アバン


変えることが勇気だと言う人もいる
壊すことが進歩だと言う人もいる
革命と言って全てを入れ替えようとする人もいる
変わらぬ人を進歩が無いという人もいる

しかし変われる者は変われぬ者を省みない
取り残される者は浅瀬に打ち上げられた魚のようだ
彼らに大空を飛び回る翼はない
彼らに大地を走り回る足はない
変われる者は誰もが自由に空を飛べると信じて疑わない。

だからこそ、彼女は変われる者と変われぬ者を繋ぐために、そこに残ったのかもしれない・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



収録スタジオ


音響監督「はい、本日の録音(とり)はここまで」
メグミ「お疲れさまでした〜♪」
一同「お疲れさまでした〜♪」

今日の収録がようやく終わった。
メグミは大きく溜息をつく。
なぜなら今日はナデシコを降りた後、初めて行う声優の仕事だ。
いわゆる復帰第一弾というわけである。

ナデシコ脱走事件の後、メグミも市井の人に戻った。
かつて売れ始めていたにも関わらずナデシコに飛び乗ったこともあり、復帰したからといっておいそれと仕事があるとは思っていなかったのだけど、新しくお世話になったプロダクションの尽力からか、すんなり仕事が決まって驚いていたりする。

とはいえ、自分は一度ネルガルの民間船とはいえ軍艦に乗っていた。偏見などの白い目で見られないか、出戻って来たのを不快に思う人達がいないだろうか?
そんな不安を抱えながら初めての仕事に臨んだのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。

マリ「メグミちゃん、ご苦労さん」
メグミ「あ、マネージャーさん」
マリ「なかなか良かったわよ。1年もお仕事してないなんて信じられないくらい♪」
メグミ「そんな、今日も心臓ドキドキですよ」
マリ「ブランクもなさそうだし、これからお仕事をどんどん取ってきても問題なさそうね♪」
メグミ「そうだったら嬉しいです。
 でもそんなに美味しい話は転がってないと思うし、新人からやり直すつもりで地道にやります」
マリ「そんなこと気にしなくていいのよ。
 うちのプロダクションをあげて応援するから♪」
メグミ「あははは・・・」

彼女の新しいマネージャーである岩崎マリはやたら張り切っていた。
実際に今回のナチュラルライチのランプータン役をもぎ取ってきたのも彼女だ。
彼女には感謝しているが出戻りがそう簡単に仕事をもらえるとは思っていない。
今後のことを考えると不安で一杯だった。

メグミ「今日はもうお仕事ないんですよね?」
マリ「ないけど、出演者の人達と飲みに行かないの?」
メグミ「私、一応は未成年ですよ」
マリ「でもカラオケとか行って親睦を深めた方が良いわよ?」
メグミ「そうしたいんですけど、出来れば忙しくなる前に引っ越しの片づけとかしたいんで」
マリ「・・・そうね。気長にやりましょうか」
メグミ「済みません」

メグミの言い訳に対して納得したことにしてくれるマリ
でも多分見透かされているのだろう。
メグミがまだ芸能界に復帰することに遠慮を持っていることを

そんな気遣いをしてくれるマリに感謝しつつ、メグミはスタジオを辞去し、足早に帰宅の徒についたのであった・・・



メグミのマンション


「よっこいしょ。
 ふぅ、到着〜〜」

メグミはマンションに帰ってきた。
一人暮らしには似つかわしくない大きな買い物袋を抱えてである。
隣人がその様子を見たら引っ越しの為にあれやこれや買ってきたのだろう・・・と思うだろう。
その認識は間違ってはいない。

間違ってはいないのだが・・・必ずしも100%正しいとは限らなかった。

「ただいまです〜」

メグミは誰とはなしに帰宅の挨拶をする。
独り暮らしの住人にとってそれは不自然な挨拶かもしれない。
いや、人によっては自分のために挨拶するかもしれない。
でもメグミはそういうタイプではなさそうであった。

メグミはキョロキョロと玄関口から部屋の中を覗く。

独り暮らしなのだから誰もいるはずはない。
でも彼女は誰か人がいるかのように覗く。
いや、明確にいることを確信しているのなら、そんなに確認するような自信なさげな態度はとらないであろう。

居るか居ないのかわからないからこその自信なさげに部屋の中を窺っているのだ。

返事はない。
やっぱり居ないのだ。

「やっぱり出てっちゃったのかな・・・」

メグミは少しがっかりした。
まぁ気まぐれな猫を拾ったと思えばどうという事はない。
猫は鎖で縛れない。
気が向いた時にやってきて、気が変われば去っていく。
そのようなものだ。
だからがっかりしてはいけない。

仕事中もそう自分に言い聞かせていたはずなのに・・・

「買いすぎたなぁ〜〜どうしよう」
メグミは手に持った荷物を見て途方に暮れる。
食べ物が多いが、一人で食べきれる量ではない。
しかもインスタントではなく、大根やら人参やら料理の素材である。
自分じゃ料理は作れない。
ほっておいても冷蔵庫の中で干からびるだけなのだが・・・

いつまでも玄関で黄昏ていても仕方ないので部屋に入った。

「ただいま・・・・」
「お帰り♪」
「え?」

メグミは帰ってくるはずのない挨拶を聞いて驚いた。
慌てて振り返る。
そこには・・・

「い、居たんですか?」
「居たんですかって、居たわよ。
 なんで?」
「いや、だって・・・」

彼女は居るのが当然のような顔でそう答えた。
メグミはまだ信じられないようにほっぺたを抓る。

なぜなら、メグミの部屋にはアマガワ・アキという名の猫が住み着いていたからだった(笑)



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十三話  Reconstruction<case by MEGUMI>



