アバン


あれは幼い頃の記憶
うつむいて世界を拒絶することしか知らなかった頃
見上げる大人達の顔を覗き込むのが恐くて
自分を見つめる視線が何故か恐くて
それが世界の全てなんだと思い込んでいた頃・・・

私は父に連れられてあの場所に行った。
それに私は心を奪われたのでした・・・

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



ナデシコC・食堂


「本当になかったのかもしれないじゃないか」
「だから知りたいんだよ。2215年、私が見たパパのあの表情が何だったのか。
 そして本当にあの場所には何もなかったのか・・・」

シオンは切なそうに言う。
それでもアキトにはシオンがそこまであのプラントにこだわる理由がわからなかった。
そんなアキトの顔色を察したのか、シオンは口を開いた。

「それじゃ、どうして私がパパを嫌いだったのか、どうしてパパを好きになったのか、あの時の事を話しちゃおうかな・・・」
シオンは重い口を開き始めた。



幼い日の記憶


幼い頃、物心ついたときから私は一人で戦っていた。
戦っていたというのは大げさだろう。ただ気むずかしげに大人と接していただけだから
けれど子供の身にはそれが精一杯の戦い方だった。

別に大人が嫌いな訳じゃない。
ただ苦手なだけだった。

ママ達の事は嫌いじゃなかった。
ただママ達は習い事には厳しかった。
これはあなたの為だから、あなたが一人で生きていくのに必要だから
そう言われて教えられた。
それがたまらなく辛かった。

他の子達は外で遊んでいるのに・・・

難しいコンピューターの操作
戦略の基礎、戦術の基礎、ボソンジャンプ
経済のイロハ、政治の裏表
機動兵器の整備、構造の理解
演技、変装の仕方

愛情を注いではくれたけど、教えることに容赦はなかった。
それがたまらなく辛かった・・・

誰かが言った。子供は天使だと
そんな事はない。子供は残酷だ。
何が一番残酷だって、自分の言っている事が残酷だという事を想像出来ない者が一番残酷なのだ。その意味では子供は一番残酷に成りうるのかもしれない。
ママが五人、物心付いた時からそれは当たり前の光景だったから何の疑いも持たなかった。
けれどそれは異常な事だった。
どこの家でも母親は二人もいない。ましてやそれが五人いてケンカにすらなっていない。せっかく友達が出来てもその事を指摘されてケンカしたりもした。
その事を泣きながらママ達に訴えると
『ママが五人もいるんだからあなたは他の子よりも5倍も幸せなんだよ♪』
と言われた。
けれど子供の自分にそんな事を信じて平然と周りからの奇異な視線を受け流す事など出来なかった。

結局外でも戦う事になった。
戦うというには稚拙な、ただ泣くのを我慢して帰ってくる事しか出来なかったが・・・

「まぁまぁシオン様、また泣きベソですか?仕方ありませんね♪」

泣きついて甘やかしてくれるのはメイドのラピだけ。
でも彼女は母親ではない。ましてや人間ですらない。
けれど私の逃げ場所はそこしかなかった。

私はラピに母を思う。
ママ達ではない、母を

幼い日、うつつに開く瞳で見た姿
聞こえる子守歌
背負われた記憶
抱かれる温もり、そして安らぎ・・・

けれどそれは既にない。
失われた楽園
だからここにいることが現実でない気がする。

とはいっても自分の居場所を探す旅に出られる程強くはない。
見捨てられないようにママ達の言うことを聞くことで精一杯
けれど心を開けない・・・そんな子供だった。

ママ達は嫌いじゃない。
けれど苦手だった。

・・・そしてパパは嫌いだった。

ママ達は誉めてくれた。
上手くやると誉めてくれた。
叱られるときは恐かったけど、それでも誉めてくれた。
それだけは信じられた。

けれどパパは・・・私のことを見てくれなかった。
パパはいつも私に一瞥を投げるだけですぐにそっぽを向いた。

愛されていない・・・子供心にそう思った。

パパにとって私は空気みたいだった。
そばに寄っても一瞥を投げてすぐにそっぽを向いた。
あとは私が話しかけるまで何も話してくれない。
私の顔を見て悲しそうな顔をするとまたそっぽを向いた。
恐い訳じゃない。
けれど、私を見てくれない。
まだママ達の方が私を見てくれた。
厳しい稽古事をしなければいけないけど、まだ私を見てくれた。

けれどパパは私を見てくれない。
だから私はパパが嫌いだった・・・



NadesicoNG(Next Generation)
第9話 Tale of A.D.2215「父と娘」



2215年・テンカワ家


それは一人の女性の来訪から始まった。

「お〜♪アキト、久しぶり♪」
「なんだ、リョーコちゃんか」
「なんだじゃないだろう、久しぶりに帰ったんだ、飯ぐらい奢れよ」
「奢れよ、じゃない。ここが料理店だって知ってての暴言か?」

いくら旧知の仲とはいえ、お金をもらって食事を食べさせることを生業にする食堂の店主にただ飯を所望するというのも図々しいなぁ。まぁ、それだけ遠慮無く言ってもどうこうなるような間柄ではないということなのかな。

「普通に金を払え。そしたら食わせてやる」
「お前なぁ〜それが客商売をする奴の言う台詞か?」
「リョーコちゃん、金がない訳じゃないだろう。
 で、本当は何の用で来たんだ?」
「・・・やっぱわかるか?」
「わからいでか!」

パパの顔は少しだけ笑みが混じる。
旧知の仲だから?

