アバン


とりあえず時と場所は聞かないで。あまり厳密に特定すると面白くなくなりますから。

今回は人気投票の応援イベントという事で久々の復活です。
とはいえ、あまり大した事件もないアキさんの平凡な休日・・・なんですけど、そこはそれ、ナデシコは退屈しない程度に事件があるって事で。

さてさてどんなくだらない一日なのでしょうか?

ああ、これって外伝なので黒プリ本編とは何の関係もありませんのでそのつもりで。



休日の朝


彼女の休日の朝はこんなシーンから始まる。

ゲシ!

「イタタタ・・・」
朝からケリを入れられて痛がるアキ
ベットの脇を見るとそこにはいつの間にか潜り込んだラピスが寝相の悪い格好で大の字になっている。

「むにゃむにゃ〜小娘には負けない」
「負けないって、何に?(苦笑)」
「私はアキのメイド・・・」
「おいおい」

相変わらず変な寝言だ(笑)

「しかもおへそを出しっぱなしにして、風邪引くわよ〜」
アキはラピスのパジャマを直してあげる。
今日は休日なので遅くまで寝ていようと思ったのだがどうも邪魔されたようだ。
とはいえ、これからもう一寝入りするほど眠くもない。
まぁここで起きるのも悪くないだろう。

今日は珍しくご飯を炊かなかった。
ナデシコ食堂で出す予定の食パンがあるからだ。
ホウメイさんに味をみておいてくれと頼まれているのだ。
ということで今日は洋食風の朝食になる。

「スクランブルエッグがいいか、ベーコンエッグが良いかどっちが良いかなぁ〜」

などと考えながらシャワーを浴びる。
だが、シャワーを浴びている内にどうでも良くなる。
お風呂は頭の疲れもとってくれる万能薬である。

シャワーをひとしきり浴びて出てくるとそろそろラピスが起き出す。

「・・・お腹減った〜」
「ああ、ご飯の支度するから着替えでもしていて」
「・・・お着替えさせて」
「甘えるな。赤ちゃんじゃないでしょ」
「ケチ」

と、ぶつくさ文句を言いながらパジャマを脱いで着替えるラピス。多分まだ寝ぼけてるんだろうとは思うが。
そういうアキだってお風呂あがりにバスタオルとショーツ一丁という体たらくである。
アキはもう一度今日の朝食に関して悩むことにした。

「う〜ん、トーストだからスクランブルエッグかハムエッグ、いやいやベーコンエッグのどれかか。サラダは何が良いかなぁ〜
 ラピスちゃんは何が良い?」
「トマトは抜いて」
「ダメだよ、好き嫌いしちゃ」
「ケチぃ〜」

と、談笑していたその時である!

「アキさん♪朝食をご馳走して下さい♪」
「こらユリカ!またマスターキーで勝手に人の部屋の鍵を!」
「そういうアキトだってアキさんの美味しい朝食を食べたいんでしょ?」
「だからってノックもせずに・・・」

と、ユリカとアキトが部屋に乱入してきた。
しかし、彼女達が部屋の中を改めて注視すると・・・

ラピス、パジャマ脱ぎ脱ぎの最中・・・
アキさん、バスタオルを羽織っただけで朝の牛乳をラッパ飲み中・・・
ユリカ、それをみて真っ赤になる・・・
アキト、鼻から一筋の赤いしずくを垂らす・・・




一同、数秒間フリーズ



ラピス「アキト、変態!」
ユリカ「アキトがそんな人だなんて思わなかったわ!」
アキ「おのれ!女の敵!木連式柔!!!」
アキト「俺のせいじゃなっすよ〜〜ってユリカお前〜〜!」

ドンガラガッシャン!

哀れ、アキトはアキさんに部屋の外に吹き飛ばされるのであった。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
人気投票応援イベント特別企画
外伝 アマガワ・アキの優雅な一日



続・休日の朝


ムスゥ〜〜
この部屋の主人はふくれっ面だった。

「アキさん、ごめんなさい〜」
「・・・ぷい!」

取り繕うアキトだがアキにすげなくそっぽを向かれた。
仕方がないのでアキトはおだてる作戦に出た。

「このベーコンエッグ美味しいですねぇ〜
 このベーコンのシャキシャキ感がなんともいえないッスよ♪」
「そのベーコン、本日のお買い得品300円の品よ」
「・・・」

ファーストコンタクト失敗

「いやいや、この玉子が良いんですよね♪」
「その玉子、食堂の賞味期限切れのやつよ」
「・・・」

セカンドアタック失敗

「ほらほら、このトースト美味しいですねぇ♪
 自家製ですか♪」
「それ今度食堂で出す試供品」
「・・・」

サードインパクト炸裂

「でもやっぱり調理したアキさんの腕ですよ♪」
「ベーコンエッグでこれぐらいの味だせなきゃ料理人なんてやめた方が良いわよ」
「あ・・・」

取り付く島もないとはこの事だ。
その横でラピスとユリカが申し訳なさそうにベーコンをフォークでいじってる。

「でも玉子料理って意外と難しいですよね?」
「そりゃ〜まぁ・・・」
「そうそう、俺、スクランブルエッグのコツを教わりたかったんッスよ」
「スクランブルエッグ?」
「そうなんですよ。これがなかなか難しくて・・・」
「・・・しょうがないわね。来なさい、教えてあげるから!」

