アバン


選びなさい
過去の思い出か
今の居場所か
たとえそれがどんなに苦しい決断であっても

選びなさい
運命が時間に押し流されてしまわないうちに

選びなさい
どんなに苦しくてもあなたにはまだ「選ぶ自由」が存在するのだから・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



対峙する二人


「お前は知らないんだ!草壁が何を行なってきたかを!」
「何だと!」
「お前達が見たあのイメージは真実に起きた事なんだよ。」
「嘘だ!自分達の罪を免れる為の方便だ!!」
「本当なんだ!なぜなら・・・」
「なぜなら・・・?」
「俺もあの場にいたんだ。」
「!!!」

そう、信じたくはなかった。
しかし、あのスタンピードが見せた悪夢の中に、

そう、テンカワ・アキトの瞳の中に・・・
確かにテンクウ・ケンの姿が写っていたのだ!!

「草壁の正義の中に俺の居場所はなかったんだ・・・」
「・・・嘘だ」
「数馬・・・」
「嘘だ!!!!」
西條の絶叫が当たりにこだました。
その瞬間、西條の心の中で何か大切なモノが消し飛んだ。



戦闘空域


「認めぬ!
 認めぬ!
 認めぬ!
 認めぬ!
 認めぬ!
 認めぬ!
 認めぬ!!!!」
「数馬!!」
ケンが必死に呼びかけるも、西條は全く聞き入れず咆哮をあげた。

「俺の正義は絶対だ!!
 あんなものが真実であるはずがない!!
 だから無かったことにする!!
 お前達ごとな!!!」
狂気に満ちた西條の顔から、もはやケンが知っている昔の不和数馬の面影はない。
そこにはただ人の運命を操れる神の魅力に取り憑かれた男の姿しかなかった。

次の瞬間、惨劇の幕は上がった。
誰も救われぬ悲劇の幕が・・・
戦場から悲鳴が沸き上がったのはそのすぐ直後であった。



Nadesico Second Revenge

Chapter24 ボクハナク



戦闘空域あるいはただの殺戮現場


「近寄って来るんじゃねぇ!!!」
『お願いです。打たないで!殺さないで!!』
そのステルンクーゲルはリョーコのサレナカスタムに怯まず近寄った。
これがただの敵ならリョーコは躊躇わずに引き金を引いたであろう。
しかし、そこから漏れ伝わるパイロットの声は完全に怯えきった子供のそれである。
クーゲルは武装を失ってもなおにじり寄り胸に指さす。
『この中にいるパイロットを射抜いて見ろよ』
とジェスチャーするように。

こんな状態の敵を撃ち落とせるか?

打ち落とせるわけないじゃないか!!

でも事態は一刻の猶予も与えてくれない。
それは一機だけではない。
何機も何機もまるでゾンビの様にリョーコのサレナカスタムににじり寄ってきた。

「中尉、打って下さい!!」
見かねたサブロウタが警告を発してきたが、リョーコにそんなこと出来ようもない。
少しでも決定的な行動を遅らそうと、敵の移動能力を殺ごうとした。
右手
左腕
両足
それでもその機体はにじり寄る。
そのたびに相手のパイロットの悲鳴が聞こえる。
『お願い!打たないで!死にたくない!!!』

「わかった!助けてやる!!」
その声にたまらずリョーコはそのステルンクーゲルにとりつき、ハッチを無理矢理開けようとした。
だが・・・

別のステルンクーゲルが眼前に迫り砲撃を行ってきた。
やむなくリョーコは身をかわす。
その銃弾は身動きの出来ない味方のステルンクーゲルに当たった・・・。

『ママ!!!!!』
火星の後継者のパイロットが一人死んだ。

そして、同じ事がそこかしこで行なわれる事になる・・・



ナデシコC・ブリッジ


ナデシコのブリッジはあまりの光景に皆意気消沈していた。
あるものはあまりの凄惨さに目をつぶり、あるものは嫌悪感を顕にした。

「ルリちゃんの言っていた危険ってこういうことなのね・・・」
「システム掌握の負の威力ですよ。
 相手を無力化以外の目的に使えばこうなることは目に見えていたのに・・・」
何ともやりきれない表情でいうユリカに、ルリは西條に対する同情とそれ以上の嫌悪感を露にして答えた。

