アバン


たとえその夢がたどり着けない高見にあろうとも、たとえその夢の道半ばにして倒れたとしても、努力の軌跡は人の心に残るものだから。

そして軌跡が人の心に響くものならば、その夢は決して死にはしない。
次に続く人を勇気づける礎となる。

そうやって夢は人々によって紡がれていくものだから・・・

アキトさんがあの日願った
「僕もコックさんになるぞ!」
という夢は決して消えたりはしないのです。

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



新なぜなにナデシコ・状況説明編


皆さんこんにちわ。おひさしぶりです。
ルリです。
まぁ、こんな事でしか出番がないのは恐縮です。

別に戦争を忘れていたわけではないのですが、私事のゴタゴタが片づくまでは血気にはやる皆さんに少し我慢していただきました。
そんなわけで待ちきれない敵さんはクリムゾングループの最大の本拠地ヨーロッパ方面に全軍の半数以上を集めていつでも臨戦態勢と言うところ。
まぁ敵さんにもそれなりに戦わざるを得ない理由ってやつがあるわけです。

ナデシコ艦隊も地球連合あたりに急かされて押っ取り刀でかけつけたわけなのですが・・・。
敵さんも平気で大艦隊を一ヶ所所に集めるあたり、システム掌握が怖くないのか、大した自信です。
本当に大丈夫なんですか、ユリカさん?



火星の後継者・ヨーロッパ方面軍旗艦・かんなづき


火星の後継者ヨーロッパ方面軍の指揮官である西條は憂鬱の直中にいた。
『西條殿、そう緊張せずにお気を楽に。
 万事はこのヤマウチにお任せ下さい!
 ガハハハ!!』
西條はこの慇懃無礼な口調で語るヤマウチ少将にウンザリしていた。ヤマウチ少将は今の艦隊の母体になっている元統合軍のヨーロッパ方面艦隊の長である人物である。彼は形だけの司令官に鷹揚な態度をとり続けた。

残念なことに、火星の後継者の内情は決して一枚岩ではない。ましてや寝返った元統合軍の各部隊ですらそれぞれのシンパシーにて分裂している。それをどうにか一本にまとめているのが東郷の政治的手腕、西條のナデシコに対抗する技術力、そして何より居場所の喪失という危機感である。そんな中で権力闘争し出せば組織が瓦解しないとも限らない。

だが、信じられないことにこの艦隊が編成されるにあたり、指揮権を主張したのは彼である。同列である他の提督達が黙っているはずもない。かなり深刻な闘争が行われたが結局らちがあかず、西條が指揮官になるということで落ち着いた。

それでも彼らは実質的な支配勢力を背景に我が物顔でいた。

『ふん、どうせオレの技術がなければシステム掌握にて秒殺されるだろうが!』
心の中で忌々しく思う西條であるが、無論そんな彼らを御する事など容易であるとも考えていた。

『まぁせいぜいかませ犬としてがんばってもらおう。』
西條にとって真に黒百合=テンカワ・アキトを討ち取れるのは自分だけだと信じていたからであった。



Nadesico Second Revenge

Chapter13 錨を巻き上げよ、焔の時代をもたらすために



ナデシコC・作戦会議室


主要な幹部を集めて今回の戦闘の作戦内容が説明されていた。説明をしていたのはやはりルリである。
「というわけで敵艦隊の勢力分布図を頭の中にたたき込んで下さい」
ルリが状況説明をそう締めくくった。それを引き継ぐようにユリカが残りの事項を話す。
「最後に、今回の作戦はあくまで前哨戦、相手の力を見るためのものです。
 勝てるに越したことはありませんが、やばくなったら跳んで逃げます」
ジュンが多少しかめっ面をする。逃げるという言葉は軍人には禁句なのだが、
本心を素直に言うところがユリカらしい。
「ということですので、今回の作戦はアキトのブラックサレナは禁じ手にします。システム掌握も使用しません。
 出来ればナデシコBとエステバリス隊だけでぶっちぎって勝っちゃって下さい!!」
『えええええ〜〜〜さっき危なくなったら逃げていいと言ってたのに・・・』
さっきと話が違うのに一同の非難がましくため息をついた。

「え・・・切り札を二つも温存してなお余裕を持って戦闘できる事を示すことにより、敵に我が艦隊の実力を実像以上に大きく見せる事が今回の作戦の趣旨ですのでよろしく。」
慌てて発動するルリのフォローだが、成功しているかは疑わしいかった・・・。



