アバン


アイちゃんが貰った謎のプレート
それに何が書いてあったかはひとまず置いておくとして、

ただいまと言いましょう
きっとお帰りなさいと言ってくれるから

みんなで考えてみましょう
きっとみんなが幸せになれる方法が見つかるから

試してみましょう
それはきっと冴えたやり方のはずだから

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



戦闘宙域・夢幻城付近


『アキト、私達がナビゲートするから、まずは正面の正門に向かって』
「わかった」
アキトのブラックサレナはエンジェルオリジナル達と交戦しながら夢幻城付近まで辿り着いていた。
だが、攻撃は激しい。
どこそこへ向かえと口で言うのは簡単だが、これは生半可なことではない。

思わず北辰達との戦いの日々を思い出す。

あの時、ユリカを助けることに躍起だった。
まるで自分を痛めつけるように強くなりたいと願った。
勝てない苛立ち、奪われた憎しみと憎悪

殺す!殺す!殺す!殺す!

ともすれば敵と相打ちになっても果たしたいという衝動を、ユリカを救うという目的だけがかろうじて最後の自滅を止めた。
おめおめと生きながらえている自分を自嘲する毎日だった。

だが、今はそんな衝動は沸き上がってこない。
いやに冷静な自分に気づくアキト
なぜだろう?

それは帰る場所がイメージ出来たからかもしれない。

ユリカやルリ、エリナやラピス、メグミ、それにナデシコのクルー達
自分を信じて待っていてくれる者たち
そしてそれを成すのは自分しかいないという事実

アキトはいつの間にか帰るための戦いをしようとしていた・・・



ナデシコC・ブリッジ


「ルリちゃん、夢幻城の内部構造図はあがってきた?」
「もうちょっとです」
「イネスさん、正門のパスコードは?」
『OK、解析終了よ』
ユリカ達はアキトが「ソコ」に辿り着いてくれることを願ってそのための手段を必死に解析していた。

と、そこにケンから通信が入ってきた。
『ホシノ中佐!』
「どうしたんですか?テンクウ少佐」
『ホワイトサレナのフレームを出してください!』
「え?」
ケンの要望に驚くルリ。

『東郷相手にテンカワさんだけでは危険です!』
「でも・・・」
『東郷と戦うことがテンカワさんの成すべきことじゃないんでしょ?』
「・・・」
ケンの指摘はもっともだった。
アキトはある目的地に行き、あることをしなければいけない。
夢幻城内部にいるであろう東郷と戦うことが目的ではない。むしろ東郷との戦闘をなるべく回避して早く「ソコ」に辿り着かなければならない。
でも、ボソンジャンプを自在に操れるであろう東郷と、ボソンジャンプを封じられたアキトとではアキトの方が分が悪かった。

でも・・・

「テンクウ少佐、ホワイトサレナは・・・」
『わかってます。でも今からテンカワさんに追いつくにはホワイトサレナしかありません。』
ホワイトサレナは常人が乗ってまともにコントロールできるシロモノではない。それでもケンはホワイトサレナを要求した。
たぶん東郷の夜天光にはサレナカスタムでは敵わない。ブラックサレナかホワイトサレナが必要なのだ。

「それなら私がホワイトサレナを出します。だからテンクウ少佐は・・・」
『ダメです。中佐はプレートの解析に専念しなければいけません。
 大丈夫、何とかします。任せてください』
ケンはルリの目をじっと見る。
自分を信用してくれ・・・そんな瞳であった。

「ユリカさん・・・」
ルリはユリカにお伺いをたてた。
行きたいという理由だけで行かせては行けない。でもユリカは・・・
「ケンさんはきっと大丈夫。たぶん『資格』はあるよ」
「・・・わかりました」
ユリカの微笑みにルリはため息をついて了承した。



戦闘宙域・ナデシコ付近


ナデシコCから射出されるホワイトサレナ。
「ガンガークロスオペレーション、クロスクラッシュ!」
とはさすがに叫ばなかったが(笑)
ケンはアサルトピットを射出してサレナカスタムから直接ホワイトサレナに乗り換えた。
そしてその足でそのまま夢幻城に向かおうとした。
だが、その前に立ちはだかったのが風祭の夜天光改だった!!!

「させぬ!!!」
風祭の夜天光がホワイトサレナに立ちはだかる!
だが、それをさらに阻むものが現れた。
「お前の相手は俺だ!!」
「月臣元一朗!?」
そう、月臣のサレナカスタムが夜天光の前に現れた。

「ケン、お前は先に行け!」
「先輩、ありがとうございます!!」
その場を月臣に任してケンはホワイトサレナを夢幻城に向けた。



戦闘宙域・夢幻城正門前


なんとか天使達を煙に巻きつつ、アキトのブラックサレナは夢幻城の正門前まで到達していた。
しかし侵入すべきその門は来訪者を拒絶するかのように堅く閉ざされていた。

「ユリカ、どうやって開けるんだ?」
アキトは思わず叫ぶ。
それはそうだろう。彼女の指示通りに飛んできて行く道が閉ざされていれば。
でもユリカは慌てず騒がずアキトに指示をする。
『いいから、私の言うとおりに復唱して。あと、夢幻城には絶対銃を向けたりしないでね。』
「わかったから早くしろ!天使達が追いついてくる!」
せっつくアキトにユリカはその魔法の呪文、Open sesame(開けゴマ)を教えるのであった。

『Accept!
 I am your Successor and be your children.
 I have returned to cause you awoke!』

ユリカに言われたとおりにアキトは復唱する。
大事なのは魔法の呪文を唱えることじゃなく、その言葉を発することによりイメージが発生することだ。そうすればA級ジャンパーの資質により遺跡演算装置を通じてそのイメージデータは夢幻城に伝わる。

だが!!

ボース粒子増大!!!

