アバン


生きるために命があるのか、
命のために生きているのか、
人は時としてその意味を問い直す。

怠惰な人生を送る人は自分の生きている意味を知りたくて前者の言葉を振りかざして死に急ぐ

大切な人を失った人は死に意味はないと、生きていれば何かが出来るはずだからと後者の言葉を振りかざす

そして時に人は迷う。
命は惜しいと思った人も死ぬ瞬間、平凡な自分の人生に恨み
死を賭しても成し遂げたいと思った人も死ぬ瞬間、生きて大切な人との暮らしを切望する

なにが大切なのか・・・それは誰が評価すればいいのだろうか?

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



ある少女の夢


シクシク・・・

私は泣く。何故悲しいのか・・・
大好きなお兄ちゃんもいない
大好きなママもいない
暗く、誰もいない寂しい場所だったからだ・・・

『・・・ほう、地球人か』

人の声が聞こえる。
それは耳に入ってくるものではなく頭の中に直接鳴り響くものだった。

『珍しい。こんな場所に迷い子とは。
 犯罪人でもないのに何故こんな所に・・・』

怖い!誰?誰なの?
私は周りを見回すが誰もいない。
どこかにぼんやりとした明かりがあるだけだ。

『済まぬ。私は君達のように体がないのだ、幼き魂よ。
 して、名前はなんと申す?』

名前?

『そうだ。名前があるだろう。
 名前がないと会話しづらいんだ。
 チンクシャちゃんと呼んでも良いのだけど・・・』

それはイヤ
私の名前はアイ・・・アイネスです

『アイちゃんか・・・良い名前だ。
 私の名前は%&$#&”?@という』

・・・全然わからない

『済まないね。君達の言語概念にはないから発音出来ないか(苦笑)』

ここは天国?

『天国でも地獄でもないよ。けれど・・・
 君はここに望んできたわけではあるまい?』

お兄ちゃんがキラキラ光ってどこかに行っちゃいそうだったの
だから追いかけたらここに・・・

『・・・巻き込まれたのか。しかもかなり不安定なジャンプにねぇ・・・』

ジャンプ?

『アイちゃん、残念だけど私には君を元の世界に戻してあげることは出来ない。
 代わりに元に戻すことが出来る者たちがいる世界に送ってあげよう。
 大丈夫、私の元仲間達だ。必ず力になってくれるはずだ』

えっとそれってどういうこと?

『心配は入らない。
 遙か何百万年の時を遡る行為であったとしても、君には瞬く間にすぎない。
 君が人類最初の異星人と接触した人間となるだろうけど、それも目覚めの夢としてすぐに忘れるだろう。
 けれど、託された思いは果たして欲しい。
 ささやかな我らの望みだ。
 絶望の中であっても変わっていけるという希望を抱いて・・・』

え?なに?
あれ?私の体がキラキラ光る
おじちゃん・・・

『私はおじちゃんではない。私は・・・』

私の意識はそこで途絶えた。
ただ途絶える直前、何かが私を見つめていた気がした。
暗く、深い、冷たい瞳をした何かに・・・



Yナデシコ・医療室


「あれ?いつの間に寝ちゃったのかしら・・・」

イネスはうたた寝していたようだった。
ナデシコは動揺から徐々に回復しようとしている。
れいげつでの九十九暗殺の映像を見せられれば無理もない話であるが、それも数時間も経てば沈静化の方向に向かっていた。

今は一人の死を悲しんでいる暇はない。
あの後、木連側がどういう状況になったのかは知る由もない。
九十九の死を賭した演説が功を奏して和平派が盛り返したのか、それとも草壁らの一派がそのまま押し切るのかはわかっていない。

けれど素直に和平会談の再開とは行かないだろう。
となれば先に火星の争奪戦を行ってそれから和平となるだろう。
なればこそ、誰が火星に旗を立てるか・・・
それが重要になってくる。

アカツキはもう少ししたら火星に行くだろう。
ナデシコがまともな思考が出来るようになってから。

それまでの間、イネスは暇であった。
だから少しの間休憩をと思っていたのだが・・・どうやら眠ってしまったようだった。

「またあの夢か・・・」
イネスは自分が何者か知っている。
8歳以前の記憶がなかったのだが、それもつい最近思い出した。
例の月面攻略の際である。
それからである。彼女はよくあの頃の夢を見るようになった。
記憶を失う直前の夢
彼女がまだ『イネス・フレサンジュ』ではなかった頃の夢

けれど・・・

どうしてあの夢ばかり見るのだろう?
そして何故あの夢を怖いと思うのだろう?
優しくしてもらったのに・・・
ただ寂しくて泣いていただけなのに・・・

どうして闇に引きずられるような恐怖を感じたのだろう・・・

イネスにはそれが心の襞に引っかかっていた。



木連市民艦れいげつ


「それは君が私を見たことがあるからだよ
 フフフ・・・」
東郷は窓の外に広がる宇宙という虚空を眺めてほくそ笑む。

北辰「誰に話しているのだ?」
東郷「北辰か・・・侵入者は?」
北辰「伴侶なら逃げられた。ついでに白鳥の死体も見つかっていない」
東郷「生きているか?」
北辰「血痕はあった。あれだけの出血であれば生きている方が不思議だ」
東郷「反乱分子は?」
北辰「秋山とアララギは旗下の戦艦を率いて離脱。
 穏健派の支援があると思われるが、直に動きを封じられるだろう」
東郷「ならいい。シナリオは現状のまま進行可能だな」

北辰にとって東郷はまだなにを考えているかわからない存在であった。

北辰「東郷、もう一度確認する」
東郷「なんだ?」
北辰「汝は本当に新たなる秩序を実現させるつもりがあるのか?」
東郷「なにを今更。全てはシナリオ通りだ」
北辰「そうか?」

