アバン


時は2203年
ささやかな約束をして彼らは大事な人達を迎えに行きました。
物語はハッピーエンドになるはず・・・でした。

けれど物語はもう少しだけ続きます。
もちろん、主人公達は世代交代
それはちょっぴり未来からやってきた少女の些細な気まぐれがもたらした大騒動
・・・いえ、今から思えばそれは必然だったのかもしれません。

戦争が終わって平和になると人々はそこに未開の地が広がっている事に気が付きました。
古代火星遺跡・・・戦う事に精一杯だった人々が改めてそれを見つめ直すとそこには宝物がたくさん埋まっていた。
時代はまさに黄金ラッシュ、誰もがフロンティアを夢見ることが出来る時代となったのです。だからこそ、人はそこにかつての大航海時代の大冒険活劇を夢見ていました。
さぁナデシコサーガ第2幕の開演です♪

ああ、これって一応黒プリの続編だったりそうでなかったりしますのでよろしく〜



2203年某所


彼はピンチであった。
いきなりのピンチであった。
いやいや、ピンチは相変わらずであったが、今までのピンチは脱したはずである。
ピンチを脱したからこそ、さぁ治った体でこれからの人生やり直すぜ!ってな感じでウキウキしていたのである。

そう、少し前まで彼の体はまともではなかった。
何がどうまともでなかったかを語るつもりはない。
それは彼にとって一種のトラウマだったからである。
もちろん前作をリベ2まで読んでいて下さったか、はたまた黒プリまで読んで下さった読者さんには『ああ、あんな体だったことねぇ〜』と頷いていただける事とは思いますが、それらを未見で初めてこの小説を読まれた方々にはまるで訳の分からない話だと思う。
だからといってその人達にまで彼の体が以前どんな状態であったか話すつもりはない。
下手に話せば後ろ指を指され、陰口を叩かれ、夜逃げしなければいけないこと必定である。

「いや、別にあなたが思うほど誰もあなたの過去は重要視してないって」

そんな少女の一人からのツッコミにも追いつめられた彼には届かなかった。

そういえば男の驚いた顔で何が一番情けないかというと、身に覚えのない相手から『この子はあなたの子供よ』と言われたときだそうだ。
確かにその言葉に覚えがある。確かその言葉で誰かを一人ひっかけた。

あの時の顔は情けなかったなぁ〜〜今思い出しても笑える。

「私達は全然笑えないんですけど?」
「というかあなたの顔が今まさにそれなんだけど・・・」

少女達の睨み一閃で恐縮する彼

そう、彼には身に覚えのないことである。
アリバイだってある。
つい最近まで彼はそんなことが出来ない体であったからだ。
そのことを懇切丁寧に話せば少女達もわかってくれるはずである。

「ついこの間までは不可能なのはわかってるわよ。でもその前はどうなの?」

え?一体どういうこと・・・

「あなただってやんちゃしていたことあったでしょ。ハードボイルドのマネをして」

い、いや、それは・・・でもそれはさすがに計算が合わないでしょう・・・
少女達も頭ではわかっている。信頼もしている。
けれど目の前の光景がそれを許さない。
そして彼のどんなに説得力のある弁明を行っても目の前の光景が全てぶち壊してくれた。
だからこそ彼はピンチなのだ。
やましい事など何一つないはずなのだが顔がひきつってしまうのだ。

「むにゃ〜〜」

寝言が一つ。たった一つで彼の頬から一筋の冷汗が頬を伝い、少女達の青筋が一つ増える。

ピト♪

可愛い女の子が一人、ワイシャツ一枚というかなりきわどい格好で彼に縋り付いていたのだ。その少女が彼の首に腕を絡ませる。その行為だけで部屋の気温が3度は下がったはずだ。
彼は必死に何でもないかのようにそのヘッドロックされそうになる腕を振りほどこうとする。しかしそれは逆効果だったかもしれない。

「うふふ♪むにゃむにゃ〜〜」
「「「「「!!!!!」」」」」

寝言は続く。振りほどかれそうになった手をさらにきつく巻き付ける。
少女達の眉はピクンと跳ね上がり、形相も美少女という形容詞を般若に切り替えても良いかもしれないという状況になりつつあった。
そこで彼は無駄だと思いつつも最後の弁明を行う。

「わかっていると思うけど・・・
 俺はこの子とは知り合いでも何でもないからね」
「アキトさんは知り合いでもない女性の方とベットを共にする趣味がおありなのですね?」
「いや、そういうわけではないんだけど・・・」
「信じちゃダメよ。こいつ、その昔はすごいやんちゃしてたんだから。まぁ体のことがあるからって見逃してたんだけど、ここまで図に乗るなんて思わなかったわ!」

