まぁ、一部和平の使者らしからぬ振る舞いを行う少女がいたりしますが(笑)
千々に乱れる彼らの心はどこに漂着するのでしょうか?
変わらない歴史
変わる心
知りたくなかった真実
無知は幸福
知った真実には義務が伴う
痛む心に嘘をついてはいけないから・・・
ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで~
所は地球の太平洋上
あれからナデシコが地球に帰投するぐらいの時間を待った後、ミナトに付き添われてユキナがブリッジにやってきた。
そして彼女の言葉に一同は驚く。
彼女が木連からの和平の使者だと言うのだ。
ヒカル「で、和平会談が始まるの?」
リョーコ「バカ、違うよ。
お見合いらしいぜ」
イズミ「お見合いをお見舞い・・・なんちって」
とまぁ、物見遊山に集まったクルー達でごった返していた。
そこにやってきたのはユキナが運んできたなにやら怪しい物体であった。
足下はバッタかジョロの流用物
そしてその上に棒で固定されていた超小型のチューリップらしき物体。
メグミ「何ですか?これ」
イネス「説明しましょう♪」
メグミの言葉に目を輝かせて現れたのが説明魔人イネス・フレサンジュ
イネス「これはいわゆるボソン-フェルミオン変換を用いた一種の情報伝達装置ね。
通常、通信手段には電波や光通信なんかが使われるけど、ごく普通の通信方法では地球から火星、さらに木星となると直接通信する方法がない。
なぜなら、ご存じの通り光の速度は毎秒約30万kmだけれど、地球と火星の平均距離は7千8百万km。光の速度でも往復するだけで8分もかかってしまう。
一つの会話の受け答えだけでそれだけかかっちゃったらまともな会話にすらならない。
そこでこの装置が登場するわけ!
で、その原理はというと・・・」
ルリ「つまりボソンジャンプで瞬間移動できるんだから、映像や音声も距離に関係ないんじゃないのか?ってことですよね」
イネス「う・・・」
それ以上の説明が出来なくなって絶句するイネス(笑)
しかしルリとしてはただでさえ気分がアレなのにそんな鬱陶しい説明を延々と聞く気分ではなかった。
ルルル~~と涙を流すイネスを余所にミナトは苦笑しながら会話を先に続けた。
ミナト「これでリアルタイムで通信しようって言うんだよね?」
ユキナ「本当は和平会談用にって渡されたんだけどね♪」
ユキナは舌を出す。
試運転という名目でミナトと九十九の対面を叶えてあげようというのである。
ユキナ「確か、このスイッチだったと思うんだけど・・・」
ユキナは手に持ったリモコンをポチポチ押してみるが、通信機はウンともスンとも言わない。
ポチポチポチ
どのボタンを押しても通信機はうんともすんとも言わない。
焦ってボタンを押し続けるユキナ
と、そこに・・・・
ルリ「蹴り!」
ユキナ「あ・・・」
ゲシ!ゲシ!ゲシ!
ルリがいきなり通信機にケリを入れた。
ユキナ「あ、あんた、何するのよ!」
ルリ「こういうのは蹴りを入れれば直るんです」
そういってルリは容赦なく蹴りを何発も入れた。
結果・・・
プシュ~~~
ルリ「ギク」
ユキナ「え?」
ルリのまずいと思った表情と同時に通信機から煙が吹き出した。
ユキナ「・・・ギロ!」
ルリ「・・・・(汗)」
ユキナ「壊したわね・・・」
ルリ「まぁ・・・最近の電子精密機器は昔のテレビじゃないんですから叩いて直るってことないですよねぇ~」
ユキナ「ちょっと・・・」
ルリ「いくら直らないからって、動作中のノートPCを叩いたらそりゃHDDがおかしくなったりするので良くないから止めろっていう教訓ですよ」
ユキナ「ムキー!!!!
そんな職場であったあるあるネタを使って誤魔化すんじゃない!!!
っていうかアタシの通信機壊しちゃってどうするつもりなのよ!!!
お見合いがパーじゃないの!!!」
ルリ「いやぁ(テレ)」
ユキナ「照れる場面か!!!」
とかなんとか、ルリに通信機を壊されて癇癪を起こすユキナ
まぁ気持ちは分からなくないが・・・
と、ルリに詰め寄っているユキナの元にラピスがやってきた。
ラピス「心配入らない。別に壊れているわけじゃないから」
ユキナ「壊れてないって・・・現に煙を吐いて・・・」
ラピス「通信機の中の人がサボって煙草吸っているだけだから」
ユキナ「何バカなこと言ってるのよ。
通信機に中の人なんて・・・」
呆れるユキナを余所にラピスは通信機に近づいて中を覗くふたを開く。
するとそこには小人さんらしき妖精みたいなのが煙草を吸って休憩していた。
小人さんはサボっていたのが見つかると大慌てで煙草を消して機械の中に消えていった。
ユキナ「・・・・今の何?」
ラピス「中の人」
ユキナ「・・・知らなかった。あんなのが動かしていたなんて・・・」
ミナト「ねぇねぇ、どうしたの?」
ユキナ「え?ミナトさん、今の見えてなかったの!?
小人がいて・・・」
ミナト「何バカなこと言ってるの。それよりも通信機動いてるけど?」
ユキナ「???」
訳の分からない事態に首を傾げるユキナ。
ルリとラピスだけは舌を出して笑っていた。
元ネタがわかる人は女神様通です(笑)
とまぁ、そんなどうでも良い冗談は置いておくとして、
早速通信機は遙か彼方の戦艦の中らしきところの映像を映し出した。
しかもなにやら男性の声みたいなのが聞こえてくる。
???「なんだ、勝手に受像器が・・・」
ユキナ「お、お兄ちゃん♪」
???「ゆ、ユキナなのか!?」
そう、通信機の向こう側に映し出されたのは白鳥九十九の執務室であった。
向こうはいきなりユキナ達ナデシコの光景が映し出されて驚いていた。
九十九「ユキナ、無事なのか?そこはどこだ!」
ユキナ「大丈夫。ナデシコに保護されたの。
今もナデシコから通信を送っているの」
九十九「本当か?