火星の後継者・旗艦ゆめみづき


「よかったのですか?閣下」
「なにがだ?」
「全軍の半数以上を西條少将に渡されて?」
そう疑問を呈したのは火星の後継者総督である東郷の副官、風祭中尉であった。風祭にも西條のはやる野心が嫌というほどわかる。
彼は危惧しているのだ。
万が一にも西條がナデシコ艦隊に勝ちでもすれば東郷の地位が危うくなるのでは?と。

「どうかな?勝てれば勝てるに越したことはないが・・・まぁ無理だろう。」
「なぜです?たかが三隻の艦隊に・・・」
「・・・どうも我々はナデシコを、いやテンカワファミリーを過小評価する傾向があるな。」
「過小評価・・・ですか?」
風祭はそういわれて少し不服だった。曲がりなりにも彼は東郷の副官であり様々な資料にも目を通している。身内への評価を割り引いても西條が負けるいわれはなかった。

「それは純粋に軍事的な話だろう?
 ミスマル・ユリカは思ったより多くのリソースをその手にしている。たとえば今の今まで大規模な軍事衝突を抑えていたのがその好例だ。」
「といいますと?」
「読んで見ろ。オレの直下の諜報員の報告書だ」
風祭はその報告書を読んで衝撃を受けた。内容をかいつまむと、火星の後継者内部の政治闘争に対してミスマル・ユリカによる介入があると結論づけられているのだ。

「そんなバカな!」
「信じられないか?だが現に彼女は大きなコネクションを持っている。
 父親ミスマル・コウイチロウによる宇宙軍の諜報部。
 秋山源八郎やテンクウ・ケン経由による木連の諜報部。
 そして黒百合経由のネルガルシークレットサービス
 単に諜報部関係だけでもそれだけを自由に動かせる。
 そして電子の妖精ホシノ・ルリ経由による電脳世界からの情報攪乱・・・
 如何様な流言飛語でも我々に送ってこれる。」
「・・・」
東郷のレクチャーに風祭は絶句した。



ナデシコC・ブリッジ


「ユリカさん」
「なに?ルリちゃん。」
二人は小声で内緒話をしていた。

「話しておかなくて良かったんですか?」
「アキトのこと?」
「ええ、例のスタンピートの期間と重なって出るに出られないって・・・」
「言っても動揺を誘うだけだし、アキトだって知られたくないみたいだしね・・・」
ユリカは溜め息をつくように呟く。ちょうどアキトがプリズンから出られない期間と今回の戦闘が重なってしまったのは致し方ないとはいえつらかった。

「システム掌握なんだけど・・・例のプロテクトはやぶれそう?」
「あと2、3回ぐらいアタックしてみないと何ともいえません。それまではプロテクトサーバーを担っている機動兵器がノコノコ現れてくれたところを叩くしかないですね。」
「・・・やっぱり?」
南雲の叛乱のとき、システム掌握は最初通じなかった。結局南雲の夜天光を破壊することによりプロテクトが解除されるシステムになっており、ケンが一騎討ちの末に倒したという経緯がある。

「ルリちゃん、念の為にサリナさんにお願いしてアレの準備をしてもらってて。」
「アレ・・・ですか・・・」
「切り札は残しておきたいんだけど・・・そうも言ってられないしね・・・」
「はい、わかりました。」

ユリカもルリも結局は見栄を張らざるをえない現状であった。



火星の後継者・旗艦ゆめみづき


そんな彼女達の発言とは裏腹に東郷の冷静な分析は続いていた。
「情勢は彼女に有利に働いている。
 たとえば政治的発言力だが、統合軍が脳死状態である以上、軍事的に我々を退治できるのはナデシコ艦隊だけだ。このカードを持つ限りミスマル・ユリカは如何様な政治的要求をも地球連合に飲ませることが出来る。
 結果、彼女の発言力は我々が担保しているのだよ。」
「そんな・・・」
「これだけでは足りないか?
 ならばこういうのはどうだ?
 大義名分というやつは?」
「あ・・・」
風祭は見落としていた事実に気がついた。

「彼女は第一次事変の被害者だ。その彼女が自身に受けた非人道的な扱いを声高に叫べばおそらく世論の大多数はあちらに転ぶ。これを覆せるだけの材料を我々は持ちあわせてはいない。」
「そんなことはありません!我々にはあらゆる腐敗を許さないという理想が!」
「理想?じゃ、その理想とやらを女が泣いている写真と並べて飾ってみろ。
 大衆がどちらを支持するか試してみるといい。
 君はどちらに求心力があると思う?」
「そ、それは・・・」
「これはホンの一例さ。彼女はこれ以外にもいくつも手札を持っている。そういうことさ」
政治とはそういうモノだ。軍事力あるいは戦闘行為は交渉を有利に進める手段の一つに過ぎないのだ・・・。



