アバン


人の真実はひとつじゃない
人の記憶もひとつじゃない
誰もが唯一の真実と思っているモノも、実は造られた真実かもしれない

歪められた真実でもある者にとっては大切な真実かもしれない
偽りの記憶でもある者にとっては代え難い記憶かもしれない
人の心は弱く、縋るモノがなければ生きていけないから

けれど本当の真実があるのなら知りたいと思うのはなぜなのだろうか?

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



作戦開始??分前・Yナデシコ通路


首を掴み、エリナを壁に押しつけるアキ

アキ「エリナ!!!」
エリナ「ちょ、ちょっと何よ!!!」
アキ「何を考えている!答えろ!!!」
エリナ「何って・・・」

心当たりがあるのか、顔を背けるエリナ
しかしアキはそれを自分の方に向けさせて睨み付けた。

アキ「何を企んでいるか知らないが、俺を裏切るな!
 いくらお前でも容赦しないぞ!!!」
エリナ「裏切るって何を〜」

普段の彼女からは考えられない声色と口調、それに乱暴な行為
まるで別人のような・・・
いや、嘗てより感じているある予感・・・

『こちらが彼女の本当の素顔ではないのか?』

そんな予感があったからこそ、『アキ本人』ではなく『アキト』にボソンジャンプの実験を要請していたのだ。
彼女には触れてはならない深遠がある。

だからあえて彼女を避けていたのだ。
彼女に聞けばそれこそボソンジャンプの謎が全て解き明かされるとしても・・・

エリナ「ゴホッ!」
アキ「・・・・済まない」
エリナ「ゴホッ・・・済まないじゃ・・・済まされないんだから・・・」
アキ「だがもう一度言う、俺を裏切るな。
 ボソンジャンプの実験をするのはかまわないが、アキトを利用するな。
 聡いお前ならこの意味が分かるだろ?」
エリナ「・・・」

エリナの返事も聞かず、彼女は去っていった。

「何なのよ!もう!!!」
エリナはまるでケンカをした彼氏にでもぶつけるかのような罵声を浴びせた・・・



作戦開始35分前・Yナデシコ格納庫


格納庫にてなにやらイズミが玉串を持ったまま祈祷らしきことをやっていた。

イズミ「祓い賜え、清め賜え」
ウリバタケ「何やってるの?」
整備班員「なんでも幽霊が見えるとかで・・・」
ウリバタケ「幽霊?」

イズミ「ナウマクサンダーランバサラン、オンシュラソワカ!!!」
整備班員「ひやぁ!!!」
ウリバタケ「っていうか、あいつ何宗だよ!?」

詔をあげるイズミを奇妙な目で見る一同であった。



作戦開始34分前・Yナデシコブリッジ


ユリカ「え?幽霊?」
プロス「ええ、なにやらパイロットの方々が見た見たと・・・」
ルリ「夏には早すぎますが?」

ブリッジでもその話題で持ちきりであった・・・。



作戦開始8分前・Yナデシコ通路


Yユニットのメインコンピュータ・サルタヒコへ向かう道すがら、アキト達は信じられないモノを目の当たりにしていた。

アキト「・・・・あんたは誰だ?」

それはアキトの見知らぬ人物、
黒いマントを羽織った謎の人物が立ちはだかっていた・・・



???


そこは不思議な空間、
何故か真っ暗な空間の中、円卓状の麻雀台を囲んで様々な人達が麻雀を打っていた。

ユリカ「あああああ〜〜〜何これ!この牌、メグミちゃんとアキトがキスしてる!!!」
アキト「え!?」
ルリ「それは聞き捨てなりません!」
ヒカル「いつの間に・・・・」
アカツキ「お盛ん♪」
イズミ「誰かさんと誰かさんが麦畑〜」
アキト「し、知らないぞ、俺はメグミちゃんとなんかキスしてないぞ!」
ラピス「しらばっくれるのは良くない」
アキト「しらばっくれてない!!!」
ジュン「でもメグミくんがいないんだから・・・」
イネス「これはアキト君の記憶って事になるわね」
ユリカ「アキトったら私というモノがありながら!」
アキト「だから本当に知らないんだって!!!」
ルリ「なら、私はアキトさんを信じます」
一同「え?」
アキト「ルリちゃん・・・」
ルリ「どこかの本で、浮気をするなら一生しらばっくれて欲しいというのを聞いたことがあります。その方が夫婦円満になるということですから」
アキト「ルリちゃん・・・それって信用してくれてないってことじゃ・・・」

と、一つの牌で騒いでいるのを後目に、アキは一人寡黙に麻雀を打っていた。

リョーコ「なぁ隊長はアキトの奴、嘘をついていると思うか?」
アキ「・・・・それポン」
リョーコ「隊長・・・それどっかの麻雀漫画の主人公みたいだよ」

顎に手をやりながらまるで哭きの竜みたいに一人黙々と麻雀をするアキであった・・・。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第21話 いつか走った「荒野」<前編>



作戦開始1日前・某所


サリナ・キンジョウ・ウォンはバーチャルシステムを使ってネットワークへダイブしていた。ある人物と会うためである。

サリナ「来たわよ」
ライチ「お待ちしてました」
サリナ「しかし・・・ネットワーク越しでここまでリアルにバーチャル空間を作り出すなんてどんな技術を持っているんだか・・・」
ライチ「別に今のあなたでも時間さえあれば作れます。でしょ?」
サリナ「確かに。だから恩には着ないわよ。
 PODの事も」
ライチ「ええ。あなたならいずれは作り上げていたでしょうから」

