アバン


火星・・・戦の星、死の星、血の星
あの赤い星に人々は宇宙人の幻想を夢見た。
そして今また古代火星人の遺跡が眠っていると信じている。
全てはそこから始まった。

そのどこかの誰かが残した遺跡が見つかったが故に

それがどんな意味をもたらすか、何も知らずに群がった

その地下でどんなに暗く醜悪なモノが眠っているかも知らず・・・

無邪気に群がった・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



火星極冠上空・三者会談


火星極冠の上空では三者が睨み合っていた。
一方はネルガルの戦艦カキツバタ
もう一方は木連戦艦かんなづきとみなづき
そして最後の一方が脱走艦Yナデシコであった。

三者はウインドウ通信によるお話し合いをしていた。

秋山「我々は九十九の意志を継ぎ、ここまでやってきた。
 君らに敵対する意志はない」
アカツキ「敵対する意志がないならどうして銃口をこちらに向けているんだい?」
秋山「今の君達の行動を見過ごすことは出来ないからだ」
アカツキ「見過ごせないって、なにが?」
秋山「君達は今、火星の遺跡に一番最初に旗を立てようとしているだろう」
アカツキ「そりゃ、一番最初に辿り着いた者が旗を立てる権利があるだろう」
秋山「それが問題だ。それでは遺跡は地球のモノとなってしまう」
アカツキ「それが何か問題でも?」
秋山「わかっていて言っているらしいが、この戦争は現在遺跡の争奪戦と化している」
アカツキ「それで?」
秋山「その現状で誰かが抜け駆け気味に火星に旗を立てて見ろ。
 ヒステリックな争奪合戦に油を注ぐことになる!」
アカツキ「っていうか、現状でも十分争奪戦じゃないかなぁ〜」
秋山「だからこそ、これ以上やれば互いに引き返せないところまで行く!」

アカツキはわかっていてはぐらかしているが、秋山の提言ももっともだ。
今この遺跡がどちらのモノと決まってしまえば対抗する勢力は奪い返そうとする。そうなれば互いに武力により争い、引き返せないところまで向かってしまうだろう。

ユリカ「で、どうしようと仰るんですか?」
秋山「つまり地球側と木連側両方が同時に旗を立てよう・・・というのだ」
ユリカ&アカツキ「はい?」
秋山「とりあえずこの場は両者による共同調査とする。
 調査結果は両者が等しく共有し、管理するモノとする。」
アカツキ「それって責任の所在を曖昧にするって言わない?」
秋山「だが、木連も地球も今は主戦派と穏健派の意見が対立しているのだろう?
 例の九十九の演説の放送を見ているのだろうから」
ユリカ「アレですか・・・」

ユリカも見ていた。九十九の演説を
その光景は木連にも地球にも流されていた。
あの演説のおかげで多くの人々は迷っていた。
何が正しくて、何が正しくないのか。
敵を滅ぼすことが正義なのか否かを。

秋山「あいつの死は無駄にはならなかった。
 まだどうにか穏健派も抵抗できてる。
 だが、それも危ういバランスの上に成り立っている。
 微妙なバランスの上に立っているこの時期に天秤の針を傾けるようなことは出来まい」
アカツキ「でもねぇ・・・そうやって曖昧にしておいてもろくな事ないよ。
 冷戦後の民族紛争なんかその最たるものさ」

20世紀後期、共産圏で行われた民族融和政策
対立する民族を強制的にまとめようと同じ所に住ませてみたものの・・・
元々対立していた民族間にくすぶっていた遺恨が消えるわけもなかった。
冷戦という強制力がなくなった後、問題は噴出
結局は民族間で血みどろの争いを生み出すという結果を生みだした。

なぁなぁで済ませてとりあえず和平が成ったとしても、わだかまりを残したままの仮初めの和平など何の意味もないのでは?とアカツキは言っているのだ。

秋山「心の傷が時間をかけることによってしか癒えぬように、互いの憎しみを癒すのもまた時間をかけて互いを分かり合うより他にない。
 滅ぼし合いをする事はいつでも出来る。
 だが、分かり合うための時間は今しか作れぬ。
 それが九十九の遺志であり、我らの望みだ」
アカツキ「断ったら?」
秋山「この場で討つ」
アカツキ「出来るかい?2対2とはいえ戦力的にはこちらの方が・・・」
ユリカ「私は秋山さん達に賛成です」
アカツキ「え!?」

いきなり造反をしたユリカ(笑)

アカツキ「おいおい、さっき共同戦線って・・・」
ユリカ「どう考えたって秋山さん達の方が私達らしいです」
秋山「3対1だな。で、どうする?」
アカツキ「・・・やれやれ。まぁいいよ」

アカツキは折れた。まぁこの程度なら地球連合の石頭や木連の草壁一派のように話の通じない連中よりは遙かにマシだろう。

アカツキ「だが、後で自分達だけのモノだって主張しない保証は?」
秋山「この命にかけて」
アカツキ「たかだか2隻の戦艦に保証をもらったって・・・」
秋山「そちらだって地球の総意じゃあるまい?」
アカツキ「まぁ、そりゃ・・・」
秋山「どちらにしろ、我らはこれを既成事実にしなければならない。
 でなければ少数派の我らに明日はない・・・だろ?」
アカツキ「・・・いい性格している」
秋山「よく言われる」
ユリカ「ということで決まりですね♪」

ここに三者は共同で火星を調査する事となった。



しばし後・火星極冠上空


アキト「何だって俺が・・・」
アカツキ「光栄に思いなよ。そっちはナデシコ代表なんだろ?」
秋山「そうだ。等しき力の者に来てもらわないと話にならんからな」

アキトのアキセカンド
アカツキのエステバリス・アカツキカスタム
そして秋山源八郎のデンジンが極冠上空にスタンバイしていた。
これから遺跡内部に突入する為である。

これは協定であり、同時に遺跡に入る為の代表役であり、互いに抜け駆けしないようにする監視役でもある。
それ故に相手に侮られない程度の腕前の持ち主が選ばれた。

エリナ『といってもあなたが一番弱そうだけど』
アカツキ「エリナ君・・・それは言わない約束だろう?」
と愉快な会話がなされているかと思えば、こちらでは予想外の事が起こっていた。

