アバン


「この艦は君達の艦だ。
 怒りも悔しさも喜びも悲しみも
 全て君達のものだ。」
その言葉の意味が昔は分からなかったけど、今ならわかる。

共に笑った日々も、
共に泣いた日々も、
その思いの数々は他の誰でもなく私達が刻んだもの。

だから見失った自分は自らの手で取り戻すの
『この艦は私達の艦です』という言葉と共に・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



夢の続き


何時からだろう、その夢を見始めたのは?
最初に見たのはボソンジャンプで月に飛ばされた頃

何か無気味な『宇宙に浮かぶ城』の夢
それが何かもわからずにただうなされる

『宇宙に浮かぶ城』
それはまるで禍々しいモノであるが、なぜか懐かしい故郷のようでもある
そして・・・

「またあの城の夢か・・・」
俺はユーチャリスのベットで目を覚ます。
「アキト、大丈夫?」
隣で寝ているはずのラピスが心配そうに覗きこんでいた。うなされて彼女を起こしたようだ。
「大丈夫だ。何でもない」

何か大事な事を見たはずなのだが思い出せない。そんなことの繰り返しだった・・・。



ナデシコC・作戦会議室


さて、その日はナデシコ艦隊の首脳陣達が雁首を並べて定期ミーティングを行なっていた。
メンバーは提督のユリカ、副提督のルリ、ジュン、そしてアキトの代役であるエリナ、そしてナデシコB艦長のケンである。それにオブザーバーであるゴートとプロスが加わる。

「プンプン!なんでアキトは来てないんですか!」
開口一番、ユリカがエリナに不満の声を洩らす。
「知らないわよ、私はお使いなんだから・・・」
エリナがなるべく関りを持ちたくない様な口調で話す。

「もう・・・アキトったら自分から帰って来づらいと思ってこちらから呼び戻してあげたのに・・・何を照れているのかしら・・・」
「・・・ミスマル・ユリカ・・・それ本気?」
「テンカワです!
 ってエリナさん、何がです?」
一同はそのユリカの言動に閉口する。まぁ、ユリカらしいといえばユリカらしいが。

それにしてもこの組織は不思議な組織だとテンクウ・ケンは思う。
この童女のような女性がナデシコ艦隊の提督だからだ。

そもそもナデシコ艦隊は指揮系統として提督と副提督3人による合議制が採られている。
それはテンカワ・ユリカ准将自身がたまたま年長者としての責任で主席をやっているというぐらいの感覚しかないからである。平時においてはテンカワ・アキトの事しか考えていない、そんな人であるのも原因かもしれない。

とはいいながらも他の副提督はどうかといえば、テンカワ・アキトの場合半ば組織に縛り付けるための名目上の役職にすぎず、アオイ・ジュン中佐はやはり裏方に徹しているので本人自身も発言力を行使するつもりはないようだ。
そんなわけで実質的に艦隊を取り仕切っているのはホシノ・ルリ中佐になるのだが、これまた不思議なことに彼女は提督であるユリカの意見を最大限に尊重しているのである。ユリカの発言力は巡り巡ってホシノ・ルリによって担保されているのである。

そして面白いことに、ユリカの発言・・・例えば先程のようなただアキトに会いたい一心の発言もルリというフィルターを通せば「A級ジャンパーの確保は艦隊運営にとって死活問題です」というような正論にすり替えられていくのである。
それはユリカの発言すら巧みに利用するルリの政治能力の凄さなのか、あるいはユリカという天才の真意を理解できるのは同じく天才のルリだけなのか、みんな計りかねているというのが実状だった。

「それにしても敵さん、結構大人しいね。もう少し大軍に任せて大挙して襲ってくるかと思っていたのに。」
ジュンが今まで集めた敵の勢力分布図を眺めてそうつぶやいた。
「それはシステム掌握が怖いからでしょう?」
対するルリの見解は的を得ている。
彼らは第一次、第二次火星極冠会戦ともそれでやられている。一ヶ所に集中していればシステム掌握して下さいと言っているようなものだ。