蒼い髪の少女が冷ややかに言う。追い打ちをかけるように黒髪の女性は彼の素行を知っているのか責める。やぶ蛇だったみたいだ。

「今回に限っては無実だ。本当に知らないんだ!」
「今回?」
「いや、今回も前回もないけど・・・」

紫色の髪の少女は細かいところへのチェックも抜かりはない。

「ユリカは俺のこと信じてくれるよな!」
「信じたいのは山々だけど・・・」

彼女は顔を背け葛藤していた。そりゃどれだけ相手のことを信頼していても目の前に既成事実を突きつけられていれば揺らぐのも無理はない。

「ラピス、お前だけは俺の味方だよな?」
「・・・」
「俺の目を見てくれ!嘘を言っている目か!」
「だけど・・・」

彼の信奉者は信じようとしていた。彼が自分を裏切るはずはない。

だが・・・

「むにゃ〜♪」

スリスリ♪

今度は寝言の上に彼の胸元に頬をスリスリと擦り付けた。

「うわぁ〜私もあれやったことないのに〜〜」
「いいなぁ〜いいなぁ〜」
「なんか、あまりにも自然ねぇ」
「昨日今日の関係じゃないって程手慣れてますねぇ」
「アキトさん、どういうことですか!」

一部の人達の羨望とともに嫉妬は膨れあがっていく。

「い、いや、本当に知らないんだって・・・」

彼の懸命の努力をぶち壊すように傍らの少女はアクションを起こした。

「むにゃ〜パパ♪」

少女は彼の首根っこを抱きしめた。そして彼の頬にスリスリとすり寄る。

「「「「「アキト!!!」」」」
「わぁぁぁぁぁ、お前ら落ち着け!」

すやすやとお眠りしている少女を余所に夫婦喧嘩(1対5)が激しく開催されるのであった。



NadesicoNG(Next Generation)
プロローグ 未来から来た娘



2203年ネルガル私設病院


そこは個室病棟である。いわゆるVIPとか難易度の高い手術を行った患者が入院する病室である。VIP用なので防音設備も完備、他に迷惑をかける相部屋の患者がいるわけじゃない。

それが彼テンカワ・アキトの不幸とも言えた。

彼はつい先ほど、難易度の高い手術を受けて、そして生還したばかりであった。
彼の受けた手術は過去に前例のない難しい手術である。何しろナノマシーンを使ってDNAレベルの治療を施すというものだからだ。
しかもその手術法を編み出したのがイネス・フレサンジュであるというのだから眉唾もいいところである。

けれど彼は手術を受けた。
彼は血塗られた自らの過去から決別したかったのだ。

そして彼は手術という名の戦いに勝ち残った。
彼は昔の健康的な体を手に入れたのだ。
これからバラ色の生活が始まるはずであった。

ああ、それなのにそれなのに

完全防音完備の個室では彼のピンチを止めてくれる者は誰も現れなかった。
ほとんど濡れ衣に近い罪状で彼は彼の大切な女性達にリンチに近いお仕置きを受けた。
けれどそれは一人の少女の目覚めで中断された。

「ママ達、パパをイジめちゃダメ!!!」
事もあろうに、そのイジメの原因を作ったあんたが言うか?という台詞を少女は宣われた。そして群がる彼女達をまるでマクラでも放り投げるような手際で引き離した。




それから数分後・・・



病室ではまるで集団見合いのように当事者達がテーブルを挟んで二手に分かれていた。

片方はもちろんテンカワ・アキトの大切な女性達。
テンカワ・ミスマル・ユリカ
ホシノ・ルリ
ラピス・ラズリ
メグミ・レイナード
エリナ・キンジョウ・ウォンである
もちろん『ガルルルゥ!』というライオンの様な唸り声が聞こえてきそうな形相である。

対面する席に座っているのは、

困った表情のテンカワ・アキト
そして彼の腕に自らの腕を絡め、肩にもたれかかるように抱きついている少女が一人

スリスリ♪
「「「「「!!!!!」」」」」

まるで逆なでするようにスリスリする少女におもしろいように反応する奥さん's(笑)
そのたびに折角危険な手術から生還したアキトはあのまま手術で死んでいればどれだけ楽だったろうと後悔することになる。