「ルリルリ、何とか出来ないの?この状況。」
ミナトが気分悪そうにルリに尋ねた。隣のユキナなどはあまりの状況に平静を保つだけでやっとの様だった。
「いまクラスタリングシステム掌握で一機ずつ掌握の解除を行っています。
 けど・・・」
ルリは言い淀んだ。
今もルリは全力を尽くしている状態にある。
ハーリー、ラピスの意識領域をフルに使って敵の掌握を無理矢理解除している。
そのスピードはたぶん右に出るものはいないであろう。
しかしそのルリでさえこの状況をすぐによく出来るほどの短期間で全ての機動兵器を処理できるわけではないのだ。

その間にも事態は刻一刻と悲惨なものになりつつあった・・・。



ナデシコB・周囲


『ナデシコBに敵機が取り付いてる!排除せよ!!』
「排除しろって言ったって・・・」
ゴートの指示だが、その光景にサブロウタは気圧される。

敵の機動兵器はナデシコBのディストーションフィールドに真っ正面からつっこんだ。
普通はこんな事はしない。
大概はフィールドに弾かれてお終いだ。
もしくは機動兵器とナデシコBのフィールド同士が激しく干渉しあう。
当然、どちらが勝つか目に見えている。

ギシギシ!!

ステルンクーゲル達は崩壊の音を軋ませながらそれでもバーニアを噴かし続けてフィールドに機体を押しつけ続ける。

ギシギシ!!!!
『いやだ!死にたくない!!!』
パイロットの声がノイズ混じりに聞こえる。
コックピットは既にあちこちから火花が飛び散り、パネルや内壁の一部が大きく歪み始める。

『うわぁぁぁぁ!!!』
コックピットの圧壊が先か、それとも機体そのものが崩壊するのが先かわからない。
でも中にいるパイロットにとって、死神に鎌を突きつけられてる恐怖を存分に味わっていた。

そして・・・

ゴウ!!!

恐怖を抱いたまま、その機体は爆発した・・・。

「ひでえ・・・」
『フィールドに張り付いている機体を早く排除しろ!』
「しかし・・・」
『至近距離で何機も爆発されたらナデシコのフィールドでも保たん!!』
「くそ!!」

サブロウタは泣く泣く敵の機動兵器にレールカノンの照準を合わせた・・・



対峙する二人


「やめろ!数馬!!!
 お前は自分が何をやっているのかわかっているのか!!」
ケンは力の限り叫んだ。何とかかつての親友の心に届くように。
しかしその言葉は彼の心には届かなかった。

「わかってるさ。ナデシコを滅ぼすためだよ」
「なに!?」
「草壁閣下を貶めるものは全て滅ぼす!
 それが俺の正義だからだ!!」
「!!」
「滅びればいいんだよ。
 閣下を愚弄するものは。
 ナデシコであろうと、木連であろうと」
西條数馬は冷静に言う。それがさも当然であるかのように。

「お前のやっていることは正義でも何でもない!
 ただの逆恨みだ!」
「違うな。力が正義だ。
 全てを破壊尽くす力を持つ者だけが人々を従わせられる。
 そしてその者の持つ正義だけが真の正義になる。」
「違う!」
「何が違うんだ?
 歴史は強者が自分に都合の良いことを並べた偽書さ!
 そんなことは俺達木連人がイヤというほど思い知らされたはずだ!」
「違う!!」
ケンは西條の論理に必死に抗していた。
それは一度はケンの心によぎった負の感情だったからだ。

『あなたは間違ってますよ』
二人の間にウインドウ通信が割り込んできた。
「電子の妖精・・・」
そう、ホシノ・ルリである。

『あなたは愚かですよ。さすがは草壁春樹の不肖の弟子ですね』
「なんだと!」
『あなたも草壁春樹も同じです。
 力だけで世界の全てが変わると思っている。
 自分と違う正義を悪と決めつけ、それを排除すれば世界が正義で満たされると本気で思いこんでいる。
 前世紀の遺物ですよ。
 火星の後継者が聞いて呆れます』
「何だと!妖精ごときに何がわかる!!」
ルリの毒舌に西條は冷静さをはがされつつあった。