1日前の商店街


事の起こりは昨日まで遡る。
メグミはナデシコを降りた後、プロダクションと仕事がトントン拍子に決まった。
そしてマンションをこの街に構えることになった。

ナデシコを降りて、結局は元の日常に戻っただけだった。
アキトやユリカらは潜伏して行方がわからないらしい。
不穏分子として未だに捜索されてる。
彼らは彼らなりに再起を目指して頑張っているらしい。

けれどメグミは・・・
元の日常に戻った。
プロダクションも拾ってくれるっていう所があったのでお世話になった。
プロダクションの紹介でマンションも決め、つい最近引っ越してきたところだ。
あれやこれやしているうちに日常に戻った気分になってくる。
まるでナデシコに乗っていたのが昔のことのようだ。

思えば私はなぜナデシコに乗ったのだろう?
メグミはそんなことを考えながら商店街を歩いていた。

最近めっきり上空をバッタ達が飛ぶことはなくなっている。
木連軍を地球勢力圏から追い出したおかげだ。
この街にも日常が戻りつつある。
もちろん戦争はまだ続いている。
でもこの街の人達にとって戦争とはTVに映る遠い世界の物語になりつつある。
彼らは徐々に日常を謳歌し始めていた。

『彼らだって日常を精一杯生きてるんですよ』

かつてカワサキシティーでアキトに言った言葉だ。
その気持ちは変わっていない。

でも・・・

『戦っている人の方が偉いっていうんですか?』

その言葉を今は何故か胸を張って言えない。
何故だろう?

アキト達は、まだ行方不明のクルー達は再起するために頑張っている。
木連の少女ユキナちゃんを助けようと苦闘している。
あの戦争の行方をどうにかしようとして頑張っている。

けど自分は日常に戻った。
逃げ出してきたはずの世界に舞い戻っている。
それは疚しい行為ではないはずだ。
なのになぜ・・・

メグミ「おじさん、肉まん3つ」
店主「あいよ♪」

マンションに帰る道すがら買い食いをする。
あまり家に帰っても料理をする気力もない。
・・・いや料理といってもレンジでチンだが。

はむ・・・

暖かい肉まんを一口頬張る。

メグミ「あら、美味しいわぁ〜♪」
???「そんなに美味しい?」

メグミの独り言に後ろから相づちを打つ女性が一人
あまりにも懐かしい声だったのでメグミはごく自然に受け答えをしてしまった。

メグミ「ええ、とっても美味しいですよ」
???「いいなぁ・・・肉まん・・・」
メグミ「お一つどうです・・・え!?」

肉まんを勧めようとするメグミであったが、自然な受け答えの割に状況が不自然なのにようやく気がついた。
慌てて振り向くメグミ!

そこにいたのは・・・

メグミ「あ、アキさん!?」
アキ「いやぁ、メグミちゃん、おひさ〜〜(汗)」

振り向いたメグミが見たのは黒いマント姿のアキであった。
少しやつれかけている。

メグミ「アキさん、何でこんな所に・・・」
アキ「いやぁ、色々あって・・・」

ネルガルも血眼になって探している人物が余りにも気楽に自分の前に現れた事にメグミは驚いた。しかしメグミはその理由をすぐ知る。

アキ「いやぁ、格好をつけてナデシコを飛び出してはみたものの、文無しで・・・」

グゥ!!!!

彼女のお腹の虫が照れ隠しに鳴った。

アキ「アキト君達に見得をきった手前、彼らの前には出るに出られなくて・・・
 んで、一番無難な人の所に・・・」

言い難そうに言うアキ

グゥ!!!!

メグミ「とりあえず・・・肉まん食べます?」
アキ「・・・頂きます」

とりあえず、詳しい話はアキのお腹が膨れてからにすることにした(笑)



再びメグミのマンション・夕暮れ時


メグミは自分の頬を摘みながらその光景を見つめている。
なぜなら飾りにしかなっていなかったこの部屋の調理器具が見事に活躍しているからだ。しかも使い込まれていない新品の器具ばかりが、である。

弘法筆を択ばずの例え通り、厨房の主は大して手入れもしていない包丁をまるで名刀のように鮮やかに扱い奇麗に三枚に下ろした。
コンロでは大して火力もないのに炒め物をするためのフライパンがかけられていた。
片方で作業していても頃合いになればタイミング良くフライパンに手を伸ばす。
それはまさにプロの仕事だった。

メグミは改めて思う。

『火星の野菜って美味しくないんだよ。
 でもコックさんの手にかかれば魔法のように美味しくなるんだ』
『それで僕もコックさんになるぞ!・・・ですか?』

確か火星でアキトに聞いた話であるが、その時は純真なアキトの幼少時代を単純に好ましいと思っただけであるが、目の前で見せられてそれは誇張でも何でもないと実感させられる。

確かに魔法だ。

大した材料でもない。
調味料だってスーパーで本日のお買い得品ラベル付きの奴ばかりだ。
そんな一流の料理人が扱うには相応しくないものばかりである。
なのにあんなに美味しそうに変身するのはやっぱり魔法である。

しかも私だけのためにその腕は振る舞われているのである。
メグミは何故こうなったのか、身に降りかかった幸運に頬をつねるばかりだった。



しばし後・・・


食卓には豪華ではないが、美味しそうな料理が並ぶ。
豪華でない理由の半分以上はメグミのせいだ。
適当に見繕って買ってきた材料で作ったらこうなるのだから。

アキ「さぁ、召し上がれ」
メグミ「凄いです!特売タイムセールス300円の品ばかりでこんなにすばらしい料理が出来るなんて♪」
アキ「あははは・・・誉めるのは食べてからにして(汗)」
メグミ「はい♪」

はむ・・・

「美味しい〜〜♪」

メグミは思わず感嘆の声を上げる。
やっぱり魔法だ。あの食材がこうも変身するなんて!
しかしアキの顔色は芳しくなかった。

メグミ「・・・どうしたんですか?」
アキ「ん?いや、思ったよりちょっと失敗したかなぁと」
メグミ「どうしてですか?美味しいですよ、十分」
アキ「でもナデシコで食べたのとどっちが美味しい?」
メグミ「え?」

