アバン


私達は今日も戦っています
この道が本当に信じた夢かどうかわからないけど
私達は今日も戦っています
たとえそれが人と人との戦いだったとしても

戦い続けるためではなく
戦いを終わらせるために・・・

だけど時折振り返ってみたくもなります
自らの足下を見つめるために
私達はどこから来たのか
私達はどこへ行くのか
そのことを考えるために・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



Attention!!!


本編は<LAPIS SIDE>の内容と重複するところが若干ございますが、なにもコピペミスという訳ではございません(笑)
ですので間違い探し・・・などというモノはご遠慮いただけますようお願いします(冗談)

では、改めまして<RURI SIDE>をお楽しみ下さい



航海日誌ホシノ・ルリ記す


今日も戦闘がありました。
相変わらずYナデシコが連合軍の矢面に立つという体たらくですけど、日常の変わりない光景が続くものとばかり思っていました。

そう、あの通信が来るまでは・・・

前触れは何もありませんでした。
突然来ました。

・・・いえ、そんなことありませんね。
実は予感がありました。
夢に見たんです。

昔々の光景を
天井の換気ダクトとそこから聞こえる川のせせらぎ
そしてピチャピチャと何かが水で跳ねる音

それが私の子守歌でした。
昨日の晩も夜中に目が覚めたときそんな光景を見た気がしました。

だからかもしれません。
どうしても思い出せない、自分の子供の頃のこと
誰から生まれて、どこで育ったのか・・・

それはあの一本の通信が来る予兆だったからかもしれません・・・



Yナデシコ・訓練施設


アキ「えっと、敵との攻撃も段々激しさを増してきたのでそろそろ全員のレベルアップのために特訓を行いと思います」

それは戦闘終了後の彼女の言葉から始まった。

リョーコ「レベル?」
アキト「アップ?」
イズミ「ボトルに貼るもの・・・」
ヒカル「そりゃラベル」
イズミ「CDのブランド・・・」
ヒカル「そりゃレーベル」
イズミ「ククク・・・」
一同「・・・・・(汗)」
アカツキ「にしても今更何を特訓するんだい?
 そりゃ、まだまだ弱っちい奴はいるけど・・・」
アキト「なんだよ。こっちをジロジロ見やがって!
 言いたいことがあればはっきり言えよ!!!」
アカツキ「おや?本当のこと言ってもいいのかい?」
アキト「なんだと!」
アカツキ「勝負なら受けて立つよ」
リョーコ「止めろよ、おい・・・」
ヒカル「やれやれ♪」

と、ちょっとしたことでも騒ぎになりだす面々。
だが、アキが一括する!

アキ「止めなさい!このドングリの背比べ野郎どもが!」
アキト&アカツキ「・・・・はい」
ヒカル「でも特訓って何をするんですか?」
アキ「みんなの能力の平均化よ」
一同「平均化?」

驚くみんなにアキはゆっくりと説明しだした。

アキ「今まで比較的あなた達の得意分野に応じて陣形を組んできた。
 でもこれからは誰でもどんな陣形を組めるように得手不得手をなくしていく訓練に切り替えるの」
アカツキ「なんでまた・・・」
アキ「それはね・・・」

アキの説明した内容とはつまりこうだ。
今は格闘戦が得意なリョーコとアキトがフォワードに
中間で短距離射撃などをバランスよく行うのがヒカルにアカツキ
少し下がって砲撃戦を行うのがイズミ
そしてリベロ的に戦場を引っかき回すのがアキというフォーメーションが基本になっている。
これは個人の適性を考えてのことだが、これを止めて誰もが前衛に回れたり後衛に回れたりしようと言うのだ。

ヒカル「でもそんな苦手なことを伸ばすよりも得意なことを伸ばした方が時間的にも戦力的にもいいんじゃないんですか?」
アキ「これからは戦闘が激化するはず。当然被弾して戦場から撤退を余儀なくされる機体が続出するはずよ。そういう時に決まったメンバーしかそのポジションに入れないというのはその後の戦術性を著しく損なうわ」
ヒカル「あ・・・」

今まではほとんど誰も戦闘の途中でリタイアしなかったので気づかなかったが、今後はそういう危険性を考慮していかなければならない。
よく漫画とかで特殊チームが格闘戦なら格闘戦、砲撃戦なら砲撃戦などスペシャリストで編成されていたりするけど、あれは漫画としてキャラクターに個性を持たせるためのフィクションであって、本当の特殊チームは違う。
彼らは常にまんべんなくスキルを身につけさせられる。
得手だろうが不得手だろうがだ。
そういった者だけが特殊チームに配属される。

アキ「確かに全てを満遍なくレベルアップした結果、中途半端になるのは本末転倒よ?
 でもあなた達はそろそろそれを越えていかなければいけない」
リョーコ「ちなみにどのぐらい?」
アキ「そうねぇ・・・現状あなた達の得意分野を10とするとそれ以外の能力は2か3ぐらいの力ね。」
リョーコ「あ・・・そんなに低いのか・・・」
アキ「出来れば得意分野が10、それ以外は8ぐらいが理想ね」
アカツキ「僕は比較的平均的だと思うよ」
アキ「そうね。オール5じゃなければ胸を張っても良いわね」
アカツキ「うぐぅ・・・」
アキ「実際、アカツキ君はリョーコちゃんやアキト君にツボにハマられると途端に弱くなる。でも上手くペースにのせなければそこそこ強いわ。
 だからそれをなくすにはどうすればいいか。
 全体的な能力アップをすればいいの。
 一番手強いのはどれも満遍なく上手い相手よ」
リョーコ「ちなみに隊長はあたし達の得手が10だとするとどのぐらいなんですか?」
アキ「さて、どのぐらいかは身を持って体験する?」