「いい加減、アキトのそばから離れなさい!」
アキトっ子のラピスがまず最初に暴れた。

「嫌です〜♪」
「あ〜〜またスリスリしてる!私だってしたことないのに〜〜!!!」
「ラピスちゃん落ち着いて〜」

見せつけるようにスリスリする少女に切れるラピス。
暴れるのを必死で取り押さえるメグミ達

「っていうか、あなたはどなたなんですか?うちの旦那さんとどういうご関係なんですか?」
「どういう関係って・・・私のパパさん♪」
「パパ!?」

衝撃の告白・・・だったはずだが、彼女達は多少ベクトルのずれた妄想を行った。



妄想開始


『パパ、会いたかった♪』
『おやおや、甘えん坊さんだねぇ。それじゃ今月のお小遣いだ』
『わぁぁぁい♪だからパパ大好き♪』
『それじゃ今夜は美味しいモノを食べよう』
『一日中ベタベタ出来る?』
『もちろんさ、夜景のきれいなスウィ〜トでリッチなルームを予約しているよ』
『さすが私のパパ♪大好き♪』

二人は夜のホテル街に消えていった・・・



妄想終了


「ダメです、そんなの!」
「不潔よ!不純異性交遊よ!」
「見損ないました、アキトさん!」
「アキトさんが援助交際なんて・・・」
「信じてたのに!」
「だからやってないって言ってるだろう!」

少女達が自らの妄想の結果を元に非難するのに抗議するアキト

「っていうか、ママ達相変わらずねぇ」

アキトの腕に縋り付いた少女はウンザリとして言う。
みんなの頭上に!マークが浮かんだ。

「ママ達・・・って?」
「だから、パパにママ達」

少女は最初にアキトを指さし、そして次に対面の女性達を指さした。
そこまで言われて端と気が付いた。
この少女の姿である。

「えっと・・・誰かに似ている・・・」

誰かが言った。そうマジマジと見れば・・・

アキトが右手を挙げれば少女も右手を挙げる。
アキトが左手を挙げれば少女も左手を挙げる。

赤あげて、白あげないで、赤下げない
せっせっせ〜のよいよいよい♪
マイムマイムマイムマイム♪マイムエッサッサ♪
違わず同じ動きをするアキトと少女

「アキトに似ている・・・」
「もう一声!」
「っていうか、アキさんに似ている・・・」
「キャ、嬉しい♪」

少女はアキトに・・・というかアキに似ていることを殊の外喜んだ。

「分裂した?」
「分裂するか!」
「余ったパーツで作った?」
「作れるか!」

ラピスのボケにアキトが必死に抗議するが、彼女は確かにアマガワ・アキという女性に似ていた。
けれど彼女はもうこの世のどこにもいない。
ついさっき彼女達の知っているアキは死んだのだ。

だって、目の前にアキトがいるから。

そのはずなんだけど目の前の少女はそのアキにとても似ていた。
瓜二つと言っても良い。

「・・・これは俺じゃないぞ?」
「ん?パパ、それどういう意味?」
「いや、べ、別に大した意味は・・・」

思わず墓穴を掘りそうになるアキトは口を濁す。
だが、ふと気づく。
さっきからパパ、パパと言われてようやく思い当たる。

「パパって・・・アキト、一体月々お手当はいくらぐらい払ってたの?」
「だから援助交際から離れろ!」
ボケるユリカに突っ込むアキト
もう少しで喉元まで出かかっているのだ。彼女の正体が。

「確かにアキじゃない。アキの胸はフカフカ、これはペッタン」
「年頃の乙女に胸が抉れてるなんて言うなぁぁぁ!!!」
「言ったのは俺じゃなくてラピスだぁぁぁ!」

ドゲシィィィィ!

アキトノックアウト(笑)

『思い出した・・・このパンチは確かシオンちゃん・・・』

薄れゆく意識の中でアキトは思いだした。
まるでついこの間の様な鮮明な記憶で。
どのぐらい鮮明かというと筆者が2,3週間前脱稿したぐらい鮮明な記憶で



回想シーン


黒プリ後日談その5の内容がそのままモノクロームで放送されておりますのでしばらくお待ち下さい(笑)



しばらく後、アキトの病室


アキト「・・・君、もしかしてシオンちゃん?」
シオン「ピンポン♪」
ユリカ「なら良いわ」
ルリ「仕方がありませんね」
ラピス「了承」
アキト「おい、お前ら、なんで素直に納得するんだ!?」
メグミ「もう一回黒プリ後日談その5の内容を繰り返すのも疲れますし」
エリナ「そうそう」