少し怒ってはいるがアキはアキトを連れてキッチンに向かった。

『とりあえず料理の話題でご機嫌を回復出来そうね』
『アキト、要領悪い』
ギスギスした雰囲気から解消されてホッとするユリカとラピス。

さてキッチンではアキがスクランブルエッグのお手本をアキトに見せていた。

「・・・とこうするの。わかった?」
「わかりました」
「さぁやってみれ」
「俺がッスか?」
「当たり前でしょ?習うより慣れろ!」

ということで見本の一人分を作って見せたアキはキッチンを離れて残り3人分をアキトに作らせることにした。

テーブルには見本で作ったアキの美味しそうなスクランブルエッグ・・・
そしてキッチンでは「ほちょわ!」とか「ぬうぉぉぉ!」とか「なんと!」とかスクランブルエッグと格闘するアキト。

・・・

そこでラピスとユリカは端と気づいた。

『アキの見本が一番美味しいはず・・・』
『ああ、アキトのピンチ!ここは恋人である私の出番!』

数秒の沈黙の後・・・

「頂きます〜♪」
「ダメでしょ、ラピスちゃん!みんな一緒に食べるの!」
「そんな〜アキ〜」
アキのスクランブルエッグに手を出そうとしたラピスは阻止される(笑)

「アキト♪私も手伝ってあげる」
「うわぁ、や、やめろユリカ!!!」
ユリカ、アキトの料理に乱入



数分後・・・


キラキラ♪
キラ♪
どよ〜ん
ボロ・・・

食卓に並んだ4つのスクランブルエッグ、どれがどんな感じに仕上がっているかは解説はいらないだろう。
4つのスクランブルエッグに対し、食卓を囲むのは同じく4人

しばらく無言の4人・・・

「よし!大富豪で決めましょう!」
「何故に!?」

朝食編、もうちょっとだけ続きます(笑)



新・休日の朝


かくして4つの個性的なスクランブルエッグをかけた大富豪(地方により大貧民とも呼ぶ)が繰り広げられることになった。もちろん大富豪と大貧民ではゲッツするスクランブルエッグに天と地ほどの差があることは明白である。
配られたカードで一喜一憂する一同。
ちなみにジョーカーなし、革命あり、2が最強のルールである。

「んじゃラピスちゃんからカード切って良いよ」
「うん」

いきなり3のツーペアを捨てるラピス。トップバッターはこういう普段切りにくいカードをさっさと捨てるのがセオリーだ。

「ラッキー、5のツーペア♪」
「6のツーペア」
「J(ジャック)のツーペア」
「う、アキさんいきなりペース上げすぎ」
「ふふふ」

ユリカ、アキト、アキの順にカードを切っていく。ユリカはその中間をもう一度出したかったようだ。
さて、ここからが難しいところだ。上位のカードを温存していくか、それともさっさと上位のカードを出して親を勝ち取り、次の場のカードを出すか。次の場のカードを出せると下位のカードを処分できるというのとペア数のコントロールが出来るというイニシアティブが取れる。勝つためには戦略が必要だ。

「パス」
「パス」
「パス」
「あれ?みんな出し惜しみ?良くないなぁ〜それは」

アキはにんまりと笑う。

「いきなり革命!」
「なにぃ!?」
アキは10の4カードを出した。革命であり、今度は数の多い方が下位のカードとなってしまう。

「ううう・・・」
「うにゅぅ〜」
「そ、それは・・・」
「ふふふ、革命返しはないみたいね♪
 んじゃハートの8♪」

アキは余裕で比較的真ん中のカードを1枚切る。ということはアキ自身は数字の大きいカードは持っていないということか?

「クラブの7」
「スペードの6」
「ダイヤの5」

ラピスにユリカにアキトは順当なカードを出していく。
アキトとしても結構勝負掛けのカードである。
しかしアキは軽やかにかわした。

「ふふふ、ハートの3♪」
「なにぃ!?」

革命中は最強カード3を出されてしまった。ということはアキは3とか小さい数字のカードばかりゴロゴロしていたのか・・・数字の大きいカードばかり持っていた誰かさんはあからさまに悔しがる。

「アキの意地悪〜」
「ふえぇ〜さっきからほとんどカード切れないよ〜」
「んじゃ、アキさんどうぞ」

山を崩して新たなカードから開始である。

「んじゃハートのK(キング)」
「・・・スペードのQ(クイーン)」
「クラブの9」

今度は何とか切れるカードが出てきたのでみんなホッとしていた。
しかし今日のアキは表情がさらに小悪魔っぽかった。

「ふふふ、ダイヤの3♪」
「うそぉ〜!」

ここで最強の3がまた出てきた。まさかアキが3を2枚持っているとは思わなかったのだ。
3人はここまで何もさせてもらえてない。
アキはここでラストスパートをかけることにした。

「ふふふ♪それじゃ革命返し♪」
「何ですと!?」
アキは今度は4の4カードを出した。
アキはトータルで3を2枚と4を4枚も持っていたのだ。
それなのにみんな何も太刀打ちできなかった。

「ってことでダイヤのA(エース)であがり♪
 んじゃ後は頑張って♪」

さっさと一人勝ち抜けしたアキは冷めない内にスクランブルエッグを食べようとした。
しかしそこでアキが見たモノとは・・・

「さすがに美味しいねぇ、このスクランブルエッグは♪」
「なんだ?このスクランブルエッグは、不格好だな〜」
「そう?結構美味しいけど?」
「ゆ、ユリカ・・・僕は愛に殉じたよ・・・」
それぞれアカツキにウリバタケ、ムネタケがスクランブルエッグを頬張っていた。
ちなみにジュンが一番まずそうなスクランブルエッグを食べて痙攣を起こしていた。

そこの光景を見たアキだけでなく、ユリカやアキトにラピスも『ガビーン』という顔をしたそうな(笑)



