アバン


大切だった居場所
でも私達はそこから巣立とう
もう一度自分たちには何が必要だったのか再確認するために
ここに戻る必要があるのかどうか、見つめ直すために・・・

時には素直な気持ちで自分の足下を見つめ直してみると良い。
見えなかったモノも見えるはずだから・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



サセボ・火星帰還者避難施設


そこはプレハブ小屋をもう少し良くしたような建物が並んでいる。
高い塀があり、住人を外敵から守るためというよりは、中の住人を逃がさないような威圧感があった。

誰も顧みないこの地に何故かスーツ姿の妙齢の美女がネルガル社用車でやってきた。
もちろん、その場に似つかわしくない女性を喜ぶ者はいなかった。

なぜって?
それは彼らがそこに避難させられている・・・いや実質は抑留させられている事に由来する。彼らにとってはネルガルは小うるさい監視者なのだ。

彼らの顔は『またか・・・』というウンザリとした顔をしていた。
『何しに来たんだよ』とも思っているのが表情からありありと見える。
そんな中、その女性はその施設の中を我が物顔であるいた。

『言いたいことがあるなら近づいて言えばいいじゃない!』
女性は逆にそう思う。
自分で切り開く力もない。
自分で切り開く意志もない。
結局彼らは火星でもこそこそ隠れて、ナデシコが迎えに来ても乗るのを拒否したらしい。
乗った人間も一度は渋り、ようやく乗ったらしい。
そして地球に戻ってからはネルガルに監視されたまま、毎日を怠惰に暮らしてる
これなら火星でそのまま死んでいてくれた方がこんな抑留施設に金なんか使わなくて済むのに・・・
コイツらはなぜ生きて地球に帰ってきたのだ?

女性はそんな風に思っていた。

もっともそんなことはおくびに出さない。
そんな生活を強要しているのもネルガルの仕業であることには違いないのだから

彼女は周りの視線を気にせず、まっすぐ彼らのリーダーの元へ行く。

「なんだい、ネルガルさんか?」
「ええ、私はこういう者よ」

彼女は名刺を渡す。
エリナ・キンジョウ・ウォンと書いてあった。

リーダー「まったく、またかよ・・・」
エリナ「また?」
リーダー「ああ、こんな誰も面会にすら来ないような隔離施設に月に何人もやってくるなんてなぁ・・・」
エリナ「誰か来たの?」
リーダー「連合軍の誰かなぁ・・・他にもよくわからない奴らも来た」
エリナ「こういう人も来た?」

エリナは写真を見せる。アマガワ・アキの写真である。
すると相手はついと無口になった。
それでエリナは確信した。彼女がこの地に来て彼ら火星の生き残り達に何かしていったのだ。
連合軍もその他の・・・多分クリムゾングループも彼女の足取りを追っていたのだ。
今のエリナみたいに。

エリナ「で、彼女はここで何をしていたの?」
リーダー「いい加減同じ話をするのは面倒なんだ。
 勘弁してくれないかなぁ〜」
エリナ「・・・火星帰りなんて何処でも雇ってくれないんでしょ?
 この避難施設の運営資金は誰が出していると思っているの?」

エリナの台詞にリーダーはしかめっ面をする。
それはお互い様だろうという相手の表情は見て取れるがエリナはそれを丁重に無視する。
ネルガルにとっては彼らが火星での様子を話さない事と引き替えに養っているのだ。
持ちつ持たれつなのである。
ならば、生活費分は情報を提供してもらわないと。

リーダー「確かに彼女は来た。
 でも今のあんたが思っている通りのことを言って去っていったよ」
エリナ「・・・何を?」
リーダー「何でこんなところで無駄飯喰らって黙っているんだ。
 なぜ世間に真実を訴えないんだ・・・ってな」
エリナ「!」

エリナは本心を見透かされて目尻をきつくする。
嫌みたっぷりの彼の言い様にエリナは気分を悪くしたようだった。

リーダー「心配しなくても何もしないさ。
 ネルガルさんの希望通りにここで静かにしてるさ。
 あんたらが俺らを養ってくれるウチはね」
エリナ「他に彼女達は何か言っていた?」
リーダー「別に。俺達に失望したのか、さっさとこの場を去ったよ」
エリナ「そう・・・。で、彼女は次にどこかに行くとか言ってた?」
リーダー「いや、何も」

またハズレか・・・
彼女が火星で命を懸けてまで助けようとした人達だというのに・・・
エリナは失望するとこの場にいる必要を感じなくなった。
また一つ、彼女の行きそうな所のリストに×が付く。

「あの女、絶対とっつかまえてやるのだから!」
エリナは抑留施設を振り返らずに立ち去った。

しかし、エリナは一つだけ見誤っていることがあった。
エリナは抑留施設の者たちの瞳を見ていなかった。
だから気づかなかったのだろう。
彼らの瞳が生気を失っていないということを・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第二十三話  Reconstruction<case by ERINA>



ネルガル・本社第2研究課


その部屋の主、エステバリスアーキテクトのサリナ・キンジョウ・ウォンは汚れた旅行衣装で部屋に帰ってきた。
探検家ルックに虫取り網・・・何しに行って来たんだ?

