アバン


何が正しくて、何が間違っていたのか・・・・
それは今行動している私達にはわからなかった。
ただ後で振り返ってみればもっとこうしておけば・・・って反省が出来るだけで。

だから私達はその時々を後悔しないように行動しなければならない。
未来はまだ確定していない。

どんなに選択肢が少なくても選ぶ自由は存在するのだから・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ナデシコC・ブリッジ


「あんた、マジ強かったよ。」
「む、無念・・・」

ドサ・・・

サブロウタの渾身の一撃で崩れ落ちる六人衆「迅雷」。

「こっちも終わった」
「こちらもです、はい」
ゴートもプロスもそれぞれ相手にしていた敵を倒し終えていた。

「やぁ〜〜さすがに強いね、ゴートさん達」
「当たり前です。旗艦が敵に乗っ取られても困りますからね。」
ユリカが感心して言うのをルリが諭す。

「ミナト、大丈・・・」
「ユキナ、あんた大丈夫?」
「・・・・・・・・(泣)」
ミナトのところに駆け寄ったゴートをほったらかしにしてミナトはユキナの元へ歩み寄る。

「大丈夫!陸上で鍛えてるから♪」
「バカ!!あんな無茶して!!!」
「やぁ〜ミナトさんを助けようと思ったら、つい・・・」
「バカねぇ!そんなことであんたにもしものことがあったらどうするの!!」
「・・・・ごめん」
涙ぐみながら手を握り合う二人をみんな微笑ましく見守るのであった。

だが、戦闘は終わってはいない・・・

『ルリさん、ナデシコBより強制通信が入った!』
オモイカネが焦ったようにアラートを出した。
そしてそのまま有無を言わさずブリッジに回線が繋がった。

『やぁどうも〜お久しぶりです〜♪』
「あ、あなたは!」
画面に映ったのは・・・
『どうも、カザマツリ・サカキです。その節はお世話になりました♪』

そう、一日艦長イベントの時にメグミと共にやってきた芸能プロデューサーである。
ただし、あのときの背広姿とは違い、火星の後継者の軍服に着替えていたが。



ナデシコB・ブリッジ


「あ、アニキ!!なんでそんなところに!!!」
コトネは信じられないように叫ぶ。
そりゃ、自分の兄が火星の後継者の軍服を着てナデシコBの医療室にいるのが映っていれば驚きもするだろう。

『ごめん。お兄ちゃん、実は火星の後継者だったんだよ』
「ウソ!!!」
『ウソじゃないんだ。その証拠に・・・』

ウインドウのフレーム内にカザマツリ以外にメグミが入ってきた。
そしてそのこめかみには拳銃が突きつけられていた。
『ご、ごめんなさい・・・・・』
蒼白のメグミはただ謝ることしかできなかった。

「艦長!どこですか?」
ハーリーはパニックを起こして何もできないコトネの代わりにケンに連絡をつけようとした。
『いま、医療室に向かってます!何かあったんですか!?』
「ええ、実は・・・」
ハーリーの説明にケンは驚愕した。



数分前のナデシコB・医療室


時間は少し遡る。

「い、イネスさん〜〜」
「あら、メグミちゃん。あなた自室で謹慎だったはずじゃ・・・」
医療室に顔を出すメグミに少し不審がりながら迎え入れようとしたイネスだが、その異常な事態にすぐに気が付いた。

メグミに銃を突きつけてその男は部屋に入ってきた。

「・・・・あなた、見た顔ね」
「ええ、直接お会いできませんでしたが、一日艦長のイベントの際に」
「なるほど。それでメグミちゃんを私のところに潜り込ませた訳ね」
「まぁ、平たく言えばそうです」
カザマツリはイネスの推論を悪びれずに肯定していく。

