人の色恋沙汰は外から眺めている分には楽しいけど、当事者として巻き込まれた場合ほどはた迷惑なモノはない。
「やれやれ」
アカツキは溜息をつく。
巻き込まれて面倒だなぁ・・・彼の心の中では半分過去形だ。
思えば遠くに来たものだ。
走り出してしまった以上、ゴールするしかない。
まぁ、数日したらそれはそれで一悶着あるだろうなぁ〜などと思っていた。
しかし彼は大きな勘違いをしている。
過去形ではない。
厄災はすぐそばまで迫っていたのだ。
正確にはこちらから近づいたと言えるかもしれない。
「前方数百kmに艦影を発見!」
「何!?」
「こんなところに!?」
オペレータの報告にアカツキもエリナも驚いた。
このPゲート全盛の時代に火星への航路を通常航行で行き来している宇宙船などありはしないだろう。
あったとしても・・・
「海賊か?」
「か、もしくは僕たちと同じ目的を持った輩かもね」
まさか、とエリナは呻く。
そのまさかであった。
前方を航行する戦艦、それはある意味一番質の悪い相手であった。
「どうされましたか、シャロン様。
蝶々が止まりそうほどゆっくりと剣を振るっているのに避けられないのですか?」
「無理に決まってるじゃないの!
あなた、私を殺すつもり!?」
「そんなはずありませんわ。
シャロン様を殺せば私が紅薔薇さまになれる・・・なんて考えておりませんわ」
「思いっきり考えてるでしょ!!!」
思いの外、サクラの訓練は厳しい。死にかけることも幾度となくあった。
さりとてそう簡単に上達するモノではない。
「仕方がありませんね。
では機動兵器の訓練でもしますか?」
「機動兵器?映画にはそんなモノ出てこないでしょ???」
シャロンは首を傾げるが、台本を良く読んでいないんですか?とサクラに言い返された。
「台本って・・・」
ペラペラとめくるとそこには恐ろしいことが書かれていた。
「最後の決戦が逆さまの城に保存されていた薔薇の騎士像で戦うですって!?」
内容からして、どうもレ○アースのパクリみたいだった。
「こんなの知らないわよ!」
「だって昨日思いついたんですもの♪」
「アクア、またあんたなの!?」
アクアがあっさりと台本を変更したことを認めた。
事もあろうにもっと恐ろしいことを言う。
「ちなみにもう薔薇の騎士像は用意してあるのよ♪」
「え、機動兵器って・・・」
「じゃじゃ〜ん♪」
アクアはウインドウで格納庫の様子を映す。
そこには赤、白、黄色に塗られた赤光の姿であった。
しかも表面はピカピカの光沢仕上げにされていた。
また、至る所に金のレリーフが施されて、両肩には大輪の薔薇のイラストが描かれていた。
形式美が産んだ芸術品とも言える仕上がりであった。
まるで某モーターヘッドも真っ青である。
この手回しの良さは絶対昨日今日思いついたとかいうレベルの問題ではない。
「それだけじゃないのよ♪
装甲は式典用のモノを参考に特注で作らせたのよ♪」
「こんな恥ずかしいのに乗れるわけないじゃない!!!」
確かにシャロンが怒鳴りたくなるのもわからなくはない。
一般人が両肩に薔薇のマークがペイントされている機動兵器など乗りたくもないだろう。
「ダメよ、シャロンちゃん♪クライマックスは三人の薔薇様が薔薇の騎士像に乗り込んで逆さまの城を駆けめぐりながら戦闘をするのよ♪」
「この映画はいつからロボットアニメになったのよ!」
「巫女さんがロボットに乗って戦うというアニメからパクったのよ♪」
「堂々と言い切るな!」
アクアという娘はこういう性格である。
と、そこにブリッジから至急の連絡が入った。
「え?後方から接近する戦艦ありですって!?」
「あらまぁ」
「で、艦籍は?」
「照合します・・・ネルガル私有の戦艦です」
「ね、ネルガル!?」
ウインドウに映し出されたのは接近してくるロベリアの姿が映し出された。
「ネルガルも新プラント争奪レースに参加していたのね〜♪」
「でも、何で通常航行でこんな所を飛んでるの!」