ニッコリと笑うアキに対して一同はそんなもの身を持って体験したくないと切実に思うのであった。

アキ「はいはい、ペアを組んで。
 アキト君とリョーコちゃんは射撃を
 ヒカルちゃんとイズミちゃんは格闘戦を
 アカツキ君は・・・・」
アカツキ「アキさんと乱取り♪」
アキ「とりあえず筋トレしてて♪」
アカツキ「しゅん・・・」
アキ「じゃ、二人一組で型の確認ね。
 最初はゆっくりとやって。確実に一つ一つ動作を繰り返すの。
 もう一人が相手の動きをチェックしてね」
アキト「でも苦手な者同士組んで大丈夫なんですか?」
アキ「実力が違いすぎる者同士がやっても逆効果よ。
 悪いところがあったらその場で指摘すること!」
一同「はい!」

全員が早速訓練に取りかかるとアキは自分の訓練をしようとする。
だが、脇目に入ったカレンダーを見てふと思い出した。

『そうか・・・もうそんな時期なんだ・・・』
アキは今日が何の日か改めて思い出した・・・。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第18話 私の色は「風の色」<RURI SIDE>



Yナデシコ・ブリッジ


ルリ「オモイカネ、質問」
オモイカネ『その質問はもう132回目です。』
ルリ「いいから答えて」
オモイカネ『何回聞いても答えは同じです』
ルリ「それでもいいから答えて!」

ルリは珍しく声を荒げる。ブリッジに誰もいないのが幸いだ。
仕方がなく、オモイカネは答える。

オモイカネ『ホシノ・ルリ
 ホシノ夫妻の養女としてネルガルの関連研究施設で育てられる。
 近年ではナデシコに搭載の次世代コンピュータ用の教育を受けた後、ネルガルに親権を引き取られ、現在に至る・・・』
ルリ「そんなところはわかっています。もっと前のことを!」
オモイカネ『不明です。
 データロスト、記録なし、情報散逸』
ルリ「やっぱり・・・」

別に両親や故郷が知りたい訳じゃない。
そんなの知らなくても今までやって来れた。
でも・・・思い出の場所がどこかわからないのがたまらなく嫌だった。

と、そんなときである。
その通信が入ったのは・・・



Yナデシコ・後部デッキ


ユリカ「ピースランドからの通信?」
プロス「ええ、何でも火急の用件だそうで」
ルリ「それで、なんで私もお出迎えに参加しなければいけないんですか?」

艦長であるユリカとプロス、そしてなぜかルリまでが赤絨毯を引いてピースランドからの使者を待っていた。

プロス「さぁ、とはいえ丁重におもてなししませんと」
ユリカ「でもピースランドって確かレジャーランドですよね?
 私、子供の頃に遊んだ覚えがあるんですけど」
プロス「ええ、元々はカジノだったのですが、副業で始めたピース銀行が大当たり。
 まぁギャンブルで儲けたお金に税金がかからないってところが受けたらしいです。
 イメージアップの為に儲けたお金でレジャーランドも充実させたところ、これも大ヒット。いつの間にか小国ながらも永世中立国家になって今に至る・・・というわけです」
ユリカ「ぎ、銀行!」
プロス「ええ、お金だけはあります。
 世の中銀行を敵に回すもんじゃありません。
 ですからくれぐれも粗相のないように・・・」
ユリカ「でもさぁ・・・ルリちゃんってピース銀行に預金でもあるの?」
ルリ「ありませんよ、そんなもの」
ユリカ「だよねぇ。ならなんで・・・」

その理由はすぐにわかった。
中世ヨーロッパ風の馬車・・・それはレジャーランドの安っぽいアトラクション用のものかもしれないが・・・を模した連絡艇が到着して中から現れた使者が開口一発で叫んだからだ。

使者「姫様!やっと見つけました!!!」
ルリ&ユリカ&プロス「はい?」

さながら、かぐや姫を迎えに来た月の使者・・・といった所みたいだ。



Yナデシコ・ルリの自室


ルリはまんじりともせず、ベットに横たわっていた。

『父上様と母上様があなたのご帰国をお待ちです!』

開口一発そう言われても

『あなたのお父上プレミア国王と王妃様は子供が出来ないお体でした。
 そこで人工授精の手術をお受けになる予定でしたが、その受精卵が病院のテロにより散逸してしまいました。
 我々はその後必死に調査を続けまして人材開発研究所を経てネルガルの関連研究施設のホシノ夫妻に引き取られたのを突き止めました。
 その後、国王夫妻にはお子さんは出来ましたが、あなたがピースランドの姫であることに違いはありません!』

そう、いきなり姫といわれても実感が湧かない。
第一彼らはまぶたの母ではない。

彼らは・・・そう・・・

偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ

初めて聞いたのはその言葉
何か新しいことを覚える度に言ってくれるその言葉
最初の教師はアルキメデスという人
最初に覚えたのはπという記号
その言葉を話すと父と母は喜んでくれた

偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ
バンザーイ

それからいろんな事を覚えた。
ナポレオン、清少納言、いろんな人が私を教えてくれた。

偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ
バンザーイ

ある日、こんな言葉を覚えた。
「待ってくだしゃい。その言葉はどういう意味でしゅか?」
『それは普段はお使いにならない方がよろしい言葉です』

バカ

偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ
バンザーイ

バカ・・・

私はそんな言葉でも嬉しそうに私を誉める両親を見て初めてその言葉の意味が分かった。

それからの勉強は酷く退屈なモノに思えた。
そういえば友達もいた。
いつもチェスに負けてはずっこけるように転げ回るロボット
それが唯一の友かもしれない。
人間の友達もいた。
いや、ライバルと言った方がいいかもしれない。
同じ環境で学ぶ子供達
でも彼らは可哀想だと思った。
夜になれば彼らはママ恋しさに泣きぐずる。
私はそんなことに痛痒を感じなかったから。

ロボットの友達と、
天井の換気ダクトとそこから聞こえる川のせせらぎ
そしてピチャピチャと何かが水で跳ねる音

それらがあれば十分だった。

型にハマった愛情など必要なかった。
抱きしめてくれぬ愛情などいくら注いでくれても嬉しくはなかった。
一人でいることには慣れていたから・・・

幸い、その後ホシノ夫妻に引き取られた。
二人とも研究で忙しかったけど、抱きしめるぐらいの愛情は持ち合わせていたみたい。
もちろん研究対象以上のそれではなかったみたいだけど
居心地だけは悪くなかった。
でも物足りなさも感じた。