北辰は問う。
草壁春樹はあの演説の後、放心状態だ。
九十九に負けたのがよほどショックだったらしい。
確かに草壁一派は木連の実権を握りつつある。
けれど・・・今後草壁のカリスマで人々を引っ張っていくのは難しいのでは?
どうしても北辰には微妙に当初の目的から外れているように思えて仕方がなかったのだ。

東郷「それよりも今は火星だ。
 秋山と月臣が使えない以上、火星に迷い込んだ撫子とネルガルを潰す役目・・・貴様に任せる以外になくなった。
 不知火で向かってくれ」
北辰「・・・わかった」

北辰は背を向けて退出した。
が、これすらも茶番ではないのだろうか?
別に自分が向かわなくても火星は撫子らの墓場になるだろう。
何せ『怪物』が存在するのだから・・・

東郷は呟く。

「全ては在りし日に帰るために
 歴史を真実のものへ解きほぐすために・・・
 待ってるぞ・・・アイネス」

東郷は宇宙の虚空を眺めていた。
その遙か彼方には赤き星、火星が存在していた・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十六話 どうして火星は赤いのか?<前編>



Yナデシコ・ミナトの部屋の前


彼女は泣いていた。

「ミナトさん・・・」
「お願い・・・放っておいて・・・」
「でも・・・」
「お願い・・・」

彼女は泣いていた。
無理もない。愛する人の死ぬ瞬間を見せられたのだから。
ユキナは兄の恋人を必死に慰めようとした。
ユキナ自身も悲しいのだが人間とは不思議なもので、自分よりも痛々しい人がそばにいると悲しみを我慢してそちらを助けようとしてしまうらしい。

けれどさすがのユキナの声も彼女には届かない。

「白鳥さんは・・・私よりも死ぬことを選んだのよ・・・」
「え?」
「行けば死ぬとわかっていたのに・・・
 行かないでって言ったのに・・・
 あの人は行ってしまった・・・
 あの人は・・・」

九十九が死んだことも悲しかったが、それ以上に悲しかったのは自分を選んでもらえなかったことだ。
まるでフラれてしまったみたい。
比べることではないが
祖国の命運と一人の女性
秤に掛けて負けたのだ。

秤に掛けることではないことはわかっている。
もしもあっさりと祖国を見捨てて自分の幸せのみを追い求めるような男なら彼女も九十九を愛したりはしなかっただろう。

けれど・・・

「あの人は私を置いて逝ってしまったのよ・・・」
「ミナトさん・・・」

彼女が泣くのをユキナはどうすることもできず眺めるしかなかった・・・



Yナデシコ・ミナトの部屋の前


「くそ!!!」

アキトは部屋の中ですすり泣く彼女の声を聞いて思わず壁を力任せに殴った。
何も出来なかった自分
ガイだけではなく、白鳥九十九まで見殺しにしてしまった。

力を手に入れた。
大切な人達を守れると思った。
けれど何も守れなかった!
何のための力だ!!!

何でも出来ると思っていた自分が浅はかだった。
あの人だってあれだけの力があるのに何も出来ないと無力感に打ちひしがれていたのに・・・

何度も何度も壁に拳を叩き付けた。
けれど・・・

「アキト・・・」
「・・・何だよ」

アキトの元に現れたのはユリカであった・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ブリッジでは暗い空気が辺りを押し包んでいた。

メグミ「やっぱりミナトさん、無理みたいですね」
ラピス「心配入らない。操舵ぐらいなら私がカバーする」
メグミ「いや、そっちを心配しているんじゃないんだけど・・・」

何を?と首を傾げるラピスに少し困るメグミ。
しかし、死の概念を詳しく知らないラピスはその表情すら理解できてなかった。
それに彼女の関心は別の所にあった。

ルリ「火星・・・
 赤い星
 戦神マルスの象徴
 金星と並び宇宙人が存在すると信じられた星
 そしてテラフォーミングして移住できた第二の地球・・・」
ラピス「どうしたの?データベースなんか漁って・・・」
ルリ「どうして火星の争奪戦になったのか、その理由を知りたかったもので・・・」
ラピス「そういえば・・・」
ルリ「全ての因縁は火星に結びついています。
 なのに私達は火星についてほとんど知らないんです。
 ただ火星の極冠に古代火星人の遺跡が見つかったというぐらいしか・・・」

おそらくナデシコの中で今後のことに関して考えているのはルリぐらいだったかもしれない。それ程までに今のナデシコには九十九暗殺事件の衝撃が後遺症のように残っていたのだ。

と、そこにジュンがブリッジインして来た。

ジュン「あれ、ユリカは?」
メグミ「アキトさんの所に・・・」
ジュン「また!?あんなに荒れている奴の所に行ったって説得出来やしないんだから・・・」

ジュンは溜息をつく。
アキトは九十九が暗殺された場面を見た後、かなり荒れた。
部屋に籠もって苛立ち紛れに物に当たり散らしていたらしい。
しばらくは誰も近づけず、ユリカも彼の部屋の前に行っては何度も引き返した。
メグミやルリでさえ、冷静になるまで彼を放っておこうとしているのに・・・
健気だけど、突き放すことも大事だろうとジュンはユリカの行動に困ったりもする。

艦長にはサボタージュしている一人のことを心配するよりもナデシコのこれからを考えて欲しかった。

けれど、メグミはジュンの表情を察してか、ユリカの弁護をした。

メグミ「でも、ユリカさんがアキトさんの所にいったのはアカツキさんからのお願いだからですよ」
ジュン「アカツキさん・・・からの?」
メグミ「さっき連絡があって、ユリカさんとアキトさんとイネスさんの三人でカキツバタに来て欲しいって」
ジュン「・・・何のために!?」
メグミ「さぁ・・・」

ブリッジのクルー達は首を傾げた。
アカツキがあの三人に用なんて・・・
一体なんだろう?