『ボソンジャンプの登場により、時代は既に情報のみならず物質的にもボーダーレスの時代に突入してるんです。』
「それがどうした!!」
『神がかつて人の言葉を分かち、人々を引き離したように、人の正義も決して同じにはならない。同じように見えても必ず異なる正義が存在する。クローン人間でも個性は発生するんです。
 百人が百人ともまったく同じ正義をよりどころにすることなんてできっこないんですよ。』
「出来るさ!出来ない奴は全て滅ぼす!」
『だからわかってないといってるんですよ。
 かつては距離という壁がその棲み分けを担っていた。
 でもボソンジャンプ時代では全ての人の距離はゼロになる。
 そんな世界であなたはどうするんです?
 全ての人を滅ぼしますか?』
「!?」
揺らぐ西條の信念を突き崩そうとルリはなおも語りかけた。

『そしてそんな世界でただ戦力・・・人を殺した数だけで競っても仕方ない。
 人類はイヤでも共存しなければいけない。
 戦争・・・人殺しはそんな世界で遺恨しか残らない。
 恨みは世代を越えてなお根強く残り、いつまでも負の遺産を後の世に残す。
 古くはイスラムとユダヤ
 新しくは地球と木連
 歴史はイヤというほど証明してますよ。』
「力こそ正義だ・・・」
『戦争は莫大な負の遺産も生産するんですよ。
 だから政治がそこに存在し、可能な限り戦争を回避しようと努めるんです。
 戦争はそれでもどうにもならなかったときの最後の手段です。
 だから私はシステム掌握を兵力の無力化するためだけに使ってるんです。
 あなたのやり方はあなた自身の正義の自殺ですよ』
「妖精が知ったような口をきくな!!」
『あなたのは正義でも何でもない。ただ真実を直視するのを嫌がっているだけですよ。』

確かに世界は汚れているかもしれない。
まるで水槽の水がほっておけば汚れるように
でも西條あるいは草壁が行おうとした事は、ただ水槽を割って水を吐き出すだけだ。
新しい水を入れれば確かにすぐにきれいな水槽に戻るかもしれない。
でもその中で泳いでいた魚をほとんど殺してしまう。

だから中の魚を殺さずに水をきれいにしようとしたら、水を入れ替えながら水槽をきれいにして行くより他はない。
地道で根気のいる作業だ。気の遠くなるほどの時間もかかる。
でもそれ以外に道はないのだ。

ユリカやアキトがかつて遺跡を跳ばしたのはそういうことだ。
ユキナやサブロウタ、秋山やケンが地球人と交友を深めようとしているのはそういうことだ。
そしてルリが、いやナデシコ艦隊が行おうとしていることはそういうことなのだ。

それが彼女達の「私らしく」なのだ。火星の後継者達の正義とは相容れない所以である。



ナデシコC・ブリッジ


一同、ルリの言葉に感じ入っていた。
みんなの胸にあった、『何故ナデシコに乗ったのか?』という漠然とした信念を見事に言葉にしてみせたからだ。
みな同じ志をもってこの場に集っていたのだ。
「ルリちゃん、私の言いたかった事をほとんど話してくれてありがとう。
 感謝します」
ユリカはルリに小さく会釈した。

だが、それを今の西條に受け入れろというのは無理な話であろう・・・。



対峙する二人、そして


「わかったろ?
 だからもうこんな事はやめるんだ。
 今ならまだ・・・・」
「もう遅い。
 賽は投げられた。
 後は俺が勝つか、お前達が勝つかだ!!」
たとえ敗北感で満ち満ちようと、一度動かしてしまったものは止められない。
西條は彼の偽りの正義を真実にするためにこの道を進むしか仕方なかったのだ。

「数馬・・・」
『テンクウ・ケン、いつまでそんな茶番をやっているんだ?』
「て、テンカワさん?」
そう、ケンのサレナのコックピットに通信を開いてきたのは黒百合ことテンカワ・アキトであった。
アキトは今も無数の機動兵器達に囲まれて奮戦中であり、その合間を縫ってようやく通信を繋げることが出来た。

『やっぱりわかっていなかったな。俺があれほど忠告したのに・・・』
アキトは冷酷な目でケンを睨み付けた。
「わかってます。わかってますが・・・」
『わかってはいないさ。
 お前はいったい何を守ってるんだ?
 過去の思い出か?西條数馬か?
 ナデシコはどうでもいいのか?』
「ち、違います。私はナデシコの将官です!」
『なら後ろを見て見ろ!』
「え?」



戦闘空域あるいはただの殺戮現場


戦闘空域・・・そこにはケンの仲間達が戦っていた。
いやそれは戦いなんて上等なものではない。

「なんで助けられないんだよ・・・」
リョーコは泣きながら近づいてくる機動兵器達を助けようとしていた。
しかし常にそれを邪魔するように別の機動兵器が襲いかかってくる。
結果全ての試みが失敗に終わった。
『誰か助けて!!!』
パイロット達の悲痛な叫び声を聞きながら、リョーコは涙を流すことしか出来なかった・・。