だからナデシコに乗った。
ホシノ夫妻の所を去るのに未練もない。
でも・・・

あの場所がどこなのか、どうしてもわからなかった。

天井の換気ダクトとそこから聞こえる川のせせらぎ
そしてピチャピチャと何かが水で跳ねる音
子守歌代わりに聞いたあの音が

知りたかった
見つからなければ私の人生はホシノ夫妻に引き取られた以前は無いものとなってしまう。
そうなれば幼い日のあの光景が嘘になってしまう
それは自分の半身を切り落とすのに等しかったから・・・



Yナデシコ・格納庫


ユリカ「で、里帰りするのは良いけどさぁ・・・」
アキト「なんで俺が一緒に行くの?」
ルリ「姫の護衛には騎士(ナイト)がつきものだとオモイカネで調べました」

ウインドウに中世のお姫様とその従者である騎士のイラストを浮かべるルリ
・・・物知りな割りに知識が偏っているところがルリらしい
実際、ルリの服装は彼女の持ち物の中で一番余所行きのしかもお姫様チックなドレスであったから。

彼らの後ろでは空戦フレームへのアサルトピットの換装と持てるだけのバッテリが用意されていた。
だが、ユリカはやはりアキトがルリの護衛に着くのが嫌らしい(笑)

とはいえ・・・

プロス「何せ相手は小国とはいえ、国王からの要請ですし、単身で放り出すわけにも行きますまい」
ユリカ「なら別にアキトじゃなくてもアカツキさんでもリョーコさんでも・・・」
プロス「ご本人のリクエストですから♪」
ユリカ「だからそれが嫌なんだって・・・」
プロス「そんなこと言われますと、ルリさんはピースランドに居着いたまま・・・ということも考えられますが」
ユリカ「うぐぅ・・・」
プロス「テンカワさんが着いていけば向こうに居着くということもないでしょう♪」
ユリカ「う・・・」

正論に屈するユリカであった(笑)

と、そこにアキとラピスがやってきた。アキはアキトに近寄って声をかける。

アキ「アキト君」
アキト「なんッスか?」
アキ「小指だして」
アキト「???」

アキトは言われるがままに小指を出す。
するとアキはするすると小指に紙縒を巻いた。

アキト「何ですか?これ」
アキ「封印♪」
アキト「封印?」
アキ「そう、向こうでケンカをしてはいけません」
アキト「ケンカ・・・ですか?」
アキ「特訓で力を付けてきているけど、まだまだ半人前だからね。
 生兵法は怪我の元・・・っていうこと」
アキト「でも・・・」
ルリ「アキトさんは私の騎士です。いざとなったら颯爽と助けていただかないと・・・」
アキ「約束したわよね。憎しみのために使わない・・・って」
アキト「・・・・はい」
アキ「『力を使わない』という選択肢を知らない暴力は憎しみしか生まない。
 『力を使わない』ということもまた強さだということを学んでおいで」

アキトはにっこり笑うアキに小指の封印を誓わされた。

ルリ「あの・・・お姫様ダッコして下さい(赤)」
アキト「でも・・・」
ユリカ「アキトぉ・・・・」
ルリ「ラピスはアキさんにやってもらいました!」
アキト「アキさん〜〜」
アキ「お姫様をエスコートするのはナイトの栄誉。
 やってあげれば?」
アキト「・・・・・・・はい」

アキトとルリはお互い照れながら空戦フレームに乗り込んだ。
それを見てユリカがハンカチをくわえながら悔しがったのは言うまでもなかった。

アキト達を見送った後、ラピスがポツリと言った。

ラピス「いいなぁ、ルリ。父や母に会いに行けて・・・」
アキ「・・・ラピスちゃんも会いたい?」
ラピス「うん、お姉さんに会いたい」
アキ「そうだね。ちょうど命日だし会いに行くか・・・」
ラピス「命日?」
アキ「行こうか、ラピスちゃんのお姉さんに会いに・・・」
ラピス「行く♪」

そうと決まるとアキはユリカにお願いした。
ラピスと自分の外出願いを。
そしてウリバタケにはPODに空戦フレーム用のバックパックを付けてくれるよう頼んだ・・・。



北欧上空


アキトの空戦フレームは北欧の小さな国ピースランドを目掛けて飛んでいた。
両手には抱えられるだけのバッテリーを抱えて。

コックピットには居心地が悪そうなアキトと真っ赤になりながらも至極ご満悦なルリの姿があった。

アキト「ルリちゃん・・・」
ルリ「なんですか?」
アキト「もうちょっと離れてくれると操縦し易いんだけど・・・」
ルリ「嫌です!」

アキトの膝にお姫様ダッコで座っているルリは、さらにギュッとアキトの首にしがみつくように密着した。

アキト「ルリちゃん・・・」
ルリ「嫌です。コックピットだって狭いですし、それに・・・」
そう言うと途端にルリの表情が陰る。

『そりゃそうだよなぁ・・・』
アキトは思う。いきなり実の両親が現れて会いたいと言われても、自分だってたぶん戸惑うだろう。
第一、いくら大人顔負けの仕事をするといってもルリちゃんはまだまだ11歳の子供だ。
彼女の中で嬉しさの反面、不安も大きいのだろう。

アキトはルリの表情からそう勝手に解釈することにした。

もっとも
『せっかくメグミさんが脱落したんです。
 これを機にユリカさんになるべくリードしなければいけません!』
とルリが思っていたかどうかは定かではありません(笑)



ピースランド・城下町


辿り着いたのは頂きに王城の見える城下町
ちょっぴり派手派手の町だが、それなりに熱気にあふれている。
まぁどこかのテーマパークのデッドコピーに見えなくもないが・・・

ルリ「お城に行く前にデートです♪」
アキト「えぇ〜!!!」

直接ピースランドの王城へは向かわないと言い出したルリ。
その理由を色々尋ねたが・・・

アキト「でも・・・」
ルリ「それに皆さんからお土産リストを頂きましたから買って帰らないと・・・」
アキト「いいよ、そんなの。どうせユリカ達からお金とか預かってないんでしょ?」
ルリ「立て替えるくらいはします。それに、父から支度金代わりにここのキャッシュカードを頂きましたから」