アキト「おい、ユリカ。イネスさんは?」
ユリカ『見つからないのよ〜〜』
アカツキ「おかしいねぇ。あの説明好きがこの好機を逃すはずがないんだけどねぇ」
アキト「でもイネスさんがいないなら遺跡に降りたって何もわからないんじゃないのか?」
アカツキ「まぁ、旗を立てるだけでも立てとかないとねぇ。
 でしょ?木連さんも」
秋山「まぁ・・・そうだな」
アカツキ「んじゃ、決まり♪
 遺跡探検へレッツゴー」

アキトは釈然としなかったが、地下に埋没した古代火星人の遺跡に潜っていった・・・



木連戦艦・みなづき


ルリ『そのペイント消して下さい!』
ラピス『消しなさい!』
アララギ「いや、結構可愛く描けていると思うんだが・・・
 ダメかい?」
ルリ『ダメです』
ラピス『ダメ!』
アララギ「・・・しょぼん」

アララギはみなづきの船体に描かれているルリとラピスのペイントを泣く泣く消す事になった。

とはいえ、テツジンがモップを持って船体のペイントを消している光景はナデシコクルーの失笑を誘っても同情は誘えなかったりする(笑)



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十六話 どうして火星は赤いのか?<後編>



遠くのユーチャリス


イツキ「本当に隊長をお願いしますね〜〜」
Pink Fairy「わかってる。
 それじゃ手術を始めます」
Actress「よろしくお願いします・・・って本当に大丈夫なの?」
Pink Fairy「なにが?」
Actress「なにがって・・・Pink Fairyちゃん、医師免許持ってるの?」
Pink Fairy「あるよ」
Actress「これ・・・イネスさんの手書き(汗)」
イツキ「本当に大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?」
Pink Fairy「大丈夫。ブラックジャックもDrコトーもゴッドハンドも医龍も読破してるから」
Actress「いや、そういう問題じゃなくて・・・」
Secretary「いるよね・・・漫画読んだだけで成りきる奴・・・」
Pink Fairy「四の五の言わない。二面同時作戦展開なんだから」
Actress「わかりました。よろしくお願いします!」

医師免許持ってるのか?というツッコミ以前に某説明おばさんに似てきているところが恐ろしいと思う面々(笑)

イツキ「アワワワ〜〜隊長〜〜」
Pink Fairy「んじゃサポートお願い」
Blue Fairy「わかりました」

おたおたするイツキの横でBlue Fairyが端末をいじっていた。

Secretary「でもさぁ、本当に魂のデジタル化なんて出来るの?」
Blue Fairy「さぁどうでしょうか?」
Secretary「どうでしょうかって、んな無責任な・・・」
Blue Fairy「人間の脳も所詮はシナプシスの結合を全て記録すれば再現出来るって言いますし、オモイカネだって自我らしきモノも存在しますから。
 人間の定義なんて曖昧かもしれませんよ」
Secretary「人間の定義ねぇ・・・しかしアレを人間というのかしら」
Blue Fairy「ヤマダさんなら喜ぶんじゃないですか?(笑)」
Secretary「そりゃ喜ぶけど・・・」
Blue Fairy「でも・・・そうか・・・デジタル化ですか・・・」
Secretary「なに?どうしたの?」
Blue Fairy「いえ、人の意識をデジタル化出来るというか、記録が出来るなら、あるいは人という死を迎える器に入れておかなくても良いんじゃないかと・・・」
Secretary「え?」
Blue Fairy「『始まりの人』ですよ」
Secretary「あ・・・」
Blue Fairy「時の記述・・・ひょっとしたらそこら辺に秘密がありそうですね・・・
 そう思いませんか?Snow Whiteさん」

そう声をかけられたSnow Whiteは部屋の片隅で溶けたアイスのようにへたっていた。

Snow White「みゅう〜〜疲れたよ〜〜」
Blue Fairy「Snow Whiteさん、シャキっとして下さい!」
Snow White「そんなこといったって、私は運送屋さんじゃないんだから一日に何度もジャンプしたら疲れるわよ〜〜」
Blue Fairy「それよりもアキトさんは大丈夫だったんですか?」
Snow White「ん・・・大丈夫だよ。アキトは強いから」
Blue Fairy「結構へこんでましたよ?」
Snow White「大丈夫だよ、大丈夫♪」
Blue Fairy「・・・わかりました」

彼女がそういうのだから大丈夫なのだろう
Blue Fairyは手術のサポートに専念することにした。

Pink Fairy「溶接機と対閃光マスク用意」
Actress「用意って・・・」

チュィィィィィン!!!!!!
スパパパパパ!!!!
バチバチバチ
ギュリュリュリュ!!!
ギコギコ!
トンキンカン!トンキンカン!

イツキ「アワワワ〜〜隊長〜〜!」
Secretary「あれは・・・手術なの?」
Blue Fairy「・・・さぁ」

全く手術らしくない工場のような作業音が聞こえて来ると徐々に不安となる一同であった(笑)



火星極冠遺跡内部


アカツキ「テンカワ君、行くよ!」
アキト「うわぁぁぁぁ!!!!」

アキセカンドとアカツキカスタムは手にしたフィールドランサーにエネルギーを集中した。
そして目の前にあるディストーションフィールドに勢い良く突き立てた!!!

バチバチバチ!!!

アキト「く!すごい手強い!!!」
アカツキ「そりゃそうだろう!
 見つけるだけでも苦労したんだ。
 その上幾重にも張り巡らされたディストーションフィールド。
 そうじゃなければ僕らネルガルがとっくに発掘してるさ」
秋山「手伝おうか?」
アカツキ「いいや、あんたは僕たちのエステにしっかりと重力波ビームを送ってくれればそれでいいよ」

事実ナデシコからの重力波が届きづらいこの場所でエステがフルパワーを出せているのもデンジンのおかげである。
意外とこういう時は相転移エンジン付きの機動兵器が役に立つ。
小隊を組むとしたらエステバリスのエネルギー源としてゲキガンタイプを後方に配置するのも悪くないとアカツキは思い始めていた。

それはともかく・・・

バシュゥゥゥ!!!

