アバン


歌の文句じゃないけれど、何でもないようなことが幸せだったと思う。
戻れないかもしれないと思って初めて気づくこともある。
ただ笑っていられる場所がどれだけ大切かを改めて知らされる。

いずれ私達はナデシコから巣立つだろう。
一人で自立して自分の居場所を作り始めるかもしれない。
ナデシコで過ごした日々の想い出はキラキラと輝く宝石のように宝石箱へ仕舞っておく時が来るかもしれない。

けれど今はその時ではない。

まだ想い出にはさせない。
私達はまだ何も成し遂げていないのだから。
あの人もそう思って頑張っているのだから。

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



ある食堂の一日・早朝


その食堂の朝は早い。
朝一番早く起きるのはとんがり頭の少年だ。
彼は朝起きると厨房の朝市に出かけるために親方が起きてくるまでを自分の武術の練習に充てている。

「・・・」
彼は朝靄の中、静かに自分の呼吸を確かめる。
自分の心臓の鼓動を自覚する。
そしてゆっくりと腕を上げる。
筋肉の動きを確かめる。
血流を感じる。

言葉にすればそういうことになる。
それが気の流れを感じるということだ。

今度は降ろした手を一瞬で跳ね上げてみる。
・・・悪くない感じだ。
ちゃんと自分の意志が腕から指の先まで通っている。
具体的にどう筋肉が動いたか確認できた。

さて、今度は本当に型の練習をするか・・・

ジュン「何やってるんだ?朝っぱらから」
アキト「わぁ!」

いきなり後ろから声をかけられて彼、テンカワ・アキトは驚く。
彼に声をかけたのはアオイ・ジュン。この間までナデシコで副長をやっていた男だ。
ジュンはさすがに朝早くて眠いのか、Yシャツだけの姿で目をこすりながら庭先のアキトを眺めていた。

アキト「・・・Yシャツを着るのはやめろよ」
ジュン「何でだよ」
アキト「頼むから下ぐらいは何か穿いてくれ・・・」
ジュン「はぁ?」

シャツの下にトランクスを穿いているのだが、顔が顔だけにとってもやばい気分になる(苦笑)

それはともかく・・・

ジュン「朝っぱらから何をやってるんだ?」
アキト「ん?何って稽古だよ」
ジュン「武術のか?」
アキト「ああ。たまに忘れそうになるからな」
ジュン「ふぅ〜ん」

ジュンにはそうは思えなかった。ただ手を上げ下げしていたようにしか見えなかったのだが・・・
にしても、この軟弱そうな男が本当に強いのだろうか?

ジュンはそう思う。
意外に思うかもしれないが、こう見えてもジュンはそれなりに強い。
士官学校で格闘戦も学科の中に含まれているからだ。
トータルの成績で見ればジュンはユリカに負けていない。
ただユリカは戦略シミュレーションなどの指揮官としての学科が飛び抜けて優秀だったので目立つが、銃撃戦や一通りの事をさせるとジュンの方がまだ良いのだ。

ジュンは少し腕に覚えがあるのか、ユリカに対する未練があったのか、勝負を吹っ掛けてみることにする。

ジュン「テンカワ、訓練付き合ってやろうか?」
アキト「え?いいのか」
ジュン「ああ。組まないと練習とかやりづらいだろ?」
アキト「そりゃ、ユリカに組み手の相手をしろって言えないから困ってたんだけど・・・大丈夫か?怪我するぞ?」
ジュン「失礼な。これでも士官学校での成績は良かったんだぜ」
アキト「じゃ、お願いする」

アキトは武術の礼をする。
ジュンも答えるように礼をする。

アキトは構えを取らないのが構えだった。これがアキから学んだ武術の基本形だ。

対するジュンは半身開きで片手にナイフを持っているという想定の構えだ。
対ナイフ戦には有効な構えだ。
相手への投影面積は狭ければ狭い方が傷つけられにくい。
そして左手で相手からの攻撃を払い落として右手のナイフで相手を刺す。
実に教科書通りの構えだ。

じりじりと間合いを詰める二人・・・

先に仕掛けたのはアキトだ!
彼の柔術の極意は先の先を取ることにある。
当然、ジュンもアキトの動きに反応する。

アキト「はぁぁぁ!!!」
ジュン「はや・・・」

アキトを払おうと伸ばしたジュンの左手をアキトはあっさりと弾き、そのままジュンの肩を押し込んだ。既に右手で殴ろうとしていたジュンはその行為で自分の姿勢を崩される。
及び腰で流れるように出てきたジュンの右手をアキトはそのまま掴み、引き寄せた。

周りにギャラリーがいたらアキトは単に右足を前に踏み出しながら体の向きを変えただけに見えたであろう。
そう、たったそれだけの動きなのにジュンの体は宙に舞った。

ジュン「うわぁぁぁぁ!!!」
アキト「おっとっと。あんまり奇麗に技にはまってくれるから投げ飛ばしちゃう所だったぜ」

アキトは寸前の所でジュンを地面へ叩きつけるのを免れた。

ジュンは呆然としながらもアキトの強さに慄然とした。
これがあのテンカワ・アキトだって?
ジュンはユリカを争うライバルだと思っていたのに・・・
いつの間にか置いて行かれた気がした・・・




まぁ、そんな感慨はともかく・・・



ガタン!!!

あらぬ方向で物音がする。
二人が振り返るとそこには・・・

ユキナ「お、男の人同士で・・・」
ジュン「ゆ、ユキナちゃん?」
アキト「い、いや、これは何というか・・・」
ユキナ「不潔よぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
アキト&ジュン「誤解だって!!!!」

泣きながら叫んで走り去るユキナに必死の弁明をする二人であった(笑)
ま、確かにそのくんつほぐれつ状態は言い訳できないわなぁ(苦笑)



ちなみにお姫様はというと


ユリカ「アキト・・・むにゃむにゃむにゃ〜〜♪」

お姫様は力一杯夢の中だったのでその光景を見ずに済んだそうな(笑)



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十三話  Reconstruction<case by AKITO&YURICA>



ある食堂の一日・朝食


開店前の店では居間で従業員一同、食事をとる。
しかし居間は元々それほど広くはない。
従業員兼店主の一人しかいない状態ではそれなりに広かったのだが、さすがに男女含めて6人が丸い卓袱台を囲むという状態はきついモノがある。
時間をずらしてとれば良いという意見もあるし、現に男性陣からそういう改善意見も出たのであるが・・・

ユリカ「ご飯はみんなで食べた方が美味しいですよ♪」
ジュン「でも狭いし・・・」
ミナト「二回も配膳する身になってよねぇ」
アキト「そりゃ、そうだけど・・・」
才蔵「お、俺はどっちでも良いけど」
ユキナ「あ、おじさん、鼻の下伸びてる」
アキト「けど・・・」
ミナト「艦長に朝食作らせちゃうわよ」
アキト&ジュン「!!!!!!!!!!!!」
ユリカ「作っちゃいます♪」
ユキナ「どうかしたの?」
アキト&ジュン「・・・一緒で良いです」