ルリは懐から王家御用達のゴールドカードを取り出す。
一体いつの間に・・・

ルリ「ユリカさんは大きな熊さんのぬいぐるみでしょ?
 メグミさんがうさたんで
 ミナトさんは高級化粧品・・・あ、このルージュ良いですねぇ。私に似合うと思いません?」
アキト「あ、ルリちゃんには派手な色はまだ早いんじゃないかと・・・(汗)」
ルリ「ですよね。で、リョーコさんが鉄アレイ一式・・・重いので却下ですね
 ヒカルさんが・・・スクリントーン一式とGペン、製図用黒インク、雲型定規って・・・こんなものピースランドにあるんですか?」
アキト「さぁ・・・(汗)」
ルリ「イズミさんはっと・・・林家ペーパー子独演会のCD全集・・・相変わらず渋い趣味ですねぇ。そんなのあるんでしょうか・・・」
アキト「無いと思うし、あって欲しくない(汗)」
ルリ「ウリバタケさんは・・・ポリパテ、プラ板、アクリル板・・・何に使うんですか?」
アキト「たぶん模型に使うんだと思うけど(苦笑)」
ルリ「ホウメイさんはここの特産の調味料、何でも良いからよろしく頼むよ、テンカワ!だそうです」
アキト「ホウメイさん・・・俺達は買い出しに来たんじゃないんですから・・・」
ルリ「イネスさんは・・・昆虫の解剖セット・・・・」
アキト「・・・それ、ハマりすぎて笑えないッス(冷汗)」

みんなからのお土産・・・というか買い出しリクエストを聞いて辟易するアキトであった。




しばし後・・・


やっぱり両手一杯の荷物を抱えることになるアキト(笑)
アキト「ルリちゃん〜〜いい加減にもういいよ。
 今日はルリちゃんの両親に会いに来たんだから・・・」
ルリ「まだです。皆さんの分がまだまだ残ってますし・・・」
いい加減嫌になったアキトだが、それにしてもルリのここまでのサービス精神は異常だ。ルリは何か取り憑かれたように買い物を続けようとする。

その表情に何かを感じたアキトはポツリとこう言った。

アキト「ルリちゃん、ひょっとして・・・お父さん達に会いに行くの嫌なの?」
ルリ「い、いえ、そんなことはないですよ・・・」
アキト「でも・・・」
ルリ「そ、そう。まずはこの国の内情を知る必要があります!
 あ、足元を見られても困りますので、この国の内情を庶民に紛れて探った後、交渉に有効なカードを手にしませんと・・・」
アキト「いや、一体何を交渉するのかな・・・・」
ルリ「それは・・・その・・・」

アキトに図星を突かれてシドロモドロになるルリ。
その言い訳もあまり上手く行っていないようだ。

アキト「無理しなくてもいいよ」
ルリ「む、無理なんかじゃありません。
 そう、これはデートです。
 つまり・・・ほら、ローマの休日とかそんなやつです!
 下町にやってきたお姫様が庶民の生き生きとした生活を知るという・・・」
アキト「ルリちゃん、庶民の生活、知ってるじゃない」
ルリ「う・・・・」
アキト「心配しなくてもいいよ。俺が着いていてあげるから」
ルリ「でも・・・そう、お食事、お食事しましょう!
 この地方のお料理の味を知るのもアキトさんのコックの修行になりますし・・・」
アキト「それは確かに魅力的な提案だけど・・・」
ルリ「そうです。そうしましょう♪(汗)」
アキト「でも・・・」

引き延ばし工作をしようとするルリに少し困ったアキト。
でも・・・

「グーーーーーー」

腹の虫が鳴った。
真っ赤になって俯いたルリから察するに誰の腹の虫かは言わなくてもわかるだろう(笑)

アキト「まぁお腹も減ったから食べてから行こうか?
 それまでにルリちゃんも心構えが出来るだろうからね」
ルリ「え、ええ。そうですね・・・・」

ルリは真っ赤になりながら頷くのが精一杯だった。



ピースランド・レストラン


出てきた料理にアキトは目を輝かせていた。
ナデシコ食堂がいくら客のどんなオーダーにも対応するとはいえ、特に要求しなければ普通の定食しか出てこない。

だからアキトのように火星育ちで地球の料理が物珍しい者には、目の前の料理は素晴らしいモノに映った。

だが・・・

ピザにパスタ・・・・

店主「オーソーレミヨ〜。
 どうだい、これが元祖本家ピースランド自慢のピザとスパゲッティーだよ〜」

陽気に歌って料理する店主であるが・・・
『ピザの本場ってイタリアのナポリじゃ・・・』
と、アキトは心の中でこっそり思っていたのだが、その思っていることをハッキリ口にした者がいた。

ルリ「ピザの本場はナポリです」
店主「ピク!!!」
アキト「い、いやぁ本場と元祖は違うかも・・・」
店主「まぁ、要は味さ。食べてくれればわかるさ」
こめかみをひくつかせながら店主が言うのでルリとアキトは渋々ビザを一口食べる。

味は・・・
あ、ルリがむかついた。
アキトは自慢げに誇る店主に配慮して一気に掻き込んだ。

店主「どうだい、うちのピザの味は♪」
アキト「あははは・・・俺火星育ちだからよくわかんないんッス」
ルリ「まずいです!」
店主「なに!?」
アキト「る、ルリちゃん!!!」

やはりハッキリと言ったのはルリであった。

ルリ「香辛料と化学調味料の使いすぎです!
 バランスがなってません!しかも質が悪すぎます!
 なんでも舌を刺激すればいいと思っているなら大間違いです!」
店主「ガキと火星育ちが俺の味にケチを付ける気か!!!」
ルリ「子供だろうと大人だろうと、豚やカラスじゃあるまいし、人類なら誰が食べたってまずいと思います!
 これを美味しいと思う人がいるならきっと舌が壊れているんです!!!」

ルリの言葉に周りの客が美味しそうに食べていたピザとスパゲッティーを口に運ぶのを躊躇した。
まぁその味が当たり前なのだと食べ慣れていればそれも美味しいのかもしれない。
化学調味料たっぷりのコンビニ弁当に慣れている我々には笑えない事かもしれない。

