アバン


家族が家族である理由
それはほんの些細なモノ
一緒に暮らしたいという純粋な動機
そしてそれを続ける不断の努力
絆はそこからしか生まれないから・・・

それはともかく、メグミさんが戻ってきてからはまるでナデシコA時代に戻ったようだった。つかの間の時だったけど、私達は浮かれ、はしゃいでいた。
あのかけがえのない時間がもう一度始まるものと思っていた。

でも私達は後で気づく。
それが開幕のベルではなく
終幕のベルであるという事を・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



夢の続き


何時からだろう、その夢を見始めたのは?
何か無気味な『宇宙に浮かぶ城』の夢

何時からだろう、それが段々鮮明な形を成して俺の夢に現れたのは?

それはまるで懐かしい声で戻ってこいと俺にささやく
しかし、手を伸ばそうとすると決まってそれは禍禍しい気配を発して俺を拒絶した。
そしてなぜか大切な人の惨劇がダブる。

「ユリカ!ルリちゃん!!!!」
「どうしたの?アキト。」
アキトはユーチャリスのベットで目を覚ます。びっくりしたようにラピスがのぞき込んでいた。

「・・・・なんでもない。」
何でもないことはない。寝汗でシーツがぐっしょりだ。
「悪い夢でも見た?」
「そういう訳じゃない・・・」
『あら、もうホームシック?それとも奥さんの温もりが恋しいのかしら?』
「茶化すな、エリナ!」
ウインドウ越しにイヤミを言ったエリナを牽制するアキト。
まぁエリナの気持ちも分からなくはない。

せっかくユーチャリスにて自分とアキト(とおまけでラピス)で単独行動しているのに、寝言まで奥さん達の名前を呼ばれては女としての自分が立つ瀬ない。

「・・・・みろ、何の夢を見たか忘れたじゃないか!」
アキトにとっては茶化されたことよりそちらの方への苛立ちが大きい。
重要なことだったのだ。あの城の夢は。

でも真面目にブリッジで操舵していたエリナはそんなことお構いなしに現状を告げる。
『そんなことより、もうすぐよ?
 東郷のアジトだったところは』
エリナの言葉でアキトは外の景色を眺める。

死海・・・・
キリスト教・・・いや、もっと言えばその祖ユダヤ教のエッセネ派に関する数多くの写本「死海文書」と呼ばれるモノが発見されたところだ。
その写本の多くはタブーとされ、教会関係者に長く隠蔽され、今なお隠された文章も多いと聞く。

彼らが、なぜこんなところにアジトを構えたのだろう?
「東郷は俺達の知らない何かを元に動いてるんだ。何かを元に・・・」
アキトがここを訪れたのはそれを知るためだった・・・。



ナデシコB・医療室


イネス・フレサンジュはウンザリしていた。

「はーい、お注射しちゃいま〜〜す」
看護婦のメグミがいる。まぁこれは当たり前であろう。
しかし・・・

「お願いします♪」
ナデシコB艦長テンクウ・ケンがニコニコしながら注射を打たれていた。
悪いところなどどこにもないのだが、ナナコさんの大ファンである彼にとってその声優であるメグミのそばにいるという事は針ありの注射を打たれる苦痛よりも価値のあることのようだ。
これだけなら何となく微笑ましいで終わらせてもいいかな?という気はする。

しかし・・・

「ガルルルル・・・」
二人の様子をテーブルにかじりつきながら睨み付けるカザマツリ・コトネの姿がそこにあった。
無論、メグミとケンの関係が進展しないかどうか見張るためだ。
それだけなら、ナデシコBも暇なのね、と苦笑するだけで済むかもしれない。

でも、もっとしかし・・・

「ピク!」
ルリのこめかみあたりの青筋の動くたびに周りの温度が1〜2度下がる。
本人は『早くプレートの解析をしたいからメグミさんやコトネさんがいなくなるように努力しているんですが・・・』と誤魔化しているが、明らかにメグミがアキトやケンに手を出さないかどうかの監視であろう。

ナデシコ艦隊も長くないかもしれない・・・

そんなみんなの意見を代表するような感想を持ち続けて針の筵のような環境にいるのがこの部屋の主イネス・フレサンジュである。
『勘弁して・・・・』
そんなイネスの思いもラブ大戦勃発中の彼女らに通じるはずもなかった。