ということでなし崩し的に決まったらしい(笑)

ちなみに、いつも卓袱台では6人は食卓を囲めないので何人かは食堂の方へあぶれる。
今日はアキトとジュンが食堂の方にあぶれていた。

ユリカ「アキト、こっちに来なよ〜」
アキト「そう言ってもなぁ・・・」
ユキナ「ダメ!変態さんと一緒に食事を囲むなんて!!!」
ミナト「へぇ・・・二人ってそういう関係だったのね・・・」
アキト「だから誤解ですって!」

必死に説得するもまだ誤解は解けていないようだ(笑)

それはともかく・・・

ジュン「テンカワっていつの間にあんな技を?」
アキト「あれは技って言うか歩法の訓練だよ」
ジュン「歩法?」
アキト「ああ。体を捻らずに相手の動きを捌く技法さ。かなりの初歩」
ジュン「え?」
ユキナ「その初歩にあっさり負けちゃったのか、ジュンちゃんは」
ジュン「ガーン!」
ユリカ「やっぱりアキトは凄い!!!!」
ジュン「どうせ僕なんて!!!」

ハーリー泣きをしながら逃げだそうとするジュン
しかし

才蔵「おい、もうすぐ開店だぞ?
 逃げ出すのは店を閉めてからにしろよ」
ジュン「・・・・はい」
脱走に失敗するジュンであった。

で、あまりこういうことに関心のないユリカはというと・・・

ユリカ「ワイドショー♪ワイドショー♪」
ユキナ「もうすぐ開店だよ!」
ミナト「まぁちょっとぐらい良いじゃない」
ユキナ「ブー」

ミナトも見たかったのか、ユリカも支持した。
ユリカは嬉しそうにリモコンの電源ボタンを押す。

すると案の定、朝のワイドショーをやっていた。

ユリカ「行列の出るお店だって」
ユキナ「・・・近くじゃん」
ミナト「これってライバルじゃないの?」
ジュン「このお店より流行ってそうだね」
アキト「おい、うちも一応は食堂だぞ・・・」
才蔵「聞こえてるぞ!」

才蔵のこめかみに2、3本青筋が立っているのに気が付いて首をすくめる一同。
とりあえずTVに注目する。
TV画面では興奮したナレーターが客にインタビューをしていた。

レポーター『本日は行列の出来る料理店という事で今流行の中華料理店にやって参りました。早速並んでいる人にインタビューして見たいと思います。
 なぜこのお店に並んでるんですか?』
客その1『いやぁ、なんたって料理が美味しいんですよ♪』
レポーター『向かいの広州飯店も美味しいと評判ですが?』
客その1『目じゃないよ。ここ数日で驚くぐらい上手くなったんだから』
レポーター『そうですか。では次の人に聞いてみましょう。
 あなたは毎日通われてるんですか?』
客その2『ええ。もう美味しくて。
 でもなんたって新しく入ったシェフがカッコイイの何の♪』
レポーター『ほう、カッコイイとは?』
客その2『黒ずくめの女性なんですけど、まるで救世主みたいに広州飯店にいびられていたこの店を救ったんですよ。
 見ていて胸がスッとしました♪』
レポーター『それは凄いですね!』

それを聞いていた一同は何故かデジャビューを感じた。

アキト「・・・黒ずくめ?」
ユリカ「女の人?」
ミナト「料理が上手い?」
ジュン「まさか・・・」
ユキナ「?」

と、そこでTVの方も変化が起こったようだ。

レポーター『おっと!なんと広州飯店があの店に料理勝負を申し込んだ模様です!!!
 ワイドショーはこのまま時間を延長して一部始終をお送りしたいと思います!!!』

身を乗り出してTVを見る一同。
しかしそれを一喝する人物がいた。

才蔵「お前ら!いつまでTVを見ているつもりなんだ!
 もうすぐ開店だぞ!!!」
アキト「いや、でも・・・」
才蔵「んな10年早い店同士のゴタゴタなんかどうだって良いだろう!
 晩飯抜きにするぞ!」
アキト「はい・・」

仕方がないので一同は仕事を始めることにしたのだった。



とあるつぶれかけた中華料理店


さて、アキト達が途中で切ったTVであるが、実際の現場では次のような状況になっていたりする(笑)

アキ「お、お願いだから離して〜〜!!!」
幸子「見捨てないで〜行き倒れになっているところを助けたでしょ〜」
アキ「そう思うから数日包丁をふるったじゃないですか〜
 もう十分働いたでしょ?」
幸子「後生だから広州飯店の料理対決だけは受けて〜〜」
アキ「派手なのは困るのよ〜〜」
幸子「今負けたらご先祖様達に顔向け出来ないのよ〜」
アキ「いや、もう今の時代、共存共栄ですから〜〜
 過去のつまらない諍いはこの際水に流して〜」
幸子「そんなこと言うけど、私は幸子という名前に似合わず今までずっと不幸続きで〜〜
 せっかく出来たと思った彼氏も実は広州飯店のシェフで、事もあろうに当店秘伝の海老チリソースマヨネーズ和えを教えちゃったの〜」
アキ「チリソースにマヨネーズって・・・」
幸子「同じ料理を志す者として、将来お店を一緒にやってくれるものと思って教えたのに、あの人はその料理のレシピを持って広州飯店に寝返っちゃったの〜〜
 おかげで店はどん底。
 やっと一矢報いることが出来るの〜」
アキ「だから私で一矢報いなくても〜〜」
幸子「お願いだから〜〜」

逃げだそうとするアキを必死に捕まえるお姉さん(笑)

外では逃げだそうとするアキの気持ちをよそに・・・

老人その1「あいわかった!この勝負、この味皇が見極めて進ぜよう!!!」
ギャラリー「おおおおお!!!」
老人その2「ならばこの海原雄山も審査に加わろう!!!」
ギャラリー「おおおおお!!!」
老婦人その3「では料理記者歴30年の岸朝子もお手伝いしましょう」
ギャラリー「おおおおお!!!」
レポーター「これは大変なことになりました!!!
 伝説の食通達が審査に加わろうとは!!!
 TBSはこの模様を実況生中継でお届けします!
 解説はこの方、服部幸夫氏に・・・」

アキ「だぁぁぁぁぁ!!!段々話が大きくなってるし!!!!」

サセボに所用があって立ち寄ったら行き倒れになって、恩返しにと思って包丁をふるったらとんでもない事態に巻き込まれることになるアキであった。

ちなみにこの後、なるべく目立たないようにメグミのマンションに潜伏することになるのは余談である(笑)



