アバン


運命は流転する。
あり得ないシナリオを紡ぎ始め、あり得ない物語を語り始める。
何が正しくて何が正しくないのか、それは誰にもわからない。
人にとってのハッピーエンドが他人にとってのバッドエンドかもしれないから。
だから紡がれる物語のみが真実となる。

変革する歴史
その中で人は選ぶ
たとえその運命が過酷なものだとしても
選ぶ自由だけは残されているから・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



れいげつ・九十九の部屋


九十九「・・・アマガワ・アキ・・・さん?」
アキ「おハロ〜〜長旅で疲れたからベッドを借りていたわよ♪」
ここにいること自体、全く似つかわしくない人物がさも自室かのようなリラックスをした表情で自分の部屋にいれば、そりゃ誰だって驚くだろう。

アキ「んじゃ私、眠いからお休み〜〜♪」
九十九「は、はぁ、お休みなさい・・・」
アキはさらに何事もなかったように床に就こうとした。

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九十九「だぁぁぁぁぁ!!!
 何事もなかったように寝ないで下さい」

九十九は思わずシーツをめくる。

アキ「きゃ!エッチ!」
九十九「す、済みません!!!」
アキ「んじゃ、お休み〜〜♪」
九十九「お休みなさい・・・」
さらにさらにアキは何事もなかったように床に就こうとした。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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九十九「だから、何であなたがここにいるんですか〜
 ちゃんと起きて説明して下さい〜〜」
アキ「眠いのよ〜〜寝かせて〜〜」
九十九「そ、そんな」
アキ「ベッドで寝たいの?なら半分開けてあげるからどうぞ」
九十九「え?」

ベッドの半分を開けておいでおいでするアキ。
しかし免疫がないのか・・・

九十九「い、一緒に寝る・・・ですか!?」
アキ「そう。遠慮しなくても良いわよ」(←寝ぼけて自分が女だと意識していない)
九十九「だ、ダメです!健康なだ、男性とじょ、女性がま、枕を共にするなど!」
アキ「別に私を襲うつもりないんでしょ?」
九十九「も、もちろんであります!!!
 自分はこれでも誇りある木連男子であります!!!
 婦女子を、しかも寝込みを襲うなどという破廉恥な行為など滅相もない!」
アキ「なら、いいじゃない〜」(←まだ寝ぼけています)
九十九「ですが、物事には手順というものがあります。
 まずは恋文を交わしあった後に、交換日記でお互いの事を深く知り、
 そして婚約をした後に接吻をして、それからそれから、
 初夜に初めて床を共にするという・・・」
アキ「今時古風ねぇ〜〜
 それとも私と付き合いたいの?」(←やはり寝ぼけている)
九十九「いえ、滅相もない!
 自分にはミナトさんという将来を誓い合った女性が・・・」
アキ「なら良いじゃないの」
九十九「良くありません!」
アキ「私なら大丈夫。犬に咬まれたと思うことにするから」(←かなり寝ぼけてる)
九十九「咬んだりなどしません!」

寝ぼけたアキに良いように弄ばれる九十九。
二人の本題から外れた漫才は続く。

九十九「女性なら自分の身を大事にしないと・・・」
アキ「あら、あなたは貞操慎ましやかな女性じゃないといけないの?」
九十九「え?」
アキ「例えばミナトさんが実はあなたが初めてじゃないとか、
 婚約もしていない男性とそういうことをしていたら許さないの?」
九十九「いえ、自分と付き合う前の女性にそのようなことを強要するつもりは・・・ありませんが・・・」
アキ「本当に?」
九十九「ほ、本当です・・・」
アキ「なら一緒に寝てもいいじゃない」(←実はまだ寝ぼけている)
九十九「だからなぜそこに戻るんですか!!!」

と、以下ループバックした会話を繰り返すことになる。
で、その後どうなったかというと・・・

アキ「・・・・スピ〜〜〜」
九十九「あの・・・」
アキ「すやすやす〜」
九十九「ですから・・・」
アキ「むにゃむにゃ〜」
九十九「・・・襲っちゃいますよ?」
アキ「ミナトさん・・・」
九十九「ごめんなさい!ごめんなさい!
 決して浮気心じゃないんです〜〜〜」

などというやりとりを繰り返しながら一晩過ごすことになった九十九であった。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十四話 Boys meets girl(?)<前編>



翌日・れいげつ九十九の部屋


畳の部屋に正座で膝を付き合わせて、九十九はアキになぜ自分の部屋にいるのか問いつめていた。

九十九「昨日のように寝ぼけてませんね?」
アキ「もう寝ぼけてません」
九十九「あなたは誰ですか?」
アキ「アマガワ・アキっす。他の誰かに見えますか?」
九十九「い、いや、そういうこと言っているわけでは・・・」
アキ「なら何?」
九十九「いえ、撫子で見た時と面差しが違う気が・・・」

正座して目の前に座っているアキの姿をまじまじと見る九十九、

確かに以前ナデシコで見かけたときと雰囲気が変わっている。
一番変わっているのは髪型で、長かった髪の毛は襟足から三つ編み状にしてある。
こうするとより活動的に見え、まるで男の子みたいだ。
まるで・・・あのツンツン頭の男子みたいな・・・