「天使か!!!」
いきなりエンジェル達がボソンジャンプで現れた。だが今のブラックサレナは扉を開けようとして無防備な状態にあった!!!
アキトが大急ぎで回避しようとしたが・・・

『大丈夫、彼らはアキトに何もしないよ』
「え?」
ユリカの言葉通り、天使達は現れはしたが、さっきのようにブラックサレナに敵意を投げかけるようなことはしなかった。

「どういうことだ?」
『それより扉開いたよ?はやく中へ
 もう一回念を押すけど、夢幻城の中では銃火器を使わないでね』
「・・・わかった」

狐に摘まれたような顔をしながらアキトはブラックサレナを夢幻城の中へ差し向けた。
エンジェル達はまるで敬意でも示すかのように捧げ銃でブラックサレナを見送った・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「・・・・どういうことなの?」
ミナトがその光景を見てあんぐりする。
敵意を剥き出しにしてきたオリジナル達が急に好意的にブラックサレナを夢幻城内に招き入れたのだ。

「あの城はずっと待ってたんですよ」
「待ってた?」
「そう、待ってたんです。自分の子供達を・・・
 遙か悠久の太古から。
 自分を目覚めさせてくれる事を願って・・・
 ひたすらずっと・・・」
ユリカは誰にいうともなく、謎めいたセリフを呟く。

「提督〜〜」
意味不明なセリフに泣きそうになるミナト。
ユリカは慌ててちゃんとした説明をし出した。
「ごめんなさい。
 つまりあの天使達は白血球みたいなものなんですよ。」
「白血球?」
「そう、母体に仇なす病原体を退治するためにやってきただけなの。
 だから資格のある人間が正しい手順を踏めば彼らは快く迎えてくれるの。」

ユリカの説明にわかったようなわからないようなクルー達。

だが、正門を突破するなど序の口だ。
問題はいかに東郷を下しながら「ソコ」に近づくかなのだ・・・



夢幻城・回廊の間


中に侵入したアキトのブラックサレナはユリカ達のナビゲートを元に先を進んでいった。

「まるで本当に中世の城だな。
 こんなデザインにした奴の顔を見てみたい。
 よっぽどセンスがある奴なのか、それともただのジョークなのか・・・」
アキトはあまりにも馬鹿馬鹿しいほど荘厳な内部を見て毒づいた。

あまりにも非常識な空間
だけど、それはなぜか懐かしくもある。

『あの夢の懐かしさとはこのことだったのか?』
何度も見た「夢の続き」
その城は東郷が行ったような破壊をまき散らす禍禍しさでありながら、懐かしさにも似た安らぎを与えてくれた。

まるで帰るべき所に帰ってきたような、
あの古き思い出の中の我が家に戻ってきたような、
そんな感覚をアキトに与えた。
それはアキトが真の「MARTIAN SUCCESSOR」だからなのだが、それがわかるのはもう少し後の話である。

状況はそんな感傷を許してはくれなかった。

シャリーン・・・

ゾク!!!!!!!

アキトの背中には一瞬悪寒が走った。
彼はその感覚のまま、回避行動に移った!!

ブン!!!
何かが空をかすめた。

「さすが、察しがいいな」
それは実体を表す。ボソンのキラメキを元に・・・

シャリーン・・・
錫杖の音
北辰の亡霊・・・ではない。
こんな正確にアキトのいる場所にジャンプしてこれる者など一人しかいない。

「東郷!!!」
「やはり我が前に対峙するは貴様か、黒百合」
東郷の夜天光零式がアキトの前に静かに現れた・・・



戦闘空域・ナデシコ付近


「月臣、いい加減にしろ!!」
「お前はここで足止めする!」
月臣とアカツキのサレナカスタムが風祭の夜天光改をこの場に足止めにしていた。
アキトのサポートにまわったケンの邪魔をさせないためだ。

「なぜ東郷閣下の理想を邪魔する!」
「あいつのアレが理想か?
 ただ神になれて浮かれているだけさ。
 そんなものに付き合って滅ぶなんてゴメンだね♪」
アカツキは風祭の正義を茶化す。

「愚弄するな!奸賊アカツキ!!」
「奸賊結構。
 所詮、人は世俗にまみれるもの。
 神様が敷いた清廉潔白な世界なんてどうせみんな窒息死するだけさ」
「ほざけ!!」
アカツキのあざけりに激怒する風祭。
そんな彼に月臣が声をかける。

「盲信するのは勝手だが、東郷の言う新たなる秩序が実現した世界にお前の居場所がまだ存在するか心配した方がいいぞ?」
「戯れ言を言うな!!!」
「俺もそう思ってたさ。
 西條数馬も・・・
 それにテンクウ・ケンも・・・
 でも結果こうなった。」
「・・・・」

知らぬ訳ではあるまい。風祭は全てを調べ上げたはずだ。
月臣の言ったことが真実であるという事を。

でも・・・

「惑わされるものか!!!」

ギュイン!!!

風祭は傀儡舞を仕掛け、強引に月臣達を振りほどいた。
「跳躍!!」
そして月臣達が怯んだ隙に夜天光改をボソンジャンプさせた。


「どうする、月臣君。追う?」
「・・・かまわない」
「でも、昔の自分を見ているみたいで嫌だったんだろ?」
「真実は痛い。ただそれだけさ・・・」
「ふぅ〜ん」
月臣は自分に信じたが故の末路を憂う資格などないと自嘲していた。
アカツキは不器用な友人を少し見直した。



夢幻城・回廊の間


アキトは東郷が操る夜天光零式と激しい戦いを行っていた。
ただし・・・

「どうした黒百合!」
「く!!」

ガシン!ガシン!ガシン!
夜天光の振りかぶる錫杖がブラックサレナの装甲をドラムのように叩いていく。
だが、アキトは反撃しなかった。

『夢幻城の中で銃火器は使わないで』
というユリカからの忠告をちゃんと守っていたからだ。
それにどんな意味があるのかわからない。
でもアキトはユリカを信じていた。
だから反撃する以外の方法で東郷を追い払う努力をすることにした。

グワッ!!!!!!

「突進力はこちらの方が上!」
ブラックサレナは夜天光に突進をかける!!
いくら夜天光でもパワー合戦ならブラックサレナの方に分がある。

だが・・・

「甘いぞ、黒百合!!」

ヒュン!!!

「ジャンプした!?」
アキトは思わず叫ぶ。
そう夜天光はブラックサレナが衝突する瞬間、ボソンジャンプをしてかわしたのだ。
「どこだ!」
「ここだ!!」
跳躍した次の瞬間、ほぼ距離を違えず、ブラックサレナの背後にジャンプアウトする夜天光!!!

ゲシ!!!!!!!

