アバン


なんだかんだと、だらだら全面衝突を先延ばしにしてきたナデシコ艦隊ですが、そろそろ戦闘を、ということで準備万端にらみ合いのまっただ中。

あちらの思惑とこちらの事情、その諸々を抱きかかえながらも全面戦争は静かに始まりました。

ですが、歴史を遙か高みから俯瞰してみれば、それすらもただの大事の前の時間稼ぎにすぎないのかもしれません・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ナデシコ艦隊空域


「行きますよ、皆さん!!」
「よっしゃ!」
「OK!」
先鋒を務めるテンクウ・ケンの号令以下、リョーコとサブロウタが気合い十分に応じた。
彼ら三機のサレナカスタムが唸りを上げて火星の後継者の艦隊中心にめがけて突き進んでいった。



火星の後継者・ヤマウチ少将の旗艦・きさらぎ


「敵影確認!
 ブラックサレナ・・・しかも三機です!!!」
「何!!」
オペレータの悲鳴のような報告がヤマウチ以下、火星の後継者達を震撼させていった。

無理もない。
彼らにとって黒百合ことブラックサレナは憎悪の対象であり、同時に恐怖の対象でもあったのだ。
過去にシラヒメ、アマテラスといったヒサゴプランの重要拠点を単機で破壊した張本人なのだから。
そしてあの狂犬北辰すら下した最強の戦士。
たとえその真実がたぶんに誇張されていたとしても彼の伝説は今なお人々の間に根付いていた。

その黒百合ことブラックサレナと酷似した機体が三機も現れたとあっては、その戦闘能力だけを想像しても恐るべきものであった。

ユリカが無理は承知でわざわざブラックサレナの量産機を導入したのもそういう意味があった。自らの影を実像以上に大きく見せる・・・たとえハッタリであろうとも、十分有効な武器となるのだ。



Nadesico Second Revenge

Chapter14 シンデレラズ タイム



戦闘空域


「おっぱじめるぞ!覚悟しやがれ!!」
そのかけ声とともに、リョーコのサレナカスタム・レッドの右手に握られた巨大なフィールドランサーが唸りを上げて光り始めた。
「アタック!!」
リョーコはその切っ先を構えたまま敵陣のただ中に突っ込んでいった。

ガキッッッ!!!

迎え撃とうとしたステルンクーゲルの胴体にフィールドランサーが突き刺さり、そのまま胴体をまっぷたつにした。その直後、リョーコのサレナはかまわずその後ろの敵に襲いかかる。

「うわぁぁぁ!幽霊ロボットめ、来るな!!」
そのステルンクーゲルのパイロットは全弾を打ち尽くさんばかりにレールカノンの引き金を引いたが、突撃してくるサレナカスタムにはびくともしなかった。
「クレイジーだ!!」
「撃て!撃て!!」
「なぜ落ちない!!」
敵の通信には狂乱のような叫び声が錯綜していたが、そんな彼らをあざ笑うかのように赤いサレナは破壊をまき散らした。

「テメェは邪魔だ!オレが用のあるのは後ろの戦艦!!」
ランサーを振り回す・・・というよりは単にランサーを相手にぶつける、そんな行為でさえ、リョーコのサレナカスタムは敵機を破壊していった。

 フィールドランサーだけによる無謀な特攻・・・リョーコの乗機が以前のエステバリスカスタムのままなら、それは自殺志願者の行動に他ならなかっただろう。

 だが、彼女の乗機はサレナカスタム、いくらデチューンされているとはいえあのブラックサレナに近い能力を持つ機動兵器である。その強固な装甲と戦艦並のディストーションフィールドが彼女の無謀を可能にしていた。
加えて彼女は戦闘を熟知している。
その無謀な戦闘が可能であれば一番効果的なのは質量を持った物体による物理的衝撃だ。グラビティーブラストの直撃にも耐えるディストーションフィールドといえど防ぐ手段はない。

 アマテラスを易々と突破していったブラックサレナの機動力とその質量、その上巨大なフィールドランサーが上乗せされれば、戦艦のフィールドですら易々と切り裂いていくことが出来た。

「ひゅう、中尉ノリノリですね。」
「サブロウタさん、遅れちゃいけませんよ。」
「うい〜〜っす!」
ケンとサブロウタの武装はブラックサレナと同じハンドキャノンである。アクロバットな戦闘をしながら使用するにはうってつけの武装であった。
彼らの狙撃は敵味方の入り交じる戦場にて確実に敵機を打ち落としていった。

