アバン


それはさながらおとぎ話のよう
地が裂け、そこから蛇神が現れた。
戦艦を丸ごと飲み込み、
その咆哮は新たなる運河を作り出すほど凄まじかった。

それは8つの頭を持っていた・・・

人はそれに抗う術を知らない
ただ足掻く者が一人、奮戦するばかりである

それが作られた運命というのなら、何をしても変わらないのでしょうか?
作られた運命は誰にも変えることが出来ないのでしょうか?
運命とは自身の可能性を縛るだけの存在ではないのでしょうか?

そうではないと信じている。
それはたった一つ、パンドラの箱が開かれた後も残されたものだから
希望だけは残されているはずだから・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



火星極冠遺跡上空


アキト達は唖然とその光景を見ていた。
たった一匹でも無敵のアキがほとんど歯が立たなかったのだ。
たった一匹でもリアトリス級戦艦を数隻丸ごと飲み込んだのだ。

それがなんと8つも現れた・・・

アカツキ「アハハハハ・・・ここまで来ると笑うしかないねぇ」
秋山「かえって壮観だな・・・」
三郎太「褒めている場合ですか!」
アキト「んなことより、アレをどうするんだよ!!!」

パイロット達は口々に感覚の麻痺した声を上げた。

そして・・・

アキ「そういえば・・・
 確か八岐大蛇は8つの頭と8つの尾を持った化け物だって聞いた事があるの、すっかり忘れていたわ・・・」

アキは忌々しそうに呟いた。

龍達は口々に雄叫びをあげる。
その一つ一つが大地を振るわせた。
それはさながら地獄絵巻の様。




そして・・・



先ほど地球の艦隊を丸飲みにした龍の頭に変化が起きた。

ニョキニョキ!

それは突如として現れた。
そう、それは銀の彫像であった。
彫像は女性の姿をしていた。
彼女を知る者がいれば名前をこう呟いたであろう。

シャロン・ウィードリンと・・・

それだけではない。
首や胴体の所にニョキニョキと銀の彫像が生えてきた。
飲み込まれたクリムゾン艦隊のクルー達である。
それを見たパイロット達はギョッとした。

ヒカル「ひぃ!」
イズミ「・・・南無」
アカツキ「あ・・・僕たちも食われたらああなるのかねぇ」

その一言をみんな想像してしまったから良くなかった。
自分が銀の彫像になったところを想像する。

・・・・・・・・・・・・・

『絶対嫌だ!!!!!!』

誰もが心の中で叫んだ。

そうやって人は自分の心に制限を付ける。
敵わないというハードルを。
そうやって運命の幅を自ら狭める・・・



Yナデシコ・ミナトの部屋


彼女は暗い部屋で一人膝を抱えていた。
先ほどから揺れる艦内で怯えながら。
彼女にとって全てはどうでも良かった。
自分は捨てられた。
彼は自分よりも別のモノを選んでしまった。
死ぬとわかっていて、別のモノを選んでしまった。
自分以外のモノに命を捧げ・・・そして死んでしまった。

だから、もうどうでもいい。
誰が勝とうが、負けようが
誰が死のうが、死ぬまいが、
敵が何者で、自分たちが死のうが死ぬまいが

全てがどうでも良かった。

目の前が暗くなるというのは本当の話みたいだった。

「当たり前じゃん、こんなに部屋を暗くしてるんだから」

誰かが自分の独り言に突っ込みを入れたようだった。
だが、それでも彼女は膝を抱えたままだった。

声の主はツカツカと暗い部屋の中まで入ってきて、彼女の前に立つ。

「いい大人がいつまでも暗い部屋で拗ねて、みっともない。
 子供みたい!」
「いいもん、子供で・・・」
「そういうところが子供だっていうのよ」

彼女はちらりと声の主を見上げる。
そこには声色の通り、白鳥ユキナが立っていた。
彼女はミナトを冷ややかな瞳で見下ろしていた・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十八話 囚われぬ者達のテーゼ<前編>



Yナデシコ・ブリッジ


シャロンの身に起きた悲劇はブリッジのスクリーンにも映し出されていた。

食べられたらああなる・・・

想像はぐるぐると頭の中で駆けめぐる。
アレで生きているのか?死んでいるのか?
生きているとしたらどんな気分なのか?
楽しいのか、夢を見ているのか、それとも苦しいのか?
あそこに攻撃して彫像を破壊したら彼女達は死を迎えるのか?

食べられたらああなる・・・

メグミなどは吐き気を催してきた。

「ルリちゃん、ナデシコは後退、体勢を立て直して・・・」
ユリカは弱気な指示を出す。

まずはクルーの安全が最優先だ。
再起をはかる機会は必ずあるはずだ。
今は一旦退いて体勢を立て直さなければ二度とチャンスがなくなる・・・

ルリ「どこに逃げるんですか?」
ユリカ「逃げるんじゃなくて退却を・・・」
ルリ「火星のどこにも逃げ場はありませんよ。
 北半球は全てあの龍の頭の射程距離ですよ」

人はどこまでも自分を誤魔化せる。
理由はいくらでも後付けに出来る。
もっともらしい理屈を付けて、いつの間にかそれを信じることが出来る。
そうやって少しでも自分の心を軽くしようとする。

けれどルリは現実を突きつける。

大蛇の巨体とその首の数からいえば、少なくとも地球の南極大陸と同じ面積の範囲にその体は根付いているはずだ。
その巨体から繰り出されるグラビティーブラストの威力を考えるとほぼ火星の北半球をどこでも攻撃できるだろう。
ルリはそのシミュレーションを即座に図解して見せた。