そして服装は黒を基調にした服装を好んで着ているようだ。
黒いジャケットに長袖の黒いシャツ、それに黒皮のズボン。
バイザーと相まってまるで闇を纏っているようだ。

あの時はナデシコの制服で女性的だなぁ〜〜と思ったのだが、今の姿が本来の彼女のスタイルかもしれない・・・
何より眼差しが一番印象を変えているのかもしれない。

九十九「って、そういうことを言いたい訳じゃないんですって!!!」
アキ「だから何が問題なのよ」
九十九「あなたはどうやってれいげつに乗りこんだんですか!」
アキ「乙女の秘密♪」
九十九「誤魔化さないで下さい!」
アキ「んじゃ自転車を漕いで・・・」
九十九「宇宙空間で自転車に乗れるわけないじゃないですか!
 自分のことをからかってるんですか?」
アキ「いや、からかっている訳じゃ・・・」
九十九「じゃ、どうやってこの艦に?」
アキ「企業秘密です♪」
九十九「じゃ、何の目的でこの艦に?」
アキ「それも企業秘密です♪」
九十九「目的が企業秘密なんですか?」
アキ「ええ♪」
九十九「やっぱりふざけてます!」
アキ「いや、大真面目なんだけど・・・」

どうにもこうにも飄々としているアキになかなか真相を切り込めないでいる九十九。

九十九「・・・本当のこと話してくれないと、憲兵に突き出さないといけなくなるのですが・・・」
アキ「そんな〜私とあなたの仲じゃない♪」
九十九「甘えた声を出してもダメです!」
アキ「んじゃ、良いことしてあげるから♪」
九十九「自分はミナトさん一筋です!
 色仕掛けなんかに屈しません!」
アキ「ち!
 んじゃ・・・
 あ〜〜ん。そんな酷い〜〜」
九十九「泣き落としなんかにも屈しません」
アキ「じゃ、ここで衣服を破って悲鳴を上げながら部屋の外に・・・」
九十九「密航者として捕まるのはあなたですよ」
アキ「ち!
 白鳥君のくせに騙されないわね・・・」
九十九「自分もそうそう騙されてあげるわけにはいきません!」

誤魔化されないぞ!と胸を張る九十九。
アキはしばし思案をした後・・・

アキ「わかったわ。本当のことを話す・・・」
九十九「わかってくれれば良いんです」
アキ「実は・・・」
九十九「実は?」
アキ「言い難いんだけど・・・」
九十九「言い難いって?」
アキ「心して聞いてね・・・」
九十九「わかりました。心して聞きます」
アキ「実は・・・」
九十九「・・・ゴクン」
アキ「あなたのことが好きでした!」
九十九「えぇぇぇぇ!?」
アキ「って言ったら信じる?」
九十九「・・・また冗談ですか?」
アキ「いや、まぁ何というか・・・・照れ隠し♪」
九十九「アキさん!!!」

真剣に聞こうとしてはぐらかされた為、思わず怒ろうかと思った九十九であるが、一瞬辛そうなアキの表情を見逃さなかった。

アキ「えっと・・・」
九十九「自分を信じて下さい」
アキ「じゃ言うわね・・・・
 実は私はあなたを・・・」
九十九「自分を?」

肝心の一言を言おうとしたその時!!!

月臣「おい、九十九!
 ビッグニュースだぞ!!!
 って・・・」

ドアを蹴破る勢いで入ってきた月臣は部屋の中の光景を見た瞬間、凍り付いた。
なぜなら、部屋の中では女性の肩を抱いた九十九の姿があったからだ。
しかも女性はなにやら深刻そうな顔をして泣いている(いや、バイザーをしているからそんな雰囲気らしいという風に月臣は脳内置換をした)

月臣「九十九・・・・貴様という男は・・・・」
九十九「ちょ、ちょっと待て、元一朗。
 お前は何か勘違いをしていないか?」
月臣「ナナコさんを裏切ったのみならず、二股など木連男子の風上にも置けぬ奴め!
 そこへ直れ!!!
 俺自ら成敗してくれる!!!」
九十九「誤解だ〜〜!!!」

しばらく月臣が暴れまくり、話が先に進まなかったらしい(笑)



数分前・Yナデシコ格納庫


ちょうどナデシコが地球のビッグバリアを突破した直後のことである。
アキト達は閑散とした格納庫のハンガーを見て溜息をついていた。

アキト「そうか・・・ゼロG戦フレームはアキセカンドだけか・・・」
リョーコ「それにあるといえば俺達の乗ってきた空戦フレームが3機か」
ヒカル「まぁネルガルさんもそう易々と置いていった私達専用のゼロG戦フレームを残してくれるわけないか」

脱走騒ぎのドサクサに紛れて持ち出せたエステは少ない。
それぞれパイロットが搭乗して持ち出した4機分だ。
しかも宇宙戦用は実質アキトのアキセカンドだけだった。

イズミ「ゼロGなだけにゼロ・・・なんちって」
アキト「しかしPODまで持って行かなくても・・・」
ウリバタケ「ん?
 アキちゃんがいないのが不安か?」
アキト「そういうんじゃないんッスけど・・・」

アキトは不安を見透かされて苦笑した。

ウリバタケ「でも主がいないエステがあっても、甘い期待を抱いて良くないんじゃないか?
 彼女は俺達に合流しなかった。
 無い物ねだりをしても仕方がない。
 俺達は俺達でやるしかないんだ」
アキト「それはわかってるッス。
 でもラピスちゃんとか寂しがるんじゃないかなぁ・・・と思って」

不安がないと言えばウソになるが、アキトはたとえ彼女がいなくても和平を実現しようという意志に揺るぎはない。
むしろそうした彼女との思い出がなくなる事への感傷に近いのだ。

ウリバタケ「そういうことなら・・・
 こんなこともあろうかと・・・こっちに来な」
アキト「え?」

ウリバタケは手招きをして格納庫の奥へ全員を促した。

リョーコ「なんだよ。行き止まりじゃないかよ」
アキト「ここに何があるって言うんですか?」
ウリバタケ「まぁまぁ。ラピラピ」
ラピス『わかった。フェイズシフトダウン(ウソ)』