「リョーコちゃんに腹芸は無理だよ」
「そうだな。あたいらしくないよな。
 んじゃ、単刀直入に言うわ。
 戦艦に乗らない?」
「はぁ?」
「だから、私の部隊が乗っている戦艦に一緒に乗って欲しいんだよ」
「なるほどね・・・」

パパにはリョーコさんって人の申し出が何となくわかったらしい。

「俺はもうコックなんだ。コックなら乗ってやっても良い」
「コックがそんな真っ黒クロスケでバイザーなんかしてるかよ」
「叩き出すぞ!」
「そう言うなよ〜お前の腕が必要なんだって」
「俺はもう機動兵器に10年以上も乗ってないんだぞ?
 そんな腕のさびた奴に何をさせようって言うんだ」
「腕のさびた奴にこんなに鳥肌がたつかよ」
「第一、今時の機動兵器はEOS搭載なんだろ?
 IFS搭載機なんて旧式も良いところだ。そんな機動兵器しか操縦出来ない男を引っ張って行って何をさせようっていうんだ?」
「それだよ!」

リョーコさんはバンと手近なテーブルを叩く。
怒り心頭のようだ。

「確かにEOSはIFSなんて面倒なものをいらなくしたさ。
 テクノロジーの進歩はすごいよ。火器管制から索敵に格闘戦まで全部AI任せだもんなぁ〜しかも下手なパイロットが動かすよりも数倍的確だ。
 そりゃ誰だって優秀なパイロットになれるさ」
「だろ?」
「けどなぁ!
 アイツら、システムの力を自分の力と勘違いしてるのさ!」

さらにバンとテーブルを叩く。

「IFS付けてる奴は時代遅れだぁ?
 機械のサポートを受けなきゃ何も出来ないひよっこが!
 機械を操るのが上手いのと戦闘が上手いのがイコールだと思ってるんだ!
 腹立つったらありゃしない!」
「こういうのをデジタルデバイドって言うんだろうな・・・」
「人をロートルみたいに言うな!」

なるほど、時代に取り残されている訳か・・・

「頼む!一緒に乗ってくれ!」
「でもなぁ〜」

パパは困ってチラリと私の方を見る。
私は恐くてラピの背中に隠れる。

「いま、ユリカ達が仕事で出払ってて俺とこいつだけなんだ」
「おお、アレがシオンちゃんかぁ〜大きくなったなぁ〜
 こっちおいで、お菓子をあげよう♪」
「止めとけ、こいつは人見知りするんだ」
「お菓子じゃ釣れないか・・・」

いや、人見知りとかお菓子で釣るとかじゃ・・・

「とりあえずアイツらが帰ってくるまでこいつと留守番してなきゃいけないんだ。
 さすがに娘とロボットだけに留守番させておくわけにはいかないだろう?」
「そりゃそうだけど・・・
 おお、そうだ。シオンちゃん達も一緒にどうだ?」
「どうだって・・・戦艦にか!?」
「戦艦って言ったって、ただの演習航海だ。危険なんかありゃしないよ」
「でもなぁ〜」
「場所はタナトス」
「タナトスって・・・」
「な?安全だろ」

パパの顔色は変わった。
タナトスとは2203年、木星惑星軌道上に見つかった古代火星人のプラントのはず。確か記録では何も見つからなかったらしく、今では何の価値もないと放置されているプラントらしい。
確かに安全と言えば安全だけど・・・

「リョーコちゃん・・・最初っからそのつもりで誘ったわけか?」
「何の事かなぁ?」
「誰の差し金だ?宇宙軍か?連合か?」
「つか、あの時、あたしを仲間はずれにしただろう。
 半分はそのリベンジ!」
「・・・何もないぞ、あそこには」
「無くても結構。アキトの昔話が聞ければめっけもの」

ニカッと笑うリョーコさんにパパは諦めた様子。
そして私の顔を覗き込む。

「一緒に行くか?」

パパはそれだけ聞いた。
私はパパが嫌いだった。私に向き合ってくれなかったから。

でも・・・

コクン

私は頷いた。
はじめてパパが私に向き合ってくれる気がしたから。
パパは嫌いだったけど・・・これを逃したらもうパパは手を差し伸べてくれない気がしたから・・・

私はパパに抱きかかえられて戦艦に乗った。



2215年・アマリリス食堂


善は急げ・・・というか、リョーコさんは出航ギリギリにやってきたらしい。
どうも断られたらそのまま拉致監禁して連れて来るつもりだったそうな。
冗談半分で「死ぬ覚悟をしてきたんだぞ」って言ってたけど、半分は本気だったらしい。
そんなにパパって恐いの?

