アバン


さてさて、あのはた迷惑な暗殺者が残した一粒種
父親が父親なら娘も娘ってことで、こちらも変わらずはた迷惑な存在だったりします。
まったく関係ない赤の他人ならドジっ子萌えで笑って酒の肴にすることも出来るのですが、実際つきまとわれたりしたら鬱陶しいんだろうなぁ〜と思ったり思わなかったり。

まぁ、こんなはた迷惑な人物を自ら進んで背負い込もうとする人達がいるんですからすごいですよねぇ。今回はそんな方々のおもしろおかしい物語だったりします。

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



クリムゾン系列の病院前


「ふぅ〜」

彼女は溜息をついていた。
何が悲しくて自分は毎日足繁く病院に通わないといけないのだろうか?
虫歯もないし、妊娠したって事もないし、便秘になってしばらくお通じがない・・・何て事もない。至って健康体、体はピンピンしている。

なのに足繁く病院に通わないといけないなんて憂鬱以外の何者でもない。

遠くから聞こえるサイレンの音・・・
すぐそばに救急車が止まり、後部ドアが開いて中からストレッチャーに乗せられた患者が病院に搬送された。

「お、お姉さま・・・」
「サクラさん、しっかりして下さい!」
「血圧と脈拍は?」
「安定しています。車に轢かれたのが不思議なぐらいです!」
「とりあえずレントゲンを撮っておいて!」
「はい!」

彼女は運ばれてきた患者を横目で眺めて溜息をつく。
やはり、病院には患者の側で来るに限る。
なにゆえ患者を見舞う側で来なければいけないのだ?
それが苦手な相手なら尚更だった。



集中病棟・個室


そこはまさに重傷者しか入ることの許されない高級医療設備満載の病室である。
普通重傷者しか入れない病室などありがたがって入る患者などいないのだが、この病棟だけは別だった。
そう、ここは重病者という名のVIP専用の病室だ。御用達は政治家や財界の重鎮に芸能人、それもスキャンダルに事欠かない方々ばかり、いわゆるほとぼりが冷めるまで病気になって面会謝絶・・・そういうお偉いさんが宿泊する病室なのである。
もちろん中は高級ホテル顔負けである。

コンコン

・・・シーーーーン

彼女は病棟の一室のドアを叩いたが何の応答もなかった。
想像されたその結果に溜息をつき、彼女は観念して静かに病室のドアを開けた。

る〜る〜るる〜る〜♪

どこからかしらBGMが流れ始めた。
もちろん曲は『悲劇のヒロイン、哀愁を帯びながら病室で窓の外を眺める』なんて雰囲気のありがちなものである。

「ああ〜私の命はあの木の葉っぱが全て散ってしまうまでなのねぇ〜」
ベットに横たわった少女は哀愁を帯びた表情で窓の外の松を眺めていた。

「・・・あのねぇ、松に葉っぱはないわよ」
「もう〜雰囲気がないわねぇ〜
 シャロンちゃん、表の松の木をイチョウに植え替えてきてよ〜」
「無茶を言わないでよ」

相変わらず悲劇のヒロインゴッコなリアクションに溜息をつくシャロン。
そう、彼女の名前はシャロン・ウィードリンという。目の前のベットに横たわっているアクア・クリムゾンの異母姉である。

「シャロンちゃん♪今日のお見舞いは何♪」
「マスクメロンの最高級品よ」
「え〜〜食べ飽きたわよ」
「そう言って昨日はリンゴが食べ飽きたって言ったわよねぇ」
「そ、それは〜」
「その前はキウイ、その前はパパイヤ、その前はマンゴ、その前は巨峰、さらに前は白桃・・・私は飽きた飽きたと言われ続けて今度は何を持ってくればいいの?」
「だって飽きたものは飽きたんだもん」
「そりゃ毎日お見舞いを差し入れさせていればいい加減フルーツは一巡するでしょう」
「じゃ、今度はケーキが良いなぁ♪」
「病人はケーキを食べないわよ」
「え〜〜そんなぁ〜〜つまらない〜〜」
「ならいい加減に退院しなさいよ!」
「でも私、まだ病気だし〜〜」
「どこが病気なのよ!」

全く頭が痛い。
アクア・クリムゾンはただいま不治の病にかかった悲劇のヒロインごっこの最中なのである。
本人的な設定は
・交通事故で轢かれて気がついたときには3年経過
・起きてみたら恋人は親友に寝取られていて本人はそれを知らない
・そしてヒロインもまた不治の病であるということを告げられた
まぁそんな感じらしい。
さてさて異母妹は一体どこでこのヒロインごっこを終わらせるつもりなのか・・・

シャロンは溜息をつくが、一番悩ましいのが今ここに自分がいる理由である。
名字でお察しの通り、シャロンは妾腹であり、年も才覚も本家筋の妹アクアよりも上である。しかし本家では鼻つまみの問題児であるアクアが本妻の娘であるという理由だけで後継者に選ばれ溺愛され、シャロンは風下に立たされ蔑ろにされてきた。
そんな中でクリムゾングループ内を這い上がろうとしたら、どうしてもダーティーな仕事を進んで手がけないといけない状態にあった。

