アバン


暇を持て余したお姫様、そのお守りを任された才媛、そして最後に自称ソードキャプター
この三人が寄り合って劇場版映画を作ろうっていうんですから、ほとんど冗談のようなお話ではないでしょうか?

とりあえず、オーディションはお流れになったようなのですが、逆にシオンさんに闇の魔の手が迫ることに・・・
ご本人は着々と計画を遂行中ですが、のんきに構えていたら例のはた迷惑な方達と遭遇しますよ?

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



テンカワ家・食堂


相変わらず真っ黒クロスケの出で立ちで家を歩き回るアキトであるが、その顔は微妙に緩んでいた。なぜなら目の前に広がる食堂の形が整い始めてきたからである。
そう、それはアキトの夢でもあった。

自分の料理店を持つ。
そんな夢を持ったのは一体いつの頃だろうか?
ナデシコAを降りた頃だろうか?

あの頃は屋台のラーメン屋をやりながらいつかは自分だけの料理店を持ちたいと夢見ていた。料理人なら当然の夢だろう。
しかしその夢は無惨にも打ち砕かれた。
火星の後継者と北辰という男によって、しかも新婚旅行という人生の新たな再出発の日にである。
それから彼はボソンジャンプの人体実験の材料として扱われ、五感を破壊された。
助け出された時には廃人同様だった。
廃人だった彼がどうにか立ち直ったのは同じく浚われた妻を救うという執念ゆえであった。

そして彼は夢や日常を捨て復讐人となった。

「そうか・・・そんなこともあったな・・・」
アキトは昔を懐かしがる。

復讐人となり仇敵北辰を倒した後、夢を捨てた彼は日の光の当たる場所には戻らなかった。妻や義理の娘ら彼を待つ者の元に決して戻ろうとしなかった。
人体実験された結果、ナノマシーンの暴走により愛する者達を傷つける体となってしまったからである。

「ああ、本当に大変だったなぁ〜」
アキトは切なげに過去を思い出す。

全ての決着がつき、忌まわしい体の治療法も見つかり、治療をして失った五感を取り戻した。取り戻したのは良いのだけれど・・・

「まさか男を捨てることになるとは思わなかった」
アキトはホロリと泣く。

そう、治療はナノマシーンが書き換えたDNAを修復する必要があったのだが、何かの手違いで女性の体になってしまったのだ。
結局根本治療が無理らしいと判明し、歴史を改竄して火星の後継者なるものが発生する要因を無くしてしまうという荒療治を行うことにした。
そして彼・・・いや彼女は同じ歴史をもう一度なぞった。

「色々あったなぁ・・・すごく思い出したくないけど・・・」
アキトはホロリと泣いた。あまりにも辛いことがあったらしい。

『我が生涯の伴侶!』

とか

『ナナコさん!』

とか、すごく思い出したくない思い出がいっぱいだった。
過去の騒動に決着を着けたものの、女の姿のまま未来に戻って来てしまい、何をしに行ったかわからない状況だったのだが、アイちゃんの混じったイネス・フレサンジュが治療法を発見したのだ。

「なら私の今までの努力は一体・・・」
と女性の姿で悪態をついたアキトであるが、それ以上言うとイネスがへそを曲げて手術してくれなくなるので口を噤んだ。

そして手術は無事成功!

こうして男の身に戻り、しかも五感も取り戻すことが出来た。
おまけにこうして料理店まで構えることが出来るのである。
感無量とはこの事である。

「さぁこの店ももう数日で開店か・・・」
アキトは店を見渡して感慨深げだが、どこかで何か引っかかるものが心の片隅に残っていた。
『なんだったかな・・・』と首を傾げたが思い出せなかった。
大したことじゃないのか、それとも思い出したくないことなのか、
どちらにしても思い出さない方が幸せなことなのだろう。

「パパ〜ご飯まだ〜」

寝ぼけ眼で降りてきたのはいつの間にかアキトの家に居着いた自称アキトの娘、テンカワ・シオンである。未来からやってきて不思議な道具でパパであるアキトを幸せにしてくれるらしい。

「私はドラえもんじゃないよぉ〜」
「遅いご起床だなぁ〜」
「半分徹夜気味・・・」
「そんな遅くまで一体何をやってるんだ?」
「ん・・・まぁちょっと」

娘は眠そうにしながらもこちらの質問を上手くはぐらかす。

「ねぇパパ、ご飯は何?」
「ご飯に味噌汁に塩じゃけ」
「え〜〜パンが良い〜〜」
「ぜいたくを言うな」
「ぶ〜」

アキトは最近自分でもこの押し掛け娘のあしらい方が上手くなってきたように思う。
いくら大人びたところがあったり、大人顔負けの能力があっても所詮子供っぽさが抜けてないのだ。子供っぽい女性達にはいい加減慣れている。

遠くのユリカ「くしゅん!」
遠くのラピス「くしゅん!」
遠くのメグミ「くしゅん!」
遠くのルリ「・・・・・・(私、もう子供じゃありません。少女ですから)」

「ねぇ〜パパ♪
 トーストとベーコンエッグにしてぇ〜♪」

シオンは体をくねらせて色っぽい仕草をする。
これが3年前のアキトなら如何に自分の娘とはいえ真っ赤になって慌てたことだろう。

しかし・・・

「色気づくならせめてそのボサボサの頭と寝起きの顔を何とかしてから言え」
「ぶ〜酷い〜〜!」
「第一、家の中とはいえラフすぎる」
「ああ〜もしかして目のやり場に困るとか♪」