ならば、南半球になら?
そのような顔をして見せた者もいたが、ルリは首を振る。

「火星すら破壊できそうな相手なんですよ。
 どこに逃げたって意味ないですよ」

ルリは首を振る。
誰もが蒼白になる。
ジュンやメグミだけではない。
強面のゴートやプロスですら真っ青だ。
ユリカの顔は既に泣きそうだ。

「だったら宇宙空間に・・・」
「ユリカさん!」

ルリは狼狽えるユリカの名前を叱るように叫ぶ。

「逃げたって変わらないじゃないですか!
 どうして踏みとどまって戦おうとしないんですか?
 あの人みたいに!」

ルリはスクリーンを指さす。
そこにはまだ黒水晶の乙女が・・・PODに乗ったアキが戦っていた。
ほとんど相手になっていないのに、
たった一人でも戦っていた。
大蛇からの攻撃がその装甲を焦がしているけど、それでも彼女は戦っていた・・・

ルリ「どうして戦わないんですか」
ユリカ「だってあんなのに勝てるわけないよ〜」
ルリ「どうして勝てないと思うんですか」
ユリカ「どうしてって・・・」

ルリにはわからない。
どうして勝てないと思うのか。

そしてユリカにもわからなかっただろう
ルリがどうしてアレに勝てると思っているのか?
ユリカ達の心にはあの囁きが響く

『勝てはしない。
 運命には逆らえない。
 絶対に・・・』

それは魂に直接語りかけてきた。
それこそが運命変更デバイス八岐大蛇の力である。
人の遺伝子、魂にまで直接語りかけることの出来る力であった。

でも・・・
囚われる者と囚われざる者の違いはなんであるのか?
今の彼女達にわかるはずもなかった・・・



火星極冠遺跡上空


そこではやはりアキの孤軍奮闘が続いていた。
しかしそれはコックピットのBGMにデスマーチが鳴り響いていてもおかしくない状態であった。

アキト『アキさん、もう止めて下さい!』
アキ「まだまだ!」

横にウインドウで現れて必死に制止するアキトにかまわず彼女は突き進む。
機体は決して万全とは言い難い。
そろそろ各部ががたつき始めている。
先ほどから何回も無茶をさせているのだ。
無理もないだろう。

けれど負けるわけにはいかない!!!

「お前は何故足掻く?」
東郷はそう尋ねる。

「運命は定まっている。それなのに何故足掻く?
 変わらないと、お前の知っている未来は変わらないとわかっているのに」
「変わらないから足掻くのを止めるの?
 違う!変えたいから足掻くのよ!」
東郷の言葉にアキは叫ぶ。
今まで変わらなかった数々の出来事

アイちゃんを
火星の人達を
ガイを
九十九を

そして今より未来、彼女にとっては過去の出来事

ユリカを!

助けたかった!
この手で!
でも変わらなかった!
そのたびに絶望したけど・・・

「変わらないのは結果にしか過ぎないわ!」
彼女は叫ぶ!
彼女は知っている。
諦めた後にやってくる後悔を!
諦めた後の世界を眺めてどうしてもっと頑張らなかったんだと自分を苛むのを!

「だから足掻くのよ!」
アキは叫んだ。
けれど東郷は少し悲しそうな顔をする。

「そうやって変えようとした・・・
 けれど何も変わらなかった・・・
 だから『私』は根本から変えようと思った・・・」
「なに?」
「人が因果に縛られるというのなら、
 それを断ち切る術がないというのなら、
 全てを無に返そう・・・
 因果を断ち切るために・・・」
「!!!」

東郷はそう宣言すると龍を操った。
龍は顎を開き、重力波を貯める!
アキは必死にその照準から外れようとする!

しかし!!!

「まずは消え去れ、ナデシコ!」
「!!!」
龍の狙いはアキの後ろに位置していたナデシコであった!!!

「ユリカ、ルリちゃん、回避を!!!」
アキはすぐさま気づいて叫んだ。



Yナデシコ・ブリッジ


アキ『回避を!!!』
ユリカ「え?え?」
ルリ「ラピス、回避!」
ラピス「無理!間に合わない!」

一瞬のことで虚を突かれた!
ユリカには1匹目の大蛇にしか注意がいっていなかったが、ルリとラピスは気づいていた。1匹目の大蛇の照準はブラフで2匹目、3匹目、4匹目の大蛇がナデシコに照準を定めていたのだ。
二人の妖精の計算では今からではナデシコはどこに逃げても最終的に相手のグラビティーブラストを浴びてしまうと算出された。

アキが指摘した事に気づいたのはルリ達だけであった。

そのことをユリカに説明する時間も惜しいようにルリ達はコンソールを操るが、間に合いそうにもなかった。

しかし・・・

「取り舵30、機首上げ15、推力50、重力制御完全カット、15秒後に3秒だけ再開、さらに10秒後に機関全開!」

女性の声がブリッジに響いたが、それが誰の声か判断する前にルリはコンソールにかじりついてその指示を実行した!

ナデシコは少し機首をあげながら落ちるように進み始めた。
重力制御をカットしたのだから当然だ。
そこに第1の重力波が頭をかすめた。
当然衝撃波がナデシコを襲う!
しかしその衝撃波が重力制御をカットしていたナデシコの降下を加速させた!
だが、きっかり15秒で再開させた重力制御により下降に制動がかかった。
その直後、今度は第2波がナデシコの右真後ろからやってきた!

「風に乗るわよ♪」

ちょうど3秒、再びナデシコの重力制御が切れるが、今度は下降する前に重力波が襲いかかってきた。
しかし・・・

ふわり!

