アバン


時は2203年
一人の少女がこの地に降り立ちました。
彼女は未来からの来訪者。
母を捜して三千里

まぁそれはともかくこれから旦那さんとラブラブしようとした奥さん達の直中に飛び込んだから、さぁ大変。何かと娘と母親は父親を取り合いすると言うけど、ほとんど恋人の争奪戦ですよね。
まぁ奥さん達は日頃の行いで半ば自滅しましたが、さてさてこのお転婆娘、一体何を考えているのやら

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



テンカワ家・食堂


アキトは目の前の立派な食堂にしばし感激していた。
ああ、自分の店を持てたのだと。

・・・一体誰がお金を出したのか、この際考えないようにしよう。

それはともかく料理人としてオーナーシェフになれるということは無上の喜びである。
全ての食材の仕入れから、全てのメニューまで全て自分が決められるのだ。
もちろん、採算がとれるどうかは全てアキトの腕次第であり言い訳は一切出来ない。
だからこそやりがいがあるというものだ。

闇の王子として過ごした自分が表の世界に戻れるかどうかはわからないが、ここまで尽力してくれら彼女達のためにももう一度頑張ってみようとアキトは誓った。

「さて、調理器具の点検でもするか」

アキトは厨房に入って調理器具を確認し始めた。包丁にまな板などの基本的なものはともかく鍋やコンロにオーブン、シンクなども確認が必要だ。そうそう保冷庫も大事である。
弘法筆を選ばずというけど、同じ作業をするにしてもやはり良い道具の方が効率がいい。
もちろん、道具だけ揃えたからといって美味しい料理が無条件に作れるはずはないのだが。

「おお、ナデシコにあったのと同じものばかりじゃないか♪」

そう、調理器具一式はナデシコAのキッチンにあったものとかなり似通っていた。最高級品というわけではないが、ホウメイが選んだ良質で使いやすいものばかりだ。

「とりあえず昼飯も兼ねて初仕事でもしますか」

アキトはエプロンを着けると仕込み作業を行う。
二人分だからそんなに大したものを作るつもりはない。これがユリカ達などがいるのだったら気も使うだろうが。

トントントン!

「ああ〜この体で料理が出来るなんて」

アキトはその幸せを噛みしめる。

「昔、火星の後継者の奴らに味覚を含む感覚を潰されたときには目の前が真っ暗になったが、ついにこの日が来るなんて・・・」

でもその間に女の体になっていっぱい料理をしていたじゃないですか

「うるさい!男の体ってところが大事なんじゃないか!」

あ、地の文に突っ込み入れられても・・・

まぁそれにしても・・・アキトはほんの少し違和感を感じる。物足りなさとでも言うのだろうか?やっていて何か足りないのだ。

「う〜ん、何だろう?」

アキトは悩むが思い出さないのならどうでも良いことなのだろう・・・
そう思い直して料理が出来ることの喜びを噛みしめることにした。



テンカワ家シオンの部屋


物足りなさの原因はいつの間にか奪い取った自らの部屋に籠もっていた。

「フンフンフン♪」

少女が一人鏡台の前でお化粧をしていた。
もちろんメイクの腕はメグミ譲りである。

パタパタパタ

「あの〜シオン様〜」
「何よ、ラピ」
「そんなに塗りたくらなくても・・・」

パタパタパタ

「塗りたくってないわよ」
「そうですか?」
「このぐらい普通だって」

パタパタパタ
彼女はファウンデーションを頬にはたく。

「地はお綺麗なんですから、メグミ様の様に厚化粧をなさらなくても・・・」
「そんなに厚化粧・・・かな?」
「ええ、ケバいです」

彼女・・・シオンの手は少し止まる。
確かにメグミママのお化粧を見習っているのだが、やっぱり厚化粧か・・・
化粧用のコットンで化粧を落とす。
地が良いんだからと忠告する自分専属メイドのラピの意見を信用することにした。

そして鏡を覗き込んでアイラインを入れ始める。

「でもでもやっぱり大人っぽさを演出しようと思ったらこのぐらいは欲しいじゃない?」
「大人っぽさって、シオン様は十分お美しいですよ」
「少なくともメグミママとかエリナママぐらいにならないと!」

なにか大人っぽさを間違えているような気がするラピであった。

「それは良いんですけど・・・」
「何よ」

彼女は今度は口紅を塗っていた。
真っ赤なルージュである。
やっぱり女の子である。お化粧はそれなりに楽しい。
まぁ本物のアキさんはそんなに化粧はしなかったと言おうか言うまいか悩むラピだが、それ以前の問題がある事を指摘することにした。

「首から上をいくら飾ってもすぐにバレると思いますけど・・・」
「首から上って?」
「それはもちろん・・・」

ラピの視線は首からツツツ〜と下がってあまり下がりすぎないところで止まった。

「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「アハハハ♪」
「アハハハ♪」

しばし無言の後でシオンとラピは笑い合う。
けれどその穏やかな雰囲気は長くは続かなかった。

「殴るわよ!」
「殴られると故障します」
「誰が貧乳よ!」
「そこまでは言ってません」
「本当に?」
「ただ以前もアキト様に通用しなかったように、その胸ではすぐにバレます」
「って言ってるじゃない!!!」

年頃の乙女には結構重要な問題らしい(笑)