そう言われれば・・・
確かにナデシコ食堂の料理から比べたら若干見劣りする。

アキ「料理はね、食材で90%は味の善し悪しが決まってしまうのよ。
 料理人はその残り10%を如何に引き出すか、あるいは90%を台無しにするか。
 その為に努力するものなの」
メグミ「でも食材を買ってきたのは私ですし・・・」
アキ「ん・・・言いたいのはそういう事じゃないのよ」

アキは苦笑してこう言い直した。

アキ「例えばこだわりの店があって、そこは最高の食材が手に入らなければ予約客がいても断って店を休むの。
 あなたはこのお店を好ましいと思う?」
メグミ「え?・・・それはどうかな・・・」
アキ「料理人は最高の料理を出したいという欲求がある。
 渇望と言っても良いわ。
 その料理人にしてみれば最高の料理をお客さんに出せないのが我慢できないかもしれない。それが彼のプライドかもしれない。
 メグミちゃんは声優のお仕事で風邪で調子の悪いときにアフレコしたい?」
メグミ「それは・・・見てくれる人に失礼のような気がします。」
アキ「でも、例えばお店の予約客にしてみれば彼の料理を楽しみにしていたかもしれない。
 例えば結婚記念日なんかで思い出にしたかったのかもしれない。
 それを一方的に破棄されるの。
 楽しみにしていた人に対して、最高の料理を提供出来ないから今回は我慢して下さいって言うの。これってどう思う?」
メグミ「そう言われれば・・・」
アキ「いつもそのジレンマとの戦いよ。
 最高の料理を食べてもらいたいと願っているわ。
 でも条件は常に限られる。
 それでまずくなりました、美味しくない料理になりましたという言い訳は出来ない。
 けれど自分の料理を期待してくれる人に料理を出しませんとは言えない。
 ならギリギリまで頑張ってみる・・・
 そして出した料理の味に自分でガックリ来るんだけどね」

アキはそう言って苦笑する。

メグミ「でもこんなに美味しいのに・・・」
アキ「それが料理人の性なのよ(苦笑)」
メグミ「あ、そうですよね・・・」

メグミの言葉にアキはそう答える。
その言葉にメグミは恥じ入った。
分野は違えどそれがプロの厳しさなのだと知らされる。
いや、一流と呼ばれる人達はそういった気概を持った一握りの人達だけなのだと言うことを思い知らされた。
それはまだ演じることに精一杯で余裕のないメグミの今の状態の裏返しなのだ。

そう思うと、今日初めて復帰後のアフレコを行ったが、ただ及第点しか取っていなかったことがとても悔やまれた・・・



メグミのマンション・就寝時


アキ「いやぁ、良いお湯だったわ〜♪」
メグミ「下着とパジャマ、合いました?」
アキ「ありがとう、ぴったりよ」

パジャマ姿のアキはタオルで髪を乾かしながら出てきた。

ドキ!

その姿を見てメグミはドキッとする。
すごくかっこいい。

以前、アキと銭湯に入ったことはあるが、またその時とは違った感慨がある。
あの時はモデル級のバディーの持ち主(ミナトとかエリナとかイネスとかユリカとか)がイヤ程いたし、下を見ればまだまだ優越感に浸れる人(ルリとかラピスとか)もいた。
だからそういうことは感じずに済んだのだけど・・・

女の自分でも縋りたくなるほどの格好良さがある。
それでいて女性らしさを失っていない。
むしろうらやましいぐらいのプロポーションだ。
その証拠に自分の下着は彼女に着せられなかった(苦笑)
もちろん自分の下着を他人に貸すという行為は慣習的でないにしても、昨日たまたま入浴時に着替えを貸そうとしてブラのサイズがキツいと言われてしまって立ち上がれないほどショックを受けたものだ。
今日はさすがに帰宅の途中で彼女の下着とパジャマを買ってきたけど、その時店員さんに怪訝そうな顔で見られる、見られる。
レジを去った後、店員の一人は見栄を張っているのだと哀れみの目で見ていたのを私は忘れない。どれだけ詰め物をしたら一杯になるんだ?という顔をされていた。
うう、あの店には二度と行けない(泣)

それはともかく・・・

メグミ「あまり筋肉質っぽくないんですね」
アキ「え?」
メグミ「いえ、男の人を投げ飛ばしたりするからてっきり・・・」
アキ「力が大きいことは強さじゃないわ。
 現に屈強な大男達が武を極めた柳のような老人に投げ飛ばされたって話もあるし」
メグミ「なんかおとぎ話みたいですね」

メグミは目をぱちくりさせる。
でもアキは少し考えた後、こう諭す。

アキ「ん・・・それはメグミちゃんが現実はこうあるべきって型にはめてるからじゃない?」
メグミ「え?」
アキ「世界に壁はないよ。壁を作っているのは君自身の心。
 その壁は君の望むままに広くもなり、狭くもなる。
 ・・・かな?」
メグミ「・・・よくわかりません」

なんか誤魔化されたようでメグミは戸惑う。
けれどアキは黙って微笑むだけであった。
それよりも・・・

アキ「まぁそのうちわかるわ。それより寝ようか」
メグミ「え?」

アキのその声にメグミはぞくっとする。
その視線になぜかドキッとする。
愛するものを愛でるような優しい視線
同じ女性同士なのに、なぜか男性に言われたような気持ちを感じる。

寝ようか・・・
寝ようか・・・
寝ようか・・・
寝ようか・・・
寝ようか・・・

アキ「どうしたの?メグミちゃん」
メグミ「ダメです!私、そんなこと出来ません〜〜」
アキ「出来ませんって言われても・・・
 心配しなくてもベッドを取ったりしないわよ。ソファーで寝るから」
メグミ「え?」