皆目見当が付かなかった。



The End of Future


そこは時間の果て
全ての時が止まった場所
夢が叶う事がない代わりに、叶わぬ夢を見続けていられる場所
そしてかつて「始まりの人」が幽閉されていた場所・・・

「そうか・・・あの少女か・・・」
「どうした?・・・っていうか、お前いつまでその格好なんだ?」
「ああ、数ちゃん」
「その名で呼ぶな!」

イネス(仮)は近寄ってきたボソンのキラメキに話しかけた。
本人は物憂げを装っているらしいが、彼女自身も元々はボソンの存在なのでポーズなのだろうと思われるのだが・・・

「あの子とは?」
「昔ここに来た事のある少女の事だ。
 この姿、どこかで見た事があると思ったけど・・・
 なるほど、そういう事か・・・」
「なんだ、一人で納得して・・・」

一人で思考の迷宮に迷い込んでいるイネス(仮)を彼は引き戻す

「悪い悪い。昔地球の少女がボソンジャンプでここに迷い込んで来たんだ」
「迷い込んで来たって・・・なぜ?」
「誰かのボソンジャンプに巻き込まれたらしい。」
「巻き込まれたって・・・それでこんなところに来るモノなのか?」
「まぁ、行き先をイメージしなければどこに飛ばされるかわからないからねぇ。
 巻き込んだ方はそれなりに思い浮かべた光景があるだろうから一緒には来なかったみたいだけどね」
「で、その子はどうしたんだ?送り返したのか?」
「そんな事出来ないよ」
「え?じゃその子は一体・・・」
「だから別のところに送った」
「別のところ?」
「ああ、何百万年前もの昔・・・古代火星文明が繁栄していた頃にだ」
「どうして?」
「だって、その子のいた正確な年代は知らないし、彼女を元の世界に帰らせる事の出来る文明があるとしたらそこしかあるまい?
 第一私はそこしか時代を知らないもの」
「古代火星文明?」
「そうよ。かつて火星に繁栄を築いていた文明だよ」

そう、
火星に文明都市を残し、
ボソンジャンプの演算装置を残し
木星にプラント・・・チューリップや相転移炉の生産工場を残し
ボソンジャンプの管制装置としての夢幻城を残した文明だ。

「そういえばあんた、そこの人だったみたいだしなぁ」
「けれど君達の文明の諺でいえば『盛者必衰の理をあらはす』・・・だな」
「でも、どうして滅んだんだ?ボソンジャンプやプラントのような技術があったのに・・・」
「技術があればこそだ。
 君はなぜ火星が赤いか知っているかい?」

イネス(仮)は突然の質問をする。
けれどそれはリンゴがなぜ赤いのか?と同じぐらいの当たり前の質問に思えた。

「え?あれって元々あの色じゃ・・・」
「元は青かったのよ」
「え?」
「そう、かつては地球と同じ、青い星だった。
 けれど・・・」
「けど何で赤い星に?」
「赤い星、死の星、血の星
 戦の星・・・
 その名の通り、戦ってたくさんの血を流して・・・
 ようやく戦いが終わったときは赤い星になっていた。
 倒す事が勝利というのなら勝利なのだろう。
 けれど故郷を守れなかったなら、それは敗北なのだろうな・・・
 だから我々は故郷を封印して別の星系へと旅だったのだ。」
「・・・そこまでして何と戦ったんだ?」

星一つが青い星から赤い星になるなんて、どんな戦い方をすればそうなるのだ?
彼は単純に2国が核兵器でも使って最終戦争でも行ったかと思った。
けれどイネス(仮)の口から出た言葉はもっと非常識なモノだった。

「違うわよ。
 そんなステレオタイプな戦争ならまだ救いがあるわよ。
 互いに疲れたら戦争を止めれば良いんだから。
 けれど・・・
 アイツにそんなモノは通用しないわ」
「アイツって?」
「口にするのもおぞましいわ・・・」

忌々しげにその言葉を口にするイネス(仮)
『アイツ』の名前を聞いた彼は驚いた。
それはあまりにも非常識な存在であったからだ・・・



真実を探求する者たちの会話


考察:歴史の可変性に関して

「ねぇ、歴史って本当に変わるの?」
「さぁ、それはどうかな」
「本当に『時の記述』通りに歴史は進むの?」
「それはわからないわ」
「けれどどんなに変えようと頑張っても歴史は元の通りになぞっている」
「・・・あなたの言う歴史って誰の歴史?」
「え?それは・・・」

考察:時間の概念

「時間は人によって流れ方も違う。
 水が上から下に流れるように当たり前に流される者もいれば、
 流れに逆らって逆行しようとする者もいる。
 仮に他人から見れば愚かな一生に見えても、本人にとってみれば幸せな一生かもしれない。
 ただ後の世に我々の姿を歴史として編纂した者がいるだけの話かもしれない。
 人にとっての歴史は無数にあるのかもしれない・・・」
「歴史が無数にあるですって!?
 それは真実が無数にあると言っているのと同じよ!
 そんな馬鹿な話があるわけないわ!」