アマガワ・アキさんもいるのか?」
ユキナ「・・・お兄ちゃん、開口一番にどうしてその名前が出てくるの?」
九十九「え?」
しまったという顔をする九十九(笑)
ここから延々と九十九の言い訳が続く。
九十九「えっと、それは・・・であるからして・・・というわけで、かくかくしかじかというわけだ・・・」
ユキナ「ふぅ~ん。
お兄ちゃん、あんな言い訳してるけど、ミナトさんは信じる?」
九十九「え!?」
ミナト「し・ら・と・り・さん!」
九十九「み、ミナトさん!!!!」
ジト目で怒気発しまくりのミナト登場(笑)
ミナト「ふぅ~ん、白鳥さんはアキさんがいいんですか・・・」
九十九「いや、そういうわけじゃ・・・」
ミナト「・・・」
九十九「彼女とは別にそういう関係ではなくて、自分はミナトさんとの方が・・・
どちらかというと自分は胸の大きい女性が・・・
いやいや、別に女性を胸だけで判断しているわけじゃなく、なんというか、その人間的魅力というやつで・・・」
ミナト「・・・・・・・・・・クスクス」
言い訳してる九十九がおかしくなって笑うミナト
ミナト「許してあげますよ、白鳥さん」
九十九「え?本当ですか?」
ミナト「ええ、今度実際にあったときにちゃんと釈明していただけるなら」
・・・・・その時のミナトの顔がマジで怖かったとクルーの誰もが証言した。
ともかく
ミナト「・・・あれ?どうしてかな、白鳥さんの顔を見たら」
九十九「ミナトさん・・・」
思わずうれし涙を流すミナトをすぐ近くにいたら抱きしめたのに・・・と思う九十九であった。
そんな光景を見たナデシコクルーの反応はというと、
ヒカル「なんかいい雰囲気だね」
イズミ「アキさんがいないのが残念」
メグミ「三角関係が勃発!ですか?
それはそれでおもしろいというか、血の雨が降りそうというか・・・」
ジュン「そんな聞こえるように言ったらテンカワが・・・」
壁際で見ていたアキトの顔は険しかった。
九十九を睨み付けてさえいた。
ヒカル「強力な恋のライバルだからかな?」
リョーコ「っていうか、この前あいつら戦ったんだぜ?
アキトにとっちゃ・・・」
ユリカ「どっちも違います!」
ユリカが二人の発言を否定した。
その後、ユリカはアキトの手を引っ張っていった。
アキト「何をするんだよ!」
ユリカ「いいから!お話し合いをするの。
あ、ミナトさんに九十九さんはそのまま愛の語らい合いを続けていて下さい♪
ルリちゃん、ラピスちゃんも来るでしょ?」
ルリ&ラピス「うん!」
4人が部屋を出ていった後には、訳の分からないクルー一同と、ただ二人だけの世界に浸っているミナトと九十九の姿があった(笑)
アキはブリッジには向かわず訓練施設で武術の練習をしていた。
何も考えたくなかった。
考えていると頭がグチャグチャになりそうだったから。
変に考えるのは止めよう。
ユキナちゃんのバカ騒ぎを見ていたらそう思った。
だから体を動かしていた。
体を虐めて
ヘトヘトになるまで動かした。
「疲れた~~!!!」
そしてついに力尽きて床に大の字になって寝っ転がった。
「なんか、頭が空っぽだ・・・・」
何も考えずにホゲェ~ってするのってどれぐらいぶりだろう?
気を張って何かを変えようとずっと思い続けてやってきた。
でも、それを本当に為すべきなのか考える余裕もなかったのかもしれない。
頭を空っぽにして、それから何をやるかを考えても良いのかもしれない。
「やめちゃおうかなぁ~」
素直にその台詞を口から出せるようになった。
そうなったら途端に気が緩んで眠たくなった。
意識はスーッと消えてなくなり、深い眠りについた。
なんだか、久々の心の底からの眠りであった。
だからかもしれない。
彼女は久しぶりに夢を見た。
それは懐かしい、暖かい夢であった・・・
廊下では俯くアキトにユリカが尋ねていた。
ユリカ「ねぇ、アキトはやっぱり木連と和平とかしようって言ったら嫌なの?」
アキト「嫌って言うか・・・」
ユリカ「どう見ても賛成・・・って顔じゃないよ」
ルリ「アキトさん、すごく眉間にシワが寄ってます」
アキト「寄ってる・・・かな?」
ラピス「寄ってる」
アキトは自分の難しい表情を指摘されて苦笑する。
アキト「嫌って言うか・・・いま木連の奴らを見たら殴り殺しちゃいそうだ・・・」
ユリカ「アキト・・・」
ユリカ「でも木星の人達全てがやった訳じゃない。
一部の人達だけだし、それにあの人にしたことを彼らが今の時点でしている訳じゃないんだよ?
アキトは未来の罪を持って今の人達を断罪するの?」
アキト「そうじゃない。そうじゃないけど・・・」
そんなことはわかっている。
けれどあの未来の光景は生々しく自分の中に宿った。
その光景は理性では払拭できない。
向けるなと言われてもぶつける先のない怒りが溢れてしまう。
ユリカ「ならあんなこと起こさないことだって出来るんじゃないの?」
ルリ「そのための和平・・・ですか?」
ユリカ「うん」
ラピス「でも、本当に出来るの?」
ユリカ「やらなきゃ!」
ユリカはそう力説する。
過ちを起こさないように出来るはずだ。
その努力をしなければいけない。
でも・・・
ルリ「アキトさんの悩みはそんなところじゃないって顔ですね」
ユリカ「え?」
アキト「・・・・」
ルリ「怖いんですか?」
アキト「・・・怖いよ」
アキトは絞り出すように言う。
アキト「確かに奴らを見たら殴ってやりたい・・・
そう思っている。
でもその力を振るう事も怖いんだ。
もし振るったら、それだけしか考えられなくなりそうで・・・」
アキトは怖かった。
怒りにまかせて戦ってしまうことが。
それがどういう結果を引き起こすのか知っている。
あの人は何かを守る為に戦い、そして自らを見失うほど血にまみれた。
アキト「殴ったら殺せる。
その力を持っている。
その力をあの人から貰った。
でも・・・
あの人のように相手を殺せる・・・
そう思ったら・・・怖くなった。
後悔しているんだよ。
大切なモノを守る為に力を身につけたはずなのに・・・」
アキトは自分の手を見つめる。
あの人が見た光景
あの人の手は血でまみれていた。
その光景が自分の手にだぶる。
でもその手を握る手がある。
それは幼い少女の手だ。
ラピス「大丈夫。私は嫌いにならないから」
アキト「ラピスちゃん・・・」
ラピス「あの人と一緒の手。
記憶の中のあの人も同じ事で後悔していた。
やっぱりアキトはあの人の今の姿。
だから・・・
私はあの人が好き。嫌いにならない。
だからアキトも嫌いにならない。
それじゃダメ?」
アキト「・・・・・・・・・・」
どうしてだろう?