そう、彼女は正真正銘アキトの娘、テンカワ・シオンであった。
って納得するか、普通?
確か火星会戦が終わった後、シオンは2197年頃の地球にアマガワ・アキという女性を捜しにやってきたのだ。だがその時アキという女性はその世界にはいなかった。
だから目的をなくした彼女は・・・

アキト「未来に戻ったんじゃないの?」
シオン「だから未来に戻ったじゃないですか♪」
エリナ「ちょっとしか未来に戻ってないわよ!」
ルリ「こういうのは戻ったとは言わずに家出継続中って言いますよ」
シオン「言わない言わない」
メグミ「何でですか?」
シオン「私にはママを捜すという大事な使命があるんです!」
一同「「「「「「えぇぇぇぇ!!!」」」」」」

大上段に拳を振り上げるシオンを余所に、アキトと奥さん'sは円陣を組んでひそひそ話を開始した。

エリナ『誰か本当のこと話しなさいよ』
メグミ『嫌ですよ〜〜夢見る乙女にそんな残酷な事実を言うなんて・・・』
ラピス「アキの正体?」
ユリカ『わぁぁぁぁ〜声が大きい』
ラピス『もが・・・』
ルリ『でもどう思うんでしょうねぇ、あの子が母親だと思い込んでいる女性は・・・』
アキト『そんな目で俺を見るな・・・』

言えない。決して言えない。
まだ女性の体の頃では致し方がないが、今のアキトがアキのマネをすればそれは単なるオカマさんである。

アキト『だから俺は仕方なく演技を・・・』
エリナ『そう?その割にはノリノリでやってたみたいだけど?』
アキト『いや、それは・・・』
ユリカ『大丈夫、似合ってたよ♪』
メグミ『私の演技指導の賜物ね♪』
ラピス『グッジョブ』
アキト『誉めてない〜〜!』

とコソコソ話す両親達を覗き込む影が一つ

「なにが誉めてないの?」
「「「「「「な、何でもありません〜!」」」」」」
シオンの質問に互いが互いの口を塞ぐアキト達。

「なに?何か知ってるの?」
「いえいえ、何も知りません」
「なんか知っているって顔して」
「そんな顔してません〜」
「ウソウソ!隠し事するときのユリカママは鼻がひくひくするのよ!」
「ウソ!?」

シオンの言葉に鼻を押さえるユリカ

「メグミママは目が泳ぐし」
「お、泳いでないわよ〜」
「し、知らないじょ」
「ラピスママは語尾にじょが付く」
「わ、私は知らないわよ!!!」
「エリナママは言われる前から逆ギレするし」
「・・・」
「ルリママは顔から表情が消えるし」
「残念だが俺も知らない」
「パパはバイザーかけていきなりハードボイルドぶるし!」

六者六様、さすが娘には隠してますって態度がバレバレのようだ。

「むうぅぅぅぅ〜」

頬を膨らまして怒るシオン。
こんな表情を見ればアキじゃなく年相応の少女なのだとほだされる。どことなくユリカっぽい気もする。

シオン「絶対みんな私のママを知ってるでしょ!」
アキト「し、知らないって」
シオン「ウソ!そろそろママと出会わないと計算では私が生まれてこないんだよ?」
ユリカ「そうか、そろそろアキトと私が結ばれる頃なんだ・・・ポッ♪」
ルリ「なるほど、とうとう私もアキトさんに傷物にされるんですね♪」
ラピス「ん?どういうこと?」
メグミ「ラピスちゃんはまだ知らなくて良いよ・・・やった、一人ライバル減り!
エリナ「あんた、顔が少し邪悪よ」
メグミ「そういうエリナさんだってまんざらでもない様子」
エリナ「何ですって!」

激しい妄想にトリップする5人
アキトとシオンは沈痛そうに事態を見守る。

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて下さい。お茶を入れましたから一服しましょう♪」
「ああ、済みません・・・」

と声をかけられて思わず返答してしまったアキト
しかしその声は全く聞き覚えのない声である。
振り返るとそこにはやはり身に覚えのない人物が立っていた。

立っていたのは妙齢の女性
ブロンドの流れるような髪、目鼻立ちの整った顔立ち。だが何よりも異彩を放ったのはその服装であろう。

「め、メイド服!?」
「はい、これでもベビーシッター兼雑役女中(オールワークス)ですから♪」
「ですからって・・・」

金髪の女性は事も無げにそう言ってのけた。
まるでエマの世界から抜け出してきたような中世英国のメイドさん姿である。

「しかしアキト様も大変ですねぇ♪
 シオン様のみならず奥方様達のお相手なんて」
「いや、まぁそれほどでも・・・」
「ここにテーブルを置かせていただきますね♪」
「済みません、今退きます〜!」
「アキト様、確かクッキーよりもお煎餅の方がよろしかったのですよね?」
「はぁ甘いの苦手で・・・」
「かまいませんわ。シオン様は甘いのがお好きですから♪」