「うわぁ!」
ブラックサレナの背中にケリを入れる夜天光。
勢い余って近くの壁にぶつかりそうになるのをアキトは寸前でなんとか回避した。

「どうだ、黒百合
 自分がもっとも得意とした戦法で痛めつけられる気分は!!」
東郷は愉快そうに笑う。
意外な話だろうが、実は超近距離のボソンジャンプを正確に行うというのが一番難しいテクニックなのだ。しかも戦闘中に行うことはほとんど至難の業なのだ。
それは我々が蠅を払いのけるのと同じぐらい無意識かつ瞬時に正確なイメージを弾き出さなければいけない。
アキトが北辰や東郷達との戦いでどうにか生き抜いてこられたのは精度の高いボソンジャンプ能力のおかげであった。
しかしアキトの能力は封じられ、東郷のジャンプ能力はアキトのそれを確実に上回っていた。

「くそ!それが夢幻城の力か!」
「そうだ!
 そしてこの夜天光零式は夢幻城をフルコントロールできるように開発されたハッキングデバイスなのさ!
 つまり今の俺は夢幻城の全てを操れる。
 だからこんな事もできる!!!」

ブン!!!!!!

一瞬のうちに現れる複数の夜天光零式!!!

「分身の術か!!」
「そうさ、ジャンプする時間をほんの少しずつずらしていけば一つの空間に複数の実体が存在するように見える!
 そしてそれは実体を伴った攻撃となる!!!」

ガガガガガ!!!!

袋叩きにされるブラックサレナ!
だがそのまま易々と攻撃され続けるアキトではなかった。
「昨日今日、なったばかりのにわかジャンパーに負けるか!!」

ブラックサレナはその中の一機に突進する。
「バカの一つ覚えめ!」
東郷は突撃をジャンプでかわす。

だがその瞬間をアキトは待っていた!
全神経を集中させて敵のジャンプアウトをする瞬間を感じ取ろうとする。

「そこだ!!!」
シュ!!!!!!
虚空にケリを入れるブラックサレナ!

だが次の瞬間・・・
ブラックサレナが虚空を蹴ったその場所に夜天光が現れた!!!
「な!」
さすがにジャンプアウトした瞬間に攻撃をされてはかわす手段もなく、まともに蹴りを食らう夜天光!!

「黒百合、貴様!!」
「おもちゃを貰った子供はうれしがって使いたがる。」
「ぬかせ!!!」
アキトは東郷をわざと嘲笑する。アキトらしくないがこれも計算の内だ。
これで東郷はむやみにジャンプを使わなくなる。
いや、東郷の頭の中に必ずしも成功しないとインプットされたはずだ。
そこまで思わなくてもどこかで無意識に手控える。

大丈夫、敵わない相手じゃない。

アキトはいかにハンデを克服するか必死に考えていた・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「でも・・・アキトさんはなんで反撃しちゃいけないんですか?
 負けちゃいますよ!」
ユキナは戦いの様子を居たたまれない様子で見ながらユリカに訴えた。

「夢幻城を敵に回しちゃいけないの。
 アキトはまだVisitorの権限しかないから・・・」
「え?」
意味不明なセリフを言うユリカに目を丸くするユキナ。
だがそんなユキナの気持ちを知ってか知らずか、ユリカはなんとなく呟く。

「ねぇ、ルリちゃん・・・」
「なんですか?ユリカさん」
「古代火星人さん達ってなんで火星からいなくなっちゃったんだろうね?」
「はい?」
ユリカは難しい命題をルリに投げかけた。

「・・・・それはわかりません。」
「そうだよねぇ・・・」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「ん?
 ほら、昔私が遺跡の演算装置を壊そうとしたじゃない。
 でもルリちゃんがそれを反対したよね」
「ええ・・・」
「あの人達もそんな感じだったのかな・・・」
「!」

そう、遺跡を壊せば全てチャラ
でも大切な思い出もなかったことになる。
だから古代火星人達は・・・

ルリはユリカの言いたい意味が何となく分かった気がした。

「でもそうだとすれば私達のする事って彼らの意志に反するんじゃないですか?」
「かもね」
ユリカはルリの問いに苦笑する。
「でもあの人達がなぜそれを使わなくなったのか、自分達の故郷を離れてまで使わないようにしたのか・・・たぶん今の私達にはわからない事だと思う。
 きっと人類がボソンジャンプというモノを嫌というほど使ってみてはじめてわかる事だと思うんだ。痛い目を見ないと懲りないように。
 でも今の人類がその境地に到達するまではきっと必要なんだよ。
 私達にはもう必要ないって言い切れるだけみんなの意識が成熟するまでは・・・」
ユリカはちょっぴり感傷的になって言う。

でもユリカ達の感傷とは裏腹に事態は進行していく。

『提督、夢幻城の正門が開きました。
 内部に侵入します』
ケンのホワイトサレナからの通信だ。
「ケンさん、ナビゲート通りに進んで下さい。
 それと中に入ったら銃火器の使用はしないで下さい。」
『わかりまし・・・・わぁ!!!』
「どうしたんですか?ケンさん!!!」

通信ラインから何かと何かがぶつかる音がした!!!



夢幻城・回廊入り口


「風祭!?」
「テンクウ・ケン!閣下の元には行かせはしない!!!」
いきなりボソンジャンプでホワイトサレナの前に現れたのは風祭の夜天光改であった。

ガツン!ガツン!

ホワイトサレナに錫杖で殴りかかる夜天光
ケンはそれをフィールドで防ぐ。

「東郷閣下の理想は邪魔させない!!」
「それが君の理想なのか!」
「そうだ!」
「どうして、そうやって他人の理想を自分のモノだと思い込むんだ!
 どうして、それが正しいかどうかを考えてみないんだ!
 熱血は盲信じゃないだろう!!」
「売国奴の言うことなど聞く耳を持つか!!!」

ガツン!ガツン!ガツン!
二体の機動兵器は殴り合いながら回廊を疾走していく。

「我々は神の力を手に入れたのだ!」
「だからなぜその先に自分の居場所が存在すると思うんだ!
 全てを滅ぼして自分達が残ったとして何が残るんだ!」
「新たなる秩序だ!」
「違う!人と人の正義は似ていても違うモノだとなぜ気づかないんだ!
 ただ滅ぼすだけでは世界が小さくなるだけだということになぜ気づかないんだ!」
「戯れ言を!」
「戯れ言じゃない!
 僕も数馬も月臣先輩もかつて草壁中将の正義を自分の正義と信じていた。
 でも結果はどうだ?
 その正義の先に僕たちの居場所はなかった。
 君の正義がそうじゃないとなぜ言い切れる!」

ズキ!
それは風祭の心の中で小さなささくれとなった。
「我らの正義を愚弄するな!」
夜天光改はミサイルランチャーをホワイトサレナに向けた。

「死ね!」
「止めろ、銃火器を使うな!」
ケンは叫ぶ。
ユリカに念押しされたことを伝えようとした。
ケンにはわかっていたのだ。ユリカの忠告した意味が。

でも風祭はかまわずトリガーを引いた。

ゴウ!!!