休日の過ごし方


さて、バカな男子4人が血祭りに上げられたことは言うまでもないが、朝食が終わるとアキさんは暇を持て余した。
ホリックワーカー気味なアキにしてみればたまの休暇というのは手持ち無沙汰になるものだ。

最初はあまりにも暇だから食堂でも手伝おうかと思っていたのだが、「パイロットは休息するのも仕事の内ですよ♪」とユリカに言明されてしまったのだ。そもそも休暇だってアキの場合ほとんど休みも何かしら働いていたりするので見かねたユリカやプロスペクターが案じて、強制しないと本人が休暇を取らないだろうと発案したからだ。

つまり業務命令である。民間企業であるネルガルとしても過労死された場合の責任など取りたくはないのだ。

まぁそんな理由でアキは所在なく部屋でうろうろすることになった。

「ん・・・何をしよう」
真面目に悩む。これだから仕事が趣味な人間は・・・と思うが、何かしていないと落ち着かない。こういうときは普段忙しくてやれないことをやるべきなのだが・・・

「積ん読く(つんどく)でも消化するかな?」
買うだけ買った雑誌とか借りたビデオとか消化するべきだろうか?
しかし、そもそもあまりそういうモノをため込んだ覚えがないが、あるとしたら多分押入だろう。そう思ってゴソゴソ押入を覗くと・・・

「・・・ゲキガンガー?」
ゲキガンガーの雑誌にゲキガンガーのビデオ
なぜ自分の部屋にこんなモノが?
すると置き手紙が一通

『俺のコレクションをお前に託す!by心の友ダイゴウジ・ガイ!』

オイ・・・いつから私はあなたの心の友になったのよ・・・

アキは無言でそれらをゴミ箱に捨てようかと一式をゴミ箱の直上まで持っていって思い直した。さすがにそれをするとまぶたの裏のガイが泣きそうな顔になって懇願するのでそのままゴミ箱直行は勘弁して上げることにして段ボールにまとめておいた。

「後でアキト君にあげるのは・・・やめた方が良いか」
この時代のアキトもゲキガンガーにハマるのは気分的に面白くない。

「あとヒカルちゃんか・・・でも大事にするか、はたまたマニアにオークションで売りつけるかどちらかだろうなぁ〜」
多分後者だろうなぁ〜と思ってやっぱり見せるのを止すことにした。

「そうだ!九十九君にでもあげよう。何ヶ月後になるかわからないけど・・・」

結構気の長い話だ。だが、この段ボールの中身を遊びに来たラピスが見ることをアキは知らない。ましてや将来、等身大ゲキガンガーを作り上げる様な少女に育ってしまうなど知る由もなかった(笑)

ともあれくだらない片づけに体力を使った後、再びアキはやることがなくなるので困った。
部屋の片づけか?
でも片づけるほど部屋に荷物はない。相変わらず殺風景な部屋だ。
あるとすれば料理道具ぐらいしかない。
でも料理道具なんて料理を作っている最中、煮物とか焼き物の時間待ちの間にさっさと洗って片づけてしまうものだ。上手な料理人ほど料理道具の片づけは上手いものだ。
というわけで片づけるものはほとんどない。

「う〜ん、体でも鍛えるか?」

いちにぃさんしぃ、ごぉろくしちはち〜
いちにぃさんしぃ、ごぉろくしちはち〜
いちにぃさんしぃ、ごぉろくしちはち〜

ラジオ体操第一は終わり、第二に移るがそれも10分も持たない。
次は腕立て腹筋、背筋・・・すぐにネタは尽きる。
それぞれ1000回ぐらいやれば時間は稼げるが、さすがにクタクタになりそうだし、それでは休暇を取ったことにならない。

「さて次は何をしよう〜」

これだから仕事が趣味な奴は始末が悪い(苦笑)
既に何もすることがなくなったアキは本気で食堂の手伝いでもしに行こうかと思い悩んでいたその時、その考えは乱入者によって遮られてしまった。

「アキさん、アキさん♪」
「どうしたの?艦長」

ユリカ乱入。しかもなにかろくでもない提案を持ち込んできたって顔をしている。

「そんなことありません。素敵な提案です♪」
「いや、まだ何も聞いてないけど」
「そんな顔をしてました♪」
「・・・で、素敵な提案って?」
「プールにでも行きませんか♪」
「はい!?私には今プールという単語が聞こえましたが?」
「ええ、そう言いましたよ♪」
「プールっていったって、ナデシコは今太平洋上だし」

確かにナデシコは太平洋のど真ん中、近くに島一つない。

「ですから♪」
「え?」

次回に続く(笑)



南国バカンスみたいな


場面転換・・・

そこはナデシコの大浴場である。ごく普通の日本的な銭湯である。
しかし・・・

「ここ・・・ナデシコの大浴場よね?」
「ええ、もちろん♪」
「でも昨日までは・・・」
「私が許可しました♪」
「許可?」
「そうです♪南国のバカンス気分ですよ♪」
「あっ、そう・・・」

お風呂の壁画はいつもの富士山ではなく南国トロピカル〜ってな感じに描き代わっていた。ちなみに壁画担当であるアマノ・ヒカル嬢がピースサインをしていた。
それだけなら変な壁画の銭湯ということで済ませるのだが、銭湯の中には海岸にあるようなパラソル、浮き輪にビーチボール、極めつけはヤシの木(劇の大道具みたいな奴)が青々と茂っていた。

そう、ここは銭湯のはずが中身だけは南国の海岸なのである。

バシャバシャバシャ!