ナデシコB・ブリーフィングルーム


「エステバリス隊の作戦内容を伝えます。」
指揮官テンクウ・ケンがエステバリスのパイロットを集めて最終的な作戦の指示を行なっていた。
「スバル機、タカスギ機は私と共に先鋒を勤め、敵陣の中央突破による分断にかかります。」
「よっしゃ!」
「はいはい!」
リョーコとサブロウタは自信満々にうなずく。
「過去、テンカワさんは単騎で敵陣突破をされました。テンカワさんに出来て、我々が同じことを出来ない道理がありません。そうですよね?」
「「おうとも!」」
ケンは二人に気負いがないのを確認すると満足気に頷いた。

「アマノ機はエステバリス隊の指揮をしつつ先鋒の開いた血路を掃討にかかってください。マキ機はナデシコ艦隊を援護しつつ大型レールキャノンによる長距離からの援護射撃をお願いします。
 ターゲットの優先はお二人に任せます。」
「任されました〜〜♪」
「任せといて!」
「おお、イズミちゃんが既にシリアスイズミモードだよ・・・」
ヒカルもイズミもやる気満々だった。

「それでは皆さん、今回の戦闘は我々エステバリス隊の双肩にかかっています。
 敵の間ではテンカワさん以外は眼中にないようですが、この一戦で我々の存在感を彼等の記憶に刻みつけてあげようではありませんか!!」
「「「「「おう!!」」」」」
ケンの激にエステバリス隊全員の意気は上がる一方だった。



火星の後継者・旗艦ゆめみづき


「ミスマル・ユリカの持っている人材を見ても垂涎モノだよ。」
東郷はユリカの持っている人材をあげ始めた。

「彼女の脇を固めるのはホシノ・ルリとアオイ・ジュン。
 電子の妖精ホシノ・ルリはミスマル・ユリカの縦横無尽な戦略、戦術を良く理解し組み立てる能力を持つ。何より電脳世界では彼女の右に敵う者はいない。西條のプロテクトですら時間稼ぎに過ぎん。
 アオイ・ジュンは知将ムネタケの懐刀として鍛え上げられた組織運営のエキスパートだ。目立たんがうまく対外的な防波堤になって彼女達を戦略に専念させている。」
「ホシノ中佐はともかくアオイ中佐はそれほどの男ですか!?」
「ああ、普通なら女子供が提督や艦長などという組織はさまざまな中傷、偏見や圧力で崩壊していくものだ。それらを全て引き受け、自分の手元だけで握り潰して艦隊そのものに伝えない・・・並みの神経では務まらん。西條も似たような状況だが、技術屋あがりに耐えられるかどうか・・・」
「・・・」
同じことが自分でも務まるだろうか・・・そう自問自答する風祭だった。

「パイロット・・・テンカワ・アキトは言うに及ばず、スバル・リョーコとタカスギ・サブロウタらがいる。二人は優人部隊のトップクラスに匹敵する。
 何よりテンクウ・ケンがあちらにいるのは痛手だな。」
「なぜですか?」
「西條のアキレス腱だからだ。」
「どういう事でしょう?」
「戦ってみればわかる。」
風祭の疑問に含みを持たせたまま笑う東郷。



火星の後継者・ヨーロッパ方面軍旗艦・かんなづき


「まずは我々の最新鋭ステルンクーゲル部隊にて制空権を確保いたします。閣下の積尸気部隊は温存されるがよかろう。何せ『決戦兵器』ですから。ガハハハハ!!」
ヤマウチの何がおかしいのかわからない笑い声が西條を刺激した。本人は積尸気よりもステルンクーゲルの性能を誇っているつもりなのだろう。

確かに積尸気は片道切符のボソンジャンプだけに特化した機動兵器であり、ゼロ距離攻撃に的を絞った使い方を得意とする。遺跡システムがない今、短距離のジャンプしかできずその使用範囲は限定されているといえる。
だが、兵器にはそれぞれ決められた役割と用いられる場面が想定されている。

たとえばステルンクーゲルなどはレールカノンによる中長距離の砲撃戦闘を得意とする機体だ。接近戦になれば積尸気どころか旧式のエステバリスにも劣る。そういうことをこのヤマウチという男はわかっていないのだ。

『オレの愛機ナイチンゲールが出せれば・・・いやナデシコにはせいぜいヤマウチ相手に手の内を明かしてもらわねば・・・』そう西條は思い直す。
こんな時、かつて親友であったテンクウ・ケンがそばにいれば何と言ったであろう?彼のそばにはルリやジュンの様に自分を殺してでも支えてくれる者が隣にいなかったというのが一番の不運かもしれない。



