アバン


信じたくはありませんでした。
私達の仲間に内通者がいたなんて。

でもこれが戦争
当たり前の戦争

悲劇は静かに忍び寄る
それを回避する努力を怠れば否応なく現実のものとなる・・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ナデシコB・???


「はい、わかりました。そのようにいたします。
 必ずや、カザマツリ様のご期待にそえるように頑張りますので。
 大丈夫です。お任せ下さい♪」
その女性は暗闇の中、まるで人が変わったかのようにナデシコ艦隊の情報を漏洩するのであった・・・



ナデシコC・ルリ自室


「・・・・・・・・・・・ありがとう、オモイカネ。」
ルリは自室でくつろいでいたところ、オモイカネからの緊急のメールが届いたので慌てて読んだ。

どんな内容かといえば警告のメールである。

暗号化された通信が艦隊の中から発信された。
応答先は特定できない。現在ナデシコが把握している宇宙軍、統合軍その他民間の施設あるいは船舶のどのポイントでもない。

それの意味するところは・・・・

「内通者・・・・あまり考えたくない事実ですね」
ルリはため息を付く。
いくら事前に十分な身元調査をしているとはいえ、ナデシコは基本的に乗員を信頼していた。
個性的かつ強烈な才能による少数精鋭
ともすればバラバラになりがちな組織を互いの信頼関係というチームワークで高度に束ねているのがナデシコである。

しかし、今ここに内通者がいるという事実が明るみに出れば・・・

今までのように艦隊そのものが機能するだろうか?

「オモイカネ、ユリカさんを呼び出して下さい。」
ルリは物憂げに行動を開始した。



夢の続き


7つの封印が解かれ、天使が現われる。
最後の審判をもたらす為に。

天使のラッパと共に世界は業火で包まれた。
一面火の海に陥る。
それに巻き込まれるナデシコ
ルリ、そしてユリカの姿・・・

だが・・・

『お帰りなさい、我が子らよ』
それは懐かしい響きで俺を呼んだ・・・

「・・・・・・・・また夢か」
アキトはたっぷりと寝汗をかいて起きあがった。

嫌な夢
今度ははっきり覚えている。
あの城の夢。
これは予知夢なのか?

「黙示録か・・・」
夢に出てきた光景・・・それは新約聖書の中にあるヨハネの黙示録に似ていた。
神にも等しいその力で世界が蹂躙されるというのか?
なぜ?

「馬鹿馬鹿しい!ただの夢だ!!!」
アキトは腹立たしく叫ぶ。
そうだ、ただの思い過ごしだ。
火星の後継者達が残したマタイの一節から、死海文書にヒントがないか探していたのだが、思い詰めるあまり夢にまで出てきたようだ。

『そうに決まっている!』
アキトはそう思いこもうとした。
だが、それを反芻する間を与えることもなく、ルリから幹部を緊急召集する通信が入った。
まだ深夜にも関わらず・・・



Nadesico Second Revenge
Chapter30 ユダの刻印



ナデシコB・医療室


ここ医療室では夜も遅いというのに煌々と照明がつき、イネスがその机にかじりついていた
「イネスさん、どうです?解析の具合は?」
「五分前に答えた内容から変わってないわ。」
「そっか、残念だな〜〜
 んじゃ、お茶入れますんで、頑張って下さいね♪」
「はいはい・・・」
そう言ってルンルンで医療室の奥に引っ込んでいったのは当医療室の看護婦、メグミ・レイナードであった。
半ば押し掛けに近いこの看護婦のおかげで一時期医療室は大盛況!
おかげでイネスは暇なしだった。
しかし、先日ひょんな事からアキトの病状をメグミが知った日から状況は変わった。
メグミは野次馬根性でやってくる患者を丁重に断り始めたのだ。

全てはイネスに遺跡プレートを解析するための作業環境を整えるためである。
メグミはとても協力的にその作業を手伝った。

「だってアキトさんの病気を治すのは、アキトさん専属ナースのこの私の使命ですから♪」ってことらしい。
いつ専属になったかはよくわからないが(笑)

でもイネスに言わせると
「提督やルリちゃん以上に取り立ての厳しい編集者よ!!!!!!!!」
とのことだ。食事やお茶でさえ全て用意し、机から一歩も離さないつもりらしい。

