アバン


真実の痛み
知ってしまった現実
その時、人は何を思い、何を感じるのか
昨日まで見えていた景色が突然変わって見えるとき、
人は戸惑い、混乱する。

人の心は脆く、そして弱い
だから迷い、そして傷つき、後ずさりする

けれど、人の心はまた立ち上がる勇気を持てる。
それが人の強さでもあるのだから・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



宇宙空間


アキトはアキセカンドで宇宙空間を探索中である。
さっきからこの辺りの宙域で救難信号が発信されているからだった。
アキトは諸事情により進んでこの任を申し出た。
んで、現在に至るわけであるが・・・

エリナ『実験に協力しないってどういうことなの!』
アキト「いま、任務中です」
エリナ『いい加減にしなさい!いつまで拗ねてるのよ!』
アキト「拗ねてないですよ!
 それよりも任務中に話しかけないで下さい!」
エリナ『こうでもしなきゃ話を聞いてくれないでしょ!
 やれ訓練だの、やれ食堂で料理だの、挙げ句の果てはアマノさんが行くはずだった探索作業に志願して逃げ回ってるくせに!』

痴話喧嘩が始まっていた(笑)

アキト「任務中です」
エリナ『ビビったの?
 そうよ、ビビったのね!
 男のくせに情けない』
アキト「どう思ってくれてもかまいませんよ」
ユリカ『アキトはビビってなんかいません!!!』

ユリカ乱入(笑)

エリナ『ちょっと、何を割り込んでくるのよ!』
ユリカ『アキトがボソンジャンプに協力しないのは立派な理由があるんですぅ!』
エリナ『立派な理由って何よ』
ユリカ『それは言えません』
エリナ『言えないってなぜよ!』
ユリカ『それは私とアキトの秘密なんです〜!』
アキト「オイこら、誤解を招く発言は止せ」
ユリカ『だってだって、本当じゃない。
 アキトが私にラブラブだからボソンジャンプの実験に協力しないんじゃ・・・』
ルリ『それはちょっと違います』

ルリも乱入(笑)

ユリカ『違わないもん!』
ルリ『いえ、違います』
ラピス『そう、だいぶ違う』
ルリ『アキトさんは私のためを思ってですねぇ・・・』
ラピス『いや、それも違う』
ユリカ『そうよそうよ!』
ラピス『私の為に・・・』
ユリカ&ルリ『じゃなくて私のためです!』
アキト「お前らなぁ・・・」
エリナ『あ、あんた達、なに訳の分からないこと言ってるのよ!』

ユリカ達が加わりやいのやいのと論点がどんどんずれていく(笑)
どうもこの4人は自分の知らない何かを論点にしているらしい。
そういえば様子がおかしいのはこの前の月奪還作戦の後からなのだが・・・

ユリカ『私のせいで・・・』
ルリ『いいえ、私のせいです・・・』
ラピス『私のせいだよ・・・』
エリナ『何のことか説明しなさいよ』
アキト「だぁぁぁぁぁ!!!前が見えないだろう!!!」
アキトの目の前でウインドウ4枚も展開されればなにも見えないだろう。

ちょうどその時・・・

メグミ『アキトさん、衝突しますよ!』
アキト「うぉっと!」

アキトは慌ててアキセカンドの身を翻す。
そして今ぶつかりそうになったものをマジマジと見つめた。

「なんだ・・・女の子?」

アキセカンドにぶつかりそうになったもの
それは以前一番星コンテストを行ったときに木連軍が使ったミサイルの付いた一人乗り用の宇宙ポッドであった。
中には気絶した女の子が乗っていた。

アキト「しかし、なんとも無茶な・・・
 ナデシコ、救難信号を出しているのはこの機体か?」
エリナ『ちょっと、話はまだ・・・』
メグミ『ええ、その機体です』
アキト「んじゃ回収後、帰投します」
メグミ『了解しました』
エリナ『あんたねぇ!!!』

怒るエリナを無視してさっさと作業を続けるアキトであった(笑)

ちなみに・・・

ユリカ『私のせいよ!』
ルリ『私のせいです』
ラピス『私のせい』

この三人はまだウインドウを最小化されても言い争いを続けていた(笑)



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第22話 「和平の使者(?)」を守り抜け<前編>



Yナデシコ・アキトの部屋


自室に帰り着いたアキトをエリナが執拗に追いかけてきた。

エリナ「いつまで逃げ回るつもりよ」
アキト「誰も逃げ回ってませんよ」
エリナ「逃げ回ってるでしょ!」
アキト「艦長への報告とか、エステの稼働記録とか色々やることあったんッスよ」
エリナ「こんな時だけ真面目に働くのね」
アキト「エリナさんに耳タコで注意されたからでしょ」
エリナ「もう!ああ言えばこう言う!」

エリナは癇癪を起こす。
自分に取り合わないのがどうにも腹立たしかったのだ。

アキト「ともかく、着替えますから出ていって下さい。
 これから食堂でコックの仕事なんですから」
エリナ「待ちなさいよ」

ナノマシーンを解除して上半身裸になるアキトにかまわず食い下がるエリナ

エリナ「ボソンジャンプを実用化させたら後悔するってなによ!」
アキト「出ていって下さい」
エリナ「わかったわよ!あなたがダメなら艦長でもイネスさんでもアマガワ・アキでも頼むからもういいわよ!」
自棄で言ったその言葉にアキトはギロリとした瞳で反応した。

バン!!!