「だいたい私の目的を察していただいてるようですので単刀直入に申しますが・・・
 プレートを差し出してはいただけませんでしょうか?」
カザマツリはメグミのこめかみに当てた銃をことさら見せびらかす。
「残念だけど、ここにはないわ。」
「またまた〜〜」
「本当。ルリちゃんが持ってるから、勝手に交渉して」
イネスはポケットをわざとらしく逆さに振ってみせた。
そしてメグミのことを気にかけていないという表情を見せながら交渉する。
情に薄くはないのだろうが、ポーカーフェイスが得意なイネスならではである。

「どうやら本当のようですね・・・」
心が読めるのか、カザマツリはメグミのコミュニケを操作してナデシコCとBのブリッジを呼び出した。



火星外周


ユーチャリス二番艦「ロベリア」が火星外周に到着した。
しかし惜しいことにナデシコが戦闘している宙域からは少し離れていた。

「あちゃ〜〜ちょっと離れちゃったね♪
 まぁ、初めてにしては上出来かな?」
「・・・・・・・・」
アカツキはナビゲータシートでお茶目にそんなことをいうが、隣に座っていた月臣は茫然自失となっていた。
そりゃそうだろう。
アキト達A級ジャンパーのナビゲートならいざしらず、人工的に単独ジャンプが出来るようになったB級ジャンパーもどきのジャンプに付き合った日には命がいくつあっても足りはしない。
さぞ、生きた心地がしなかっただろう。

「それにしてもフェイスレスにそんな秘密があったなんて驚きだねぇ」
「・・・・・・・・・・・ここは?」
なんて、のほほんと感想を述べるアカツキの隣でようやく月臣が正気を取り戻した。
「なにって、目的地。ちょっと離れちゃったけど」
アカツキはスクリーンを指差す。
少し距離が離れていて戦艦で飛ばしても小一時間ぐらいかかるようだ。

しかもスクリーンのナデシコ艦隊にはアラートマークがついていた。

「・・・・・おい、既に戦闘が始まってるじゃないか!!!」
「みたいだね。」
「そうみたいだねって・・・何をのほほんとしている!!!」
「そんなこと言ったって、離れたところにジャンプアウトしちゃったんだ。仕方ないじゃない?」

プツン
アカツキの物言いに月臣がキレたようだ。

「・・・・・・・・・あそこに跳べ!」
「え?」
「毒を食らわば皿までだ!いいからナデシコ艦内に直接ジャンプしろ!!」
「って僕こう見えても疲れてるんだよ?
 第一正確なポイントへのジャンプはかなりしっかりしたイメージをしないといけないんで、とっても疲れるんだけど・・・・・」
「いいからやれ!!!
 イメージならウォンの顔でも思い浮かべろ!!!」
主従が逆転し、月臣はアカツキの胸ぐらを掴んで脅すのであった・・・。



Nadesico Second Revenge
Chapter32 そして事態は最悪に



ナデシコB・格納庫


「東郷!!!!」
「やっと来たか、黒百合」
ジャンプアウトしてきた黒百合ことテンカワ・アキト。
そこに待つ火星の後継者の総司令官「東郷和正」
最強を誇る二人の戦士が静かに戦いを開始した。

アキトはリボルバーを抜き放つと同時に発砲する。

バン!バン!バン!
「遅い!!」
素早く三点射撃するアキトであるが、東郷はそれを難なくかわす。

一気に間合いを詰めると東郷は太刀を取り出してアキトに切り掛かった。

キン!!!
アキトはその刃をリボルバーでかろうじて受け止める。

「そうだ、それでこそ我が宿敵よ!」
「吐かせ!なら俺が追っている時になぜ姿を現さなかった!!」
「時が満ちていなかったからだ」
「なに!?」

だが、東郷はアキトが疑問を持つ事を許さなかった。
畳み掛けるように攻撃を仕掛ける!
アキトはその波状攻撃の対処に専念せざるをえなかった。



ナデシコC・ブリッジ


カザマツリはメグミとイネスを人質にしているのを見せつけてから、単刀直入に用件を伝えた。
「遺跡のプレート・・・ですか?」
『ええ、素直に渡していただけると助かります♪』
「渡さない場合は?」
『応じていただけるまで犠牲者が出ます。
 差し当たっては・・・・そうですねぇ』
ルリの言葉にカザマツリは至極のほほんと銃を突きつけているメグミの頭をさらに小突いた。メグミは声も出せないでいる。

