アバン


痛い目を見たにも関わらず、結局ナデシコ艦隊に居座るメグミさん
どうしてそこまでこだわるのか・・・ひょっとして私のせいですか?

でもなぜ私はあれほどメグミさんを恐れていたのでしょうか?
アキトさんを取られるのが怖いため?
それとも今の日常が変わるのが怖いため?

その理由がわかったのはずっと後のことでした・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ナデシコB・医療室


今日も今日とてナデシコBの医療室は大盛況。
表には行列が出来ていて、なぜかケンとハーリーが行列整理に大わらわ。
でも不思議である。

別に戦闘中でもないので、そんなに怪我人の大量生産などされやしない。
第一、ナデシコCのクルーまでいたりする。
理由がなければ説明おばさんイネス・フレサンジュの危ない雰囲気のある医療室まで来るはずもない。

そう、理由があるのだ。

「はぁい♪お注射しちゃいますね♪」
「はぁい♪お願いします♪」
「針ありですからちょっとチクッとしちゃいますけど我慢して下さいね♪」
「え?」
「えい♪♪♪♪♪♪」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
動脈に針を刺されてパニくる患者。
っていうか、そもそも針なし注射が完全に普及しているこの時代に針ありで注射を刺すなんて理由はマッドな医者の趣味か、ナースモノのギャグをやりたいSS作家の個人的な欲求以外にはあり得ない(笑)

それでも・・・・
「お大事に♪」
「また来ま〜〜す♪」
なんて懲りずに答えるのは、その看護婦の魅力所以であった。

「メグミちゃん、次!」
「は〜〜い、イネスさん」
そう、なぜかアイドル声優メグミ・レイナードはナデシコBで看護婦をしているのだ。
話せば長くなるのだが、手短に言えばメグミがアキトにアタックするためだ。
この前の一日艦長の際にルリに手ひどい追い返され方をされ、意地とプライドをかけてナデシコBに乗り込んできたのである。
幸い、准看護婦の資格を持っていたので、元通信士としては一番警戒されるブリッジクルーを避け、まんまと医療室に潜り込んだのである。イネスの医療室であるという不安は残るが・・・。



ナデシコC・提督執務室


「ええ!?
 まだ、患者さんがいっぱいいるんですか?
 どうして!?」
「メグミさんが看護婦をやってるからに決まってるじゃないですか!!」
ユリカを叱るように言明するルリ。

そりゃ、有名アイドルが看護婦をやってるとあれば野次馬根性の患者が増えるのは目に見えていたことだ。それに気がつかないユリカの方が悪い。

「でもそうなるとしばらくは医療室に集まれないですねぇ〜」
ルリがため息をつくように言う。
『そうね。まさかメグミちゃんのいる前でおおっぴらにプレートの翻訳の資料を広げられないし・・・』
「そんな〜〜!」
今更気づくユリカであった。

現在、イネスとユリカ、ルリは遺跡プレートの解析を行っていた。ナデシコBの医療室はその主であるイネスの危なさが幸いして人が寄りつかない、絶好の作業場所だったのだ。
それをこのメグミ騒ぎで医療室は連日満員御礼。
考えなしにメグミを受け入れてしまったユリカの誤算である。

「ううう・・・」
『仕方がないわ。メグミちゃんがアップしてから細々とやりましょう・・・』
「ねぇルリちゃん・・・残業代は・・・・・・」
「つくわけないじゃないですか!」
情けないユリカを一喝するルリであった・・・。



再びナデシコB・医療室


患者が少し落ち着きだした頃、メグミは珍しい来訪者を迎えた。
「次の方どうぞ・・・・ってミナトさん、お久しぶり♪」
「あら、メグちゃん。おひさ♪」
古い馴染みのハルカ・ミナトが訪れて、メグミは喜び半分、驚きもした。
なぜなら彼女はナデシコCのクルーなのだから。

それがなんでわざわざナデシコBの医療室まで?

