アバン


役者が揃う。
あの問題の場面に。

誰もが変わると信じていた。
和平に繋がるものと思っていた

しかし彼女は失敗に終わると思っていた。
だから阻止しようした。

そして彼は和平を成功させようと思っていた。
失敗に終わるかもしれないと知っていながらも、この道に続く者のための礎になろうと覚悟を決めた。

けれど運命はあざ笑う。
彼らの努力など意に介さない。
悲劇はヒタヒタと彼らのそばに迫っていた。

だけど・・・
神様にだってわからないことはある。
最後に笑うのが誰かなんて・・・
そんなこと神様にだって終わってみなければわからないのだから・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



疼く夢


あいつが太陽なら自分は月だ。
あいつは自らの力で光り輝ける
けれど俺は自らの力で光り輝けない・・・

何をするにもあいつの方が上だった。
武術も、勉学も
意地になって武術だけは勝ち越しているが、あいつはやがて上に行くだろう

何よりも・・・みんなあいつを慕う

俺はいつもあいつの顔を見て安心する

お前は俺の親友だ。

その言葉でホッとした。
そばにいても良いのだと思えた。
けれど、やがて付いていけなく日が来るかもしれない。
あいつは俺が乗り越えられない壁を易々と乗り越えて行ってしまう・・・

そんな不安に駆られながら日々を過ごしていた。

それは深く深く俺の心に何かを沈殿させていった・・・



ひなぎく・コックピット


ナデシコの連絡用シャトルひなぎくは木連の戦艦きさらぎに向かっていた。
もちろん和平会談を行うためである。
周りには護衛のエステがアキトのアキセカンドも含めて3機飛んでいたが、概ね和平の成功を信じた雰囲気に包まれていると思われていた。

しかし・・・

ユリカ「あの・・・なんか、すごく居づらいんですけど・・・」
そうユリカに言わしめるほど、雰囲気はギスギスしていた。

いや、ギスギスしているのはかなり一方的なものであるのだが(笑)

ゴート「(むっつり)」
九十九「(ニコニコ)」
ゴート「(殺気ギラギラ)」
九十九「(ニコニコ)」
ゴート「(ガンたれ)」
九十九「(ニコニコ)」

やたらゴートが九十九をライバル視しているのだが、当の九十九は意に介してないのか、そもそも眼中にないのか、はたまたこれから始まる和平会談が楽しみでたまらないのか、刺すような視線にも関わらず涼しい顔をしていたのだ。

業を煮やしたゴートが九十九に鎌をかける。

ゴート「・・・お前は本当に地球との和平を望んでいるのか?」
ユリカ「ゴートさん!」
九十九「愛する者と手に手を取りたい・・・そう思うことはいけないことか?」
ゴート「いけないとは言わないが・・・
 ならミナトと別れたら敵対するというのか!」
ユリカ「ゴートさん、そういう失礼な質問は・・・」
九十九「かまいませんよ、艦長」

思わず仲裁に入ろうとするユリカを制する九十九。

九十九「ではミスターに質問します。
 あなたは友好でなければ全て敵なのですか?」
ゴート「い、いや、そんなことはないが・・・」
九十九「では敵とは、悪とはなんなのでしょうね。
 自分と意見の異なる者を悪や敵と叫んでしまえば、この世から諍いはなくならない」
ゴート「では、敵とは、悪とはどうやって決めるのだ?」
九十九「それは・・・」
ゴート&ユリカ「それは?」
九十九「熱血です!」
ゴート&ユリカ「はぁ?」

シリアスに答えるのかと思えば、あまりにも素っ頓狂な答えに驚く二人。
しかしその後に続く言葉は今の彼らには意外な説得力を持った。

九十九「ゲキガンガーを愛する心を持ったあなた方なら、もうわかるはずです」
ユリカ「い、いや〜〜もうちょっと詳しく知りたいなぁ〜〜とか思うんですが・・・」
ゴート「・・・なるほど」
ユリカ「え!?わかるんですか!!!」
ゴート「そうか・・・熱血か・・・
 俺は思い違いをしていたようだ。
 済まない、大人げない言い方をしてしまった」
九十九「わかってくれればそれで良いですよ」
ゴート&九十九「あはははは♪」

男達は肩を組んで微笑みあった。
空気は一点、ギスギスしたものから暑苦しいものに変わった。

一人取り残されたユリカだが・・・



アキセカンド・コックピット


ユリカ『ということらしいんだけど、アキトわかる?』
アキト「そりゃ、つまりツーと言えばカーみたいに熱血と言えば伝わるものが・・・」
ユリカ『すごい、アキトわかるんだ!』
アキト「わかるわけないだろう、そんなの(苦笑)」
ユリカ『だよねぇ・・・通訳欲しい』
アキト「あははは・・・ハァ〜〜」

さて、ここで苦笑いで聞いたこの台詞に込められた意味を後々二人は意外な理由で聞くことになる・・・

リョーコ『そんなことより、そろそろやっこさんちに着くぜ!』
アキト「おっと、そうだった!
 こちらナデシコの交渉団です。着艦許可を・・・」

とまぁ彼らは和平会談の会場となる木連戦艦に到着した。
まだ彼らは楽観的でいられた。
その後の悲劇を知らなかったからだ・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十五話 白鳥九十九は二度死ぬ<中編>