「メグミさんは内通者ですから、そんな人を人質にしても説得力はありませんよ?」
「る、ルリルリ・・・」
ミナトなどはルリの発言に悲鳴を上げそうになるが、ユリカが『ルリちゃんに任せて』と視線で合図する。
ルリは今、ネゴシエーションで相手の出方を探っているのだ。弱気な態度はみせられない。

『へぇ〜〜じゃ、差し当たり小指の一本でも切り落としたら信じてもらえますか?』
カザマツリは酷くにこやかな顔で残酷なことを言う。
「そんなことをしたらこちらにも考えがあります」
そういうとルリはポケットからプレートを取り出し、それに銃を突きつけた。
『・・・・・』
「プレートは差し上げます。
 しかしメグミさんとイネスさんと交換です。
 彼女達に傷一つでもつけたら躊躇せずプレートを破壊しますのでそのつもりで」

ルリは敵を前に気後れしないように毅然とした瞳で相手を見つめた。
たとえハッタリであろうと相手に本気と信じ込ませるように。

『いいでしょう、そのかわり「あなた」が彼女達の代わりになるなら・・・』
「な!」
ブリッジのメンバーは一応に驚きと怒りを露にする。
ルリはナデシコ艦隊の柱石を担う人物である。その人物と交換など・・・
カザマツリが突きつけてきた条件は承伏できるモノではなかった。

しかし・・・

「いいですよ」
「「「「「えええええ!!!」」」」」
ルリの承諾にクルー達は驚愕した。
しかし、ルリはユリカにちらりと視線を送り、アイコンタクトで何をしたいかを伝えた。
ユリカは意を得たりと頷いた。

『いいでしょう。「妖精」、あなたがプレートを携えて私の元に来れば人質を解放しましょう。それでいいですね?』
カザマツリはいつもの微笑みを絶やさずにそう言った。



ユーチャリス・ブリッジ


バン!
エリナは必死に六人衆「叢雲」の攻撃をかわそうと銃を撃ち続けていた。
だが、素人の悲しさなのか、敵が銃弾の雨をかいくぐってきた強者だからなのか・・・

「この!この!」
カチ!
「た、弾切れ!?」
一発もかすらないまま、ついに全弾を撃ち尽くしてしまった。

「もう、終わりか?」
叢雲は嬉しそうに笑う。
この瞬間だ。
気丈に抵抗していた獲物が、反撃の手段もなくなり、全ての希望も打ち砕かれて絶望へと表情を変えるこの一瞬のなんと美しい事よ!

錫杖を振りかぶる叢雲
『ごめん、アキト君!』
さすがにエリナも観念した。

だが、救いは現れた。
ボース粒子増大

「な!!」
「亭主の留守に忍び込むこそ泥野郎め!!
 天誅!!!!!!」
ボソンジャンプでアカツキと共に現れた月臣の拳は既に叢雲の眼前まで迫っていた。

バキ!!!!!!

さすが月臣、一撃で叢雲を伸してしまった。

「大丈夫か?ウォン」
「ええ・・・」
「僕は大丈夫じゃない〜〜」
月臣に支えられてようやく立ち上がるエリナ。その後ろで慣れないジャンプを連続で行った反動からか、精根尽き果てて突っ伏しているアカツキが情けなさそうに言った。

「そうだ、ウォン。黒百合は?」
慌てて月臣が尋ねる。
「アキト君ならナデシコBへ。東郷が現れたの」
「くそ!入れ違いか!!
 アカツキ、起きろ!ナデシコBへ跳べ!!」
「む、無理だって〜〜」
月臣はアカツキの胸ぐらを掴んで揺するが、本当にダメなのかアカツキはへたりこんだままだった。

