アバン


まぁ艦長再任第一回目の戦闘ということで、それなりに張り切っているユリカさん。
やる気があるのは良いんですけど、やっぱりお気楽なのは良いのやら悪いのやら

それはそれとして、人の上に立つモノは自然と権力を振りかざす
与えられた権力の意味を時折見失いながら振るう事もある
けれど、それでは人は着いてこない

人は人に惹かれるのだから
その人の信念に惹かれるのだから
その人の背中に惹かれるのだから

でも自分の背中は自分では見えないから、
だからこそ、胸を張って前を見なければいけないのです。

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


早速、攻撃の火蓋は切って落とされた。

秋山「重力波砲撃ち方用意!」
オペレータ「いつでも、どうぞ」
秋山「よし、撃てぃ!!!」

秋山の号令でかんなづきの重力波砲が放たれた!

だが・・・・

通信士「反応ありません!」
秋山「いつまでも同じ進路にはいないか・・・」
三郎太「艦長!」

敵はエンジンも切って慣性で直進するしか仕方がないはずである。
なのにその軸線上に重力波砲を放って反応がないというのはおかしい。
だが、秋山は驚いた風でもなかった。

秋山「驚く事はない。
 こちらのパッシブセンサーに反応しない推進方法を持っていただけの話だ。
 でなければ、動けなくなるのがわかっていて最初から相転移炉を切ったりはしまい。」
三郎太「ですが・・・」
秋山「心配するな。あくまでも慣性以上の速度は出せんのだ。
 予測の範囲内だ。いずれは戻ってくる。
 本艦も加速を停止!様子を見る!」
三郎太「わかりました・・・」

どうやって進路を変更したかはわからない。
けれどセンサーに反応させずに大幅な進路変更など出来るはずもない。
それほど大幅に加速なり軌道変更すればそれは高エネルギーを伴い、センサーに反応するはずだ。
ならば、行われた軌道変更はごくわずか
このままかんなづきが加速して直進しても索敵範囲内にいるはずである。

秋山「だが、このままずっと息を潜めているわけには行かないはずだ。
 どうする?快男児」

秋山は相手の次の一手に思いを巡らせながら、どこかワクワクしている自分を抑えきれなかった。



Yナデシコ・ブリッジ


時間はほんの少し前
かんなづきが放ったグラビティーブラストがちょうどナデシコの頭上を掠めていった。

ルリ「本艦上方を敵のグラビティーブラストが通過しました」
ラピス「被害なし」
ミナト「ふぅ〜助かったけど、なんか心許ないよねぇ〜」
メグミ「本当に〜」

敵の攻撃をかわして一安心するクルー一同。
とはいえ、普段ディストーションフィールドに守られているナデシコクルーにとってかなり心臓に悪い状態である。

プロス「しかし、バラスト用の圧搾空気を使って進路変更とは考えましたなぁ〜」
エリナ「アイディアだけはね」
感心するプロスの言葉に渋々同意するエリナ

確かに圧搾空気ならエネルギーに反応するセンサーに引っかかることはない。
とはいえ、推力的にも小規模な軌道修正がせいぜいであり、何より移動用に搭載されているわけではないので量も限られている。
かなり計画的に使用しなければすぐに尽きてしまうだろう。

エリナ「敵の攻撃を避けられたのは良いけど、これからどうするの、艦長さん?
 このまま息を潜めていてもすぐに追いつかれるわよ?」
ユリカ「えっとまずは撒き餌をします。
 第一陣はミサイルの全弾放出です♪」
プロス「全部使われるのですか!?」
ユリカ「もちろん♪」
プロス「ですが、ミサイルも決してお安くはありませんし・・・」
ユリカ「撒き餌をケチっちゃ魚は寄ってきてくれませんよ♪」

ミサイルの値段にクラクラするプロス
しかしユリカはいつもの笑顔で押し切った。

ユリカ「ルリちゃん、ミサイルの放出は時限タイマーと放出後の軌道計算も含めて送ったデータの通りにお願いします。
 ポイントは始めチョロチョロ、中パッパね♪」
ルリ「了解」
ラピス「ご飯でも炊くの?」
ルリ「違いますよ」

ルリはユリカの指示通りにした場合のミサイル散布図のシミュレーション結果をラピスに見せた。

ラピス「なるほど・・・」

ラピスは散布図を見て納得する。
確かに始めチョロチョロ、中パッパだ。
けどルリの顔は少し納得がいかないみたいだった。

ルリ「でも、少し食いつきが悪いんじゃないんですか?」
ユリカ「何が?」
ルリ「これじゃせっかくの撒き餌が無駄になりますよ?」
ユリカ「大丈夫、飛びきりの餌を撒くから♪」

ユリカはウインクするとウインドウを開いた。

ユリカ「という訳でアキさん出撃お願いしま〜す♪」
アキ『私は撒き餌なの?』
ユリカ「いえいえ、何ならそのまま敵を倒しちゃってかまいませんよ♪」
アキ『出来るわけないでしょう(苦笑)』
ルリ「撒き餌って・・・アキさんがですか?」
ユリカ「だよ〜ん」
アキト『こら待てユリカ!!!』

自信満々に言うユリカの言葉に全然納得していないアキトが大急ぎで通信を入れていた。



Yナデシコ・格納庫


アキト「今出撃しちゃったらミサイル網の中に留まることを意味するんだぞ!?
 わかって言ってるのか!!!」
ユリカ『わかってるよ♪』
アキト「全然わかってねぇ!!!
 いつ発火するかわからないミサイルに囲まれるんだぞ!?
 危ねぇだろうが!!!」
ユリカ『時限発火だからちゃんと時間を考えて移動すれば危なくないない♪』
アキト「でもなぁ・・・」

アキトはなおも食い下がる。
確かに時限発火のミサイルだから時間が来るまで発射はされない。
けれどその時間内に安全地帯まで移動できなければ一斉にミサイルが彼女の身に降りかかる。その結果は想像しただけでも恐ろしい。

でも・・・

アキ「アキト君、そんなに私のことが信用できない?」
アキト「いや、そんなことはないんですけど・・・」
アキ「心配入らないわよ。私はあくまでも撒き餌だから、囮以上のことはしないし、危なくなったらさっさと逃げてくるから♪」

