アバン


運が良いのか悪いのか、
これまですれ違い出会わずにいた二人
けれど出会ってしまったからには運命は動き出す。
地上での幸福な日々は終わり、そして激動と冒険の旅に・・・

おっとその前に修羅場のシーンから始めないといけませんね(笑)

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



宇宙軍本部のそばの路地


「そりゃ確かにパパへ秘密にしている必要なんか全然ないんだけど・・・」
「じゃどうして黙ってるんだ?」
「それはやっぱりビックリさせたいし、それに・・・」

シオンはそこまで言ってはじめて気づいた。

タラァ〜〜

冷や汗を流すシオン。
振り返るのは恐いが、恐る恐る振り返ってみる。

ギギギ〜

「パ、パパ・・・」
「シオン、やっぱり何か企んでいたのか」

少しお冠状態のアキトがそこにいた。
もちろん、真っ黒クロスケな服装に黒いバイザーをかけており、まさしく一時期の闇の王子様並の殺気を纏っていた。

「いや〜ん♪パパ、こんなところで会うなんてき・ぐ・う♪
 やっぱり私とパパは巡り会う運命にあるのね♪」
「媚びてもダメだぞ」
「そんな〜恐い顔しないで〜腕組んでも良い?」
「媚びてもダメだぞ」

媚びて誤魔化そう作戦失敗の模様(笑)
しかし、シオンのピンチを救う人物達がその場に現れた。

「な、ナナコさん!」
「お、お姉さま!」
「「え?」」

訂正。ピンチをさらに拡大する人物達でした。
振り向くとそこにいたのは驚愕の顔をした月臣元一朗と新宮寺サクラである。

「て、テンカワ・・・貴様俺のナナコさんに何を・・・」
「いや、待て!お前、何か勘違いしているだろう!」
「ナナコさんもナナコさんだ!そんな妻子持ちの女たらしに!」
「元ちゃんは黙ってて!」
ガーン!

シオンがアキトの腕にぎゅっとしがみついてベーをする光景を見て月臣はショックを受ける。そりゃそうだろう。月臣の目にはアキがアキトにしがみついているようにしか見えないのだから。
しかし・・・

ゴゴゴゴゴー・・・

「お、お姉さま・・・その男は誰ですか・・・」

オロオロする月臣よりも何よりも、そのすぐ隣でとても人の出せる量ではない殺気が膨れあがっていた。

「いや、その人誰?」
「元ちゃんの恋人?」
「違う、こいつは・・・」
破邪剣征!百花繚乱!!!
「アベシ!」

元一朗が否定する前にサクラの剣激で吹き飛ばされる。

「お姉さま、そんな不浄な存在と心を通わせようというのですね・・・
 かわいさ余って憎さ百倍!この場で成敗させて頂きますわ!」
「「何!?」」

サクラはギラギラした瞳で手に持った愛刀をシオンたちに突きつけるのであった。



「と、ここまでが前回までのあらすじですわ。決してコピペではありませんのよ♪」

いやラピさん、この修羅場にそんな口調であらすじ紹介をされても困るのですが(苦笑)



NadesicoNG(Next Generation)
第6話 戦う乙女達



再び宇宙軍本部のそばの路地


「成敗?」
ビシ!と剣を突きつけられたアキトもシオンも事情を飲み込めていなかった。

「お姉さま・・・妾の事をご存じないのですか?」
「全然」
「誰かから聞いてませんか?」
「全然」

全く心当たりがないようにサクラの質問に首を振るシオン。

「父上の馬鹿〜」
地に伏して嘆くサクラ。あれだけ自分には許嫁がいると教育したくせに肝心の本人には自分の存在をアピールしてくれてなかったなんて。

「北辰という男は知りませんか?」
「記憶にないわよ」
「そんなはずありませんわ!
 『我が生涯の伴侶』って口調の爬虫類みたいな男ですわ!」
「う〜ん、知らないものは知らないんだけどなぁ〜」
サクラの必死のものまねもシオンに通じるはずはなかった。なぜならシオンはアキではないのだから当然北辰と面識があるはずがない。
でも隣の人物は違ったようだった。

「あ・・・まさか・・・」
「パパ、知ってるの?」
「いや、確か北辰に娘がいるって、デマかなんかだと聞き流してたんだけど・・・」

我が生涯の伴侶で思い出した。
確か火星の後継者に捕まっていた頃、『我が生涯の伴侶を知っているか?』と聞かれたことがある。もちろん首を縦には振らなかったが(苦笑)
その時、娘がいるって聞いた気もするが・・・

「何故あなたが知っているのですか!」
「い、いや・・・」
「ま、まさか、あなたは・・・テンカワ・アキトですか!」
「いや・・・まぁ・・・」

アキトにとってはいろんな意味であまり会いたくない相手である。
アキトは北辰を倒した。つまり彼女にとってアキトは親の仇なのである。
当然彼女はアキトに復讐を・・・

「よく父上を成敗してくれました!」
「はい!?」
サクラは感激してアキトの手を握った。

「あの木連の恥部である父上をよく倒してくれました!」
「ち、恥部って・・・」
「思い起こせば十数年、妾はあの男のせいでどれだけ後ろ指を指され、陰口を叩かれる生活を送ったことか・・・」

サクラは遠い目をして涙まで流した。
確かにいろんな意味で頭の痛い父親だったのであろう。

「今一時だけ感謝の言葉を述べましょう。ありがとう」
「い、いや・・・感謝されても・・・」
「だが、それもここまで!」

アキトは戸惑うがサクラが友好的なのもそこまでであった。

「え?え?」
「確かに父上を葬ってくれたことに関しては感謝します。
 しかし、妾のお姉さまを誑かし、堕落させ、あまつさえ腕を組むなど言語道断!
 天が許しても妾が許しませんわ!」

ビシ!