ある食堂の一日・昼食時


雪谷食堂のお昼は今日も満員である。
特に可愛い看板娘が三人も入ったとあれば尚更である。

厨房では才蔵とアキトがオーダーの消化に奮戦していた。

ユリカ「チンジャオロースー追加」
才蔵「あいよ!」
ミナト「C定入ります」
アキト「あいよ!」
ユリカ「何でアキトは私のオーダーに返事してくれないの!」
アキト「バカヤロ!俺は定食担当だ!」
ジュン「こら、テンカワ!ユリカに向かってバカヤロとは何事だ!」
ユキナ「ジュンちゃん、ほらほら皿洗いサボってないで!
 洗ってくれないとどんぶりとお皿が足りなくなっちゃうよ!」
ジュン「は、はい・・・」

いつもの漫才が始まり、店内はくすくすと笑い声が漏れる。
各人がそれぞれの仕事に戻る中、才蔵はそれとなくアキトの手つきを覗き見た。

お玉を持つ手がとても奇麗だ。
まるでお玉の先にまで神経が通っているかのように緊張している。
調味料が入っている容器に全く無駄なくまっすぐ一直線にお玉の先が走る。
そして塩を迷いもなくひとつまみ掬う。
掬った量が絶妙だ。数mgの間違いもないように掬い取っている。

そして量も確かめずにそのまま鍋に塩を放り込む。
掬った量に絶対の自信が、確信があるかのように。

放り込んだ直後お玉で鍋の中身を勢い良くかき混ぜる。
ここで自分の腕に自信がない者は中身をこぼさないように勢い良くかき混ぜられない。
だが、その自信のなさは手際の悪さを招き、無駄に素材を火にかけ、そして火を通しすぎる。
結果、べちゃべちゃの味になるのだ。

けれど今のアキトの料理には迷いがない。
鍋の中の素材の状態がわかっているようだ。
お玉から伝わる微妙な手応えの違いもわかっているのだろう。
迷いがないからこそ、それぞれの作業は手早く終わり、必要な時間だけ高温にくぐらせることが出来る。結果、仕上がりはパリッとする。

アキト「C定あがったよ!」
ミナト「は〜い♪」
ユリカ「才蔵さん、私のチンジャオロースーはまだ?」
才蔵「あ、ああ。やってるよ」

『何であんなに化けやがったんだ?』
才蔵は驚く。
自分の所を出ていった頃はあんなにも逃げまくっていたのに、今のアキトは逃げていない。
この1年あまりでこの少年の何が変わったのだろう?
そのことが不思議でならなかった。



とあるつぶれかけた中華料理店


ちなみにあのつぶれかけた中華料理店はどうなっていたかというと・・・

アナウンサー「勝者!ミス味っ子(ペンネーム)!」
広州飯店シェフ「クソぉぉぉぉ!!!」
幸子「やったわ!勝ったわ!!!」
広州飯店シェフ「これは何かの間違いだ!反則をしたんだ!
 そうでなければ俺が負けるはずがない!!!」
味皇「バカもん!!!!」
広州飯店シェフ「ひぃ〜」
味皇「貴様は料理で負けたのではない!!!
 己自身に負けたのだ!!!」
広州飯店シェフ「ガーン!そうだったのか〜〜」
海原雄山「他人の発明をかすめ取ろうなどという努力もしない奴に料理人を名乗る資格などない!」
広州飯店シェフ「では俺はどうすれば・・・」
岸朝子「料理は愛情」
広州飯店シェフ「お、俺が間違っていた!
 幸子、やり直そう!」
幸子「あんた・・・わかればいいんだよ♪」

ヒシ!

レポーター「か、感動的なシーンです」
服部先生「ええ話や〜〜」
レポーター「放送席〜、放送席〜、会場が感涙にむせんでいる所ですが、勝者のミス味っ子(ペンネーム)さんにヒーローインタビューをしたいと思います♪
 勝者のミス味っ子(ペンネーム)さんは・・・
 あれ、どこに行ったのですか〜〜」

アキ「付き合ってらんないわよ〜〜〜」

一組のカップルの幸せと会場に食のすばらしさと感動を伝えた謎の料理人であり勝者である『ミス味っ子(ペンネーム)』ことアマガワ・アキはさっさとずらかったのであった(笑)



ある食堂の一日・昼食すぎ


お昼時は交代で休憩と昼食を取る。
現在休憩しているのはユリカである。

ユリカは昼メロ(お昼のメロドラマ)である『愛の百合が丘』にハマっていたりする(笑)
食事をポロポロこぼしながらユリカはドラマを食い入るように見ていた。

カイト『お嬢様、いけません!自分は小作人の息子です』
ユリ『そんなの関係ない!お前は私のことを愛してないの?』
カイト『そんなことありません!けど旦那様に叱られます』
ユリ『お父様なんて関係ないわ!
 私のことが好きなの?嫌いなの?』
カイト『お、俺は・・・お嬢様が好きだ!』
ユリ『嬉しい♪』

ヒシ!と抱き合う二人。
ユリカは画面の中の出来事とは言え、自分の姿を登場人物達に当てはめて少し赤くなっていた。

ユリ『お願い。どこか遠くに連れて逃げて・・・』
カイト『でも、貧乏な生活が待ってますよ』
ユリ『愛があればそんなの障害でも何でもないわ♪』
カイト『流れ流れて極寒の網走ですきま風のすさぶ長屋で傘貼り生活をしなきゃいけないかもしれないんですよ』
ユリ『大丈夫。なら私は爪楊枝を作るわ♪』
カイト『美味しいものも食べられなくなりますよ』
ユリ『わかっている。おやつの大福も一日一個で我慢するわ』
カイト『お嬢さん、そこまで俺のことを・・・』
ユリ『ユリって呼んで』
カイト『逃げよう、ユリ。二人だけの世界へ!』
ユリ『嬉しい』

そして二人は熱いベーゼを・・・
手で目を隠しながら、実はこっそり指の間から画面を見るユリカ
しかし・・・

ピ!
TVの電源が切れた。
抗議の声を挙げようとするユリカであるが、そこにはリモコンとお盆を抱えて仁王立ちするユキナの姿があった。しかも結構怒っていた。

ユリカ「あーーー!!!」
ユキナ「いつまでTV見てるの?休憩終わったんでしょ?」
ユリカ「でもこれから二人は愛の契りを・・・」
ユキナ「私だってご飯食べてないし、お掃除とかお洗濯物の取り込みとかミナトさんの仕事を手伝わないといけないんだから早くしてよね」
ユリカ「でもお店暇そうだし、私が店番していなくても・・・」
ユキナ「サボるつもり!?」
ユリカ「はい・・・わかりました」