Nadesico Second Revenge
Chapter29 そして終局の幕は上がる



死海・東郷のアジト


「何にもない・・・」
ぽつりとラピスが言う。
確かにそこには東郷達がいた形跡はなかった。だが、アジトを引き払っておきながら証拠を残すヘマをするはずもない。来る前からわかっていたことだ。
「で、こんなところに何があるの?」
エリナも不満げに呟く。
証拠でも見つかるならまだしも、このままではほとんど無駄足だ。

しかしそれを否定するようにアキトは言う。
「・・・・そうでもない。
 諜報にはいろんな方法がある。
 例えば証拠の隠滅。でもそれには限界がある。
 隠滅が無理ならあえてミスリードを誘う情報を混ぜる。
 ほいほい証拠の残っている方がかえって危ない。」
「ふ〜ん、そんなものかですかねぇ?」
東郷達と生き馬の目を抜くような駆け引きをしてきたアキトと違い、素人のエリナは関心なさげに呟く。
「第一、アジトの軌跡をなぞるだけでも十分な情報になり得る。奴らが何を考え、何を求めていたのか、それを知る手がかりに・・・」
アキトはいっぱしの諜報部員のように講釈をたれるが、そんなものエリナがまともに聞きたがるはずもなかった。
既に物証もないので興味を失い、コミュニケを開いてネルガル発行最新ニュースのメールマガジンを読み出した。しかし、アキトはまだ知的考察を進めていた。

「死海だけじゃない。
 あいつのアジトはヨーロッパ全域、それも遺跡、神話、伝承、そういったモノにまつわる場所に多い。
 でもなぜそんなところにわざわざ?
 もっと利便の良いところはいくらでもあるだろうに・・・
 なぜだ?」
「アキト、ここ。」
「なんだ、ラピス?」
ラピスの手招きする場所に近づいてのぞき込む。
壁の落書きである。

ラピス「『すべてのことが実現し、天地が消えうせるまで、律法の文字から一字一句も消え去ることはない。だから、これらの最も小さな掟を一つでも破り、そうするように人に教える者は、天の国で最も小さき者と呼ばれる』・・・なにこれ?」
アキト「マタイか・・・・新約聖書の一節だな」
ラピス「どういう意味?」
アキト「分かり易く言えば、律法は絶対に守らなければいけないっていう意味だ。」
ラピス「律法?なんの決り?」
アキト「さぁ・・・」
『でも奴らはなぜあえてこんな詩編を残しておいたんだ?』
アキトは思考の海に漬かろうとしていた。
しかし・・・

「へぇ〜〜メグミさんってナデシコに戻ったんだ!?」

ガク!!!!

せっかく盛り上げているところをエリナは素っ頓狂な声を出してぶち壊した。
「・・・・・キャリアウーマンに見えたが、人並みの女性のように芸能ネタが好きみたいで安心した。」
アキトはジト目でエリナに嫌味を言う。
「何言ってるのよ!あのホシノ・ルリの鉄壁を突破したって感心してるのよ?
 ナデシコの人事を心配して何が悪いの?」
「いや、そうは言ってないが・・・」
「だいたい、誰かさんが副提督のくせに作戦会議にも出ないものだから、あたしがどれだけ・・・・・」
「悪かった・・・」
グチグチ言うので素直に謝るアキト。

「それにしても異常な盛り上がりね、メグミさんのブームは。
 劇場版ゲキガンガーがヒットしたからとはいえ・・・・
 あらやだ。この企画、うちの系列だったっけ?」
「なに?」
「ブルーエンターテイメント・・・・
 確か火星会戦当時はなかったはずだけど・・・いつの間に出来たの?」
エリナは記憶をたぐる。
昔エリナがメグミを監視するときに使ったネルガル系の芸能プロダクションはそんな名前ではなかった。

はて?

「みせて見ろ。」
アキトはエリナにデータを要求した。彼女はアキトのコミュニケにデータを転送する。
「プロデューサー、カザマツリ・サカキか・・・
 ラピス、こいつの素性を洗ってくれ。」
「わかった。」
「ちょっと、なんなのよ!」
ラピスが早速作業に取りかかる中、アキトの考えがわからずエリナは戸惑いながら尋ねた。



???