と、剣を突きつける。

「いや・・・これは別に・・・」
「お黙りなさい!聞く耳持ちません!」
「いや、だからこいつはそんなんじゃないって・・・」
「お姉さまをこいつ呼ばわりするのですか!」

アキトはサクラの誤解を解こうとするが本人は頑なに信じていた。
しかもそれに火を付けるようにこの方の行動。

「あなた!誰か知らないけど、私とパパの事をゴチャゴチャと言わないで!」
「こら!ひっつくな!」
「お、お姉さま・・・なんという事を・・・」

サクラの頭の中では以前誰かが見たような妄想が繰り広げられていた。



妄想開始


ちちんとんしゃん〜♪

『パパさん、会いたかったどすえ♪』
『あはは、アキやっこ、会いたかったよ♪
 さぁ、ちこう寄って酌をしてくれ』
『イヤですわ、パパさん。あちきは芸者、芸を売るのが仕事どすえ』
『そう言わずに!』
『キャ♪』
『ほら、座敷の奥に布団を敷かせている』
『まぁ♪』

二人はマクラを二つに並べて敷かれている奥の間に向かった・・・



妄想終了


「嫌ですわ!不潔ですわ!」
「お〜い、もしもし〜〜」
「ダメですわ、お姉さま!芸者が体を売っては!」
「っていうか芸者って一体・・・」
サクラはイヤイヤするが、アキト達にはちんぷんかんぷんであった。

「っていうか、あなたが誰か知らないけど、私のパパを変な風に言うのはやめて!」
「お、お姉さま!」

アキトの腕にもっとしがみついて力説するシオン。
彼女にすれば当たり前の事実なのだが、それが周りに与える誤解に全然気づいていない。
サクラなんかがっくり脱力している。

と、そこに・・・

「ダメだダメだ!ナナコさん!早まっちゃダメだ!」
「あ、元ちゃん復活したんだ」
「つ、月臣・・・」

先ほどサクラに吹き飛ばされた月臣はアキトに飛びかかって胸ぐらを掴む。

「テンカワもテンカワだ!貴様、奥さんが何人もいるくせに、さらにナナコさんにまで手を出すつもりか!」
「落ち着け、月臣」
「どこまで行ったんだ!もう手を出したのか!」
「だから落ち着けって・・・」
「このケダモノ!色情魔!女の敵!」
「落ち着けと言ってるだろうが!木連式柔!!!」

どげしぃ!

つい昔の癖で月臣を吹き飛ばすアキト(笑)
先ほどのサクラよりもさらに遠くに吹き飛ばされる月臣の顔は何故か幸せそうであった・・・

「あ、なんかこのフレーズ久しぶりだなぁ・・・」
「やっぱり元ちゃん、大したことないのねぇ」
「いや、色ボケじゃないあいつはそこそこ強い」
などという親子の会話の影でサクラは衝撃を受けていた。

『あの男・・・出来る!』
たとえ色ボケとはいえ兄様は強い。その兄様を易々と倒し、あまつさえ先ほどの妾の斬撃よりも素手で遠くに吹き飛ばすなんて・・・

「そっちのお嬢ちゃんもこっちの話を聞く気がないのなら相手になるけど、どうする?」
「く!」
アキトの台詞にサクラは歯ぎしりをする。月臣クラスの相手を二人も相手にするのはいくらサクラでもきつすぎる。かくなる上は・・・

「ふ、これだけはやりたくありませんでしたが、背に腹は代えられませんね・・・
 おいでませ!妾が部下達よ!」
サクラは口笛を吹いた。
すると現れたのは・・・



六人衆娘。(ろくにんしゅうむすめまる)


テーマ曲が流れる。

「木連の未来はうぉううぉううぉううぉう♪
 世界がうらやむいぇいいぇいいぇいいぇい♪」
「ダメダメ、それは古すぎるわよ」
「この頃流行の女の子♪お胸の小さな女の子♪」
「やっぱりじゃんけんぴょんでしょ♪」
「それも古いって」
「めざせ君とバカップル♪」

何か知らないけれどその名の通り6人の女の子(推定年齢10歳ぐらい)が現れて和服に似合わないJポップをノリノリで歌い始めた。

「オホホホ〜六人衆娘。のひとり、すみれですわ♪」
「高笑いはやめなさい・・・コホン、六人衆娘。のひとり、かえで!」
「六人衆娘。のひとり、つばきです。皆さんよろしくお願いします」
「やっほ〜六人衆娘。のひとり、もみじだよ〜♪」
「六人衆娘。のひとり、かすみです。って、もみっち、もう少し落ち着いて〜」
「は〜い、アイリスです〜♪」

元気に6人が自己紹介した。
けれど最後の1人の挨拶に残りの5人が怪訝な顔をした。

かえで「六人衆娘。会議〜」
つばき「今、仲間外れがいたと思いま〜す」
もみじ「え?誰?誰?」
かすみ「ヒント。名前です」
アイリス(?)「もしかしてすみれちゃん?」
すみれ「っていうか、あんたよ、あんた!」