仕方がないのでユリカは渋々食堂に戻ることにした。

食堂に戻ったユリカを昼飯時がすぎたというのにお客がたくさん待っていた。

ユリカ「ご注文をどうぞ♪」
お客その1「俺、酢豚定食」
お客その2「餃子定食」
お客その3「タンメン」
お客その4「チャーシュー麺大盛り」
お客その3「あ、俺やっぱり半ライス追加」
お客その1「俺ビール追加」
お客その5「味噌ラーメン」
お客その4「あ、ネギ抜いてね」
お客その6「俺も味噌」
お客その2「あ、やっぱり半チャーハン追加」
お客その7「俺、定食」
お客その8「俺も」

さぁ、普通に聞いていたら全然わからないほどオーダーが一気に飛び交った。
これを聞いたユリカはというと・・・

ユリカ「復唱します。そちらから
 酢豚定食でビールはお昼やってないんですよ、
 餃子定食に半チャーハン、タンメンと半ライス、
 チャーシュー麺大盛りネギ抜き、
 味噌、味噌、
 奥の方は二人ともC定食でよろしいですか?
 以上、ご注文に間違いはありませんか?」

一瞬の沈黙の後に喝采が巻き起こる。
淀みなく注文をそらんじたユリカに賞賛の声が浴びせられた。
ユリカも照れながらピースサインをする。

才蔵「へぇやるねぇ。食堂の給仕にはもったいないや」
ジュン「でしょ?こう見えても士官学校を主席で卒業ですから」
アキト「ま、人間誰にでも取り柄はあるよなぁ・・・」

ユリカを持ち上げるジュンにやる気のない声で水を差すアキト。
アキトは気のない顔でジャガイモを剥いていた。
手だけは動いているのはさすがだが、お昼時ほどやる気は出ていなかった。

ジュン「何だよ!ユリカが優秀じゃないって言うのか!」
アキト「優秀の結果が場末で潜伏生活か・・・」
ジュン「な、何だよ。ユリカのせいだって言うのか?」
アキト「そうは言わないけど・・・しっかり食堂の生活に染まっていて良いのかって自問自答しないのかよ」
ジュン「そ、それは・・・」

誰も説明しなければ彼女が戦艦の艦長さんだったなどとは気づかないだろう。
オーダーを取る様や昼メロに泣いている姿を見ればすっかり食堂のお姉さんである(笑)

アキト「再起するにもナデシコは封印されてるだろうし、アキセカンドだけじゃ1時間も暴れてお終いだ。これからここで食堂の従業員に甘んじるのか?」
ジュン「誰もそんなこと言ってないだろ!」
アキト「ならその優秀なユリカ様が状況を打破する見事な計画を立ててくれても良いだろうに、メロドラマにハマりやがって・・・」
ジュン「・・・」

反論しようのないジュン。
だが、アキトの思い上がりを小突いたのは才蔵だった。

才蔵「こら!お前はコロッケの大安売りでもするつもりか!」
アキト「あ・・・」
気が付くとアキトはいつの間にか籠一杯のジャガイモを剥いていた。

才蔵「オーダー貯まってるんだぞ!さっさと仕事しやがれ!」
アキト「は、はい!」
才蔵「そっちのも洗い物貯まってるだろ!さっさと片づけろ!」
ジュン「はい!」
才蔵「酢豚定食あがったよ!」
ユリカ「は〜い♪」

雪谷食堂は今日も繁盛していた。



ある食堂の一日・おやつ時


忙しい頃もすぎて、ミナトとユキナは洗濯物を取り込んでいた。

ミナト「本当、洗濯日和よねぇ♪」
ユキナ「日和?」
ミナト「そうか、木星にはお日様は照らないのよね・・・
 日和っていうのはこういうこと♪」

ミナトは干し立てのシーツを縁側で洗濯物を畳んでいるユキナに持たせる。

ミナト「どう?フカフカでしょ?」
ユキナ「・・・うん」
ミナト「乾燥機で乾かすより、こうやってお日様と自然の風で乾かすとこんなに肌触りが良くなるの。良いでしょ?」
ユキナ「・・・そうだね」
ミナト「みんな、仕事が忙しいとか言って乾燥機で済ますけど、絶対損してるよね。こんな気持ちいいのに。もったいないよねぇ」

そう言ってミナトはユキナにウインクする。
さもこんな気持ちの良い物を利用しないなんて罰当たりな!ってな顔でおどけてみせる。
ユキナはふかふかのシーツを握りしめながら少し感動している。

『フカフカなのは・・・』
あなたの方だと良いそうになって、テレからなのか言うのをやめるユキナ。

でもポツリと別の言葉を言った。

ユキナ「あんたなら良いかもね」
ミナト「ん?」

お兄ちゃんと一緒になるなら・・・という言葉を前に付けるのをやめた。
そのかわりちょっぴり憎まれ口を叩く。

ユキナ「地球にも良い奴いるじゃん・・・」
ミナト「悪い奴も多いけどね」
そう言うと二人はクスクス笑い合った。

それを遠くから見ていたアキトは・・・
「やっぱりこのままで良いわけないよな・・・」
本来は敵味方同士なのに分かり合える二人を見ていてアキトはそう呟くのであった。



ある日の食堂・夜


あれから十数日が過ぎた。
アキトは夜、店が閉まってからチャーハン作りの練習をしていた。
なかなか満足が行く物が作れなかった。
ここを出ていくというのなら、また半端なままで出ていくのは嫌だから。
せめて才蔵さんに認められてから出ていきたいと思った。

認めてもらうためには、まず自分が認めなくては
納得のいく物を作りたいと思った。

そして今日完成した。

アキト「親方。味、見て下さい」
才蔵「・・・わかったよ」
才蔵はアキトの目つきを見て何を思ったのか、素直にアキトが差し出した皿を受け取った。
そしてレンゲで一掬いして口に放り込んだ。

モグモグ・・・
アキトは不安ながらも自信に満ちた顔で答えを待っていた。
やるだけやった。自分の力を全部出し切った。
これならダメでも悔いはない、そういう顔だった。

才蔵はレンゲを置き、素っ気なくこう言った。

才蔵「10年早い」
アキト「そうですか」
その割にはアキトのサバサバした顔が印象的であった。
才蔵は照れ隠しに咳をすると、こう付け加えた。

才蔵「ま、合格だよ」
アキト「え?」
才蔵「本当は十分だ。けどあのお姫様にそのぐらいサバ読んでって言われてるんだ」
アキト「お姫様って・・・ユリカに?」
才蔵「ああ。あの人ならきっと『まだまだ修行が足りない!』って言うはずだから・・・ってな」
アキト「・・・」