そこはどこかの一室。
しかしどう見ても会社のオフィスとは言えない雰囲気の部屋にある男が入ってきて、室内の上司に挨拶した。
「ただいま帰りました。『社長』」
「早かったな。」
上司は椅子に座ったまま、背を向けて答えた。
ただそれだけなのに心を見透かされるような威圧感が恐ろしかった。

「すみません。電子の妖精にそうそうに叩き出されましたので。」
「で、どうだ?会えたか?」
「いえ、ガードが堅くて・・・」
その男はなるべく上司の機嫌を損ねないように報告する。
「まぁいい。視聴率は上々だ。
 あれだけ大騒ぎした方が奴らの警戒心もほぐれていいだろう」
「恐縮です」
「それより・・・・」
上司は背を向けた椅子を回してその男の方を振り向いた。

その顔を知っている者がいればさぞかし驚いたであろう。
精悍な顔
威圧するような巨躯
そしてなによりその制服・・・
芸能企画会社の社長にはほど遠い姿・・・

「いい加減その背広を脱いだらどうだ?
 暑苦しいだろ?」
「これでも気に入ってるんですよ。
 『カザマツリ・サカキ』という顔は・・・」
その男はにっこりと笑う。
「種は全て蒔き終わったんだろ?
 ならいい加減、俺の副官に戻ってくれ、フェイスレス。
 仕事が貯まってるんだ。」
「はい♪」
フェイスレス【顔のない男】と呼ばれた青年はあの温厚な敏腕プロデューサーから忠実な軍人の顔へと戻った・・・。



再び死海・東郷のアジト


しばし後、ラピスは引き出した情報を眺めてアキトに報告した。
「・・・・特におかしいところはない。
 ナデシコB通信士カザマツリ・コトネの兄。
 数々の芸能企画を手がけている。
 見る?」
「ああ」
アキトはデータを受け取って眺めだした。

「・・・・」
「どうしたの、アキト君?」
「見てみろ」
アキトは読み終わるとそれをエリナに見せた。
ブルーエンターテイメントでカザマツリ・サカキなる人物が手がけた企画の収支を示した帳簿だ。
「・・・別に普通の帳簿じゃないの。これのどこがおかしいの?」
「典型的なペーパーカンパニーだ」
「ええ!?」
きちんと採算の取れた収益が入っている。定期的な金銭の入出がある。
むしろ優良企業といっていい。
だが、アキトはさらに説明した。

「帳簿がきれいすぎる。
 この手の企画はどんなに頑張ったってトラブルが付きまとう。予定外の出費も当然出てくる。むしろ赤字なのが普通だ。
 なのに計画したとおりの予算で計画通りに支出している・・・
 どう考えても不自然すぎる。」
「でも・・・」
「人一人の痕跡を作る事なんてどうってことない。
 例えば誰か架空の人間を入社したことにする。
 別の誰かが毎朝タイムカードを押す。
 上司はそいつの成績査定をでっち上げる。別の人間の成果を振り分けてもいい。
 銀行には給料が振り込まれ、誰かがそれをひき落とせば経済活動をしているように見える。
 それだけで居もしない人間の生存の痕跡が残せる。
 どうせ人はその痕跡というデータしか見やしない。そのデータに不備が無ければみんな信用するさ。」
「まさか、企業レベルで・・・」
「エリナ、お前も会長秘書のくせに、そんなことも知らないのか?
 アカツキだってそのくらいいくつか持ってるぞ?
 第一、ユーチャリスの建造費がどこから出てると思ってる?」
残念だが、黒百合の活動が表世界に公表出来ない以上、こういう後ろ暗い方法で資金を捻出するしかないのだ。それが現実だ。

「どうする?ナデシコに戻ったほうがいいか?
 先にカザマツリという男を追うか?」
アキトは臍を噛んだ。カザマツリがナデシコ艦隊に何か仕掛けたに違いない。
しかしカザマツリそのものを放っておいたら次にどういう行動に出るか・・・
「じゃ、カザマツリは俺が追おう」
そう声をかけて入り口から入ってきたのは月臣元一朗であった・・・。



ナデシコB・医療室


「じゃぁ、あがりま〜す〜♪」
「はいはい、また明日・・・」
着替えたメグミが医療室を辞したのを苦笑いで見送るイネス。

今日も一日よく働いた。
ほとんどの客がメグミ目当ての冷やかしであるが・・・。

肩を叩きながら思わずため息をつくイネス。
「本当に毎日こうだと体に応えるわねぇ・・・」

年ですからねぇ・・・

「うるさいわね、ほっといて!!!」

すみません。

「それにしても、解析が進みゃしない・・・」
医療室に誰もいなくなったのを確認して、イネスはプレートの解析資料を机に広げた。メグミの騒ぎで当初の目標よりも解析作業がだいぶ遅れていた。

メグミやコトネ達がいるのでおおっぴらに解析作業が出来なかったのだが、なんとか合間を見て細々と続けてようやく何とか形になりそうだ。
おかげで肌が荒れること、荒れること

「まだそんな年じゃないわよぉぉぉぉ!!!」

そういうことにしておきます。

「とりあえずデータは吸い上げがもうちょっとね・・・
 そろそろ提督にめぼしい単語をインプットしてもらう作業に入って
 もう少ししたらルリちゃんにオモイカネで一括処理してもらえる体勢を整えられそ・・・」
「なにがです?」

ドキィィィィィ!!!!!!!!!!