すみれはビシッとアイリス(?)を指さす。

アイリス(?)「ちょっと、なんで私だけ名前に(?)がついているの?」
かえで「本当にわからないわけ?」
アイリス(?)「わからないもん」
つばき「ひょっとして天然?」
かすみ「いや、確信犯かと」
もみじ「え?どういうこと?」
アイリス(?)「そうよ。おかしくないじゃない〜」
かえで「おかしいわよ。もう一度自己紹介から始めるわよ」

「すみれですわ♪」
「かえで!」
「つばきです」
「もみじだよ〜♪」
「かすみです」
「は〜い、アイリスです〜♪」

シーン・・・

辺りに白々とした空気が流れる。

一同「何であんただけ名前がカタカナなのよ!!!」
アイリス(?)「ひ〜ん〜〜 みんな恐い〜〜」
すみれ「っていうか、あなたの名前は『うめ』でしょ!」
アイリス改め、うめ「あ〜ん、その名前では呼ばないで〜」
かえで「っていうか、アイリスって何よ」
うめ「魂の名前♪」
つばき「魂の名前って・・・」
もみじ「んじゃボクも魂の名前を『コクリコ』にしたいな♪」
かすみ「さすがにそれはダメでしょ」

と、そこまで言って6人は周りの視線が自分たちに集まっていることに気づいた。




・・・コホン



一同「ということで六人衆娘。ただいま参上♪」
某アイドルグループよろしく華麗にポーズを決める少女達であった。



宇宙軍本部のそばの路地


自分で呼び出しておいてなんだが、サクラは沈痛な面もちで頭を抱えていた。
あのサクラですら頭の痛い連中であるらしい。

「・・・もしかして?」
「ええ、父上の部下の娘達です。今は妾の部下ですが」
「あいつら、あんな顔して結婚してたんだ・・・
 よく親に似なかったな・・・
 いやいや、顔で決めつけるのは良くないが」

サクラの言葉にアキトは苦笑する。あんな外道達にも嫁は来てくれるものなのか。
世の中、不思議なことはいっぱいあるだなぁ〜と他人事のように思うアキトだが、彼女達の真の迷惑度をまだまだ彼は知らなかった。

かえで「お姉さま、お呼びですか?」
サクラ「え、ええ・・・」
かえで「で、今回のお手当はちゃんと出るのですか?」
サクラ「う・・・」
すみれ「子供の駄賃じゃないのですからあめ玉一つとかはなしですわよ」
つばき「そうですよね〜せめて井村屋のフカヒレまんぐらいは奮発してもらいませんと割に合いませんよね」
もみじ「ボク、ジャンボパフェ♪トッピングは抹茶とビターチョコアイス♪」
かすみ「ダメだよ、もみっち。サクラ姉さまは純和風を尊ぶから、ここは白玉ぜんざいって所ね」
うめ「アイリス、テディーベアのぬいぐるみビンテージもの♪」
かえで「無理無理、サクラ姉さまの財力では買えませんよ」
うめ「あ、そうか♪そうだよね♪」
一同「アハハハ♪」

あ、何が愉快なのか笑う六人衆娘。達と相反して穴があったら入りたそうにするサクラ。

かえで「やっぱり今回もノーギャラですか・・・」
すみれ「ノーギャラですわね」
つばき「ノーギャラですか」
もみじ「ノーギャラなの?」
かすみ「仕方ありませんね」
うめ「んじゃ帰ろうよ〜」
一同「そうだね♪」
サクラ「だまらっしゃい!」

部下にけちょんけちょんに言われたサクラが切れた。

「お金ならありますわ!ほら!!!」
サクラはここに来る前にアクアからもらった前金を見せびらかす。

かえで「あ、サクラ姉さまがお札を持ってる」
すみれ「盗んだんですの?」
つばき「お姉さま、そこまでお金に困っているなら私達がお貸ししましたのに」
もみじ「ボクも貯金10万円までなら貸してあげる♪」
かすみ「でも私達はそんな強盗犯の部下をしていて良いのでしょうか・・・」
うめ「や〜い、強盗犯♪」
サクラ「黙りなさい!今ここで刀の錆にして欲しいのですか!!!」
一同「お姉さま、ごめんなさい〜〜」

とうとうブチ切れて彼女達を追い回すサクラ。
当然、取り残されたのはアキト達。

「・・・パパ、あの人達は一体なに?」
「いや、あまり関わり合いたくないから、このまま回れ右するか?」
「そうしようか」
「そうも行かないみたいですわよ」

こっそりこの場を立ち去ろうとしたアキトとシオンだが、ラピは困った顔でそれが無理であることを告げた。
六人衆娘。の一同の視線が二人に集まっていたからだ。

「サクラ姉さま、あれがテンカワ・アキトですか?」
「そうですわ。あなた達にはあの男の相手をしてもらいたいのです」

サクラから今回の用件を聞くと六人衆娘。達はひそひそと円陣を組んで乙女だけの内緒の相談をし始めた。

かえで「で、どう思いますか?」
すみれ「良さそうですわね」
つばき「黒尽くめですけど、イケメンって感じですか?」
もみじ「んじゃいっぱい遊んでもらえる?」
かすみ「そうね。強そうだから楽しめそうですね」
うめ「お持ち帰りしたい♪」
かえで「好み?」
すみれ「悪くありませんわ」
つばき「・・・ポッ♪」
もみじ「遊びたい♪遊びたい♪」
かすみ「お持ち帰りできるなら無給でも異存はないです♪」
うめ「お持ち帰り♪お持ち帰り♪」
かえで「でも、なぜサクラ姉さま自らお相手なさらないのかしら?」
すみれ「お姉さまはこちらの人ですから」
つばき「小指がなんなのですか?」
もみじ「ボク知ってる♪BLって言うんだよね♪」
かすみ「違いますよ。リリーってやつですね」
うめ「ってことはサクラお姉ちゃんに気兼ねなくお持ち帰りして良いのね?」