衝撃波がナデシコの下部を撫でる。
重力波とともに発生した衝撃波の上に乗った感じになる。もちろんディストーションフィールドの強度を見越してのことである。
重力波と水平に機首が向いていることも手伝ってナデシコはそのまま重力波の奔流に乗っかった感じで加速した。

「はい、ここで機関全開!」

ちょうど10秒後に声がかかった。
重力制御と重力波推進、核パルスエンジンを全開させてナデシコはさらに加速した。
後ろを第3波、第4波の重力波が通り過ぎるが、これは逆に追い風となった。

ナデシコのクルーはまるで手品でも見せられているようだった。

メグミ「ナデシコでサーフィン・・・」
ユリカ「ルリちゃんすごい〜」
ルリ「いえ、私じゃなくて・・・」
操舵をしたルリですら目を丸くしていた。
そんな指示をしてくれた人の方を振り向いた。

ブリッジの入り口にいたのは・・・

「風が読めるだけじゃなくて、風を使いこなして初めて一人前の船乗りになれるのよ♪」
いたのは相変わらず甘ったるい声を出すハルカ・ミナトであった。

ルリ「ミナトさん」
ミナト「遅れてごめんなさい〜〜
 ハルカ・ミナト、操舵に入ります〜」
メグミ「ミナトさん、あの・・・もう良いんですか?」

ずっと泣きはらしていたミナトに気を遣ってメグミが尋ねた。
まだ白鳥九十九が喪った悲しみは癒えていないであろうに・・・
でもミナトの顔はヤケにすっきりしていた。

「いつまでも落ち込んでられないし。
 それに・・・あの勘違い娘の面倒も見ないといけないし」

ミナトは思い出してクスリとを笑う。

メグミ「どういう事ですか?」
ハルカ「実はね・・・」
メグミ「・・・ええええええ!!!
 ユキナちゃんから!?」
ルリ「プロポーズ!?」
ラピス「???」
ミナト「まぁいつまでも落ち込んでいたらあの子がもっととんでもない勘違い発言をしないとも限らないしね(苦笑)」

ミナトはもう一度クスリと笑って思い出す。
さっきのユキナの言葉を・・・



数分前・ミナトの部屋


「ミナトさん、こんなところで何してるのよ。」

少女は冷たい目でミナトを見下ろす。
何故こんな所にいるのだ?という瞳で・・・

「艦内はしっちゃかめっちゃかで大変なのよ。
 猫の手も借りたいぐらいなのに!」
「・・・どうせ何やったって勝てないわよ」

外の様子は何となく分かっている。
化け物が出て来てほとんど絶望的なのだろう。
誰が向かって行っても敵わない。
艦内はそんな悲鳴でいっぱいだった。

もういいよ、どうでも。
世界は真っ暗だ。
ここで世界が終わっても良いじゃないの。

世界はそんなに優しくない。
あの人はもういない。
あの人はもう微笑まない。
あの人はもう私を選ばない。

ならばここで足掻いても仕方がない。
あの化け物が全てを無に帰すというのなら、それに身を委ねる方が楽だ。
このまま滅んでしまえば楽になれる・・・

「なんで勝てないって思うのよ!」
「決まってるじゃない、あんな化け物、どうやって・・・」

そう、あんな化け物に勝てるはずがない。
誰がやったって敵うはずがない。
やるだけ無駄だ。
ならば苦しまないように諦めた方がいい。
諦めた方が・・・

「馬鹿じゃないの?何であんなのに勝てないの?」
「だって勝てないわよ、あんな非常識なのに!」
ミナトはユキナが何をそんなに勝てないことに疑問を持っているのかわからなかった。
ナデシコの相転移砲も効いていない。
グラビティーブラストも効いていない。
アキだって赤子のようにあしらわれている。
これでどこに勝つ方法があるというのだ!?

「正義は必ず勝つんじゃないの?」
「はぁ?」

ユキナの台詞に目を丸くするミナト

「いや、正義って・・・」
「ほら、お兄ちゃんの見ていた漫画でもあるじゃない。
 必殺逆転ホームランとか、
 新メカ登場とか、
 新たな仲間とか、
 敵の仲間割れとか」

ミナトは目を丸くする。
あれほど漫画が、ゲキガンガーが嫌いだって言っていた少女が、正義は必ず勝つ、その根拠がゲキガンガーだなんて・・・

「・・・漫画、嫌いじゃなかったの?」
「いや、まぁそれはなんというか・・・」
鋭く突っ込まれて焦るユキナ(笑)
シドロモドロになりながら何とか言い訳を考えようと焦っているユキナをポカ〜ンと口を開けてみるミナト。

「ま、漫画は嫌いだけど・・・お兄ちゃんは好き」
「・・・」
「お兄ちゃんならきっと諦めないと思う。
 正義は必ず勝つ!とか言って・・・」
「・・・九十九さんなら言いそうね」
「私、思うの。今私達が投げ出しちゃったら、お兄ちゃんのしたことって無駄になるんじゃないかって」
「あ・・・」

命の危険を承知で行った大演説
どれだけの人の心に届いたかどうかはわからないけど・・・
和平がならなければ、彼の死はそれこそ犬死にになってしまう。
ならば、彼の遺志を継ぐには何をしなければいけないのだろう?

「でも、あの化け物に勝つ方法が・・・」
「だから、倒す方法なんて、考えればいくらでも見つかるんじゃないの?」
「見つかるって、相転移砲でもダメだったのに」
「なんか、こうスーパーウルトラ兵器があったりとか」
「あるなら使っているわよ」
「でもでも、ナデシコだけじゃなくてアッキー達も来てくれてるし」
「アッキーって」
「源八郎、お兄ちゃんの友達。
 何か方法があるはずよ。
 大丈夫、何とかなるなる♪」

ユキナはニッコリ笑う。
それは多分無知だからなのだろう。
知れば知るほどあの敵には敵わない。
それは常識と言っても良い。
大人だから、専門家だからわかるのだ。

けれど・・・

それは大人だから、知識に、常識に捕らわれすぎて視野が狭くなってるのでは?

子供の頃、夢は果てしなかった。
望めば何にでもなれると信じていた。
宇宙飛行士にでも、
野球選手にでも、
歌手にでも、
偉い学者さんにでも
けれど大人になるにつれ、それはやはり夢なのだと、届かない存在だと諦める。
今の自分のいる場所と望む高みの差に絶望し、そして諦める。

夢など叶わないのだと・・・

けれどそれはどこかで諦める理由を探しているからではないのか?
自分で壁を作ってその中に収まる事で自分の心を守ろうとしているのではないのか?