そこで手を着けたのが木連との協力関係構築である。
火星会戦末期に木連の草壁と手を結び木連無人兵器のテクノロジーを手に入れ、ステルンクーゲルを作り上げることに成功した。
ネルガルのエステバリスがシェア50%を占める機動兵器市場を見事奪い返したのである。その後、統合軍の躍進とともにクリムゾンはネルガルを制するまでに盛り返す原動力になった。
その功績で彼女は一時期は重役にまで上り詰めるものの第一次火星極冠事変・・・いわゆる火星の後継者の反乱でケチがついた。
クリムゾンが火星の後継者達側についたがナデシコが草壁春樹を逮捕したことで状況は一変した。続いた第二、第三の火星極冠事変でクリムゾンの関与が次々と明らかになり、クリムゾンは統合軍凋落と足並みを揃えることになってしまった。
特にシャロンは第二次火星極冠事変、通称『南雲の乱』にて首謀者の一人として名前を挙げられてしまったため、全ての責任を背負わされて失脚してしまったのだ。

本来なら彼女の出世街道・・・いや人生そのものは終わりだったのだが、捨てる神あれば拾う神ありということで何とか雪辱の機会が与えられた。
与えられたのだが・・・

「このまま四畳半のアパートで寂しい一人暮らしでも送っておけば良かった・・・」

藁をも掴む気持ちで選んでしまったのがそもそもの間違いだった。
掴んでしまった藁はアクア・クリムゾンのお守りという、せっぱ詰まっていなければ絶対掴まない、いやせっぱ詰まっていても絶対に掴みたくないナンバーワンの藁である。この異母妹がどれだけ始末に悪いか知っているはずなのに引き受けてしまうなんて人生最大の失敗である。

「やっぱり重役連中もぴったりのコンビだとか思ってるんだろうなぁ〜」
「シャロンちゃ〜ん、なにが〜?」
「・・・」

まったく一族の鼻つまみ者アクアの面倒を一族の出来損ないシャロンにさせようってんだから、誰が考えたかはしれないが良いセンスしている。
窓際族の悲哀を感じながらシャロンはそっと涙を流すのであった。



NadesicoNG(Next Generation)
第4話 クリムゾンの乙女達



テンカワ家の朝


「あの〜シオン様〜電話ですわよ」
「あ、誰から?」
「セイヤ様からです」
「あ、はいはい♪」

電話を受けたラピはシオンを呼び出した。二階のシオンは階段から首だけを覗かせて答えた。ちなみに電話というのは本当に電話で今時珍しいダイヤル式の黒電話である。
携帯電話すら駆逐したコミュニケ全盛の時代になんとアナクロな・・・と思うのだが、そこに黒電話があって電話がかかってきたのだから仕方がない。

「お前・・・セイヤさんといつの間に知り合いになったんだ?」
「まぁ細かいことは良いじゃないの♪」

キッチンから顔を出したアキトがうさんくさげにシオンに声をかける。しかしシオンは軽口で誤魔化し受話器を受け取った。

「あ、セイヤおじさま♪そう、到着した?
 でしょ〜♪そりゃ、仕事は早い安い上手いが信条ですもの♪」
受話器の向こうの相手ウリバタケ・セイヤとなにやら楽しげに会話をし出すシオンに溜息をつくアキト。
隣でメイド服姿で寄り添うラピに無駄だと思いつつも聞いてみた。

「シオン、何か良からぬ事を企んでるだろう」
「さぁ存じません」
「話してくれるつもりは・・・ないよなぁ」
「ええ、そういうことはシオン様から直接伺って下さい」
「あの子が素直に話すと思うか?」
「さすが父親ですね♪シオン様の性格をよくわかっていらっしゃいますわ♪」
「や〜誉められても・・・」

今一つ当てになるのかならないのかわからない汎用人型メイドロボ仕様のオモイカネであった。



ウリバタケの工場


こちらではウリバタケが目の玉をひんむいてシオンに電話をかけていた。

「今のラピさんか?」
『そうだけど・・・ラピをナンパしたいの?』
「いやいや、そうじゃないんだけど・・・本当にこんなもの送りつけて来たのか?」
『当たり前じゃない♪それがなければセイヤおじさま、作業が出来ないでしょ?』
「そうだけど・・・良く手に入ったなぁ〜」

ウリバタケは電話口の向こうの相手に呆れたようにそういった。

「はい、毎度あり〜」
判子をもらった運送屋は積み荷を置いて帰っていった。ウリバタケは運送屋が持ってきたでっかい荷物を見て驚いて慌てて電話をかけてきたという次第である。

「しかし・・・本当にアルストロメリア一台まるまる送ってくるとは思わなかったぜ・・・アキちゃん、どっからこんなモノ手に入れたんだよ」
『宇宙軍のツテで♪』
「あ、そ・・・」

専用コンテナに詰まれたアルストロメリアがいきなり送られてくれば誰でも驚いて連絡を入れるだろう。

「でもこれだけじゃPODは作れないぜ」
『どういう事?』
「アルストロメリアとPODじゃ外部装甲がまるで違う。しかもPODはどちらかというとほとんどCC組成そのものの装甲だ。それも低重力の真空で一発打ち出し成形でないと作れないときた。
 うちみたいな下町の工場じゃどうあっても作れる代物じゃないぜ」