「いや、お願いだから来ないで!」
ヒカルは自分に近づく機動兵器をひたすらレールカノンで撃ち抜いていた。
ヒカルは泣き叫び、パニック寸前だった。
誰が無抵抗の敵を殺したいものか!
でも敵の機動兵器は近づいてくれば自爆するのである。
いくらサレナカスタムであろうとそんな至近距離の爆発に耐えられるはずがない。
バンザイアタックに対する恐怖心と戦いながらヒカルには自分の身を守るためにレールカノンを撃ちまくるしか方法がなかった。

「「・・・・」」
サブロウタとイズミはただ無言でナデシコとユーチャリスにとりつく敵の機動兵器をレールカノンで排除していた。
『ほっておいても彼らは死ぬ運命だ。
 恐怖を味わって死ぬより、すぐに苦痛を取り去ってやるのがせめてもの情けだ。』
敵の機動兵器から漏れ伝わってくる恐怖の叫び声をたっぷりと聞きながら、自分たちの行為を何とか正当化しようとしていた。
そんなことで良心の呵責から逃れられるはずもないのだが、今の彼らにはそうすることでしか精神の均衡を保てなかったのだ。



決断を迫る者、決断できない者


「・・・・・」
その光景を見たケンは言葉も出ない。

『あいつらが好きこのんで虐殺をしていると思うか?
 あいつらが敵を一人殺すごとに自身の心もズタズタに引き裂いているのがわからないのか?』
「そ、それは・・・」
アキトの容赦のない糾弾が続く。

『今のお前なら西條は容易に倒せるはずだ。
 なぜ倒さない?』
「違う、私は精一杯・・・」
アキトの言葉にあらがうケンだが、彼の心に迷いがあるのは事実だ。それが西條を倒す手を無意識のうちに緩めていた。

『決めるなら早くしろ。
 もたもたしてると火星の後継者達の被害も増すばかりだぞ!』
アキトの指さす虚空・・・そこは戦場と呼ばれるものは存在せず、ただ混沌の海と化していた・・・。



戦闘空域あるいは混沌の極み


「西條数馬を討ち取れ!!」
この言葉は敵であるナデシコ側の声ではない。火星の後継者達からの声である。
ルリによって西條のナイチンゲールによるシステム掌握から解放された機体から発せられた言葉であった。

ルリによって掌握を解除された機体の総数は全体から見ればまだまだ少ないが、これらの機体はナデシコの掌握下には入っていなかった。
ルリはこれらの機体を掌握しておく意識容量すら惜しんでいたためだ。
しかしこのことが逆に仇となってしまった。

ルリはほおっておけばこれらの機体は逃げ出すだろうとふんでいたのだ。
事実多くの機体はそのまま逃げ出している。
しかし、そのうちの何割かはその場に止まろうとした。
無論、味方を救うためである。

彼等は味方を救うために西條を攻撃する。勇気のいる事だし、実際勇敢だった。
しかし、それは結果として戦場をより混沌としたものに上塗りする事に過ぎなかった。
西條をかばおうとまだ西條の掌握から解放されていない別の機体がその進路を塞ぐ為に現われる。
結果・・・彼らはリョーコ達と同じ思いを味わうことになる。

彼らの場合、自分の味方だけに始末が悪かった。

そして戦場は敵味方入り交じって戦う無秩序な状態に陥ることになる・・・



対峙する二人、再び


『テンクウ・ケン、これでもまだ躊躇うのか?』
アキトの厳しい警告はなおも続く。
「わかってます!」
ケンはナイチンゲールを斬りつける。

ガシ!!