疼く夢


本当は追いつくのに必死だった。
けれどアイツはぜんぜん本気じゃなかった。
何事も軽々とこなしていった。
俺が必死になって身につけたものもアイツはさも大変じゃなさそうに身につけた。

そして決まってこう言う。

「元一朗には敵わないなぁ〜♪」

アイツはまるで天空ケンだった。
俺は頑張ったけど、海燕ジョーの成れの果てにしかなれなかった。

アイツはやがて主人公になる
ゲキガンガーの主人公のように
俺は脇役だ。
主人公が認めてくれなければそばに居れない脇役だ。

主人公はどんなことをしようが物語の中心に居れる
でも・・・

脇役は存在意義がなくなれば物語からは消えるのみ
主人公の親友という立場でなければその他の存在と成り下がる・・・



俺はそれが怖かった・・・




和平会談10分前・きさらぎ廊下


彼女は追われていた。
意外に見つかるのが早かった。
彼女はマントのフードを被り、場所を移動していた。

今見つかるわけにはいかない。
けれど完全に逃げ出すわけにも行かなかった。
可能であれば和平会談が行われる広間に近いところに隠れたい。

場所はわかっている。
何年か前に行った事があり、場所の記憶も鮮明だ。

もちろん・・・
それは彼女としての体験であり、未来から来た自分の時間を元にした話だ。
「今」を生きる現代の自分にすればこれから訪れる場所である。

もっとも、あの時の自分は艦内を隅々案内された訳じゃないので、会談まで安全に隠れられる場所を知っているほど詳しくはない。

第一、和平会談が行われている広間なんて警備が手厚いはずだ。
そんなところに少しでも近づけて安全に隠れられるところなどあるわけがない。

けれど・・・

自分の目的の為に、それは重要な事だ。

遅くても早くてもダメなのだ。

『あの一瞬』を阻止出来るところまで近づかなければ・・・

「全く、手回しが良い・・・」
彼女は毒づきながら吐き捨てた。

けれど努力する彼女には悪いが、世の中には二種類のタイプがあるのかもしれない。

一つは何の障害もなく、何の事件もなく、日々の愚痴を呟きながらもさして日記に書く事もないような平凡な毎日を送って静かに人生を終わらせるタイプ

そしてもう一つはまるで不幸や事件の類を引きつける磁石でも持っているかのようにあらゆる災厄に遭遇し、それこそダイハードのジョン・マクレインの様に波瀾万丈の人生を送るタイプ

彼女は・・・いや、「元」彼の時代も含めれば後者の見本のような人生を送ってきた。

幼なじみというには厄介なおませさんには惚れられる。
クーデター騒ぎで両親は死に、天涯孤独の身となる。
火星で一人で生きてみればコロニーに戦艦は落っこちてくる。
アイちゃんと知り合いになったかと思えば、バッタに襲われて地球にジャンプする。
右も左もわからない地球でやっと雇ってもらった雪谷食堂は首にされ、
両親の死んだわけを知っていそうな幼なじみと再会したと思えば、いつの間にかエステで囮にされていた。
コックになったかと思えばパイロット見習いにさせられ、
火星の人達を助ける事が出来ると思えば、それも徒労に終わり、
不思議な力があると言われて実験台にされかけたあげく、月にジャンプした
月では世話になった女将さんを殺され、
ようやく和平が成ったかと思えば、オモイカネ暴走事件で保険は利かないから給料はなしだと言われ貧乏生活まっしぐら
オマケにユリカやルリちゃんは貧乏暮らしの六畳一間に押しかけてきて
ようやく結婚したと思ったら火星の後継者にさらわれ、
ユリカを助け出せたと思ったらナノマシーンのスタンピードに悩まされ
本当に火星の後継者達を倒したと思ったらナノマシーン手術の失敗で女の身にさせられ・・・・

「本当に良い事ないわね・・・
 なんか泣けてくるわ〜〜」
少し涙ぐむ彼女(苦笑)

「それというのも全て・・・」
完全に八つ当たりなのだが、どう考えても原因はここしか考えられない。

・・・いや、本当の原因はそこにはないのかもしれないが・・・

彼女の心の中ではこの事件は大きなファクターになっていたのかもしれない。

『木連とナデシコの和平会談』

この事件で白鳥九十九が死ななければ、地球と木連の融和はあと2年は早まっていたであろう。何より火星の後継者などという輩も現れなかったかもしれない。

だからこそ・・・
ここで白鳥九十九を殺させてはならない。

「見つけたぞ・・・」
闇から声がする。
彼女は思わず足を止める。
もちろん聞き覚えのある声だ。
忘れたくても忘れられるわけがない。

彼女が振り返ると見知った顔がそこにあった。
三度笠にマント姿の男・・・

北辰「ようやく見つけたぞ、我が生涯の伴侶♪」
アキ「あんたは本当に相変わらずね(苦笑)」

爬虫類のようなマジにシリアスな悪役の顔をしてさらりとギャグとも取れる発言を繰り出す男・・・狂犬北辰である。
しかし本人は至って真面目である。

北辰「逢えて嬉しいぞ♪」
アキ「私は全然会いたく・・・
 まぁ良いか。私もあんたに用事があった所だし」
北辰「・・・なるほど。以心伝心という奴だな♪」
アキ「はぁ?」