「ママってそんなに大きかったのかなぁ〜」
「いえ、さすがにエリナ様やユリカ様には負けてたらしいですが」
「でも腰は細いって」
「そうらしいですね・・・」

ジーーーとシオンの上から下までを眺め回すラピ

「な、何よ・・・」
「諦めた方がよろしいのでは?」
「フフフ♪こんな事もあろうかと秘密兵器を用意したのよ!」
「秘密兵器?」

ちゃららちゃっちゃちゃ〜♪←例の音楽

「寄せてあげて、天使のブラ♪」
「よ、寄せて?」
「上げ底用のパッド付きよ。
 ちなみにメグミママのコレクションから失敬してきました♪」
「そこまでしますか(苦笑)」
「ほら、ぼさっとしないで着けるの手伝ってよ〜」
「・・・はいはい」

ラピはシオンに谷間作成を手伝わされるのであった(笑)



NadesicoNG(Next Generation)
第2話 黒百合姫の強襲



テンカワ家食堂の厨房


アキトは料理の下拵えをしていた。
と、そこに、

「パパ、お出かけしてくるね♪」
「昼飯は?」
「いらな〜い♪」
「ん・・・わかった」

トントントンと階段を下りてガラガラガラと扉を開けて外を出ていく足音が聞こえた。
シオンは出かけたらしい。

「ん?家って引き戸だったっけ?」

どうでも良いことを悩むアキト。
そして目の前の料理の下拵えを見て悩む。

「仕方がない。お弁当にでもしてユリカ達に届けるか・・・」

せっかく二人分の食材を残しても何なのでもう少し量を増やして6人分のお弁当を作ることにするアキトであった。
けれど・・・

少なくともシオンがどんな格好で表へ出ていったか確認した方が良かったと思うぞ?



大通り


「あの〜〜シオン様、どちらに行かれるつもりですか?」

前を歩くシオンに呼びかけるのはラピである。

「どこって、散歩♪」
「絶対嘘でしょ?」
「あ、わかる?」
「わかりますよ、そりゃ・・・」

ラピは溜息をつく。
そりゃそうだろう。少なくとも散歩で大通りを歩く・・・なんて格好をしているわけじゃないのだ。彼女のご主人様は。

黒いバイザー
黒いインナースーツ
黒いマント
ついでに寄せてあげた胸

「胸だけは余計よ!」

それはともかく、誰のコスプレかは一目瞭然だった。

「もしかしてアキ様のフリをするつもりですか?」
「フリなんて失礼な。相手が勝手に勘違いするだけよ」
「ですからそれがフリをするって言うんじゃないですか・・・」
「うるさいわねぇ、ラピは!
 いい?私のこと名前で呼んじゃ絶対ダメだよ!」

ラピにビシッと指を突きつけて渋々承諾させた。彼女の観念した様子を確認したシオンは既にイケイケモードになっているのであった。

にしても・・・

「やっぱり妖しいですね」
「何が?」
「その格好がです」
「嘘!カッコイイよ♪」

シオンはマントをひらりと翻す。だってママがしていた服装だっていうんだからカッコイイに決まっている。

「そうですか?これで幼児なんか連れて歩いていた日には交番に連行されますよ〜」
「まさかぁ♪」




遠くのアキト「はっくしょん!・・・風邪か?」



「やっぱり妖しいですよ」
「そうかなぁ〜」

と言い争いしているとお約束のような方達がやってきた。

「よぉ妖しい姿をした姉ちゃん」
「ワシらと良いことしに行かない?」
すねに傷持つ方々である。しかも複数

「なによ、チンピラ」
なんだと!
「シオン様、そうハッキリ申されては相手の方も不機嫌になりますわよ」
ハッキリとはどういう意味だ!!!

出会ってわずか数秒で一触即発の状態になった。
彼女達ってあおりの天才?

「お嬢ちゃん、良い度胸してるなぁ」
「少しヒィヒィ言わせたろうか?」
「心配しなくても気持ちよくなるだけだから」

ヒヒヒと品のない笑いをするチンピラ達にあからさまに不機嫌な顔をするシオン。

「・・・そんなにこの格好、妖しい?」
「今時そんな格好してる奴なんかいないぜ」
「まだ三度笠にヤッパ持ってる方がカッコイイぜ」
「そうそう、アニメの見過ぎだって」

ゲラゲラ笑うチンピラ達の言葉に顔から表情をなくすシオン。
ラピはそ〜っと数歩後ろに下がる。

「言っておくけど、読者さん達は私が弱いと思っているかもしれないけど、あれはパパが強いだけなんだからね」
「ああ?何言ってるんだ、この嬢ちゃんは」
「あんた達なんか相手じゃないって言ってるのよ!」
「なんだと!!!」

シオンは中指を押っ立てて相手を挑発する。
もちろんチンピラさん達は怒ってシオンに飛びかかった。




数秒後・・・



「ほら見なさい、やっぱり強いじゃない」
「それはこの方達が弱いだけじゃないのですか?」
「違うよ〜元一朗ちゃんにも勝ってるのよ?パパが強すぎるのよ」
「そうですか・・・」

