アバン


一つの真実
一つの過去
一つの未来
一つの夢

誰も信じて疑わない
神様になんて勝てっこないって
それが当たり前なんだって
動かしようのない事実なんだって
努力したって敵わないって

だから絶望して、そして立ち竦む

でも・・・どうして試してみないんだろう?
一歩踏み出してみれば見える景色だって変わるかもしれないのに

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



戦闘宙域


『やめてください、少将!
 アレには相転移砲は効きません!』
「うるさい!相転移砲、撃て!!!」

ケンの忠告も無視してヤマウチは禁断の兵器の発射を指示した・・・。

「各艦緊急回避!!
 来ます!!!!」
ルリが叫ぶ。その言葉にミナトはとっさに舵を切る。
ナデシコBもユーチャリスもロベリアもそれに習う。

相転移座標への干渉・・・・・

相転移反応は夢幻城には現われなかった。
それは統合軍の中心に現われた!!!!!!!!

「な!!」







轟!!!!!!!!!!!!






空間が崩れ、ナデシコからの勧告で逃げ遅れた艦隊はまともにその崩壊に巻き込まれた。

数秒後・・・
きれいさっぱりなくなった統合軍の艦隊・・・

「あんなの、どうやって倒すのよぉ・・・・」
ミナトが呻くように言う。
当たり前だ。

ボソンジャンプは封じられ、ほとんどの攻撃は受け付けない。
最終兵器である相転移砲は易々と座標指定を変更された。
ある意味、あの城は古代火星人が残したテクノロジーの最高峰だ。
それに対して人類が持っているテクノロジーなど、そのバットコピーか模造品にすぎない。そんなモノしか持ち得ないのに立ち向かおうなど、そもそも烏滸がましい話なのだ。

誰もがそう絶望していた。



ナデシコB・ブリッジ


「ねぇ、逃げましょうよ!
 あんなの敵いっこないよぉ!!」
「コトネ君・・・」
「こ、コトネさん・・・」
コトネは思わず取り乱す。
ジュンやハーリーは彼女を抑えようとするが彼らだって動揺しているのだ、上手くいくはずがない。

人が死んだ。
たくさん死んだ。
あっという間に。
ほんの一瞬で。
全く為すすべもなく。

人を怖じ気させるには十分だ。
ブリッジクルーはそのほとんどが先の火星会戦を知らない新兵だ。
たとえ彼らが軍人として教育を受けても、所詮それは平和な時代に訓練されたものだ。
これだけの圧倒的な死を目の当たりにしたことがなかった。

当然、ブリッジ全体が浮き足立つ。

だが・・・

「落ち着いて下さい!」
その声はブリッジに通る声で響いた。

メグミ・レイナードの声である。

「落ち着いて下さい!」
今度は静かな、それでいて毅然とした声でもう一度言う。

「あんた・・・・」
「ナデシコB被害なし。
 サレナ部隊損害軽微。
 ナデシコC、ユーチャリス、ロベリア、共に無事を確認。」
コトネの戸惑いにも関わらず、メグミは淡々と被害状況を報告する。

そして・・・

「ナデシコは全く無傷です。
 そしてルリちゃんもユリカさんもアキトさんも健在です。
 これでもまだ不安ですか?」
メグミは静かに、力強くみんなに問いかける。

今まで私達は誰を信じてここまでやってきたのだ?

メグミはその問いをみんなに投げかける。
するとみんなの動揺は徐々に収まりつつあった。

まだルリのシステム掌握が残っている。
まだユリカの作戦指揮が残っている
まだアキトのブラックサレナが残っている

まだだ。
まだ戦う力は残っているんだ。
それがみんなの心を落ち着けたのだ・・・。



戦闘宙域


「ありがとうございます、メグミさん」
『いいえ、大したことじゃありませんよ♪』
自分が言うべき所をメグミが代わりに言ってくれたことに礼を言うケン。

『私も昔は取り乱したことがありますから、気持ちが分かるんです。
 あの時は淡々と仕事をするみんなを冷たいなぁとか思ったんですけどねぇ』

メグミはサツキミドリ2号の事を思い出して少し苦笑する。
誰もが不安や恐怖を胸に戦っていた。
でもそれを表に出したらみんなに伝染する。
そして動揺している最中でも悲劇は確実に迫ってくる。
悲観に暮れてやるべき事を出来ずに終わるのはもうまっぴらだから

「本当にありがとうございます」
ケンはメグミにもう一度深く礼をした。
彼女がナデシコBにいてくれて本当によかった。

確かにあの未来の光景は現実のモノとなりつつある。
でも違うモノもある。
あの未来の光景にメグミの姿はなかったが、今は味方として戦ってくれている。
自分は悲観に暮れず、こうして戦っている。
そしてまだホシノ・ルリは健在だ。
システム掌握があるからといってあの城を倒せるとは思わない。
しかしあの未来の光景でルリの死は悪循環しか生み出さなかった。

でもこの世界なら?