考察:観測する系

「けれどあなたはどう説明するの?
 あなたは自身がこの世界に存在しない歴史を知っている。
 そして自身が存在している歴史も知っている。
 けれど違いがわかるとしたら、それはあなたにしかわからない。
 両者を比べる事はあなたにしか出来ないこと。
 比べているのはあなたで、違いがないと思っているのもあなた自身。
 他の誰にもそれはわからない。
 例えば私は今の歴史が私達が知っている歴史とかなり変わってきていると思っている。やはりそこにはあなたというファクターが存在していると思うから。
 けれどあなたは変わっているとは思わない。
 もしかしたら変われないと思っているのはあなた自身かもしれない。
 元の歴史に囚われているのはあなた自身かもしれない」
「けど・・・そんな・・・」

考察:因果・・・それは囚われた心、無意識の行動原理

「それが因果。
 この時代に生きる人は全て『始まりの人』の影響を受ける。
 それは小説の登場人物が著者の筆に干渉出来ないのと同じかもしれない。
 けれど、筆者ですら全てを自分の意のままには出来ない。
 リンゴが赤いのを黄色くしようとしたらそれなりの理由が必要よ。
 いえ、彼自身のリンゴは赤いという思い込みによりそれ以外の色に出来ない。
 『始まりの人』が歴史の全てを見たというなら、彼自身もまた歴史の因果に囚われているのかもしれない。
 彼が歴史を自分の知っている物になぞらせようとすることは、実は彼が自分の知っている歴史から外れたくないだけなのかもしれない。
 もしかしたら彼自身も因果に囚われている存在かもしれないわ」

考察:最初の歴史・・・始まりの人が到達したかもしれない歴史の終焉

「だとしたら・・・最初の歴史って存在するの?」
「初めの歴史?」
「ええ。歴史は人の数だけあると言ったわよね?
 ならばどこかに最初の歴史があるはずよ。
 なぜなら奴は最初の歴史を知っている。
 知っているからこそ、元の歴史にしたいと考えている。
 ならばその歴史は私達の知っている歴史なの?
 違うからこそ、この時間軸をその歴史にしようと奴は考えているのよね?」
「そういえばそうだね・・・」
「ならば、その歴史はどんな姿だったの?
 私は生きていたの?
 君は生きていたの?
 私は誘拐され、殺されていたの?
 君は誘拐され、救い出されるまま物言わぬ装置にされたの?」
「それはどうだろう・・・」

考察:可能性のジャンクション・・・変わる歴史と変わらぬ歴史

「けど私達は知っているわ。その果てに何があるのか。
 だから私達はそれを繰り返したくないと思っている。
 私達も・・・そしてこの時間軸のもう一人の私達もそれを知っているから繰り返したくないと足掻く・・・
 そうしたくないと思う、その積み重ねが可能性。
 可能性は人々を因果で縛る。
 だから変わらないとも言える。
 けれど変わりたいと思えば・・・変わることも出来ると思うわ」
「けど『始まりの人』が知っている歴史・・・元の通りにしたいと思う歴史はそうじゃないんじゃないの?
 なぜなら『変えたい』と思ったのは私達で奴じゃない。」
「それはどうだろう・・・
 彼がどんな歴史に帰りたいと思ったのかは知らないけど・・・
 それはあまり関係ないんじゃないの?」
「え?」
「いつまで九十九さんの死体のそばで膝を抱えているの?
 あなた・・・」
「私は・・・」
「やはりあなたも因果に縛られているのね・・・
 けれど立って振り返ってみてごらん。
 歩き出してみれば見える景色も変わっているかもしれないから・・・」



カキツバタ・格納庫


さて、ひなぎくでカキツバタまでやってきたユリカ達を誰も出迎えてはくれなかった。
それ程までに格納庫は慌ただしかったのだ。
誰一人ユリカ達をかまわず、ただ黙々とあることの準備をしていた。

ユリカ「なんか・・・私達お呼びじゃないって感じがするんだけど・・・」
アキト「なんかそれっぽい・・・」
イネス「まぁ忙しいんでしょ、実際」
リョーコ「おい!俺達は呼ばれてやってきたんだぞ!
 それが出迎えにも来ないとはどういうつもりだ!」
エリナ『私はあなたまで呼んだつもりはないわよ』

開くウインドウから現れたのはエリナであった。

リョーコ「そんな言い方するのかよ!
 アキトや艦長がひなぎくを操縦できないって言うから来てやったのに!」
エリナ『ごめんなさい。でもみんな準備で手一杯なの。
 早速始めたいから後はドクターに聞いて』
リョーコ「ちょっと待て!イネスさんに聞けってなんだよ!」

戸惑う彼らにかまわずカキツバタではある実験が行われようとしていた。



カキツバタ・ブリッジ


エリナ「ディストーションフィールド出力最大
 CC散布」
オペレータ「了解!」
アカツキ「本当に大丈夫なんだろうねぇ」
エリナ「やることは月面フレームで試したことと同じですわ。
 それを戦艦規模でやるだけの話です」
アカツキ「だけっていってもねぇ」

言葉とは裏腹にあまり心配していないアカツキ
どちらかといえばエリナに対して事実の確認と、彼女の自信の程を確認しているかのようであった。

エリナ「今まで数多のジャンプが失敗に終わったのはジャンプフィールドが不安定だったからです。不安定なジャンプフィールドに巻き込まれれば確かに危険は大きい。
 けれど、今回は大丈夫です」
アカツキ「本当にぃ〜?」
エリナ「ええ。それに今回は3人いますから」
アカツキ「3人ねぇ〜〜」
エリナ「な、何よ、その顔は」

アカツキはニヤニヤとエリナの顔を眺める。

アカツキ「本当はある人たった一人にいて欲しかったんじゃないのかな?」
エリナ「な、何を言ってるのよ!
 バカじゃないの!私は別に・・・」
アカツキ「あれ?別に僕は誰だとは言ってないけど、
 エリナ君は誰か具体的な人物の顔が浮かんだようだね」
エリナ「ち、違うわよ!」

