アバン


風・・・
風の色が見たい

私の周りは水ばかり
水の中で生まれ、水の中で育ち、そして水の中で朽ちる

金魚鉢の中の金魚は外の世界に憧れる
風の匂いを感じたい
でも風の中では生きていけない。
外の世界に飛び出せば死ぬに決まっている。

でもあなたは手を差しのべてくれた。
風の色を教えてくれた
たとえ外の世界で生きられなくても私はそれで満足だから・・・

これSecond Revengeのラストとちょっぴり関係があるらしいからよろしく・・・・



Attention!!!


本編は<RURI SIDE>の内容と重複するところが若干ございますが、なにもコピペミスという訳ではございません(笑)
ですので間違い探し・・・などというモノはご遠慮いただけますようお願いします(冗談)

では、改めまして<LAPIS SIDE>をお楽しみ下さい



航海日誌ラピス・ラズリ記す


今日も戦闘は続く
たとえつまらない戦闘でも私は満足
アキの活躍が見られるから
翼をパタパタさせたPODの活躍は見事♪

でも悩みはある

誰?私に悩みなんかないだろうと思った人は!

ともかく、

悩みはある。
夢に見る
幼い頃の光景・・・いや私はまだ10年も生きてないから幼いも何もないんだけど

夢に見る
たゆたいし頃の夢
ただ投薬と知識の奔流と、養液に浮かぶだけの毎日
ただ生かされていることに疑問も感じなかった日々

でもあの人は笑いかけてくれた。
ガラスの向こうから
外の世界と風の色を感じられる向こう側から話しかけてくれた。

『ラピスちゃん、ご機嫌はいかが?』

私は悪くないと答える
するとあの人はにっこり笑ってくれた。
私は聞く。あなたは誰?

『そうねぇ・・・私はあなたのお姉さんかな?』

お姉さん?

『そう、お姉さんよ』

名前は?

『私の名前は・・・XXXよ・・・』

なに?聞こえない!
だから私は切実に外の世界に出たいと思った。

・・・・・・思い出す、あの頃の夢
どうしてだろう?
それはルリ姉さんに来た一本の通信で明らかになった・・・



Yナデシコ・訓練施設


アキ「えっと、敵との攻撃も段々激しさを増してきたのでそろそろ全員のレベルアップのために特訓を行いと思います」

それは戦闘終了後の彼女の言葉から始まった。

リョーコ「レベル?」
アキト「アップ?」
イズミ「ボトルに貼るもの・・・」
ヒカル「そりゃラベル」
イズミ「CDのブランド・・・」
ヒカル「そりゃレーベル」
イズミ「ククク・・・」
一同「・・・・・(汗)」
アカツキ「にしても今更何を特訓するんだい?
 そりゃ、まだまだ弱っちい奴はいるけど・・・」
アキト「なんだよ。こっちをジロジロ見やがって!
 言いたいことがあればはっきり言えよ!!!」
アカツキ「おや?本当のこと言ってもいいのかい?」
アキト「なんだと!」
アカツキ「勝負なら受けて立つよ」
リョーコ「止めろよ、おい・・・」
ヒカル「やれやれ♪」

と、ちょっとしたことでも騒ぎになりだす面々。
だが、アキが一括する!

アキ「止めなさい!このドングリの背比べ野郎どもが!」
アキト&アカツキ「・・・・はい」
ヒカル「でも特訓って何をするんですか?」
アキ「みんなの能力の平均化よ」
一同「平均化?」

驚くみんなにアキはゆっくりと説明しだした。

アキ「今まで比較的あなた達の得意分野に応じて陣形を組んできた。
 でもこれからは誰でもどんな陣形を組めるように得手不得手をなくしていく訓練に切り替えるの」
アカツキ「なんでまた・・・」
アキ「それはね・・・」

アキの説明した内容とはつまりこうだ。
今は格闘戦が得意なリョーコとアキトがフォワードに
中間で短距離射撃などをバランスよく行うのがヒカルにアカツキ
少し下がって砲撃戦を行うのがイズミ
そしてリベロ的に戦場を引っかき回すのがアキというフォーメーションが基本になっている。
これは個人の適性を考えてのことだが、これを止めて誰もが前衛に回れたり後衛に回れたりしようと言うのだ。

ヒカル「でもそんな苦手なことを伸ばすよりも得意なことを伸ばした方が時間的にも戦力的にもいいんじゃないんですか?」
アキ「これからは戦闘が激化するはず。当然被弾して戦場から撤退を余儀なくされる機体が続出するはずよ。そういう時に決まったメンバーしかそのポジションに入れないというのはその後の戦術性を著しく損なうわ」
ヒカル「あ・・・」

今まではほとんど誰も戦闘の途中でリタイアしなかったので気づかなかったが、今後はそういう危険性を考慮していかなければならない。
よく漫画とかで特殊チームが格闘戦なら格闘戦、砲撃戦なら砲撃戦などスペシャリストで編成されていたりするけど、あれは漫画としてキャラクターに個性を持たせるためのフィクションであって、本当の特殊チームは違う。
彼らは常にまんべんなくスキルを身につけさせられる。
得手だろうが不得手だろうがだ。
そういった者だけが特殊チームに配属される。

アキ「確かに全てを満遍なくレベルアップした結果、中途半端になるのは本末転倒よ?
 でもあなた達はそろそろそれを越えていかなければいけない」
リョーコ「ちなみにどのぐらい?」
アキ「そうねぇ・・・現状あなた達の得意分野を10とするとそれ以外の能力は2か3ぐらいの力ね。」
リョーコ「あ・・・そんなに低いのか・・・」
アキ「出来れば得意分野が10、それ以外は8ぐらいが理想ね」
アカツキ「僕は比較的平均的だと思うよ」
アキ「そうね。オール5じゃなければ胸を張っても良いわね」
アカツキ「うぐぅ・・・」
アキ「実際、アカツキ君はリョーコちゃんやアキト君にツボにハマられると途端に弱くなる。でも上手くペースにのせなければそこそこ強いわ。
 だからそれをなくすにはどうすればいいか。
 全体的な能力アップをすればいいの。
 一番手強いのはどれも満遍なく上手い相手よ」
リョーコ「ちなみに隊長はあたし達の得手が10だとするとどのぐらいなんですか?」
アキ「さて、どのぐらいかは身を持って体験する?」