だからまだ諦めない。
そう決めたから。
まだ希望の光は消えていないから。

ケンはそう自分に言い聞かせながら戦った・・・



ナデシコC・ブリッジ


「艦内の被害ありません」
ユキナの報告にみんな安堵する。
だが、圧倒的な力の差、それは歴然としていた。

「提督、ここは一度引いて体勢を立て直した方が・・・」
プロスペクターが珍しく弱気な発言をする。
確かに戦況はまったく良くない。
はっきり言って不利だ。
この場で戦っても勝算はない。
敵の能力を調べて装備を調えて、そして・・・
そう思うことは無理からぬ事ではない。

でも・・・・

「ダメです!ここで決着をつけます。」
ルリが毅然とした声で言い放つ。
「しかしルリさん・・・」
「ここで決着をつけるんです!」
もう一度ルリは言う。

「アレを地球に行かせたらその時点でゲームオーバーですよ?
 大都市の一つでも脅しに取られたらナデシコは両手をあげて降参するしかありません。」
「・・・」
ルリのもっともな発言にみんな黙り込む。

ナデシコは軍だ。軍は国民や国家を守るために存在する。
それは同時に軍は国家から扶養されていることを意味する。
たとえナデシコ艦隊そのものが生き残ったとしても、軍資金を捻出してくれる国民が死ねばそれは途絶える。
補給施設は機能しなくなり、座して死を待つ。
第一、ナデシコは国民何億の命を無視して戦い続けられるほど冷徹にはなれない。

そしてルリはさらに続ける。

「戦うなら今しかないんです。
 本来なら東郷はここで私達の相手をする必然性なんかどこにもないんです。
 私達はボソンジャンプを封じられていますが、敵は多分どこにでもジャンプ出来るでしょう。
 いきなり地球にジャンプして大都市を人質に降伏を迫ればそれでゲームオーバーなんです。」
「確かに・・・でも何でそうしないの?」
「わかりませんか?ミナトさん」
「う〜〜ん・・・」
「おもちゃを貰った子供と同じですよ」
「え?」
ミナトの疑問にルリは答える。

「東郷達は手に入れた神の力を使ってみたくなっただけなんですよ。
 見せびらかしたいだけなんです。
 ナデシコに。
 だから奴らが我々に興味を失う前にあの城を倒すんです!」
ルリはきっぱり答える。

そう、いつでも地球を攻撃できるからこそ、座興にナデシコの相手をしているのだ。
そしてナデシコが相手をするに値しないと興味を失ったらさっさと地球に行ってしまうだろう。
だからこちらに注意が向いている間に倒してしまわないと、
ここで叩いてしまわないと後々やっかいになると思い込ませておかないと、
それこそ戦うチャンスすら失ってしまうのだ。

「でもどうやってたたか・・・・」
「相転移反応来ます!!」
ミナトの声を遮るようにユキナが叫ぶ!!!

「どこ?」
「ここです!!!」
緊迫したユキナの声

そう、セットされた座標はちょうどナデシコCのブリッジだった!
まともに食らえば艦隊は全滅である。

「させません!!!」
ルリは叫ぶと必死にコンソールを操った!!!





!!!!!!!!!!!!!!



とっさにみんな目をつむった。
だがいつまでたっても何も起こらない。
と、次の瞬間

ゴウ!!!!!!!!!!!

少し離れたところで空間が相転移した!!!

「はぁはぁはぁ・・・・・・・」
ルリが荒い息をする。

「ルリちゃん・・・ひょっとして?」
「ええ、何とか介入に成功しました・・・」
ユリカの問いにルリは苦笑いをしながら答えた。

そう、

「大丈夫、クラスタリング システム掌握は通用します。
 敵の相転移砲の座標設定に干渉する事が出来るんです!
 大丈夫、まだ私達は戦えます!」
疲れ気味ながらもルリは高らかにそう宣言した。

古代火星人の作りし神の城
でもそれに人の力で対抗することが出来たのだ。
その事実はクルーのみんなを力づけることに成功した。



Nadesico Second Revenge
Chapter36 神に抗いし者達



夢幻城


東郷はその光景を夢幻城の中から楽しげに見やった。
「おもしろい、この城に干渉するか。
 それでこそ我が仇敵。
 やはり電子の妖精はやっかいだったな・・・
 風祭!」
『は!』
「少しは楽しめそうだ。
 天使どもを率いてなぶり殺しにしろ!」
『は!!』

東郷は夜天光のコックピットから風祭に指示を出す。
「たかが相転移砲を制したぐらいでいい気になるな、ナデシコ。」
東郷は不敵な笑みを浮かべながら吐き捨てた。



戦闘宙域


「なんだ、ありゃ?」
リョーコ達が見たモノ

そう、それは天使

たった7機でもあれだけ強かったのに
10や20じゃない。
それこそ50機は現れた。しかも風祭の夜天光改や六連に付き従って。

「あ、あんなにたくさん・・・」
ヒカルは思わず落胆する。
これがたった7機なら何とかなったかもしれない。
アキトもいる、ケンもいる。サレナカスタムでもそこそこやれた。
一対一ならなんとかなる。
数的に言えばほぼ互角だった。