アキトはユリカの顔を、そしてあの人の顔を思い浮かべる。
その顔から彼女達の言いたいことが何となくわかった気がした。

才蔵「逃げるの、やめたみたいだな」
アキト「え?逃げてきてますけど?」
才蔵「バカ、自分から逃げるのをやめたって言ったんだよ。
 良い師匠についたんだな」
アキト「ええ!」

アキトは最高の笑顔で頷く。
あの人の顔を思い浮かべる。
だってあの人は逃げずに立ち向かっているはずだから
あの人はアキトがそうなろうと思い描いた人だから

廊下ではユリカがアキトを待っていた。
ユリカ「アキト、おめでとう」
アキト「なんだよ。誰が10年早いんだ」
ユリカ「いや、あれはアキトがもう少し早く才蔵さんに挑戦するかなぁ〜と思って」
アキト「悪かったな。とろくて」
ユリカ「えへへ」

ユリカは参ったという顔をして頬をかく。
そんなユリカを見たアキトは彼女に何かを言おうとしたが、それを彼女が制した。

アキト「ユリカは・・・」
ユリカ「おっと、アキトは今すぐにもナデシコに向かいたいって顔をしているよ?」
アキト「え?」
ユリカ「そして、何ですぐに行動を起こさないんだ!って言いたそうな顔をしている」
アキト「わかっているなら何で・・・」
ユリカ「機が熟すのを待っていたの」
アキト「機が熟す?」

不思議そうに尋ね直すアキトにユリカは笑って答えた。

ユリカ「アキト一人が焦っても何もできないよ」
アキト「そりゃそうだけど、でも何かが出来るはずだろ?」
ユリカ「一人じゃダメなの。みんながそう思わなきゃ」
アキト「みんなが?」
ユリカ「ナデシコが大切な場所なんてみんな知っている。
 当たり前のことなんだけど、それを再確認する時間が必要だったんだよ。
 私も、アキトも、そしてナデシコクルーみんなが」
アキト「・・・」
ユリカ「みんな自分の意志で乗らなきゃ。今度こそは自分の意志で
 誰のためでもなく自分の意志で・・・
 それを再確認するためにモラトリアムは必要だったんだよ」
アキト「ユリカ・・・」
ユリカ「そして信じている。みんなを。
 きっと我慢できなくなってるよ。
 今のアキトみたいにね♪」

ユリカはウインクする。
多分確信しているのだ。そうなるであろう事を。

そう、早速沈黙していたはずのコミュニケに着信を知らせる信号が点滅しだしたからだ。



ある少女達の呼びかけ


以下、同時多元中継でお届けします(笑)

ルリ「皆さん、お久しぶりです。
 ルリです。にゃお〜〜」
ラピス「ラピス・ラズリ、ワンワン!」
メグミ「ルリちゃんにラピスちゃん!?」

ウインドウには猫の着ぐるみ姿のルリと犬の着ぐるみ姿のラピスがいた・・・
その姿を様々な場所で元ナデシコクルー達が見ていた。

食堂の居間で
マンションの自宅で
整備工場で
道路工事の現場で
お風呂の中で
潜伏中の森の中で
屋台のおでん屋で
ネルガルの社宅で
ナデシコの食堂で
会社の資料室で

ルリ「映像が乱れていて済みません」
ラピス「盗聴されないように暗号化しているから我慢して」
ユリカ「遅いよ!心配しちゃったよぉ♪」
ルリ「済みません。オモイカネにネルガルに従ったフリをさせるのに時間がかかったもので。オモイカネは人のマネが嫌いですから」
メグミ「コンピュータが人まねを嫌いなんておかしいね」
オモイカネ「別に嫌いじゃないんですけどね」
メグミ「わぁ」
ラピス「本当言うと、オモイカネの出した問題に合格するのに時間がかかっただけなんだけど」
ルリ「ラピス!それは黙っている約束でしょ!!!」
ラピス「おまけ、一杯仕込んで置いた」
ジュン「おまけって一体・・・」
ミナト「それはそうとあんた達、そこって寒かったんでしょ?
 平気だったの?」
ルリ「最初のうちは。
 でもホウメイさんからこの子猫スーツをもらってからは平気です」
ラピス「私も子犬スーツもらった。ヌクヌク♪」
ルリ「私達はこう見えてしぶといんです」
ラピス「そうそう」
ウリバタケ「ルリルリ達が笑ってる・・・」

ルリ達はみんなに微笑んだ後、こう語りかける。
みんなの心に届くように。
自分たちの気持ちを・・・

ルリ「昔、ナデシコを君たちの艦だと言った人がいましたが、今はそんな気持ちです」
ラピス「喜びも、悲しみもナデシコに刻んだのは他の誰でもない、私達自身」
ルリ「もうすぐナデシコは別のクルーの方々が乗り込みます。
 でもそこにはユリカさんもアキトさんもいない。
 アキさんもオモイカネもいない。
 私達の刻んだ思い出は別の何かですぐに上塗りされる・・・」
ラピス「私達は何も成し遂げていない。
 成し遂げるべきなんじゃないかと思う。」
ルリ「ナデシコがナデシコで無くなる前に・・・」
ラピス「私達が私達らしくなくなる前に・・・」
ルリ「私は嫌です。この艦は私達の艦です」
ラピス「渡したくない、私とアキと、そしてみんなの居場所を・・・」

そしてもう一度少女達は言った。

ルリ『ナデシコは私達の艦です』
ラピス『渡したくない、私達の居場所を・・・』



その言葉はみんなの胸に届いたであろうか?



雪谷食堂では・・・

ユリカ「もちろん行くでしょ♪」
アキト「行く!」
ユリカ「ミナトさん達は?」
ユキナ「もちろん!」
ミナト「行く行く♪」
やる気満々である

メグミのマンションでは・・・

メグミ「何かを成し遂げるべき・・・か・・・」
ナデシコの制服を抱きしめながら呟いた。

ネルガルの社宅では・・・

エリナ「まったく・・・造反なんて上手く行くはずないじゃない」
成し遂げるべき場所はナデシコではないことを自覚しながらも、何かが変わればいいのに・・・と思う自分に驚いているエリナがアカツキからの通信を受けていた。

ある整備工場では・・・

オリエ「あんた、また女の尻を追っかけに行ってしまうのかい」
ウリバタケ「止めるなよ。
 友が待ってるんだ。
 メカニックとしての俺の腕を必要としてくれている、友がな」
オリエ「けど・・・」
ウリバタケ「誇ってくれや。
 お前らの父ちゃんは共に命を懸けて戦ってくれる友がいて、
 父ちゃんはそいつらのために命を懸けて戦える男だっていうことを」
オリエ「いつ帰って来るんだい?」
ウリバタケ「さぁな。明日かもしれないし、10年後かもしれない。
 けど・・・」
オリエ「けど?」
ウリバタケ「絶対帰ってくる!」
奥さんは自分の旦那をちょっと見直していたり

