船は出て行く、汽笛は残る。
各国の皆さんは一路、新プラントへ出航しました。
とりあえず戦闘だけはなしというルールの下にレースは繰り広げられるわけですが、嫌がらせや妨害はアリだったりして、一波乱起きそうです。
それはともかく、目下トップのナデシコC。
シオンちゃんは裏技満載で自信満々だけど・・・本当にこのまま順風満帆に行くのでしょうか?それは神様のみの思し召し・・・
ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜
ナデシコCの食堂は繁盛していた。
「えっとオーダー入ります♪
ラーメン、ラーメン定食、海老フライ定食、ニラレバ、チャーハン、チンジャオロース、タンメン、チャーシューメン、ハンバーグ定食、お子様ランチお願いします〜」
うおぉぉぉぉ♪
ラピが膨大なオーダーを一品も間違えずに読み上げるのをその場に居合わせたクルーたちが拍手した。まぁラピはAIなので出来て当たり前だったりするのだが。
ラピがメイド姿でウエイトレスしているのがすごく似合っている。
そして厨房内では二人のコックが押し寄せるオーダーをこなしていた。
「チャーハンあがったぞ」
「はい♪」
一人は黒いスーツに黒いバイザーに白いエプロンが似合っているというか、アンマッチというか、手慣れた手つきでどんどん料理を作り上げていく。
チーフシェフの帽子をかぶっている彼の名前はテンカワ・アキトという。
しかし、彼の料理の腕がいくら一流とはいえ、その怪しげな姿ではとてもお客はやってきてくれない。
そしていくらメイド服姿のウエイトレスがいてもしかりである。
この食堂が繁盛しているのはひとえにこの少女のおかげである。
「はい、ラーメンあがったわよ♪」
「「「「「おおおお♪♪♪♪」」」」」
出来上がりの声がするだけで歓声が沸き上がる。
セカンドシェフにしてこの食堂の看板娘テンカワ・シオン嬢である。
チーフシェフの近寄り難さからすれば、明朗活発と健康的なお色気は男子クルーのみならず女性クルーをも虜にしていた。
そんなわけで彼女の声聞きたさに食堂に通い詰めるクルーも少なくない。
「腕はまだまだだけどな」
「パパったらそんな言い方ないじゃない!」
ぶ〜〜〜!
外野もブーイングを入れる。
けれどこれは二人のスキンシップだとわかっていて外野も冷やかしている。
それは二人が手を止めずに口げんかしている事からもわかる。
二人は次々とオーダーをこなしていった。
シオンの動きは若者らしく派手でスピーディーだ。人目を引くと言っても良い。
対するアキトは相変わらずマイペースだ。ゆっくり料理をしているようにも見える。
でもシオンと同じ料理をさせると確実にアキトの方が作り上げるのは速い。
シオンも頑張って追いつこうとするのだが、それでも負ける。
たまにアキトに「雑だ」と言われてシオンは渋々元のスピードに戻す。
料理をしながらシオンはアキトの手つきを盗み見る。
アキトの動きは迷いがない。
一つ一つの動きはそれほど速くないのに、その間の動きに全く迷いがないのだ。
次に何をしようかと考えるまもなく手が動いているみたい。
うわぁ〜すごいとシオンは思う。
作りなれたラーメンやチャーハンなどの中華ならともかく、多種多様な料理とそれに合う調味料の量をほとんど迷いもなくつかみ取っては鍋に放り込む。
これだけの動きをするためにその裏でどれだけの料理を作ったのだろう?
以前火星の後継者達に捕まって味覚がなくなっていたという話を聞く。治ったのは最近という事だから結構なブランクがあったはずなのにそれを感じさせない。
やはり料理が出来ない間も地道に料理の修行をしていたのだろうか?
同じ土俵に立ってみて初めてわかる。
父親の偉大さ。
シオンはやっぱりパパが好きだった。
うおぉぉぉぉ♪
野太い歓声が沸き上がる。
「平和だねぇ〜」
「ええ、火星までとりあえずトラブルもなさそうですし」
ジュンとケンはこの光景を肯定して良いのか悪いのか溜息混じりで悩むのであった。
さてさて、新プラント争奪レースの予想順位下位クラスにランキングする戦艦が月面のアルテミスPゲートに到着した。
もちろん、我らがユリカ&ルリ&ラピスペアの乗艦する宇宙軍戦艦ライラックである。
「誰が予想順位下位ランクですか」
「新聞の予想では下の方」
「・・・圧力をかけて発禁にしましょうか」
「ルリちゃんってば(汗)」
戦艦からルリ達がブツブツ言いながら下りてくる。
ここで一旦国境審査を受けるためである。
「アララギさん、ゲートの手続き早く済ませて下さいね」
「そう思うならミスマル少将も来て下さいよ」
「アララギさん、私はもう退役してるんですよ」
「そういっても星空の女神と電子の妖精の威光はまだまだ健在ですからね」
「ルリちゃんはともかく、私ってそんなに恥ずかしい通り名が付いていたんですか?」
「私はともかくってどういう意味ですか!」
「良かった、変な通り名が付いてなくて」
「どういう意味ですか、ラピス!」