相手はナチュラルライチの姿をした誰かだ。
しかしいずれ作れると強がってはみたものの、内心サリナは敬服している。
汎用の回線を使ってここまで秘匿性の高いプライベートなバーチャルチャット用の空間を作り上げるなんて。しかも今の自分たちのテクノロジーでも何とか作り上げられるレベルで実現しているなんて。

もちろん、自分も数ヶ月専念しろと言われれば作れなくはないだろうが、この相手はまるで造作もないような事の様に取り扱って見せているのだ。
相手の技術レベルは侮れない。

サリナ「それよりも調べてきたわよ、クリムゾンの事」
ライチ「お手数をかけて済みません」
サリナ「お礼はいいわよ、ギブアンドテイクだし。
 PODの件は助かったわ。正直煮詰まっていたときにヒントをもらえたことだし。
 それよりも・・・・これって本当なの?」
ライチ「・・・・・ええ、あなたの報告書の通りですよ」
サリナ「自分で調べていて驚いたけど・・・
 なんでクリムゾンの奴ら、こんな6m大の機動兵器を開発できているの?」

サリナは疑問を相手に突き詰めた。
どこの誰とも知れぬ相手から調べろと要求されて調べてみれば・・・
あのクリムゾンがエステバリスと同じクラスの機動兵器を開発しているとのことがわかった。しかも敵だけではなく連合軍の情報もそれを裏付けている。故ムネタケ提督のアクセス権限で連合軍のデータベースをアクセスしたからまず改竄はされていないだろう。

とはいえ・・・

ライチ「驕れる平家は久しからず・・・ですね」
サリナ「だ、誰が驕ってるですって!」
ライチ「ネルガルだけが技術の頂点ではない・・・ただそれだけのことですよ。」
サリナ「それにしても・・・」

自分の調べた情報であるが、サリナはにわかにその事実が信じ難かった。

サリナ「私達ですらスタンドアローンの機動兵器をようやく月面フレームのサイズに押し込めることに成功したばかりよ。なのにあいつらどんなエンジンを開発したっていうの!?」

エステバリスは6m大の大きさに抑えるためにあえてエンジンを外し、重力波ビームで母艦からエネルギー供給を受けるという道を選んだ。なぜならその大きさで満足するエンジンを開発できなかったからだ。
技術レベルではあと数年は難しいとするのが業界の一致した見解だ。
なのになぜクリムゾンがそんなことを可能なのか・・・

ライチ「あら、そんなの簡単でしょ?」
サリナ「え?」
ライチ「どこぞの無人兵器は元気に動いてるでしょう」
サリナ「でもあれは・・・
 まさか!」
ライチ「頭のいい人って好きですわ」

サリナはその可能性を思いつく。
まさか・・・そんな事って・・・

サリナ「私達は戦争をしているのよ?なのに・・・」
ライチ「まぁ、真実かどうかは保証しませんが、とりあえず欲しい情報は頂きましたので、わたしはこれで」
サリナ「ちょっと待ちなさい、あなたって・・・」

『クリムゾンが木連軍と結託してるって知らせるためにこんな回りくどいことを?』
そう言おうしたが相手は一方的に通信を切った。

ゴーグルを外すとそこは彼女の研究室であった。

「のせられるのも嫌だけど、それ以上に事の真相が気になるわね・・・」

誰かの代理戦争をやらされている気もしなくはないが、サリナはもう少し真相を調べてみることにした・・・。



作戦開始80分前・Yナデシコブリーフィングルーム


ナデシコの主要クルーが部屋に集められ、幹部達より作戦内容を伝えられていた。

ゴート「現在、連合軍は月裏側の木連軍掃討作戦の最終段階として新造戦艦と月面フレームの大量投入により、敵艦隊をこの地点まで追いつめた。
 今回の掃討作戦は敵が集中した好機を狙って殲滅する事を目的とする」
リョーコ「おいおい、一ヶ所に集中させちゃまずくないか?」
ルリ「敵にゲキガンタイプとかボソン砲とか投入されると確かに致命的ですね」
ゴート「だから!
 今回は相転移砲を使う」
一同「相転移砲?」
イネス「説明しましょう♪」
一同「・・・(汗)」

待ってましたとばかり解説をし出すイネスであった(笑)

イネス「Yユニットを含めてナデシコは現在3基の相転移エンジンを積んでいる。
 そのエネルギーを使ってYユニットに装備されている機能をフル稼働させれば任意の地点に相転移を引き起こすことが出来る」
メグミ「任意の地点に・・・」
ミナト「相転移?」
ルリ「そんなことが出来るんですか?」
イネス「理論上は可能よ。単にエンジン内部の反応を外の一点に発生させるだけだから」
アキ「だからシャクヤクを飛ばそうと躍起になってたってわけ。
 実質、Yユニットを付けた後のシャクヤクは最強の戦艦になったはずだからね」
ヒカル「でも出航前に壊れちゃ形無しだよね」
リョーコ「まぁ、それを勝手に付けるナデシコも火事場泥棒だよなぁ」
ユリカ「貰っちゃいました♪」
ラピス「でもそのせいでナデシコはずっと不調・・・」
ユリカ「セイヤさん達の努力も認めてあげないと」
エリナ「あんたが言うな!!!
 その原因を作ったのはあんたでしょう!!!
 あんたが気軽に貰っちゃいますなんて言ってYユニットを付けさえしなければ・・・」
アカツキ「付けてなければ今回の作戦も実施できなかったわけだけど」
エリナ「うぐぅ・・・」
プロス「まぁ漫才はそのぐらいで(汗)」