ラピスのウインドウが開くと行き止まりのはずの格納庫の壁が突然歪んだ。
そして歪みが収まるとそこにはもう一区画分、格納庫の続きがあった。
その区画には見事にリョーコ達のゼロG戦フレームが並んでいた。

リョーコ「な、なんだ、こりゃ!?」
ウリバタケ「こんなこともあろうか!ってな。
 元々は俺様の秘密の工房だったんだけどな」
アキト「あれ以外にまだ秘密基地を持っていたんですか?」
ウリバタケ「ふふふ!それが男のロマンさ!」
ヒカル「まぁそれがロマンかどうかは知らないけど・・・」
リョーコ「でもよくあのドタバタでこれだけのものを隠す時間があったなぁ〜」
ウリバタケ「ラピラピのとっさの発案なんだぜ。」
アキト「ラピスちゃんの?」

驚く一同の後ろでラピスがウインドウの中でピースサインをしていた。

イズミ「どういうカラクリ?」
ラピス『簡単。この一角が壁に見えるような映像をウインドウで展開した。』
ウリバタケ「めぼしいものをここに押し込めるぐらいしか時間がなかったけどな」
ヒカル「なるほど。壁の映像を映したのね、頭良い♪」
リョーコ「そりゃ、壁を触らなきゃバレないわなぁ」
ラピス『うん。触られないように色々苦労した。』

ラピスは蕩々と語る。
あるいはネルガル本社にハッキングしてナデシコの設計図や見取り図を改竄したりとかもした。
その上で壁に近づこうとした作業員がいたら艦内放送をかけたりとか、ポケベル・・・もとい携帯・・・もといコミュニケを鳴らしたりとかした。
ラピスがそこまでして守っていたモノは何だったのか?

アキト「でもなんで・・・」
ラピス『ここには大事なモノがある』
アキト「大事なもの?」

そう、ラピスの指さす先をアキトは振り向いた。
区画の一番奥に仕舞ってあったもの、それは・・・

アキト「POD!?」
ラピス『アキ、帰ってくるって言った。
 だから帰ってきたときにこの子がないとダメだから・・・
 頼まれたから・・・
 この子をよろしくって』
アキト「・・・そうだね。」

ラピスがアキと交わした約束を必死に守ろうとしていたことをちょっと嬉しく思った。

と、感動している端で・・・

ヒカル「ねぇねぇウリピー、あれ何?」
ウリバタケ「アレって?」
ヒカル「これだよ」

ヒカルの指さしたもの。
それは・・・

ウリバタケ「そうそう。チューリップ型の通信機だっけ?
 あのドサクサで隠さなきゃ!って思って・・・」
ヒカル「これ、使えるんじゃない?」
ウリバタケ「使えるって?」
ヒカル「だから、白鳥さん直通でしょ?」
一同「・・・・・・ああああああ!!!!」

こうしてもう少しのところで当てもなく宇宙を放浪するという愚挙を犯すのを免れるナデシコクルーであった(苦笑)



Yナデシコ・ブリッジ


そんなこととはつゆ知らず、ブリッジでは悶々としている女性が一人

ユリカ「うにゅぅぅぅ・・・」
ルリ「どうしたんですか、艦長?力一杯悩んでいます、って顔をして」
ユリカ「う〜ん。いや、私達のやろうとしている事って正しいのかなぁって思って」
メグミ「正しいからここまで来たんじゃないんですか?」
ジュン「あのまま食堂でバイトでもやっていれば良かったと?」
プロス「お互い悪かったんですから全てを水に流してご破算にする。
 いいじゃないですか、それで和平で」
ユリカ「そうなんですけど・・・」

ユリカは自分でも収まりのつかない感情を持て余していた。
確かにこのままでは良くないこともわかっている。
結局どこかで和平は成される。
ただ、今の互いの主張は相手側が自分の軍門に下るまでに相手を打ちのめした後、という但し書きがつく。
そうなったときに一番被害を受けるのは叩きのめされた側の弱い者たちだ。
戦争を今の時点で終幕に出来るならその方が被害が少なくてずっと良い。

けれど、ユリカは言う。

ユリカ「火星で死んだ人とか、100年前の木星の人とかの気持ちを考えると・・・」
ルリ「死者は何も思いません。その感傷の為に今も戦場に鎖で繋がれているのは今生きている人達です」
ユリカ「そうだよね。
 でも、それもまた人間なのよ。やっぱり被害者にならなきゃわからない感情もあるし、そういって納得してくれない人達もいるし(苦笑)」

ユリカはルリの正論に苦笑する。
確かに正論なのだが、それを乗り越えて人類全員が平和を願えるようになるほど人類は達観していない。
第一、アキに見せられた未来の記憶では火星の後継者などというものが現れている。
これなどは結局和平させたけど、どこかに残っていた地球連合主流派への不満がボソンジャンプの独占という誤った方向に噴出してしまったという好例であろう。
それを知っているだけにユリカは苦悶する。

でも、一人の女性が自信を持ってこう言った。

ミナト「私は自分を信じるわよ」
ユリカ「ミナトさん・・・」
ミナト「そして私の信じたあの人を信じる。
 そしてあの人の妹さんを信じている。」
ユキナ「ミナトさん・・・」
ミナト「私はあの人とユキナちゃんと一緒に平和に暮らせる社会にしたいと思っている。
 だから・・・」
ユリカ「そうですよね」

