アバン


彼女は鳥かごの小鳥。
空の青さと空の広さを知らぬ小鳥。
灰色の壁と狭いかごの中が全ての小鳥。

だから彼女は空はとってもすばらしいけど、自分には飛べないと思っていた。
翼をもがれそれでもなお飛ぼうとする大切な人を見捨てられなかったからだ。

でもそれは違う。
一番大事なのは苦しみを共有することではない。
自分も幸せになり、そして相手も幸せにする。
なぜなら自分を愛せない人に他人を愛することは出来ないのだから・・・。

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



ナデシコC・サユリの自室


さて今宵の主人公、ナデシコCのシェフ、テラサキ・サユリ嬢は自室にいた。パジャマ姿で複数のウインドウを開いている。
ウインドウシステムを利用して一度に数人と同時にコミニュケーションをとれる『パーティーライン通信』というやつである。
メンバーはサユリを含めてホウメイガールズご一同である。

「そういえば映画の主題歌、決まったんだって」
『うん!』
ジュンコは嬉しそうにうなずく。サユリが抜けた後、彼女がグループの取りまとめをしている。ヒサゴプランのマスコットガールの件は火星の後継者騒ぎでケチがついてしまった。
ジュンコがリーダーになってから初めての大きい仕事なので彼女自身張り切っていた。
「で、題名はなに?」
無邪気に聞くサユリ。だがジュンコの顔が一瞬こわばる。
『・・・ガンガー』
「ん?」
『ゲキガンガー劇場版、ゲキガンガーよ永遠に!・・・っていうの・・・』
「マジ?」
『マジ・・・』
一同のウインドウがため息ついたのはいうまでもない。たぶん、白色彗星が地球に近づいてゲキガンガーが体当たりして防ぐ・・・なんてお話にはならないと思うが。

「どうして戦争が起ころうって時期にまた・・・」
サユリは業界のひどく平和ボケしたなりに驚いたが、その問いにはハルミが答えた。
『メグミさんの受け売りなんですけど、火星の後継者って元木連の人が多いでしょう?ファンの宿願だった映画化を実現できれば戦争そっちのけになるからって、ナデシコの側面サポートらしいんですけど・・・』
「どこまで本当なのかしらね?」
サユリは苦笑するのみだった。

「そういえば、このお話ってメグミさんからもらったの?」
『ええ、そうですよ。あの人、ナナコさんの声を当てることになってますから』
そのツテでねぇ・・・と思い至ってサユリは一瞬表情が強ばった。

『サユリさん、アキトさんがナデシコ艦隊に参加していることは口外無用ですよ。特にメグミさんなんかに情報を漏らした日には・・・どうなるかわかってますね?』
サユリの頭の中をルリの冷ややかで刺すような笑顔が脳裏によぎった。

「・・・へぇ、よかったわね。メグミさん、良くしてくれるんだ?」
『う〜ん、あれはどちらかというと嫌な仕事の道連れにされた、って言わない?』
お茶を濁そうとするサユリの言葉に対し、エリはうんざりしたように答えた。
『まぁ、明日もお仕事で会うんだけど、あの人最近プライベートでもうまく行ってないようなんですよね。』
「へぇ・・・」
『この前アキトさん似のコックさんにフラれたとかで。荒れてて扱いが難しくて。』
「ははは・・そう・・・」
こりゃ、アキトさんの情報は絶対洩らせないわね・・・と心の中でつぶやくサユリであった。

『ねぇサユリちゃん、お願いだから帰ってきてください!』
「な、なんで?」
唐突に泣きつくミカコに驚くサユリ。
『ジュンコちゃんじゃエリちゃんを押さえきれないの。やっぱりサユリちゃんじゃなきゃダメなの〜〜!!』
『ミカコちゃん、それどういう意味?』
『だって、この前メグミさんにフラれたの?ってストレートに聞いちゃうし。どれだけ寿命が縮まったか知ってるの?』
『・・・そんなこともあったっけ?』
すっとぼけるエリ。
『それだけじゃないもん!えっと、えっと』
ミカコはなおも言い募ってサユリに必死に帰ってきて欲しいと訴えようとしていたが、サユリはやんわりと遮るように言った。
「ミカコちゃん、悪いんだけど帰るつもりはないの。
 自分の本当にやりたいことが見つかったから。
 ごめんなさいね。」
『うう・・・』
悲しむミカコをハルミがなでなでした。