プロスが止めに入る。
彼が促すと説明の腰を折られて怒り心頭のイネスがいるので一同はおとなしくなった。

ルリ「でも本当に敵艦隊を撃破できるんですか?
 集めておいて防がれた・・・じゃ洒落になりませんよ?」
イネス「心配いらないわ。
 相転移砲はその場の空間そのものを相転移してしまうの。
 これからは如何なる防御手段も意味をなさない。たとえディストーションフィールドでもね。
 当たりさえすれば必ず敵を殲滅できるわ」
アキト「へぇ・・・」

相転移砲の威力をいまいち理解していないクルー一同。
とりあえず敵の艦隊を丸ごと倒せる・・・ってぐらいはわかったけど、それがどれほどの威力かは見当がつかなかった。
そしてこの人もよくわかっていなかったが、自分達の役割だけはわかっていた。

ゴート「連合軍は敵のこのポイントに追い込む。予定時間は80分後だ。」
ユリカ「今回の作戦はこのナデシコが要となります。
 つまり、時間までにナデシコがこの迎撃ポイントまで回り込めなければ今回の作戦は失敗ということになります。
 万難を排してこのポイントに辿り着くことを最優先事項とします」
アキト「出来なければ?」
ジュン「連合軍を見殺しだね」
一同「・・・」

何事もなく迎撃ポイントまで辿り着くことを切に願うクルー一同であった。

そして、ブリーフィングルームを退出する一同
しかしアキトが出ていこうとしたその時・・・

エリナ「アキト君」
アキト「え?なんッスか?」
エリナ「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

アキトはエリナに引きずられるように通路の奥に引っ張り込まれていった。

それを冷ややかに見つめるアキの姿があった・・・



作戦開始79分前・Yナデシコ通路奥


アキトはエリナの申し入れに驚いていた。

アキト「ボソンジャンプの実験?」
エリナ「そう♪ジャンプフィールドを作り出すところまでは成功したの。
 あとは・・・」
アキト「パイロットが必要・・・ってことですか?」
エリナ「その通り♪協力してくれるわよね
 これでゲキガンタイプにもボソン砲にも対抗できるようになる。
 あなたの言う大切なモノを守れるようになるのよ」

確かにそれは魅力的な話だ。
けれど・・・

アキト「なんで俺なんですか?」
エリナ「え?」
アキト「何で俺なんですか。
 別に他にもいるじゃないですか。
 ユリカだってイネスさんだって
 それに・・・アキさんだって」
エリナ「それは・・・」
アキト「カワサキの時と同じ理由ですか?俺はモルモットですか?」
エリナ「いや、それは・・・」
アキト「ユリカは艦長だ。イネスさんにはボソンジャンプを解明してもらわなければいけない。アキさんは貴重なエースパイロットだ。
 ならばどうにも半端な俺が・・・そういうことですか?」
エリナ「か、考えすぎよ。いま、安全確実に実験をこなせる人物はあなたしかいない。
 あなたは生体ボソンジャンプの唯一の成功例。
 それ以外に他意はないわ」
アキト「本当でしょうね」

詰め寄るアキトに気圧されるエリナ
疚しいことがあるのか今一ついつもの自分通りに相手を威嚇できないでいる。

と、そこに・・・

アカツキ「んじゃそれ、僕にやらせてもらえない?」
アキト「アカツキ・・・」
エリナ「アカツキ君・・・」
アカツキ「まぁ誰かはビビって難癖つけて止めたがっているようだから」
アキト「なんだと!!!」

アカツキは明らかにアキトを腰抜け呼ばわりしている。
それにカチンときたアキトは売り言葉に買い言葉で返事を返してしまう。

アキト「わかった!やってやる。
 アカツキなんかに出来ないことを証明してやる!」
アカツキ「そりゃ楽しみだ♪」

そう言うとアキトはツカツカとその場を立ち去った。

エリナ「助かったわ、アカツキ君。彼をやる気にさせてくれて」
アカツキ「・・・別に彼をやる気にさせたわけじゃなかったんだけどね」

単にアカツキがアキトを挑発しただけなのかと思っていたのだが、エリナはそうではない口調に驚いた。

アカツキ「そりゃまぁ、実験データが取れることは会社としては歓迎だけど・・・
 僕もやらしてくれよ、その実験」
エリナ「え?実験って・・・ボソンジャンプの!?」
アカツキ「そう♪」
エリナ「あれ、本気で言ってたの?」
アカツキ「そう♪」
エリナ「き、危険よ!!!
 一歩間違えばクロッカスのように・・・」
アカツキ「そんなのをテンカワ君にやらせようとしているんだ」
エリナ「それは・・・彼は唯一の成功例で・・・」
アカツキ「おや、ずいぶん肩入れしてるねぇ。さては惚れた?」
エリナ「ば、馬鹿なことを言わないで!!!」
アカツキ「なら良いじゃないか♪」

ニッコリ笑うとアカツキはよろしくと手を振って去っていった。
今一つ何を考えているかエリナにもわからなかった。

で、千客万来とはこのことで・・・

アキ「エリナ・・・」
エリナ「きゃぁ!な、なによ驚かせないでよ」
アキ「ちょっと話がある」
エリナ「話って何よ」
アキ「お前に疚しい気持ちがなければ大したことはない」
エリナ「・・・わかったわよ」

なにやら怖い雰囲気で睨まれて怖じ気づくも、いつもの勝ち気さで弱みを見せないように強がって見せた。
そのことをエリナは後で後悔することになった。



???