「あ〜〜疲れた〜〜」
「今まで何処に行っていたの?」
「ヨーロッパよ」
「優雅な旅・・・って訳でもなさそうね」
「全く死ぬかと思った・・・うわぁ!!!」

サリナは何気なく呟いた独り言に受け答えしてくれた人物にようやく気づいた。

サリナ「うげぇ!プンスカぷぅ!!!」
エリナ「姉さんに向かってプンスカぷぅとは何ですか!!!」

ゴチン!
放蕩娘のサリナを待っていたのは彼女の姉であるエリナ・キンジョウ・ウォンであった。

サリナ「痛い〜〜」
エリナ「全く、この娘は一体ヨーロッパまで何しに行ってたのよ!」
サリナ「何って・・・敵情視察よ」
エリナ「敵情視察?」
サリナ「そうよ。これ見て」

サリナは懐から二枚の写真を取り出した。
そこに映っているのは2機の機動兵器だ。

一つは白い人型機動兵器。
もう一つはデルフィニウムの改造型みたいな機体だ。

エリナ「な、なによ、これ!!!
 一つはエステバリス並に小さいじゃないの!」
サリナ「実際にまずまずの性能よ。白い奴はエステとタメはれるわよ。」

サリナは溜息をつく。

エリナ「こんなの何処が作ってるの。
 ヨーロッパっていったら・・・」
サリナ「そうよ、クリムゾン」
エリナ「バカな!クリムゾンがこんな機動兵器を作る技術はないはずよ?」
サリナ「だから視察に行ったの。信じられなかったから自分の目で確かめるために」

サリナ自身信じられなかったのだ。
自分たちネルガルの技術力は自負している。
そして競合相手の技術力も常にリサーチしている。
だからこそ、ここ数ヶ月でネルガルに追いつけるほどの技術力を蓄えたなど信じられなかったのだ。

エリナ「・・・っていうか、これどう考えても起動中の写真じゃないの」
サリナ「そうよ。だって相手の演習中に撮ったから」
エリナ「撮ったからって・・・それってむちゃくちゃ危険じゃない!!!
 あんたそんな危険な地域に潜り込んだの!?」
サリナ「格納庫に鎮座している機体を見たって性能なんてわからないじゃない」
エリナ「バカねぇ!見つかったら殺されるところだったのよ!
 いいえ、流れ弾でも当たったらどうするつもりだったのよ!!!」

確かに、そんな演習中の地域じゃどんな無茶も行われる。
そこに潜入するなんて死んでも誰も文句は言えない。
でもサリナの神経は図太いのか、何でもないように爆弾発言をした。

サリナ「大丈夫、途中で助けてもらったから」
エリナ「助けてもらったなら安心だわ・・・って誰に?」
サリナ「・・・・・・・・・・(汗)」

サリナのその『まずいこと言っちゃった(汗)』ってな顔にエリナはネルガルシークレットみたいな護衛でなかったことを確信した。

エリナ「誰に助けてもらったの?」
サリナ「えっと・・・」
エリナ「キリキリ話しなさい!!!!!!!」
サリナ「ひぇぇぇぇぇぇ〜〜」

至近距離でエリナに睨まれたサリナは先日の一件を話し始めた。



数日前・ヨーロッパ演習場


サリナは藪をかき分け、ようやくその地に到達した。

「ったく、何でこんなところでやるのよ!」
秘密の演習を街のど真ん中でやるはずがないのに、サリナはそんな不満をぶちまける。

「おかげでカブトムシ10匹もゲットしちゃったわよ!」

おい、あんたは何しに来たんだよ・・・

「旅費が出ないんだから、売って足しにしなきゃ!
 転んでもただじゃ起きないのよ!」

さよですか。

「ま、それはともかく・・・」
サリナはバッグから双眼鏡を取り出す。
もちろん、コンピュータに直結した録画機能付きサリナお手製の高性能双眼鏡である。
光学ズーム100倍、デジタルズーム1000倍、手ぶれ防止機能、ターゲット自動追尾機能付きである(笑)

覗き込んでターゲットを確認するサリナ。
すると視界に飛び込んできた光景にサリナは驚いた。

「わぁ!もう実戦レベルに入ってるの!?」

映し出される画像の中で二機の機動兵器が戦っていた。

「一台は・・・デルフィニウムの改良版?
 機動兵器っていうよりは・・・シルエットからして空中戦が得意そうな機体ねぇ。
 格闘戦は無理か・・・
 ステルン・ベルギア?」

サリナはその機体の形状とペイントを見てそう評した。
機体にペイントしてある名前を見てピンときた人は察しがいい。
未来の人間が見たらその機体がステルンクーゲルに似ているのに気が付いたろう。
さしずめステルンクーゲルの空戦タイプといった感じであろうか?

「主武装はガンポッドにミサイルポッド・・・
 もろにウチの空戦フレームを意識してるわね。
 若干あっちの方が空力特性がいいか。
 手足が糸杉みたいだから格闘戦は無理か・・・」

人型機動兵器というには苦しいだろう。
手もガンポッドを操作するためのモノでマニュピレータと言った方が正しい。
足も歩く目的には使えそうもない。ライディングギアの代わりだろう。
戦術フォーマットとしてはその機動力を利用して上空からガンポッドによる掃射により敵の足を止めるのが目的だろう・・・

サリナは機動兵器の起動シーンを見ただけでそこまで見抜いていた。アーキテクト開発者としての才能故である。

そして・・・

「問題は白い機動兵器か・・・
 クリムゾンにしては人型のフォルムで9m級の機動兵器ねぇ・・・
 地上走行はエステのローラーダッシュと違ってホバーリングか・・・
 やっぱり9m級の機体をエステ並に動かすアクチュエーターは無いようね・・・
 しかしその割にはベルギアの空中からの攻撃をかわしているわ。
 パイロットの腕かしら?」