「どうしたんですか?ミナトさん。
 ご病気でも?」
「いやぁ、そういう訳じゃないんだけれど、あはははは・・・」
なぜか赤くなって口ごもるミナト。
「メグちゃんに会いに来た・・・っていうのはダメ?」
「それはそれで嬉しいんですけど・・・・
 じゃ、診察しないんですか?」
「そ、そういう訳じゃないんだけど・・・・」
もじもじするミナトを少し訝しげに見つめるメグミ。

「実はね・・・そのね・・・」
「なんですか?」
「ゴニョゴニョ・・・・・」
ミナトは恥ずかしがりながらメグミの耳元で事情を話した。

「・・・・・・・・・・・・えぇ!!!!
 『妊娠したかも』ですか!?」
「シーーーー声が大きい!」
メグミの大声に慌てて口を塞ぐミナト。

しかし時遅く・・・

「に、妊娠って本当ですか!?」
なぜか医療室のベットに寝ていたジュンが驚きのあまり、ベットから転げ落ちながら尋ねた。



Nadesico Second Revenge
Chapter28 「恋せよ乙女」みたいな



再びナデシコB・医療室


気まずい雰囲気の中、メグミとミナトとジュンの三人はお見合いするかのように椅子を並べて座っていた。
「大体、なんでジュンくんがここにいるの?」
ミナトが盗み聞きされたことに少しご立腹しながら尋ねる。ジュンはやましいことなどないはずなのに狼狽えて答えた。
「ぼ、僕はその胃の洗浄を・・・・」
「ああ、ジュンさんって胃潰瘍気味なんですよ。
 ・・・・・ストレス多そうですものね・・・」
「うん・・・」
メグミの言葉に力無く頷くジュン。

そう、アオイ・ジュン中佐はナデシコ艦隊副提督といいながら、結局やっていることはナデシコA時代とさして変わっていない。
破天荒提督ユリカの尻拭いをし、
関係各所のイヤミや愚痴を一人で受け止め、
ナデシコBでは艦長であるテンクウ・ケンの代わりに艦内を仕切ることたびたび
いい加減胃も弱っていた所にトドメが昨今のメグミ騒ぎである。

まぁ、イネス曰く
「あなた今までよく胃が溶け出さなかったわね?
 こんな頑丈な胃は初めてよ。
 今度調べさせて♪」
といわれる始末なので、彼の苦労如何許り、といったところだろう。

「って僕のことはどうでもいいでしょう!!!!
 それでミナトさん!!!
 誰なんですか?その、お、お腹の子の父親は!!!」
気を取り直してジュンは真っ赤になってミナトに詰め寄る。
「ああ、ジュンさんプライバシー侵害ぃ!!
 いくら副提督だからってミナトさんの私生活に立ち入るのって良くないと思いますよ!」
「いいのよ、メグちゃん」
「でも・・・・」
「ジュン君はもうすぐ私の身内になってくれるんだもの。
 そうでしょ?」
「いや、その・・・・・・」
ミナトの言葉に赤くなるジュン。
それを見て何を勘違いしたのか・・・・

「ええぇぇぇぇ!?
 ミナトさんのお腹の子の父親ってジュンさんなんですか!?」
「「ガク」」
メグミのとんでも発言にガクッとくるミナトとジュン。
「メグミ君!僕が父親なら、なんでミナトさんに父親が誰かって詰め寄るんだよ!!」
「あ、そうか・・・」
「メグちゃん、あたしがさっき言った意味はね、
 ジュン君とユキナがコレなのよ」
「ええ!?ジュンさんとユキナちゃんってそういう関係になってたんですか?
 いつの間に?」
ミナトが小指をたてて言ったのでメグミも気づいたようだ。

「でも、ユキナもボヤいてたわよ?
 キス以上は指一本触れてくれないって」
「な!なんでそんなことを!!!!」
さすがに真っ赤になるジュン。かしましい女同士でどんな会話がなされているか怖くて聞けないジュンであった。

「んで、どうなのよ。ユキナに手を出さないのって、やっぱり遊びだから?」
「み、ミナトさんまで何を!?」
「それともユキナの押しが強いからずるずるつき合ってるだけだとか・・・。
 もしユキナの心を弄んでるだけなら、私許さないからね!」
茶化した後、一転して詰問調になるミナト。
「・・・高校を卒業するまで手を出せるわけないじゃないですか・・・」
ジュンはたじろぎながらもこう答えた。
「ジュン君・・・・」
「そりゃ、ユリカに未練がないって言えば嘘になりますよ?10何年好きだったんですから。でもそれはあいつが結婚したときにあきらめたし。
 それにユリカが死んだって知らされてからの3年間、落ち込む僕を支えてくれたのはユキナだし・・・・」
ミナトはジュンがジュンなりにユキナのことを考えてくれているのを嬉しく思った。