そこでは相変わらず11名が円卓状の雀卓を囲んで麻雀を打っていた。

アキ「ロン」
ヒカル「ひえぇぇぇ、振り込んじゃった〜〜(泣)」
ジュン「アキさん、強すぎ〜〜っていうか哭きすぎ〜〜」
アカツキ「ことごとくテンカワ君の牌を拾われているねぇ」
ユリカ「おかげでアキトの牌が手に入らないよ〜」
ルリ「そうですよ。この麻雀はどうも役が揃わないと牌に記録されている記憶が見えないみたいですからね」
ラピス「・・・アキの牌がない(泣)」
アキト「でも・・・ガイの牌がある。なんで?」
イネス「多分誰かの記憶なんでしょうね。アキト君当たりかしら?」
アキト「俺のッスか?」
リョーコ「で、ヤマダの野郎の記憶って何なんだよ?」
イズミ「聞くかねぇ、普通・・・」

一同がイズミの意見に同意するも、怖いもの見たさに再生してみるアキト
すると・・・

『ガンガークロスオペレーション!!!』

一同「やっぱり(苦笑)」
思った通りの暑苦しさに一同閉口する。

でもアキトだけは・・・
『あれ?あいつ、こんな事やったっけ?』

あまりにもガイらしいので思わず納得してしまいそうだが、ビッグバリア突破の時ってガイってこんな事をやっていたのかいまいち思い出せないアキトであった・・・



作戦開始30分前・Yナデシコ通路


ウリバタケは思いっきり怒鳴った。
呑気なブリッジに向かって。

ウリバタケ「馬鹿野郎!通路がどこもかしこも通れないんだ!!!」
ユリカ『通れないって?』
ウリバタケ「Yユニットへ続く通路がどこも高圧電流が流れていたり、重力制御がめちゃくちゃなんだ!
 まるでサルタヒコが俺達をとおせんぼしているみたいなんだ!」
ユリカ『そんな・・・』

状況が飲み込めたところで別の報告が入る。

整備班員「班長!アキさんが!!!」
ウリバタケ「アキちゃんがなんだって?」

ウリバタケが現場に向かうと、アキが床に倒れていた。

ウリバタケ「どうしたんだよ、アキちゃん」
整備班員「そこで倒れていたんです。どうも感電したようで・・・」
アキ「う・・・」
ウリバタケ「アキちゃん、無茶しちゃダメだぜ!」
アキ「わ、私は大丈夫・・・早くサルタヒコの制御を取り戻さないと・・・」
ウリバタケ「で、でも・・・」
アキ「邪魔するな!」
ウリバタケ「うわぁ!!!」

起きあがったアキは安静にさせようとするウリバタケを振り払おうとする。
慌ててよけるウリバタケだが、今度は彼の支えを失ったアキがよろけて倒れた。

アキ「く・・・・」
ウリバタケ「言わんこっちゃない。誰か肩を貸せ!
 イネスさんの所へ放り込まなきゃ」
アキ「は、離せ・・・」
ウリバタケ「良いから!おとなしくしろって」

ウリバタケはここまで聞き分けの悪いアキを見るのは初めてだった。
とはいえ、怪我人をほって置くわけにも行かず、そのまま医療室へ彼女を連れていくことにした・・・



作戦開始28分前・Yナデシコ医療室


一同はその光景を呆然と見ていた。

アキ「い、イネスさん止めて下さい」
イネス「お姉ちゃん、フカフカ♪」
アキ「だから〜〜」
イネス「フフフ」

かつぎ込まれたアキはいきなりイネスに膝枕をさせられたからだ。

ウリバタケ「・・・俺達の目・・・悪くなったか?」
整備班員「そんなことないと思うんですけど・・・」
ウリバタケ「んじゃ、あのイネスさんがなんか可愛く見えるのは気のせいか?」
整備班員「さ、さぁ・・・気のせいなんじゃないかと・・・」

あまりにいつもと雰囲気の違う光景に二人は絶句していた。
と、そこに・・・

ユリカ『それはいいんですけど、早くサルタヒコを回復する為の作業に入って下さい』
ウリバタケ「わぁ!そうだった!!!」

ユリカのウインドウが現れて作業の促されるのであった。



作戦開始20分前・Yナデシコ通路


パイロット達はウリバタケが用意した自転車の前に並ばされていた。
ただし、アキはさっきの感電で欠席
そして何故かジュンもこの場にいる。

リョーコ「え〜〜本当にやるの?」
ヒカル「えっと・・・ん〜と・・・」
アキト「高圧電流が流れてるんだぜ?大丈夫なのかよ」
ウリバタケ「心配するな。タイヤは磁力により床に吸着する。
 しかも絶縁加工した上にジャイロ付きだ。
 漕いでりゃ転けたりしねぇ」
アカツキ「でもさぁ、何で僕たちなのさ。
 目的はYユニットのメインコンピュータであるサルタヒコのコントロール回復なんだろ?
 パイロットよりはオペレータの方が良いんじゃないの?」
ウリバタケ「おチビちゃん二人がこの自転車を漕げるか?」
一同「あ・・・」

ブリッジのルリ「アキトさんと一緒のサイクリングが(泣)」
ブリッジのラピス「アキと一緒のサイクリングが(泣)」
少女二人はペダルに足が届かないことを心底嘆いていた(笑)

ウリバタケ「ということで、あの子達以外にIFS持ってるっていったらお前らしかいないだろうが」
ジュン「なるほど」
アキト「よっしゃ!!!俺に任せろ!!!」

アキトは銃を構えて威勢良く叫んだ・・・



作戦開始20分前・Yナデシコブリッジ


その光景を見ていたブリッジクルー一同はなにやら変な違和感を感じていた。

ミナト「・・・なんかアキト君荒々しくなってない?」
メグミ「そうですか?」
ルリ「アキさんに武術とか習ってますからその関係でしょうか?」
エリナ「いや、さっきボソンジャンプを成功させたからじゃないの?」
ラピス「増長してる?」
ユリカ「アキトはそんなことないもん!」
ルリ「そうですよ!」
メグミ「そうですよ!」
一同「え?」
メグミ「い、いや〜〜あははは」

と、少しメグミ復活に疑惑の眼差しを向けるユリカ達

それはともかく・・・

何かおかしい
ユリカ達も感じている。
アキト達の性格がなんとなくおかしいのを。

それが先ほどの戦闘のせいでは?と考えるのは考えすぎなのだろうか?