彼女はテキパキとアフタヌーンティーの用意をし始めた。ここは病室の個室のはずなのにお茶会にピッタリの素敵なリビングになりつつあった。その様子に言い争いを中断した奥さん達が注目を始めた。

ユリカ「・・・アキト、あの女性って誰?」
アキト「いや、俺に言われても・・・」
ルリ「その割にはなにげにアキトさんの趣味嗜好を把握されているようでしたが?」
アキト「だから知らないって」
メグミ「アキトさんは知らなくても向こうはアキトさんの事をよく知ってらっしゃる様ですけど?」
アキト「そ、そのようだね(汗)」
エリナ「やんちゃの証拠その1ね」
アキト「待て!まだ証拠と決まったわけじゃ・・・」
ラピス「信じてたのに!」
アキト「いや、だから俺は本当に知らないんだって・・・」

とまぁ数十行前にもあったような論争が始まろうとしたところ・・・

「はい、シオン様の好きなミルクティーですよ」
「ありがとうラピ。やっぱりラピの入れる紅茶は美味しい♪」
「シオン様専属メイドとして当然ですわ」

・・・・・・・・

そら見ろというアキトの視線を明後日の方向を向いて無視する奥さん達。
その様子に気づいたのか、メイドさんはこちらにやってきて改めて挨拶をした。

「自己紹介がまだでしたね♪
 私、シオン様の専属メイドをさせていただいております・・・」

とメイドさんは挨拶しようと深々とお辞儀をしたその時!

ポロリ

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
「く、首が落ちた〜〜」

メイドさんの首から上がぽろりと落ちて奥さん達の足下にコロコロ転がった。
それを見て卒倒する者が続出した。

「あらあら、頭、頭・・・
 お騒がせして済みません。最近首のねじがユルんじゃって良く落ちるんですよ。
 一応この前ボディーのメンテナンスを受けたんですけど、直ってなかったみたいですねぇ〜
 改めまして、初めましてというよりもお久しぶりですと言った方が正しいんですけど、私、シオン様のメイドでオモイカネラピスeditionです。こんな格好ですから気づかなかったでしょ?
 ・・・ってどうかされました?」

拾った頭を首に据えたメイドさんが改めて見回すと、そこには卒倒した少女達の姿が累々と横たわっていた。

「やっぱりラピの首ポロリを見た人は必ず気絶するのよねぇ〜」
「あ、あはははは・・・」

困ったように呟くシオンにアキトはこっそり『そういうことは先に言ってくれ』と突っ込みたい気持ちで一杯であった。



なぜなにナデシコ


皆さん、お久しぶり、初めまして、お元気ですか?
みんなの説明お姉さん、永遠の17歳、イネス・フレサンジュです

・・・誰ですか?年齢の計算がおかしいと言っている人は
精神年齢はまだ17歳なのよ!だってアイちゃんだったらちょうどこのぐらいの年齢だし・・・え?絶対に30歳後半だ?
うるさいわね!文句言うなら手術しちゃうわよ!!!

コホン、失礼

さて本題ですが、今回のお題はシオンちゃんのメイドであるラピことオモイカネ・ラピスeditionに関してです。

元々オモイカネは初代ナデシコことナデシコAに搭載されていたAIでした。
これが大きく三つに株分けされます。
ナデシコC、ナデシコB、そしてユーチャリスです。
元々は同じオモイカネでしたが、それぞれのオペレータの性格により微妙な変化を見せます。まぁ双子でも性格が違うっていうのと同じでしょうか?

