アバン


あなたの見た夢はあなたの夢ですか?
叶えられるからと誰かが見せてくれる夢を見て、自分の夢を見たつもりになっていませんか?
あなたの夢は昔あなたが夢見た夢ですか?

夢は叶えるもの
物語のハッピーエンドはめでたしめでたしで終わってしまう。
けれど現実はその先も続くのです。
だからこそ、叶っても叶わなくても現実は否応なくやってくる

そこにあなたの夢がなければ、そこにあなた自身がいなければ現実は夢の先を紡がない。
だからこそ問いかけずにはいられません。

あなたの見た夢はあなたの夢ですか?・・・と

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



火星極冠遺跡上空


アイちゃん!

アキトは彫像の頬をさわりあらん限りの声で叫んだ。

それが通じたのか・・・

静かに開く彫像のまぶた・・・その中にある白銀の瞳にアキトの顔が写ったその時!

「お兄ちゃん・・・」

動くはずのない口が静かに動いた。
彫像から漏れる声、
続いてまるで殻でも破れるかのように表面がひび割れた。
パリパリと白銀の膜は剥がれ落ち、
中から生身のアイちゃんが現れた。

「お兄ちゃん♪」

腕を広げるアキト
その腕の中に飛び込むアイちゃん

「お兄ちゃん、やっと逢えた♪」
「アイちゃん!」

大蛇の呪縛から解き放たれたアイちゃんはアキトの胸に抱かれるのであった。

「お兄ちゃん・・・」
「ゴメンね、アイちゃん、火星では助けられなくて・・・」
「ううん、いいの。だって逢えたんだもの♪」

アイちゃんはアキトの顔を見て感涙を禁じ得なかった。
もちろんわかっている。
それがつかの間の幸福だということを。
浅き夢は目覚めれば忘れてしまう。
それは必定であり、運命でもある。
けれど、このひとときに意味がないとは限らない。

なぜなら、彼女はこれからの20年間、その想いを胸に大人になるのだから・・・

「こっちに来たら渡してって頼まれたの」
「誰に?」
「お兄ちゃん・・・さようなら・・・」
「え?」

アキトは渡されたプレートに目をやっていたため気がつかなかった。
その悲しそうな声に思わずアイちゃんを見やる。
するとアイちゃんの体はキラキラと輝いていた。

「え?どういう・・・」
「お兄ちゃん、私のことを忘れない?」
「わ、忘れないよ」
「よかった。私もお兄ちゃんのことを忘れないよ」
「え?でも・・・」
「たとえ記憶を失っても私はお兄ちゃんを思い出す。
 だから、もう一度逢えたら・・・同じように抱きしめて♪」

その涙を流しながらも健気に笑う顔が心に焼き付く。
少女の体はキラキラと光り、陽炎のように輪郭が不確かになった。
それが何を意味するか、アキトもすぐに悟った。

「アイちゃん!」
「お兄ちゃん、逢えて嬉しかった」
「行くな!」
「また逢おうね・・・お兄ちゃん♪」
「アイちゃん!!!」

シュゥゥゥ・・・

抱きしめようとした。
けれども先ほどのような温もりも手応えもなかった。
アイちゃんはボース粒子と化して淡く消え去った。
たった一つ、小さなプレートだけを残して

アキトは光の残滓を抱き締めることしかできなかった。

アキト「また救えなかった・・・」
アキ「アキト君・・・」

アキトは心底悔しがった。
結局何も変えられなかった。
アイちゃんだって救えたかもしれないのに・・・

運命は何も変わっていないかもしれない。
けれど・・・

『アキト君』
「イネスさん」

ウインドウ通信を送ってきたのはバーチャルシステム用のメットを外したイネスであった。
アイちゃんは消えてイネスさんが残った。
つまりアイちゃんが20年前の過去に跳ばされる歴史は変えられなかったということだ。

アキトはイネスに謝った。

「イネスさんゴメン。アイちゃんを救えなかった・・・」
『良いのよ、お兄ちゃん。また抱きしめてくれれば』
「うん、抱きしめるよ・・・って、え?」
『20年も待たされたんだから、今度こそもっと甘えさせて貰うから♪』
「い、イネス・・・さん?」

イネスの声色が少し違う。
いつものぶっきらぼうなイネスさんじゃない。
そう、どちらかというと・・・

『お兄ちゃんが抱きしめてくれた温もり、思い出せなかったけど心のどこかで覚えていたわ。だからこの20年耐えてこれたの。
 歴史は変わらなかった。
 けれど私にとっては大きな変化。
 だから・・・ただいま、お兄ちゃん』
「うん、お帰り、アイちゃん・・・よかった」

イネスはニッコリ笑う。
アキトが抱きしめた思い出は彼女の中で息づいていた。
ささやかだけど、
歴史にとっては大したことではないけれど、
それは一人の少女にとっては確かに革命であった・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
最終話 ささやかだけど素敵なRevolution<前編>



火星極冠遺跡上空


アイちゃんが去った後、イネスの告白にアキトは喜んだ。
いや、彼だけではなく、アキも、その光景を見た誰もが目頭を熱くした。
少女の夢が報われたことを誰もが喜んだ。

だが、安心するのはまだ早かった。
事態は急変したのだ。

ぐわぁぁぁぁぁぁ!
「どうした、東郷!」
急に東郷が苦しみだしたのだ。
月臣は殴った自分のせいか?と駆け寄ったが、どうやらそんな生やさしいものではなかったようだ。

「俺の望んだ歴史は・・・黙れ!・・・違う、これは違う・・・」

東郷は頭を抱えて苦しみだした。
一つの肉体に二つの精神が同居していた。ただそれが今までは調和していた。
疑いも持たずに世界の有り様を変えられると信じていた。
だからこそ『始まりの人』は『東郷和正』の精神を上書きできていた。

しかし疑問が生じた。
それはさざ波のように心に波紋を広げた。

「俺の望んだ歴史は・・・歴史は・・・歴史は・・・
 くそ!くそ!くそ!」

二つの精神は分裂し始めた。
それは誰にも止められなかった。

苦しむ東郷の背中からオーラのようなものが現れた。

アキト「あ、あれは・・・」
アキ「憑りついていた者の正体が現れたようね。
 月臣君!早く逃げて!」

アキはこれから起きることを予感してそう叫んだ。

月臣「しかし、憑り付かれていただけなら助けてやりたい!」
アキ「けど・・・」
アキト「来ますよ!」

問答をしている暇はなかった。
東郷の体から爆発的なオーラが発生する!!!