ルリも自分が子供っぽいことでムキになっていると思う。
アキトみたいに笑って済ませてさっさと店を出ていけばいいと思う。
でも事実を指摘しながら段々腹が立ってきたのだ。

これが場末のファーストフード店ならまだ許せる。
だが、元祖とか本家とか銘打って本場の店構えを真似たあげく、出した料理が名前負けしていたら怒りたくもなるだろう。
自分の評価が辛いのか?
ナデシコの食堂が良いモノを出しすぎているのであって、その舌に慣れた自分たちの方が悪いのか?
違う。
アキトさんやホウメイさん達は常に限られた条件の中で美味しいモノをみんなに提供しようと頑張っている。毎日食べていてそれが痛いほどわかる。
なのに人のマネをしてでかい顔をしてこんな料理しか出せずに満足しているなんて料理への、真面目に頑張っている料理人への冒涜のように思えたのだ。

だが、そんなルリの想いが現状で満足しきっているこの男に通じるわけもなく、それは単なるクレーマーにしか見えなかった。

店主「お嬢ちゃん、商売の邪魔するつもりか!」
アキト「その子に手を出すな!!!」
ルリの胸ぐらを掴もうとした店主を止めに入ったアキト
ルリの前に立ち、店主から守ろうとするが・・・

店主「お姫様を守るナイト気取りかよ!
 味もわからねぇ火星育ちが!!!」
アキト「なんだと!」

その言葉にキレかかるアキト。
彼よりも多少美味しいモノを作る自信のある者として、その料理人から味がわからないと言われるのは侮辱以外の何者でもなかった。
しかも火星育ちだからという理由で!
火星は好きで美味しいモノが食べられないわけじゃない。だがお前より美味しい料理を食わせてくれる料理人は山ほどいた!!!

思わず相手を殴ろうとしたアキト。
だが・・・・
ふと視線に自分の指に巻き付けられた紙縒が入った。
それはアキと約束したケンカをしないという封印だ。

『力を使わないという選択肢を知らない暴力は憎しみしか生まない。』

脳裏にアキの言葉が蘇る。

『誇りや尊厳を傷つけられても、力を使っちゃダメなんですか、アキさん・・・
 守るべきモノを守るために力を使わなくてなんの為の力なんですか・・・』

その一瞬、アキトの心は千々に乱れた。
だが、次の瞬間、アキトの目に映ったのは・・・

『提督?』

そう、アキトの目には店主の顔が爆死したムネタケに見えた。

『守るべき正義は厳然として存在する!また滅ぶべき敵もしかり!!』

そんなことを思い出している隙に店主はアキトにパンチを喰らわせた。

ルリ「アキトさん!」
アキト「この!!!」

殴られて一瞬カーッとなるアキト。
思わず拳を握りしめた。
でもすぐに頭が冷めた。

いろんな事がわかったから。

店主「おらおら、どうした、ナイト様!」
アキト「ぐわぁ!!!」
ルリ「アキトさん!」
アキトは殴られるだけ殴られた。しかも手を出さずに。

店主「ナイトのくせにだらしな・・・・」
ルリ「アキトさんに何をするんですか!!!」
店主「#$%&@+*!!!!」

ゲイ〜ン!!!!
気合い一閃、ミナト仕込みの痴漢撃退キックを店主に見舞うルリ
その一撃で難なく沈む店主

店員その1「貴様!師匠になにしやがる!!!」
店員その2「貴様ら、どうなるかわかってるんだろうな!!!」
店員その3「そうだそうだ!」
ルリ「先に手を出したのはそっちです!」
アキト「ルリちゃん、やめるんだ!
 お前達も彼女に手を出すな!」
店員その4「師匠と店の名誉を傷つけられてこのままに出来るか!」
ルリ「悪いのはあなた達です!あなた達の方が謝るべきです!」
店員その1「なんだと!やっちまえ」

戦闘モードまっしぐらの店員達
だが、アキトはルリの手を引いて逃走しようとした。

アキト「ルリちゃん、逃げよう!!!」
ルリ「でも私達悪くありません・・・」
アキト「いいから!!!」
店員達「逃がすな!!!」

アキト達は店を引っかき回しながら何とか逃げ出すことに成功した・・・



ピースランド・公園の噴水


ルリ「傷、大丈夫ですか?」
アキト「大丈夫だよ・・・染みる!」
ルリ「済みません・・・私が子供っぽい意地を張ったばかりに・・・」
アキト「ルリちゃんは正しいよ」

公園の噴水の水で浸したハンカチでアキトの殴られたところを拭くルリ。
恐縮する彼女であったがアキトは優しく笑って許した。

アキト「でも、殴られっぱなしでナイトとしちゃ格好悪くてゴメンね」
ルリ「いえ、アキさんにケンカを禁止されてますし・・・」
アキト「でも何で殴らなかったの?・・・だろ?」
ルリ「え?ええ・・・」

でもルリはやはり合点が行かなかった。
正しいのはこちらだった。間違ったことを言った訳じゃない。
なのにアキトはなぜ反撃しなかったのだろうか?
殴られるなんて理不尽だ

アキト「ゴメンね。またみんなを守るって言っておきながら復讐しようとしていた」
ルリ「え?」
アキト「あの時、ルリちゃんを守る為って自分に理由を付けて、バカにされた腹いせにあの店長を殴ろうって考えちゃったんだ。」
ルリ「でも・・・」
アキト「俺ってバカだからたぶんケンカ始めちゃったらルリちゃんのことそっちのけで殴り合ったと思う。
 バカだなぁ、今日はルリちゃんのナイトのはずなのに・・・」
ルリ「それで殴られっぱなしだったんですか!?」
アキト「逃げる機会を伺ってはいたんだけどね」
ルリ「アキトさん・・・ごめんなさい!」