真っ赤になって否定するエリナを面白がるように笑うアカツキ
とはいえ、確実にボソンジャンプできる人物を使って実験したかったのは本音だ。
アマガワ・アキがいれば実験は確実に成功したろうが・・・

ともあれ、いないものは仕方がない。
テンカワ・アキトがいればまず問題がないだろう。
恥ずかしがるエリナにウインクしてサインを送った。

アカツキ「さぁ行こう。人類の輝かしい一歩を記す為に。
 そして因縁の地、火星へ!」
エリナ「はい!」

その言葉と共にカキツバタのディストーションフィールドに張り付いたCCが輝き始めた・・・



カキツバタ・格納庫


イネス「さぁ実験を始めるわよ」
アキト「実験って何ッスか?」
イネス「論より証拠。さぁ付いてきて」
アキト「付いてきてって・・・」

イネスがそういう前に艦内の電気は消え始めて闇が周りを包み始めた。
するとイネスの体にはナノマシーンのパターンが光り始めた。

アキト「イネスさん!?」
ユリカ「アキト〜〜」
アキト「え!?」
ユリカ「私もなんか光っているよ〜」
リョーコ「お、おい・・・何だって・・・」

彼らが戸惑っている間にいつの間にかイネスの姿が消えた。
そして自らの体にもナノマシーンのパターンを光らせたユリカも姿を消した。
どこからか聞こえる声にアキトも導かれる。

『アキト君もいらっしゃい』
「いらっしゃいって・・・」

アキトは自分の体にもナノマシーンのパターンが浮かぶのを見た。
そしてその時・・・

リョーコ「お、おい!お前ら・・・」
リョーコが呼び止める間もなく彼らは音もなくその場から姿を消した・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ナデシコのブリッジではパニックに陥っていた。

メグミ「カキツバタ応答して下さい!カキツバタ!」
ラピス「カキツバタの周囲にボース粒子の増大を確認」
ジュン「こ、この現象は一体・・・」
ルリ「ボソンジャンプですね」

ルリがカキツバタで起こっている状況の推論を述べる。

ジュン「ボソンジャンプ!?」
ルリ「ええ、月面攻略の際に月面フレームでアキトさんがやったアレですよ。
 あの時の現象に酷似しています。」
ジュン「じゃ、ワープするっていうのか!?」
ルリ「でも、アキトさんだから無事だった・・・
 しかし、艦ごと飛んだらそれこそクロッカスの二の舞になるかもしれません」

ルリの言葉だけでみんなは何がどうなるかを承知していた。
それは火星で見たクロッカスの有様・・・
ボソンジャンプに失敗した場合のペナルティ
あれならまだ戦争で戦って死んだ方がマシと思えるほど異形の形で亡くなっていた・・・

メグミ「アカツキさん!エリナさん!
 ゴラァ!アカツキ返事をせんか!!!!」

メグミがドスの効いた声で呼びかけたが全く返事がなかった。
向こうはやる気満々であった。



カキツバタ・展望室


アキトはいつの間にかボソンジャンプをしていた。
ジャンプアウトした場所はカキツバタの展望台だ。
そこにはユリカも、そしてイネスもいた。

イネス「やっぱりね。人間、本能的に見晴らしの良いところを望むものなのね」
ユリカ「ああ、それで火星から月にジャンプしたとき、私達4人は展望室にいたんですね♪」
イネス「そういうことね」
ユリカ「そうよ!なのにみんな私がさぼったとか、なんとか言って・・・」
アキト「ちょっと、それよりも!」

変に納得する二人の会話を遮るアキト。

アキト「これは一体何なんですか!?」
イネス「実験よ。誰も成し得なかった生体ボソンジャンプ。
 ここから火星までのね」
アキト「って正気なんですか!?」
イネス「少なくともアカツキ君やエリナ嬢はね」
アキト「失敗したらどうするんですか!」
イネス「心配しなくても私達は多分平気よ」
アキト「じゃなくって!!!」
イネス「知りたくないの?全ての理(ことわり)を」
アキト「理?」
イネス「そうよ。あなたがなぜ同じ時を2度生きたか。
 なぜ彼女が同じ時を三度生きたのか
 時は須く一様ではないのか。
 全ては始まりの土地に行かなければわからない」
アキト「始まりの土地?」
イネス「思い出して、生まれ故郷、赤い星、ユートピアコロニーを・・・」
アキト「ユートピアコロニー・・・」

アキトは故郷を思い出す。
それはイメージの本流となって意識をどこかに連れ去る。
幼きユリカの顔
父と母の死に顔
赤い大地・・・
そして見た事もない都市の姿・・・



カキツバタ・ブリッジ


ブリッジにもその状態は伝わっていた。

エリナ「ジャンプフィールド安定。
 ボース粒子の増大!」
アカツキ「よし!来た来た♪」
エリナ「もう引き返せませんが、良いですか?」
アカツキ「ここまで来たら行くっきゃないでしょう♪
 火星までレッツゴー!」
エリナ「レッツゴーって・・・」

彼らに失敗するという頭はなかった。
それがチューリップを介在しない人類初めての戦艦によるボソンジャンプであった・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ナデシコからもその様子は見えていた。

メグミ「カキツバタ応答して下さい!カキツバタ!!!」
ラピス「カキツバタ消滅、半径10km圏内に艦影ありません」
ルリ「フェルミオン・ボソン変換を確認。ボソンジャンプをしたものと思われます」
ジュン「んな無茶な・・・」
ルリ「けれど・・・どこにジャンプしちゃったんでしょうね」