誰かが言った。
人間の考えている事は全て実現する。
ただ、我々はそれを自分の作った壁の高さを見て諦めてしまっているだけではないのか?
けれど子供にはそんな事関係ない。
子供の頃、夢は無限だったように、
囚われる知識も過去も何もない。
だからこそ、可能性は無限にある。
未来も無限にある。

パリン!

ミナトの中で何かの殻が壊れた気がした・・・
人の恐怖や迷いにつけ込んで運命を変えようとしようしていたあの殻が・・・

『そうだね・・・そうだよね』
ミナトはそんな気がしてきた。
あの人ならきっと言うはずだ。
絶対に諦めない
正義は必ず勝つと・・・

理由など一度取っ払ってみよう。
まだやれる事はあるはずだから
この身はまだ残っているのだから・・・

「心配いらないわ。ミナトさんは私が幸せにしてあげるから」
「え?」
「大丈夫、私がミナトさんのお婿さんになってあげる!
 お兄ちゃんの遺志は私が受け継ぐの」
「はい!?」
さっきからユキナがもじもじしていたのはそういうことか(苦笑)

「ほら、私、漫画好きじゃないから、アニメグッズとか買い漁らないから!」
「いや・・・木連ってアニメグッズ売ってるの?」
「ワッペンとか、女の人の立て看板なんかあるよ」
「あははは・・・そう・・・」

我ながら論点のずれた会話をしていると思うミナトであった・・・



再びYナデシコ・ブリッジ


ユリカ「すばらしいです!」
ミナト「ちょ、ちょっと艦長・・・」
ミナトの話を聞いてユリカは感動しまくっていた。

ユリカ「やっぱり愛ですよね、愛♪」
メグミ「いや、今の話をどう聞いていたら愛になるんですか?」
ルリ「さぁ、最後のプロポーズの所しか聞いてないんじゃないですか?」
ラピス「結局どういうことなの?」

最初から囚われていないラピスなどにはさっぱりわからなかった。
けれどユリカには今の話で何かが吹っ切れたようだった。

ユリカ「やっぱり愛の力は無限大!
 私のアキトへの愛があれば不可能も可能にする!
 そうですよね!!!」
ミナト「いや、だからそういう訳じゃ・・・」
ユリカ「よし、何事も成せばなるです!!!」

なにやらやる気になったユリカ
やる気になったのは良いが・・・
やる気になっている方向性が少しずれている気がするのは居合わせたクルー達だけではないだろう(笑)

ユリカ「ミナトさん、さっきみたいなこともう一度出来ますか?」
ミナト「まぁ条件さえ合えば・・・」
ユリカ「んじゃアキさんの援護に行きましょう♪」
ミナト「行こうって・・・」
ユリカ「突撃です!」
一同「えええええ!!!」

一同は目を丸くする。
そりゃそうだ。
いくら何でもナデシコは戦艦だ。機動兵器じゃない
なのにあの龍の群に突入しようだなんて無茶を通り越している。

ジュン「ゆ、ユリカ、君は一体何を考えているんだい」
プロス「そ、そうですとも!さっきはたまたま上手く回避できたから良いようなものの、ナデシコがあんな中に入って回避できるわけが・・・」
ユリカ「やっぱりミナトさんの腕を持ってしても無理ですか・・・」

心底残念そうに言うユリカ
しかしその言葉がミナトの操舵士魂に火を付けた。

ミナト「まっかせなさい!
 セスナ歴8年、クルーザー歴10年、ハングライダー歴3年、ガンペリー歴4年!
 諸々合わせてのべ25年の操縦技術を見せてあげるわ♪」
ユリカ「そう来なくちゃ♪」
ルリ「サポートします」
ラピス「同じく」
ゴート「ちょっと待て!そのガンペリーっていうのは何だ!ガンペリーっていうのは!」
ミナト「さぁ、行くわよ!」
ユリカ「行っちゃって下さい♪」

一同「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

一同は頭を抱えて嫌がった(笑)



Yナデシコ・食堂


メグミ『アテンションプリーズ、アテンションプリーズ
 本艦はこれより乱気流に突入します。
 激しい揺れが予想されますので、乗客のみなさまは着席してシートベルトをして下さい。
 繰り返します・・・』

まるで飛行機のアナウンスのような艦内放送が流れるが・・・

エリ「シートベルトなんかどこにあるのよ!」
ミカコ「それ以前にこれは飛行機じゃありませ〜〜ん!」
ジュンコ「ホウメイさん〜〜」
ハルミ「崩れます〜〜」
ホウメイ「さ、サユリちゃん、火を落として!」
サユリ「は、はい〜」

既に激しく揺れる艦内でホウメイガールズとホウメイ達は崩れ落ちそうな食器類を抑えるので必死であった(笑)



火星極冠遺跡上空


遺跡上空ではアキが必死に大蛇と格闘していた。
しかしそれは蠅が象に群がるようなものでほとんど相手になっていなかった。
近づこうとしては触手に追われ、胴体を切ろうとしては擦り傷にも満たない傷を付けて終わっている。

「くそ!全然効きやしない!
 せめてグラビティーブラストでも撃てれば・・・」
と、毒づくアキの背後からものすごい音が聞こえてきた。

『は〜い』
「ん?」
『グラビティーブラスト持ってきました〜』
「え?」

アキが振り返ると信じられない光景を目の当たりにした。
他の龍からグラビティーブラストを撃たれながら紙一重で全てかわし、こちらに突進してきているナデシコの姿が見えたからである!!!