ブワァァァァァ!

それはまるで霧だった。
ナノマシーンの霧だ。
それが『始まりの人』の正体だった。
膨大な歴史を記録したナノマシーンという記録媒体
それが東郷という憑り代に憑りついていられなくなり追い出され始めたのだ!

それと同時に八岐大蛇も苦しみ始めた。

ギャァァァァァァァァァァ!!!

アイちゃんという魂の器を無くし、原形を留められなくなったのだ。

ガク!

「東郷!」
月臣は気を失った東郷を支える。だが、その月臣が彼の背後に見たのは人型をした影状の霧が苦悶する姿であった。

『くそ!私の大蛇が崩れ去る!
 魂を失って形を維持出来なくなる!』

その言葉の通り、大蛇達は形を崩し始めた。
まるでそれが蝋細工であったかのようにボロボロと表面から溶け始めたのだ。
それに伴い、さっきまで触手に絡め取られていたエステバリス達も解放されていった。

リョーコ「た、助かった・・・」
ヒカル「一時はどうなるかと・・・」
イズミ「あ、あれ・・・」
秋山「なんと!」

イズミが指さした方を見ると、さっき大蛇に飲み込まれた地球連合の戦艦・・・正確にはクリムゾングループのシャロンの乗艦であるリアトリス級戦艦も吐き出されたからだ。

三郎太「このまま行ったらあの戦艦、地表に激突する!」
アカツキ「大丈夫、エンジンは生きているからたとえ落下していても重力制御で緩やかに着陸するさ」
アララギ「詳しいな」
アカツキ「門前の小僧だし。それより僕達もとりあえず退避した方が良いと思うけど」

中のシャロン達が気絶していても無事に地表に辿り着けるだろうとアカツキはみんなに促した。

退避しながら改めて大蛇の方を見る。
まるで蝋細工のように溶けながら霧散していこうとする大蛇の姿を・・・



Yナデシコ・ブリッジ


その光景を見ていたナデシコのクルー達も一安心していた。

ルリ「大蛇、崩壊していきます」
メグミ「地球の艦隊も含めて全員無事です」
ユリカ「良かった〜とうとう大蛇を倒したのね♪」
プロス「これもドクターのおかげですねぇ」
イネス「いや、私は別に・・・」
サリナ「ホホホ!さすが、私が解説したおかげね♪」
ウリバタケ「いや、俺様のラブラブイメージマシーンという発明のおかげさ!」
エリナ「っていうか、ただのバーチャルシステムじゃない」
ミナト「まぁまぁみんなのおかげで良いじゃないの〜」
ユキナ「そうだそうだ」
ジュン「それにしても大蛇が現れた時はどうなることかと思ったけど」

ホッと一安心する一同だが、ある人物だけは緊張を解いていなかった。

ナインティーン「ピピピーピ!」
フクベ「ほう、ナインティーン君、なんじゃと?」
ナインティーン「ピ、ピピ、ピー」
フクベ「ふむふむ」

バッタとなにやら会話をしているフクベ

ゴート「て、提督・・・言葉がわかるのですか?」
フクベ「もちろんじゃ、ナインティーン君とワシは竹馬の友じゃぞい」
ユリカ「いや、竹馬の友と言うほど年齢が一緒のようには思えませんが・・・」
フクベ「そんなことはどうでも良いのじゃ」
メグミ「どうでも良くないと思いますけど・・・」
フクベ「ナインティーン君曰く、『RPGのお約束を忘れるな!』だそうじゃ」
ユリカ「お約束って言われても・・・」

お約束という言葉に首を傾げる一同
すると一人がポンと手を叩いた。

ラピス「バラモスとゾーマ」
ユリカ「え?なにそれ?」
ラピス「この前、ドラクエやった。最後のラスボス倒したと思ったら・・・」
ユリカ「あ・・・」
ルリ「ラスボスは一度倒されてもパワーアップして復活・・・ですね」
フクベ「その通りじゃ」

フクベが指さした先では既に変化が現れていた・・・



火星極冠遺跡上空


ナデシコでそんな話がされている頃、崩れかかる大蛇の頭の上でも変化は起きていた。

アキ「あなた達、早くこっちに乗りなさい」
月臣「待ってくれ、東郷の奴を連れていく」

ぐったりと気絶した東郷を担いで月臣はアキセカンドの方にやってくるが、解けかかっている足場なのでなかなか先に進めないでいる。
しかしアキセカンドの右手に乗っていたアキトは非難の声を挙げる。

アキト「何でそんな奴を助けるんだ!そいつが元凶なんだろう!」
月臣「しかしこいつも操られていたんだ。
 操られた者の苦しみは俺にも痛いほどわかる」
アキト「そうだとしてもまだ『始まりの人』とかいう奴の一部が残っているかもしれないし・・・」
月臣「いや、今の東郷に邪気は感じない。
 裁くとしてもそれは法廷の上だ」
アキト「でも・・・」
アキ「アキト君!」
アキト「・・・はい」

アキに戒められてアキトは渋々月臣に手を貸そうとする。
だが、変化はその時起きた!