「それ〜♪」
「やったな〜♪」
「わははは♪」

銭湯の浴槽は湯気が立っていない。完全に水のようである。その中には既に水着姿でヒカルやメグミらが海岸で水遊びしていた。

「聞くだけ無駄かも知れないけど・・・なんでこんな事になってるの?」
「もちろん、バカンス気分を味わってもらうためです♪」
沈痛そうに聞くアキに対してユリカはパーティーを開いたのと同じぐらいの気安さである。

「良くプロスさんやエリナさんが許したわねぇ」
「許可なんて取ってませんよ♪」
「え?さっき許可したって・・・」
「別にリクリエーションぐらいでプロスさん達の許可なんか必要ないじゃないですか♪」

良いのか?それで。
ネルガルの雇われ艦長の分際で会社の所有物を勝手にこんな事に使って・・・

「大丈夫ですよ♪ルリちゃんやラピスちゃんを味方に引き入れました♪」
「どうも」
「アキ、泳ごう♪」

隠蔽工作バッチリですって感じのルリとラピスがピースサインを送っていた。この分だと全クルーぐるみの悪巧みらしい。

「さぁさぁあまり時間もありませんからともかく楽しみましょう♪」
「わぁ、ちょっと艦長、引っ張らないで〜」



しばしの後・・・


「それ♪」
「トス!」
「アタック!」

リョーコとヒカル、イズミらはビーチバレーを行っていたが・・・

「イテテテ・・・」
「さすがに銭湯の床でビーチバレーは無理か?」
「そうだねぇ」

タイル張りの銭湯の床の上ではそりゃビーチバレーは難しそうだ。

「アキさん、サンオイル塗って上げますよ♪」
「いや、メグミちゃん、別に銭湯で日焼けしないって・・・」
「え〜〜でも〜〜」
「アキ、私が塗る!」
「ら、ラピスちゃんまで(汗)」

銭湯の中で甲羅干しや日光浴など出来ません。

「ほら、イルカさんだよ〜」
「かまいません。私にはビート板がありますから」
「でもルリちゃん、泳げるの?」
「だから練習するんじゃないですか」
「お風呂だと足がつくもんね♪」

ユリカの言い様にむかつくルリ。

「では海のイメージに近づけるために人工波発生」
「うわぁぁぁ!」

どぼん!

ルリはコミュニケをいじるとお風呂のはずなのに波が発生した。イルカさんの浮き袋にしがみついてプカプカしていたユリカは予想外の波を食らってイルカから落ちてしまった。

「うじゅ・・・」
「フフフ、無様ですね」
「る、ルリちゃん・・・」
「私はバカンスっぽくしただけですよ」
「・・・ふ〜ん、そういうことをするんだ・・・
 ならこうよ!」

意地悪いルリの顔を見てユリカは臨戦態勢に移ることにしたようだ。

バシャバシャバシャ!
ユリカはルリに水をかけ始めた。

「か、艦長、や、やめてください〜」
「ホラホラ♪これでも私は水鉄砲のユリカって小学校の頃に言われてたのよ♪」
「ま、負けません!」

バシャバシャ水をかけまくるユリカに対抗するルリだが身体能力の劣る彼女は劣勢に立っていた。

「艦長もルリちゃんもやめなさいよ・・・」
止めようとしたアキ。しかしそれは最悪の結果を招いた。

「もう許しません!ルリウォータースライドアタック!」
「ちょこざいな!ミスマル流奥義ミラクル鉄砲水!」

ざっぱーん!

二人の必殺奥義がちょうど割って入ろうとしたアキにぶち当たった。

・・・・・・・・・・

ずぶぬれになったアキの姿に一同血の気が引く。
それは当たり前だろう。こめかみ辺りに青筋がひくひくと浮き上がっていたからだ。

「あ、アキさん、こ、これは何というか・・・」
「そうそう、水もしたたる良い女って言うじゃないですか♪」
「艦長、それ何のフォローにもなってません」

青筋は経るどころか増える一方だった。

「ウキィ!!!!」
「ああああ!アキさんがキレた〜」

お風呂場は阿鼻叫喚の世界と化したそうな。



ナデシコ浴場の外


扉の向こうではアキの奇声とそれを必死に取り押さえようとする者、あるいは逃げまどう者たちの悲鳴で溢れていた。

言い忘れたが、ナデシコ浴場・南国リゾートバージョンの中はあくまでも女性オンリー・・・なのであるが、この方達が黙って指をくわえているはずがない。

「は、班長・・・俺、生きてて良かったッス!」
「ああ、アキさんのあられもない姿が♪」
「だろう?このくんつほぐれつで絡み合う美女達♪
 見逃す手はないよな?」
「はい!」
「おい、ビデオは回してるだろうな!」
「もちろんであります!」

出歯亀整備班員達が浴場を覗き見ていたりしていた。
本来、彼らは見張り番のはずなのであるが、この美味しいシチュエーションを黙って見逃すはずがなかった。

と、そこに・・・

「ねぇねぇ、何やってるの♪」
「うるさいなぁ〜今良い所なんだ、邪魔するなよ」
「そう言わずに教えてよ♪」
「見ればわかるだろ!覗いてるんだよ」
「何が見えるの?」
「なにってそりゃもちろん・・・」

え?
ウリバタケはその声色に気づく。彼はようやく背中をトントンと叩く人物に気がついた。
声色は作っていてもこの特徴のある甲高い棘のある話し方は聞き覚えがあった・・・