アキトはエリナを壁に押しやって顔を上から睨み付けた。

アキト「彼女達に手を出すな!」
エリナ「ちょ、ちょっとなによ・・・」
アキト「手を出すなって言ってるんッスよ!!!」

アキトの目は怖かった。
それだけじゃない。
上半身裸の体は軟弱な坊やのそれではなく、引き締まった体だった。
筋骨隆々ではないが、その無駄のない使い込まれた筋肉はアキとの特訓の賜物だった。
そして男性の汗の匂い・・・
睨む瞳と共に強い男を感じさせた。

そしてその口調は・・・

『何を企んでいるか知らないが、俺を裏切るな!
 いくらお前でも容赦しないぞ!!!』

この前、彼女に同じように脅された、そのことが思い出された。
その瞬間、なぜかエリナは体の芯から熱くなるのを感じた。

アキト「彼女達を巻き込むようなマネだけは止めて下さいよ」
エリナ「・・・朴念仁」
アキト「え?」
エリナ「この朴念仁!!!」

真っ赤になったエリナはアキトの腕の中から逃げ出して部屋を出ていった。

「朴念仁ってなに?」
さっきまでの険しい顔をしていたアキトには似つかわしくない、間抜けな顔であった(苦笑)



Yナデシコ・廊下


逃げるようにアキトの部屋を離れたエリナであるが、何回も何回も恨み言を呟き続けた。

「なによ!あの朴念仁!」

同じ台詞を叫び続けながら廊下を歩くが冷静になって気づく。

激しい動悸
火照る頬
体の芯から身震いがした
あの瞬間、彼の胸に抱かれたい・・・
身体中が疼くのだ。

「そ、そんなバカなこと!」

感じていたというのか?
テンカワ・アキトの牡の部分を感じて?
そんなはずはない。
私があんな軟弱な坊やに惚れるわけがない
私はネルガルのトップに立って地球圏を復興する女よ
それなのにあんな何の取り柄もない男に惚れるわけが・・・

『彼女達に手を出すな!』
『何を企んでいるか知らないが、俺を裏切るな!
 いくらお前でも容赦しないぞ!!!』

私は一体・・・

自分でも説明の付かない気持ちに頭をグシャグシにされるエリナであった・・・



Yナデシコ・医療室


さてさて、そんな痴話喧嘩はともかくとして、アキトが拾ってきた木連軍の宇宙ポッドは回収された。その中にいた少女も同じく回収されたのだが、ジャンプアウトの衝撃からか気を失っていた。
んで彼女は医療室で寝かされているわけであるが・・・

ユリカ『で、彼女の様態はどうなんですか?』
イネス「大したことはないわ。まぁしばらく眠っていれば目が覚めるでしょう」
ユリカ『良かった。じゃ彼女のことお願いしますね♪』
イネス「はいはい」

心配して通信を入れたユリカにヒラヒラ手を振った後、イネスは通信を切った。
ほぼ、それと同時にベットに眠らされていた少女は目を覚ました

ユキナ「う、うう・・・」
イネス「ほら、早速目を覚ましたわ」
ユキナ「あいたたた・・・」
イネス「どう?意識はしっかりしてる?」
ユキナ「こ、ここはどこ?私は誰?」
イネス「あらあら、ちょっとした記憶喪失かしら?
 名前は思い出せる」
ユキナ「う、あ、頭が割れるように痛い・・・」

大げさに頭を抱えて痛がる少女にイネスは優しく微笑む。

イネス「まぁ無理をしない方がいいわ。すぐに思い出すと思うし」
ユキナ「ここはどこですか?」
イネス「ネルガル所有の戦艦ナデシコの医療室よ。
 えっと・・・白鳥ユキナさん」
ユキナ「え?ユキナって言うんですか?私の名前・・・」
イネス「そうよ。所持した身分証明書からするとあなたの名前はそうなっているわ。
 木連の女子学生らしいわね」
ユキナ「え?」

ユキナはイネスを見ると可愛い少女用の巾着から証明カードらしきものを取り出してしげしげと見ていた。それを見るとユキナは大慌てでイネスにお願いした。

ユキナ「お、おばさん、それを返して〜〜」
イネス「あなたの国では30前のレディーをおばさん呼ばわりするのかしら♪」
ユキナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 お姉さん、返して下さい〜〜」

一瞬睨み殺されるかと思われるほどの笑顔でイネスに睨まれて、呼称を修正するユキナ。
おお、初対面でもその無謀さがわかるようだ(笑)

イネス「ふむ、そんなに必死に取り返すほどのものかしら?この巾着」
ユキナ「それは・・・その・・・女の子同士ってやつで・・・
 お姉さんもその・・・わかって欲しいな〜」
イネス「ふぅ〜ん、そう。まぁいいわ
 返してあげるわ」
ユキナ「ありがとう♪」

イネスから巾着を受け取ってホクホク顔のユキナ。
しかし彼女は自分の侵した失態をわかっていなかった。
その後イネスはじっと彼女を見つめる。

イネス「あなた・・・記憶喪失なのよね?」
ユキナ「え!?・・・えっと・・・それは・・・」
イネス「ふふふ♪」
ユキナ「あははは♪(汗)」
イネス「ふふふ♪」
ユキナ「あははは♪(汗)」
イネス「ふふふ♪」
ユキナ「あははは♪(汗)」

ユキナの乾いた笑いが医療室に響き渡る・・・

イネス「まぁ良いわ。ゆっくり休みなさい」
そう言ってイネスは部屋を出て行くのであった。
だが、ゆっくり休めと言われた少女の方は・・・

「ゆっくり休むわけ無いじゃない!」
巾着から取り出した手ぬぐいを取り出し、やおら泥棒ルックに頬っ被りすると抜き足差し足で医療室を出て行った。



Yナデシコ・食堂


ユキナ「腹が減っては戦は出来ぬってね」
怪しい格好をした少女が厨房にこっそり忍び込んで冷蔵庫を開けて盗み食いをしていた(笑)

とりあえず生でも食べられそうなハムやソーセージをつまみ食いしていた。
と、そこに・・・

ホウメイ「アキ坊、あんたまだやってたのかい?」
アキ「いやまぁ、なんとなく食堂を空けるのも良くないかなぁ〜とか思って(汗)」
ユキナ『!!!!!!』

喉が詰まり窒息しそうになりながらも何とか悲鳴を抑えて物陰に隠れるユキナ
ゴックン
何とか喉の食べ物を胃に追いやって物陰越しに辺りを見回す。
厨房の主達が帰ってきたようだ。