アキにいたずらっぽく詰問されて戸惑うアキト
確かに彼女ならそういうことも難なくこなしてしまいそうだが・・・
それでも心配なのだということをなかなか相手に理解してもらえなかったりする(笑)

アキ「それよりもアキト君」
アキト「はい?」
アキ「本命の撃破、よろしくね♪」
アキト「ええ・・・」

そう言ってウインクするとアキはPODに乗って出撃していった。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第20話 深く静かに「反省」せよ<後編>



Yナデシコ・ブリッジ


ルリ「ミサイル散布終了。
 ミサイルの速度、分布とも正常です」
メグミ「PODマニュアルで発進しました〜」
プロス「ああ〜勿体ない〜」

準備は着々と進む中、プロスだけが消えたミサイルの予算額に思いを馳せていた(笑)

メグミ「でも本当にミサイル網の中にいてアキさん大丈夫かなぁ〜」
ウリバタケ『まぁ追加のバッテリーも持って行ってるし、元からPODのゲインはノーマルエステの3倍あるんだ。
 余計な戦闘をしなきゃ問題なく帰ってこれるだろう』
メグミ「いや、問題はそこじゃなくって・・・」
ウリバタケ『それにこんな事もあろうかと!
 PODのウイングバインダーはステルス加工がしてある!
 いざとなればミサイルの赤外線センサーにも引っかからないさ!
 こんな事もあろうかと・・・・ククク♪』
ミナト「ラピラピ、ウリピーのウインドウ、片づけちゃって」
ラピス「了解」
ウリバタケ『こ、こら!!!』

とまぁ、なんだかんだと外野はうるさかったが、やはりエリナはユリカに突っかかった。
エリナ「あんたねぇ、相手は魚じゃないのよ!
 それを撒き餌だとか釣りだとか!」
ユリカ「そうなんですよ。相手は人間なんですよね・・・」
エリナ「わかっているなら何で・・・」
ユリカ「だから、相手は人間なんですよ。
 無人兵器じゃないんです。だからちゃんと考えて行動してくれるはずなんです。」
エリナ「考えてって・・・」
ユリカ「これから私のする作戦の意図をエリナさんがどう予想するか・・・
 敵も同じ事を考えませんか?」
エリナ「それは・・・」

確かにユリカの言うとおりかもしれない。
敵が無人兵器なら何も考えずに突っ込んでくるだろう。
だが相手は人間だ。ならば今の戦局を分析して反応してくれるはずだ。
幸い、敵将は聡明な人物らしい。
ならばこそ、付け入る隙もあろう。

とはいえ、上手く相手を騙せるのだろうか?

ユリカ「そろそろ敵がミサイル網に引っかかる頃ね。
 元のコースに戻りましょう。
 ミナトさん、進路変更をお願い♪」
ミナト「了解」

Yナデシコは再び圧搾空気を使って進路変更を行った。
先ほどグラビティーブラストを放った軸線上に戻るために。
それは敵艦かんなづきが直進している進路そのままであった・・・



宇宙空間・ミサイル網第一陣


かんなづきは何も知らず速度を維持しながらナデシコがいるであろう進路を進んでいた。
だが、彼らは知らない。
その付近にナデシコが先ほどばら撒いたミサイルが存在していたことには。
ましてやナデシコのパッシブセンサーに反応しにくいようにアクティブセンサーの使用頻度を落としていたモノだからそれらの発見はすごく遅れた。
巧妙に最初は発見され難いようにまばらに配置したのだ。
ユリカ曰く始めチョロチョロってやつである。

そして時限タイマーは時を刻む。
計算し尽くされ、かんなづきが回避不能な距離に近づくまで正確な時間をカウントしていた・・・

ピーーーーーーーーー!!!

センサーON
赤外線誘導開始
目標検出
点火!!!

辺りを漂っていたミサイルは一斉にかんなづきを目標に設定した!!!

バシューーーー!
バシューーーー!
バシューーーー!
バシューーーー!
バシューーーー!

幾つもの火線がかんなづきに向かって殺到した。



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


通信士「ミサイル急速接近!!!」
三郎太「なに!?」

その報告と同時にかんなづきに衝撃が走った!!!

ドゴゥ!!!!!!

オペレータ「ミサイル、時空歪曲場に接触!!!」
三郎太「敵襲か!?」
通信士「いえ、敵影はありません!」
三郎太「なんだと?」

その攻撃にかんなづきは混乱した。



Yナデシコ・ブリッジ


ユリカの作戦通り、敵がミサイル網に引っかかってくれたことにブリッジは沸き立っていた。

ゴート「狙い通りだな」
プロス「ミサイル一斉点火ですな!」
ユリカ「まだです!」
エリナ「どうして!これがあなたの作戦でしょ?」
イネス「それだけじゃ、無理ね」

ミサイル攻撃を一斉に行えばあの艦は落とせる。
誰もがそう思っていた。
なのにユリカはまだだと言い、総攻撃しないと言う。
エリナが突っかかるのも無理はない。

けれどその理由を代弁したのはイネスであった。
わざわざ目立つようにユリカとエリナの間に割って入って解説しだした。

イネス「いくら一斉点火しても戦艦のフィールドに弾かれる。」
エリナ「でも・・・」
イネス「そうねぇ、もっとミサイル網の中心に踏み込んでくれればグラビティーブラストとの併用により何とか撃沈できるかもしれない。
 とはいえ、敵もバカじゃない。
 みすみす罠に飛び込んで来てはくれないでしょうね。
 どうするつもり、艦長さん?」
ユリカ「釣りは焦っちゃダメですよ♪」
ミナト「もうすぐ元の進路に復帰しま〜す」
ユリカ「ではエステバリス部隊・・・アキト達に発進の指示をお願いします♪」
メグミ「了解しました♪」