そ〜っと見上げるとそこにはお約束な人物が立っていた。

「棘があるなんてご挨拶ねぇ」
「いや、それは言葉の綾というか・・・」
「へぇ〜面白いものが見えるわねぇ。私にも見せて」
「や、それはちょっと・・・」

動揺するウリバタケにかまわずその人物は扉の向こうの光景を覗き、そして小さな溜息をついた。

「このバカ騒ぎ、あなたも関わってるの?」
「えっと・・・それは・・・」
「説明、してもらおうかしら♪」

ニッコリ笑うエリナ・キンジョウ・ウォン女史
ウリバタケは仲間に避難警報を発することすら許されなかった。



数分後・・・


ユリカ以下全員、正座をさせられたままこっぴどくお説教されたそうな(笑)



昼食時


「あ〜酷い目にあった〜」
水はしこたま浴びるわ、エリナにこっぴどく説教されるわ、散々な目にあって溜息をつくアキさん。お昼時なのだが食事を作る気にもならなかった。

仕方がないのでナデシコ食堂に向かってそこで遅めの昼食でも取ることにした。

ザワザワザワ・・・

食堂は今日も満員御礼、食券を買うだけでも長蛇の列が出来ていた。
お昼も大分経過したというのにまだ空いていないとは。
仕方がないのでアキも列の最後尾に並んで食券を買うことにした。

「あ、お先にどうぞ♪」
「いや、気を使わなくて良いから〜」

何故かみんな自分の順番をアキに譲ってくれようとするが、こちらとしてもそんな特別待遇に甘んじるわけにも行かず列の最後尾に大人しく並ぶことにした。
それはそれで良いのであるが、列の前に並んでいた女の子達が盛んにアキに話しかけてきた。

「アキさん、お昼ですか?」
「ええ、そうだけど」
「そうなんですか、同席して良いですか?」
「え?」
「ダメですか?他に誰かと・・・」
「や、別にそういうのは・・・」
「じゃ、お願いしても良いですか?」
「え、ええ・・・まぁ」
「やった〜♪」

喜ぶ女子クルー達に戸惑うアキ

「・・・なんでまた私と一緒に?」
「だってアキさんほとんど厨房の向こうじゃないですか。一緒にお食事する機会なんて滅多にあるわけじゃないですし♪」
「別にありがたがるようなモノでもないと思うんだけど・・・」
「そんなことないですよ!みんな憧れてるんですよ♪」

憧れられても・・・と汗をかくアキであるが、彼女達からすればそうなのかもしれない。思えばパイロットとか食堂のコックさんなどこういう一般のクルーの人と付き合う機会などほとんどない。彼女達からすればアキは雲の上のスターなのかも知れない。

というわけで女の子っぽいキャピキャピとした会話に少し戸惑いながらもアキが食券を買う番となった。

ナデシコ食堂のメニューは色とりどりであるがやはり人気の定番は定食である。
理由は色々あるが一番の理由はやはりすぐ出てくることであろう。
基本的には事前に予約しておけばどんな料理でも作ってくれるのであるが、それは食堂が暇なときなど色々条件がある。また、定食でない食券で買えるメニューもやはり少し時間がかかる。クルーのみんなも少ない人数で厨房が切り盛りされている事を承知しているのだろう。

アキは本日の定食のサンプルを眺める。
A定食はカニクリームコロッケにミニオムレツ、ライスにスープそれにサラダである。
B定食は火星丼
C定食はラーメンライスである

どうしてもA定食に人気が偏りがちだが何故かBもCも根強い人気がある。

「う〜ん」
アキはさすがに悩む。手間暇の問題とはいえBとCが丼モノに麺類になってしまっており多くの人にとってはあまり選択の余地がないとも言える。
その分A定食の味を頑張っているのだが、それも提供する側の都合であり、お客にとっては関係ない話である。

『今度ホウメイさんにでも相談してみようかな・・・』

いざお客の側から見た場合、自分達の提供する料理が固定化されているのは問題だよなぁ〜と思い悩むアキであった。

ザワザワ・・・
いつの間にか自分の後ろに長蛇の列が!
人気の食堂はたった数秒でももたつくと途端に長蛇の列になり迷惑となる。

「あははは・・・すぐに買いますから」

アキはすぐにA定食の食券を買ってそそくさと定食受け渡しの列に並んだ。

「アキさ〜ん〜こっちです〜」
さっき声をかけてくれた女子クルーのグループが既にアキの席も確保して手招きしていた。さすがに恥ずかしいのでそそくさと近寄って大人しく座る。

「・・・このオムレツはアキト君が作ったのかな?」
アキは苦笑しながらオムレツを一切れ口の中に放り込む。
ちょっぴり不格好で若干だが火が通りすぎている。
ん・・・65点

「アキさんは食事中でもコックさんなんですね♪」
「え?」

難しい顔で考え込んでいたアキは声をかけられてハッとした。そういえば女の子達と相席していたんだった。

「そりゃそうじゃない。ミキは何も考えずに食べてるからお料理の腕が進歩しないのよ!」
「酷い!それじゃ考えなしに聞こえるじゃない!」
「いや、そのまんまでしょ」
「そんなことないってば!この間だって・・・」
「あ、あの・・・」
「あははは、ごめんなさい」
「せっかくアキさんと相席なのにケンカしちゃダメですよね♪」
「・・・アハハハ♪」