分かり合える人達もいる。
だからこそ、その人達のためにも和平を
それが再びナデシコに乗り込んだクルー達の気持ちなのだ。

と、そこに・・・

ヒカル「艦長、艦長、良いもの見つけた♪」
リョーコ「アキト、しっかりそっちを持てよ」
アキト「わかってるよ」
ユリカ「それは?」

ブリッジに荷物を抱えて飛び込んできたアキト達を見たユリカはそれがなんなのか気がついて喜ぶのであった。



れいげつ・九十九の執務室


九十九「本当なのか?元一朗」
月臣「本当だとも、ほら!」
ルリ『やっほ〜〜〜』

部屋の隅にあるチューリップ型通信機がナデシコのブリッジの様子を映し出していた。
その向こうではルリがあっかんべーをしていた。

なぜあっかんべーかは不明である(笑)

その光景を見た九十九は大層驚いた。
九十九「おお、あれは・・・」
月臣「そうだ。アララギが持っていた写真の幼子そっくりだ!」
九十九「元一朗、お前はずいぶん変な覚え方をしているなぁ・・・」

そんなボケにかまわず、通信機の向こうでは必死に呼びかけていた。

ルリ『やっほ〜〜〜やっほ〜〜〜』
九十九「・・・なんでさっきからやっほ〜なのだ?」
月臣「・・・それはさっきからこちらが応答していないからだ」
九十九「なんで応答してやらないんだ?元一朗」
月臣「俺は幼子に興味はない!!!」
九十九「いや、興味がないとかどうとかじゃなくてだなぁ・・・」

テレクラのキャッチと間違えているのか、月臣は問いかけている向こうの通信を決して取ろうとはしなかった。
そのことに疲れたのか、通信機の向こう側ではなにやらメンバーチェンジが行われた。

メグミ『やっほ〜〜』
月臣「ナナコさんの胸はもっとおっきい」

イズミ『やっほ〜まんぼ〜天気予報〜』
月臣「ナナコさんはお笑い系じゃない」

ヒカル『やっほ〜〜だにょん』
月臣「ナナコさんはメガネっ子じゃない」

ミナト『やっほ〜〜だっちゅうの』
月臣「ナナコさんはそんなケバくない!」
九十九「何だと元一朗、貴様!!!」

ユリカ『私がナデシコの艦長で〜す♪ブイ!』
月臣「ナナコさんはもっと知的だ!」

と、ナデシコの強敵達を次々と撃滅していった。

九十九「おい、元一朗、いい加減にした方がいいと思うぞ?」
月臣「なにをだ?」
九十九「俺はこれ以上、敵を作りたくない・・・」

通信機の向こうから殺気めいたオーラをたくさん感じるのは気のせいだろうか?(笑)

とまぁ、冗談はここまでにして

ユキナ『元ちゃん!いい加減に出なさいよ!
 この二次元コンプレックス野郎!!!』
月臣「なんだと!」
九十九「おいユキナ。無事だったのか!」
ラピス『あんだけボケ倒しておいて無事も何もないと思うけど・・・』

というラピスのツッコミを無視して、九十九達はユキナ達との邂逅を果たした。
しばらく懐かしがった後・・・

ユリカ『それで和平の件なんですけど・・・』
九十九「和平ですか?」
ユリカ『そうなんです。
 で、和平の件なんですけど・・・あれってまだ有効なんですか?』
九十九「有効も何も大歓迎です!
 しかし、そちらは・・・」

ナデシコは今脱走している身だ。
それに地球連合側は現状徹底抗戦の構えを見せている。
確かに和平の話し合いが進めば九十九としては起死回生になるのだが、その話し相手としてナデシコは・・・

そういう感情が顔に出たのか、そのことに関してルリが前に現れた。

ルリ『えっと、そのことですけど。
 白鳥さんの協力があれば何とかなりますよ』
九十九「なんとか・・・ですか?」
ルリ『ええ。地球を出る前に色々仕掛けをしてきましたから』
九十九「色仕掛け?」
ルリ『色は余計です。
 現在、地球はゲキガンガーブームですから』
九十九「はい?」



地球


地球各地では

『レッツ!』
「「「「ゲキガイン!!!」」」」

第二次ゲキガンガーブームが到来していた(笑)



れいげつ・九十九の執務室


九十九は驚き、月臣は複雑な面もちで映されている地球の風景を眺めていた。

九十九「な、なんでまたこんな事に・・・」
ルリ『現在、地球のネットワーク及びTV放送など全てのメディアではゲキガンガーを24時間ぶっ通しで放送しているからです』
九十九「なんですと!?」

九十九が驚くのも無理はない。
ルリ達は地球のあらゆるコンピュータをハッキングして木連の謎をバラした後、そのままハッキングしてあるコンピューターからゲキガンガーTV全話を放送したからだ。

さてさて、たかがアニメのゲキガンガーが放送されたからといって何故ブームになったりするのだろうか?
理由は至極単純である。
それ以外に見るものがないからだ。
どのチャンネルをひねってもゲキガンガーしか流れていないのだ。
暇を潰そうとTVを付ければゲキガンガー、
ニュースを見ようとチャンネルをひねってもゲキガンガー
見たくなければそういったものの電源を切ってしまえばいいのだが、そうも行かない。
最低限のニュースやらなにやらはテロップで流れたりする。
ネットでもポップアップウインドウやバナーやフラッシュなどで絶えず必要な情報の脇にゲキガンガーが流れているのだ。
興味がないとしても否が応でも目を通さざるをえないのだ。