血にまみれた手に少女の手が重なるだけでどうして落ち着くのだろう。
その手に重なる手がある。
それもひとつだけじゃない。
ルリ「私も嫌いになりませんよ、アキトさん」
ユリカ「私も嫌いになんかならないもん♪」
アキト「みんな・・・」
アキトは涙を流しながらみんなの手を握った。
彼女が握ってくれた手の感触がいつまでも心に残っているなら、この手が憎しみに任せて血にまみれるようなことはないと思えるのであった。
アキは夢を見ているんだと思った。
でも、それは違う気がする。
真っ暗な暗闇の中
しかしその空間を照らすような淡い光が5つばかり自分の周りを飛び回っていた。
温かく照らすその光の正体がなぜかアキにはわかった気がした。
アキはその光達に尋ねかけた。
「ねぇ、歴史を変えるってどういう事かな?
私って無駄な事してるのかな?」
「どうしてそう思うんですか?」
アキの問いに蒼い光がそう尋ねる。
「だって事態は悪い方に進んでいる。このまま先を続けていく自信がないんだ」
「良いか悪いかは後になって誰かが決めるんだよ。
今、それを考えたって仕方ないよ♪」
白い光はそれが大したことではないように笑い声で答えた。
「でも私は怖い。
私は彼らの運命すら狂わせてるんじゃないかって」
「誰かが誰かの運命を狂わせてるなんて、それは傲慢な考え方よ。
例えそうだとしても人は自らの運命を切り開く余地を持っているわ。
その考えすら放棄させるつもり?」
藍色の光はアキを叱りとばすような声で答えた。
「私は自分が怖い。
自分の中の憎悪の炎を消せない
未だに囚われ続けたままだ・・・」
「私はあなたを嫌いにならない。
だから怖がらなくてもいいよ」
薄紅色の光は淡々とだがそう答えた。
「彼らは私をどう思っているのだろう?
忌むべき存在なのかな・・・
怖がっているのかな・・・
疫病神なのかな・・・」
「嫌われたくないのは愛しているからですよ。
だったらこちらからもっと愛してあげれば良いんですよ。
私はあなたが好きですよ」
薄紫色の光は人なつっこそうな声でそう答えた。
「でも君達はそれで良いのかい?
歴史は変わっちゃうかもしれない。
君達が歩んだ歴史すら変わってしまうかもしれないんだ」
「かもしれないね」
「今度はお前が復讐者になってしまうかもしれない。
この苦しみをお前が味わうかもしれないんだぞ?」
「なら私があなたを助けに行くわ♪」
「いや、それはそれで・・・・(汗)」
アキはその光景を思い浮かべて少し苦笑する。
でも白き光はそんなことでは決して輝きを失わないかのように微笑みかけた。
「君もそれで良いのかい?
君にはもう一つの世界で辛い思いをさせた。
にもかかわらず私はこの世界で何も報いなかった。
もう一度あの世界に戻るかもしれなくてもいいのか?」
「かまいませんよ・・・」
「それだけじゃない。
今度は君が遺跡に取り込まれるかもしれないんだよ?」
「遺跡に取り込まれたらあなたがまた助けに来てくれますよね?」
「ああ・・・」
「なら、私はもう一度復讐者になってもあなたを助けに行きますよ。
それが私達の絆だから・・・」
蒼い光がまるで何でもないことのように答えた。
「私はきっとまたお前を傷つける。
自分に好意を持っていることを知っていながら、自分の復讐の為に利用するんだ。
甘い言葉をささやいて支援を引き出すんだ。
嫌われたくないのに憎まれ口を叩くんだ・・・」
「何甘ったれてるのよ!
あなたが私を利用するですって?
私が利用されるような女だと本気で思ってたの?」
「い、いや、そういう訳じゃ・・・」
「あんたの世話くらい、何度でもやってあげるわよ。首に縄を付けてるんだから逃がさないわよ♪」
藍色の光は宣言するかのようにそう言い放った。
「私は君の気持ちを利用していたんだ。
慕う君の気持ちを利用して復讐の片棒を担がせていたんだ。
君の無垢な気持ちにつけ込んで・・・」
「私はあなたの目
私はあなたの耳
私はあなたの剣
私はあなたの盾
私はあなたを嫌いにならない
なぜならあなたの心を知っているから」
「こんなに醜い心でもか?」
「私にとっては全てが愛おしい。
あなたはその気持ちを教えてくれたから」
薄紅色の光はそれが絆だからと答えた。
「いいのかい?この歴史では君はこの世界の私を好きにならないかもしれない。
この世界の私はこの世界の君を好きにならないかもしれない。
変わる歴史が元の歴史と全く同じ保証なんてどこにもない。
下手をすれば私と君は次の瞬間、赤の他人になるかもしれない・・・」
「運命・・・そんな言葉を信じることが出来るなら、今私とあなたが知り合えて、好きでいられるんだから、たとえ歴史が変わろうとも私はあなたを好きになるんじゃないか・・・
それが私とあなたの間にある運命じゃないかって思ってます」
「でも・・・」
「心配入りません♪
この世界の私も同じ私です。
いずれあなたに恋をします。
絶対あなたを振り向かせて見せます♪
私ってそういう女ですから♪」
薄紫色の光は自信満々にそう答えた。
「君達・・・」
「あなたはあなたの思う事をすればいいのよ」
「そうすれば運命は後から付いてきます」
「私達は信じてるから」
「あなたのことを」
「未来は繋がっているから」
「・・・ありがとう」
アキは光達に謝辞を述べた。
多分遠くにいるであろうに、とても近くに感じられた・・・
アキは目を覚ますとそこはやっぱりナデシコの訓練施設であった。
多分疲れていたのだろう。
道場の床で大の字になって眠っていたようだ。
「夢だったのかな・・・」
その不思議な感覚にそう思う。
でも・・・
「やりたいようにやる・・・か」
なぜか彼女の心は晴れ晴れしていた。
「やってみるか♪」
元の歴史がどうなろうが知ったこっちゃない。
自分が変えたいと思う未来になるように努力してみよう・・・
アキは起きあがって道場を出て行ったのだった。
アキが目覚める少し前、
ブリッジに戻ってきたユリカはこう宣言した。
ユリカ「私は和平を実現させたいと思います」
それはユリカのこの戦争に対する初めてのビジョンであった。
彼女は何も夢物語を語っているのではない。
身近にユキナという敵側の少女がいて、ミナトと九十九が敵同士なのに分かり合えて、この互いを排除する以外にあり得ない戦争もひょっとしたら終わらせられるのではないか?