焦るクルー達を笑顔で黙らせて次の手を打つユリカであった。

ルリ「ですから艦長、シートベルトを付けないと危ないんですってば」
ユリカ「アキト〜頑張って行ってらっしゃい〜〜
 って誰か私を止めて〜〜!!!!」

進路に戻るときの制動でまたもブリッジを右から左にかっ飛んで行くユリカに『本当に大丈夫か?』と思い悩むクルー一同であった。



Yナデシコ・カタパルト


ウリバタケ「発進はマニュアルだ!!!
 気合い入れて行けよ!!!」
パイロット一同「ほ〜い」

ウリバタケの号令でエステバリスは発進していった。
とはいえ、少し間抜けな格好ではあるが。

アキト「俺、これ嫌なんだよなぁ〜」

アキトはローラーダッシュでカタパルトを走行する。
しかも節電モードなのでローラースケートの要領で半分半分回転させていた。

ヒカル「運転手は僕だ♪」
イズミ「車掌は君だ♪」
リョーコ「車間距離を取れ!
 っていうか電車ゴッコで遊んでるんじゃねぇ!!!」

三人娘達はなぜか輪っかになったロープを掴んで遊んでみたり(笑)

アカツキ「なんとも珍妙だねぇ」
ウリバタケ「いいからお前もやれ!!!」
アカツキ「へいへい」

アキト達のエステはマニュアルで発進後、すぐさまソーラーセイルを張り、節電モードに移行した。
これなら敵に察知される心配もない。
彼らはここでしばらく待機することになる。

やがて大物が食らいついてくるまで・・・



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


その頃、いきなりのミサイル攻撃にかんなづきは混乱していた。
だが、艦長の秋山は慌てない。

秋山「落ち着け!本艦はこの程度の攻撃にはビクともせん!」
三郎太「ですが・・・敵はどこから・・・」
秋山「先にミサイルを撒いておいたのだろう。慌てることはない」
三郎太「ミサイルの分布から敵の予想位置を割り出せ!!!」
オペレータ「は!」

すると正面パネルにはその予想図が現れた。

三郎太「左舷11時の方角か・・・
 よし、予想位置に進路を取れ!
 肉薄して一気に叩く!」
秋山「よせ!」

悪戯のような置き土産をされて頭に来る三郎太。
彼は血気に逸って指示を出した。だが、それを秋山に止められた。

三郎太「何故です?敵はこの方角にいます!今直進して叩けば・・・」
秋山「これは罠だ!
 進路そのままだ!」

三郎太の考えもわからなくはない。
進路に機雷を敷設する理由といえば相手を足止めしておきたいという事だ。
敵は夜陰に紛れたままかんなづきを振り切りたいと考えているのだ。
ならば相手の思惑に乗ってはいられない。
無理にでも強行して距離を詰めて敵を叩くのが常道だ。

だが、秋山はそれが罠であると結論づけた。

秋山「直進すれば敵のミサイル網の中心に突っ込むことになる。
 奴らはそれを見越してミサイルを敷設しているはずだ!」
三郎太「ですが時空歪曲場で防げます!」
秋山「そこに敵の重力波砲を受けたらどうする?」
三郎太「そ、それは・・・」
秋山「奴ら、ミサイルの網で待ちかまえるつもりだろうが、思惑通りに乗ってやるわけにもいかん。
 全速前進!!!このままミサイル網の脇を抜けて敵の背後に回り込む!」
オペレータ「は!」

秋山の号令でかんなづきは再び加速を始めた。
だが、そのことに一番納得していないのも彼自身であった。

『だが・・・どうするつもりだ?
 不意打ちしようにも火力があるまいに・・・』

戦力の逐次投入は愚策だ。
ならばこのミサイル攻撃も何らかの攻撃と組み合わせなければ意味がない。
なのに迂回しさえすればかわせるミサイル網など何の意味があるのか・・・

秋山はどうしても相手の行動が解せなかった・・・



Yナデシコ・ブリッジ


かんなづきの行動はすぐにナデシコのセンサーに届いた。

ルリ「敵艦進路そのままで加速してきます」
エリナ「当てが外れたわね」
プロス「敵をミサイル網におびき寄せられない以上フィールドを・・・」

口々に作戦失敗を訴えるクルーが現れるが、ユリカは決して焦っていない。

ユリカ「大丈夫、撒き餌第2弾の発動です♪」
エリナ「第2弾?」
ユリカ「そうです♪」

ユリカはウインクする。
もうすぐあの人が暴れ出すはずだから・・・



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


さて、かんなづきがミサイル網の脇を抜けようとエンジンを全開にしかけたその時である。

バシュゥ!!!!!!!!

ドゴウゥゥゥ!!!!!

それはフィールドを突き破ってかんなづきの装甲をかすった。

三郎太「何事だ!」
オペレータ「敵からの砲撃です!被弾しました!!」
三郎太「なに!?どこからだ!!!」
通信士「ミサイル網からです!!!」
三郎太「何だと!!!」

誰もが驚く。
それはそうだろう。
あのミサイル網に伏兵がいるなど考えられなかったからだ。

三郎太「信じられん。自らのミサイルに攻撃されるとは思わないのか?」
秋山「なるほど、どうあっても俺達をあの中に我々を引きずり込みたいらしいな」
オペレータ「映像出ます!」

すると正面のスクリーンに現れたのは人型の機動兵器であった。

三郎太「あれは!?」
秋山「知ってるのか?」
三郎太「アレが白鳥先輩に土を付けた奴ですよ!」
秋山「あれがか・・・」

三郎太は途端に血気逸った眼でその機動兵器を睨み付ける。
秋山の方はその機体の美しさに見惚れていた。

そう、彼らの前に現れたのはミサイル網の中でレールカノンを放った漆黒の機動兵器"Princess of Darkness"の姿である。

通信士「敵からの電文を受信・・・」
秋山「読み上げろ」
通信士「『遊んであげるからかかってきなさい、坊や達♪』
 ・・・だそうです」
三郎太「舐めたマネを!!!」

挑発された三郎太は怒りを露にした。

秋山「おい、三郎太!」
三郎太「デンジンで出ます!」
秋山「よせ!罠だ!!!」
三郎太「大丈夫です!!!」

挑発されて血気逸った三郎太は秋山の制止も振り切ってデンジンに乗り込むのであった。



宇宙空間・ミサイル網第2陣


三郎太「さぁ!俺が相手だ!!!」
学ランを着込み、デンジンで出撃する三郎太。
相手は悠然と三郎太が出てき来るまで待っていた。

三郎太「どうした!かかってこないのか?
 ならばこちらから!!!」
それが無謀だとも思わずPODに突っ込んでいくデンジン。
そんな彼をアキはレールカノンで迎え撃つ。

アキ「さて、追加バッテリーの残量が少ないから狙わせてもらうわよ!」

PODの左手には追加バッテリーが抱えられていて、ケーブルが直接レールカノンに繋がっていた。さすがに機動しながらでは邪魔になるのだが、狙撃するには十分の体勢だ。

とはいえ、追加バッテリーによる発射は3発が限度、後の2発をどう撃ち込むか・・・

三郎太「行くぞ!!!ゲキガンシュート!!!」
アキ「しゃらくさい!!!」

突っ込んでくるデンジンにレールカノンを放つ!