アキトの真意を聞いてルリは自分の不明を恥じた。
でもアキトはこう答えた。

アキト「修行が足りないのは俺の方だよ。もっと力があったらルリちゃんを庇いながら戦えたと思う。
 いや、アキさんぐらい強かったら睨んだだけで相手が怖じ気づいてケンカにすらなっていなかったと思う。」
ルリ「でも・・・」
アキト「それに・・・あの店長、なんかムネタケ提督みたいに見えて・・・
 自分だけが正しいって凝り固まっちゃったらああなるのかって・・・
 そう思ったら自分の信じていることを否定されただけでケンカしてたら始終ケンカばかりしなきゃいけないって・・・
 だから本当に守るべきモノの為だけに戦わなきゃって思い直したんだ。
 だって俺の今守るべきはルリちゃんだから」
ルリ「アキトさん・・・」

ルリはアキトが自分を大切に思っていてくれるのがうれしくなって抱きついた。

アキト「どう、そろそろ心構えが出来た?」
ルリ「え?」
アキト「両親に会いに行く心構え」
ルリ「・・・・そうですね」

大丈夫。アキトさんが守ってくれる・・・
そう思ったら不思議とさっきまでの不安はなくなっていた。

アキト「でもさっきのピザはまずかったね(笑)」
ルリ「ええ、この世のモノとは思えませんでした(笑)」
クスクス
アハハハハ

二人は示し合わせて笑うのであった。



ピースランド・王城


ルリとアキトは謁見の間に通された。
それは派手な出迎えであった。
まるでおとぎ話の中の西洋のお城みたい。
衛兵がずらりと並び、一番奥の玉座には今時のRPGでも出てこないような王様と王妃様・・・
どこか芝居がかったその光景にルリは違和感を感じてしまう。




偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ
バンザーイ


どちらが私にとって現実味があるのだろう?
あの夢の中のあやふやな両親と、この芝居がかった両親とどちらが私の現実なのだろう?

そう、私は悩んでいた。
来るのが怖かった。
なのに何で来たの?

血は水より濃いという
もし、会って何かを感じられるかもしれない。
私に本当の父と母がいるというのなら、あの思い出の光景以上の絆を与えてくれるかもしれない・・・

でも・・・・

「おお、姫よ!よく生きておった!!!」
国王は王座から駆け下り、ルリの元に駆け寄ってきた。
そしてルリの手を握る。

ルリ「・・・父」
国王「私達はずっとお前を捜していた。
 王妃だってお前の行方を案じて胸を痛めておったのだ。」
ルリ「・・・」

王座では王妃が目頭に涙をためていた。

国王「そしてお前の弟たちだ!」
弟王子達「お帰りなさい、ルリお姉様♪♪♪♪」
同じ顔の王子達が歌うようにルリの名を呼んだ。

だが・・・

違う・・・

そう思った。
母の顔立ちや髪の色、弟たちの容姿、それらを見ていけば自分の肉親かもしれないと思う。
でも違う!
なにかが違うのだ。
例えばこの芝居がかった光景も何かの企みかと思えてしまう。
ナデシコで活躍した自分の姿を見てそれで・・・・
いや、そう思えてしまうほどにこの両親からは何も感じないのだ。
情というモノが湧かないのだ。
まぁホシノ・ルリという人間が冷めているだけなのかもしれないが

だが、

この国は何から何まで誰かのモノマネ
真実を粉飾し、全てを飾り、虚勢を張り
取り繕うように演技をしている。




偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ
バンザーイ


これならまだあの思い出の両親の方がマシだ・・・

国王「みんな一緒じゃ、これからずっと一緒じゃ♪」
ルリ「・・・・父、お願いがあります」
国王「なんじゃ?」

ルリは国王にお願いをする。
国王にお願いをする前にアキトの方をチラリと見るルリ。
するとアキトはニッコリと頷き返した。
『ルリちゃんの好きにするといい』
そう言われたような気がしてルリは少し勇気を持って言った。

ルリ「少しだけ時間を下さい。
 もう一人の父に会って・・・それからお答えしても良いですか?」
国王「もう一人の・・・父?」
ルリ「父は知ってらっしゃいますよね?
 私の受精卵を育てた施設のことを・・・」
国王「そりゃ・・・調べたからこそ姫を探し出せたのじゃが・・・」
ルリ「見つめ直させて下さい。
 私がどこから来て、どこに行けばいいのか・・・」

ルリのお願いに観念して教える国王であった・・・



フィンランド上空


空戦フレームは北欧のフィヨルド上空を飛行していた。

アキト「ルリちゃん、こっちでいいのかい?」
ルリ「ええ、父からの話ではこの辺りに例の研究施設があったらしいです。」

テロリストが奪った人工受精卵。
それが流れ流れてここに辿り着いたらしい。
その受精卵は育てられて英才教育を施された。
でもその研究所も閉鎖されて、優秀な子供だけが他の研究機関に売られたらしい。

まぁ多少今のネルガルの非道さと自分たちのすばらしさを脚色した『あっちの蜜は苦いよ、こっちの蜜は甘いよ』的なお話ではあるが、大筋それが真実らしい。

そしてその研究所がここにあるはずなのだ。




偉いよ、ルリ
可愛いよ、ルリ
バンザーイ


あの光景が真実かどうかがわかる・・・

ルリ「・・・」
アキト「ルリちゃん怖い?」
ルリ「大丈夫です。」

アキトさんもいてくれるし、それに・・・・

思い出が思い出のままでいいなんて、真実なんか知らない方がいいなんて
アキトさんに木星蜥蜴の真実を見せておいて自分だけ逃げるなんて・・・

エステはその研究所に到着した・・・



人材開発研究所


静かな佇まい、川のせせらぎ、およそ自然の中に包まれたそこはすばらしい環境というに相応しい場所であった。そんな中に主もいなくなり、寂れた洋館が一つ・・・

人材開発研究所・・・

ルリとアキトは玄関を開いて中に入る。

懐かしい感じ・・・
見覚えがある!
この廊下も、この扉も!
扉のマーク、
教室の鳥さん
教室のマークである
お昼寝ルームの牛さん
子供達の部屋、犬、パンダ、キリン

・・・そして私の部屋・・・お魚さん・・・

見覚えがある!
確かに私はこの扉をくぐった。
覚えがある!
あの光景は夢なんかじゃない!
作り物じゃない!