イネスは今まるでホテルに缶詰にされた小説家のような状態にあったりする。

「イネスさん、夜食は何が良いですか♪」
『勘弁して・・・』
最近貧乏くじを引きっぱなしのイネスであった。



ナデシコC・提督執務室


そんなイネスののんきな状態を知ってか知らずか、深夜にも関わらずナデシコ艦隊の幹部達が深刻な打ち合わせが行っていた。
「な、内通者ですか!?」
一番驚いたのはナデシコBの艦長であるテンクウ・ケンであった。
ユリカやジュン、プロスにゴート、それにアキトとエリナも一様に驚いていた。

ルリ「そうです。発信源はナデシコBです」
ユリカ「場所は?」
ルリ「不明です。でもナデシコBの通信設備に精通していなければまず無理と思います」
ジュン「ってことは通信士?」
ルリ「だと思います。」

そこでケンは考え込んでしまう。
もし本当に内通者が出たのだとしたら明らかに自分の監督ミスだ。

ルリ「暗号の解読はオモイカネに処理させていますが・・・大して有益な情報は出てこないと思います。」
アキト「傍受されることを承知で通信しているんだ。内容そのものは挨拶程度。
 通信するという事象自身が大きな意味を持つということか・・・」
ルリ「ええ。こちらの場所を知らせるだけでも有効な手段です。」
早めに内通者を特定しなければナデシコ艦隊の位置は敵に筒抜けだ。
それ以上に内通者が存在する事実を武器に、いくらでもナデシコ艦隊の組織内部をかき回す事が出来る。諜報活動はキツネの化かし合いだからだ。

「やっかいな相手ですなぁ・・・」
プロスは溜め息をつくように言う。
わざわざ内通者の存在をバラすようなこの行動。
よっぽど内通者がバレる心配がないのか、
あるいはナデシコ内部の疑心暗鬼を誘うのが目的なのか
いずれにしても調査をしなければいけない。

「当時、艦隊内の人の移動は認められませんでした。間違いなく内通者はナデシコBに潜伏しています。ということで可能性のある人物をリストアップしてみました。
 主席通信士カザマツリ・コトネ軍曹
 次席通信士ミカ・ハッキネン軍曹
 ・・・・」
ルリは次々名前を読み上げる。
そして最後に一拍開けてから・・・

「医療室メグミ・レイナード・・・」
意外な人物の名前をあげた。
「る、ルリちゃん!まさかメグミさんまで疑ってるの!?」
ユリカが思わず叫ぶ。
もし恋愛感情で色眼鏡がかかっているなら問題だ。
でもルリは努めて冷静だった。
「可能性はあります。彼女はあれでもかつてはナデシコAの通信士だった人です。ナデシコAとナデシコBの通信装置に大きな違いがある訳じゃありません。彼女ならいくらでも実行できます。」
「でも・・・・」
「私だって信じたくありません。
 でもユリカさん、内通者がいる時点で既に予想外なんです。こういう時は全ての可能性を疑わなくては・・・」
ルリの言葉に一同は沈黙した。

重苦しい沈黙の後、最初に発言したのはアキトであった。
「よし、メグミちゃんは俺がマークしよう。テンクウ・ケン、お前はカザマツリ・コトネをマークしろ」
「ええ!?」
一同が驚く。特に女性陣が(苦笑)

エリナ「ドサクサに紛れて何を!!」
アキト「変な想像をやめろ!
 内通者に迂闊な行動を起こさせないためには始終接触しておいて行動を起こす隙を与えなければいい。
 俺達は彼女達に好意を持たれているから自然に接触できる。最適な人選だと思うが?」
ユリカ「それならあたしが・・・・・」
アキト「お前が始終ナデシコBにいるのは不自然だ。それに万が一彼女達が火星の後継者だった場合とても危険だ。
 北辰とは言わないがそれと匹敵する相手と対峙する覚悟がいる」
ジュン「そ、そんな・・・・」
アキト「平和ボケな考え方はやめろ。なるべく白兵戦に長けた者をブリッジや要所に配置しておけ。
 最悪ナデシコ艦内が戦場になる・・・・そのつもりで行動しろ。」