シオンは少しはしゃぐ。彼女の格好は短パンにTシャツのみの姿であり結構薄着だ。素肌も見えるので純情少年なら赤面すること請け合いである。
けれどアキトは素っ気ない一言を返す。

「見飽きた」
「み、見飽きたですって〜〜聞きましたか、奥さん!」
「ええ、聞きましたとも」
「ラピさんまで混じって・・・」

ラピとはシオン専属のメイド(体はロボット、頭脳はオモイカネ・ラピスedition)であるが、その彼女とシオンは『家政婦は見た』ゴッコをし始めた。

「そっか〜既にママ達と酒池肉林の・・・」
「どこで覚えた、そんな言葉!」
「マスター、ちょっぴり下品ですわよ♪」
「でも見飽きたっていうことは・・・」
「下世話な想像をするな。別に誰に見せてもらわなくても・・・」

と言いかけてアキトは言葉に詰まった。
まさか数週間前までの自分の体を見慣れていたなどと言えるはずもない。

「見せてもらわなくても?」
「あ・・・」
「見せてもらわなくても何なの?」
「ほら、早く食卓に着け。トーストにベーコンエッグを作ってやらないぞ!」
「あ〜誤魔化した〜」
「そんなにご飯と塩シャケがいいのか?」
「ぶ〜」

それはまるでホームコメディーにでも登場するような何気ない朝の日常であった。
アキトはそんな日常がこれからも続くものとばかり思っていた。



NadesicoNG(Next Generation)
第5話 めぐり会い宇宙(軍本部のそば)



宇宙軍本部のそば


ケンは本部前の光景を見て溜息をついていた。
既に何人の警備員が排除に向かったのであろうか?
しかしその誰もが目的を遂行することは出来なかった。

本部前にはテントが二つ
片方は月臣元一朗の所有であり、もう片方が新宮寺サクラという女性の所有である。
現在彼らは宇宙軍本部の前にテントを張って路上生活中である。
警備員はこの不法に路上生活をする彼らを何度も実力行使で排除しようとしたがことごとく失敗した。それもそのはずである。

月臣元一朗は元木連優人部隊のエースであり、木連式柔の免許皆伝の腕前である。かつては火星の亡霊テンカワ・アキトにも師範したとされ、表の月臣、裏の北辰とも評される程の実力者である。現在はネルガルシークレットサービスの隊長を務めていると言われているがそれもうなずける話である。

対する新宮寺サクラのエピソードは同じ木連出身のテンクウ・ケンも知らないのだが、月臣曰く同じ道場の門下生で妹弟子なのだそうだ。
そして嘘か真かわからないがあの北辰の一粒種らしい。

さてさてこの二人を力ずくで排除する、それはとてつもなく困難、いや今の今まで不可能であった。

「兄様、そろそろお食事に出かけたらどうですか?」
「そういうお前こそ」
「師兄は敬うものですわ」
「こういうときこそレディーファーストだ」

今日もそんな会話から二人の一日は始まる。
譲り合いが始まったと思ったら今度は互いを罵り合う。

「もし俺がこの場を離れている隙にナナコさんがここを訪れたらどうするつもりだ」
「その時は妾がお引き留めしておきますわ」
「お前がそんな殊勝な事をするものか!」
「その言葉、兄様にそっくりそのままお返しいたしますわ」
「貴様!それが師兄に対する口のききかたか!」
「レディーファーストが聞いて呆れますわ」

とまぁ意見はことごとく対立している。
けれど、仲が悪いところに乗じて実力行使をしようとすると・・・

「俺とナナコさんの再会を邪魔するつもりか〜!」
「妾とお姉さまの感動の再開を邪魔するお方は天が許しても妾が許しませんわ!」
「「破邪剣征・百花繚乱!!!!!!」」

とまぁ自己中な台詞を吐きながら宇宙軍の猛者どもを薙ぎ倒していった。
しかもきっちりと合体技まで繰り出して。

「仲が良いんだか、悪いんだか・・・」
ケンは二人の様子を遠巻きに眺めて溜息をつき、コミュニケを操作した。

「あの〜ネルガルの会長さんですか?
 引き取ってもらいたい人物がいるんですけど・・・」

そう切り出してみたものの、スクリーンに現れた人物はそれどころではなかった。

『はいはい〜アカツキ・ナガレだけど・・・』
『こら!アカツキ君!あなたサボってるんじゃないわよ!』
『でももう三日三晩徹夜だよ〜』
『誰が仕事を溜めたと思ってるのよ!』
『でも少しくらい休憩をしても〜』
『誰が徹夜までして手伝ってあげていると思っているのよ!
 一刻も早く帰りたいからに決まってるでしょ!
 それとも何?このまま帰っても良いわけ!』
『いや、今エリナ君に帰られるとネルガルが倒産しちゃうよぉ〜』
『ならさっさと片づけるわよ!』

