アバン


それはアキトさんからミカンを貰った少女から始まった。
彼女は遙か太古の火星まで旅をして・・・そして戻ってきた。
しかし運命の皮肉により、彼女は二十年前の火星に戻った。
そこでイネス・フレサンジュとして第二の人生を歩むこととなる。

けれど、考えてみたことはないですか?
初めからイネス・フレサンジュという人物が歴史上に存在していたのか?ということを・・・

もしも彼女が存在していないとしたらその後の歴史はどうなっていたのか?ということを・・・

たとえそれが誰かの見た壊れた夢だったとしても・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



火星極冠遺跡・演算装置前


ぞわり・・・
何かざわついた感覚にイネスは襲われた。
あらぬ闇の中からその声はした。

「そう、ここだ。
 時の綻びはこの地点から始まった・・・」
「え?」
「重なる事のない同じ人間の時間・・・
 同時に同じ人間が存在する、この異常な状態・・・
 アイネスがイネス・フレサンジュとして生きる事が歴史にどれだけの影響を与えたのか・・・」
「だ、誰なの!?」

イネスは闇から聞こえる声を探して見回す。
どこからその声が聞こえるのかわからない。
けれど確かに聞こえてくる。
いつか忘れるほど昔の記憶にある、暗く、深い、冷たい瞳をした何かと同じ感覚・・・

「けれど君は考えた事はないか?
 アイネスがアイネスのまま暮らした歴史があるのではないか?という事を。
 そしてその歴史は・・・真の歴史だったのではないかという事を・・・」

闇からそれは姿を現す。
それは・・・東郷和正という男の姿をしていた。

東郷「だから全てを真の歴史に戻そう。
 なに、簡単だ、この子がこのまま過去に戻らなければいい」
アイ「きゃぁぁぁぁ!!!」
イネス「アイちゃん!」

東郷はいつの間にかアイの背後に現れ、彼女を掴まえた!!!

アイ「おばちゃん、おばちゃん!」
イネス「あなた!一体アイちゃんに何をするつもりなの!!!」
東郷「君だって夢想したことはあるだろう?
 20年前の火星にさえ跳ばなければ、大好きなお兄ちゃんと一緒に暮らせた。
 こんなひねくれ者のおばさんにならずに済んだ・・・とね」
イネス「誰がひねくれ者のおばさんよ!」
アイ「おばちゃん、恐いよ〜〜」
東郷「イネス・フレサンジュ、君は不条理な存在だ。
 一人の人間が同じ時を生きる事などあり得ない!
 けれど君はここにいる!今より過去20年という時間を生きて!」

東郷は忌々しげにアイちゃんの首を絞める。

アイ「お、おばちゃん・・・苦しい」
イネス「や、止めて!」
東郷「黙って見ておけ!」
イネス「キャァ!」

イネスは慌てて止めに入ろうとするが、容易に払いのけられた。

「アイちゃん・・・?」

すると本当に首を絞めるつもりでいた東郷の手がびくとも動かなくなった。
力を込めようとすると途端手には無数の切り傷が発生してそれを妨げた。
まるでアイちゃんを殺させないかのように・・・

東郷はとうとうアイちゃんの首を絞めることを断念しなければいけなかった。

アイ「けほ・・・けほ・・・」
東郷「見ろ、これが因果だ。
 イネス・フレサンジュ、お前はまだここにいる。
 だからアイネスが20年前にボソンジャンプするという運命はまだ確定されたままになっている。
 つまり『ここでアイネスという少女が死ぬ』という運命は発生しない。
 それが因果というものだ」
イネス「一体何を言っているの?」
東郷「けれどこうも言える。
 アイネスという存在は今『不可侵の存在』とも言える。
 少なくとも、今この時、イネス・フレサンジュとアイネスが並び立つこの世界では!」

東郷は妖しく笑う。
イネスには東郷が何を言っているのかわからなかった。

いや、わかっている。
単に理解したくないだけだったのかもしれない。
だからイネスは叫んだ!

イネス「誰か助けて!
 アイちゃんを・・・もう一人の私を助けて!」



Yナデシコ・ブリッジ


ちなみにここにアイちゃんとは誰かわかっていない連中がいたりする。

アララギ『つまり、どういうことだ?』
ルリ「向こうは取り込み中のようですので代わりに説明します。
 アイちゃんとは2年前に火星でアキトさんが出会った女の子です。
 木星蜥蜴に襲われアキトさんだけは無事に地球に帰ってきた。
 アキトさんはその時彼女を見殺しにした事をトラウマとして持っていたのですが・・・」
ラピス「どっこい、生きてるシャツの中♪」
メグミ「ど根性ガエルじゃないんですから(汗)」
ルリ「アキトさんが地球に来るときのボソンジャンプに巻き込まれ・・・」
三郎太『つまり巡りめぐってあのおばさんとして別の人生を送っていたと?』
ルリ「あ、知りませんよ。私はおばさんとまでは言ってませんよ」
三郎太『え?い、いや・・・』
ラピス「改造されるね、きっと(キッパリ)」
三郎太『そ、そんな〜(汗)』

とまぁ、解説ご苦労ルリルリとラピラピ

けど・・・シリアスなんだから、もう少し真面目にしようよ(苦笑)



火星極冠遺跡内部


イネスの身に起こった異常事態はこちらの方にも伝わっていた。

アキト「イネスさん!アイちゃん!」
アキ「ち!直接そっちに行ったなんて!」

乱れるウインドウ通信を忌々しげに眺めてアキは念じた。

アキ「アキト君、イメージしてみて!」
アキト「え?」
アキ「月攻略でやったでしょ!
 念じてみて、遺跡最下層を・・・イネスさんとアイちゃんの事を!」
アキ「は、はい!」

