アバン


アイちゃんが貰った小さなプレート
全ての人が群がり、奪い合った

それにどれだけの価値があるのかわからない。
でもそれは奪い合う人々の欲望を映し出す。
だから神の城は目覚め、封印は解かれた

天使のラッパが吹き鳴らされるとき、世界は業火に包まれる・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ヨハネの黙示録より


神の右手には7つの封印された巻き物があった。
第1の天使が「封印を解いてこの巻き物を開くに相応しい者は誰だ」と問うと7つの角と7つの瞳を持つ小羊が現われ封印を解いていった。
第7の封印が解かれると7人の天使が現われ、7つのラッパを吹き鳴らす。

第1の天使がラッパを吹き鳴らす
 雹と火を生じ、地上と木々の3分の1が焼け落ちる
第2の天使がラッパを吹き鳴らす
 海の3分の1が血に変わり、海と船の3分の1が破壊される
第3の天使がラッパが吹き鳴らす
 星が川に落ち汚す。川の水を飲んだものを殺す
第4の天使がラッパを吹き鳴らす
 太陽と月と星が消えたので天が闇で覆われる
第5の天使がラッパを吹き鳴らす
 サソリのごときイナゴの群れが地上を襲い、5ヶ月の間人々を苦しめる
第6の天使がラッパを吹き鳴らす
 大地震が起り、都の10分の1が倒れる
そして第7の天使がラッパを吹き鳴らす
 神の神殿は開かれ契約の箱が開かれると稲妻、雷、地震が起こり、大粒の雹が降り注ぐ

そして世界は地獄絵図に包まれる・・・・



ナデシコC・ブリッジ


「どういうことですか?お父様」
『すまん!!』
画面の向こうのコウイチロウは娘に手を合わせて謝った。

「ブーーーーー」
「どうしたんですか?」
ちょうどメグミの治療が終わって帰ってきたルリがふて腐れているユリカの様子を見て不思議そうに尋ねた。
「実はね・・・」
「ああ、それは僕から話そう♪」
「あ、ロン毛1号・・・」
「ルリ君までそんなこというかなぁ〜〜」
なぜかナデシコCにいるアカツキがルリの言いぐさに傷つきながらもそういう。

「アカツキさん、どうやって火星の外までいらっしゃったんですか?」
「細かいことを話し出すと切りがないんで・・・」
とか言いながら事の次第を話し出した。
アカツキとコウイチロウのもたらした内容とは次のようなモノであった。

西條戦の際にシステム掌握で救った敵軍・・・つまり元統合軍はあの後軟禁状態にあった。
しかしその後どこでどういう話し合いになったかしらないが、主流派と反主流派が和解し、なぜか凍結されていた統合軍と共に恩赦となったのだ。

彼ら曰く
「火星の後継者・・・いや東郷個人に騙されていたのだ!!!」
という論拠を出してきたらしい。

元々は我が身可愛さで統合軍を凍結し、火星の後継者へのカウンターとして仕方なく宇宙軍のナデシコ艦隊を徴用していた地球連合だったが、いざ統合軍が裏切られた反動で反火星の後継者側に矛先を向けると手のひらを返したように態度を変えたのだ。

悪いのは東郷
だからそそのかされた統合軍はお咎めなし
ナデシコ艦隊だけでは火星の後継者討伐は難しいので、すぐさま統合軍をその増援に派兵する・・・

という内容であった。

「・・・ま、朝令暮改も甚だしいですね」
『耳が痛い』
ルリが辛辣な意見に恐縮するコウイチロウ。
いくら身内だからとはいえ、この間まで自分たちと敵対していた者たちの軍を友軍として派兵するとは危機意識すらなくしたらしい。

「ということは叔父様、ナデシコはお役御免ですか?」
『そうじゃない。彼らはあくまでもナデシコ艦隊のサポートだ』
「とはいっても、彼らがやってきたら実質的な指揮権を要求してくるに決まってますし、政府だってそれを期待してるんじゃないですか?」
ルリの指摘は辛辣だが、実に的を射ていた。

今まで火星の後継者を抑えていたのはナデシコ艦隊である。
何の理由もなくナデシコ艦隊を罷免には出来ない。ナデシコ艦隊が抑えられないようならたとえ統合軍が加わったとしても大した役には立たないだろう。
だから単に『ナデシコや宇宙軍、ネルガルが気に入らない!』という理由だけで艦隊をすげ替えることは出来ない。
だからわざわざナデシコのサポートにつけるという名目で派兵し、後は実質的な指揮権を奪っていく・・・という作戦に出たのだ。