しかもゲキガンガーは一種麻薬のような効果がある。
つまり普通の人が見たらまずおもしろいのだ。
アニメなんて嫌いと思っていても、それは単に食わず嫌いに近い。
見たら大部分の人が転ぶ・・・そういった名作なのだ。
何もガイやアキトが特別なのではない。
木連の人はそれしか娯楽映像がなかったとはいえ、国教とも言えるほど浸透した。
ナデシコクルーだって正史では九十九の持ってきたゲキガンガー総集編によってゲキガンガー祭りに突入した。
それが地球規模で起こりつつあるのである。

ルリ『ということで多分なのですが、今天空ケン似の白鳥さんが演説して下さったら地球は一気に和平に傾くと思います』

通信機の向こうでルリは舌を出す。
まずは地球と木連の秘密をバラしておいて地球連合政府への不信感を募らせておき、そこにゲキガンガーブームである。
政府上層はともかく、大衆は一気に和平に転がるだろう。
その上で九十九が交渉の席に立てば、地球連合も無碍には断るまい。

九十九は一条の光が見えた気がした。

ルリ『そのまま地球の放送網に繋がりますけど・・・
 演説して下さいますか?』
九十九「え?そ、それは・・・いいですよ!」

そう返事をすると通信機の映像が新宿アルタのオーロラビジョン前の映像が映った。
オーロラビジョンにはやはりゲキガンガーが放送されていた。
それを熱心に見入る人、ただ通り過ぎる人もいたが、人間慣れるというのは恐ろしくて、たった1日程度のことなのに、すっかりその光景に慣れきっていた。

だが、次の瞬間、オーロラビジョンに映し出されている映像が変わった。
ゲキガンガーではなく、白鳥九十九自身だった。
九十九自身が画面に映ったことを驚いた様子がオーロラビジョンにも映っていた。
どうもこの通信機に映った自分の姿を直接地球に流している様子だった。

突然のことで地球側も、そして九十九自身も驚いている。
しかし、ここでこのゲキガンガーブームを何とか和平の方向に持っていかなければならない。
自分達にはほとんど権力はない。
ならば世論を味方に付ける以外に道はない。
そう腹をくくった九十九は深呼吸をした。

それと同時にオーロラビジョンを注視していた人達の声がざわめきとなる。

『おい、アレって天空ケンじゃないのか・・・』
というざわめきが人々に伝染するちょうど良いタイミングで九十九は話し始めた。

「自分は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび他衛星小惑星国家間反地球共同連合体突撃宇宙優人部隊白鳥九十九少佐であります」

一瞬、オーロラビジョンに映った九十九の言葉を人々は呆気にとられていた。
九十九はそれを察して、少し堅苦しい挨拶だったかな?と考え直す。

「えっと、私は皆さんが木星蜥蜴と呼称する存在であります。
 もちろん本物の蜥蜴ではなく、あなた方と同じ地球人類でありますが」

映像から訴える九十九の言葉に聴衆はシーンとなる。

「既に皆さんもご存じかもしれませんが、我々は100年前に火星を追い出された人達の子孫です。
 この戦争の発端はその100年前に遡ります。
 我々は月を、火星を住む土地を奪われ、木星へと追いやられました。
 我々は100年間大地もない、日の光も射さない木星という悪辣な環境で暮らしてまいりました。
 そして我々はその悪辣な環境をも奪われようとしました。
 ですから我々は生存のために戦争を始めました。」

九十九の声はざわざわと聴衆に動揺を与えた。
しかし九十九は信じたままを話す。
決して奢らず、高ぶらず・・・

「確かにその為に真実を知らない無辜の民をも巻き込んだことは否定しません。
 言い訳ではありませんが、兵力に劣勢な我々が生き延びる為にはそれしか方法がありませんでした。
 けれど我々はそのことを謝れません。
 我々とてむざむざ座して滅びるわけには行かなかったからです。
 それ以外に愛する人を救えないとしたらそうするでしょう。」

聴衆が動揺しているのはわかっている。
しかし、正確に互いの気持ちを伝えなければいけない。

「けれど、我々の望みはあなた方を滅ぼすことではない。
 ただ私達の望みは両親、恋人、家族、兄弟、友人、そういった愛すべき隣人を守ることです。ただそれを守るためにはあなた方と戦うしかなかった。
 けれど、これからも戦い続けることが愛する人達を守ることになるのか?
 私は違うと考えます!」

聴衆はざわめく。
九十九はかまわず続きを語る。

「事の発端は100年前、自らの罪の発覚を恐れた地球連合にあります。
 それは秘密にされなければいけないが故に、秘密にするためにさらなる血を流すことにより隠され続けた。
 けれど今は違う!
 あなた方は真実を知った!
 この戦いの始まった理由が如何にくだらないことかわかったはずだ!
 そして愛する人達を守るためにまだ相手を滅ぼさなければいけないと思いますか?
 私は違うと言いたい!」

聴衆達に衝撃が走る。
その言葉には確かに重みがあった。

「我々は分かり合えぬのか?
 我々は相手を滅ぼさねば存在し得ないのか?
 違う!
 我々は分かり合える!
 なぜなら我々は共にゲキガンガーを愛せるからだ!!!」

ドーン!!!!
まるで笑うセールスマンの様な形相で宣言する九十九
そして聴衆もあまりにも単純明快な主張に感銘を受けた。
何をバカな・・・というなかれ(苦笑)
さっきまでゲキガンガーを見て感動していた者達である。
その聴衆達が仮にも天空ケン似の男性が天空ケンばりの見得を切って、ゲキガンガーを愛していることを宣言したのだ。

ここで不思議な事にファンという共通の仲間意識が生まれる(笑)