アキト「よし!第2のフィールド突破!!!」
アカツキ「いいねぇ♪この調子で行こう!」
秋山「ああ・・・」

順調に行きつつある遺跡調査。
しかし、秋山だけは不安感を持っていた・・・



きさらぎ・月臣元一朗の部屋


月臣「九十九・・・」

この艦の主は膝を抱えながらうずくまっていた。
月臣元一朗・・・かんなづき級戦艦であるきさらぎの艦長である。
和平会談が行われた、彼の親友・・・正確にはヤマダジロウであるが・・・が殺された場所でもある。
この曰くのある艦は艦長の手を離れて航行していた。
なぜなら今艦長は使い物にならなかったからだ。

月臣は膝を抱えてうずくまっていた。
何も聞きたくない、何も考えたくない
自らの心を閉ざし、受け入れがたい現実から、なにより罪の意識から全てに目を瞑っていた。

「使えぬか・・・」
月臣を見下ろす男がいた。
東郷和正である。
彼は侮蔑の表情を浮かべて怯える月臣に見切りを付けた。

東郷「元の歴史通りには行かないか・・・
 まぁいい。シナリオは十分修正可能さ。
 さぁ、幕を開こう。
 真実の歴史を紐解くために。
 麻のごとく乱れたこの歴史を正すために!」

彼は振り返る。
まだ肉眼で見るには難しいが、その視線の先には確かに火星があった・・・



火星極冠遺跡内部


異変は突然起きた!

『赤き星に眠るは禍禍しいモノ
 刻印を刻まれしその異形の姿は大地を血で染めるであろう。
 なれど今一時は茶番なれど座興と行こう。
 あるいは人の手により葬られた方が幸せかもしれぬ。
 なればこそ慈悲をやろう・・・』

圧倒的な殺気を纏ってそれは現れた。

現れた瞬間、彼らは『それ』がとてつもなく危険な存在である事を悟った。

アカツキ「・・・あんな機動兵器、知ってる?」
秋山「あいにくと知り合いにはいないはず・・・だがな」
アキト「この感覚・・・覚えている!
 月で戦った奴だ!!!」

そう、アキトには覚えがあった。
忘れるはずがない、この殺気!

もしも、未来を知っている者がいたら、目を疑うであろう。
その血で染まったような機体よりも一回りほど大きいが、非常によく似ている。
ただ、その機体が白いというだけで。

いや、これから血で染まるのか?

秋山「なるほど・・・北辰か・・・」
北辰「久しぶりだな、源八郎・・・
 地球に尾を振る裏切り者め」
秋山「裏切ったつもりはない。
 俺の忠誠は草壁中将にはない。木連そのものにある。
 ただそれだけだ」
北辰「言うわ!
 ならばせめて慈悲をやろう!」

さっきまでの暢気な遺跡発掘は一転、緊迫した状況に陥るのであった・・・



Yナデシコ・ブリッジ


その頃、遺跡内部の異変は上空で待っていたナデシコ達にも伝わっていた。
が、しかし・・・

アキト『こちら、テンカワ!今、敵襲を受けた!援軍を・・・』
ユリカ「ゴメン、それ出来そうにない・・・」
アキト『何で!』
ユリカ「こっちにも敵が現れたの。
 しかも両方・・・」
アキト『え!?』

ユリカは臍を噛みながら目の前の光景を眺めていた。
まだ破壊されていなかったチューリップが活性化しだし、中から戦艦が現れたのだ。
しかもご丁寧にナデシコ達を挟み撃ちするように前後から。
もっと困ったことに船種が別々であった。

メグミ「前方の艦影は3隻、内一隻はかんなづきタイプです!」
ラピス「何かボソン反応が見られた。直後遺跡内部にボース粒子を確認。
 ボソン砲と思われる。
 状況から敵はアキト達に機動兵器を転送した模様」
ルリ「後方の艦影も3隻、リアトリス級戦艦のようですが、連合軍の識別がかかりません。」
ラピス「両方から機動兵器が出撃している。どうする?」
プロス「挟み撃ち・・・ですか」
ゴート「ある意味予測はしていたが、こうも早くとは・・・」
ジュン「エステバリス隊出撃!カキツバタとかんなづきとみなづきにも打電・・・」
ユリカ「ちょっと待って!」
ジュン「え?」

ユリカはジュンの指示を少し待たせた。

ジュン「ユリカ、どうして・・・」
ユリカ「カキツバタとYナデシコはリアトリス級の艦隊を相手にします。
 アララギさん達は木連艦の方をお願いします」

ジュンはユリカの指示にクエスチョンマークを飛ばした。
みんなの視線が集まるのでユリカはわかりやすく説明した。

ユリカ「忘れたの?今ここで自軍と反対側の相手と戦闘しちゃったら・・・」
ジュン「あ!」
ルリ「戦闘の既成事実・・・作っちゃう事になりますね」

そう、仮にここでナデシコが木連の戦艦と戦えば非公式だろうと地球連合と木連が和平会談決裂後に再び開戦したと受け取られかねない。
こちらの意図に関係なく、主戦派の世論操作の道具にされかねない。
多分、そのつもりで敵は攻撃を仕掛けているのだろう。

ならば、地球連合側はナデシコ達が、木連側はかんなづき達が応戦しなければいけない。

とはいえ、あまりにもミスマッチである。

メグミ「木連艦隊から・・・人型機動兵器です。
 識別・・・ありませんが、映像に出します!」
ジュン「ゲキガンタイプじゃない!」
プロス「これはこれは・・・」
ゴート「まさか、木連側にエステバリスクラスの機動兵器を作れる技術があるとは思わなかった」
ルリ「リアトリス級からも機動兵器・・・こちらも識別はありませんが、データライブラリを出します」
ユリカ「あれはサセボで私達を襲ってきた・・・」

そう、それぞれから現れた機動兵器
片方は北辰がアキトらの前に現れたのと同じ機体『不知火』であり
もう一方はナデシコに集結するアキト達を襲ってきた『ステルン・ベルギア』である。

アララギ『まさか、完成しているとはな・・・』
三郎太『あんなモノいつの間に!』
ルリ「アレにどのぐらいの力があるかわかりませんが、ハッキリ言ってゲキガンタイプには苦手な相手ですね」
アララギ『まったくだ』

