アバン


人は悲しみの数だけ人に優しくなれると言いますが、
だとすればあの人が優しすぎるのはそれだけ辛いことを経験しているからかもしれません。

あの人は憎まれてまで自分らしさを捨てた成れの果てを教えました。
昔の自分を切り捨てたあの人にとってそうすることでしか仲間を救えなかったのです。
たとえ仲間を傷つけようとも・・・
たとえ自分自身が傷ついたとしても・・・

たぶん、優しいだけの言葉では人は救えないということを一番知っている人だから。

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



First Day:ユーチャリス・リビング


それはエリナのふとした会話がきっかけだった。
「そうそう、ラピス。ホシノ・ルリがオペレータだけでファミトレしようって言ってたわよ。」
「・・・必要ない。データの交換はオモイカネを通じてやってる」
「彼女が言っていた通りね。」
ラピスはある意味ルリと接触するのを恐れていた。どうもアキトの秘密を漏らさないように必死になっている為の結果のようだ。エリナはため息をついて諭した。

「彼女から伝言よ。
 『チームワークは直に会って言葉を交わして初めて生まれます』って」
「・・・」
「まぁ、一人で行くのは心細いでしょうから私も着いてって上げるわ。
 私も作戦会議だし・・・どうせアキト君は出席しないようだから・・・」
エリナはジト目でアキトを睨み付けた。アキトはそんなエリナに目を合わせず、バイバイと手を振っていた。

「私はアキトの目・・・」
「ラピス、たまにはナデシコで羽目を外してこい。」
自分を気遣って後込みするラピスをアキトは後押しした。
「・・・アキトがそういうならわかった。」
コク。

ラピスがわずかにうなずく。
それを見てエリナは喜んだ。
「うん♪
 これでラピスもナデシコデビューよね♪」
『バカみたい・・・』
小学校に通うんじゃないんだからと、母親みたいに一人はしゃぐエリナを横目で眺めてラピスはつぶやいた。

『ルリ姉さん・・・』
これでも結構多感なお年頃のラピスちゃんであった。



Nadesico Second Revenge

Chapter10 ラピスちゃん航海日誌



Second Day:ナデシコC・ミーティングルーム


「ラピスちゃん、可愛い♪」
むぎゅう♪
ほっぺたスリスリ♪
ラピスのナデシコデビューはユリカの熱烈な抱擁で始まった。

「ルリ姉さん、なにこれ?」
「ごめん・・・どこかで情報が漏れちゃって」
ルリはこめかみを指で押さえながらラピスに謝った。だが、こういう状態のユリカを誰も止められない。ラピスはされるがままだった。

「ちょっと、ミスマル・ユリカ!
 この子は馬じゃないんだから、懐柔しようなんて姑息な真似はしないの!!」
「勘違いしないで下さい、エリナさん。私は単純にラピスちゃんが可愛いんです!
 それに『テンカワ・ユリカ』ですのでお間違えなく!」
「キー!!」
二人の間に火花が飛び散る。

「馬って・・・?」
「それはね、ラピラピ。昔のことわざに『将を射んと欲すれば馬を射よ』ってのがあんのよ。」
いつの間にかラピスのすぐそばにハルカがこっそり座っていた。
「ラピラピ?」
「つまり本命をゲットしようと思ったら、その人の大切な人と親しくなるのが一番の近道ってこと。」
反対側にはいつの間にかユキナが座っていた。

「あんた、さっさとラピスを離しなさいよ!」
「嫌です!ラピスちゃんも将来一緒に暮らすんですから、今のうちにいっぱいスキンシップして馴れてもらわないと。」
「ちょっと、ミスマル・ユリカ!何勝手にラピスを引き取るつもりでいるの!!」
「テンカワです!ラピスちゃんはアキトの家族、ということはアキトの妻である私にとっては娘も同然。となれば一緒に暮らすのは当たり前のことです」
「だから何でそういう論法を勝手に組み立てられるの!!」
「だって!」
と、後は二人の子供じみた言い争いが続くだけであった。