???


そこでは相変わらず11名が円卓状の雀卓を囲んで麻雀を打っていた。

アキ「チー」
ラピス「ウフ♪」
ルリ「ラピス、あなたアキさんのおひきじゃないでしょうね」
ラピス「そんなことない」
イネス「あら?ツモだわ」
アキト「え〜〜そんなぁ」
イネス「えっと・・・あら艦長、あなた10歳までおねしょしてたのね。
 でっかい世界地図をアキト君と見ている光景よ♪」
ユリカ「うわぁぁぁぁぁ!!!見ちゃダメです〜!!!」

ユリカはイネスに見せまいと彼女の視線を遮るが、時既に遅し。
別のクルーがその記憶を見ていたりしていた(笑)

『うん、この記憶はある』

その光景を見てアキトはさっき感じた違和感が何だったのだろうと?と思う。
確かに見覚えはあるのだけど、何故かそれが違うように感じる。
でも強くそんなことがあったと言われればそうかなぁ〜と思ってしまう。

アキトは自分の記憶が如何にあやふやか思い知らされるのであった。



作戦開始48分前・Yナデシコブリッジ


ブリッジではいきなり現れた敵影に驚いていた。

ミナト「3時の方向、敵影確認」
ゴート「なに?」
ユリカ「ルリちゃん、識別は?」
ルリ「出ました。木連軍の戦艦クラス・・・ボソン砲を持っているタイプと思われます」
ジュン「ツイていない!何もこんな時に敵と遭遇するなんて〜〜」

突然の敵と遭遇に感歎が漏れた。

ミナト「このまま逃げ切る?
 追いかけっこならかわせるってわかってるわよ?」
ジュン「迂回している暇はないよ。
 そんなことをしたら時間まで作戦ポイントに間に合わないよ」

確かに敵のボソン砲は距離さえ開いていれば届かない。
だから逃げ回れば攻撃を受けずに済むのだが・・・
そうなると今度は相転移砲を撃つポイントまで時間内に辿り着けなくなる。

ゴート「ここで戦うしか・・・」
ルリ「でも敵のボソン砲を喰らいますよ?」
エリナ「良い方法があるわ。
 ね、アキト君」

エリナは妙案を提示した。
アキトにウインクをしながら。
アキトにはその意味が分かった。

早速さっき言った実験をやろうというのだ。
アキトは戸惑う。
しかしナデシコがこの場を退けない以上、ボソンジャンプで敵の懐に潜り込む以外に方法はないように思えた・・・



作戦開始48分前・木連戦艦むつき


かんなづきと同型艦のむつき艦長である月臣はこの好機に喜んでいた。

月臣「月艦隊の援護にと来てみれば撫子と偶然出会うとは。
 これぞゲキガンガーのお導きだ!」
副長「どうされます?このまま戦っては友軍との合流が・・・」
月臣「もちろんここで叩く!奴らも地球軍に合流するに決まっている。
 阻止せんでどうするか!
 跳躍砲の用意もしておけ!」
副長「は!」

敵は見逃してくれそうにもなかった・・・



作戦開始48分前・戦闘宙域


エステバリス隊が前方に展開する中、アキトとアカツキだけはゼロG戦フレームではなく、月面フレームに乗り込んでいた。

アキ「エリナ・・・」
エリナ『に、睨んだって仕方ないでしょう。
 月面フレームは2体しかないんだから・・・』
アキ「・・・・フン」

そう言って一睨みした後、通信を切るアキに生きた心地のしなかったエリナであるが、気を取り直してアキトに連絡を入れる。

エリナ『アキト君、聞こえる?』
アキト「聞こえますよ。でも何で月面フレームなんですか?
 俺、アキセカンドの方がしっくりくるんッスけど・・・」
エリナ『ジャンプフィールドを作るには強力なディストーションフィールドが必要なの。その為には相転移エンジンが是非とも必要なの。
 それよりも落ち着いて、リラックスしててね。
 前線は彼女達が支えてくれているから』
アキト「へいへい」

そんなもんかなぁ・・・と思いながらアキトはシートを座り直した。
それにしても月面フレームとは・・・・
前回の月での戦闘を思い出してしまう・・・

『そんなのアキトさんらしくない』
『守られているくせに黙っていろ!』
『そんなのなじっているだけだってどうして気づかないの』

・・・思えば憎しみだけで戦ったような気がする。
強くなりたいと思った。
でも・・・

『約束できる?
 復讐のために力を使わないと約束できる?』

今は違う。憎しみのためにではない、誰かを守るためにこの力を使いたいと思う。
だからアキさんに手ほどきを受けた。
彼女程ではないけれど、今なら自信がある。
憎しみの為ではなく、守るために力を振るえる自信が・・・

エリナ『フィールドを展開して』
アキト「了解」
エリナ『CC散布』

エリナからの遠隔操作でフィールドに取り付くようにCCが散布された。
するとCCは光を発し、月面フレームを包んだ。

アキト「はぁ・・・はぁ・・・」
ユリカ『アキト、気分悪くない?嫌なら止めていいんだよ?』
ルリ『エリナさん、アキトさんの顔色悪いみたいですけど大丈夫なんですか?』
メグミ『アキトさん、大丈夫ですか!?』
エリナ『うるさいわねぇ、あんた達!』