ニッコリと笑うアキに対して一同はそんなもの身を持って体験したくないと切実に思うのであった。

アキ「はいはい、ペアを組んで。
 アキト君とリョーコちゃんは射撃を
 ヒカルちゃんとイズミちゃんは格闘戦を
 アカツキ君は・・・・」
アカツキ「アキさんと乱取り♪」
アキ「とりあえず筋トレしてて♪」
アカツキ「しゅん・・・」
アキ「じゃ、二人一組で型の確認ね。
 最初はゆっくりとやって。確実に一つ一つ動作を繰り返すの。
 もう一人が相手の動きをチェックしてね」
アキト「でも苦手な者同士組んで大丈夫なんですか?」
アキ「実力が違いすぎる者同士がやっても逆効果よ。
 悪いところがあったらその場で指摘すること!」
一同「はい!」

全員が早速訓練に取りかかるとアキは自分の訓練をしようとする。
だが、脇目に入ったカレンダーを見てふと思い出した。

『そうか・・・もうそんな時期なんだ・・・』
アキは今日が何の日か改めて思い出した・・・。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第18話 私の色は「風の色」<LAPIS SIDE>



Yナデシコ・食堂


その日、ナデシコは騒然としていた。
なぜならピースランドからの火急の使者・・・というのがやってくるかららしい。

「ピースランド発行の宝くじにあたったのかな!?」
「お前の宝くじ、それ去年の・・・しかもハズレくじだろ・・・」
「実は俺の親父が大富豪の親友とかで遺言で俺に財産を譲ってくれるとか・・・」
「小公女じゃねぇんだから・・・っていうかお前んち下町だろうが」
「マルサ?」
「脱税するほどの金もないくせに。」
「っていうかなんで銀行がマルサに乗り込んで来るんだよ」

などなど、噂と憶測が飛び交う中、どうやらルリがそのターゲットだというのがわかりだした。

そんな中、ラピスは物憂げにチョコパフェを弄り倒していた。

アキ「どうしたの?ラピスちゃん」
ラピス「何でもない」

何でもなくはないのだが・・・
突然夢に見だしたあの頃の事を思い出してラピスは感情を持て余した。

お姉さん・・・ラピスと同じ髪の色と金色の瞳を持った少女
年の頃はどのぐらいだろう?
あの頃、ちょうど今のルリと同じぐらいの年格好だったから今は16歳ぐらいか
優しくしてくれた覚えがある
いつからだったかいなくなってしまったが、彼女は風の色を見つけに行ったのだろうか?

そしてなぜか会いたくなった。
なぜなのかわからない。
でも会いたくなった・・・

そんな時だった。

「おい、ルリちゃんの本当の両親が見つかったって!!!」
「うそ!?」
「それが聞いて驚け!ピースランドの国王夫妻だって!!!」
「ええ!?」

誰かが食堂に駆け込んできてそう叫んだ。

ラピス「両親?ってなに?」
アキ「親、自分を生んでくれた人、育ててくれた人・・・」
ラピス「人間って人間から生まれるの?」
アキ「そうよ。」
ラピス「人間はキャベツから生まれるって思ってた」
アキ「あははは・・・」
ラピス「・・・でもお姉さんがいた」
アキ「お姉さん?」
ラピス「うん。名前が思い出せないんだけど・・・」
アキ「そのお姉さんはどこでどうしているか知っている?」
ラピス「知らない。いつの間にかいなくなったから・・・」
アキ「会いたい?」
ラピス「うん」

そう頷くとアキは黙ってうつむいた。
どこか調子が悪いの?と聞いたが彼女は弱々しく笑って、何でもないと答えた。



Yナデシコ・アキの自室


今日はラピスのお泊まりの日だった。
ベットの中ですやすや眠るラピスを優しく撫でるアキ。

だがラピスは時折うわごとのように呟く

「ルリ姉さん、いいなぁ・・・
 私もお姉さんに・・・」

アキは悲しい顔をする。
この子は悲しい現実を受け止めることが出来るのだろうか?
死というモノがなんなのか、その喪失感がどれだけ辛いモノなのかわかるのだろうか?
出来れば知らせずにおきたい。
死がなんなのか、自分の生い立ちがどれだけ悲しいモノなのか
知らずに済むなら知らせずにいたかった。

だけど・・・
いつかは向かい合う必要がある。
いつかは知る必要がある。
この世界に自分がどれだけいられるかわからないけど
この世界を去った後、誰が彼女を庇護するか知らないけれど
彼女が元の歴史通り、北辰達に拉致されるかどうかわからないけど

モラトリアムがあるならあって欲しい・・・
でも会いたいというなら会わせた方がいいのか・・・

そう思い悩むアキであった・・・。



リリスと呼ばれた少女の物語


私はリリス
ネルガルの研究所で生まれた。
プロジェクト・イブの雛形である。

プロジェクト・アダムが遺伝子操作により身体機能を高め機動兵器への適性を高める。
プロジェクト・イブが遺伝子操作により情報処理技術を高め、次世代コンピュータへの適性を高める

その為に生み出された。

私はその唯一の成功例
プロジェクト・アダムは結局失敗に終わり、プロジェクト・イブの研究成果を反映させるだけに留まった。試験体は同研究員の家庭にてなるべく自然環境によって育てられることとなった。