『その割には元気なさそうだけど、何かあったの?』
「ええ!そ、そんなことないよ・・・あはははは」
ボソリと言ったエリの一言がサユリを慌てさせた。

その後、ボロが出ないうちにサユリは早々に通信を打ち切った。多少怪しまれたかもしれないが仕方ない。
「やっぱり顔に出てるのかな・・・」
確かにサユリは元気がなかった。
そう、誰にでも経験のある『あれ』である。

彼女も例に漏れず『スランプ』というやつに陥っていたのであった。



Nadesico Second Revenge

Chapter12 キッチンパーティー



ナデシコC・食堂


「ふう、終わった・・・」
今日のピークも終わり、一息つくサユリ嬢。しかし少し前までの充足感はない。
確かにこの間までは自分の料理の腕がグングンあがっていくのがうれしくて仕方なかった。そしてそれを人々が口々にほめてくれるのがうれしかった。
何より自分の目標である『アキトのチャーハン』の味に近づいているのがうれしかった。

でも、人間誰にでも伸び悩みというモノは存在する。
そうなると今まで充足感にもなっていた疲労も只の苦痛になってくる。
日々の仕事も単なるルーチンワークに思えてくる。
そしてせっかく近づいたと思った『アキトのチャーハンの味』ですら、本当に近づいているのか疑心暗鬼に思えてくる。
こうなるとスランプは続く一方だった。

「誰かにおいしいと言ってもらえるとうれしいんだけどなぁ・・・」
それが只の甘えだということはサユリも重々わかっている。でも甘えたくなるときもある。
特に今までチャーハンの味をみてもらっていたユリカとルリがぱったり食堂に来なくなったのも響いているのかもしれない。

「提督達、今日もアキトさん達のところでしょうね・・・」
彼女のスランプの原因、それはユリカやルリにとって所詮自分のチャーハンはただの代用品であることを思い知れされたからかもしれない・・・。



ユーチャリス・ダイニング


「何であんた達がここにいるのよ!」
エリナ女史は大変ご立腹であった。
理由を話すと長くなるが、かいつまんで話すとこうだ。

今日はうれしいアキトお手製ディナーの日であった。
火星の後継者達に味覚を含む感覚を破壊されたアキトは当然のごとく料理から手を引くことになった。
だが、エリナが副長としてユーチャリスに乗り込んできたとき、彼女は愕然としたモノだ。アキトとラピスの食生活の貧しさに。
アキトは味覚が麻痺しているのでCレーションで食事を済ませてるし、ラピスも食事に関する興味が全くなくどちらかといえばアキトの食べるモノを一緒に食べたがった。すると必然的に食生活は栄養さえ摂れればよいようなモノになる。

当然のごとくエリナは怒った。
「アキト君、あなたはラピスの保護者としてなんてモノ食べさせているの!!」
そしてエリナは彼が嫌がるのを承知で、アキトにユーチャリスでの食事を作るよう言明したのだった。
アキトは最初「味がわからない」とか「コックへの夢は捨てた」とかいろいろ理由を付けたが、エリナは「ラピスを料理の味もわからない女の子にするつもり!」という大義名分の元に切り捨てていった。

もちろんエリナもアキトがコックになれないことに深く傷ついているのは重々承知であるが、いつか吹っ切らなければいけない事なので、心を鬼にしたのであった。
もっとも、エリナ自身が料理を作ればよい・・・という事実を巧妙に伏せてアキトに料理を作るようにし向けたにのは「アキトの手料理を食べたい!」という一心にあるのだが。