それはともかく、外は星空の海
戦艦アマリリスは目下、宇宙を航行中だった。

うわぁ〜うわぁ〜うわぁ〜♪

「どうだ、星空はキレイだろう」

リョーコさんは自慢げに言うのがよくわかる。
見上げるんじゃなく、同じ目線でこれだけたくさん見える星達・・・
まるで夢の中にいるみたいだ。

「おい、アキト。もう少し親子のスキンシップというか、話に混ざろうとしないのか?」
「仕事中の食堂に押し掛けてきてるのはリョーコちゃんの方だろう」

あ、パパが不機嫌だ。
パパはアマリリスの食堂の中で仕込みに余念がない。
仕事中のパパは真剣で仕事の邪魔をされるのを何よりも嫌がる。
私も近寄りがたい・・・

「そんな仏頂面だから娘に嫌われるんだぞ」
「・・・」
「まったく・・・」

私はリョーコさんの背中に隠れる。
やっぱりパパは無言だ。
と、そんなとき、クルーの一団が食堂に入ってきた。
うわぁ筋肉隆々とか熊とかそんなのばっかり。
その中の一人、如何にもアメリカンコメディーに出てくるような金髪のエリートで嫌みったらしそうな男がリョーコさんに声をかけてきた。

「おやおや、これは隊長殿。こんなところで油を売ってましたか」
「おやおや、これは新米副隊長殿、もう訓練は終わったのか?」

あ、いきなり険悪な雰囲気

「ええ、僕たちのデーターはバッチリですから訓練も早く終わってその分余暇に時間を使うことが出来て助かってます。
 その点、隊長はIFSなんて旧式なシステムしか使えないから体を鍛えないといけないですからね」
「うるせぇ。あたいは体を動かすのが好きなんだよ。
 デスクワークで戦闘なんか出来るかよ」
「本当に化石ですねぇ、隊長」
「何だと!」

ものの見事に挑発に乗って一触即発の状態。
私は恐くなってリョーコさんから離れてキッチンの影に隠れた。
でも、何となくわかる。こんな人達と一緒にいたらパパを無理矢理引っ張ってきてでも鼻を明かしたいという気持ちもわからなくはないけど。

「お前ら、ケンカなら余所でやれ。
 ここは食堂だ。飯を食わない奴がいつまでもいるな」

仲裁のつもりなのか、はたまた火に油を注いだのか、パパが双方に向かって威圧的な声を投げかける。やっぱりパパ恐い・・・
けれど話は思いがけない方に転がる。

「へぇ〜で、隊長が呼んだ助っ人がそいつですか?」
「ふん!」
「でも助っ人がコックなんて意外ですねぇ。やっぱりIFSでしか操縦できない口ですか?」
「・・・」

あ・・・パパは無口だけどむかついているみたい。ちょっとだけ眉間にしわが寄っている。

「そんなに強いんですか?こいつ」
「スティーブン・セガールだぜ、アキトは」
「沈黙の戦艦ですか?オールドムービーですねぇ〜
 そりゃロートルにはピッタリのヒーロー物だ。
 アハハハハ」

あ、副隊長以下大笑いし始めた。
人を怒らせる才能はピカイチみたいだ。
全く無遠慮に笑う彼らにリョーコさんは一触即発だけど、パパはただ静かに仕込みの準備だけをしている。

「おやおやおや、助っ人さんは元気がないようですよ、隊長?」
「おい、アキト、何か言ってやれよ」
「別に、くだらん」

リョーコさんは思いっきり安い挑発に乗っているが、パパは受け流していた。
悔しくないのかな?

「それよりもお前ら、飯を食うのか?食わないのか?
 食わないなら仕事の邪魔だから出て行け」
「そうだ、出て行け!」
「リョーコちゃん、君もだ」
「えぇ〜」
「子供みたいな声を出すな」

まさに頑固親父のいるラーメン屋って感じでパパは言う。
でもリョーコさんには効いても、失礼な人達には通じなかったようだ。

「なんだいなんだい、変な格好していっぱしの料理人気取りか?」
「こだわってますって格好をしている店に限って10年早いって料理を出すんだよ」
「おい、手前ら!アキトの料理をバカにするのか!」
「やめろ、リョーコちゃん」

またもや安い挑発に乗るリョーコさんをパパが止めた。

「食堂はここしかないんだ。嫌ならジャンクフードでも頬張るはずさ」
「でもよぉ〜」
「はん!頼まれても食いに来てやるか!」

拒絶されてもなおパパは挑発に乗らない。
悔しくないの?怒らないの?
無表情で仕込みをするパパが信じられなかった。

「アキト?」
副隊長らしき人が何かを思いついたように呟いた。

「アキト・・・そうか、なるほど」
「どうしたんですか?」
「いや、黒尽くめの服装でコックにエステ乗りで思い出した。
 確か10年以上前にアマテラスコロニー破壊などで指名手配された奴だ」
「ああ、幽霊ロボットの!」
「なるほど、あの殺人鬼がねぇ・・・」