女の子達はケンカをしていたかと思えば急にキャピキャピし始めた。
なんか毒気が抜かれた感じだが、急に面白くなって笑い始めた。

それから女の子達ととりとめのない話題に花を咲かせながら食事をした。そんな何気ないことなのにただ食事をするのが楽しかったのは久しぶりだった。

「やっぱりアキさんって素敵ですね♪」
「い、いやぁ・・・」

まぁ、ちょっと尊敬の眼差しで見られるのはこそばゆかったが。



ダイハードみたいな


さてさて、お腹のふくれたアキだが、ふくれた以上出す必要がある。

「なんて下品な表現よ!」

某所個室で地の文に突っ込むアキさん。
しかし彼女は不穏な気配を感じた。

『格納庫、制圧しました』
『遊戯室、制圧しました』
『ブリッジは?』
『抵抗されておりますがもうまもなく制圧できると思います』
『よし!虱潰しにクルーをあぶり出して格納庫に集めろ』
『は!』

漏れ聞こえる声を考える人の姿をしながら聞いていたアキは『おいおい、穏やかじゃないなぁ』とほぞを噛んだ。
気配から察するに、ひぅふぅみぃ・・・5人ぐらい
ガチャガチャする装備音からすればライフルに防弾ジャケット、軍用ブーツ着用というところか?
ほどよく発せられる殺気と緊張感・・・それなりのプロ、ただし気配の消し方は下手だ。軍人か傭兵か、しかも並の腕前って所だが・・・

「よし、今度はここだ」
やばい、女子トイレにまで入って来ようとしている。う〜ん、スカートをはきたいんだけど、布ずれの音を聞かせるわけにもいかないし・・・

バタン!
バタン!
次々手前の個室から扉が開けられている。今いる場所は一番奥。
さて3、2、1・・・

「大人しく手を挙げろ!」
一番奥のドアを蹴るように開ける侵入者!銃を構えて動きを制止しようとした。
しかし、そこには誰もいなかった。

「ん?気のせいか・・・」

と言おうとした瞬間、真上から気配がした!

「腕の一本は覚悟しなさいよ!」
アキはトイレの扉の上の空間を背面飛びの要領で飛び越していた。侵入者が扉を開けた瞬間である。

「貴様・・ヒギィ!」
着地した瞬間、アキは侵入者の一人の腕を掴んで小手返しをかけた。しかしそのあまりのスピードの速さと絶妙な角度のために『パキン!』という気持ちのいい音を立てて腕があらぬ方向に曲がった。

「うわぁぁぁ!」
「どうした!」
その悲鳴に他の侵入者が振り返るがアキは振り返り切るだけの時間を与えなかった!
弁慶の泣き所を折るつもりで回し蹴りする!

ヒギィィィ!

「いいいいい!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「ぐへぇぇぇ!」

次々上がる悲鳴!みんながみんなどこかしらの骨を折られていた。

「私は人の休日を台無しにしたあげく、銃を向けてくる様な相手に手加減するほど甘くないから」
「うぐぐ・・・」
「何のつもりか知らないけど、奇麗に折っておいたから後で接骨医に行って繋げてもらいなさい」

アキは侵入者5人の戦闘力を事も無げに奪った。そして彼らの無線を取り上げてなにやら情報を仕入れようとした。

「お、お前は一体・・・」
「こっち見るんじゃないの!」
「げふぅ!」
痛みをこらえて見上げようとする前にアキは彼の顔を踏み倒した。
彼女はようやく気づいた。先ほど用をたしていた事に。
ずり落ちるスカートを改めて引き上げながら彼らの無線の内容に耳を傾けた。

『ブリッジ制圧しました!』
『食堂、依然抵抗にあい制圧できません』
『遊戯室にパイロット達が立て籠もっています』

う〜ん、食堂はアキト君とホウメイさんが頑張ってるか。
侵入ルートはどこかな?格納庫が早々に制圧されているからここから侵入されたのか?にしてもブリッジが制圧されたのは痛いなぁ。

「ラピed、ブリッジの全員は大丈夫?」
『はい、ゴートさんとプロスさんが最後まで抵抗されましたが今は縛られました』
「そう、とりあえず一安心ね。で、相手の人数は?」
『ブリッジに10人、格納庫に5人、その他艦内に20人ばかり』
「結構大がかりねぇ。まぁ200人からのナデシコを制圧しようっていうんだからこんなモノか・・・軍人?」
『連合軍の制服を着ております』
「う〜ん、そこまで露骨にやってくるか?」

アキは首を傾げる。が、それだけ本気ということは本腰を入れてかからないといけないだろう。

と、思ったその時、無線からコールサインが入った。

『チャーリーからブラボーへ、そちらの状況はどうだ?』

・・・アキは3秒ほど考えて素直に無線に出ることにした。

「ブラボーからチャーリーへ。こちらは第5フロアの女子トイレ制圧です」
『・・・貴様は誰だ?』

そりゃそうだろう。女の声で無線に答えたらいくら何でもバレる。
けれどアキはそれを承知で無線に出たのだ。

「わたし?私はジョン・マクレーンって所かしら♪」
『・・・ほう、オールドムービーマニアか』
「ところで、これ演習か何か?」
『・・・これは演習ではない』
「なら本気でやって良いよね♪」
『本気だと?』
「そう、私の本気を見たかったら、味方を救いに後で第5フロアの女子トイレにいらっしゃい♪」

そう言ってアキは通信を切った。
やる気満々である。



マトリックスで行こう


『敵は一人だ。見つけ次第排除せよ!』
「は!」
とは返事をしてみたものの、こちらは完全装備の歩兵が小隊単位で行動している。
そこに一人が突っ込んできても容易に返り討ちに出来るだろう。

「にしても何でこんな任務に・・・」
「まぁ愚痴を言うな」
兵士達はやれやれと溜息をついているが、自分たちが危険にさらされるとは露ほども思っていたなかった。人間、自分の不幸には鈍感なものである。