真っ赤になって嫌々してるメグミを余所にアキは毛布を手にさっさとリビングのソファーに向かっていった。
安心したような、ガッカリしたような、そんな間抜けな表情を見せるメグミであった。



メグミのマンション・深夜


メグミはベッドに入っても目が冴えて全く眠れなかった。
リビングで寝ているであろうアキのことを意識していたのだ。

『なんでドキドキしちゃったのだろう?』
そんなことをぼんやりと考えていた。
彼女は言葉通りただ就寝しようと言っただけなのに、どうしてああいう方向に考えちゃったのだろうか・・・

まるで男の人といるみたい・・・

そんな考え方をするのはバカみたいだと思う。
そんなに男性のことを知っているわけじゃないが、彼女のたち振る舞いを見ているとどうしても思う。

・・・なんかアキトさんみたい

どうしてここで彼のことを思い出すのかわからない。
多分好きになった数少ない男性だからだろうか?
でもたち振る舞いや、雰囲気、優しさ、そういったものが彼に酷く似ていると思えるのは錯覚なのだろうか?



収録スタジオ


「はい、今日は終了!」
「お疲れさまでした〜」
今日のライチの収録は終わった。

笑顔で帰っていくメグミの後ろ姿を見て音響監督は彼女のマネージャに言う。

「どうしたの、彼女。
 スポンサーさんからの紹介だからって思ったんだけど、化けるもんだねぇ」
「いいでしょ♪」
「でもなぁ」
「でも?」
「このままじゃ誰からも愛される敵役ランプータンになっちまうけど・・・」
「あら、それは困るわ」
「このまま、その愛されるランプータンってのも見てみたいんだけどな・・・」
「スポンサーさんが許さないでしょうね」
「・・・気が乗らないなぁ〜〜」

音響監督は出来たばかりの次回台本を見て溜息をつくのであった・・・



メグミのマンション


メグミ「アキさ〜〜ん」
アキ「メグミちゃん、お帰りなさい〜♪」
メグミ「良かった、まだいた〜」
アキ「まだ?」
メグミ「いえ、何でもないです〜〜(汗)」

メグミはいちいち帰宅時にアキの存在を確認する癖が付いてしまった。
彼女は

『当分、出るに出られないからこのまま居させて、お願い!』

と手を合わせてお願いされているので日中も外出していない模様だ。
まぁネルガルとかから追われているのだから仕方がないだろう。

でも現れた時みたいにいつかまたふらっと出て行くのではないか?
そんな風に感じるときがたまにある。

今日もアキさんがいる・・・

それがメグミの心にどれだけ安息を与えているのか、自分自身でも気づいていないようであった・・・



メグミのマンション・夕食時


メグミ「ってことで今日の収録は久々に上手くいったと自分でも自負しているんですよ♪」
アキ「ふぅ〜ん。良かったわね♪」
メグミ「・・・って自惚れすぎですか?」
アキ「良いんじゃない?自信も実力のひとつよ
 でも自信と慢心はイコールじゃないわよ。
 それは忘れないこと」
メグミ「は〜い」

そう言った後、クスクス笑い出す二人

なぜこんなに安心するのだろう?
ナデシコを降りた後、あんなに後ろめたい気分になっていたのに、今はそんなことを思わず声優業に精を出しているのはなぜだろうか?

メグミ「アキさん・・・」
アキ「なに?」

ドキ!

その時のアキの顔があまりにも自然で格好良い視線を向けてくれるのでメグミは少し赤くなった。
まるで男の人に微笑まれたように・・・
まるでアキトさんに微笑まれたように・・・

なんだろうか?この感覚は・・・

そんなはずない!
私はリョーコさんやミカコちゃん達じゃないんだから!!!

自分がお姉様属性になりつつあるなど断固として認めたくないメグミであった。



収録スタジオ


「はい、今日は終了!」
「お疲れさまでした〜」
今日のライチの収録は終わった。

でも、メグミとしてはランプータンの芝居が少し不満だった。
思わずメグミは音響監督さんに再録を要求する。

監督「え?メグちゃんの芝居、なかなか良かったよ?」
メグミ「でも・・・なんというか、少しランプータンのキャラクターを掴みきれていない気がするんです」
監督「時間も押してるし、抜き取りの子の収録だってあるから」
メグミ「でも・・・」
監督「OKを出したのは僕だ。僕が演技指導したOKテイクはアレで良いんだよ」
メグミ「ダメですか・・・」
監督「その気持ちは嬉しいよ。次はその気持ちで臨んでくれ」
メグミ「はい・・・」

メグミはがっくりして帰った。
しかし音響監督は感心していた。
確かにメグミが自分の演技に不満を持つのは無理もない。
今渡している台本だけを読めばそうなるだろう。
それはすごく微妙な事だが、それに気づいたのはさすがだ。

なぜなら・・・

ナチュラルライチのモックーン編はこの後微妙にストーリー性が変わってくる。
そしてモックーン編を最初から通して観た場合、演出はこれで合っているのだ。

今はまだライチにコテンパンにやられる憎めない敵キャラ・・・それがランプータン像だ。
けど・・・敵役はいずれ憎まれなければいけない。
今はまだ憎めない敵キャラがキャラ立ちして本当に憎めないキャラになっては困るのだ。



メグミのマンション・就寝時


メグミはソファーにシーツを敷こうとしているアキに向かってこう言った。

メグミ「一緒に寝て良いですか?」
アキ「良いですかって・・・私はソファーに・・・」
メグミ「隣に毛布を敷いて寝ます」
アキ「でもベッドが・・・」
メグミ「だってアキさん、私とベッドで寝てくれないし!」
アキ「あの・・・誤解を招きそうな表現はちょっと(汗)」