だが、私は成功例とはいっても失敗作だ。

なぜなら私の名前はリリス。
イブではない。
アダムの伴侶はイブ
リリスは最初の妻だが添い遂げることは出来ない。
つまりはプロジェクト・イブには不適合だったという事だ。

イブは結局外部から購入されることとなる。
戸籍名「RURI」
ホシノ夫妻に預けられ、こちらも家庭環境にて育てられることとなった。
だが、結局プロジェクト・イブの名前も伏せられた。
自力でイブを作れなかったためだ。
でも研究員達は「私」の改良を引き続き行うらしい。
私を「イブ」にするために
「RURI」を越えるために・・・

だがそれも苦ではない。
私はまだマシだ。
生きて外の空気を吸えるのだから。
私はまだ生きているから。
でも途中で発育不全に陥った者もいる。
外に出れずに壊死した者もいる。

そう、たとえば私の姉・・・
いえ、もう一人の私

たとえばモルモットは同じ遺伝子を持つ個体が望ましい
投薬、遺伝子操作など個体が変わると反応が変わり、データとして不適合だから。
禁止されているクローン技術が使われている。
既に私が何人目かわからない。
遺伝子操作は臨床実験の繰り返しだ。
試して効果のあるものだけが次の「私」に適用される。
そして失敗作に名前はない
完成品にだけ名前がある
私に初めて名前が与えられた。リリスという名前が。
だから「私」が何人いたのかはわからない

少なくとも一人の姉がいたことだけは確かだ。
でも寂しくはない。
私はそうやって死んでいった彼女達の意志を受け継いでいる。
魂を受け継いでいる。
彼女もそうして私に優しくしてくれたから。
彼女がその前の「私」からそうしてもらったように
そして私には妹がいる。
彼女は養液の中

早く大きくなりなさい
外に出て風を感じられるように
そして「RURI」を越えてイブと名乗れるように
それまでは彼女と同じ名前「ラピス・ラズリ」と呼んであげましょう
彼女に近づけるように・・・
いえ、せめて生まれてこられるように・・・
願いを込めてそう呼びましょう・・・

ラピスちゃん、ご機嫌いかが?



Yナデシコ・格納庫


ユリカ「で、里帰りするのは良いけどさぁ・・・」
アキト「なんで俺が一緒に行くの?」
ルリ「姫の護衛には騎士(ナイト)がつきものだとオモイカネで調べました」

ウインドウに中世のお姫様とその従者である騎士のイラストを浮かべるルリ
・・・物知りな割りに知識が偏っているところがルリらしい
実際、ルリの服装は彼女の持ち物の中で一番余所行きのしかもお姫様チックなドレスであったから。

彼らの後ろでは空戦フレームへのアサルトピットの換装と持てるだけのバッテリが用意されていた。
だが、ユリカはやはりアキトがルリの護衛に着くのが嫌らしい(笑)

とはいえ・・・

プロス「何せ相手は小国とはいえ、国王からの要請ですし、単身で放り出すわけにも行きますまい」
ユリカ「なら別にアキトじゃなくてもアカツキさんでもリョーコさんでも・・・」
プロス「ご本人のリクエストですから♪」
ユリカ「だからそれが嫌なんだって・・・」
プロス「そんなこと言われますと、ルリさんはピースランドに居着いたまま・・・ということも考えられますが」
ユリカ「うぐぅ・・・」
プロス「テンカワさんが着いていけば向こうに居着くということもないでしょう♪」
ユリカ「う・・・」

正論に屈するユリカであった(笑)

と、そこにアキとラピスがやってきた。アキはアキトに近寄って声をかける。

アキ「アキト君」
アキト「なんッスか?」
アキ「小指だして」
アキト「???」

アキトは言われるがままに小指を出す。
するとアキはするすると小指に紙縒を巻いた。

アキト「何ですか?これ」
アキ「封印♪」
アキト「封印?」
アキ「そう、向こうでケンカをしてはいけません」
アキト「ケンカ・・・ですか?」
アキ「特訓で力を付けてきているけど、まだまだ半人前だからね。
 生兵法は怪我の元・・・っていうこと」
アキト「でも・・・」
ルリ「アキトさんは私の騎士です。いざとなったら颯爽と助けていただかないと・・・」
アキ「約束したわよね。憎しみのために使わない・・・って」
アキト「・・・・はい」
アキ「『力を使わない』という選択肢を知らない暴力は憎しみしか生まない。
 『力を使わない』ということもまた強さだということを学んでおいで」

アキトはにっこり笑うアキに小指の封印を誓わされた。

ルリ「あの・・・お姫様ダッコして下さい(赤)」
アキト「でも・・・」
ユリカ「アキトぉ・・・・」
ルリ「ラピスはアキさんにやってもらいました!」
アキト「アキさん〜〜」
アキ「お姫様をエスコートするのはナイトの栄誉。
 やってあげれば?」
アキト「・・・・・・・はい」

アキトとルリはお互い照れながら空戦フレームに乗り込んだ。
それを見てユリカがハンカチをくわえながら悔しがったのは言うまでもなかった。

アキト達を見送った後、ラピスがポツリと言った。

ラピス「いいなぁ、ルリ。父や母に会いに行けて・・・」
アキ「・・・ラピスちゃんも会いたい?」
ラピス「うん、お姉さんに会いたい」
アキ「そうだね。ちょうど命日だし会いに行くか・・・」
ラピス「命日?」
アキ「行こうか、ラピスちゃんのお姉さんに会いに・・・」
ラピス「行く♪」

そうと決まるとアキはユリカにお願いした。
ラピスと自分の外出願いを。
そしてウリバタケにはPODに空戦フレーム用のバックパックを付けてくれるよう頼んだ・・・。



Yナデシコ・アキ自室


ラピス「アキ、着替え終わったよ♪」
ミナト「ラピスちゃん、ちょっと、はしゃがないの!
 せっかくのドレスが皺になるじゃないの!」
ラピスは元気よくアキの部屋に入ってくるのをミナトは何とか捕まえようとするが、お出かけとお姉さんに会いに行くのに浮かれていたラピスはそんなことお構いなしだった。

テテテテテ・・・・
コテ!!!