そう思えてきたのだ。
それは明確なビジョンとなってナデシコクルーの前に現れた。
だってユキナやミナトらが目の前にいるのだから。
ヒカル「異議なし~」
メグミ「異議なしは賛成なんですけど、どうやって実現するんですか?」
ユリカ「それは連合軍のお偉いさん方に上申を・・・」
ルリ「連合軍の艦隊接近・・・停船勧告です」
ユリカ「え?」
ユリカの期待とは裏腹に事態は厳しい方向に動いていた。
連合軍の艦隊はどう考えても友好的に近づいているのではなさそうだった。
明らかにナデシコに対する威圧行動をとっていた。
ユキナ「お兄ちゃん、なんだか知らないけど、また後でね」
九十九『おい、ユキナ、一体どうし・・・・ブチ!』
ユリカ「アサガオ、ヒルガオ、ヒメジョオン・・・何でここに・・・」
ジュン「ヒメジョオンっていえば、ミスマル提督の・・・」
コウイチロウ『ユリくわぁぁぁぁぁ!!!!』
一同「やっぱり~」
ブリッジの正面にはコウイチロウのウインドウが大写しで開かれた(笑)
が、コウイチロウには珍しく世間話もそこそこに本題を話し始めた。
コウイチロウ『木連の少女がいるはずだ。』
ユリカ「もう和平の話がいっているんですか?」
コウイチロウ『何のことだ?』
ユリカ「何のことだって・・・ユキナちゃんは和平の使者で・・・」
コウイチロウ『彼女は保護するから引き渡してもらおう』
ユリカ「引き渡せって・・・だから和平の使者で・・・」
コウイチロウ『彼女のことをそのような人物とは認識していない。
それが連合軍の見解だ』
ユリカ「ま、まさか・・・」
そう、コウイチロウは暗にこういっているのである。
和平の話など聞いていない。
これからも聞く必要はない。
彼女はただの密入国者扱いとされる・・・と。
コウイチロウ『彼女はこちらで保護する。悪いようにはしないから』
ユリカ「どうしてですか!彼女はナデシコで保護しています。
この最強の戦艦であるナデシコ以上に安全に保護できるところがあれば教えて下さい!」
軍の論理にユリカはユリカなりの正論で対抗しようとする。
しかし相手の反論は無情なものだった。
コウイチロウ『上が決めたことだ。』
ユリカ「お父様!」
コウイチロウ『私を信用しろ!』
ユリカ「出来ません!ルリちゃん、グラビティーブラスト発射用意!」
コウイチロウ『なに!?』
ルリ「了解」
端から見れば親子喧嘩の様相であったし、ユリカも相手が父親であるという気安さもあったのだろうが、ユリカはユリカなりのデモンストレーションでもあった。
実際にユキナを保護するのに最適な艦であるという意思表明、威力威嚇である。
その証拠に彼女はあくまでも冷静であった。
ユリカ「ルリちゃん、威力は最小に。座標はナデシコと艦隊の中間ぐらいで」
ルリ「了解」
コウイチロウ『ゆ、ユリカ、話せばわかる、話し合おう、な?』
ユリカ「問答無用!グラビティーブラスト、撃て!!!」
ユリカは号令をかけた。
だが、グラビティーブラストは発射されなかった。
ルリ「相転移エンジンダウン・・・」
ユリカ「え~!」
ミナト「あたしじゃないよ~」
ミナトが両手をあげて否定する。
アカツキ「心配入らない。重力制御のダウンは緩やか~になっているからね」
ユリカ「アカツキさん・・・ああ!マスターキーが!!!」
その声にユリカは自分の指揮卓を振り返る。
そこにはアカツキがマスターキーを引っこ抜いていた。
アカツキ「いくらマスターキーを抜いたからといっても最低限ナデシコの生命維持は残して停止する。もちろん、重力制御をすぐには落とさないから重力下では無事に着地または着水出来るのさ」
ユリカ「でもマスターキーは私にしか・・・」
アカツキ「もう一人、ネルガル会長も抜けるんだよ」
アキト「どういう事だ!」
アカツキ「鈍いねぇ、君達も。この僕がつまりネルガルの会長ってことだよ」
アキト&ユリカ「!!!!!!」
アカツキは決まった!と思った。
しかし予想通りのリアクションを取ってくれたのはアキトとユリカだけのようだった。
ヒカル「なんだ~~捻りがなかったなぁ」
イズミ「・・・1点」
リョーコ「あらま、イズミにしちゃ辛い点だねえ」
ルリ「実は二重スパイ・・・って展開ぐらいは欲しかったですけどね」
ラピス「実はアカラ王子・・・ってパターンが良かったのに」
アカツキ「ひょっとしてバレてた?」
ウリバタケ『バレバレでしたよ、ロン毛一号さん♪』
まぁバレるわなぁ(苦笑)
アカツキ「そんなことはどうだって良いんだ!