何故か喜ぶ北辰に首を傾げるアキ。
しかし北辰の思考は大真面目だが・・・どこかおかしかった(苦笑)

北辰「婚約指輪を持ってきた」
アキ「ぶ!!!!」
北辰「心配するな。給料の三ヶ月分だ」
アキ「あ、あんたって人は・・・」

本人は至って真面目である。
真面目に残忍な顔をしてエンゲージリングを懐から取り出したのだ。
対するアキは怒り心頭気味だ。

北辰「・・・気に入らぬか?
 ふむ・・・わかった。一足飛びしすぎたな」
アキ「あははは・・・そうねぇ・・・(乾いた笑い)」
北辰「まずは結納からだな」
アキ「違うわ!!!」
北辰「仲人は草壁閣下にお願いするつもりだ。」
アキ「あ、あのねぇ・・・」
北辰「なんだ?そちらで仲人を立てたいのか?
 しかし草壁閣下ほどの相手となると、ネルガルの会長か・・・
 我は嫌だぞ?」
アキ「誰がそんなこと言っている!誰が!!!」
北辰「心配するな。草壁閣下はこれまで多くの仲人を務めている。
 俺の部下もしていただいた」
アキ「本当に人の話を聞かない奴ねぇ・・・」
北辰「では、結納の目録だが・・・」
アキ「だから止めろって言ってるでしょ!!!」

アキが止めるのも聞かずに北辰は指を鳴らした。
すると彼の後ろから音もなく現れた六人衆達。
手には結納の品を持っていた(笑)
しかし出てきた隊員もどこか真面目で・・・おかしかった。

六人衆その1「うわぁ、隊長の彼女、激マブですねぇ」
六人衆その2「貴様も古いなぁ。それを言うならハクいだろう」
六人衆その3「バカ。ああいうのをクールビューティーって言うんだよ」
六人衆その4「俺、一緒に記念写真取りたい♪
 プリクラにしてぇ」
六人衆その5「そうだよなぁ。ウチの部隊、女っ気ないし・・・」
六人衆その6「本当に可愛い・・・隊長にはもったいない・・・」
北辰「何か言ったか?」
六人衆一同「何でもありません!!!」

本人達は至って真面目なのだろうが・・・強面で話す会話ではない。
ゴート母とかと同じぐらいの破壊力があった。
いや、顔に偏見を持ってはいけないのだろうが(苦笑)

六人衆その1「隊長、記念写真を撮って良いですか?」
六人衆その4「プリクラ撮らして下さい、プリクラ」
北辰「バカを言うな!」
六人衆一同「済みません!!!
 不謹慎でした!!!」
北辰「そうじゃない。
 まずは・・・我と伴侶とのツーショットを撮ってからだ」
六人衆一同「おおぉ〜〜!!!」

さらに強面ながらも大真面目に話し合う7人

しかし・・・あれだけテンション上がりまくりだったのを一気に台無しにされてこの人が怒らないわけはなかった。

アキ「この・・・腐れ外道が!」
北辰「誉めるな。照れるではないか♪」
アキ「誉めてないわよ!!!」
北辰「人の道を外れた我に外道は最高の賛辞よ」
アキ「あ・・・あんた、そういえばそういう奴だったわよねぇ・・・」
北辰「そうだ。故に目的のためなら手段は選ばん。
 我の伴侶であるなら、刀傷の一つぐらいであれば逆に箔となるであろう」

そういうと北辰はマントの中からすらりと太刀を取り出した。
そして切っ先をぺろりと舐めるとニヤリと笑ってアキの方を見つめた。

力ずくでも我が物にする。
指一本ぐらいなら別にかまいはしない。
彼には愛する者を傷一つ付けずに手に入れるという感覚はあまりないようだ。
逆に傷を付けるほど苦労した証として喜ぶかもしれない。

もちろん、この人はそんなことに怖じ気ずくはずもなく、逆に火に油を注ぐようなものであった。

アキ「・・・わかったわ。
 ならここで決着を付けましょう。
 ぶっ殺してやるわ!」
北辰「望むところだ♪」

かくしてアキと北辰らとの死闘が始まった・・・



和平会談10分前・きさらぎ格納庫


ひなぎくはきさらぎの格納庫に着艦した。
同時にアキセカンドも着艦した。他のエステは艦の外で待機である。
ユリカ、ゴート、九十九それにアキトを出迎えたのは草壁春樹直々であった。

九十九「白鳥九十九、地球側の特使をお連れしました。」
草壁「ようこそ、きさらぎへ♪
 私が草壁春樹です」
ユリカ「ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカです。
 早速の歓迎感謝します。
 こちらの2名は護衛兼アドバイザーです♪」

ゴートとアキトがぺこりと挨拶した。

だが、しかしゆっくり挨拶する暇もなく・・・
草壁「来た早々で悪いが、早速和平の打ち合わせをしたい。
 よろしいでしょうか?」
ユリカ「こちらは別にかまいませんが・・・」
草壁「会場に案内させます。
 白鳥君、案内してあげてくれたまえ」
九十九「は!」