ホワイトサレナはディストーションフィールドで弾きながら、ミサイル群をかわした。
その内のいくつかのミサイルは外れて夢幻城の壁を破壊した。

ゾクゥゥゥ!!!!!!!

破壊された次の瞬間、周囲の空気が殺気に満ちる!

ボース粒子増大

「ゴルァァァァ!!!!!!!!!」
ボソンジャンプして現れたのはまるで獣のような咆哮をあげたエンジェル達

ガブリ!
ガブリ!
ガブリ!
ガブリ!
ガブリ!
ガブリ!

天使達は次々と夜天光の肢体に噛みついていた!!
「離せ!
 なぜだ!我らは神の力を手に入れたのではないのか!!」
風祭の叫びにも耳を貸さず、天使達は夜天光をガリガリと噛み砕いていく。
「お前達は我らのしもべじゃないのか!!
 閣下、なぜですかぁぁぁ!」

夜天光は味方と思われていたエンジェル達に噛み砕かれながら回廊の暗闇に消えていった。

「・・・」
ケンは感傷に浸る暇がないことを知っていた。
だから弔いもせず夢幻城内部に歩を進めた。
彼にはまだやることが残っていたからだ・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「・・・・・」
クルー一同はその光景を見て背筋を寒くした。
ユリカがアキトやケンに念押しした意味がようやくわかったからだ。

「・・・味方に襲われるなんて」
「あの城を人が制御する事は出来ないのか?」
誰かがそんな感想を漏らす。
でも・・・

「そんなんじゃないよ・・・」
ユリカがそっと呟く。
だが詳しい説明をしている時間はユリカにもなかった。

「ルリちゃん、セントラルターミナルの正確な位置は出た?」
「はい」
「アキトのDNAからシリアルとライセンスコードは作成出来そう?」
「それももう少しです」
「急いで!アキトももうすぐセントラルターミナルに着くし、
 なによりナデシコの方が持ちそうにないよ」
「わかってます」

ユリカの言うように戦線維持はかなり厳しい状態にあった。
雲霞のように出てくるエンジェルコピー達
いくらサレナ部隊がスペシャリストでも数限りなく現れるコピー達を相手にしていけば疲弊してくる。しかも限りある人数で休みなく当たっていればなおさらだ。

でも・・・

『心配するんじゃねぇ!まだまだやれるさ!!』
リョーコがブリッジの心配をよそに強がるが、その息はかなり荒い。
「リョーコさん・・・」
『心配するなって言ってるだろ。
 大丈夫、アキトが何とかしてくれる!
 だからあたい達はそれまでナデシコを守るんだ!』

他のパイロット達も同じ顔で笑っていた。
いやナデシコの全クルーが同じ気持ちだったのかもしれない。

アキトがそれを成し遂げるまで、死守する。
いや、アキトが早くそれを成し遂げて欲しいと願っていた。
クルーのみんながそう思った。
以前のようなアキトに対するわだかまりはどこにもなかった・・・。



夢幻城・深部


ブラックサレナと夜天光零式はもみ合いながら夢幻城内の深部を駆け抜けていった。
互いに互角
戦闘の熟練度とボソンジャンプの効果的な利用では東郷が、
そのボソンジャンプの熟知と勝敗にこだわらない柔軟な駆け引きではアキトが
それぞれ互いのスキルを精一杯駆使して戦っていた。

だが、そろそろアキトの目的地「セントラルターミナル」だ。
そこに着くまでに何とか東郷を一旦引き離しておきたい。
アキトは最後の賭に出ることにした。

「バニシングフレア!!!」
ブラックサレナはフィールドの出力を最大限に上げ、虹色の光に包まる!
最大の必殺技、戦艦並のディストーションフィールドによる超高速機動・・・

そのままブラックサレナは夜天光に突進していった!

「無駄だと言っている!!」
東郷は叫ぶとジャンプをした。

目の前で目標を失うブラックサレナ。
そして次の瞬間、夜天光はブラックサレナの背後にジャンプアウトした。
「終わりだ!黒百合!!!」
東郷は夜天光の錫杖をブラックサレナめがけて振り下ろした。
だがアキトのねらいはそこだった。

「CC散布!!」
「なに!!!」
「東郷、俺が起動したジャンプフィールドで俺自身のジャンプはキャンセルされるだろうが・・・
 お前までキャンセルされるかな?」
「!!!
 黒百合、きさま・・・」
ブラックサレナの強力なディストーションフィールドで一気に活性化されるCC
瞬く間に両機を包み込むジャンプフィールドが形成される!!!
東郷に回避する暇も与えずイメージングをするアキト

ボワン!!

その結果、ブラックサレナのジャンプはキャンセルされたが、夜天光は遙か彼方にボソンジャンプさせられてしまった!!!
アキトのジャンプを無効と設定し、自らのジャンプは有効に設定しておいた東郷の策を逆手にとったのだった。
夜天光はどうせすぐにボソンジャンプで戻ってくるだろうが時間稼ぎにはなる。

「ユリカ、場所を教えろ。
 やつはすぐに戻ってくる。その前に済ませたい」
『わかったわ。』
ユリカは場所を伝える。
セントラルターミナルはすぐそこだった。



夢幻城・セントラルターミナル


ブラックサレナは扉を開けると厳かな空気の漂う玄室に辿り着いた。
ほとんど暗闇の、ほぼ何もない空間。
ただ中央には小さな人間用のコンソールだけがひっそりと置かれていた。

『アキト、ブラックサレナを降りてあの中央のコンソールに右手をかざしてきて』
「・・・わかった」
いつ夜天光が帰ってくるかわからない現状でブラックサレナを降りるのは自殺行為に近いのだが、アキトはユリカを信じブラックサレナを降りた。
そしてコンソールに駆け寄る。

「ユリカ、俺はコンソールに触って何を入力すればいい?」
『アキトはただコンソールに手を接触させてくれればいいわ。あとは私がコミュニケを通して入力を行うから』
「わかった」
アキトはユリカの言葉を信じて、急いでコンソールに駆け寄った。

だが・・・

ボース粒子増大!!!!
アキトが思わず振り返るとそこにはボソンのキラメキに包まれた夜天光零式が現れていた!!!