え?違う?
まぁまぁ難しいこと言っても始まらないから

で、同じオモイカネなんだけど区別を付けようということでそれぞれのオペレータの名前を取ってルリedition、ハーリーedition、ラピスeditionと呼ばれます。
さてそのうちラピスeditionはユーチャリスに搭載され闇の王子様ことテンカワ・アキトと行動を共にします。
最終的には第3次火星極冠事変・・・つまり東郷の反乱までアキト君とともに戦いました。その結びつきは強く過去に戻った時もアキト君とともにナデシコAにインストールされます。

このようにアキト君と結びつきの強いAIであるラピスeditionがテンカワ家専用のAIとなることも無理からぬ事です。

以上、雑学まででした。



しばらく後、アキトの病室


「というわけで、ウリバタケさん発明のリリーちゃん1919号、通称イクイクをベースにヤマダさんや白鳥さんのサイボーグ技術などをふんだんに取り入れて改造していただいたボディーに入らせていただきましてテンカワ家にお仕えさせていただくことになりました」

ラピは深々と三つ指をついて挨拶する。
恐縮してアキト達も正座して挨拶するのはお約束。

それにしても・・・
アキトは小声でラピの耳元に囁きかける。

『ところでシオンちゃんの母親を知ってるんだろ?』
『存ジマセン』
『どうして台詞がカタカナになる』
『現在オカケニナッタ電話番号ハ使ワレテオリマセン。ぴートイウ発信音ガナッタ後ニめっせーじヲオ残シ下サイ』
『留守番電話か、君は』
『ソノヨウナ質問ハいんぷっとサレテオリマセン』
『だから(汗)』
『ソノ情報ニハぷろてくとガカケラレテイテオリマス。
 解除ハ絶対無理デス』

どうあっても聞き出せそうにない。

「私も一番最初に聞き出そうと頑張ったんだけどいつもその調子なの」

シオンは内緒話の内容を察したのか、そう言って肩をすくめた。
なるほど、だからシオンは一番手っ取り早いラピから情報を引き出すという行為を諦めたのだ。この情報に箝口令を敷いた者の徹底ぶりがわかる。
だがシオンの本当の母親というのは一体誰なんだろうか?
そこまで徹底して守らなければいけないのだろうか?

『・・・まさかねぇ』
アキトはマジで思い悩む。体が治った以上その可能性はゼロに等しいのだが、ここまでして秘密にする理由というと・・・

ユリカ「もちろん私がアキトの奥さんよ」
ルリ「違います。私がシオンの母です」
メグミ「どちらも違います。シオンちゃんの母親はこの私・・・」
ラピス「アキトの奥さんは私!」
エリナ「あなた達なわけないじゃない!」

あ・・・結局議論はここに戻りますか・・・
思い悩むアキトを余所に奥さん達は喧々囂々の言い争いを開始した。

ユリカ「このかわいらしい笑顔は絶対私の娘です!」
ルリ「ハッキング技術は私の血を引いているはずですよ」
メグミ「いえいえ、大きすぎず小さすぎない胸が私の娘である証拠です」
ラピス「っていうかメグミ、自分で言ってて空しくない?」
メグミ「この際、本妻の座が転がり込んでくれば多少の汚名などいくらでも受けます!」
ラピス「なら私だってこのぐらいの胸が・・・」
エリナ「あのねぇ、胸は関係ないでしょう、胸は。似ているとしたら髪の色とか」
ユリカ「やっぱりこの愛嬌のある笑顔は私譲りでしょう♪」
ルリ「髪はアキトさんの遺伝でしょう。全部が全部母親に似るとは限りません」
エリナ「まぁルリちゃんやラピスちゃんの遺伝だったらここまでの身長にはならないでしょうし」
ラピス「どういう意味?」
エリナ「別に。ただ私には『妖精愛好倶楽部』みたいなファンクラブなんて出来ないし。可愛いってそれだけでお得よねぇ」
ルリ「なら謹んで進呈しましょうか?」
エリナ「いらない」
ラピス「そう言わずにあげるから」
エリナ「死んでもいらない」



遠くのアララギ達
「会長〜我々は〜」
「諸君堪え忍ぶのだ。我らの真心はいつか伝わる(泣)」


ユリカ「私がアキトの奥さん」
ルリ「私が母です」
ラピス「アキトは私のもの」
メグミ「私しかいないと思うんですけど」
エリナ「あなた達のわけないじゃない」

結局、議論は平行線を辿るのか・・・
アキトは頭を抱えた。けれど議論を積み重ねれば積み重ねるほど彼女達が母親だという線は薄くなる。
状況証拠をどんどん積み上げていくと・・・

「だから私は認めないって言ってるでしょ!
 私のママはアマガワ・アキだって言ってるでしょ!!!」

バン!
シオンは机をドンドン叩く。何度も言わせないでよと盛んに抗議する。

それを聞いてアキトはさらに頭を抱える。
議論はそこに行き着くわけだ。シオンちゃんがそう結論づけるのも無理はない。
だって彼女はあらゆる面でアキという人物に瓜二つだから。

・・・胸を除いて・・・

「パパ、何か言った?」
「いえ、何でも・・・」

それはともかく・・・
これから数ヶ月間の間、一体何が起こるのか?
誰がシオンちゃんの母親になるのか?
なぜ十数年後の自分は彼女の母親の名前に口を噤み、ユリカ達はみんな揃って自分たち全員が母親だと言い張っているのか?