「いやぁ、絶好の的ですねぇ。うんうん!」
主戦場から少し後方の空域からヒカルのサレナカスタム・カーキーとエステバリス隊による第二陣がリョーコ達の駆け抜けていった後の戦場を垂涎にて眺めていた。
指揮系統はバラバラ、パイロット達は動揺しまくり、既に浮き足立った敵の機動兵器部隊を掃討するのがヒカル達の役割だった。
「は〜い、皆さん。後かたづけをしますよ!!」
『『『『『はい!!』』』』』

ヒカルのサレナが構えたレールカノンから放たれた銃弾はさらに多くの火球を生み出した。

「ひま・・・」
前線では派手なドンパチをしているリョーコらと違って、イズミは一人寂しく黙々と彼らがし損じていた敵機を大型レールカノンにて狙撃していた。
それでも10キロ先の目標を正確に射抜いているのだから大した腕である。ほとんど物干し竿と同じぐらいの長さのカノン砲はその出力と反動の大きさによりスーパーエステですら取り扱いの難しい兵器である。
それがサレナカスタムにかかると易々と扱える。

サレナカスタムは単にエステバリスに重厚な追加装甲とバーニアを装備した機体ではない。エステバリスという兵器の運用範囲を広げてくれるシステムなのである。それは既にアマテラス攻略の際にアキトが証明して見せたことだった。
だからネルガルは切実に製品化したかったのだ。

だが同時にそれが包容する弱点に気がついた者がいた。



火星の後継者・ヨーロッパ方面軍旗艦・かんなづき


「ほう、これがナデシコの切り札か?
 案外つまらん手を使う。
 なぜ現代の戦闘が英雄を生み出さなくなったか教えてやろう。」
 戦況を眺めていち早くサレナカスタムの弱点に気がついた西條はヤマウチに連絡を入れた。



火星の後継者・ヤマウチ少将の旗艦・きさらぎ


「駆逐艦はづき撃沈!!」
「弾幕が薄い!クーゲルの残りの部隊も投入しろ!!」
 ヤマウチが崩れそうになる戦線を必死に維持しようとしていた。一度走った戦場での動揺を打ち消すのは大変労力のいる作業であった。

「少将、西條司令から通信です」
「何だ!!このくそ忙しいときにあの若造は!
 無視しろ」
「しかし・・・」
 そういわれてもオペレータは困ってしまう。たとえヤマウチの頭の中からその意識が失われていたとしても、形式上西條はこの艦隊の最高責任者にあたる。その通信を無視しろなどとは・・・

『無視はないだろう?』
 司令の権限で強制的に通信を割り込ませたのか、ヤマウチの眼前にウインドウが開いた。ヤマウチは露骨に舌打ちをした。

「西條閣下、今は遊んでいるときではござらん。お付き合いは戦闘が終わってからにしていただきたい!」
 まるで仕事場に舞い込んできた子供のように西條を扱うヤマウチ。無礼を通り越しているのか、単に彼の認識の中では戦場も知らないただの技術者あがりとしてしか彼を認識していなかった。
『オレとて戦闘の話しかするつもりはないのだが・・・。
 いいのか?そのままでは負けるぞ?』
 無礼なヤマウチの言葉を受け流しておいて、西條は的確で手厳しい指摘を行った。

「な!」
『別にオレはかまわんが?
 ヤマウチ少将が司令官の言うことも聞かずに暴走したあげく大兵力を失いました・・・そう報告されるだけだからな。』
「く!!」
『選択は二つだ。
 屈辱の中、おとなしくオレに指揮を委ねるか
 あるいは意地を貫いて敗戦の将として歴史から抹消されるか』
「この若造が!!」
『そうそう、第三の選択として
 万分の一の確率で勝てるかもしれないな。
 それにかけてみるか?』
「・・・・」

ヤマウチが返答に窮しているうちにも次々と戦況悪化の報告が舞い込んできた。今の彼に戦況を覆すことは不可能に思われた。
結局彼は屈辱を選ぶこととなった。



戦闘空域


「おや?なんか流れが変わったかな?」
 一番最初に異変に気がついたのはイズミだった。遠く戦場を俯瞰していたからこそわかったのかもしれない。
敵の動きが徐々に落ち着きを取り戻していったからだ。



火星の後継者・ヨーロッパ方面軍旗艦・かんなづき


「全軍、守りに徹しろ」
 指揮権を取り戻した西條の一番最初にしたことはかのような内容の伝令を全軍に流すことだった。

『西條殿!!』
ヤマウチが抗議の通信を入れてきたが、彼はあきれたように窘める。
「パニックになった奴らに戦えといっても何も出来やしない。
 が、身を守るのなら意外に通じるものだ。それどころか必死に身を守るから結構鉄壁の防御をするようになる」
『しかし』
「その動揺が敵につけ込まれているということに気がつかないのか?
 落ち着いて冷静に考えろ。
 奴らは高々数機の機動兵器で襲いかかってきただけだ。守りに徹して守れない数ではあるまい?」
『・・・』
確かに、守りに徹し始めてから被害の拡大は急速に収まりつつあった。