ステルン・ベルギアの方はどうという事はない。
ある程度予測された範囲の性能でしかない。
まぁ、使われているエンジン系が気になると言えば気になる。
それよりも問題は白い機動兵器の方だ。

どの企業の兵器系統かは見ただけでは全く読みとれない。
9m級ともなると動きは鈍くなるモノだ。
エステもあの白い機動兵器にしても総体としての駆動系機器の体積容量は変わらない。
よっぽど革新的な駆動系を開発できなければ重量が重ければ重いほどそのモーメント制御のためにトルクを取られ、瞬発力は落ちる。

エステがエンジンをオミットしてまで6m級に抑えたのにはそこに理由がある。
より重量が小さいバッタ系の機動兵器と瞬発力で対等に戦うには瞬発力の高い駆動系を装備しなければいけなかった。
だからエステバリスは非常に軽くできている(ただし砲戦フレームを除く)

対する月面フレームやゲキガンタイプは全ての駆動系にトルク重視のアクチュエータが選ばれている。それは格闘戦という戦術フォーマットを捨てて砲術戦をメインに据えるためである。
強力なエンジン出力を背景に重力波推進やボソンジャンプでその機動力不足を補い、ディストーションフィールドで防御を強化し、強力な砲火で敵が近づく前に殲滅する。

これがこの時代における機動兵器の戦術的な位置づけだ。

しかし逆に見ればちょうどその中間・・・
9m級のゾーンがすっぽり抜けているとも言える。
そこそこの機動力、同等クラスの機動兵器を圧倒できるだけの格闘戦能力
今まで6m級の機動兵器同士による格闘戦という概念がなかった所に来てのこのコンセプトだ。目の付け所は悪くない。

「にしても・・・あの動き方は何?
 あのふらふらした動きは・・・」

サリナはその動きが機動兵器の肩に付いているターレット状のスラスターノズルにあることを知る。あの自在に動くノズルにより意図的にモーメントベクトルを崩した動きを行うのだ。だからあの不思議な動きになり、不安定になっている。
だがその不安定さ故に素早い回避に繋がり、また自らの動きを予測させないのであろう。

「しかし・・・
 今はまだアクチュエーター系の制御が最適化されてないみたいだけど、最適化されたら・・・末恐ろしいわねぇ」
サリナは白い機体のポテンシャルに身震いをする。
早めに叩けるなら叩いておきたい。

???「叩いておきたいのか・・・」
サリナ「そうなのよ・・・」
???「しかし、そうさせるわけには行かないなぁ」
サリナ「え?」

サリナは自分の独り言に相づちを打つ者がいることに冷や汗をかく。
恐る恐る振り返ると、そこには強面の兵士が立っていた。

兵士「女のスパイにしては大胆だな」
サリナ「い、いや・・・スパイじゃなくてただの観光客です♪
 ・・・っていうのは通用しませんか?」
兵士「こんなところにピクニック客はいない・・・」
サリナ「や、やだなぁ〜〜そんな怖い顔をせずに平和に行きましょう♪
 平和に♪」
兵士「平和に自白させてやる。
 自白剤は選ばせてやる。
 鳥頭になるのが良いか?
 それともひと思いに・・・」

兵士がライフルをちらつかせて凄む。サリナは青くなって尻餅を付き後ずさった。

兵士「心配するな。可愛がってやるから♪」
サリナ「いやぁぁぁぁぁ!!!」

サリナは身構えてそれから起こることに身構えた。
しかし、しばらく経っても何も起こらなかった。

???「何やってるんだか」
サリナ「・・・・?」
薄目を開けるとそこには股間を押さえて悶絶してる兵士の姿があった。
そして兵士がパッタリ倒れたその後ろには黒いマントを羽織った女性がいた。

サリナ「アマガワ・アキ〜〜」
アキ「サリナさん、おひさ〜〜」

行方不明につき、軍やネルガルが必死に探している女性アマガワ・アキである。

サリナ「地獄に仏〜〜助かったよぉ〜〜」
アキ「あ〜〜鼻水垂らしながら抱きつかないでよ〜〜」
アキは鼻水と涙でグシャグシャになったサリナの顔をハンカチで拭いてやる。



しばし後・・・


アキも双眼鏡の向こう側を覗き見る。
アキ「ステルンクーゲルと夜天光のプロトタイプか・・・」
サリナ「え?なに?」
アキ「いえ・・・でもやっかいね」
サリナ「ええ、あんなのを量産されたら・・・」
アキ「ぶっちめちゃおうか?」
サリナ「え?」

アキが懐からリボルバーを取り出すのを見てサリナはギョッとする。

サリナ「あ、あんた、何考えてるの!?」
アキ「だからあの機動兵器を・・・」
サリナ「エステでも持ってきてるの?」
アキ「うんにゃ」
サリナ「そのリボルバーひとつであの機動兵器を?」
アキ「そう♪」

まるでそこら辺の悪ガキでも懲らしめに行くみたいな気軽さで言っているが、とんでもない!
あそこで機動兵器が模擬戦をやっているだけじゃないのだ。
当然モニターしている技術者達がいるだろうし、この一帯を警備している兵士だってたくさんいるのだ。