ということで乙女の秘密のお話はまとまったようだ。
周りには思いっきりダダ漏れだったようだが。

うめ「お持ち帰りして良い?」
サクラ「・・・好きにしなさい」
一同「わ〜い♪」

サクラが溜息をついて答えると六人衆娘。達は手放しで喜んだ。

「ということでテンカワ・アキトさん、六人衆娘。がお相手いたします♪」
「お相手いたしますって言われても・・・」
「問答無用!ですわ♪」

かえでが小太刀を握りしめてアキトを斬りつけた。
これは難なくかわせたものの、その死角からすみれの長刀が襲いかかってきた。

『おっとっと、一人一人は大したことないけど・・・』
アキトは心の中で警戒レベルを引き上げた。一人一人は年齢並の腕前だけど6人まとまった時はなかなか侮れない動きをしてくる。

「あ、あなた達!私のパパに何をするつもりなのよ!」
アキトが襲われている様子を見てシオンが慌てて止めに入ろうとするが、当然サクラが間に入って邪魔をした。

「お姉さまのお相手は妾ですわ!」
「えっと・・・誰だっけ?」
「新宮寺サクラですわ(泣)」

声を押し殺してキメてみてもシオンにはキレイっぱり忘れ去られていたらしい。

「あ、そうだっけ?」
「フフフ・・・まぁよろしいですわ。
 これから男の卑しさと女性のすばらしさをじっくり教えて差し上げます。
 そして晴れて姉妹(スール)の契りを結ぶのですわ♪」
「なんだか知らないけど、それもイヤ!」

ということで徐々にアキトと引き離されつつある中、アキトvs.六人衆娘。とシオンvs.サクラの戦いが始まるのであった。

「な、ナナコさん・・・」
あ、月臣だけ瓦礫の中で伸びていた。

「皆さん、お気をつけて〜」
ラピさん、呑気に送り出している場合じゃないでしょ?



アキトvs.六人衆娘。


さてこちらの戦いはというと、アキトは危なげなく六人の攻撃を受け流していた。

「子供相手に本気にもなれないしなぁ〜」
さすが闇の王子様、余裕の発言です。

「どう思いますか?皆さん」
「余裕ぶっこいちゃって感じ悪いですわ!」
「ならならボクらの実力を見せつけちゃおうよ♪」
「そうですわね」
「それでは・・・」
「イケメン王子様のお持ち帰り大作戦開始♪」
そんな作戦名では捕まりたくない名前を叫びながら10歳前後の可愛い少女達は藁々と群がってきた。

「すみれ!」
「わかってますわ!」

すみれは長刀を振りかぶり、かえでは小太刀を二刀流で構えながらアキトに肉薄した。

「動きが遅い!」
「そうでもありませんわよ」

二人の攻撃を軽く一寸の見切りでかわしたアキトであるが、かえでの顔はニヤリと笑っていた。彼女達がアキトに対して死角を作っていた場所には残りの4人が構えていたのだ。
それもかなり奇抜な格好で。

「もみっち、準備は良い?」
「いいよ、つばき♪」
「うめ、こっちも行くわよ!」
「アイリスって呼んでよ、かすみ〜!」
「「行きます、風組奥義、爆裂ボンバー!!!」」

単につばきとかすみがおチビちゃん二人を両肩に乗せて荷物を投げるような格好で待ちかまえていたのだ。

「「ドッカ〜ン」」

つばきとかすみは思いっきり二人を投げる。
もみじはクラブ(新体操選手が持つ棍棒)を、うめはどこから持ち出したかわからないがでっかい招き猫の置物を持って飛んできた。

「「ダブル流星アタッ〜ク!!!」」

すごい勢いでやってくる二人の攻撃をアキトはかわせそうにないように思えたが・・・

スッ!

ゴチン!

アキトはすっとしゃがんでかわし、二人はアキトの頭上で互いの頭をゴッチンコした。

「イタタタタ・・・」
「ひぃ〜ん、痛いです〜」
「もみっち、大丈夫!?」
「ああん、うめちゃん泣かないで〜」
「あなた、何て卑劣なの!こういう時、敵は黙って技を受けて『こんな攻撃なぞ効かぬわ!』ってやるのがお約束じゃないの!」
「それをかわしてしまうなんて言語道断ですわ!」
「い、いや、そう言われても・・・」

完全に二人の自爆でアキトのせいでも何でもないのであるが、六人衆娘。達は口々にアキトを非難した。

「え〜ん〜」
「痛いよ〜痛いよ〜」
「こんな子供を虐めるなんて酷いですぅ!」
「謝って下さい!」
「いや、謝れといわれても・・・」

口々に非難されるのにオロオロしていたアキトの背後にそ〜っと忍び寄る影!