まぁ、電子の妖精が恥ずかしいかはともかく、ユリカとルリの二人の名前はまだまだ関係者の間では尊敬と畏怖と嘲笑の象徴となっている。
「嘲笑って何ですか、嘲笑って!」
「まぁまぁルリちゃん、地の文に突っ込まなくても(汗)」
「カルシウムが足りないんじゃない?煮干し食べる?」
ラピスは自分が食べている煮干しの袋を差し出すがルリは結構と振り払った。
険悪な雰囲気を察してアララギはさっさとゲートの手続きをするために立ち去った。
「大体、それもこれも・・・」
他人のせいにしようと辺りを見回すルリ。
そこで目に留まったのはどこかで見た戦艦。
「ユリカさん、あれ何に見えます?」
「え?何?」
「あそこに見える戦艦ですよ」
ルリの指さす先にはゲートの順番待ちで出航を待っている戦艦の群があった。
しかしその中で一隻、異彩を放つ戦艦が係留されていた。
ハンガーに吊される戦艦というのもそうそうないだろう。
まるで物干し竿のように細長い船体はそうそう忘れるモノじゃない。
「なんかユーチャリスみたいだね」
「ユーチャリスみたいでしょ?」
「あれはユーチャリスじゃない」
「知ってるの?ラピスちゃん」
「だって私のユーチャリスはあんな変なアンテナ付いてないし」
さすがはユーチャリスと苦楽を友にしたラピスなだけはある。
ユーチャリスのことに関しては誰よりも熟知していた。
「大体、ブラックサレナと共にユーチャリスを封印したのはユリカさんじゃないですか」
「あ、そうだっけ(汗)」
「ユリカ、脳味噌溶けてきてる」
「でもどこか見たことあるんだけどなぁ〜あの船・・・」
ユーチャリスにそっくりだけど微妙に違いがある。
しかもその微妙な違いにも見覚えがある。
それもそのはず、確かユーチャリス級二番艦、名前は確か・・・
「あれ?ユリカ君にルリ君じゃないか♪」
「あ、あなた達、何でこんな所にいるの!?」
「アカツキさんにエリナさん!?」
お互いがお互いを指さしてココに存在することを驚きあった。
ユリカやルリの前に現れたのはネルガル会長のアカツキ・ナガレとその秘書・・・もとい、取締役の一人エリナ・キンジョウ・ウォンであった。
思わず喉元まで思い出していた艦名をど忘れしてしまった。
「なぜエリナさんが・・・いえ、ネルガルがここに?」
「それは私達が聞きたいよ。宇宙軍&管理公団が何故月面に?」
「私達はもちろん新プラントに行くためですよ。ニュース見てないんですか?」
「それを言うなら私達も一緒よ。ニュース見てないの?」
ルリの皮肉混じりの探りにエリナはムッとして答える。
「ちゃんと見てますよ。でも予想順位の下位チームまではさすがに見てませんから」
「なるほど、道理で管理公団の名前が見つからないわけね」
「どういう意味ですか?」
「聞き直すなんて頭が悪くなったんじゃないの?」
「アハハハ・・・」
「フフフフ・・・」
バチバチバチ!!!
辺りの空気が一気に凍りつき、二人の間に火花が盛大に飛び散った。
「あわわわ〜ルリちゃんもエリナさんも落ち着いて〜」
「まぁ放っておけば?」
「だね。巻き込まれて被害を受けるのも馬鹿馬鹿しいし」
「そんなこと言わないでラピスちゃんもアカツキさんも止めてよ〜」
「まむしとマングースの対決は誰にも止められないよ」
「まむしじゃなくてハブ」
「あ、そうだった。ラピスちゃんありがとう」
「どういたしまして」
「だからそんな呑気なこと言わずに止めてよ〜」
ルリとエリナの睨み合いをなま暖かく見守るラピスとアカツキ。
ユリカだけがオロオロしていた。
「なるほど、道理でユーチャリス級二番艦ロベリアがこんな所にあるかわかりました」
「何がわかったって言うの?」
「ネルガルも新プラントに向かうつもりですね」
「悪い?」
「悪くありませんけど・・・どうして月から向かうんですか?」
「そういうあなた達だって」
ルリとエリナは冷静だった。
冷静に腹の探り合いをしている。
「私達は単にロベリアの母港がここだから艦を取りに来ただけよ。
そういうあなた達こそ、何でわざわざ月面に」
「私達は他のゲートが混雑していたから迂回してきただけですよ」
「にしても、アルテミスPゲートはどちらかというと火星方面用のゲートよ。
木星に行くなら反対側のアポロPゲートだけど」
エリナは嫌みっぽく言う。
確かにアルテミスPゲートには木連の出先機関がない。入国手続きをするならやはりアポロPゲートに向かうべきだろう。
「向こうは混んでいたんですよ」
「混んでたってこっちにいても仕方がないでしょう」
「そんなことありませんよ」
「あら、どうして?」
「ロベリアがこっちにあるからですよ」
「どういうことかしら」
「それはエリナさんが知ってらっしゃるんじゃないですか?」
「あら、何の事かしら」
「ホホホホホ♪」
「ウフフフフ♪」
互いの胸の内を探り合いながらも、決して自分から手の内を明かさない。
まさにまむしとマングース・・・もといハブとマングースの睨み合いであった。
しかしここにその全てをぶち壊す男が飛び込んでくる。
「おい、アカツキ!ウォン!早くナデシコを追いかけるぞ!」
大声を上げて駆け寄ってきたのは月臣元一朗であった。