アキトはアキに促されるままイメージングをしてみた。

イメージング開始
目標、遺跡最下層・・・

だが、しばらく待っても何も起こらなかった。

アキト「アキさん、何も起こりませんけど・・・」
アキ「くそ!遺跡内部なのにジャンプフィールドが発生しない!
 奴にキャンセルされているのか!」
アキト「どうします?
 早くしないと、イネスさんとアイちゃんが・・・」
アキ「仕方がない!最速で最下層まで突っ切る!
 付いておいで!」
アキト「はい!」

アキはフィールドランサーを振りかざす。
アキトは彼女の意図を正確に理解した。

けれどそう簡単には行かない。

北辰「行かせはせん!」
アキ「あ〜〜、うざい!!!」

執拗に襲いかかろうとする北辰の不知火!
だが!!!

秋山「邪魔はさせぬ!!!」

ガシ!!!
不知火をデンジンの左腕が後ろからがっしりと掴んだ。

北辰「秋山!」
秋山「行け、快男児!」
アキ「・・・死なないでね!
 行くわよ、アキト君!!!」
アキト「はい!」

秋山のデンジンが北辰を足止めしている隙に最下層へ向かうアキ達。

一旦上空に飛翔した後、PODとアキセカンドは全力で急降下した。

ギュイィィィィィィン!!!!

アキ「アキト君、私のフィールドランサーで限界までディストーションフィールドに負荷をかけるから、あなたは一番負荷のかかった瞬間にフィールドアックスの一撃を叩き込むのよ!」
アキト「はい!」
アキ「時間が惜しいから一気に突き破るわよ!」
アキト「はい!」

二機は揃って落下するように飛び続ける。
目の前にはすぐに遺跡の防御用のフィールドが見えた。
そのまま突っ込めばはじき返されるのがオチだ。
並のフィールドランサーでもなかなか破れるものではない。

けれど彼らは一刻も早く最下層に辿り着くために躊躇することはなかった。

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」
PODは構えたフィールドランサーをそのままディストーションフィールドに突きつけた。
突入の勢いもあって、まるで風船を指で押したように沈み込む。
しかしそれだけではフィールドを突破するほどの力はなかった。

「アキト君!今よ!!!」
「わかってます!!!」

アキトのアキセカンドがすかさず舞い降りる。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

アキセカンドは十分勢いの乗った状態からフィールドアックスを一気に振り下ろす!

タイミングはバッチリ
アキのフィールドランサーが遺跡のフィールドを限界ギリギリまで押し切ったその瞬間にさらにアキセカンドのフィールドアックスの一撃が加わった。
限界に達したディストーションはあっさり消滅した。

アキ「この調子でどんどん行くわよ!」
アキト「はい!」

彼らの勢いは少しも衰えていなかった!
一刻も早くイネス達の元へ向かうために・・・
彼らはそれだけを考えて突き進んだ・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十七話 セカイノオワリ<前編>



火星極冠遺跡内部


アキ達が遺跡最下層へ向かっている頃、秋山達は北辰を足止めするので精一杯だった。

アカツキ「一緒に旗を立てるべきだって主張した人の行動じゃないんじゃない?」
秋山「かもしれん・・・が、彼らは信じられる」
アカツキ「んじゃ僕は?」
秋山「信じられないな」
アカツキ「トホホ・・・信用ないなぁ〜〜
 まぁ正しい人間観察眼ではあるけど・・・」
秋山「それよりも・・・悪い予感がするのだ」
アカツキ「悪い・・・予感?」
秋山「ああ。俺のカンは意外に当たるんだ。
 特に悪い事に関してはな・・・」
アカツキ「嫌なカンだなぁ(苦笑)」

デンジンの左手が吹き飛んだ状態で秋山は苦笑いをし、アカツキカスタムは既に満身創痍なのにアカツキは軽口を叩く余裕があった。
とはいえ、楽観できる状況では全然なかったのであるが・・・

それでもなお、秋山は北辰に話しかける。

秋山「なぁ、北辰。お前はこの嫌な感じを何とも思わないのか?」
北辰「嫌な感じ?心地よいではないか」
秋山「まぁお前の趣味をどうこう言うつもりはないが・・・
 お前が何を信じているか知らないが・・・
 これはお前の求めているものか?」
北辰「・・・どういう意味だ?」
秋山「お前だってわからない訳じゃあるまい。
 この嫌な感じがたかだか人一人の作り出せるものではない事ぐらい」
北辰「・・・」

アカツキは思う。
秋山の言っている事は本当だろうか?
北辰に手を止めさせる為だけに話しかけているのならある意味成功していると言えるだろう。しかし、それが真実だとしたら・・・

認めたくはないが、悪い予感というものをアカツキも感じている。
だが、それが人の手によるものでないとすれば・・・

遺跡最深部で一体何が起こっているというのだ?

アカツキは今更ながらになぜアキ達を最深部に行くように促したのか・・・

今更どちらの陣営が遺跡に旗を立てる・・・などという問題ではなくなっている事を感じていた・・・



火星極冠遺跡・演算装置前


遺跡の最下層、そこにはまだアキ達は到着していなかった。
依然、東郷をアイちゃんを抱きかかえたままで、イネスは手出しが出来なかった。

イネス「あなたはアイちゃんをどうするつもり!」
東郷「君は時間が過去から未来に過ぎ去るだけだと思っているか?」
イネス「質問に答えなさい!」
東郷「君なら理解できるだろうと思ったのだが。
 歴史は人の足掻いた軌跡だ。
 けれど未来から過去へ駆け上がってくることもできる。
 例えばアイネスが20年前の火星に戻ったように・・・
 そこで彼女は・・・君は何をしたのかな?
 この20年何をしたのかね?」
イネス「そ、それは・・・」

東郷の言葉にイネスは考える。
自分の行いに非があるのか?