「!」
「もらいました!」
「お覚悟ですわ!」

つばき達が非難している間にかえでとすみれがアキトの背後に忍び寄って武器を繰り出した。
アキトは右手と左手で長刀と小太刀の突きを反らした。結構やばかった。

「泣き真似している最中に騙し討ちなんて卑怯だぞ!」
「ボク達子供だも〜ん」
「年齢差もあるしこれぐらいのハンデがないと♪」
「というわけでお兄さんは正々堂々でよろしく♪」
「卑怯なことをしたら泣いちゃうぞ♪」
「おいおい・・・」

ケラケラ笑う六人衆娘。達。始末に負えなかった。




・・・



「ここは逃げるが勝ち!」
「あ〜逃げた!」
「待て!」
「まともに相手なんかしてられるか〜!」

幼女達から逃げ出すなんて我ながら情けがないと思うアキトであった。



シオンvs.サクラ


さてこちらではアキト達とは違い、ピーンと張りつめた空気が流れていた。

「っていうか、私って何であなたと戦うことになるわけ?」
「何故って・・・わからないのですか?」
「うん、全然」
「・・・お姉さまでも許しませんわよ!」

そこは複雑な乙女心、サクラは目に涙を溜めながら怒りに燃えた。

「北辰一刀流師範代、新宮寺サクラ、参ります!」
「は!」

速い、そういう前に眼前に刃が迫ってきた。先の先を取ることを信条としている木連式柔では完全に出遅れたことになる。

斬!

「あ、危な〜」
「まだまだですわ!」

ギリギリかわしたシオンに返す刀でサクラが襲いかかる。

ヒュン!ヒュン!ヒュン!

その剣先の鋭さは達人級である。

「く!元ちゃんよりも強い!」
「オホホホ、元一朗兄様なら今の斬撃の間に応手を返してきましたわよ♪」
「っていうか、あんた目の色変わってるし〜」

シオンと戦っている時の元一朗が弱かったのではない。
彼女の欠点・・・明らかに自分を殺すつもりの相手とまともに戦ったことがないのだ。しかも月臣やアキトクラスの相手と。
このクラスの紙一重で死に至る程の緊迫した戦いに出会ったことがないのだ。
未来の世界でシオンは平和であるが故に我流で技を磨いてきた。そのツケがこんな所に出てきていた。

『なんなの、この威圧感・・・』

この感覚はどこかで味わった事がある。
・・・そう、先日アキトに稽古を付けてもらったときだ。
あの時は最初の一撃で戦意を喪失した。
絶対勝てない気がして敗北を認めてしまったのだ。

けれど・・・

「なんか知らないけど、あんたなんかに負けるわけにはいかないのよ!
 ママの名にかけて!」

ここでシオンの負けん気がムクムクと起きあがっていた。
曲がりなりにも自分はアマガワ・アキの名前を騙っている。
その自分が負けるということはママが負けることと同じだ。
私が憧れているママの名を貶める・・・
それだけは絶対に許されない!!!

「それでこそ、私のお姉さまですわ♪
 さぁ私を楽しませて下さい♪」

サクラは大きく剣を振りかぶる。
剣を振り下ろす格好だ。それだけに胴が隙だらけだ。
同門の柔術使いに対してなかなかこの構えは取らない。柔術使いは懐に入って技を繰り出すことを得意とし、この構えは彼らに懐に入れと言っているようなものなのだ。
けれどあえてこの構えを取るということは・・・

ナメられているのだ。

懐に入られる前に斬撃を繰り出せる。斬撃の方が懐に入られるよりも速い、と。

「ふざけちゃって!後悔したって知らないんだから!」
「うふふ、その鼻っ柱の強い所も素敵ですわ♪
 そしてその鼻っ柱を折って嘆くお姉さまを慰める・・・
 これに勝る幸せはありませんわ♪」

恍惚の笑みを浮かるサクラ。完全にどっかに逝っちゃってる気がするが、相手は本気なだけに始末が悪い。しかしシオンも負けるわけには行かないのだ!

「おおおおおおお!」
シオンは全身の力を込めてサクラに襲いかかった。



再びアキトvs.六人衆娘。


アキトは六人衆娘。達から逃げ回りながら、引き離されたシオンを探していた。
シオンは弱くないが、サクラの方に若干の分があるように思えたからだ。

「わははは♪待て〜♪」
「お待ちなさい!」
「お持ち帰り♪お持ち帰り♪」
「あら、もちろんみんなで楽しむのよね?」
「もちろん♪」

後ろからは口々に叫ぶキャピキャピなお嬢さん達が迫ってくる。

ドスン!ドカン!ボカン!

しかも招き猫の置物とか、お地蔵さんとか、郵便ポストとか、手当たり次第投げてくるのだ。

「ええい、キリがない!」
そう思ってたまに反撃するのだが・・・

バキィ!

「ふぇぇぇぇぇ〜ん〜お兄ちゃんがぶった〜〜」
「ああ〜泣〜かした〜泣〜かした〜先生に言ってやろ〜」
「ここに幼児虐待をする男がいま〜す」
「酷いよね、こんな幼気な子供を殴るなんて〜」
「サイテ〜男の風上にも置けないよね」
「というか、人間として失格ですよね〜」

とかなんとか騒ぎ立てたあげく、近所の奥様達が群がってきてひそひそ話を始めるのだ。しかもアキトは見ての通り真っ黒クロスケな格好である。妖しさ満点である。
周囲の視線はどんどん凍てついてくる。

「くそ〜!」

結局それ以上何もできずに逃げ出す有様であった。
もちろん、六人衆娘。達は泣き真似をやめて嬉々として追いかけてくるのは言うまでもない。これではキリがなかった。

と、そんなときに
ピロピロリン♪
とアキトのコミュニケが鳴った。

「誰ですか〜 今取り込み中です〜」
『あらご挨拶ねぇ』
「い、イネスさん!?」

そう、コミュニケから現れたウインドウの主は彼の主治医イネス・フレサンジュであった。

『何よ、その露骨にイヤそうな顔は』
「いや、そういう訳じゃないんですが・・・」
『まぁその顔を見ると「お前の世話話の相手をしてやる暇はない」って感じみたいね』
「とんでもない〜」