「って、僕のことはどうでもいいんですってば!!!
 それよりお腹の子は誰なんですか!?」
「やっぱり言わなっくちゃダメ?」
「当たり前ですよ。ユキナのことだってあるんですよ?」
今度はミナトがジュンに詰問される番だ。
「でもでも、まだ出来たかも?ってだけで検査結果だって出てないわけだから・・・」

そんなミナトの苦しい弁解をよそに、イネスがひょっこり奥の部屋から顔を出し、
「ああ、ハルカ・ミナト君。
 良かったわね、おめでたよ。
 まだ二ヶ月だけど。
 後で母子手帳を送らせるから、それを見てあまり激しい運動はしないように。」
それだけ言ってまた部屋に引っ込んでいった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一同の無言の時がしばらく続く。

「内緒よ。実は・・・・」
ようやく口を開いたミナトが小声で二人の耳元に真相を話した・・・。

数秒後・・・

「「ええ!!!!!!!!!!!!!!」」
二人が聞いたのは意外といえば意外、当たり前といえば当たり前の人物の名前であった。



ナデシコC・ブリッジ


「くちゅん!!!!」
「おや、ゴート君。風邪かね?」
「いや、誰かが私の噂でもしてるんでしょう・・・・」
プロスに尋ねられてハンカチで鼻を拭きながら答えるゴートであった。



再びナデシコB・医療室


「しかしまたなぜあんなゴツイ人とヨリを戻したんですか?」
「メグちゃん、君こそプライバシーに・・・」
ジュンは諌めるがそれで乙女の好奇心が止まるはずもなく・・・。

「ん・・・・・なんて言うか、その場の勢い・・・かな?」
「勢いって・・・・好きでもない人とそういうことしちゃうんですか?」
「好きは好きだよ。でもユキナとか白鳥さんの事を忘れてまでアレしちゃうって程かどうかは自分でもわからないの。」
「でも子供まで・・・」
「これは・・・なんていうか・・・油断したというか・・・」
メグミの追求に照れて答えるミナト。
「ミナトさん・・・・」
「メグちゃんもあるでしょ?その、無性に男の人に抱きしめてもらいたくなる時って。
 んで戦いも終わってぶわぁっと盛り上がっちゃって、たまたまその・・・し忘れちゃって、結果として・・・」
「ゴートさんってそういうことでも百発百中だったんですねぇ・・・」
「うん・・・」

いくらゴ○ゴ13みたいだからって・・・脱力するジュン。

「それでどうするんですか?ユキナのこととか?」
ジュンは心配して言う。
「取り敢えず、ユキナには黙っていてくれる?
 ここに来たのだって、メグちゃんに会いに行くって口実で来たし・・・」
「わかってますよ。だってあいつ『私、ミナトさんのお婿さんになる!』って公言してるくらいだし。
 でも、問題のその子供は・・・」
「そうですよ。まずは父親に事情を話して、んで認知してもらって
 それから、籍入れて、結婚式場の手配をして・・・」
「・・・・堕ろすかもしれない。」
「「えええええええ!!!」」
ミナトの爆弾発言に驚く二人であった・・・



ナデシコC・休憩室


「どうしたんですか?副提督。
 わざわざ、ナデシコCまで・・・・」
呼び出されたゴートは不審がりながら、ジュンの呼び出しに着いてきた。

「いやぁ、すごいプライベートなことなんだけれど・・・」
ひょっとしたらこの男と親戚付き合いしなければと思うと何とも言えない気分になるが、とりあえずその巨躯の男を自分の目線までしゃがませて耳打ちをした。

「実は、ミナトさんの事なんだけど・・・」
「ミナトの?」
「そう、ゴニョゴニョ・・・・・・・・」

しばし後・・・・

「ママぁ!!!あの人恐い!!!!
「目を合わせちゃダメです!!」
なんて親子に後ろ指を指されそうなほど、ゴート・ホーリーはいつもの強面を崩しに崩し、失敗した福笑いのような顔の危ないおじさんに成り下がっていた。

真っ赤かのデレデレ、しまいにゃ浮かれて踊りだす始末・・・

「俺が父親・・・・」
さもあらん。一度は他の男に奪われたと思っていた女性のハートを射止め、それで子供まで出来たのだ。嬉しくないわけがない。
しかも子煩悩らしい。
普段の彼の人となりを知る者からすれば想像もつかないだろうが。