そんなこんなでようやくアキトも昔のカンを取り戻し、「ああ、これで家族三人水入らずの食事が送れるわ!」と喜ぼうとした矢先に先ほどの発言である。

「何であんた達がここにいるのよ!」
「ああ、お気になさらずに」
「って気にせいでか!!」
怒り心頭のエリナをルリが涼しげにかわした。

「アキト、おっかわり!!」
「アキト君、私も」
「あ、オレも!」
ルリやユリカはいうに及ばず、イネスやリョーコまでいる。

「ミスマル・ユリカにホシノ・ルリ!
 あんた達はナデシコCの食堂で食べればいいでしょう!!」
「アキトの料理のリハビリのためです。私達が一番アキトの味を知ってるんですから」
ユリカは平然とした顔でいう。
「ドクター、あなただってナデシコBで食べれば・・・」
「私はアキト君とラピスの味覚情報のリンク精度を調べているだけよ」
イネスは当たり前のようにいう。
「スバル・リョーコ!あんた、隔壁前であきらめたんじゃないの!」
「それとこれとは話は別。うまいモノがあれば食いに行けってのが爺ちゃんの遺言なんだ。」
この前の一件で脱落したかと思われたリョーコだがちゃっかり復帰していた。
彼女達がどこからアキトの料理の件をかぎつけたか知らないが、エリナの家族水入らず計画は早くも崩壊してしまった・・・。

「もっと酒のツマミになるようなモノはないのかよ?」
「文句いうなら食うな!」
闇の王子様モード中のアキトだが、黒いスーツの上から白いエプロンを着けておかわりのお子さまランチの持ってくる姿では凄味も何もあったものではない。

「第一、オレはラピスの味覚教育のために料理を作ってるんだ。いきなり大人好みの味付けなど出来るか。」
そういっておかわり三皿をテーブルに並べるアキト。なんだかんだ言いながらお子さまランチとはいえ人数分作っているあたり角が取れてきたという事か?

アキトはむすっとしているエリナの横に座り、小声で尋ねた。
『おいエリナ、お前本当にユリカ達にあのことを話してないのか?』
『ええ、話してないわよ』
あのこととはアキトの体・・・ナノマシーンの暴走の事である。エリナはユリカ達の希望でそのことは伏せた。
『にしてはあいつら全然遠慮がないぞ?』
『あの子達が厚顔無恥なのはあなたが一番身に染みているでしょ?』
『しかし・・・』
なおも言い募ろうとするアキトにエリナは向こうの方を指さして見せた。
そこには神妙な面もちながらもユリカやルリ達と一緒に和気あいあいと食事をするラピスの姿があった。
『まぁ、これはこれでいいか・・・』
『そうね』
ほほえましい光景を眺めながらそう思い直すアキトとエリナであった。



ナデシコB・食堂


「どうですか?師匠・・・」
サユリはホウメイの元を訪れて料理の味をみてもらっていた。
「ん・・・・10年早い」
「・・・そうですか・・・」
がっくりうなだれるサユリ。
そんなサユリにホウメイは少々手厳しかった。
「あんたの料理はまずくはないさ。でもそれだけ。
 自分の味に何が欠けてるかわかってないだろう?」
「・・・・ええ、どこが悪いんでしょうか?」
「それはあんたが自分で見つけなきゃいけないんだよ。
 この先コックを続けていくかどうかも含めてね。」
すがるように言うサユリをホウメイはやんわりと突き放した。

がっくりうなだれるサユリにホウメイは一案をこうじた。
「じゃ、しばらくナデシコBで食事を作っていきな。
 たまには違ったメンツに料理を作ってやるのもいいだろう。」
「・・・はい。」
それで気分が変わるわけはないのだが、とりあえずホウメイの言うことを聞く事にした。