レースに参加しているならPゲートを使ってさっさと木連にでも向かっているはずである。こんな所を地道に航行しているなんてよほどの変わり者である。しかしそんなことを驚いているシャロンと違って、アクアは目の付け所がシャープでしょってな感じでキラリと光った。
「・・・使えるわね♪」
「使えるって・・・なにが?」
「もちろん、薔薇の騎士像の撮影♪」
「なにぃ!?」
次期クリムゾングループの女当主はこのような人物であった。
『ということでネルガルの皆さんに決闘を申し込みますわ、シャロンちゃんが♪』
『なにぃ!?』
ウインドウの向こうで宣言するアクアとその言葉に驚くシャロンの姿が映し出されていた。もちろん、ロベリア側の感想はシャロンが代弁していた。
「決闘ってどういうつもり?このレースは戦闘禁止のはず・・・」
「まぁ禁止って言っても監視の目があるわけじゃないし、当事者同士が秘密にすれば発覚はしないよねぇ〜」
「あんな挑発を受けるっていうの!?」
「受けるつもりもないけど、素直に通してくれそうにないしねぇ〜」
けど!とエリナは言う。
何もこんなところで決闘を受ける必要はない。
必要はないのだが・・・
「でも目的は多分一緒なんだろうねぇ〜」
「一緒って?」
「ナデシコ」
「!!!」
「こんな所を地道に通常航行しているなんてそれしかないでしょう」
「でも・・・」
「そんな二つの戦艦が並んで航行なんてあり得ないでしょ」
「まぁ、そりゃ・・・」
アカツキの言うことにも一理ある。
ナデシコが目的なら遅かれ早かれ衝突するのは必死だ。それをナデシコに追いつくまで仲良しゴッコをする義理はどこにもない。
そして・・・
「許さん!俺のナナコさんを奪う輩は誰であろうと許さないぞ!!!」
月臣を止めることは誰にも出来そうになかった。
「ねぇパパ」
「ん、なんだ?」
「元ちゃんって強いの?」
「元ちゃん?」
アキトはその呼び方に慣れていないのか、すぐに誰か思い浮かばなかった。最近聞き慣れているケンがフォローする。
「月臣先輩のことですよ」
「・・・元ちゃんって、お前はあいつとどんな関係だったんだ?」
「妬いてるんだ♪」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「心配しないで。元ちゃんは下僕だから♪」
下僕って・・・
アキトとケンは顔を見合わせて苦笑する。
あれでも北辰に匹敵する武人だということを言うことが憚られるのであった。
「っていうか、何で僕も一緒に出撃しなければいけないかなぁ〜」
『向こうから二機の機動兵器を指定してきたんだから仕方がないでしょ!』
「ならエリナ君が乗れば?」
『アカツキ君!私に戦わせるつもり!!!』
「はいはい、わかりましたよ〜」
アルストロメリア・アカツキSPで宇宙空間に出撃したアカツキはダメ元でエリナに訴えてみたが、やはり無理なようだ。貧乏くじを引きまくりである。
「何を言っている、アカツキ!貴様は我々とナナコさんの間に立ちふさがろうとするあの巨悪に鉄槌を下さずになんとするつもりだ!」
「っていうか、ナナコさんって誰のこと?」
ペアで出撃しているアルストロメリアのパイロット月臣元一朗が一人張り切っているが、もちろんそれでテンションがあがるはずもない。
しかし、そんなやる気のないアカツキの表情もすぐに変わった。
謎の戦艦から決闘相手の機動兵器が現れたからだ。
しばし注視・・・
「アハハハ♪なんだ、あの機動兵器は♪♪♪」
「なんとも破廉恥な!」
アカツキはお腹を抱えながら笑い、月臣は憮然とした。
それもそのはず、敵の機動兵器は装甲がグロス塗装、金色のレリーフがふんだんに散りばめられ、肩には薔薇のペイントが少女漫画ばりに描かれている。
極めつけは背中の羽根でまるで宝塚のレビューに出て来るみたいだ。
機動兵器でベルサイユの薔薇をするみたいだと言われると納得するかもしれない。
「アハハハ♪わ、笑いすぎて、し、死ぬ〜♪」
『コラ!いい加減に笑うのをやめなさい!』