「月臣さん、どうして?」
「ったく、このバカ・・・」
エリナは気まずそうに舌打ちをする。
「エリナさん達って・・・新プラントじゃなくナデシコを追いかけるんですか?」
「まぁエリナ君と月臣君に脅されて渋々ね」
「お互いに大変ですね」
「わかる?そう、大変なんだよ」
「ユリカにアカツキも他人事のように言わない」
そしてユリカ側にも目的地をばらす男が現れる。
「ルリさん、火星へのゲート使用許可が下りましたよ」
「あ、アララギさんまで・・・」
「へぇ〜あなた達は火星に行くんだ」
「な、何ですか、その含み笑いは・・・」
「別に〜」
「何が別になんですか!」
アララギ登場でルリ達の目的地も思いっきりバレてしまった。
「あの〜私、何かまずいことをしましたか?」
「いや、アララギのせいじゃない」
「そうですよねぇ〜手続きを早く済ませて下さいってお願いしたのは私達ですし」
動揺するアララギを慰めるラピスとユリカ。
さてさて、それでも続けるか、まむしとマングース、もとい狐と狸の化かし合い。
ここで腹を割って情報交換でもしあえば共闘の道もあったかも知れないが・・・
「さて番組をご覧の皆様、レポーターのメグミ・レイナードです♪
こちらではレース最下位のネルガルチームと管理公団&宇宙軍チームのクルーがバッタリ鉢合わせ状態にあります!」
『うげろぉ〜!』
誰もが心の中でそう呟いた。
寄りによって、TVカメラを引き連れたメグミがレポーターとなって彼らの周りをかぎまわっていたのだ。
「互いに挑発しているのでしょうか、険悪な雰囲気が辺りを包んでおります。
それではここで両者に直撃インタビューを敢行したいと思います!
あの、すみません♪お話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか♪」
朗らかな声でコメントを求められても困る一同であった。
さてさて、この普段なら誰も訪れない、辺鄙で広大な砂漠しか何もない地域を既に年間交通量の数十倍を越すかという人数が大艦隊で航行していた。
航行している艦隊は欧州同盟の新プラント探索チームのものであり、その周りを数隻の南アフリカ同盟の護衛艦が飛んでいた。
そして・・・その歩みは亀のごとくのろまであった。
「くうぉらぁぁぁぁ!
いつまでこのスピードで航行させるつもりだ!」
欧州同盟の艦隊司令官アズマ准将はイライラの限界に達したのか、本日3度目の怒鳴り声をあげた。
『はぁ?なんと申されましたかな。
最近耳が遠くてのぉ』
スクリーンの向こうの相手側責任者は思わず聞き返した。
「聞こえてないわけないだろう!」
『はぁ?いや、肥えてないぞ』
「白を切る気か!」
『はぁ、吉良を切りなさるか、忠臣蔵じゃのぉ』
「ふざけるつもりか?」
『ザケルか、ワシはザケルガの方が好きじゃのぉ』
「何の話をしてるんだ!!!」
アズマ准将は相手のボケにいちいち反応して激昂する。
完全に相手のペースだ。
『いやぁ、何を怒られておるのかわからんが、すまんのぉ。
いやはや、年は取りたくないものじゃ。
最近もうろくしてかなわん』
相手は老人、しかもかなりの高齢だ。普段のアズマならそんなことお構いなしなのだが、本気で怒鳴ったら心臓麻痺でショック死してしまいかねない。
しかも、相手はそれなりに著名人である。
いや、いわゆる英雄と呼ばれている人物であり、アズマ准将も一目置いている。
軍人なら誰でもその名前を知っており、ひとかどの尊敬の念を抱いているものだ。
そう、相手が本当に火星会戦の英雄であれば・・・
ポロ〜ン♪ベンベケベンベケベンベケベンベケ♪
ウクレレを奏でる音が聞こえそうなほど、相手の老人はハワイアンな格好をしていた。
アロハシャツにサングラス、麦わら帽子に何故か飼い慣らしたバッタの上にあぐらをかいて乗っている。
『ああ、ナインティーンくんの事は気にせんでくれ。
こやつは足の衰えたワシの歩行器代わりになってくれておるのじゃ。
厳つい顔をして結構可愛いのじゃぞ』
「誰もそんなことを聞いとりゃせん!」
『ちなみにナインティーンくんの得意技は編み物じゃ!』
ピピィ!
バッタのナインティーンくんは片足をあげると挨拶をして編み棒と毛玉を取り出した。
ピピピピピピピピィ!
チャカチャカチャカと器用に編み棒を操って編み物を始めた。
その間、わずか20分間!
『すごいじゃろう、既にタートルネックのセーターまでマスターしたのじゃぞ。
ここまで出来るバッタは世界広しとはいえ、ナインティーンくんだけじゃ!』
20分待たせてそれかよ・・・とアズマは脱力する。
しかもオチを指摘しようとしたら老人自身が自分でオチをばらした。
『じゃが、南アフリカ・・・セーターのような防寒着が不要なのが残念じゃ』
ピピィ〜〜
ナインティーンくんも悲しそうな電子音を鳴らす。
「セーターなんかどうでもいいのだ、フクベ提督!」
『はて、フクベとは誰のことですかなぁ。ワシは越後のちりめん問屋の隠居で名は光右衛門と・・・』
「ボケ老人のフリはやめろと言っているのだ!