エリナのウインドウの後ろにユリカ達の顔が入れ替わり立ち替わりする。
・・・っていうか、別々のウインドウを送ってこいよ、って気もする。

しかし戦場は待ってはくれない。

リョーコ『隊長、前に突っ込みすぎだ!』
アキ『大丈夫!このくらい!!!』
ヒカル『うわぁ〜〜撃墜数の記録でも作るつもりかなぁ』
イズミ『死に急いでいる感じ』
アカツキ『っていうか、僕達が早くジャンプしないからじゃない?』
前線ではパイロット達の感想通り、アキが阿修羅のごとく敵の無人兵器を薙ぎ倒していた。敵戦艦に急いで近づこうと躍起なのか、それとも焦りすぎているのかそれはわからないが、いくらアキでもそれが無茶を重ねている事は明白であった。

早くしなければ
でも・・・
何かが自分を押し留める。
ここから先に進んではいけない気がする・・・

だが、戦況はそれを許さなかった。

ラピス『敵艦に相転移反応あり』
アキト「やる!!!」
ナデシコがやられると思ったらアキトは途端に気分の悪さなど構っていられなくなった。その様子を見たエリナは行けると判断したのか・・・

エリナ『思い浮かべて、敵艦のことを。
 イメージするの!』
アキト「・・・」

アキトは念じる!

するとアキトの顔や体に無数のナノパターンが浮かびだした。
それを見たとき、エリナは成功を確信した。

ボワン!

一同「うおぉぉぉ!?」
いきなり消えた月面フレームに驚くナデシコクルー達であった・・・



作戦開始47分前・Yナデシコブリッジ


ジュン「まさか・・・失敗?」
メグミ「そんな不吉なこと言わないで下さい!」
ユリカ「アキト!」

彼がジャンプアウトしたという報がなかなか届かない。
いや、それはほんの2、3秒の事だったのかもしれないが、誰もが数分の事のように思えた。

しばらく経過した後・・・

ルリ「テンカワ機、敵戦艦下舷100mに出現」
メグミ「成功したんですか!?」
ユリカ「やった♪アキトすごい♪」
ブリッジはアキトのジャンプの成功に沸き立った。



作戦開始47分前・戦闘宙域


オペレータ「本艦直下に敵人型兵器出現!!!」
月臣「何!?」

ボソンジャンプで現れた月面フレームにみなづきのクルー達は驚いた。
だが、彼らが我を取り戻すのを待っている必要はない。

アキト「・・・よし!行ける!!!」
アキトは早速ボソン砲を倒すために行動を起こした。
対艦ミサイルを敵艦のディストーションフィールドに撃ち込む!
一瞬フィールドに裂け目が発生したのをアキトは見逃さなかった。

アキト「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
月面フレームを全速でその裂け目に突入させた。
そして間髪入れず持っていたミサイルを相転移反応のしている箇所に叩き込んだ!

ドゴォォォ!!!!

アキト「よっしゃ!!!」
見事ボソン砲を破壊することに成功した。



作戦開始46分前・木連戦艦むつき


跳躍砲をやられて動揺した艦内を月臣はどうにかまとめようとした。

月臣「くそ!俺もダイマジンで出る!」
オペレータ「は!」
通信士「艦長、白鳥少佐から入電です」

と、そこに白鳥九十九からの通信が入った。

月臣「戦闘中だ、後にさせろ!」
九十九『元一朗、よせ!!!』
月臣「なんだ、九十九!」
九十九『それ以上の戦闘はよせ!』
月臣「何だと?ここで撫子を倒さずしていつ倒す!!」
九十九『いいから退け!』
月臣「・・・」

月臣は親友の真剣な忠告を聞かざるを得なかった・・・



???


11名が打つ麻雀であるが、そろそろ点棒にバラツキが出てきた。
アキの次になぜかアキトの点数が多い。
いや、ユリカやルリがアキト牌に固執しすぎ、捨て牌をアキに尽く拾われていった・・・という方が正しいかもしれない。

ジュン「でもテンカワも強くなったよなぁ」
ヒカル「っていうか、ジュン君、アキト君に振り込んでばっかりだし」
ジュン「強いのは麻雀じゃなくって!!!」
アキト「あ、それロン・・・」
ルリ「ジュンさん、振り込んじゃいましたね」
ジュン「あ!!!!!」
ラピス「アキト強い」
ジュン「だからそういう強いじゃなくって!!!」

漫才はともかく・・・

リョーコ「確かに強くなったのは認めるよ」
ヒカル「隊長に武術教わった辺りからメキメキ頭角を現してきたよねぇ」
ユリカ「アキトはその前から強かったですってば!」
ルリ「そうですよ!」
イネス「例えば?」
ユリカ「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルリ「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
イズミ「無言の期間がその存在の無さっぷりを証明しています」
アキト「お前らなぁ・・・」

そんなに軟弱だったか?
とアキトも自身で思うのだが・・・

ラピス「で、その役、何の記憶だったの?」
アキト「これ?これは・・・」

漫才のせいで見るのを忘れていた記憶を見ることにする。

ルリ「誰の記憶なんですか?」
アキト「いや、俺の記憶なんだけど・・・」
ユリカ「どうしたの?怪訝な顔をして」
アキト「いや・・・」

アキトはその記憶を見て首を傾げた。

それはクルスク工業地方でのナナフシ討伐の時の記憶である。
この時、アキトはアカツキやリョーコらと地上からナナフシを直接攻撃しに行ったのだ。そういう意味ではこの記憶の光景は正しい。