「私、木連の和平特使である白鳥九十九は地球の皆さんに提案する!
 地球と木連の和平を!!!
 そして共に手を携えてゲキガンガー祭りを開催することを!!!」

その提案に聴衆は狂喜乱舞した。

九十九「レッツ!」
聴衆『ゲキガイン!』
九十九「レッツ!」
聴衆『ゲキガイン!』
九十九「レッツ!!!!!!」
聴衆『ゲキガイン!!!!!』

その日、地球で一番多くの「レッツ・ゲキガイン」が連呼された。
まぁ、その光景に頭を抱えた人間がいなかったわけでもないのだが(苦笑)



れいげつ・九十九の自室前


頬が高揚した九十九は月臣と自分の部屋に帰ってきた。
さっきの演説で気分が高ぶっていたのか、興奮したように九十九は月臣に語りかけた。

九十九「俺は今、猛烈に感動している!
 地球にもゲキガンガーを愛する人々があれほどいようとは!」
月臣「ああ、そうだな」
九十九「これから忙しくなるぞ!
 地球側の交渉窓口は撫子の方々が引き受けて下さるらしいから、俺達は草壁司令の説得をすればいい。けど地球の民衆のあれだけの支持があれば司令も折れるだろう。
 これで和平が成る!
 そう思うか?思うだろ、元一朗!」
月臣「ああ、そうだな」
九十九「ミナトさんもユキナも元気そうで良かった」
月臣「ああ、そうだな」
九十九「どうした、元一朗?
 浮かない顔だが?」
月臣「そんなことはない・・・」

月臣は自分が親友の起死回生を素直に喜べない自分がいることに戸惑っている。
なんだろう?この感覚は・・・

目の前にいる男は自分の親友のはずだった。
共に武勇を競う好敵手だった。
幼なじみで100勝99敗の僅差で自分の方が上だった。
なのに・・・
なぜ今自分が惨めに見えるのだろうか?
親友が偉業を成し遂げつつあるからだろうか?
それに対して自分は否定的な意見しか言えなかったからだろうか?

いや、九十九は明らかに殻を破った。
自分は旧態依然とした地球憎しという過去の感情に囚われ続けている。
九十九の親友というフリをしながらも、本音はその感情に囚われている。
和平をすべきだと頭では理解していても、感情が抜け出せていないままだ。
でも九十九はそんなところを軽々と飛び越えた。
たとえ地球に愛する人がいるということを差し置いても、九十九は簡単に飛び越えてしまった。
羨ましいぐらいに・・・

それが自分に引け目を与えているのだろうか?

そう思い悩む月臣であったが・・・

九十九「あ!!!」
月臣「どうした、九十九!?」
九十九「撫子の皆さんに今アキさんがこちらにいるというのを伝え忘れた・・・」
月臣「ああ、あの地球女か・・・
 っていうか、あの女は何でここにいるんだ?」
九十九「さぁ・・・」
月臣「さぁって・・・お前が連れ込んだんじゃないのか!?」
九十九「人聞きの悪いことを言うな!!!」
月臣「じゃ、不法侵入なのか?」
九十九「いや、そう言われればそうかも・・・」
月臣「スパイか?」
九十九「いや、そうじゃないと思うが・・・」
月臣「いや、そうに違いない!お前に近づいてお前を誑し込むつもりだ!」
九十九「いや、いくら何でもそれは飛躍しすぎじゃないのか?」
月臣「甘過ぎるぞ、九十九!!!
 ここは尋問してでも理由を聞き出すぞ!!!」
九十九「こら、元一朗、待て・・・」

鼻息荒く、腕にものを言わせても真相を聞き出そうと張り切る月臣。
抑えようとする九十九を引きずりながら、九十九の部屋の扉を勢いよく開けた!



れいげつ・九十九の自室


月臣「おい、地球女!
 大人しくそこに直れ!!!」
九十九「待てと言っているだろう、元一朗・・・」

勢いよく部屋の中に雪崩れ込んでくる二人。
しかし、彼らが部屋の中で見たものは・・・

アキ「あら、お帰りなさい〜♪」
月臣「何じゃ、こりゃ!!!」

九十九達はあんぐりと口を広げたままその光景を凝視する。
それもそのはず、部屋の真ん中には卓袱台がおかれ、その上には美味しそうなホカホカのご飯と料理が並べられていたのだ。
そしてアキは頭に三角巾、そしてエプロンを付けてお鍋を卓袱台の上に置いている最中だった。

九十九「あの・・・アキさん、一体何を?」
アキ「何って食事を作ったのよ。
 ほら、冷めない内に召し上がれ♪」
九十九「いや、だからなぜ・・・」
アキ「お腹が空いたから料理を作っただけなんだけど・・・
 おかしい?」
九十九「おかしくないですけど・・・」
アキ「まぁお世話になるお礼みたいなものよ。
 冷蔵庫とか調味料の棚とか覗いてもあまりめぼしいものとかなかったから、あり合わせでゴメンだけど、それなりに美味しく出来たと思うから♪」
九十九「まぁ、十分美味しそうですが・・・」

確かに卓袱台にある料理は美味しそうな匂いを醸し出している。
元々食糧事情の良くない木連では料理が美味しいというのは滅多にないことなのである。
第一士官とはいえ、その冷蔵庫の中身が豊富ということはない。
調味料でさえ、塩や砂糖、醤油に味噌ぐらいで、決して卓袱台上にある料理を満足に作れるほどの品揃えがあったとは思えない。
なのにまるで魔法で出したかのように卓袱台にはご馳走と呼べる料理が並んでいた。

アキ「さぁ、召し上がれ♪」
月臣「・・・騙されんぞ!!!俺達を食い物で買収しようというつもりだな!」
アキ「何を訳の分からないことを・・・」
月臣「そんな料理美味しいわけないだろう!
 毒でも盛ったのか?
 そうだろう!そうに違いない!」