アキトは走りながら必死に弁解する。思ったことが顔に出てしまったから余計に始末が悪かった。しかし、今この状態で『暇だから話し相手にでも』とか言われても、悪いけど相手に出来る余裕は全くなかった。

『私も遊びで連絡を入れている訳じゃないのよ。あなたの体の心配をしているだけで』
「え?いや、体は至って健康ですよ〜」

そりゃそうだ。今、元気に走り回っているのだから。
しかしウインドウの中のイネスは渋い顔をする。

『本当に?』
「本当にって何ですか?その意味ありげな表情は」
『いやぁ〜1週間ぐらい前に私が渡したものを使った形跡がないから』
「イネスさんから貰ったもの?」
『あなた、本当に忘れてるわね』
「忘れてるって何がですか?」

後ろから「待て〜♪」とかいう声を聞きながら逃げているアキトにとっては変に質問を捻られても頭が回らないのだが、イネスはやれやれと溜息をつく。

『だからカラータイマーを渡したでしょ。あれどうしたの?』
「そんなの家に置いてきましたよ。それがどうしたんですか?」
『だから、本当に忘れてたの?』
「ですから何なんですか!」
『あ、そろそろ兆候が現れてきたか・・・』
「え!?」

アキトはそこまで言われてようやく思い出した。
それは少し前の事。
具体的には一週間前ぐらい。
もう少し詳細に述べるなら第1話ぐらい(笑)
おもちゃだと思ってすっかり忘れていた。

『ほら、髪の毛とか特に』
「え〜!ちょっと待った!」

髪の毛を触ると確かに兆候があった。
しかし待ったと叫んで止まるものでもない。

「待ちなさい〜♪」
「お待ちにならないと酷いですわよ」
「泣いちゃうから♪」
「わ〜い♪わ〜い♪」

しかも立ち止まっても問題児達が迫ってくる。

「どうすりゃいいっていうのよ〜〜」
『あら、そろそろしゃべり方も女の子になってるわねぇ〜』
「うそうそ、そんなことないわよ・・・って!?」
『声変わりまで始めてるわね』
「あわわわわ〜」

あちこち綻びが見え始めている。焦るアキト。

『これは興味深い発見だわ♪女性化が言語中枢までコントロールしているのかしら?
 それとも女性ホルモンのせい?
 ぜひ今度詳細に検査して論文にまとめないと♪』
「イネスさん〜そんなことよりもこの現状をどうにかする方法を考えてよ〜」
『とりあえずそこのトイレにでも逃げ込めば?』
「そうする〜」

アキトは大慌てで女子トイレに駆け込んだ(笑)

「あ〜女子トイレに逃げ込むなんて変態さんだ〜」
「変態〜変態〜」
「やはり成敗した方が良いかしら」
「そうした方が良いですわね」
「そうしよう!」
「お〜♪」
張り切る六人衆娘。達

しかしアキトの後を追ってトイレに駆け込んだ彼女達が見たものは・・・



再びシオンvs.サクラ


こちらでは既に勝負の行方は決着しているようであった。

「ハァハァハァ・・・」
「お姉さま、もう少し楽しませていただけるものと思ってましたが・・・
 仕方がありませんわ。
 ここら辺でお終いにさせていただきますわ」

既にボロボロのシオンにサクラは恍惚の笑みで告げる。

「ふ、ふざけるんじゃないわよ!」

シオンは体を引きずりながらもサクラに挑みかかった。
けれどそれは既に神速には程遠い動きであった。

「息が上がったぐらいで動きが乱れるなんて修行が足りませんわよ。
 本当にあの父上が執着されていたのでしょうか?」
「う、うるさいわねぇ」
「でもその気高さは好きですわよ♪
 今、その鼻っ柱を折って差し上げたらさぞかし素敵になりますわ♪」

斬!

「うわぁ!」
「まだまだですわ!」

何とか剣撃をかかわしたシオンであるがサクラはさらに追い打ちをかける。

破邪剣征!百花繚乱!!!

ドゴォゥゥゥゥ!!!

「きゃぁぁぁぁぁ!」
剣撃により巻き起こる衝撃に吹き飛ばされるシオン。
しかも運が悪いことに吹き飛ばされた先がちょっとした崖であった。
いや、崖という程高くはないが、彼女達は石垣の上辺りで戦っていたのだ。

「おや、やりすぎましたかえ?」

ゴロゴロと転げ落ちるシオンを心配するサクラ。
しばらくしてドスン!と大きい音がする。
慌てて彼女が崖というか石垣の下を覗き込むと、下にあったプレハブみたいなちゃちい作りのトイレに落っこちていった。



崖の下、女子トイレ


「お姉さま、生きてますかえ?」
サクラは崖を飛び降りてトイレの中を覗き込んだ。
派手な大穴が開いているから下手をすると死んでいるかもしれない。
そう思って中を覗き込んだ彼女が見たのは意外なものであった。

「い、痛い〜」
「ごめんなさい、許して下さい、もうしません〜」
「え〜ん、恐いよ〜恐いよ〜」
「お願い、お姉さま、もっとぶって♪」
「すみれちゃんってMだったんですか?」
「お尻が痛いよぉ〜」