サリナ「無理に決まってるでしょ!止めなさい!」
アキ「でもアレをそのまま野放しにしてたら・・・」
サリナ「無茶に決まってるでしょ!あの周りにどれだけの警備兵がいると思っているの!」
アキ「あなたもよくこんなところに潜入したわねぇ〜」
サリナ「いやぁお姉ちゃんにもよく鉄砲玉って言われて・・・
 ってあたしのことはどうでも良いんだって!
 んな無茶しないで私を守ってよ!」
アキ「止めてくれるな、おっかさん〜〜」
サリナ「時代劇風に誤魔化すな!!!」

と、漫才しながらもみ合っている二人を余所に、演習場では異変が起きていた。

アキ「おや?こっちに気づいた?」
サリナ「まさか・・・」
アキは双眼鏡を覗く。
するとベルギアの方は既にトレーラーに積み込まれていた。
そして白い機動兵器の方は・・・

アキ「こっちを見た?」
サリナ「不気味なこと言わないでよ〜〜」

確かに白い機動兵器はこっちを見ているような気がした。
あの威圧するような殺気のこもった視線・・・
目が合ったかも?と思ったのもその一瞬だけだった。

ゴゴゴゴーーーー!

サリナ「なに?この地響き!?」
アキ「あそこ!」
アキが指を指した先・・・そこには突如、地中からチューリップが現れたのだ。

白い機動兵器は現れたチューリップに向かって歩き出した。

アキ「ち!チューリップでジャンプするつもりか!」
サリナ「だから待ちなさいって〜〜!」
アキ「は、離しなさいよ〜・・・・・
 って今から行っても手遅れか・・・」

白い機動兵器は躊躇わずにチューリップの中に飛び込んだ。
もちろん、どこかにボソンジャンプしたのであろう、その場からは姿を消してしまった。そしてやってきた重爆撃機がチューリップに爆雷を落とした。

数分後・・・そこで演習が行われていた痕跡は見事に消されてしまっていた・・・

アキ「ち!やっぱり・・・」
サリナ「クリムゾンが木連と絡んでいたって本当だったのね・・・」

あまりの出来事に唖然とする二人であった・・・



再びネルガル・本社第2研究課


サリナの話を聞いたエリナは驚く。
確かにそんな噂がないこともなかったが、あくまでも噂であり、まさか戦争をしている当事者同士が裏では共謀しているなどとは俄に信じ難かった。

エリナ「クリムゾンと木連が繋がっているって本当!?」
サリナ「十中八九、間違いないわね。
 これ見て・・・」

サリナはディスプレイに白い機動兵器の様子を録画したデータを映した。

エリナ「これが何?」
サリナ「何って、重力波アンテナがないでしょう!」
エリナ「無いの?」
サリナ「無いわよ!!!」

そりゃ素人にそんな些細な違いを見分けろというのは無理な話だ(笑)

エリナ「9m級の機動兵器を満足に動かせるエンジンなんて無いって言ったの、あなたじゃないの」
サリナ「そうよ。地球の技術じゃねぇ・・・」
エリナ「それって・・・」
サリナ「だから木連の技術が使われてる・・・って事でしょうね」

サリナは難しい顔をする。
思いの外、政治的にはややこしいことになりそうだ。



それはともかく・・・


エリナ「それで?」
サリナ「それでって何が?」
エリナ「だからアマガワ・アキはどうしたのよ!」

あ、という顔をしてサリナは頬をかいた。
確かに彼女は手配中の身である。

サリナ「ヨーロッパで分かれたわ」
エリナ「分かれたって、何で!」
サリナ「何でって、『白い機動兵器もいなくなったことだし、別のことする』って・・・・」
エリナ「あんたは何でそこで首根っこをひっつかまえてでも連れてこなかったのよぉぉぉ!!!」
サリナ「姉さん、ぐるじい・・・」

ギリギリとサリナの首を締め上げるエリナ(笑)
しばし後、首を離されたサリナは咳き込みながらこう答えた。

サリナ「私みたいなか弱い女が引き留めて止まる奴じゃないでしょ?」
エリナ「そりゃそうだけど・・・」
サリナ「第一、本気で引き留めて、ゲットされても困るし〜〜」
エリナ「ゲット?」
サリナ「姉さんみたいにディープな奴をよ」
エリナ「・・・・・・(真赤)」

サリナは唇をとがらせてクネクネと抱きつ抱かれつのポーズを取った。
エリナはそこまでされて彼女の言わんとしていることに気がついた。

エリナ「あ、あんた!そんなことどこで知ったの!!!」
サリナ「どこって・・・言いふらしてるわよ?」

サリナは手で髪型をマネする。
ロン毛姿だ(笑)

エリナ「あの男は!!!」
サリナ「ま、あたしら姉妹は男に恵まれないってことね」
エリナ「うるさい!!!」

エリナは力一杯妹を殴るのであった(笑)



ネルガル本社・会長執務室


アカツキ「いやぁ、手荒い歓迎だねぇ」
エリナ「あなたが悪いんです!」

頬に真っ赤な紅葉を咲かせてもなお笑みを絶やさないネルガル会長アカツキ・ナガレ
エリナはプリプリしながらも秘書としての本来の職務を果たし始めた。

エリナ「現在行方不明者は6名。
 アマガワ・アキ、スバル・リョーコ、アマノ・ヒカル、マキ・イズミのパイロット
 それにホシノ・ルリとラピス・ラズリのオペレータ達です」
アカツキ「やっかいなのが見つかってないねぇ。
 特にアキ君の足取りは?」
エリナ「サセボにヨーロッパというところまでは掴めましたが、その後はぱったり・・・」
アカツキ「報告書を読んだけど、クリムゾンと木連とが共謀してるってねぇ・・・」