「よくも謀ったな!!
 でもこれで終わりだ!黒百合!!!」
夜天光は無防備なアキトめがけて拳を振り下ろした。

やられる!!

アキトが顔面まで迫った夜天光の拳を見て目をつむった!
だが、状況はさらに二転三転する!!

「やらせはしません!!!!」
「なに!?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ゴウ!!!!

隔壁を突き破って進入してきたのはケンが操るホワイトサレナ!!!
ホワイトサレナはその勢いのまま夜天光にタックルをかけた!!

そして夜天光とホワイトサレナはそのまま揉み合うように部屋の片隅へ転がっていった。
「テンカワさん、今の内に!!!」
「すまん、ケン!!」
アキトはその隙にコンソールへダッシュした。

「東郷、しばらくおとなしくしてもらいます!!」
「甘いわ!!!」
夜天光をそのまま床に押さえ込もうとするホワイトサレナ
だが、夜天光は慌てずにボソンジャンプする。

「!」
「騎兵隊ゴッコは終わりだ!」

ゴウ!!!!
「うわぁ!!!」

ホワイトサレナの真後ろに現れた夜天光はミサイルを放ち、ホワイトサレナの両腕を吹き飛ばした。そして胴を踏みつけてホワイトサレナの身動きを取れないようにした。
「テンクウ・ケン、お前はしばらくそうやって手も足も出せないまま、黒百合が無様に殺される様を眺めていろ。」
東郷はうれしそうに笑う。
そして右手に仕組まれたバルカン砲をアキトの方に向けた。

アキトはコンソールに手をかざした状態で凍り付いていた。
「テンカワさん、避けて!!!」
「終わりだ、黒百合。死ね!!!」
ケンの叫びも空しく・・・





ゴウ!!!!!!!!!!!




銃声が部屋中に鳴り響く!
惨劇を想像し、思わず顔を背けるケン

だが・・・

「・・・なぜだ」

不意に聞こえる東郷の歓喜ではない戸惑いの声に思わず顔を上げるケン。
ケンは大急ぎでアキトの方を見やる。

「テンカワさん♪」
アキトは無事だった。

「・・・なぜだ」
東郷の声が呻くような声が続く。
ケンが急いで夜天光を見上げると、ケンの想像とは全く逆で夜天光の両腕が吹き飛ばされていたのだ!

バン!!!
ドスン!!!
さらなる一撃で右足を吹き飛ばされ、崩れ落ちる夜天光。

「・・・なぜだ」
東郷は信じられないとばかりに呻く。

ケンは急いでその火線の先に目をやった。
夜天光の腕や足を吹き飛ばしたのは・・・
主を降ろして無人のはずのブラックサレナのハンドカノンだったのだ!!!

ブラックサレナのハッチが静かに開く。
無人であるはずのコクピットにある人物が座っていた。
その人物が夜天光の腕や足を吹き飛ばしたのだ。

「なぜ、貴様がそこにいる!!!!!」
東郷はその人物の顔を見て思わず叫んだ。
コックピットに座っていたのは、この場にいるはずもない、意外な人物であった・・・



Nadesico Second Revenge
Last Chapter たった一つの冴えたやり方



再び夢幻城・セントラルターミナル


「なぜ、貴様がそこにいる!!!!!」
東郷はその人物の顔を見て思わず叫んだ。
コックピットに座っていたのは、この場にいるはずもない、意外な人物であった。

その人物は崩れ落ちた夜天光に油断なくハンドカノンの照準を合わせながらうれしそうに姿を見せた。

「よほほぉぃ♪
 アキト、無事だった?」
アキトは目を丸くした。
知ってるも何も、この声を聞き忘れるわけもない。あまりにも場違いなこの声!

「へへへ、命中命中♪
 アキト、私って射撃の腕うまいでしょ?
 ホワイトサレナを操る為にルリちゃんと一緒に特訓したんだよ♪」
「・・・ユリカ、お前がなんでここにいる!?」
「そうです。提督は確かナデシコCに・・・」
そう、ブラックサレナのコックピットに座っていたのはナデシコ艦隊提督、テンカワ・ミスマル・ユリカ嬢なのだ。
でもユリカはついさっきまでナデシコCにいたはずだ。間違いなく。
その彼女がなぜここに?
そう戸惑う二人にかまわずユリカは勝手に話を続けた。

「なんでって・・・・もちろんボソンジャンプで来たに決まってるじゃないの。二人ともアンポンタンだねぇ♪」
「ボソンジャンプはわかってる!」
「そうだ!貴様達の時空跳躍は俺が封じたはずだ!!!」
アキトは思わず怒鳴る。そしてもっと信じられないように怒鳴ったのが東郷だ。

「つまり、ゲームセット・・・・ってことですよ♪」
ユリカはうれしそうにそう言う。

「ゲームセットだと?」
「そうそう、これから皆さんボソンジャンプしないで下さいね。
 本来の正常な状態に戻ってるのでちゃんと規則に従わないととんでもないことになりますから」
ユリカは東郷だけではなく、ナデシコ側にもそう通信を入れる。

「ゲームセット?正常な状態?」
「そう、これが本来の正常な状態なの。
 今までA級ジャンパーじゃない人が無秩序にボソンジャンプを行なえていたこと自体が異常だったの。」
「さっぱり意味がわからん」
ユリカの説明でもちんぷんかんぷんのアキト