でも今は・・・数が違いすぎる

戦場はまた絶望が支配し始めた。



ナデシコC・ブリッジ


「あんなにたくさん・・・」
ゴートですら思わず呻く。

敵はそもそも相転移砲など使わなくてもナデシコを物量で押し切れるのだ。
その事実に愕然とするクルー達。

だが、それに異を唱える者がいた。
『心配しないで』
「さ、サリナさん」
いきなりウインドウで現れたのはサリナ・キンジョウ・ウォンだった。

「どういうことです?」
『大丈夫、あれはコピーよ。
 オリジナルほどの性能は出ないわ』
「それはどういう・・・」
『見なさい』
サリナは新たに出てきたモノと最初に出てきたモノを比べて見せた。

『見てわかるとおり、形は似ているけど、所々バッタと似たような汎用部品が使われている。アレはオリジナルを真似てプラントかなにかで作られたコピーよ』
「そ、そうなんですか?」
ユリカにはその違いがわからなかったが、専門家が言うのだから間違いないのだろう。

確かに似てる。似てるが・・・どことなく違う。
形こそ似ているが、作りがどことなく粗雑だ。
でも素人には指摘されて初めてわかる違いだ。

『大丈夫、ザコ・・・とは言わないけれど十分対抗できる。
 指揮をしている夜天光達を倒せばコントロールを失うわ』

そうでなければわざわざ夜天光などの有人機動兵器を出してくるはずがない。
オリジナルほど自律した行動が出来るわけない。
だから夜天光や六連ら有人の機動兵器がコピー達をコントロールしているのである。
サリナはそう指摘する。

『わかった。ならあいつらを薙ぎ倒して城に乗り込むまでだ!』
アキトは力強く答えた。



戦闘宙域


ゴウ!!!!
ブラックサレナの一閃が不用意に近づいた『エンジェルコピー(急遽命名)』を薙ぎ倒した。

「大丈夫だ。パワーやスピードはあるが、思考パターンはバッタからさほど変わっていない。十分戦える!」
アキトはみんなに伝える。

絶望は希望に変わる。

「頭だ!コピーを操っている夜天光や六連達をねらえ!」
「おう!」
アキトの檄にパイロット達は吠えた!

「イズミさんとヒカルさんは弾幕を張ってナデシコに近づけないように。
 それ以外は武装をフィールドランサーに切り替え、チームで近接戦闘を行います。
 リョーコさん、切り込み隊長をお願いしますよ!」
「おうよ!!」
ケンの指示にリョーコ達は従う。

「ずりゃぁぁぁぁ!!!!」
リョーコのサレナカスタムは愛用の巨大なフィールドランサーを振りかぶる。
問答無用でエンジェルコピー達に近づき、ランサーを叩き込んだ。
コピー達はフィールドと槍で防ごうとするが、スピードののった重質量の突撃に耐えられるわけもなく、そのまま胴体を真っ二つにした。

「大丈夫!俺達は強い!
 東郷の野郎に俺達の力を見せつける。こんなコピーなんて屁でもないって!!」
リョーコは吠える。それにみんなも従っていった。

「1機や2機倒したくらいで付け上がるな!」
天使達を従えた風祭が彼らの前に立ちふさがる。
理性を持った人が天使達を操ったとき、それはコピー以上の働きをするのはユーチャリスが操るバッタの例でも明らかだ。
だが、彼らは立ち向かった。

「勝負です!フェイスレス・・・、いや風祭!」
「て、テンクウ・ケン!」
風祭の夜天光改とケンのサレナカスタムが対峙した。

「メグミさんの心を弄び、ホシノ中佐を殺そうとした報いを受けてもらいますよ!」
「ほざけ!!」
ケンと風祭の激しい戦いが始まった。

「ねぇ、月臣君。僕らはどうする?」
「どうするって・・・」
「熱血二人に割って入って邪魔するのも何だから、まったりとコピーの相手でもしますか?」
「・・・・あんた達も六連の相手して下さいよ・・・」
アカツキと月臣のやりとりをツッこむサブロウタ。

「よし、それじゃここは任せる。
 俺はあの城の中に突入する!」
アキトは宣言をして夢幻城に近づこうとする。

「アキト君、危ないよぉ」
「直接乗り込んで東郷を倒す!
 それ以外に勝機はない!!」
ヒカルが思わず忠告するが、アキトは断言した。
それはアキトの直感であり、たぶん正しい戦局であった。

「バカヤロウ、一人で行くなんて危険だ!俺も行く!」
リョーコが思わず叫ぶ。だがアキトは優しい声で制した。
「お前達はここでコイツらを倒すんだ。」
「でもよぉ」
「足手まといだ!」
「ぐ!!!」
落ち込むリョーコ。
確かに今の彼女にはアキトの足を引っ張る事しか出来ないかもしれない。
でも、アキトは少しぶっきらぼうにこう言う。

「お前達はナデシコを守っていろ。
 せっかく城を壊しても、帰るところが無くなっていたら目も当てられない。」
「・・・・わかったよ」
リョーコが納得したのを確認するとアキトはブラックサレナを城に向けた。

「行かせちゃってよかったのかい?リョーコ」
「ああ・・・」
シリアスイズミがリョーコに話しかけるが、不思議とリョーコは落ち着いていた。

「あいつ、絶対に帰ってくる。だから・・・さ」
もう、アキトの瞳にはどこか死に場所を求めているような影はなくなっていた。
あの顔は帰る為に戦う男の顔だった。
リョーコは闇の王子様を纏いながらも、不器用ながら昔のように笑おうとしているアキトの姿を見た思いだった。