しかし、その技にはいつものキレがなかった。頭では理解できていても感情がまだ追いついていない。

『やはり無理だったか・・・』
それを見たアキトはため息混じりにつぶやいた。
『もういい。お前は下がれ!
 俺がやる!』
「え?」
ケンの驚きに答える間も惜しむようにアキトは行動を起こした。

『リミッター解除。
 ブラックサレナ、フィールド全開・・・・』
ブラックサレナが虹色の光に包まれた。
それは誰もが見覚えがあるだろう。
ホワイトサレナも用いた究極技・・・・

「やめて下さい!!そんなことをしたら・・・」
『被害を最小限に食い止めるためだ。多少の犠牲は仕方ない』
ケンはアキトを制止しようとした。しかしそれは叶わなかった。

『バニシング・フレア!!!』
戦艦並のディストーションフィールドによる超高速機動・・・
立ちふさがるモノ全てをなぎ払う問答無用の殺戮技・・・

それをアキトがここで使うとどうなるか・・・

ブラックサレナに群がっていた機動兵器達はナイチンゲールを守ろうとして立ちふさがる。もちろん中に乗っているパイロットの意志を無視して。
でもブラックサレナはかまわず突き進む。
結果・・・

ゴウウウウウ!!!!

多くの敵の機動兵器がブラックサレナの進路を妨害しようとして大破していった・・・。



ナデシコC・ブリッジ


「どうする?ルリちゃん。
 ホワイトサレナを出す?」
「・・・アキトさんの意志は無駄にできません・・・」
ユリカはルリに意見を求めるが、ルリは否定した。
アキトがまとわりつく機動兵器を破壊しないでいたのは、何とか犠牲を出さずに済ませたかったからだ。でも事態はもう一刻の猶予もない。
事態を収拾するには犠牲を払ってでも短期決戦にかけるしかなかった。
今、ホワイトサレナを出しても結果アキトと同じ事しか出来ない。
そしてアキトが自ら悪名を背負っても強硬手段をとろうとした以上、ホワイトサレナを出せばアキトの心遣いを無にすることになる。

「アキトさん・・・テンクウ少佐・・・」
ルリは二人に早く戦いを終わらせてくれるように願った・・・



決着の場所


「くそ!!」
ケンは悲痛な思いで叫んだ。
自分が西條数馬を倒せなかったばかりにアキトは敵の包囲網を強行突破していた。
その結果、ナイチンゲールを守ろうとする機動兵器達が次々に破壊されていく。
中に乗るパイロット達の命と共に

「数馬!!!!」
ケンは泣きながら西條のナイチンゲールに向かっていった。
一刻も早くこの戦いは終わらせなければいけない。
これ以上、被害を増やさないために!

でも・・・

「ケン!お前は俺を殺すというのか?」
「数馬・・・」
西條の言葉に躊躇するケン。
「俺との約束を破り、
 そして今度は俺を殺すのか?
 親友の俺を!」
西條の言葉に動揺するケン。
それはケンが真に選択していない現れであった。
親友を殺すということを・・・

「この凶行を終わらせる方法がお前を倒すことでしか成しえないなら・・・
 俺はお前を倒す!!」
「・・・そうか。お前に殺されるなら仕方ない」
「数馬・・・」
ケンはようやく決断をした。
テンクウ・ケンのサレナカスタムは、親友に殺されることを願った西條数馬のナイチンゲールめがけて斬りかかった。
今度こそ親友を葬るために・・・

しかし・・・
それは遅すぎた決断であった。

時間は否応なく過ぎていく。
たとえどんなに大切なモノを握りしめようとしても
するりと運命は手のひらをすり抜けて落ちていく

『本当に親友を殺していいのか?』
刹那、ケンの心に何かがささやく。
だから・・・運命は嘲笑うがごとく、彼の手からすり抜けていった。

「お前には無理だ」
ヒュン!!!
闇の王子がそう言って音もなく現われる。

「て、テンカワさ・・・」
「く、黒百・・・」
ブラックサレナは一瞬でケンと西條の間に滑り込む。
そして二人が事態を理解する前に、ブラックサレナはハンドカノンをナイチンゲールのコックピット正面に突きつける。

「西條・・・地獄で会おう」
アキトは躊躇わずにハンドカノンのトリガーをひいた。











ケン、いつかお前にとびきり最強のゲキガンガーを作って乗せてやる
おれはそれに乗って地球人どもを懲らしめてやる

『俺はただあの日お前と交わした約束を守りたかっただけなんだ・・・』












次の瞬間、西條はまばゆい閃光に包まれた。

「数馬!!!!!!!!!!!!!!」
ケンが叫んだその瞬間、狂気に満ちた戦闘はナデシコCのシステム掌握によって幕を下ろした。
終わることだけが唯一の救いの戦いが・・・・



ユーチャリス・通路


「テンカワさん、どうして数馬を殺したんですか!!」
「やめて下さい!テンクウ少佐!」
あの後、ケンはアキトの行いを問いつめるべくアキトの元を訪れた。
しかし、そこには既にルリがいて、アキトに掴みかからんばかりのケンを必死で制した。