「クソ!!!」
月臣はダッシュで連絡艇まで向かった。

月臣が走り去った後、アカツキは首だけ向けてエリナに話しかけた。
「エリナ君、大丈夫?」
「・・・・・・あんた結局何しに来たの?」
「何しにって・・・わざわざ地球からジャンプ失敗の危険も省みず跳んできたナイトにその言い方はないんじゃない?」
「それはいいけど、また敵が現れたら守ってくれるんでしょうね、ナイトさん?」
「そりゃもう。君は大事な秘書だし」

ヘロヘロのくせに格好をつけるアカツキをエリナはクスリと笑うのであった。

「・・・・・和んでる場合じゃない。戦闘続いてる」
ラピスがツッコミをいれるのであった。



ナデシコB・通路


テンクウ・ケンはまだ通路を走っており、医療室に辿り着けないでいた。
とっくに辿り着いていてもいい頃なのだが、出来ていない理由があったのだ。
「裏切り者め!!!」
「く!!」
敵の攻撃を何とかかわすケン。
彼もまた敵と遭遇し、足止めを喰らっていたからである。

『艦長、ルリさんが人質になったメグミさん達の身代わりに!』
「ええ?」
ハーリーの報告を受けて驚くケン。

早く医療室に向かわなければ!

でも気だけが焦り、敵の攻撃を受けて思うように前に進めないでいた・・・



ナデシコB・格納庫


アキトと東郷の戦いはまだ続いていた。
最強対最強の戦い
もし、二人の戦いを観戦している者がいれば、さぞかし息詰まる攻防に興奮したであろう。

だが、そんな戦いの最中、アキトはある疑念に囚われていた。

『なぜ東郷は俺と戦っているんだ?』

東郷はアキトと戦っている。
だがそれ以上でもそれ以下でもない。
今この場でアキトと戦って何の利益がある?
ナデシコBの乗員を殺すつもりならアキトなど挑発しなくても良かったはずだ。
アキトを倒した功名など今このときに必要な代物ではないだろう。

なら何のために東郷自らアキトの相手をしているのか?

「!!!」
アキトは東郷の本当の理由に気がついた。
「東郷!端から俺をここに足止めにするのが目的か!!!」
「よく気がついたな、黒百合」
東郷はアキトの焦る顔を見て嬉しそうに笑う。

「ユリカ!ルリちゃん!何が起きてるんだ!」
「無駄さ。向こうはそれどころじゃない」
ナデシコCのブリッジを呼び出すアキトだが、その間にも東郷は攻撃の手を緩めない。

『アキトさん!
 今ルリルリが人質になったイネスさんとメグミさんを助けるためにナデシコBに向かったの。アキトさんも急いで医療室に向かって!』
ユリカ達の代わりにユキナが通信に出た。

「そういうことか、東郷!!」
「そうだ。ナデシコの連中はお前以外は全員『甘い』。
 お前さえ足止めにすればどうとでも手玉に取れる」
アキトの詰問に東郷は嬉しそうに答える。

アキトなら全体を守るためには味方を犠牲にしても躊躇なく引き金を引ける。
いや、自分一人が汚名を着れば、と思えるだろう。
だが今のルリ達にそこまで非情なことが出来るだろうか?