ラピはボロ雑巾のようにされたチンピラさん達を見てそう思う。
案外アキトに勝てないのはこういうお山の大将的なところがあるからじゃないか?と悩む。

「しけてるわねぇ〜チンピラさん達も不況なの?」

シオンは既に彼らから抜き取った財布からお札だけを抜き取って枚数を数えていた。

「シオン様、カツアゲは良くありませんよ」
「良いじゃない♪軍資金、軍資金♪
 さぁ早くセイヤおじさまの所に行きましょう♪」

アキの姿で闊歩するシオンに沈痛気味なラピであった。



ウリバタケの工場


そこは東京の下町、妖しい工場であった。

『いらっしゃいませ♪私リリーちゃんよ♪』

近づくと開口一番にそう言われた。工場の前では女の子の人形が挨拶をしたりお辞儀をしたりして客寄せをしている。もっともそれで寄せられてくるお客など皆無なのだろうが。

しかしここに吊られたお客さんが一人いた。

『いらっしゃいませ♪私リリーちゃんよ♪』
「あらあら、お姉さま、お久しぶりです♪」

挨拶するリリーちゃん人形にラピは敬愛を込めて深々と会釈した。
しかもこのリリーちゃん人形は知り合いらしい。

『いらっしゃいませ♪私リリーちゃんよ♪』
「え?この人形、ラピのお姉さんなの?」
『いらっしゃいませ♪私リリーちゃんよ♪』
「ええ、私のボディーはリリーちゃん人形を元に改造されたものなんですよ♪」
『いらっしゃいませ♪私リリーちゃんよ♪』
「へぇ〜」

テクノロジーの進歩はすごい。
この食い倒れ人形に毛が生えたようなモノがそのうち万能メイドロボになるなんてねぇ・・・と変なことに感心するシオンであるが、いい加減工場の中に入らないと『いらっしゃいませ』がうるさくて仕方がない。
ほとんど呼び鈴代わりである。

「お邪魔しま〜す」

シオンは工場の敷居をまたいで挨拶をする。
工場の片隅で作業をしていた人がその声に気づいたようだ。というか、リリーちゃん人形の挨拶で既にわかっていたようであるが。

「なんだなんだ、リリーちゃんで遊んでたんじゃないのかよ・・・」

と言いながらこの工場の主は顔を覗かせたが、台詞を最後まで言えなかった。
工場の入り口に立っていた人物を見て驚いたからだ。

「はぁ〜い♪セイヤさん♪」
「あ、アキちゃん・・・かい?」
「お久しぶりですぅ〜♪」

信じられないように呟くウリバタケに甘ったるい声をかける少女。
亜麻色の髪、黒いバイザー、黒いマント

「アキちゃ〜ん♪会いたかったぜ〜♪」

ルパンダイブで飛びかかってくるウリバタケであるが・・・

メキュ!

「本気で殴りますよ!」
「いや、もう殴ってるって・・・」

シオンの右拳が抱きつこうと飛びかかってきたウリバタケの顔面にめり込んだ。

「たたた・・・相変わらずアキちゃんは手厳しいなぁ〜♪」

少し泣いているのは痛いからだけじゃないようだ。顔は嬉しそうだ。

「見事に騙されてますねぇ・・・」
「ホラホラ、やっぱり私ってばママに似てるのよ♪」

と、少女達のひそひそ話にようやく気が付いたウリバタケ。
アキの・・・とウリバタケには見えているシオンの隣にいる金髪の女性に気が付いたからだ。

しかも結構ウリバタケの好みだ。まぁ、そりゃそうだろう。未来のウリバタケが自分の理想像で造形したのだから。

「そちらの女性は?」
「ああ、この人は・・・」

シオンがラピを紹介しようとしたが、先にラピが自己紹介を始めました。

「お義父様、お久しぶりです♪」
「え?お、お義父様?誰が?」
「私のこと覚えてらっしゃいませんか?」
「お、覚えていないわけないじゃないですか〜♪
 えっと名前は・・・」
「ラピです」
「そう、ラピさん!良く覚えていますよ〜♪
 確か銀座のクラブで・・・」
「私、そんないかがわしいところで働いていた覚えなどありませんわ♪」
「えっと・・・そうそう、確かアソコでなにして何したんですよね♪」

覚えがないはずのウリバタケであるが、適当に相づちを打って話の調子を合わせようとする。いくら身に覚えのない女性でも、自分の好みの女性がお義父様などと敬愛を込めて呼んでくれているのである。ここで知らないと言ってバイバイする気など当然ない。
元来、女のお尻を追いかける習性がメラメラと燃え上がった(笑)

『アキちゃんも俺の所にわざわざ尋ねに来てくれたし、俺好みのラピさんも現れたし、人生最良の日だ♪
 必ずモノにするぜ!』

などとやる気満々の顔を見せていた。

「あの〜シオ・・・」
「私を名前で呼ばないでって言ったでしょ」
「お義父様はなぜ浮かれてらっしゃるのですか?」
「えっと・・・わからなきゃいいのよ、うん。その方が幸せだから」

自分がさっきからお義父様などと発言していることに気が付いていないらしい。確かにウリバタケはラピのボディであるリリーちゃん人形を作ったかもしれないが・・・
とはいえ、シオンにはその誤解を解いてこの絶好の状況をふいにするつもりなど更々なかった。

ここはイケイケGoGo!
ウリバタケの鼻の下が伸びている間に突き進むのだ!