『まだ終わりじゃない!』

ナノマシーンミストになった『始まりの人』が叫んだ。

『まだ終わりじゃない!終わらせはしない!』

怒り狂った声は断末魔のようにも、呪詛のようにも聞こえた。

「もう終わりよ!
 アイちゃんは過去に戻った。
 その大蛇も魂を抜かれて形を維持できない。
 大人しく滅びなさい!」

アキは叫ぶ。けれど『始まりの人』の呪詛は止まらない。

『終わりなものか!魂ならばここにある!』

ナノマシーンミストは人の影絵になり、その手らしきものが自分を指さした。

「あなた、まさか・・・」
『これだけはしたくなかったが仕方がない!
 我の魂と大蛇を融合させる!』

ナノマシーンの霧は崩れかかる大蛇に取り付いた。
するとほとんど原型を留めていなかった大蛇の崩壊が止まった。

アキ「く!アキト君、月臣君!
 ここを離脱するわよ!掴まって!」
アキト「はい!」
月臣「すまん!」

アキセカンドはアキトと月臣、そして東郷を掴むと速攻で大蛇から離脱した。

ズルルルルーーーー

離脱する間、大蛇の光景を注視するアキ達
その見ている前で大蛇はまるで溶けた蝋細工のように別の形に収斂されていった。

さっきまで八つの首を持った蛇だったが・・・

「でっかい蛇?」

そう、その光景を見た者の共通する感想であった。
だが、でっかいという単語はこの場合似つかわしくないように思えた。
より正確に言うなら、巨大な蛇、いやそれでもかなり矮小な表現だろう。

月臣「八岐大蛇とは実は八つの頭と八つの尾がある大蛇だと思われているが・・・
 本来の伝承では八つの山脈と八つの渓谷をまたがるほど巨大な蛇という説もあるらしい」
アキ「なるほど、八つの山脈ねぇ・・・」

上空からその巨体を見ればそれも納得できるだろう。
まさに八つの山脈をまたがるほどの巨体、頭から見れば尾の位置は霞むほど先に存在していた。




そして・・・



巨大な大蛇は鎌首をあげて、そして咆哮をあげた!

グギャギャギャギャギャ!!!!

八つの頭だった時よりも断然強力なソニックウェーブが辺りに広がる!

「ひぃぃぃぃぃ!!!」
油断してディストーションフィールドを張り損ねた機体は衝撃波をもろに被った。

ヒカル「ひ〜ん〜レッドアラームでコックピットが真っ赤っか〜」
イズミ「仮面の忍者赤札・・・なんちって」
リョーコ「ちょっと今のは効いた・・・」
アカツキ「だらしないぞ、君達!僕のように・・・」
リョーコ「とかいいながら、左腕変な方向に曲がってるぞ?」
アカツキ「うそ!」

無理もない。今までの無理も祟ったのだろう。
エステバリスだけでなく秋山らのゲキガンタイプも無傷ではなかった。

アキト「アキさん、コイツは大丈夫?」
アキ「大丈夫だけど・・・狭い」

ギュウウウウ!

アキはサポートAIのレイに各部をチェックさせていたが、ギリギリコックピットに収納したアキトや月臣や東郷らにのし掛かられて苦しげだった。

アキ「満足に稼働している機体は・・・私らだけか。後は整備行き直前ばかりねぇ・・・」
1号「俺達はピンピンしているぞ!」
アキ「あ・・・はいはい」

ゴッドゲキガンガー健在(笑)

アキ「しかし、たった2機だけというのも・・・」
北辰「我もいるぞ」
アキ「うわぁ!」

生きてたか、北辰(笑)

アキ「死んだかと思ってたわ」
北辰「我が伴侶より先に逝くわけないだろう」
アキ「・・・ちぃ!」
北辰「その『ちぃ!』とはどういう意味だ?」
アキ「いや、なんでも」

あのまま素直に死んでいてくれれば良かったのにと半分冗談でも思うアキ
けれど、この局面では猫の手も借りたいのは事実である。
それ程までにあの大蛇は先ほどまでと同じぐらい、いやそれ以上に驚異的な存在に思えた。



Yナデシコ・ブリッジ


ユリカ「そんな〜〜せっっかく倒したと思ったのに〜〜」
ルリ「まぁアレで倒せるくらいなら古代火星人も苦労しなかったかもしれませんね」
プロス「しかし、アレを倒すだけの武器が・・・」

グラビティーブラストの連射が出来ない以上、瞬く間に修復される。
機動兵器で満足に動ける機体はアキセカンドとゲキガンガー、それに不知火ぐらい
アイちゃんがいなくなった以上、ルリ達によるハッキングという手段は使えない。
相転移砲はキャンセルされる。
相転移エンジンの暴走をさせようにも使える戦艦がナデシコぐらいしかない。
文字通り一撃必殺で倒せなければ後がない。無論それで倒せる保証などどこにもない。

完全に八方塞がりである。

ゴート「もう、これまでなのか」
ミナト「そんな、弱気になっちゃダメだよ」
ユキナ「そうだそうだ!」
エリナ「でも現実問題、どんな手段を使えばアレを倒せるの?」
ジュン「そうですよね・・・」
メグミ「こういう時こそ正義の味方を・・・」
サリナ「だからもういるじゃん、ゲキガンガー」
ユリカ「あ〜〜ん〜〜」

みんながみんな頭を抱えている時、一人だけ議論に加わっていない人物がいた。

ラピス「ん?」
ルリ「どうしたんですか?」
ラピス「いや、これでCongratulationだって」
ルリ「これでって・・・あいつが復活したのがですか?」
ラピス「うん、そう言ってる」
ルリ「・・・誰がそんなこと言ってるんですか?」
ラピス「さぁ?」

ラピスは手元の端末に不思議な通信を受け取っていた。
それをルリに見せる。そこにはこんなことが書かれていた。

『Congratulation♪良くやりました♪
 これで『始まりの人』を因果の中の存在から因果の外の存在に転換することが出来ました』

ルリ「どういうことですか?」
ラピス「さぁ、聞いてみる」

ラピスはチャットと同じ要領で「どういう意味?」とメッセージを送った。
するとすぐに返事が返っていた。

『因果の内にある者は同じく因果の内にある者しか相手に出来ません。
 従って東郷と同じ因果を持つこの時代のあなた達が戦わないといけませんでした。
 けれど今『始まりの人』は本来あるべき因果の外の存在になりました。
 後は同じ因果の外にある私達に任して下さい』

ルリ「どういうことですか?」
ラピス「・・・正義の味方?」

最後に追伸が送られてきた。

『追伸、あなた達にもちょっぴり手伝ってもらいます♪』

ルリ「手伝うって・・・」
メグミ「ボース粒子増大!」

ルリ達の疑問を遮るようにメグミが報告した。
それは彼女の指さす方向に現れていた。



火星極冠遺跡上空


アキト「アキさん、あれは何ですか!?」
アキ「あ、あれは・・・」

遙かな上空にそれは現れた。
ボソンのきらめきとともにそれは徐々に実体化した。
それはまるで重苦しい雲の切れ目から日の光が射し込むような光景であった。

そう、キラキラ輝きながら現れたのは・・・
紛れもなく白亜の艦
今まで誰も見たことのない艦であった。

月臣「馬鹿な、跳躍門も介さずに跳躍など・・・」
アキ「まさか・・・」

アキにはその形に見覚えがあった。
忘れるはずもない。
アレは彼女の艦・・・
彼女がまだ復讐人として生きていた頃、その艦を駆り火星の後継者と戦っていたあの艦である。

その姿を見た大蛇は呪うように叫ぶ

『あり得ない!あの波動は確かにエンジェルのもの!
 この時代にあの力が現れるはずがない!』

それは怯えにも似ていた。あるいは本能で自分の天敵が現れたのを肌で感じていた。
だから急いで脅威を排除しようとした。
実体化しようとする白亜の艦を攻撃しようと鎌首を擡げた!