ラピス「い、痛い・・・」
ミナト「ほら、言わんこっちゃない。
 ほらほら、出かける前に汚しちゃダメでしょ」
ラピス「ごめんなさい・・・」

起こしてもらって衣服の乱れを直してもらうラピス
すると奥からアキの声が聞こえる。

アキ「済みません、ミナトさん。
 着替えどころか、ドレスの丈合わせまでしてもらって。
 今度スペシャル定食おごりますから」
ミナト「いや、それは別にお安いご用なんだけど・・・
 本当にこの服で良かったの?」
アキ「ええ」

アキはそう言うがミナトは首を傾げた。
ラピスに似合う服を選んでくれ・・・それはいい。
でも問題はその服装だ。

黒いドレス
真っ黒で飾り物を全て取っ払い、付けたアクセサリーも黒水晶だ。
これはまるで・・・

喪服じゃないの・・・

ミナトはアキに疑問をぶつけようとした。
だが、彼女はその疑問をぶつけられなかった。
その必要がなくなったのだ。

それはアキの姿を見れば一目瞭然だったから。
奥から出てきたアキの姿がそれを裏付けたのだ。

バサァ・・・・・

ミナトとそしてラピスはその姿に息を呑む。
美しいまでに冷たい・・・凍るような出で立ち・・・

アキである。
だが普段の姿とは異なっていた。
全身を黒いインナースーツで包み、手に持ったマントを身に羽織る。
マントを羽織る姿も優雅でいて・・・悲しい。
そのマントも当然漆黒である。
そして普段しているバイザーが彼女をさらに闇の色に染める。

誰かが言った。
彼女を「Princess of Darkness」、闇の姫だと・・・
その感想は間違いではないと思い知らされた。

「・・・・アキ?」
ラピスも目をパチクリさせる。
いつかどこかで見たことがある。
デジャビュを感じた。
それは少し前のことだったような気がするが思い出せない。
確かどこかで・・・

『黄昏はやがて訪れる・・・』

その言葉が頭に響く。
でもその続きがどうしても思い出せなかった。

ミナト「アキさん、その格好・・・」
アキ「ええ、まぁ・・・」
ミナトの質問にアキは言葉を濁す。それが彼女の考えを肯定していた。

ミナト「ラピスちゃん、どこへ行くか知っているの?」
アキ「追々教えます」
ミナト「そう・・・」
アキ「ラピスちゃん、おいで」
ラピス「うん♪」

テテテとやってきたラピスを自らのマントに包んでやるアキ

もしその光景を未来の人が見たら見紛うだろう。
闇の王子と呼ばれたあの男と、そのパートナーの姿に・・・
そしてどこかもの悲しい姿に・・・

だが、ラピスと手を繋いで退出するアキの姿を見ていたミナトがそんなことを知る由もなかった・・・



北欧上空


空戦フレーム用のバインダーを背中に付け、両手一杯のバッテリーを持ったPODは北欧上空を飛行していた。
ルリ達と目的地が同じなのは偶然ではない。
ここが気候が穏やかで、大気汚染がない数少ない場所だからだ。
脆弱になりがちな遺伝子操作をした子供達を育てるのに打ってつけな場所なのである。

コックピットの中でお姫様ダッコされたラピスは何も知らないようにこれから行く場所に期待を込めていた。

ラピス「ねぇ、アキ、これからお姉さんの所に行くんだよね?」
アキ「そうよ」
ラピス「楽しみだな♪どんな場所なの?」
アキ「いいところよ。
 風が気持ちいいぐらいに吹いていて、一面お花畑なのよ」
ラピス「楽しみだな♪」

ラピスは期待に胸を膨らませていた。
だがアキは物思いに耽っていた。




あれはこの時代に初めて来た時のことだ。



最初にしたことはその少女を捜すこと
名もない少女
わかっていたことだが、結局その少女の行方はアキにもわからなかった。
ただ破棄されたという記録だけが残っていた。
見つけた研究所にはラピスしかいなかった。
彼女の姿はどこにもなかった。
だから私はせめて墓標だけでもと思い、風の吹く丘の上に墓標を築いた。
名も刻めぬ墓標ではあったが、その少女の魂が行き場もなく彷徨っているのなら、安心して眠れるように願って・・・

その少女の事を知ったのはまだ闇の王子の頃
囚われたユリカを救うために火星の後継者達のラボを襲っていたときだ。
たまたま一つのラボで見つけたのが一人のマシンチャイルド
恐怖のあまり、自分の名前すら忘れてしまっていた少女
だから闇の王子はその子をラピス・ラズリと呼んだ。
置き去りにしてきた義娘の代替として・・・

闇の王子は少女に自分の復讐の片棒を担がせることに負い目を感じた。
だから彼女にだけは精一杯の事をしようと思った。
彼女のことを調べ始めた。
いつか彼女が全てを取り戻せるように・・・

彼女のことを調べていく内に、彼女の姉の存在に気づいた。
名もなき少女
不適合者
ラピスのプロトタイプ、彼女のクローンあるいはオリジナル
だがその脆弱なるが故にカプセルから出て数ヶ月しか生きられない体であったことを知った。