ホウメイ「顔色良くないねぇ。休んだ方が良いよ」
アキ「でも・・・」
ホウメイ「ったく仕事の虫だねぇ。もうすぐテンカワの奴がシフトで入ってくるから」
アキ「あ・・・・」

アキは渋い顔をする。
独りでいると色々余計なことを考えてしまうので体を動かしておきたいのだが、アキトと会うとそれはそれで気まずいのだ。

仕方がない、アキトが来たら退出しようかと思うアキであった。
そんな悩めるアキを余所にホウメイは遅めの昼飯を食べていたウリバタケ達に違う話題を振った。ウリバタケ達は例の宇宙ポッドの回収騒ぎで遅めの昼食を余儀なくされていたのだ。

ホウメイ「そういえば可愛い子を拾ったんだって?」
ウリバタケ「ああ、そのことかい。可愛いっちゃ可愛いけど・・・」
ホウメイ「嬉しくないのかい?」
ウリバタケ「捕虜だぜ?」
アキ「女の子なんでしょ?女の子に飢えてるセイヤさん達のことだからてっきり・・・」
ウリバタケ「いくら俺達でもランドセル卒業したての女の子に萌える程、社会人捨ててないの」
ホウメイ「ああ、可愛いってそっちの意味かい」
アキ「その割にはルリちゃんやラピスちゃんのフィギュアとかは作っているけど・・・」
ウリバタケ「その・・・なんだ、ほれ、彼女のデータ」

ウリバタケはウインドウに彼女のデータを出す。

『白鳥ユキナ13歳女性・・・』
とあって身体的特徴やらなにやら書いてある。
一応身分照会のデータでこの辺りはオープンにされている。
彼女を保護したのは周知に事実だし、万が一不審な行動をとられたときにクルーが誰も彼女が何者なのか知らないのも困るからだ。

ホウメイ「おや、本当に可愛い」
ウリバタケ「だろ?」

その顔を見るとまんざらでもないようだ。

そして・・・

ユキナ『地球人もわかる奴がいるじゃない♪』
盗み聞きしていたユキナの顔が嬉しさで歪む。
人間、可愛いとか誉められて嬉しくない奴はそうはいない。

ホウメイ「でもさぁ木連の子なんだって?」
ウリバタケ「何でも記憶喪失らしい」
アキ「へぇ、記憶喪失なんだ・・・」
ウリバタケ「可哀想になぁ」
整備員その1「でも13歳っていえば俺の娘もこのくらいですよ」
整備員その2「そう言われたら俺も子供の顔を見たくなった〜」
整備員その3「この子も早く記憶が戻って国に帰れるといいッスけどね」
ウリバタケ「それもそうだけど、この子達が大人になる前には戦争が終わってると良いけどなぁ〜。今度は戦場で敵同士・・・ってのも正直やりきれん」
アキ「そうならないように私達が早く戦争を終わらせなきゃいけないんでしょ!」
ウリバタケ「う・・・左様です」
ホウメイ「あははは、アキ坊に一本取られたねぇ」

雑談する彼らの会話を聞いてユキナは少し考えさせられていた。
彼女の考えていた悪辣な地球人像がガラガラ壊れていく。

彼らはかつて火星に移り住んだ自分たちの祖先に核ミサイルを撃ち込んで木星に追いやった。そして100年経って今また自分達の国に攻め込んできた。
我々を根絶やしにしなければ気が済まない鬼のような奴らなのだ。

だからそんな奴らとなぜ和平をしなければいけないのだ?
絶対、地球女の色香に誑かされたのだ。
だからお兄ちゃんはあいつらの言うなりになっているのだ。
だからこそこうやって和平の使者を志願して敵の戦艦に乗り込んできたのに・・・

本当にこいつらは自分達が教えられてきた様な悪人達なのか?

『ダメよ、ユキナ!!!
 こいつらはお兄ちゃんを誑かす悪辣な地球人なんだから!!!』

などとユキナが迷ったり思い直したりを繰り返したりするうちに一人の男性が食堂に入ってきた。

アキト「ち〜ッス。交代に来ました」
ホウメイ「なんだい、テンカワ。あんたさっき出撃してたんだろ?
 ゆっくりしてて良かったんだよ」
アキト「いやぁ、色々ありまして」

アキトはまさかエリナに付きまとわれるのが苦手だから食堂に来たとも言えなかった。
しかしアキトは直後にそれが失敗したと思った。

アキ「じゃ、アキト君も来たことですし、私はあがります」
ホウメイ「ん?ああ、良いけど・・・」
アキ「それじゃお先に失礼しま〜す」
アキト「あ、アキさん・・・」
アキ「なに?」
アキト「・・・・いえ、何でもありません」
ホウメイ「・・・・」

ホウメイは二人の間に流れる気まずさに気が付いたようだ。
アキトがあからさまに視線を逸らしていれば誰でも気が付くだろう。

ホウメイ「別にあんたらの関係に首を突っ込むつもりがあるわけじゃないんだけど・・・なんかあったのかい?」
アキト「いえ、別に・・・」

あんなこと他人に言えないのでお茶を濁すアキトであった・・・

『ふぅ〜ん・・・・
 アイツが・・・・』
隠れていたユキナは先ほどから声をかけられていた女性がアキだと言うことに気が付いた。懐から写真を取り出す。

『お兄ちゃんを誑かしたと思われる地球女は二人。
 一人は乳牛女に
 もう一人は・・・真っ黒クロスケ女
 先にクロスケ女の方を探るか・・・』
ユキナはこそこそ隠れながら退出したアキの方を追っていった。



Yナデシコ・アキの自室


アキは自室に引きこもって陰々滅々としていた。
前回の記憶麻雀の一件でアキト達に自分の正体がばれたであろう事を気に病んでいたのだ。

それは今の今まで歴史が対して良くなっていないという事にも起因する。
いや、むしろ悪くなっていると言っていい。
その上、自分の過去の記憶を見られたのである。

失望されたのではないか?
疫病神だと思われたのではないか?
忌むべき存在だと思われていないか?