グウォオオオオオン!

襲いかかろうとしたまさにその時!

ダダダダダダダダ!!!

大蛇に降り注ぐ砲弾の嵐!!!

思わず砲撃の先をみんなが振り向くとそこには・・・

その姿はまるで天使
4枚の白き翼、白き機体
PODが堕天使だとしたらこちらは熾天使であった。

ギャァァァァ!

攻撃に出鼻をくじかれてのけぞる大蛇!
軽く大蛇をいなした天使のような姿をした機動兵器はアキセカンドやナデシコの方に振り向いた。
その姿を見たアキは驚いた。
もちろんだ。知っている。この機体を見た事がある。

そう、あの機体は・・・

アキがその機体の名前を思い出す前にその機体からあまりにも場違いな声が聞こえてきた!

「やっほ〜〜♪アキ♪♪♪
 ブラックサレナ持ってきたよ♪♪♪」

あまりにも脳天気な声が火星極冠周辺に轟いた(笑)



ユーチャリス・ブリッジ


白亜の艦のブリッジでは戦闘準備を開始していた。

Actress「ジャンプアウト終了。八岐大蛇とアキさん達を確認。
 先行したホワイトサレナが敵の目を引きつけてくれています」
Secretary「よし、じゃしばらくの間、大蛇に黙っててもらいましょう。
 相転移砲は?」
Pink Fairy「ん、ダメ。今はジャンプイメージを送るので精一杯。
 撃ったら確実に干渉される」
Secretary「仕方がないわねぇ。んじゃグラビティーブラスト連射の準備を!」
Pink Fairy「それは相転移エンジンを『高天原』モードに切り替えないと無理」
Secretary「それ、確か夢幻城の許可がいるんじゃないの?」
Pink Fairy「もちろん。神話時代と同じ規模の戦闘になるし、何より『始まりの人』以外に使っちゃいけないし」
Secretary「ならさっさと一応艦長さんに頼んで許可をもらって!」
Actress「ということでSnow Whiteさん、早くむーちゃんさんから許可をもらって下さい」

ウインドウに呼びかけると向こうから少しひきつった笑いが返ってきた。

Snow White『一応ってなんか引っかかる言い方なんですけど、艦長代理さん!』
Secretary「代理は余計よ!」
Snow White『私がホワイトサレナで出撃しているから仕方なく指揮をお願いしてるんですよ?
 いつかみたいにタコ殴りにされたりしないで下さいね!』
Secretary「あんた、一体いつの話をしているのよ!!!」
Actress「まぁまぁ」
Blue Fairy『ケンカする暇があったら許可を取って下さい』

仲裁に入ったBlue Fairyによりケンカは何とか収まる。
ほどなくして・・・

Snow White『うん、オッケーだって♪』
Secretary「んじゃ、高天原モードに移行。
 これより神を僭称する時空犯罪人との戦闘に突入します!」
Actress「相転移エンジン高天原モードへの移行を承認」
Pink Fairy「了解。ソース空間の切り替え開始。
 相転移レベル10・・・100・・・1000dB突破!
 Power Maximum!!!
 グラビティーブラスト準備、いつでもどうぞ」
Secretary「撃てぃ!」

ゴォォォォォォォウウウウ!!!

彼女の号令以下、何条もの重力波が打ち出された。



火星極冠遺跡上空


降り注いだ重力波の槍は幾重にも大蛇を貫いた!
山脈を跨るほどの巨体である、照準も付けずに撃っても当たるものだ。
それがまるで雨あられの様に降り注いだのだからたまらない。

ギャァァァァァァァァ!

体のあちこちがえぐり取られて苦痛に悶える大蛇

その光景を見ていた者達は信じられない気持ちで見ていた。

「馬鹿な・・・相転移エンジンは確か真空じゃない空間では出力が落ちるんじゃ・・・」

アキは呟く。

だからこそ、以前火星に来たときナデシコはグラビティーブラストを連射できず、結果アキが奮闘して何とか難を逃れたのである。
いくら未来の艦だとしても、あのグラビティーブラストの出力と連射のスピードからすれば相転移エンジンを山ほど積んだからといって賄える出力じゃない。
一体どういうことなのだ・・・

そんなことをアキが考えていると白い機動兵器がアキセカンドの元にやって来て通信を送ってきた。

『やっほ〜アキ、おひさ〜♪』
『お久しぶりって、あなたはこの間会ったばかりじゃないですか』
「あ、あなた達は・・・」

通信の向こうには二人の女性がいた。
一人は藍色の髪の女性、一人は瑠璃色の髪の女性だ。
揃いも揃ってアキと同じバイザーをしている(笑)
呆気にとられるアキを余所に彼女達はさっさと話を進めた。

『あ、もう私達のこと忘れちゃったの?この浮気者!』
「いや、覚えてるけど、これは一体・・・」
『詳しい話をしていると時間がかかります。
 それよりもあなたの剣を持ってきました。
 前回は必要ないって言われましたけど、今回は必要ですよね?』

瑠璃色の髪の少女はニッコリと笑う。
以前、アキはこの時代を変えるためにはこの時代の人々の意識を変えなければいけない、だから未来の自分の愛機は必要ないと言った。

人の世に対するには人の力で
けれどそれが人以外のものに対するのならば・・・

だからこそ、今回は持ってきたのだ。
少女のウインクとともにボース粒子が彼らの目の前に現れた。

それは漆黒の鎧
闇の王子様が乗っていた本当の鎧
かつてアキが生死をともにした機動兵器であった。
その名は・・・

『ブラックサレナbuild ninety nine
 エンジェル専用相転移エンジン「十拳剣」を搭載した対八岐大蛇戦専用機動兵器。
 もちろんグラビティーブラストも撃てるようになりました。
 あなたの本来の剣ですよ』