「ねぇセイヤおじさま〜♪」
「お、おじさま!?」

ビックリするウリバタケであるが、疑問を持つ前にシオンは彼の胸元に縋り付いた。
もちろん、ウリバタケの心拍数は10や20は跳ね上がる。

「おじさまって呼んじゃダメ?」
「だ、ダメじゃないけど・・・」
「わたしぃ〜セイヤさんのこと、ずっ〜〜とぉおじさま♪って呼びたかったのぉ〜」
「なんかそれも良い響きだ♪」

甘ったるい声に既にデレデレ状態のウリバタケ。

「でねでね、おじさまにお願いしたいことがあるんだぁ〜」
「な、なんだい?お金の相談にだけはのれないんだが。
 ほら色男、金と力はなかりけり・・・なんちゃって」
「お金じゃないのぉ〜おじさまの腕がないと出来ないことなのぉ〜」
「お、俺の腕?」
「そう、おじさまのメカニックとしての腕がないと出来ないことなのぉ〜」

シオンはウリバタケの胸にのの字を書く。
するとウリバタケは『ムフゥ〜!ムフゥ〜!』という擬音が聞こえてきそうな程の荒々しい鼻息をしだした。

『あ・・・色仕掛けの次は自尊心をくすぐり始めましたか・・・
 メグミ様の得意技ですね』
ラピは呆れた表情のまま観客に徹することにする。

そんなラピにかまわず、たらし込まれたウリバタケの様子にしめしめとほくそ笑むシオンはもう一押しをした。

「実はぁ、エステバリスを一台作ってもらいたいのぉ〜」
「え、エステバリス?」
「そう、黒水晶の乙女♪」
「それって・・・PODか!?」
「ピンポン♪」

POD・・・正式名称はエステバリスゼロG戦フレーム・アマガワ・アキスペシャルThird Edition、通称アキサードであるが、黒水晶で作ったかと思われる外装と機体のシルエットの美しさから誰もが賞賛と畏怖を込めてPrincess of Darknessと呼んだ。
火星会戦後期に活躍し、まさにPOD(Princess of Darkness)の異名を欲しいままにした。

ただし、PODは残念ながら火星会戦の最終戦にて破壊され現存しない。

「でも、何もわざわざPODを作り直さなくても、アルストロメリアだってあるだろう」

彼の言わんとしていることはわからなくはない。
確かにPODは火星会戦当時は画期的な機体であった。初めてCC組成の装甲を使用することによりエネルギーゲインをそれまでのエステの3倍にまで引き上げた。当時月面フレームにしか使えなかったレールカノンを標準搭載したことからも最強の機動兵器と呼べるだろう。

しかし時代は変わった。ステルンクーゲルはバッタ系のエンジンを流用しレールガンの標準搭載を果たした。エステバリスも重力波アンテナの地道な改良によりカスタム機やスーパーエステバリスにてレールガンの搭載を可能にしている。

そして次世代のエステバリスであるアルストロメリアは装甲どころかフレーム全てがCC組成で作られており、単独でボソンジャンプを出来る能力を有している事から考えて従来のエステバリスの何倍ものポテンシャルがある。
そのことだけを考えても今更PODを作り直してもアルストロメリアには及ばないだろう。

「だから〜アルストロメリアをセイヤおじさまのメカニック技術で改造して欲しいの♪」
「か、改造する!?アルストロメリアなんかどうやって手に入れるんだ!?」
「それは私が何とかするから♪」

彼女は事も無げに言う。昔から掴み所がなかったが、何かツテでもあるのだろうか?

「でもなぁ〜わざわざ改造なんかしなくても・・・」
「ならおじさまは私の乗るのにアルストロメリアはふさわしいと思う?」
「えっと・・・」
「おじさまは私にあんな無骨なマシーンに乗れって言うのぉ?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・」

少し拗ねてうつむき加減になるシオンにウリバタケは狼狽えた。
機嫌を損ねたか!?その表情を見せるや、シオンは畳みかけるように籠絡を開始する。

「それならサリナお姉様にお願いしようかなぁ〜」
「な、何!?」
「やっぱりPODを作られたのはサリナお姉様だし、セイヤおじさまが作れないって言うなら、もうサリナお姉様に頼むしかないのかも〜」
「い、いや、そんなことは言ってないぞ!」
「サリナお姉さま・・・優しくして下さるかしら」
「や、優しくするって何をだ!?」

今度はサリナを頼ると言われて慌てるウリバタケ

『あ〜今度は嫉妬を誘いますか〜』
完全に観客になりきっているラピは面白いようにシオンの手のひらで転がされる義父を眺めていた。
多分、彼の頭の中ではサリナとアキをモデルにした百合な妄想が展開されていることであろう。

『サリナ様・・・私初めてなんです』
『心配しないで。あなたは黙ってロザリオを受け取れば良いのよ』
『はい、サリナ様・・・』
『ダメよ、アキ。これからは私のことお姉さまとお呼びなさい。良いわね?』
『はい、お姉さま♪』
『今夜は寝ないで飲み明かすわよ』
『はい♪』

ウリバタケの顔はダメだダメだ!と自らの妄想を否定していた。
ラピは思わず『元ネタはそんないかがわしい作品ではありません』と言ってやりたかったが、偏見というモノは恐ろしい。

「わかった、アキちゃん!この男ウリバタケ・セイヤ!
 あの女に負けない、最高のPODをアキちゃんのために作ってやるぜ!」
「キャハ♪だからおじさま大好き♪」

思いっきり甘えられてデレデレのウリバタケ。
ミッションコンプリートである。

「それじゃアキちゃん、これからアバンチュールとしゃれこも・・・」
「んじゃ、善は急げでアルストロメリアを調達してこなきゃ♪」

スカ!