東郷はそこにつけ込もうとしているのだ。

「くそ、ジャ・・・」
「跳躍の為の時間など与えないぞ!!」
東郷は絶え間なく攻撃をし、アキトにジャンプのイメージングをする隙すら与えなかった。



ナデシコB・医療室前


ルリとサブロウタは医療室の前まで辿り着いた。
十数メートル先にはメグミとイネスを人質にしてにこやかに笑っているカザマツリがいた。

「ちゃんと持ってきましたか?」
「ええ」
ルリは手の中のプレートをかざして相手にみせた。

「よろしい。では交換と行きましょう。
 あなたがプレートを持って一人でこちら側に来たら、こちらも人質を解放しますよ♪」
相変わらず朗らかに言うカザマツリ。
その条件ではルリ達に不利なのだが・・・

「本当にお二人を解放していただけるんですか?」
「そういうあなたの手のモノが本物であるという保証は?」
ルリの挑発に軽やかにかわすカザマツリ。

「わかりました」
「艦長!」
サブロウタが不利な条件に思わず声を上げるが、ルリはしっかりとした足取りで前に出た。

「約束は守ってもらいますよ?」
「ええ、もちろん」
ルリは人質と交換されるためにゆっくりとカザマツリの元に近づいていった・・・。



ナデシコB・通路


「ケン!こんなところで何をしている!!」
「月臣先輩!!」
通路で敵の足止めを食らっていたケンを救ったのは月臣だった。

月臣はあの後、連絡艇で後部デッキから侵入した。
普通、連絡艇はメインの格納庫を使わず後部デッキを使用するものだが、今回はこれが仇となった。
もし月臣がアキトと合流が出来ていればまた違った展開になったであろう。
いや、火星の後継者に巧みに誘導されたと見た方が正しいのか?
ルリ達は同じ後部デッキから乗り込んですんなり医療室に辿り着いている。
月臣がアキトと出会わず、テンクウ・ケンの方と出会ってしまったことが後の悲劇を生むこととなる・・・

ともあれ、月臣の加勢で形勢は一気に有利になりつつあった。

「メグミ・レイナードはどこだ?」
「え?」
ケンは月臣に突然意外な質問をされて戸惑う。
「どこだ?」
「それは・・・医療室でカザマツリという男の人質になってるんです。僕もそこに向かうところなんですけど。」
「なるほど、俺達木連系の諜報とは合わせたくないということか・・・」
「え?それはどういう?」
月臣の言葉に驚くケン。

しかし月臣は時を惜しむかのように話を続けた。
「ここは俺が引き受ける。早く医療室に行け!」
「わ、わかりました。」
「ただし!!!」
「はい?」
「メグミ・レイナードに気を許すな。
 何かあったら躊躇わずに殺せ!!!」
「え?」
ケンには月臣が何を言ったのか一瞬わからなかった。



ナデシコB・別通路


「逃がさん!!」
「くそ!!」
アキトと東郷は走りながら戦っていた。
アキトは一刻も早く医療室へ向かうために。
東郷はその行動を阻止するために。

アキトは最悪の結果を回避すべく必死に東郷を振りきろうとしていた・・・



ナデシコB・医療室前


ルリはゆっくりと歩み寄り、カザマツリ達のすぐ前まで辿り着いた。
そして手の中のプレートをみせる。
「さぁ、これで二人を離してくれますよね?」
「いいでしょう。行きなさい」

カザマツリはメグミを掴んだ手を離すと代わりに、ルリの手を掴んでたぐり寄せた。

「ルリちゃん・・・・」
「メグミさん、早く向こうへ」
「ごめんなさい!」
捕まっていた恐怖とルリを身代わりにした罪悪感でぐちゃぐちゃの表情のメグミだが、ルリは気丈な笑顔で勇気づけた。

タタタ・・・
二人は走り、やがてサブロウタのところまで駆け寄る。

「では、もらいましょう」
「乱暴にしないで下さい!」
「これが古代火星人のプレート・・・」
カザマツリはルリの手からプレートを取り上げて眺める。

だが・・・・・

「さすがにこの状況でフェイクを使ってくるとは」
「本物を見たこともないのによくわかりましたね。」
カザマツリの顔から笑みが消えた。

そう、ルリが持っていたプレートは巧妙に似せて作ったレプリカである。

「ルリちゃん!」
「ダメだよ、メグミさん」
カザマツリの表情にぞっとしたのを見るや、ルリの身を案じて飛びだそうとするメグミ。
それをサブロウタが止めた。
「ルリちゃんの表情を見なさい。」
イネスはメグミにそっと耳打ちをする。
メグミはその言葉通りにルリを見やった。