それよりもナデシコはこれから僕の指揮下に入ってもらう。
ああ、気に入らない人は艦を下りていいよ。
退職金と救命胴衣ぐらいは渡すから」
一同「・・・・」
連合軍の艦隊に囲まれてどうにも出来ない以上、おとなしく従うしかないナデシコの一同であった。
着水したナデシコに連合軍の兵士を引き連れたミスマル・コウイチロウがやってきた。
ユリカらナデシコの幹部と話し合うためである。
ただし、通された応接室の上座にはアカツキ・ナガレが首謀者然と鎮座していた。
入室時、アカツキの指示によりユリカ、ジュン、プロスペクター、ゴートの四人はコミュニケを没収された。
プロス「身内にも信用ありませんなぁ~」
アカツキ「前科があるからねぇ」
ユリカ「内緒の話・・・ですか?」
アカツキ「僕は何も事をこじらせたいわけじゃないからね」
まるでユキナの件は事をこじらせているみたいな言いぐさだった。
で、詰問するのは誰だろう?
アカツキ「これはもう僕たちがどうこうするレベルじゃなくなっている。
素直に軍に彼女を引き渡した方がいいと思うんだよ」
ユリカ「密告したのはアカツキさんですよね?」
アカツキ「おいおい、人聞きの悪い。」
コウイチロウ「やり方がお父上に似てきましたなぁ・・・」
明らかにコウイチロウは憮然としていた。
身内の身びいき・・・もあるのだろうが、彼はどうも巻き込まれたらしい。
全てはアカツキによって連合軍の裏から手を回された・・・
そんな感じらしいとユリカもプロスらも悟っていた。
ブリッジではさすがに拘束はされていなかった。
マスターキーがない以上、彼らには何もできない。
不安な空気だけが流れていた。
メグミ「これから私達、どうなっちゃうんでしょうね」
ルリ「なるようにしかならないんじゃないですかね・・・」
ミナト「・・・・・」
ラピス「ミナト、顔色悪い、大丈夫?」
ミナト「だ、大丈夫よ・・・」
ミナトはユキナの身が心配でたまらなかった。
ルリ「大丈夫、ユキナさんはアキトさんが守っていますから」
ラピス「そうそう、アカツキなんか一発で倒したから」
ちなみにユキナはアキトが連れて逃げた。途中アカツキの抵抗はあったものの、アキ直伝の武術で難なくいなして逃げおおせたのだ。
もちろん現在は捜索隊は出ているが、ナデシコは太平洋上なので格納庫さえ抑えていれば逃げ出すことは出来なかった。
話し合い・・・という名の事後承諾をさせた後、ゆっくりとユキナ探索をするらしい。
メグミ「でもでもいつもならアキさんがビュ~ンって現れて助けてくれるのにね」
ミナト「そういえばあの時もミスマル提督と艦長がケンカしてたねぇ(苦笑)」
ルリ「ま、今回はマスターキーを取られた以上、アキさんでも無理だと思いますけど・・・」
ラピス「そんなことない!アキは無敵!」
メグミ「でも、そのアキさん、何処で何してるんでしょうねぇ?
この騒ぎに気づかないはずないのに・・・」
一同は首を傾げた。
アキ「むにゃむにゃ・・・
みんなありがとう・・・」
ちなみに、時間的にはアキさんは現在電波受信中
目覚めるのはもうちょっと後のことであった(笑)
アキトはユキナを伴ってここに隠れていた。
最初はそんなつもりはなかったのだ。
でも、いつの間にかアキトはユキナを連れて逃げていたのだ。
不信感でいっぱいだったはずなのに、
あの人が記憶を見せられて木星人を憎んでいたのに、
だけど頭では彼女に何の罪もないとわかっているのに、
ユキナのこともどこか複雑な気持ちで見ていた。
『奴らの仲間なんだ・・・』
そんな視線で見ていたのは事実だ。
でもなぜか彼女を連れて逃げていた。
何故かなんて自分でもわからない。
ユキナ「・・・・」
アキト「怖い?」
ユキナ「こ、怖くは・・・」
アキト「大丈夫、俺が守ってあげるから」
敵の中でたった一人で気丈に振る舞いながらも、ほとんど何も知らない男に守ってもらわなければいけない心細さで泣きそうになっている少女を見ていると、アキトは憎しみをぶつけることは出来なかった。
守らなくちゃいけない・・・
それは理屈ではなく、そんな簡単な感情なのかもしれない。
でも、ここでこうしていても何も解決はしない。
いくらアキに武術を習っているからといっても取り囲まれて銃口を向けられたらそれでお終いだ。
じゃ、どうすれば・・・
そう思ったその時、
エリナ「私が逃がしてあげましょうか?」
アキト「エリナさん・・・」
まるでここに逃げ込むことがわかっていたのか、エリナ一人がアキト達の前に現れた。
応接室ではコウイチロウが意外な話を始めようとしていた。
アカツキ「親父の話は止めてくれ。僕は僕だよ」
コウイチロウ「そうですかな?