ナデシコ食堂では・・・

「・・・仕込みの量でも増やしておくか」
厨房を眺めながら、これからやってくるであろう仲間達に料理でも振る舞おうかと考えていた。

潜伏中の森の中では・・・

ヒカル「かぁぁぁ!燃えてきた♪
 もちろん行くでしょ?」
リョーコ「あたぼうよ!」
イズミ「湯気と売人」
リョーコ「はぁ?」
ヒカル「You get to burningって言いたいんじゃないの?」
リョーコ「あ・・・なるほど」
こちらも隠しておいたエステのシートを外して出撃するつもり満々であった。

ネルガルの資料室では・・・

ミカコ「エプロンを着替えます♪」
ホウメイガールズ「着替え?」
プロス「皆さん、行きましょうか?」
ホウメイガールズ「ハーイ♪」
割烹着に着替えたホウメイガールズとプロスという珍妙な一団が警備員の制止を振り切ってヒラツカドッグに向かって出発した。



雪谷食堂前


アキト達は隠しておいたトラックを表に出していた。その荷台にはアキセカンドがくくりつけられていた。アキトは既にアキセカンドのコックピットに乗っていた。
そしてトラックには人数オーバー気味ではあるが、運転手がジュン、隣にユリカ、ユキナ、ミナトが乗り込んでいた。

エンジンも暖まり、才蔵が彼らを見送りに店の前まで出てきてくれていた。

才蔵「一昨年追い出したお前が女を4人も引き連れて逃げ込んできた時は正直驚いたけど、いなくなればいなくなるで寂しい気もするなぁ」
ジュン「・・・僕、男だけど」
才蔵「まぁ、看板娘達がいなくなるのは店としちゃ痛手だが、俺はお前のチャーハンの味を信じている。そしてそのお前がそれ以上に大事だと思ったこともな」
アキト「ありがとうございます。才蔵さん!
 今まで匿ってくれてありがとう」
ユリカ「才蔵さん、お元気で」
ミナト「お店しっかりね」
ユキナ「仕事サボっちゃダメだよ」
ジュン「僕は男・・・って言うのも今更だよね」

名残惜しそうに手を振るみんな。
しかし出発しなければいけない。

発進するトラック
手を振る才蔵に会釈をするアキト。
遠く消えていく雪谷食堂
こんな生活も良いか・・・と思ったもう一つの日常

けど・・・

「このままで良いわけないから・・・」

アキトは改めて呟く。
それが今の自分の気持ちだから、素直に行動するしかなかった・・・



ヒラツカドッグ


ここでは子猫と子犬が早速悪戯を開始した。
ルリ「ラピスは周囲の警備隊の攪乱をお願い。
 私は軍の警報システムを混乱させてきます」
ラピス「了解」

二人はオモイカネを操作して次々と関係各所のコンピュータにアクセスし始めた。入念に準備してバックドアを仕掛けまくったのである。
全てのシステムを混乱させるのは造作もないことであった。

まずはドッグ内の警備システムである。
防火シャッターを降ろすだけで警備員は簡単に隔離できる。
また新しいナデシコクルーは外出許可や出張命令等々、様々な用事をあらかじめ各クルーに送りつけておいてほぼ無人にしている。
残っていたとしても隔離は比較的簡単に出来るであろう。

また、周りから集まろうとする警備員や警察などは信号装置の攪乱や電話網の意図的な混戦により麻痺している。
ある警備会社などは誤って・・・
ピザ屋「ピザ10人前持ってきました♪」
警備員「頼んでねぇ!」
寿司屋「上寿司5人前お待ち」
警備員「寿司屋が何で深夜に出前するんだよ!」
新聞勧誘「ちわ!毎朝新聞です〜今契約いただければ洗剤1ヶ月分と巨人阪神戦のチケットをおいていきますけど」
警備員「間に合ってる!」
などという、無意味な応対に忙殺されていたりしていた。

軍隊などは況やである。
こうしてナデシコに殺到してくるはずであろう敵はほとんど存在していなかった。



移動中のトラック


サセボのアキト達は一路神奈川の平塚を目指していた。
っていうか、何でそんなに離れているところにいるの?(笑)

しかししばらく走らせたところで接近してくる物体を発見した。

リョーコ『おーい。艦長いるか?』
アキト「リョーコちゃん!?」
アキトはアキセカンドのコックピットのスクリーンに写ったリョーコの姿に驚いた。
そりゃそうだ。逃亡して行方不明になっていたリョーコがこんな所にいるのだから。

リョーコ『援護しろ、テンカワ!』
アキト「援護しろって・・・何?」
リョーコ『お前はレーダーも見てないのか!』
アキト「え?」

アキトは慌ててレーダーを見る。
機影があった。
しかも識別は「unknown」・・・つまり正体不明の敵機ということだ。
今まであまりにもスムーズにやってきていたので敵が来るなんて想像もつかなかった。

アキト「あ・・・・」
リョーコ『あ、じゃねぇ!!!
 とにかく艦長がいなきゃナデシコは出航できないんだ。一足先に送り届ける。
 お前はあいつを引きつけておいてくれ!』
アキト「いや、そんなこといわれてもミナトさん達はどうするんだよ」
リョーコ『んなこたぁ自分で考えろ!
 こっちは引き返すだけのバッテリーで精一杯なんだ!!!』

結局ぞろぞろと謎の機動兵器を引き連れてきたリョーコの肩代わりをして戦うハメになってしまったアキトであった。



Yナデシコ・ブリッジ


ラピス「アキセカンド、謎の機動兵器と交戦中。
 リョーコの空戦フレームは平塚まで直進中」
ルリ「おかしいですね・・・」
ゴート「どういうことだ?」
ルリ「軍やネルガルのコンピュータに妨害をかけて管制システムを麻痺させています。
 現在一機の戦闘機も発進を確認されていません。」
プロス「ということはあの機動兵器は軍やネルガルの物ではない・・・というわけですか?」
ルリ「そうなります。」
ゴート「一体どこの・・・」
ラピス「わからない。機体識別なし。正体不明」

ルリ達はスクリーンに映る正体不明機について首を傾げていた。
もしもその光景をアキが・・・いやサリナ・ウォンが見ていたら気づいただろう。
ヨーロッパでテストされていたステルン・ベルギアだということを・・・



空戦フレーム・コックピット


ユリカ「アキト、大丈夫かな・・・」
リョーコ「大丈夫じゃないのか?あいつ強くなったし」
ユリカ「そうですよね♪」



逃亡中のトラック


ジュン「大丈夫じゃない!!!」
ユキナ『ジュンちゃん、頑張って運転して!』
アキト『ほら、右から来たぞ!』
ジュン「って何でお前だけ両手に花なんだ!!!」

ジュンはトラックの運転席で必死に運転していた。
同乗者は・・・いない。

コミュニケにはアキセカンドに乗っているアキトのシートの隣にミナトとユキナが座っているのが映し出されていた。
そう、アキト達は早々と荷台の上のアキセカンドに乗り込んでいた。ジュン一人だけ取り残されてトラックを運転しているのである。