含み笑いで嫌らしそうに彼らはパパを眺める。

「バカ野郎、アレは火星の後継者達の仕業だ!
 アキトは大事な人を助けるために・・・」
「どんな理由だろうが、犯罪者は犯罪者でしょう?
 現にコロニーを幾つも沈め、それで死人だって出てるんだから」
「だが、ヒサゴプランは奴らの隠れ蓑だったんだ」
「一般人だっていたでしょう」

リョーコさんは必死にパパを弁護するけど、彼らは容赦なくパパに罵声を浴びせる。

「それが火星極冠事変で手柄を立てたからといって恩赦になり、今ものうのうと娑婆にいられるんだから世の中皮肉だよなぁ」
「勝てば官軍、負ければ賊軍」
「英雄は敵をたくさん殺し、犯罪者は味方をたくさん殺し・・・っすか」
「ヒーローとは素敵な商売ですねぇ♪」
「アハハハハ♪」

彼らは言いたい放題。
それでもパパは何も反論しない。
どうして?
謂われなき中傷なのに!

『お前の母ちゃん、5人もいるんだってな』
『セイリョクゼツリンって言うんだって、うちの母ちゃんが言ってた』
『良いよなぁ、選り取りみどりで甘えられて』
『や〜い、甘えん坊♪』
彼らに悪気はないかも知れない。けれど、その言葉を聞く度に、視線を投げかけられる度に心がズタズタに切り裂かれていく。

人の気持ちも知らないで!

ゲシ!

「イタ!」

私は腹が立ったから熊っぽい人の向こう臑を思いっきり蹴りつけてやった。
ミナトさん直伝のお姉さまキックだ。
・・・けどあまり効果はなかったみたい。

「なにしやがる!」
「シオンちゃん!」

キャァ!

私は熊みたいな人に抱き抱えられてしまった。

「へぇ、こんな所に子供が」
「お子ちゃまなんてどこから紛れ込んだのかなぁ〜」
「よせ、その子は・・・」
「ここは戦艦だって思ってたけどいつから保育園になったんだ?」

離せ〜!

「すまん、それは俺の子だ」
「へぇ、テンカワ・アキト様の子供ですか」
「子供のいたずらと思って許してくれると助かる」
「道理で口より手が先に出ると思った」
「確か嫁さんが5人もいるらしいな、誰の子供だ?」
「・・・」

それでもパパは怒らない。
私の事なんてどうでも良いの?
ママ達のことを言われて悔しくないの?

私は泣き出しそうになった。

「こういう無礼な子供にはきつくお仕置きをしないとなぁ」
「そうだそうだ♪」

ううう、こ、恐いよ〜
こんな事なら元ちゃんに格闘技を習っておくんだった・・・

「・・・そうだな。無礼な子供にはお仕置きをしなければいけないな」
「アキト!」
「わかってるじゃないか、テンカワ・アキト様♪」

パパもみんなと一緒になって私を虐めるの?
そりゃこの人達を蹴ったけど、腹が立ったんだもの・・・

「リョーコちゃん、EOSって腕の一本ぐらい使えなくても操縦できるよな?」
「え?あ、ああ、そりゃ誰にでも動かせるってふれこみだからそのぐらいは・・・」
「ということだ。かかってこい、ひよっこども」
「・・・ああ、なるほど。格闘訓練を許可するぜ!」

リョーコさんはパパの言った意味が分かった模様。
遅れて金髪さんや熊さん達も言われたことがわかったようだ。
子供のお仕置き、それは彼らに向けての言葉、しかも腕の一本ぐらいは使いものにならなくしてしまおうということらしい。

「へぇ、自信満々ですね〜」
「けど、いい加減お年のような気もしますが」
「それで俺らに勝てるとでも?」
「昔の栄光だけに引きずられて粋がっていると痛い目を見ますよ」

彼らはジャケットを脱いで筋骨隆々の様を見せつける。
それがひぃふぅみぃ・・・ともかくぐるっとパパを囲んで余りある人数だった。

パパ!

「シオン、お前はリョーコちゃんの後ろに隠れていろ」

パパはエプロンと料理帽を脱いで彼らの前に歩み出た。
そんなパパを彼らは一斉に周りを囲んだ。
彼らは手に武器を取り出す。
ナイフやメリケンサック、スタンガンなど

「こら、お前ら武器なんか卑怯だぞ」
「何言ってるんですか隊長。実戦で卑怯もクソもないでしょう」

リョーコさんは怒って言う。私も卑怯だと思う。
けれどパパは平然としていた。

「ハンデにはちょうど良いだろう」
「言いますねぇ〜負けたときの言い訳ですか?」
「いや、このぐらいハンデがついてないと張り合いがない」
「怪我しても恨まないで下さいよ!」

あ、結構パパも安い挑発は得意なんだ。相手の人達は完全にやる気になってる。
パパはもっと彼らを挑発した。
左手でおいでおいでをしたのだ。
リョーコさんは口笛を吹いて賞賛した。

「こんな奴、俺一人でやれますよ」

熊みたいな男の人が筋骨隆々なのを自慢しながらパパに襲いかかった。

「パワー一閃!!!」
「遅い」

熊男が拳を振り上げる前にパパは熊男の懐に入り込んだ。
そのまま掌底を顎にぶち当てた!