黄色い声に心臓が飛び上がらんばかりに驚くイネス。
恐る恐る振り返るイネス。
ギギギギギ・・・と音を立てながら振り返る先にいたのは、さっきアップしたばかりのメグミと、それを監視しているコトネ、さらにその二人を阻止し損なって敗北の顔をしているルリであった。
イネス「あ、ああああああ」
メグミ「あなた達?」
イネス「が、なんでここに・・・」
メグミ「いえ、ちょっと忘れ物を・・・」
イネス「あはははは・・・じゃぁ持ってかえって」
メグミ「ええ・・・」
イネスは必死で後ろ手に資料を隠すが・・・

「なんですか、これ?」

ドキィィィィィ!!!!!!!!!!

いつの間にかイネスの後ろに回り、隠していた資料を覗き見るコトネ。
『お前は忍者か!!!!』と叫びそうになるのを寸前でこらえるイネスだが、そんなことお構いなしに唯我独尊娘はそれをジロジロ眺め始めた。

イネス「こ、これって・・・?」
コトネ「ですから、この訳の分からない記号の固まりは何ですか?」

ドキィィィィィ!!!!!!!!!!

「な、何でもないのよ、何でも・・・」
必死で誤魔化そうとするイネスであるが、それで乙女の好奇心が静まるはずもなく・・・

コトネ「ひょっとして宝のありかですか?」
イネス「ち、ちち違うわよ!」
ルリ「そ、そうですよ。これは新薬の研究資料で・・・」
コトネ「ってなんでそこで副提督が答えるんですか?」
ルリ「い、いや・・・別にこれといって理由は・・・」
メグミ「医療用のデータにこんなのありましたっけ?」

ドキィィィィィ!!!!!!!!!!(ダブル!)

メグミ「なんか隠してません?」
イネス「そ、そそんなことないわよ?」
コトネ「マジマジ・・・なんか怪しい・・・」
ルリ「怪しくなんかないですよ・・・」

その後、30分以上も二人はメグミとコトネに睨まれた。
その時の二人の様子はまるで鏡の前で脂汗をかくガマガエルの様であった・・・らしい。



しばし後のナデシコB・医療室


「ええ〜〜〜!!あの時のプレートの解析なんですか?」
「なにそれ?」
コトネは訳が分かっていないようだが、メグミにはわかった。

「それってまだ解析されてなかったんですか?」
「メグミちゃん、提督も同じ事言ってたわよ・・・」
ユリカと同じ反応に辟易するイネス。

「でも今更何のために・・・・」
「まぁ、話せば長くなりまして・・・」
イネスはルリにどこまで話して良いのか目でサインを送ったが、ルリは『絶対ダメ!!!』ってな感じで睨み返した。
「実は私が古代火星人の人達からどんな理由でプレートを託されたのかな〜〜と思って・・・」
何とか誤魔化そうとするイネス。
しかし、誤魔化そうとすればするほど、泥沼にはまるのが今のイネス達。

「イネスさ〜〜ん♪アキトの病気を直す方法、わかりましたか?」
ユリカが思いっきり大きい声で部屋に入ってきた。
イネスとルリが床に手をついて脱力したのは言うまでもなかった・・・。

「アキトさん・・・」
「あ、アキト君、今風邪なのよ♪」
「そうそう風邪、風邪なんです!」
イネスとルリが必死に誤魔化そうとするが・・・
「アキトさん、ナノマシーンの異常なんですよね?」
「そう、異常・・・・へ?」
メグミはあっさり言い当てられて呆けるイネス。

「め、メグミちゃん・・・なんで・・・」
「だって、イネスさんの机の上にカルテがありましたよ?
 散らかってたんで片づけたんですけど・・・」
「カルテったってドイツ語で・・・」
「読めますよ。これでも准看護婦ですよ?」
そう言うメグミにイネスら三人は声をなくした・・・。