「小賢しい人ですねぇ。私は時間の無駄が嫌いだからあなたを信用したのに。
 今度はあなたを人質にして脅せば済む話でしょ?」
カザマツリは少し怒ったように言う。

確かに今度はルリの命を盾に要求すればナデシコ側も本物のプレートを渡さざるをえないだろう。
だが、それはこのままルリが人質となっていた場合の話である。
「そうですか?」
ルリは笑みをこぼした。

ボース粒子増大

「ルリちゃんは返してもらうからね♪」
「な?」
一瞬のうちにユリカがルリ達のすぐ隣に現れる。
そして素早くルリのもう一方の手を掴むとすかさずまたジャンプを行う。

次の瞬間、カザマツリの手からルリの手が消えた。
そしてそのすぐ後、イネスやメグミ、サブロウタ達の前にユリカとルリがジャンプアウトした。
「ということで人質救出作戦完了です」
「どう?どう?ユリカ格好良かったでしょう♪」
ルリ達はケロッとした顔でそう言った。
ルリとユリカは最初から示し合わせていたのだ。ボソンジャンプで救い出すという事を。アキトからもらったCCが本当に役に立った。

「・・・・・・・・よかったよぉぉぉぉ!!!」
メグミはさっきまでの恐怖心とルリを巻き込んでしまった罪悪感と無事に帰ってきた喜びで顔がグチャグチャだった。そして泣きながらルリに抱きついた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「いいんですよ、メグミさん」
ルリは泣きじゃくる子供をあやすようにメグミの抱きしめた。

人質を奪い返されて切り札を失ったであろうカザマツリは俯いて脱力していた。
いや、そういう風に見えた。
しかし・・・

『おやおや、そんなに早くジョーカーを出しちゃって良かったんですか?
 トラップ発動です♪
 Wake up my daughter! 』

カザマツリの呟きは誰の耳にも入らなかった。
だからルリ達はある者の首のタトゥが鈍く光りだしたのに気がつかなかった・・・。



ナデシコB・通路


テンクウ・ケンは走っていた。
医療室を目掛けて。
まるで月臣の言葉を否定したいがために。

「うそだ!メグミさんが傀儡にかかってるなんて!!」
月臣の言葉はケンに絶望を与えていた。



ナデシコB・医療室


「め、メグミさん、ど、どうしたんですか!?」
「ごめんね、ルリちゃん♪」
ルリの表情は一瞬で強ばった。
なぜなら先程まで泣いて自分にしがみ付いていたメグミが自分の首筋にナイフを当てているのだから・・・。



ユーチャリス・ブリッジ


「傀儡?」
「木連の一部ではそう呼んでいるらしい。なんでも木連武術の偽伝の一つらしいんだけど・・・」
エリナに月臣が慌てていた理由を聞かれてアカツキは説明しだした。アカツキにしても月臣の受け売りなのだが、偉そうに話をする。
簡易のベットに寝かされて、濡れタオルを顔に当ててなければかなり決まっていたのだが、無理矢理生体ジャンプをしたのがかなり応えたのだろう。