忘れていた感情を、
克服したと思っていた感情を、
これでもかと抉り返してくれた。

心が千々に乱れるのは当然だった。

自分がここまでナデシコにいてやってきた事って何だったのだろう?
このままここにいることが本当に未来を変えることに繋がるのだろうか?
元がアキトなだけに一旦悩み出すとウジウジ悩み続けるのは性分だろうか?(苦笑)

さっぱり考えがまとまらないのでシャワーを浴びてさっさと寝てしまおう。
アキは最近そんなおもしろくもない生活サイクルを送っている。
ラピスの方も遠慮してるのか、嫌いになったのか、最近は部屋に来ない。
それがよけい自分を落ち込ませたりしていた。

シャー・・・・・・・・・・

シャワーの温かいお湯に身を任せてなにも考えまいとするアキ。
しかし・・・

コトリ・・・

「・・・侵入者?」
アキは元ネルガルシークレットだった頃に身に付いた諜報員の感覚で小さな物音も聞き漏らさなかった。相手はこちらがシャワーを浴びていると思って油断しているのだろう。

しかし、手元には愛用のリボルバーに身を隠すものはバスタオルぐらいしかない。
やれないことはないだろうが・・・
バスタオルを体に巻くとアキはリボルバーを構えて静かにバスルームのドアまで移動した。

『侵入者は一人・・・やけに注意力散漫ね』
物音で相手の居場所と行動は大体わかる。
それにしてもこちらの動きが読みとれていないのか、かまわず部屋の物色をしているようだ。

『普通、諜報員ならバスルームに注意ぐらい払いながら作業をするでしょうに・・・』
アキは不審に思いながらも、侵入者がバスルームに背を向けて歩き出したのを確認してバスルームを飛び出した。

アキ「手を挙げなさい!」
???「ひぃ!!!」

侵入者を目の当たりにしてアキは驚く。
それはほっかむりをした見たこともない宇宙服を着た少年らしき人物だったからだ。
だが、少年とて気を抜けない。木連のエージェントかもしれない。
アキは慎重に事を運んだ。

アキ「下手な動きをしたら容赦なく発砲する。
 両手は頭の後ろで組んで!」
???「い、いや・・・アタシは・・・」
アキ「発言はこちらが質問したときにしか許さない。
 そのまままっすぐ進んで壁に体をくっつける!」
???「は、はい・・・」

少年は半泣きになりながらアキの指示に従う。
そのまま少年を壁際に押しつけるとアキは少年の体を調べ始めた。

アキ「身体検査をさせていただくわ。いきなりドカーンはゴメンだからね」
???「ちょっとどこ触ってるの!」
アキ「うるさい!抵抗するなら撃つわよ」
???「ひぃ〜〜」

アキは腰から触って足下まで撫で回した。
どこに武器を携帯しているかわからない。
が、少年の方は顔を真っ赤にしながら耐えていた。
そして・・・

アキ「あれ?えっと・・・」

プニプニ

いや、胸に拳銃用のホルスターがないか確認しようとしたのだが、何か柔らかい感触があるのを感じたのだ。
それは触ったことのある感触だった。

アキ「これはルリちゃんクラス・・・ってあなた、女の子!?」
???「そんなに胸がないとダメか・・・」
アキ「いや、そんなことは・・・」
???「あたしはまだ13歳でこれから期待大の成長期なのにお兄ちゃんはナナコさん、ナナコさんって胸が大きい女性に憧れちゃうし!」

少年・・・もとい少女は振り向いて抗議する。
怒りで拳銃を突きつけられているのを忘れているようだった。
だが、その少女の顔を見たアキは驚いた。

アキ「ゆ、ユキナちゃん!?」
ユキナ「・・・」

思わず口走ってしまってアキはしまったと口に手をやった。
確かこのころにユキナはナデシコに乗り込んできたんだ・・・
しかしアキがこの時点でユキナの名前を知っているはずはない。
そのことをユキナ本人に叫んでしまってヤバイ!とアキは思ってしまった。

もっとも、アキはユキナの照会データが出回っているなんて知らなかった。
落ち着いて考えたらそのくらい気がついたろうが、気が動転していたのだろう。

そんなことを知らないアキはまずい台詞を言ってしまったと思い込んでしまった。
ユキナの無言がそのことを物語っていると。

だが・・・

ユキナ「巨乳がそんなにいいんか!!!」
アキ「え?」

ユキナがアキを見ていたのは顔ではなく、そのバスタオルに包まれた胸であった。
ミナトやエリナと比べれば小さいが、それでもごく一般的な女性から見れば十分大きかった。

ユキナ「もう一人の巨乳女といい、漫画の女と良い、真っ黒クロスケといい、お兄ちゃんは巨乳が好きなのね!そうなのね!
 巨乳じゃなきゃ女じゃないと言いたいのね!
 そうなのね!!!」
アキ「い、いや・・・ちょっとあの・・・」

一度癇癪を起こし出すともう止められない。
ブラコンに貧乳コンプレックスが加わったからさらに手に負えない状態に陥った(笑)

ユキナ「乳がなんだっていうのよ!そんなのこれからじゃない!
 巨乳にあらずば人にあらずってそう言いたいのね!
 そうでしょ!!!」
アキ「誰もそんなことは・・・」
ユキナ「安易な同情なんて慰めにもならないのよ!」
アキ「だから落ち着いて・・・」
ユキナ「ムキー!!!」

暴れて手が着けられなくなってしまった。
こういう状態の女性を大人しくさせる方法をアキは一つしか知らなかった。
しかも反射的に。
もっと考えてからやれば良かったのに・・・と後悔するのだが、もう遅かった。

ムチューーーーー!