彼女の言葉とともに見知った漆黒の機動兵器がアキセカンドの前に実体化した。

「グラビティーブラストが撃てるようになったって冗談じゃなかったんだ・・・」
『もちろんですよ。それとも今回も必要ないんですか?』

瑠璃色の髪の少女が少し嫌みっぽく言ったのも、前回言われたことへの意趣返しなのであろう。

「いや・・・ありがとう」
アキは深々と頭を下げた。
そして・・・

「アキト君、操縦を替わってくれる?」
「え?あ、はい・・・」

アキセカンドのコックピットを立つとアキはアキトの手を握った。
アキトは何か言い様のない感情に襲われた。

わかっていたはずなのに
彼女がこの世界の人ではないことは
けれど、今の今まで一緒に戦って、どこかでそれを感じないようにしていた。

だがしかし・・・

その握手はバトンタッチだ。
この世界はこの世界の人達の手で
違う世界は違う世界の人達の手で
アキトは彼女にこの世界を託された。
そして彼女は自分たちの知らない世界の戦いに赴く。

何か言いたかった。
喉まで出かかっても、言ってしまえば現実を認めてしまいそうで・・・

けれど、アキトのそんな迷いにも関わらず、アキはコックピットのハッチを開けてその黒い機動兵器に乗り込んで行った。

「アキさん!」

たまらずアキトは声をかけた。
アキはその声に振り向いてニッコリ笑ってこう言った。

「行って来るね♪」
彼女はその笑顔だけを残して黒い機動兵器に乗り込んだ。
彼女が乗り込むと黒い機動兵器は戦うべき相手に向かって飛び去った。

飛び去る黒い機動兵器を見送りながらも、アキトの心にはその笑顔が焼き付いた・・・



のだが、

「ナナコさん!カムバック!!!」
「お、お前はこの感動的なシーンを・・・」

月臣の絶叫にムードをぶち壊されるアキトであった。



Yナデシコ・ブリッジ


あまりにも非常識な状況に一同頭を抱えていた。
特にこの人は半分パニックになっていた。

サリナ「あり得ないわ!相転移エンジンであんな出力を出せるわけない!」
ユリカ「無理なんですか?」
サリナ「当たり前でしょ!
 大気圏中の空間をよりエネルギー順位の低い空間に相転移させたとしてもとてもあれだけのエネルギーは取り出せないわよ。
 ほら!」
ユリカ「いや、そんな難しい方程式見せられても・・・」

サリナは科学者故に目の前の現実が信じられなかった。
例えばゲッター線を使用しているとか、ブルーウォーターを使用しているとか、ファンタジーなら『凄いエンジン!』で片が付くだろう。
が、相転移エンジンなどともっともらしい技術体系が形作られている中でその法則をひん曲げるほどのエネルギーが登場されても困る。

すると隣でイネスがなにやら計算していた。

イネス「ん〜〜あり得なくないわよ」
サリナ「何言ってるのよ!どこの数式に当てはめてそんなこと言ってるのよ!
 アイちゃんが混じってボケたんじゃないの!」
イネス「失礼ね!確かにドレイン側の空間をいじったって取り出せるエネルギーはたかがしれてるわよ」
サリナ「そらみなさい!」
イネス「だけど、ソース側の空間をいじったら?」
サリナ「ソース側の空間って・・ってまさか!」

サリナにもイネスの言いたいことがわかったようだ。
そう、相転移エンジンはある空間をよりエネルギー順位の低い空間に相転移させることによりそこからエネルギーを取り出す技術だ。
現在の古代火星文明から発掘された相転移エンジンは『自分達の周りの空間』を『どこかエネルギー順位の低い空間』に相転移させている。

だが・・・

イネス「私達の現在の宇宙は十分冷めているわ。それを相転移させても取り出せるエネルギーはたかがしれている。
 けれどもっと温かい頃の宇宙があったわよね?
 そしてその空間をこの世界に相転移させることが出来るとしたら?」
サリナ「まさか・・・ビッグバン直後の宇宙空間をこの空間に相転移させているっていうの!?」
イネス「計算してみたら?」

イネスはさっきサリナの見せた計算式の乗数を替えてみた計算結果を見せてみた。そこには推論が正しいことを示す値が示されていた。

そして・・・

ゴォォォォォォ!

メグミ「黒い機動兵器よりグラビティーブラスト砲撃!」
ラピス「大蛇に着弾。体面積の0.01%が消滅」
サリナ「うそ!エステサイズでグラビティーブラスト!?」
ウリバタケ「俺のエクスバリスなんか比べものにならない・・・」

白亜の戦艦といい、黒い機動兵器といい、非常識な強さであった。



火星極冠遺跡上空


ブォッブォッブォッブォッブォッ!

ブラックサレナの恐ろしいまでのエネルギーゲインはエンジン音にも現れていた。
さっき戦艦並のグラビティーブラストを放ったというのに、オーバーヒートに陥っていない。これぐらい当たり前だと言わんばかりに平常を装っている。
機動兵器には似つかわしくないパワーゲイン
まるで1000CC以上のバイクにでも乗っているかのようであった。

グラビティーブラストを発射し終えたブラックサレナは肩部と腰部から突き出した重力波ブレードを収納した。いつの間にこんなギミックを追加したのだろう?