笑い転げるアカツキのコックピットに怒鳴り込むようにウインドウが開いた。
「アハハハ♪〜って、君、シャロンくんかい?」
『あ、アカツキ・ナガレ!』
意外に二人は顔見知りらしい。
「いやぁ、クリムソンのさげまん姫がそんな愉快なモノに乗っているなんて♪」
『誰がさげまん姫よ!この大関スケコマシ』
「スケコマシは酷いなぁ〜僕はどんな女性にもいつも一生懸命だよ」
『嘘つくんじゃないわよ!』
「嘘じゃないさ。あの時の僕の言葉に偽りはないよ」
『その舌の根も渇かないうちに他の女を口説いていたくせに!!!』
「だって君に振られたし」
『駆け引きってモノがあるでしょ!』
と、そこまで言ってシャロンは凍り付いた。
いつの間にか多くのウインドウが自分たちの痴話喧嘩を意味深な顔で眺めていたからだ。
なるほど、大人の関係ですか・・・そう全員の表情が物語っていた。
『ち、違うわよ!誰もこんなスケコマシなんかタイプじゃないのよ!』
「その割には君の方から積極的に迫ってくれなかったっけ?」
『あ、あれはネルガルの情報を手に入れるために・・・ってまさか、あなたわかってて私をからかっていたの!?』
「アハハハ♪シャロンくんは弄りがいがあるなぁ〜♪」
あ・・・なんか、その時の光景がみんなの脳裏にありありと浮かぶ。
シャロンのウインドウがアカツキの顔に何度もぶつかるように飛び回ったが、痛くもかゆくもないので本人は腹を抱えて笑い続けた。
『け、決闘よ!』
「あれ?からかい過ぎちゃったかな〜」
結果的にアカツキはシャロンをやる気にしてしまった。
さて、もう一組の方はどうなっているのであろうか?
『また元一朗兄さまですの?』
「サクラ、また貴様か」
『妾のお姉さまをまだ追い回しているのですか!』
「ナナコさんがいつお前のモノになった!」
『元一朗兄さまこそ懲りない方ですね。何度やられたら気が済むのですか?』
「貴様にやられたことはない。やられたのは全てナナコさんにだ!」
『まったく、不潔きわまりない男がお姉さまのお尻を追いかけているなんて考えただけで虫酸が走りますわ』
「男女の営みこそ正常かつ正統!女性同士こそ不純きわまりない!」
『現代はじぇんだーふりーの時代ですわ。そんな時代錯誤な発言をなさるなんてお兄さまも古い人種ですのね』
「男女の営みにジェンダーフリーなど関係があるか!
第一、女性同士で子を成せると思っているのか!」
「妾の愛の力があれば問題ありませんわ!
毎日毎日お百度を踏めばきっとコウノトリ様が妾とお姉さまに玉のような可愛いおややを授けてくれますわ!」
「コウノトリはとっくに絶滅しているぞ!」
「そんなバカなですわ!」
と、言い争いはヒートアップし、そして・・・
『ここであったが百年目、決着をつけるしかないですわね』
「そのようだな」
二人の間にも熱い火花が飛び散っていた。
「剣術使いと対峙してしまった場合、逃げるのが得策だが・・・」
「それは却下。私は剣術使いに無手で勝ちたいの」
「言うと思った。で、剣術使いを相手にする場合、一番大事なのは相手の獲物が何かを見極めることだ」
「獲物って剣のこと?」
「ああ、獲物の大小で攻撃のスピードや技の軌跡が大幅に変わる。例えばナイフならこう・・・」
ヒュン!
アキトは手に持っていたナイフを繰り出す。素早く、あっという間にシオンの鼻先にナイフが到着する。どちらかといえば無拍子に近いリズムで繰り出され、捕まえどころがない。
「それに対して日本刀だと・・・」
ブン!
今度は刀を取り出して振りかぶる。
その斬撃は速いのだがナイフとは異なる軌跡を描く。
一連の型があり、一定の動きをするし、どうしても二拍子以上の技になる。
「ナイフには相手の動きに瞬時に反応しなければいけないが、剣との戦いは相手の構えからどんな技が繰り出されるかを予測しなければならない。
そして一番大事なのは・・・」
アキトはシオンに剣を渡して自分に向かって振れという。
じゃ・・・と言いながらシオンは剣を振りかぶった。
ブン!