ケンはそれ以上聞くに堪えず、静かにコミュニケを切った。
この人物の引き取り手はしばらく現れそうにないだろう。
彼は再び深い溜息をつくのであった。



テンカワ家・玄関


「んじゃ行って来ま〜す」
「毎日毎日、どこへ出かけてるんだ?」
「まぁ色々散歩♪」
「散歩ねぇ」

既にシオンは靴を履いて出かける準備をしていた。アキトが行方を聞いても散歩とか何とかもっともらしい理由を付けて誤魔化す。何回繰り返されたかわからないが聞き出すのは無理のように思えた。

とはいっても、こそこそ後をつけ回すのも何だし・・・

「心配なら一緒についてくる?」
「子供のお守りじゃあるまいし」

笑って言うシオン。
ったく、こっちの心を見透かしたように言うのだから始末が悪い。

「残念、せっかくデート出来ると思ったのに〜〜」
「甘えるな。それよりも早く帰って来るんだぞ。
 門限7時」
「え〜それこそ子供扱い〜せめて9時〜」
「娘じゃないのか?俺の」
「でも〜」

変に大人びているかと思うと、こういうところは甘えたい盛りなのか子供っぽい。
ついついアキトも甘やかしたくなるらしい。

「あのなぁ、それでなくたってユリカ達は最近仕事で忙しいらしくて帰ってこないんだ。遅いというなら飯の用意はしないぞ」
「え〜〜パパの料理美味しいのに〜〜」
「料理ぐらい自分で作れるだろう」
「パパの料理っていうのが大事なんじゃない〜〜」
「そう思うなら早く帰ってこいよ」
「は〜い。ラピ、行くわよ」
「それではアキト様、行って来ます♪」

シオンは少しふてくされるとラピを伴って出かけていった。
送り出したアキトはふぅと溜息をつくが、すぐに思考は数日後に開店する食堂の事に移った。

アキトにとって珍しく一人っきりの充実した日々であった。



宇宙軍本部のそば


さてさて宇宙軍の玄関の前ではテントの主二人が脂汗を流していた。
何かどうしても我慢できないことを必死に我慢しているように見えた。

「に、兄様・・・」
「な、なんだ?」
「我慢もいい加減になさったらどうですか?」
「そういうお前こそ我慢の限界なのであろう?」
「いえいえそんなことはありませんわ。そういう兄様こそ」
「そういうお前こそ」

二人はやせ我慢をしながら互いを牽制し合っていた。

「我慢なさると膀胱炎になりますよ」
「そういうお前こそ、既になりかけなのではないか?」
「妾はまだまだ余裕ですわ」
「ならば、俺も余裕だ」

意地を張らなければいいのに・・・と見ている周りは思う。
既に二人の我慢大会の様相を呈している。

「・・・兄様、いま妾の一升瓶を見ましたか?」
「ん?何のことだ?」
「殿方はよろしいですわね。いざとなったらどこでも用が足せて」
「な、何を言う!」
「まぁ兄様の短小で粗末なものでしたらその小さな瓶の口にでも入りますでしょうし」
「き、貴様!俺はそんな破廉恥ではない!」
「そうですわよね。兄様がそんな破廉恥なことをなさるはずがありませんよねぇ」

彼女は相手の必殺技を封じる事に成功した。

「アハハハ・・・」
「フフフ・・・」
「ア、アハハハ・・・」
「フ、フ、フフ・・・」
「ア、ア、ハハ・・・」
「フ、フ、フ、フ・・・」
「ア、ア、ハ、ハハ・・・」
「フ、フ、フ、フ、フ・・・」

顔は既に赤いのから青いのに変わっていた。
もう時間の限界と思われていた。

ガシ!
二人は互いに相手の手を握った。

「やせ我慢をするのは健康に良くないぞ!俺がお前を便所に連れていってやる!」
「やせ我慢をするのは健康に良くありませんわ!妾が兄様を厠へ連れていって差し上げますわ!」

二人の声は完全にハモり、互いが互いの手を引っ張って全く同じ目的地に駆け出した。




数分の後・・・



「こんちわ〜っす」
「こんにちわ」
「テンクウ少佐いますか?」
「ええ、お呼びいたしましょうか?」
「お願いします♪」

守衛はデレデレしながら女性を招き入れた。

それを見ていた別の守衛は溜息をついた。

「あの二人、少しでも協力するつもりがあったら簡単に目的を果たせるのになぁ〜」

しかし互いに相手のことを信用できない以上、出し抜かれるという猜疑心が二人の協力を拒むのであった(笑)



某スタジオ・控え室


「ふぅ〜やっと終わった〜」
メグミ・レイナードは本日の収録が終わって一息ついていた。

「メグちゃん、ご苦労さん」
「あ、マネージャーさん」

部屋に入ってきたマネージャーはメグミに労いの声をかけるが、その態度を敏感に察したメグミは渋い顔をする。

「今日は最高だったわよ」
「・・・また新しいお仕事ですか?」
「え!?」

マネージャーの女性はギクッとした顔になる。
どうも図星だったみたいだ。

「だって最近メグミちゃん、お仕事頑張ってるみたいだし」
「もちろんですわ。ドンドンお仕事片づけないと」
「でしょ?だからもうちょっとお仕事を入れても良いかなぁ〜と思って」
「で、私をお家に帰してくれないわけですね?」
「い、いや〜そういうわけじゃ無いけど〜」