ユキナ「!!!!!!」

ユキナは我に返ってなにをされているのかに気がついた。
それで大人しくなったかに見えたアキはその行為を止める。

アキ「どう?落ち着いた?」
ユキナ「き、き、き、き・・・・・」
アキ「き?」
ユキナ「は、初めては白い白馬に乗った王子様にしてもらうって決めてたのに・・・」
アキ「いや、白馬は白いって」
ユキナ「それなのに・・・それなのに・・・
 初めてが女の人なんて・・・」

アキは気が動転しているユキナを見て初めて自分が何をしたか気づいた。

アキ「あ・・・昔の癖でつい・・・」
ユキナ「あたしのファーストキス返せ!!!!」

ユキナはそう叫んだ後、ヒステリーのあまり気絶してしまった。

それはともかく・・・
アキ君、昔の癖ってなに?(笑)



木連市民艦れいげつ・白鳥九十九の自室


その部屋の主、白鳥九十九は熊のように部屋の中を行ったりり来たりしていた。

月臣「落ち着け、九十九」
九十九「落ち着いている」
月臣「どこがだ。心配する気持ちもわかるが、もう少し彼女を信じたらどうだ」
九十九「信じている!
 しかしアイツが和平の使者など・・・
 本当にユキナの奴、和平を願っているのか?」
月臣「ギク!」
九十九「ギク?」
月臣「いや、彼女もあの後改心したのではと・・・」
九十九「いや、あいつが改心したとも思えないが・・・」

危うく本音を出しそうになって慌てて口を塞ぐ月臣。
すごくわかりやすい性格のようだ。
しかし月臣は必死に矛先を反らそうとした。

月臣「そんなことより、今日こそきっちり説明してもらおう!!!」
九十九「な、何をだ?」
月臣「本命はどっちなのだ!!!」

バン!!!
月臣は二枚の写真を取り出して九十九に突きつけた。
もちろん、アキとミナトの写真である(笑)

九十九「な、何を言い出すんだ、元一朗(汗)」
月臣「我らが青春を捧げたナナコさんを裏切るという所業は許されない!
 いや、今回それは本題ではないので横に置こう。
 だがしかし!!!
 いくら地球女に誑かされたとはいえ、卑しくも木連男子たるものが二股は許されないだろう!この破廉恥野郎め!!!」
九十九「おい、元一朗、それは何かの誤解だ!!!」
月臣「誤解もへったくれもあるか!
 何に誑かされた?
 胸か?胸なのか?」
九十九「お、お前こそ破廉恥だろう!
 ご婦人方をそのような目で見るなど・・・」
月臣「いや、俺は知ってるぞ!
 お前は小さい頃から胸の大きい姉さんタイプの女性に惚れてただろう!」
九十九「何を言う!そういうお前こそ!!!」

それこそ破廉恥な言い争いをする二人であった。
しかし死語だろう、破廉恥も(笑)



再びYナデシコ・アキの自室


その部屋は先ほどから一転、とても真っ暗な部屋に机が用意されていた。
机の上には今時どこを探して無い裸電球のスタンドが灯っていた。

その光に照らされているのは恐縮至極の状態で椅子に座らされているアキであった。
そしてその光の向こう側にはゴゴゴという擬音が聞こえてきそうな程の仁王立ちで立つ少女が一人

ユキナ「さぁキリキリ白状してもらいましょうか!!!」
アキ「っていうか、いつの間に昔の刑事物みたいなセットを?」
ユキナ「犯人が口答えするか!」
アキ「いや、私は別に犯人じゃ・・・」
ユキナ「ファーストキス・・・」
アキ「ギク」
ユキナ「大事に大事にとっておいたファーストキスを・・・
 白馬に乗った運命の王子様が現れるまで大事にしようと思っていたファーストキスを・・・
 それがよりにもよって同性にされるなんて・・・
 ユキナちゃんのガラスのハートは音を立てて崩れ去ったのでした。
 よよよよよ〜〜(嘘泣)」
アキ「あ・・・わかりました」

確かにいくら黙らせるためでもキスはまずかった(苦笑)
罪の意識を感じたのか、仕方がないのでしばらくされるがままにするアキ

ユキナ「っていうわけで取り調べ続行よ!
 あなた、お兄ちゃんとどういう関係?」
アキ「お兄ちゃんって?」
ユキナ「この人を知らないとは言わせないわよ!」

バン!
机に写真を叩きつける。
白鳥九十九の写真である。

アキ「あ!」
ユキナ「ふふ〜ん♪見覚えあるでしょ?」

恐れ入ったかとふんぞり返るユキナ。
しかしアキにしてみれば九十九は知ってて当然。
演技で最初は知らないフリをしていたのだ。
こういう手合は相手の自尊心を満たしてやると満足するのである。

が、ユキナはこの後、とんでもないことを口走る。

ユキナ「あなたがお兄ちゃんを誑かしたんでしょ!!!」
アキ「・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

アキはこれ以上はないってぐらい間抜けな顔をしていただろう。

ユキナ「しらばっくれてもダメなんだから!」
アキ「ゴメン、耳が遠かったみたい。
 もう一度言ってくれる?」
ユキナ「だから誑かしてるって」
アキ「誰が誰を?」
ユキナ「誰って、『あなたが』『お兄ちゃんを』に決まってるじゃない!!!」

はぐらかされたかと思ったのか、少しご立腹のユキナ。
しかし、アキにとっては青天の霹靂級に予想外のことだったのだ。

自分が九十九を口説く?
周りの人間から見ればあり得るかも?と思うかもしれないが、
元男のアキにはそれはほとんど冗談に近い。

アキ「いやぁ、どこでどう聞いてきたのか知らないけど、それは何かの間違いじゃ・・・」
ユキナ「誤魔化そうたってそうは行かないんだから!
 証拠があるのよ!!!」
アキ「証拠?」

ユキナは証拠写真を机に叩き付けた。

アキ「ゲ!」
ユキナ「ほれ見なさい!」

ユキナは得意げになり、アキは少し青ざめる。
確かにその写真にはアキと九十九が抱き合っていた。

アキ「こ、こんな写真をどこで・・・」
ユキナ「さっきそこで歩いていたロン毛男に貰った」
アキ「アカツキ?・・・・あのときか!」

そう、その光景は月でミナトとメグミが九十九を逃がす前の出来事だ。
確かに耳打ちする為に九十九に抱きつきはした。
しかしアレは別にそういう意図があってやった訳じゃ・・・