ウリバタケは溜息をつく。あの装甲はこんな下町の工場で板金や旋盤をかじった程度の知識で作れやしない。はっきり言って月面の施設じゃないと作れない。図面や成分や精度は計算できてもそれを作るだけの施設は持ち合わせていない。
こんな時、しがない町工場の整備員である身であることが歯がゆい。そう思えばナデシコに乗っていた頃は良かった。発注さえすればネルガルがいくらでも部品を送ってくれた。

『ああ、その事?』
「その事って・・・」
『そう思って既に発注してるわよ』
「発注してるって・・・」
『もうすぐ届くはずよ』
「届くって・・・」

その言葉とほぼ同じタイミングで工場の入り口からクラクションが鳴らされた。




数分後・・・


「毎度あり〜♪」
「あ、ああ・・・」

ウリバタケはあんぐりと口を開けていた。
アルストロメリアだけならまだしろ、POD用の装甲一式がコンテナで送られてきたからだ。しかも送り主はネルガルである。

「アキちゃん、これって・・・」
『最近の工場ってほとんど無人なのよ。しかもCADデータさえ与えてやればどんな形状でも思いのまま♪だから製造管理用のコンピュータにちょこっと細工をすれば誰にもバレることなくどんな装甲でも送ってくれるのよ♪』
「だからって金は!?俺んちに請求が来たりするんじゃないだろうなぁ!」
『ああ、大丈夫。それはサリナさんの妖しい発明資金から一括で引き落とされる様に細工しているから♪』
「は、はぁ・・・そうですか・・・」

便利な時代になったものだなぁ〜とタバコを一服するウリバタケ。

「ってそうじゃない、アキちゃん!」
『あ、ミリ単位の加工はセイヤおじさまに任せるから』
「あ、ああ・・・ってそうじゃなくて!」
『後でおじさまの工場に顔を出すから』
「え?俺んちに?」
『ええ、OSの書き換えやパラメータのチューニングは私がやるから』
「は、はい・・・」

至れり尽くせりである。観念して作るしかないと諦めるウリバタケであった。



アクアの病室


「シャロンちゃ〜ん」
「なによ」
「メロンのタネを取って〜」
「そこが一番美味しいんじゃない、そのまま食べなさいよ」
「え〜でも〜家じゃジョセフィーヌが取ってくれたよ〜」
「私はあなたの召使い?それともお姉さん?」
「そりゃ〜お姉さんだけど〜」

異母妹は頬を膨らませて拗ねる。本家じゃ甘やかされて育てられたから無理もないが・・・お守りはしても召使いになるつもりは更々ない。
ちなみにジョセフィーヌはアクアの第127代専属メイドである。先日お暇をもらって故郷に帰った。アクアの専属メイドの最短記録を更新したらしい。

まぁこの主に仕えようと思ったら並大抵の神経じゃ務まらないが、シャロンもジョセフィーヌの気持ちを今ヒシヒシと味わっていたりする。

「ならさっさと家か屋敷にでも帰りなさいよ〜」
「戻ったら判子ばかり押さないといけないからつまんない〜」

だから仮病でこの病院に入院ですか。

「これ食べたらさっさと寝るのよ」
「え〜〜眠くないよ〜〜」
「病人は寝るのが仕事。眠くないのならさっさと退院するのね」
「え〜〜それも困る〜〜」
「いや、困らされているのは私の方なんだけど」
「なら、ご本を読んで♪」
「はい!?」

アクアは枕元から絵本を取り出した。
子守歌代わりに絵本を読んで欲しいらしい。

「あんたは子供か」
「え〜〜いいから読んでよ、シャロンちゃん」
「読んだら寝るのね?」
「うん、そのかわり情感込めて読んでね♪」
「はいはい・・・」

渋々手渡された絵本を読むことにしたシャロン。
しかし問題はその本の内容であった。



革命学園エルドラドレリルレル


そこは乙女達が集う薔薇の学園。
乙女達はスールと呼ばれるシステムに従って自らの姉、妹を選び姉妹の契りを結んでいた。そんな中、幼い頃、黒百合の姫様と呼ばれる女性に助けられた主人公のシャロンは彼女を追ってこの学園にやってきたのだ。
そこで彼女は紅薔薇の妹と呼ばれる少女アクアと出会う。

「ちょっと待て、何で私とあなたの名前があるの」
「まぁ身近な人の名前じゃないと想像湧かないし〜♪」
「・・・微妙にいろんな作品が混じっている気がするけど・・・」
「まぁ良いじゃない♪続き続き♪」

学園にはある掟があった。
生徒会は3人の薔薇様が取り仕切っていた。
紅薔薇様、黄薔薇様、白薔薇様である。
薔薇の妹を従えた薔薇様が他の薔薇様を倒すと世界を革命する力が与えられるという。

「こら!もろパクリじゃないの!」
「でも萌える展開よね〜♪」
「萌えないって!」

現在紅薔薇様を名乗る小笠原幸子様から決闘を申し込まれたシャロンは決闘広場に呼び出された。
決闘広場に入るには資格が必要である。
彼女は偶然にも黒百合のお姫様から頂いたロザリオをかざすと何故か決闘広場への門が開いた。
学園の森にある決闘広場に行くとそこには逆さまの城が現れた。

「逆さまの城ってねぇ・・・」
「ここからが良い所なのよ♪」

紅薔薇様とシャロンとの戦いは熾烈を極めたが、シャロンがピンチの時、逆さまの城から黒百合の姫様の幻影が降りてきてシャロンに力を与えた。

でりゃぁぁぁぁぁ!