九十九は敬礼するとユリカ達を案内して格納庫を退出した。

後に残った草壁は隣にいる東郷に呟く。

草壁「邪魔が入る前にさっさと事を済ませたい。
 奴の準備は?」
東郷「もう少しです。彼は素晴らしい夢を見てますよ。
 素晴らしい・・・ね♪」

東郷は不敵に笑う。決してユリカ達に見えない場所で・・・



疼く夢


俺達は偶像を崇めた。
ゲキガンガーという名の偶像を。
そして現実ではない女性に憧れた。

ナナコさん・・・

物語の中の女性は裏切らない。
自分の理想をどこまでも投影できる。
実物はいない。
画面の中の言動が全てだ。
スキマだらけの女性
理想と言えば聞こえが良いが、そこに性格はあっても人格はない。
どう言えば怒るのか、どう言えば泣くのか、ゲキガンガーには何も描かれていない。
だからこそ、自分の理想を当てはめる。

「彼女は素晴らしい女性だ」

アイツもそう言っていたはずだ。

けれど・・・
けれど・・・

「所詮、彼女は二次元の女性だ!」
誰かの声が俺に囁く。
そんなはずはない、そんなはずは・・・

「所詮は二次元の女性だ。自分の理想を投影しているにすぎない。
 そんな男に都合のいい女性なんていやしない」

違う!彼女は・・・彼女は・・・

「これだから二次元の女性しか愛せない奴は嫌いさ。
 現実を見ようとしない。
 自分が嫌われるかもしれないからと、初めから傷つかない対象しか好きにならない。
 だから三次元の女性には見向きもしない。
 付き合おうとしたら途端に傷つくからな」

違う!そうじゃない!そうじゃ・・・

「幻滅したくないのさ。
 モテないと認めたくないのさ。
 自分のことを理解してくれないと思いたくないのさ。
 二次元の女性はお前を愛してくれる。
 こんな自分でも愛してくれる。
 そうさ、お前の脳内にしか存在しない。
 だから拒絶するはずないさ」

違う・・・

「けれど、三次元の女性はお前のものではない。
 お前と違う存在さ。
 だから拒絶する。お前なんか誰が好きになるか!」

ちが・・・

「俺はお前とは違う。
 ちゃんと三次元の女性も愛してくれる。
 ミナトさんやアキさんが・・・」

その声と共に三人の女性が現れる。
彼女達は九十九に抱きついてこう言った。

ユキナ「私、漫画なんて大嫌い!」
ミナト「二次元の女性が好きなんてバカじゃないの?」
アキ「ゴメン、嬉しいけど白鳥君の方が良いの・・・」

うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!



和平会談5分前・きさらぎ通路


北辰と六人衆ら7人と死闘を繰り広げるアキ。
しかし、彼女の表情にはまだ余裕があった。
それもそのはず。

『もう和平会談は始まっているか・・・
 北辰さえこの場で足止めしておけば・・・』

7人同時に相手にしなければいけないので手こずっているアキであるが、ある意味ここで自分と戦ってくれていた方が都合がいい。
彼らをここに引きつけていれば九十九は暗殺されない。

暗殺はされない・・・

しかし、そう考えるアキの表情に気づいたのか、北辰はこう言った。

北辰「何を余裕のある顔をしている?我が生涯の伴侶」
アキ「生涯の伴侶じゃないって!」
北辰「我をここに引きつけているって顔をしているが・・・
 けどそれは逆だぞ?」
アキ「なに?」
北辰「汝が我を引きつけているのではない。
 我が汝を引きつけているのだ」
アキ「それはどういう・・・」

そこまで言ってアキはハッとした。
北辰はしたり顔で笑う。

北辰「時の記述が容易に変わると思うか?
 歴史は必ず同じ道をなぞる。
 ならば我がここにいても、所詮は歴史は汝が知る通りに繰り返されとは思わぬか?」
アキ「けど、月臣君は・・・」

そう、彼は九十九を殺さないと約束してくれた。
その彼が裏切るなど・・・

北辰「汝は我らの技に詳しそうだが、一つ失念している。
 傀儡は何も『顔のない男』の専売特許じゃない。
 奴らにそれを教え込んだのは・・・」
アキ「!!!」

アキは自分の迂闊さを呪った。
確かに未来の世界でフェイスレスと呼ばれた風祭は傀儡の使い手だった。
だからといって彼の上官だった東郷がその技を使えないとは限らない。
もし東郷が傀儡を使えるのなら、あるいは月臣元一朗の心の弱さを利用して意のままに操れるのでは・・・

アキ「くそ!あんた達と遊ぶのは止めた!!!」
北辰「そうはいかん。
 汝は我ともう少しここで遊んでいてもらおう」

このまま行けば、元の歴史通りになってしまう。
アキは必死に和平会談の会場に向かおうとした・・・



和平会談5分前・きさらぎ某部屋


東郷は冷酷にある男を見下している。
彼の眼前には虚ろな目をした男が一人、頭を抱えていた。

東郷「さぁ、行こうか。」
月臣「はい・・・」
東郷「お前の心の枷を解き放て。
 白鳥九十九という名の枷をな。
 それが無くなればお前は自由になれる。
 コンプレックスを感じずに済むようになる・・・」
月臣「自由になれる・・・」
東郷「そうだ。これで自由になるのだ」

東郷は呆然としている月臣に銃を渡す。
彼は躊躇っていたが・・・

月臣「彼女と約束した・・・
 九十九を殺さないと・・・」
東郷「そして生き残った白鳥の胸に彼女は飛び込む、と」
月臣「・・・」
東郷「それがお前の枷だ。自由になりたくないのか?」
月臣「・・・」