かなり狙って振るったのだが、アキトはあっさりとかわした。
「あれ?結構本気で振るったのに・・・」
「なぜだかわかるか?」
「ううん」
「呼吸だよ」
「呼吸?」
シオンにはまだ相手の呼吸を読む事の意味がわかっていないようであった。
黄薔薇の騎士像(注:黄色く塗ったサクラの赤光)は機体の身長を倍するかと思われるほどの長剣を携えていた。
対するアルストロメリアは両腕のクローを展開していた。
「笑止。そのような長剣で俺の動きを捉えられるものか」
「元一朗兄さまこそ、無手で妾の間合いに入れるとお思いか」
「造作もない。お前の父、北辰ならいざ知らず」
「あら。いつまでも妾が父上に及ばないなどと思ってもらっては困りますわ」
二機の機動兵器の間にはあるはずのない火花がバチバチと散っている錯覚すら覚える。
対するもう一組の決闘チームはというと・・・
「ねぇねぇ、こんな無粋なことなんかしないでどこか夜景のきれいなレストランで食事しない?」
「夜景ならここに腐るほどあるわよ」
「んじゃんじゃ、ホテルのプールで優雅に泳ぐなんてどう?ロベリアに大きいのを作ってるんだ♪」
「水着を持ってきてないわ!」
「貸してあげるよ♪
ワンピースからビキニまで取りそろえは一流デバート並だよ♪」
「あなたは戦艦に何を載せているのよ!」
紅薔薇の騎士像とアルストロメリアSPとの間にも火花が飛び散っていた。かなり不純な動機の火花であるが。
それを見ていたエリナが『あのスケコマシが!』と毒づいたらしい。
それはともかく、そんな緊迫感の漂う中・・・
「おい、サクラ」
「なんですか?」
「この周りを飛んでいる機動兵器はなんだ?2対2の決闘じゃなかったのか!」
『あ、私達のことは気にしないで下さい♪』
彼らの周りを飛ぶのは6機の機動兵器。
仰々しくカメラの様な物体を抱えた白眉である。その内の1機、かえで機に便乗していたアクアがお邪魔しますわ♪と会釈した。
『私達、勝手に撮影していますから♪』
「撮影って・・・」
『どうせ後で私達は背景に塗りつぶしちゃいますから、最初からいないものとして心置きなく戦って下さい♪』
「いや、心置きなくって・・・」
「元一朗兄さまの無様な姿が活動写真になるだけのことですわ!」
その言葉を合い言葉に黄薔薇の騎士像ことサクラの赤光は佩刀である長剣を振りかぶってアルストロメリアに襲いかかった。
ブウォォォォン!
「く!」
「ほらほら、下手に受けようとしてもその機体ごと叩き伏せますえ♪」
「相変わらず間合いの読めない奴だな。父親譲りか」
「父上みたいなんて言わない下さい。虫酸が走りますわ!!!」
無重力空間では重さを感じないとはいえ、重質量物を高速で振り回すのはマニュピレータにかなりの負荷がかかり、赤光のフレームでも厳しいはずだ。
何より振り回した後の制動が難しいはずである。空振りしたらその反動で姿勢を崩しかねない。そこが無重力のやっかいなところだ。
しかし彼女はそこに傀儡舞を加えることで独特の動きを実現している。
ブウォン!ブウォン!ブウォン!
「ふ、こんなでたらめな動き、考えながらやれるはずはない。
さすがに反射神経だけで生きている女」
「反射神経だけで生きているってどういう意味ですか!」
「何もないところで転ける」
「うぐぅ!」
「犬に手を噛まれる」
「はわわわわ〜」
「もらったバイト代をすぐに落とす」
「ほえぇぇぇ〜」
「雀の罠に引っかかる。
これが反射神経だけで生きてなくてなんだというのだ!」
「妾の場合は単に不幸なだけですわ!」
と、言い争いを続けながら戦う二人に対して・・・
『いや、単なるドジなだけじゃないんですか?』
と周りの人達は思うが、当人達は反射神経と不幸と言い張っていた。
さて、もう一組の決闘者はこれまたおかしな戦いをしていた。
「この待ちなさい!」
「デートをしてくれたら待っても良いよ♪」
「ふざけるんじゃないわよ!
刀の錆にしてあげるからそこに直りなさい!」
「新宮寺サクラ君だっけ?