笑って誤魔化そうとしたアキであったが、メグミは何か縋り付きたそうな顔をして震えていた。

そんな顔を見たアキは溜息をついて隣に寝ることを許したのだった・・・



メグミのマンション・深夜


真っ暗な部屋の中、メグミはソファーの横にシーツを敷いて寝た。

真っ暗な天井
明かりの消えた照明
シーンと静まりかえる中、彼女は怖ず怖ずと尋ね始めた。

「アキさん・・・もう寝ました?」
「ん?起きてるけど・・・」
「ひとつ聞いて良いですか?」
「何を?」
「どうしてナデシコを降りちゃったんですか?」

聞いてみたかった質問・・・
暗闇で目を合わせずに済む分、すらりと質問を口に出来た。
しばらく無言の後、アキは闇の向こう側から答えた。

「私のしたいことをする為よ」
「したいこと?それって・・・」
「乙女の秘密♪」
「そんなぁ・・・」
「でもどうしてそんなこと聞くの?」
「どうしてって言われても・・・」

今度はメグミが答えに窮する番だ。

「このままナデシコを降りて元の日常に戻って良いのかなぁ・・・って」
「で、私の事を聞きたいと?」
「・・・自信がないんですよ。今の選択が正しいのかどうか・・・」
「声優のお仕事、楽しいんじゃないの?」
「ええ、見てくれる人達に夢を与える仕事です。
 決してナデシコで戦うのと比べられるものじゃないです。
 でも・・・」
「戦う人の方が偉い・・・って?」
「そうじゃないってアキトさんに否定したはずなのに・・・」

メグミは自嘲する。
そんなメグミにアキはこう言う。

「あなたの人生を誰も強制できないわ。
 たとえ正しいと思えなくても選択していかなくてはいけない。
 そして選んだ責任は常につきまとう。
 たとえそれが自己満足だったとしてもね」
「アキさんは選んだんですか?」
「そうね。そしてアキト君やユリカちゃんやみんなもね・・・
 戦うことも、日常に戻ることも・・・」
「でも私は・・・」

メグミは答えの出ない問題を延々と考え続けていた。
そしてアキはその回答を出してあげることは出来なかった。



収録スタジオ


メグミは台本を読んで愕然とした。
今日のナチュラルライチの収録分の内容にショックを受けていたのだ。

ランプータンは魔法の国の「常しえの光」を奪ってしまったのだ。
このため、魔法の国は暗やみに包まれ存亡の危機に追い込まれてしまったのだ。
その為にライチが仲間を連れてランプータンから「常しえの光」を取り返すという筋書きになってしまっている。

ライチ達が「常しえの光」を取り返せなければ魔法の国の人々は死んでしまう・・・
これは子供向けのアニメにしては洒落になっていない。

当然、メグミは音響監督に抗議を申し入れた。

メグミ「どうしてこんな展開になるんですか!」
音響監督「俺達は与えられた台本に対して全力を尽くす。それだけだ」
メグミ「しかし・・・」
音響監督「アニメは一人の思いだけで動いてるわけじゃないことはメグミちゃんも良く知っているはずだ。
 既に絵コンテも切ってある。
 作画もあらかた済んでいる。
 動画もある程度揃っている。
 僕たちは総意で動いている。
 誰か一人の好き嫌いで変えたり出来ないよ」
メグミ「でも・・・」

ナチュラルライチはもっと呑気で楽しい夢のあるアニメのはずだ。
でもこれじゃ戦闘アニメじゃないの・・・
そんなメグミの顔に音響監督はこう言う。

音響監督「人の嗜好は変わる。
 呑気なアニメよりも戦うアニメに移りつつある。
 人々の望むものを提供するのも僕たちの役目だ」
メグミ「でもこれじゃライチは・・・」
音響監督「人はアニメに夢を求める。
 でもその夢は何も呑気なお話だけじゃない。
 戦争に疲弊しているからこそ、敵に勝って欲しい。
 ヒロイン達に勝って欲しいと託す夢だってあるんじゃないか?」
メグミ「それは・・・」
音響監督「僕たちはプロだ。
 自分たちが納得しなくても望まれるものを提供するのもまたプロの仕事だ。」

『それでまずくなりました、美味しくない料理になりましたという言い訳は出来ない。
 けれど自分の料理を期待してくれる人に料理を出しませんとは言えない。』

この前アキが言った言葉をメグミは初めて痛感した。



メグミのマンション


「ただいま・・・」
メグミは脱力しながら帰ってきた。
今日の収録は散々だった。
何度もリテイクを食らい、最後には抜き取りにされた。
いきなり憎まれ役に徹しろと言われても心が切り替えられなかったのだ。

「アキさん〜〜今日は遅くなって済みません。
 スーパーも大したもの残っていなくて材料は見劣りするんですけど・・・」
靴を脱ぎながら部屋の中に声をかける。

でもおかしいことに気づく
返事がないのだ。

「アキさん?」
手が放せないだけなのかな?と思ったのだが、そうではないようだ。
人のいる気配が全くしない。

そんな・・・

居ることがあまりにも当たり前になりつつあった。
だから彼女が居ないなんて思いもしなかった。

まさか・・・

「アキさん!」
メグミは大急ぎで部屋の中に入る。
辺りを見回す。

誰もいない・・・

そしてリビングのテーブルの上には・・・

『メグミちゃんへ
 ごめんなさい。どうもこちらの居場所を知られそうなので出発します。
 本当はお別れの挨拶をしたかったけど、急なことで出来そうにありません。
 今日まで匿ってくれてありがとう。
 楽しかったです
 
 アキ』

その手紙を読んだ後、メグミは力無くペタンと座り込んだ。

どうして当たり前にずっとそばにいてくれると思っていたのだろうか?
彼女はいずれ出ていく存在のはずなのに
ここにいるのだって何かの気まぐれだったはずなのに・・・



数日後・メグミのマンション


「ただいま・・・」
帰宅の挨拶をするメグミ
だが今日も挨拶をする癖が抜けていない。
まだ彼女がひょっこり部屋の中にいるのではないかと思えてくる。

あれから何事もなく日常は過ぎていった。
声優の仕事も順調だ。
元の日常に戻りつつある。
何も問題はないはずだ。

けれど・・・

この寂しさは何だろう?