「うぐぅわぁぁぁ・・・」
「プロテインを飲んで作り上げた筋肉なんて柔軟性はないし動きも鈍い」

一人あっさりとノックアウト

「このぉ!」
「調子に乗りやがって!」

次々とパパに襲いかかるパイロットの人達!
けれどパパは平然としていた。

「お前はパワーしか出ない筋肉の鍛え方をしている」
「ぐはぁ!」
「足と腰と腕、全然動きが連携してない」
「ぐえぇ!」
「おいおい、下半身が全く動いてないぞ」
「あがぁ!」
「タメが大きすぎる。技を出す前に押さえ込まれるぞ!」
「げふぅ!」
「肉体の強さにかまけて防御がおろそかだ。人間に鍛えられない部分などいくらでもあると知れ!」
「めぎゅ!」

すごいすごい、後ろにも目があるみたいに前後左右から飛びかかってきた熊男達を倒していった♪

「アキト、なんか技のキレ、10年前より良くなってないか?」
「まぁあの頃は力任せ気味だったかもしれん。
 この年になってはじめて肩の力が抜けたみたいだ」
「へぇ、武術の達人が老人ってのは映画の中の話かと思っていたけど、そうでもないんだなぁ」

リョーコさんが感心してパパに話しかけて来た時にはあらかた片づけ終わった後だった。残りは副隊長さんしかいなくなった。

「は!俺を今までの奴らと同じと思うな!」

副隊長さんはボクシングの構えをした。
しかもハイキックをしてみたり。
多分キックボクシングが得意なんだと思うけど・・・

ホッホッホッ!
シュシュシュ!
ワンツー!ワンツー!
ローローロー!

軽快なフットワークで繰り出されるスピードの速いジャブにローキック
デモンストレーションにしては十分立派だった。

「へへへ!ロートルがこの動きに着いてこれるか!」
「はいはい、わかったから早くかかってこい」
「良いだろう!ズタボロにしてやる!」

パパに襲いかかる副隊長さん!
さっきの人達とは比べものにならないぐらい速い!
けれど、パパは平然としていた。

「サブロウタよりも遅いな。そして意外性もない」

パパは彼のジャブに翻弄されているように見えた。
けれどちょうど彼のジャブが止む事がわかったかのように、彼の手が止まった一瞬をパパは見逃さなかった。
まるでスローモーションのようだった。
体を相手に密着させる。相手の力の移動が発生する前にその進路を塞ぐ。

スパン!

軸足の重心移動を抑えられて上半身だけが行き遅れようとしたところを上手に利用しようとした。右腕を取りそのまま前のめりになる方向に引っ張った。同時に状態が泳いで軸足の力を抜けたとみるや軽く足払いをした。
副隊長さんは一瞬で仰向けになりながら投げ飛ばされてしまった。

ヒキィ!

「グワァァァァ!」

叫び声とともにドスンと床に落ちちゃった。。
何事もなかったように立ち去るパパに替わって他の隊員さん達が副隊長さんに駆け寄った。

「大丈夫ですか!?副隊長!」
「痛い痛い〜!」

副隊長さんは右肩を押さえて転げ回る。

「アキト・・・折ったのか?」
「いや、関節を外しただけだ。おいお前ら、いくらパイロットでも関節のはめかたぐらいは教えてもらっただろう。あとで医務室に行ってみてもらえ」

パパの台詞に怯えるように隊員さんたちは副隊長さんを担いで逃げていった。
すごい♪パパ、すごい♪

「しかし、あたいには何が起こったかさっぱりわからなかったぜ。投げただけじゃなかったのか?」
「まぁ・・・」

パパ、投げるときに手首を捻っていた。あと、左肘を相手の脇腹に入れて支点にもしていた・・・

「ほぉ、シオンちゃんには今の見えていたのか〜
 さすが、アキトの娘だなぁ〜」
「・・・」
「何だよ、照れてるのかよ」
「ふん!それよりもなんだ?あの軟弱な兵士達は!
 B級のミリタリー映画でも恥ずかしくてやらないような大立ち回りまでやらせやがって」
「まぁ、そう言うなって。本番はこれからだから♪」
「全く・・・なんかどんどんリョーコちゃんの良いように使われている気がする」

パパは溜息をついて頭をかいた。
思わず安い挑発に乗ってしまったからだろうか。

『まだまだ俺も青いなぁ・・・』

パパはそう呟くと苦虫を潰したような顔をした後、そっぽを向いた。

パパが嫌いだった。
けれど、今はちょっぴり好きになった。
パパは多分何かと戦っているのだ。
何と戦っているかわからないけど、戦っているみたいだった。
それが何なのかちょっぴり知りたい気もしてきた。

そして・・・

さっき、私のために戦ってくれたパパはちょっぴり格好良かった♪



2215年・アマリリス格納庫


プラント・タナトスは木星惑星軌道上にある。
といっても木星の近くにあるわけじゃなく、かなり離れた場所にある。
どのぐらい離れているかといえば、通常航行で向かうと、下手をすると火星からの方が近いじゃないか?というぐらいの距離だったりする。