「ゴートさん、でも続きがあって・・・」
「はい?」
ジュンの言葉でフラダンスを踊る手を止めるゴート。

ジュンが事情を説明した。

「・・・・・・・・・」(←ゴートの顔から血の気が引きました)
「という訳なんだよ。一応メグミちゃんに説得してもらって二人で話し合ってもらおうってところまではこぎ着けたんだけど・・・」
そういうジュンの視線の先には看護婦姿のメグミがいた。そのメグミはしきりに扉の向こうに隠れているミナトをなだめすかしてゴートの元に連れて来ようとしていた。

「ミナト・・・・」
「ゴート・・・・」
二人は話し合いをしたが・・・・ミナトの意志を覆すところまでは行かなかった・・・。



数日後・ナデシコC・ブリッジ


「怪しい・・・」
ユキナはご機嫌斜めだった。

あっちでコソコソ、こっちでコソコソ
どうも自分の知らない話が大人達の間で飛び交っているようなのだ。
しかもユキナを避けるようにして。

ミナトは休みがちで部屋に籠もっていることが多い。ユキナが様子を伺うが、「大した事ない」の一点張り。
ユリカやルリは訳知りなのか、それをあまり咎めない。
ゴートはなにやら狼狽しており、プロスはいろいろ電卓をはじいてる。
サブロウタも茶化す余裕はないらしい。

時折、自分のことを避けるような、まるで腫れ物をさわるような表情で眺めては視線を背ける。『何か隠しています』と言わんばかりの仕草だった。

「ふふふ、みんながそういうつもりなら、こっちも徹底的に調べてやるから!!!」
ユキナの静かな闘志が漲るのであった。



ナデシコC・打ち合わせ室


こじんまりとした打ち合わせ室にゴートとプロスが現れた。
『しめしめ♪』
ロッカーの中に隠れていたユキナがほくそ笑む。
この二人、最近妙に相談する機会が多く、時折会話の端々にミナトの名前が聞こえたのでマークしていたのだ。

ゴートは家族の幸せを守るため、締まり屋のプロスを必死に口説き落としていた。
「いきなり二世帯同居の社宅とは・・・しかも防犯設備完備となると・・・」
「3人・・・いや5人で暮らすことになるかもしれん。なければ作ってくれ!」
「大体、男女間の交際は手を握るまでで、子供まで作ったとなると逆に違約金を・・・」
「話をすり替えないで頂きたい。第一それはナデシコAの頃の話で、しかも自分は元からネルガル社員なのであの契約書にはサインしていないはずですが?」

『へぇ、ゴートさん、子供出来たんだ・・・・・
 え?誰と?』
のんきに二人の会話を聞いていたユキナであるが、『子供』という単語に少し不安を覚えたりする。

「しかし、二世帯となると・・・・
 ひいふうみい・・・これぐらい給料からさっ引く必要が・・・」
「う!・・・・・まぁ、仕方ない。
 そのうちアオイ中佐も払ってくれるようになるだろう・・・」

『へぇ・・・・ジュンちゃん、ゴートさんと一緒に暮らすんだ・・・
 なんで?』
隠れて聞いているユキナの不安は広がる一方だった。

「しかし、困りましたな。
 数ヶ月後先のこととはいえ、産休となるとその間の操舵士をどうするか。」
「・・・・その前にあいつが生んでくれるかどうかわからん。
 堕ろすと言って聞かないんだ・・・」
「ああ、そちらの問題の解決が先でしたな。
 しかし、説得は厳しいのですか?」
「ああ。あいつ、同居人に引け目を感じてるんだ。
 何度も説得しているんだが、らちがあかん。
 いっそあの子に本当のことを話せればいいんだが・・・」
「まぁ、とはいえあの子も微妙な年頃ですし・・・」

『操舵士って・・・
 産休って・・・
 堕ろすって・・・
 なにそれ、
 それってもしかして・・・・』
ユキナの疑問は確信に変わった。
そう、それはまるで・・・・

「死んだ婚約者以外の男の子供を身籠もることが裏切りになるわけでもあるまいに。
 それじゃ、あいつはいつまでたっても幸せにはなれん!」
「でも生者はそうは思いません。無責任に操をたてろと無言の圧力をかける。
 あるいはその愛が真実ではなかったと誹る。
 なによりあの子が納得してくれないと思っているのでしょうなぁ・・・。
 なにせ『私、お婿さんになる』・・・ですからな・・・」
「なるほど、俺は18歳の女子高生とライバルという訳か・・・」

そこまで聞いてユキナの感情は弾けた!!!