と、そこに・・・

タン、タン、タン・・・

廊下の向こうから黒いコートに黒いバイザーをかけた女性がやってくる。しかも両手を上げてである。

「貴様は何者だ!」
「いやぁ、無駄な努力はやめようと思って、投降しま〜す」
「おい、手を挙げろ」
「もう手を挙げてます」
不審者を発見した兵士達は恐る恐る彼女に近づく。女性はにこやかに笑いながら両手を上げて神妙にしていた。

「マントの中を見せろ!」
「両手降ろして良いッスか?」
隊長は溜息をついて兵士の一人へ指示をした。
兵士は一人に近づかせて身体検査をし、武器を取り上げるはずだったが・・・

ぺろ・・・

「なんだ、こりゃ!」

兵士が見たものは、コートの中にごちゃまんと入っている銃火機の数であった。
ピストルはリボルバーにコルトにベレッタは言うに及ばず、ハンドマシンガン、ショットガン、選り取りみどりである。

「こ、こいつ!」
投降する者がここまでの装備でやってくるはずがない。敵の意図に兵士は気づいたが、既に相手の初動に対処できるはずもなかった。

双波陣!

一撃を検査に来た兵士に当てる!
吹っ飛ぶ兵士!
彼は味方の兵士の所まで吹き飛ばされる!
いや、吹き飛ばされているように見えて彼女が初手を当てたままそのまま押し込んできたのだ。兵士達は吹き飛ばされてきた仲間に隠れて敵が近づいてきているのに気づいていたが、そのままでは味方を撃ってしまう。仮に撃ったとしても味方は防弾チョッキなどを完全装備であり、貫通して相手に届くか怪しかった。

だがその一瞬の躊躇で十分だった。

吹き飛ばされた味方を受け止める形になった兵士!
しかしそこに双波陣の名前の由来ともなる反対の手による第2手がやってきた。

ドスゥ!

いわゆる中国拳法で言うところの遠当てに近い技なのだが、2手目の掌底は飛ばされてきた兵士ではなく、受け止めた兵士の方だけを吹き飛ばした。
兵士達のまっただ中に飛び込んだ形になるが、未だに味方が敵のそばにいるためか躊躇していた。

ガチャリ!
彼女は瞬時にマントの中につり下げて置いたショットガンをホルスターから出さずにそのまま左右の兵士達に向けた。
兵士達は腹を据えて味方に当たるのもかまわずに銃を撃とうとした。

バンバンバン!

吹き飛んだのは兵士達の方だった。
軽く体を半捻り、その間に撃たれた弾はきっちり兵士達の数だけ。
それらは正確に兵士達の顔面に叩き込まれてもんどりをうって倒れた。

「はい、君達は死体ね」

アキは死体と書いた紙を兵士達に張り付けていった。

「良かったねぇ。セイヤさんのコレクションがエアガンやモデルガンばかりで♪」

『逮捕○ちゃうぞ』の劇場版じゃあるまいし、実弾相手におもちゃで対抗しようとする相手がいるなど想像もつかなかった兵士達であった。



事後処理、実は・・・


「あ、アキト君、そっちは終わった?」
『済みません、もうちょっとで・・・』
「ブリッジ奪還しちゃう前に終わらせないと特訓メニュー増やすわよ」
『そ、そんなぁ〜』
「ホウメイさんに手伝ってもらってるんだからちゃっちゃと済ます!」

それだけ言うとアキはコミュニケを切った。
切れる直前、スクリーンの向こうでは必死こいて兵士達と格闘していたがもうまもなく食堂の敵を一掃できるだろう。

「ということで後はブリッジだけなんッスけど、降参します?」
既にブリッジの兵士数名を倒したアキは残った兵士達に投降を呼びかける。
しかし兵士達は最後まで強硬な姿勢を崩してはいなかった。

「こちらにはまだ人質がいるんだぞ!」
確かに彼らは縛り上げたユリカやルリ、ミナトにメグミ、ゴートにプロスらへ銃を向けている。

「私には悪あがきに見えるんだけどねぇ」
「うるさい!コイツらを殺すぞ?それでも良いのか!」
兵士の一人が虚勢をはる。明らかに動揺しているのを必死に隠そうとしているがあまり成功はしていない。

「いい加減にやめた方が良いよ?たかが演習で重体になるのも馬鹿らしいでしょ?」
「な!」
「演習?」
ユリカ達がキョトンとした顔をしていたが、露骨に動揺した兵士達の顔がそれを物語っていた。

「つか、あんた達の所属はデータバンクで簡単にヒットしたよ?
 いわゆる連合軍のカウンターテロなどの検査を抜き打ちに行う監査チームでしょ?」
「何故それを!」
「本当のテロリストはもう少し自分たちの素性を偽装するものよ。特殊部隊だったら自分の経歴は抹消しておくものよ。
 あなた、アイダホで両親が農場をやってるんですって?」
「う・・・」

図星だったらしく、兵士の一人が露骨に動揺した。
アキは呆れる。

「君達にテロリストは無理よ。せいぜい気の緩んだ兵士達を抜き打ちで驚かせるぐらいが関の山よ」
「それってつまり」
「そう、どこかのバカがナデシコの危機意識が足りないとか思ってお灸を据えるつもりだったんだろうけどね」

アキは苦笑する。
さてさて、連合軍のお偉いさんか、はたまたネルガルの重役連中か・・・

「今回の反省材料はもう少し怪我をさせずに叩き出せなかった事ね」
周りには満身創痍、打撲骨折しながらも不思議と命に別状はないが不思議だった。



数時間後・・・


本当に袋に詰めた兵士達を引き取りに来た連合軍の士官達がアキを睨み殺さんばかりに睨んだが、本人はどこ吹く風であった(笑)