アララギはルリの言葉に苦笑しながら同意した。
少なくともエステバリスクラスの機動力はありそうだ。
それに対してデンジンやダイマジンの様に動きの遅い機体では対応が難しい

対するステルン・ベルギアの方はというと・・・

メグミ「全機空戦フレームで出撃して下さい」
ウリバタケ『空戦はいいけど、火力が足りないんじゃないのか?』
ラピス「この前、あの機体からハッキングしたデータによれば、ドッグファイトはあっちが上。けど、空中戦であいつに敵うフレームが見当たらない」
リョーコ『装備は何で出るんだ?』
ユリカ「フィールドランサーでお願いします」
リョーコ『はぁ?』
ヒカル『そんなのでノコノコ近寄ったら蜂の巣にされちゃうよ』
イズミ『ノコギリもってノコノコ・・・なんちって』
ユリカ「でもラピスちゃんから貰ったデータによればクリムゾン製のディストーションフィールドが搭載されているらしくてエステ並なんですって。
 至近距離から攻撃しないと」
プロス「バリア衛星を受注したクリムゾンですから得意分野・・・というわけですか」

もちろん無理はわかっている。
ステルン・ベルギアの得意技は高機動を行かしたガンポッドによるヒッドアンドウェイである。被弾覚悟で近づいてもその前にガンポッドの掃射で力が尽きかねない。
一番良いのは強力なグラビティーブラスト辺りで問答無用に攻撃してしまうことなのだが・・・

ユリカ「ということだから、そっちに援軍を割けそうにないの。
 何とか頑張って」
アキト『・・・頑張ってみる』

こちらも防戦に手一杯な以上、アキト達にはそのまま頑張って貰うしかなかった・・・



火星極冠遺跡内部


秋山「一度戻って出直そう!コイツ相手にこのまま戦うのは無謀だ!」
アカツキ「お宝を目の前にして逃げだせってか?
 そりゃ出来ない相談でしょう!!!」
秋山「だが・・・」
アカツキ「遺跡を奪われちゃったらどうするの!
 奴らの思惑通りだよ!」
秋山「だが、コイツは手強い!」
アカツキ「なんの!」

アカツキは不知火に挑みかかる。
しかし・・・

北辰「甘いわ」

不知火は手にした錫杖を振りかざすと近づいてくるアカツキカスタムを一蹴した。

アカツキ「うわぁぁぁぁ!」
秋山「ち!」
北辰「次は貴様か、秋山。
 だがデンジンで我の相手が務まるか?」
秋山「舐めるな!」

不知火は秋山のデンジンに向かって錫杖を振りかざす。
デンジンはその巨体に似合わず二激、三檄とその攻撃をかわしていったが、端から見ればその攻防はあまりにも秋山に不利であった。

グワシィィィィ!!!!

「ぐわぁ!」
不知火の蹴りがデンジンの胸ぐらに決まり、秋山は思わず声をあげる。
すかさずとどめを刺そうとデンジンに肉薄する不知火。
その手にする錫杖が目掛ける先はデンジンのコックピットのある頭部であった!

北辰「終わりだ、秋山」
秋山「く!」
アキト「させるか!!!」

間に割って入ったのはアキトのアキセカンドだ。

キィィィン!!!

不知火の錫杖をアキトはフィールドアックスで受け止める。

「ほう?なかなか太刀筋は良い。
 型が我が同門に似ているが・・・」

北辰は試すように錫杖を振りかぶる。
アキトはその技の早さに翻弄されながらも何とか対応した。

「怖くない!怖くない!怖くない!怖くない!
 怖くない!!!!」

ガキィィィン!!!

初めて不知火の錫杖を跳ね返すアキセカンド
北辰はその力に驚くような表情をするが、それも一瞬で元に戻った。

「悪くはない。将来良い使い手になるやもしれん。
 が、技が素直だ!」

北辰はアキトの欠点を述べるとそれを実践した。

錫杖を振りかぶる!
対するアキトはそれを受けようとするが、アキトの視線が錫杖に注視したであろうタイミングを見計らってそのモーションのまま蹴りを繰り出そうとしたのだ!

基本に忠実、それは戦い方に幅がないということだ。
それ故に予測しやすい。
対する北辰の技は変化に富み、そしてなんでもありだった。

「!!!」
アキトは一瞬反応が遅れた。
視界に入った時点ではもうフィールドアックスで蹴りを払うには遅すぎる。
しかし、アキトの脳裏には一瞬彼女と訓練したときの言葉が蘇った。

『持っている武器にこだわるな。
 武器にはリーチと繰り出す早さがある。
 だから一番合うと思った武器を躊躇わずに使いなさい』

アキトは咄嗟にハードナックルを繰り出した!

ガチィィィン!!!

相手の蹴りに合わせてそれを拳で叩き落とすなど至難な技であり、セオリーにはない戦い方である。が、それは成功したようだ。

北辰「ほう、蹴りを拳で弾くか。
 なかなか良い判断だ。
 少しは楽しめそうだな♪」
アキト「なにが!」

北辰は嬉しそうに笑う。獲物を追いつめるハンターの目だ。
如何に恐怖を与えて殺そうか、それだけを考えていた。

アキトは強がってはいるが、心底怖かった。
その領域に立って初めてわかる。
相手の実力がわかるようになったが故に、今の自分と敵との力の差がどれほどあるかその差に愕然としていた・・・



遠くのユーチャリス


Pink Fairy「破壊された脳細胞のマッピングは?」
Blue Fairy「マッピング終了」
Pink Fairy「んじゃもう一人の方にかかって」
Blue Fairy「でもマッピングしただけじゃ・・・」
Pink Fairy「ナノマシーンに壊死した細胞の代用をさせる。
 大丈夫、壊死する前に可能な限りデジタライズさせている。
 指示さえ出せばそこに向かって記憶してある通りにシナプシスの結合を擬態してくれる。脳の方はそれで延命できる。」
Blue Fairy「わかりました」
Pink Fairy「問題は体の方・・・なるべく生体は残したいけど・・・
 メス!」
Actress「はい」
Pink Fairy「汗」
Actress「はい」