恐る恐る扉を開ける。

すると・・・

扉の中は懐かしい光景であった。
お魚のイラストの描かれた壁
見覚えのあるテーブルと椅子、
教師達と父と母の現れたスクリーン

『わーい!』
あの間抜けなロボットが今にもルリを出迎えそうなそんな光景・・・

「ルリちゃん?」
でもそんな光景はアキトの一言で途端に色あせた。

ここは確かに思い出の場所
夢ではなく、偽りでもない思い出の場所

でも・・・ここには父や母の面影もなかった。

ルリ「私の育った場所です・・・」
アキト「ルリちゃん・・・」
ルリ「居るはずないですよね・・・父も母も・・・」
ルリは少ししょんぼりして呟いた。アキトが何か慰めの声をかけようとしたとき

「ルリさんかね?」
「え?」

扉の外には髭を生やした中年の男性が一人

管理人「おお、ルリさん、大きくなって」
ルリ「あなたは?」
管理人「私はここの管理人だ。プレミア国王から連絡があって、あなたが来るからよろしくと。」
ルリ「あなたは私のことを知っているのですか?」
管理人「ああ、君は私の最高傑作だからね・・・
 影ながら見守らせてもらっていた」

最高傑作?
アキトは嫌な予感がしながらも、真実を知りたがっていたルリを気遣って彼の台詞を止めることが出来なかった。



人材開発研究所・子供部屋


管理人「テロリストが受精卵を持ち込んだのはついこの間のようだ・・・」
管理人はルリに請われてその当時のことを話し出す。

テロリストがその研究所に受精卵を運び込んだのは、そこが受精卵を換金できる一番の場所だったからだ。

管理人「大半の受精卵は使いモノにならなかったが、それでも生き残っているモノもあった。生き残ったモノには生きる権利がある。
 だから私は生かした。
 それが試験体として育成しなければ生存し得ないほど衰弱していたとしてもな」
ルリ「試験体・・・」
管理人「既に現在の人類は息詰まっている。
 脆弱な人間、あがらぬ知識水準
 いくらAIが発達してもそのテクノロジーの進歩に追いつけず振り回されるだけの存在・・・さらに火星から木星、外宇宙に進出していこうとするこれからの世紀に人はあまりにも脆弱すぎた。
 だからそれに耐えうる体に作り替えなければならない・・・」
ルリ「・・・遺伝子操作ですか?」
アキト「遺伝子操作!?」

ルリの金色の瞳はその証だ。

管理人「ああ、だが皆誰もそれを改造人間とか恐れ、忌み嫌う。
 だがそれは馬鹿馬鹿しい考え方だ。
 人は遺伝子治療一つでガンを克服できる体になれる。
 知性も身体能力もしかりだ。
 たとえばルリさん、あなたもその内の一人だ。」
ルリ「・・・私が?」
管理人「君はその年で事実上ナデシコを動かしている。
 近い将来、その才能で人の頂点にすら立てるだろう。
 それも才能があればこそだ」
ルリ「・・・」

アキトはめまいがした。
この男は何を言っているのだ?
こんなこと、子供に聞かせる話なのか?
吐き気がしてくる・・・
だが、管理人は自分の考えをかまわず披露し続ける

管理人「人間の脳は有限だ。その才能も有限だ。
 だが人は余計なことに脳の容量を使いすぎる。
 私の子供達は余計なことは覚えない。
 効率的に、能率的に、覚えていった。
 特にルリさん、あなたは知識を真綿に水が染みるように吸収していった。
 まぁ失敗作もあった。
 だが、ルリさん、あなたは成功作だ。
 同じ研究をしているネルガルですら、あなたが欲しいと請うてきた。
 プロジェクト・イブだかなんだか知らないが、結局私の最高傑作には適わなかったらしい。あれは人生で最高に痛快だった」
ルリ「・・・」
アキト「あんた、ちょっと・・・」

何が余計なモノだ!
偉くなるだけが大事なのか!
能力がそんなに大事か!
アキトは憤りを感じた

管理人「方法は間違っていない。
 が、遺伝子操作も禁止になり、それも夢と消えた。
 まぁ行き詰まった人類がどうなるかはわからないが、君は勝者だ。
 誇っていい。」

ここまで言われてもルリは黙っていた。
ただ一言聞いた。

管理人「そうだ、君に渡すモノがあった。
 ネルガルからもらった君の購入代金だ。
 君名義でピース銀行に口座を作ってある。
 このカードで引き出せるから使いたまえ」
ルリ「一つだけ教えて下さい」
管理人「なんだね?」
ルリ「父と母は・・・どこに行ったんですか?」
管理人「父と母?
 ああ、これかね?」

管理人は取り出したリモコンのスイッチを入れた。
するとスクリーンには・・・

『偉いよ、ルリ
 可愛いよ、ルリ
 バンザーイ』

スクリーンには影絵が映る。

ルリ「これは・・・」
管理人「子供には良い親が必要だ。
 子供を叱らない親、甘えさせてくれる親、誉めてくれる親
 だが、私の子供達を相手にするのは普通の人間は務まらない。
 自分達より遙かに知能の高い子供に普通の人間はまず耐えられない。
 嫉妬と妬みで狂い、幼児虐待を行う。
 だから理想の両親を演じることの出来る親が必要だった。
 それが私の結論だ・・・」

それがあの影絵の両親だ。
叱らない親、甘えさせてくれる親、誉めてくれる親
でもそれは単にプログラムされた愛情すら持たない親
偽りの両親・・・

ルリ「・・・」
ルリは無言で管理人の前に立つと顔も上げずに呟いた。

ルリ「生かしてくれてありがとう・・・」
管理人「なに、人として当然のことをしたまで・・・」
ルリ「でもこんな事までして生かしてくれなんて誰も頼まなかった!!!」

パチン!!!!

ルリはその男の頬をひっぱたいた。

ルリ「そのお金はおじさんが使って下さい」
管理人「いや、私は・・・」
アキト「いい加減にしろよ、あんた!!!」

バシ!!!