コックピットにウインドウ通信が送られてきた。
半泣きのクルーをバックに背景にVサインをするユリカの姿がある。

「ゆ、ユリカ・・・ちゃん、あなた一体何をしてるの!」
『ですから、そのグラビティーブラストを持ってきました♪』
「持ってきましたって・・・」
『どこに撃ちます?照準を教えて下さい♪』
「教えて下さいじゃないわよ!ナデシコで突っ込んでくるなんて正気なの!?」
『一人で大蛇と戦っている人に言われたくありません!』
『そうです!』
『そうそう』
『心配いらないわよん♪私の操舵だし』

ウインドウにはユリカだけじゃなくルリやラピスやミナトまでVサインをしていた。
アキは思わず頭を抱えたくなった(苦笑)

『それよりも早く照準を』
「けど・・・」
『早く!』

ユリカの真剣などアップがアキの背中を押した。

「あぁぁぁぁぁ!もう!!!
 私が敵のフィールド切り裂くからそこにお願い!」
『ラジャー!』

重力波の雨あられに煽られながらもきっちりこっちへぶっ飛んでくるナデシコを見て文句を言うだけ無駄と悟りさっさと攻撃に転じる事にした。
チャンスを無駄にするわけにはいかない。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

スバァァァァァ!!!!!!!

PODはフィールドランサーで八岐大蛇のディストーションフィールドを切り裂く!
しかしすぐに胴体から触手が跳んでくる!

とそこに・・・

「艦長、今よ!」
『は〜い♪
 グラビティーブラスト、行きます〜』

ジャストのタイミングでアキの切り裂いた場所に照準を合わせるナデシコ

『撃てぃ!』

ズバババババババ!!!

ギャァァァァァァァァアアアア!!!

龍が大きく身もだえる!
フィールドを切り裂かれたところへグラビティーブラストを浴び、大蛇は大きく胴を抉られた!

やった!

誰もが喜んだ。
決して敵わない相手ではない。
戦い方さえ見つけ出せば何とかなる
誰もがそう思った・・・



Yナデシコ・ブリッジ


メグミ「敵胴体部の数パーセントの消滅を確認」
ユリカ「やった♪」

数パーセントであるが、胴体の一部を抉ることに成功した。
敵は決して不可侵の存在ではない。
今のテクノロジーでも十分戦うことが出来る!

そう思ったのだが・・・

ルリ「敵、復元中」
ジュン「あ、どんどん傷口が塞がっていく・・・」
ユリカ「復元される前にもう一度行きます!」
ラピス「無理」
ユリカ「え?」
ラピス「大気中では相転移エンジンの出力があがらない。
 連射は無理。
 グラビティーブラストへのチャージに数分が必要」
ユリカ「ああ〜ん!もう!」

ユリカは悔しがる。
もう一押し出来れば何とか首の一つも潰せるのに!
あっちはほとんど無制限にグラビティーブラストを撃てるのに、こちらは制限付きまくりというのはとても痛かった。

ジュン「ユリカ、無茶するな!」
ゴート「心臓が止まるかと思ったぞ!」
ウリバタケ『格納庫がしっちゃかめっちゃかだぞ!』
プロス「ただいまイネスさんがダウン中ですので気絶者を増産して欲しくないわけでして・・・」
ユリカ「他に何か手は・・・」

関係各所から轟々の非難の声があがるが、ユリカはそれらを丁重に無視してどうすれば敵にダメージを与えられるか思案していた。

ポクポクポク・・・チーン♪

「良いこと思いついちゃった♪」
ユリカはなにやら閃いた様子で大急ぎでコミュニケを操作した。
呼び出した相手とは・・・

『なによ、ミスマル・ユリカ』
「おハロ〜〜です、エリナさん♪」

そう、ユリカが呼び出したのはカキツバタでアカツキの代わりに指揮を執っていたエリナ・キンジョウ・ウォンである。

「エリナさんにご相談があるんですけど〜〜」
『な、なによ、モジモジと気色の悪い身振りをして・・・』
「そんな大したことじゃないんですけど、この局面を打開する作戦なんかをお願いしたいなぁ〜と(笑)」
『・・・局面を打開するってなによ』
「お耳を拝借♪」

モジモジするユリカに気味悪さを感じるエリナであるが、『この局面を打開する』の一言を無視できず思わず耳を貸してしまったのが運の尽きであった。

エリナのウインドウを耳元に口を近づけて作戦を告げるユリカ
しかしそれを聞いたエリナはそれこそゆでダコのように真っ赤になった。

『あ、あなた、馬鹿じゃないの!?
 信じらんない!
 馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、本当に馬鹿だったのね!
 一体何を考えているの!!!』
「真面目にアレに勝つ方法♪」
『だ、だからって何でカキツバタをそんなことに使わないと行けないのよ!』

エリナは必死に抵抗する。
確かにいい方法だとは思うが、何故自分のカキツバタがやらなくてはいけないのだ!?
しかもあまりにも非常識な方法だ。
成功するかどうかからして怪しい。

「お願いしますぅ、エリナさん〜」
『ダメよ、無理に決まってるわ!』
「そんなことないです!上手く行けば大蛇の首を一つ潰せるかもしれません!」
『でも・・・』
「心配いりません、エリナさんの仇はきっと取ってあげますから」
『ちょっと、その仇を取るって何よ!』
「エリナさんは立派な人でしたって銅像も建てますし」
『待て!!!私を殺す気満々でしょ!!!』
「毎年ちゃんとお墓参りもしますから」
『人の話を聞きなさい!!!』

いつものように漫才に陥る二人(笑)
もちろん、結論が着くはずもないので・・・

「どうあっても、うんと言って下さらないんですね?」
『素直に頷ける方がどうかしてるわよ!』
「う〜ん、それじゃ・・・
 ルリちゃん、カキツバタってこちらからコントロールできる?」
「簡単ですよ。ね、ラピス」
「簡単、簡単」
『なにぃ!』

ルリ達は早速ウインドウを開いてカキツバタをハッキングしている様子を見せる。
エリナのウインドウの中でも次々とカキツバタのファイアーウォールが陥落していく報告がなされていた。