■被験者:タカスギ・サブロウタ大尉&マキビ・ハリ少尉

「いや、おいしいっすよ。」
とサブロウタはサユリの手を握って答えた。リョーコがユーチャリスに入り浸っているので拗ねてるらしい。
「だめですよ、サユリさん。サブロウタさんは女性の料理なら誰だってそういうんですから。」
ハーリーはうんざりしたように言う。
「誰にでもってわけじゃないぞ!たとえば提督や艦長には言う前に気を失ったからな!!」
「気を失わなけってなければ言うつもりだったんでしょ?」
ふんぞり返って言うサブロウタにハーリーは思わずつっこみを入れる。

「あ、ユリカさんとルリさんに言いつけようかな。サブロウタさんとハーリー君が提督達の料理を気絶するくらい不味いって言ってたって!」
「「さ、サユリさん・・・勘弁して下さいよぉ」」
二人のハモったところが面白かった。

■被験者:テンクウ・ケン少佐

「すみません・・・それ塩加減間違えたんですけど・・・」
「ん、おいしいですよ?」
「本当に?」
「ええ。」
そういいながらケンはご飯に残った味噌汁をかけて食べた。
別々に味わって欲しかったのに・・・という料理人の感慨を彼が気づくはずもなかった。
実はケンは悪食家であった・・・。

■被験者:フジタ少尉

「どうです?」
「ん・・・私はもう少し薄味の方がいいですね」
「でもそれですと他の材料の味に負けてしまいませんか?」
「いえいえ、調理方法で何とかなりますよ」
男やもめのフジタの趣味はマジックと料理である。しばらくフジタとサユリの料理談義が続くのであった。

■被験者:アマノ・ヒカル&マキ・イズミ

「あたし達、おいしければ何でもいいよね?」
「ええ」
彼女達に聞くだけ無駄だった・・・。

■被験者:ウリバタケ・セイヤ

「ん・・・悪くはないんだが・・・」
「だが、なんですか?」
「味付けがなぁ、どこかで食ったような味になってる」
「はぁ・・・」
「ホウメイさんの味をまねるならやめた方がいいぜ?
 俺達が食いたいのはあんたの料理だ。ホウメイさんの料理に似た味なら、はなっからホウメイさんの料理を食いに行く。
 言ってる意味がわかるかい?」
「・・・はい」
ウリバタケの一言はサユリの胸に突き刺さった。



再びナデシコB・食堂


「私らしい味って何だろう・・・」
サユリは戸惑いを隠せなかった。ずっとアキトのチャーハンを目標にがんばってきた。でも自分の味なんて思いもよらなかった。
悩みは軽くなるどころか重くなる一方だった。

「ホウメイいる?」
悩むサユリの服の裾をクイクイと引っ張る少女の声がした。
ラピスである。

何でもラピスは味覚を失ったアキトの代わりに料理の味見をしている以上、いろんな料理の味を勉強しようとたびたびホウメイの元を訪れていたのだ。
「へぇ、そうなんですか・・・」
「まぁ、乙女の秘密ってやつもあるみたいだけどね」
ホウメイは苦笑する。ここだけの話、強化体質の子供は太りにくいので、ふくよかになりたいラピスはルリを見習って食事をたくさん摂るように心がけているらしい。

「そうだ、あんたが作ってみれば?」
ホウメイが思いついたように言う。驚くサユリ。
「え?私が・・・ラピスちゃんの料理をですか?」
「たぶん、あの子ならあんたに欠けているモノを教えてくれるさ」
「わかりました・・・」

こうしてサユリはラピスのためにチャーハンを作った。あの「アキトのチャーハン」を。
「はい、ラピスちゃんどうぞ」
「うん」
このチャーハンはサユリの久々の会心の作であった。ほぼ彼女のイメージ通りの味になったはずだ。アキトの料理に親しんでいるラピスならきっと気に入るはずだった。