さして重要でもないプラント、しかも内部はトラップばかり。
一般人には危険で、そのくせ何もない、あったとしてもとっくの昔に盗掘者やトレジャーハンターの人達が全てむしり取った後だろう。

そんなわけでタナトスにパブリックゲートが今まで設置されることはなかった。
タナトスへの航路は途中までのパブリックゲート以外は全て放置されたチューリップゲートを経由する通常航海で進むことになる。

今時そんな辺鄙で何もないところに行こうって酔狂な人は少なく、せいぜい海賊がねぐらにしてないかどうかの調査も兼ねて軍が訓練航海するぐらいしか需要が全くない、どうでもいいプラントだったりする。

「という事らしいですわ♪シオン様」

・・・ラピの受け売りじゃないのよ。本当に

まぁそんなわけで日帰り旅行でバビュ〜ンって行って帰ってくる事も出来ず、ゆっくりのんびり星空の航海を楽しむことになるのだけど・・・

というか、きれいな星空なんて最初の数日で堪能しきってしまい、既に退屈になってきた。だって他にやることほとんどないし!

「やることないからって、こんな所まで着いてくるなよ」

パパ、恐い〜

「アキト様、そんなに睨まなくても」
「そうだぜ、大人げないなぁ〜アキトは」
「うるさい。ここは子供の遊び場か?」

ここと言われた場所だけど、そこは大きな巨人さん達が格納されている場所。
色とりどりのロボットがいっぱいあって見ていて飽きない♪

ねぇねぇ、アレ何?アレ何?

「あれですか?あれはステルンクーゲルの後期型ですね。2210年設計ですがエンジンの改良と新型EOSの搭載により最新機種のブーゲンビリアと装備がコンパチになっておりますわ」
「おお、さすが形は変わってもオモイカネ、詳しいねぇ」
「いえ、それほどでもありませんわ♪」

で、リョーコさんのはどれ?

「あたいのか?あたいのはあっちだ」

連れて行かれた先は少し奥まったところ。
しばらく歩かされた。
旧式の装備は真ん中部分からは離されたところに追いやられるらしい。
リョーコさんが少し寂しそうに言った。

そこに鎮座していたのは真っ赤な機動兵器だった。

「ほら、アタシのアルストロメリアカスタムだ」

うわぁ〜かっこいい♪

「だろ♪」
「最後期型だなぁ。しかしこんな旧式が良く今まで残っていたな」
「旧式って言うな!これでも性能は新型に引けを取らないぜ!」

パパが皮肉にリョーコさんが怒った。
赤いって事はノーマルより3倍速いんだね♪

「いや、そんなに速くない・・・」

角は付けないの?角♪

「付けないって・・・なんか、この子マニアックだな」
「あ・・・ラピスの影響かもしれん」
「あいつ、そっち方面に進んでいるのか?」
「セイヤさんとイネスさんとサリナさんを足して3で割ってるぐらい」
「嫌な組み合わせだなぁ・・・」

失礼な言い方!
でも、この機体は・・・愛されてる。大事に使ってる。

「わかるか?」

うん、わかるよ、何となく。
わかる、ラピスママに教えてもらった。
さっきのステルンクーゲルよりもずっと愛されている・・・

「えへへ〜あたいの相棒だしな」

ラピによればアルストロメリアの最後期型は既に製品のロードマップから外されて、5年前から保守部品と完全受注生産のみになってしまったそうだ。
もう新規設計や改良をされることもないのに細々とラインで製造され続けるのはひとえにその作りの良さと完成度の高さからベテランパイロットの人達からの支持によるものらしい。

「しかし、設計が古いために性能差は如何ともしがたい」
「あ、おまえは!」

あ、この前パパにこてんぱんにやられた副隊長さん

「ふ、我々は機動兵器のパイロット。
 別に格闘戦でやぶれようが何ら誇りを傷つけられることはない!」

開き直っちゃった。
あ、パパが睨んだ。
ビビってる、ビビってる。
でも懸命に虚勢を張り直した。

「そんなに睨んでも性能差はどうしようもないぜ。
 アルストロメリアはエンジンを持たないが故に6m大と格闘戦を重視しているが、母艦からのエネルギー供給に依存し続けなければならない。
 今時、重力波ビーム照射機構なんて積んでいる戦艦を探す方が難しい」
「スタンドアローンでだって使えるよ」
「それもバッテリーの残量を気にしてでしょ?
 スタンドアローンでの活動はゲインを利用してもせいぜい1時間。全力で飛ばせば20分と持たない。さらにレールカノンなどの大電流を消費する武装を使用すればその限界値はもっと下がる。
 いくらCC組成のフレームを使用してもその程度なんですよ。
 それに比べて我がステルンクーゲルは!」