夕方・パーティーにお呼ばれ


「やれやれ、ひどい一日だったなぁ〜」

アキはポリポリ頭をかきながら自室に戻った。
まぁあれぐらいの敵を相手にすることなど造作もないが、それでも疲れるものだ。
何よりこれで休日が潰れたというのが何よりも脱力モノであった。

「もう、このまま寝ちゃおうかなぁ〜」

そうぶつくさ言っていると部屋の前にはお迎えが来ていた。

「アキさん」
「ルリちゃん・・・どうしたの?」

そう、神妙にアキのことを待っていたのはルリであった。

「じゃんけんで負けました」
「・・・私の部屋の前で立っているのがバツゲーム?」
「いえいえ、そういう訳じゃないんです」

さっぱり要領が得ない。ルリはなぜアキの部屋の前で待っていたのか?
廊下に立たされていたわけじゃあるまいし。

「あの・・・」
「なに?」
「お迎えに上がりました」
「お迎え?」
「ええ、お姫様のエスコートです」
「エスコート?」
「ええ、お姫様、パーティーへのご招待に上がりました」

ルリは恥ずかしがりながらも棒読みで劇のような台詞を言った。
それがバツゲームらしい。
アキはクスクス笑うとすっと手を差し出した。

「それでは案内してもらいましょうか?」
姫様のエスコートはナイトの栄誉
いつもと立場は逆であるが、ルリは彼女の手を取ってパーティー会場に連れていった。



場面転換・・・


アキはその場所に驚いた。
およそパーティーを行うような場所では到底なかったからである。
そう、そこは青空が見える場所だ。
ナデシコに青空が見える場所があるかって?
展望台とか?ブリッジとか?
違う、違う。

「どうしてこんなところでパーティーを?」
「だって、艦内でバーベキューをしたら怒られるじゃないですか♪」
「は、ははは・・・」

アキはユリカの台詞に苦笑いをする。

そう、ここは青空が見えるのだ、天井などあるわけがない。
ならば艦内ではない。
しかしナデシコは現在太平洋上を航行中
であれば、どこでバーベキューが出来るのか?

もちろん、甲板である。
正確にはブリッジ上部の平らなところである。
そこでバーベキューをしているのである。

え?航行中の戦艦がどれだけのスピードで飛んでいるか知ってるかって?
そんなところではバーベキューどころか立っているだけで吹き飛ばされるぞって?

「ご心配なく♪ナデシコにはディストーションフィールドがありますから♪」
艦長のユリカがにこやかに解説したが・・・良いのか?それで。

「良いんですよ♪それよりもアキさんもバーベキューをしましょうよ〜♪」
ユリカが手招きをする。既にアキト達はやってきてお肉を焼いていた。

「あ〜ヒカル!おまえ、それはあたしの肉だ!」
「え〜〜この肉がリョーコのだって証拠は〜〜」
「さっきからその肉はあたいがひっくり返していただろう!」
「ケチくさいなぁ〜」
「リョーコちゃんもヒカルちゃんも、お肉はまだまだあるから」
「テンカワさん、そうお肉ばかり出されると予算が〜」
「まぁまぁミスター、ここはアカツキ君が奢ってくれるっていうんだから」
「え、エリナ君、それはないだろう〜」
「色男、金と力はなかりけりってか?」
「そうだよねぇ、ウリバタケ君(汗)」
「じゃ、金はあるから色男じゃない」
「イズミさん、それ一票♪」
「メグミ君まで・・・」

ワイワイガヤガヤ、既にクルー達はにぎやかにバーベキューを楽しんでいた。

いつも通りのバカ騒ぎなんだけど、それが楽しそうでアキは自分でも知らず知らずのうちに微笑んでいるのに気が付いた。

『休日は楽しんだ者勝ち』

誰が言ったのかもう忘れたけど、こういう時は変に悩まずに楽しんだ方が良いのかもしれない。

「さぁ、アキさん♪ほらほらお肉焼けましたよ〜」
「ハイハイ♪」

アキは仲間の元に駆け寄ってバーベキューを楽しむのであった。



ちなみに居残り組はというと


「なんか上、楽しそうね」
「私達の分、残してくれてるかなぁ〜」

ブリッジではラピスとミナトはそれぞれの席で恨めしそうに天井を睨んでいた。
いくらなんでもブリッジから操舵士とオペレーターが離れるわけにもいかず、寂しくお留守番をしているのだが・・・

その願いも虚しく、特上牛カルビ他、高級牛肉は全てSOLD OUTするのであった。



深夜・食堂


「酷いと思いませんか?アキさん!」
「酷い酷い!」
「はいはい、わかりましたから、お夜食何が良いですか?」
「スパゲッティーカルボナーラ♪」
「オムライス♪」
「わかりました」

大層ご立腹になったミナトとラピスをなだめる為にアキは夜中に夜食を作ってあげる事にしたのであった。

やれやれと溜息をつくも、夜食にわくわくしながら待っている二人や楽しませようとしてくれたクルーのみんなを思うとこんな休日も悪くないと思うアキであった。



ポストスクリプト


ってことで外伝をお送りしました。

本作品は某人気投票の応援イベント内の小説掲示板に投稿していたものです。
見事に期間内に完結しませんでした(汗)
大体100行前後で書いていましたが、ネタ出ししながら書いていたのでなかなか大変でした。

お話的には各章100行という縛りを囚われずもう少し膨らました方が良いかなぁ〜と思うところがあるので、後少しぐらい手を入れるかもしれません(笑)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・hamabe 様