それよりも現状を報告しろ!」
ち、画面の向こうの老人ことフクベが舌打ちをする。
まぁボケ漫才だけで1時間近く粘れたので良しとしよう。
『いやぁ、すまんのぉ。我が国は予算不足でなぁ。
戦艦もどこかの国のお古しか買えんのじゃ』
そう、ボケ漫才のおかげですっかり忘れていると思うが、大艦隊は現在サハラ砂漠の上空を戦艦とは思えないスピードで横断中である。
もちろんそのノロノロなスピードは欧州同盟の戦艦が出しているわけではなく、その周りを飛んでいる護衛艦の最大船速に合わせているからである。
しかしいくらボロとはいえ、このスピードは遅すぎるだろう。
「いくらあの高名なフクベ提督だろうが、小官を愚弄するなら許さんぞ!」
そう、彼はかつて火星会戦緒戦にてチューリップを落とした英雄である。
もっとも英雄伝説など時の為政者の都合により作り出されていたりもするし、実際フクベの伝説も戦意高揚のために誇張されたものであった。
それを悔やんだ彼はナデシコの初代提督となって火星まで行き、そこに死に場所を求めたりもした。
その後、どこをどう生き残ったかはわからないけど、すっかりファンキーな性格になって戻ってきたことを多くの人は知らない。
まぁどこかでレッツゲキガンガーなどとやっている姿を知っていたら無理もないと思うだろうが、幸いなことにその事実を知る者はほんの一握りしかいない。
ほとんどの人は彼が火星会戦当時の英雄のままのイメージでいたが、その後のフクベがどこでどうしていたかはすっかり記憶の彼方に追いやられてしまっていた。
で、彼は今どうしているかというと南アフリカ同盟の提督をしていたりする。
提督といっても、貧乏所帯なのでこのようにたった数隻の艦隊司令である。まぁ平たく言えばリタイアした軍人の再就職先みたいなものである。
『ほほう〜許さないとするとどうするのかね?
本艦に砲撃して実力で排除するかね』
「な!」
『まぁその無駄に金がかかってそうな大艦隊に比べて我が艦はご覧の通りスピードも出ないボロだから、大砲の一発撃沈するじゃろうが』
「いや、それは・・・」
『とはいえ本艦は貴艦にそういう類のことをさせない目的で随行しているわけじゃから、まぁこれも仕事じゃと思ってのんびりやってくれ』
「やってくれじゃない!我々は先を急いでいるんだ!」
『石橋を叩いて渡れというじゃろ?』
「叩いて渡る必要などない!」
『三歩歩いて二歩下がるというじゃろ?』
「二歩下がる必要がどこにあるんだ!」
『急がば回れ』
「この砂漠でどこをまわる必要があるんだ!」
『細かい男じゃのぉ』
「ワシが細かいんじゃない!良いから早くパブリックゲートへ向かわせろ!!!」
『お主、うるさいぞ〜』
フクベはわざとらしく耳を押さえてアズマの怪音波をガードするフリをする。
内心ではさっさとゲートに行かせるわけないじゃないかと呟く。
実は南アフリカには木連の出先機関があるパブリックゲートが存在する。しかも砂漠のど真ん中にあり、商用利用はほとんどされていない。純粋に木連へ行くことのみに特化したゲートだからだ。砂漠のど真ん中という利便性の悪さから使用されることはほとんどまれである。
なぜこんな誰も使いそうにないものを作ったのか?
噂では木連内部の根強い反地球感情による強行派と地球圏と友好関係を推進すべきという友好派の綱行きがあったのかもしれない。
どこと直接ハブゲートで結ぶかというのも結構国策問題なのだ。
このゲートにはそういった政治的なドロドロした理由が全くなかったからこそ、安直に設置が決められたからかもしれない。大型ゲートを作ったという実績だけを残すことが理由なのだろう。
とはいえ、今回のようなケースに関してはゲートの範囲も大きいので大艦隊がジャンプするには絶好のポイントだ。
その点に目を付けた欧州同盟はさすがだと言える。
だが、目を付けられた方は大変迷惑だった。
このゲート、木連側から使用に関して交換条件が付けられていた。
南アフリカ以外の戦艦の使用は可能な限り遅らせること。
当然今回のレースに木連も南アフリカ同盟も参加している。南アフリカ同盟の参加は・・・まぁある程度は仕方がない。繰り出される戦艦も大した数にはならないだろう。
けれど通って欲しくない国はたくさんある。特に今回大艦隊を派遣してくる国などその最たるものだろう。
他国の有利は自国の不利益。
表だった拒絶も国際問題に発展するので、南アフリカはゲート使用の時間稼ぎを木連から押しつけられたというわけである。
『まったく、あと何日保つかのぉ・・・』
フクベは大音量のアズマの声を耳を塞ぎながらやり過ごすのであった。
そこは乙女の園、ローズ女学園。
代々名門、名家のお嬢様達が通うカトリック系の女学園である。
ここでは社交界や上流階級に通用する淑女達を育てるために設立された学園でもある。
全寮制で幼稚舎から大学院までエスカレータ制の一環教育を受けられ、誰でも子供の頃に入学すれば十数年後には立派な箱入り娘が出来上がるのである。