「いいか。あの女は・・・ミスマル・ユリカは魔女じゃない。ただのペテン師だ。貴様らはそのペテンに引っかかっただけだ。それを一つずつひっぺがしてやるから見ておけ」
西條の瞳は獲物を狩る獅子のようであった。



戦闘空域


「ちょっと!こいつら急に逃げ出し始めたっすよ!!」
 サブロウタがようやくそのことに気がつき始めた。今までなら必死に迎撃しようと艦隊の壁になって立ちはだかってきたステルンクーゲルの部隊が急にその行動を止め始めたのだ。
そして逃げながら隙を見てリョーコ達のサレナカスタムに砲撃を加える・・・そんな戦闘パターンに切り替えてきたのだ。

「なら直接戦艦を落とすまで!!」
 リョーコは即断即決即実行で近くの戦艦めがけてフィールドランサーを構えてつっこんだ。
「やめなさい!スバル中尉!」
「にょおおおおお???」
ケンが制止したときは既に遅く、サレナカスタムは戦艦のフィールドに阻まれて跳ね返っていた。そこをステルンクーゲル部隊の砲撃にさらされて慌ててよけるリョーコ。

「あわわわ!
 フィールドを破れない!?」
「攻撃に回すべきエネルギーを全てディストーションフィールドに回してるんですよ」
 ケンはリョーコの疑問に対して確信めいた推論を答えた。

 それの意味すること・・・つまり・・・

「んなことしたら・・・」
「そう、攻撃を放棄して守りに徹した・・・ということですよ。」
 ケンは断言した。そしてそれの意味することを薄々気がついたのはケンだけではなかった。



ナデシコC・ブリッジ


『・・・ルリちゃん、やばいねぇ・・・』
『ええ、ハッタリがバレましたね。』
ユリカとルリは他のクルーには聞かせられない内緒話をしていた。



火星の後継者・ヨーロッパ方面軍旗艦・かんなづき


「ウィークポイントその1
 奴らの最大の武器は我々の持っている『黒百合への恐怖心』を逆利用することだけだ。それ以上の攻め手はない!」
西條の宣言にヤマウチは思わず驚きの声を上げた。

『バカな!
 だって奴らはまだ黒百合はおろか、システム掌握すら・・・』
「その二つとも可能性はない。
 黒百合を出せるぐらいなら最初から出している。その方が我が軍の戦意を喪失させるのにより効果的だからな。
 戦力の逐次投入などというのは大艦隊が少数の敵に行う愚挙だ。ましてや少数精鋭の艦隊編成がそれを行おうというのは正気の沙汰じゃない。
 まさか、ミスマル・ユリカもホシノ・ルリもそんな愚かな行為をするわけはあるまい?」
『・・・ということは・・・・』
「そう、ウイークポイントその2
 黒百合の不在。
 奴は何かの障害で出てこれない。だからブラックサレナもどきでごまかすしかなかったのさ。」
『まさか・・・』
「まだまだあるぞ。奴らの弱点は。」
 絶句するヤマウチを余所に次々とナデシコを追い詰めにかかる西條であった。



戦闘空域


「ちょろちょろ邪魔だ!!」
 リョーコ達は今バッタの大群に襲われていた。
バッタそのものはたいしたことはない。フィールドランサーの一振り、ハンドカノンの一発で簡単に沈んでしまう。今のサレナカスタムにとってそんな程度の敵でしかない。

 だが、何せその数が多い。
ましてはその後ろには守りに徹しているステルンクーゲル部隊がいる。
バッタ達にかまけすぎるとステルンクーゲル部隊からの砲撃を食らう。
バッタ達を無視して戦うにも戦艦や機動兵器達は守りに徹しているのでまともに相手をしてくれない。そしてほおっておけば自分達の周りにバッタ達がまとわりついて身動きが出来なくなる。

いざとなれば無人機のバッタのことである。サレナに張りついて自爆・・・ということもありうる。
無視することは出来ない。
となると不毛なバッタの掃討作業になるのだが・・・

これは既に西條のサレナカスタム攻略の一歩であった。



火星の後継者・ヨーロッパ方面軍旗艦・かんなづき


「ウィークポイントその3
 パイロットの習熟度不足だ」
『どういう事ですか?』
 目に見えてサレナカスタムの動きが鈍化するのをみて、ヤマウチは既に西條の言葉を疑うことはしなかった。

「ブラックサレナと同レベルの機体などおいそれと動かせるものではない。
 例えば北辰・・・あのぐらい人間を捨てて初めて自分のものにできる・・・それぐらいの機体だ。付け焼き刃で乗りこなせるほど甘くはない。」
『付け焼き刃ですと?なぜそこまで言い切れます。』
「1ヶ月、オレは探りを入れるためにバッタでナデシコを襲わせた。
 その際にあのブラックサレナもどきを出さずにブラックサレナそのものを出したからだよ。」

 西條は大胆不敵に笑った。
確かにあの時点でサレナカスタムというものが存在していたなら、すぐに出撃させていたであろう。

なぜって?