今度はウリバタケの方から抱きしめようとしたとき、シオンはするりと彼の腕から抜け出した。態度が豹変したって奴である。

「あ、アキちゃん?」
「んじゃ、後でアルストロメリアを送るからよろしくね、おじさま♪」

シオンは投げキッスを放るとそのままスタスタと工場を出ていった。
取り残されたウリバタケは呆然としていたが、彼の不幸はそれだけでは終わらなかった。

「あんた〜〜」
「は!」

ゴゴゴーーーー!!!という効果音が背後から聞こえてくるのに気づいてウリバタケは振り返れなかった。今まであまりにも浮かれていたから気が付かなかったが、今は日中で当然家族は家の中にいるのである。
もちろん、奥さんのオリエさんもバッチリご在宅である。

「ご、誤解だ、オリエ!」
「へぇ〜鼻の下伸ばしてそれでも誤解って言い張るんだ、あんたは」
「は、話せばわかる〜」
「この浮気者!!!」

工場からはウリバタケの悲痛な叫び声が聞こえてきたのであった。



ウリバタケ工場の前


「シオン様・・・あれはさすがに・・・」
「いいじゃん、うら若き乙女の柔肌を抱きしめられたんだから♪」

奥さんにしばかれているウリバタケの悲鳴に罪悪感を感じるラピであるが、シオンは更々感じていないようだ。この男を餌も与えずに扱き使って罪悪感を持たない辺りエリナの影響であろうか?

「今度はどこに行かれるのですか?」
「もちろん、宇宙軍よ」
「宇宙軍って今ルリ様が行かれているでは?」

確かにルリはグレたオモイカネ(ハーリーedition)を更生させるために宇宙軍へ向かっているはずである。

「心配いらないわ。ルリママが向かったのは平塚ドッグよ。私達は宇宙軍本部に行くんだからルリママが邪魔しようにないわ♪」
「あ・・・もしかして、ルリ様達の一連の騒動って・・・
 シオン様の差し金ですか?」
「差し金なんて人聞きの悪い。
 私はただ起こりうる状況を予測してそれを利用しているだけよ♪」
「それも十分酷いのでは・・・」

もし悪気なくやっているならユリカ並だなぁ〜と最近ラピはシオンの将来を心配する。本当に悪気がないのか?
心配するラピを余所にシオンは・・・

「あ〜〜もしかしてシンゴ兄ちゃん!?」
「・・・なんだよ、お前ら」

野球少年ウリバタケ・シンゴ(ウリバタケ家長男、名前は筆者が勝手に命名)が工場の前にいるシオン達を眺めていた。シオンは彼を見るや、結構ヒットだったらしく喜んでシンゴを可愛がり始めた。

「あ〜ん♪シンゴ兄ちゃんにもこんなに可愛い頃があったなんて♪」
「な、何するんだよ〜〜」
「可愛い♪可愛い♪」
「や、やめろよ〜〜」

ウリバタケ・シンゴ
未来の世界では父親同様にメカニックを志し、シオンの乗機の整備を担当する。
あまりに扱いが荒いシオンをガミガミしかり、シオンも10歳も年が離れているため頭が上がらないのだが、どんなに偉そうな相手でも子供の頃は可愛いモノだ。

逆の立場になったシオンはすっかりシンゴをおもちゃにするのであった。



都内某大使館・応接室


ニコニコ♪
イライラ
ニコニコ♪
イライラ
ニコニコ♪
イライラ
ニコニコ♪
イライラ

都内某大使館の応接室ではそんな擬音が聞こえそうな状態で両者が睨み合っていた。
いや、睨み合っていたというのは正確な表現ではない。片方が一方的に睨み付けていたと言った方が正しい。睨まれている方は涼しい顔をしたままだ。

片方のテーブルに着席しているのは統合軍をリストラされて本国に戻ったアズマ元准将である。今回、彼が相手国の代表に選ばれたようだ。
強面の彼なら出会い頭の一喝で相手もビビると踏んだのだろう。
しかしそれは思いっきり戦術ミスであった。

「何だ!貴様は!!!」
「古代火星テクノロジー管理公団理事長テンカワ・ミスマル・ユリカで〜っす♪」
「そんなことを聞いているのではない!」
「いえ、何だ貴様と仰られたので自己紹介がまだだなぁ〜と思いまして」
「なんで管理公団の人間がここにいるんだ!」
「貴国の大使館に許可をもらってここに通されました♪」
「そんなことを聞いているのではない!貴様がここに来た目的だ!」
「貴国では公団のトップに向かって貴様呼ばわりされるのですか・・・田舎の国は礼儀すらわきまえていらっしゃらないようですね」
「何だと!」
「まぁまぁアズマさん落ち着いて♪
 秘書さん、私は全然気にしてませんから♪」
「うぐぐ!」
「もちろん、本日お邪魔しましたのは貴国がこのたび発見されましたプラントに関してです」