「私達ってよっぽど嫌われてるんですね」
「いやぁ、耳が痛い」
ルリの言葉にアカツキは本当にそう思っているのか、ポリポリ頭をかく。
ともあれ、アカツキが乗ってきたユーチャリス二番艦「ロベリア」はいつの間にかナデシコ艦隊に配属されたという事になっている。
それもこれも統合軍に押されないため・・・らしい。

『だからナデシコ艦隊が賊に入られたなど漏らすんじゃないぞ』
コウイチロウが先ほどの東郷達の侵入を漏らさない様に釘を差す。今の彼らはどんな理由でもつけ込む隙を探しているのだ。
「わかってます。でも・・・」
『でも?』
「なんで今なんですか?統合軍が派兵したのは?」
コウイチロウの言葉にルリが疑問を呈した。
そう、別に今でなくてもよいはずだ。もっと前でも、もっと後でもよいはずだ。
なのになぜ今なのか?

「それだよ、それ。ナデシコが東郷に襲われたのも、統合軍が派兵したのも一つの線で結ばれている・・・ってことさ」
「それって・・・」
アカツキの言葉にルリは息をのむ。

「そう、統合軍も地球連合政府も火星の後継者も、そして宇宙軍もネルガルも喉から手が出るほど欲しがっていたモノがようやく見つかったってことさ。」
「奪われた古代火星人のプレート?」
「によって目覚める神代の城、古代火星人のオーバーテクノロジーの結晶
 遙かな太古より古文書や伝説に記されし神の城・・・
 『夢幻城』だよ」

アカツキは薄ら笑いを浮かべてそう言った。
ルリ達は自分たちがそんな代理戦争に巻き込まれているのをはじめて知ったのだった。



Nadesico Second Revenge
Chapter35 神の城は目覚め、天使のラッパは吹き鳴らされる



1日後、ナデシコC・ブリッジ


火星に到着するまでボソンジャンプを使わずに約半月、それをたった1日そこらで到着するということは、少なくとも半月以上前には統合軍が派兵されることが決まっていたという事だ。
なるほど、全ては事後承諾。
半月前に東郷達が消え去った頃からもうこの事態は予見できていたのだ。
知らぬはナデシコばかりなり
ルリは眼前に現れた統合軍の艦隻を眺めて毒づいた。

そしてルリをもっと呆れさせたのが挨拶を寄越した統合軍の司令官の慇懃無礼な顔であった。

「ナデシコ艦隊副提督兼ナデシコC艦長ホシノ・ルリ中佐です」
『私は統合軍第2艦隊提督ヤマウチ少将だ』
「それじゃ、初めましてじゃありませんね。」
何を考えたのか、到着した統合軍の艦隊(その数30艦)の司令官はあの西條戦で敵側に着いていたヤマウチ少将なのだ。これではケンカしろと促しているようなモノであった。

『おや、ミスマル提督がいらっしゃらないようだが?』
「提督は所用で席を外しております。ご用件なら承っておきますが?」
『いや、挨拶しようと思っておったのだが・・・』
「では、当艦隊への増援ありがとうございます。追って作戦行動を伝えさせていただきますので待機下さい」
『!!!!』

一同ルリとヤマウチの問答に冷や冷やする。
ヤマウチはルリに先制を封じられて悔しそうだ。
高圧な態度をとって相手が怯んだ隙に数と権威の優位を思い知らせようとしていたヤマウチの思惑を先回りしてルリが正式な命令書のおさらいをしたのだ。
命令書通りであれば少将であるヤマウチは中佐であるルリの補佐に着くことになる。

階級のねじれ現象であり、本来はこんな事になるはずがない。
だが、政治的な思惑による統合軍のねじ込みがこんな奇妙な現象を起こしているのだ。政府や軍上層部は指揮系統が階級通りになることを望んでいるのだろう。
そういうつもりの人事であり配置なのだ。

でも・・・いざ実戦となればナデシコ艦隊に勝てるはずもない。システム掌握にかかれば艦隻差など何の意味もないのだ。とはいえ友軍とやり合っても意味がない。
単純にナデシコは統合軍に足を引っ張られる形となる。
足を引っ張られるどころか、彼らのお守りをしなければいけない。
ルリは溜息が出た。

『まぁ彼らにしても宇宙軍とネルガルを監視し、あわよくば出し抜こうと思ってるんでしょうけど・・・』
いっそ統合軍に全権を渡した方がどれだけスッキリするかとも思うが、そうも行かず苦しい立場のルリであった。



ナデシコC・提督執務室


んで、ルリがむさいおっさんをあしらっている頃、この艦隊の本来の責任者はというと・・・
「統合軍が全滅してしまう・・・ですか?」
「ええ、そうなんです。」
陳情に来ていたのはテンクウ・ケンであった。