「かなり乱暴な説明なんだけど・・・催眠術や洗脳の一種って言った方が分かり易いのかな?フェイスレスはその達人らしい。東郷達はそれを使って地球の社会に溶け込んでいったそうだ。」
「溶け込むって・・・」
「早い話、実在する人物と入れ代わるのさ。
 例えばカザマツリ・サカキ。
 フェイスレスはその人物と入れ代わり、カザマツリ本人に関係する人達に傀儡をかけていったのさ。相手のカザマツリという人物の顔や仕草、そういったカザマツリという人間を認識している記憶を都合よく歪めて。」
「そ、そんなこと出来るの?」
「まぁ、最近は合成写真やCGで画像の記録はいくらでも改竄出来るからね。住民票や戸籍は全てデータ化されているんでこれも改竄可能だ。後は人の記憶さえ何とか出来れば簡単に入れ代われるさ。
 人と人と関係なんて最近希薄だし、そういう人間を狙って入れ代われば容易いだろう。
 現にカザマツリの妹のコトネ君だっけ?
 彼女なんてフェイスレスを自分の兄と信じて疑っていないし。」
「でもDNA検査とか・・・」
「そういう時は本人に行かせればいいのさ。
 フェイスレスだって四六時中カザマツリとして行動していたわけじゃないだろうし。
 摩り替わられた本人だって自分がカザマツリ本人として行動しているかどうかの境界線は定かじゃないだろう。」

そうやって東郷の配下は地球にとけ込み情報を収集していった。
エリナはあまりの事実に絶句する。
だが、エリナが驚くのはこれからだった。

「でもね、一番恐ろしいのはそんな事じゃないらしい」
「え?」
「奴らは傀儡をさらに改良してペルソナというモノに発展させたらしい。
 テンカワ君のスタンピードだっけ?あれと原理は同じらしいんだけど・・・」
「それって、まさか・・・」
「そう、ナノマシーンによって人の人格に別の人格を上書きする方法を編み出したそうだ。傀儡と一緒に使われたら効果倍増。
 一種の多重人格状態を意図的に作ることができる。
 普段は元の人格で行動しているからまず疑われない。
 中に入り込んで気を許した瞬間にガブリ!、とね」
アカツキの言葉にはっとするエリナ。

「まさか・・・・・・メグミさんが!?」
「月臣君曰くそうらしい。
 やられたよ。コンピュータの世界にトロイの木馬ってウイルスがあるけど、メグミ君はさしずめそれの人間版だったってことだね」
「・・・・」
エリナはその事実をすぐには受け入れられなかった・・・



ナデシコB・医療室前


「さぁ、今度こそ本物のプレートを出して下さい。
 昔の仲間に殺されるのも、昔の仲間を殺人者にするのもイヤでしょう?
 そうそう、ジャンプもなしですよ。
 少しでもそんなそぶりをみせたらメグミ君も動揺してナイフに力が入っちゃうと思うので♪」
カザマツリ・・・いやフェイスレスこと風祭は酷く残忍な顔に戻ってユリカ達に語りかける。

「メグミちゃん、お願いやめて!!」
「なぜ止めなければいけないんですか?全てはカザマツリ様の為ですよ♪」
ユリカは思わず叫ぶが、メグミはルリにナイフを突きつけて妖しく笑ったままだ。
「無駄ですよ。
 今の彼女にとって僕は愛しい愛しい王子様なんですから。
 テンカワ・アキト以上に・・・」
クスクス笑う風祭。

やがてメグミはルリを風祭の元まで引きずってきてしまった。

「さぁ、プレートを渡して下さい」
「・・・・・・わかりました。」
風祭の言葉に本物のプレートを持っていたユリカがポケットから取り出し、それを床を滑らすように風祭の方に投げた。

「確かに、本物を頂きました。」
「これでいいんでしょ?さぁ、早くルリちゃんを解放して!!」
「さて、どうしましょうか?」
ユリカの言葉にすっとぼけたようにいう風祭。
「なに!!」
サブロウタは怒ろうとするがイネスが制する。今怒っては敵の思うつぼだ。

「僕もしがない宮使いで、一応上司にお伺いを立てないといけないんですよ。
 僕の一存じゃ決めれなくって・・・」
風祭はとぼけたようにそう言う。

そこに・・・・

ドサ!!!!