あ、自己陶酔に浸り始めた。

「起動時間は最大で3時間!増槽を付ければ8時間の連続起動が可能だ!」
「どこかのモバイルノートPCじゃあるまいし」
「ディストーションフィールドが普及した時代のニーズに応えて武装はレールガンを標準装備」
「アルストロメリアだって標準装備だけどさぁ」
「時代は既にEOS!
 IFSの様にナノマシーンをインプラントしなくても操縦できるので人に優しい!
 なのに下は小さなお子さんから、上はよぼよぼのおじいさんまで、誰でも一流のパイロットに早変わり!
 今時、根性!根性!ど根性!なんて汗くさい努力などしなくてもスマートに戦闘が出来るんですよ!
 さぁ奥さん!あなたならどちらが欲しいですか〜!」
「誰が奥さんだよ」

リョーコさんがたびたび突っ込むけど、副隊長さんは気にせずステルンクーゲルのセールスポイントをずらずらとあげて優越感に浸っていた。
まぁ確かに、単純に性能を比較したらアルストロメリアに分がないかもしれないけど・・・

テクノロジーは誰にでも高性能を使わせるように進歩するし、それは正しい進化だと思う。プロフェッショナルにしか出来ない事もテクノロジーが素人一般にも使えるようにしてくれる。
プロが生み出した技術や経験はやがてテクノロジーが新たな製品として誰にでも使えるようにしてくれる。

かつてエステバリスが素人をIFSのコネクターを付けただけで機動兵器のパイロットにしたように。

けれど・・・

なんか違う気がする。
何が違うのか言葉に出来ないんだけど。

「そういうご託はタナトスに着いたときに聞いてやるよ」
「おお、忘れていなかったようですね、例の約束」
「例の約束?」

リョーコさんと副隊長さんが睨み合うが、パパだけは首をひねっていた。

「い、いや・・・まぁ」
「実は隊長と賭をしたんですよ。
 どちらがタナトスの肝試しで早く帰ってこれるかって」
「おい、まさかその勝負・・・」
「あ、あははは〜♪」
「勝った方が隊長になるって条件ですよ。当然、あんたもメンバーに入っているって事です」
「リョーコちゃん!」
「いや、まぁ、その・・・頼む!」

リョーコさんは拝むようにパパに謝った。
なるほど、最初からこの目的のために連れてこられたということなのか・・・

でもタナトスへの肝試しってなに?

「タナトスはめぼしい発見がなかったという意味では無価値なプラントなんですけど、唯一他よりも価値があるのがトラップの多さなんですよ」

と、解説を始めるラピ。
それで?

「つまり、何もないけどトラップを突破するのはかなりの技量が必要となります。
 ということで新兵の機動兵器の訓練にはちょうど良いんです。
 だからこのアマリリスも今回訓練航海ということでこのルートを通っているんですよ」

え?海賊がたむろしていないかの見回りじゃなかったの?

「ですから、あんなトラップばかりのプラントなんか危なくて根城なんかに出来ませんよ」

なるほど、そういう意味でタナトスへ行くのね。でも肝試しって何?

「プラントの奥まで行って引き返してくるだけなんですけどね、その間のトラップを無事突破して帰ってこれるか?っていうのが肝試しに似ているのでそんな名前が付いたらしいですよ」

解説ありがとう、ラピ。

でもパパはやれやれと溜息をついていた。
まぁ知らない間にこんなもめ事に引っ張り込まれていたのだから、無理もないか。
ここまで来るのも嫌々だったみたいだし。

「で、テンカワ・アキト様はどの機体を選ぶんですか?
 当然、アルストロメリアでしょ?」

副隊長さんは嫌らしそうにパパに聞いた。
ここまでの話の流れで行くと、
 EOS vs. IFS
 ステルンクーゲル vs. アルストロメリア
 副隊長さん vs. リョーコさん
 文化系 vs. 体育系
みたいな対決っぽくなっている。当然パパが引っ張ってきたリョーコさん側に着くとしたらアルストロメリアに乗ることになると思うけど・・・

「でもこの勝負、アルストロメリアが不利ですねぇ」

ラピがポロッと言った言葉にリョーコさんがガビーンとした顔になる。
まぁ確かに。
母艦からの重力波ビームによるエネルギー供給に頼るアルストロメリアにとって、プラント内という重力波ビームの届かない場所での活動は必然的にスタンドアローンの動作になる。
ということは常にバッテリーの残量を気にしなければいけなくなる。
片やステルンクーゲルはエンジン内蔵でプラント探索くらいならほとんどエネルギー関係の心配は不要だろう。

この勝負、最初からハンデキャップ戦なのだ。
それをわかっていてリョーコさんがこの勝負を受けたのは・・・

「それともそんな旧式捨ててステルンクーゲルに乗りますか?」
「あたいの愛機が旧式だってか!」
「ああ、済みません。旧式ではなくアンティークですねぇ」
「なんだと!」

あ〜安い挑発に引っかかったんだなぁ〜とパパの顔もその推測を物語っていた。
とはいえ、パパは一体どうするのだろう?
負けて当たり前の勝負をして燃えるのは沽券に関わるリョーコさんぐらいのものじゃないかなぁ〜とか思うのだけど。