アカツキはエリナの報告書を読みながら眉を撫でる。

エリナ「信頼できるソースですが?」
アカツキ「だとしても向こうはしらばっくれるさ。
 確証はないからね」
エリナ「ですが・・・」
アカツキ「まぁ表だって白い奴もベルギアも使えないだろう。
 共謀していることを暴露するようなものだからね。
 少なくとも和平が成立するまではこっちも表だっては手出しが出来ない。
 まぁ諜報部には探りを入れさせておこう。
 それよりも・・・」

アカツキは別の報告書に目を移す。
ネルガル会長にとって、まずは外の患いよりも内の憂いをどうにかする方が先のようだ。

アカツキ「要注意人物が一ヶ所に固まっているってのは監視する側としては助かるけど・・・良くこれで戦争やってたよねぇ(苦笑)」

アカツキは報告書を見て溜息をつく。
艦長のミスマル・ユリカ
副長のアオイ・ジュン
パイロットのテンカワ・アキト
操舵士のハルカ・ミナト
それに木連からの和平の使者である白鳥ユキナ

要注意人物である5人が艦を下りた後、サセボに潜伏しているとの報告書だ。
頭隠して尻隠さずである。
ナデシコを降りて再起を図るつもりなら、リスクヘッジというか、一ヶ所に固まってまとめて捕まる様な危険を冒すのもどうかしているのだが・・・

ともあれ
ネルガルも和平が成らなければそれはそれで目的は達しているので監視だけしておけば良いとの判断である。

エリナ「他のメンバーはどうされます?」
アカツキ「市民生活に戻っているクルーに関しては現状維持で良い。
 待遇は良くすること。
 もちろん、監視されていることも教えてあげてくれよ」
エリナ「飴と鞭ですか?」
アカツキ「人間、居場所を奪われることほど嫌がるものはない。
 けど不満があっても居場所がぬるま湯なら文句は言わないさ」

エリナはたまに思う。
これが為政者の論理だ。
感情としては不正義に思える。
しかしそういう狡さがなければ為政者が為政者であり続けることは難しい。

でも・・・
戦争ばかりしている地球圏をどうにかしようとネルガルに入社したエリナにとって、為政者側にまわらなければ社会を変えるほどの力は得られない。けれど為政者側にまわるまでに行わなければいけない狡猾な行為の数々はたまに目的と手段を見失いそうになる。

組織に入れば、組織の防衛本能に強く染まる。
かつて思い描いていた正義感も組織の論理に塗りつぶされる。
組織を変える力を手に入れるまでの方便だと自分を偽ってみても、やがて既得権益を死守するだけの存在になり果てる。

私は今、どこにいるのだろう?

アカツキ「エリナ君、元ナデシコクルーのメンタルケアの方はよろしく頼むよ」

会長の言葉に自分はまだ組織の側の人間であることを思い知らされるのであった・・・



台場・スタジオ近くの喫茶店


エリナは相手の驚く顔を見て少し優越感に浸る。

「マリ、待った?」
「エリナ、こっちよ」
「マリさん・・・どういうことですか?」
「彼女、私の親友で同期なの」

彼女・・・メグミ・レイナードは案の定驚いたような顔で聞く。
自分とこのマネージャーとの繋がりがわかっていないようだ。
私達は彼女が釈迦の手のひらで飛び回っているだけという事を教えてあげることにする。

エリナ「知らなかったの?彼女は・・・」
マリ「うちのプロダクションはネルガルの社内ベンチャーなのよ。
 広報部だけじゃ出来ない大きなイベントとかしてたら自然とね・・・」
マリは自分の社員証を見せる。
そこにはネルガルの社章がちゃんと入っている。

メグミはようやく気づいたようだ。
彼女にまわってきた仕事の全ては実はネルガルが指名で彼女を抜擢していることに。
つまり・・・・

エリナ「私達ネルガルはナデシコクルーの下船後の生活を出来る限りサポートしているの。だからあなた達は胸を張って活躍してくれればいいのよ。
 もちろん、火星や木星のことは他言無用よ」
マリ「エリナ、彼女は大丈夫よ。
 ナチュラルライチだって彼女のランプータンが登場してから視聴率が上がってるもの♪」

そんな賞賛の声もメグミには胸を切り刻むナイフに思えた。

メグミ「そんな!それじゃ私は戦意高揚のために仕事をしていたんですか!?
 ナデシコを降りて、戦争をこれ以上大きくしたくなかったのに・・・
 なのに戦争の後押しをしてネルガルを利するためにやってたなんて・・・」

メグミは耐えられないように叫ぶ。
しかし、その態度にエリナは腹を立てた。

エリナ「なら最初からナデシコなんか乗らなきゃ良かったでしょ!」
メグミ「ひぃ!」
エリナ「正義の味方気分か、ただの充実感を満たすためだけに安易にナデシコに乗ったくせに、全ての真実を知ったらさっさと責任を放棄して逃げ出しただけでしょ?
 自分はナデシコで地球と木連を引っかき回してここまでの騒ぎにしておいて、収拾がつかなくなったら逃げ出すのね!」
メグミ「ち、違います・・・」
エリナ「あなたが戦わなければ別の誰かが戦場に立つことになるわ。
 あなたが無責任に放置したバトンを受け渡された人はちゃんと生きて帰ってこれるのかしらねぇ」
メグミ「私はそんなつもりじゃ・・・」
エリナ「軍隊なら脱走は重罪よ。
 一生牢獄に入れられても文句は言えないわ。
 なのに監視付きとは言え、やりたい仕事を出来て何が不満なの?」
メグミ「でも私は戦争を止めさせたかったのに・・・」
エリナ「たとえ人殺しをしていようが、ナデシコという手段を放棄して日常に戻ろうとしたあなたが何を言っても説得力なんかないのよ!」
メグミ「違います!私は・・・」
エリナ「待ちなさい!逃げたって何も変わらないのよ!」