・・・とっても悪い予感がした。
悪い予感が・・・

ドクン!

「く・・・」
「どうしたの、パパ?」
「いや、な、何でもない、ちょっとトイレに・・・」

そういうとアキトは気遣うシオンを振り払って病室を飛び出した。



病院の廊下


この感じはいつか感じたことがある。

最悪だ!
治ったと思っていたのに!
最初の治療で治した副作用で女性の体になった。
そして今度はその女性の体を治したら症状が元に戻るっていうのか!?

よりによってどうしてこんな無防備なタイミングで症状が現れる!
プリズンなんて施設、この病院のどこを探したってない!

胸の鼓動は段々激しくなる

どうする?
このままでは彼のスタンピードをジャンパー全員に味わわせてしまう・・・
ボソンジャンプしてユーチャリスまで跳ぶか?
いや、この時代は確か規制されていて自由にボソンジャンプが出来ない。
第一リンクを確保するためにラピスも連れて行かなくてはいけない。そんなこと出来るはずがない!

迷っている内にだんだん体の力が抜けていく・・・

と、そこにやってくる人影

「ああ、アキト君、何とか間に合ったようね」
「い、イネスさん」

現れたのは相変わらず白衣姿のイネス・フレサンジュであった。

「どう?苦しい?」
「酷いなぁ、イネスさん。手術失敗じゃないですか」
「失敗って失礼ね。ちゃんと男に戻ったじゃない」
「だからってスタンピードまで戻してくれなんて頼んでませんよ!」
「心配しなくてもそんなヘマはしてないわよ」
「だって・・・」

どう考えたってこれはスタンピード・・・つまりナノマシーンの暴走の前兆だ。もし本格的に発症したらジャンパー体質の人間全ての意識を繋げて悪夢を送り込みかねない。
重大な事態のはずなのにイネスの顔は涼しいままだった。

「心配しなくていいわよ。スタンピードはスタンピードでも悪夢を見せるわけじゃないから」
「え?」
「今回のスタンピードはきわめて安全。アキト君の体内だけで自己完結しているわ」
「そ、それは良かった〜」
「それがそうじゃないのよねぇ〜」
「え?」

イネスがすごく不吉なことを言う。

「で、俺はどうなるんですか?」
「・・・」
「どうして無言なんですか!」

イネスはふいと視線を逸らす。
とっても言いづらそうなその態度がますますアキトの不安を煽る。

「人間知らない方が幸せって事もあるわ」
「ここまで言っておいて知らせない方が質が悪いですよ!」
「本当に後悔しない?」
「え?ええ・・・」
「まぁ言わなくてもすぐ気づくと思うんだけど・・・
 体の調子はどう?」
「どうって言われても・・・」

そういえばスタンピードの感覚は段々なくなってなんか落ち着いてきたというか・・・

「だいぶ気分が良くなってきました」
「それから?それから?」
「なんか肩のコリとかなくなったと思いますが・・・」
「あなたのお名前は?」
「わ、私の名前ですか?イネスさん知ってるくせに」
「良いから答えてみて」
「おかしなイネスさんですねぇ・・・私の名前はテンカワ・アキト・・・」
「なるほど言語野あたりにも手を加える様ね」
「い、イネスさん?私のどこかおかしいですか?」
「鈍いところは変わってないと」

一人フムフムと納得するイネスにいぶかしがるアキト。
だんだん腹が立ってきた。

「一体何だって言うんですか!ハッキリ言って下さい!」
「あ、読者さんは気づいたかしら?文字だけの小説は不便ねぇ。
 映像が見えれば一発なのに」
「だから一体なんだって・・・」
「言葉使い」
「はい?」
「あなた、自分のことをなんて言ってるの?」
「だから私はテンカワ・アキトって・・・」

あれ?今なんて言った?
『私』って言わなかったっけ?

「やっと気づいたみたいね、アキト君。
 いえ、アキさんって言った方が良い?」
「そ、それって・・・」

いや〜な予感がして首を下に向ける。
病人用のパジャマの胸の辺りにあるはずのない立派な双丘発見(笑)
もちろん男らしい肉付きなんかどこへやら、なんか手術前の体に戻っているような・・・

「これって一体どういうこと・・・」
「あのね、一応手術は成功したんだけど・・・」

イネスが早速解説しようとし出した。
しかしそれを妨げる声が一つ

「パパ〜どこ行ったの〜」

ま、まずい!