シャロンは決闘に打ち勝ち、見事に紅薔薇の妹を手に入れた。
シャロンは新たな紅薔薇様となり、アクアとの共同生活が始まるのであった・・・



絵本朗読終了・再びアクアの病室


「・・・こんな盗作まがいの絵本なんてありえないし」
「でもでも萌えるでしょ♪」
「だから萌えないって。それよりもこんなの誰が描いたの?」
「クリスティーヌ剛田先生♪」
「いや、ジャイ子でもこんなの描かないし、っていうかあんたでしょ、描いたの」
「違うもん〜」
「嘘つきなさい、こののたくった字はあなたの字でしょ!」
「違うもん〜」
「さすが、この絵可愛いわねぇ♪」
「でしょ♪私も会心の作だと思うの♪」
「やっぱり・・・」
「さすがシャロンちゃん♪私のこと何でもわかるのね♪」
「いや、わかりたくなかったっていうか、わかってしまう自分が悲しいというか・・・」

シャロンはこんな妹と半分でも血が繋がっている事実が心底恨めしかった。

「でもこんなに私のことわかってくれているなら承諾って考えて良いわよね♪」
「承諾?」

途中を省略していきなり結論だけ突きつけるアクア。
こういう悪い予感がするときだけはわかりたくないものだが、何となくわかってしまうのが異母姉妹の悲しさである。

「も、もしかして・・・」
「そうよ♪色々キャストも押さえてあるの♪」
「きゃ、キャストって・・・」
「スタジオはゼーベックで監督はサトタツさんを確保してるから♪」
「ちょっと待って!それってつまり・・・」
「劇場映画を作るの♪もちろん主人公は私とシャロンちゃんよ♪」
「やっぱりかぁ〜!」

シャロンは頭を抱えた。
そうだ。異母妹であるアクアとはこういう人物である。
自分の好みの恋愛漫画を描かせるために漫画家を誘拐するわ、悲劇のヒロインを演じるためにチューリップの落ちた無人島を買い取るわ、目的のためには手段を選ばない女だったのだ。

「中止よ、中止!」
「え〜〜なんで〜〜
 キャストはほとんど決まっているのよ〜
 あとは黄薔薇様と黒百合の姫様だけなの」
「もうそこまで決めたの〜」
「ええ♪黄薔薇様は剣道部主将なんだけど、なかなか本当の日本刀を使える美少女がいないのよ〜〜」

コンコン!

とかなんとか言い争っていると病室のドアをノックする音が聞こえた。
・・・誰だろう、こんなVIPの病室に、しかも鼻つまみ者の病室なんかに。診察の時間にはまだ早い

「どなたですか?」
「あの〜〜刀いりませんか?」
「はぁ?」

ドアの外から聞こえる声はそれはそれは変な内容であった。
とりあえず外の様子をインターホンで確認すると女の子一人しかいないのでドアを開ける。
そこには頭に包帯を巻いた和服姿の少女がいるだけだった。

「・・・何かご用?」
「いえ〜あの〜私、こういうものでして〜〜」
「・・・ソードキャプターサクラ?」

差し出された名刺は相変わらず訳の分からない職業の奴である。

「どういう職業なの?」
「まぁトレジャーハンターみたいなものだと思って下さい〜」
「・・・そのソードキャプターさんが何の用なの?」
「いえ、妾は先ほど車に轢かれちゃいましてこの病院にかつぎ込まれたんですけど、幸いかすり傷程度で済みまして〜」
「か、かすり傷程度ねぇ・・・」

所々から見える包帯の数々は決してかすり傷程度ではないのであるが、車に轢かれてこの程度で済んでいることが不思議であった。

「で、治療費を請求されたのですが生憎保険証を持ち歩いておらず、しかも路銀も持ち合わせていなかったために治療費を払えない状態なのです」
「はぁ・・・」
「血を売ってお返ししようかと申し出たのですが、さすがに血を流しすぎたとかで病院の方は購入をお断りになられまして」
「そりゃ、ある意味正しい選択ねぇ〜」

包帯だけならまだしも右手には点滴と歩行用の点滴スタンドを携えていればどう考えたってこれ以上血を抜けないであろう。

「お恥ずかしい話ですが、父がエンゲージリングとか称して訳の分からないローンを組んだあげく、それを娘の妾に相続させるという卑劣な策略にはまり、蓄えもほとんどない有様なのです」
「それはご愁傷様・・・」
「そこで泣く泣くですがコレクションの刀を買っていただき治療費に充てさせて頂こうと考えたわけです」
「でもうちは刀は間に合ってますから」
「買って下さいとは申しませんから、一度私の可愛い愛刀達を見ていただけませんでしょうか?」
「いや、でも・・・」

ほとんど泣き落としの押し売り状態である。こういう手合いは何も聞かずに追い返すに限るのだが、最初に話を聞いてしまったシャロンの失敗である。
この迷惑以外の何者でもないサクラの来訪を喜んだ人物がいた。