何も聞かされていないルリ達は首を傾げる。
しかし彼らの行き先を言い当てたのはプロスペクターであった。

プロス「多分火星でしょう」
ルリ「火星?」
プロス「ええ、始まりの星・・・
 今回の戦争の全ての元凶ですので」
ルリ「そこに何があるというのですか?」
プロス「遺跡ですよ。古代火星人の英知・・・」
ルリ「人々はそれに群がる・・・ですか」
プロス「ともかく、我々も火星に向かいましょう。
 今から飛ばせばカキツバタに数時間も遅れず着くはずです。」

とりあえずナデシコは火星に進路を取った。
けれどそれこそは誰かの書いたシナリオ通りかもしれない。

全ての役者が火星に集まる、そのことが・・・



火星・ユートピアコロニー


同時刻、ユートピアコロニーのそばにあったチューリップに異変が起きた。
それは第一次火星会戦にてフクベ提督が体当たりして結果ユートピアコロニーに落としてしまったものだった。

死んだように眠っていたチューリップは突然活性化を始め、花でも開くようにその口を広げた。
すると中から現れたのはカキツバタであった・・・



カキツバタ・格納庫


『全システムオールグリーン
 全クルーに告ぐ
 我らの一歩は小さい一歩であるが、人類にとっては偉大な一歩だ。』
「ひゃっほ!!!」
『だが、気を緩めるな。各所異常がないか確認の上、第2種戦闘警戒にて待機。』

格納庫の照明は復活した。
緊張した面もちの整備員達が安堵し、早速各所の点検と後始末に走り回っていた。

そんな中、何が起こったのかわからないのはリョーコだけであった。
周りがまるでお祭り騒ぎかのように騒がしい中を彼女だけが一人ポツンと取り残されていた。

「結局あたいはお呼びじゃなかったってことか・・・」
この時ばかりは自分がアキト達と異なりただの凡人だということを思い知らされるのであった・・・



カキツバタ・アカツキの部屋


「いくら何でも無茶すぎます!!!」
ブリッジに着いたユリカが開口一番、アカツキやエリナに怒りをぶつけた。

ユリカ「幸いなんともなかったから良いようなものの、もしクロッカスみたいになったらどうするつもりだったんですか!!!」
エリナ「この艦に乗っているクルーは最初からそれぐらいの危険は覚悟しているわ」
ユリカ「そういう問題じゃなくて!」

平然とブリッジクルーを見回すエリナ。
喜びはしても、死ぬ思いをしたという顔のクルーはいなかった。
その理由が、命を買えるほどの報酬ゆえか、それとも英知の探求の為ゆえか、はたまた会社への忠誠心からか、それはよくわからないが、だからといって容認される危険さではない。
ましてや艦長たるものが下して良い決断とも思えない。
ただのデモンストレーションの意味しかユリカには考えられなかった。

けれどアカツキは嘯いて言う。

アカツキ「僕たちも馬鹿じゃない。テンカワ君に艦長、それにドクターがいて失敗するとも思えなかったし」
ユリカ「けど・・・」
アカツキ「それよりも僕たちは古代火星文明に対して無知に近い。
 少しでも謎を解明しておくべきだよ。
 でなければ、僕たちが何のために戦争しているかわからなくなる」
ユリカ「謎の解明は大事でしょうけど・・・」
アカツキ「ということでドクター。
 何かわかりました?」

アカツキはそばにいるイネスに話題をふる。
もちろんユリカの追究をかわす意味もあるが、本当にボソンジャンプという現象がどういう理屈か知っておきたかったからだ。

しばらく考えたイネスはこう切り出した。

イネス「何となく仮説らしきものはね」
アカツキ「ほう、聞かせていただきたいですねぇ」
イネス「もう少し考えさせて。
 私も信じられないでいるの。
 だって、もし瞬間移動が存在するとすればそれは光速度不変の法則にも相対性理論にも反することになってしまう。
 科学者ならそんなこと考えたくないじゃない?」
アカツキ「でも、現象は実証済みだけど?」
イネス「まぁ科学者は今の自分の物差しが崩れるのを怖がるものよ。
 だってせっかく組み上げた積み木のお城を壊すようなものですからね」

イネスは肩をすくめる。
優秀な科学者ほど現象を理論の積み上げで説明しようとする。
新しい現象を観測したらそれらを従来の理屈で説明しようとする。
そして説明できなければそれは「幽霊」と同じ存在と考えてしまう。
優秀な科学者ほどそういった先例主義に囚われやすいのだと彼女は苦笑いをした。

アカツキ「けれど、仮説というぐらいだから何らかの理屈はつけているんだろ?」
イネス「ん・・・いわゆるタイムマシーンって奴かな?」
アカツキ「タイムマシーン!?
 そんなバカな・・・」
イネス「そう言うと思った」

アカツキはあまりの馬鹿馬鹿しさに笑い飛ばそうとしたが、イネスの顔は真面目であった・・・

アカツキ「マジ・・・?」
イネス「かもね」
ぎょっとするアカツキにイネスはニッコリ笑った・・・



カキツバタ・ブリッジ


アキトはブリッジの窓からユートピアコロニーを眺めていた。
以前、火星住人の生き残りらが隠れていた場所をである。

アキト「やっぱり誰もいそうにないか・・・」
リョーコ「気にしているのか?」
アキト「そうじゃないけど・・・こんな風に火星に来るとは思わなかったから」
エリナ「見に行きたいの?」
アキト「さすがにそんな余裕もないでしょうし」