問答無用でカキツバタを奪われるのか、それとも自分の意志で明け渡すのか、
その二択を迫られたエリナであったが・・・

『わかったわ、勝手にしなさい!
 そのかわり失敗したじゃ済まないわよ!
 必ずアレの首の一つは落としなさいよ!』
「もちろんです♪」

渋々折れたエリナに感謝の投げキッスを送るユリカであった。



火星極冠遺跡上空


さてさて、敵わないと思い詰めて、アキの奮戦を眺めるだけだったパイロット達も先ほどのナデシコの特攻には目を丸くしていた。

ヒカル「今の・・・なに?」
イズミ「ナデシコのアクロバット・・・」
リョーコ「戦艦があんな芸当出来るわけないだろう!」
アキト「ゆ、ユリカの野郎だな、あんな無茶をするのは!!!」
アカツキ「あのお姫様ならやりかねん」



「くちゅん!」
何故かユリカだけではなくルリとかラピスとかミナトとかもくしゃみをする


それはともかく、パイロットは口々にさっきのナデシコの非常識な行動に文句を言っていた。しかしそれで彼らの考えは変わっていない。
八岐大蛇に傷を付けることは出来た。
けれどほとんど焼け石に水としか思えなかった。
ただの蛮勇にしか見えなかった。

彼らの殻はまだ破れていない・・・

けれど、彼らのお姫様はその想像を遙かに超えるほど非常識であった。

ユリカ『退いて下さい〜〜』
エリナ『もうどうにでもして〜〜(泣)』
一同「「「「「いぃぃぃぃぃ!!!」」」」」

彼らパイロットが目にしたもの、それは・・・

ヒカル「今度はナデシコだけじゃなく、カキツバタまで!!!」
アキト「ユリカ、お前何を考えてるんだぁぁぁ!!!」

彼らが驚くのも無理はない。
今度はナデシコだけじゃなく、カキツバタまで一緒になって重力波の雨あられをかいくぐりながら突っ込んできたからだ。



Yナデシコ・ブリッジ


ミナト「カキツバタの方のコントロールも回して♪」
ルリ&ラピス「了解」

ここが見せ場だからなのか、ミナトの操舵技術は冴えに冴えていた。
操るコンソールはあまりの高速なスティック(?)捌きのせいで炎のようなオーラを発していた。

メグミ「み、ミナトさんの手からオーラが見えます〜」
ユリカ「まるで炎のコマみたい〜〜」
ルリ「・・・それ何ですか?」
ラピス「知らない」
サリナ『説明しましょう!』

いきなりウインドウで姿を現したのはライバルがお休み中なのに出てこないなぁと思っていた本家説明お姉さんサリナ・キンジョウ・ウォンである(笑)

ルリ「出た、東村山市限定アーキテクトさん」
サリナ『誰が東村山市限定かぁぁぁぁ!って区民ですらないしぃぃぃ!!!』
エリナ『サリナ、あんた一体いつの間にカキツバタに・・・』
サリナ『こんな事もあろうかと密航しておいたわ!』
エリナ『密航ってあんたねぇ・・・』

ウインドウの向こうで兄弟喧嘩を始めるウォン姉妹

サリナ『ということで、改めて・・・
 説明しましょう!炎のコマとはTVゲーム黎明期、
 まだTVゲームがインベーダー全盛だったりした頃に流行ったTVゲーム漫画の主人公が繰り出した技よ。
 レバーを高速で左右することによりプログラムがその入力に追いつけず自機が消えちゃって無敵モードになれるという必殺技よ!
 そのあまりの高速なスティック捌きにより炎が発生したと言われているわ。
 ちなみに技の由来は素早い手の動きを練習するのにコマが燃えるまで素手で回した所から付けられたの。
 でも実際のTVゲームで高速にスティックを動かしたからって無敵モードになったりしないから間違っても真似して火傷しないように!
 お姉さんからのお願いよ♪
 以上、本家説明お姉さんのなぜなにナデシコでした♪』

サリナさん、大いばりの解説、ご苦労さん(笑)

ルリ「3へぇ〜です」
ラピス「せいぜい2へぇ〜だね」
ミナト「何それ?」
メグミ「トリビアの泉ですよね」
ジュン「それってつまり・・・」
ゴート「どうでもいい雑学って事か・・・」
サリナ『雑学なんかじゃないわよ!』
プロス「そうです。今は艦長がなぜそんな大昔の話を知っているかって事が大事なのではないですか?」

一同の視線がユリカに集まる。

ユリカ「・・・(汗)」
ルリ「しかし、インベーダーって私なんかそれこそ生まれてませんね」
ミナト「ちなみに私はスト2で腕を鍛えたわ♪」
メグミ「ユリカさんって本当に20歳なんですか?」
ユリカ「ぴ、ピチピチの20歳だもん!」

再びユリカ年齢詐称疑惑発覚!!!(笑)

『だぁぁぁぁぁぁぁ!そんなことはどうでも良いんだ!
 それよりも僕のカキツバタをどうするつもりなんだ!!!』
『そうだ、ユリカ!お前何をするつもりなんだ!』

最大サイズで彼らの会話に割り込んでくるアカツキ・ナガレとアキト

「何をするって・・・カキツバタを大蛇にぶつけます」
『なに!?』
ユリカのあっさり言った言葉に驚く二人

アカツキ『ちょっと待て!カキツバタをぶつけるなんて、一体何を・・・』
ユリカ「相転移砲はキャンセルされます。でも直接戦艦の相転移エンジンを暴走させるものまでキャンセルされるとは思えません。
 相転移エンジンを暴走させながらぶつけたら首一つ取れるかもしれません」
アカツキ『何非常識なことを考えてるんだ!
 僕のカキツバタだぞ!』
ユリカ「良いじゃないですか。
 どうせそのうちタコ殴りになって撃沈する運命なんですから♪」
アカツキ『見てきたような嘘を付くな!』

アカツキを納得させる為にもっともらしい嘘を付くユリカ
まぁ別の歴史を知る者がいたら、それはあながちハズレではないことを指摘するのだが(笑)

アキト「だからって人を乗せたまま突っ込むつもりか、ユリカ!」
エリナ『そうよ。ちゃんと回収してくれるんでしょうねぇ』
ユリカ「ええ、ギリギリまでナデシコが随伴して敵の注意を引きつけますから」
アカツキ「そういう事じゃなくって!」
ユリカ「首一つが傷ついている今がチャンスです!」

アカツキはなおも抗議するが、ユリカは好機を逃すつもりはない。
先ほどのグラビティーブラストにより傷ついた首が死角になっている今がチャンスなのだ。
でなければそう何度も戦艦が突っ込むなんてアクロバティックな戦法が通用するはずがない!