『メグミちゃん』

どこかでアキトの声が聞こえた気がした。
でもそれは空耳だった
アキが居たときは聞こえたこともないのに・・・

夕日が射し込む部屋を見て唐突に沸き上がってくる不安
それはある種、ナデシコを降りた頃に感じた寂しさであった。
夕日の射し込む部屋にその光景は重なる

笑っているアキトの顔
ユリカとアキトと奪い合っていた頃の光景
ミナトやルリやラピスらの笑顔
なぜなにナデシコをやっていたときの思い出

急速に遠ざかるナデシコの思い出
今頃になって気づくなんて・・・

アキと居ることによってナデシコと繋がっていると勘違いしていたのだ。
彼女と一緒にいることによってまだナデシコと縁を持っていると錯覚していたのだ。
だから安心していたのだ。

でももう自分は一人
ナデシコとの縁はプッツリと切れた。
自分はもう戦う側の人間じゃない。
日常に戻った側の人間だということを思い知らされた・・・

「アキトさん・・・アキさん・・・私は・・・」
メグミは誰もいない部屋を眺めてハラハラと泣いた。



数日後・収録スタジオ


あれから何日が経過したのだろう?
ライチの収録は2回3回と続いた。
そして今日・・・

ランプータン「あははは!我々モックーンには敵わないのさ!
 魔法の国もまもなく滅ぶ」
ライチ「ランプータン!私はあなたを許さない!」
ランプータン「あははは!人間とは所詮儚いものだ!
 世界が終わるまで悲しみに暮れるが良い。
 その頼りにならなかった仲間と共に」
ライチ「ランプータン!」
監督「はい、OK!」

そこで今日の収録は終わる。
ランプータンがライチの仲間を倒して一番盛り上がるシーンである。

メグミは熱演をしたといえる。
心では納得していないままだ。
けれど、プロであれば自分の感情はどうあれ最善を尽くさねばならない。
たとえ主義主張と違っても・・・である。

でも・・・

スタジオを出るすがら、小林プロデューサーが声をかける。

小林「メグミちゃん♪」
メグミ「プロデューサーさん」
小林「メグミちゃんのランプータン、いいよね♪
 監督さんもべた褒めよ」
監督「ナイス!」
メグミ「ありがとうございます・・・」

無邪気に賞賛してくれるプロデューサーさんになんとも言えない作り笑顔で答える。
そして迎えに来たマネージャーにこう言った。

マリ「お疲れさん、メグミちゃん」
メグミ「マネージャーさん、お話があるんですけど・・・」
マリ「話?」
メグミ「ええ・・・」

メグミは深刻そうな顔でマリに相談をしたのだった・・・



台場・スタジオ近くの喫茶店


メグミの言葉にマネージャーは驚いた。

マリ「ランプターン役を降りたい?」
メグミ「推して下さったプロデューサーさんやマネージャーさんには申し訳ないんですが・・・」
マリ「でも、モックーン編に入ってから視聴率も良いし、何よりメグミちゃんのお陰でランプータンは良いキャラクターになったと思うんだけどなぁ」
メグミ「でもイヤなんです!」

メグミは思わず叫ぶ。
役を降りるなんて言うのはこの業界でどういう事になるかはよくわかっている。
一度ナデシコに乗る為に声優を辞めたメグミにとって三度目はない。
今度こそ干されるかもしれない。
でもこのままでは耐えきれないのだ。

メグミ「どうしてライチが戦うアニメになっちゃんったんですか!
 いくら戦争をしているからって敵にモックーンなんて如何にもな名前をつけなくて良いじゃないですか!
 こういう時だからこそ、暢気で暖かいアニメがあったっていいじゃないですか。
 どうしてライチがこうなっちゃったんですか!」
マリ「メグミちゃん・・・」

メグミには耐えられなかった。
どう考えたってモックーン編は木連に対する無意識の先入観を植え付ける戦意高揚の番組に成り下がっている。
血も涙もない極悪非道なランプータン・・・

でも違う。
木連の人達にも優しい人達はいる。
九十九さんやユキナちゃん
そして九十九さんとミナトさんの様に恋も出来る。分かり合える。
なのになぜわざわざ憎しむ事を焚き付けなければいけないのか!

けれどそれは全く予想外の事態で回答を示される。

マリ「あなたは一生懸命ランプータンを演じればいいの。
 その方がエリナも喜ぶと思うけどな・・・」
???「マリ、待った?」
マリ「エリナ、こっちよ」
メグミ「え?」

メグミの後ろから声をかける女性がいた。
聞き覚えのある声
そしてその名前・・・
そう、振り返った場所にいたのはエリナであった。

メグミ「マリさん・・・どういうことですか?」
エリナ「彼女、私の親友で同期なの」

エリナは自分とマネージャの関係を告げた。
その言葉にメグミは愕然としていた。

エリナ「知らなかったの?彼女は・・・」
マリ「うちのプロダクションはネルガルの社内ベンチャーなのよ。
 広報部だけじゃ出来ない大きなイベントとかしてたら自然とね・・・」
マリは自分の社員証を見せる。
そこにはネルガルの社章がちゃんと入っている。

メグミはようやく気づいた。
自分にまわってきた仕事の全ては実はネルガルの差し金だったのだ。
つまり・・・・

エリナ「私達ネルガルはナデシコクルーの下船後の生活を出来る限りサポートしているの。だからあなた達は胸を張って活躍してくれればいいのよ。
 もちろん、火星や木星のことは他言無用よ」
マリ「エリナ、彼女は大丈夫よ。
 ナチュラルライチだって彼女のランプータンが登場してから視聴率が上がってるもの♪」