メグミのジト目にマネージャーさんは明後日の方向に向く。

「私が何のために頑張ってると思うんですか!
 無理してでもお家に帰るためなんですよ!
 その為の時間のやりくりをしてくれるって契約したときに約束してもらえましたよね!」
「あははは、それはよくわかってるんだけど〜
 色々あって断れないプロダクションさんのお話が多くて〜」
「大体最近まで活動を休止していたタレントにこのお仕事の量は異常ですよ!」
「いや、まぁ色々話題性があって〜」

拗ねるメグミを何とかなだめようと必死のマネージャー。
確かに仕事に復帰するときの約束ではちゃんとゆとりを持った仕事量に押さえてくれるという話であった。こんな売れっ子か駆け出しのアイドルみたいな殺人スケジュールを組んでくれなんて言った覚えはない。

けれど事務所とは入れられるだけスケジュールを入れるものである。

「でもでもお仕事の内容だけ聞いて欲しいなぁ〜それから判断しても遅くないでしょ?」
「マネージャーさんがそうやって下手に出る時は長期のロケとかそんな内容に決まってます!」
「ギク!」
「やっぱり図星なんですね?」
「い、いや〜♪」
「嫌ですよ。ようやく縦断コンサートも終わって、残りのめぼしいお仕事を片づけたらお家に帰る時間が出来るって時に」

嫌がるメグミも決してわがままを言っているわけじゃない。
ようやくマラソンでゴールが見えたかと思ったのに、その直前であと42km走れって言われたようなものだ。これ以上走らされてはたまったものではないと思うのも無理はない。

「メグちゃんの気持ちも分かるけど、これはあなたのキャリアの為なの」
「私の?」
「ええ、今回は報道なのよ!」
「報道?」

マネージャーさんは拳を振り上げて力説する。
報道、ニュース番組、それらはタレントのステータスでもある。
タレントにはやはりそれぞれランクがあり、下の方はお笑いやアイドル声優にスポーツタレント、それにお色気アイドルなんかがいて、真ん中らへんが歌手や俳優あたり、そしてそして一番上はやはりニュースや報道が出来る司会者などだろう。

「そうなのよ!これはビッグチャンスなのよ!
 なにせあの古代火星文明の秘密がわかるかもしれないのよ!」
「古代火星文明の・・・秘密ですか?」
「あら、なに知らないの?」
「誰かさんが入れてくれたスケジュールのおかげでニュース見る暇ないんです」

メグミの嫌味をさらりと流してマネージャーさんはさらに続ける。

「木星の惑星軌道上に新たなプラントが見つかったの、知らないの?」
「ああ、そういえばそんなのがあったような・・・」

確か、シオンちゃんがやってきた頃にそんなニュースを聞いたような・・・

「そうよ!今ホットな話題といえば木星のプラント!
 古代火星文明の新たな秘密が見つかるかもしれないのよ!」
「はぁ、それで?」
「それでって、もちろん突撃レポートに決まってるじゃないの!
 その名も宇宙ウルルン探検記!」
「いや、それは少し違う気が・・・」
「メグミちゃんの愛あり、涙ありの冒険の物語!」
「突撃レポートって言っても、既に軍とか管理公団が乗り出しているんじゃないですか?」

勝手に盛り上がるマネージャーさんにメグミは至極まっとうなツッコミを入れる。
まぁユリカと一緒に暮らしている関係でそういう方面にある程度詳しい。
今頃ユリカが遺跡の管理公団の長として保全活動に動いているはずだ。当然様々な団体が利権確保に動いている事だろう。
そんな中に報道が乗り込んでいっても門前払いを食らわされるのがオチだ。

「だからこそ行くのよ!報道としては密室で決められるプラントの所有権争いを克明にレポートすればピューリッツァー賞も間違いないし!」
「行きませんよ」
「え?」

マネージャーさんはメグミが感動にむせび泣いて快諾の返事をくれるものとばかり思っていたが、本人には一片の感動も与えていなかったようだ。

「え?でも・・・」
「これ以上家を開けたらあの押しかけ娘がアキトさんに甘え放題じゃないですか」
「いや、甘え放題って・・・」
「そのお話、誰か他の若い人にチャンスを与えてあげて下さい。
 私は愛する人と暮らせれば後は程々でかまわないんですから」
「そんな〜メグちゃん〜」

メグミのすげない返事に涙するマネージャーさんであった。



数十分後、宇宙軍本部のそば


結構な時間が経過してからはた迷惑な二人は帰ってきた。

「どうしてこういうときに限って近くのトイレが全て満室なのだ!」
「ちり紙を買うお金さえあれば、駅前にまで貰いに行かずに済んだものを・・・」
がっくり肩を落として帰ってくる二人をさらに悲しい現実が待ち受けていた。

「え?黒い服装をした女性?さっき来ましたよ」
「「ええ〜!!!」」

守衛さんは彼らのショックを慮らずにあっさりと答えた。
確かにあれだけ我慢して我慢して、我慢して待っている間は全然来ずに、ほんの一時とその場を離れた合間に彼女が現れたのだ。
悔やんでも悔やみきれない。