けれど・・・

アカツキ「ん?なんか不審なところでもあったのかい?」
アキト「いや、そんなことはないだけど・・・」
ヒカル「けど・・・なに?」
アキト「いや、なんかこう・・・物足りない気が・・・」
リョーコ「物足りないって、何がだよ」
アキト「いや、なんでもないと思う」

アキトはそう思いたかった。
だから最後まで見なかった。
見てしまったらわかってしまったかもしれないから。

そこには『ナナフシをアキト達だけで攻略してしまった』場面が映っていたかもしれなかったから・・・



作戦開始34分前・Yナデシコブリッジ


ブリッジではその話題で持ちきりだった。

ユリカ「え?幽霊?」
プロス「ええ、なにやらパイロットの方々が見た見たと・・・」
ルリ「夏には早すぎますが?」
ゴート「士気に関わる。ふざけているなら・・・」
ラピス「多分ふざけてないと思う」
一同「え?」
ラピス「だってあそこに・・・」

大人達がパイロット達の不謹慎な冗談と思われる流言を否定しようとしたその矢先、ラピスはなにやらあらぬ方向を指さす。

ミナト「どこ?どこに何があるって言うの?」
メグミ「それらしいものは見えないですけど?」
ルリ「・・・・・・・私にも見えました」
一同「えぇぇぇぇ!?」

ルリもラピスの意見に賛同したのに驚く一同
ラピスはともかく、ルリがこういう時に冗談を言うとも思えない。
それだけじゃなかった。

ユリカ「あ・・・・私にも見えちゃった」
プロス「艦長までですか!?」
ジュン「・・・ゴメン、僕にも見えた」
ゴート「お前までか!?」

なにやら見える人間と見えない人間がいるみたいだか、どうやら霊感が強いものだけが見れるとかそういうものでもないようだった。
その証拠に幽霊否定論者のルリですら見えたのだから。

プロス「で、何が見えたというのですか?」
ルリ「黒いマントの男の人・・・」
ユリカ「黒いバイザーをかけた男の人・・・」
ジュン「隣の少女は・・・誰?」
ラピス「お姉さん?」
ゴート「仮装大賞か何かか?」

彼らには見えた。
ブリッジのちょうど正面に一組の男女がいたことを。
片っ方は黒いマント、黒い髪、黒いバイザーをかけた男性
そしてその男性に付き従うように小さな少女
それはラピスをもう少し大人にしたような、でも少女らしいあどけなさを残す薄桃色のワンピースを着た少女の姿である。

ラピス「あ、消えた・・・」
ユリカ「何だったの?」
ルリ「さぁ・・・」

クルー達は訝しがりながらもその事をすぐに失念した。
なぜならもっと重要な別の事象が起こったからだ。

メグミ「え?どうしたんですか?」
ユリカ「どうしたの?メグちゃん」
メグミ「いえ、なんかアキさんがサルタヒコへ行こうとして整備班の人達ともみ合ってるんですよ」
ユリカ「何ですって?」
ルリ「あ・・・」
ミナト「どうしたの?ルリルリ」
ルリ「サルタヒコのコントロールが不能になりました」
一同「ええ!!!!」

今のナデシコにとって幽霊事件よりもサルタヒコ制御不能の方が優先事項であった。



作戦開始33分前・Yナデシコ通路


そこではアキと整備班とでもみ合いになっていた。

整備班員「ダメです!作戦開始前で調整中なんですから〜」
アキ「離せ!サルタヒコに行かないと制御が出来なくなるんだ!」
整備班員「ですからそのために調整をしてるんです。
 もう作戦開始まで時間がないんですから〜」
アキ「そうじゃない!」

アキには最初自覚がなかったものの、ようやく理由に気づいた。
前兆はあった。
気分が急に穿り返されたように、昔の感情がわき上がってきた。
演技をしきれず、つい昔の自分の素が出てきてしまう。

迂闊だった。
まさかもう蜥蜴がナデシコに潜り込んでいたなんて・・・

ハックされてしまう前に、
抑圧された人格が表に出る前に、
何とかしたかった。
したかったのだが・・・

アキ「どけ!」
整備班員「アキさん〜」

彼を押しのけて通路に駆け出したアキであるが・・・

バチバチ!!!

アキ「ワァァァァ!!!!!!!」

しまった・・・確かYユニットの通路には高圧電流が流れてるんだった・・・

そんなことも失念するほど焦っていたのか、アキは感電してしまった・・・



???


もっか、記憶麻雀はアキがトップながらも、運の良さでアキトがそれに続いていた。
そして・・・

アキト「あ・・・ツモ」
リョーコ「またかよ!」
ヒカル「すごいねぇ〜」
ユリカ「で、一体どんな記憶だったの?」

そう言われてアキトは思わずその記憶を見てみた。






え?