彼は自分が見た夢の内容を伝えていたのだ。

謎の城が現れた。
いくら攻撃しても通用せず、統合軍は相転移砲をもって沈めようとしたが逆に返されて一瞬で消滅したこと
そして、ナデシコ艦隊もいずれは敗北する運命にある・・・

「・・・・それもにわかに信じがたいのよねぇ」
「でも、私は見たんです!」
「う〜〜ん」
ユリカからの少し疑いの眼差しにも負けず、ケンは必死に訴える。

「たぶん、それは予知夢かもしれない」
「アキト♪」
別の声がケンの主張を支持する。テンカワ・アキトだ。

「俺もそんな夢を見た。」
「夢って・・・あの城の夢?」
「ああ、ヨハネの黙示録になぞらえた光景が重なった。
 東郷達を追っている最中、死海文書やら黙示録などの終末思想に突き当たった。」
アキトは説明する。
城の夢を。
東郷を追っている最中に見つけた痕跡の数々を。
それらはなぜか黙示録に描かれる最後の審判などの地獄絵巻を映し出すのだ。

「でも・・・」
ユリカはなぜか引っかかっていた。
「あのプレートにはそんな雰囲気はどこにもなかったんだけどなぁ」
そう、あの城を始動させるキーとなる遺跡のプレート。
その原文を少し読んだユリカにはそこに示されている城の事がどうしてもそんな禍禍しいモノには思えなかった。
ユリカにはその違和感が心の中に引っかかって仕方なかったのだ。



ナデシコB医療室


「大丈夫ですか?中尉」
「大丈夫だって・・・・痛てててぇぇ!!!」
「大げさに痛がらない!早く治して欲しいって言ったのはあなたよ」
「そりゃそうだけど・・・浸みる!!!!」
イネスの手荒い治療に半泣きになるリョーコ。それをオロオロして眺めるサブロウタ。
かつぎ込まれた怪我人達がごった返す中、東郷達に痛めつけられたパイロット達は大急ぎで治療を受ける。

「受けた屈辱は戦場で10倍にして返してやる。
 東郷の野郎、あたい達を生かしておいた事を絶対後悔させてやるからな!!」
復讐戦に改めて闘志を燃やすリョーコ。
その横でヒカルやイズミも頷く。

「その調子だと戦えるようだな」
「て、テンカワ!」
様子を見に来たのはテンカワ・アキトだった。

「んだよ、笑いに来たのか?」
「いや、戦う気力が失せていないか見に来ただけだ。」
「は?」
「中途半端な状態なら無理矢理病院送りにするつもりだった。」
「んだと!もう一度言って見ろ!!誰を病院送りにするって!!」
「その元気があるなら大丈夫だろう。
 これからどんな敵が現れるかわからない。最後までその気概を忘れるな」
怒るリョーコをクスリと笑うと、何をしたかったのかよくわからないままアキトは医療室を去っていった。

「なんなんだ、あいつ?」
サブロウタは訳の分からないまま呆気にとられていた。
でも・・・

ヒカル「ねぇイズミ?」
イズミ「ん?」
ヒカル「アキト君・・・なんか角が取れたって言うか、一皮剥けたって言うか」
イズミ「彼、アレでも妻子持ち。もうとっくに剥けてる」
リョーコ「剥けてるって(赤)・・・バカヤロ!そういうんじゃねぇだろう!!」
イズミ「んじゃ、どんな?」
リョーコ「なんか憑き物が落ちたって言うか・・・」
サブロウタ「そうっすか?」
そう、乙女達には部屋を出ていったアキトの姿がなんとなくナデシコA時代のアキトのように見えた。
残念だけど昔のアキトを知らないサブロウタはそんなアキトが別の意味で気に入らなかった。

と、一方で盛り上がっている頃、
「あら、あなたはまだ寝ていた方が・・・」
「怪我をしている訳じゃないんですから、寝ていたら体がなまっちゃいます♪」
そう言ってイネスの言葉を遮るようにある女性が部屋を出ていった。



ナデシコB・ブリッジ


「お帰りなさい、艦長」
「ハーリー君、ただいま」
ブリッジに戻ったケンに声をかけるハーリー。
だが、その違和感に戸惑うケン。
いつもなら声をかけてくれるのは・・・