君、彼女に似てきてないかな?」
「に、似てないわよ!あんな脳味噌スポンジな娘と一緒にしないで!」
『シャロン様、酷いですわ!』
「しかし、クリムゾンのお嬢様にしては良い動きをしてねぇ」
「不本意だけど脳味噌スポンジ娘の手ほどきを受けてるからよ!」
紅薔薇の騎士像はレイピアの様な剣をアルストロメリアSPに向かって振りかぶっていた。その動きはなかなか様になっていた。日頃の特訓の成果か?
それにしても・・・
『はい、シャロンちゃん〜♪そこで決めポーズよ♪』
『アクア様、こちらの角度も抑えておきますか?』
『あ、お願い♪』
『月臣様とサクラ姉さまの方はどうしますか?』
『あ、適当に撮っておいて♪』
『は〜い♪』
戦闘しているのに外野からは騒がしい話し声が聞こえる。
「しかしさぁ〜この周りを飛び回っている機動兵器、気にならない?」
「周りの機動兵器って・・・あなた達、何をしてるの!」
頭に血が上っていてアカツキの指摘でようやく気づいたのか、シャロンは周りを飛び回っている6機の白眉に怒鳴った。
それもそのはず、白眉たちはカメラを回しながらシャロン達の戦いを撮影していたからだ。周りからひっそり撮るだけならまだしも、時には対峙する二人の間に割り込んだり、ローアングルや俯瞰から彼らを撮っていたのだ。
しかも6機もである。
鬱陶しいことこの上ない。
「だぁぁぁぁぁ!鬱陶しい!!!」
『ダメよ、シャロンちゃん。もう少し優雅に見栄を切ってくれないと』
「出来るか!」
相変わらずベストショットを撮ろうと目の前を蠅のように飛び回る白眉をレイピアを振り回して追い払おうとするシャロン。
戸惑っているのはシャロンだけではない。
「サクラ、お前は一体どんな雇い主に仕えているのだ?」
「いえ、そ、それは・・・」
「人のことは言えないが、もう少し雇い主を選んだ方がいいぞ。
まぁ選んでいたらそこまで人生負け組街道まっしぐらじゃなかったと思うが・・・」
「元一朗兄さま、それは言わないで下さい・・・」
などと本人達が嘆いているそばをお構いなしに白眉は飛び回る。
『アクア様〜この角度だとかえでちゃんの白眉が映りこんじゃいますけど、この角度も撮っておきますか?』
『撮っておいて〜後でCG加工して消しちゃうから〜
本物のボケはCGじゃ作れないのよね〜♪』
『わかりました〜サクラ姉さまが転けるところをばっちりと撮りますから♪』
「どういう意味ですか!」
などと戦っている当人達の苛立ちを気にすることなくマイペースで撮影していた。
まぁ、あの人達に何を言っても無駄なのでサクラ達は無視して戦うことにした。
「元一朗兄さま、真っ二つにして差し上げますわ!」
「そんな大振りなど当たるものか!易々と懐に潜り込めるわ!」
ブンブンとサクラが振り回す長剣をかいくぐって月臣が肉薄する。
しかし、
「あ!」
「なに!?」
サクラの黄薔薇の騎士像(くどいが黄色く塗った赤光)は何かに蹴躓いた。宇宙空間なのに何故か蹴躓いた。それが月臣の読みを崩した。
ガキィン!