だが、そんなアキの側の事情を知るはずもないユキナは得意満面でアキを追求しにかかった。

ユキナ「お兄ちゃんを誑かして一体何を企んでるの?
 正直に白状しなさい!」
アキ「別に意図も何も・・・」
ユキナ「嘘おっしゃい!別段美形キャラでもないうちのお兄ちゃんに言い寄るなんて下心あってのこととしか思えないわ!」

と胸を張って言うユキナ。
しかし、アキには逆に滑稽に思えた。
本当の女性なら少しはうろたえるのだろうが、男が男に惚れるはずないじゃんって気持ちがあるので余計だ。
すると逆に余裕が出来た。
からかってやろうという悪戯心が出てきた。

アキ「そう、下心があったのよ♪」
ユキナ「それ見なさい!」
アキ「だってあの人にはこんなに可愛い妹さんがいるんだもの♪」
ユキナ「え!?」

ユキナは甘ったるい声を出しながら自分の顎に手をかけるアキに驚いた。

アキ「そう、男には興味がないのよ。
 私は可愛い女の子の方が良いのよ♪」
ユキナ「そ、そりゃ、私は可愛い美少女だけど・・・」
アキ「でしょ?だからさっき思わずキスしちゃったんだけど・・・」
ユキナ「いや、いくら可愛いっていっても、私ノーマルだから・・・」
アキ「愛の前には関係ないわ♪」
ユキナ「ふ、不潔よ!!!」

迫られた恐怖で涙を流しながら逃げ出すユキナであった。

「あ・・・ちょっと冗談が過ぎたかしら〜〜」

とやりすぎを反省するアキ。
でも・・・

「でも・・・ちょっぴり助けられたかしら」

ちょっとだけ以前のペースに戻っている自分を発見する。
少しだけ心が軽くなっているのを感じるのであった。



Yナデシコ・通路


ユキナは命からがらアキの部屋から逃げ出してきた。
とてつもない誤解をしながら(笑)

「ハァハァハァ・・・
 真っ黒クロスケがあんな破廉恥な女だとは気づかなかった・・・
 あんなのがお兄ちゃんの好きな人であるはずがないわ」

勝手に間違えておいてえらい言いぐさであるが。

「ってことはもう一人の巨乳女の方がお兄ちゃんの好きな人?」

ユキナは懐から取り出したミナトの写真を眺める。
いかにもイケイケである。
男好きしそうな容姿であるし、また女色家ではなさそうな顔である。
そう言われれば真っ黒クロスケの方はお姉さま属性が入ってそうな気がする。

「そうだわ!
 こっちの方がお兄ちゃんの好きな人なのよ。
 あいつは間違いだわ!
 確かめて・・・巨乳女の方がお兄ちゃんの好きな人なら金輪際クロスケの方には近づかないようにしよう!
 そうしよう!
 目指せ破談!!!」

願わくばお兄ちゃんの好きな人が巨乳女でありますように・・・
お願いだから真っ黒クロスケではありませんように・・・
でないと私の貞操が禁断の関係で散らされてしまう〜〜
と嘆くユキナであった。

って既に当初の目的からかなり離れてきているんじゃないの?(笑)



木連市民艦れいげつ・白鳥九十九の自室


九十九「ハァハァハァ」
月臣「ハァハァハァ」
ちなみにこちらでは掴み合いのケンカは終わったようである。

月臣「しかし・・・本当に二股じゃないんだな?九十九」
九十九「まだ言うのか、元一朗。
 親友の俺を信じてないのか?」
月臣「ならばハルカ・ミナトの方はいいとして、こっちの女の方の関係を教えろ」
月臣はアキの写真を指さす。

九十九は少し険しい顔をしながらこう言った。

九十九「・・・俺に地球との和平を考えさせた女性だ。
 そのことを忘れないために写真を持っている」
月臣「九十九、貴様やはり地球女に誑かされたのでは!」
九十九「彼女はそんなこと下賎な事はしない!!!
 ただ・・・
 ミナトさんやメグミさんを指さして
 『これでも私達が倒すべきキョアック星人に見えるか?』・・・と言われた」
月臣「そ、それは・・・」
九十九「もちろん祖国を守ることを忘れてはいない。
 しかし俺には彼らを無邪気に滅ぼせば我らの正義が満たせるとは到底思えなくなった・・・」
月臣「だが、しかし・・・」
九十九「敵にも良い奴はいるし、悪い奴もいる。
 我々は悪い奴だけ倒せればいい。
 が、良い奴まで倒す必要はない。
 違うか?元一朗」
月臣「・・・」

月臣は頭では納得している。彼もミナトやメグミを見てしまったから。
でもそれで感情が納得できるほどこの100年の間に起こった、彼らの身に染みついた恨みがすぐに消えるほど軽いものではなかった。

九十九「だから彼女の写真を持っている。
 あの時の彼女の台詞を忘れないように」
月臣「そうか・・・」
九十九「しかし、和平を目指そうと思ったのはそれだけじゃない。」
月臣「え?」
九十九「ここから先は親友のお前だから話す。
 信じてくれるか?」
月臣「・・・・・わかった」

九十九の真剣な瞳を見て月臣は自分の親友が嘘偽りを言う男ではないことを思い出した。
月臣が頷いたのを見ると九十九は話し始めた。

九十九「俺は草壁閣下が地球人の一部と組んで戦火を拡大する方向に差し向けようとしているのではないか?と考えている」
月臣「・・・・・・・・・・・・・・・・・
 おいおい、冗談は止せよ」

月臣は我が耳を疑った。親友の口から出た言葉はとても信じられない内容である。
冗談にしては過ぎている。
不敬罪はおろか、虚偽ならどんな極刑にされても文句は言えない。
虚偽の内容ならば・・・