「本当に提督とエリナさんの言い争いって懐かしいわね。」
ミナトは本当にしみじみと言うが、ユキナはジト目でミナトを睨んだ。
「あたしはどちらかというと、ルリルリを引き取ろうとしたユリカさんとミナトさんの争いの事を思い出すんですけど・・・」
「何言うの、ユキナ。あたしはあんなんじゃなかったよ!」
「・・・自分も結構ルリコンなの自覚ないでしょう・・・」
こっちはこっちで言い争いになる。(ちなみにルリコンとはルリのようにかわいい女の子に目がない人のことを言います)

「「バカばっか」」
ルリとラピスが同時につぶやいた。
結局、その日はファミトレどころではなく、後日に順延となった・・・。



Third Day:ユーチャリス・ブリッジ


 今日は三人のオペレータによる電脳戦の模擬演習が行われていた。
実際に三隻のオモイカネを用いて互いに相手のシステムをハッキングさせるのである。
これは敵へのシステム掌握の予行演習というよりも、自らのシステムのセキュリティーホールを浮き彫りにするという側面が強い。
システム掌握は相手のセキュリティーの盲点を巧みに突いて侵入していく。逆に言えばそれを防ぎきれればナデシコが敵からの侵入に対して鉄壁の防壁を保持していることになる。

対戦成績は当然のごとくルリの圧勝で終わり、続いてラピスが肉薄しており、ハーリーに至っては二人にこてんぱんにやられていた。

『ハーリー、ルリさんに認めてもらうのはあと十年くらいかかりそうですね』
『ひーーーん、どうせ僕なんてーーー』
オモイカネの一言がハーリーにとどめを刺した。

それにしても、とラピスは思う。なぜ自分はルリに勝てないのだろうと。
もう一つの世界でラピスはユーチャリスのシステム構築の際、ルリの技術をたたき込まれた。いわばラピスはルリの手口を知り尽くしていると言ってよい。そして条件はルリも同じだ。
それでもなおこれだけの差がつくのがラピスには理解できなかった。

『ハーリー君は手が基本的すぎます。使いこなせとは言いませんから、せめて私やラピスの強引な手法も観察しなさい。』
『あい。』

『そしてラピス、あなたはなぜ私に勝てない?って思っているでしょう。』
「・・・うん」
突然話を振られて戸惑うラピスだがしばし後に素直にうなずいた。

『あなたは私を見て戦ってないからですよ。』
「・・・?」
『あなたが見ているのは私の構築したシステム、データの並び、そしてただの記号の羅列。
 でもそこに込められている人の意志までは見えていない。』
「どういうこと?」
『ネットの向こうには必ず人の意志が存在する。
 その人がシステムに何を期待し、何を望み、何を守り、それでもなお論理的に解決できない事情を抱えて築いてしまった痕跡が存在する。』
「・・・」
『それは技術的に解決出来ないことや、時間とコストとのジレンマ、互換性という名のしがらみ、そして技術的には何の意味もない政治的な軋轢。
 そういったモノのせめぎ合いからシステムは生み出されるの。
 それは人を知るのと同義なのよ』
「・・・よくわからない。」
『それがわからないうちは私には勝てませんよ。
 たとえば、ラピスはアキトさんのデータを頑なに守ろうとするあまり、受け手に甘んじることが多い。』
「!
 ・・・ルリ姉さん・・・見たの?」
『いいえ、見れなくもありませんでしたが下世話な事をしても得られる情報は少ないでしょう?
 大事なモノはネットに繋ぐな・・・そう教えたのは私ですから』
「・・・・」

ラピスとルリの埋まらない差、それはつまりそういうことだった。



Fourth Day:ナデシコB・シミュレーションルーム前


その日、ラピスは『一人でお出かけ』を敢行した。
目的は『人とは何ぞや?』である。えらく哲学的な内容であるがラピスにとっては大まじめである。
さもありなん。ラピスの周りにいる人物といえば闇の王子様に説明おばさんにメカフェチ等々であり、唯一普通なのはエリナぐらいのモノである。参考にするには酷すぎる。

ラピスはここまで来るのに辟易していた。行く先々で呼び止められたり、握手を求められたりする。うざったいことこの上なかった。
『バカみたい。データで全て知ってるのに・・・』
彼女にはそれが無駄な作業に思えて仕方なかった。