バシューーーー!!!!!

三郎太「ちぃ!!!!」
放たれたレールカノンの弾頭は展開しているデンジンのフィールドを突き破ってきた。だが、それで威力が殺がれたのか、三郎太は何とかかわし、装甲をかする程度に押さえることに成功した。

三郎太「この俺にそんな弾など効かん!!!」
アキ「キャ!外しちゃった〜〜逃げろ〜〜」
三郎太「あ、待て!!!」

周りが言うほどの強さではないと三郎太は実感した。
その証拠にレールカノンをかわされて逃げの一手を打つ敵機動兵器の姿が見えたからだ。
『やれる!!!』
そう思ったのは無理からぬ事であった。

だが・・・・

アキ「ヤバイヤバイ、当てちゃうかと思った〜
 結構4年前のサブロウタってこんなもんだったのか・・・」
未来のサブロウタから実力を推測してギリギリかわせるようにレールカノンを撃ったのだが・・・もう少し評価を下げなければいけないようだ(笑)

それはともかく、アキは逃げの一手を打った。
あたかも必殺のレールカノンを放ったがかわされて、慌てて逃げているように装ったのだ。案の定、三郎太はPODを調子にのって追ってきた。

PODの逃げ込む先がミサイル網だと思いもしないで。
いや、奴が逃げ込むのだからミサイルが発射されるはずがないと高を括っていたのかもしれない。

アキ「15、14・・・」
三郎太「おのれちょこまかと!」

彼女は逃げながらカウントダウンを行う。
その間にもデンジンからグラビティーブラストが放たれるがそれを紙一重でかわす。

アキ「8、7、6、そろそろ良いわね!
 ラストシュート!」

アキは振り向きざまにレールカノンを放つ。今度は本気で当てるつもりで!

バシューーーー!!!!!
ドゴォ!!!!!
弾は見事にデンジンの左腕を直撃した。

三郎太「クソ!やったな!!!
 お返しだ!!!」

デンジンの両腕は元々ロケットパンチ用に分離可能となっている。
それ自体は大したダメージではない。
ただ愛機を傷つけられたことで頭に血が上った。

三郎太「ゲキガ〜ン・・・」
アキ「3、2、レイ、フィールド解除してステルスモードへ移行」
レイ『了解』

三郎太が攻撃しようとしていた瞬間、視認は出来ているものの、デンジンのレーダーからPODの反応が消えた。
それと同時に辺りのミサイル群の時限タイマーのカウントがゼロになった。

当然、ミサイルのセンサーは目標を探しエネルギー源を探す。
PODはフィールドを解き、エネルギー消費を抑え、ステルス加工を施したウイングで機体全体を包み込む。
デンジンのセンサーから消えたようにミサイルのセンサーからも隠れる。
だが、直前に攻撃を行おうとしていたデンジンに関してはどうだろう?

当然、デンジンにミサイル群が襲いかかった!!!

バシューーーー!
バシューーーー!
バシューーーー!
バゴォォォン!!!
バゴォォォン!!!
バゴォォォン!!!

三郎太「うわぁぁぁ!!!」

いくつもの爆音がデンジンを揺らす!
如何なデンジンでもこの攻撃には耐えられない。

秋山『跳躍で回避しろ、三郎太!!!』
三郎太「ですが敵の機動兵器を逃がしては・・・」
秋山『デンジンが持たん!!!
 いいから跳躍しろ!命令だ!!!』
三郎太「はい!」

三郎太のデンジンは跳躍してミサイル網から辛くも離脱した。



Yナデシコ・ブリッジ


ラピス「敵ゲキガンタイプ、母艦に回収されました」
ルリ「敵艦進路そのまま。やはりミサイル網の脇を抜けるようです」

二人の報告に一同の溜息が漏れる。
ミサイル網へ誘き寄せて叩くという作戦はこれで完全に消滅した。

ゴート「せめて敵の機動兵器を潰しておきたかったが・・・」
プロス「もうこの手は使えませんねぇ」
エリナ「どうするの、艦長!」

だが、心配するクルー達を余所目にユリカは自信満々だった。

ユリカ「万事OK、予想通りナイスな演技です、アキさん♪」
エリナ「何がOKなのよ!!!
 敵はピンピンしてるのよ!!!直に追いつかれるわよ。
 こんなことなら何もせずにあのまま月にでも逃げ込めば良かったわ・・・」
ユリカ「大丈夫、アキト達がやっつけてくれます♪」
エリナ「アキト、アキトって・・・・
 え?」
ユリカ「三番目の撒き餌は一番最初に撒き終わっているんですから♪」

はたと気づくエリナ
万策尽きて逃げるしかないと思っていたのに、戦うですって?
そう驚くエリカの顔にユリカはにんまりと笑う。

そこにアキトから通信が入る。

アキト『おい、本当に大丈夫なんだろうなぁ〜〜
 気がついたら俺一人なんて洒落にならないぞ!』
ユリカ「大丈夫、きっと上手く行くよ♪」
エリナ「あんた、本当に上手く行くと思ってるの?」
ユリカ「もちろん、相手は同じ人間なんですよね・・・
 だから信じてみます。敵も・・・そしてアキト達も・・・」

エリナですら騙せたのだ。
ならば賢明な敵も同じように考えてくれるはずだ。
ユリカはニッコリと笑って答えた。



宇宙空間


エステバリス隊はプカプカと宇宙空間を漂流していた。
とはいえ、待つしかない。
敵がやってきてくれるのをひたすら。

そんな中、各パイロットはそれぞれ平常心を保とうと自分なりに時間を潰した。

アキトは頭の中でアキから教わった武術の型をイメージトレーニングする。
リョーコは座禅をして精神集中する。
ヒカルは目を閉じて軽く睡眠をとる。もちろん寝ていないが。
イズミはギャグを考えている
そしてアカツキは宮沢賢治の小説の一節を朗読していた