アキトは一発だけ管理人を殴った。

ルリ「アキトさん・・・」
アキト「あ、ヤベ!ケンカしないって約束したのに・・・
 でもこれケンカじゃない・・・よね?」
ルリ「アキトさん、私のためなんかに・・・」

一緒になって怒ってくれたアキトに感謝の気持ちでいっぱいだった。

だが・・・結局自分の人生は作り物でいっぱいだった。
演技と虚構にまみれた生みの親
教育ソフトに生み出された育ての親
研究対象としてしか育ててくれなかったホシノ夫妻

どれも作り物だ!
私の思い出もみんなみんな作り物だ!!!

こんな自分、どうなってもいいとも思っていた。
どこかに行ってしまいたい、そう思っていた。

だが・・・・

ピシャ!

え?

ザーーーーー
ピシャ!

聞き覚えのあるこの音・・・・

アキト「ルリちゃん、気にしないで・・・」
ルリ「この音・・・」
アキト「え?」

ダァ!
どう慰めようか考えているアキトが声をかける前にルリは走り出した。

アキト「ルリちゃん、どこ行くの!」
ルリ「この音!」

聞き覚えがある!
この音には聞き覚えがある!
どこ?
どこ?

ルリは廊下に出て探し回る。
時折窓に耳を近づけて音の方向を確かめる。

確かにこの音は・・・
この音は・・・

走ったルリがたどり着いたのは表へ続くドア。
だが、鍵が掛かっているのか、古くなっているのか開かない

ルリ「開いて・・・」
アキト「ルリちゃん、離れて!」
ルリ「アキトさん」
アキトはルリにウインクすると彼女を下がらせて「これってケンカじゃないよね?」って笑いながらドアに体当たりした!

ドン!!!

開いたドアの向こうには・・・・

ルリ「あ・・・」
アキト「うわぁ、鮭か・・・」

そう、そばに流れていた川に鮭が跳ね回っていた。
しかも大量にだ。
ちょうど鮭の産卵シーズンらしい。

「この音・・・・」
ルリが寝物語に聞いたのはこの音だった。

そう、
あの川のせせらぎ
何かが跳ねる音・・・
それは偽りでも作り物でもなく・・・

アキト「壮観だねぇ・・・」
ルリ「そうですね・・・」
アキト「ルリちゃん、その・・・さっきの男の言うこと、気にしなくて良いから
 ルリちゃんは・・・」
ルリ「わかってますよ♪」

結局私はバカばっかのナデシコに戻った。
例え作り物だったとしても、それは現実にあったし、
私にとって今大事なのは誰かが作った物語ではなく、私自身が作り出した思い出だから。例え誰かが考えたシナリオだとしても私自身が選んだ物語だから

だから私は「今」を選んだ。



ナデシコ・格納庫


帰ってきたアキト達を待っていたのは気が気でなかったユリカであった。

ユリカ「アキト〜〜大丈夫?襲われなかった?」
アキト「こら!襲われるって、誰にだよ!!!」
ユリカ「だってだって、狭いコックピットに二人きりだし・・・」
アキト「誰が誰に襲われるっていうんだ!!!」
ユリカ「だって、アキトはあたしみたいな胸の大きな女の子にしか興味がないはずだし、襲われるとしたら・・・」
ルリ「やっぱり帰ってこない方が良かったですか?」
ユリカ「そ、そんなことないわよ、ルリちゃん(汗)」
アキト「バカ・・・・」

と言ったとか言わなかったとか(笑)

でも、同時期にアキとラピスも帰ってきたようだ。
帰ってきたラピスはルンルンであった。

アキト「ラピスちゃん、ご機嫌だね」
ラピス「うん!お姉さんに会えたから♪」
アキト「お姉さん?ラピスちゃんにお姉さんっていたの?」
ラピス「いたの♪」
アキト「・・・良かったね」
ラピス「ありがとう!」

そう言ってラピスは自分の部屋に戻っていった。
遅れてアキがアキトに近づいてきた。

アキ「アキト君、ケンカしなかった?」
アキト「え?(ギク!)」
アキ「しなかった?」
アキト「そ、それは・・・」

しどろもどろになるアキト。
だがアキはニッコリ笑ってアキトの腕を取った。

アキ「ふむ、紙縒は解けてないか・・・
 偉い偉い、ちゃんと守ったみたいね♪」
アキト「えっと・・・この紙縒ってケンカしたら本当に解けるんですか?」
アキ「そうよ。魔法の紙縒なのよ♪
 だから嘘をついても無駄なのよ♪」
アキト「・・・マジですか?」
アキ「さぁ、それはどうでしょう♪」

アキはニッコリ笑う。
ケンカしたら自動的に解ける紙縒なんて・・・ケンカしなくて良かった・・・

ホッと胸を撫で下ろすアキト。

だが・・・

アキト「ラピスちゃんってお姉さんがいたんですね」
アキ「ん?そうよ・・・」
アキト「アキさん?」
アキ「ルリちゃん、すっきりして帰ってきたみたいね」
アキト「ええ、そうですね・・・」
アキ「んじゃ、後で稽古するからいつもの場所でね♪」

そう言うとアキはさっさと去っていった。

アキトは何故か腑に落ちなかった。
ラピスはあんなに機嫌が良かったのに・・・・
なぜかアキの方は悲しげだったのは気のせいだったのか?

でも自分の気のせいな気がして結局その理由を聞けないアキトであった・・・

ってことでLAPIS SIDEに続きます。



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「なんか今回、私が意味ありげな台詞だけ言って全然出てこないね」

−それはルリ×アキトペアのお話とラピス×アキペアのお話に分かれるからです

アキ「にしても、ラピスちゃんにお姉さんがいるって設定、あったのか?」

−まぁラピスですから何でもアリでしょう

アキ「何でもアリって・・・詳しい設定が無いことを良いことに・・・
 っていうか、プロジェクト・イブってなに?
 EVAのパクリ?」

−いや、そんなようなそうじゃないような・・・

アキ「っていうか、大丈夫なの?そんな設定出して」

−大丈夫です。アキとラピスがサードインパクトを起こすという・・・

アキ「誰が幼子相手にインパクトを起こすか!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

ちなみに後編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・カバのウィリアム 様
・AKF-11 様
・Dahlia 様
・やりたか 様
・kakikaki 様