記録にはこう書いてあった。

最後の数ヶ月、
残りの時間を告げられたとき、彼女は風を感じ、妹ラピスの世話をしたいと自らカプセルを出たらしい

そして・・・

その後のことは記録になかった。
どうなったかは想像に難くなかった。

だからこの時代に来たとき、私は彼女の墓標を立てた。
たとえ刻む名のない墓標だとしても・・・



リリスと呼ばれた少女の物語


外へ出たかった
風の匂いを感じたかった。

それはたゆたいし頃からの夢
シリンダーの中から眺める外の世界は有限だ
灰色の壁しか見えない
でも姉さんはその外に世界があると言っていた。
気持ち良い風が吹き、
白い雲が浮かび、
どこまでもどこまでも続く青い空があると言っていた。

その彼方へ行ってみたいと思った。

でも外の世界は悲しいこともいっぱいあると姉さんは言った。
危険も一杯だと言っていた。
私達が生きるには酷く儚い所であるという事も・・・

でも私は思う
シリンダーの中で
培養液の中では私は生かされるだけだ。
誰かの作った物語をなぞるだけ
自分の物語は決して紡げない
与えられるだけの存在
決められた未来
希望も何もない
そんなことを感じる必要すらない存在

そんなのは嫌だったから
姉さんと同じように与える存在になりたいから

だから姉さんが目指したように私も外へ出たいと思った。
風の匂いを感じられるように
たとえ道半ばで命尽きるとも・・・



丘の近くの小さな町


二人はその丘のすぐ近くにある町に到着した。
エステはとあるところに隠し、町中を歩く。
どこに行くんだろう?と思いながらラピスはアキに付いていく。
アキはある店を探して歩いていた。

・・・花屋だ。
アキは迷わずその店の軒先を跨いだ。

アキ「御免下さい・・・」
店員「はい、いらっしゃいませ〜」
アキ「ひとつ包んで下さいますか?」
店員「・・・はい、わかりました」
ラピス「アキ、お花買うの?」
アキ「そうだよ・・・」

ラピスの疑問にアキはそう答える。
すると店員は何も聞かずに適当な花を見繕い始めた。

ラピス「あれ?お花の注文もしていないのに・・・」
アキ「店員さんは私が何の花を欲しいかわかっているのよ」
ラピス「・・・店員さんってテレパシーあるの?」
アキ「いや、ないんだけどね(汗)」

アキは苦笑していたが、なんか店員さんは私達の姿を見て納得したみたい。
たぶんこの姿に秘密があるようだ。
後でオモイカネに聞いてみよう・・・

店員さんは白い菊の花束を包んでくれた。

ラピス「菊?」
アキ「そうだけど、嫌い?」
ラピス「嫌いじゃないけど・・・」

もっとこう鮮やかなのが良いとラピスは思ったが、アキはこれで良いんだよと笑って答えた。
それが少しもの悲しい表情だったから、ラピスはそれ以上聞かなかった。



丘に続く参道


「うわぁぁぁぁぁぁぁ♪」
ラピスはその光景を見てはしゃぐ。
そこは一面奇麗なお花畑
どこまでもどこまでも続くお花畑であった。

「わーーーーーい♪」
ラピスは嬉しくてお花畑の中を走り回る。

アキ「そんなに走ったら危ないよ・・・」
ラピス「大丈夫・・・・」
アキに手を振りながら元気に走り回るラピス。
心配するアキに手を振りながら答えるラピスであったが・・・

ベシ!!!

案の定、転けたようだ(笑)

ラピス「びえぇぇぇぇ〜〜」
アキ「まったく、ほら立って。泣かないの
 お姉さんに会うんでしょ?
 そんな泣きベソの顔を見せたいの?」
ラピス「わかった・・・」

アキはラピスの服に付いた土を払ってやると、左手に持ったバスケットをラピスに渡す。

アキ「罰としてバスケットを持つこと。
 これを持ってはしゃいじゃダメよ」
ラピス「何?これ」
アキ「お供え物と私達の昼食」
ラピス「お供え物?」
アキ「終わったらお花畑でピクニックしようね」
ラピス「うん」

ラピスは嬉しそうにバスケットを持つ。
でもアキはもう片方の手には水を張った水桶を持っていた。
ラピスはそれがなんなのかな?と思いながらもお姉さんに会える嬉しさとピクニック気分でルンルンだった。

だがアキの表情は硬かった。
彼女はいつ本当のことをラピスに話そうかと悩んでいた。
いつかは言わねばなるまい。
でも笑顔で一杯の彼女にそれを告げることは・・・

それが彼女を躊躇させていた。

長く続く小高い丘への道

「アキ、早く早く♪」
ラピスが道を我先にと歩き、アキにこっちこっちと手を振った。

結局、アキは丘に着くまでに真実を告げることが出来なかった・・・



丘の上の墓標


ようやく丘の頂上に到着する二人。

アキ「そら、着いた」
ラピス「・・・あれ、なに?」

ラピスが指さした先には少し大きい木とそしてその下に白い墓標があった。
だが、ラピスはそれが何なのかわかっていないようだ。

アキ「あれがお姉さんが眠っている所よ」
ラピス「お姉さんが・・・眠っている?」
ラピスは訝しがる。

そしてテテテと墓標に近づくと辺りを見回し始めた。

ラピス「入り口なんかないよ?」
アキ「入り口って・・・(汗)」
ラピスはアキの言葉を、どうもこの下に家でもあってそこで眠っていると思ったらしい。

さてどう説明しようと迷いながらアキも墓標に近づく。

アキ「これはね・・・・」

そう言って説明しようとしたアキだが・・・

「え!?」
カタン!!!!