メグミは感極まって喫茶店から走って逃げた。

マリ「・・・エリナ、あなたにしては珍しいわね。
 そんなに感情的になるなんて・・・」
エリナ「・・・何でもないわ」

エリナはたまに今の自分が嫌になる。
関わり続けなければ何もできない。
地球圏を変えるには経済という鉈を揮える立場でなければ出来ない事業もある。
その為にはネルガルに関わり続けなければいけない。

けれど・・・
メグミの立場と自分の立場がどれほど違うのだろう?

エリナはたまに迷うのであった。



ネルガル・ヒラツカドッグ


その日のエリナはドッグに鎮座するナデシコの視察で会長に付き従っていた。
意外にも会長以外にゴート・ホーリーもいた。

アカツキ「クルーは?」
エリナ「半数は逃亡、あるいは下船したままです。復隊した者は十数名に留まりました。」
アカツキ「まぁそれは仕方がない。
 にしても・・・」

アカツキはナデシコの内部を見て溜息をつく。

蔓延するやる気のなさに・・・

ゴート「戻ってきたクルー達も説き伏せてようやくですから」

そりゃ仕方がない。先の脱走事件後、ナデシコに対するクルーのモチベーションはどん底まで落ちている。
元々が謎の無人兵器を倒すためというふれこみでクルーを集めたのに結果を見れば少女を軍に売り渡して戦争を拡大させようっていうのが目的だったのであればやりきれない。

アカツキ「で、補充のクルーはどうなってるんだい?」
ゴート「目下、メンバーを選定中です。」
アカツキ「そうそう、別に能力重視じゃなくて良いからね。
 能力が一流なら性格は二の次・・・ってのは十分懲りたから」
ゴート「そうなりますと、前回ほどの戦果は望めませんが?」
アカツキ「反乱されるよりはマシでしょう」

アカツキはゴートをからかうように見る。
ゴートが艦内を『こんなやる気のないメンバーで何が出来るのだ・・・』という目で見ていたからだ。
しかしそんなゴートにもアカツキには釘を差す。

アカツキ「そうそう、君もナデシコを飛ばす段取りがついたら処分を考えておくよ。
 もっとも今みたいに真面目にやってくれれば温情をかけるつもりだよ。
 ネルガルは社員に優しい会社だからねぇ〜〜」

ここでも飴と鞭だ。
このまま素直に従えば一生を不自由なく暮らせる。
けれど逆らえば社会的に抹殺される。
そんな企業のやり方にエリナは冷静を装う。
アカツキはそんなエリナの機敏を鋭く見抜く。

アカツキ「エリナ君。カキツバタの準備はどうかなぁ」
エリナ「え?・・・はい、建造はオンスケジュールで進行中です。
 まもなく艤装も完了すると思われます」
アカツキ「・・・で、やっぱりあのディープキスには未練があるかねぇ」
エリナ「(真赤)!!!」

エリナはいきなりこの前のキスのことを言われて真っ赤になる。
思わずさっきと同じように手が出た。
しかし今度は・・・

スカ!

アカツキは奇麗にかわす。
それは彼が今回言った言葉が冗談では無いという意思の表れだ。
アカツキはエリナの顔を覗き込む。
真剣な・・・少し怖い顔で

エリナ「な、なによ・・・」
アカツキ「彼らに着いていきたかったら行って良いんだよ?」
エリナ「そ、そんなこと一言も・・・」
アカツキ「にしては未練がましい顔つきだよ」
エリナ「嘘!」
アカツキ「伊達に会長をやっているわけじゃない。
 女心と忠誠心を見抜くのだけは得意なんだよ」
エリナ「・・・私はあなたの秘書になるときに言った言葉を違えるつもりはないわ。
 私はネルガルのトップに立ち、地球圏最大の企業にする。そして地球圏の復興を成し遂げる・・・って」
アカツキ「・・・ならいいさ。
 革命ゴッコにかぶれて何かを変えているつもりになっている彼らとつるむ気がないならね」

相手の目をまっすぐ見て答えるエリナにアカツキは満足そうな顔で頷いた。
彼はエリナに今一度彼女自身の誓いを復唱させた。
これで彼女は自分で立てた誓いに縛られる。
迷う心を縛り付けるにはもっとも効果的な方法だからだ。



夜・エリナの自宅


エリナは今日も残業を終えて自宅に帰ってきた。
既に夜も遅い。
ネルガル本社から少し離れた幹部用の社宅にエリナは居を構えていた。
しかしそこは会社に通うのが近いという理由で借りているのであって、それ以上の意味はない。
彼女のセンスから言えば品のない調度品が置いてある如何にもお偉いさん方が喜びそうな社宅であった。

この前まではそんなことなかったのに・・・
急に余所余所しいと感じるようになったのはいつからなのだろう?

エリナは下着姿になってベッドに倒れ込む。
居心地の悪いベッドに倒れ込む。
全然気持ちよくないが、疲れがそれをどうでもよくさせた。

ナデシコに乗る前まではそんなことなかった。
自分の勝ち得た地位を誇らしく思ったものだ。
けど、今はどうしてこの光景が胡散臭く思えるのだろう?