あの時サレナカスタムが存在していればブラックサレナなど出さずとも簡単にバッタの大群を駆逐できたであろう。
ブラックサレナを出す理由などパフォーマンス以外の何者でもない。
なのにわざわざブラックサレナを出撃させたのだ。

「そうなれば、あの時点でブラックサレナもどきという兵器は存在していなかったと考えても良いだろう。」

ならばサレナカスタムを乗りこなすだけの時間がナデシコのパイロットにあるとは思えない。

「さて、魔女のかけたシンデレラの魔法は時間が過ぎれば消え去るのが定めだ。もうすぐ十二時の鐘が鳴るぞ?」
西條の恐ろしいまでの策略にヤマウチは背筋の寒くなる思いがした・・・



戦闘空域


「はぁはぁはぁ・・・」
リョーコはいうに及ばず、サブロウタやケンでさえ相当疲弊していた。
付かず離れず、敵の部隊は攻めるでもなくただ守りの片手間にサレナカスタムに攻撃を加えていたからだ。そしてその全てをリョーコ達は相手にしなければならなかった。

これがいつものエステバリスなら彼らもこうは疲弊しなかっただろう。
だが乗っているのはサレナカスタムであり、ただ乗っているだけでも暴れ馬の背にしがみついているような代物だ。
体の感覚を失い、長い期間操縦しているアキトであればそれほどでもなかったのであろうが、乗り始めて1ヶ月の彼らではそうはいかない。
こればかりは時間をかけて少しずつ慣れていくしかなかった。

なのにユリカは今回の作戦でわざわざサレナカスタムを使用した。短期決戦で決着をつけられる・・・そうふんでいたからだ。
だがその思惑は智将西條に看破されて対抗策を打たれてしまった。

戦闘の長期化・・・

それが今のナデシコ艦隊にとって最大の弱点であるという事に。



ナデシコC・ブリッジ


「サレナカスタム先発隊の損耗率が増加しています!」
ユキナの声が少しうわずっている。ブリッジクルーの動揺もやや表面化し出してきた。

「ルリちゃん、システム掌握の具合はどう?」
「ハーリー君にブラフでちょっかいかけてもらってますが・・・のってきませんね。」
ルリとユリカは例のごとくひそひそ話をしていた。

「プロテクトの仕組みはわかった?」
「いえ、伝送系やプロトコルそのものを変えている様子はありません。
 もう少し探査震度を下げれば何とかなるんですが・・・そうすると敵さんも探査信号を送って来るんです。フェイクにしても牽制には十分ですね。」
「うぅぅぅぅぅぅ・・・」
ユリカはうなるように悩んでいた。

 クラスタリングシステム掌握で強引にハッキングを掛ける手もあるが出来れば最後の手段にしたい。
プロテクトの種類にもよるが、必ずしもハッキング出来るとは限らないし、逆にこちらが開いた侵入ポートを逆利用されて逆ハックされる危険性もある。
システム掌握の絶大な神話を打ち壊された時点でナデシコ艦隊の命運は尽きてしまう。それだけはさけたかったが・・・。

だが、リョーコ達にかけたシンデレラの魔法が解けるのはもうすぐだった・・・。

See you next chapter...



ポストスプリクト


威勢の良い前半と苦境に立たされる後半とコントラストが分かれている今回の作品ですがいかがでしたでしょう?
いえ、単に西條に推理モノの真似事をさせてみたかったのかもしれませんが(苦笑)

一応いろいろプランを考えていくうちにSecond Revengeは三部構成ぐらいのボリュームになりそうです。12話までのナデシコ艦隊結成編、前回からの激闘編、そして最後の???編です。
計算するとどれも同じぐらいの分量があるので総計三十数話・・・

・・・本当に完結できるのか < 自分(爆)

あと二十数話ですがうざったくなければ以降もおつき合いください。

なお前回ご紹介が漏れましたがヤマウチ少将はフジタ少尉と同じくsibutaniさんの持ちキャラです。
ご使用を許して頂いた事に改めて謝辞を述べさせて頂きます。
   >sibutaniさん、火星の後継者側に回って済みませんでした。

では、次回まで

Special Thanks!
・HIRO70 様
・英 貴也 様
・kakikaki 様