「ちょっと!!それどういう事!!!」
「し、白鳥・・・」
「ユキナさん、いつからそこに・・・・」
ロッカーを蹴破って叫ぶユキナに狼狽するゴートとプロス。

「それってまるで私とミナトさんの事じゃないの!!
 本当なの?
 ミナトさんがゴートさんと結婚するって?
 ミナトさんが妊娠したって?
 ミナトさんが子供堕ろすって?
 それで・・・・」

嘘だと言って欲しかった。
しかし大人達の狼狽した顔はそれが真実だと物語っていた・・・。
確かにミナトがゴートとつき合っていたのはショックだった。
子供を作るほど深い仲だったというのもショックであった。
でも、彼女を何よりも傷つけたのは・・・

「ミナトさんがお腹の子供を殺すって・・・・
 私のせい?」
「いや、そういう訳じゃ」
ユキナのぽつりと言った言葉をゴートが慌てて訂正しようとする。
しかし、それは遅すぎた。

「・・・・・・・・・バカ!!!!!!!!!」

ユキナが部屋を飛び出した後には大人達の唖然とした表情しか残らなかった・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「すまん!」
「すみません・・・」
ゴートとプロスが平謝りに謝った。
いくら盗み聞きされたとはいえ、油断していた彼らが悪い。

ミナト「私のせいだ・・・私が・・・」
メグミ「ミナトさんのせいじゃありませんよ」
ルリ「・・・・・んでどうします?」
ミナトが落ち着くのを見計らってルリがみんなに聞く。
そこには関係者一同が揃っていた。
ミナト、ジュンは言うに及ばず、なぜかユリカやルリ、メグミまでいた。

ユリカ「とりあえず誰かがユキナちゃんに説得に行かないと・・・」
ジュン「でも誰が行くんだよ?」
メグミ「私が行きましょうか?これでもお悩み相談のラジオ番組で・・・」
ルリ「破談したカップル数知れず・・・」
メグミ「そう数知れず・・・ってルリちゃん!!!!」
ルリ「ジョークです」

でも、そうなると・・・・・・

一同「ジーーーーーー」
ルリ「何ですか?皆さん。
 その視線は・・・」
プロス「沈着冷静」
ゴート「ナデシコで一番人望が厚いし」
ユリカ「唯一年齢も近いし」
ジュン「一時は一緒に暮らしていたし」
メグミ「ブラコンだし」
ルリ「ってどういう意味ですか、メグミさん!!!!!!!!!!!!!」

『そうか、ブラコンに近いのか・・・』
確かにアキトといい、ケンといい、「お兄さん大好き♪」感覚に近いのだろう。
納得する一同

「私って、人生相談とかそういうの一番苦手なんですけど・・・」
それでもなお渋るルリであったが・・・
「ルリルリ・・・・私からもお願い・・・」
そう、ミナトに涙ながらにお願いされると、ルリも断れなくなってしまった・・・。



ナデシコC・展望室


ナデシコCの展望室ではユキナが膝を抱えて体育座りをしていた。
なぜか背景は夕焼けの土手の映像。
なにかの青春学園モノの傷心シーンみたいであった。

「まるで慰めてくれって言わんばかりの背景設定ですね?」
「なによ、ルリルリ・・・イヤミ?」
まるで恨みがましいような瞳でユキナが見つめる先にはホシノ・ルリがいた。

しばし後・・・

二人は仲良く夕日を浴びながら土手で並んで体育座りをしていた。
青春モノの物語さながらに・・・
「何しに来たのよ・・・」
沈黙に堪え兼ねたユキナがルリを睨むようにいう。
「ミナトさん、心配してましたよ?
 そんなにショックですか?
 ミナトさんにその・・・お子さんが出来たのが。」
「・・・」
「ミナトさんは生きているんです。
 生きている人は死んだ人に幸せにしてもらうより、生きている人に幸せにしてもらった方がいいと思います。」
「・・・・」
「そう教えてくれたのはユキナさんですよ。
 アキトさんとユリカさんが事故に遭われて、しばらく呆然としていた私にそう言って下さったのは・・・」
「・・・・」
「あのときのユキナさんの言葉があったから私は歩き出すことが出来たんですよ。
 そのユキナさんが・・・」
「別に・・・そんなんじゃないわよ・・・」
「え?」
ユキナが長い沈黙の末にボソリと呟いた。