ふと目にした墓標に刻まれた文字に驚いた。
そして驚きのあまり手にしていた水桶を落としてしまった。

ラピス「アキ、大丈夫?べちゃべちゃ」
アキ「ああ、ごめんなさい。
 水汲んでこなきゃいけないわね。」
ラピス「水道水道・・・」

きょろきょろ辺りを見回すラピスだが、残念ながらそれらしいものはない
アキは慌てて水桶を拾うと来た道を引き返そうとした。

アキ「残念だけどこの近くにはないわ。
 麓まで降りないと・・・」
ラピス「え?また町まで戻るの?」
アキ「私だけで行って来るから、ラピスちゃんは大人しく待ってて」
ラピス「私も一緒に行く」
アキ「でも往復したら足が痛くなるよ?
 大丈夫。すぐ戻ってくるからね」
ラピス「・・・わかった」
アキ「待っている間、お祈りしていて」
ラピス「お祈り?」
アキ「そうよ。手を合わせるの」
ラピス「何にお祈りするの?」
アキ「お姉さんに会えますように・・・って」
ラピス「わかった」

ラピスを説得するとアキは来た道を引き返した。
彼女もまだ真実を話す決心が付いていないようだった。
これ幸いにと時間稼ぎをしようとした。

でも・・・・
水桶を落とすほど何を驚いたかって?
そりゃ誰だって驚くだろう。
刻む名もない少女の墓標を建てたのは誰あろう自分だ。
なのにそこに自分も知らない少女の名前『リリス』と刻まれていれば!

アキは訝しがりながらも、とりあえず水を汲んでくることにした。

アキが見えなくなった頃、ラピスはアキに言われたようにお祈りしてみることにした。
彼女に言われたようにお姉さんに会えますように。

『ラピスちゃん、ご機嫌はいかが?』

あの優しいお姉さんに会えますように!

そう精一杯願いを込めてお祈りした。

その願いは通じたのだろうか・・・

一陣の風が吹く!

ラピスは思わず目を瞑る。
だが、風に流されたのか、花びらと共に不思議な香りがした。
背後に不思議な気配がした。
予感がした
とっても良い予感だ。

ラピスは思わず振り向いた。

そこには一人の少女が立っていた。
彼女は同じく黒い服を着ていた。
そしてその髪はラピスと同じ薄紅色
その瞳は金色
白い素肌、整った顔立ち、細い体

記憶の中の彼女を少し大きくした姿

だからラピスにはわかった
彼女が誰なのか・・・

ラピス「お姉さん?」
少女「大きくなりましたね、ラピス」
ラピス「お姉さんでしょ?そうでしょ?
 会いたかったの!」
少女「私もよ・・・」

少女はラピスに微笑みかけた。
ラピスの記憶にある優しい笑顔で・・・



しばし後、丘の上の墓標


少女とラピスは墓標の前で静かに手を合わせていた。
いや少女が手を合わせて祈っているのを見て、ラピスがそれを真似ていると言った方がわかりやすいかもしれない。

ラピスも質問はいっぱいあったが、少女が無言で墓標に近づき、そして祈り始めたので邪魔しないように少女に習ったのだ。

しばし黙祷する二人・・・

だが、ラピスは薄目を開けてはチラリチラリと少女の方を盗み見た。
だからかもしれない。
少女は少し早めにお祈りを切り上げたようだった。

少女「ラピス」
ラピス「はい♪」
少女「あなたは今、幸せですか?」
ラピス「うん、幸せ♪」
少女「大切な人は見つかりましたか?」
ラピス「うん、いっぱい見つかった!
 アキでしょ?
 ルリ姉さんでしょ?
 オモイカネでしょ?
 アキトでしょ?
 ユリカでしょ?
 ミナトに、メグミに、ホウメイに、
 それからそれから・・・」

ラピスは姉から言葉をかけられて嬉しかったのか必死に答えようとしていた。
その光景を見て少女は嬉しそうに目を細めていた。
だから余計にラピスは張り切った。

ラピス「それから、それから・・・」
少女「良かったですね」
少女はニッコリと笑う
ラピス「お姉さんも幸せ?」
少女「幸せよ」
ラピス「本当に?」
少女「本当です。大切な人がそばにいてくれます」
ラピス「そうか・・・幸せなんだ・・・」

でもラピスはちょっぴり不安になった。
せっかく逢えたのに、どこかに行ってしまいそうなそんな笑顔・・・

ラピス「じゃ私と会えて嬉しい?」
少女「ええ」
ラピス「じゃ、私達はこれから一緒にいられる?」
少女「それは・・・」
ラピス「ねぇねぇラピスと一緒に暮らせないの?」
少女「・・・ダメですよ」
ラピス「どうして?」

少女は首を振って否定する。
いきなり泣きそうになるラピスだが必死に食い下がった。

少女「あなたには大事な人がいると言いましたね?」
ラピス「言ったよ」
少女「私と行くということはその人達と離れるということ。
 ここではない、どこか遠い遠い場所に行くということ」
ラピス「・・・遠くてもいい」
少女「帰って来れませんよ?」
ラピス「帰って来れないの?」
少女「そうです。
 電車でも飛行機でもダメ。
 エステでもナデシコでもダメです」
ラピス「・・・電話とかもダメ?」
少女「ダメです。手紙も届きません。
 そんなところです・・・
 それでも来たいですか?」
ラピス「・・・」

そう言われるとラピスもさすがに悩む。
だが、別の妙案を思い浮かんだ。

ラピス「そうだ、お姉さんがナデシコに来ない?
 みんないい人達ばかり・・・」
少女「ダメですよ」
ラピス「なぜ!?」
少女「私も私の大切な人達のそばを離れることが出来ません。
 あなたがあなたの大切な人達のそばから離れられないのと同じようにね」
ラピス「あ・・・」

ラピスがアキ達と離れがたいように彼女もその大切な人達と離れがたいのだ・・・
それがわかったからラピスは口を噤まざるを得なかった。

落ち込むラピス

だが、少女は彼女の顔をのぞき込んでこう言った。

少女「でもここでなら逢えます。」
ラピス「・・・ここで?」
少女「そう、来年の今日。再来年の今日
 その次の年の今日も、その次の年の今日も
 私はここに来ます。
 たとえそのときラピスに私の姿が見えなかったとしても、私はここに来て祈るラピスの姿を見守ります。
 だから・・・ね?」