「こ、これだわ♪」
「え?」
もちろんシャロンでないのだからその声を上げたのはこの部屋のもう一人の住人に決まっていた。

「和服姿に日本刀・・・黄薔薇様のイメージにピッタリ♪」
「はぁ?」
「はい?」
「刀なんかいっぱい買って上げるから革命学園エルドラドレリルレルに出演してみない♪」
「なんですと!?」
「まぁ♪」

アクアはサクラの手を掴むと嬉しそうにスカウト活動を開始した。



ウリバタケの工場


「こんちわ〜っす♪」
「お、アキちゃん来たな」
「お邪魔いたします、お義父さま♪」
「ラピさんまで♪ようこそこんなむさ苦しい工場まで♪」

約束通り、ウリバタケの工場にシオンとラピがやってきた。もちろんウリバタケは大喜びである。

「どう?組み上げ始めてる?」
「ああ、まぁどこから手を着けたもんかは思案のしどころだけど、とりあえずアクチュエーター系に手を入れてるよ」
「どれどれ〜おお、さすがおじさま♪」

さすがはウリバタケ。何も言わないのに一番ネックになるアクチュエーター系からチューニングを始めている。実はPODの一番のキモはパイロットの動きをどれだけ忠実に引き出せるかにある。それがアマガワ・アキと呼ばれる超一流の武術家の動きともなれば並大抵のチューニングでは実現できないはずだ。
その一番難しいところがわかっているのだからウリバタケに任せて大丈夫であろう

「じゃ、こっちはOSのチューニングにかかるわね」
「おうよ」
「んじゃ、端末借りるわね」

そう言うとシオンは端末をコックピット内に繋いだ。

「ラピ、アシストして」
「はい、マスター」

彼女がそう答えるとシオンの周りには多数のウインドウが開いた。
ウインドウボールとは言わないまでも、両手の指では数えられないぐらいの枚数が飛び交っていた。

「おお、なんかルリルリみたいだなぁ」
「いえ、ウインドウの枚数なんか全然ですよ」
「ルリルリにでも弟子入りしたのか?」
「まぁそんな所です」

感心するウリバタケにシオンはごまかし笑いを浮かべながら答えた。
シオンのIFSはパイロットとオペレータの両方に適合したタイプなのである。
そしてコンピュータの操作は未来のルリとラピスにみっちり鍛えられたのだ。

OSへリモート接続。
管理者権限でアクセス。
メンテナンスモード開始。
モジュール接続図読み出し
各アクチュエーター制御パラメータ読み出し
読み出し・・・
読み出し・・・
読み出し・・・

「ふぅ〜ん。これが宇宙軍のパラメータか。
 案外あっさりした味付けねぇ」
「あんなコテコテの辛いパラメータで操縦できるのはマスターだけです」
「そう?」
「そうですよ」
「そうかなぁ〜」
「そうですよ」

アルストロメリアの制御データを覗いたシオンはつまらなさそうに呟くのをラピは諫める。

「そうだぜ。アキちゃんみたいなチューニングをしたら普通のパイロットは立つことすらできないぜ」

ウリバタケも作業の手を置いて会話に加わってきた。

「そうなの?」
「ああ。いくらIFSを使っているとはいえ、普通のパイロットはOSが提供する様々なアシストシステムに頼り切っているんだぜ。それを全部切れなんてのはどだい無理な話さ」
「つまりバ○オハザードの様な操作系はゲームの難易度を上げるだけのクソって事ですよ」
「実名をあげるな、実名を」

様々なアシストシステムがあるから誰でも動かせるのだが、反面その枠の中でしか動かせない。それはどんなに頑張ってもシステムを越えることは出来ない。

「そうだ。参考までにオリジナルのデータ見るか?」
「オリジナルのデータ?」
「ああ、PODのOSデータだよ」
「え?そんなのどうしたんですか!?」
「バックアップを取ってたんだけど、ナデシコを降りた後も大事に持ってたんだ。見るだろう?」
「見る見る♪」

ウリバタケは懐から取り出したディスクをヒラヒラさせるとシオンは瞳を輝かせて喜んだ。シオンは待ちきれない様にウリバタケからディスクを受け取ると早速ディスクを閲覧し始めた。

「うわぁ〜すごい〜」
「すごいだろう。ナデシコAでの歴戦の記録だからな」

シオンは自分の母親と思われる女性の記録を見て興奮した。
それは彼女の運動理論そのものを表していた。
如何にエステバリスというシステムで彼女の武術を再現するかというデータが蓄積されていた。一部の無駄もない、洗練されたデータであった。

「うわぁ〜こんな風になっていたんだ〜」
「なんだい、真面目に自分のデータを見るのは初めてなのか?」
「いやぁ〜まぁ〜」

シオンはアキのフリをして笑って誤魔化す。
けれどそのデータは彼女が触れる初めてのアマガワ・アキという女性の記録であった。

「なんか元一朗ちゃんやパ・・・アキト君に似てる」
「まぁ同じ武術らしいから」
「そっか・・・私って上っ面しか真似てなかったのね・・・」
「ん?何をだ?」
「い、いや、まぁ〜アハハハ〜」