「東郷さんにはわかっていたんでしょ?
 この城がなんなのか」
「時空跳躍の管制装置・・・」
「ピンポン♪
 だけど今までその機能が働いていなかった。だから私達はその機能を正常に働かせたの♪」
「バカな!機能を働かせたのは俺だ!
 そして俺は時空跳躍の全てを手に入れた!!」
「それが思い違いだったんですよ・・・」
東郷の叫びにユリカは少し切なげに答えた。

「アキト」
「なんだ?」
「アキトはこの文章を読んでどう思った?」

『律法の文字・・・消え去ることはない。だから、これらの最も小さな掟を一つでも破り、そうするように人に教える者・・・・』

「マタイの福音書の一節・・・
 奴らのアジトにもそんな落書きが残っていた」
「東郷さんはどう思います?」
「・・・・・」
東郷の沈黙は肯定を意味していた。

「それがそもそもの間違いだったんですよ」
「どういうことだ?」
「東郷さん、あなた達はいろんな古文書の中にこれと同じ感じの記述を見つけていった。
 そしてそれを終末思想なんかと結びつけていった・・・
 神の使徒だけが終末の後、滅びを免れて世界を制することが出来る
 夢幻城を手にしたものがその力を得ることが出来る・・・そう思った。
 違いますか?」
「・・・」
東郷の沈黙、それをユリカは肯定と受け取った。

「さっきの文章はイネスさんがプレートの中の一文を訳したもの。
 でもね、人はその中に自らの願望を無意識に見いだそうとするの。
 知っている事象を当てはめようとして。
 思いこみや偏見という名のフィルターは時として真実を見誤らせる力を持つの。」
「それはどういう・・・」
「この一文は本来こう訳すべきものだったの・・・」
ユリカはその文章の本来あるべき姿を読み上げた。

『すべての機能が正常に動作し、それらが機能を失うまで、管理規則が曲げられることはない。だから、たとえ些細な規則を破るように、そうするように人に教える者は、以後時空跳躍の資格を剥奪するものとする』

「バカな!それでは・・・」
東郷は信じられないように叫ぶ。
「・・・まるで免許証の注意事項みたいだ」
「そう、こうやって正しく読んでくとね、アイちゃんが貰った遺跡のプレートは何のことはない、ただの初心者向けに作成されたボソンジャンプの手引きと読みとれるのよ♪」
ケンの感想にユリカはうれしそうに頷く。

「そんなバカな!!」
「バカじゃないですよ。翻訳している分を全部見せてあげましょうか?」

ユリカはウインドウをいっぱい展開する。
そこにはプレートを解析した文章がたくさん並んでいた。
東郷はそれらを読んで驚愕の表情を見せる。

「その中のいくつかは正しい訳し方をして東郷さんも読んだことがあるはずですよね?夢幻城を目覚めさせて、曲がりなりにも制御したんですもの」
「そんなバカな・・・・」
東郷はその文章を読みながら絶望をする。
自分の訳が正しいところもあるが、いくつかは間違いがあった。

そして・・・

「そう、一番読んで欲しいのはそこなんですけど・・・」
ユリカは一番重要なところを東郷に見せる。
「そんなバカな・・・俺は確かに時空跳躍の全てを手に入れたはずだ。こんなことが・・・」
東郷はその内容を驚愕の面持ちで見つめる。

「どういうことだ?」
「少し長いお話になるんだけど・・・」
ユリカはまるでおとぎ話でも読むかのように話し始めた。

「ボソンジャンプは二つの装置から成り立っていました。
 一つは与えられたイメージデータに従ってレトロスペクトの行き先を計算する演算装置
 もう一つは時空破壊を起こさないように定められたイメージだけを演算装置に伝えるという管制装置としての夢幻城・・・
 でもね、古代火星人達はボソンジャンプの全てを封じて火星の地を去ることにしたの。
 それぞれの機能を封印し、そして夢幻城を火星の大地から引き離し、人の手の届かないところに放置したの。
 そして古代火星人達もなぜか火星の地そのものから姿を消しちゃったんだ・・・」
「どうして?」
アキトの問いにユリカは静かに首を振る。
「ひょっとしたら彼らはまた戻ってくるつもりだったのかもしれない。
 木星のプラントもそんなものの内の一つかもしれないわね。
 でも、演算装置も夢幻城も時間を止められたまま悠久の時を過ごしたの。
 いつか、主達が戻ってきて自分を動かしてくれるまで。
 ずっと
 ずっと・・・」
「・・・」
「でもね、月日は流れて彼らの主じゃなく、私達人類が火星の地に足を踏み入れたところから、事態はおかしくなり始めたの。
 何を思ったのか、火星極冠に残された演算装置は火星の入植者達を自分の主が戻ってきたと勘違いをして目覚めてしまったの。」
「それで俺達をA級ジャンパーに・・・」
アキトの言葉にユリカはうなずく。

主が帰ってきたとして、演算装置は彼らをボソンジャンプに適する体に作り替えるためにテラフォーミング用のナノマシーンを書き換えていった。結果、特定の期間火星に住んでいたアキト達はA級ジャンパーとなった。

「そう、でもそれは本来あり得ない状態だったの。
 演算装置は動き始め、ボソンジャンプは受け付けられる状態になったわ。
 でもそれを正しく管制するはずの夢幻城は封印されたまま。
 この状態のままだと本来許してはいけないボソンジャンプまで行われてしまう。」
「なるほど、プレートの序文に書かれていた『速やかにこのプレートを以て夢幻城を解放せよ。』とはそう言う意味だったのですね?」
ケンの質問にユリカは肯く。
「そう、現れるはずもない未来からの来訪者を保護した古代火星人達は慌てたと思うわ。だから大急ぎでその状態を解消させるために、アイちゃんにプレートを託したの。
 夢幻城を正常に動作させる手順を書いたプレートを手渡し、その内容を正しく実行してくれることを願って・・・ね」
「そうか、俺が夢幻城の夢を見たのはそれを解消させるためのシグナルだったのか」
「そうね、夢幻城も自らを起こしてくれる人を呼んでいたと思うわ。
 で、本来ならそのプレートを渡されたアイちゃんや夢幻城の夢を見せられたアキトのようなA級ジャンパーでなければその封印は解いちゃいけないはずだった。
 なぜって?
 そりゃ、普通の人がむやみやたらに封印を解いたりしちゃまずいでしょ?
 やっぱり何かの資格が必要だったの。
 A級ジャンパーっていう演算装置とフルにコミュニケーション出来る人達じゃなきゃダメだったのよ・・・」
やっと前置きが終わったかのようにユリカは言葉を区切る。