ユリカ「んじゃ行きます!」
エリナ『もう好きにして』
アカツキ『僕のカキツバタ〜!!!』

アカツキの叫びも空しくナデシコとカキツバタは首の一つに突進していくのであった(笑)



火星極冠遺跡上空


『ってことでもう一度お願いします♪』
「お願いしますって言われても(苦笑)」
ユリカのお願いに困るアキさん
よくもまぁそんな突拍子もないことを考えるものだ。
さすがはユリカと言った方がいいのか、八岐大蛇と戦おうというのだからそのぐらいは当たり前なのかと思い悩む。

しかし、やるとなったら一回こっきりの特攻作戦である。
成功させなくては!

「わかった!私の後に着いてらっしゃい!
 撃墜されるんじゃないわよ!」
『もちろんです♪!』

PODを先頭にナデシコとカキツバタが重力波の雨あられの中を大蛇の首の一つに向かって突進してきた。

バリバリバリバリバリバリバリ!!!

バリバリバリバリバリバリバリ!!!

バリバリバリバリバリバリバリ!!!

凄まじい重力波の中を縫うように突進する一機の機動兵器と2隻の戦艦
少しでも間違えば破滅が待っている狂気の作戦であるが、本人達にとっては冷静に考えた一番高い勝算のある作戦である。

ユリカ「エリナさん、相転移エンジンの具合は?」
エリナ『もう臨界ギリギリよ!』
ユリカ「んじゃ、後はこちらでコントロールしますので皆さん脱出艇に避難して下さい」
エリナ『わかったわ!』

カキツバタのブリッジだけが分離されるのを見るや、アキは大蛇の注意を引くために胴体に攻撃を仕掛けた。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

PODはフィールドランサーの最大出力で大蛇の胴に斬りつける!

ズバシィィィィィィ!!!

オオオオオオオオ!!!!

龍は浅からぬ傷に咆哮をあげる。
傷の恨みからか、すごい形相で龍はアキのPODを睨み付ける。
ちょうどその瞬間を狙ってユリカは叫んだ!

ユリカ「ミナトさん、カキツバタをあの傷の部分へ突入させて下さい!」
ミナト「了解♪」
ユリカ「ルリちゃん、カキツバタの相転移エンジンを臨界突破へ!
 ラピスちゃんはフィールド出力最大!
 エリナさん達の間に割って入って盾になります」
ルリ&ラピス「了解!」

ユリカの号令でエンジンが暴走寸前のカキツバタが先ほどアキが切り裂いた胴体目掛けて突入した。
大蛇の方もそれに気づいた。
触手を伸ばしそれを絡め取ろうとする。

しかし・・・

ゴォォォォォォォォォォォオオオオ!!!

一瞬早くカキツバタの相転移エンジンが炸裂!
辺り一帯を相転移させた!!!



火星極冠周辺


大蛇の首の一つが崩れ落ちるのを見ていたパイロット達は歓声をあげるどころではなかった。

アキト「アキさん!ナデシコ!」
アカツキ「あ〜〜僕のカキツバタが〜」
リョーコ「馬鹿野郎!一番に心配することがそれかよ!!!」

アカツキカスタムを蹴り倒すリョーコのエステ

しかし彼らが心配するとおり、相転移反応は大蛇の胴体一つを丸ごと包んだものの、それまで同伴していたPODとナデシコの姿が爆風で見えなかったのだ。

イズミ「エリナ・ウォン、夢半ばにして火星に散る・・・」
エリナ『散ってないわよ!!!』
イズミ「南無〜(泣)」
エリナ『泣くな!拝むな!』
ヒカル「あ、生きてたんだ♪」

イズミの合掌に突っ込みを入れるエリナを見て一安心する一同。
通信も回復してレーダーにナデシコとPODの姿が映ったからだ。

アキト「アキさん、大丈夫ですか?」
アキ『な、何とかね〜』
アキト「ナデシコは?」
メグミ『・・・何とか無事です』
ルリ『艦内は衝撃でしっちゃかめっちゃかですけど・・・』
アキト「良かった・・・」

とりあえずナデシコからも無事な声が聞けて一安心するアキト
しかしそんな感傷を吹き飛ばす底抜けに明るい声がする。

ユリカ『アキト♪
 見てくれた?首一つやっつけたよ♪』
アキト「馬鹿野郎!お前は何でそんなに危険な事をするんだよ!」

ウインドウに掴みかからんばかりに怒鳴るアキトであった。



Yナデシコ・ブリッジ


アキトのウインドウに詰め寄られるように怒鳴られて思わず耳を塞ぐユリカ。

ユリカ「だって〜」
アキト『だって〜じゃない!下手したらエリナさんだけじゃなく、ナデシコのみんなまで道連れにするところだったんだぞ!』
ユリカ「でも一番高い勝率だったんだよ?」
アキト『お前・・・アレに勝つつもりだったのか!?』
ユリカ「もちろん♪
 だって、あの人が諦めていないから・・・」
アキト『う・・・』

ユリカの言葉に思わず口ごもるアキト
勝てないと思って何もしない者と
勝つ為に無茶をやる者と
どれだけの違いがあるのだろう?