「コトネ君は?」
「まだ・・・・」
ハーリーは恐縮したように言う。ケンは溜息をつく。
ブリッジインしたケンを出迎えるのは決まってコトネの役目だったからだ。

いくら傀儡で騙されていたとはいえ、自分の兄と信じていた人が実は赤の他人で、しかも火星の後継者だったとは。しかもそれを今まで信じて疑っていなかったのだからかなりショックであったろう。
とはいえ、通信士は気持ちがもろに声に出る職業だけに無理強いして仕事させるわけにもいかない。艦内の士気に関わる。

「仕方ない。じゃぁ、ミカ君に頑張ってもらうか・・・」
「え、わ、私ですか!?」
いきなり振られて次席通信士ミカ・ハッキネン(20歳女性・あがり性)はおたついた。

「わ、私がこ、コトネ先輩のかわりなど・・・」
「・・・・僕が代わりに頑張ります」
「済まない、ハーリー君・・・」
ガチガチに緊張しているミカに代わってハーリーが申し出る。通信士は本来物怖じしない性格の子が適任なのだが・・・その意味で言えばコトネは申し分なかった。

「私が代わりにしましょうか?」
「え?」
そう後ろから声をかける人がいた。みんなよく知っている声。
ケンが振り返った先にいたのは・・・
「メグミさん!?」
そう、ナデシコ艦隊の制服を着たメグミであった。

「もう起きてきて良いんですか?」
「病気でもないのに寝てるのも何だし、罪滅ぼしもかねて昔取った杵柄で・・・って思ったんだけど、迷惑でした?」
「いいえぇ!!メグミさんが持つナデシコ時代の豊富な経験を生かしていただければ!!」
これから何が起こるかわからない。そういう場合、あの火星会戦という修羅場をくぐってきた経験者がいてくれた方が何かと心強い。

「それじゃ、メグミ・レイナード入りま〜〜」
とメグミが席に着こうとしたその瞬間、ドアを蹴破る勢いで入ってきた人物がいた。
「って入らせるか!!!!!」
「こ、コトネ君!?」
そう、自室に籠もっていたはずのカザマツリ・コトネであった。

「あんた、人が悲劇のヒロイン演じようと思っていたのになにしゃーしゃ−と私の席に座ろうとしているのよ!!!」
「いや、コトネ君・・・」
メグミに掴みかからんばかりのコトネを諫めようとしたケンであるが・・・
「艦長は黙ってて下さい!!!」
「あい・・・」
一撃で撃沈(笑)

「そこは私の席よ!退きなさい!!」
「先輩に対してその言い方はないんじゃないかなぁ♪」
「うるさいわねぇ!恋に先輩も後輩もないのよぉ!!」
「んじゃ、試してみます?実力の差ってモノを♪」
「受けてたってやろうじゃないのぉ!!」
なんでかよくわからないが火花を散らし合うコトネとメグミであった。

ミカ「じゃ、次席通信士の席空けま〜す(ホッ)」
ケン「コトネ君、元気が出てよかったねぇ(汗)」
ハーリー「僕にはよけい酷くなったように見えるんですけど・・・」
ケンの独り言にハーリーは優しくツッこむのであった。



火星外周


ともあれ、ナデシコ艦隊と統合軍は東郷達が逃げ去った方角へ兵を進めた。
そこに何があるのか・・・
誰も言わなくてもわかる。

統合軍の手綱を引くのに苦労するルリをよそに
目的地は段々近づく。

緊張を持って近づくルリ達

当然そんな彼女達の接近を知る者がいた。



夢幻城


「さぁ時は満ちた。
 モラトリアムは終わり、最後の審判が下される。
 自らの行いを悔い改めない者はことごとく地に伏すであろう
 今こそ7つの封印を解き、愚かなる者たちに等しき滅びを!!」
東郷の宣言を元に神の城は目覚め始める。

それは静かに動き始めた。
全てを紅蓮の炎で焼き尽くすために・・・



ナデシコC・ブリッジ


最初に第一声を上げたのはナデシコCの通信士白鳥ユキナであった。
ユキナ「左舷3時の方向、識別不能の巨大物体接近しています!!」
ユリカ「ルリちゃん、解析を」
ルリ「推定全長6.2km、全幅4.5km、全高2km
 規模的に匹敵するもとの言えば木連の市民艦「れいげつ」ぐらいですが・・・
 照合かかりません。未知の建造物です」
ユリカ「建造物?」
ルリ「ええ、スクリーンに出します」

ルリの言い回しを不審に思いながらユリカはスクリーンを注視した。
そしてルリがなぜ「建造物」と言ったかわかった。

そう、それはまさしく城である
まばゆいばかりに光を放つ城
まるで一つの小さな小島を宙に浮かべたようなモノの上に建てられた城
城壁があり、城下町のようなものがあり、その真ん中に城が建っている
周りにいくつもの塔が立ち並び、キラキラと宝石のように輝く
西洋の名城をそのまま持ってきたような様相
その蒼き宝石のように輝く様はまるで神の城と呼ぶに相応しかった。