「わかりました。」
そう言ったのはルリ。
「アキトさん、テンクウ少佐、二人をお願いします。皆さんもそれぞれ容疑の方をマークして下さい。」
ルリが何を考えていたかはわからないが、努めて冷静に・・・しかし苦悩の表情でみんなに依頼をした。



ナデシコB・ブリッジ


「艦長♪コーヒーを入れました〜〜♪
 どうぞ、召し上がれ♪」
「ありがとう、コトネ君」
とケンは少女から渡されるコーヒーを受け取って口をつけた。

いつも自分を慕ってまとわりつくコトネ
その光景は普段と何ら変わらない。

しかし、アキトからは
「カザマツリ・コトネから目を離すな。彼女が一番怪しい」
と言明されていた。

『ひょっとしたら彼女が内通者なのか?』
そんな疑問がどうしても現実のものとは思えないケンであった。



ナデシコB・医療室


「あら、アキトさん♪」
「やぁ、メグミちゃん」
アキトを出迎えたのはやはりメグミであった。
「嬉しいな。ひょっとして私に会いに?」
「それもないことはないけど・・・イネスさんは?」
アキトは照れ隠しにイネスの姿を探す。

「・・・・・・・・なに?アキト君」
すると、奥からボロ雑巾のような物体が現れた。
イネスである。
さすがにさっきまで徹夜でプレートを解析させていた・・・とは言えないメグミであった。

「荒んでますね、イネスさん・・・」
「誰のせいで!・・・ってまぁいいわ。」
一瞬怒鳴りかけたが、その気力もないのか諦め、懐から一枚のメモ書きを取り出した。
「いいところに来たわね、アキトくん。これどういう風に読む?」
アキトはイネスから手渡されたメモ書きに目を通した。

『律法の文字・・・消え去ることはない。だから、これらの最も小さな掟を一つでも破り、そうするように人に教える者・・・・』
その言葉を読んでアキトは驚いた。それは火星の後継者が残した聖書、マタイの福音書の一節に酷似していたからだ。

「!!!
 こ、これはマタイ!?」
「そう思う?思うわよね・・・・」
「これは一体?」
「これの解析結果なの」
イネスがまた懐から取り出したのは小さなプレートだった。そうアキトにも見覚えのある・・・
「アイちゃんが古代火星人から貰ったプレートじゃないですか!」
「そう、これにアキト君のナノマシーンの治療方法でも載ってないかって解析してたのよ。んでデータはほぼ吸い上げて、後は提督とルリちゃんとオモイカネの力を借りて一気に解析するところまで漕ぎ着けたんだけど、その前にちょこっと試しに翻訳しようかなぁ〜とか思って適当なところを抜き出して訳したら・・・これだったのよ。」
「・・・・・・・・」
「どうしよう。全編ただの聖書だったら。
 ・・・まぁそれはそれで大発見なんだけど、期待したものと違うかも〜〜って思ったら一気に気が抜けちゃったわ・・・」
うなだれて・・・というか、徹夜明けの疲れが一気に吹き出したのか、荒み具合がいっそう激しくなったイネスであった。

「メグミちゃん、そういうわけだから私、仮眠取るわ。
 休診の札、出しといて〜〜」
「あ・・・・・・・・・・はい・・・」
有無を言わさず、夢遊病の様に立ち去るイネスをただ見送るしか出来ないメグミであった。

パタン!

イネスが退出した後、医療室にはアキトとメグミが取り残された。

あまりのことに惚けていたメグミであったが、考えてみれば二人っきりという構図に『ラッキー♪』と心の中で喜ぶのであった。

対するアキトは、先程のイネスの言葉を反芻して思考の海にどっぷり浸かっていた。
謎の城の夢
黙示録の夢
火星の後継者のアジトにあった聖書の詩編
そして遺跡のプレートに書かれた聖書の詩編
これらの符合は一体なんだろう?
火星の後継者の目的はあのプレートなのだろうか?

そんな考えに浸ってると

ガチャリ!!