私はかつて火星の駐屯していたとき、呼び戻されました。
その日にテロは起こり、テンカワ夫妻はその犠牲となった・・・
タイミングが良すぎますなぁ」
アカツキ「何が言いたいんだね?」
コウイチロウ「今日のようにあの日もネルガルが裏で手を引いていたんじゃないですか?」
アカツキ「何をバカな!」
アカツキは思わぬ造反者に内心焦っていた。しかしそんなことは顔に出さない。
しかし造反者はまだいた。
プロス「その続きは私がお話ししましょう」
プロスはさりげなく胸のルリちゃんブローチを触ると真相を話し始めた。
腐っているクルー達の前に「SOUND ONLY」と書かれたウインドウが開いた。
いや、ブリッジだけではない。
格納庫にも、食堂にも、
そしてアキト達がいる機関室にもそのウインドウは開いた。
ルリ設計、ウリバタケ製作の「盗み聞きルリちゃん1号」が作動したのである。
プロス『あれは私が火星で研究所の所長代理をしていた頃の話です・・・』
その内緒話をナデシコのクルー達は余すことなく聞くことになった。
プロス「テンカワ夫妻はテロに襲われ、私はその詰め腹を切らされました。
まぁその逆恨みってわけじゃないんですが、その件があまりにも不自然でして。
私は会社のコンピューターにアクセスして調べてみたんです」
アカツキ「・・・・」
プロス「当時、CCと古代火星文明の遺跡を発見したことをテンカワ夫妻は最後まで世間に公開するよう主張されました。
これは将来必ずや人類に多大な利益をもたらす。
一部の権力者が秘匿するべきものではない・・・とね。
でもネルガルはその公開を拒んだ・・・」
アカツキ「親父はボソンジャンプとその関連技術が将来テクノロジードライバーになることを直感していた。そこから生み出される利益を独占したいと考えても当然だろうねぇ」
アカツキはプロスの告白に半ば他人事のように答えた。
アカツキ自身、父親のやったことと同一視はして欲しくないのだろう。
プロス「で、邪魔になってテロに見せかけて暗殺した・・・
それがあの事件の真相でしょうなぁ。
当時駐在武官であったミスマル提督が地球に戻されたのも裏でネルガルが手を引いていたのではないですか?」
アカツキ「親父のやったことだ」
ユリカ「酷い!」
アカツキの言葉に思わずユリカは涙を溜める。
そんなことのために、一部の人の利益とエゴのためにアキトの両親は殺されてしまったなんて、身勝手すぎる。
ユリカはアキトの気持ちを思って泣いた。
アキト「そんなことのために、俺の両親を!」
ユキナ「お兄ちゃん・・・」
アキトは怒りに震えていた。
これがネルガルのやり方だ。
同じ地球人のやることだ。
これならまだ木連人の方が・・・
その怒りの矛先をアキトはエリナにぶつけた。
エリナ「アキト君・・・」
アキト「あなたはアレを聞いてまだネルガルのために働きますか!」
エリナ「アキト君、落ち着いて・・・」
アキト「落ち着いてますよ!
エリナさんこそ、ネルガルで本当に地球圏復興とか出来ると思ってるんですか!」
エリナ「そ、それは・・・」
アキト「金にならなきゃ殺されてお終いですか!」
エリナ「違うわ!違うの・・・」
アキトはエリナの言葉に聞く耳を持たなかった。
しかし・・・
ユリカ『そんなの酷いです!』
アカツキ『酷い?酷いのはどっちだい。
酷いのはテンカワ夫妻の方かもしれないと考えないのかい?』
応接室での会話の内容にアキト達はギョッとする。
それがアキトの怒りをたきつけるには十分の内容だった。
しかし、同時に深く考えさせられる内容だった・・・
ユリカ「どうしてアキトのご両親の方が酷いんですか!」
アカツキ「では聞こう。
本当にボソンジャンプという技術は万人に開示されても良いものなのかい?」
ユリカ「え?」
アカツキ「本当に誰も悪用しないのか?
99人は平和目的に使うかもしれない。
しかし残りの一人が悪用しないと何故言い切れる?」
ユリカ「そ、それは・・・」
アカツキ「かつてダイナマイトがあった。
化学兵器があった。
核兵器があった。
それが世界に拡散したとき、テロリストの手に渡ったかもしれないとわかったとき、世界はどうなったね?」
ユリカ「・・・」
アカツキ「テンカワ夫妻の行動はテロリストに、凶悪な独裁者に核兵器を渡すに等しい愚挙かもしれないと何故思わない?」
ユリカ「でも・・・」
ユリカはアカツキの台詞に反論できない。
いつもの彼女なら反論していただろう。
でも今の彼女には出来ないのだ。
アカツキ「どうも君達はみんなで考えれば上手く行く、みんな分かり合えば平和になる・・・
なんて考えている嫌いがあるからこの際言っておこう。
仏教にこんな逸話がある。猿の王様の話さ」
あるところに猿の国があり、その猿の王様は大変人徳が厚く、国民にも慕われていた。
ある日、井戸の底の水面に月が映ったのを見て、月の神様が井戸に落ちた。助けるか否かという騒ぎになった。
猿の王様は国民に呼びかけた。
月の神様を井戸から救い出して差し上げよう。
自分たちには何の利益もないけれど可哀想だからと
国民も王様の言葉に協力することにした。
猿達は互いの体を命綱にして全員で井戸に乗り込んだ。
水面に映った月の神様を助けるために
しかし・・・彼ら猿は全員井戸に落ちてしまった。
王様以下全員井戸に落ちてその国は滅びてしまいましたとさ・・・
アカツキ「つまりだ。バカが何人集まって考えたことでも、
たとえそれが善意であろうが優しさからしたことであろうが、
愚かなことは愚かなことだってことさ。
民主主義なんてみんなが納得するだけでそれが正しいとは限らない。
『赤信号、みんなで渡れば怖くない』な~んて考えているならみんな車に引かれて死んでしまうだけさ」
アカツキの言う事はある一面では正しい。
しかしユリカも負けじと反論する。
ユリカ「それって論理のすり替えですよ。
ならネルガルはその正しいことが出来るって言うんですか?」
アカツキ「正しいなんて高尚なことは言わないさ。
僕はネルガルの利益のためにやっていると初めから言っている。
でもみんな僕らが悪用するって思ってるんだろうねぇ~」
ユリカ「当たり前です!」
アカツキ「そうだろうねぇ。
で、木連も僕らや連合軍のことをそう思っている。
そして連合軍も僕らや木連のことをそう思っている。
『あいつらが正しいことのために使うはずがない!!!』・・・ってね」
ユリカ「!!!」
アカツキ「みんな考えることは同じさ。
だから彼らは自分たちが手に入れようと死にものぐるいになっている。