アキト『仕方がないだろ。アキセカンドだってバッテリーは無限じゃないんだ。
 行けるところまで行くしかないだろう』
ジュン「でもミサイルとか当たったら・・・」
アキト『心配するな。見捨ててなんか行かないから・・・』
ジュン「本当に見捨てないか?」
アキト『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ジュン「やっぱり見捨てるつもりだぁぁぁ!!!!」
アキト『冗談だって(苦笑)』

荷台のエステが謎の機動兵器を振り払いながら、トラックは疾走するのであった(笑)



再び空戦フレーム・コックピット


ユリカ「リョーコさん達は今まで何をやっていたんですか?」
リョーコ「何って・・・修行さ」
ユリカ「修行って・・・山籠もりですか?」
リョーコ「アキトに負けっ放しじゃおもしろくないからな。
 ま、ヒカルやイズミはアレで修行になっていたかどうか知らないけど」

リョーコの気まずい顔を見ると相当妖しいことをやっていたのだろう。
それはともかく・・・

リョーコ「なんでそんなこと聞くんだよ」
ユリカ「あのままでも良いかなぁ〜って正直思ったこともあったんですよ」
リョーコ「え?」
ユリカ「アキトは若いけど腕のいいコックさん。私は町で評判の美人で看板娘の若奥様。小さいけど繁盛している食堂
 そんな何気ない日常をこのまま続けていくのも悪くない。
 下手にあの不幸になるかもしれない現実に戻って行かなくても良いのかもしれない・・・
 そんな風に思ったこともありました」

ユリカの少し寂しげな顔を見て、この前の月攻略の一件以来何かあるのだろうとリョーコは得心した。けどそれもつかの間、ユリカは笑顔でこう言う。

ユリカ「でもアキトは嫌みたい。私も嫌。
 だって私達はまだ何も成し遂げていないから・・・」

何を成し遂げていないのか、リョーコにもよくわからない。
でも彼女も立ち向かおうとしているのだ。
彼女なりに襲いかかろうとしている現実から・・・



再び逃亡中のトラック


ちなみに謎の機動兵器から逃げ回っている最中のトラックはそんな呑気な状況ではなかった。

アキト『こら!しっかり躱せよ!』
ジュン「無茶言うな!たかがトラックだぞ!」
降りかかる銃弾の嵐を泣きながら運転するジュン

アキトもラピットライフルで応戦するものの・・・

ユキナ『いいじゃん、相手は悪者なんだし、やっちゃえやっちゃえ!』
アキト『無闇な人殺しはダメ!下手に罪状を追加できないって』
ミナト『でもジュン君大丈夫そうじゃないよ?』

そう、ジュンの目は充血し、半泣きになりながら必死に運転していた。
けれど空しく銃弾の一発がトラックのタイヤに当たる!!!

ガタン!!!

ジュン「ひょええええええ!!!!」
トラックはそのままガードレールを突破して崖に目掛けて突進していった。

ジュン「いやだぁぁぁぁぁ!!!」
アキト「ち!!!」
アキセカンドはイミディエットナイフを抜き出してトラックの天井を薄皮一枚で切り落とす。そしてそこからこぼれ落ちるジュンを難なく拾った。
そしてスラスターを噴かして落下するトラックから飛び降りる。

ガッシャーン!
トラックは崖底に真っ逆さまになり炎上したが、ジュンを含めてアキセカンドは無事に脱出に成功した。

ジュン「よ、良かった・・・」
アキト「良くないよ。せめてもう少し耐えてくれれば良かったのに。
 トラックで逃げるよりかえってバッテリー使ったよ」
ジュン「そ、そんな・・・」
ユキナ「骨折り損のくたびれもうけって奴ね」
ジュン「ガーン!」
ミナト「追い打ちをかけるのも良くないよ」

と、一難去ってホッとしている一同であるが、謎の機動兵器からの攻撃は続く。
この状態では遠からずバッテリー切れを起こすであろう。
でもどうすれば・・・

と、そこにコミュニケが開いた。

ルリ『アキトさん、こんにちわ』
アキト「ルリちゃん!?」

何故かまだ着ぐるみを着たまま屋台のそばでラーメンをすすっているルリがコミュニケには映った。

ルリ『早速ですが、そちらのAIのレイにハッキングツールを送り込みます』
アキト「え?一体何を・・・」
ルリ『レイは元々レールカノン用の火器管制AIです。そのぐらいのキャパシティーはあります』
アキト「ゴメン、さっぱり言っている意味が・・・」
ラピス『つまりあの機動兵器を乗っ取るの!』
アキト「乗っ取る!?」
ルリ『あの機体に取り付けますか?あの機体の首筋をアキセカンドの左手で掴めれば乗っ取ってこちらの足に出来るはずです。
 出来ますか?』
アキト「わかった。何とかやってみる!」

どういう仕組みかはわからないが、あの機体が利用できるというなら願ったりだ。
アキトは早速敵が接近してくる瞬間を狙う。

アキト「うぉぉぉぉ!!!」
ミナト&ユキナ「きゃぁぁぁ!!!」
ジュン「ひぇぇぇぇ!!!」

スラスターを噴かせてジャンプすると、こちらの攻撃をかわそうとする機動兵器に巧みに近づいていった。

敵パイロット「わぁぁぁぁ」
アキト「運動性はこっちの方が上だ!」
幸い格闘戦用ではない機動兵器なので機体上部に取り付かれたら手も足も出せない。
機動兵器の上部に飛び乗ると素早く左手で首もとを掴んだ。

アキト「レイ、これで良いのか?」
レイ『はい、侵入を開始します・・・・・
 障壁突破、目標はこちらの制御下に納めました。
 制御をそちらにお渡しします』

するとアキトのIFSにはその機体の制御イメージが流れ込んできた。
イメージ的にはまるでサーフィンをしているみたいな感じだ。
レイは元々別システムを制御するための余剰AIだったのでこんな芸当が可能なのだ。

ジュン「おい、テンカワ。これって大丈夫なのか?」
アキト「ああ。こっちの重量分だけ機動性が落ちているけど十分いける!」
ミナト「じゃ、このまま平塚まで飛べる?」
アキト「コイツの燃料がなくならなければね」
ユキナ「行け行けゴーゴージャンプ♪」
アキト「その前に他の敵機もどうにかしないと行けないんだけどね」