でもそう思えば思うほどあの言葉を思い浮かべる。

『で、やっぱりあのディープキスには未練があるかねぇ』
『彼らに着いていきたかったら行って良いんだぜ?』

一体アカツキ君は何を言い出すのよ!!!
そんなわけないじゃない!
そんなはず・・・

エリナはアカツキの言葉をかき消そうとするが、そうすればするほど頭にちらつくのは・・・
キスをしてきたアキの顔
上半身裸で掴みかかってきたアキトの顔

なぜかその顔が頭からこびりついて離れないのだ。

「あ〜〜〜もう!
 一体なんだっていうのよ!!!」

ドスドスドス

エリナは自分の枕に怒りをぶつける。
自分は軟弱な坊やが好きなわけでもないし、
同性に興味を持っているわけでもない。
まぁアキとアキトを足して2で割れば・・・
ってだから違うって!!!

ドスドスドス

また枕に怒りをぶつけるエリナ。
もうそろそろその枕も寿命は長くないかも(苦笑)

と、寿命の短い枕を買い換えなくてもいい事態が起きた。

エリナのコミュニケに通信が入った。

『皆さん、お久しぶりです。
 ルリです。にゃお〜〜』
『ラピス・ラズリ、ワンワン!』
「・・・ホシノ・ルリにラピス・ラズリ!?」

ウインドウには猫の着ぐるみ姿のルリと犬の着ぐるみ姿のラピスがいた・・・

ルリ『昔、ナデシコを君たちの艦だと言った人がいましたが、今はそんな気持ちです』
ラピス『喜びも、悲しみもナデシコに刻んだのは他の誰でもない、私達自身』
ルリ『もうすぐナデシコは別のクルーの方々が乗り込みます。
 でもそこにはユリカさんもアキトさんもいない。
 アキさんもオモイカネもいない。
 私達の刻んだ思い出は別の何かですぐに上塗りされる・・・』
ラピス『私達は何も成し遂げていない。
 成し遂げるべきなんじゃないかと思う。』
ルリ『ナデシコがナデシコで無くなる前に・・・』
ラピス『私達が私達らしくなくなる前に・・・』
ルリ『私は嫌です。この艦は私達の艦です』
ラピス『渡したくない、私とアキと、そしてみんなの居場所を・・・』

画面の中で少女達は静かに語りかけた。

エリナの心に突き刺さる言葉。
私の居場所は・・・どこ?

けれど、彼女は現実に引き戻される。

コミュニケから別の呼び出しが入った。
ルリ達のウインドウをとっさに画像オンリーに切り替えて、もう一方の通信をサウンドオンリーで受信する。
現れたのはアカツキのウインドウだった。

エリナ「どうしたの?アカツキ君」
アカツキ「あれ?どうしてサウンドオンリー?
 もしかして恋人でもいるのかなぁ?」

一瞬疚しさが顔に透けたのか、カマをかけるアカツキであるが、エリナはあくまでも平静を装った。

エリナ「バカねぇ。シャワー浴びる前だったのよ。
 私の下着姿を見たいって言うなら見せてあげるけど、後でセクハラで訴えるわよ」
アカツキ「こりゃ失礼。
 いやぁ、レディーの家に夜分通信を入れるのは無粋かと思ったんだけどね。
 緊急事態だ。出社してくれるとうれしい」
エリナ「・・・わかったわ。支度してすぐ行くわ」

そういうとエリナは通信を切った。
片隅に追いやったウインドウにはまだルリ達の姿が映っている。

エリナはとりあえず外出する支度をした。

自分はどちらに進むべきか・・・
そんなことは部屋を出るまでに考えればいい
それが今のエリナの偽らざる気持ちであった・・・



ネルガル本社


アカツキ「おや、早かったねぇ」
エリナ「一体こんな夜分に何の用?」
アカツキ「元ナデシコクルーの造反だ。
 ヒラツカドッグがナデシコからのハッキングで混乱状態にある。
 混乱に乗じて数名のクルーが乗り込んだそうだ」
エリナ「・・・そう」

結局エリナはこちら側に来た。
自分の心はまだ組織の側の人間だから
それが偽らざる気持ちだったのだ。

・・・そう自分の心に言い聞かせる。

ナデシコ一隻で何かが変わるなんて、それは幻想にすぎない。
ただのヒーロー願望にすぎない。
世界はそれほど単純じゃない。
それは経済の論理を知っているエリナには身に染みている。

アカツキ「現在のナデシコに積載している物資の量は?」
エリナ「出航準備がほぼ完了していますから満タンです。
 火星まで往復できます」
アカツキ「こりゃ裏目に出たねぇ。
 けど、本当にこんな造反が上手く行くと思っているのかねぇ
 マスターキーはこちらにあるっていうのに」

戦艦一隻飛ばすのにどれほどの資金と物資がいるのか、彼らも知らぬ訳ではないだろうに。
戦艦は基本的に何も生産しない。
人一人を1ヶ月養うには10万円はかかる。
それを仮に100人養うとすれば1千万円かかる。
何もせずにそれだけの金が飛んでいくのだ。
戦闘をすればそれだけでは済まない。
弾薬などの消耗品、補修物資は湯水のように資金を吸い取っていく。
資金力のバックボーンがない反乱組織などあっと言う間に消耗してお終いである。