「別にミナトさんが結婚するのだって反対じゃない。
 そりゃ、お兄ちゃんと微笑んでるミナトさんが好きだったけど、死んだ人に操をたてろなんて言うつもりもないし。
 それにいつまでも子供じゃないんだから私がミナトさんのお婿さんになることが出来ないぐらいわかってるわよ。
 悔しいけど、私じゃミナトさんを励ますことが出来ても、支えることは出来ない。
 私じゃミナトさんに子供を作ってあげることもできないし。」
「それじゃ何で・・・」
ユキナは少し間をおいて話を続けた。

「結局私はミナトさんを支えるどころか、負担にしかなってなかったのよね・・・」
「え?」
ユキナの台詞にドキリとするルリ。
「ミナトさん、私のために子供堕ろすっていっているそうじゃない。
 私のこと気を使ってくれるのは嬉しいけれど、余計なお世話よ!
 ミナトさんが子供が出来て嬉しいって思っているなら私が反対する訳ないじゃない。
 それなのに、私はミナトさんを追いつめるだけの存在なんだよ・・・」
「それは違いますよ、ユキナさん・・・」
「違わないわよ。
 ミナトさんは子供が出来たら今までの私達の関係が壊れると思っているから、
 ううん、関係を維持できないと思っているから子供を堕ろすって言ってるんでしょ?
 違う?」
「そ、それは・・・
 そんなことありません」

ユキナの質問に自信なげに答えるルリ。
ルリの心の底はズキズキ痛む。そう、それはまるで・・・

「ウソ!あんただってそう思ってるくせに!」
「な、何をですか?」
「あんたとユリカさん、それにアキトさん。
 アキトさんがユリカさんの元に帰ってきて、あんたはまだあの家に居れるの?」

ズキ!!!
それはルリの心の奥底をえぐった。一番考えたくなかった事実・・・

「知ってるのよ、あんたがアキトさんの事が好きなのは。
 でも、アキトさんとユリカさんに子供が出来て、それでもあんたの居場所は残ってる?」
「アキトさんとユリカさんは・・・やさしいですから・・・」
「子供じゃあるまいし、二人が隣でナニするのを聞きながら眠れるわけないじゃない。
 二人は自分たちの家族を作る。そんな中で私達みたいに血のつながりのない拾われ者がいつまでも家族ごっこ出来るわけないでしょ?
 自分たちの家族を作れって追ん出されるのがオチよ。」

そう、ルリにもわかっている。ユキナのいわんとしていることは。
どんな家族もいずれ別れる。
それぞれが新たな家族を作ることにより別れが来る。
どんなに親しい家族であろうと、そうやって子は結婚して自らの家族を作り、そして親元を巣立っていく。
いつまでも今のままいれるはずもないのだ。

それでも・・・
それでも・・・

「別にユリカさんを押しのけてアキトさんとどうなるつもりもありませんし、やっぱり私はユリカさんと一緒のアキトさんが好きです。
 この感情が恋というモノかどうかは自分でも自信はありませんが・・・
 血のつながりがないからこそ、家族の絆を保つ努力が必要なんじゃないですか?」

そう・・・
本当の居場所なんてどこにもない。
ただみんなそこにしがみついているだけなのだから・・・・

「いつかユリカさん達から巣立つ日が来たとしても、そのときまではあの人達のそばにいたいと思います。そしてそのための努力をします。
 ただ、それだけですよ。」
「ルリルリ、あんた・・・・」
ルリのまっすぐな瞳を見ると、ユキナもその気持ちが痛いほどわかった。
彼女も同じだったからだ。

「第一、そんなこと言ってるとジュンさんが悲しみますよ?
 『僕のことをさんざん弄んだあげく、結婚式場から逃げ出すのか〜〜』って」
「プ!!なにそれ?」
「ゴートさんもユキナさんと一緒に暮らすつもりですよ?
 二世帯住宅・・・ユキナさんとジュンさんが結婚しても一緒に暮らせるように」
「ゲゲェ!!!!んなの勘弁!!!」
「まぁ、それはご当人達と相談された方がいいんじゃないですか?」
ルリは微笑みながら視線をあらぬ方向へ向けた。その視線の先には心配そうに見つめるミナトとゴート、それにジュンがいた。