東郷「20年前の火星で君は当時遺跡の調査をしていたネルガルに拾われた。
 以来、君はネルガルの庇護の元、遺跡の調査及びテクノロジーの研究を続ける。
 そして結実したのがナデシコだ。
 IFS、相転移エンジン、ディストーションフィールド、次世代AIオモイカネ・・・
 これらの技術的なブレークスルーは後の火星会戦から1年後に木連軍を退けるまでの力を地球連合に与えた・・・」
イネス「あなたはそれを邪魔するために?」
東郷「そうじゃない」

イネスの推論を東郷は否定する。

東郷「人一人が何かを変えられると思うのは傲慢だよ。
 人一人の力などちっぽけなものさ。
 例えばナデシコの設計などたとえ君という逸材がいなくてもいずれは完成したであろう・・・
 それが歴史の必然というものであり、歴史の波というものだ。
 人がどれほど足掻こうともやがて変革は訪れる。
 だが、君がいなければ変わらなかったこともある」
イネス「変わらなかった・・・こと?」

イネスは自分がいなければ変わらないことなど思いつかなかった。

東郷「ナデシコは遺跡演算機をボソンジャンプにより行方不明にさせる。
 そのことにより地球連合と木連は戦意の大半を殺がれ、戦局は膠着状態に陥る」
イネス「え?」
東郷「それよりしばらく後、木連では和平派が盛り返す。
 熱血クーデターが起こり、主戦派であった草壁春樹はクーデターの首謀者である秋山源八郎や月臣元一朗らと交戦の為、自ら機動兵器で出撃し・・・行方不明となる。」
イネス「ちょっと待って、あなたは一体何を言っているの・・・」

イネスは思わず聞き返す。
別にナデシコは遺跡の演算装置を行方不明になどさせていない。
ここに現存している。
そして木連はまだ草壁一派の勢力が力を持ち、今も交戦中のはずだ。

一体この男は何を言っているのだ?

けれどイネスのそんな疑問を無視して彼は話し続ける。

東郷「その後、地球連合と木連との間に和平が成立する。
 木連軍と連合軍の非主流派が再編され統合軍が設立される一方、連合宇宙軍も残されることとなった。抑止力のためだ。
 これはそのまま地球圏での政治勢力の分布をおもしろいように反映した。
 そして両軍が統合し、人々は余裕が出来るとヒサゴプランを計画した。
 失われた遺跡演算機の代わりをする、一種のボソンジャンプネットワークだ」
イネス「だからそれは一体何のことなの・・・」
東郷「だが、所詮それは隠れ蓑だった。
 それでは真のボソンジャンプ技術を手に入れたとは言えない。
 新たなる秩序のためにはボソンジャンプ技術の解明及び掌握が必要だった。
 死んだと思われていた草壁春樹とその一派はナデシコによって行方不明にされたはずの遺跡演算機の探索に成功する・・・
 そして実験は開始された。
 ジャンパーの人体実験が!」
イネス「!!!」

東郷はまるでそのことに関心がないかのように話す。
大事なのはその後なのだろう。

東郷「火星出身者は全てピックアップされ、拉致した。
 実行犯は北辰らだが、彼らに誘拐された者達は等しくヒサゴプランの各コロニーに収容され、ボソンジャンプの実験台にされた。
 実験台にされて生存していたものを数える方が早かった。
 彼らにしてみればボソンジャンプの全てを手に入れるという行為は敵にジャンプ能力者・・・特にA級ジャンパーと呼ばれる自在にボソンジャンプが出来る人物がいる時点で全て水泡と化すほど脆弱なアドバンテージだったからだ。
 だから等しくA級ジャンパーは誘拐された。
 もちろん、テンカワ・アキトもミスマル・ユリカも例外ではない」
イネス「アキト君や艦長も・・・」
東郷「だが、唯一例外がいた・・・
 そう、君だよ、イネス・フレサンジュ」

東郷はイネスを指さした。

東郷「君は事態を予見したものの手によって事故死と偽装され、まんまと北辰達の魔の手から逃れる事に成功した。
 千丈の堤も蟻穴より崩る・・・とはよく言ったものだ。
 最終的に草壁らは火星の後継者と名乗ってクーデターを起こすが、ナデシコCに鎮圧される。それを可能にしたのは唯一誘拐を免れたA級ジャンパーとしての君の力だよ」
イネス「ちょ、ちょっと一体さっきから何を言っているわけ!?
 まるで出来の悪い二流小説でも読まされているみたいな話は!
 それってまるで・・・」

地球連合と木連は和平が成立する?
アキト君達が誘拐されてジャンパー実験に利用されて・・・
そしてクーデターが起こってそれを自分たちが鎮圧する?

それってまるで・・・これから起こる未来の出来事みたいじゃないの!