だから、リョーコはここを死守する事を心に誓うのだった。
アキトが戻ってくる場所を守る為に・・・



ナデシコC・ブリッジ


『アキトさん・・・』
夢幻城に向かうアキトをルリは不安げに眺めていた。

確かにこの戦局を打開する方法は夢幻城内部に潜り込んで内部から破壊するしかない。
いくらルリのクラスタリング システム掌握が有効だといっても、所詮は相転移砲の座標指定に干渉するのが関の山だ。

そもそもルリが何のデータもない夢幻城にアクセス出来たのも偶然の産物なのだ。
たとえば蓄積していた遺跡プレートの解析データが役に立ったとか、
遺跡演算装置がナデシコCにあったから城にアクセスするラインが確保出来たとか、
その直前に統合軍が放った相転移砲に対して城が行った座標介入をトレースしてあって、それをそっくり真似ることが出来たとか、
そういった、たまたまの条件が有利に働いたからである。
この先どの程度、夢幻城にハッキングを出来るかわからないし、そもそも敵の相転移砲の座標介入をしながらそれが出来るかもわからない。
どこまで座標介入が成功するか、あと何時間防げばいいのか、ルリのスタミナがそれだけ保つのか、はっきり言ってわからない。

このままでは何の解決にもならない。
現状維持以上の何かを出来なければナデシコは負けるのである。

でもルリはそれをおくびにも出さない。
艦隊の士気に影響する。
それに何よりルリは信じていた。

ユリカは必死に戦況を眺めていた。
ユリカはまだ諦めていない。
ああいう表情のユリカは必ず何かを考えている。
何か勝機がある。それを必死に模索している顔だ。
ユリカが諦めないならルリも諦めない。

そのためにもルリは何時間でも戦局を支えるつもりでいた。

でも・・・

「エンジェルオリジナル、アキト機に接近!!!!」
「アキトさん!」
ユキナの報告でルリが見たものは、今までなぜか後方に控えていたオリジナルの7機がアキトのブラックサレナに近づいて行く様子であった。



戦闘宙域・夢幻城付近


「ち!こいつら!!!」
アキトは絡みつく天使達を振りほどくのに必死だった。

夢幻城はもう目の前
だけどそのあと数キロメートルがなんと遠いことか。
それだけ7機のオリジナルの天使は手強かった。

まるで北辰のよう・・・

楽しいか?
憎いか?
どこかに残してきた闇の王子様の感情・・・
少し前の俺ならば死を賭してもこいつらを倒したいと思っていただろう。
でも今は違う
こいつらを倒すことが目的じゃない。
俺の目的は夢幻城を無力化することだ。
こいつらを倒すことはそのうちの一手段でしかない
だから考えろ
どうすればこいつらを排除できるか
どうすればこいつらをかわすことができるか

アキトの顔にはナノマシーンのパターンは浮かんでいなかった。
そこにあの闇の王子の姿はなかった。

アキトは天使達と格闘しながらも少しずつであるが夢幻城に近づいていた・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「アキト・・・」
ユリカは呟く。だがそれは同じ呟きを放ったルリのそれとは少しニュアンスが違っていた。
彼女の呟きをもう少し続ければこうなっていた。
『なんでアキトに天使達が?』

統合軍にはオリジナルの天使達は襲いかかった。
でもナデシコには襲いかからなかった。夢幻城の周囲を飛び回っていただけだ。
だから、風祭がコピーを引き連れて襲ってきた。
そして今、アキトが近づいたらオリジナル達は襲ってきた。

なんだろう、この違和感は?

そう、ルリはユリカの表情に彼女が諦めていない、なにか考えを持っていると思っているようだが、それは勘違いであると言ったら卒倒するであろうか?

確かにユリカは諦めていなかった。
諦めていなかったが、今の彼女は戦局よりもずっと別のことを考えていたのだ。
それは彼女が抱えている違和感。
今の彼女はずっと自分の持ち続けている違和感の原因を色々と考えているだけなのであった。

そもそもの違和感はプレートに書かれていた夢幻城の記述と今の光景のギャップである。
大した長さの文章ではなかったが、

『故にこのメッセージを放浪者に託し、汝らに警告する。
 汝らは現在不安定なボソンジャンプを行っている。
 このままではタイムクラッシュが起こりかねない。
 速やかにこのプレートを以て夢幻城を解放せよ。
 願わくば汝らがこのプレートを理解できるだけの文明を持つことを祈る』

この文章のどこにもヨハネの黙示録を思わせるような記述はなかった。むしろあの城の封印を解かなければとんでもない事態になるようにしか思えない。

第一、あれは本当に神のような絶対無比な存在なのか?
いくら封印を解いたからといって、なぜ東郷があの城の全てを操れるのか?
なぜナデシコのシステム掌握が通用したのか?
そして・・・・なぜオリジナルの天使達はナデシコに攻撃してこない?
でもアキトのブラックサレナにはなぜ攻撃を・・・

まとまりそうで、まとまらない。
何か大事なことを忘れていそうで、それが何か思い出せない。

『ワタシタチハナニカオモイチガイヲシテルンジャナイカ?』
ユリカはそんな違和感を頭の中で駆けめぐらせていたのだ。

「ねぇ、ヨハネの黙示録ってなに?」
ふとユリカは呟いた。
「え?」
一同その場違いな呟きに驚く。
「ユリカさん、いきなりなにを・・・」
「いやぁ、この前ケンさんに聞いたんだけど・・・・
 私ってよく考えたら黙示録って何か知らなかったんだよねぇ。
 アハハハハ・・・」

乾いた笑い、シーンとする一同
この深刻な中で神の城だとか騒いでいたのに、この提督は一体何を聞いていたのだろう?