悪用されるか心配でならないからね。
そうじゃなければこんな戦争にはなっていないはずさ。
僕らだけが清廉潔白じゃないと言うなら、彼らはそうじゃないって言い切るだけの証拠が欲しいねぇ・・・」
ユリカ「・・・」
ユリカは何も言い返せなかった。
父のコウイチロウが連合軍の命を受けてどういう目的で来たのかもわかっている。
木連も少ない戦力を補うために現にチューリップを悪用している。
そして・・・
実際、そう遠くない未来に木連の一部の人達は正義の名の下にボソンジャンプ実験であの人を酷い目に遭わせたのを知っているのだから・・・
エリナ「テンカワ君・・・」
アキト「だから協力しろ・・・ですか?」
エリナ「私達は彼らよりもマシなつもりよ」
アキト「だからって!」
誰がどれだけマシかなんてアキトにもわからない。
何が正しいのかすらわからない。
でもこれを納得しろと言う方が無理な話だ。
「こんなの納得できるはずがないじゃないか・・・」
アキトは搾り出すようにそう言う事しか出来なかった。
プロス「で、あの子は・・・ユキナさんはどうなさるつもりですか?」
アカツキ「まぁ連合軍に保護してもらうのが妥当だろうねぇ。
彼らがどうするか知らないけれど」
プロス「そういうのを不作為の罪と言うのではないのですか?」
アカツキ「なんのことやら」
アカツキはとぼけるがプロスはそんなことでは誤魔化されない。
プロス「先ほどの会長の仰りようではこの戦争は既に木連人との生活居住権の争い・・・というよりはボソンジャンプ、つまり古代火星遺跡の争奪戦の様相を呈していると思えるのですが」
アカツキ「・・・まぁここだけの話だからいいか。
そうだ。既に水面下ではそういう動きになっている。
誰もが火星の古代遺跡を喉から手が出るほど欲しがっている。
ネルガルも連合軍も、そして木連もね・・・」
プロス「ならば、この和平も木連側の時間稼ぎ・・・そう軍は見てるでしょうなぁ。
今、我らは月から木連軍を追い払いその余勢をかりて火星まで手を伸ばそう・・・
そう考えているとしたら、今回の和平はどう考えても邪魔以外の何者でもない・・・」
アカツキ「それで?」
プロス「でも和平と聞けば地球も木連も民衆は受け入れるはず。
否が応でも停戦ムードとなり火星に攻め込むことも難しくなる。
もちろんネルガルも手出しが出来なくなる・・・」
アカツキ「だから?」
プロス「だから連合軍は和平そのものをなかったことにする。
和平の使者たるユキナさんを亡き者にすることで・・・
ネルガルのシナリオ通りに・・・」
アカツキ「奴らの本隊は既に火星の移住を目指して進行中だ。
今和平をすればみすみす敵に全てを明け渡すことになる。
少女の命と地球の命運を秤に掛けてもまだ安っぽい同情や正義感のために少女を助けるって言うかい?」
アカツキは彼らに現実を突きつけた。
打算的だろうが、それが政治の力学だ。
そうやって世の中は動いている。
まだまだそんな奴が多いのだ。
そういう政治でしか世の中は動かないほど人類はまだ未熟なのだ。
だが、プロスは信じていた。
ナデシコのクルー達を。
みんなが正しくないと思っているのならみんなで改めればいいのだ。
それだけの力と意志を持っていると。
なぜならナデシコのクルーを集めたのはプロス自身なのだから
だから彼はクルー達に呼びかけた。
プロス「という事です。
皆さんはどうされますか?」
アカツキ「!!!」
とっさにその場にいる全員が気づいていた。
この場の会話をナデシコ中に配信されていたことを!
最初に動いたのはユリカであった。
ユリカ「アキト、逃げて!!!」
警備兵「この!」
ゴート「フン!!!」
ユリカが叫んだのを警備兵が抑えようとした。しかしそれよりも早くゴートが反応をした。銃を奪い応戦したのだ。
アカツキ「おい、君達、止めないか・・・」
ゴーン!!!!
アカツキも止めようとした。しかし油断していなかった彼もさすがに後ろからの攻撃には気を払っていなかった。
だって後ろにいたのはフライパンで彼の頭を殴ったコウイチロウがいたからだ。
ユリカ「お父様・・・」
コウイチロウ「お前はお前の信念の赴くままに行動しなさい。
結果がどうあれ、お父さんは信じている。
たとえ袂を分かち、敵対したとしても。
ユリカはお父さんの自慢の娘なのだから」
ジュン「ユリカ、行くよ!」
ユリカ「ありがとう、お父様♪」
その日、娘は親から巣立った。
その日、親は子離れをした。
アキトはエリナに背を向けて立ち去ろうとした。
エリナ「行っちゃダメ!」
アキト「行きます!」
エリナ「どうして!」
アキト「どっちが正しくて何をすればいいのかなんて正直わからないッス!
でも・・・
守るって決めたから・・・
目の前の大事な人達を守るって決めたから・・・」
アキトは自分の心を確認するように言う。
アキト「その為にこの力を手に入れたんッスよ。
あの人にそう誓って授けてもらったんですよ。
たとえそれがどんな思いで作り上げられたものだとしても、俺は俺が守りたいと思った人達を守るしかないんですよ」
エリナ「あんた、ナデシコ以外に行くところないんでしょ?
その居場所をなくしてもいいの!?」
アキト「・・・ナデシコにいても、守りたい人も守れないなら・・・そんなナデシコならいらないッスよ!」
エリナ「!!!」
きっぱりアキトに言われてエリナは泣きそうになった。
アキト「それよりもエリナさんはまだネルガルの片棒を担ぐんですか?」
エリナ「・・・組織は外からじゃ変わらない。
あなたみたいに気に入らないからって捨てても世界はちっとも良くならない。
また違う場所でそこも嫌になって逃げ出すのがオチよ!」
アキト「・・・かもしれないッスね。でもここよりは自分らしくいられる・・・
エリナさんはここでネルガルを良くしていって下さい」
アキトはエリナを振り向かない。
ユキナと共に行ってしまう・・・
そう思うとエリナは咄嗟にある行動に出た。
エリナ「行かせないわ!」
アキト「エリナさん・・・」
エリナは銃を取り出してアキトに突きつけた。
エリナ「行かせないったら、行かせないのよ!」
アキト「エリナさん、銃を下ろして・・・」
エリナ「お尋ね者になって、処分されちゃうかもしれないのよ!」
アキト「俺、そんなエリナさんを見たくない。だから・・・」
エリナ「うるさいわね!あなたは私の言うことを聞けばいいのよ!!!」
ユキナ「お兄ちゃん!」
アキト「ユキナちゃん、危ない!」
エリナは錯乱してアキトに向けて発砲しようとした!