そこにあったのは全員お尻を真っ赤っかにしてうつぶせに倒れている六人衆娘。達の姿であった。

「あ、あなた達、一体どうしたのですか!?」
サクラは驚く。
それもそのはず、彼女達はサクラほどではないにしても6人まとまればかなりの強者だ。それを手加減しながらもコテンパンにお仕置きしているのだ。並の腕前ではない。

「テンカワ・アキト・・・ではないみたいですね」

サクラはつばきらが『お姉さま』と言っているのに気づいた。
でもテンカワ・アキトじゃないとするとアキお姉さま?
しかしアキお姉さまはさっき自分がコテンパンに叩きのめしたばかりだし・・・

何が起こったのか不可解すぎてわからないサクラだが、そんな疑問を持つ暇は与えられなかった。

ゴソリ・・・

「どなたですの!」
トイレの奥から発せられる気配に思わず身構えるサクラ。
殺気ではない。しかし静かでそれでいて気圧される程の存在感・・・

「まったく、6人もお尻ペンペンしたらこっちの手が痛くなったわよ」
声の主はやれやれと言いながら現れた。

「お、お姉・・・さま?」

サクラがそう言うのは無理もない。
奥から現れたのは亜麻の髪、黒いスーツ、黒いマント、黒いバイザー
闇を纏いし女性、アマガワ・アキだったからだ。
けれど姿形はそっくりだがさっきまで自分に対峙していた相手とはどことなく雰囲気が違うような・・・

ふわぁ・・・
彼女は気だるげに長い髪を掻き上げると亜麻の髪は流れるような美しさで宙を舞う。
同性のサクラが見ても思わず見惚れてしまうほど絵になっていた。

と、そこに!

「おおおおお、そのバストは間違いなくナナコさん!!!」

どこからか復活した月臣元一朗がルパンダイブで飛び込んでくる!

「いいから貴様は引っ込んでろ!木連式柔!」
「ナナコさん好きだあああぁぁぁぁぁぁ・・・
ちゅどーーーーん
再び吹き飛ばされる月臣。
本日一番の飛距離である。

「まったく久しぶりは良いけど、あんなのまで久しぶりってのはなんだかなぁ〜」

相変わらず女性は気だるげに呟く。
彼女の言葉に硬直が解かれるサクラ。
そう、そんなはずはないのだ。

「お、お姉さまは妾がさっき倒したのに・・・」
「お、あんたもやる?これ以上おいたが過ぎるようならお仕置きしなきゃいけないんだけど」
「お仕置きですって!?」

サクラは驚く。先ほど自分に歯が立たなかった相手が今は自分を子供扱いだ。

「な、何を馬鹿なことを・・・」
「いや、この格好でも子供に手を挙げるのは忍びないし。
 それにこの子達を連れて帰ってくれるならそれはそれで手間もかからないし」

闇の姫はサクラを明らかに子供扱いしている。少なくとも場の雰囲気は先ほどとは180度逆転していた。
いや、それもあながち間違いではないかも知れない。
現に六人衆娘達は彼女にそれこそ子供扱いで倒されたのだ。

「ハハ・・・」
「ん?」
「ハハハ・・・」
「なにかおかしい?」
「ハハハハハハ!面白いですわ!
 ぜひ勝負をご所望致しますわ!」

サクラは恐かった。
正直逃げ出したかった。勝てる気が全然しない。
目の前の人物はまるで別人である。
しかし同時に喜びも感じていた。
目の前の人物は自分が思い描いていた通りのお姉さまだったからだ。
毎夜毎夜、父に寝物語に聞かされ続け、いつか自分も彼女からロザリオをもらうのだと夢見ていたお姉さまそのままだったのだ。
確かに先ほど相手をした女性は正直物足りなかった。
けれど今目の前の相手は自分が一生着いて行くに値する存在であった。

「北辰一刀流師範代、新宮寺サクラ、参ります!」
「面倒くさいの嫌いなんだけど・・・やるからには本気で行くわよ!」

アキは懐からリボルバーを取り出す。

「そんなもの妾には通用しませんわよ!」
「さぁどうかな?」

アキはリボルバーを構えると躊躇いなく引き金を引いた。

パンパンパン!

渇いた銃声が辺りに響くがサクラは紙一重でかわす。

「言ったはずですわ!妾に銃は通用しませんわよ!」
「ったく、親父と一緒で非常識な奴」
引き金を引くきわどい瞬間に回避行動をとるのである。その見切りは賞賛されるべきものであろう。

パンパンパン!
続けて三発発射。それでもサクラには当たらなかった。

「銃は撃ち終わった後は使いものにならなくなりますわよ!」
サクラはかわしながら一気に間合いを詰める。北辰にはこれで苦しめられた。
そして弾を込める暇も与えずに肉薄し剣を振りかざす。

「チェェェェェェスト!」
その一撃は必殺の一撃、構えることも銃を撃つこともできず、刃はアキの頭上に振り下ろされるのは避けがたいように思えた。

しかし!

ガキィ!

「銃で・・・受けた!?」
「まだ甘いわね。あなたのお父さんの斬撃はかわすしかなかったわよ」

そう、アキはサクラの剣撃をリボルバーの銃身で受け止めた。
そこには胴ががら空きのサクラがいた。

「ま、まずい・・・」
刀を引いて返し手を入れようとしたサクラであったが、アキはすっと足を一歩前に出すだけであった。
それと同時に左の掌底をサクラの腹部に当てる。
相手の刀は頭上に受け流し、サクラの体はお腹を軸にさらに前のめりになる。
そしてアキはそこからさらに左肩の前方に水平移動させるだけであった。

その動きは瞬間に行われた!