「ちょっと待て。
 でもそれが正しいなら東郷はなんで夢幻城の封印を解けたんだ?
 A級ジャンパーにしか解けないんだろ?」
「そう!大事なのはそこなのよ!
 本来A級ジャンパー・・・つまり「MARTIAN SUCCESSOR」と呼ばれる人達でしか封印を解けないんだけど、演算装置だけ起きていて夢幻城が寝ているっていう状態は異常なの。
 異常だからその状態を速やかに解消するために特別な条項が存在してたの。」
「特別な?」
「そう、緊急回避の為の条項。
 異常状態の場合に限り、プレートを持っている準ジャンパー体質の人に一時的に権限を与えて事態の解消をさせるというものなの。
 たぶん、その時代に「MARTIAN SUCCESSOR」が存在しなかった場合の救済策だったのね・・・」
「それでたまたま東郷がその条件に当てはまってしまった・・・ということか?」
「その通り♪」
ユリカはアキトの推論にうれしそうに肯いた。

そう、ただそれだけのことを、みんなは東郷が神に選ばれたと思い込んでしまったのだ。

「でもそれはあくまでも一時的な解決手段、その場しのぎの方策なの。
 だから後からちゃんと『資格』を持った者が正しい手続きで封印を解除すればいい。そちらの方が優先順位は高いからね♪」
「バカな!夢幻城は俺のモノだ!!」
その言葉を聞いて東郷は叫ぶ。
ユリカの語った真相を受け入れられないようだ。
「ゲームセットって言いましたよね?
 夢幻城はこれから自分の判断で全てを決めます。
 もうあなたの手に届くことはありません。」
「信じられるか!
 俺は全てを解き明かすのに半生を費やした!
 その俺よりにわか仕込みで読み砕いたお前の方が正しいわけない!!!」
「私がここにいることが何よりの証明なんですけど・・・
 それに試さない方がいいですよ・・・」
「うるさい!!!俺は時空跳躍の全てを手に入れたんだ!!!」
ユリカは忠告した。
東郷が何をするつもりなのか、その結果何が起こるかわかっているかのように。

でも東郷はそれを実行した。
今までの自分を肯定するために。

夜天光はジャンプフィールドを形成した。

だが・・・・

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
わき上がる悲鳴!!!
ジャンプフィールドは一瞬で霧散し、夜天光は鉄くずのように地面に落下した。
「なぜだ!なぜだ!!!!」
東郷は苦痛にのたうち回りながら叫んだ。

ユリカは思わず目を背ける。
以前、ジャンパーでないアカツキがボソンジャンプをしようとしたことがあった。
パイロットスーツは破れ、その体はコックピットシートにめり込みそうになっていた。
エリナが外から解除しなければどうなっていたか・・・

そして今、東郷はコックピットの壁に半分めり込みながら苦悶にあえいでいた。
たぶん死にはしないだろう。でも金属に融合したその体では・・・

こうして第3次火星極冠事変と呼ばれた一連の騒動は東郷和正の逮捕で幕を閉じるのであった。



夢幻城・深部


「・・・・・」
男はその光景の一部始終を見ていた。
全てが終わったことを悟ると、彼は鉄の棺桶から這い出した。

「東郷閣下・・・・」
なんとか死を免れた風祭は放心したように呟く。

そして彼は姿を消した。
その後、彼の姿を見た者は誰もいなかった・・・。



夢幻城・広場


ナデシコCは夢幻城の地表にある広場の様なところに停泊していた。
エンジェルコピー達は既に活動をやめている。
もう、敵性を示さない限り天使達も攻撃してこないようだ。

ユリカとルリは広場に降りて外から夢幻城の様子を眺める。
システム掌握で残った火星の後継者達は捕縛できた。
アキトやケン達は改めて火星の後継者達の残存部隊を武装解除させに向かった。
でもそれも程なく終わるだろう。

「不思議ですね、星が見えるこんな地表でも空気があるなんて」
「そうだね(笑)」
どういう仕掛けになってるんだろう?とルリなどは思ってしまう。
宇宙に浮かぶ城の地表に立って、それで酸素があるなんて・・・
非常識この上ない。
万事がこんな感じなのだ。
ある程度翻訳を手伝っていたとはいえ、まだまだわからないことはたくさんあった。
だからルリはユリカにいくつか質問をしてみた。

「それで、新しい管理者は東郷からアキトさんになったんですか?」
「あ、そういうつもりだったんだけど・・・
 ゴメン、アキトを通じて私が封印を解除したから私で登録されてるかもしれない♪」
「!!!!!!!!!!」
ルリは頭を抱える。

「ユリカさんが管理者なんて、
 ユリカさんが管理者なんて、
 ユリカさんが管理者なんて、
 ユリカさんが管理者なんて・・・」
「失礼ね、ルリちゃん!プンプン!
 でも大丈夫♪」
「なにが大丈夫なんですか?」
「だから、東郷さんの暫定的な封印解除と違って、正式な封印解除によって夢幻城は自らの価値判断とルールに従ってボソンジャンプをコントロールし始めてるの。誰かが介入する余地なんてないわよ。
 国も軍も組織も、そして特定の個人の意志や思惑にかかわらず・・・ね♪」
「そ、そうなんですか?」
「そう、私もルールを読んだけど、至極まともなの。
 たとえば決められた公共のポイントにしかボソンジャンプ出来ないとか。
 緊急避難以外で私的な空間にボソンジャンプ出来ないとか。
 過去や未来に行っちゃうジャンプも受け付けられない様になっているみたい。
 今の飛行機と同じ感覚になると思うよ」
「それってつまり・・・」
「そう、ボソンジャンプは今の飛行機とかと同じ当たり前の存在になるわ。
 誰もが当たり前に使えて、特別なことは何もない。
 まぁB級ジャンパーは違法改造ってことで跳ぶと東郷さんみたいになるけど・・・」
『ちょっと待て!!!』
ユリカの話に割り込んできたのはアカツキ・ナガレだった。