しかし親友の瞳は確固たる信念に満ちていた。

九十九「彼女にそう言われた。」
月臣「おいおい、同胞より地球女の方を信じるのかよ!」
九十九「月に北辰が現れた」
月臣「狂犬北辰がか!?」
九十九「しかも月のコロニーを無差別に破壊したのはお前という事になってる。
 無抵抗な民間人のいるコロニーを直接目の前で攻撃したことに・・・」
月臣「俺はそんな卑怯者ではない!!!」
九十九「俺はそれを北辰がやったのではないか?と思っている。」
月臣「う・・・確かに奴ならやりかねないが・・・
 しかしそれだけで閣下を疑う理由には・・・」

信じがたいが、北辰は諜報部隊だ。そういう行動をすることは間々ある。
それだけで草壁中将を疑う理由にはならない。
しかし九十九の瞳は揺るがない。

九十九「累を及ぼすかもしれないので黙っていたのだが・・・
 秘密に出来るか?」
月臣「いいから話せ」
九十九「そうか・・・
 どうもウチの一部が地球のクリムゾンという企業と接触して人型機動兵器を共同開発しているという情報がある」
月臣「ま、まさか、ウソだろ?」
九十九「信頼できるソースだ」
月臣「そんな・・・」

月臣は愕然とする。
倒すべき敵と組んで機動兵器を作っているだと?
何がどうなっているのかさっぱりだった。

九十九「この戦い、別の所に思惑があるかもしれない。
 俺はそれを知りたいと思っている。
 そしてそれがただ殺し合いをするだけの代物なら・・・」

九十九の瞳は死を賭しても止めさせる決意に満ちていた。

月臣「わかった。協力しよう」
九十九「元一朗♪」
月臣「ただし!俺は閣下がそんなことに携わっていない事を証明したい。
 だから協力する。それを忘れるな」
九十九「ああ」

目的は違っても二人は親友同士であった。



Yナデシコ・大浴場前


廊下の影から辺りを伺っていた女性はさっそくターゲットを発見した。

ミナト「湯加減どうだった?」
メグミ「ちょうど良かったですよ。
 独り占めできましたし♪」
ミナト「牛乳は?」
メグミ「もちろん冷えてました♪」
ミナト「じゃもちろん、腰を手に?」
メグミ「ええ♪」

最近彼女達の流行はお風呂をあがった後の牛乳の一気飲みらしかった。

そこでターゲットを発見した少女は一案を練る。
ちょうどターゲットは一人きりになる。
しかも無防備な裸の状態だ。
そこならお兄ちゃんを誑かした性悪女を亡き者にするのに絶好のチャンスだ。

ユキナ「見てなさい、地球女!」
夕日に向かって誓うのであった。
いや、夕日はないんだけど

・・・でもさぁ間違ってるとか考えないの?
さっきのアキさんが実は本命だったとか

ユキナ「間違ってたら、その時はその時よ!」

おいおい(汗)



Yナデシコ・大浴場


乙女は入浴までの時間が長かった。
衣服を脱いで、髪を結い、バスタオルを巻いて浴場に入るまで10分経過した。
なぜそこまで長かったかはわからない。
そこが乙女の秘密たる所以だ。

「秘密って、ただレディースコミックを読んでいただけよ。
 ほら、銭湯にあるのって読み過ごしたの置いてあるじゃない?」

そして待つ側もなぜそんなに早く湯船に隠れたのかわからなかった。
どうも水着をあらかじめ服の下に着てきたようだ。
・・・海水浴でもないのに

「ほっときなさいよ!」

しかもスクール水着だし

「これしかなかったんだから仕方がないじゃない!」

まぁそんなこんなはともかく、少女はターゲットが湯船にやってくるのを息を止めて待っていた。そりゃ、お湯に潜っていたのだから息を止めないといけないのだが、ひたすらターゲットがやってくるのを待っていた。

ガラガラガラ!

やっとターゲットがやってきた。
逃げ場のないこの湯船で、逃げる間もないほど接近した後、いきなり眼前に現れてこう言ってやるつもりだった。

『お兄ちゃんを誑かしたあなたに鉄槌を喰らわせるわ!』

言ってやるつもりだったのだが・・・

ミナト「フンフンフン♪」

入ってきた!
ユキナはタイミング良くお風呂から立ち上がった!

ザッパン!!!!

ミナト「キャ!」
ユキナ「ハルカ・ミナトね!」
ミナト「は、はい・・・」
ユキナ「よくもお兄ちゃんを誑かし・・・・」

グラ〜〜
あれれ?木星が回る〜
いや、ここは木星じゃなく撫子だった〜
撫子が回る〜〜
ってこんな事考えている場合じゃ〜

ユキナ「キュ〜〜」
ミナト「ちょ、ちょっと〜」

いきなり湯船から女の子が現れたと思ったらいきなり湯当たりして倒れてしまった光景にミナトは呆気にとられるのであった。



Yナデシコ・脱衣所


ラララ〜〜♪

どこからかアニメの歌が聞こえる。
お兄ちゃんの良く見ているアニメの挿入歌だ。
何となく心休まる歌
他の曲は暑苦しくて肌に合わないけれど、この曲だけは好きだった。
お兄ちゃんは私が泣くと良くこの曲を聴かせてくれた・・・

段々意識はクリアになっていく。
感じるのは優しいそよ風
膝枕の感触、
そして頭を優しく撫でる手の感触・・・

ユキナ「は!ここは?」
ミナト「びっくりしたよ?いきなり湯当たりしてるんだから」

ユキナが起きあがったところは脱衣所の長椅子
そこにミナトの膝枕で眠っていたのだ。
バスタオルを巻かれ、髪も乾かされていて、
おまけに湯冷ましのためにうちわで扇がれていたのだ。
介抱されていたらしい。