それぞれの方法で時を待っていた。
敵が本当の罠にハマるその時を・・・



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


回収された三郎太は早速ブリッジに戻ってきた。

秋山「大丈夫か、三郎太」
三郎太「ええ。デンジンも左手は使えませんが戦闘に支障はありません。
 もう一度出撃できます!」
秋山「そうか・・・」
三郎太「ですが、どうしてミサイル網の脇を抜けるのですか!
 敵はあのミサイル網の向こうにいるのですよ!!!」

三郎太はあそこまで追いつめながら逃がしてしまった敵への未練でそう言った。
しかし秋山は正面パネルに状況を見せて説明する。

秋山「いつまでも同じ所にはいまい。
 大体あれは安っぽい罠だ。
 ミサイル網の配置を見てみろ。奥へ行けば行くほどミサイルの弾幕が激しくなるように配置されている。みすみす檻の中に飛び込むようなモノだ」

秋山はミサイル網の配置をもう一度良く見せる。
奥に行くほどミサイルの機影が濃くなっている。
最初の薄い弾幕のつもりで入り込んできた敵をハメる為のモノだ。

いつまでも未練がましく渋る三郎太に秋山は別の資料を提示した。

三郎太「ですが・・・」
秋山「まぁこの図を見ろ」
三郎太「これは?」

秋山の示した図・・・それはこの辺りの航路図である。
しかも縮尺はかなり高い。

秋山「抜かったな。奴らの元々の進路を見ろ」
三郎太「これは・・・月への航路ですか?」

そう、最初にナデシコが取っていた進路を延々と伸ばすと、地図の端っこにようやく月の周回軌道が現れた。しかもそこは地球連合の月面方面軍の勢力範囲となっていた。

秋山「そうだ。奴らの目的は端から月の友軍勢力下に逃げ込むことだったんだ。
 だから進路を反らしたミサイル網に我々を足止めにして時間を稼ぐつもりだったんだ・・・」
三郎太「クソ!!!!」
秋山「エース級の機動兵器まで残せば当然その進路に向かったと我々を誤認させられる・・・
 そう踏んだのだろう、あの快男児は。
 だがその思惑に乗ってやる必要はあるのか?三郎太」
三郎太「ありません!全速で奴らを追いかけます!!!」
秋山「そういうことだ!
 敵艦への追撃戦を行う!!!」

秋山は号令を下した。
逃げ切ろうとするナデシコを追うために
彼らの計略を看破したと思い込んで

まさか、相手がそれを待ちかまえているなどとは知らずに・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ユリカは宙に浮きながらも器用にも座布団に正座し、寿司屋にあるような湯飲みでお茶を飲んでいた。もちろん、無重力でこぼれたら困るのでキャップにストローをさしてすすっていたのだが。

縁側のおばあちゃんの様な格好をしてユリカは調子の外れた歌を歌い出した。

ユリカ「撒き餌たっぷり群がる魚♪
 ぶっこめ、針に餌付けて♪
 日がな一日釣り糸垂らしゃ、今日は大漁万々歳♪」

そしてユリカは目を閉じる。
彼女の予想ではもうそろそろなのだ。
ミサイル網のことがなければ敵も様子を見たまま慎重にナデシコを追いかけていただろう。
けど今の彼らはどうだろう?

ミサイル網をただの時間稼ぎと看破したつもりでいるなら、
ナデシコが夜陰に紛れて月に逃げ込むモノだと思い込んでいたら、
まさかこんな所に伏兵が潜んでいるなんて思い至るだろうか?

ユリカ「ツータカッタタ、ツータカッタタ、
 ツータカッタタの・・・・・
 フ♪」

ユリカは静かに顔を上げる。
何の報告もない。
大丈夫、彼女の仕掛けた釣り糸は見つからなかった。
ユリカは賭に勝ったのだ。



宇宙空間


彼らのレーダーにはハッキリと敵影が映った。
しかも至近距離に
これならば近づく間にドッカ〜ンとされる暇を与えないだろう!

リョーコ「よっしゃ!!!全機続けぇぇぇ!!!!」
ヒカル「いっきま〜す♪」
アカツキ「こちらアカツキ機!ナデシコ応答せよ!
 本日は大漁!!!」
イズミ「魚のいっぱい取れる国、タイ領・・・なんちって」
アキト「うぉぉぉぉ!!!」
アカツキ「繰り返す!本日は大漁!!!」

エステバリスはソーラーセイルを切り離して全機全速でかんなづきに突入していった。
その連絡を受けたナデシコも当然彼らをサポートする。



Yナデシコ・ブリッジ


ユリカは作戦開始とばかりに号令をかける。

ユリカ「相転移エンジン始動!
 ディストーションフィールド出力全開!
 各エステバリスへ重力波ビームコンタクト!」
ミナト「お任せ〜♪」
ルリ&ラピス「了解」

ユリカの指示の元、三人は全てのシーケンスを最速でこなしナデシコを停止状態から一気に戦闘状態に引き上げる。
まもなくナデシコは生き返り、そして臨戦態勢に切り替わった!