シオンは笑って誤魔化したが、やはり自分は父親アキトにも母と信じている女性にも全然近づいていないのだと思い知らされたが、それは悪い気分ではなかった。

なぜなら目の前には宝物があるのだから・・・



再びアクアの病室


「まぁ、妾が映画にですか?」
「そうよ。黄薔薇様なの〜」
「まぁ、黄薔薇様ですか〜」
「んで、妹にロザリオを返されて革命を起こされるの〜」
「まぁ革命ですか〜」

アクアがとくとくとサクラに説明するのをシャロンはウンザリと見ていた。
もう好きにしてくれって感じだ。こういう時のアクアに何を言っても無駄だ。
せいぜい自分に火の粉が飛び火しないようにするだけだ。
だが、放っておいても火の粉は飛んでくるのだ。

「それで〜黄薔薇の妹はシャロンちゃんの元に走るの〜
 それであなたは妹を取り戻すためにシャロンちゃんに決闘を申し込むの〜」
「まぁ決闘ですか〜」
「そう、だから今からオーディションをしましょう♪」
「オーディションですか〜」
「そうよ、まずは殺陣を見ましょう♪
 シャロンちゃんと決闘のシーンね♪」
「ちょっと待て!」

思いっきり火の粉が飛び火してきた。

「そうねぇ〜やっぱり竹光じゃなくて本物が良いわねぇ〜♪」
「ならば妾は愛刀、神剣荒鷲で構いませんか?これじゃないと・・・」
「待て、それは本物の日本刀じゃないの?」
「ええ、良いわよ♪ならシャロンちゃんも日本刀じゃないとハンデになるわねぇ〜」
「ああ、それなら妾のコレクションが山ほどありますわ」
「わあぉ♪」
「必要ない!竹光で十分よ!っていうかそもそも殺陣なんかするつもりは・・・」
「村雨に村正に虎徹なんかどうです?妖刀揃いですから良く切れますよ♪」
「うわぁ〜素敵♪」
「っていうか、なんでそんなもの持ってる!」
「でもでも、やっぱり主人公が妖刀っていうのはイメージが・・・」
「では懐かしの名刀、カシナートの剣、盗賊の短刀、銀の剣+2ですわ♪」
「ウィザドリィーか!」
「ならばこちらなのではどうでしょう。勇者の剣セット。
 エクスカリバー、ロトの剣、草薙の剣ですわ」
「まぁすごい♪」
「存在するか!そんな剣!!!」
「仕方がありません・・・とりあえずは菊一文字でどうでしょう?」
「う〜ん、仕方がないわねぇ」
「仕方がないって・・・」

シャロンが止めるのも構わず、アクアとサクラは話をドンドン進めた。
そして・・・

「よし、今からオーディションの開幕よ♪
 サクラさん、合格したらその刀を全部買って差し上げますわ♪」
「本当ですか♪」
「ええ、お手当もこれだけお支払いしますわ♪」
「・・・やらせて下さい!とりあえずシャロンさんを切り倒せばよいのですね?」
「ええ♪」
「待たんかい!っていうか勝手に決めるな!」
「シャロンちゃん、はい♪」
「はい・・・って、え!?」

気づくとシャロンの腕にはいつの間にか日本刀が握らされていた。

「本気で行って良いですか?」
「もちろん♪今回の映画はリアリティーも追求するのよ〜」
「追究するな!」

シャロンは思いっきり抗議するがサクラとアクアはやる気満々であった。

「うふふ♪北辰一刀流師範代、新宮寺サクラ参ります!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁタンマ!
 っていうか、あんた怪我をしてるんでしょ!」
「え?」
「交通事故で轢かれたって!
 体中包帯だらけじゃないの〜」
「・・・・・・・・アイタタタ」

必死にシャロンを思い留まらせようとするが、サクラは少し首を傾げてから忘れていたように痛がり始めた。

「だから殺陣のオーディションはまた今度と言うことで・・・」
「でもあなたを切り捨てるには支障はありませんですわ♪」
「あっさり復活するな!っていうか、あなたにとって車に轢かれるのってその程度の事なのか〜!」
「慣れてますから♪」
「慣れるな!」
「慣れなければ非常識な父の娘など務まりませんわ♪」
「務まらないって、どんな親子・・・」
「まぁ私の家庭の事情などどうでもよろしいではありませんか♪」
「いや、私はもう少しあなたの家庭の事情のお話でもしてたいんだけど・・・」
「面白い話ではありませんわ♪」
「いや、十分面白い話だけど・・・」
「これ以上腐れ外道の父上のお話をしようとされるのであれば悪・即・斬致しますわよ♪」
「あははは・・・(汗)」

会話引き延ばし作戦もあっさりと終了。
ニッコリ笑うサクラに万事休すのシャロン。

「では、新宮寺サクラ、参ります!」
「いやぁぁぁぁぁ」
「フレーフレー♪シャロンちゃん♪」

真剣を握ったサクラから必死に逃げ回るシャロンであった。
アクアだけは一人のんきに応援するのであった。



地球連合宇宙軍本部


本部の前には小さなテントが張られていた。
守衛が迷惑そうにしているがテントの住人はどこ吹く風だ。

そんなところにやってきたのは守衛さんの期待の星、テンクウ・ケン少佐である。

「少佐、あの人に何とか言って下さい〜」
「・・・気の済むまで居させてあげる・・・ってダメですか?」
「ダメに決まってるじゃないですか!」
「は、はぁ・・・」

溜息をつくケンは渋々テントの前に出向く。
テントの前では飯ごう炊さんが行われていた。

「あの〜〜先輩〜〜」
「おお、ケンか。どうした?」
「いえ、実は・・・」
「そうか!この旨そうな匂いに誘われてきたな♪
 仕方がない、ご馳走しよう。一緒に食っていくか?」