「何故だ〜!」
「いや、何故と私に聞かれてましても〜」
「どうしてその場で引き留めなかったのですか!」
「いえ、私はただの守衛でして、引き留める権限など・・・」

ガクガクと守衛の肩を揺さぶる月臣とサクラ
しかしいくら守衛を責めても何も解決はしない。

今回の失敗は空白の時間を作ったことにある。
ならば空白の時間を作らなければ・・・
月臣とサクラが互いを見やる。

『ここでサクラと協力体制を敷けば・・・』
『ここで兄様と協力体制を敷けば・・・』
二人は同時に同じ事を考えた。目的は同じなのだ。
ならば・・・

<月臣の妄想>

『サクラ、留守番を任せるぞ』
『あい、任せてたもれ』
『やっほ〜いたいた♪サクラちゃ〜ん♪』
『まぁ〜お姉さま♪』
『探したのよ。どこに行っていたの?』
『妾はずっとお姉さまをお慕いして、ここでお待ちしておりましたわ♪』
『キャ♪うれしい。じゃこれからどこに行く?』
『そうですね、二人で露天風呂なんてどうでしょうか?』
『いいねぇ♪でも、誰かと一緒だったんじゃないの?』
『オホホホ、そんなことあるはずないですわ♪
 さぁ邪魔者が来ない内に行きましょう♪』

<サクラの妄想>

『兄様、お留守番お願いします』
『ああ、任せておけ』
『やっほ〜いたいた♪元ちゃ〜ん♪』
『おお〜ナナコさんではないか♪』
『探したのよ?どこに行っていたの?』
『何をいう。今まで君を待っていたのではないか』
『キャ♪うれしい。じゃこれからどこに行く?』
『そうだな、夜景の奇麗なレストランで食事などどうだ?』
『嬉しい♪でも、誰かと一緒だったんじゃないの?』
『アハハハ、そんなことあるわけないじゃないか♪
 さぁ邪魔者が来ない内に行こう♪』

<妄想終了>

『こいつだけには絶対任せられない!』
『この人だけは絶対信用できませんわ!』

互いを猜疑心の眼差しで睨み付ける光景を見て、二人が協力することは不可能のように思われた。



ミナトの家


「アキト〜♪」

ヒシ!
突然の来訪者であるアキトにラピスが感激のあまり抱きついた。

「王子様、悪い魔法使いから囚われの姫である私を救い出して」
「救い出してって(苦笑)」
「そうよ、ラピスちゃん。人聞きの悪い!」

奥から出てきた女教師ルックのミナトが手に指示棒を持ちながら現れた。

「もうお勉強はイヤイヤ!」
「ワガママ言わないの!留年しちゃうよ」
「いいもん。別に学校に行かなくてもアキトに永久就職するから」
「まったくこの子はどこでそんな言葉を覚えてくるのやら」
「あははは・・・」

妙に俗っぽいラピスに苦笑するアキト。やっぱりユリカ達と長く一緒に居すぎたからか?

「でもアキト君、珍しいわねぇ。どうしてここに?」
「いや、ラピスの様子を見に来たというか、陣中見舞いッス」

格好は真っ黒クロスケなのに言葉遣いは昔のアキトに戻りつつあるのに少し安心するミナト。その彼は手に岡持を持っていた。

「もうすぐ開店なんで出前の練習がてら差し入れを持ってきました」
「わぁ♪」
「嬉しい♪」
岡持から覗く美味しそうな料理にミナトもラピスも大喜び。
しかし・・・

カタン!
アキトは開いたはずの岡持を再び閉めた。

「え?アキト、どうして岡持閉めちゃうの?」
「だってラピスはもう帰るんだろ?」
「え?え?え?」
「これは勉強を頑張る子の為に持ってきたんだ。
 それがもうやめるなら差し入れはなしで当然だよな?」
「う、うじゅ〜」

ラピスは岡持を物欲しそうに眺めながら必死に葛藤していた。
数秒後・・・

「勉強します・・・」
「よろしい♪」

アキトはニッコリ笑って岡持から料理を取りだした。

「アキト君ありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして」
「もしラピスちゃんがそれでも帰るって言ったら椅子に縛り付けてでも勉強させようかと思っちゃったわ♪」
「そ、それは・・・」
「冗談冗談♪」

相変わらずなミナトに苦笑するとアキトは二皿だけテーブルに置くとそのまま帰ろうとした。

「アキト、一緒に食べないの?」
「そうよ。せっかくだからアキト君も食べていけば?」
「いや、寄るところがあるんで」
「寄るところ?」
「ええ、シオンちゃんがセイヤさんのところで何かやってるらしくて」
「シオンちゃん?」
「小娘!敵!」
「ああ、噂の未来から来たアキト君の娘ね」
「ええ」

アキトは苦笑する。ラピスはシオンちゃんのことをミナトさんにどんな風に話しているのやら。アキトはその未来から来た娘がウリバタケに迷惑でもかけていないかと心配で出てきたついでに彼女を捜してみようと思っていたのだ。



宇宙軍本部のそば


さてさて人騒がせな二人はというと・・・

グルルルルルル〜〜
ギュルルルルル〜〜

「兄様、お腹の虫が目を覚ましたのではないですか?」
「そんなことはない。そういうお前こそ」
「あら嫌ですわ。私がそんなはしたない事をするわけがないじゃないですか」

グルルルルルル〜〜
ギュルルルルル〜〜

「説得力がないぞ」
「そういう兄様こそ」

二人とも意地を張るが、互いに一歩も引かなかった。
しかし今回は月臣の方が上手だった。

「フフフ」
「どうしたのですか?兄様。空腹すぎて気が触れましたか?」
「俺は今、自分の日頃の行いの良さに笑いが止まらないのだよ♪」
「兄様が日頃の行いが良い?何かの冗談でしょ」
「フフフ、笑っていられるのもこれを見てからだ!」

ジャ〜ン!