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


もちろん、迫り来るエステバリス及びナデシコの姿はかんなづきにも察知されていた。
いきなりの敵機発見にブリッジは混乱気味に慌てていた。

オペレータ「本艦の直上及び直下から敵の人型兵器が接近中!!!」
三郎太「なに!監視を怠っていたのか!!!」
通信士「違います!いきなり反応が現れました!」
三郎太「なに!?伏兵か!!!」
オペレータ「前方にエネルギー反応発見!
 戦艦クラスです!」
三郎太「くそ!撫子か!!!」

その状況を聞いていた秋山は苦笑いをした。

秋山「なるほど、まんまといっぱい喰らわされた。
 敵の目的は端から我が艦を機動兵器を潜ませた宙域までおびき出すことだったのか・・・」

なるほど、跳躍砲のせいで近寄れないのなら、相手をおびき寄せればいい。
逃げる戦艦を追いかけることに熱心なら、伏せておいた機動兵器など気づくはずもない・・・
あの短時間にこちらの心理を全て逆手にとって罠にハメたということか・・・

秋山「だが、所詮勝負が振り出しに戻っただけだ!」
通信士「敵人型機動兵器、本艦の時空歪曲場に取り付きました!
 歪曲場への負荷増大!!!」
秋山「迎撃戦用意!!!
 敵人型兵器は虫型戦闘機にて応戦しろ!
 本艦は敵艦への跳躍砲による砲撃に専念する!
 敵艦の正確な距離を割り出せ!」
オペレータ「はい!」

秋山はここに至っても全然不利になっているとは思っていない。
跳躍砲の射程範囲内に敵艦はいる。
この機動兵器は母艦からのエネルギー供給がなくなれば活動できないことはわかっている。
ならば先に跳躍砲を当てればこちらの勝ちなのだ。

時間との勝負
ならば迅速に対応した者が勝つ
秋山に狼狽えも迷いもなかった。



Yナデシコ・ブリッジ


エステバリスが戦闘に入ったのをナデシコクルーは固唾を呑んで見守っていた。
彼らが敵のボソン砲を潰してくれなければナデシコは容易に沈むのである。

しかしユリカの顔はずっと平気なままだった。そのことにエリナが少し腹を立てた。

「同じ人間同士戦いたくないって言ってた割には、大胆な作戦を立てるのね」

もちろん嫌みである。
なんのかんのといって、結局はパイロット達に戦わせているのである。
エリナにはユリカの行動理念が全くわからなかった。
だが、ユリカはこう答える。

ユリカ「戦争が続く以上、ナデシコが戦い続けることになります。
 どちらに正義があるのかわかりませんけど、それを知るためにもナデシコは勝ち続けなければいけません。
 ここは私が私らしくいられる場所だから。
 そしてナデシコのみんなの・・・アキトの戻ってくる場所はここしかないから♪」
エリナ「結局はアキト、アキトってあんたそれしかないの?
 第一あんな軟弱な坊やのどこが良いの!」

エリナはあえて自分の感情を無視してその問いをユリカにぶつけた。

全て個人的な恋愛感情だけで動いているように見えるユリカ
だが、ひょっとしたらそれが一番まともな感覚ではないのか?と思い始めている自分の気持ちを確かめるために。

ユリカはまっすぐな瞳でこう答えた。

ユリカ「アキトはいつでも一生懸命です。
 今も私達を守るために必死に強くなろうとしています。
 私はアキトが守りたいと思っているモノ全てを守れる場所にナデシコをしたいんです♪」

それがユリカの答えだった。
それはとても漠然としたモノ
でもとても近しモノ
恋人、家族、隣人、友人、仲間
そうやって繋がっている絆の全て
どうやって守れるか今はわからないけど、
私らしく守っていける場所はナデシコしかないと思うから
勝ち続けなければいけないのだ



戦闘宙域


エステバリスはかんなづきのディストーションフィールドにフィールドランサーを突き立てていった。負荷をかけてフィールドを中和する。
フィールドを突破さえすれば目指す跳躍砲は目の前だ。

だが、敵も素直にはやられてはくれない。

ヒカル「アキト君、バッタがそっちに行ったわよ」
アキト「わかってる!けど・・・」

そう、今アキトが一番苦戦していた。
やはりアキセカンドを乗りこなせていなかったのだ。

アキト「ちょこまか、ちょこまかと!」

周りに群がるバッタを振り払うのにも必死だ。
何が問題かって?

一言で言えばアキセカンドという機体は過敏すぎるのだ。
遊びがないと言った方がわかるかもしれない。

ほんのちょっと動かそうと思っただけであっという間に腕は振りきれる。
慌てて制動しようと元に戻そうとイメージすれば反対に戻りすぎる。
このギッタンバッタンを繰り返した。
いつぞやのリョーコがアキスペシャルを全く扱えなかった事を笑えない。

今は力で無理矢理押さえ込んでいるが、これではバッタの相手は難しい。
しかも扱う武器はフィールドアックス。
重量もあり、この過敏なアキセカンドではさらに扱いにくい。
でもバッタ達はアキセカンドに群がってくる。

アキト「この!この!
 せっかくアキさんに訓練を受けたっていうのに!!!」
思うようにアックスをバッタに当てられない事に苛立つアキト。
だが、そこにある者がアキトに助言をする。サポートAIのレイだ。

レイ『エネルギー効率30%まで低下。
 マスター、駆動系を無駄遣いしすぎています』
アキト「無駄遣いって仕方がないだろう・・・」

とそこまで言ってアキトはあることを思い出した。
訓練中にアキに叱咤された言葉である。

『安定しようとしないの!』
『動きを滞らせるんじゃない!』
『不安定の中に安定を見つけるの!』
『体を捻るなって言ってるでしょ!』
『目標へは最短距離になるように体を動かすの!』
『ストロークが短いんだ。無駄にする力など少しもないでしょ!』

様々な言葉が蘇ってくる。
一見バラバラに思える叱咤の数々・・・

だが、今はそれが全て一つに繋がるのでは?とアキトは感じ始めていた。

自分は反応が遅れて行きすぎた腕を戻そうと腕を一旦止めた。
そして一旦止めてから別のベクトルへ力を加える。
これってそこで力の流れが滞っていないか?
確かに止まっている。
そうじゃない、止めずにベクトルを変えるのだ。
そうすれば力の全てはゼロにならないはずだ。
止まらずにベクトルだけを変えるということは安定していないということだ。
でも無秩序にベクトルを変えていてはそれこそ不安定になる
だからこそ遅くても早くてもダメなのだ。
それこそが不安定の中に安定を見つけるということなのだ。
不安定を使いこなすということだ。

ならば!!!

アキトはアックスを振るう!
振るった瞬間、わずかに向きが違うとわかった。
すぐさま軌道修正をする
するとおもしろいようにアキセカンドは反応する

バキィ!!!!

バッタ1機目撃破
右後ろ、左上面に敵を感じる。
力の流れを止めるな!
捻らず、最短の距離で繋ぐように!
イメージをする、
今まで訓練を受けたとおりに、
流れを滞らせずに、
多少のズレは随時ベクトルを微調整すればいい!