皮肉な話だが少数精鋭のナデシコ艦隊が一番苦手なのは小規模の散発的な消耗戦なのだ。
彼らにしてみれば小規模な戦闘を起こしてナデシコ艦隊を引きずり回し、疲弊するまで待てばよい。無論、味方の損害を度外視すればであるが。
ルリが敵の司令官ならそうするし、東郷和正なら必ずそうするだろう。

ナデシコ艦隊の当面の課題は如何に少ない労力にて敵の戦力を殺いでいくかがテーマとなる。

なのに・・・
「アキト、早く来ないかなぁ・・・」
提督のご意見はこうだった。一同がガックリきたのは言うまでもない。



Nadesico Second Revenge

Chapter6 初陣



火星の後継者・西條の乗艦かんなづき


「さぁ、小手調べだ。どう出る?ナデシコ
 そして黒百合!!」
智将として名高い西條の号令以下、ナデシコ艦隊と新火星の後継者との最初の戦闘が開始された。



ナデシコC・ブリッジ


ナデシコ艦隊は現在太平洋上で演習中。だが、現在は提督以下首脳陣が幕僚会議中なので各員は待機状態である。
「今日も暇よねぇ〜〜」
ハルカ・ミナトはやる気のなさそうに、のほほんとしていた。
それほど堅苦しくないナデシコではあるが、それでも提督と艦長、何よりゴート・ホーリーがいないのとそうでないとでは大違いだった。
「右に同じ」
艦長の留守を預かる副長サブロウタが相づちを打つ。
『いいのか、これで?』とユキナあたりは思うのだが、これがナデシコらしさだそうだ。案外ナデシコも退屈なんだなぁと思った瞬間、彼女のコンソールに変化が現れた。

「ボソン反応増大、直下です!!」
悲鳴のようにユキナが叫んだ。
「なに、どういう事だ!」
「海底の破棄されたチューリップよりボソン反応が増大しています」
サブロウタの指示にユキナは慌てて答える。

「ミナトさん、ナデシコC急速発進しつつディストーションフィールド最大。
 ユキナ君は提督達に連絡を。早く戻ってきてもらって!」
普段は昼行灯でもそこは副長、サブロウタはテキパキと指示を出し、自らはナデシコBに通信を開いた。

「ハーリー、状況は通じているな?」
『はい!』
「じゃ、副長権限で警戒パターンBに移行、テンクウ艦長が戻るまでナデシコCの指示に従え。あと悪いがホシノ艦長が復帰するまでナデシコCのオペレーションもよろしく!」
『了解!』
ナデシコ艦隊の各艦はクラスタリングシステム掌握システムのおかげで最低一人オペレータがどこかの艦にいれば全艦をコントロールできるようになっている。

「ユーチャリス、こちらナデシコC。状況は・・・」
『把握している。こちらは独自に行動する。心配無用だ』
「・・・・はいはい、そうですか!」
サブロウタの通信にアキトは勝手にそれだけをしゃべって通信を切った。

「チューリップ浮上、ボソンアウト顕在化確認!多数です!」
ユキナが切迫した声で報告する。サブロウタは慌てて対応した。
「警戒態勢パターンAへ移行!
 ナデシコBはエステバリス隊発進準備!」
『もうやってるよ!!』
リョーコからの通信が入る。
「スバル中尉、出撃のタイミングは任せます。テンクウ少佐の指示があるまでお願いします。」
『あいよ!』
「ミナトさん、目標との相対距離、とれますか?」
「ちょっと難しいなぁ」
「グラビティーブラストは撃てます?」
「だめだめ、近すぎるよぉ。
 第一、エンジンの回りが悪いから発射は連続で2回が限度。無理するとフィールド出力までダウンするわよ?」
「了解。んじゃぁエステバリスでちまちま排除するしかないっすね・・・」
適切な指示を出しておいて、サブロウタは出現してくる物体に注視した。

「機種は不明、バッタタイプと推測できます。
 識別ありません!」
「識別のない無人戦闘機は破壊していい決まりだ。
 全艦、第一種戦闘態勢!」
「前方一団を敵と見なします。敵一団より攻撃来ます!!」
ユキナの報告の瞬間、バッタより多数のミサイルが飛来した・・・。