及び腰ながらも、びしっと指を指す月臣
あくまで追究する姿勢を崩すつもりはなかった。
しかし、相手はそんなことで怯まなかった。

アキ「はいはい、疑うのは勝手だけど、料理が冷めちゃうからさっさと食べて!」
月臣「な、何を・・・うぐぅ!」
アキは瞬きをする暇も与えずに取り出した箸を持つと手に持っていた鍋から肉じゃがのジャガイモをひとつまみして月臣の口に放り込んだ。

ハグハグハグ・・・・
ムシャムシャムシャ・・・

最初はいきなりなので毒でも盛られたか!みたいな顔をしていた月臣であるが、やがて口の中のものを味わう余裕が出てくるとその顔は次第に笑顔に緩んでいった。

アキ「どう?美味しいでしょ」
九十九「元一朗・・・うまいのか?」
月臣「・・・」

腰に手を当てて威張るように言うアキ。
けど月臣はその不遜な態度に反発すらしない。
つまり言葉も出ないほど美味しいらしい(笑)

アキ「白鳥君も食べる?」
九十九「え?ええ・・・」
アキ「はい、あ〜〜ん」
九十九「いや、えっと・・・・こりゃ美味しい!」
アキ「ありがとう♪」

などと外野がやっている間にも月臣の中で何か殻が壊れる音がしていた。

胸は大きすぎず小さすぎず、まさにナナコさんサイズ
知的で健康的、爽やかなお色気
そして何より料理が上手い家庭的な女性・・・

アキ「・・・どうしたの?彼」
九十九「いや、何かに感動しているのではないかと・・・」

俺は・・・
俺は・・・
肉じゃがの作れる家庭的な女性を待っていたのだ!!!

月臣「俺の・・・
 俺の・・・
 俺のナナコさんがこんな所にいたなんて!!!!!!」
アキ&九十九「はぁ?」

アキと九十九が目を丸くする中、頑なに偏見の目で見ていた色眼鏡が取れたのか、改めて月臣はまじまじとアキの姿を見る。
そして突然自己紹介を始めた。

月臣「俺の名前は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび他衛星小惑星国家間反地球共同連合体突撃宇宙優人部隊少佐、月臣元一朗だ!」
アキ「えっとアマガワ・アキ17歳・・・」
月臣「おお、17歳♪
 ナナコさんと同じ年か♪」
アキ「ゴメン、冗談です。本当は24歳・・・
 っていうか、ウソだって気づきなさいよ!」
月臣「ということは姉さん女房か・・・それも悪くない♪」
アキ「悪くないって・・・何が?」
月臣「特技は木連式柔、免許皆伝の腕前だ。いざとなったら守ってやるぞ!」
アキ「間に合ってます。私も一応皆伝だから・・・」
月臣「なに?武術も得意なのか!
 なるほど、共に同じ趣味というわけだな?」
アキ「いや・・・趣味というか必要に迫られてなんだけど・・・」

いつの間にかアキの手を握り、盛んに自己PRを始める月臣
既に退き気味のアキを見かねた九十九が割ってはいるが・・・

九十九「おい、元一朗、お前は一体何を・・・」
月臣「何だ、九十九。お前は俺の邪魔をするのか?」
九十九「いや、そう言うわけでは・・・」
月臣「第一、お前にはハルカ・ミナトという女性がいるのだろう?
 それとも何か?お前も彼女に惚れているというのか?」
九十九「いや、そうではないが・・・」

あっさり押し返される九十九(笑)
九十九を追い払った後、月臣のさらなるアタックは続く。

月臣「九十九と違って俺は付き合っている女性はいない」
アキ「は、はぁ、そうですか・・・」
月臣「何も今すぐどうこうと言っているわけではない。
 ここは俺という人間の人となりをじっくり知ってくれればいい。
 俺はすぐに『我が生涯の伴侶!』などと叫んだりはしないぞ?」
アキ「あ、そう・・・」



れいげつ・某所


北辰「ぶぇっくしょん!!!」
草壁「どうした、風邪か?」
北辰「いや、そうではないが・・・・
 何故か生涯の伴侶が近くにいるような・・・」
草壁「・・・伴侶?」



再びれいげつ・九十九の自室


月臣「まずは交換日記から始めよう。
 俺という人間をじっくり知ってもらって、それから本格的な交際を・・・」

猛烈果敢な月臣の攻撃に防戦のアキ。
しかし彼女は起死回生の一手を打つ(笑)

アキ「あ、あの・・・
 とりあえずご飯が冷めるから召し上がれ♪(汗)」
月臣「おお、そうだったな!
 アキさんが丹誠込めて作った料理だ。
 おい、九十九、何をぼやぼやしてる!
 冷めない内に頂くぞ!」
九十九「あ、ああ・・・」
アキ「なんか・・・アイツがもう一人増えた気が・・・」



とりあえず、問題を先送りにしつつも何とか元師匠に迫られるという危機を回避したアキさん(笑)
その日の夕食は楽しいものになった。


月臣「う、旨い!」
九十九「本当に美味しいです、アキさん!」
アキ「ありがとう♪」
月臣「まさにお袋の味だ〜〜(ジーン)」
アキ「いや、そう言われても嬉しくない・・・」
九十九「しかし信じられません。大した食材もなかったのにここまで美味しい料理に変身するなんて」
アキ「まぁこれでもコックだからね♪」
月臣「コック?なんだ、それは?」
アキ「調理を生業としている料理人ってことよ」
月臣「食堂のおばちゃんって事か?」
アキ「いや、まぁ・・・違わないと言えば違わないんだけど・・・
 なんか悔しいような・・・
 いやいや、そんなことを言うと食堂のおばちゃんに失礼だし・・・」
九十九「アキさん、元一朗の言うことをあまり気にしないで下さい・・・」
月臣「旨い!旨すぎる!!!」
九十九「おい、元一朗、あまり騒ぐと部屋の外に聞こえるじゃないか・・・」