声を張り上げて威嚇するアズマであるがユリカは終始笑顔であった。
既にこの時点でアズマはユリカのペースにハメられたと言っても良いだろう。

「このハイエナどもめ!アレは我々が見つけた。我々のモノだ!」
「ええ、領有権を主張なさってもかまいませんよ♪
 ただ我々管理公団には古代火星遺跡を調査させていただく権限が与えられておりまして。もし世界文化遺産などというモノが見つかりましたら保全保護の義務なんてものが発生してしまうんですよ♪」

隣で聞いていたユリカの秘書は『うわぁ、この人早速屁理屈こね始めた』と感心する。
これじゃアズマはまるで工事現場で古墳が出て来てしまった工事現場の監督みたいな立場になってしまう。これでプラントから貴重な遺跡が出て来てしまえばそれを理由に管理公団の管理下に置いてしまえるという論法だ。

「プラントには何にもなかった!だからとっとと帰れ!」
「あれ?おかしいですね。
 貴国の調査団の第一陣は数日後にならないと出発しないはずですが?」
「う・・・」
「アズマさん、一緒に調査しましょうね♪」

第1ラウンド、ユリカの圧勝のようである。



某コンサート会場


コンサートは興奮のるつぼであった。

「ハーイ、みんな♪今日は楽しんでもらえましたか♪」
「ハーイ♪♪♪」
「それじゃお別れの曲はこの曲です♪
 私の彼はパイロット!」

おい、それは人様の曲だろう、というツッコミもなんのその、彼女は今時死語になりつつある(死語自身も死語であるが)、正統派清純アイドルの格好をしてフリフリに歌っていた。最後の曲なのでみんなスタンディングオベーションで共に歌う。

「私の彼はパイロット〜♪」
「おおおおお!」
「ありがとうございました♪
 皆さん、メグミ・レイナード完全復活記念ライブに来てくれてどうもありがとう♪
 これからもいろんなイベントをしますので応援よろしくお願いしますね♪」
「はぁぁぁぁいいい!」

こうしてコンサートは盛況の内に幕を閉じた。

会場の興奮冷めやらない舞台袖では・・・

「メグちゃんがまだ清純ブリブリで通用するとは思わなかったわ」
「それが企画したマネージャーさんの言う台詞ですか?」
「さぁこの調子で溜まったお仕事をこなすわよ!」
「ええええ〜まだあるんですか〜」
「サボった分を取り返すのよ!」
「とほほ〜」

メグミはマネージャーに引っ張られて次の仕事に連れて行かれるのであった。



ミナトの自宅


キラリ☆

「・・・ミナト」
「なんなの?」
「その眼鏡、変」
「え〜女教師って感じで良いじゃないの」

カリカリ・・・
カリカリ・・・
カリカリ・・・

鉛筆がノートを走る音が聞こえる中、そんなどうでも良い会話が繰り返される。
卓袱台に向かい合う二人の女性。
片方はブラウスにタイトスカート、指し棒を片手に伊達眼鏡をクイっとあげる。
もう片方は慣れない正座で足をさすりながらノートに書き込みを行っていた。

カリカリ・・・
カリカリ・・・
カリカリ・・・

「どうして今更漢字ドリルをやらされるの?」
「なぜって本当にわからないの?」
「全然」
「石の上にも」
「石がのってる」
「能ある鷹は」
「爪を研ぐ」
「猫に」
「寝込まれた」
「桃栗三年」
「火気厳禁」
「三歩下がって」
「真空飛びヒザ蹴り」
「・・・」
「・・・」
「あなたは国語力以前の問題よ!」
「キャ!」

ミナトの雷が落ちた。
そりゃそうだろう。普通の人が聞いたらおちょくられていると思うし。

「さぁ、今夜は徹夜で頑張るわよ!」
「そんなぁ〜」

拳を振り上げて張り切るミナトにシクシク泣くラピス。



ネルガル本社


会長室では一人の女性が陣頭指揮に当たっていた。

「ほら、この書類はそのまま総務に!
 アカツキ君、判子を押す手を止めないの!
 プロスペクター、あなたはこちらの書類をお願い」
「またですか〜」

なぜ監察官の自分がこんな所に駆り出されているのだろうと思い悩むプロスペクター。
いまこの部屋では堆く積み上がった書類が瞬く間に処理されて行っている。
これも陣頭指揮を執っている女性が有能だからだ。

その女性の名前をエリナ・キンジョウ・ウォンと呼ぶ。

「確かにこの書類の山を見れば月臣さんが逃げ出すのも無理もないでしょうねぇ」
「そう思うだろう?」
「その原因を作った人が何を言ってるの!」

アカツキとプロスがひそひそ話をして手がお留守な所にエリナの雷が落ちる。
確かにエリナの登場により書類は減っていっているのだが、これにもトリックがあって状況は悪化の一途を辿っている。

今まで月臣が裁ききれなかったのでみんな火急でない決裁の書類は遠慮していたのだ。しかしそれも我慢できないレベルにまで達していたらしい。そこにエリナ女史の登場である。
みんなが待ち望んでいたエリナの登場で書類の決裁が一気に進むと思ったのだろう。
ここぞとばかりに溜めていた書類の決裁を我先に求め始めたのだ。
結局処理した以上に書類が溜まっていく一方なのである。