イネス「馬鹿馬鹿しい!
 作り話も大概にして!
 一体何を根拠に・・・」
東郷「信じる信じないは好きにすればいい。
 けれど未来から駆け上がってきたもの・・・
 そういう未来があると信じているものにとって、君は邪魔な存在なのさ。
 それらの未来に君はなくてはならない存在だ。
 人一人が変えられる運命などたかがしれているが、人一人の存在に運命が寄りかかるとき、それは大きな運命を変えることになる。
 他人の運命すら巻き込んでね・・・」
イネス「だから未来からやってきて私の存在を消そうっていうの!?
 何も起こっていないことで裁かれるなんて納得いかないわ!」
東郷「フフフ、それは理由の一つにすぎない。
 君の存在はそれ自体、罪悪なのだよ。
 けれど歴史が、この世界が君という存在を許容している。
 だから直接は手が下せない。
 アイネスを殺せないように、イネス・フレサンジュも殺せない。
 けれど・・・」

東郷は意味深な事を言った後、上空を見た。



火星極冠遺跡内部


PODとアキセカンドはまるで通し矢が次々と的を射抜くかのように垂直に急降下していた。そんなに簡単に敗れるフィールドではないのにそれらをまるで紙を切り裂くかのように突き破っていた。

二人の息がピッタリ合っていたからであるが、それでも当人達にとってはもどかしさでいっぱいだった。

アキ「もたもたしない!もっと急ぐわよ!」
アキト「はい!」
アキ「せいのぉ・・・」
アキ&アキト「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

残りディストーションフィールド3枚・・・

一刻も早くイネス達の元に辿り着かなければいけなかった・・・



火星極冠遺跡・演算装置前


東郷は上空を眺めて近づきつつある者達を察すると、もう余興は終わりとばかりに言い放った。

東郷「時間だな。招かれざる者達がやってくる。
 ナイト気取りのドンキホーテ達がな」
イネス「アキト君達!?」
東郷「だからその前に全てを済まそう。
 なに、殺す事だけが全てじゃない」

東郷はそう言うと再びアイちゃんを抱きかかえた。

アイ「おばちゃん、おばちゃん!」
イネス「アイちゃんをどうするつもり!」
東郷「アイネスが古代火星人から貰ったプレート・・・」
アイ「ダメ!それはこっちに着いたら渡してって頼まれたの!」
東郷「これは夢幻城への鍵だ。
 鍵と生体翻訳機、そして演算装置・・・
 これらは揃った。
 それらをもって魔獣を蘇らせよう。
 遙かな昔の国生みの神話になぞらえて・・・
 まずは贄を捧げよう・・・」
イネス「止めて!」

イネスは駆け寄ろうとする。
けれど体が動かなかった。
恐怖で身が竦んだのか?
それもある。
けれど、何かがあるのだ。
彼に逆らえない何かが・・・
それが時の記述の強制力だとはイネスにはわからなかった。

「演算機に人の意志を・・・」

東郷が指を鳴らすと奥に鎮座していた四角い演算装置は瞬く間に姿を変える。
それはまるでお伽噺に出てくる龍の姿であった。
あの四角い演算機はそれを御する人のイメージを捉えて姿を変えるのだ。

アイネス「おばちゃん、助けて、恐いよ!」
東郷「贄を得て演算機は補完される。
 そうなるように私が設計したのだからな♪」
アイネス「イヤぁぁぁぁ」
イネス「アイちゃん!」

龍の顎がアイちゃんを足下から飲み込もうとする。

「お願い!誰か助けて!!!」

イネスは精一杯叫んだ!
その声に答えた者がいた。

上空から飛来する者がいた!!!

アキ「最後のフィールドを破るわよ!!!」
アキト「ええ!!!」
アキ&アキト「ラスト!!!!!!!!」

頭上に聞こえる叫び声を聞いてイネスの顔は希望の光が射した。

PODとアキセカンドは地面に激突寸前で制動をかける。
アキセカンドは思わず転けそうになったのは余談だが・・・

けれど・・・

アキ『イネスさん、無事?』
イネス「私は無事よ、それよりアイちゃんが・・・」
アキト『アイちゃん!?』
アイ「お兄ちゃん・・・」
イネス「ひぃ!」

振り向いたイネスは悲鳴を上げた!

アイちゃんは龍の姿をした遺跡演算装置に食われていた。
いや、食われたというのは比喩である。
アイちゃんの腰から下は遺跡演算装置と融合していたのだ。
それがまるで食われているように見えるのだ。

そして・・・

銀色のナノマシーンは徐々に腰から胸に、そして顔へとその触手を伸ばし、融合しようとした。

アキト「アイちゃん!!!」
アキ「東郷、貴様!!!」

PODはローラーダッシュで東郷と遺跡演算装置に肉薄した!
生身の人間に向かっていく機動兵器・・・
そのままならただの虐殺であり、非人道的行為の何者でもないのだが、目の前の非現実的な光景を目の当たりにしてそんな非難をする者など誰もいるはずはなかった。

いや、エステバリスのような機動兵器でも彼に対峙するのは危険だったかも知れない。

「アイちゃんを離せ!!!」
PODはフィールドランサーを東郷に突き刺す!
しかも機動兵器での波陣だ!

だが!!!

ブン!!!!!!

それは遺跡演算装置の一部だった。
龍の顎はアイちゃんを飲み込んでいたが、それは龍の尻尾の様に現れ、それが東郷に襲いかかろうとしたフィールドランサーを弾いたのだ。

それだけじゃない!
尻尾はまるで剣を振りかざすかのようにPODに襲いかかってきた。

キン!キン!キン!

「く、くそ!!!」

尻尾みたいなナノマシーンの集合体はアキでさえ反応するのがやっとだった。
まさか、そんなものと切り結ぶとは思っていなかったアキは徐々に押されてしまい、とてもではないが東郷をぶちのめして、遺跡からアイちゃんを引き剥がそうなど出来そうにもなかった。

アキ「くそ!アキト君、イネスさんを確保!」
アキト「でも!」
イネス「アイちゃん!アイちゃん!」

駆け寄ろうとしてくるイネスの姿を見つけて彼女はアキトに指示を出す。
けれどアキトも迷っていたのだ。

アイ「・・・お・・・おに・・・い・・・ちゃ・・・ん」

ほとんど演算装置のナノマシーンに浸食されていたアイちゃんであるがまだ意識はあった。いや、意識があるからこそ、救いたいと思って迷っていたのだ。

だが、尻尾は一つだけではなくなりつつあった。

ブォン!ブォン!ブォン!