ワイワイ、ガヤガヤ、騒ぎながらだが、そういう雰囲気で囲む食卓もまた楽しいものだ。
何よりも和平の目処が付いたというのが今まで身動きがとれなかった彼らの心を浮き足立たせていたのかもしれない。
彼らは浮かれるように騒いだ。
久々に思う存分笑ったような気がする。
そしてこんな日々が続くものとばかり思っていた。

和平が成って・・・
地球と木連の人々が手に手を取り合って・・・
愛する人達と一緒にいられて・・・

そんな日々が始まりそうな予感がしていた・・・

けれど・・・
多分彼らには気づかなかったろう
彼女だけが少し寂しげな顔をしていたのを
きっとアキトやユリカらなら気づいたであろう些細な表情の陰りを浮かれていた彼らが気づく由もなかった・・・



就寝時・れいげつ九十九の自室


アキは九十九の部屋で寝ることにした。
当初は月臣が頑強に反対したらしい。
ものすごく反対したらしい。
しかし・・・

月臣「貴様には巨乳女がいるではないか!!!」
九十九「じゃ、貴様の部屋にアキさんがいて、お前は自制が出来るというのか!!!」
月臣「そ、それは・・・
 そういうお前こそ、自制が効くのか!!!」
アキ「心配いらないわよ。
 昨日だって手出しされなかったんだから」
月臣「そうか。なら安心だ・・・・
 って何ですって!!!!!
 昨日も九十九と一緒の部屋にいたのですか!!!!」
アキ「ああ、心配いらないわよ。
 彼って手を出すほど勇気も根性もないから」
九十九「アキさん・・・それはそれで惨い言われ方をされている気が・・・」
とまぁ、悔しがる月臣を何とか宥め賺せてアキを九十九の部屋で匿うこととなった。

で、『婦女子にベッドを譲るもの!』という九十九のレディーファースト精神によりベッドはアキが占有し、九十九は和室に布団を敷いて寝ることにした。

それまでの和平への腐心と目処が立った事への安心感とさっきのバカ騒ぎのせいか、隣の部屋に妙齢の女性が寝ているはずなのに九十九はさっさと寝息を立てた。




心地よい眠りのはずだった・・・



なのに、なぜか九十九は人の気配に気が付いて寝ぼけながらも目を覚ました。

「ん・・・誰ですか・・・」
九十九は目を擦りながら暗闇を凝視する。
暗闇の中にぼんやりと白い姿・・・
それは長い髪の女性であることに気づく。

「ん・・・アキさんですか?
 トイレなら・・・」

九十九は自分がまだ寝ぼけていることを自覚しつつも、彼女が自分の元にやってきた理由などそれしかないだろうと適当に応対した。

しかし、闇に目が慣れるに従って、白い部分がヤケにはっきりと見えてきた。

真正面にアキの顔
それだけなら良いのだが、タンクトップから覗く胸元がヤケに刺激的だ。
何より少し憂いを秘めた彼女の顔が九十九の脳裏を直撃する。
そのせいで一気に九十九の頭は冴えた。

「あ、アキさん、どうしたんですか?」

本人は何も答えない。
健全な木連男子である九十九はなぜか健全(?)な発想をした。

『これが夜這いというものか!?』・・・と(爆)

「い、いけません!自分にはミナトさんという心に誓った女性が・・・」

真っ赤になりながら必死に訴える九十九を余所に、アキは非常にゆっくりとした動きで九十九に迫っていく。
九十九もそんなアキに対してどんな事を口走ったのか、全然覚えていないのだが、必死に『早まらないで』とか『自分の体を大事にして下さい!』とか訳のわからないことを口走っていたらしい。

しかし、ゆら〜りと迫ってくるアキの姿はなぜか艶めかしく、視線は釘付けになった。
次の瞬間、彼女は声を発した。
けれど、それは九十九が想像していたような種類の内容ではなかった。

「白鳥君、ゴメン・・・」

九十九がその台詞の真意に気づいた瞬間、
アキが手に持っていた包丁を振りかざすのに気が付いた。

『ゴメンってそういう意味だったのか・・・』
九十九は振り下ろされる包丁を信じられない気持ちで見つめながら必死にその包丁から身をかわそうとした・・・

ってことで後編に続きます



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「あ・・・この形式の後書きって久しぶり」

−本当ですね(ほのぼの)

アキ「そうだね・・・・
 ってこんなことでほのぼのしてどうする!!!」

−何を怒っているんですか?

アキ「何をって!
 今回は浮気者の彼氏を殺そうとする思い詰めた女性って感じじゃないの!!!」

−感じのって、そういう感じで書いているからじゃないですか

アキ「ですかって、メロドラマじゃないんだから情事の縺れっていうのも何だかなぁ・・・」

−仕方がないですよ。これからしばらくは木連編なんですから。せいぜい九十九君や月臣君達と青春ドラマをしてもらわないと

アキ「青春ドラマか?これが?」

−そうですね。そのうち北辰さんとも三角関係とか勃発しそうですし

アキ「待て!その三角関係って何だ!」

−だから月臣と北辰があなたを争って『僕は死にましぇん!!!』とかやるという(笑)

アキ「だからそういうシーンを入れるなと言ってるだろうが!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・Shu 様
・k-siki 様
・kakikaki 様
・近藤佐久間 様
・AKF-11 様