ユリカ「あ、あれって・・・」
ルリ「ええ、プレートに書いてあった『夢幻城』ってあれの事でしょうね」
ユリカ「本当にあったんだねぇ」
ユリカが何とも場違いな感想を漏らす。まぁ当然であろう。
あんな御伽話から飛び出したような非現実的な代物が現れれば呆けもする。

「敵かなぁ、味方かなぁ」
「・・・残念ながら敵のようです」
「え?」
ユリカの疑問にルリは首を振って否定する。
ルリはコンソールを操って一部をズームアップする。
そこには・・・

「夜天光!!!」
そう、夜天光を先頭に火星の後継者の艦隊がその城の周りを飛んでいたのだ。
やはりナデシコから奪っていったプレートであの城を目覚めさせたらしい。

『やはり我が前に立ちはだかるのは貴様らか、ナデシコよ』
夜天光より通信が入る。
東郷だ。
「何をするつもりですか?東郷和正」
ルリは彼に問う。

東郷『新たなる秩序』
ルリ「草壁の弔いですか?あんなガラクタみたいな理想を実現して何になるんですか?」
東郷『いいや。あんな愚物ではない。真の秩序』
ルリ「真の秩序?」
東郷『そうだ。全ての醜きモノ、全ての偶像を淘汰し、無から作り上げる新たな秩序
 時空を支配するこの城を手に入れた我にはその資格がある』
ルリ「結局それですか。
 あなたも草壁や西條と同じ道を辿るのですね」
東郷『君にはわかるまい。
 この世界は古き価値観、古き因習、古き宗教で積み増しされた不安定な土台の上に構築されている砂上の城だ。
 いずれは崩れ去る運命にある。
 なぜなら人の心は変わらぬからだ。
 民族と民族の諍いは怨念を呼び、それらが晴れることは永劫ありえない。
 原罪は神代の昔から償われることはない。
 ソドムの闇の様に神の預言を持ってしても、人々は悔い改めず神へ唾棄する。
 だから全てが取り返しのつかない滅びを迎える前に、世界を浄化する。』
ルリ「詭弁です。自己の欲望を正当化するための言い訳ですよ」
東郷『滅びの中からしか生まれぬモノもある。
 滅びを免れ、最後の審判の後に黄金の国に召されるのは神の使徒だけなのだ』
ルリ「・・・呆れた。つまり私達はカルトの相手をしていたわけですか」
東郷『神話は御伽ではない。真理であり唯一の解なのだ。
 お前達はそれを目の当たりにする』

その言葉と共に城はまばゆき光を放つ。

手始めに・・・・

夢幻城は手近にあった小惑星一つに照準を合わせる。

バシュゥゥゥゥゥゥ!!!!

ドゥーーーーン!!!!!!

たった一撃で四方1キロはあろうかという小惑星が木っ端微塵に砕け散った。
たかだか主砲の一門の攻撃で。
その城がどれだけの攻撃力を秘めているかわからない。
でもそれが悪意を持って使われれば・・・・

みんな想像してゾッとした。

だが、果敢にも戦意を失わず城に立ち向かったのはナデシコではなかった。

『裏切り者、東郷!天誅!!!!』
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!!」
ナデシコ艦隊を支援するために派兵されていた統合軍がやおら前進し始めたのである。



戦闘宙域


『裏切り者とは心外だな』
「黙れ!我らを欺き、ただ城を見つけるための尖兵に使ったあげく独り占めしおって!!!」
『そちらも我々を利用するつもりだったのだろ?
 ならお互い様じゃないか』
統合軍艦隊指令ヤマウチ少将の咆哮に東郷は冷笑する。

「古代火星人の英知は我々のモノだ!返せ!!!」
『欲しければ力尽くで』
「くそ!!!全艦攻撃開始!!!」

こうしてなし崩しに戦闘は始まった。

まずは艦砲射撃

グラビティーブラストの掃射である。
だが・・・

「フィールドに阻まれました!!!」
「なに!?」

そう、幾重にも張り巡らせたディストーションフィールドが艦隊からの砲撃など軽々と防ぎきったのだ。
当たり前だ。あの火星極冠遺跡の例を見ればそれは容易に想像出来る。

「くそ!!!
 ステルンクーゲル部隊を出せ!!!」
ヤマウチの号令で三桁にも上るであろう機動兵器が出撃した。
ステルンクーゲル部隊は彼らの虎の子であり、100機以上ともなればかなりの数だ。
第一次火星極冠事変ですらこれほどの数は繰り出していない。
本気になればコロニーの一つや二つ、あっと言う間に占拠できるであろう。

