アバン


私の心とあなたの心が違うように、
同じ仲間でも正義は微妙に違うわけで。

因果応報、歴史はまた繰り返す、

どんなに高尚な正義だろうと、所詮みんな自分の都合の良いところだけを切り取って信じるもの。
だから正義なんて言葉、心に秘めるだけにしておいて欲しいんですけど・・・

ああ、一応このSSってPrincess of White とDC版The Missionの続編ですので
よろしく



地球連合宇宙軍・休憩室


眼前のウインドウに放送される画像に一同は見入っていた。
どこかで見た映像
それはかつて白鳥九十九が暗殺されたときの木連での国家葬での草壁の演説のシーンの再現であった。
ただ異なるのが、死んで英雄に祭り上げられているのが白鳥九十九ではなく草壁春樹、演説しているのが草壁ではなく東郷、そして暗殺の首謀者が宇宙軍とネルガルという違いはあったが。

「決起・・・されちゃいましたね」
「そうだな・・・」
「お二人とも、何をそんなにのんきなんですか!」
今朝のトップニュースを見てムネタケとコウイチロウのやる気のなさそうなつぶやきにかみつくジュン。彼だってこれほど火星の後継者達の手際が良い事に焦っているのだ。

「まぁ、彼らにしちゃベストのタイミングでしょう。統合軍も半数以上は取り込んじゃってるし。こちらの政治介入を許さぬ素早さで情勢を固めちゃったし」
「窮鼠猫をかむのことわざもある。誰が書いたシナリオなんだかねぇ」
「だからこそ・・・」
「そう、だからこそ君やテンカワ准将に託したんじゃないかね。
 人事を尽くして天命を待つ
 その結果を見に行きましょう」
なおもむずがるジュンを制して二人の老獪は会議室に移った。



地球連合宇宙軍・大会議室


「え、皆様お集まりいただきありがとうございます
 ただいまより独立ナデシコ艦隊の概要説明をさせていただきます」
壇上ではユリカが冒頭のスピーチを行っていた。
部屋には宇宙軍の首脳、幹部の他に今回ナデシコ艦隊に参加する主要クルー達もその顔合わせのために訪れている。

「詳しい内容説明はホシノ中佐からお願いします」
こういうところは政治的な演出なのか、より発言に説得力を持つルリに説明を譲った。

「では、
 独立ナデシコ艦隊の設立の趣旨ですが、先日再々度火星の後継者達が武力蜂起したことはご承知のことと思います。
 まぁ、噂でお聞き及びの通り、ついでに統合軍の半数以上も彼らに同調したのはここだけの話ですが事実です。んでもって残った方たちも離反の可能性もあり実質謹慎状態。上層部も3度も離反者を出したという事で責任の擦り付け合いと権力闘争でマジ機能停止状態です。
 責任問題は置いておくとして、彼らの討伐は宇宙軍に一任されました」
「ルリルリって相変わらず毒舌よね」
ミナトは変わらぬルリの口調に苦笑する。

「そこでこの討伐の任を与えられた我々は艦隊設立にあたり次のコンセプトを実現すべく編成しました」
ルリが挙げた要点は次の三つである。

1.リソース不足により同時多発する戦闘空域全てに派兵できないので、
 単独ボソンジャンプ可能な艦隊による遊撃的な戦闘活動を主眼におく

2.1によりA級ジャンパーの確保が絶対条件になり、必然的に少数精鋭
 とならざるを得ない。

3.2により、地球連合宇宙軍内にとらわれず広く人材を投与する

「以上の構想に基づき、発足当初はナデシコC、ナデシコBそしてネルガル提供の一艦を加えた計3隻にて始動いたします!」
ルリはそう高らかに宣言した。ナデシコフリート誕生の瞬間である。



Nadesico Second Revenge

Chapter2 ナデシコフリート誕生!



再び地球連合宇宙軍・大会議室


「はーい、質問」
「何ですか?ユキナさん」
ようやく前置きが終わったと判断したのか、ユキナは挙手して質問を行った。

「あそこの空席がすっごく気になるんですけど・・・」
そう、ちょうど3つばかし空席があった。プレートにはそれぞれ役職と氏名がかかれているのだがその名前が

「ナデシコ級戦艦(名称未定)艦長兼ナビゲータ 黒百合」
「ナデシコ級戦艦(名称未定)副長 エリナ・キンジョウ・ウォン」
「ナデシコ級戦艦(名称未定)オペレータ 匿名希望」

とあるのだ。怪しむなという方が難しい。

「欠席されるという連絡はきていませんので遅刻なされているのでしょう」
ルリの言い様はある面では正しいかもしれないが、カンのいい人ならばそれが奥歯にモノが挟まったような口調であることに気がついたであろう。
「ネルガル提供分に関してはあちらさんにお任せしていますのでエリナさんが来られたときに説明していただきましょう。」
ルリにそう言われるとユキナも口をつぐまざるを得なかった。