ドアに鍵を締めた音がした事に意識を現実に戻されたアキトはふと自分の手に誰かの手が重ねられるのに気がついた。
「アキトさん、二人っきりですね♪」
「え?」

甘えた声で擦り寄ってくるメグミの雰囲気にアキトは貞操の危機を感じるのであった・・・。



ナデシコC・ブリッジ


周りの空気を2、3度下げてルリは自席に座る。さすがにミナトでも近づけないようだった。無謀にもご機嫌を取りに行ったのはユリカである。
「・・・・・・」
「ルリちゃん、大丈夫!二人とも浮気なんかしないから・・・」
「・・・・・・ギロ!」
「ひぇぇぇぇぇ!!!!!!!冗談です。
 すみません!!!!!!」
平謝りに謝るユリカ(笑)

「別に気にしてません」
全然気にしてなくはない。既に書類を書こうとしてボールペンを何本かへし折ってる。
「まぁまぁ、お茶でも飲んでリラックスして♪」
ユリカはお茶を差し出すが・・・
「おお、茶柱が立ってるよ?
 きっとアキトは大丈夫だよ♪」
とユリカが言い終える前に・・・
「あ、茶柱が沈みましたね・・・・」
「・・・・・・・・」
あたりに気まずい空気流れる。

凶兆はそれだけに止まらず・・・

プチン
「・・・・靴ひもが切れました」
「ってルリちゃん、この靴にはひもなんてないけど・・・」

ニャぁ〜〜
「黒猫が前をよぎりましたね」
「誰?戦艦で猫なんて飼ってるのは・・・」

グニャリ
「・・・犬の糞を踏んづけました。」
「運が向いてきて良いんじゃない?」
「・・・・・・・・・」
「ごめんなさい・・・・」

否が応でもアキトの身を心配せざるを得ない二人であった。



ナデシコB・医療室


抱き♪
「うわぁ!!」
メグミは勢いよくアキトに抱きついた。突然のことにアキトはメグミを受け止め損なってたたらを踏み、そのまま後ろのベットに倒れ込んでしまった。

ドサ!

ちょうどアキトがメグミに組み敷かれたような格好になる。
「マウントポジションと〜〜った♪」
メグミは嬉々として言う。
そして・・・・

チュ〜〜♪

上位を取ったことをよいことに、アキトに情熱的なキスをした。
『アキトくん、貞操のピ〜〜ンチ!!』と心の中で思ったかどうかはわからないが、アキトは努めて冷静にメグミをゆっくりと押し戻した。

「メグミちゃん、そういうことはやめてくれ・・・」
「あら、昔の奥さんへ操でもたててるんですか?」
あえてユリカのことを『昔の奥さん』という言い方をするメグミ。
「そういう訳じゃない」
「ならいいじゃないですか♪
 別に私は一夜のアバンチュールでもかまいませんよ?」
ぞくっとするほど色っぽいメグミの笑顔。
まるでドラマに出てくる誘惑する女そのものである。

でもアキトは・・・
「俺は誰ともそういう関係になるつもりはない。」
と拒絶する。
「病気のこと気にされてるんですか?」
「!?・・・・どうしてそれを知ってる!!」
「看護婦ですから。それに私はナノマシーンキャリアじゃないですから、アキトさんと一緒にいたって平気ですよ?」
「やめた方がいい。」
「『俺はもう君の好きだったテンカワ・アキトじゃない』・・・ですか?」
「・・・・・」
図星なのか沈黙するアキト。メグミはしてやったりと微笑み、そして言葉を続けた。

「私はナデシコA時代、自分の理想をアキトさんに当てはめていました。そしてその理想からはずれたら、恋が破れたと錯覚してしまいました。
 でもそれから数年、この恋を引きずって今ようやく気づいたんです。
 欲しいと思ったら自分や相手の気持ちにかまわずに手に入れないといけないんだ!って・・・」
メグミの瞳はぐいぐいとアキトの心の中に侵入しようとする。
闇の感情に囲まれたアキトの心の壁にかまうことなく
ユリカやルリが決して踏み込まず、ずっと待つことによって溶かそうとしたその壁をメグミは何の躊躇もなくえぐろうとしていた。