ミナト「白鳥ユキナちゃんね?」
ユキナ「・・・」

ばつが悪そうにミナトの隣におとなしく座るユキナ。

ユキナ「さっきの歌・・・」
ミナト「ああ、あれ?白鳥さんから教えてもらったの」
ユキナ「ち!お兄ちゃん、アニメであの歌しか良いのがないからって・・・」
ミナト「あはは・・・」
ユキナ「それよりも、お兄ちゃんのどこが好きなんですか?」
ミナト「え?」

いきなり詰め寄られて焦るミナト

ユキナ「あんな優柔不断で、暑苦しくて、アニメオタクで、2Dの女性にしか興味がなくて」
ミナト「自分のお兄ちゃんじゃないの(苦笑)」
ユキナ「ともかく!下心がなければウチのお兄ちゃんと付き合うはずないじゃない!
 人の良いお兄ちゃんを騙くらかして木連の情報を盗もうと・・・」
ミナト「そんなことならもう行くところまで行っちゃってるよ」

ミナト、さりげなく爆弾発言(笑)

ユキナ「行くところまで行くって?」
ミナト「こういう関係になるって事♪」

ミナトはバスタオルの脇からそっとユキナのバストを触ろうとした。
当然、ユキナは真っ赤になって抗議した。

ユキナ「ふ、不潔よ!!!」
ミナト「あ、急に立ったら〜」
ユキナ「キュ〜〜」

さっきまで湯当たりしていたので急に立って立ちくらみするユキナ




数秒後、ユキナ再起動



ユキナ「じゃ、お兄ちゃんのどこが好きなのよ・・・」
ミナト「ん・・・あなたみたいな妹さんがいるところかな?」
ユキナ「ふざけてる!」
ミナト「ふざけてないよ〜。
 これ、私を殺すつもりだったんでしょ?」
ユキナ「あ、それ!」

ミナトはプラプラと巾着をユキナの目の前にかざした。

ミナト「ダメだよ?小型爆弾で自分もろともなんて。
 そんなことしたらお兄さんが悲しむわよ」
ユキナ「でもお兄ちゃんが地球女に誑かされて祖国を裏切ったとわかったら罰せられちゃうから・・・」
ミナト「お兄ちゃん想いなのね」
ユキナ「二人っきりの兄妹だし・・・」
ミナト「こんなお兄ちゃん想いの妹さんがいるんだもの。
 きっと素敵な人のはずだよ♪」

ミナトは優しくウインクする。
微笑まれて真っ赤になるユキナ。

ユキナ「結構地球にも良い奴いるじゃん・・・」
ミナト「悪い奴も多いけどね(笑)」

顔を見合わせて笑う二人

この人なら・・・

そういう思いがユキナの心の中に沸き上がった。
っていうか、こっちじゃなかったらまたあの女の方に行かなければいけない。
あのバイセクシャルの元に行こうなんて、狼の群に羊を放り込むようなものだった。
それだけは断固避けたい。
守れ、自分の貞操!である(笑)

ユキナ「あの・・・」
ミナト「何?」
ユキナ「お見合いしませんか?」
ミナト「お見合い?」
ユキナ「はい♪」

そうと決まればこのハルカ・ミナトとお兄ちゃんをくっつけた方が良いと思い始めたユキナであった。

良いのか?当初の破断させるという目的から大分外れているけど?というツッコミは置いておくとして(笑)



一方その頃


さてさて、一部ではアットホームなコメディーが繰り広げられていたわけであるが、そのムードとは180度違う方向で悶々としている人達が数名

ジュン「ユリカ、どうしたんだい?
 悩み事なら聞くけど・・・」
ユリカ「ん?いい・・・」
ジュン「ユリカ?」
ユリカ「・・・」

とか、

メグミ「ルリちゃん、ラピスちゃん、お昼に行かない?
 早くしないとアキさんのシフト終わっちゃうよ?」
ルリ「後で行きます」
ラピス「私も良い」
メグミ「え?行かないの?
 いつもなら進んで・・・」
ルリ「まだお腹減ってませんから」
ラピス「私も」
ルリ&ラピス「グーーーーー」
メグミ「・・・・」
ルリ&ラピス「(真赤)」
メグミ「い、行かないの?」
ルリ&ラピス「・・・行きません」

とか、

ゴート「どうした?エリナ・ウォン。顔が真っ赤だぞ?」
エリナ「な、何でもないわよ」
ゴート「何でもないことないだろう。
 悪い病気だったらどうする?」
エリナ「悪い病気なんかじゃないわよ!」
ゴート「しかし・・・」
エリナ「この朴念仁!!!
 どうしてこうナデシコにはデリカシーのない男しかいないのよ!!!」
ゴート「おい待て!俺が何をした?」

とか、色々悩みは多いようである。

そして一番悩んでいたのは・・・

アキト「俺はどんな顔をしてあの人に向き合えば・・・」
厨房で料理をしながら重すぎる事実を持て余していた。

ってことで後編に続きます。



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「ちょっと待て!今回はなぜいきなりプレイボーイみたいな役をやってるのよ!」

−いや、姿は女性だからプレイボーイはないんじゃないかと・・・

アキ「呼び方はどうでも良いの!
 どうしてよ!」

−いえ、重苦しい雰囲気がずっと続いたのでここらでいつものイケイケお姉さま属性のアキさんに戻っていただこうかと(笑)

アキ「これじゃ私が今まで女癖悪かったように見えるじゃない」

−じゃ、何ですか?清廉潔白とでも?

アキ「う・・・」

−黒アキト時代にエリナさんと何もなかったと言い張るんですか?

アキ「いや、それは読む人の心次第ということになっているはずで・・・」

−いいじゃないですか。

アキ「な、なにがよ」

−元は男なんだから女の子に迫ったって

アキ「ほら、ビジュアル的に百合っぽくなるから・・・」

−ならビジュアル的に正常なアキト君とのラブシーンを入れましょうか?

アキ「だからそういうシーンを入れるなと言ってるだろうが!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・Dahlia 様
・カバのウィリアム 様
・やりたか様
・そら 様
・YSKRB 様