月臣の手は一瞬躊躇ったものの、その後静かに銃を取った。
ふらふらと部屋を出ていく月臣であった・・・

東郷「お前はこの日のために生きてきた。
 お前はこの日のために生かされた。」

部屋を出ていった月臣をほくそ笑む東郷であった・・・



和平会談開始・きさらぎ廊下


ユリカが不意にアキトに質問する。

ユリカ「ここ、さっき通らなかった?」
アキト「そうか?」
ユリカ「通ったよ、ほら」

ユリカが指さす先には1分前に見かけたゲキガンガーの立て看板があった。

ゴート「どういうことだ?」
九十九「・・・」
アキト「白鳥さん?」
九十九「・・・」
ユリカ「どうしたんですか?白鳥さん」
九十九「・・・・・・・・」

無言で押し黙る九十九

ゴート「道に迷ったのか?」
九十九「・・・」
アキト「迷ったんですか?」
九十九「・・・」
ユリカ「くーーーとか言って居眠りギャグかまさないですよね?」
九十九「嫌だなぁ〜〜そんなこと言うわけ無いじゃないですか〜♪(汗)」

きっちり道に迷っていたりする(笑)



和平会談開始・きさらぎ和平会談広間


草壁らは到着せぬナデシコ一行をイライラと待っていた。

草壁「遅い!遅すぎる!!!
 なぜ地球側の特使がいない!!!」
東郷「巌流島ですか・・・見てきましょう」

ということで和平会談は開始が少し遅れた。
この意図したものか、真剣に迷ったのか、九十九の行為が様々な人の思惑を外していく。

少なくともアキが現場に到着するだけの時間が稼げたのは確かだった。



和平会談開始1分後・きさらぎ通路


アキ「どけぇ!!!」
彼女は疾走しながら六人衆らから繰り出される刃をかわしていた。
アキは懐からリボルバーを取り出して掃射する。
狙いを付けない威嚇射撃だ。
けれど変に狙いを付けて走る足が鈍っては意味がない。
ただ相手の方に向けての射撃だが、相手が足を止めてくれればラッキーだ。

バンバンバン!!!

瞬く間に6発を撃ち尽くす!
うち、彼らには一発も当たらなかった。
足を止めようとしたものが1名いたが、他は怯まずに追いかけてきている。
良く訓練されている証拠だ。

「ち!次!」

アキはリボルバーから薬莢を吐き出させると、手元も見ずに弾を込めた。
なんとか奴らを分散させなくては・・・

「甘いわ!」
「くぅ!」

いきなり眼前に現れる北辰!
アキはステップで北辰をかわすと込め終わったばかりのリボルバーを脇の間から後ろの北辰に向ける。
振り返らなかったが、北辰がいる場所は大体わかる。
構えもせずにそのまま3発撃つ!!!

バンバンバン!!!

「ハズレだ!」

確かに射撃の軸線上にいたはずだが、それを北辰は見事にかわしている。

「ったく、あんたは化け物か!!!」
「見てから躱すから躱せぬのだ。
 躱してから見るのだよ!!!」

『そんなこと出来るのはあんたぐらいよ!!!』

と思いっきり叫びたかったが、そんな余裕もない。
ならば・・・

「足を止めてどうするつもりだ?
 我とようやく一対一の戦いを・・・」
「お生憎様。
 しつこい男は嫌われるってね!」

アキは足を止めた。
当然北辰は距離を詰める。
彼が刃をアキに繰り出そうとしたそのギリギリの瞬間・・・

「死ね!」
「なに!?」

直前で波陣を使いながらリボルバーを繰り出す。
リボルバーの銃口は北辰の眉間にピッタリくっついた。

バン!!!

しかし、アキはとんでもない光景を見た。
まるでスローモーションでも見ているかのように
映画のマトリックスでも見ているかのように、北辰は仰け反りながらアキの銃弾を躱していったのだ。

「あんたはネオか!」
「ふふふ、なんなら弾を止めて見せようか?」
「木連人がんなもん見てるんじゃない!!!」

アキはバク転をして立ち上がる北辰なんか見たくもないように走り出した。

和平会談の会場はもうすぐそこである。
何が何でも白鳥九十九暗殺を阻止しなければ・・・

「月臣君、お願いだから早まらないで!!!」
アキにはそう願うしかなかった・・・



和平会談開始1分後・ナデシコ格納庫脇


ちょうどその頃、ナデシコでは和平会談への期待に胸を膨らませ、その結果が出るのを今か今かと待っていた・・・はずなのであるが・・・

整備員その1「あれ?」
整備員その2「あれ?ってなんだよ」
整備員その1「いや、だから・・・」

整備員の一人が格納庫の隅を指さした。
巧みに周りから見えない所なのだが、そこにはあるものが置かれていた。
そのあるものとは・・・

整備員その2「これって・・・」
整備員その1「だろ?」

二人はそれを見て頷き合った。
なぜここにこんなものがある?