ナデシコB・ブリッジ


「被害状況は?」
「フィールド安定、大丈夫です。」
被害報告をまとめながらフジタはテキパキと艦内防衛の指示を出し始めた。副提督のジュンと艦長のケンがいない今はハーリーとフジタの二人が責任者だ。

「副長、エステバリス隊が発進許可を求めております!」
「アサートして下さい」
ハーリーの号令によりナデシコBよりスバル・リョーコ以下エステバリス隊9機が発進した。



再びナデシコC・ブリッジ


「「おまたせしました!」」
ユリカとルリが仲良くブリッジに駆け込んできた。
ルリはオペレータシートに、ユリカは指揮卓に座りながら状況説明を求めた。
「敵、バッタ多数、ただいまエステバリス隊が迎撃に向かいました」
「接近戦に持ち込まれましたか・・・」
サブロウタの答えにルリは軽く舌打ちする。

「システム掌握は?」
『既にやってますが・・・・・・だめです。掌握できません!』
ルリの問いにハーリーはすぐさま答えた。
『ポートがありません。システム掌握を恐れて完全なスタンドアローンにしてますね』
ハーリーが今まで敵のバッタのコンピュータにアタックしたログをルリに送って見せた。

プロスやゴート、それにナデシコBやユーチャリスに帰りそびれたケンやジュン、エリナもブリッジに入ってきて状況に聞き入っていた。

「いやぁ〜〜ルリちゃん、敵さんもなかなかいい手を考えてきたわね。」
「はい。大量の無人兵器による接近戦。
 しかもシステム掌握をさけるために外部からのコントロールを一切受け付けないようにして完全に自立型にした。乱戦目的なら敵性の機体を無差別に攻撃するだけでいいから無人機のAIでも十分。
 そして・・・」
『こちらスバル機!
 このバッタ強化してやがる!数が多い!
 もっとエステの増援をよこせ!』
相づちを打つようにリョーコのウインドウが割り込む。それだけ切迫しているということだ。

「一度混戦に持ち込んでしまえばグラビティーブラストは使えないので数に頼めば五分以上の戦いが出来る・・・というところでしょうか?」
「だね。」
冷静に戦況を分析するルリ。苦笑するように笑うユリカ。

「でも・・・ルリちゃん、やぱり本当の目的ってあれかなぁ?」
「ええ、そうですね。」
ユリカとルリは周りを置き去りにして状況を確認しあった。

「システム掌握はレベルCでは無理ですね。レベルAなら何とかなると思いますが・・・どうします、ユリカさん?」
ルリは提督であるユリカに意見を求めた。
システム掌握のレベルCはハーリーあるいはラピスによる低難度のオペレーション、レベルBはルリによる高難度のオペレーションを指す。
そしてレベルAは3人で行う問答無用なクラスタリングオペレーションである。
ルリは全くのスタンドアローンな機体でもシステム掌握できると豪語しているのだ。



火星の後継者・西條の乗艦かんなづき


「さぁ、どうする?電子の妖精。
 ちまちま一機づつ破壊出来るほどオレのバッタは生温くないぞ!
 無理矢理システム掌握をしてみろ!
 それとも黒百合を出すか?」
西條は戦況をまるでゲームの様に楽しんでいた・・・



再びナデシコC・ブリッジ


「ルリちゃんはどうしたい?」
あえて試すように言うユリカ。
「損害を考えなければサブロウタさんとテンクウ少佐のエステバリス投入による地道な攻撃が一番でしょう。」
『なぜです?』
ハーリーが割り込むようにルリに疑問を呈する。
「ハーリー君、気がつきませんでした?
 あなたのシステム掌握のログ、敵さんに記録されてますよ?」
『ええ?』
「敵の狙いは最初から我々のシステム掌握のデータ収集です。
 そんな敵相手にわざわざ切り札を使って手の内を暴露してあげる必要はありません。
 ・・・まぁ、あの程度の仕組みで私のシステム掌握を解明できるとは思えませんが。」

破られない自信があってもルリはなおシステム掌握を使用する案を却下した。少しでも手がかりを残せばそれだけ敵はシステム掌握に対する対策を打つことが出来る。
それは本当にシステム掌握が必要な場面での威力を殺ぐことになる。むやみに使用すべきではない。