やがてそれは二つとなり、三つとなり、アキト達のエステに襲いかかってきた。

アキ「アキト君!イネスさんを確保!
 ここから離脱する!」
アキト「でも、アイちゃんが・・・」
アキ「心配いらない!イネスさんが消えない限り、彼女は無事よ!」
アキト「ほ、本当ですか!?」
アキ「えっと・・・多分!」
アキト「わかりました!」
イネス「アイちゃ〜〜ん!!!」

泣きすがって嫌がるイネスをアキセカンドが胸に抱きかかえる確認すると、アキはこの場を離脱するようにアキトに伝えた。

イネス「嫌!アイちゃん!」

いつものイネスからは考えられない、泣き叫ぶ彼女を守りながら、アキとアキトは断腸の思いで遺跡最下層から離脱するしかなかった・・・



火星極冠遺跡・上層部


秋山「・・・一体どうしたんだ?」
アカツキ「さぁ・・・」

いきなり北辰達が戦場を離脱したのだ。
後に取り残されたのは秋山とアカツキだけであった。
正直助かった。これ以上戦闘をしていたらまず間違いなく機体を破壊されていたであろう。
結果的には命拾いしたのだが・・・

秋山「しかし解せん。あの北辰が獲物を狩らずに引き上げるとは・・・」
アカツキ「まぁ助かったんだから良いんじゃない?
 それよりもこれからどうする?
 当初の予定通り遺跡に向かう?」
秋山「さすがにその元気はないが、下で何をやっているか気にかかるな・・・」
アカツキ「んじゃ、アキちゃん達を助けにイネスさん探しへ・・・」

そう言おうとした矢先である。
地下から猛烈な勢いで上昇してくる機影を発見した。
機影は二機、識別からすればPODとアキセカンドのはずだ。

「やぁアキ君、遺跡の最下層はどうだった?
 ドクターがいたのなら地下に潜って調査をしたいんだけど・・・」

アカツキは浮上してくるアキ達に声をかけたが、本人達はそれどころではなかった。

アキ「あんた達、まだこんな所にいたの!?」
アカツキ「そりゃいるさ。」
アキ「さっさと上に上がりなさい!」
アカツキ「え?一体なんだって・・・」
アキト「馬鹿野郎!俺達の後ろを見ろ!!!」
アカツキ「後ろって・・・」

必死の形相で上昇してくるアキ達。
アカツキが目を凝らして彼らの後ろを見ると・・・

それは白銀の触手だった!
触手が上昇してるPOD達を追いかけていたのだ!!!

上昇するというよりはほとんど逃げていると言っても良い。




しばし後・・・



秋山「これは一体何なのだ!?」
アキ「んなこたぁ帰ってからゆっくり説明してあげるから!」
アカツキ「そうだね、今は逃げることに集中!!!」
イネス「アイちゃん、アイちゃん!」
アキト「イネスさん、落ち着いて!」

4機の機動兵器は命辛々遺跡の内部を来た道とは逆走していた。
下からは触手が遺跡の穴を埋め尽くすほど無数にやってきていた。
しんがりのアキがフィールドランサーで突出した何本かを叩き切ったがほとんど焼け石に水だった。

アカツキ「よし!出口だ!」
アキ「みんな!出口まで脇目をふっちゃダメよ!」
一同「おお!!!」

差し込む光に安堵するが、大多数の触手との距離は既に数メートルもなかった。

アキはナデシコに通信を入れた。

ユリカ『アキさん、無事だったんですか!?
 こっちは敵の艦隊が引き上げて・・・』
アキ「話は後で聞くから合図をしたら遺跡直上にグラビティーブラストを撃って!」
ユリカ『え!?
 でも・・・』
アキ「でもは良いから、言うとおりにして!!!」
ユリカ『はい!』
アキ「3、2、1・・・」

遺跡を脱出して地表に出ようとするその直前、ギリギリだが、触手との距離は限りなくゼロに近づいた!!!

アキ「ファイアー!!!」



火星極冠遺跡上空


遺跡から次々4機の機動兵器が飛び出してくる。
そして続いてそれらを追うように無数の触手もまるで壺から這い出る蛇のように現れた。
しかし、アキの指示したタイミングはほとんどドンぴしゃだった。

ユリカ「グラビティーブラスト、撃てぃ!!!」

ゴォォォォォォ!!!!!

重力波が上昇する機動兵器の真下すれすれを通過した。
当然そこにある遺跡からの触手を巻き込んだ。

根こそぎ触手の先っぽを奪い去られた触手達は諦めたかのように遺跡内部へ引き返していった・・・

アカツキ「ふぅ・・・何とか助かったねぇ」
秋山「しかし、一体アレは何だったのだ?」
アキ「・・・詳しい話はナデシコに戻ってからにしましょう。」
アキト「そうですね。イネスさんも休ませたいですし・・・」

アキトは自分の膝の上で気絶しているイネスを見やった。
彼女の頬には未だに渇かない涙の跡があった・・・



Yナデシコ・医療室


アキ達が帰ってから、イネスは早速医務室に寝かされた。
怪我はなかったが、さすがにショッキングな出来事の連続だった為か、ずっと気絶したままだった。

アキトは寝かされているイネスを見て溜息をつく。

アキト「俺のせいでイネスさんは・・・」
サユリ「アキトさん・・・」
アキト「俺のボソンジャンプに巻き込まれてしまったばっかりにイネスさんは過去に飛ばされてこんなひねくれ者になっちゃったんだ・・・
 そして、さっきだってアイちゃんを救えたはずなのに・・・」
サユリ「アキトさん、何でも自分のせいだって思っちゃダメですよ」
アキト「でもさぁ・・・」