「・・・君の好きだったテンカワ・アキトは死んだ。その抜け殻みたいな男を愛して何が楽しい?」
「恋は理屈じゃないんですよ♪」
「昔の君はそうじゃなかった。憎しみに燃えた俺を嫌ったはずだ。」
「人の心は変わりますよ。
 確かに戦いは嫌いです。今も嫌いです。
 でも今のアキトさんは昔のアキトさんの延長上にいます。
 そして昔のアキトさんの心が今のアキトさんの心の一部に残っていると感じられれば、私はアキトさんに何時までも恋が出来ます。」
「昔の俺などどこにもいない」
「嘘ですよ♪じゃ、どうして私を拒絶するんですか?」
 私は遊びでも良いって言ってるんですよ♪」

どんどんアキトの心に侵入しようとするメグミ。
拒絶するアキト
しかし、アキトが拒絶する度にメグミの言葉はアキトの心に侵入する。
なぜって?
自分が嫌った今の心を彼女は肯定した。
彼女の肯定を否定するには自分をさらに否定しなければならない。
それは本当に自分が誰にも心を開けない理由をつまびらかにさらす行為に他ならなかった。

「奥さんの為?」
「違う」
「ルリちゃんの為?」
「違う」
「人と触れ合うのは嫌いですか?」
「ああ」
「じゃ、どうしてナデシコに乗ってるんですか?」
「復讐のためだ」
「もう草壁春樹はいませんよ?」
「火星の後継者はまだ残ってる」
「じゃぁ、倒したら私を受け入れてくれます?」
「・・・だめだ」
「どうしてです?誰も受け入れないのは復讐のためなんでしょ?」
「・・・・・・・俺と一緒にいたら不幸になる」
「うそですよ♪」

やがてそんな問いかけの果てに、アキトは押し黙る。
そして・・・

「・・・・」
「なんなら私の心の中を覗きます?」
メグミは手の中にあるナノマシーンの注射器をみせた。アキトは驚く。
「!?」
「アキトさんなら出来ますよ。
 アキトさんが本当に他人との接触を恐れているのは人の心を覗けるから。
 そして自分の心を他人に全てさらしてしまうから」

メグミはゆっくりと核心を突く。アキトすら認めないように努めていた事実を。

「カルテを読みました。
 スタンピードの影響でアキトさんはナノマシーンキャリアと心をつなげられるようになったって。
 本当は怖いんですよね?
 奥さんやルリちゃん、周りの人に疫病神だって思われていないかどうかって?」
「違う」
「本当は他人が自分をどう思っているか怖いんでしょ?」
「違う」
「自分の心の闇を知られたらどうしようって思ってるんでしょう?」
「違う」
「もし知られたら奥さん達はもう待ってくれないかもしれない。帰る拠り所さえなくなったらアキトさんは生きていけなくなる・・・」
「違う!!!!!」
アキトはたまらず叫んだ。

「俺のナノマシーンは誰にどんな影響を与えるかわからない!!
 交わりですら相手のDNAを書き換えかねない。
 だから誰とも交わらない。
 ただそれだけだ!!!」
「それならそれでいいですよ♪
 あなたの心の中にはまだ私の入る余地があるんですから♪」

否定の言葉とは裏腹に、メグミはアキトの本音を見たような気がした。
そしてメグミは嬉しそうにアキトの胸元に顔を埋めた。
優しくて、そして脆い、闇の王子という衣を纏っていなければ生きていけないほど傷ついたこの男へ愛しそうにすり寄るメグミ。
そんな彼女をアキトは抱きしめもせずぽつりと呟く。

「君は俺の知っているメグミちゃんじゃない。『君』は誰だ?」
「なにを言ってるんですか。私は『メグミ・レイナード』ですよ?
 人は変わります。
 この数年が今のアキトさんに変えたように、私だっていろいろあったんですよ♪」
アキトの問いかけにメグミは一瞬ぞくっとするほど妖艶な笑みを浮かべて答えた。

「悪い、気分が悪くなった。失礼させてもらう」
沈黙の後、アキトはメグミを払いのけるように起きあがると出口の方へ歩き出した。
「あら?アキトさん、ここは医療室ですよ。
 休んで行かれます?」
「結構だ」
メグミのジョークにも振り返らず、そのまま部屋を出ていった。

パタン!