「・・・・わかった」
ユキナはルリにそれだけ言うと彼らの元に飛びついていった。

なにやら喧喧諤諤としているが、その雰囲気からすれば「ハッピーエンド」と評していいような結論が出ることであろう。



ナデシコC・格納庫


「え〜〜汝、ゴート・ホーリーは病めるときも健やかなるときも死が二人を分かつまで生涯ハルカ・ミナトを愛することを誓いますか?」
「むう」
「誓いますか!!!」
「はい・・・誓います」
「汝、ミナト・ハルカは病めるときも健やかなるときも死が二人を分かつまで生涯ゴート・ホーリーを愛することを誓いますか?」
「・・・はい、誓います!」
神父にふん装したユリカが二人の愛の誓いを確認する。

ナデシコの伝統として冠婚葬祭は艦長・・・もとい、提督が行なうことになっている(笑)
ミナトのウェディングドレスのヴェールを持つのはユキナとルリ。
新郎であるゴートの元まで連れてきたのはジュンであった。

広い場所がなかったので場所は格納庫の一角。
舞台はウリバタケ率いる整備班が突貫工事で作り上げたチャペル
式に参加した人間はナデシコCにとどまらず、ナデシコBからも何人も来ていた。
司会はメグミがかって出た。
披露宴の料理はサユリやホウメイが腕を振るった。
披露宴ではリョーコ、ヒカル、イズミが「てんとう虫のサンバ」を歌うらしい(古!)

「では誓いのキスを♪」
「キース!キース!キース!キース!キース!キース!キース!」
ユリカの宣言とともに一同から新郎新婦へのキスコールが一気に巻き起こった。

「ゴート・・・」
「ミナト・・・」

チュ♪

ゴートとミナトは照れながらも誓いの口づけを行なう。
「おめでとう♪♪♪♪♪」
みんなは口々に新しい夫婦の誕生を祝った。

ヒカル「でもよくウェディングドレスなんてあったね?」
ユリカ「あれ、あたしのを手直ししたんだよ♪」
リョーコ「ええ!?あれ提督のかよ!?」
ユリカ「そう。ちょっと胸がきついって言われた時には悔しかったけど・・・」
コトネ「っていうか、なんで提督がウェディングドレスを戦艦なんかに持ち込んでるんですか?」
ユリカ「だって、もう一度結婚式をやり直すんだもん♪」
サユリ「気が早すぎますよ・・・」
ユリカ「それに、あのウェディングドレスはルリちゃんのときにも使うんだから」
ルリ「え?」
ユリカ「大丈夫。私がちゃんと送り出してあげるから♪」
ルリ「ユリカさん・・・」
ユキナ「その前に胸の辺りを大きくしないと、あのドレスは着れないねぇ・・・」
ルリ「ほっといてください!!(怒)」

サブロウタ「ところで皆さん・・・なんで既に臨戦態勢?」
彼が言うまでもなく、乙女達はやる気満々。
なにって・・・

花嫁が出てきた。
手にはブーケを持って。

みんなアレがお目当て。既に薹が立った乙女の方も少なくない。
既にあきらめているのか、一人参戦していないイネスを横目で見ながら、『ああはなりたくない』とみんな必死だった。
「みんな、ありがとう♪」
花嫁はブーケを投げた!

ザザザザザザ!!!!

みんながブーケに殺到する!!!!

そして・・・・・

「貰っちゃいました♪」
「「「「「提督!!!あんた既に結婚してるだろうが!!!!!!!!!」」」」」
ユリカが受け取ってみんなのひんしゅくを買ったとか。

まるで毎日がパーティーのよう。
あの楽しかったナデシコAの時代に戻ったみたい。
私達は浮かれ、仲間の幸せを祝福していた。

だから忘れてしまっていたのかもしれない。
私達はまだ戦争の直中にいるという事実を・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


ってことでどこらへんが「恋せよ乙女」なのかはわかりませんが、お届けいたしました。
考えるともうこの地点しか呑気なお話を挟めないので、頑張って書いてみましたがどうでしたでしょうか?

ルリは公式の設定でも一時期ミナト達と一緒に暮らしていたことになっています。
ですんでミナトが妊娠したという話を考えついた時なんとか結びついていい話になったのではないか?と考えております。(笑)

ともあれ、最後の2行で次回の暗雲を暗示する私・・・・

そう、これからは怒濤のクライマックスへ突っ走ります。
EXZS流のドシリアス色を深めて(苦笑)
ご期待ください。

ということで面白かったら感想をいただけると嬉しいです。

では!

Special Thanks!
・ふぇるみおん様
・say様