謎の機動兵器を土台代わりにしてアキセカンドも一路平塚に向かうのであった。



しばらく後のナデシコ


脱走劇は概ね順調に成功した。
様々な名ゼリフが飛び出すがその全てを紹介する事は行数の関係で出来ない。

「ただいま!」
「へいお待ち!」
「遅れました。通信回線開きます」
「あなたのために飛んできたの♪」
「エステを傷付けやがって!やっぱり俺様がいないとダメだな」

などなど、枚挙を厭わない。
とはいえ、特筆すべき出来事だけを記しておくことにすると・・・

ミナト「脱出したのはいいけれど、このまま大気圏の外に出れるの?」
ゴート「確か第3話の時はミサイルの雨霰だったが」
プロス「防衛システムには停止コードというものが・・・」
ラピス「必要ない」
プロス「はい?」
ルリ「おまけの作動です」

せっかく用意した連合軍防衛システムへの介入システムby屋台タイプを操作しようとしたプロスをルリ達(着ぐるみはさすがに脱いでいる)が制止した。

おまけの内容
それは・・・

ミナト「うわぁ〜〜本当にこんなの流しちゃっていいの?」
メグミ「っていうか、もう流しちゃってますし」
ルリ「秘密っていうのは秘密故に価値があるんですよ。
 だからみんな秘密を秘密にしたがるんです。
 でも秘密が秘密じゃなくなったら・・・それは秘密じゃないでしょ?」
イズミ「三つのひみっつ・・・なんちって」
リョーコ「なんかよくわからない理屈だなぁ(苦笑)」
ヒカル「でも知らないよ〜〜こんなの流したら」
ジュン「僕たち、地球の土を再び踏めるのかな〜」
ユリカ「だからこそ世論を変えないといけないんでしょ?」
アキト「そうだよな・・・」

彼らは地球上のありとあらゆる所から流されるそれらの映像を眺めていた。
ネット、TV、ラジオ、あらゆるメディアに流されているそれらの映像・・・
それは今まで起こった出来事をまとめた物だ。

木星蜥蜴の正体が実は100年前に月を追放された地球人であったという事
今回の戦争は木星に生活していた彼らを連合軍が刺激したことにより起こったこと
軍が実は火星の住人を見捨てて帰ってきたこと
彼らの証言も収録されていた。
アキがサセボで火星の生き残りの人達を口説いて撮影された物だ。

軍内部もてんわやんやであった。
事の真相を知らなかった者らが知ってた者たちを詰問する場面があちらこちらで見受けられた。連合各国内でも喧喧諤諤の議論が巻き上がった。
国民からは真偽の確認と抗議の声が巻きあがった。
もちろん、ネルガルもその責めを免れていない。

隠したい側がどんなに止めようとしても決して止まらないそれらの映像の対応のために地球は混乱状態にあった。ナデシコなんかにかまっている暇はなかったのである。

ある意味ナデシコ側も正念場であった。
何もできずに帰ってくればそれこそ機密漏洩の罪で重罪にさせられるだろう。
けれど・・・和平を成してみんなの意識を変えられれば・・・
前提が変われば彼らは犯罪者ではなくなるのだ。
それが出来るかどうか、それが彼らの命運を握っているのだ。

アキト「ユリカ、それは良いとして俺達はこれからどこに向かうんだ?」
ユリカ「とりあえずユキナちゃんのお兄さんの所へ」
メグミ「ですから、それってどこですか?」
ユキナ「木星の方向に向かえばきっと逢えます!!!」
ルリ「まぁね」

こうしてナデシコは一路木星へと向かって旅立った。
再び乗り込んだクルー達は半数の101人

だが、ナデシコにアカツキ・ナガレ、エリナ・ウォン、イネス・フレサンジュ、
そしてアマガワ・アキの姿はなかった・・・

ってことでcase by TSUKUMOに続きます。



ポストスプリクト


今回は奥さん'sとその愉快な仲間達の最終回です!

Blue Fairy「ああ、とうとうポストスクリプトに追いやられていた肩身の狭い待遇から解放されるんですね(ホロリ)」
ガイ「だから、そんな前置きはどうでも良いから!!!」
イツキ「私達の何がいけないですか?」
Blue Fairy「ああ、その話ですか」
ガイ「その話ですか、じゃない!!!」
フクベ「第一、ワシらの誰が偽物とかそういう話じゃったはずじゃ」
Snow White「んじゃ改めて入団試験をしましょう♪」
三人組「入団試験?」

そう言って取り出したのはCCであった。
三個をそれぞれ彼らに渡す。

Snow White「これを握ってあそこの隅に行きたいと念じてみて下さい」
イツキ「あ、確かこれ最初にした覚えが・・・」

そう言うか言わないかのうちにイツキの持ったCCが光り始めた。

ガイ「あ、消えた!」
フクベ「ど、どこに行ったのじゃ!?」

すると今度は部屋の隅に現れた。

イツキ「これ、以前にもやりました。確か勇者の証だって」
Pink Fairy「誰も勇者だなんて言ってないって」
ガイ「おお、ワープか!確かに格好いいなぁ!!!」
Secretary「ぼ、ボソンジャンプだって・・・」
ガイ「よし、俺様も!!!
 ゲキガンワープ!!!」
Actress「そんなのないですって・・・」

とか何とか言いながらも、ガイのCCは光った。
そして一旦消え、そしてイツキのそばに現れた。

ガイ「やっぱり俺も勇者だったのか!!!」
Pink Fairy「だから勇者だなんて言ってないって」
イツキ「でも、私と隊長が出来るということは、偽物って・・・」

一同の視線がある人物に注がれる。
そのある人物とは・・・

フクベ「なぜワシだけ光らん!!!」
Blue Fairy「残念ですが・・・」
フクベ「嘘じゃ!ワシが、ワシが、なぜ勇者じゃないんじゃ・・・」
Pink Fairy「だから勇者じゃないって」
フクベ「ワシは所詮ライダーマンなのか!!!」

あ、フクベ提督泣いて逃げた。

イツキ「提督!」
ガイ「でも、この状況って・・・」
Pink Fairy「ゲキガンガー、動かせないわね」
ガイ「何!?じゃ俺様の活躍は!?」
Secretary「活躍してくれない方が本編荒れずに済むし」
ガイ「俺様が活躍しない作品に何の意味があるんだ!!!」
Actress「いや、TV版ではあなたは活躍してないし」
ガイ「そんなこと認めん!!!」

ガイも走って逃げた。

イツキ「隊長!カムバック〜〜」
Snow White「あ〜〜ゲキガンチーム崩壊しちゃったよ〜〜(汗)」
Blue Fairy「別に良いんじゃないですか?」

さぁどうなる、ゲキガンチーム!?
続きは本編で!!!
多分・・・続くと思いますけど(苦笑)

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・Chocaholic 様
・k-siki 様
・そら 様
・kakikaki 様
・SHIDA 様