そんな賞賛の声もメグミには胸を切り刻むナイフに思えた。

メグミ「そんな!それじゃ私は戦意高揚のために仕事をしていたんですか!?
 ナデシコを降りて、戦争をこれ以上大きくしたくなかったのに・・・
 なのに戦争の後押しをしてネルガルを利するためにやってたなんて・・・」

メグミは耐えられないように叫ぶ。
しかし、その態度にエリナは腹を立てた。

エリナ「なら最初からナデシコなんか乗らなきゃ良かったでしょ!」
メグミ「ひぃ!」
エリナ「正義の味方気分か、ただの充実感を満たすためだけに安易にナデシコに乗ったくせに、全ての真実を知ったらさっさと責任を放棄して逃げ出しただけでしょ?
 自分はナデシコで地球と木連を引っかき回してここまでの騒ぎにしておいて、収拾がつかなくなったら逃げ出すのね!」
メグミ「ち、違います・・・」
エリナ「あなたが戦わなければ別の誰かが戦場に立つことになるわ。
 あなたが無責任に放置したバトンを受け渡された人はちゃんと生きて帰ってこれるのかしらねぇ」
メグミ「私はそんなつもりじゃ・・・」
エリナ「軍隊なら脱走は重罪よ。
 一生牢獄に入れられても文句は言えないわ。
 なのに監視付きとは言え、やりたい仕事を出来て何が不満なの?」
メグミ「でも私は戦争を止めさせたかったのに・・・」
エリナ「たとえ人殺しをしていようが、ナデシコという手段を放棄して日常に戻ろうとしたあなたが何を言っても説得力なんかないのよ!」
メグミ「違います!私は・・・」

メグミは感極まって喫茶店から走って逃げた。

「待ちなさい!逃げたって何も変わらないのよ!」

追い打ちをかけるエリナの声が逃げるメグミの心を抉るのであった・・・



商店街そばの公園


メグミ「監視されていたんですか?」
ウリバタケ「ああ、そうさ」

なぜメグミはウリバタケと一緒にいるのか?
それは泣きながら逃げ出した後、秘密裏に会話を持ちたいというウリバタケのリリーちゃん人形2号に導かれたからだ。
まぁネルガルの尾行を撒くのに擦った揉んだしたのだが(苦笑)

ウリバタケ「なんで元ナデシコクルーに会えないんだろうって思っていたろ?」
メグミ「ええ」
ウリバタケ「会えば造反の為の相談をする。それを恐れてな。
 ご苦労なことだけど、元クルーには可能な限りネルガルの監視が付いてるってことさ」
メグミ「可能な限りって・・・」
ウリバタケ「俺らみたいに居場所がわかっている奴らはもちろん、未だ逃亡中って奴らの場合は監視と言うより捜索、追跡ってところだろうなぁ〜〜」

そこまでして真実は葬られなければいけないのか?
ただ何の罪もない女の子を権力者のエゴから守りたかっただけなのに・・・

ウリバタケ「こいつが使えればみんなとも連絡が取れるんだが、連中もバカじゃない。オモイカネを都合良く弄くり回してるんだろうなぁ」

ウリバタケは手に持ったコミュニケを弄ぶ。
押しても反応しない。
アキトもユリカもリョーコもルリにも誰にも繋がらないコミュニケ・・・

ウリバタケ「これが使えないって事はルリルリの台詞じゃないけど、ナデシコは既に俺達のナデシコではなくなってしまったって事だろうな・・・」
メグミ「そんな・・・」
ウリバタケ「まぁお互い第2の人生を楽しもうや。
 監視付きだけどな」
メグミ「そんな風に割り切れませんよ」
ウリバタケ「けど、これから先の方が人生長いんだ。
 どうしようもないことを引きずっても辛いだけだぜ?」
メグミ「・・・」

確かにそうかもしれない。
でも心は全然納得していないのだ・・・

メグミ「いつまでこんなことが続くんですか?」
ウリバタケ「さあな・・・秘密が秘密じゃなくなるまでかな・・・」
メグミ「・・・」

それはいつのことだろう?
明日か、明後日か、それとも数年先なのだろうか

けれどわかっていることは・・・
自分とナデシコとの絆は切れてしまったのだ・・・



メグミのマンション・深夜


その夜、メグミは枕を涙で濡らしていた。

『どちらに正義があるのか俺にもわからない
 でも巻き込まれてしまった!巻き込まれたのは僕たちの大切な人達だ!
 ならばこれはもう「僕たちの戦争」じゃないか!!!』
『でも俺はゲキガンガーを見るのが好きだったんじゃないんだ。
 俺はゲキガンガーになりたかった。
 ゲキガンガーのように大切な人を守れる力が欲しかった。』

思い出される・・・アキトの叫び
なのに・・・

『戦う人の方が、殺し合う人の方が偉いんですか?
 家で二人で笑っていたっていいじゃないですか!
 二人でゲキガンガー見ていたっていいじゃないですか!
 その方がアキトさんらしい』

自分は酷いことを言ってしまったのだろうか?