狐に摘まれたかの思いでアキは併走しているホワイトサレナに話しかけた。

アキ「これって、本当にビッグバン宇宙の空間を相転移しているの!?」
Blue Fairy「ええ、もちろん」
Snow White「そうそう、私がむーちゃんに頼んだの♪」
アキ「む、む・・・ちゃん?」
Blue Fairy「夢幻城のエンジェルに搭載しているエンジンの予備を回してもらったんです」
Snow White「そう♪私とむーちゃんの仲だから実現したのよ♪
 誉めて誉めて♪」
アキ「・・・っていうか、良いの!?そんな禁断のテクノロジーを使って!」
Blue Fairy「まぁ暴走させたら太陽系が消滅しちゃうでしょうけど」
アキ「おい!」
Snow White「誉めて♪誉めて♪」
アキ「ってお前はもうちょっと緊張感を持て!」
Snow White「ひ〜ん〜〜アキが虐める」

アキは頭を抱えた。
こんなテクノロジーが外部に漏れたら、テロリストに核兵器どころの騒ぎじゃなくなる。

Blue Fairy「大丈夫です。神話クラスの戦闘にしか使えないようにプロテクトされてます。平時は普通の相転移エンジンの出力ですよ。
 第一私達にしてもエンジン部分は全くのブラックボックスですから」
アキ「にしても・・・」

確かに太陽系をも吹き飛ばす程の威力のあるエンジンを積んだ機体に乗っているというのも気が気ではないのだが

Snow White「もう、Blue Fairyちゃんったら、アキとばかりお話ししてぇ〜
 ホワイトサレナの操縦権を私に渡してお仕事しなさいよぉ〜」
Blue Fairy「はいはい、わかりました。
 けれど、せっかくの出番なのにすぐに撃墜・・・ってのは止めて下さいよ?」
Snow White「わかってるって♪アキ、一緒に行くわよ♪」
アキ「一体何をするつもり?」
Blue Fairy「もちろん八岐大蛇を滅ぼすんです」
アキ「けど、エンジェルにだって完全には滅ぼせなかったんでしょ?」
Blue Fairy「大丈夫です。神話時代にはなかった武器がこちらにはありますから♪」

アキは首をしきりに傾げていたがホワイトサレナのパイロット達は自信満々にウインクしていた。



Yナデシコ・ブリッジ


白亜の艦・・・ユーチャリスがひたすらグラビティーブラストを連射しているが、いくら大蛇の体を重力波が抉っても、次々と再生してきてほとんどダメージを与えていないように思えた。

メグミ「大蛇、修復終了しました」
ユリカ「え〜〜もう!?」
ジュン「やっぱり驚異の回復力は健在だね」
プロス「助けに来てくれたのは良いのですが、あの砲撃を持ってしても消滅させるほどではないのですかねぇ」
ゴート「図体がでかいから焼け石に水だな」

しかし、大蛇の方もいつまでも攻撃を食らい続けているようなマネはしなかった。

カァァァァァァ

大蛇はその口を大きく広げ、エネルギーを貯め始めた!

ルリ「まずいです。相転移反応が来ます」
ユリカ「え!?」
ルリ「座標空間固定中・・・ここに来ます」
ユリカ「うそぉ〜!た、退避!!!」
ラピス「無理。半径数百km圏内が消滅する」
ゴート「馬鹿な!自らも滅ぼすつもりか!」
イネス「あの白い艦もろとも私達をまとめて葬るつもりね」
サリナ「頭でも生き残ってれば再生するって考えてるのか・・・」
エリナ「って淡々と説明してるんじゃないわよ!
 何とかしなさいよ!」
ミナト「どうする?とりあえず上にでも逃げる?」
ユリカ「あ〜ん!そんなこと言われても〜!!!」

パニックになるナデシコとこの一帯にいる人達
けれど、一部の人達は慌てていなかった。
一つの通信がルリとラピスの元に送られてきた。

『サポートして下さい。訓練でやったとおりです』

ルリ「ん?どういう意味ですか?」
ラピス「さぁ・・・って、うわぁ!」

するとルリとラピスの周りにいきなり大量のウインドウが開いて円形ドーム状に取り囲んだ。

メグミ「ルリちゃん!ラピスちゃん!」
ウリバタケ「な、何が起こった!?」

あたふたする大人を余所にユキナは物珍しさにウインドウのドームに顔を突っ込んだ。

ユキナ「どれどれ、二人とも生きてる?」
ルリ&ラピス「ひぇぇぇぇぇ!」
サリナ「こら、ウインドウに顔を突っ込まない」

そりゃいきなりウインドウの上から顔面だけ現れたら恐いだろう(笑)

ミナト「ルリルリ達、大丈夫」
ルリ&ラピス「大丈夫です〜」

とりあえず声が聞こえたから大丈夫なのだろう。
ルリ達は首を突っ込んできているユキナの顔を押し戻した後、改めてドーム状に展開されたウインドウを眺めた。

情報、情報、情報・・・
様々なデータが映し出されている。
それは八岐大蛇に関する解析結果から、僚艦、僚機、果ては火星圏全域に渡る分析データである。
以前、地球脱出の時にも地球圏全域のデータを扱ったが、ここに映し出されているデータはそれより遙かに多く、けれど遙かに洗練されてわかりやすく展開されていた。

そのうちの一つにオモイカネのウインドウが表示されていた。
けれどついさっきまで表示されていたものではない。

ルリ「・・・あなた、この前私達を特訓した裏モードのオモイカネですか?」
ラピed『裏モードはあんまりです。こちらが本来の私ですよ』
ルリ「これがあなたの言う本番ですか?」
ラピed『その通りです♪』
ルリ「こんなハッキングツール、見たことがありません。
 私達に何をさせるつもりですか?」
ラピed『詳しくはこの人から聞いて下さい♪』

するとチャットオンリーのウインドウが開いた。

???『時間がありません。とりあえず意識を直結しますからノード分担をして下さいね♪』
ルリ「ちょっと、どういうことですか!
 私達に何をやらせようと・・・」
???『演算してみればわかります。
 大丈夫、あなたはホシノ・ルリなのですから』
ルリ「ちょっと・・・」

ルリの抗議を待つまでもなく、相手は意識を直結してきた。

流れてくるデータの奔流
そこでは言葉も既に情報の一つでしかなかった。
それぞれの思考や言葉すらもデータに置き換えられ、それが誰が発言したかもせいぜい色の違いだけでしか表されなかった。