ドアが閉まった後、メグミは妖艶に笑って呟いた。
「脈あり・・・・かな?ウフ♪」
服の乱れを直すその首筋になぜか妖しいタトゥーが光っていた・・・



ナデシコB・医療室前廊下


アキトが医療室を出ると、隠れそこなったルリとユリカがばつが悪そうに立っていた。
「ああ、やっほ〜〜アキト(汗)」
「・・・・・アキトさん」
「・・・・・」

「イネスさんのプレートの解析が進んでるかな〜〜と思って尋ねてきたんだけど・・・
 決してアキトを信用できなくて調べに来たんじゃないんだよ(汗)
 ねぇルリちゃん?」
「・・・・ええ」
しどろもどろに答える二人。
そんな二人を見てアキトはただ一言だけ答えた。
「お前達が心配するような事は何もしてない。」
「うん、わかってるよ。私達はアキトを信用してるから・・・・」
「ならいい」

それだけ言うとアキトはユリカ達のセリフを聞かずにさっさと立ち去ってしまった。

「本当に立ち聞きなんてしてないからね・・・・」
「・・・・・・・・」
ユリカのジョークにも無反応のルリ。
とても痛々しい表情で立ちすくむ二人であった・・・。



ナデシコB・イネス・フレサンジュの自室


『ただいま睡眠中。邪魔するとなぜなにナデシコ24時間マラソン講演会を耳元で実施しますのでそのつもりで』
とのドアプレートがぶら下がっていた。

「帰る?」
「ええ・・・」
ユリカ達は仕方がないので、おとなしく帰るのであった。



ナデシコB・医療室


しかし、その8時間後、今度はそのイネスによって強制的に呼び出されることになった。
ユリカやルリはもちろん、アキトとメグミ、それになぜかケンとコトネもいる。
「艦長、せっかく私達も関わったんだし、知りたくありません?」
「あは、ははは・・・」
とコトネに引っ張られて愛想笑いをするケン。コトネの見張りをするとこうなるのだが、ルリの視線がなぜか痛いケンであった。
そしてアキトとメグミの関係も怪しい。アキトはメグミを避けようとしているのに対し、メグミは意に介していない。

そんな複雑な空気を察しないほど興奮しているのか、イネスは全員が集まったのを見計らって待ちきれなかったように解説しだした。

「みんなに集まってもらったのは他でもない。このプレートでおもしろい文章が翻訳できたの。」
「え?」
「この前は適当なところを読み出して失敗したんで、今回は一番最初のところを読もうと思ったの。取扱説明書でも小説でも『はじめに』の部分でその書物の一番大事なことがかいてるでしょ?」
「それって常識でしょ?」
「イネスさんってマニュアル読まなそうだし・・・」
イネスの前置きにルリとユリカがツッコミをいれる。

「そこ、うるさい!!
 これが結構重要な内容だと思うんだけど、私の訳が正しいかどうかわからないので正確を期すために提督に読んで欲しいの。
 んでその内容の感想をみんなに聞きたいの。」
「いいですよ。」
そういってイネスに差し出されたメモ書きをユリカは受け取る。

しばし眺めた後・・・・

「『我らが遺産の封印を解きし者に告ぐ。
 我らは時間の狭間で放浪している汝らの同胞を保護した。』」

「放浪者って・・・アイちゃんのことですよね?」
「し!静かに」
メグミの疑問にイネスは口に手を当てて制した。

「『故にこのメッセージを放浪者に託し、汝らに警告する。
 汝らは現在不安定なボソンジャンプを行っている。
 このままではタイムクラッシュが起こりかねない。
 速やかにこのプレートを以て夢幻城を解放せよ。
 願わくば汝らがこのプレートを理解できるだけの文明を持つことを祈る』
 ・・・ですって」
ユリカは衝撃の事実を戸惑いながらも読み上げ、一同はそれを固唾を呑んで聞き入った。

だが本当に驚くのはこれからだった。

ピカ!!!!