気落ちするアキトに声をかけるリョーコとエリナ。
けれどアキトの表情は暗い。

アキト「でも俺達、これから何をすれば良いんでしょうね」
リョーコ「そりゃ、草壁って奴をぶちのめしに・・・」
エリナ「馬鹿ねぇ、それじゃ木連と地球は徹底抗戦よ。
 それが出来ないからみんな悩んでるんじゃない!」
リョーコ「なんだと!そういうあんたにはビジョンがあるのかよ!」
エリナ「火星の遺跡を調査するわ」
リョーコ「遺跡!?」
エリナ「ええ、全ての英知の源。
 この戦争の元凶にて、人々が群がるもの。
 古代火星人の残したブラックボックス。
 それを手にした者がその力を持って混乱を収束させるの」
リョーコ「馬鹿はあんただろう・・・」
エリナ「何ですって!」
リョーコ「それはつまり、奴らと考えていること一緒って事だろ?
 奴らだってすごい兵器を手に入れて人類を支配したいって。」
エリナ「私達は別に悪用するつもりは・・・」
リョーコ「金儲けはするんだろ?」
エリナ「それは否定しないけど・・・」
リョーコ「第一、アカツキ曰く、みんなが互いを『あいつらに持たせたら絶対悪用するに決まっている』って思ってるからこそ、戦争になるんだろ?」
エリナ「う・・・それは・・・」

すごい堂々巡りの議論だった。
けれど、アキトの表情は別のことで憂いていた。

アキト「歴史は俺達に何をやらせたいんだろう・・・」
エリナ「え?何が・・・」
アキト「いや、何でも」

アキトは自分の心にあるそんな違和感を説明できなくて言葉を濁した。
と、そこにユリカとアカツキが入ってくる。

ユリカ「アキト、お待たせ♪」
アカツキ「いやぁ諸君♪」
リョーコ「なんだよ、イヤににこやかな・・・」

元々ナデシコは脱走艦、ネルガルはそれを追いかける立場である。
二人並んでにこやかに入ってくる間柄ではない。
が、二人はにこやかに一緒に入ってきた。

「休戦協定!?んでもって共同戦線!?
 一体何を考えてるんだよ!」

アキトはユリカの口から出た言葉に驚いて思わず問いつめた。

アカツキ「とりあえず目的は一緒なんだからそれまでは共闘で良いじゃない」
ユリカ「ですよねぇ♪」
アキト「良くない!」
ユリカ「アキト怖い〜」
アキト「こいつはユキナちゃんを連合軍に売ろうとしたんだぞ!」
ユリカ「そうなんだけど・・・」
アカツキ「君も頭固いねぇ」
アキト「何だと!!!」

やれやれとお手上げのポーズをするアカツキに本気で怒るアキト。

アカツキ「目先の憎しみだけに囚われて敵味方にこだわっていたら、それこそ木連の主戦派と何も変わらないよ」
アキト「く!・・・っていうか、お前のは無節操の言い訳だろう!!!」
アカツキ「でも、結局火星の遺跡を調べなきゃどうにもならないんだろ?」
アキト「そりゃ・・・そうだけど・・・」

でもアキトは釈然としないものを感じていた。
確かに旗の色を決めて、同じ旗じゃなければ敵だ!というのは今やろうとしている和平とは相容れないものだけど・・・昨日まで銃口を向けられていた相手とにこやかに握手できるほど人間は出来ていなかった。

なんと人の心はままならぬものだろうか・・・
そして相手を信じれば和平が成せるとなんて簡単に思っていたのだろうか・・・

アカツキ「まぁ、そろそろナデシコも遅れて到着するだろうから、どうするかは帰って相談してくれて良いよ」
ユリカ「はい」
アキト「う・・・」

その30分後、ナデシコが火星の大気圏内に侵入した報が彼らの元に伝えられた。



Yナデシコ・ブリッジ


結局戻ったユリカ達はナデシコで経緯を説明し、喧喧諤諤の論議を始めた。

ユリカ「というわけです。いかがですか?」
プロス「・・・他に方法もありませんしねぇ・・・」
メグミ「無節操すぎませんか?」
ウリバタケ「昨日の敵は今日の友。共に行かん星空の海・・・
 にしたってなぁ」
ジュン「そして昨日の友は今日の敵・・・皮肉ですよねぇ」
ルリ「そうはいっても孤立無援ですし」
ラピス「利用する手はある」
ゴート「ともかく、一発逆転を狙わない限り我々はお尋ね者の集団のままだがな」
リョーコ「俺はそれより艦長がどうしたいかって事を聞きたい」
ユリカ「え?あたし?」
リョーコ「そうだ。ただ懐柔されて帰ってきただけならあたいは反対だ」
イズミ「怪獣に懐柔された・・・なんちって」

イズミの笑えないギャグはともかく、リョーコの意見にみんな賛成だった。
けれどユリカはこう言う。

ユリカ「それじゃ逆に聞きますけど、私達の目的ってネルガルを打倒することですか?」
リョーコ「い、いや、それは・・・」
ユリカ「ネルガルを打倒すれば和平が訪れるなら戦いますけど、どうなんですか?」
ヒカル「まぁどちらかというと戦争を煽っている側には近いけど・・・」
メグミ「でも確かにネルガルを倒したら戦争が終わるかというとそうでもない気が・・・」
ユリカ「そう、地球の主戦派も木連の主戦派も火星の古代遺跡が欲しくて戦ってるんですよね?だからそれをどうにかしない限りこの戦争は終わらないと思うんですよ。
 少なくとも目前の軍事衝突は避けられないと思います」
プロス「だからとりあえずは信頼は出来ないけど話だけは通じるネルガル会長と手を組む・・・ですか」
ジュン「確かに正義は一つ、我々の側にしかない・・・って相手に話し合いは通じないからねぇ」
ユリカ「ええ」