ラピスは一応、食堂を探していた。ホウメイに会うためである。一番まともな人間に思えたからだ。
だが・・・

「う、また迷った・・・」
ラピスは迷子の名人だった・・・。

たたたたた・・・

そんなときラピスはふと向こうから駆けてくる少女をみとめた。ユキナである。
「・・・あの・・・」
「ごめん、また今度!」
仕方なく声をかけて道を聞こうとしたがユキナはラピスなど眼中になく通り過ぎていった。

何事かと着いていくラピス。

「も〜〜!ジュンちゃん私とのデートすっぽかしてユリカさんと何やってんの!!」
「ゆ、ユキナ!?」
ラピスが廊下の陰越しにのぞき見るとジュンとユリカそれにユキナが言い争っていた。

「なによ、人には忙しいとか行っておきながら、ユリカさんとはつき合えるわけ?」
「こ、公務だよ・・・」
「そうそう・・・」
「なに、二人とも口ごもっちゃっていやらしい。
 それに二人ともいかにも『いい汗かきました♪』って顔しちゃって!
 不潔よ!」
「ご、誤解だよ」
さすがに慌てるジュン。
「ジュンちゃん、ユリカさんの結婚式の夜に語ったことは嘘だったのね?
 ユリカさんのことは諦めた、僕は彼女の幸せだけを祈ってるんだって。
 吹っ切れたとか言っておいて、まだ引きずっていたのね!!」
「ば、バカ!」
「本当?ジュンくんも私とアキトの結婚を祝福しててくれたの!
 さすが最高のお友達だね!」
「「・・・」」
ユリカの一言がその場の騒ぎに終止符を打っていた。

「ま、副提督に闇の王子様を向こうに回す勇気があるとも思えなかったが・・・」
「惜しいね、せっかくのスクープかと思ったのに」
ラピスは気づくと頭上を見上げた。いつの間にかサブロウタや三人娘らが背後に立っていた。



ナデシコB・食堂


「疲れた〜〜〜」
四人にひっついて食堂に来たラピスであったが、大人達は着く早々へばっていた。
「ぐそ〜〜。気分悪い〜〜。生理痛だってここまで酷くないぞ」
「本当、なんか重たい日が連ちゃんで続いているみたい。」
「右に同じ」
リョーコやヒカルが次々に愚痴を言う。イズミに至ってはギャグを言う気力すらないらしい。

「だから言ったんすよ?危険だって。」
「わかってら!だけどさすがにきついわ。」
「仕方ないっすよ。DNAを書き換えながら細胞が入れ替わってるんですから。最低でも2週間以上はそのままですよ。」
先日のジャンパー手術以来、リョーコ達の体調は最悪だった。サブロウタは自分の体験を思い出し同情する。

「でも意外だったよね。生理までぐちゃぐちゃになるなんて。」
「辛いですか?」
「最悪・・・サレナカスタムに10時間以上乗っているぐらいに・・・」
ヒカルは心底嫌そうにつぶやく。
「そこまで?オレらの時はせいぜい二日酔いが続いたぐらいですけど・・・」
「木連の人は男性ばかりでしょう?ユキナちゃんみたいにC級はともかく、成人女性のB級ジャンパー手術は私たちが初めてって言ってたよ、イネスさん。」
「女性は子宮がある分、特殊だそうよ。生殖機能には問題ないだろうっていってたけど、どこまで本当やら・・・」
イズミがヒカルの説明を補足した。あまりにも赤裸々すぎてサブロウタも赤くなる。

「てめえら、もう少しオブラートに包めないのかよ!ラピスだっているんだぞ・・・」
とリョーコは怒ろうとしたがふとあることに気づいた。
「って、おいラピス。おめぇ、ジャンパーだよな?」
「・・・うん」
「どうだった?辛かったか?」
「別に、DNAの強化はいつものことだから。」
かわいい顔から想像できないが、それが強化体質の子供達の現実だ。自分の番になって初めてルリやラピスの辛い境遇がわかった。

「・・・すまなかったな。やなこと聞いて」
「別にいい。
 ・・・ところで生理ってなに?」
リョーコは目を丸くした。
それはそうだ。まだ12歳ぐらいだ。まだ生理痛なるモノを知らなくても当然かもしれない。