だが・・・

「まずい・・・」
「え?」
「まずい、塩辛い!こんなの食べられない!!」
「え、うそ、アキトさんと同じ味付けだと思ったんだけど・・・」
驚きのあまりそう言ってしまうサユリ。だがそれはラピスをもっと怒らせた。
「ちがうもん!アキトのチャーハンはもっとおいしかったもん!!」
「でもそんなに塩辛くは・・・」
「それとも私の舌がおかしいって言うの!」
否定されればされるほどムキになって暴れるラピス。とりつく島もない。
「私がおかしいんじゃないもん!!」
そういってラピスは泣き叫びながら走っていった。

「何でラピスが怒ったのか理由を考えてみな?」
そういってホウメイはラピスを追いかけた。
「何よ・・・おいしいじゃないの・・・」
一人取り残されたサユリは自分の作った少し冷めたチャーハンを口に入れてしょぼくれるのであった。



ユーチャリス・ダイニング


「すみません、アキトさん。食事時にお邪魔しちゃって」
「かまわないさ。どうせエリナは出かけてるし、手間は一緒だから。」
 真っ赤になって恐縮そうに俯くサユリにアキトはやさしい声をかけた。
あの後、どうしてラピスを怒らせたかわからなかったサユリだが、ラピスに謝りたいのと、ひょっとしたら自分の想像している味と本当のアキトの味が異なっているのでは?と考えるといても立ってもいられなくなったのだ。

結果、こうしてユーチャリスに押し掛けてしまっていた。せっぱ詰まっていたとはいえ、サユリは自分の行動力に驚いていた。

「はい、リクエスト通りのチャーハンだよ」
どうも闇の王子様モードはユリカ達の前だけのようだ。サユリには昔のアキトのままのように見えてちょっとうれしかった。
「アキト、私も食べたい」
「はいはい、ちょっと待ってろよ」
そういって再び厨房に戻るアキトを見送った後、サユリはチャーハンを一口食べた。

モグモグ

『これよ!アキトさんの味は!!』
サユリは自分が思い描いていたとおりのチャーハンの味に思わず興奮した。自分の味覚は間違ってなかったと。
でも疑問が残る。ラピスはなぜこの味を不味いと言ったのだろう。

「はい、ラピス」
「いただきます」
アキトが持ってきたチャーハンをおいしそうにほおばるラピス。

モグモグ

「やっぱりアキトの料理、おいしい」
「ありがとう」
『え?』
そんな微笑ましい会話がなされていたが、それを聞いたサユリの頭はパニックになった。

『何?この前と同じ味なのにおいしいって?
 私のチャーハンが不味いって言ったのは意地悪だったの?
 でもラピスちゃんはそんな子に見えないし・・・』

「ごめんなさい!」
「ああ、あたしのチャーハン!」
無作法と知りつつも、気がつけばサユリはラピスの皿のチャーハンをレンゲで一口分すくって口に入れていた。

モグモグ

・・・薄味だ。

これに比べればサユリの皿のチャーハンは十分塩辛いといえる。

「アキトさん、これは・・・」
「ああ、それ?
 ラピスってまだ濃い味が苦手なんだよ。
 今まであまり料理を食べてなかったから仕方ないけど」
「・・・そうなんですか・・・」
「ごめんね。昨日ラピスが君のチャーハンを不味いって言っちゃったんだって?悪気はないんだ。許してあげて」
「・・・いえ、気にしてませんから」
「私はアキトの舌!変じゃないもん!!」
真っ赤になって怒るラピス。彼女も結構気にしてたのだ。

「・・・アキトさん、チャーハンの味付け・・・」
「ごめん、ちょっと薄味だった?
 サユリちゃんの好みの味だと思ったんだけど・・・
 まだ味付けをカンに頼ってるところがあって。」
「いえ、そうじゃないんです。わざわざ私とラピスちゃんの味付けを分けてくれたんですか?」
「ああ、そうだよ」
「私の好みの味を知っててくださったんですか?」
「まぁね」
「でもアキトさん、自分の味を殺してまでなんで・・・」
サユリの問いにアキトはなぜか不思議そうに答えた。
「なんで?当たり前じゃない。
 だって、おいしく食べてもらいたいでしょう?」
「あ・・・」
サユリはやっと自分に欠けているモノに気がついた。
そんなサユリを見てアキトは昔話をした。