火星の後継者・旗艦ゆめみづき


「電子の妖精が三人、ホシノ・ルリ、ラピス・ラズリ、マキビ・ハリ、この人材に抗するのは容易ではない。特にシステム掌握を行える人材がこれだけ揃っているのだ。ホシノ・ルリが何を仕掛けてくるか、全く予測がつかない。」
「・・・」

「そして何より恐ろしいのが、ミスマル・ユリカを含めて現存するA級ジャンパーを全て確保しているということだ。これがある限りナデシコは如何様な戦法でも取れる。
 たとえチェックメイトされていても一瞬で消え去り相手を摘むことができる。」
「そんな!そのおっしゃりようでは我々はまるで・・・」
「今のままでは勝てない・・・・か?
 そうかもな・・・」
「馬鹿な、それでは閣下は勝算もないのに決起したというのですか?」
風祭は驚きのあまり尋ねた。が、東郷の不敵な笑みは消えない。

「オレはそれほど愚かではない。」
「では何故!」
「考えても見ろ。かつて草壁中将は『MARTIAN SUCCESSOR』の力を利用しようとして戦いを挑んだ。しかも不完全な技術のままで。
 結果、出来た事といえば部隊を任意の地点に送りこむことだけだった。
 だが『MARTIAN SUCCESSOR』一人とナデシコC一隻のみでそれらは覆った。
 所詮、『MARTIAN SUCCESSOR』の力を利用するということは、並びこそすれ、超えることなど出来ないということだよ。」
「今回、真っ先に遺跡演算ユニットの占拠を行なわなかったのはそういう意図の元ですか。では我々が決起した目的とは一体何なのですか!?」
「もしも仮にだ。『MARTIAN SUCCESSORの力を超える存在』があるとすればどうだ?」
「!!!」
「西條には時間稼ぎをしてもらう。我々が『それ』を見つけるまでの間は・・・」
「『それ』・・・とは一体?」
「城・・・そう呼ばれているものだよ・・・」
東郷の口から出たのは意外な単語だった。



ユーチャリス・プリズン


「アキト、大丈夫?」
「ああ、なんとかな。」
アキトのナノマシーンスタンピートはようやく収まった。が、精神的にはボロボロ、体力的に思いっきり消耗しており戦闘どころか動くことすらおぼつかない。せめてジャンプして逃げるぐらいの精神力は温存しておかなければならない。今回の作戦には参加するのはとうてい無理だ。

「ラピスこそ大丈夫か?」
「うん、ルリ姉さんを助けに行って来る。」
「無理はするな。ルリちゃんも無理は望んでいない」
「わかっている」
ラピスはアキトの気遣いが少しうれしかった。だが、さっきから気がかりになっていたことを尋ねてみた。

「それよりもアキト、あの城って何?特にあの場面でうなされていた。」
『あの城』といわれてアキトはようやくそのことに気がついた。そう、いつも気がつくと忘れてしまっている。宇宙に浮かぶ謎の城・・・
「わからない。何か大事なことを見たような気がするんだが・・・。
 ラピスにも見えたのか?」
「うん。でもぼやっとしかわからなかった。」
「そうか・・・」
アキトはどうにも腑に落ちなかった。懐かしさと、そして危機感がない交ぜになった、そんな嫌な感覚だった・・・。



ナデシコB・カタパルト


「野郎ども、派手に暴れるぞ!!」
「「「「「了解!!!」」」」」
リョーコの号令の元、サレナカスタム5機、エステバリス7機が弾かれるようにナデシコ艦隊から出撃していった。

ナデシコと火星の後継者達の初めての本格的な戦闘の幕はこうして切って落とされた。

See you next chapter...



ポストスプリクト


というわけで激闘編最初のお話は戦闘開始前の諸事情ってやつでした。
いきなり戦闘に移るよりもこの方が盛り上がるかな・・・と。
次からはちゃんと戦闘します(苦笑)

一応、ラストが決まったのでそれに向けて必要なエピソードを逆算中です。今回の意味深な台詞はそのためのもの。さてうまく生かせるのやら。

とはいえ、戦ってばかりもいられないので間にお気楽なエピソードを幾つか入れていきたいのですが・・・ネタが浮かびません(爆)
もしもリクエスト等ありましたらお願いします。
ナデシコ艦隊のメンバーならギャグでもシリアスでもかまいません。
このカップルのお話が見てみたい!とかでもOKです。

あと、プリンセス オブ ダークネスも一応1万ヒットごとに連載しようかと
考えておりますので(って結局続けるのね、あのネタ・・・)
そちらのほうのネタもあわせて教えてくださると助かります。

では、次回まで

Special Thanks
・近 哲晴 様
・みゅとす様