ここはそんな子羊達を純粋培養をしている。
そして今日も子羊達が学園に通ってくる。
彼女もそんな子羊の一人。
しかし彼女はその他大勢の子羊達に埋没するような没個性の持ち主ではない。
むしろ賞賛と憧れを一身に浴びていた。
彼女は子羊達から黄薔薇様と呼ばれていた。
そして彼女の後ろにはピッタリと寄り添うように子羊が付き従っていた。
その子羊もまた薔薇の妹と呼ばれていた。
彼女達は学園へ至る道を歩き続けるが、その途中で彼女達はその歩みを止める。
そこにはいつもの通りに渋滞が出来ていたが、子羊達は彼女が薔薇様とその妹であることに気が付くと進んで列を開けてくれた。
薔薇様達はその厚意に甘えてさっさと朝の恒例行事を済ますことにした。
彼女達は別にカトリック信者ではないのだが、それが学園の子羊達にとって既に習慣となっていた。
朝起きて顔を洗うのと同じ。
食事の前に手を合わせていただきますと言うのと同じ。
人と会ったら会釈して「ごきげんよう」と言うのと同じ。
ずっとずっと幼少の頃から繰り返してきた日常。
彼女達にとって、毎朝学園に通う途中で自分たちを見守っているその像にお祈りをするのはそれぐらい当たり前のことなのだ。
彼女達はその像に手を合わせて祈る。
今日一日の安寧を祈る。
ヒサゴン様、今日一日心安らかに暮らせますように・・・
手を合わせて黄薔薇様は祈るのであった。
「カットカットカット!」
「またカットですか?シャロン様」
「なんでそこでヒサゴン様なのよ!普通そこはマリア様でしょ!!!」
「ですが、目の前のこれはどう見てもヒサゴンですわ」
「誰がこんな所にヒサゴン人形を置いたのよ!」
「あ〜それ私〜♪」
周りの役者達はやれやれと演技をやめる。
ただいまこのシーンだけでテイク10だ。
何が気に入らないのかわからないが、やたらカットをかけまくる人が一人いるのだ。
「気に入らない?気に入るわけないじゃないの!
誰がヒサゴンなんかに真面目に手を合わせるのよ!」
「え〜〜味があるじゃない♪」
「味があるだけでヒサゴンなんか置くんじゃない!」
「え〜〜監督は私なのに〜〜」
「私は百合モノに出ることは渋々承諾してもお笑い映画に出る気は1ミリグラムもないのよ!!!」
「ひゃろんひゃん、くひくひ!」
シャロンはアクアの口を思いっきり引っ張る。
さっきからこんな事の繰り返しだ。
さてさて紹介が遅れたが、ここはクリムゾン製最新鋭の高速巡洋艦ハルシオン内に設けられた映画の撮影スタジオである。ハリウッドばりのセットを組み上げ、現在映画撮影の真っ最中である。
何故戦艦の中に撮影スタジオがあるのか・・・その問いはアクア・クリムゾンの私有戦艦に対して無意味であろう。彼女は自分の趣味のためなら何でもする女だ。
地球を出発して数日、ナデシコCを追うハルシオンにとってその道中は思いの外退屈なものであった。そんな余暇の時間を使ってお嬢様が考えついたのが撮影できる所から撮影してしまおうというモノであった。
シャロンはもちろん反対したが、既にレールに乗ってしまった以上、一人で反対してもそれは労力の無駄使いと悟ってしまった。ならばと、少しでも自分が出演して恥ずかしくない作品にしようと積極的に参加し始めた。
そんな感じでシャロンは今回も早速場違いな大道具に噛みついたのである。
「それでヒサゴン像はどういたしましょうか?
不要であれば一刀の元に切り捨ててしまいますが」
黄薔薇様役のサクラは佩刀である霊剣荒鷲を構えてヒサゴン人形に詰め寄る。
「切っちゃってちょうだい」
「え〜〜ダメだよシャロンちゃん〜〜」
「なんでよ!ここにはマリアさまでしょ!」
「でも〜〜ヒサゴン君、こんなに可愛いよ〜〜♪」
「可愛い?これが!?」
「ええ、とっても♪」
アクアはヒサゴンのつぶらな瞳を指さす。
シャロンはこんな漫画のキャラクターのどこが可愛いのだという顔でヒサゴンを眺める。
眺める・・・
眺める・・・
眺める・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「・・・まぁ仕方がないわねぇ。切るに忍びないし」
「でしょでしょ♪」
「え、切らないのですか?」
シャロンは真っ赤になって渋々頷いた。
どうやらヒサゴンの愛らしさにノックアウトしたらしい。
サクラだけが愛刀の切れ味を披露できなくて残念そうだった。
「まぁヒサゴンは良いとして」
「良いとして?」
「なんで黄薔薇の妹が6人もいるの!」
問題点その2を指摘するシャロン。
そう、サクラが黄薔薇様なのは良いとして、その妹が6人もいるのだ。
もちろん六人衆娘。達である。
「わぁい♪セーラー服♪」
「もみじさん、スカートは翻さないのがたしなみですわよ」
「セーラーカラーもね♪」
「すみれちゃんもつばきちゃんも結構通なのね♪」
「それがわかるかすみちゃんもね♪」