そんなわけでエリナは文字通り猫の手も借りるべくそこら辺で遊んでいそうな人物全てを引っ張り込んで書類の処理に当たっていたのだ。

割を食ったのは全く関係ない部署のプロスである。

そしてこの人も割を食っていた。

「で、無理矢理呼び出された俺は何をすれば良いんだ?」
「あ・・・もう良いわ、あなたはとっとと帰りなさい」

エリナはゴートを一目見るや帰宅を促した。
それもそのはず、部屋の片隅にいるゴートは背中に九十九を背負い、腕には生まれたばかりの赤ん坊を抱いていたのだ。

「こんなところで赤ん坊をあやされたらみんな精神汚染されるから」
「どういう意味だ!」

どうもこうも言葉通りの意味です(笑)



ネルガル平塚ドッグ


「済みません、ホシノ大佐。退役されたのにご迷惑をおかけいたしまして」
「いいえ、これでも一応ネルガルの技術顧問ですし」
「でもせっかくホシノ大佐から任されたナデシコCなのにこんな状態にしてしまって・・・」
「お気になさらずに。第一ご迷惑をおかけしたのは私のダメな弟のせいですから」
「ルリさん〜ごめんなさい〜」

コンソールを操るルリに謝るナデシコC艦長テンクウ・ケン。
その横でハーリーはひたすら土下座で平謝りをしていた。
溜息をつくルリはひたすらコンソールをいじっていた。

しかし普通オモイカネをグレさせる事が可能か?
まぁ気難しいAIであることは確かであるが・・・

『何メンチ切ってんねん、ワレ!』

今時こんな不良、漫画の中にすら出てこないんだけど・・・
変な漫画でも読ませたのですか?ハーリー君
と心の中で呟いてみても目の前のウインドウに長ラン姿のオモイカネのウインドウが消えるわけでもないので黙っていることにした。

しかしこのままだと昔みたいにオモイカネの中に潜って不要な自我領域をパージしてこないといけないかもしれないが、それは既に青年期に差し掛かったオモイカネには取りたくない治療法である。

「ああ、テンクウ艦長、ここはもう良いですよ」
「でもそういう訳には・・・私はナデシコCの艦長ですから」
「艦長がここにいらしてもする事はありません。
 ご心配なく。人手が必要ならハーリー君を徹夜させても扱き使いますから」
「ルリさん〜ごめんなさい〜」

ルリが帰っていいというので、ケンは渋々帰ることにした。



宇宙軍本部


「え〜〜アオイ中佐もテンクウ少佐もいないの〜〜」
「ええ、外出中です」
「そんなぁ〜」

黒尽くめの少女は受付でブーブー言うが、いないものは仕方がない。

「やっぱりアポなしじゃ無理ということですよ」
「くそ〜」

悔しがるシオンの肩をラピがポンポンと叩く。

「シオン様は計算高そうに見えてどこか抜けてらっしゃるんですよね。そんなところはメグミ様そっくりですよ」
「あ〜〜聞きたくない、聞きたくない」

受付を離れながらシオンはラピの諫言に耳を塞いだ。
大人並に何でもこなしているので忘れてしまいそうになるが彼女はまだハイティーンである。こういう年相応の表情を見せる辺り、微笑ましいと思うラピであった。

「こうなったらコウイチロウ叔父様に・・・」
「いや、それはどうかと・・・」
しかし彼女のご主人様は年相応に諦めが悪かった。

と、ちょうどその時廊下の向こうからやってくる人影を二人は見つけた。
彼女達の良く知っている人物である。

「ふぅ、酷い目にあった。俺はアカツキの秘書じゃないっていうのに・・・」

とか何とか言いながらこっちに向かってくる。こちらには気づいていないようだ。

「ねぇラピ、あれって」
「ええ、月臣さんですね」
そう、彼はネルガルシークレットサービス隊長である月臣元一朗である。社内ではアカツキの秘書として認知されていたりもするのだが(笑)
書類の山に耐えきれなくなった彼は後輩のテンクウ・ケンを頼って匿ってもらっていたのだ。

・・・それで良いのか、宇宙軍?(苦笑)

そろそろ本人もシオン達の姿を見つける頃である。

「き、貴様は!」
「やっほ〜元一朗ちゃん〜♪」
「失礼ですわよ、目上の方にちゃん付けなどと。仮にも武術のお師匠さまなのですから」
「あんなのちゃんづけで十分だよ」

女性達はそんな話題で盛り上がるが、もう少し月臣の表情に注意しておいた方が良かったかもしれない。

あ、月臣がこっちを見つけたみたいだ。
二人の姿をジッと眺めた。
俯いてプルプル震えだした。

「どうした?」
「さぁ気分でも悪いのでしょうか?」

月臣をそっと見守るシオン達。
しかし、そんな呑気な事をせずにさっさとその場を離れるべきであった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ナナコさん♪会いたかった♪♪♪

周りにハートマークをまき散らして月臣が両手を広げてシオンの元へダッシュしてきた。

「え?ナナコさんって何?」
「えっと確かゲキガンガーのヒロインかと思います」
「それがなに?」
「・・・多分シオン様のことかと」
「どうして・・・って何で後ろ足で立ち去るのよ!」

淡々と解説しながらその場を立ち去るラピ。
もちろん月臣がそれで突進してくる方向を変えることはない。
まっすぐシオンの方にやってきている。

ナナコさん、やっぱり俺の元に帰ってきてくれたのだな♪
 わかった!結婚しよう!今すぐしよう!
 さぁ、今ここで誓いの口づけを!!!