「オレが火星にいたときに最初に料理を教えてくれた人がこんな言葉を教えてくれたんだ。
 一期一会・・・ってね。」
「一期一会?」
「そう、その人とは一生に一度しか会えないかもしれない。
 だから悔いのないようにもてなすって意味さ。」
「一生に一度・・・」
「ナデシコの食堂ってさ、メンツが代わり映えしないだろ?だからよく忘れそうになるんだけど・・・
 でも街角の料理屋なんて常連だけじゃなく、旅先でふらりと立ち寄った人だっている。
 ましてや、まずい料理ならそのお客さんは二度と来ないかもしれない。」
「ええ」
「料理人にとってそのお客は数多いる内の一人かもしれない。そう思えば手も抜ける。でもお客にとってはテンカワ・アキトの料理を食べるのは一生に一度かもしれない。
 手を抜いていようが調子が悪かろうが、その人にとってテンカワ・アキトの料理はその一皿限りなんだよ。だから一皿一皿に思いを込めなさい・・・って教えてもらったんだ。
 オレは自分の料理に迷いがあった時、必ずその言葉を思い出すことにしてるんだよ。志した日々の誓いを忘れないために。」

ああ、私は誰のために料理を作っていたのだろう。
アキトさんのため?
それとも自分のため?
本当に私の料理を食べてくれる人がすぐそばにいるにもかかわらず・・・

何で忘れてしまっていたのだろう?
ただ食べた人においしいと喜んで欲しかったあの日の自分を・・・。

「アキトさんありがとうございます!!」
会釈するとサユリはいても立ってもいられずナデシコCに戻っていった。
無性に料理が作りたくなったのだ。
食べてくれる人が本当に喜んでもらえる料理を!!

「あらあら妬けちゃうわね」
いつの間にか帰ってきていたエリナが恨めしそうに言う。
「茶化すな、エリナ」
「あの子にはおやさしいことで。私達には闇の王子様ゴッコしているくせに」
「・・・あの子は希望なんだよ」
「希望?」
「もう自分の手では実現できないけれど、彼女ならあの日思い描いていた夢に辿り着けるかもしれないから・・・」
アキトはサユリに志していた頃の自分を重ねていたのだった。



ナデシコC・食堂


「あははは、サユリちゃん。またお料理お願い・・・」
「ごめんなさい、サユリさん」
ユリカとルリがしばらく食堂に来なかったことを詫びた。
如何にアキトの料理とはいえ、薄味のお子様ランチが毎日続けば普通のものを食べたくなるものだ。
「気にしてませんよ。それよりユリカさん達にはサユリ特製の新定食ですよ!!」
彼女は満面の笑みで答えた。
今日もナデシコCの食堂は満員だった。

余談ではあるがその日からナデシコCの常連客のリストにラピス・ラズリの名前が追加されたことを記しておきたい。

See you next chapter...



ポストスプリクト


やっと出ました、ホウメイガールズ総出演。
メグミも出るか!とご期待された方、すみません!!(特にEnopiさん)
いいかげん、戦闘しないと『ナデシコ艦隊』にならないので取り敢えず
メグミの出番はしばらく後です(爆)

今回のサユリ嬢ですが、TV版であまり人となりを知るエピソードがなかったので
私の創作がかなり入っていますが、皆さん的にはどうなんでしょう?
皆さんのイメージと違っていたらごめんなさい。

それにしても私の書くラピスは幼児化現象を起こしているのは気のせいだろうか・・・。

さて、次回から激闘編に突入するのですが、この明るい雰囲気のまま続けられるのでしょうか!!

では!

Special Thanks!!
・kakikaki 様