だが・・・・

「夢幻城より機動兵器出現!!!」
「なに!?」

誰もが城から現れたモノに息をのむ。

「天使?」
誰かがそう呟く。
まばゆき光に包まれる7体の機動兵器
だが誰もその機動兵器に見覚えはない。
木連のモノとも違う
統合軍のモノとも違う
ネルガルのモノとも違う
そして火星の後継者のモノとも違う

しいて似ているといえば木連のバッタ
系列としてはアレに近いかもしれない。

しかし・・・



ナデシコB格納庫


ウリバタケ「バッタと同じテクノロジーで作られた機体みたいだなぁ」
サリナ「違うわね」
いつの間にか背後に現れたエステバリス開発者サリナがウリバタケの呟きを否定した。

ウリバタケ「ってお前今までどこに隠れてたんだよ」
サリナ「隠れてたって失敬な!ちょっと録音していただけよ(ボソ)」
ウリバタケ「便秘か?」
サリナ「はっきり言うな!!!」
ハリセンでウリバタケをどつくサリナ

ウリバタケ「それより何が違うって言うんだよ」
サリナ「バッタはプラントで作られた量産品。いわばただの粗悪品
 だけどあれは・・・」

サリナは唸る。

ほぼエステバリスサイズの全高
大きな翼を持ち
手足は細く長い
手に持っているのは一振りの槍

一番特徴的な雰囲気を醸し出しているのは異様に大きな口
まるで肉食動物を表すような長い牙

天使にも見えるし、妖魔にも見える

それらがジョロやバッタと同じ意匠を保ちつつも神々しさと禍禍しさを兼ね備える絶妙なデザインで組み合わされていた。

サリナ「バッタが組易さと量産しやすさを狙ったお土産用の粗悪品とすれば、あれは神殿に奉納するために名匠が丹誠込めて作った芸術品」
ウリバタケ「おい、いくら何でもそんなに開きがあったら・・・」
サリナ「あんなの、並の機動兵器じゃ敵わないわよ。
 ウチのサレナカスタムですら勝てるかどうか・・・」

設計者だからこそわかる性能の差

その恐ろしさにサリナは身を震わせた。

神の城を守る7つの天使
神代の昔から7つの封印を守ってきた天使

そして今それが統合軍達に襲いかかった!!!!



戦闘宙域


「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!!」
胴体を深々と槍で突かれるステルンクーゲル
確かにその機動兵器に至近距離からレールカノンをぶち込んだはずなのに、
確かにその機動兵器のフィールドを突き抜けて相手の装甲に当たったはずなのに、
敵は何事もなかったように突進してきて易々とステルンクーゲルを槍で突き刺したのだ。

「おい、D5!!」
D5と呼ばれる機体にステルンクーゲルD3機が近寄ろうとするが、『ソレ』はまるで猛禽のようにこちらを振り返る。
そしてニヤリと笑った・・・いやまるで笑うかのように口を半開きに開いた。

ぞぉーーーー!!!

背筋が凍ったその瞬間、槍でD5を突き刺したまま『ソレ』はD3機に襲いかかった。

ガブリ!!!

それはまさしく噛みついた。
寸分狂わず首筋に。
その真下がステルンクーゲルのコックピットブロックであることを知っているかのように。

そんな惨劇がそこらかしこで勃発していた。



ナデシコB・格納庫


『テンクウ少佐、サレナ部隊の出撃を!
 統合軍の援護に!!』
「わかってます!!」
ケンはルリから言われる前にスクランブルをかけて出撃の準備をしていた。

「相手は未知の敵性体よ。気をつけて!」
「わかってます!」
サリナの忠告を真摯に受け止めるケン。
ケンは知っていた。
あの機動兵器がどれだけ恐ろしいか。
そしてそのことを隊員達に伝えた。

「決して一対一で対峙してはいけません。
 必ずフォーメーションを組んで複数で当たること!
 いいですね!!」
「「「おう!!」」」
リョーコ達が怪我を引きずりながらも威勢良く返事をあげる。
今はカラ元気でも不安を持つよりはいい。

「サレナ部隊、出撃します!!!」
ナデシコ艦隊から数機のサレナカスタムが出撃した。

しかし、戦場はさらに混迷を極めることになる・・・



ナデシコC・ブリッジ


「ナデシコB、Cよりサレナ部隊出撃しました」
「アキトは?」
「ブラックサレナも出撃しました。」
ルリとユキナが次々報告するのをユリカはしかめっ面で聞いていた。

あまりにもなし崩しに戦闘に入りすぎた。
グラビティーブラストも通用しない敵・・・
システム掌握がどれだけ有効かわからない現状ではサレナ部隊による内部破壊が唯一の手段なのだが・・・はたしてサレナ部隊がどれだけ善戦できるか。
あるいは・・・