するとパパは色々と物色し始めた。
アルストロメリアが何台か並んでいたけど、それもふぅ〜んと眺める程度で目の前を通り過ぎたし、ステルンクーゲルの前も眺めてみたけどふぅ〜んと言って通り過ぎちゃった。
通り過ぎるたびにリョーコさんと副隊長さんがうううって唸っていたけど、パパはそんな事をお構いなしに格納庫を一回りした後、あるところで足を止めた。

「・・・」
無言でその機体の前に立つとペタペタと機体を触り始めた。
でもその様子はリョーコさんも、そして副隊長さんすら驚かせた。

「おい、アキト・・・」
「なんだ?」
「いや、まさかと思うけど・・・
 それにするつもりなのか?」
「ん?そんなに意外か?」
「いや、意外って言うか・・・」

恐る恐る聞いたリョーコさんだが、彼女の予感は当たったようで。
リョーコさんは外人風にオーマイガーってな顔をして、副隊長さんはラッキーというか、奇特な人を見たというか、何とも不思議な顔をしていた。

それもそのはず

パパがペタペタと触っていたのはアルストロメリアではなく、それよりもさらに旧式のエステバリス。しかも結構10年は使っているかもしれないという年代物みたいなのだ。

まぁ一言で言うと何がどんな名前の機動兵器なのかわからない私が見ても十分ボロっちいって言う事がよくわかるぐらい古かった。

「一応言っておくけど、それってエステバリスだぞ?」
「いや、わかってるけど?」
「わかっているなら良いんだけど・・・」
「ちゃんと手入れされているし、問題ないだろう」
「いや〜お前が問題ないって言うなら問題ないんだろうけど・・・」

リョーコさんも筆舌に尽くしがたかったみたいだ。
ボロボロってだけじゃないらしい。
するとラピが解説してくれた。

「エステバリスはアルストロメリアの前世代の設計なのです。
 基本的な設計に違いはないのですが、一番の違いはエステバリスはまだそのフレームの素材にCC組成を使っていないのですよ」

使っていないと・・・つまりどうなるの?

「スタンドアロン時の活動時間が大幅に短くなります」

どのぐらい?

「まぁ大体5分の1程度ですねぇ」

それって全力で5分も飛んだら・・・

「あっさりバッテリー切れです」

それってアルストロメリアよりもさらに不利って事?

「その通りですね」

なんでそんな勝負をしようというの!?

「アハハハ!天下のテンカワ・アキト様はトチ狂われたようだ♪」
「おい、アキト、もうちょっと考え直さないか?」

周りは引き留めたり笑ったしているが、パパはお構いなしだった。

「シオン」

はい?私?

「そうだ。お前もやるか?」

やるって?

「肝試しだ。そうだなぁ・・・あの機体なんかどうだ?」

指さした機体はさすがにアルストロメリアだった。
けど・・・

「おいアキト、さすがに訓練もしていないシオンちゃんには無理じゃないのか?」
「そうだぜ、ここは幼稚園じゃないんだ」
「心配いらない。シオンのコネクターはパイロットとオペレータ両用のをユリカ達が付けたはずだ。少し教えれば火星会戦時の俺ぐらいには使えるはずだ」
「でもよぉ〜」
「リョーコちゃんだってサツキミドリ2号でスタンドアローンの戦闘を出来たんだ。
 アルストロメリアを使えば素人でもそのぐらい出来なきゃ嘘だろ?」
「いや、それは・・・」

え?え?え?

「ルリちゃんから教えてもらっただろ?
 アルストロメリアを好きにチューニングして良いから自分に合うように調整しろ。
 せっかくこんな辺境くんだりまで来たんだ。留守番するのもつまらないだろう」

パパはそう言う。
つまり、私はパパと一緒にプラントの中を行って帰ってくる・・・って事?

「そうだ。もし後ろの新兵達に負けたらしばらく食事はふりかけ定食だぞ」

う、ミナトさんも泣いて嫌がったふりかけ定食!?

「だ、誰が新兵だ!誰が!」

副隊長さん達が怒ってる怒ってる。
パパの心の中では私と副隊長さん達がちょうど釣り合っているらしいけど・・・
でも、私は・・・

「どうする?一緒に行くか?」

パパは私に尋ねた。
差しのべられた手
初めて私と向き合ってくれたパパ
私はその手を振り払うべきか、それとも拒絶すべきか、

私はパパが嫌いだった。

けれど・・・

私は静かに頷いた。



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第9話をお届けしました。

う〜ん、2215年編前半って所でしょうか?
とりあえず2215年辺りの雰囲気を書くことに今回は消費されてしまっているので繋ぎの回に近いですが、そこは雰囲気を味わってもらうって事で、まぁ詳しい謎解きは後半をどうぞって感じですが(笑)

一人称だとやっぱりちみっちいシオンちゃんってのを表現し難いですねぇ。
この辺り子供の口調で統一した方が良いのか、回想だから少女のシオンが少し混じっていても良いのか、思案しております。

あとあと、副隊長さんとかその隊員達とかその人達の名前とか募集中ですよ、実は。
たった2話分ぐらいしか出番はありませんが(苦笑)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・あめつち 様
・戸豚 様
・YSKRB 様