「ユリカさん、黙示録っていうのは空から恐怖の大王が降ってくるっていう・・・」
「ユキナ、あんたも間違えてるよ。」
「え?」
「それはノストラダムスの大予言だ。」
ユキナのボケにミナトとゴート夫妻がツッこむ。

「恐怖の大王ってなに?」
「ああ、その予言書の四行詩の中にこういうのがあるんです。」
場違いなユリカの疑問にルリは苦笑しながらも答える。

1999の年、7の月
空から恐怖の大王が降ってくるだろう
アンゴルモアの大王を復活させるために
その前後の期間、マルスは幸福によって支配するだろう

「んでそれを読んだ当時の人達は1999年に世界が滅びるって大騒ぎしたんですよ。」
「でも結局なんにも起こんなかったのよねぇ」
ルリの解説にミナトはウンウンうなずく。

「・・・なんでこれで世界が滅びるって?」
「そりゃ、恐怖の大王が降りてくるって・・・」
「でもマルスは幸福に・・・って書いてあるよ?」
ルリはなぜ大予言の話題に発展したのか頭を痛めながらも説明する。

「大体、こんなどうとでもとれる四行の詩が未来を予言しているなんて思うから間違えるんですよ。
 この予言書を解説した本なんて
 アナグラムや年代の割り当てに暗号を使っているとか言っていろいろないじくり方をして強引に解釈して、さもこの予言書は未来を言い当ててるってみんな言い張っていたんですよ?」
「勘違いにも程があるよねぇ」
ルリの言葉にミナトがウンザリしたように言う。

でも、その言葉を真剣に聞いていた者がいた。

ユリカである。

パチン!

何か欠けていたパズルのピースがハマったような気がした。

思いこみ?
都合のいい解釈?
勘違い?

『ひょっとして・・・』
ユリカはその話を聞いて、さっきから自分の頭の中で渦巻いていた違和感の理由がなんとなくわかった気がした。

するとユリカはコミュニケでイネスを呼び出した。
「イネスさん」
『なに、ミスマル・ユリカ?』
「テンカワです!
 って聞きたいことがあるんですけど」
『なにを?』
「イネスさん、アキトにプレートのデータを何か見せました?」
『別に何も・・・・ああ、ひとつだけ見せたわ』
ユリカの質問にイネスは思い出したように何かを取り出した。

『これを見せてどう読むか意見を聞いたわ』
イネスはユリカの手元にウインドウを開いてその文字を表示した。
「『律法の文字・・・消え去ることはない。だから、これらの最も小さな掟を一つでも破り、そうするように人に教える者・・・・』」

そう、マタイの福音書の一節である。

「で、このオリジナルデータは?」
『・・・これだけど?』
イネスは何を尋ねられているのか首をかしげながら、それを翻訳する前のデータを差し出した。ユリカはそのデータを読む。

昔遺跡の演算装置に融合させられていたユリカにはプレートの生データを読むことが出来るのだ。

・・・・・・

『やっぱり!』
ユリカはイネスの訳した文章とオリジナルのデータを読み比べて確信した。
だから、アキトはアレを黙示録の描く光景と勘違いしたのだ。
多分、みんなも・・・

ナデシコも、
宇宙軍も、
ネルガルも、
統合軍も、
地球連合も、

そして東郷達、火星の後継者も・・・

ユリカは一つの仮定をしてみる。
もし夢幻城がみんなの勘違いしているようなモノじゃなく、彼女が仮定しているようなモノなら全ての辻褄があう。

その仮定が正しいかどうかを確かめるには・・・

「イネスさん、プレートのデータって残ってます?」
『・・・・残ってるわよ。だってルリちゃんとオモイカネに頼んで一気に解析してもらおうかと思っていた矢先だから。全部吸い上げてオモイカネに保存してるわよ』
ユリカが一体何をしたいのか訝しがりながら、イネスは答える。

『よかった。何とかなるかもしれない・・・』

そう思ったユリカの行動は早かった。
「ねぇ、ルリちゃん・・・」
「なんですか?ユリカさん」
「ひょっとしたら思い過ごしかもしれないの」
「はい?」
「もしかしたら徒労に終わるかもしれないんだ。
 でもきっとそこに書いてあると思うの。」
「・・・一体何をしたいんですか?」
「だから解析してみたいの、遺跡のプレートを。
 今すぐ!」
「え?」
ルリはユリカの言葉に耳を疑った。この緊迫した戦況で一体何を・・・
でもユリカはさらに続ける。
「いますぐ調べなくちゃいけないの。
 アイちゃんが古代火星人から何を託されたのか?
 あの夢幻城が何者で、私達はあの城に何をすることを期待されていたのか?
 ひょっとしたらそこにはこの局面を打開する方法が書いてあるかもしれないから・・・・」

この局面で遺跡プレートの解析をやっている暇などありはしない。
でも、ユリカの瞳は真剣そのものだった。
そしてルリは一考した後・・・

「わかりました、やりましょう!」
ルリは快諾した。

そうとなれば話は早い!