本当に目の前だった。
目の前のもう少しで手に届くところにアイちゃんはいた。
それなのに助けられなかった・・・

なぜ、俺はいつもいつも目の前の人達を助けられないのだろう・・・
アキトは慚愧に堪えなかった。

ミカコ「でも、さっきルリちゃんとラピスちゃんのやっていた続なぜなにナデシコだと、イネスさんが無事って事はアイちゃんもとりあえず無事らしいからまだ心配しなくてもいいって言ってたよ」
アキト「けど・・・」
サユリ「そうですよ。今度こそ助ければいいじゃないですか!」
エリ「お腹がすくからそんなにメソメソするんです!
 私達のおにぎりを食べて元気出して!」
アキト「い、いや、食欲は・・・」
エリ「よし!ねじ込め♪」
ハルミ「右手確保♪」
ジュンコ「左手確保♪」
ミカコ「鼻を摘みます♪」
エリ「覚悟してください、アキトさん♪」
アキト「ふにゅううう!!!」

ホウメイガールズ達に口におにぎりをねじ込まれるアキトであった(笑)



Yナデシコ・ブリッジ


ラピス「アキ〜〜♪」
アキ「ラピスちゃん、まだお仕事中だから〜〜(汗)」

素直に抱きつくラピスの影で、照れくさいのか、キャラじゃないと思ったのかルリもモジモジと様子をうかがっていた。

ルリ「・・・アキさん、お帰りなさい」
アキ「ありがとう、ルリちゃん♪」

そしてルリの肩を抱くように現れたのがユリカであった。

ユリカ「アキさん、良く帰ってきてくれました。
 嬉しいです」
アキ「もうちょっと早かったら良かったんだけどね(苦笑)」
ユリカ「そんなことないです。みんな勇気づけられたんですから」

ユリカが促すと後ろのクルーのみんなは異口同音に同じ表情を見せた。
まだ、自分の居場所があったのだと少々照れくさくも嬉しい思いになるアキであった。

とまぁ、ブリッジでそんな邂逅が行われたが、事態はあまり楽観を許していなかった。

順不同で現在のそれぞれの状況の確認と情報交換が行われていた。

メグミ「えっと何故かわからないんですけど、地球製の艦隊が引き上げていったんです。ちょうどアキさんが遺跡の地下に降りた辺りなんです」
アララギ『こっちもだ。木連の艦隊も何故かはわからないが引き上げた』
アカツキ『そういえば白くて強い機動兵器もさっさと引き上げちゃったねぇ』
ジュン「何でだろうねぇ。アキさんが加わったとはいえ、ある程度は有利な情勢だったろうに・・・」
ゴート「ん・・・やはり遺跡の地下で起きたことが影響しているのか?」
ルリ「影響って・・・アレがですか?」

アレというのは遺跡から現れた無数の触手の事であろう。

ユリカ「そうです、アキさん。遺跡の地下で何があったのですか?」
アキ「まぁ色々あってねぇ(苦笑)」
ユリカ「・・・で、アイちゃんが敵に捕まっちゃったって本当ですか?」
アキ「ん・・・実際はもうちょっと状況が良くないねぇ」

アキは掻い摘んで事実を告げる。

リョーコ「アイちゃんが・・・」
ヒカル「遺跡に融合!?」
イズミ「ユーゴスラビアで・・・」
リョーコ「融合なんてギャグは空気読んでからにしろよ」
イズミ「シクシク・・・」
エリナ『でもそれってドクターが危険じゃないの!?』
アキ「まぁ、イネスさんがこっちの世界にいるって事は、アイちゃんが20年前にジャンプする歴史は有効って事になるからまだ大丈夫だと思うけど・・・」
ルリ「なんかもうちんぷんかんぷんですね、それ」

ルリの言葉にアキは苦笑する。
確かにイネスが20年前の過去に飛ばされたアイちゃんの成れの果てなら、ここにイネスが存在するということはアイちゃんが過去に戻る運命も変わっていないということだ。
もし、アイちゃんが過去に戻らないという運命が別の事象によって変更可能なら、今この瞬間に可能性のジャンクションにより切り替わり、誰もそのことを知覚できていないであろう。

けれど我々は今、アイちゃんが遺跡に取り込まれ過去に跳んでいないにも関わらず、イネスが存在するという歴史を体験している。
そうであるなら、この後、何らかの形でアイちゃんもまた過去に飛ばされるのであろう。
ならばそれまではアイちゃんは無事だろう。
いや無事だと思いたかった・・・

もっともアイちゃんとして普通の子供として暮らしたいとイネスが思っていたのなら、歴史が変わらないというのは可哀想な現実であるが。

アカツキ『で、これからどうするんだい?』
秋山『そうだな。北辰達がまた攻めてこないとも限らないし』
ルリ「第一、アイちゃんと融合した遺跡の存在って安全なんですか?危険なんですか?」
ユリカ「ん・・・」