アキト「ウォリャァァァ!!!!」

イメージを描いた。
自分から発して繋がる気のラインを
バッタだけではなくエステそのものも含む力の滞らないラインを

次の瞬間

バキィ!!!!
バキィ!!!!

イズミ「・・・凄い」
ヒカル「本当、3機のバッタを一瞬で倒しちゃうなんて隊長みたい・・・」
リョーコ「やるじゃねぇか!」
アカツキ「ほぅ〜でもまぐれじゃ?」

まぐれじゃなかった。
その後アキセカンドは近寄るバッタを瞬殺していった・・・



木連戦艦かんなづき・ブリッジ


艦内にはレッドアラームが鳴り響く。

オペレータ「歪曲場制御不能!」
通信士「歪曲場、まもなく消失します!」
秋山「敵の位置はまだか!」
オペレータ「位置、特定しました!距離5000!」
秋山「よし!跳躍砲装填!!!」

跳躍砲発射が早いか、時空歪曲場を突破されるのが早いか
少し分が悪いかも・・・

三郎太はたまらず動き出した。

三郎太「デンジンで出ます!」
秋山「バカ!敵機の迎撃は虫型戦闘機に任せておけ!」
三郎太「あいつには通用しません!」

三郎太は秋山の制止を振り切って実機に駆け出した。

秋山「バカ野郎!今のお前で敵うか!
 照準は!」
オペレータ「まもなく!」
秋山「照準付き次第、かまわず撃て!
 俺もデンジンで出る!」
通信士「は!」

秋山は悟っていた。
あの太刀筋は我が木連式武術と源流を同じくするモノ
荒削りだが筋は良い。
ならば手負いのデンジンを駆る三郎太には・・・

「おもしろい、おもしろいぞ、撫子!!!」

秋山は猛る血を抑えながら自らも愛機の元へ向かった。



戦闘宙域


必死にバッタを葬りながら、敵のボソン砲の位置を探し出そうとしていたアキトのコックピットに待ち望んだ反応が現れた。

レイ『ボソン反応確認』
アキト「あそこか!」

だが、それは諸刃の剣だ。
既にナデシコに照準を合わせてミサイル弾頭を送り込む体勢が整っていることを意味する。

最速で潰さなければナデシコが沈む!
だが最後まで戦艦のディストーションフィールドはアキト達を頑張って拒んでいた。

アキト「邪魔なんだよ!!!」

アキトはイメージする。
フィールドにアックスがインパクトした瞬間、力が弾けるイメージを!
それはきちんと力の流れがフィールドにインパクトした瞬間にアックスに集中するということだ。その瞬間にアックスのフィールド中和機能も全開にする!!!

ザク!!!!

ディストーションフィールドはまるで麻を引き裂くがごとく易々と切り裂かれた。
だが、そんなアキのように出来た感動に酔っている暇はない。
目指すは敵のボソン砲!!!

アキト「うぉりゃぁぁぁぁ!!!」
三郎太「させん!!!」

いきなりボソンジャンプでアキトの前に現れる三郎太のデンジン
だがアキトは慌てなかった。

アキト「後で相手をしてやる!」
三郎太「なに!?」

アキトはデンジンの脇をすり抜けた。
昨日までのアキトなら一旦身構えて足止めされていたであろう。
しかし今のアキトはそれがわずかのベクトル変更でかわせることがわかる。
恐れず踏み込めば相手の隙に飛び込んで行けることを、
アキセカンドの能力さえあれば飛び込んでいけることを認識していた。

アキト「落ちろ!!!」
アキトはそのままフィールドを最大にし、アックスを突き立てながら敵のボソン砲に突っ込んでいった。

ゴウ!!!!!!

ナデシコの格納庫に照準を合わせていた敵のボソン砲をアキトの一撃が貫いた!

ヒカル「やったぜ♪」
イズミ「まだよ!敵さん怒ってるわ」
リョーコ「散開せよ!」

その直後、三郎太のデンジンがリョーコ達目掛けて襲いかかってきた。

三郎太「お前達を倒しさえすればまだ失地を回復する余地は・・・」

三郎太はそのままナデシコに突っ込んで落とすつもりだった。
これなら・・・そう思っての行動である。
それを見ていたアキトは大急ぎで彼を止めようとした。

アキト「ナデシコをやらせるか!」
秋山「貴様の相手は俺だ!」

三郎太のデンジンを追おうとするアキトの前に秋山のデンジンが現れた!

秋山「良い太刀筋だ。さぞかし良い師についたのであろう。
 一つ手合わせを願いたい」
アキト「俺はあんたとやり合っている暇は・・・」
秋山「目の前の敵、集中せずに倒せる相手かどうかを知ることも強さだと知れ!!!」

秋山はデンジンでアキセカンドに襲いかかる。
アキトはその攻撃を受けた瞬間、それがアキや自分と同質の相手であることに気がついた。

『動きの鈍いゲキガンタイプのはずなのに、なんて軽やかなんだ!
 パイロットが変われば同じ機体でもこうも変わるのか!?』

アキトは秋山の操るデンジンに腰を落ち着けて対処せざるを得ないと観念した。



Yナデシコ・ブリッジ


ルリ「アキトさん凄い・・・ポッ」
ラピス「本当、アキみたい」
エリナ「まだまだへっぽこよ」
メグミ「へっぽこじゃないです!立派に戦ってます!」
ミナト「あれだけ出来れば上出来よねぇ」

アキトが戦っている様子はナデシコからも見えていた。
対バッタ戦、そして対デンジン戦と見ていてもその強さは格段に上がっているように見える。

ユリカ「いいぞ!アキトやっちゃえ♪やっちゃえ♪」
エリナ「やっちゃえじゃないでしょう!!!
 もう一機がこっちに来ているでしょう!!!」
ユリカ「いいわよ、アキト♪
 あ、メグちゃん、リョーコちゃん達に迎撃をお願いして」
メグミ「敵ゲキガンタイプが一機、ナデシコに向かっています。
 エステバリス隊、迎撃をお願いします」