月臣が取り出したものを見てサクラも驚愕した。

「そ、それは・・・」
「そう、カップラーメンだ!
 ケンの奴から飯ごう炊さんはダメだと言われて買っておいたのだ!」
「そ、そんな・・・」

勝ち誇る月臣に泣き崩れるサクラ
そんなサクラを横目で眺めながら月臣はさっさとお湯を沸かす。

グツグツグツ・・・
グゥ〜〜
グツグツグツ・・・
グゥ〜〜

月臣は満面の笑顔でお湯が沸くのを待ち、サクラはそれを横目で眺めていた。

コポコポコポ〜

月臣は満面の笑顔でお湯をカップラーメンに注ぎ、3分待つ。
少しずつ美味しそうな匂いが立ちこめるのに耐えきれないように立ち上がるサクラ。

「どうした?サクラ」
「別に」
「どうだ?一口だけなら分けてやらんではないが?」
「敵から施しを受けるほど落ちぶれておりませんわ!」

サクラはすっくと立ち上がると腰にぶら下げていた刀に手をやる。
そして静かに鯉口を切る。

斬!

「な、何をするサクラ!」

月臣は驚いてカップラーメンを大事に抱えながら飛び退いた。
そりゃ驚くだろう。
いきなり斬りかかられれば。

「もちろん、力尽くで奪い取れば施しを受けたことにはなりませんわ!」
「貴様!それでも木連の武人か!」
「フフフ、お覚悟下さい、兄様!」

ヒュン!
ズサ!

閃く白刃をラーメンを抱えながら逃げまどう月臣
しかしそれにも限界があった。

「危ない、止せ!」
「大人しくその糧食をお渡しなさい!」
「危ないと言っているだろう・・・」

カクン!
逃げるのに必死で思わず小石に蹴躓く月臣。
その拍子にカップラーメンを放り投げてしまった。

「ああ〜!俺のラーメンが!」
「いただきますわ!」

宙を舞うカップラーメンに手を伸ばす二人。
マトリックスなら多分どちらかが無事キャッチできたであろう。

しかし・・・

「「アチィィィィ!」」

頭からもろに熱湯のラーメンをかぶる二人であった。




数分後・・・



「ああ、また黒い姿をした女性が来ましたよ?」

守衛さんの無情な一言が浴びた熱湯ラーメンを洗い流し、着替えてきた月臣とサクラを落胆させたそうな。



ウリバタケの工場


「ただいま〜」
「アキちゃん、何度も悪いなぁ」
「いえいえ、どういたしまして」

宇宙軍へお使いに行っていたシオンにウリバタケは労いの声をかける。

「もうセイヤおじさまったら、軍の識別コードを入れ忘れるなんて」
「アハハハ、すまんすまん。早速コードを組み込むから」
「はい」

シオンは小さなディスクを渡す。
これがないと宇宙軍からPODが所属不明機と識別されてしまう。
ウリバタケはそれを受け取ると早速作業を開始した。
で、シオンはというと・・・

「フフフ♪」
完成間近のPODを眺めてニヤニヤしていた。
改造もあらかた終わり、自分のチューニングデーターも打ち込み終わった。
あとは実際に起動させて微調整して完成だ。

「でも問題はどこで動かすかだな」
「そこらの公園で良いんじゃないの?」
「おいおい、アキちゃん」

相変わらずシオンのことをアキと勘違いしているウリバタケはヤレヤレと呟く。

「こんなものを無許可で動かしたら道交法違反でしょっ引かれるぞ」
「え?」
「それで済めばまだしも、武器の不法所持、酷いときには騒乱罪で即死刑だ。
 機動兵器なんて軍務で使うからこそ使用を許されるんだ。
 そのぐらいアキちゃんなら知ってるはずだろ?」
「ア、アハハハ♪冗談に決まってるじゃないの♪」
「本当に・・・冗談か?」
「本当にマスターはお茶目さんですね♪」

少しだけ疑惑の眼差しをシオンに投げかけるが、ラピのナイスフォローに救われる。
シオンは頭をかきながらこのまま話題を別の方向に反らす事にした。

「でもそうなると試運転の場所をどこにしたら良いかなぁ」
「そうだなぁ〜やっぱネルガルか・・・さもなくば軍の演習場かなぁ〜」
「う〜ん」

シオンは悩む。ネルガルに持っていくとルリに計画が漏洩する可能性がある。
となると宇宙軍か・・・

と思い悩んでいるその時!

「あんた〜電話だよ」

工場の奥の居間から奥さんのオリエが受話器を振り回してウリバタケに呼びかけた。

「誰だよ」
「テンカワさん」
「テンカワ!?アキトか?」
「ええ」

ギク!

アキトという名前にビックリするシオンとそれを面白そうに眺めるラピ。

「え?なんだよ、いきなり・・・
 おお〜♪店開くのか♪
 もちろん、開店祝いには駆けつけるぜ♪
 ・・・え?黒い服を着た女性がこっちに来てないかって?」

ギクギクギク!