「まず私が当たりを付けるからルリちゃんはオモイカネを使ってその部分を大まかに訳して。イネスさんはその結果を受け取って校正して私に戻して下さい。私がまたその結果を読んでさらにルリちゃんに指示しますから」
「わかりました」
『わかったわ』
ユリカの指示にルリとイネスは頷く。

「でも敵の相転移砲はどうされます?」
プロスが疑問の声を上げる。
いつ相転移砲を撃たれるかわからない。

「私が同時にやります」
「でもそれではルリさんの負担が・・・」
「そう言っても私しか・・・」
プロスが心配げに言う。
プレートの解析と夢幻城への干渉を同時に行うなど無謀だ。
いくらルリでも最悪どっちつかずに終わる。

でも別の声がそれを制した。
『城への干渉は僕がやります!!』
「は、ハーリー君?」
ウインドウに現れたのはハーリーであった。

『ルリさん、僕がやります!』
きっぱりというハーリー。
その顔に以前の甘えた少年の顔はなかった。
立派な青年の顔だった。

「・・・わかりました、ハーリー君!」
ルリはにっこり笑った。
「じゃ、私のハッキングログを渡します。進入経路はわかりますね?」
『はい!』
「間違えました、じゃ済みませんよ?」
『当たり前です!』
「わかりました!もし見事防ぎきったらアキトさんと同じ扱いにしてあげます。
 だから頑張って下さいね」
『はい!!』
ルリから全面的に信頼されてハーリーはやる気満々で頷いた。

『じゃ、その間の指揮は僕が取ろう』
「ジュンさん!」
通信を入れてきたのは一応副提督のアオイ・ジュンであった。
『だからユリカとルリちゃんは解析に専念するといい』
「ありがとうございます!」

「じゃぁ、ラピスはハーリー君の補助と艦隊全体のオペレーションをお願いします」
『わかった、任せて』
「エリナさんはユーチャリスで索敵よろしく」
『はいはい』
「ウリバタケさん・・・」
『わかってるよ。どんなに壊れてても戻ってきたサレナは5分で戦場に送り返してみせる!』
「ケンさん、リョーコさん、ナデシコの死守お願いします」
『わかりました』
『任せとけ!』

そして・・・

「アキトさん、無茶しないで下さいね」
『人の心配をしている暇があったら、早くそのプレートを解析するんだ』
アキトはぶっきらぼうながらも、それとなくルリ達を励ました。

ナデシコが一つになった。
そんな気がした。
今ならたとえ神様だろうが何とか出来る気がする。
みんなそんな気持ちに包まれた。

「じゃ、ルリちゃん行くよ!」
「はい、ユリカさん!」
ユリカとルリはアイちゃんが貰ったプレートを解析しだした。



神に抗いし者達


ナデシコBの格納庫は喧噪に包まれていた。

「ウリピー、弾薬の補給と右肩アーマーの交換。
 他の破損部分はいいや。
 あと燃料!」
「わかってる!5分フラットで終わらせてみせる!
 野郎共、いいな!!」
「「「「「おう!!」」」」

さながらF1のピットみたいだ。
サレナカスタムのパイロットは交代で補給と休息を受けていた。
それだけ戦闘による消耗が激しいということだ。

「ほら、食べな」
「ホウメイさん♪」
「ホウメイオリジナルのスペシャルランチとドリンクさ」
サレナのコックピットで突っ伏してるヒカルに差し入れするホウメイ。
短時間で速やかにエネルギー源や水分、ミネラルを摂れるスペシャルメニューだ。

「気張って行ってきなよ」
「わかってますって♪」
ホウメイのエールにブイサインを返すヒカル。

「補給終わったぜ!」
「ウリピー、5分3秒!腕鈍ったんじゃないの?」
「あんだと?そりゃヒカルちゃんがドリンク飲んでる時間待ってやったんじゃないか。
 無駄口はいいからさっさと行ってきな。
 こちとら後が支えてるんだ!」
「ほーい、行って来ま〜す」
そう言うとヒカルはまた出撃していく。だが、整備班に一息着く暇はない。すぐに次の機体が修理に戻ってくるからだ・・・。



ナデシコBのブリッジではハーリーが大活躍をしていた

「相転移反応きます!」
コトネが警告をあげる。
「わかってます!!!」
ハーリーは全神経を集中する。

ゴウ!!!!