「ロベリアより2体のサレナカスタムの出撃を確認」
「ほえ?」
「アカツキさんと月臣さんのようです」
『やぁ、助太刀するよ〜〜♪』
悩むユリカの前にアカツキのウインドウが開いた。

「あ、ありがとうございます。」
『なになに、嬉しくなさそうなその顔は』
「いえ、なにも・・・」
『もしかして今逃げ出そうとか思ってなかった?』
「ギク!」
『考えていたのかい?』
「そんなことありませんよ。アハハハハハ〜〜〜〜〜〜」
図星を指されて渇いた愛想笑いをするユリカ

『手駒が少ないからって弱気になられても困るし、あの城にはぜひ僕らが一番乗りしたいからね♪』
「でも・・・」
『アレを手に入れた者は確実にこの宇宙の覇者になる。
 そして悪用されればどうなるか・・・せめて僕らの手に納めなければ』
アカツキの言葉にしかめっ面をするユリカであったが、彼の言い分もわかる。
あんな危なっかしいもの、敵の手に渡したら何をしでかすかわからない。
とはいえ、ネルガルに渡したところで平和のために使用しますって保証はどこにもないし、統合軍や火星の後継者だって相手のことをそう思っているだろう。

とはいえ・・・あんなモノをどうにか出来るのか?

ユリカが思案に暮れようとしていたそのとき、混乱の声がナデシコCに入ってきた。

『おい、ボソンジャンプ出来ねぇぞ!?』
リョーコの顔が大画面で開いた。



戦闘宙域


「大丈夫ですか、中尉?」
「大丈夫だよ!それより油断すんな!!」
左ショルダーアーマーが破損したサレナカスタム・リョーコ機。戦闘続行にはさして障害はない。
それよりも・・・

敵機動兵器「エンジェル(急遽命名)」の攻撃を避けようとしたリョーコはタイミングが間に合わないと判断するや、ジャンプしてかわすことにした。
しかし、いくらイメージングを起動し、CCへトリガーをかけてもジャンプフィールドが発生しないのだ。
仕方なく、とっさに回避動作をとったが間に合わずエンジェルの槍がショルダーアーマーを抉った。
サレナカスタムの装甲厚がなければ腕ごと吹き飛ばされていたところである。

「おい、ジャンプユニットの故障なのか?」
「ダメ!こっちも出来ないよぉ〜〜」
同じくヒカルも悲鳴を上げる。

ボソンジャンプが出来ない・・・

その事実がパイロット達を混乱に巻き込もうとしていた・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「整備不良?」
『バカ言え!!俺達が整備に手を抜くとでも思ってるのか!!』
誰かの声にウリバタケが最速でツッこむ。
無論、端からそれを疑う者など誰もいない。

「ユリカさん!?」
ルリは慌てて振り返る。
単独ボソンジャンプが出来る・・・それがナデシコ艦隊の優位点の一つだ。
それが封じられた時、どれだけ苦戦するかこの前の西條戦で痛いほど身に染みている。

「アキト、ジャンプ出来る?」
ユリカはA級ジャンパーであるアキトに連絡を入れた。
だが返ってきた答えは・・・・

『ダメだ!フィールドがキャンセルされる!』
予想されていたとはいえ、ショッキングな返事であった。

「私が直接アクセスしてみます。」
ユリカは自らナビゲーターシートに向かう。

「直接?どういうこと、ルリルリ?」
「つまり・・・遺跡演算ユニットに直接アクセスするっていう意味です。」
首をかしげるミナトにルリが答える。
「それって・・・」
「ですから、アレはナデシコCに保管されてるんですよ。
 ナデシコCが一番安全ですから。
 あ、これトップシークレットなんですけどね」
「そりゃ、なんとも豪気な・・・」
そりゃ、ナデシコなら一番安全だろうが・・・あまりの秘密に開いた口が塞がらないミナトであった。

とはいえ・・・

「・・・・・・・やっぱりダメ」
「ダメですか!?」
「うん、イメージデータは受けとってるみたいなんだけど、どこからかのちょっかいでキャンセルされているみたいなの」
「ってことは・・・・」
ユリカの言葉にルリは戦慄する。