メグミは仕方がないのでそのままリョーコ達にユリカの指示を伝えた。



戦闘宙域


アキトと秋山の激しい戦いはなおも続いている。
で、それ以外のパイロットは三郎太のデンジンの迎撃に当たっていた。

ヒカル「今度はリクガンガーだね」
三郎太「正義は必ず勝つ!!!!!!!!」
イズミ「大男、総身に知恵はまわりかねってね!」

片手だけの機体で3機のエステを相手にしようというのはいくら三郎太でも難しい。
もっとも両手があっても五分の戦いが出来たか怪しいが。

三郎太「ゲキガンビーム!!!」
リョーコ「ロン毛!」
アカツキ「あいよ!」

違った。4機だ。

リョーコ達3機が相手の注意を引き受け、アカツキが背後から攻撃する作戦だったのだ。

三郎太「なに!?」
アカツキ「背中がガラ空き!!!」

アカツキはフィールドを突き破りながらデンジンの背中に着地すると、振りかぶってフィールドランサーをその背中に突き立てた。

途端に激しい爆発音がし出す。

アカツキ「おいおい、マジでそこが弱点なの?」

アカツキはまさかその一撃で敵に致命傷を与えられるとも思わず逆に驚いた。

三郎太「クソ!こうなれば道連れに・・・」
秋山「止めろ!三郎太!!!」
三郎太「すんません、艦長・・・」
暴走し出す相転移エンジンを抱えたまま、三郎太はナデシコに特攻しようとする。
秋山は瞬間にそれを悟って三郎太を制止しようとしたが、彼は自らの機体をジャンプさせようとした。

「三郎太!!!!」
秋山は叫んだ。
だが、ジャンプしようとしたその瞬間!

ブン!!!!

どこからか飛来した物体が三郎太のデンジンの頭と胴体を切り離した。

アキト「身勝手な自己満足に俺達を巻き込むな!」
秋山「貴様・・・」

そう、アキトの投げたフィールドアックスがデンジンの首を切り飛ばしたのである。
胴体の方はジャンプし損ねた後、しばらく漂流して爆発した。

秋山「三郎太、無事か!」
三郎太「・・・ポッドで漂流中です。救出していただけると助かります」
秋山「まったく無茶しやがって・・・」
とりあえず三郎太の無事を確認した秋山はアキセカンドの方に振り向く。

『こいつはあの瞬間、味方だけじゃなく敵まで助けたのか・・・』

秋山「副長殿を回収した後、この場を撤収する!」
戦闘として完敗のはずなのに秋山の心は何故か清々しかった。



Yナデシコ・ブリッジ


メグミ「敵、弾幕張りつつ撤退していきます♪」
クルー一同「やった!」

ナデシコでは勝利の余韻に酔いしれていた。

ユリカ「さすが、アキトはやっぱり私の王子様♪」
ルリ「だから何でさすが私の王子様なんですか!」
メグミ「そうです!そうです!」
ミナト「あらあら、アキト君も帰ってきたら大変だ〜〜」

エリナ「ツータカッタタ、ツータカッタタ、
 ツータカッタタの・・・・・」

と、一部で盛り上がっている人達を見て溜息をつくとエリナはブリッジを出て行った。
ただし少し優しい笑顔で、鼻歌を歌いながら・・・
ユリカはそんなエリナを見てちょっとは自分という人間を認めて貰えたかもとうれしくなった。

もっともそれはほんの一瞬で終わる。
ひとつの通信が入ってきたからだ。

メグミ「艦長、敵艦から艦長宛に入電です」
ユリカ「え?」
メグミ「『貴君の勇猛果敢かつ大胆な指揮に敬意を表す。
 勇将の下に弱卒無しの例え通り、貴下の戦士達も誠に天晴れであった。
 卑劣極まりない地球人にも貴君の様な快男児がいたとは驚きである。
 その事については詫びさせていただこう。
 願わくばいずれまた戦場で相見えんことを願う。
 木連優人部隊かんなづき艦長、秋山源八郎』
 ですって」
ユリカ「ムッカ!!!!
 快男児って何!!!
 私可愛い女の子なのに!!!」

秋山からの激励の電報を聞いてやっぱり元のユリカに戻るのであった(笑)



おまけ


ラピス「・・・・それよりもアキは一体どうしたの?」
一同「!!!!!!!!!!!」
ユリカ「あああああ!!!忘れてた!!!」

そうです。アキさんはミサイル網で漂流したまんまです(笑)

ユリカ「急いでアキさんを回収しに向かいます!!!!」
メグミ「でも今ナデシコで近づいたらミサイルが襲いかかってきます」
ユリカ「ああああああ!!!!!
 そうだった!どうしよう〜〜!!!」
エリナ「見直して損した!」←実は戻ってきていた。
ルリ&ラピス「バカ」

後始末までは考えていなかったようである(笑)



おまけのおまけ


アキ「まぁ、アキト君も合格・・・かな?
 ユリカと併せて一人前ってところだけど。
 フフフ」

一方、ミサイル網で一人迎えが来るのを待っていたアキは結果を見て微笑んでいた。
とはいえ、すぐに厳しい顔に戻る。

アキ「どうにか間に合ったかな・・・
 でも・・・
 彼らは真実を知って私を恨まないだろうか・・・」

アキもわかっている。
もうすぐ黄昏は訪れる。
真実が人々の前に示される。
手折られぬように授けた力が逆に彼らを傷つけないだろうか
でもその時彼らは今のように私を慕ってくれるだろうか?
それとも嫌い、忌み、憎むのであろうか?

アキはそれが心配であった・・・



ポストスプリクト


ということで黒プリ20話をお届けしました。
何とか16話当たりから続くアキト修行計画が形になったかな?
って気がします(笑)

元々20話は好きなお話でしたので少々熱が入っているかもしれません。
少しユリカマンセーな内容だし(笑)

ともかく、今回のお話は戦術面が主役のお話でアキトの活躍はちょっと蛇足だったかもしれません。
元々はTV版での作戦にちょっと首を傾げるところがあったので私なりに消化したモノを書いてみました。

どんなもんでしょうか?(笑)
さてさて次からは多分TV版から徐々に乖離していきオリジナルのストーリーが多くなると思います。いよいよ最終章ですから。

筆者の筆が暴走するのか、はたまた結局はTV版と変わらないのか
それは神の身でない筆者ですら知るよしもなかった(爆)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・三平 様
・龍崎海 様
・kakikaki 様