という具合にユーチャリスでは手術(?)がまだ続いていた。

けれど、Secretaryは手持ち無沙汰からか、常々疑問に思っていたことをSnow Whiteに聞いてみた。

Secretary「でもさぁ、始まりの人はなんでこの時代にやってきたの?」
Snow White「それは・・・遺跡が動き出してから夢幻城が起きるまでの数年間で一番便利だったからじゃないんですか?」
Secretary「私もそう思ったんだけど、歴史を変えるつもりなら何で『今』なの?」
Snow White「今って?」
Secretary「だから、始まりの人ってのにこの時代の人は抵抗できないんでしょ?
 だったら別にナデシコ発進の時でもかまわないわけよねぇ?
 大侵攻開始!!!ってやつ」
Snow White「あ・・・なるほど、そういう観点で考えると・・・」
Secretary「なぜ長い時間をかけて元の歴史と同じ様にしようとしたの?」
Snow White「そう言われてみれば・・・」

確かに、始まりの人はなぜここまで悠長に歴史に付き合っていたのだろう?
変えようと思えばどこでも変えられたはずなのに・・・

Blue Fairy「ここが特異点だからかもしれませんね」
Snow White&Secretary「特異点!?」
Blue Fairy「ええ、特異点です」

手術の手伝いをしながら何となく二人の会話を聞いていたBlue Fairyはポツリと呟いた。

Blue Fairy「彼にとって、変えるべき歴史のターニングポイントがここであった。
 ここで変えなければならない理由があった。
 ・・・って事じゃないんですか?」
Secretary「でも今じゃなければ変わらない・・・」
Snow White「って一体何なのかなぁ?」
Blue Fairy「それがわかれば苦労しません」

言ってみたBlue Fairyが一番苦笑いしていた。



きさらぎ・月臣元一朗の部屋


「それはここが全ての始まりだからだよ。
 真の歴史・・・その意味を考えて見たまえ。
 ボソンジャンプは多かれ少なかれ歴史に介入する行為だ。
 ならば、ボソンジャンプで少なくとも歴史は変わる。
 だが・・・ボソンジャンプする前の世界とは一体どんなモノなのだろうねぇ・・・」

彼は眼前の戦闘を前にしてこう呟く。

「心配しなくても良い。
 答えは間もなく目の前に示される。
 いや、私が示そう・・・
 もうすぐ始まりの時が訪れる。
 私もその場所へ向かおう・・・
 もつれた歴史をほどく場所に・・・
 真の歴史を取り戻す為に・・・」

その男、東郷和正は振り返らない。
静かに部屋を出て行った。




そして・・・



「俺は・・・一体どうしたいんだ・・・」

この部屋の主もフラフラと立ち上がってどこかに向かった・・・



真実を探求する者たちの会話


時間を少し遡る。それはあの会話の続きである。

「大事なのは変わるかどうかじゃなくて、変えるための行動じゃないの?」
「でも変わらないのよ」
「変わらないとわかったら全てを放棄するの?」
「そうじゃないけど・・・」
「変わらないと思っていても些細なことで変わったりする。
 変わると思っていたことでも何もしなければ変わらないかもしれない。
 あなたには見えなくても誰かの心だけは変わっているかもしれない。
 大事なことはみんなが変えようと思わなければいけないんじゃないのかな?」
「・・・」
「これってあなたがこの前言っていた事よ?」
「私が?」
「フフフ♪
 でも大丈夫。あなたは何度でも立ち上がれる。
 今は大切な人が死んだからへこんでいるだけ。
 けれどまた立ち上がれる。あなたは強いから。
 そうやって何度も立ち上がってきたから。
 たとえ落ち込んでいても、目の前で大切な人達が戦っていたら何も考えずに助けに行っちゃう・・・そんな人だから。
 だから私達は好きになったの」
「私は・・・」
「あなたはどこにでも行ける。そしてしたいことをすればいい。
 私達は応援しているからね。あなた」

そして彼女の手には死体の代わりにCCが残された・・・



Yナデシコ・格納庫


ドォォォン!

整備班員「班長〜〜大丈夫っすかね〜〜」
ウリバタケ「任せるしかないだろう・・・」

ナデシコは何度目かの大揺れに襲われた。
それはナデシコ自身にも砲火が届いていることを意味していた。

戦況はきわめて厳しい。
本気で全滅させるわけには行かない。
悪意を持った敵とはいえ、元々は友軍であり、自分達は脱走兵に近い。
そんな中、問答無用で相手を殲滅したら、和平の話し合いどころの騒ぎではなくなる。

とはいえ、手加減して勝てるほど甘い敵ではない。
機動力が上のステルン・ベルギアを相手にリョーコらの空戦フレームは三機で良くやっていると思うが多勢に無勢である。
対するアララギらはバッタ達を使っているとはいえ、何機もの不知火達に囲まれて攻撃をかわすだけで手一杯のようだ。

ほとんど防戦一方の中、戦線は徐々にじり貧になっていった。
そして敵の砲撃による船体の揺れは次第に激しくなっていった。

整備班員「班長〜〜」
ウリバタケ「うろたえるんじゃない!
 お前ら栄光ある整備班私設アマガワ・アキファン倶楽部の会員か!」
整備班員「でも〜そのアキさんだっていないじゃないですか〜〜
 こんな時にあの人がいれば・・・」
ウリバタケ「いない人間に縋ったって仕方ないだろう!」
整備班員「そういう班長だって、いてくれたらって思ってるでしょ!」
ウリバタケ「そ、そりゃそうだけど・・・」
整備班員「俺達、見捨てられたんっすかね・・・」
ウリバタケ「アキちゃんが俺達を見捨てるわけないじゃないか!」
整備班員「でも、げんにいないし・・・」
ウリバタケ「馬鹿野郎!アキちゃんは自らを助ける者を助けるんだよ!
 俺達はまだ限界まで頑張って・・・」

ドォォォン!!!
本日最大の揺れがナデシコを襲った!!!

整備班員「班長〜俺達死ぬ〜〜」
ウリバタケ「うろたえるな!信じていれば・・・」

助けは来る・・・そう言うとしたウリバタケであるが、その喉元まで出かかった台詞を何故か引っ込めた。

背後に気配がした。
そしてキラメキを背中に感じた。
ウリバタケは予感がして後ろを振り返った。

ドォォォン!!!