電話口に出たウリバタケの会話を聞く度にシオンは冷や汗をかきながら肩を振るわせる。

「黒い服の・・・女性か?
 そ、それは・・・」

ウリバタケはチラリとシオンの方を振り返る。するとシオンは拝む仕草やシ〜〜と口に指を当てる仕草をウリバタケに向かって必死に行っていた。
『いる』という口まねをしようものなら土下座をして謝ったりもした。
ふぅ〜と溜息をつくとウリバタケは電話口のアキトにこう言った。

「いや、来てないよ。アキさんなんか。
 ・・・え?アキさんなんて一言も言っていない?
 だってお前が黒い服の女性なんて言ったらそれしかないだろう。
 ・・・それは屁理屈だって?
 いやいや、そんな事はないだろう〜」

あまり隠し事が得意な方ではないウリバタケは最初こそ否定していたものの、どんどんボロが出始めた。

『んじゃ、PODは後で取りに来ますので今日はこれで帰ります』

という文字をマジックでスケッチブックに書いてウリバタケに見せるとシオンはそそくさと工場を辞去した。



ミナトの家の近くの公衆電話


「やっぱりシオンちゃん、ウリバタケさんを巻き込んで悪さをしているなぁ〜」

ミナトの家の近くに何故かあった絶滅寸前のたばこ屋とその前にある赤電話。
そこからアキトはウリバタケの家に電話をかけたのだが、胡散臭さ満点の応対に不審がらない方がおかしかった。
これでも彼は元ネルガルシークレットサービスのエージェントであり、元祖アマガワ・アキだったのである。

「ふぅ〜」

溜息をつくアキトは頭をかきながら一度ウリバタケの家の近くまで行ってみようと思うのであった。



テンカワ・アキトの自宅


さて、主のいない無人のテンカワ家にようやく住人が一人帰ってきた。

「ただいま〜〜アキトいる〜〜」

疲労困憊の声で玄関を入ってきたのはテンカワ・ミスマル・ユリカ嬢であった。

「いないのぉ〜〜せっかく会えると思っていたのにぃ〜〜」
「理事長、わかっていらっしゃいますか?
 ご自宅には着替えを取りに帰られただけなんですよ!
 旦那様と熱い抱擁とか愛の語らいとかは決してナシですよ!」
「ハイハイ、わかってます」
「ハイは一回だけで良いんです!時間がないんですから!」
「わかってますってば。どうせアキトはいないみたいだし・・・」
「何か言いましたか?」
「何でもありません〜〜」

キョロキョロ家の中にアキトがいないか探していたユリカであるが、秘書さんに急かされて慌てて自分の部屋へ向かった。

とりあえず下着と仕事着を一式バッグに詰め込んで引き返した途中・・・

ピコンピコンピコン

「あや?何の音かな?」

ふと前を通り過ぎたアキトの部屋から変な音が聞こえる。
そ〜っとアキトの部屋の中を覗こうとしたユリカであるが・・・

「理事長!時間が!!!」
「あ、ハイハイ〜!」

玄関から急かすような大声に思わず意識を引き戻されるユリカ。
よっぽど秘書さんのカミナリが恐ろしいのか、ユリカが変な音がしていたアキトの部屋の事は忘れて玄関へ向かった。

ユリカがアキトの部屋の中を見ていたら事態は変わっていたであろうか?
いや、多分何も変わらなかったであろう。

アキトの部屋で変な音を出していたもの
それはアキトがイネスから貰った『カラータイマー』であったからだ。
そのカラータイマーが鳴っている意味を知らないユリカが見てもおもちゃが動いているぐらいにしか思わなかった事であろうから・・・