そして彼らにここ1ヶ月程度で事態をどうにか出来る見通しがあって造反したとは到底思えない。
だからエリナはここに留まった。
何かを成すためにはナデシコだけではダメなのだ。
たとえ不浄でも資金力がなければ。

けれど・・・

アカツキ「でも断られると思ってたんだけどねぇ」
エリナ「なにが?」
アカツキ「いや、夜分にほとんど理由も聞かずにもう一度出社してくるなんて・・・って思ってね。まるで何があったのか知ってる風だったし」
エリナ「・・・」

アカツキはさっきの事を疑っているようだった。

エリナ「なら、今度から夜の呼び出しは全て拒否しましょうか?」
アカツキ「それは困る。夜の食事を誘えなくなっちゃうじゃないか〜」
エリナ「公私混同は困ります」
アカツキ「はいはい」

エリナは追及をかわせたかどうか、平静を装いながらアカツキをチラリと見る。
どうやらそれ以上の追求をするのは止めたようだった。

なぜなら・・・



数分後・ネルガル本社会長執務室


アカツキ「こりゃ一杯食わされた〜」

アカツキはヤレヤレといった顔で溜息をつく。
その間にも各方面から情報が入ってきていた。
ナデシコがヒラツカドッグから発進したという報である。

現在、ナデシコは空軍の追跡を突破しながら重力圏を脱出中である。
ビッグバリアに阻まれて脱出できるかどうかわからないが、これまでの手際の良さから言ってまず難なく突破するであろう。

アカツキ「ゴート・ホーリー、コチコチの石頭かと思ったけど、どうして食えない男だったよ」
エリナ「だった?」
アカツキ「そう、マスターキーを持って逃げちゃった」
彼はピラピラと会長執務室の引き出しに入っていた置き手紙を見せる。

『マスターキー頂きました ゴート・ホーリー』

アカツキ「性格はともかく能力は一流って触れ込みは本当だったって証明されたわけだ。誇って良いんだろうかねぇ?」
エリナ「さぁ」

エリナは苦笑する。
ほとんど前打ち合わせなど出来ていないはずだ。
自分たちは彼らを監視していてそうさせないようにしていたのだから。
にもかかわらず、ぶっつけ本番で各自が有機的に行動して今回の脱走劇を演じて見せたのだ。本当に優秀でなければ成功しない。

ともあれ・・・

アカツキ「でもこれで面白くなってきた。
 カキツバタ、行けるよね?」
エリナ「え?ええ・・・」
アカツキ「僕たちも行こう。面白くなってきたよ」

エリナはアカツキの真意を測りかねていた。
でもわかっていることだけはひとつ・・・

ナデシコがこれから何を成し遂げられるのか
和平に導くにしてもナデシコ一隻でどれほどのことが出来るのか

『出来るものならやってみなさい』

そんなつもりでいた。
そしてナデシコが騒動を起こせばあいつが必ず現れるはず。
今度こそ、首をひっつかまえて見せる。

『ファーストキスの責任は取ってもらうわよ!!!』

心に固く誓うエリナであった。

・・・・マジですか?

「何よ、わ、悪いかぁ!!!」

いや、でも責任って一体何を取ってもらうつもりなのやら(苦笑)

ってことでcase by MEGUMIに続きます。



ポストスプリクト


今回は特別に奥さん'sとその愉快な仲間達の語らいをお送りします。

ガイ「誰が愉快な仲間達だ!!!」
イツキ「私達、選ばれた勇者のはずなのに・・・」
フクベ「つまらんのぉ」
Secretary「うるさい!部屋の隅でこれ見よがしにいじけるな!!!」
ガイ「・・・ちょっと今回は主役だったからって」
Secretary「う・・・」

−あ、照れてる照れてる

Secretary「照れてないわよ」
ガイ「にしても・・・結構純情少女だったのか・・・」
Secretary「な、どういう意味よ!!!」
イツキ「ファーストキス(ボソ)」
Secretary「う!」
Actress「人は見かけにはよりませんよねぇ〜」
Secretary「・・・(真赤)」

−ちなみに皆さんのファーストキスはいつなんですか?

Snow White「そりゃ、TV版最後の火星で・・・」
Blue Fairy「あれ?実は火星の子供時代だったんじゃなかったんでしたっけ?」
Snow White「そうだっけ?」
Blue Fairy「・・・あの人が可哀想です(苦笑)」
Actress「私もTV版でサツキミドリ2号の時に♪」
Pink Fairy「ウソ」
Actress「ウソって何なの?」
イツキ「どう考えてもファーストキスがまだな人がアキトさんに迫ったりしませんよねぇ・・・」
Actress「それは乙女の成せる技です!(力説)」
Blue Fairy「ってことはこの世界のメグミさんはファーストキス、まだなんですね?」
Actress「・・・いや、それは・・・」
Pink Fairy「この世界じゃアキトとキスしてないし」
Actress「そ、そう言うあなた達はどうなのよ〜」
Blue Fairy「黙秘します」
Pink Fairy「同じく」
Actress「あ、ずるい〜〜」
Blue Fairy「少女ですから」
Pink Fairy「同じく」
ガイ「ちなみに俺様は・・・」
一同「誰も聞いてないわ!!!!」

なぜか木連式柔6連発炸裂(笑)

ガイ「お、俺様が主役のはずなのに・・・」

ガイ君、それは間違った認識だと思うぞ?

Special Thanks!!
・カバのウィリアム 様
・AKF-11 様
・bunbun 様
・k-siki 様
・Dahlia 様