アキトは咄嗟にユキナを庇うが・・・
銃声はしなかった。
アキ「ったく、何やってるんだか(苦笑)」
エリナ「アマガワ・アキ!!!」
アキト「アキさん!?」
エリナの銃を後ろから奪ったのはアキであった。
彼女の顔を見たエリナはまた癇癪を起こした。
エリナ「あんたが!あんたが!あんたが悪いのよ!」
アキ「悪いって言われても・・・」
エリナ「うるさい!ボソンジャンプの実験が上手く行かないのも、アキト君がナデシコを降りるって言ったのも全部全部あなたが・・・」
支離滅裂なエリナを見てアキは溜息をついた。
そして、たった一つしか知らない混乱した女性を落ち着かせる技を使った。
ムチュゥ~~
アキを睨み付けていたエリナの表情はやがてうっとりと高揚し、そして惚けたように尻餅を付いた。
アキ「CC2個ゲット♪
・・・ってあれ?」
いつの間にかエリナがイヤリングにしていたCCを奪い取って喜んでいるアキを後目にその場に居合わせていたアキトらは驚愕の表情に陥っていた。
アキト「そりゃ、別におかしくないけど、やっぱりその格好でそれはまずいんじゃ・・・」
ユキナ「やっぱりあんた色情魔だったのね!!!
不潔よ!私のファーストキスを汚した罪は万死に値するわ!!!」
エリナ「・・・・ポッ」
さすがに女性を落ち着かせる技をここでやったのはまずかったようだ(笑)
そして・・・・
エリナが落ち着いた後、アキはアキトに問うた。
アキ「アキト君、やりたいことは見つかった?」
アキト「ええ・・・」
アキの問いにアキトはユキナに視線を向けた。
守ると決めたから・・・
アキトの表情にうれしそうに目を細めるとアキは満足したように話し始めた。
アキ「じゃ、私が教えることは全て終わった。」
アキト「え?」
アキ「いつか言ったわよね?私は私の正義のために行動してるって。
そして・・・私とあなたが同じ道を歩むのはここまでよ」
アキト「そ、そんな!」
そう、アキは別れを告げているのだ。
アキト「ど、何処に行くんですか!?」
アキ「内緒♪ちょっとやりたいことをやりに行くだけよ」
アキト「ネルガルですか?」
アキ「違うどこかよ」
アキト「そんなぁ!俺はまだまだあなたに教えてもらいたいことが山ほどあるのに・・・」
アキ「あなたはもう自分の手で何でも出来る。
あなたの未来はあなた自身が切り開くの。
その力は与えたはずよ?」
アキト「アキさん・・・」
アキトは知っている。
彼女は未来の自分。
こうなろうと思った理想の自分。
まだまだ彼女の庇護の下にいたかった。
でも巣立つ日はいつか来る。
自らの力で彼女のようにならないといけない。
でも・・・
ユリカ『行っちゃ嫌です!』
ルリ『行かないで下さい!』
ラピス『行かないで!』
ユリカやルリやラピス達のウインドウが一斉に開いた。
何処で聞いていたのやら
アキ「ゴメンね。私は歴史を変えてみたいの。
だから・・・ここまでよ」
ユリカ『そんな!私は一体誰に学べばいいんですか!』
アキ「あなたはあなたの信じるままに進めばいいの。
いつかそう言ったでしょ?」
泣きそうなユリカを優しく諭す。
ルリ『あなたが闇の王子様だったんですね・・・』
アキ「ルリちゃん・・・」
ルリ『ずるいです。私をナデシコに引っ張り込んでおいて、自分は一抜けなんて・・・』
アキ「ゴメン。でもオモイカネの世話をお願いしたいの。
多分、あの子から教わることもあると思うわ。なんせ未来から連れてきたAIだから」
ルリ『そんな気がしてました。でも・・・
アキさん卑怯です。そんな風に言われたら断れない』
アキ「あはは・・・ゴメン」
必死に泣きそうになるのをこらえるルリに謝る。
ラピス『私も行く!アキに着いていく!』
アキ「あなたはお留守番よ」
ラピス『酷い!私はアキの・・・』
アキ「私は存在しないはずの人間よ。
あなたはこの世界で大事な人達を見つける必要があるわ。
そしてもう見つけているはずよ」
ラピス『アキ~~』
アキ「必ず帰ってくるから、それまでPODとオモイカネをお願い」
ラピス『・・・・・本当?』
アキ「約束を破ったことはないでしょ?」
泣くのを我慢するラピスに約束をする。
アキ「ユキナちゃん、途中で木連に寄るけど、送ってこうか?」
ユキナ「あんたみたいな色情魔に誰が着いていくもんですか!!!」
アキ「あははは・・・嫌われちゃったかしら」
ユキナには完全に嫌われてしまったようだ。
さすがにやりすぎてしまったことに苦笑する。
そして・・・
アキ「みんなによろしく言っておいてね」
アキト「はい・・・」
アキ「それじゃ、またね♪」
アキト「・・・はい!!!」
アキトは泣きながら手を振る。
するとアキはさっきエリナから奪ったCCのうちの一つを握りしめた。
まぶしく光るCC
彼らにはその光に照らされながら消える彼女の笑顔が脳裏に焼き付いた。
その笑顔は『またしばらくしたら会いましょうね♪』と言っている様に思えてならなかった・・・
しばらくして、光が消えてそこにいた人物も消え去った後、アキトはゴシゴシと涙を拭いた。
もう、泣いてなどいられないから。
アキト「ユキナちゃん、走れる?」
ユキナ「うん!」
アキト「んじゃ逃げるよ!」
ユキナ「任せといて!これでも学校では陸上部なんだから!」
アキト達はアキセカンドの元に向かった。
ナデシコ内ではクルー達と連合軍との戦いが始まっていた。
彼らも彼らの守りたい者を守るために戦っていた。
そして・・・僕らはナデシコを捨てた・・・
ということで黒プリ22話をお届けしました。
やっちまったよ~
これからどうしよう(爆)
さて、ここからはかなりTV版とは離れていきます。
いや、和平会談とかしたり火星に行ったりはするんですが(汗)
でもでもアキとアキトが一緒にいるってシーンは今後ほとんどなくなります。
彼らは各々の場所で戦いだします。
少々ショッキングなシーンがあるかもしれませんが、いまから妄想してみて下さい。
ということでおもしろかったなら感想をお願いします。
では!
Special Thanks!!
・AKF-11 様
・DIM 様
・Chocaholic 様
・kakikaki 様