「お前があいつを殺さなかったから、俺が殺した」
「数馬は私に殺されるつもりだったんだ!
 それなのに、それなのに!」
「少佐!!」
ルリが制止するのもかまわず、ケンは西條の最後の望みを奪い取ってしまったアキトに怒りを露にした。だが、闇の王子はもっと冷静だった。

「お前には無理だ」
「無理じゃありません!」
「本当か?あの一瞬、躊躇しなかったとでもいうのか?」
「そ、それは・・・」
ケンはアキトに心を見透かされたように気圧された。

「・・・俺は親友殺しを一人知っている」
アキトはぽつりとつぶやく。
「え?」
「そいつは結局俺と同じで闇の世界でしか生きられなくなった。
 そして今なお表の世界に戻れないでいる」

アキトはある男の事を思い出して言った。
月臣元一朗・・・
元木連優人部隊艦長、現在ネルガルシークレット隊長・・・
親友白鳥九十九を殺した男・・・

「お前は月臣ほど強くはない。」
「わ、私は・・・・」
アキトの言葉にケンが言葉を失った・・・・

しばらくの後、アキトは崩れ落ちるケンを後目にその場を立ち去った。
その場には泣き崩れるケンといたたまれなさそうにケンを気遣うルリの姿しかなかった。

「すみません、少佐・・・私が至らないばっかりに・・・」
「ホシノ中佐のせいじゃありませんよ」
「アキトさんを許してあげて下さい。アキトさんは・・・」
ルリはケンに謝罪した。
なぜ?
ケンを慰めるため?
アキトを庇うため?
その曖昧な態度がケンを傷つけるとわかっているはずなのに・・・

「テンカワさんを恨んでやしませんよ」
「少佐・・・」
「むしろ恨んでるとすれば自分自身ですよ」
ケンは絞り出すような思いで答えた。

「数馬を殺したテンカワさんに怒りを感じるフリをして、実は内心ホッとしてるんですよ。自分自身の手で数馬を殺さずに済んだって・・・」
「少佐・・・・そんなに自分を責めないで」
「わかってるんです。
 テンカワさんが悪役を全て引き受けてくれたということは。
 そして僕はそれをわかっていながら全ての責任を彼のせいにして、彼を憎むことで自分を保とうとしてるんですよ。
 つくづく自分がイヤになります!!!!!
「少佐・・・」
「お願いです。もう少しだけ・・・・
 必ずテンクウ・ケンに戻りますから・・・
 もう少しだけ葛城ケンのままでいさせて下さい・・・」
「少佐、もう泣かないで・・・・」
ルリはそっとケンを抱きしめた。
今のルリにはケンを慰めることは出来なかった。ただ一緒にいてあげることしかできなかった。
同じ造られた存在として傷を舐めあうことしかできなかった・・・。

その日、テンクウ・ケンは初めて泣いた。
心の底から本当に泣いた。
ほんの少しだけ・・・・人形から人間に近づいたのかもしれない・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


ってことで激闘編はこれにて完です!
ダークだ!カタストロフだ!グチャグチャだ!
まるで富野アニメみたい(嘘)

ともあれ、今回は戦争の肯定や否定をやりたかったわけじゃなく、ましてやイデオロギーの優劣を決めたかったわけでもありません。

ただケンにとってどちらも選べないほど大事なモノだったということです。
そして人は時として選べないこともある。
現実はアニメのヒーローのように何でも決断できるわけではないということです。

もう一つ、ケンとアキトの違いを明確にしたかったこと。
いままでアキトというキャラクターは主人公であるにも関わらず、常に他のキャラクターが動いた結果でしか表現されてきませんでした
そして今回はケンという「アキトが健全に育ったキャラ」と対比させました。
読者の人がどちらの「アキト」を好ましいと感じるかわかりません。

でも願わくばアキトの心情が理解していただければ幸いです。

んで次回からは最終章、夢幻城編に突入します。
ボスキャラ東郷が出てきます。
どちらかといえば大規模な戦闘よりもインドアが中心になります。
いままで引っ張ってきた伏線が露になっていきます。
遺跡の謎などが大円団に向かって解き明かされます。
ついでにメグミもでます(苦笑)

ってことでご期待下さい!!

では!

Special Thanks!
・ふぇるみおん様
・SOUYA 様
・kakikaki 様