その後、
「イネスさん、何で大事なカルテをそこらへんに置いておいたんですか!!不用心な!!!」
「そういうルリちゃんだってなんでメグミちゃんとコトネちゃんを阻止してくれなかったの!!」
「まぁまぁ、お二人とも仲良く・・・」
「「って、そもそもあんたがメグミさん(ちゃん)を看護婦に採用したからこんな事になったんでしょうがぁぁぁぁ!!!!!」」
「ふぇぇぇ〜〜姑と小姑が苛めるよ〜〜」
「誰が姑よ!!!」
「誰が小姑なんですか!!!」

ってな具合に責任の擦り付け合いが勃発するのであった。



さらに数刻後のナデシコB・医療室


「不毛な争いはやめましょう・・・」
「「そうね・・・」」
戦い疲れた三人が終結宣言をする。

それを見計らったようにメグミは三人にこう宣言した。
「やっとわかりました。
 私がナデシコに戻ってきた理由が♪」
「「「はい?」」」
「私が戻ってきたのはアキトさんの病気を治すためだったんです!!!」
握り拳を振りかざして宣言するメグミに呆気にとられる三人。

ルリ「どうしてそうなるんですか!?」
メグミ「胸騒ぎがしたんですよ。どうしてもナデシコに戻ってこなければって。
 それはアキトさんを看護するためだったんですね。うっとり♪」
ユリカ「いや、それは気のせいかと・・・」
メグミ「いえ、そんなことありません!!
 その証拠に私はIFSキャリアじゃないので何の障害もなくアキトさんを看護できます!!」
イネス「・・・・おい、なんでそうなる」
メグミ「だってイネスさんも提督もA級ジャンパーですし、ルリちゃんもB級ジャンパーでしょ?」
コトネ「それはそうですけど、ユーチャリスにはエリナさんだって・・・」
メグミ「エリナさん、看護免許持ってないじゃないですか。
 これからは愛情だけじゃなく医療知識をしっかり持った人が看護しないと♪」

既に自分の運命的な使命に浸りきっているメグミを誰も押さえられなかった。

ユリカ、ルリ、イネス、そしてついでにコトネはアキトが戻る前にメグミを追い出そうと心に固く誓うのであった。
でも、運命ドツボにはまるときにはとことんはまるもので・・・

「ただいま」
ドアを開けて入ってきたのはテンカワ・アキトであった。
「アキトさ〜〜ん」
さすがにこのタイミングで帰ってきて欲しくなかった三人+1が呆気にとられているうちに、メグミはアキトに抱きついた。
「あれ?メグミちゃん・・・」
「お久しぶりです♪」
「その格好、ひょっとして・・・」
「そうなんです。看護婦なんですよ♪
 似合います?」
「ああ、似合うよ」

『「似合うよ」なんて言ってる場合じゃないでしょうが!!!!』
ルリやユリカ、イネスの心の絶叫を知らずか、アキトとメグミはなにやらいい雰囲気を醸し出していたりする・・・。

ギン!!!!

殺気が三ヶ所から膨れ上がるが、メグミは意に介するふうでもなくアキトにイチャついた。
アキトは殺気をなるべく無視するように努めながら、密かにカザマツリ・コトネを視界の端に入れた。彼女をそれとなく監視しながら、帰ってくる前に月臣から聞かされた話を思い出していた。



回想・死海・東郷のアジト


突然現れた月臣にアキトは驚いたように声をかけた。
「月臣・・・・どうしてここに?」
「同じだよ。こちらもカザマツリという人物に行き当たった。
 いくらネルガルとはいえ末端まで目が行き届いているわけじゃない・・・ってことだ。」
「灯台下暗しか。
 なるほど、東郷の地球での基盤は結構広いということか・・・」
「そこだ。たかが数年でなぜあいつらがこれほど地球に浸透できたのか。
 それを調べていて気になる情報が引っかかった。」
「・・・なにがだ?」
「フェイスレス・・・顔のない男と呼ばれている。
 誰に聞いてもその男の存在を知っているが、じゃあどんな男だと問うと誰も詳しくは話せない。特徴もなく、いつの間にか周りに違和感無く溶け込んでいる。」
「・・・それがカザマツリ・サカキというわけか」
「それはどうかはわからない。だが、その男がナデシコに乗り込んだとしたら、ナデシコに何を仕掛けたかわからん。
 ナデシコは確かに最強の艦隊だ。だが、それは戦力で雌雄を決してのこと。
 東郷達、諜報戦のスペシャリストを相手にして持ちこたえられるか・・・」
月臣は溜息をつくように言う。