「では布陣を発表します。
 まず本艦隊提督兼ナデシコCナビゲータ テンカワ・ミスマル・ユリカ准将」
「はーい、テンカワ・ユリカでーす!
 ナデシコ艦隊の提督さんなんだぞ!
 えっへん!!」
既に慣れている一同は彼女を適当にあしらったのは言うまでもない。

「副提督兼ナデシコC艦長及びメインオペレータ ホシノ・ルリ中佐」
「「「「「ルリルリ!!」」」」」
どこかで野太い黄色い声援が届く。彼女が密かに「バカ」と言ったとか言わなかったとか。

「同副長 タカスギ・サブロウタ大尉」
「ちーす」
「あと兼務でナデシコC専属のエステバリス隊隊長をやっていただきます。・・・例のごとく一人の隊ですけど」
「へーい。スバル中尉と離ればなれか・・・」
「う、うるさい!」
サブロウタのジョークに赤くなって怒鳴るリョーコであった。

「同正操舵士 ハルカ・ミナトさん。
 ああ、以下階級を呼称しない場合はネルガルからの出向社員扱いになりますのでご了承下さい」
「社員っていうかアルバイトなんだけど、よろしく〜〜〜」
「・・・あの・・・僕は?」
いつも呼ばれる順番を飛ばされて一人不安がるハーリーを無視して続けるルリ。

「同通信士 白鳥ユキナさん」
「どうも、ユキナちゃんで〜〜す♪」
「学校いいの?」
至極冷静なツッコミのヒカル。
「保護者公認で問題ないない♪」
「・・・どうせほっといたって無茶しても乗るって言うんだから、せめて目の届くところにおいておかないと不安で不安で・・・」
一同、ミナトの嘆きに同情する。



宇宙軍本部前


「本当に行くの?」
「ああ」
「私だけでもいいのよ。一応副長なんだから」
「・・・・」
無言で先を進むその男をエリナは溜め息をつきながら追いかけた・・・。



再び地球連合宇宙軍・大会議室


「続きましてナデシコB艦長 テンクウ・ケン少佐」
「どうも、よろしくお願いします」
「ちなみに少佐にはナデシコCとBのエステバリス隊の指揮官をやっていただきます」
「そちらの方々もよろしくお願いします。」
相変わらずクソ丁寧な男であった。

「何でその中にもう一つの艦の名前が入っていないんだ?」
リョーコが不審そうに訪ねた。
「ネルガル供与艦は『艦隊の方針を最大限尊重しつつ艦長の裁量で作戦参加する』っていう約束で参加していただいているので直接の指揮権がないんですよ」
「やだな、大人の都合って」
ユキナに昔の自分のセリフを盗られて苦笑するルリだった。

「副提督 アオイ・ジュン中佐」
「どうも、よろしく」
「え〜〜頼りない」
「こらユキナ、そういう事言うかぁ」
早速始める痴話喧嘩

「ちなみに、中佐にはナデシコB指揮の補佐をお願いします。テンクウ少佐はエステで戦闘することが多いんで」
「ちょっと待てぃぃぃぃ!!
 紹介の順番からして、それじゃ実質的な副長じゃないか!!!」
「まぁ、有り体にいえばその通りです」
「こら〜〜!!!」
「ジュン君、お願い。お友達でしょう?」
「う、うん・・・」
パブロフの犬か、ユリカへの服従回路が未だに解けていない。
「あ〜ジュン君、そっちに行っちゃうんだ〜〜
 浮気しちゃだめだよ」
「な、な、何を言ってるんだ、ユキナ!」
アルバイトの女子高生に手玉に取られる副提督って一体・・・

「ナデシコB副長及びメインオペレータ マキビ・ハリ少尉」
「ガーン・・・艦長そんなぁ・・・」
「ハーリー君、私はもうあなたの艦長じゃありませんよ」
「ガガーン・・・そんなルリさんひどい!」
本当に泣き出すハーリー。みっともないことこの上ない。

「泣いてもダメ!それに、いつまでも私の補佐止まりの人を男性として見る事なんて出来ませんよ。」
「グス・・・ルリさん・・・」
「ハーリー君、うまくナデシコBを切り盛りしてみなさい。私と同じ土俵に立てたらアキトさんと同じ扱いにしてあげます」
「わかりました!
 この不詳マキビ・ハリ、あなたのために立派なオペレーターになって見せます!!!」
ハーリーは恥ずかしげもなく聴衆の前で宣言するのだった・・・

「バカ・・・」
「ルリルリも男を裏からコントロールする術を身につけたんだ♪」
「ちがいますよミナトさん・・・」
「照れない照れない♪」
「・・・・」

とまぁ、そんなこんなで各人の紹介は続くが、ナデシコBのその他の主要クルーは旧ナデシコBのクルー達が当たる事になった。
彼らあるいは彼女らは無論、テンクウ・ケンとは初対面だった。
ケンがクソ丁寧に挨拶していったことは言うまでもない。