口々に交わされる意見をユリカが聞いて・・・

ユリカ「遺跡に相転移砲を撃っちゃいましょう」
一同「え!!!!!!!!!!!!!」

誰もが驚いた。
そりゃそうだろう。いきなり遺跡を破壊しようなんて極端な意見が出るとは誰も思っていなかったわけだから。

アカツキ『ちょ、ちょっと待てよ!そりゃ絶対反対だよ!』
ユリカ「何故ですか?あんな危ないものがあるからいけないんです。」
エリナ『馬鹿いわないで!イネスさんの説明によれば、アレはボソンジャンプのためのキーデバイスよ!それが破壊されたらボソンジャンプそのものが出来なくなっちゃわ!』
ユリカ「でも、あれのせいで今地球と木連は戦争しているわけですし・・・」
秋山『だが、しかしそれはあまりにも乱暴な・・・』
ラピス「そうなるとチューリップも使えなくなるね」
三郎太『待て!それは跳躍砲もデンジンの跳躍も使えなくなるということか!?』
ラピス「結果そうなる」
三郎太『それはダメだ!』
ゴート「まぁ木連がそれらの兵器を使えなくなれば会戦当初の優位性は全くなくなるわけだ。ある意味良いかもしれん」
三郎太『なんだと!!!』
ウリバタケ「けどなぁ・・・イネスさんの話によれば遺跡は一種のタイムマシーンだ。
 となれば、アレがなくなった瞬間、全てのボソンジャンプはチャラ・・・なかったことにならんか?」
一同「え!?」

そう言われれば・・・
でも本当にボソンジャンプが存在しない歴史にまで遡りするのであろうか?
そんな歴史は一体どのようなものなのだろうか?

ルリ「でもそれってアキトさんはこの世から消えちゃうって事になりませんか?」
ユリカ「え?どうして!?」
ルリ「ですから、アキトさんは火星で木星蜥蜴に襲われたとき、ボソンジャンプで地球に逃げて来れたんですよね?まぁそれに巻き込まれてアイちゃんは20年前に飛ばされたわけですが・・・
 ということはボソンジャンプがなければアキトさんは火星で死んでいたかもしれないって事でしょ?」
ユリカ「そ、そんな・・・」

あまりにも思慮外の事を言われて蒼白になるユリカ
でもラピスは異を唱えた。

ラピス「そうは限らないんじゃない?」
ルリ「何故です?」
ラピス「だって、チューリップも使えないんだから、歴史は変わっているかも・・・」
ルリ「けど無人兵器は使えるんですから、多かれ少なかれ木連軍は火星にやってきたでしょう」
ラピス「う・・・」
秋山『まぁ確かに状況が変わらなければあり得るかもな』
アララギ『とはいえ、跳躍門なしで如何に効率的に無人艦隊を送り込むか・・・
 シミュレーションしてみる分にはおもしろいかもしれないだろうけど、緒戦の圧勝というのはないかもしれないか・・・』
ルリ「多かれ少なかれ、地球連合と木連は衝突し、火星は奪われていたという歴史の流れは成立し、歴史の記述もタイムテーブルぐらいしか違わないかもしれません」
ユリカ「でもでも・・・
 それじゃどうやってアレを倒すんですか?」

自説を全く否定されてしまったユリカだが、あの変な触手の存在を許しておくととんでもないことが起こる事を肌で察していたのだろう。
楽観的なみんなに警鐘を鳴らす。
しかし、相転移砲で丸ごとドカン!は乱暴すぎた。

それに対してアキが口を挟む。

アキ「でも、相転移砲でドカンとしちゃったらアイちゃんはどうなるの?」
ユリカ「あ・・・」
アキ「まぁ、遺跡がなくなって全てがチャラ・・・どこまでチャラになるのかわからないけど、仮にアキト君が助かったとしよう。
 でも遺跡と融合しちゃったアイちゃんごと相転移砲で吹っ飛ばして果たしてアイちゃんは助かるの?」
ユリカ「でも・・・一番最初のチャラ状態に戻るんじゃ・・・」
アキ「でも、彼らの目的がイネスさんを誕生させない、ひいてはナデシコを誕生させないことだとしたら、今頃とっくに変わっているはず。
 でもそうならないということは彼らにもそれが出来ない。
 なぜなら今イネスさんは存在しているのよ?」
ユリカ「あ、そうか・・・」
アキ「だとしたら、イネスさんが消えない現状ではあの遺跡に何をしても無駄・・・って可能性もあるわ」
ユリカ「うにゅ・・・頭がスポンジになってきました〜〜」

ユリカは知恵熱でも出そうにウンウン唸っていた。
頭の回転がいい彼女ですらそうなのだから、他のクルーもほとんどは着いて来れていない。

ルリ「こういうとき、イネスさんがいればわかりやすく説明してくれるんですけど」
メグミ「まぁそれは無理でしょう(汗)」
ユリカ「でも、それじゃこれからどうするんですか?」

このままにしておいて良いわけがない。
けれど打つ手はない。
と思っているところにアキがこう話した。

アキ「私がもう一度行って来る」
ユリカ「む、無茶ですよ!」
ルリ「そうです!アキさんまでアレに取り込まれたらどうするんですか!」
ラピス「断固阻止!」
アキ「でもさぁ(苦笑)」

誰かがあそこに潜ってアイちゃんを助けてこないことには仕方がない。
あそこにアイちゃんがいるのに相転移砲を撃てる様な者はナデシコにはいないだろう。
となると、誰かがあそこに行って分離しなければ・・・
けれど近づけば危険は飛躍的に跳ね上がる。
いくらアキだって・・・

アキ「まぁ無茶はしないわ。
 北辰達がいつ戻って来るかわからないけど・・・
 悪い予感がするの。だから行って来るわ」
一同「・・・」

わかってはいるのだが、誰もが暗鬱とした気持ちを拭いきれないでいた。



火星極冠遺跡・最下層


「それには及ばない。
 さぁ始めよう、この偽りに満ちた歴史を滅ぼし、真の歴史へ戻そう!
 それはただ在りし日へ帰るだけのこと
 全ては『時の記述』の通りとする為に!」

東郷は龍の頭部にアイちゃんの彫像が突き出た形にまとまった遺跡演算装置を眺める。

そしてさらにその先、彼の眼前には異様なモノがあった。

輝きはむしろ無機質な金属質を思わせるモノであるが、まるで鼓動のように胎動する姿はまさに生き物そのものであった。
意匠だけを見れば・・・木連の無人兵器バッタやジョロに近い。
しかしそれは比べればであって、そんな稚拙なモノではなかった。
そう・・・もしそれを知っているモノがいれば夢幻城のエンジェルに近い代物だということが容易にわかったであろう。
だが、決定的に違うのはその大きさであった。

まるで眠るように身を丸めているソレは今なお成長してるかの様に徐々に徐々に大きくなりつつあった。

「さぁ目覚めろ。
 遙かなる太古より神話の天使と戦った白銀の魔獣よ。
 八つの山脈と八つの谷を埋め尽くし、火星に戦と死をもたらせしモノよ!
 まずは贄を与えよう」

パチン!