通路の向こう側に縺れながらテンカワ・アキトと東郷和正がなだれ込んできた。
「ルリちゃん!!!!」
叫ぶアキトであるが、同時に東郷に組み敷かれてしまった。

この瞬間、現存するA級ジャンパーは全て見えるところに現れ、ボソンジャンプによる奇襲は事実上行えなくなってしまった。

「閣下、妖精の処遇なんですけど・・・どうしましょうか?」
風祭は上司が現れたので早速尋ねることにした。



ナデシコB・通路


ケンは医療室のすぐそこの角まで辿り着いた。
そして彼がそこに見たものは・・・

メグミがルリにナイフを突きつけて、アキトが東郷に組み敷かれていた。ユリカやサブロウタ、イネスがそれを遠巻きに見ていたが、ルリを人質に取られている事により手が出せないでいた。
その光景を見てケンには何が起こっているか全て了解した。

『メグミ・レイナードに気を許すな。
 何かあったら躊躇わずに殺せ!!!』
月臣の言葉がケンの胸によぎる。
傀儡に操られたメグミを止めるのは不可能だ。
幸い、彼ら全員の視線はアキトと東郷に注がれている。
ノーマークである今の自分のポジションならメグミを殺すことは可能だ。
そうすればルリはたぶん助けられる。

でも・・・

ケンは拳銃を引き抜いて構えようとするが、その拳銃が何十キロもあるかのように重く感じられた。

自分に撃てるのか?
どっちを選ばなければいけないのか?
ルリか?
メグミか?
なぜ選ばなければならない。メグミは操られているだけなのに。
でも撃たなければルリの命は奪われるかもしれない。
自分が、この手で?
また西條数馬の時のように何も選ばず、ただ誰かが手を汚してくれるのを待つのか?

銃を構えながらも、ケンの頭の中はそんな思いでグチャグチャになり、せっかくメグミを狙撃できる時間をみすみす見過ごしてしまった。

そして・・・・

「プレートさえあれば『MARTIAN SUCCESSOR』など恐れるに足らん。
 だが、電子の妖精はやっかいだ。
 殺せ!」
東郷の冷徹な決断は下された。

メグミの手が動こうとする。

しかし、
「止めるんだ、メグミちゃん!!!!!」
アキトは身動きの出来ない状態にも関わらずあらん限りの声で叫んだ。

その言葉が操られ、心の奥底に封じられたメグミの心に届いたのだろうか?

ピク・・・
一瞬メグミの手が止まった。

『最後のチャンスだ。
 今撃てば、ホシノ中佐を助けられる』
ケンはそう思った。
そして引き金さえ引けばそれは適ったはずだ。

だが、

『好きな女を殺すのか?俺と同じように・・・』
西條数馬の声で迷いという名の亡霊がケンの心に囁く。






・・・・だから彼はまた選べなかった。





「・・・・・・!!!!!!!」
喉の奥に熱いものが込み上げるのを感じる。
したたり落ちる鮮血

「ルリちゃん!!!!」
アキトやユリカの絶叫を聞き終わることなく、ルリは力無く崩れ落ちた。





ケンは瞳に映った映像が、胸にナイフが刺さったルリであることにようやく気づいた。
心臓を一突き。
それがどう意味をもたらすのか・・・





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ケンは絶叫した。
それが選ばなかった代償であるという事を後悔しながら。

See you next chapter...



ポストスプリクト


最初に言っておきます。
以前にも言いましたがラストは大円団にします。
それだけは信じて下さい(苦笑)

ってことでリベ2のChapter32をお送りしました。
ラストに関しては次回をお楽しみに♪としか言えません(笑)

それはともかく、メグミというキャラクターはかなり計算をして登場させたキャラです。
夢幻城編のここまではいかにメグミを動かそうか、そのために人の配置をしていったわけなんです。

ケンがメグミのファンになるなんてその好例でして、至る所でメグミを中心にストーリーを組み立てていたりします。
そういった意味でもう一度夢幻城編をここまで読み返していただければ、読み手にどう見えるかいろいろと心がけていたことがわかっていただけると思います。

ってことで黒プリ8話にかかりますが、次回も楽しみに待っていて下さい。
では!

Special Thanks!
・TARO 様