唇をムチューと突き出して襲いかかる月臣

誰がするか!元一朗!!!

ドゲシィィィィ!!!

木連式柔の使い手にあるまじき右コークスクリューが決まった。

ヒューーー
ドスン!
パタリ・・・

遙か20mぐらい彼方までぶっ飛ばされた。

「やっぱり私って強いじゃないの。パパの師匠って元一朗ちゃんなんでしょ?
 その師匠に勝ったんだから私って弱くないのよ♪」
「・・・いや、何から突っ込んで良いのやら悩んでいる最中です・・・」

抱きつかれそうになった直後に平然としている事を突っ込むべきか、それとも色ボケごときに勝ったぐらいで誇っていることを突っ込むべきかラピは大層悩んだ。

「さすがはナナコさん、相変わらず手強い」

あ、月臣が何事もなくひょっこりと立ち上がった。

「あまり効いてなかったみたいですよ」
「うるさいわねぇ」

悔しがるシオンを余所に何故か月臣一人が盛り上がっていた。

「ナナコさん、照れなくてもいいのに」
「誰も照れてないって」
「わかった。この俺がナナコさんに相応しい相手か試しているというわけだな」
「いや、試してないし」
「心配しなくてもいい!君に相応しいことを証明して見せ・・・」
みせんでいいわよぉぉぉ!!!

波陣!
朧!
水月!
菩薩掌
波動拳
極意!森羅万象!!!

ドンガラガッシャン

月臣はデーモンスパイラルのごとく縦回転、横回転、斜め回転をしながら床を転げ回り壁に激突した。

・・・ぴくりとも動かない。
今度こそ本当に逝ったか?

「ゼェゼェハァハァ・・・」
「シオン様・・・」
「ほらご覧なさい。元一朗ちゃんに楽勝だったのよ?
 私は弱くないのよ。パパが強すぎるだけ」
「いえ、お師匠様なのですからもう少し手加減してあげては?と言おうかと思ったのですが・・・もういいです」

胸を張るシオンにラピは諦めムードでそう答えた。
ちなみに未来の世界でシオンに武術を教えたのは月臣元一朗である。
もっとも、その訓練とやらはこのような光景からほとんど逸脱していなかったみたいであるが(苦笑)

と、そこに本命が帰ってきた。

「つ、月臣先輩、どうされたのですか!?」
彼は帰ってくるや、壁に激突して死にかけたカエルのように仰向けでひくついている月臣を発見して大急ぎで介抱した。少女達は早速本命にアタックを開始した。

「先輩、大丈夫ですか!」
「あの、テンクウ少佐、ちょっとよろしいですか?」
「先・・・はい、何でしょう?」

テンクウ・ケンは声をかけられた相手に振り向いた。

「・・・生命保険なら間に合ってますが」
「この格好のどこが保険の勧誘員なの!」
「相変わらず壮絶なボケをかます人ですね」

真っ黒くろすけのシオンが保険のおばちゃんに見えるなんて・・・ラピがさすがユリカタイプとケンを評する。
シオンは気を直してケンに話しかけた。

「あの、ナデシコC艦長テンクウ・ケン少佐ですよね?」
「ええ、そうですけど・・・」

自分の経歴を知っていることに怪訝な顔をするケン。

「軍関係に少しでも詳しい者ならば少佐のご高名は誰でも存じておりますわ」
「い、いや、それほどでもないのですが・・・」
「それよりも現在少佐は出航準備のためにクルー集めに奔走されていると聞き及んでいるのですが」
「ど、どうしてそれを!?」

わざわざネルガルの平塚ドッグまで出向いてナデシコCの様子を確認してきたのも、実は近々出航する密命を受けているからでもあったのだが、そのような機密性の高い情報をなぜ彼女が知っているのだ!?

「簡単な推理ですわ。新しく見つかったプラント」
「ああ、アレですか」
「猫も杓子も利権争いにプラントへ向かう準備で色めき立っています。
 当然宇宙軍はその宙域の警護という名目であわよくば宇宙軍に優位な情報を得たい・・・そう考えて行動するならやはり切り札投入は考えられるシナリオですわ♪」
「ジャーナリストかなにかですか?」

さすがにお人好しのケンも警戒色を強めた。
しかし彼女の口からついて出たのは意外な申し出であった。

「有能なコックとアシスタントを雇いませんか?」
「はい?」
「3名ほど♪」
「はぁ・・・」

あまりにも突拍子のない発言に間抜け面を晒すケンであった。



ポストスプリクト


ということでナデシコNG第2話をお届けしました。

中途半端な引き(汗)
なんかようやく主人公らしくなってきたなぁ〜シオン君
しばらくほのぼのとしたホームコメディーをやっていても良いのですが、少しはお話を先に進めておかないと(笑)

さてさて次回はお待ちかねあの男の娘が現れる!・・・はずです、多分。
シオンの天敵がどんな娘になるかこうご期待!
ちなみに名前募集中!←まだ決まってなかったのかよ、おい!

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・龍崎海 様
・DOH 様
・にゃ♪ 様