何かを出来るつもりでナデシコに乗ったはずなのに
結局は何もせずに日常に戻っている
そして何かをしようと足掻いているアキトに酷いことを言った。

でももう遅い。
ナデシコでの思い出はやがてかき消される。
思い出が風化して消え去るまで秘密のままにされるだろう
私はもう誰とも交わらない。
アキトさんとも、アキさんとも・・・
このままナデシコでの思い出とともに・・・

メグミにはそれが堪らなく悲しかった。

けど、使えなくなっていたはずのコミュニケが動き出した。
そこには・・・

『皆さん、お久しぶりです。
 ルリです。にゃお〜〜』
『ラピス・ラズリ、ワンワン!』

ウインドウには猫の着ぐるみ姿のルリと犬の着ぐるみ姿のラピスがいた・・・

「ルリちゃん!?ラピスちゃん!?」
メグミは跳ね上がってコミュニケの映すウインドウを凝視した。

ルリ『昔、ナデシコを君たちの艦だと言った人がいましたが、今はそんな気持ちです』
ラピス『喜びも、悲しみもナデシコに刻んだのは他の誰でもない、私達自身』
ルリ『もうすぐナデシコは別のクルーの方々が乗り込みます。
 でもそこにはユリカさんもアキトさんもいない。
 アキさんもオモイカネもいない。
 私達の刻んだ思い出は別の何かですぐに上塗りされる・・・』
ラピス『私達は何も成し遂げていない。
 成し遂げるべきなんじゃないかと思う。』
ルリ『ナデシコがナデシコで無くなる前に・・・』
ラピス『私達が私達らしくなくなる前に・・・』
ルリ『私は嫌です。この艦は私達の艦です』
ラピス『渡したくない、私とアキと、そしてみんなの居場所を・・・』

画面の中で少女達は静かに語りかけた。
少女達は淡々と告げた。
実は二人はナデシコの天井に隠れ住んでいることを
ホウメイからもらった着ぐるみが結構役に立っていることを
オモイカネは生きていると
ネルガルに従ったフリをさせる為に疑似人格を演じさせていたと
今もネルガルにバレないように暗号をかけて元クルーに通信を送っている為に少し画像が悪いことを

そしてもう一度少女達は言った。

ルリ『ナデシコは私達の艦です』
ラピス『渡したくない、私達の居場所を・・・』

二人の通信を聞きながら、メグミはずっと見ていた。
ナデシコの制服を・・・

三度目はない。
今度もこの日常に戻れる保証はどこにもない。
いや、犯罪者として追われる身になるかもしれない。

『たとえ正しいと思えなくても選択していかなくてはいけない。
 そして選んだ責任は常につきまとう。
 たとえそれが自己満足だったとしてもね』

アキの言葉が心によぎる。

そうですよね・・・

メグミは声なき声に頷いた。



Yナデシコ・ブリッジ


そこではリョーコのお迎えでようやくユリカが到着した。

ユリカ「ただいま♪」
ゴート「へいお待ち!」
ユリカ「直ちに発進準備お願いします!」
ルリ「相転移エンジン始動」
ラピス「操舵します」
プロス「えっと・・・通信回線通信回線・・・」

とりあえずクルーはこれだけ。
何人集まるかわからないが、やるしかない。
と、そこに・・・

メグミ「遅くなりました〜」
ユリカ「メグちゃん・・・」
メグミ「プロスさん、ここは私がやりますから」
プロス「済みません」

せわしくスカーフを直しながら入ってきたメグミが通信回線を開く準備をする。
そんなメグミにユリカはお礼を言う。

ユリカ「メグちゃん、ありがとう・・・」
メグミ「お礼なんて・・・私はやり残したことをやりにきただけですよ。
 それに・・・」
ユリカ「それに?」
メグミ「アキトさんを艦長やルリちゃんに独占させるわけには行きませんから」
ユリカ「!!!」
ルリ「!!!」
ラピス「(ついでに)!!!」

真っ赤になるユリカらを後目にメグミはクスクス笑う。

『世界に壁はないよ。壁を作っているのは君自身の心。
 その壁は君の望むままに広くもなり、狭くもなる。』

そうですよね、アキさん
みんな戦うしかないと思っていても、どこかにうまいやり方があるはずですよね?
私達がそれを望めば・・・

メグミはそう心に決めていた。
そしてアキトに会えたら自分の気持ちを伝えよう。

プロス「艦長、これからどうします?」
ユリカ「え?あ・・・みんなを迎えに行きます。
 とりあえずは・・・」
メグミ「アキトさんのところですね♪」
ユリカ「あ〜〜ん!それ私の台詞〜〜」

一同はユリカらにまた強力なライバルが復活したことを厄介に思ったそうな(笑)

ってことでcase by RURI&LAPISに続きます。



ポストスプリクト


今回は特別に奥さん'sとその愉快な仲間達の語らいをお送りします。

ガイ「誰が愉快な仲間達だ!!!」
Blue Fairy「とお約束の絶叫は置いておくとして」
ガイ「置いておくな!!!」
イツキ「でも今回はメグミさんが主人公ですね」
Actress「さすがは私♪見事なヒロイン♪」
Pink Fairy「単にしぶといだけじゃないの?」
Actress「何ですって!」
Snow White「まぁまぁ(汗)」

−でも見事な復活劇ですね

Actress「さすが私♪」
Secretary「っていうか、かなり無理矢理だけど」
Actress「何ですって!このファースト・・・」
Secretary「あ〜〜!!!!!」
Blue Fairy「まぁそんな済んだヒロイン達の言い争いは置いておくとして」
Pink Fairy「次は私達の番」
Actress&Secretary「何ですって!!!」

ガイ「っていうか、俺達の出番はないのか?」
Blue Fairy「ないですよ」
ガイ「何だと!!!」
イツキ「じゃ、私と隊長とのラブロマンスも?」
Secretary「いや、本当にそれをやりたいの?」
フクベ「ワシの乙女さんとの悲恋話は?」
Snow White「乙女さんって・・・誰?」
ガイ「だからズババババ!でズギュギュギュ!って活躍は!!!」
Pink Fairy「無理」
ガイ「なぜだ!!!
 俺達は選ばれし勇者じゃないのか!!!」
Blue Fairy「いやぁ・・・実は・・・」




ゴニョゴニョ・・・・



ガイ&イツキ&フクベ「え〜〜〜〜!
 一人偽物?」

なんという驚愕の事実!!!
真相は次回ポストスクリプトを待て(笑)

Special Thanks!!
・そら 様
・bunbun 様