ルリ「どうしたんですか?アキトさん」
ラピス「どうしたの?お腹でも痛いの?」
アキト「い、いや・・・そうじゃ・・・」
ユリカ「その割に顔色悪いよ?」
アキト「何でもない。何でも・・・」
アカツキ「何でもないって顔じゃないねぇ」
アキト「何でもないって言ってるだろ!!!」
イズミ「何でもあるって言っているようなものね」
ヒカル「私達にも見せてみてよ〜」
アキト「ダメだ!」

いきなり態度が豹変するアキトに戸惑う一同。

アカツキ「おいおい、別に勿体ぶらなくても良いじゃないか」
アキト「勿体ぶっている訳じゃないさ・・・」
アカツキ「なら見せてくれても・・・」
アキト「・・・見たかったらいずれ見れるさ」
ルリ「それはどういう・・・」
アキト「記憶麻雀をやってればいずれ見れるさ」

そう、アキトにはようやくわかった。
この空間がなんなのかを・・・
それは自分が軽々しく口にしてはいけない。
いや、自分もこれが真実かどうかを計りかねているのだ。
自分も記憶の断片しか見ていない。
もっと本当のことが見れるかもしれない。
でもそれはパンドラの箱だ。
知らなければ良かったと思うかもしれない。
いや、今でも十分後悔している。

でもいつかアキさんは言っていた。

『知らなければ後悔することすら出来ない』

そしてナデシコに乗るときにこんなことも言っていた。

『ここから先に君の知りたい真実は全て存在する』

それが彼女のあのとき言った真実なのか?
ならば・・・俺は・・・この真実を見るためにここまで来たのなら・・・

後悔しても見なければいけない気がした。

それが例え今までの世界が根底から覆るとも・・・・



作戦開始??分前・ユーチャリス


Blue Fairy「黄昏は訪れる。夜の帳が人々を包む。
 その時、人は・・・何を思うのでしょうか?」
Snow White「Blue Fairyちゃん・・・」
Blue Fairy「Snow Whiteさんは自信を持って言えます?
 真実を知っても昔の私達はまだアキトさんを信じることが出来るって。
 今と同じ眼差しをあの人に向けることが出来るって・・・」
Snow White「・・・」

Snow Whiteはその問いに答えることが出来なかった。
いや彼女だけではない。
Actressも、Pink Fairyも、そしてSecretaryも・・・

一同は無言となった。
今の自分たちならイエスと答えられるだろう。
しかし、昔の自分たちに本当にそう答えられるだろうか?

それは誰にもわからなかった・・・



作戦終了後20分後・Yナデシコ通路


逃げるように歩くアキトをエリナはようやく掴まえた。
さっきから彼の言っていることが全く要領を得なかったからだ。

エリナ「協力しないってどういう事よ!」
アキト「協力したくないから協力しないんですよ」
エリナ「だからどういう理由なのよ!」
アキト「理由なんかどうだって良いでしょう!」
エリナ「どうだって良くないわよ!」

アキトの態度に思わずキレるエリナ

彼の手を引っ張って自分の方に顔を向かせる。

エリナ「あなたが戦わなければナデシコは守れないのよ?
 ボソンジャンプが戦いの切り札になるって今回の戦闘で十分わかったでしょ?」
アキト「アレは触れちゃいけないパンドラの箱なんだ・・・」
エリナ「え?」

黙り込んでいたアキトがようやく重い口を開く。

エリナ「パンドラの箱って何よ・・・」
アキト「エリナさん・・・あなた、自分のしていることが本当に人のためになると思ってますか?」
エリナ「え?そりゃ当たり前じゃない。
 ボソンジャンプは将来必ず必要な技術になるわ。
 戦争だけじゃなく、全人類の為に・・・」
アキト「そう思ってダイナマイトを作った人も原爆を作った人も思ったんじゃないですかねぇ・・・」
エリナ「え?」
アキト「で、作った後で後悔するんですよ。
 惨劇の光景を見て。
 こんなハズじゃない。こんなハズじゃなかったって・・・
 だからボソンジャンプなんて・・・」
エリナ「一体何を・・・」

エリナはアキトが冗談を言っているのではないかと思った。
実験に協力したくなくて適当なことを言って誤魔化そうとしているのではないかと。

でも・・・

自分の両手を見て悲しそうな苦しそうな顔をするアキトの様子を見て、エリナにはそれが冗談ではないような気がした。

『だがもう一度言う、俺を裏切るな。
 ボソンジャンプの実験をするのはかまわないが、アキトを利用するな。
 聡いお前ならこの意味が分かるだろ?』

それは自分の首を絞めながらアキが言った台詞だ。
いや、まだそんなつもりはない。
モルモットにしている疚しさはあるが、それだってボソンジャンプ技術の発展を望めばこそだ。
ネルガルに利権を・・・という気持ちはあってもそれでアキト達を悪いようにするつもりはほとんどなかった。

けれど・・・彼女が言っていた理由ってこういうこと?




そんな気まずい雰囲気が流れているところに・・・


「あ、アマガワ・アキ・・・」

通路の向こうからアキがやってきた。
その声にアキトはピクッと反応する。

アキはアキトを一瞥するとそのまままっすぐ通路を歩いていった。
アキトは始終、アキから視線を逸らしたままだった。

エリナ「どうしたの?あんた達」
アキト「・・・何でもないですって」
エリナ「何でもないって、あんなにベタベタしていたくせに」
アキト「・・・」

アキトは無言のままアキとは反対の方向に歩いていった。
まるで別れた恋人同士の様な雰囲気みたいで居たたまれない状態のエリナだけが残されたのだった・・・

ってことでinverse編に続きます。



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「・・・・いいのか?これで」

−何がですか?

アキ「いや、いろんな意味でヤバイだろう。この引きは」

−アキトさんと別れたっぽい事ですか?

アキ「そうじゃなくって!!!いや、それもあるけど・・・
 っていうか、どこまでバラしてるの!?」

−ん・・・多分全部

アキ「全部って・・・いいのか?本当にそれで」

−まぁ、アキト君なんかは自分に惚れてたってショックかもしれないけど・・・

アキ「だから惚れてないと言ってるだろうが!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけでinverse編をどうぞ。

ちなみにinverse編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・たかけん 様
・AKF-11 様
・Dahlia 様
・龍崎海 様
・さゆりん 様
・kakikaki 様