宇宙軍本部のそば


さてさて舞台は再び宇宙軍本部に戻るとして、意気消沈した二人はというと・・・

グルルル♪ルルル〜〜♪
ギュルル♪ルルル〜〜♪
グル♪
ギュ♪
グル♪
ギュ♪
グルルル〜〜♪
ギュルル〜〜♪
グル♪
ギュ♪
グル♪

ほとんどカエルの合唱状態である。

「兄様・・・」
「・・・なんだ?」
「・・・何でもありません」
「そうか・・・」

どちらも切り出したい。
『協力しよう、紳士協定を結んでこの空腹という難敵を打破しよう・・・』と。

けれどどうしても言い出せなかった。

と、ちょうどその時・・・

「石焼き〜イモ〜♪」

という声が良い匂いと共に近づいてくる。

月臣とサクラはヨダレを垂らした。
それはもう滝のようなヨダレだ。

二人の様子を見ていた守衛さんは・・・

「こりゃ、落ちるのは時間の問題だな・・・」

と呟いた。それから時間を計測してみた。

10秒・・・
20秒・・・
30秒・・・

フラフラフラ〜〜

二人揃って遠ざかる石焼きイモ売りの声と匂いに釣られるように歩き出すのであった。

「またすれ違いか・・・」
溜息をつく守衛はその間に休憩する事にした。



宇宙軍本部のそばのもう少しそば


だが、残念ながらその守衛さんの予想はちょっとだけ外れていた。

「ふぅ〜、危ない危ない〜」
「マスターもそんなにコソコソしなくてもよろしいのでは?」
「こそこそなんかしてないよ」

ウリバタケのところを逃げてきたシオンはラピに色々言われるのが面白くないらしい。

「そりゃ確かにパパへ秘密にしている必要なんか全然ないんだけど・・・」

ふくれっ面で言うシオンにラピは相づちを打たなかった。

「じゃどうして黙ってるんだ?」
「それはやっぱりビックリさせたいし、それに・・・」
「それに?」
「それにまともに掛け合ったって頷いてくれるわけ・・・」

シオンはそこまで言ってはじめて気づいた。
自分の相づちを打っているのがラピでない事に。
しかもその声は女性のものではない。
よく知っている男性の声だ。

タラァ〜〜

冷や汗を流すシオン。
振り返るのが恐いが振り向かずに逃げるわけにも行かない。
恐ろしい殺気にまるでライオンに狙われたウサギみたいな感覚に陥る。

ギギギ〜

ゆっくり振り返るシオンが見た者は予想通りの人物であった。

「パ、パパ・・・」
「シオン、やっぱり何か企んでいたのか」

少しお冠状態のアキトがそこにいた。
もちろん、真っ黒クロスケな服装に黒いバイザーをかけており、まさしく一時期の闇の王子様並の殺気を纏っていた。




その間、わずか数秒・・・



「いや〜ん♪パパ、こんなところで会うなんてき・ぐ・う♪」

やたら科(しな)を作って甘えた声を出して媚び始めた。

「やっぱり私とパパは巡り会う運命にあるのね♪」
「媚びてもダメだぞ」
「そんな〜恐い顔しないで〜腕組んでも良い?」
「媚びてもダメだぞ」
「パパと一緒に腕組んで帰りたかったの〜良いでしょ♪」
「媚びてもダメだぞ」
「ハハハ・・・」

媚びて誤魔化そう作戦失敗の模様(笑)

しかし、シオンのピンチを救う人物達がその場に現れた。

「な、ナナコさん!」
「お、お姉さま!」
「「え?」」

訂正。ピンチをさらに拡大する人物達でした。
アキトとシオンが振り向くとそこにいたのは驚愕の顔をした月臣元一朗と新宮寺サクラである。その手はワナワナと震えていた。

「て、テンカワ・・・貴様俺のナナコさんに何を・・・」
「つ、月臣・・・」
「貴様!既にナナコさんにあんなことやこんなことを!」
「いや、待て!お前、何か勘違いしているだろう!」

アキトはようやく自分の格好に気がついたようだ。事情を知らぬ他人から見たら女の子とイチャイチャしているように見えたろう。

「ナナコさんもナナコさんだ!そんな妻子持ちの女たらしに!」
「元ちゃんは黙ってて!」
ガーン!

シオンがアキトの腕にぎゅっとしがみついてベーをする光景を見て月臣はショックを受ける。そりゃそうだろう。月臣の目にはアキトにアキがしがみついているようにしか見えないのだから。

ゴゴゴゴゴー・・・

「お、お姉さま・・・その男は誰ですか・・・」

オロオロする月臣よりも何よりも、そのすぐ隣でとても人の出せる量ではない殺気が膨れあがっていた。

「え、その人誰?」
「元ちゃんの恋人?」

アキト達は素で頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
そりゃそうだろう。アキトもシオンも彼女の名前すら知らないし、出会うのもはじめてなのだから。しかし、忘れられた存在の少女は静かに怒りを溜めていた。

「違う、こいつは・・・」

破邪剣征!百花繚乱!!!
「アシベ!」

元一朗が否定する前にサクラの剣撃で吹き飛ばされる。

「お姉さま、そんな不浄な存在と心を通わせようと言うのですね・・・」
サクラは静かに涙を拭う。
そして断腸の思いでこう叫んだ。

「かわいさ余って憎さ百倍!この場で成敗させて頂きますわ!」
「「何!?」」

サクラはギラギラした瞳で手に持った愛刀をシオンたちに突きつけるのであった。



「という事で修羅場ですが、次回に続きますわ♪」

いやラピさん、キートンさんっぽい口調で予告されても困るのですが(苦笑)



おまけ・クリムゾンの病院


「あの子、どこまで行ったのかしら・・・」

あの迷惑娘を心配するシャロンであったが、アクアはテレビの画面に釘付けになっていた。

「ねぇねぇシャロンちゃん♪」
「何よ」
「ロケ地見つかったわよ」
「ロケ地?」
「そう♪逆さまのお城♪
 あそこにぴったりのが在った♪」

アクアは無邪気に指さす。
テレビに映っていたもの・・・
それは今世間を騒がしている木星の惑星軌道上に見つかった新しいプラントであった・・・



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第5話をお届けしました。

ようやく物語が転がったというか、当初の予定通りのストーリーになりつつあるというか、本当はこのラスト部分が第3話辺りに入る予定だったのですが(苦笑)

勘のいい人は次回のお話のストーリーがわかるのではないでしょうか?
例えばカラータイマーとか(苦笑)
いや、まぁとりあえずアキト君の夢は当分先かもしれない・・・
とか遠い目をするのもアレなのですが。

って事で2203年導入編、佳境って事でよろしくお願いします〜

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・にゃ♪ 様
・Chocaholic 様
・kakikaki 様