またまたナデシコを大きな揺れが襲った。
けれどウリバタケらの顔に先ほどまでの恐怖はなかった。
衝撃でうるさい船内だけど、彼らは確かにその声を聞いた。

『ただいま』と・・・

「あ、あんた・・・帰ってきてくれたのか?」

ウリバタケは人影に話しかけた。

「ゆ、夢じゃないないよな〜〜」

するとその人影は何かを聞いた。

「もちろん、いつでも動かせるように整備しておいたぜ!
 ラピラピもピカピカに磨いてたんだ。
 発進準備は万全だ!」

その人影は『ありがとう』と呟いた。

するとウリバタケは思いっきり大きな声で班員に指示を出した。

「全員、エステの発進準備だ!
 タイムは1分フラット!
 最高記録をマークするぞ!!!」
「お!!!」
班員全員の希望に満ちた返事が返ってきた。
そして大急ぎでブリッジに連絡を入れた。

「ブリッジ!ハッチを開けてくれ!
 エステが一機出撃するぞ!!!」

誰のエステなどという野暮なことは言わなかった。
今のナデシコで出せるエステバリスなど言わなくてもわかるはずだから・・・
それは誰もが待ちこがれていた者のエステバリスであるはずだからだ。



Yナデシコ・ブリッジ


ブリッジの雰囲気は一瞬で明るくなった。

ジュン「本当か!?」
メグミ「間違いありません♪」
ラピス「やった♪」
ルリ「発進許可を求めています」
ユリカ「もちろんOKです♪♪♪」
メグミ「直ちに発進して下さい♪」

ブリッジはそれだけで湧いた。
もう、彼らの顔に絶望の表情はなかった。
あの人が戻ってきてくれた・・・それだけで彼らは勇気づけられた。

何かを変えるということはそれほど難しいことではないのかもしれない・・・



極冠遺跡上空


そこでは既にじり貧の戦いが繰り広げられていた。

ヒカル「ひぇぇぇぇ!何でこんなに数が多いのよ〜〜」
リョーコ「弱音吐いてないで根性入れて持ちこたえろ!」
イズミ「けどこの数を三機で抑えるのは無理なんじゃない?」

構えるフィールドランサーのバッテリも消耗が激しい。
充電したいところではあるが、その時間すら惜しい。

ババババババ!!!!

ステルン・ベルギアの性能は悪くなかった。
機動性はより空戦を重視したベルギアの方が得意だった。
その分、接近戦は望むべくもないが、機動力を生かしてヒットアンドウェイをされて近づくに近づけない。
近づきさえすればフィールドランサーで一撃なのだが・・・
数に任せて包囲戦をされるため、一機に近づこうとすると他の機体が背後を攻撃してくるのである。

「くそ!」
リョーコは毒づく。
何機落としたが数えていないが、それにしてもまだ数は減らない。
それ以上にパイロットの自分たちが疲弊している。
どうにかしなれば・・・

と、その時!

バシュゥゥゥゥ!!!!

「なにぃ!?」

リョーコの目の前でいきなりベルギアの一機が何かに撃ち抜かれた!

戦場は何事かと動揺した。
しかしそれは動揺が収まらない内に立て続けに砲撃を放った!

バシュゥゥゥゥ!!!!
バシュゥゥゥゥ!!!!
バシュゥゥゥゥ!!!!

ベルギアが展開しているフィールドを空き破って弾丸は機体を貫通していった。
それはレールカノンによる砲撃だった。
しかもかなりの精密射撃である。高速機動中の戦闘機に寸分の狂いもなく、しかもコックピットを避けての砲撃など神業である。

そしてこんな事を出来る人物をリョーコは一人しか知らなかった。

「もしかして!」

そう言い終える前にリョーコのエステにウインドウ通信が送られてきた。
そこに映った顔はリョーコが待ちこがれていた人物だった。

その人物はたった一言だけを言った。

『適当に間引いたから後は何とか出来るでしょ?』
「ああ、大丈夫だ!」

それを聞くとその人物はウインクをして通信を切った。
リョーコのエステにもその人物の乗っているエステの識別は映し出されていた。
その識別は売れっ子のタレントみたいに大急ぎで次の目的地に向かっていた。
それでようやく現実だと実感が湧いた。

改めて辺りを見たらあっという間にステルン・ベルギアの部隊は半分に減らされていた。
それでもリョーコ達より倍以上の機体数ではある。

だが・・・

リョーコ「勝てない数か?」
イズミ「ちょっと多いけど、大分楽になった」
リョーコ「まだ戦えるか?」
ヒカル「ちょっぴり元気が出た♪」
リョーコ「よし、これだけ間引いて貰ったんだ。これで勝てないって言ったらあの人にしごき直されるぞ!」
ヒカル「ひぇぇぇ〜それパス〜」
イズミ「敵より恐い鬼のしごき・・・ガクガクブルブル!」
リョーコ「なら、野郎ども、行くぜ!!!」
ヒカル「野郎じゃないもん、女の子だもん」
イズミ「リョーコは野郎だけど」
リョーコ「こういうときぐらい素直にオーって言え!!!」

生き返ったかのような三人のエステはめざましい働きをし出した。



火星極冠遺跡内部


ガンガンガン!

繰り出される錫杖を受け止めるので精一杯なアキト。

「恐いか?恐かろう!
 今にも逃げ出したいと思っているのが手に取るようにわかるぞ!
 何という甘美!まるで甘露のようだ!」

北辰は明らかに遊んでいる。
アキトが絶望に打ち拉がれるまで。

アカツキ「テンカワ君!」
アキト「来るんじゃねぇ!」
アカツキ「しかし・・・」
アキト「エステ壊してる奴が人の心配するんじゃねぇ!」

助けに入ろうとしたアカツキであるが、すげなくアキトに追い払われた。
アカツキカスタムは既に左腕を失っており、右足も既に調子がおかしい。

秋山「少年、私も・・・」
アキト「あんたも一緒です!下がっていて下さい!」

秋山も状況はあまり変わっていない。
いや、無駄に大きいだけデンジンの方がダメージは大きい。
しかしこの前の三郎太と違い、さすがに秋山は急所だけは避けていた。
そして案外急所さえやられなければこのデンジンはしぶとかったりする。

けれど、アキトの足手まといになりはすれ、援護というほど上手く戦えるような状態とも思えない。
結局アキトは逃げ出したくても逃げ出せなかったのだ。

北辰「気丈だな。だがまだ絶望していないその態度が傲慢だと知れ!!!」
アキト「何を!!!」

不知火のケリがアキセカンドを襲う!!!
アキトはかわせず、吹き飛ばされた。
だが、それでもなお追い縋ってとどめを刺そうとする!!!