飯ごうは美味しそうなご飯が炊けつつあり、隣の鍋ではカレーがぐつぐつ煮えていた。
月臣はカレーをケンの分としてお皿に装う準備をしだした。

「やはり飯ごうとカレーは火力だよなぁ〜」
「いや、ですから・・・」
「なんだ?カレーは嫌いか?」
「いや、好きですが・・・」
「心配するな。炭を使っているから火力は十分、良く煮えているぞ」
「いえ、ですから宇宙軍ビルの入り口で飯ごう炊さんなどの火を使って欲しくないのですが・・・」
「そうか、すまん。じゃ明日から電気ポットとカップラーメンにすることとしよう」
「ありがとうございます・・・ってイヤイヤそうじゃなくって!」

テントで飯ごう炊さんをしている男にケンは思わず突っ込む。

「月臣先輩、そもそもこのビルの前にテントを張って野営をされるのは困るのですが・・・」
「公道ではないんだ。通行人の邪魔にならないと思うが?」
「いえ、敷地内は敷地内で宇宙軍側も迷惑なのですが・・・」
「何を言う!そもそもお前が悪いのではないか!」
「え〜〜、僕が悪いんですか!」
「そうだ。お前がナナコさんの住所を教えてくれないからだろうが!」

テントの主、月臣元一朗はビシッと指さした。

「・・・ナナコさんって?」
「この前の女性だ」
「・・・アキさんのことですか?」
「そうだ!彼女の居場所だ!先輩の俺に教えないというのはどういうことだ!」
「教えたら彼女の家に押し掛けるでしょう・・・」
「無論だ!彼女に俺の思いの丈をぶつけるのだ!」
「それじゃストーカーですよ・・・」
「何か言ったか?」
「いえ・・・」

そう、月臣はこの間この場所でアキのフリをしたシオンを見かけてからこの場所に居着いているのだ。その理由は至極単純である。

「だから教えてくれ」
「教えられません、っていうか、僕も知らないんですよ」
「本当か?」
「本当です」
「嘘だ!なにやらナナコさんと交渉をしているはずだ!」
「いえ、連絡は常に向こうから一方的に行われているんですよ〜」
「・・・本当だな」
「・・・ええ、ゲキガンガーに誓って」

月臣の鬼気迫る表情にコクコクと頷くケン。
嘘をつけない男である事は月臣も承知している。

「信じよう」
「お願いします」
「となれば彼女とめぐり会えるとしたらナナコさんがまた宇宙軍本部を訪れる時しかない!」
「いや・・・」
「だからこそ、ここで24時間張り込むのだ!」
「いや、ですから張り込まれても・・・」

結局このあと1時間以上押し問答したが月臣を排除することはついに出来なかった。



再びアクアの病室


ハァハァハァ・・・
逃げ回ること1時間、疲労困憊のシャロンだが、サクラの方はピンピンしていた。

「さぁそろそろ往生して下さいね♪」
「い、イヤァ・・・」

シャロンを壁際に追いつめてトドメの一撃を刺そうとしたその時!

「そういえば、勝つとどうなるのですか?」
「え?」

思い出したように尋ねるサクラ。

「えっと〜勝つと黒百合のお姫様と姉妹(スール)になれるんですよ〜」
「黒百合のお姫様・・・ですか?」
「そうなの〜そして世界を革命出来るの〜」
「それは映画の話でしょ!」

アクアが自信満々に言う。
しかしサクラは怪訝な顔をした。

「どうしたの?」
「・・・済みません。妾には心に誓ったお姉さまがいるのです。ですからそのお申し入れはお受けできません」

サクラはすっと剣を引いたので安堵するシャロン。

「でも姉妹(スール)になるって映画の話だし〜」
「アクア、さっきと言っていることが違う」
「いえ、映画であろうと妾の心に決めたお姉さまは一人。たとえ演技だろうと『お姉さま』とは言えませんわ」

彼女の心に誓った思いは誰にも動かせそうになかった。

「ちなみに、そのお姉さまってのはどんな人?」
「見たいですか?」
「ええ」
アクアがそう言うとサクラはラミネートされたカードを喜び勇んで取り出した。父親北辰が描いた似顔絵である。どうも自慢したくて仕方がなかったみたいだ。

「まぁ♪」
「ん?かっこいい女性だけど・・・」
「そうでしょ?素敵なお姉さまなんですよ。父の寝物語に毎夜毎夜聞かされて育ちましたから♪」

もちろん似顔絵の主はアキ(北辰による美化30%増)である。アクアは目を輝かせて喜び、シャロンはどこかで見たことがあるなぁ〜と眉をひそめた。

「うわぁ♪ピッタリ♪」
「ピッタリ?」
「そうよ♪黒百合のお姫様、まだキャストが決まっていなかったの♪」
「まぁ!」
「そういえばそんなことを言ってたっけ」
「この人、革命学園エルドラドレリルレルの黒百合のあ姫様役にスカウトしたいわ♪
 なら良いでしょ♪」
「まぁそれは良い考えです♪」
「なにぃ〜!」

アクアの発案にサクラは喜び、シャロンは驚愕した。

「妾がお姉さまの妹(スール)になる・・・ウットリ♪」
「そうよ♪決闘に勝利すればあなたは黒百合のお姫様の妹(スール)になれるの♪」
「ちょっとアクア!主人公は私じゃなかったの!」
「映画のシナリオなんて在って無きがもの!アドリブで面白くなるならそちらを採用ですわ♪」
「採用なんかするな!」
「というわけでシャロン様、妾は本気で行かせていただきます」
「ちょっと!何でそうなるの〜」

サクラ、スーパーサイヤ人モード発動!