『ルリ姉』
『どうしたんですか、ラピス?』
『ルリ姉の考えていることわかる』
『それってどういう・・・』
『そこの新米、無駄なこと考えない』
『あなたは誰ですか?』
『思考を言語に変換していては事の本質は見えませんよ。特にこの空間では』
『4人分の思考が混じっているから余計そうなる』
『それってどういう事ですか?』
『IFSがあらゆるデータをイメージ化して入出力するのなら、それらを共有することだって出来るはずでしょ』
『なんか、吐きそうです』
『しばらくしたら慣れる』
『なんかこれ、私が考えていることなの?それとも別の誰か?』
『自我と感情以外は共有します。そうすることによりコミュニケーションのタイムラグは限りなくゼロになり、人の数倍の意識容量を仮想的に作り上げることが出来ます』
『一般的なクラスタリングシステムと同じ原理』
『まぁ既存のシステムよりはるかに効率的ですけど』
『それってどういう意味ですか?』
『二隻のナデシコ、二人のオモイカネ、四人の妖精・・・まぁ内二人は足してようやく一人前になるかならないかだけど』
『私達は八岐大蛇に取り込まれている演算装置のハッキングルートを知っている』
『それってつまり・・・』
『システム掌握を使って八岐大蛇に干渉します』
『まずは敵の相転移反応の座標に介入、別座標へデータをすり替えるの』
『あ、このデータ!』
『はい、無駄口を叩かずに処理する。演算の仕方は言わなくても感じてるでしょ?』
『・・・あ、はい』
『うん、わかる』
『じゃ、始めるわよ。いくらタイムラグがゼロといっても現実世界では数ミリ秒は経過しているのですから』

と、ルリ達の間ではそんなコミュニケーションが繰り広げられていたのであるが、周りから見たら能面のような無表情に心配していたであろう。

メグミ「相転移反応きます!」
ユリカ「え?もう!?」
ミナト「どっちに逃げるの!」
一同「ひぇぇぇぇ!もうおしまいだ!!!」

一同は頭を抱えながら絶叫した。

一瞬の静寂の後・・・




ゴオォォォォォォ!!!!



空間が相転移し、大気を振るわせた!

「え?」
ユリカは呟く。自分達は生きている。
それどころか、確かに爆音はここじゃない場所で聞こえた。
はるか彼方、今戦場となっている場所とはかけ離れたところで空間が崩れたのだ。

「何がどうなっているの?」
「敵の相転移砲の座標設定に干渉しました」

ウインドウボールの中からそう告げるルリ。
今の彼女には意識を音声に置換する作業すら非常にじれったい作業なのかもしれない。

ユリカ「え、ルリちゃんがやったの!?」
ルリ「凄いです。今度は相転移砲そのものを封じてみせます」

ルリ自身も興奮してそう答えた。
なるほど、地球全体をハッキングしたのも、イネスとアイちゃんの精神を繋げてみたのも、確かに今回の手法から見ればただの予行演習に等しい。
それ程までに今の状況は画期的であり、ルリをして興奮せしめるテクノロジーであった。

するとルリとラピスの意識に彼女達からの思考が飛び込んできた。

『やっぱり、大蛇のナノマシーンに対して「始まりの人」がイメージデータを送っている流れが存在しますね』
『それにちょっかいかけたら再生能力を妨害できる?』
『おそらく可能ですけど、演算は大変になりますよ』
『大丈夫、任せて』

誰が誰に向かって話しているのかよくわからない。
けれどそれで正しいのだ。
重要なことはデータも思考も演算もそれらを全て共有することだ。
誰の発言か?などと区別する必要はない。
区別する必要がないからこそ、思考の結果を相手に説明する必要もない。
それこそがクラスタリングシステム掌握の本質なのだ。



火星極冠遺跡地上


ブラックサレナによるグラビティーブラストの砲撃が再び大蛇を襲った。
けれど、今度は大蛇の強力な再生能力も働かなかった!

ギャァァァァァァァ!

相転移砲の座標指定に介入され、肉体の再生まで干渉され、その苦しみに悶える八岐大蛇
さっきまであの暴れるような大蛇に手を焼いていた者たちは信じられない思いでその光景を眺めていた。

リョーコ「くそ!このポンコツ!」
ウリバタケ『何だと!俺様の整備した機体を侮辱するつもりか!』
リョーコ「いや、そういう訳じゃないんだが・・・」
ヒカル「むしろエステちゃん達は私達を良く守ってくれたよね」
ウリバタケ『さすがヒカルちゃん♪』
アカツキ「でもまぁ苛立つ気持ちもわからなくないよ。
 最後の最後で役に立たないんだからねぇ」
イズミ「私達は所詮は科特隊止まり。怪獣退治はウルトラマンに任せないと」
リョーコ「けどよぉ・・・」

地表に擱坐してエステを降りたパイロットの面々が悔しげに呟く。
その向こうでは木連組も己の非力を嘆いていた。

秋山「くそ!この一戦に参加できぬ己の非力が悔やまれる!」
三郎太「艦長、テツジンが動いていたら参戦するつもりだったんですか?」
秋山「当たり前だ!」
三郎太「頼みますよ〜無茶しないで下さいよ〜」
アララギ「アハハハ♪まぁ源八郎はそういう漢だからな」
三郎太「アララギさんまでそんなこと言わないで下さいよ〜」
秋山「そう心配するな、三郎太。
 俺だって己の分相応ぐらいわかっている。
 けれどなぁ、強い奴にめぐり会えたらワクワクしないか?」
三郎太「しませんよ!」
アララギ「まったくお前の艦長殿は漢だなぁ(笑)」

漢秋山源八郎は根っからの木連男児であった。

そして・・・

月臣「こら!貴様、どこに行く!」
アキト「どこに行くって、ナデシコに帰るんだよ!」

アキセカンドは男三人を乗せてナデシコに向かっていた(笑)
暴れる月臣にアキトは手を焼いていた。

月臣「なぜ戻る!この機体はまだまだ戦えるではないか!」
アキト「定員オーバーなんだよ!お前達のせいで!」
月臣「定員オーバーなど何だというんだ!そんなもの根性と気合いとガッツで乗り越えられる!」
アキト「根性も気合いもガッツも同じだ!
 っていうか、このクソせまいコックピットに野郎三人ですし詰めになっている趣味なんかないわ!」
 第一!!!」

暴れる月臣の鼻先にビシッと立てるアキト。気圧される月臣。

アキト「とりあえずお前達を安全なところまで送り届けるんだ。
 撃墜されてお前達まで巻き添えにしたらアキさんに顔向け出来ないんだよ!」
月臣「いや、俺は別に・・・」
アキト「第一、東郷助けたのお前だろ?
 最後まで責任取れよ!」
月臣「まぁそれはそうだが・・・」