津波!

ドスン!

吹き飛ばされるサクラ。
それを冷ややかに眺めるアキ。

「筋は悪くないけど殺気が前に出過ぎよ。おかげでタメが出来ているから攻撃がバレバレ。殺気を消すか、攻撃を悟られても構わないぐらい神速を極めなさい」
「そ、そんな・・・」
「ちなみにあなたのお父さんは後者。
 まったく、ふざけている上に始末に悪いんだから」
「うう・・・こんなはずありませんわ・・・」
「どうする?少しだけ天国見てくる?」
「そんなはずありませんわよ!」

怒りからか、畏怖に立ち向かいたかったからか、それとも歓喜だったからか、
サクラは震える足を叱咤しながら必死に立ち上がった。
そして剣を構え、そしてアキに立ち向かっていった。

アキはやれやれと溜息をつきながら構える。

波陣!

ドゴォォォォォウ!

「あ〜〜れ〜〜」

サクラはアキの一撃で遠くまで吹き飛ぶのであった。



夕暮れ時の帰り道


ふわふわする。
何だろう?この感じは・・・
鼻歌混じりのささやき・・・

『眠れ良い子よ♪』

まぶたが重くなる心地よい声
鼻をくすぐる長い髪の感触
暖かく柔らかい背中・・・そう、背中だ。
自分は誰かに背負われているのだ。

「まったく、無茶するんだから」

すぐ耳元に届く女の人の声
どこか懐かしい女の人の声
どこかで聞いた気がする
あれはどこだろう?

むかしむかし、遠い昔
まだ背負われて子守歌を聞いていた気がする。
その時に聞いた懐かしい声
それはほんの一時、わずか数週間の出来事
けれど何故か記憶に焼き付く、懐かしい声
それは遙か昔、まだ自分が赤子だった頃の思い出・・・




ママ・・・



『なに?シオンちゃん♪』
確かにその声はそう答えてくれた気がした。
けれど意識は急速に覚醒する。

「起きたのか?」
現実に急速に戻される。
それは低い男性の声だったからだ。

「・・・パパ?」
「ああ、そうだが、どうした?」
「えっと・・・何でもない」

シオンは急速に状況を理解した。
今自分はアキトに背負われて帰宅の徒に着いていたのだ。隣にはラピが付き従っている。
体の節々が痛い。
きっと全身傷だらけなのだろう。

それにしてもケンカのあげくボコボコに倒されてパパに背負われて帰るなんて!

「も、もう平気だから降ろして〜」
「ダメだ。けが人は黙って背負われていろ」
「でも・・・」
「こんな時ぐらい甘えていろ」

もう子供じゃないのに背負われているのは恥ずかしかったが、未来のアキトはここまで甘やかしてくれなかったので、黙って背負われていることにした。

こんな風にパパに背負われるなんていつ以来だろう。
パパの背中がこんなに大きいなんて知らなかったな・・・

「それはそうと、あの人達はどうしたの?」
「あの人達?」
「あのサクラとかいう剣を持った人」
「ああ、あれか・・・」
「パパが倒したの?」
「まぁ、そんなような、そうじゃないような」

アキトは言い難そうに誤魔化し、隣でラピがクスリと笑う。

「やっぱりパパ強い♪本気でパパに稽古着けてもらおうかな」
「稽古は良いけど、今日セイヤさんのところで何をやっていたか吐いてもらうぞ」
「あ、それも困る〜」
「誤魔化すな」
「え〜私けが人だし〜」
「そんなにしゃべれるならやっぱり降りろ」
「やだもん♪もう少しおんぶしてもらう♪」
「はいはい・・・」

シオンはアキトに甘えるようにしがみつき、アキトは少し困ったがまんざらでもなさそうな顔で歩いた。ラピだけがクスクス笑うのであった。

夕暮れの中、ママに会えたような、パパに甘えられたようなちょっぴりいい気分のシオンであった。



おまけ


ちなみに、アキにやられた少女達はというと・・・

「お姉さま、どこまで後を付けるのですか?」
「私、痛みで気を失いそうです」
「というか見つかったらどんなお仕置きをされるかわかりません〜」
「病院に行きましょうよ〜」
「そうしましょう、そうしましょう」
「もう眠いです〜」
「黙りなさい!お姉さまを見失っても良いのですか!!!」

包帯ぐるぐる巻きのミイラみたいな7人の少女達が尾行しているなんて、ほんわかとしたホームドラマのようなシオン達が気づくはずもなかった。



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第6話をお届けしました。

やっと出ましたねぇ〜本物のアキさん。
とまぁ、時々思い出したように助けに来てくれるタキシード仮面もとい紋付き羽織袴仮面みたいな存在にしようかと考えております(笑)

そのうち本物もストーリーには絡んでくるのでしょうが、まぁ当面は・・・というか本物の主人公はやっぱり偽アキさんなのでお間違えなく。

で、新キャラの六人衆娘。などというのはどんなものでしょうか?
ただ可愛くてちっちゃい女の子達がワイワイ騒いでいるのを書きたかっただけなのですが、結構インパクトがあるような。サクラが霞むようなキャラを作っちゃまずいのでしょうが(苦笑)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・Chocaholic 様
・戸豚 様
・にゃ♪ 様