「同ナビゲータ兼医療班並びに科学班 イネス・フレサンジュ博士」
「よろしく」
「おお、珍しく説明なしで挨拶が終わりましたねぇ」
「なんですか、提督。説明して欲しいんですか?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。あはははは・・・・」
薮に手を入れかけたユリカであった。もう少し慎重ならイネスが神経質になっているのに気がついたかもしれない。

「続きまして、ナデシコBエステバリス隊隊長 スバル・リョーコ中尉」
「オッス!よろしく!」
「同副隊長 アマノ・ヒカルさん」
「おひさ♪」
「同副隊長 マキ・イズミさん」
「間引きされた太陽・・・おひさ・・・ま」
あいかわらずイズミの寒いギャグは笑えなかった。

「ちなみに統合軍の旧ライオンズシックルの皆さんも移籍してもらいましたのでよろしくお願いします」
「よう、お前ら元気か!」
「「「「「姉御、よろしくお願いします!!」」」」」
リョーコも結構慕われていたようだ。

「整備班班長 ウリバタケ・セイヤさん」
「オッス、みんな元気か?」
「ちなみにセイヤさんには艦隊全域の整備をお任せします」
「ま、オレしかいないだろうからな!」
「それと本日はいらしてませんが、副班長さんもいらっしゃいます」
「え?」
これはウリバタケも聞いてないらしく、驚いた。

「主にネルガル供与艦専属になられると思います。ネルガルの新製品の調整のために来られますので・・・」
「おい、ルリルリ。それってまさか・・・」
「たぶん、ご想像の通りです。」
「ああああ、あのメカフェチ女が来るのかぁぁぁぁ!!」
ウリバタケは心底嫌そうな顔をして呻いた。

「ルリちゃん、誰なのその人?」
ユリカが恐る恐る尋ねる。
「エリナさんの妹さんです。」
「ひょっとしてお姉さんに負けず劣らず?」
「はい、高飛車です・・・性格は緩い方ですが・・・」
「誰が緩いですって?ホシノ・ルリ、ミスマル・ユリカ!!」
「「ギク!!」」
振り返ると噂の人物サリナ・キンジョウ・ウォンがニターっと笑って立っていた。
彼女はエステバリス開発の第一人者で主にブラックサレナの調整にあたっていた人物だ。
ルリ自身はこちらの世界での面識はなかったが、Princess of White の世界ではホワイトサレナの整備でお世話になっていた。無論、当のサリナ自身はそのことは覚えていないが。

「何時から其処に?」
「『この不詳マキビ・ハリ、あなたのために立派なオペレーターになって見せます』ってあたりからかな?」
「いらっしゃらない予定じゃなかったんですか?」
「ん?そのつもりだったんだけど、おもしろいモノが観れそうだったんで、来ちゃった♪」
「・・・何がですか?」
「もうすぐ来るわよ、修羅場が♪」
やたら訳知り顔でニヤニヤするサリナ。ルリは苦笑する。

コンコン!

ドアをノックする音だ。
「ほら、来たみたいよ?」

扉の向こうから現れた人物に一同は息を呑んだ。
まぁ、一部の人達はある程度予測はしていただろうが。

「ア、アキトくん?」
その姿を前に見たことのあるミナトがみんなに代って彼に尋ねた。

黒尽くめのマントに黒いバイザー・・・
Prince of Darkness・・・闇の王子様
先の第一次火星極冠事変におけるヒサゴプラン拠点襲撃の首謀者
第一級犯罪者として指名手配されている男・・・
テンカワ・アキト・・・

「遅れてごめんなさい」
彼に寄り添うように付き従うエリナが謝りの言葉を述べる。
それに構わずアキトは反対側に控えていたラピス・ラズリの手を引いて自分の席に向かった。

「では、改めてご紹介します」
なるべく感情を表わさないようにルリは三人を紹介した。
「ネルガル供与艦、ユーチャリス艦長兼ナビゲータ 黒百合ことテンカワ・アキトさん
 同副長 エリナ・キンジョウ・ウォンさん
 同メインオペレータ ラピス・ラズリさんです」

「でも・・・」
誰かが呻く様に呟いた。
「ちなみに、地球連合は本作戦に協力する代わりに、テンカワ・アキトさんに懸けられている全ての犯罪容疑及び手配リストの抹消を承認いたしました。
 これで一応彼はまっとうな一市民に復帰しておりますのであしからず・・・」
みんなの不安が広がる前に先手を打つルリの発言。
ネルガルとユリカ及びルリがどのような政治取り引きを行なったのか想像に固くない。
この緊迫した状況が許した超法規的処置といえる。

「そういうことだ。
 よろしく・・・」
変わり果てたかつての仲間、テンカワ・アキトの言葉に一同はただ呆然とするしかなかった・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


と言うわけで取り敢えずプレリュード含めて3話使ってまだストーリーのスタートラインにも到達していないこのお話。
もう少ししたら艦隊戦やら、敵の正体やらの本筋に入っていけると思いますので今しばらくご猶予をお願いします。

では

Special Thanks!!
・みゅとす様
・ふぇるみおん様
・kakikaki 様