アキト「カザマツリの妹がナデシコBに乗っている。彼女も火星の後継者か?」
月臣「いや、戸籍はちゃんとしている。曲がりなりにも宇宙軍が入隊時に行う身辺調査もパスしているはずだ。それはカザマツリ本人も同様だ。」
アキト「どういうことだ?」
月臣「だから俺達も今まで確証を持てないでいたのさ。どういうからくりを使っているかわからないが、それがフェイスレスたる所以さ。」
アキト「・・・・」
月臣「こちらでも引き続きカザマツリを追うが、お前もナデシコでは注意深く事に当たってくれ。」
アキト「ああ・・・」
アキトは厄介な相手に双眸を険しくするのであった。



回想後、ナデシコB・医療室


「やぁテンカワさん。帰ってきてたんですか?」
ほとんど修羅場と化しそうな医療室にわざわざ火に油を注ぎに来たのはテンクウ・ケンであった。わざわざこんなところに来る理由など一つしかないのだが。

「テンクウ・ケン・・・さすがだな。既に彼女に目を付けていたのか・・・」
アキトが感心したように言ったが・・・
「何のことです?」
「・・・は?」
なかなか見れない闇の王子様の呆けた顔。

メグミ「艦長、もう今日の診察は終わりましたよ?」
ケン「いやぁ、絆創膏がはがれちゃいまして」
メグミ「仕方ないですね。じゃ、特別ですよ♪
 張り直しますからこちらに来て下さい♪」
ケン「はーい」
コトネ「絆創膏はりなら私がしますわ、艦長♪」
メグミ「いえいえ、患者さんの面倒を見るのは看護婦の役目ですから」
コトネ「いえいえ、ウチの艦長は私が面倒を見ますから」

ピク!!!!!

ユリカ「・・・・ルリちゃん、我慢しないで、あの二人に混ざってくれば?」
ルリ「・・・・ギロリ!!!」
ユリカ「ひぃぃぃぃ」
ルリ「何か言いましたか?」
ユリカ「いいえ、別に・・・」
今の一睨みでルリの周囲の温度が2、3度下がったと感じるのは気のせいだろうか?

そんな光景をアキトは閉口して、
『しかし本当にカザマツリ・コトネは火星の後継者なのか?
 とてもそうは思えないが・・・』
と自分の心配が杞憂ではなかったのか?という思いが胸をよぎった。

しかし、もしフェイスレスという男がナデシコに何らかのアクションを起こしているのなら、この何気ない光景も彼の差し金なのかもしれない。
そう考えると油断は出来ないのだが、この微笑ましい(?)光景が真実ならこのまま何事もなく続いて欲しいとも思うのであった。



火星の後継者・旗艦ゆめみづき


しかし、アキトの思いとは裏腹にカザマツリの、いやフェイスレス・・・風祭の策謀は動き始めていた。
「はい、カザマツリです。ああ、早かったね。」
風祭はサウンドオンリーの通信を受けた。
秘匿通信で、発信先はナデシコBからであった。

「で、どう?対象には接触できた?
 そう、おめでとう。
 くれぐれもそれとな〜くでいいからね♪」
風祭はうれしそうに顔の見えない相手と話をしていた。



ナデシコB・???


「はい、わかりました。そのように致します。
 必ずや、カザマツリ様のご期待にそえるように頑張りますので。
 大丈夫です。お任せ下さい♪」
その女性は暗闇の中、まるで人が変わったかのようにナデシコ艦隊の情報を漏洩するのであった・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


ってことでリベ2のChapter29をお送りしました。
やっとアキト君、主人公らしい活躍(?)をしてくれてお父さんは嬉しいよ〜〜

コホン!
そんな冗談はともかく、終盤はインドア戦がメインになります。
そういう意味で言うと一風変わったナデシコになるのではないか?などと思ってみたりもします。
さすがに最終兵器メグミを投入したこともあり、まぁ今までの予定調和を崩す崩す。どんどんアキト→ユリカ→ルリラインを破壊していって欲しいです(笑)
黒プリでメグミが奥さん'sに名前を連ねている意味をお忘れなく(爆)

とまぁストーリーに踏み込まない、どうでも良いようなお話でお茶を濁しておりますが、ネタバレになるので話すに話せず。でも飽きさせないお話を盛り込む予定ですのでどうぞお楽しみに。

たぶんあと5話程度ですが、よろしくお願いします。

では!

Special Thanks!
・TARO様
・SOUYA 様