それは大きな箱だった。
「レッツゲキガイン」と書かれた箱だ。
しかもその中には食い散らかされたポテチの袋や、飲み干したペットボトルとか、まるでさっきまで誰か中に人が居たかの様な有様だった・・・



和平会談開始10分後・きさらぎ和平会談広間


散々迷った彼らは途中探しに来た兵士に連れられて会場に到着した。

九十九「いやぁ済みません〜〜♪」
ユリカ「遅れちゃいました♪」
ゴート「艦長・・・照れ隠しでも恐縮して下さい・・・」
アキト「申し訳ありません・・・」

まるで同一人物かのように照れ笑いしながら頭をかく九十九とユリカ。
その二人の態度に替わって恐縮そうに謝るゴートとアキト。
・・・実は護衛やアドバイザーというよりは単なる保護者なのかもしれないと思い始める二人(笑)

幾分青筋は立っていたが、草壁は大人の姿勢で対応した。

草壁「気にする事はない。
 白鳥君もこのきさらぎは初めてであろう。
 彼に案内をさせた我々の方にも落ち度はある。
 幾分遅れてしまったので早速開始したいと思う。
 よろしいかな?」
ユリカ「ええ、かまいません♪」

そう言うと、ユリカ達は差し出された座布団に座り、出されたお茶を飲んで一服した。

ちょうどその頃、彼らの前にあるものが差し出された。

ユリカ「何ですか?これは」
草壁「なに、会談をスムーズに勧める為にこちらが予め用意した草案だ」
ユリカ「はぁ・・・」

ユリカ達はその和平の草案なる書類を開いて読んでみた。
しかしそこには驚愕するような内容が書かれていた・・・



和平会談開始10分後・広間の隣室


東郷「さぁ、自由の枷を解き放て・・・」
月臣「自由の枷を・・・」

まるで心ここに在らずといった月臣が手に持った銃を見つめて苦悩していた。
しかし東郷が声をかける毎にその苦悩の表情は消えていった。

やがて銃口を見つめる目は冷酷なものに変わる。

月臣「俺は自由になる・・・
 俺は自由になる・・・
 俺は自由になる・・・
 俺は自由になる・・・
 俺は自由になる・・・
 俺は自由になる・・・
 ・・・・・・・・・・」

それがまるで精神を落ち着ける呪文かのように呟いた・・・



和平会談開始11分後・きさらぎ和平会談広間


ナデシコ側の面々はその草案を見て愕然としていた。

「これは・・・一体なんですか・・・」
ユリカは静かな怒りに震えていた。

草壁「だから和平を円滑に勧める為の条件だ」
ゴート「違う!!!これはそのような友好的なものではない!!!」

ゴートも思わず叫ぶ。
和平の為の条件を書いた草案とはいえ、その内容が酷かった。

ゴート「政治理念の転換、財閥の解体、地球連合の即時解散、新政権の樹立・・・
 これでは地球に木連の植民地になれと言っているようなものだ!」
ユリカ「本当にこれが和平の条件なんですか!
 これを呑まないと和平をしないというんですか!」
草壁「そうだ」
アキト「そんな・・・」

彼らは呻く。
これは実質降伏しろと言っているに等しい。
確かに今の政治の有り様が問題になっているのかもしれない。
けれどまずは互いに戦争する事を止めようというのが和平だ。
それは国家と国家が対等の関係で結ぶものだ。
けれど、まずは国家としての有り様を捨ててから和平を結べなどとは・・・到底呑める条件ではない。

九十九「この文章の撤回を要求します!!!」
草壁「どうしてかね、白鳥少佐」
九十九「彼らもゲキガンガーを愛しているからです!」

思わず九十九が叫んだ。

九十九「私は彼らと共にゲキガンガーを改めて見直しました。
 そして地球の人々とも。
 素晴らしい作品です。
 あの作品のすばらしさをわかる者達ならば過去の過ちを犯す事はないでしょう!
 正義は一つのはずです!
 ならば共に手を携える事が出来るはずです!!!」
アキト「白鳥さん・・・」
草壁「確かに君の言うとおりだ。
 正義は一つ。
 だが・・・・それは我々の側にだけ存在する!」

それが銃声へのトリガーとなった・・・



和平会談開始11分後・広間の隣室


月臣「白鳥・・・貴様が悪いんだ。
 悪の帝国に魂を売るから・・・」
東郷「そうだ、君は何も悪くない・・・
 彼が全て悪いのだ・・・」

引き金を引く疚しさを別の理由で定義づけた月臣は静かに銃口を九十九へと向けた。

と、その時!!!

バン!!!

「止めろ!月臣君!!!」
隣の襖を蹴破って入ってきたのはアキだった。
北辰達ともみ合いになりながら銃を構える月臣を見つけたアキは力の限り叫んだ。

「親友なんでしょ!!!
 撃つな!月臣!!!!!!」

手が届かなかった。
だから力の限り叫んだ。
けれど・・・・

その叫びも虚しく・・・

パン!