「あ、ロン毛1号」
『1号じゃない!!!
 ってそんなことはどうでもいいんだ!!!
 それよりB級ジャンパーはもう飛べないって本当なのか!?』
「ええ、違法改造車が公道を走れないのと一緒ですよ」
『待てい!!僕が死ぬ気でDNA改造を行ったのは?
 高い金を出して実験台にまでなってA級ジャンパー製造法を編み出したのは?』
「ああ、それたぶん無駄になりますよ♪」
『何だって〜〜!!!』
「夢幻城は独自の判断基準でそれさえクリアした人はどんどんジャンパー体質にしてくれますから。まぁ、シャトルのパイロット免許を取るのと一緒でちょっと大変かもしれませんけど(笑)
 でも特別な存在じゃなくなります。誰でもがんばれば使えるようになりますよ。
 ボソンジャンプ♪」
『あああ、僕の投資が!!!!』
撃沈するアカツキをユリカはクスクス笑う。

「でも・・・それって軍や政府の人達が文句言わないですか?」
「文句って言われても・・・このまま東郷さんに地球を蹂躙されてもよかった?
 って言っちゃえばいいと思うし(笑)」
「これからまた誰かが遺跡の力を独占しようと思いません?」
「出来ないわよ。エンジェルさん達もいるし、何より変に遺跡にちょっかいをかけるとへそを曲げてボソンジャンプそのものを使えなくされちゃうし。
 誰も独占して使用できないように、戦争に利用できないようにルールが決められてるしね。
 みんな我慢して使うわよ♪」
「ユリカさん、それって・・・」
「そう、もう火星の後継者みたいなのは現れないわ。
 現れようがないもの。
 新たなる秩序って言ってボソンジャンプを管理しようにも、誰も管理しようがないんだから。
 だって夢幻城が示した公明正大なルールに従って自分で管理するのよ?
 まぁ強いて人類が介入できるとすれば、ボソンジャンプを封印するぐらいね♪」
「本当ですか?」

ユリカのウインクにルリはパッと明るくなる。
もう、アキトらA級ジャンパー達がボソンジャンプを巡る因縁に巻き込まれることはないのだから!!!

そう、やっと終わったのだ。
何もかも。
私達の長い長い戦いは。
ナデシコAが遺跡の演算装置を飛ばして終わりと思っていた戦いが。

まぁ、まだ地球と木連との感情のわだかまりとか、
宇宙軍と統合軍のわだかまりとか、
なんだかんだでゴタゴタはあるだろうが、肝心の遺跡がこんな調子である以上、諍いのネタは大幅に減るだろう。
あとは私達が頑張ればいい。

「ああ、ここにいたのね、提督にルリちゃん。探したわよ」
「イネスさん」
ユリカとルリの前に現れたのはイネスであった。なにやらうれしそうだった。

「朗報よ♪」
「朗報・・・ですか?」
「あのあと、私もプレートの中で気になるところを訳してみたの。
 やっぱりあったわ。ナノマシーンの記述。」
「え?本当ですか!?」
「ええ、古代火星人達もナノマシーンの暴走には手を焼いたみたいね。
 応急処置とかそんなレベルの話だけどいくらか書いてあったわ♪」
「それって・・・」
「まだアキト君のスタンピードに適応できるかじっくり調査していかないとわからないけど・・・・私の見たところ、これでナノマシーン中毒の治療は100年以上進歩することになるわね♪」
イネスは珍しく破顔する。よっぽど学術的にエキサイティングな発見だったのだろう。

「ってことは・・・」
「もしかして・・・」
ユリカとルリは思わず互いを見合わせる。

「「アキト(さん)のスタンピードが治るかもしれないんですね♪」」
「その可能性がゼロでなくなったってことだけは確かね♪」
「「やったぁ〜〜♪♪♪」」
イネスは太鼓判を押すと、ユリカとルリは手に手を取って喜び合った。

体が治ればアキトさんの心の傷もかなりのところまで癒えるでしょう。
まぁ、アキトさんが誰の元に戻るかとか、いろいろごたごたもするでしょうけど、とりあえずはスタートライン。
どんな家族も互いを思いやる気持ちがなければ別れるのと同じで、私達もアキトさんの心の支えになれるように努力しなければいけません。

時間はゆっくりと戻っていきます。
ゆっくり
ゆっくり
ナデシコAで遺跡の演算装置を遙か彼方に飛ばした頃に、

にぎやかで、騒がしくて、バカばっかだけど
でもあたたかい場所
あたたかい人達
私らしく生きられる場所

そんな場所をこれからまた作っていけばいいのですから・・・

ブラックサレナが武装解除から帰ってきた。
「ユリカ、終わったぞ!」
アキトさんのその声を聞いてわたしホシノ・ルリはそう確信したのでした・・・

See you tale of finale...



ポストスプリクト


ってことでリベ2のLast Chapterをお送りしました。
ふぅ、やっと終わりましたSecond Revenge
まだフィナーレとか残ってますけどね。(笑)

でも長かったですねぇ。書き始めて1年と9ヶ月、もう少しで2年ぐらいかかるところでしたね(汗)
開始直後ぐらいからずっとこのラストを考えてきて、このラストをいかに見せるかずっと考えながらここまで書いてきました。
終わってみれば、あっという間に風呂敷畳みすぎたかな?とか思ってみたりもしますが、まぁナデシコはあっという間に終わるのが伝統みたいなのでこれでもいいかなっと(爆)

ってことで私の劇ナデアフターはこれで終わりです。
遺跡の謎とか、アキトの心の問題とか、ジャンパー達の問題とか、
そういった自分の中でモヤモヤしたモノに対して逃げずに決着をつけてみたつもりです。
まぁ、みんなのその後とか、
アキトがどの奥さんの元に戻るのか?とか、
ルリはアキトとケンとハーリー(こりゃないか)の内、誰を選ぶんだ?とか、
っていうか、そもそも黒プリとジャンクションしたりするのか?とか(爆)
フィナーレで触れたり触れなかったりします(笑)

みなさんがこの作品を読んで、劇ナデのあの結末の後でもアキト達がハッピーになっているのでは?という気分になっていただければこの作品の価値はあるのではないかと思います。

ということで、フィナーレもお楽しみにしてください。
では!

Special Thanks!
・TARO 様
・SOUYA 様