その言葉にラピスはパッと明るくなった。
そして力一杯、少女に約束する。

ラピス「私、約束する!
 来年も来る、再来年も来る!
 絶対来る!
 絶対来てお祈りする
 お姉さんに会えますようにって!!!
 だからお姉さんも約束して!」
少女「ええ、約束します。」

ラピスは小指を差し出す。
少女はその小指に自分の小指を絡めた。
それは固い約束であった。

少女「じゃ、私はこれで・・・」
ラピス「もう、帰っちゃうの!?」
少女「ええ、時間ですから」

ラピスは少しがっかりする。
でも来年もまた逢えるのだ。
我慢しなくては。
だが、ラピスは何か聞こうと思っていたことを忘れている気がしていた。
そしてようやく思い出した。

ラピス「そうだ!
 お名前を教えて下さい!」
少女「・・・名前?」
ラピス「そう、お姉さんの名前、どうしても思い出せなかったの。
 だから名前を教えて下さい」

ラピスは必死にお願いする。
すると少女は少し寂しげにこう答えた。

少女「私の名前はリリスよ・・・」
ラピス「リリス姉さん・・・・」
そう答えると少女は振り向いてその場を離れようとした。

待って!

ラピスは引き留めようとした。

だが・・・・

ヒューーーー

一陣の風が吹き、ラピスは思わず目を瞑る。
するとさっきまで少女がいた場所には誰もいなかった。

そしてその少し先の場所に目を見開いて驚いているアキの姿があった。
ラピスは大慌てでアキに近寄り必死に訴えた。

ラピス「ねぇ、アキ!
 今お姉さんに会ったの!
 元気にしていたかって!
 幸せかって!
 頭を撫でてくれたの!
 本当にお姉さんに会えたの!
 嬉しい♪とっても嬉しい♪
 凄いでしょ?ねぇ、ねぇ」
アキ「・・・そうだね♪」
ラピスが上気して話すのをアキは笑って頷いた。

だが・・・

ポタリ

アキ「ありがとう・・・」
ラピス「どうしたの?アキ、泣いているの?」
アキ「ううん、そんなことないよ」
ラピス「どっか具合が悪いの?」
アキ「大丈夫よ、大丈・・・」

アキは感謝をした。
その少女の心遣いに
アキにはその少女が誰だったか一目でわかった。

だからこそ・・・
何も言い出せなかった自分の代わりに辛い思いを味わわせた事を悔いて・・・
そして彼女の心情を思って・・・泣いた。



丘が見える木の下


そこは墓標のある丘を一瞥できる別の丘の木の下。
その少女はそこに帰ってきた。
木の下で出迎えたのは二人の女性である。

「ただいま」
「ご苦労様、辛かったでしょ?」
「ううん」
「そんなことないでしょ!名前を偽ってあの子のお姉さんのフリをして・・・」
「名前は偽っていない。私は本当にリリスと呼ばれていたの。
 でもリリスという名前は・・・研究所の人達が付けた名前
 私が最後の『リリス』だから・・・」

木の陰から現れたSnow WhiteとBlue Fairy
出迎えた二人のねぎらいに「Pink Fairy」はそう言っていつものぶっきらぼうな笑みを見せた。

いつからだろう
お姉さんと同じ容姿に育ったのは・・・
いやあの頃のお姉さんの年を追い越してしまったのは・・・
そう、私はリリスと呼ばれた女、そしてお姉さんだけがラピス・ラズリと呼んでくれた。
だから私も妹をラピスと呼ぼうと思った。
だけど・・・

Pink Fairy「結局、私の妹は大きくなる前に死んでしまった。
 北辰達に襲われたときに。
 だから私が『リリス』
 最後の『リリス』なの・・・」
Blue Fairy「Pink Fairy・・・いえ、ラピス・・・
 あの・・・あなたはあなたです。
 リリスなんて他人のエゴで生まれてきた存在じゃないですよ」
Pink Fairy「大丈夫、私にはアキトが付けてくれた名前があるから・・・
 私にはお姉さんが付けてくれた名前があるから・・・
 ラピス・ラズリって名前があるから。
 だからリリスという名前はお姉さんにあげるの。
 お姉さんは失敗作じゃない。
 だからお姉さんがリリスなの・・・」

そう、私はリリスにもなれなかった女
結局イブには勝てず、ナデシコAはおろかナデシコBにも乗れなかった。
そして・・・次の「私」を育てられなかった女・・・
私にリリスを名乗る資格はない。
だからリリスはお姉さんが名乗る方がいい
その方がいい

でも奇妙な偶然だ。
北辰に襲われ、恐怖のあまり名前すら忘れた私にアキトは名前を付けてくれた。
それはお姉さんが付けてくれた名前と同じ
ラピス・ラズリと・・・
二人はまったく見知らぬ同士なのに・・・
いや、理由はあるかもしれない
それは私がルリ姉さんの合わせ鏡だからかもしれないから
共にホシノ・ルリに囚われた者同士だったからかもしれなかったから・・・

Blue Fairy「ゴメンね、私のせいで辛い思いをしたよね」
Pink Fairy「姉さんは関係ない。」
Blue Fairy「でも私がいなければあなたがナデシコに・・・
 あなたがイブになれたのに・・・」

Blue Fairyは心を痛めた。
知らぬ事とはいえ、
彼女は自分と比べられて辛かったであろう。
もちろん自分が悪いわけではない
でも彼女に比べれば自分は恵まれている。
それなのに自分はその境遇に甘えて不満に思っていた。
彼女はこんなに辛い思いをしていたのに甘えていたのだ。