引き金は静かに引かれた・・・



和平会談開始12分後・きさらぎ和平会談広間


九十九は静かに倒れた。
アキト達は隣に騒ぎの声が聞こえてそちらに注視した瞬間であった。
振り返ったユリカ達が見たものは・・・

畳が血で染まる・・・

ユリカ「白鳥さん!!!」
ユリカは思わず倒れた九十九の傷口を塞ごうと駆け寄った。

それと同時に木連の兵士達がユリカ達を銃で取り囲んだ。
完全に囲まれて絶体絶命の中、アキトは叫ばずにはいられなかった。

アキト「どうして撃った!!!」
草壁「あの作品のテーマは正義が悪の帝国は滅ぼすという事だ。
 つまり我々を弾圧した地球は滅んで当然!」
アキト「俺達が悪の帝国だとでも言うのか!!!」
草壁「そうだ!」
アキト「そんな事の為に白鳥さんを撃ったのか!」
草壁「彼は地球側のスパイに成り下がった。
 悪に染まったものを浄化する必要がある」
アキト「貴様・・・」

アキトやゴートは歯ぎしりをしながら草壁を睨み付けた。
けれど圧倒的有利からか、草壁は平然としていた。

ユリカ「そんな事より!!!
 白鳥さんの血が止まらないよ!!!
 お願い、白鳥さんを助けて!!!」

ユリカは叫ぶが、木連側は冷ややかだった。

と、そこで・・・・

ユリカ「し、白鳥さん!?」

ゆらりと傷口を押さえながら九十九は立ち上がった。

九十九「く・・・」
ユリカ「白鳥さん、立っちゃダメ!」
九十九「止めるなよ、艦長。
 俺はアイツに一言言う為にここまで来たんだ。
 草壁春樹に一言言う為に・・・」
ユリカ「白鳥・・・さん?」

九十九は顔を上げて草壁を睨み付けた・・・



和平会談開始10分後・ナデシコ男子トイレ前


ちょうどそのころ、ナデシコでも一つの騒動が起こっていた。

ミナト「だから、あの白鳥さんは偽物なんだって!」
ウリバタケ「偽物って言われてもなぁ〜〜」
ミナト「あの白鳥さんが自分からキスをするなんて気の利いた事をするわけないじゃない!」
ウリバタケ「気のせいじゃないのか?男なんて格好つけたがりだし」
ミナト「気のせいじゃないわよ!
 女のカンは絶対なんだから!!!」

と言い争いをしているところに別の整備班員が知らせに来た。

整備班その4「班長」
ウリバタケ「なんだよ、今取り込み中・・・」
整備班その4「ですけど、男子トイレで何かが暴れているらしくて・・・」
ウリバタケ&ミナト「なに?」

彼らは早速その男子トイレに向かった。

確かにある個室からドンドンともがく音が聞こえた。
普段あまり誰も近寄らないトイレだ。
先ほどの段ボール騒ぎで何となく探索隊が出て調査しているところに引っかかったのだ。

ウリバタケ「・・・開けろ」
整備班員その3「はい」

個室には外からドアノブを針金でグルグル巻きにされていた。
全員がバットを構えながら、うち一人が針金を外し、慎重に中を開けると・・・

ドサ!!!

中から猿ぐつわをされ、後ろ手に縛られた男が倒れるように出てきた。
その顔を見たクルーらは一様に驚いた。
そう、その顔を彼らはよく見知っていた。
誰あろう・・・

ミナト「白鳥さん!!!」

そう、彼は誰あろう、和平特使で現在はきさらぎにいるはずの白鳥九十九だったのである。

バットを投げ捨て、駆け寄って猿ぐつわを外すミナト。
猿ぐつわを外された白鳥は第一声をこんな風に叫んだ。

九十九「彼を止めてくれ!」
ミナト「彼って?」
九十九「ヤマダ君だ!
 彼は私の身代わりで死ぬつもりなんだ!!!
 早く彼を止めてくれ!!!」
九十九は叫んだ。
本来自分が死ぬはずだったのに、自分の身代わりになって和平会談に臨んだ彼の身を案じて・・・



和平会談開始12分後・きさらぎ和平会談広間


九十九は立っているのが不思議な程、血を流しながら、それでも草壁を睨み付けていた。
草壁「一言言いたい事があるとは何だね?」
九十九「あんた、間違えてるよ・・・」
草壁「私が間違えていると?何がだね。
 ゲキガンガーのラストでは確かに悪の帝国がゲキガンガーによって滅ぼされた。
 正義は必ず勝つのだ」

草壁は自信満々に言う。
けれど、死にかけの九十九の瞳から熱血の炎は消えていなかった。

九十九「俺はゲキガンガーがすげぇ好きだった。
 それこそ何回も何回も繰り返すほど見た。
 それこそディスクがすり切れてもおかしくないほど見たさ・・・
 だから知っている。
 あんたよりはゲキガンガーを知っている。
 だからあんたに語らせねぇ。
 そんな間違ったゲキガンガーを語らせやしねぇ!」
草壁「私の何が間違っているというのだ?」

九十九は顔を上げて改めて草壁を睨み付ける。

九十九「たとえ敵であろうが、共に手を携える者を友と呼ぶんだ!
 そして友と呼ぶ者を、ましてや親友と呼ぶ者に騙し討ちをさせるような輩が正義を名乗るなどゲキガンガーのどこに描かれているというのだ!!!

草壁「!!!
九十九「友とはたとえ死を賭しても守るべき存在だ!!!
 自分の野望の為に殺させる存在じゃない!!!
 そんな事もわからない奴にゲキガンガーは語らせねぇ!!!
 俺が語らせねぇ!!!
 それが真の正義だ!!!