じりじりとにじり寄るサクラにマジで死期を悟るシャロン

「心配いりません、介錯の必要がないように一撃でとどめを刺して差し上げますわ♪」
「や、やめて〜」
「お覚悟!」
「あの〜その人をスカウトしたいんだけど〜〜どこにいるの?」

アクアの何気ない一言が結果的にシャロンを救った。

「え?」
「だからこの女性はどこにいるの?」

アクアは似顔絵を指さすと、サクラの手が止まった。

「えっと・・・」
「どこにいるの?」
「・・・お姉さまを見つけた直後に私が轢かれました。シクシク・・・」

あ、サクラが泣き始めた。よっぽど悲しかったらしい。
するとアクアは彼女の肩をそっと抱きしめ、手にお金を握らせた。

「アクア様・・・」
「さぁこれは契約金ですわ♪是非ともこのお方をスカウトなさってきて下さいね♪」
「わかりました!喜んでお受けします♪今から早速探しに行って参りますわ♪」

サクラは頭を下げると心もウキウキとアキ探しに出かけるのであった。

「た、助かった・・・」
「これでしばらく退屈しのぎが出来るわねぇ〜♪」

後には命拾いをしたシャロンとおもちゃを手に入れたアクアが残されるのであった。



テンカワ家の夜


「お〜い、シオンちゃん、晩御飯だよ〜」
「は〜い、もう少しで行きま〜す」
「もう少しって何回目だよ・・・」

二階から聞こえる生返事に溜息をつくアキト。
さっきも呼んだのに同じ返事であった。
ユリカ達は仕事が忙しくて、ずっと帰ってこない。正味アキトとシオンだけなのだ、夕食を食べるメンバーは。
だからこそ彼女が降りてこないのに食事を始めても仕方がないのだが、彼女は帰ってきて以来部屋に閉じこもってなにやら熱心に作業をしているらしいのだ。集中すると周りが見えなくなるらしい。

アキトは溜息をついてラピに尋ねる。

「何かあったのか?」
「いえ、まぁ〜宝物でも手に入ったのではないでしょうか」
「宝物?」
「ええ♪」

ラピが具体的にそれが何かを話してくれるつもりはなさそうなので、アキトは諦めてキッチンに引っ込み、ラピはシオンを呼びに行く事にした。

シオンはラピが部屋にはいるまでPODの制御データをニコニコしながら眺めていたそうだ。



おまけ・地球連合宇宙軍本部


「き、貴様は北辰娘!」
「おや、誰かと思えばお兄ちゃんではないですか」
「貴様にお兄ちゃんと呼ばれる覚えはない!」
「では兄君」
「兄君でもない!」
「兄や」
「兄やでもない!」
「お兄♪」
「ふざけてるのか!」
「ふざけておりませんわ。『北辰娘』などと妾の人格を無視した呼称をされる方に対してふさわしい呼び方ではございませんか?お兄ちゃん♪」
「・・・わかった、サクラ。貴様が何故ここにいる?」
「そういう元一朗兄様こそ何故ここにいらっしゃるのですか?」
「お前に言う必要はない」
「ならば妾もお話しする必要はございませんわ♪」
「ハハハ・・・」
「ウフフ・・・」

二人が相手の目的が自分のそれと全く同じな事を本能で悟った。

「サクラ、久しぶりに稽古を付けてやろうか」
「稽古?怪我人の妾にその殺気はないのではなくて?」
「フフフ、気にするな」
「では妾も愛刀を出させて頂きますわ♪」
「ムムム、なんと卑劣な!」
「元一朗兄様に言われたくありませんわ♪」

二人の間に殺気が膨らむ。

「あの〜お二人とも〜何もうちの前でケンカをされなくても〜」

ケンがオロオロとする。既に竜虎のオーラが見える二人を止めることは何人にも不可能に思えた。

「サクラ、今日こそ雌雄を決するぞ!」
「元一朗兄様、お覚悟!!!」

はた迷惑な二人の争いは一晩中続いたそうな(笑)



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第4話をお届けしました。

えっと何故か出てきたアクアとシャロンなのですが(シャロンに関してはゲーム版のキャラなので知らない方も多いかもしれませんが)、なんか暫定で敵キャラみたいなのが欲しくなりまして書いてみました。
アクアはどちらかというと敵側のユリカみたいな存在に近いかもしれません。

で、書いて今更なのですが、アクア、シャロン、サクラと並べてみたらなんかタイムボカンシリーズのドロンジョ達に思えてきました(笑)
前半部分の狂言回しとしてストーリーを引っ張っていく役目をして欲しいですね。

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・望月 コウ 様
・Chocaholic 様
・にゃ♪ 様
・スレイヤー 様
・kakikaki 様