それがユリカの柔軟性であり、戦局眼であった。

ルリ「それで、これからどうするんですか?」
ユリカ「まずは極冠遺跡の確保及び調査です。」
アカツキ『そろそろお話し合いはまとまった?』
ユリカ「ええ♪そのかわり、あくまでも私達らしく行かせていただきますから」
アカツキ『いいよ。そのかわり遺跡には僕たちが一番乗りだからね♪』
ユリカ「ええ♪」

その会話を聞いてクルーの全員はこう思った。

『本当に懐柔されていないのか?
 もしされていないなら天然か相当のタヌキだなぁ・・・』



Yナデシコ・アキトの部屋


やっぱりアキトはカキツバタから帰ってくるなり部屋に閉じこもり、さっきのご相談にも顔を出さなかった。
感情的にネルガルと協力するというのが気に入らなかったらしい。

彼にしてみればネルガルに両親を殺されていたり、ついこの間まではネルガルに追われていたので素直になれないのだろう。

と、そこに・・・

ルリ『アキトさん、そろそろ出撃準備お願いします』

コミュニケでウインドウ通信を送ってきたのはルリであった。
だがアキトの応対は素っ気なかった。

アキト「行かない」
ルリ『アキトさん・・・』
アキト「おかしいよ、ユリカの奴・・・」
ルリ『でもアキトさんにもわかっているんじゃないですか?
 そういう風に敵というだけで銃を向け合っていたら何も変わらないって』
アキト「・・・そうだけど」
ルリ『ならユリカさんを信じてみましょう。
 私達らしく言ったユリカさんの言葉を・・・』
アキト「・・・わかった」

ルリに諭されてアキトは再び立ち上がるのであった・・・



火星極冠


火星極冠上空には既に木連の無人艦隊が陣取っていた。
バッタ達が遺跡の発掘作業に当たっている。
しかし、異変が起きた。

ゴウ!!!!!

極冠上空の空間が崩れた!!!

ルリ「相転移砲命中」
メグミ「敵30%消滅」
ラピス「相転移エンジン出力低下、再チャージまで3分」
ユリカ「アカツキさん、お願いします」
アカツキ『あいよ!』

無人艦隊の一角が崩れたところにナデシコ3番艦カキツバタが突入したからだ。
最新鋭のレールカノンとグラビティーブラストの併用により、ナイフで布を切り裂くがごとく敵の陣形を崩していった。
敵艦隊は大慌てでカキツバタに対応しようとする。
そうしてカキツバタが無人戦艦を相手にしている間にナデシコのエネルギー充填が終わる。

ユリカ「もう一発、行きます!
 相転移砲撃て!!!」

カキツバタが駆け抜けて陣容が崩れた無人艦隊の中央に再び相転移砲が炸裂した。
これで極冠の勝敗は決したように見えた。

だが・・・

アカツキ「ユリカ君、お見事♪」
ユリカ「カキツバタが敵の注意を引きつけてくれたおかげで安心して相転移砲が撃てました♪」
アカツキ「んじゃ、そろそろ火星の遺跡へ探検としゃれ込みますか」
メグミ「ちょっと待って下さい・・・
 極冠左舷のチューリップが活性化!」
ルリ「ボソン粒子の増大を確認」
ユリカ「何ですって!?」

そう、近くのチューリップが突如開きだしたのだ。
チューリップの中から現れたのは・・・

メグミ「木連の有人戦艦2隻です!!!」
ルリ「識別照合・・・かんなづきとみなづきです」
ジュン「アレってボソン砲を使う奴か!?」

艦名だけは知っていたが、誰が乗っているかは知らなかったろう。
そう、秋山源八郎とアララギの乗艦である。

ゴート「早速敵のお出ましか・・・」
アカツキ『仕方がない、遺跡の調査は後回しで先にあいつらを叩こう』

一気に緊迫するナデシコのブリッジ。
しかし、当の艦長であるユリカの反応はというと・・・

ユリカ「その必要はないと思いますけど?」
ジュン「え?」
ユリカ「ほら」

ユリカの指さした先をよくよく見ると・・・

『電子の妖精愛好倶楽部』
とデカデカとペイントされたみなづきの船体・・・
ツインテールとピンクの似顔絵が描いてあったら誰の事かわかるだろう。
にもかかわらず敵対するとはどうしても思えなかった。

そして・・・

秋山『快男児に和議を申し入れる!』
ユリカ「私は快男児じゃありません!
 可愛い女の子です!!!」

開口一番、笑わせてくれる九十九の親友達であった(笑)

ってことで後編に続きます



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「いやぁ今回出番なしだねぇ(シミジミ)」

−いや、出てると思いますけど?

アキ「いや、それは公然の秘密というか・・・」

−しかしアキさん、何をやってるんですか?ひょっとして死体フェチ?

アキ「し、死体フェチって・・・いや、別にそういう訳じゃないけど・・・」

−いつまで経っても変わらないですねぇ、前回カッコつけて飛び出したかと思えばすぐに落ち込んで愚痴愚痴する〜

アキ「・・・カッコつけたって同じ人間なんだからそう簡単には性格は変わらないわよ。っていうか、私は一体いつ再登場するのよ。いつまでも死体のそばに居させるつもり?」

−そのうち復活しますよ。ピンチに颯爽と現れてアキト君をお姫様ダッコしながら救い出すという・・・

アキ「誰が誰をお姫様ダッコするんだ!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・tohoo 様
・松吉 様
・k-siki 様
・kakikaki 様