そう、つまり・・・

「あの『夢幻城』に邪魔されていると思う」
ユリカの言葉に愕然とするクルー達。
でもあり得ない話ではない。
あの城は古代火星人の残した遺跡の一つだ。ならば演算装置に干渉出来ても不思議じゃない。というか、プレートの文面から察すれば演算装置を管理するのがあの城という見方も成り立つ。

そんなものに戦いを挑まなければいけないなんて・・・

「ケンさんの言うとおりなのかなぁ・・・」
ユリカの呟き通り、事態はどんどん悪くなる。
今もその報が入る。

『提督、統合軍を止めてください!』
今度スクリーンに登場したのはケンであった。

「どうしたんですか?」
『彼等は相転移砲を撃とうとしています!』
「え?」
ユリカはその知らせに言葉に言葉を失った。



戦闘宙域


ナデシコからの援軍があったにもかかわらず、戦況は一向に好転しなかった。
接近戦に弱いステルンクーゲル部隊は見る間に数を減らしていった。
たった7機の機動兵器・・・
それらに翻弄され、食い破られ、あっという間に半数までその数を減らした。

業を煮やした統合軍は禁断の兵器を持ち出す。

相転移砲・・・

空間そのものを相転移してしまうこの兵器ならディストーションフィールドなど無意味だ。当たれば確実にあの城を沈められるだろう。

「少将、おやめください!」
「ばかもん!!相転移砲以外でアレを沈める方法があるか!!」
「我々の任務はあの城を無傷で手に入れること、それでは政府の高官方が黙っていません!」
「そんなことを言っている場合か!!
 このまま手をこまねいたら、手に入れるどころか地球全てが廃墟になってしまうわ!!それだけは阻止せねば!!」

ヤマウチは副官を叱責する。
多分に東郷に対する私情が混じっているとはいえ、彼の推測は正しい。
あんなものが地球に向かえば・・・・
既に無傷で手に入れるとかいうレベルを越えている事態なのだ。

だから相転移砲を使う事を決断した。

だが・・・・

「相転移砲、座標固定!」
『やめてください、少将!』
ヤマウチの艦に通信を入れたのはテンクウ・ケンであった。
「なんだ、貴様は!」
『アレには相転移砲は効きません!
 それどころか・・・・』
「うるさい!相転移砲、撃て!!!」

ケンの忠告も無視してヤマウチは禁断の兵器の発射を指示した・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「ルリちゃん、システム掌握で統合軍の攻撃を・・・」
「間に合いません。それより・・・・」
ユリカの指示をルリは否定した。
それよりももっと優先事項があった。

「各艦緊急回避!!
 来ます!!!!」
ルリが叫ぶ。その言葉にミナトはとっさに舵を切る。
ナデシコBもユーチャリスもロベリアもそれに習う。

相転移座標への干渉・・・・・

相転移反応は夢幻城には現われなかった。
それは統合軍の中心に現われた!!!!!!!!

「な!!」







轟!!!!!!!!!!!!






空間が崩れ、ナデシコからの勧告に逃げ遅れた艦隊はまともにその崩壊に巻き込まれた。





数秒後・・・



きれいさっぱりなくなった統合軍の艦隊・・・

運良く2〜3割の艦は全壊を免れたようだが、それはもう軍隊と呼べるようなシロモノではなかった・・・

「あんなの、どうやって倒すのよぉ・・・・」
ミナトが呻くように言う。
それはその場にいた誰もが持った感想だった。

天使達は城の周りを回り、まるでラッパを鳴らしたような音を発していた・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


ってことでリベ2のChapter35をお送りしました。
Chapter35は基本的にChapter33でケンが見た未来の光景50行程度の内容をじっくり一話かけて書いたモノです。
Chapter33でもこんな事が行なわれていたということですね(笑)

一応夢幻城はフロートテンプルのサイズぐらいに合わせています(爆)
(れいげつではサイズが大きすぎます)
夢幻城を守護する機動兵器「エンジェル」の持っている槍は「ロンギヌスの槍」と呼ばれていてその姿はまるで量産型E○Aという・・・・冗談のような本気の話しだったりします(汗)

ううん〜〜統合軍、出てきてすぐ退場しちゃう悲しい運命なのね〜〜
裏でどういう政治工作が行われていたか知りませんが、まぁあまり深く考えずにストーリーのスパイスぐらいに思っていておいてください。
(賢人機関とかゼーレみたいなのがいたかもしれませんが・・・(爆))

さぁ次回からはメカ戦です。
アキトやルリやユリカが活躍します。
最終回まで突っ走りますよ〜〜

ってことで残り2話+1ぐらいですが、出来ましたらもう少しおつき合いいただけますようお願いします。

では!

Special Thanks!
・東 丈 様
・SINN 様
・TARO 様
・SOUYA 様