東郷が指を鳴らすと遺跡演算装置は静かに魔獣のそばに近づき、そして魔獣の首と思われる場所に突き刺さった。

演算装置は静かに吸収される・・・

すると急に禍禍しい邪気を発し始めた!

ドクン!ドクン!

鼓動は早鐘のように辺りに木霊していく・・・

「さぁ行こう。
 我が僕、八岐大蛇よ・・・」

遺跡演算装置を飲み込んだソレは鎌首をもたげるように顔を上げた。
それはまさに神話に出てくる蛇神の様であった・・・



Yナデシコ・格納庫


アキは周りの制止もかまわずにPODに乗り込もうとしていた。
だが、一人で行くのは危ないと周囲は説得に当たっていた。

ユリカ『アキさん、やっぱり危険ですよ〜』
アキ「心配いらないって。無茶はしないわよ」
ルリ『あなたの無茶しないっていうのが一番当てにならないと思うんですけど・・・』
アキ「え?そうだっけ?(汗)」
ラピス『アキ、行っちゃダメ!』
アキ「でもねぇ・・・悪い予感がするの・・・」
ユリカ「悪い・・・予感?」
アキ「ええ、さっきから鳥肌が引かないの。
 あそこで何かが起きている。それが何かを確かめないと・・・」

アキの恐いくらい真剣な顔にみんな押し黙る。
と、そこに・・・

アキト「アキさん、俺も行きます!」
アキ「アキト君、イネスさんは?」

やってきたのはアキトである。

アキト「イネスさんは寝付きました。
 それよりもアイちゃんを助けに行くんでしょ?
 俺も行きます!」
アキ「あんたは残りなさい!」
アキト「何でですか!」
アキ「危険すぎるわ」
アキト「アキさんはそんな危険なところに行くんですか!」
アキ「いや、まぁ・・・」

無茶しないと行った手前、アキトすら行けないほどの危険なところに一人で行くというのはあまりにも周りを不安がらせた。

ユリカ『アキさん・・・』
ルリ『アキさん・・・』
ラピス『アキ・・・』
アキ「あ・・・そんな目で見ないで(汗)
 まぁ、付いてくるのはかまわないけど、無茶はしないでよ」
アキト「そういうアキさんこそ」

なんかユリカ達と『アキさんに無茶させないでね!』『わかった!』とアイコンタクトを問っているアキトを見て渋々連れていくことにしたアキであった・・・



Yナデシコ・ブリッジ


メグミ「PODとアキセカンドが発進許可を求めています」
ユリカ「発進して下さい」

ユリカの号令で2機のエステバリスがナデシコから発進した。

しかし、その間もなく、ナデシコのセンサーには異常が感知された。

ルリ「遺跡地下に巨大なエネルギー反応が発生!」
ユリカ「え!?」
メグミ「通信磁場が乱れています!!!」
ユリカ「なに!?何が起きたの!?」

何か異常事態が起きているのだけはわかった。
それはカキツバタやかんなづきからの『何があったんだ!?』『これはどうしたんだ!?』という通信が飛び込んできたことからも明らかだ。

ユリカ「アキさん、何か見えますか?」
アキ『ち・・・遅かったか・・・』
ユリカ「遅かったって・・・」

遺跡に近づいていたPODからの映像をスクリーンに投影する。
すると誰もがその映像を見て息を呑んだ。

それはまさしく龍であった。
先ほどの遺跡が変形したモノではない。
もっと巨大なのであった。

遺跡の縦穴一杯に巨大な龍の首が現れたのだ!!!

誰もがその異形のモノを見て驚愕し、
そして・・・畏怖した。

龍は解放された喜びからか、咆哮をあげた。

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

それはまるで火星全土に響こうかという程の音量で大気を振るわせた。

だが、それ以上に咆哮は聞いた人々に、いやその魂に激しい恐怖を与えるのであった・・・

ってことで後編に続きます



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「あ・・・今回は恐竜大決戦ですか?」

−まぁ、そんな感じです

アキ「しかし、大風呂敷を広げたモノねぇ〜
 本当に畳みきれるの?」

−いや、まぁ・・・それはその・・・エヘ♪

アキ「『エヘ♪』って・・・あんたねぇ、呆れられても知らないわよ」

−でもまぁ、これぐらいやらないと終わった気にならないでしょう。遺跡を跳ばして全て解決!ってTV版のラストに物足りなさを感じた人もいたみたいだし

アキ「だからって、怪獣は・・・」

−心配いらないです。アキさんとアキト君が一緒に変身してウルトラマンエースとして戦うという・・・

アキ「誰がウルトラマンになって戦うか!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編にはウルトラマンは登場しませんので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・松吉 様
・龍崎海 様
・k-siki 様
・Chocaholic 様
・Lien 様
・そら 様
・望月 コウ 様
・神薙真紅郎 様
・bunbun 様
・kakikaki 様