相転移はナデシコから離れた空間で起こった。

『ハーリー君お見事』
オモイカネが花丸をくれた。
またも夢幻城からの相転移砲を防いだ。

既に5回目である。
もうまぐれではない。
このところハーリーのシステム掌握術の腕はメキメキ上達している。今この瞬間もである。
伸び盛りの少年の凄いところか、
西條戦での挫折を上手くバネにしたか、凄い成長だ。

「まさに『刮目して相待つべし』・・・ですね」
防衛指揮官であるフジタは我が子の様に喜んだ。
フジタはこの前ルリに聞いた話を思い出す。
『ハーリー君は丁寧でねばり強いんです。でもそれを子供っぽさが打ち消しているだけで。だからそれさえ抜ければすぐに伸びますよ。
 閃きとか応用とかは弱いんですけど、それも持久戦に持ち込んでしまえば体力勝負ですし、男の子ですからたぶん私を負かすことが出来るかもしれませんね』
そう、嬉しそうな、悔しそうな顔でルリは語ってくれた。
『まぁ、私ならそうなる前にケリを付けられますけどね』
と付け加えることも忘れなかったが。

「ハーリー君すごい〜」
「そ、そうですか?」
メグミの黄色い声援に鼻の下をのばすハーリー。
みんな、これさえ直せば・・・と思ったのは言うまでもない。

『ハーリー、天狗になりすぎ。今の干渉0.05ms遅れてる』
「天狗になんかなってないよぉ!」
ハーリーにツッコミを入れたのはラピスであった。
『こんなことなら私が変わった方が良かった』
「う、うるさいなぁ、ラピスはちゃんと艦隊のオペレーションしとけよ」
言い争う少年少女を周りは優しく見守っていた。



そのころユーチャリスのエリナは動きの悪いロベリアを叱咤していた

「こら、左舷の弾幕弱いわよ!!」
「エリナ、気合い入りすぎ」
「うるさいわねぇ、ロベリアはワンマンオペレータがいないんだから、あんたがしっかりしないと独活の大木よ?」
今度はガミガミがラピスの方に移ってきた。
やぶ蛇である。

「・・・・カルシウム不足」
「違うわ!」
このところユリカ達に恋のライバルとして敗北感ばかり味合わされてきたエリナはうっぷん晴らしのように檄を飛ばす。
でも・・・少し調子は良かった。

なんでだろう?とエリナは自問する。

アカツキにナンパされたからか?
そうじゃない。
たぶんなぜかナデシコA時代に戻ったみたいだったからだ。
あの頃と同じようにガミガミガミガミ
自信満々で踏ん反り返って
それが彼女の持ち味だから
いくら好きな男の為とはいえ、陰々滅々としていたのが馬鹿らしいというか・・・

「ってあの女、何が
 『アキトが自分を捨ててまで私を助けようとしてくれたのだけは本当だと思うから♪』
 よ!!!!
 自信満々な顔しちゃって!!!
 こっちだって3年以上もアキトくんの為にいろいろしてあげたんだから、その絆をなめるんじゃないわよ!!!」
そう思い出したらだんだん腹が立ってきた。
なんですんなり身を退くつもりになっていたんだろう?

向こうがそのつもりならこっちは正々堂々奪い返してやる!!

「フフフ・・・こんな戦いさっさと終わらせてやるわ!」
「何かあったか知らないけど・・・エリナ恐い」
エリナが元気になったのはいいが、今は戦闘に集中して欲しいと願うラピスであった・・・



そのころユリカはナデシコCのブリッジでくしゃみをしていた

「クチュン!」
「ユリカさん・・・風邪ですか?」
「噂よ噂!わたしを可愛いって言ってくれてるのね♪」
「違うと思いますけど・・・」
とかユリカとルリは無駄口を叩きながらも、IFSだけはしっかり動かしていた。

はっきりいってそばで見ているものは彼女達が何をやっているのかわからない。
二人の間(正確にはナデシコBのイネスも含むのだが)では高速にデータのやりとりをしているのだが、何が何やらわからない。
それよりも現実世界に目が向くのは当然だった。

「どうしたの?ユキナ」
「・・・・ジュンちゃんってひょっとして凄いの?」
ミナトの質問にユキナは呟く。

ユリカの代わりに艦隊を指揮しているのは副提督のアオイ・ジュンであるが、通信士のユキナには回線を通して彼の指揮の様子がほとんど聞こえてくる。
そして聞いていてわかるのだが、彼の指揮はかなり的確なのだ。
ナデシコC、B、ユーチャリス、ロベリア。そしてサレナ部隊
それらをうまく使ってエンジェルコピー達からの攻撃を防いでいた。

「あんた・・・ジュン君を何だと思っていたの?」
「いやぁ〜〜女子高生に丸め込まれる人のいい軍人さん♪」
「・・・・あんたねぇ」
ユキナの言い様に呆れるミナト

「ジュン君はねぇ・・・」
「あれでも宇宙軍一守りの上手い指揮官らしいですよ♪」
「サユリさん?」
ミナトの言葉を引き継いで解説したのはナデシコC厨房の主、テラサキ・サユリであった。

「サンドイッチ作ってきました♪」
「ありがとう・・・」
「はい、口を開けて下さい。手が塞がってるでしょうから♪」
といってサユリはブリッジの面々の口にサンドイッチを放り込んでいく。

「あ〜〜〜ん」
「ユキナ、あんた通信士が食べ物で口塞いでどうすんの!」
「ケチ!」
サユリ特製のサンドイッチを食べ損ねてむくれるユキナ。
というわけではないのだろうが、先程のサユリのセリフに疑問を投げかけた。