月臣も思わず納得する。確かに途中で見捨てたらアキがどれだけ怒ることか(笑)
けれど・・・

月臣「でも、やっぱり俺もナナコさんとともに戦うぞ!」
アキト「あ、暴れるなよ!っていうか、ナナコさんって誰だよ!」
月臣「俺の理想の女性だ!」
アキト「り・・・理想って・・・」

赤くなるアキト。
あ、今更ながらにアキ=アキトという事実に思い至った。
つまり彼がアキに向けている好意は将来自分に向かって・・・

アキト「す、好きって何言ってるんだ!俺にそっちの趣味はないぞ!」
月臣「何を言っているのだ?
 俺はナナコさんが好きだと言っているのであって、貴様のことじゃないぞ?」
アキト「い、いや、なんというか・・・」
月臣「よもや貴様は男色の気があるのではないだろうな?
 俺の操はナナコさんに捧げているからやれんぞ?」
アキト「いるか!!!っていうか俺にそっちの趣味はないって言ってるだろうが!!!」

アキトはコイツに『アキさんは未来の俺の姿だ』と言ったらどんな顔をするだろうと想像するだけで鬱になった。
なんだかんだって、結構良いコンビじゃん、アキトと月臣(笑)




そして・・・



ゴォォォォォォ!

またグラビティーブラストが八岐大蛇に命中する。
そしてその砲撃の後を追うように二機の機動兵器が空を駆けていった。
一つは黒い機動兵器、一つは白い機動兵器
アキトやリョーコらはその機体をまぶしそうに眺めた。

それはいつか見たあこがれのヒーローアニメを思い起こす。
胸躍る活劇、巨大な怪獣を撃つ正義のヒーロー
あの日、テレビにかじりついて見た情熱

思い出すのはあの時の感動・・・

「頼むぜ、ぶっ飛ばせ!!!」
誰かが叫んだ。まるでテレビの中のヒーローに願いを託すように。
その二機の機動兵器は『任せとけ!』と敬礼したように見えた・・・



火星極冠遺跡上空


アキ「驚いた。本当に大蛇の再生能力に干渉するなんて・・・」
Blue Fairy「演算装置経由ならこちらにも強力なインターフェイスがありますから」
Snow White「えっへん♪すごい奥さんをもらって自慢でしょ♪」
アキ「いや、威張られても(苦笑)」

確かに嬉しいどうかは微妙だ。

Blue Fairy「まぁ、古代火星文明時代には八岐大蛇にハッキングするなんて考えもしなかったでしょう。
 けれどこの時代にはSnow Whiteさん経由でアイツに干渉できるシステムがあった。
 何よりこの世界がアイツを受け入れなかった
 それがアイツの敗因です」
アキ「なら・・・今度こそアイツを消滅させられる?」
Blue Fairy「もちろんです。因果の外の存在に自らを定義してしまった以上、始まりの人も八岐大蛇も滅ぼす事は可能ですよ」
アキ「わかった!んじゃ、いくわよ」
Snow White「は〜い♪アキとラブラブペアアタックだよ♪」
Blue Fairy「あの〜遊びじゃないんですから・・・」
Snow White「もう、Blue Fairyちゃんは計算する人!私はアキと一緒に戦う人!」
Blue Fairy「ハイハイ」

二機の機動兵器は併走しながら八岐大蛇に向かっていった。
最後の決着を着ける為に・・・

1号「って待て!俺様達を無視するな!!!」

彼らを追ってきたのはゴッドゲキガンガーであった(笑)

1号「最後の決戦で俺達が活躍しなきゃウソだろう!」
イツキ「そうです。やはりここは伝説の勇者達である私達が決着がいなければ!」
2号「ここまで来たんだ。最後まで正義を貫かせてくれ」
アキ「そうか、こいつらがまだ残っていたか・・・」

目立ちたがり三人に頭を痛めるアキ(笑)
けれど頭の痛いのは彼らだけではなかった。

北辰「我の事も無視するな」
アキ「ゲ!あんた、まだ生きていたの!?」
北辰「失礼な。我が汝を生涯の伴侶にするまで滅びるわけなかろう」

同じくアキ達を追いかけてきたのは北辰の不知火であった。

アキ「聞いた私が馬鹿だったわ・・・」
北辰「心配するな」
アキ「心配じゃなくて呆れてるのよ」
北辰「我は汝の影だ」
アキ「はぁ?それって私に付きまとうっていう意味!?」
北辰「その方が嬉しいのか?」
アキ「嬉しいわけあるか!」
北辰「ならばこの意味がわかるだろう?」
アキ「ん・・・」

北辰はその顔に似合わずウインクをする。
もちろん、その表情は異様だが・・・

北辰は闇の王子の影
けれどアキは恐れない
もう自分の闇を直視できるようになった。
だから闇を見てもなお、それをも使いこなす。

アキ「わかったわ。とりあえずアイツを倒すのを手伝いなさい!」
北辰「承知!」

ともかく、このひとときは異形の怪物を倒す為に!
四機の機動兵器は八岐大蛇に最後の戦いを挑むのであった。

ってことで後編に続きます



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「なんか、私のブラックサレナがとんでもない事になってるねぇ(汗)」

−良いじゃないですか。強い事は良い事ですよ

アキ「って、世界観ぶちこわしにならない?」

−まぁ最後だから派手にやりましょうって事でしょ?

アキ「派手にやろうっていうのはいいんだけど、最後まで残ったのがあの連中っていうのはちょっと・・・」

−良いじゃないですか。個性豊かな面々で

アキ「いや、一番最後に出てきたアイツが気に入らない。なんで北辰がラストバトルに参加するの?普通は現代人は外れるものでしょ?」

−それはやっぱり・・・アキさんと北辰と暗殺者夫婦を誕生させたいからでしょ(笑)

アキ「誰が北辰と暗殺者夫婦などするか!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編の内容とは全然異なりますので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・神薙真紅郎 様
・荘夜 様
・Chocaholic 様
・龍崎海 様
・ひこやむ 様
・白南風 様