これは後日談だが、強化体質の女性は生理痛などの痛みによる集中力の乱れを抑えるために意図的に初潮の時期と月経の周期を遅らせるように操作されているという事実をルリが語ってくれた。無論、それを聞いたリョーコが怒ったのは言うまでもない。

「それはそうと、さっきの提督とジュンくんって怪しかったよね?」
ヒカルがさっきの一件を蒸し返した。
「ええ?副提督相手にされてなかったじゃん」
「でもここんとこよく見かけるよ?シミュレーションルームで」
「イズミちゃんも?」
「まぁ、シミュレーションルームなんてオレらパイロットしか使わないから穴場といえば穴場だけどなぁ。でもしかし・・・」
盛り上がる三人娘達。ラピスは最初何の気なしに聞いていたが、だんだん内容が真実味を帯びてきたので注目するようになってきた。

「シミュレーションルームといえばルリ艦長とケン艦長が一緒にいるのを見かけたっすけど?」
サブロウタがさりげなく爆弾発言をする。
「うそ、マジ?」
「ええ、さっきもシミュレーションルームに入ってくのを見ましたよ?」
「そうかぁやっぱりあの二人デキてたんだ!」
俄然目を輝かせるヒカル。
「前回の訓練航海の時も怪しかったもんね。
 夜中に作戦の打ち合わせとか言って会ってたし。
 苦楽を共にするうちにそれはいつしか愛情に・・・」
クー!とか言いながら盛り上がる彼女達を後目に一人ラピスの思考はパニックに陥っていた。

『どういうこと?ルリ姉さんもユリカもアキトを待ってるんじゃなかったの?』

そしてラピスの耳年増な、そしてかなり偏った知識の中から様々な言葉を抽出していた。
女心と秋の空、失楽園、不倫、愛するより愛される方が女の幸せ等々・・・

『私達、待ってる事に疲れました・・・別の恋を探します・・・』
ラピスの頭の中でルリ達は口々にその台詞を繰り返した。

すく!
「どうした、ラピス?」
だっ!!
「おい、ラピスどこ行くんだ!」
アキトが捨てられた、そう思うとラピスは居ても立ってもいられずにその場を駆け出した。



ナデシコB・トレーニングルーム前


ラピスが到着した頃、ちょうどトレーニングルームからいかにも『いい汗かきました』ってな表情のルリとケンが出てきた。ラピスはとっさに物陰に隠れる。

「すみません、テンクウ少佐。無理言っておつきあいしていただいて」
「いいえ、なかなか楽しかったですよ。」
『おつきあい?楽しい?』
二人の会話にいちいち反応するラピス。

「でも意外でしたね。ルリさんって経験なさそうに見えたんですけど?」
「昔グレていたときに・・・ちょっと」
『経験?ルリ姉さん、なぜそこで赤くなるの?』

「ルリちゃんずるい!ユリカもケンさんの方がよかったのに!」
ユリカ乱入!
「ユリカさんはジュンさんがお似合いですよ」
「ムカ!そんなことないもん!
 ジュン君物足りないし、何より自分から手を出してくれないのよ!
 ユリカがあんなに誘ったのに!!」
『手を出す?誘ったのに?』
その言葉を聞いてラピスの中の疑惑が確信に変わった。
『アキトは見捨てられたんだ!』
そう思うとラピスは居ても立ってもいられず、思わず飛び出した。

「姉さん、これはどう言うこと!」
「ら、ラピス!?」
一同は驚いた。しかしそれは浮気の現場を見られたという動揺よりも、いるはずもないラピスがなぜか怒っている事に対する戸惑いの方が強かった。
それを開き直りと感じてラピスの怒りはますます強まった。

「どうして浮気なんかしてるの!
 アキトが帰ってくるのを待ってるんじゃなかったの!」
「どうしたの、ラピス落ち着いて」
「ひどいよ!アキトあんなに・・・」
『二人の元に戻るためにがんばっているのに!』
と言いそうになってラピスは慌てて口ごもった。
アキトのことはルリ達には教えてはいけない秘密だった。それを言い出せないうちはルリ達の行動を縛ることは出来ない。ラピスにはそれ以上何も言えない。
そのジレンマが常に彼女を苛むのだった。

「もういい!!」
ラピスには逃げ出すことしかできなかった。
ただ、どうしていいのかわからなかったから、その場から逃げ出すことしかできなかった。

だが・・・

コテン!