「わぁい♪アイリスはお嬢様♪」
「うめちゃん、少しは落ち着きなさい」
「かえでちゃん、うめって言わないでよ〜」
三人寄れば姦しい。それが育ち盛りのお子様六人なのだからうるさいったらありゃしない。
「だってシャロンちゃん、こんなに可愛い子が六人もいるのに出さない手はないわよ♪」
「何考えてるのよ!姉妹(スール)制度は姉が一人の妹を一対一で躾をするものでしょ!それが複数スールを作れるなら、ドリルと針金の両方を姉妹に出来ちゃうじゃない!そしたら読者から非難囂々よ!」
「え〜〜ダメなの〜〜」
「ダメに決まっているじゃない!」
シャロンはアクアのアイディアを否定する。
「シャロン様、結構細部までこだわってますねぇ」
「実はコスモス文庫読んでるんじゃないの?」
「しかも青い背表紙のやつよねぇ〜」
「本当は幸子様役をやりたかったんじゃないの?」
「いやいや、お姉さまロザリオを下さい♪って方に憧れてるんじゃないの?」
「シャロン様って結構ロマンティスト♪」
「カミングアウトできない隠れファンと見た!」
「だよねぇ〜苦手というよりもバレないように必死って感じよね♪」
「そこ!うるさいわよ!!!」
外野のお子様達のうるさいうわさ話に真っ赤になって怒鳴るシャロン。
なるほど、結構シャロンはその方面には詳しいらしい。
「妾も全巻持ってますが、お貸ししましょうか?」
「いらん!」
「コスモス連載当時のバックナンバーもありますわよ」
「え?」
「挿し絵が単行本と違いますよ」
サクラの差し出す月刊コスモスを見て手が出そうになるシャロン。
それを見ていた一同は『すごく分かり易い性格・・・』と呟いた。
「それはいいとして」
「あ、さらりと流すフリをしている」
「だ!か!ら!それはいいとして!」
「はい・・・」
「やっぱり妹6人は多すぎるわよ」
「じゃ妹を12人にする?」
「増やすな!それじゃ全く別の作品でしょ!」
シャロンは怒るのは無理もない。
可愛いだけで妹を増やしていったら絵的にも入りきらないし、お話もガヤが多すぎてなかなか進まないだろう。第一ストーリーがぼやける危険性もある。
「だからこいつらから妹を選ぶとしたら誰か一人にしなさい」
「え〜〜一人にするのぉ〜〜」
「妾は別にどちらでも構いませんが」
「私達もどちらでも構いませんが・・・」
「構わないけど、なんかむかつく言い方」
「こいつ呼ばわりだもんねぇ」
まぁ意見はいろいろだけど六人衆娘。の中から妹候補を一人選ぶことになった。
「って事で『第1回黄薔薇の妹は誰だ!ロザリオ投げ大会』♪」
「だからどうしてそうなる!」
「だって黄薔薇と言えば革命。革命といえばロザリオ返し♪
如何にロザリオをお姉さまに返すのが上手いかを競うの♪」
「何故競う!?」
「華麗に革命を決めるの♪もちろん映画でも名場面の一つになるのよ♪」
「聞いてないし・・・」
「どうして妾が張り付けられているのですか!!!」
勝手に話を進めるアクアにシャロンもお手上げだ。まぁ自分が今回の被害者にならなかったので安心したのか、それ以上深く突っ込むのはやめにした。
可哀想なのはサクラである。
彼女の妹分達が腕をぶんぶん回してウォーミングアップしている前で十字架に張り付けにされているのだから。
「え〜〜妹の皆さん、各自ロザリオを持っていただけてますか♪」
「「「「「「は〜い♪」」」」」」
「ではそれぞれ決めゼリフを言いながらサクラさんにロザリオを投げつけて下さい♪
一番面白かった人が黄薔薇の妹になれます〜♪」
「「「「「「わかりました〜♪」」」」」」
「やめてたもれ〜〜!」
泣きながら嫌々するサクラだが、彼女の妹分達はピュキーン!って感じで目を爛々と光らせていた。
「シャロン様〜〜面白いという基準で妹を選ぶのはおかしいですわよね!
ね!」
「いやぁ〜〜もうどうでも良いわ、っていうか私にさえ火の粉が飛んでこなければ良いし」
「あなたのこだわりはその程度ですか!」
「ええ、その程度です」
「そんな〜」
唯一の良識派シャロンにすら見捨てられるサクラ。
「じゃ、全員一致ということで、エントリーナンバー1番すみれちゃん」
「では行きますわ」
「やめて〜」
「すぅ〜〜〜〜
お姉さまの甲斐性なし、貧乏!!!」
バシィ!!!
「はうぅ〜〜」
「エントリーナンバー2番かえでちゃん」
「お姉さまの方向音痴!!!」
ビシィ!!!
「グサァ!」
「エントリーナンバー3番つばきちゃん」
「お姉さま、最近北辰様に似てきましたわよ!!!」
カキィン!!!
「はぐぅ〜!」
「エントリーナンバー4番かすみちゃん」
「お姉さまにはギンナン王子の元一朗様がお似合いよ!!!」
ザックリ!!
「いやぁ〜!」
「エントリーナンバー5番もみじちゃん」
「サクラちゃん、実はファーストキスはまだ♪」
グリグリ!!!
「いやぁ〜!」
「エントリーナンバー6番うめちゃん」
「サクラちゃんのへたれ♪」
ズンバラリン!!!