九十九は叫んだ。
それだけ叫ぶと九十九は倒れた。
けれど、倒れる間際に九十九はもう一つ草壁に台詞を投げつけた。

九十九「あんたに正義の2文字は重すぎる。
 振り回されるのがオチだぜ・・・」

九十九はそれだけ言うと、今度こそ物言わずに倒れた。
けれど、彼の魂の叫びは草壁以外の木連兵士を怯ませるのに十分だった。



和平会談開始13分後・広間の隣室


隣では草壁がもう一度撃てと指示を出しているようだったが、月臣は苦悩していた。

親友を騙し討ちした・・・
親友を騙し討ちした・・・
親友を騙し討ちした・・・
親友を騙し討ちした・・・
親友を騙し討ちした・・・

そこにアキが叫んだ。

アキ「月臣元一朗!!!
 いい加減に目を覚ませ!!!
 白鳥君の叫びが聞こえなかったのか!!!」

彼女の声が聞こえた。
月臣はハッとなって自分の手を見る。
銃を持っていた。
この銃で親友を撃った・・・

「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」
月臣は涙を流して叫び、うずくまった。

北辰「全ては『時の記述』通り。
 無駄なあがきだったな!」
アキ「何を!!!」

アキは襲いかかる北辰らの攻撃を躱す。
しかし隣の部屋では既に兵士らが動いているようだった。
死ぬ寸前の九十九にトドメを刺すつもりみたいだ。

アキ「くそ!!!
 アキト君!今のうちに逃げろ!!!」

ドン!!!

「うわぁぁぁぁ!!!」

アキは手近な六人衆の一人にぶちかましをかます!!!

彼は吹き飛ばされて隣の部屋まで飛んでいった。
彼はちょうどアキトらを取り囲んでいた兵士らを巻き込んだ・・・



和平会談開始13分後・きさらぎ和平会談広間


「アキト君!今のうちに逃げろ!!!」

その声と共に六人衆の一人が吹き飛んできて囲みの一角が崩れた。

アキト「え?今の誰・・・」
ゴート「テンカワ、この隙に逃げるぞ!!!
 俺は白鳥を連れて行く!お前は艦長を守れ!!!」
アキト「え?ええ!!!」

一瞬声の主に聞き覚えがあったが、アキト達はそれどころではなかった。
すぐ脇にいた兵士に当て身を食らわせるアキト。

「くそったれ!!!」

ババババババ!!!!

そしてそのまま兵士の銃を奪い掃射する。

アキト「ユリカ、ぼぉっとするな!」
ユリカ「え?うん・・・」

アキトはユリカの手を引いて広間を後にした。
木連兵士らは彼らにかまう手間もなかったみたいなのが幸いだった・・・



和平会談開始13分後・きさらぎ通路


彼らはひなぎくに向かっていた。
九十九はゴートに背負われていたが、さすがに出血が酷く、苦しそうだった。
ユリカはオロオロして九十九の傷口を押さえていたが、アキトは逃げながら追っ手を攻撃する合間に確信した事があった。

アキト「・・・ガイだろ?」
ユリカ「え?」
アキト「ガイなんだろ!お前生きてたんだろ!
 なのになんで・・・」

ユリカもゴートも信じられないような顔をしたが、アキトには確信があった。

アキト「火星で死んだと思っていた。
 生きてて嬉しい!
 嬉しいけど・・・なんで・・・」

アキトには信じられなかった。
けれど確信した。
彼がダイゴウジ・ガイだという事を
でも・・・やっと再会したのに・・・
こんなのはあんまりだった。

けれどガイは苦しがりながらもニッコリ笑ってアキトに語りかけた。

ガイ「強くなったな・・・テンカワ・アキト・・・」
アキト「ガイ・・・」
ガイ「後はお前に任せたぜ・・・」
アキト「ガイ!!!!」
ユリカ「白鳥さん!・・・じゃなくてヤマダさん!!!」
ガイ「ダイゴウジだ・・・」
ユリカ「しっかりして!ヤマダさんしっかりして!!!」
ガイ「ははは・・・誰が奴らの思い通りにさせるか・・・
 予言は大ハズレさ。ざまぁ見ろ・・・・」

ガイの声はそこで途切れた。

ゴート「く!」
アキト「ガイ!死ぬな!!!

急速に失われつつあるガイの体力を感じながら、彼らは必死にひなぎくへと向かうのであった・・・

ってことで後編に続きます



ポストスプリクト


えっと、中編ですが、後編スタイルのポストスクリプトにします。
本来構想時の中編のラストはもう少し先まで進む予定でしたが、書いているときりがないと考えたので後編に回します(汗)

あーーーやっと出たなぁ、ガイ君(苦笑)
このシーンはかなり前から考えていました。
半ば、この台詞を言わせたいが為に出したようなものですが(汗)
二十三話あたりからある程度予想できるようには書いていたのであまり突拍子もないとは思いますが、逆にもう少し存在を匂わさない方が良かったかなぁ?とか今は考えています。

とはいえ、今回の事はウケ狙いだけでもないです。
多くは語りませんので後編をご覧下さい。

漫画版のガイのイメージがあるのかもしれません。
無駄に死ぬ事が良いとは思いませんが、彼はかぶき者というイメージがある。
一世一代の晴れ舞台で見得を切って死ぬ・・・TV版がああいった終わり方なだけに、そうやって死なせてやりたいという想いがあります。

まぁ賛否両論あろうかと思います。後編を見ると特に。
けれど、最後までお付きあいください。

ということで後編をお楽しみにして下さい。
では!

Special Thanks!!
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