転んだ拍子に繰り出された長剣にアルストロメリアのクローを切り飛ばされる。
「サクラが俺の呼吸を外すなんて・・・成長したな!」
「なんだかわかりませんが・・・ざっとこんなものですわ!」
偶然の結果のはずだがサクラはどさまぎで胸を張って威張る。
『サクラ姉さまって絶対運の全てを戦闘だけに使い切ってるよね』
『普段ドジだったり運がなかったりするのってそういうこと?』
『だよねぇ〜』
今明かされるサクラの不運の秘密!(笑)
「基本的に人は呼吸を中心に動いている。
息を吸うとき、吐くとき、そのタイミングで動き始め、節目の動きを行う」
「え?そうなの?」
「そうだ。だからそのタイミングを如何に悟られないようにするか。
呼吸していないタイミングでも動けるようにするかだな」
「つまり腹式呼吸をしろって事?」
「いや、微妙に違うんだが・・・」
今一つ理解していないシオンにアキトは苦笑するのであった。
さて、そんな会話が彼らの遙か前方で行われている頃、こちらでも激戦は1時間ほど続いていた。
「待ちなさい、アカツキ・ナガレ!」
「デートしてくれたら待ってあげる♪」
「ふざけないで!」
「ふざけてないさ。僕はその時々の恋に一生懸命だよ」
「この女の敵!!!」
シャロンはムキになってアカツキを追い回す。
しかしアカツキが本気で相手をしていないからか、なかなか決着がつかない。
外野からはそんなアカツキにブーイングを飛ばす者でいっぱいだった。特にエリナなどは真剣にこのままアカツキを倒して欲しそうな、倒してもらってはナデシコを追いかけられなくなるから困るような複雑な表情をしていた。
そしてもう一組の決闘者達はというと・・・
「サクラ、なかなかやるようになったな・・・」
「そういう元一朗兄さまこそ、いい加減に年なのですからさっさと刀の錆になられたらどうですか」
「まだまだ青二才に負けるわけにいかないな」
「もう元一朗兄さまの時代じゃありませんわよ」
「何を言う。ナナコさんを貴様に渡すわけにはいなかい」
「お姉さまの妹にして頂くのは妾の方ですわ!」
「貴様のような破廉恥娘に負けるようであれば月臣家末代までの恥!」
「妾こそ、父上以上の色情魔になど死んでも負けられませんわ!」
どちらも決め手に欠けるのか、膠着状態に陥っていた。
各戦艦のクルー達は最初こそハラハラしながら観戦していたが、決着が付かない状態が1時間も続けば飽きてくるものだ。
これがサッカーかマラソンならそれなりに楽しめるのだろうが残念ならが馬鹿馬鹿しい気持ちの方が先にきて早く終わって欲しい雰囲気に変わっていた。
さて、こんな光景に終止符を打ったのは戦っている当人達ではなかった。
『みんな〜そろそろ撮影し終えた?』
『アクア様、こちらはバッチリです』
『こちらも良い絵が撮れました♪』
『サクラ姉さまのドジなシーンが満載♪』
『シャロン様の凛々しい姿もバッチリです♪』
『こちらもバッチリです』
『みんなOKで〜す♪』
『じゃ、そろそろ撮影大会は終わりにしましょうか♪』
『は〜い♪』
目的を果たして満足したのか、アクア達は撮影の・・・もとい決闘の終了を宣言した。
驚いたのは今まで戦っていた当人達である。
「終わりって何の事だ?」
「アクア様、妾と元一朗兄さまとの決着はまだ・・・」
『すみれちゃん〜準備いい?』
『OKですわ〜♪』
カメラを仕舞った白眉達は次々とOKサインを出していった。
『じゃ、ポチっと押させて頂きますわ♪』
アクアはどこからか取り出したどくろマークのボタンを何の躊躇いもなく押した。
『あ、そうだ〜シャロンちゃんもサクラちゃんもしっかり避けてね♪』
「何ですって!?」
「どういうことですか!!」
理由を聞こうとしたが、それは最後まで聞く必要はなかった。
決闘している空間を白眉が取り囲んでいた。そして白眉の手には巨大なロケットランチャーを抱えていた。
そしてそれは今まさに発射されたところであった。
目標はネルガルの戦艦ロベリアである。もちろん決闘している者達をも巻き込む。
「貴様!これは1対1の決闘ではなかったのか!」
「そうですわ、アクア様!これでは騙し討ちでは・・・」
『別にこだわるのは良いけど、もう発射しちゃったから♪』
悪びれた様子もなくアクアは無邪気に告げた。
「おいおい、何だってこんな事を!」
『だって爆発のシーンを撮りたかったんですもの♪』
「それだけの理由か!?」
『それだけですわ』
「一体何を考えているんだよ!」
『だって、本当の爆発シーンが撮りたかったんだもの〜
ドクロの煙付きよ♪』
「おいおい・・・」
アカツキの質問にアクアもあっさりと答えた。ある意味一番質が悪い。
『そんな問答している前にさっさとあのミサイルを叩き落としてよ!』
既にミサイルが大量に押し寄せている。半分泣きそうなエリナがパニック気味にアカツキらに通信を入れるのは無理ならぬ事であった。
さっきまでだるい決闘を退屈そうに眺めていたクルー達は一転した状況にパニックに陥っていた。
「対空砲火は!」
「やってますが全部を打ち落とせそうにありません!」
「ディストーションフィールド、出力最大!」
「出力50%です。100%まではあと150秒ほどかかります」
「遅い!何やってるのよ!」
「相転移エンジンの出力を落としていたもので・・・」
「第1種戦闘配備のはずでしょ!なんでこんな事になっているのよ!」
「いえ、あのだらけた決闘で気が緩んでいたらしく・・・」
エリナは指示を飛ばしながら、あまりにも悲惨な状況にクラクラしていた。
「クリムゾンのバカ娘、最初からこれを狙っていたの!?」
いや、単なる偶然でしょう。もしくは計算せずに相手を最悪の状態に追いつめる才能があるかもしれません。
「ともかく!アカツキ君に月臣君!