「で、ジュンちゃんってそんなに凄いの?」
「食堂の人達の噂ではね。守るだけならユリカさんよりも上手いらしいですよ♪」
「・・・それって負けないけど『決して勝てない』とも言うんじゃないの?」

・・・・

ユキナの絶妙なツッコミにサユリはしばし無言の後、視線をそらし・・・

「・・・ああ、ゴートさんもサンドイッチ食べますか♪」
「逃げた・・・」
聞かなかった事にするサユリであった(汗)
んで、

「ゴートさん、どうぞ♪」
「い、いらん!自分で食える!!」
「そう言わずに♪」
そのごまかしの手段にされたゴートは女房の殺気のこもった視線を浴びながらサユリが差し出すサンドイッチをかわすのに必死だった。

「いいなぁ、私も早くアキトとラブラブしたいなぁ」
「ユリカさん・・・」
『まぁまぁ、ルリちゃん。彼女はラブラブパワーがないとなんにも出来ない人なんだから』
ユリカは物欲しそうに呟きルリがそれを諌めるが、イネスは苦笑してなだめる。
とはいえ、三人は猛スピードでプレートの翻訳を行なっていた。

ユリカは解析データを眺め読みして重要性の高い場所を的確に指定していった。
ルリはそれを受けてオモイカネを使ってあっという間に翻訳していった。
そしてイネスは翻訳の微妙な違いを正す。
内容はユリカに戻して彼女が最終チェックする。
そしてさらにその内容をもとに新たな翻訳部分を指定する。

まるでジグソーパズルのピースがはめられていくが如く次々プレートの全体像が浮き彫りになってくる。
それはユリカの仮定を裏づけるモノであった。

『思ったとおり♪
 そしてその解決方法は・・・』

とうとうそこに辿り着く。
そして解決方法もまたユリカの大体想像した通りだった。
でもそれはひどく実現困難に思えた。

それでもユリカは通信を入れる。
最後のピースをはめる為に、
そう、最後のピースは・・・・



そして神の城へ


アキトはさっきから夢幻城に辿り着けないでいる。
今だエンジェルオリジナル達の相手を強いられていた。
彼等の相手をしながら無理矢理夢幻城に突入するのはかなり無謀のように思えた。

一旦退いた方がいいのではないか?

その光景を見た誰もがそう思いだした頃、ユリカからの通信が入った。

『アキト』
「なんだ、ユリカ?」
『お願いがあるの、どうしても今から夢幻城内部のある場所に向かって欲しいの!』
「「「「「えええ!!!」」」」」

パイロット達はみな驚きの声をあげる。
無茶だ。

オリジナルだけでもアキトですら手に余る存在だ。
その上、夢幻城の内部にはまだ東郷の夜天光もいる。
しかも相手はボソンジャンプを自在に操れるが、アキトはその力を奪われている。
そんな中でこれ以上夢幻城に入り込むのは自殺行為だ。

「無茶だ、コピー達を倒してみんなで・・・」
『時間がかかりすぎます。コピーはいくらでも出てくるってサリナさんが言ってました。
 それに・・・・』
リョーコの言葉にユリカは言い淀む。
彼女も辛いのだ。
だがそれ以外に道もない。
彼女は意を決して伝える。

『誰かが「そこ」に行かなければいけないの。
 でもボソンジャンプを封じられている以上、私もイネスさんもそこに辿り着く術がない。
 今「そこ」に辿り着ける力を持っているのはアキトだけなの・・・』

ユリカはそう言う。
他のパイロットの誰にでもなくアキトに、

それはA級ジャンパーの誰かが夢幻城に入らなければいけない、という事を意味していた。

幾ばくかの沈黙の後・・・

『わかった、夢幻城内部に潜入する!!!』
一言だけ答えるとアキトはブラックサレナのスラスターを吹かした。

自分にしか出来ない事
自分になら出来る事
帰ってくる為に
帰る場所を守る為に
待っていてくれる人を守る為に
そして、この戦いがA級ジャンパーと古代火星遺跡との因縁であるというなら、それがどのような意味を持つのかを知る為に

そこに全ての答えがあるというなら行ってやる!!!

アキトは全神経を研ぎ澄ませながらエンジェルオリジナルを引き連れて夢幻城へと突き進んでいった・・・

See you Last chapter...



ポストスプリクト


ってことでリベ2のChapter36をお送りしました。

ずっと想像してきました。それこそリベ2連載開始直後から
このラストを夢想していました
それは待ち遠しくもあり、そして不安でもありました。

所々にちりばめた伏線はちゃんと上手く行っているだろうか?
夢幻城編以降の盛り上げ方は上手く行っているだろうか?
皆さんにハラハラドキドキしてもらえているだろうか?

そしてラストシーンを驚いて、そして喜んでもらえるだろうか?

そんなわけでこれが劇ナデ後への私なりの回答です。
劇ナデのアキト達の切なくも少し希望の持てるラストへの私なりのオマージュです。

願わくば皆さんも同じ気分に浸ってもらえれば幸いです。

最後だけですが次回予告!!

Nadesico Second Revenge
Last Chapter たった一つの冴えたやり方

ということで最後までおつき合いいただけますようお願いします。

では!

Special Thanks!
・TARO 様
・あめつち 様
・カバのウィリアム 様
・SOUYA 様
・AKF-11 様