「ウルウルウル〜〜」
サクラ号泣(笑)
「あ〜泣き出したか〜〜まぁ泣くわよねぇ。
で、誰が一番良かったの?」
「えっとねぇ〜〜うんとねぇ〜〜」
シャロンはコンテストの結果をアクアに尋ねたが、アクアはしばらく悩んだあげく・・・
「よくわからなかったからもう一度やりましょうかぁ〜♪」
「「「「「は〜い♪」」」」」
「そ、そんなぁ〜〜」
「哀れね・・・」
という事で引き続き『第2回黄薔薇の妹は誰だ!ロザリオ投げ大会』が開催されるのであった。
今日も一日の仕事が終わった。
一日の労働の汗を流すのはごく自然な日々の営みであろう。
だがそれが少々問題となるケースがここにあった。
「おい」
「な〜に♪」
「俺が今から何をしようとしているかわかってるか?」
「そりゃ、もちろん♪」
「そうだろう、そうだろう。バスタオルを持ってマラソンに行くバカはいない」
「何当たり前な事を言ってるのよ」
アキトは一つ一つ確かめるように娘シオンに尋ねていく。
「もちろん、この格好は風呂に入ろうとしている」
「見ればわかるわよ」
「で、この部屋のユニットバスは一つしかない。
そして俺はそこに入ろうとしている・・・
ここまでは理解出来るな?」
「私、子供じゃないんだからそのぐらいわかるわよ」
「じゃ、お前もバスタオルを持って何のつもりだ?」
「何って、背中を流してあげようかと♪」
これから個室に備え付けのバスルームに入ろうとするアキトの後ろをヒヨコの様に引っ付いてくる娘の姿がそこにあった。しかも手にはきっちりと入浴セット(バスタオル、洗面器、石けん、リンスinシャンプーetc.)を持っていた。
「いらん」
「うわぁ速攻拒否ですか。もう少し恥じらうとか悩むとかそういう逡巡とかないですかねぇ〜」
「お前なぁ〜〜」
「可愛い娘との一緒のお風呂ですよ。世のお父さん方は大きな娘と一緒にお風呂に入ろうと言おうものなら変態扱いされ、下着類は分けて洗ってと毛嫌いされる今日この頃、一緒に入ってくれるなんて奇跡に近いよ」
「嬉しくもなんともない」
必死にシオンが誘うが、アキトは取り合わない。シオンはおもしろ半分に食い下がる。
「んじゃ、恥ずかしいのかな?こんな可愛い女の子と一緒にはいるのが♪」
「あほ」
「それともパパって奥手?女の子の裸は苦手?」
「いや見慣れてるから」
「見慣れてる?」
やばい!という顔をするアキト。
女性の裸にはイヤと言うほど免疫がある。まぁついこの前までアマガワ・アキという女性をやっていたのだから(笑)
しかしシオンはその言葉を良い方にというか悪い方に解釈した。
「そっか、そんなにママ達とイチャイチャしているのか」
「え?」
「でもそうなるといつ本当のママと付き合うようになるのか、そこが疑問よねぇ」
「あ〜〜」
誤解を解きたいような解きたくないような・・・
「で、ママ達とはどこまで進んでいるの?
エリナママとは当然やったの?メグミママとは?」
「えっと・・・」
「ユリカママはまだ?でも意外にあっさりしちゃいそうだし」
「いや・・・」
「ルリママとは?さすがにラピスママとは犯罪かも知れないけど」
「う・・・」
やはり解いておいた方が良かったと後悔したが、時既に遅し
「ねぇねぇ、教えてよ!」
「教えてって言われても・・・」
万事休す!とその時、
ピコンピコンピコン!
「ん?何の音」
「じゃ俺、銭湯に行って来るから!」
「あ、パパ、逃げちゃダメ!」
シオンがカラータイマーみたいな音に気を取られている隙に逃げ出すアキトであった。
さてさて、少しだけ話題に上ったアキトの奥さん達が揃っている月面にカメラを戻すと、そこではさっさと出航準備が進んでいた。
「へぇ〜エリナさん達はこのままナデシコCを追うんですか?」
「そういうあなた達こそ、火星に行くのね」
「ええ、私達の目的は新プラントの調査ですから」
「嘘ね。火星を通るであろうナデシコCを待ち伏せしようって腹でしょ?」
「さぁ何のことですか?」
エリナとルリの威嚇はまだまだ続いていた。
その間でユリカがオロオロしており、ラピスはその光景を『バカみたい』と眺めている。
「残念だけど私達が先に追いついてアキト君を連れ戻すから、あなた達は安心して新プラントへ行ってらっしゃい」
「心配していません。エリナさんやアカツキさんに捕まるぐらいなら私達は何年もアキトさんを追いかけたりしませんよ」
「あら、あなた達がアキト君を捕まえられたのは私達の協力があったからでしょ?つまりあなた達の実力じゃ連れ戻せなかったってことよね」
「そんなことありませんよ」
バチバチと両者の間に火花が散り、その間に挟まれてユリカがオロオロしている。
「ということで、どうやらネルガルはこのままナデシコを追跡し、管理公団は火星に向かうようです」
「「そこ、勝手にTV中継するんじゃありません!!!」」
口論しているルリ達を映すようにレポートしているメグミ。
「あ〜僕達全国の笑いものだよねぇ」
「ええ」
アカツキとアララギが脱力して呟くのであった。
ニュースキャスターはメグミのレポートをまとめるように報告する。
「なるほど、ネルガルはナデシコを追いかけますか。
しかしこれにはどのような意味があるのでしょうか?」
「・・・」
「イネスさん?」
「・・・」
解説者席に座っているイネスはキャスターの質問を聞いていないかのようにボーっとしていた。
「あの〜〜解説を・・・」
「え?あ、ああ・・・」
イネスは適当に解説した。気構えて聞いたキャスターが驚くほど解説はあっさりと終わった。イネスは別のことが気がかりであったのでそれどころではなかったのだ。
『アキト君、また忘れてるわね〜
前回の発作から1週間は経過しているのに・・・』
イネスのコミュニケには砂時計のウインドウが映し出されていた。
もうすぐその砂はなくなりそうだった。
「まったく、あいつは一体どういうつもりなんだ・・・」
アキトはぐったりとして通路を歩いていた。ナデシコ内の大浴場に行くためである。
いま部屋に帰ったとしても多分シオンが待ちかまえているからおちおちシャワーも浴びることは出来ない。大浴場の男湯ならさすがのシオンも追ってこないだろう。
段々一人きりになれる空間が減ってきている気がするのは気のせいであろうか?