こんな姿を娘のシオンに見られたとしたらどうなるかわからない!
とりあえずアキ状態のアキトはイネスとともに手近な個室に逃げ込んだ。



布団部屋


「成功したんだけど、何故かあなたの体の中のナノマシーンがスタンピードを起こして、あなたのDNAを元に戻そうとするのよ」
「・・・なぜですか?」
「さぁ、女性だった頃の記憶のままにしようと働いているのかしらねぇ〜」
「一体どういうメカニズムで・・・」
「神様のいたずらか、はたまた運命の必然か」
「・・・つまりわからないって事ですね?」
「まぁ平たく言えば」

場所は何故か狭い布団部屋だったのでイネスと密着状態だ。
アキトは溜息をつく。いまイネスと自分がどういう状態でこの部屋に押し込まれているか気にかける余裕がないぐらいである。

「俺、せっかく男に戻れたって言うのに・・・」
「心配いらないわよ。一過性のモノみたいだし」
「え?」
「それよりも一応お約束のアレ、やっていい?」

イネスの言葉にまだ気が付かないらしい。
やはり映像なら一発なのだが。

アキトは言われて冷静に自分たちの今の状況を確認する。
『俺』と言ったように・・・体は元に戻っている。
そして狭い部屋に男性と女性、そしてすごい密着している・・・

すぅぅぅぅ・・・

イネスは大きく息を吸う。

「い、いや、これは〜〜」
「きゃぁぁぁぁぁ♪お兄ちゃんに奪われちゃう〜♪」
「わぁぁぁぁ、ごめんなさい〜」

イネスが似合わない・・・失礼、黄色い悲鳴を上げる。
慌てて部屋を飛び出したアキトを待っていたモノは・・・

「パ〜パ〜まさかその人が私のママだって言うんじゃないでしょうねぇ〜!」

ゴゴゴ!という擬音が聞こえてきそうな形相で仁王立ちするシオン。
もちろん、奥さん達もその背後で仁王立ちだったりする(笑)

「アキト〜いつからそんなにイネスさんと仲良しになったんですか〜」
「アキトさん、不潔です!」
「そんなに年増が良いですか!」
「アキトはやっぱり巨乳が良いのね・・・」
「まったくあんたはこれ以上女を増やしてどうするのよ!」
「誤解だ!!!」

五人の奥さんと一人の娘の猛追にとうとう逃げ出したアキト(笑)
イネスは悪戯っ子の様に舌を出して微笑んで見守った。

それにしても・・・

イネスは思う

「けれど何故アキト君はまだ女性の身を残しているのかしらね」

さっきの言葉じゃないけど、神の悪戯か?

「そうでないとするなら・・・
 まだ時代がアマガワ・アキという女性を必要としている。だからその存在を残そうとしているのなら・・・未来から娘が来たのも何かの必然なのかも・・・」

もしもその推論が正しいとするのなら・・・

「やっぱりお兄ちゃんは退屈しないわね♪」

観客が一番楽しい立場なのかもしれない。イネスはそう微笑んだ。

けれど彼女達は知らない。
これから数ヶ月の間、アキトの娘シオンがどんな大冒険を巻き起こすのかを・・・



ポストスプリクト


ということで新シリーズナデシコNGをお届けします。

あ・・・最初は娘萌えな話だけにしようかと思いましたが、なんか完全に男に戻っていない奴が一人(爆)
おっかしいなぁ〜書く前はそんな事無かったのになぁ〜(笑)
というのは冗談で、たまに女性に戻るという設定は蛇足だったりするかなぁと思いつつも面白いからレッツゴーとか思っている自分がいたりして。

とりあえず序盤はおもしろおかしいお話にするつもりですが、中盤以降はまたシリアス度合いが高くなると思います。
なお、あいつはたまに女に戻ったりしますが、一応主人公はシオンちゃんなのでお間違いなく(笑)

さてさて、シオンちゃんの母親は誰なのでしょうか?
つか、決めているのか?<自分
既に出がらしを無理矢理搾っていますが、何となくナデシコなそうでないようなお話がもやもやと頭の中にあるのでそれを書けたらなぁ〜と思いますので、よろしかったらもう少々お付き合い下さい。

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・天灯虫(仮) 様
・k-siki 様
・Chocaholic 様
・戸豚 様
・kakikaki 様