やってくるミサイルの迎撃をお願い!」
『でもこの数をふたりじゃとても・・・』
「言っている暇にやりなさい!
ロベリアが撃沈されたらあなた達も宇宙の藻屑よ!」
『わかったよ』
今はフィールドが耐えられるぐらいまで少しでもミサイルを減らすしかなかった。
二機のアルストロメリアは迫り来るミサイルを必死に落としていった。
しかし何より数が多いし、かなり至近距離から発射されたので間に合うか疑問だ。
「こらサクラ!貴様も手伝え!」
「え?妾がですか!?」
「貴様は父親のような腐れ外道の卑怯者なのか?」
「違いますわ!妾は卑怯者などではありませんわ!」
「ならだまし討ちをしておいて平気なのか!
それでも木連の武人か!」
「それは・・・」
月臣に諭され戸惑うサクラ。
「わ、わかりました。助太刀致しま・・・」
『サクラちゃん、ちょっぴりお仕置きね♪』
「え?」
改心しかけたサクラにアクアの爽やかでさりとて非常な宣告が下る。
『お仕置きだべぇ〜ですわ♪』
もう一つのどくろボタンを押す。
ポチっとな!
ちゅどーーーーーん!
サクラの赤光はピンクの煙を吐きながら爆発した。
『あ〜れ〜〜』
「サクラ!」
幸い、コックピットブロックだけは器用な事に無傷で爆発したらしい。
『シャロンちゃん、サクラちゃんを回収して帰投して♪』
「え?」
『まさか、シャロンちゃんまでネルガルさんに手を貸すなんてしないわよね♪』
「それは・・・」
確かにこの不意打ちは卑怯だと思う。
けれど画面の向こうに『シャロンちゃんの♪』とマジックで書かれたドクロのボタンがあればアクアの言うことに従うしかなかった。
この妹にだけは逆らってはいけない。
その日、シャロンは改めてそう思った。
放たれたミサイルの大部分は迎撃、あるいはディストーションフィールドに弾かれた。
しかし幾つかのミサイルはフィールドを突破してロベリアに激突した。
撃沈はしなかったものの、相転移エンジンの一つが大破してしまった。
核パルスエンジンは無事だったために生命維持とある程度の航行は可能であるが、とてもではないがこれ以上の長期航行は不可能になってしまった。
月面まで戻って修理を余儀なくされた。
「ナナコさ〜ん!」
「忌々しい!なんなの、クリムゾンの娘は!」
遠ざかるクリムゾンの巡洋艦ハルシオンを眺めながら、月臣とエリナが地団駄を踏みながら悔しがった。
「これで痴話喧嘩に巻き込まれなくて済むねぇ」
「なんですって、アカツキ君!」
「アカツキ、天誅!」
ドゲシィィィ!
エリナと月臣から真空飛び膝蹴りを食らうアカツキであったが、彼の発言は二人の色恋沙汰に付き合わされている大多数のクルーの本音であった。
新プラント争奪レース・・・ネルガルチーム脱落
ということでナデシコNG第15話をお届けしました。
長くかかった割に何だかなぁ〜(汗)
それはともかくアクアは趣味を地でいったら他人に迷惑かけまくりという、ユリカよりも極悪なキャラになった気がする。TV版でもその気はありましたが、まぁこのくらい破天荒な方が彼女らしい気もします。
とりあえずレースらしきモノになりつつあるかなぁという気もしますが、あんまりこればっかりやりすぎてもダラダラ長くなるのでもう一箇所はアズマとフクベの対決ぐらいを書いたらさっさと火星に場面を移そうかと思っております。
ということでおもしろかったなら感想をお願いします。
では!
Special Thanks!!
・龍崎海 様
・戸豚 様
・kakikaki 様