「っていうか、本当にあいつの目的は新プラントに行くだけなのか?」
それにしては手段が徹底しているが、それほどプラントに行くことに固執するものだろうか?
まぁアキト自身もアキ似の幻影なるものの正体がなんなのかが気にならないと言えば嘘になるが・・・
ゾワリ・・・
え?何か変な感じがする。
グラグラ・・・
平衡感覚がなくなり気が遠くなる。
この感覚はどこかで覚えがある!
どこだっけ
どこだっけ
どこだっけ
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「お、思い出した!」
そう、今のアキトはある種の病気にかかっている。
どういう理屈かわからないけど、遺伝子が短期間で組み変わる。
で、組み変わるとどうなるかというと・・・
「ま、まずい・・・」
誰にも見られていないか!?
幸い誰にも見られていないが、いつ人に見つかるとも限らない。
アキトはよろめきながらも必死に人気のないところに行こうとしたが・・・
暗転
アキトは意識を失った。
「うう・・・どのぐらい気絶していたのかしら」
亜麻の髪をなびかせながら彼女は起きあがる。
「まったく、相変わらずこの気持ち悪さは何とかならないのかしら・・・
って何で女性の話し方になるかなぁ〜」
昔もそうだけど、性別が変わるとしゃべり方や考え方も自然と女性っぽくなるのは女性ホルモンのせいとかイネスさんは言っていたけど、それにしたって数分前まで男だった身としてはその説は信じたくない。
どうもテンカワ・アキトという人物からアマガワ・アキという人物に変身したという方がしっくりくる。記憶だけは共有しているのに。
「しかし、こんなところで変身なんて大ボケもいいところね」
まったく、こんな致命的な病気があるのを忘れているなんてどうかしている。
幸い誰にも見られていないから良いようなものの、他人に見られたら人生お終いだ。
今度から自発的に変身して発作による強制的な変身は避けないといけない。
「誰かに見つからないうちにどこかで隠れていよう」
しばらくどこかに身を隠せば男に戻るはず。
それまで身を隠せば・・・
しかし、それは少し遅かった。
「あら、シオンちゃん♪」
「ドキ!」
「ドキドキさせるよ〜♪ドキンちゃん〜♪」
彼女はギギギーという擬音を響かせながらぎこちなく振り返る。
するとそこには見知った顔があった。
「あなたもお風呂?」
「い、いや〜そういうわけじゃ〜」
「風呂桶持って?」
「あ、アハハハ♪」
すっかり忘れていたこの二人、アマノ・ヒカルとマキ・イズミである。
ナデシコAにも乗っていたベテランパイロットである。
ちなみに二人とも本業は別に持っていて、今回ナデシコCに乗っているのは単なる現実逃避である(笑)
その二人は完全に彼女の事をテンカワ・シオンと間違えている。
まぁ一部を除いて瓜二つだから無理もないが・・・
「私達も大浴場に行くんだけど、一緒にどう?」
「え?いや、私は別に銭湯に行く訳じゃ・・・」
「バスタオルに洗面器を持ってるくせに?」
「銭湯なだけに格納庫・・・ククク♪」
完全に及び腰な彼女を見逃すほど三人娘(−1)は甘くない。
「良いじゃないの、行こう行こう♪」
「え?そ、それは・・・」
「アキト君の話とか色々聞きたいし♪」
「聞きたい、聞きたい、期待満々」
「え、ちょ、ちょっと〜」
両腕をヒカルとイズミにがっちりホールドされて彼女はずるずると大浴場まで連行されるのであった。
ってことで次回に続く!
ということでナデシコNG第13話をお届けしました。
各国の駆け引きという事で色々やってみましたが、意外に広がらなかったので身内だけのいざこざになっている気が(苦笑)
フクベは考えて考えで誰か原作で使えるキャラがいないかと思ってひねり出しましたが、結構味があるので気に入っています。
で、一番ラストですが・・・
実は舞Himeで下着ドロものをやられたので、ラブコメの王道である温泉モノを先にしておこうかと!・・・というのは冗談ですが、どこかでアキとシオンのニアミスっていうのをやってみたかったんです(笑)
しかし、次回は温泉モノ・・・本当に書けるのでしょうか?(笑)
ということでおもしろかったなら感想をお願いします。
では!
Special Thanks!!
・YSKRB 様
・kakikaki 様