イネスの持っていたプレートが光り出したのだ!!!!!!!
「なにこれ!?」
「イネスさん、文字が!!」
ルリが叫ぶ。確かにプレートの表面に文字が現れた。

「ええっと、『受諾した。封印を解くことを許可する』・・・だって」
ユリカが読み上げた。

イネス「そうか!このプレートを正しく読むことが出来たから、認められたんだわ♪
ユリカ「でも封印ってなに?」
ルリ「この夢幻城ってやつじゃないんですか?」
メグミ「でもそれってどこにあるんですか?」
コトネ「城って言うぐらいだからヨーロッパとか。」
ケン「でもそれが古代火星人の遺跡と何の関係が・・・」

「もしかしてあの夢に出てくる『城』がそうなのかもしれない・・・・」
アキトがぽつりとそう言う。
「え!?なになに!!!」
イネスはアキトに飛びついて必死に尋ねた。
「いや、大したことじゃない。
 ただ最近宇宙に浮かぶ城の夢をよく見るだけだ・・・」
「きっとそれよ!A級ジャンパーなら古代火星人の残した遺産と共鳴してもおかしくないわ!」
「んで、アキト。それどこにあるの?」
「知らん!!」
群がるイネスやユリカを払いのけるように言うアキト。
確かに夢に見ただけでどこにあるかまではわからないだろう。

「ともかく、このプレートを解析すれば細かいことはわかるんじゃないですか?」
そのルリの一言で落ち着く一同であった。



ナデシコB・???


内通者はまた闇に紛れて行動を起こす。
今日手に入れた新たな情報を主人に伝えるために。
「もしもし・・・・
 はい、私です。
 ええ、見つけました。実は・・・」

ガチャ!

喜々として言う内通者の声がそこで止まった。
なぜなら後頭部に銃を突きつけられたからだ。

「何もしゃべるな。おとなしく手を挙げろ」
その声に内通者は静かに両手を挙げた。

「やっぱりメグミちゃんかカザマツリ・コトネかのどちらかだと思った。」
冷たい声で内通者に話しかけるのはテンカワ・アキトであった。
アキトは愛用のリボルバーを内通者の後頭部に突きつけたままそう言う。

「遺跡関係のネタだ。必ず焦って火星の後継者達に連絡すると思っていた。」
「何の事です?」
女性は努めて冷静にアキトの言葉を受け流そうとした。
しかし、アキトはそれを許さない。

「反論は後で聞く。
 ルリちゃん、まだ回線は開いてるな?
 追えるか?」
『やってみます』
サウンドオンリーのウインドウが開いてルリがそう答えた。

「さぁ、おとなしくこちらに振り向いてもらおう」
その女性はアキトに向き直った。
「やはり君が『ユダ』だったか・・・・」
「うふ♪」
彼女は笑った。決して悪びれた様子もなく・・・



火星の後継者・旗艦ゆめみづき


「バレたか?」
「そのようです。申し訳ありません。」
「いい。黒百合を騙せるわけもないだろう。」
「恐縮です」
風祭は恐縮するように東郷に謝った。だが、東郷は意に介する風でもない。

「まぁいい。
 『フェイスレス』の技が確かならまだ使いみちはある・・・
 そうだな?」
「は!」
「それよりも・・・・六人衆の奴らは?」
「既に行動を起こしております。黒百合を伐って北辰の仇を取ると息巻いております。」
「いい囮になってくれよう。俺達も後れを取るわけにはいくまい。
 『お姫様』は目を覚ました。
 『お姫様』を救い出し、その口づけを以って『王子様』の目を覚まさせる。
 古代火星人の英知は我らの手に!!!」
「はは!!!」

東郷の号令以下、風祭を含む東郷の親衛隊が現われた。

数時間後、ナデシコは戦場になる・・・。

See you next chapter...



ポストスプリクト


さぁ、『ユダ』は誰でしょう?(爆)
ここまで書いて彼女じゃなければ石投げられるな(汗)

ってことでリベ2のChapter30をお送りしました。
さていよいよ物語はクライマックスへと突入します!
アキトの心の問題だとか、遺跡のプレートの謎だとか、内通者の問題だとか全てはラストに向かって収束していきます。

ハラハラドキドキ
でもラストは大円団を目指して
出来ましたら最後までお付き合いのほどを!

では!

Special Thanks!
・ぺろぺろ 様
・玲 様
・ふぇるみおん様