あ、こけた。

痛くて立ち上がれず、とうとうグシグシに泣き始めてしまった。

「グズ・・・」
「ラピスったら、子供みたいに泣いちゃって。」
ルリはラピスの元に近づくと、ハンカチで彼女の涙を拭いて上げた。

「ラピスが何を勘違いしているのかしれないけれど、私達がアキトさんのこと見捨てるわけありませんよ。」
「グス・・・でも・・・」
「仕方ないですねぇ、内緒ですよ・・・ゴニョゴニョ」
ルリはラピスの耳元で真相を話した。

「・・・嘘、それでエステバリスの訓練を?」
「そうですよ。ジュンさんやユリカさんがIFS持ってるの知ってるでしょ?」
「頼まれちゃいまして、ハハハ」
「ごめんね、ラピスちゃん。アキトを驚かそうと思ってみんなに秘密にしておいたの」
ルリやケンそれにユリカは頭をかいて謝った。

「なんだ、そうだったの?つまんない〜〜」
「ま、オレはそうじゃないかと思ってたけどな」
「一番動揺してたくせに」
「そうそう、ユリカ達がそんな事するはずねぇ!って」
サブロウタやリョーコ達が追いついて口々に感想を漏らしていた。

「でも皆さんひどくありません?私がさっきから説明しても納得しないくせに、ルリちゃんやケンさんが否定すると納得しちゃうなんて!」
ユリカは結構プンプンだった。
「だって・・・なぁ?」
「ねぇ?」
「ルリと少佐を信用できなかったらナデシコの誰も信用できないぜ?」
「リョーコさんひどい!じゃあたしは信用ないって言うの!?」
ユリカやリョーコ達は関係のないところで盛り上がっていた・・・。

『なんだ、そうだったのか。』
ラピスは自分一人で勝手に勘違いして恥ずかしかった。
「どうラピス、安心した?」
ルリは優しく彼女の顔を覗きこんだ。ラピスは恥ずかしさで真っ赤だった。
「・・・なんか私バカみたい・・・」
「でも、バカも結構悪くないでしょ?」

コク。

ラピスはうなずいた。今までが嘘みたいに、ラピスにはそれが楽しいことのように思えた。

「クス。じゃ、あなたも今日からナデシコの一員ね。」
「・・・うん!」
その日ラピスは初めて満面の笑顔を浮かべる事が出来た。



Fifth Day:ユーチャリス・???


「ラピス遅いわよ。向こうの部屋でアキト君が待ってるわ。」
「うん、わかった。」
ラピスは無表情にうなずく。その顔には昨日までの笑顔はなかった。

付き添ってきたエリナは今更ながらに思う。
私のやっていることはただの偽善なのではないか?、と。

ラピスは外の世界を知らないお人形のような少女であった。
だから外の世界を教えてあげたい、人間らしい喜びを教えて上げたい、そう思っていた。

でも、現実はどうだ!
彼女が外の世界を知ったとしても、結局はまたこの鳥かごの中に連れ戻し、人形であることを強要している!
それは彼女の心を弄んでいるのに等しいのではないのか?
エリナの心はそんな自責の念でいっぱいだった。

でも今のエリナ達には『マシンチャイルド』のラピスが絶対必要だった。テンカワ・アキトを生かし続けるためには!

そしてラピスは扉の向こうに消える。

ガシャン!!

扉はまるで牢獄のそれのような音を立てて閉まった。

そして彼女は再び悪夢を見る・・・。

See you next chapter...



ポストスプリクト


あああ、なんて後味の悪い終わり方!(苦笑)
前半のほのぼのとするラピラピな展開に危うく騙されそうになった方、すみません。

こういう重苦しい雰囲気をいつまでも続けるのもあまりよくないので次回ぐらいには
アキトの秘密にでもいこうと思っています。

では。

Special Thanks!
・オクチン様
・フジマル様