ユリカ「でもおかげで大蛇の首を一つ潰せたし」
ルリ「いえ、まだです!」
ユリカ「え?」

ルリの報告に思わず振り返るユリカ

正面のスクリーンに映し出された大蛇の首は確かに胴体がほとんど抉られていた。しかし文字通り首の皮一枚で辛うじて繋がっていた。
普通なら首一つが死んでいてもおかしくない光景である。

けれど傷口から無数の触手が生えて必死に首を繋げようとしていたのだ。

ユリカ「うげろぉ〜」
ルリ「まさに不死身・・・ですね」
ラピス「ってそんな呑気な事言ってる場合じゃない」
メグミ「エリナさんが!」
ユリカ「え!?」

見ると、そこには逃げ遅れて今にも触手に絡め取られそうな脱出艇の姿があった。

全く予想外である。
あんなに早く触手だけが復活するなんて!!!

『あうあうあうあうあうあう!!!!
 マジで死んじゃう〜〜!!!
 マジで食べられちゃう〜〜!!
 ミスマル・ユリカ、何とかしなさいよ〜!!!』

エリナは半泣きで後方から襲い来る触手の驚異に戦いていた。

ユリカ「旋回して脱出艇の援護に・・・」
ミナト「そんなに急には曲がれないよ〜〜」

先ほどからアクロバティックな操縦をしているミナトも急に反転して攻撃態勢を整えるというのは無理な相談だったらしい。

ユリカ「アキさん、エリナさんの・・・」
アキ『向かっている!けど・・・』

アキはアキで別の触手に襲われていてすぐには迎えそうになかった。



火星極冠遺跡上空


イツキ『今度こそ・・・エリナ・ウォンとその妹、夢半ばにして火星に散る〜』
エリナ「散ってないって!!!」
サリナ『お願いだから誰か助けて〜〜』
ユリカ「エリナさん〜〜!!!」

誰もが触手が脱出艇に絡みつく光景を見た・・・気がした。
だが、しかし!!!

斬!!!!

脱出艇に襲いかかる触手を断ち切る者が現れた!
脱出艇はなんとか触手の魔手から逃れて安全圏に逃げ延びることが出来た。

サリナ「た、助かった〜〜」
エリナ「アマガワ・アキが助けてくれたの?」
アキ『わ、私じゃないわよ〜』
エリナ「え?それじゃ・・・」
サリナ「うげろ・・・」

助けてくれた相手を見ようと後ろを振り向いた二人が見たモノは・・・

思わず見なければ良かったと思うモノであった。



ゲキガンガー3・オープニング


夢が明日を呼んでる〜♪
魂の叫びさ、レッツゴーパッション♪
いつの日か、平和を〜♪
取り戻せこの手に♪
レッツゴーゲキガンガー3〜♪



火星極冠遺跡・地上


それは触手を切り裂いた後、すっくと地面に着地していた。
みんながその勇士を見て驚いた。
救世主だったからとかそういう理由ではない。
あまりに異形な姿だったからである。

エリナ「あ・・・あれ・・・本物?」
サリナ「あ、あれは月面に現れた・・・」

それは紛れもなく原寸大のゲキガンガーである。
どこからどう見てもゲキガンガーである。
曲がりそうもない関節とか、5分で描けそうなディテールの甘さとか、ポーズ重視のパースとか、どこから見てもゲキガンガーである。
ダイマジンのようなパチもの臭い機動兵器とは一線を画していた。

いや、こんなモノと一線を画していても嬉しくないだろうが・・・

ともかく、みんなの注目が集まっている隙を逃さず、ゲキガンガーはお約束の決めポーズを繰り出した。

『天が嘆く、地が嘆く、人が嘆く!
 悪を許すなと私を嘆く!!!
 世界を滅ぼそうと言う怪物さんは火星に代わって折檻よ!』
ゲキガンガーが某美少女戦士の決めポーズを取る(笑)

『愛と熱血と友情の人、ゲキガンガー3
 たとえ隊長がいなくても、たとえ提督がいなくても、
 一人でも正義のために私は戦います!』

ドーンと7色の爆炎がバックを飾った(←戦隊モノの登場シーンを想像して下さい)



Yナデシコ・ブリッジ


ナデシコでもそのあまりの光景に卒倒している者が続出していた。

ジュン「あれ、何!?」
ミナト「ゲキガンガーだね」
ユリカ「実在したんだ♪」
ゴート「するか!」
ラピス「私、月面で見たことある」
メグミ「まぁ八岐大蛇なんてのが出てきた時点で何でもありですけど・・・」
ルリ「シリアスぶちこわしですね」

ルリの言葉に頷く一同であった。



ゲキガンガーコックピット


「ガイ隊長、フクベ提督・・・
 二人の遺志は私が引き継ぎます。
 二人の名に恥じぬよう、立派に正義と熱血を貫きますから、草葉の陰から見守っていて下さい・・・」

コックピットにはゲキガンガーに出てくる海燕ジョーのコスプレをした少女がなにやら祈るように呟いていた。
そしてやおら拳を握るとこう宣言した!

「イツキ・カザマ!
 たとえ一人でも伝説の勇者として魔王を倒します!!!」

決意は立派ですが・・・
何か激しく勘違いをしているイツキちゃんであった(笑)

ってことで後編に続きます



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「・・・好きにして・・・」

−あ、すごい投げやりですねぇ

アキ「怪物の次は波乗りで最後はゲキガンガーなんだから、そりゃ嫌になるわよ」

−あなた、もしかしてこれで終わりだって考えてるんじゃないでしょうね?

アキ「え?まだあるの!?」

−まだまだ出ますよ。後編なんてあんなのやこんなのも出ます(キッパリ)

アキ「もしかして・・・
 ファイナルフュージョンとか究極合体なの!?」

−えっと・・・変身〜とか、フェードインとか、そんなのかもしれない

アキ「ちょっとわけわからないわよ!」

−なんならアキさんが美少女戦士になって戦うというのはどうですか?せっかく実写版も放映されていることですし・・・

アキ「誰がセーラー服なんか着るか!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編にはセーラー服美少女戦士は登場しませんので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・bunbun 様
・Dahlia 様
・ロ〜ム 様
・k-siki 様
・Chocaholic 様
・神薙真紅郎 様