でもそんなことを比べる方がおかしいと彼女は言う。

Pink Fairy「でも私はアキトに会えた。
 アキトは私に名前をくれた。
 自分の名前も忘れた私にラピス・ラズリという名前をくれた。
 お姉さんが付けてくれたのと同じ名前を・・・
 そして私には新しいお姉さんが出来た。
 頼りないのと恋愛下手のが」
Snow White「あ、それどういう意味?プンプン」
Blue Fairy「恋愛下手って・・・私のことですか?」
Pink Fairy「それだけじゃない。
 プンプン威張るのも、恋愛好きなのも出来た。
 間抜けだけど手下が三人出来た」
Snow White「Secretaryさん達はともかく、ヤマダさん達を手下っていうのもどうかと・・・」
Pink Fairy「大丈夫、私には私の大切な人が出来た。
 あの子にもあの子の大切な人が出来た。
 だから・・・」
Blue Fairy「もう何も言わなくてもいいから・・・」
Pink Fairy「だから・・・」
Blue Fairy「もう、泣かないで、Pink Fairy・・・」

彼女は妹を抱きしめる。
Pink Fairyは泣いた。
名も無い亡き姉のことを想って
リリスと呼ばれていた頃の昔の自分を想って
ひょっとしたら自分と同じ道を歩むかもしれないこの時代のもう一人の私の未来を想って

少女は泣いた・・・

Blue Fairy「ラピス・・・」
Snow White「さぁ帰りましょう。我が家(ユーチャリス)へ・・・」
Blue FairyはPink Fairyを抱きしめ、そしてSnow Whiteはその二人を優しく抱きしめた。

そして・・・

彼女達は自らの帰るべき場所へ帰っていった。
その場に淡きボソンのキラメキだけを残して・・・



ナデシコ・格納庫


帰ってきたアキト達を待っていたのは気が気でなかったユリカであった。

ユリカ「アキト〜〜大丈夫?襲われなかった?」
アキト「こら!襲われるって、誰にだよ!!!」
ユリカ「だってだって、狭いコックピットに二人きりだし・・・」
アキト「誰が誰に襲われるっていうんだ!!!」
ユリカ「だって、アキトはあたしみたいな胸の大きな女の子にしか興味がないはずだし、襲われるとしたら・・・」
ルリ「やっぱり帰ってこない方が良かったですか?」
ユリカ「そ、そんなことないわよ、ルリちゃん(汗)」
アキト「バカ・・・・」

と言ったとか言わなかったとか(笑)

でも、同時期にアキとラピスも帰ってきたようだ。
帰ってきたラピスはルンルンであった。

アキト「ラピスちゃん、ご機嫌だね」
ラピス「うん!お姉さんに会えたから♪」
アキト「お姉さん?ラピスちゃんにお姉さんっていたの?」
ラピス「いたの♪」
アキト「・・・良かったね」
ラピス「ありがとう!」

そう言ってラピスは自分の部屋に戻っていった。
遅れてアキがアキトに近づいてきた。

アキ「アキト君、ケンカしなかった?」
アキト「え?(ギク!)」
アキ「しなかった?」
アキト「そ、それは・・・」

しどろもどろになるアキト。
だがアキはニッコリ笑ってアキトの腕を取った。

アキ「ふむ、紙縒は解けてないか・・・
 偉い偉い、ちゃんと守ったみたいね♪」
アキト「えっと・・・この紙縒ってケンカしたら本当に解けるんですか?」
アキ「そうよ。魔法の紙縒なのよ♪
 だから嘘をついても無駄なのよ♪」
アキト「・・・マジですか?」
アキ「さぁ、それはどうでしょう♪」

アキはニッコリ笑う。
ケンカしたら自動的に解ける紙縒なんて・・・ケンカしなくて良かった・・・

ホッと胸を撫で下ろすアキト。

だが・・・

アキト「ラピスちゃんってお姉さんがいたんですね」
アキ「ん?そうよ・・・」
アキト「アキさん?」
アキ「ルリちゃん、すっきりして帰ってきたみたいね」
アキト「ええ、そうですね・・・」
アキ「んじゃ、後で稽古するからいつもの場所でね♪」

そう言うとアキはさっさと去っていった。

アキトは何故か腑に落ちなかった。
ラピスはあんなに機嫌が良かったのに・・・・
なぜかアキの方は悲しげだったのは気のせいだったのか?

でも自分の気のせいな気がして結局その理由を聞けないアキトであった・・・



ポストスプリクト


ということで黒プリ18話をお届けしました。

まず最初に言っておきますが、EVAのパクリではありません(爆)

その昔、ニフティーがパソコン通信だった頃、画像を投稿していた時期がありました。
で、その画像はストーリが付いている奴なのですが、その中の物語の登場人物がモチーフになっています。
もっとも時期的にはちょうどEVAをやっていた頃なので何らかの影響を受けたことは否定しませんが(苦笑)

結局そのお話は完結しなかったわけですが(頭の中ではクライマックスまで出来ています)、それもできればリプライしたいなぁとも思っているわけですが・・・

(えっと例の古いCGの奴です)

さて、そんな四方山話は置くとして、
これはナデシコか?という気もしますが、劇ナデの世界観から見ればありだと思います。
もちろんクローン技術が成功していたかどうかは定かではありませんが、卵子から作り始めていたら意図的に双子とか作れていたはず。
そう考えていくと真面目に遺伝子改良でオペレータを作ろうなんて考えたらこのぐらいはやっているかもしれない・・・などと思ってしまいます。

その上で、ルリサイドの管理人じゃないけど、試験体と言って人の命を弄ぶのは嫌いです。ってこんな作品が書く奴の台詞じゃないけど(爆)

それはそうと、この時代ってクローンみたいなのはアリっぽそうだから
巧殻やアップルシードみたいなサイボーグってのもアリなんだろうか?
ショッカーに改造された改造人間!!!
ってのが出てきたらやっぱり引きますか?(意味不明)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・やりたか 様
・YOH 様