「提督、オレと少佐でエステ隊の援護に出ます!」
「待って、サブロウタさん!」
「はい?」
駆け出そうとしたサブロウタを呼び止めておいて、ユリカはルリの方を振り向いてこう言った。

「ルリちゃん・・・今の案65点。らしくないよ?」

「「「「「ええええええ!?」」」」」
誰もが考える最善の策、ルリの案は皆の目にそう写った。だがユリカの採点は厳しかった。
「やっぱりだめですか?」
「ルリちゃん、何でも自分の手駒だけで済ませようとするのは悪い癖だよ」
「私にはあの人を説得する自信がありませんでしたので。」
恐縮をして言うルリ。
「しょうがないなぁ・・・
 ユキナちゃん、ユーチャリスに通信お願い♪」
苦笑混じりにユリカはつぶやくと、ユキナに指示を出した。

開いたウインドウにはユーチャリス艦長テンカワ・アキトの不機嫌そうな姿があった。無論バイザー越しなので雰囲気的に・・・なのであるが。
「おっはよう!ア・キ・ト♪」
『なんだ?』
愛想を浮かべたユリカに無愛想に答えるアキト。
「お願い、ブラックサレナで出撃してくんない?」
「「「「「ええええ!!」」」」」
一同は仰天した。

確かにテンカワ・アキトのブラックサレナの戦闘能力は先のアマテラス襲撃の一件で証明済みである。たぶんケンとサブロウタの戦闘力を合わせてもまだお釣りがくるだろう。
だが、誰もなぜ考えつかなかったのだろう?

たぶん理由はいくつかある。
例えばきしくも先ほどルリが言ったようにテンカワアキトの近寄りがたい威圧感、あるいは前の会議での変わり果てたアキトに対する拒絶、犯罪者への忌みなど。
みんなが無意識に可能性の選択肢から彼の助力を排除していたのだ。
ルリでさえ一度は検討したこの案を却下したのだ。余人ではさもあらんである。

『断る』
予想通りというか、たった一言で素気なく拒絶するアキト。
「そんなこと言わないで。
 ねぇ〜〜お願いアキト〜〜」
『その程度の相手ならオレが出なくても十分だろう。
 それとも何か?残りは平和ボケしたやつしかいないのか?』
さぁ、この言葉にカチンときたのはサブロウタだった。

「提督!そんな奴に頼む必要なんてありませんよ!
 オレとテンクウ少佐で外のバッタなんて蹴散らしてきますよ!」
『そんなところで引き合いに出されても困るのですが・・・』とケンはつぶやいたが、それをユリカが遮った。

「だめですよ、サブロウタさん。
 アキトに出撃してもらいます」
「なぜです?オレらじゃダメなんですか?」
「うん!」
絶対の自信を込めた笑みを浮かべてユリカは答える。当然不満なのでさらに言い募るサブロウタ。
「どうしてテンカワ・アキトにこだわるんですか!!」
「だってアキトの活躍が見たいから♪」
「「「「「はぁ?」」」」」
現在の情勢でのユリカの発言にはさすがの一同も呆れ返るのだった・・・。

See you next chapter...



ポストスプリクト


さて、Sencond Revengeのテーマストーリーの第一弾前編はいかがでしたでしょうか?
今回のお話では二つのテーマがあります。
アキトがナデシコに帰還するまでと、もう一つは戦略モノとしてのおもしろさです。

アキトの帰還は、まぁこういう時点から始まってアキトの帰れない理由を探りつつ徐々にナデシコに復帰するというストーリーにした方が盛り上がるでしょう。

そして戦略モノとしてはユリカの戦略家としての才能をキーにしていろんな仕掛けを見せていこうというものです。
TV版だとボケボケのユリカですが、私としては戦略家として評価してます。

当面はこういうモノを求めつつストーリーを進めていきたいと考えてますが・・・大風呂敷を広げて大丈夫か?オレの才能!(笑)

ということで後半もお楽しみにして下さい。

では!

Special Thanks!!
・ふぇるみおん様
・英 貴也 様