北辰「終わりだ!」
アキト「くそ!!!」

避けられそうにない・・・
アキトは半分諦めた。けれど心のどこかで信じていた。

きっとあの人が・・・
不知火が眼前に迫っていてもまだそんな風に思っていた。
予感がするのだ。
そう、こんな風に・・・

バシュゥゥゥゥ!!!!

天から一条の閃光が不知火に向けて降り注いだ!!!

「なに!?」

白いモノが高速で舞い降りてきた。
白い紡錘円状のモノ・・・

いや、そうじゃない・・・

それはその身を包んでいた翼であった。
畳まれていた翼はゆっくりと開かれる。

バサァ・・・

翼を開くと同時にそれはスピードを落とし、そしてアキト達の目の前で止まった。
それはアキト達を庇うように北辰の前に立ちふさがる・・・

「やっぱり・・・Princess of Darknessだ・・・」
そう、
そのエステバリスはまさに黒水晶の乙女・・・
闇を身に纏いし姫、
白い翼を抱く、漆黒の堕天使・・・

その機体を使える者など一人しかいなかった!

「アキさん!!!」
「ただいま〜♪」

アキトのコクピットには彼女からのウインドウ通信が送られた。
ウインドウには懐かしい人の姿があった。
変わらぬ笑顔・・・
アマガワ・アキその人であった。

アキト「アキさん・・・俺・・・俺・・・」
アキ「何泣きそうな顔してるのよ。だらしないなぁ」
アキト「エヘヘ・・・」

張りつめていたものが解けたのか、今まで彼女の代わりにと肩に力が入っていたのが抜けたのか、アキトはうれし涙をぐしぐしと袖で拭いた。

だが、喜んだのはアキト達だけではない。

北辰「ほう、我が生涯の伴侶よ、我らはやはり赤い糸で結ばれているのだな♪」
アキ「つか、あんたいい加減うざいよ・・・」
北辰「照れるでない」
アキ「いや、照れてない!・・・って言っても聞いてないか・・・(溜息)」
北辰「この前は決着が付けられずに不満であったろう。
 今度こそ夫婦水入らずで・・・」
アキ「最後の水入らずってところを別にしても同感ねぇ。
 そろそろ決着を付けましょうか。
 いい加減、あんたの相手をするのもうざいし」
北辰「出来るのか?
 この前とは違う。我と不知火の力に勝てると思うか?」
アキ「勝ってみせるわよ!!!」
北辰「いいぞ、伴侶よ!
 最高の余興だ!!!」

白い機動兵器と黒い機動兵器は最後の決着を付けるべく、戦い始めた。

だが・・・



The End of Future


イネスの姿をした者は彼に話しかけた。

「ねぇ、あなたは夢幻城のエンジェルを知っている?」
「直接見た事はない。あいつの記憶の中にあったからどんな形かは知っているが・・・」
「アレがなぜ作られたか知ってる?」
「ん?夢幻城の守護の為だろう?」
「違うわよ。元々エンジェルは戦う為に生み出されたの・・・」
「戦うって・・・何と?」
「もちろん、天使が戦うものと言ったら一つじゃない」
「そりゃ、つまり・・・」
「エンジェルは辛うじてそれを滅した。
 けれど火星は血で染まり、呪いの星となった・・・
 遙か太古の物語よ・・・」

けれどイネス(仮)は感じていた。
それが思い出話に留めておけない事を・・・



火星極冠遺跡内部


キン!キン!キン!キン!
錫杖とフィールドランサーがぶつかり合う!

アキト「す、すごい・・・」
アカツキ「・・・こりゃ今度からセクハラするのも命がけだねぇ(汗)」
秋山「なるほど、これは一度手合わせをしてみたいな・・・」

アキトにはどんな技の応酬が繰り広げられているか、目で追うだけで精一杯だった。
それほどまでに今のアキは猫かぶりをやめて手加減無用状態であった。
けれどそこまでしても北辰の不知火とは互角に見えた。

北辰「ハハハ!
 それでこそ我が生涯の伴侶だ!
 良いぞ!良いぞ!この背中が焦げ付くような焦燥感!!!
 死と隣り合わせのこの瞬間こそ生の実感を我に与えてくれる!
 心地よいぞ!!!」
アキ「こっちはあんたのマゾな趣味に付き合うつもりはないのよ!
 さっさと沈みなさい!!!」

変幻自在に繰り出されるフィールドランサーと錫杖の打ち合い!

北辰「出来るか?」
アキ「出来るわよ!」
北辰「ならば勝負!」
アキト「望むところ!」

両者がぶつかり合う、その瞬間!!!

『パンパカパン♪』

突然現れたウインドウ通信にはどこかで見慣れたのタイトルバックに暢気なクラッカーが鳴らされる画面が映し出された。

『3、2、1、わ〜〜い♪
 なぜなにナデシコ完結編♪』

その瞬間、真面目なほどシリアスに戦闘していた全員の顔が間抜けな表情になった。



Yナデシコ・ブリッジ


メグミ「発信源、特定されました。遺跡最下層から通信を送ってきています」
ユリカ「イネスさん、見あたらないと思ったら・・・」
ラピス「一足先に自分だけ遺跡に潜ってたみたい」
ルリ「まぁあの説明オバサンが遺跡の調査なんて美味しい話を見逃すはずはないと思ってましたが・・・」

イネスの送ってきた通信一発で全ての戦闘行為が止まってしまった事に苦笑していた(笑)



火星極冠遺跡内部


この事が起こる事を知っていたアキですらタイミングの悪さに頭を抱えた。

アキ「せっかく私の再登場のシーンだから決めてきたのに、説明おばさんに美味しいところを持っていかれてしまった・・・」
アキト「アキさん、気を落とさずに・・・」

そんな主人公の嘆きを余所に、なぜなにナデシコは粛々と進行していくのであった(笑)



なぜなにナデシコ完結編


その向こうにはベレー帽を被ったイネスがなぜかホワイトボードを背景にして立っていた。
この映像は一方的に送られてきているのだ。
画面の中でイネスは早速解説を始めた。

「さて、皆さんの大好きだったなぜなにナデシコも今回が最終回です。
 今回はボソンジャンプに対する大考察を行いたいと思います。
 ちょっと難しいお話がありますけど、しっかりついてきて下さいね」

『はーい』という返事が入るが、当然これは某子供番組でも使われている合いの手用の効果音である。

「かのジョン・ウイーラーとリチャード・ファインマンによれば一つの電波が発生する際、先進波と遅延波と呼ばれる二つの波が発生するとされているわ。
 遅延波は時間に順行する波動・・・テレビとかで使っている奴ね。
 そして先進波は時間に逆行する波動・・・つまり過去に行っちゃう奴ね。
 通常、先進波は遅延波にかき消されちゃうの。
でも、もし遅延波に干渉されない未知の粒子があったら、どうかしら?」

過去に行っちゃう・・・誰かが画面に向かってそう呟いた。
その間を開けてイネスは話し続ける。

「私はそれをレトロスペクトと名付けたわ。
 もし仮に我々の物質をこのレトロスペクトに変換できる方法があるとしたら・・・
 どう?」

あ・・・という声があちこちから上がる。

「そう、物質を一旦過去に送った後、それを現在に送り返す。
 移動にかかる時間だけ過去に戻せば時間はプラスマイナスゼロになる。
 たまに過去に行っちゃうってのは過去に戻しすぎた・・・と捉えるとわかりやすいかもしれない。
 そう考えると我々が現在考えているボソンジャンプという現象は瞬間移動と言うよりもどちらかといえば時間移動と考える方が正しい姿なのかもしれない。
 現在から過去、そして過去から現在・・・幾度も繰り返されるレトロスペクトによる時空転移・・・
 ここはその計算だけをただ黙々と行う一種の大演算装置・・・
 それが古代火星極冠遺跡の真実の姿・・・」

そう、それがどこかの誰かが遙かな太古にこの火星に残したもの・・・
人々はこんなモノの為に争っているのだ。
けれど、ある人達・・・例えば為政者達には大事なモノなのだろう
あるいは過去を憂いてあの日に帰りたいと考える者達には垂涎かもしれない。



火星極冠遺跡中層部


けれど・・・

『ここがなくなれば二度とボソンジャンプは出来なくなる・・・
 とまぁ、こんな考察をする事もそうなんだけど』

彼女はアキトのコックピットにウインドウで現れてこう告げる。

イネス『本当の目的はこれからよ。
 アキト君、早くこちらにいらっしゃい。
 一緒にお出迎えしましょう』
アキト「お出迎え?」
イネス『そうよ。私とあなたの二人で・・・』



火星極冠遺跡・演算装置前


イネスは思い出を語った。
誰に聞かせるとはなしに、誰かの事を語った。
それはこれからお出迎えする相手の事だ。

「ユートピアコロニー
 レインボー小学校1年5組出席番号12番
 好きな食べ物スパゲッティー
 好きなお話、シンデレラ、
 好きな人、お母さん、
 そしてミカンをくれたお兄ちゃん・・・」

イネスは思い出す。
その少女の事を・・・
それはまるで自分の記憶の糸を手繰る行為だった。
そして記憶が鮮明になるのと同時にキラメキは起こった。

遺跡のすぐそば、キラメキは人の形を成していった。

クスン・・・

「いいのよ、泣かなくて・・・」

クスン・・・

「心細かったのね。でももう大丈夫、大丈夫よ・・・」
イネスは彼女を励まそうとしたが、どうしても涙を禁じ得なかった。

そのキラメキはやがて元の形を取り戻していった。

「クスン・・・」
「お帰り、アイネス、いえアイちゃん・・・」

そこに現れたのは少女・・・
ミカンを持った少女
かつて火星でアキトのボソンジャンプに巻き込まれたアイちゃんであった。

ぞわり・・・
何かざわついた感覚にイネスは襲われた。
あらぬ闇の中からその声はした。

???「そう、ここだ。
 時の綻びはこの地点から始まった・・・」
イネス「え?」
???「重なる事のない同じ人間の時間・・・
 同時に同じ人間が存在する、この異常な状態・・・
 アイネスがイネス・フレサンジュとして生きる事が歴史にどれだけの影響を与えたのか・・・」
イネス「だ、誰なの!?」

イネスは闇から聞こえる声を探して見回す。
どこからその声が聞こえるのかわからない。
けれど確かに聞こえてくる。
いつか忘れるほど昔の記憶にある、暗く、深い、冷たい瞳をした何かと同じ感覚・・・

「けれど君は考えた事はないか?
 アイネスがアイネスのまま暮らした歴史があるのではないか?という事を。
 そしてその歴史は・・・真の歴史だったのではないかという事を・・・」

闇からそれは姿を現す。
それは・・・東郷和正という男の姿をしていた。

東郷「だから全てを真の歴史に戻そう。
 なに、簡単だ、この子がこのまま過去に戻らなければいい」
アイ「きゃぁぁぁぁ!!!」
イネス「アイちゃん!」

東郷はいつの間にかアイの背後に現れ、彼女を掴まえた!!!

その瞬間、遺跡の遙か地下の奥底で何かが蠢いた気がした・・・



ポストスプリクト


ということで黒プリ二十六話をお届けしました。

今回はこれまでの設定を開陳する回になりましたので、少々密度が高く、難しかったかもしれません。もう少しゆっくりとやっても良かったかも(苦笑)

とはいえ、本当の大ラスですねぇ。
少々ナデシコのテイストから外れるかもしれませんが、雰囲気的には遊撃戦艦ナデシコっぽくなるかもしれません。
多分オールスターキャストでチャンチャンバラバラをすると思います(笑)

年内に完結するといいなぁ〜〜

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・松吉 様
・tohoo 様
・龍崎海 様
・kakikaki 様
・三平 様