アバン


幼き日の夢
憧れや希望
そして信じていたモノ、淡き幻

だけど大人になるにつれ、人はそれを切り捨てる
疎ましく思い、避けてしまう
きれい事では済まない、そう自分に言い訳をする

それが大人になると言うことならそんな大人にはなりたくない
誰もが子供の頃にそう思っていたはずだ
だからこそ今の自分を苛む

『大人』になった自分の姿を見つめて

それは幼き頃の夢が強ければ強いほど自らを苛んでしまう・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



疼く夢


夢に見る
幼き日の夢
今は忘却の彼方に追いやった無邪気な夢
そして葬り去りたいと思っている汚点・・・

「パパって偉いんだよね?」
「あははは、どうかな」
「パパはゲキガンガーみたいにみんなを守っているんだよね?」
「ゲキガンガーほど強くないよ」
「僕も強くなりたい!
 パパみたいに!ゲキガンガーみたいに!」
「そうだな。お前ならなれるとも」
「僕頑張るね!」

強くなろうと思った
それはウソではない
だけど・・・

「ゲキガンガー?
 バカじゃないの?」
「こいつアニメなんか信じてるよ。おかしいの(笑)」
「そうでちゅねぇ、つよいでちゅねぇ、ゲキガンガーは♪
 なんちゃって、アハハハ!!!」
「まぁこんな軟弱野郎にはちょうど良いかもしれないぜ」

友人にバカにされた。
友達の誰もがそんなものをとっくに卒業していた。
それ以来、ゲキガンガーの話を友達にするのは止めた・・・



Yナデシコ・訓練施設


今日も今日とて、アキトはアキにしごかれていた。

アキ「ほらほら、ダラダラしない!
 いつまで経っても基礎体力作りから抜け出せないよ!」
アキト「わかってます!!!」

わかっているのだが、アキの要求するレベルは高い。
こんなもの、ほとんどプロレベルの訓練を要求されているようなものだ。
しかも鍛える部位はかなり満遍ない。

筋力トレーニングはもちろん、柔らかい体作りも心がけさせられている。
かといえば瞬発力のいるトレーニングもやらされている。
ビーチフラッグなんかもやらされる。
かなりまとまりがない。
だが、おもしろいことをアキトは感じている。

自分のダメさ加減に気づいてきたのである。
いや、悪い意味ではない。良い意味である。
ダメさ加減に良いも悪いも無いように思えるがそうじゃない。

わかってきたことは
自分がどこまで出来て、どこまでが出来ないのかだ。

足の速さがわかる。
10秒あればどこまで走れるか、1秒でゼロから動いたらどこまで手が届くか
全力疾走でどこまで息が保つか
トラックを全力疾走でリタイヤせずに10周する為にはどのぐらいの力で走ればいいのか

段々わかってきた。
自分の限界が
もちろんダメダメだけど
ダメさ加減が数値でわかってきた。
体が覚えてきた。
以前より迷いが少なくなってきた。

そんなことを実感してきたアキトに対してアキはウインクを送ってきた。

『どう、段々わかってきた?』

だからアキはこの前の戦闘で一瞬の躊躇もなく二人の間に飛び込んだのだ。
自分の限界がどこにあるか知っているから
一か八かではなく、絶対の自信を持って
出来る出来ないと迷うことなく体が反応した瞬間動けるのだと

「何が出来て何が出来ないか、自分の体のことを知るのが一番大事。
 多くの人はそれがわかっていないから行動に迷いが生じる。一瞬遅れる。
 だから自分の限界を知ることが何よりも大事なの。
 でもその限界というぬるま湯に浸っていてはダメ。
 それを越えようと足掻かなければダメよ。
 でもそうしている内に今度は自分に何が足りないのかがわかるようになってくる。
 全てはそれから。」
アキはにっこり笑って言う。
アキトはわずかだけどそこに辿り着く第一歩を掴んだかと思うと嬉しくて仕方がなかった。

アキ「本日はここまで!」
アキト「ありがとうございました!」

アキはさっさと帰ってしまったが、アキトはなんか少し強くなったような気がして今までの疲れも吹き飛んでいた。
そして道場を後にしようとしたとき・・・

「提督?」
訓練を見ていたらしいムネタケであったが、終わったのを確認すると侮蔑の表情を浮かべて立ち去った。
訝しがったアキトはムネタケの後を付けてみることにしたのだった・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第17話 それは遅すぎた「邂逅」<後編>



Yナデシコ・格納庫


ムネタケ「あんた達、何やってるの!!!」

ムネタケが格納庫に来てみれば、ウリバタケはヒカルとプラモデルを作ってイチャイチャしていた(笑)

ウリバタケ「・・・なんだよ、いきなり・・・」
ムネタケ「そんなおもちゃ弄くっている暇があるなら早くエステバエックスを完成させなさいよ!!!」
ウリバタケ「エクスバリスだ!
 いいだろ?休憩時間ぐらい好きにしたって」
ムネタケ「あんたねぇ、時間がないのよ!わかってるの!?」
ヒカル「やっぱり邪魔だった?」

二人の口論に居たたまれなくなるヒカル
彼女に帰られてはたまらないと逆ギレするウリバタケ

ウリバタケ「そんなことないよ、ヒカルちゃん♪
 あ、提督も作業は順調だからそんなに急かすなって。
 残業疲れでぶっ倒れて作業が滞ったら困るのあんただろ?」
ムネタケ「そ、それはそうだけど・・・」
ウリバタケ「なら任せとけよ。それが嫌なら別の出世の方法を考えな」
ムネタケ「・・・・わかったわ。そのかわりちゃんと仕上げなさいよ!」

そう言ってムネタケは怒って帰ってしまった。

アキト「どうしたんですか?」
ウリバタケ「おお、アキトか」
不審に思ったアキトはムネタケが去った後、ウリバタケに声をかけてみた。彼がウリバタケに何を言ったのか聞いてみるために。

ウリバタケ「さぁな。わからん。
 何をあんなに焦っているのやら・・・」
アキト「そうですね・・・」

アキトはきな臭いものを感じた。
アキに見せる敵愾心みたいなもの・・・
アキトはしばらくここに顔を出してみることにした・・・



疼く夢


バカにされる毎日
理想と現実は違う
誰もがヒーローになれるわけではない
ヒーローになるのは一握りの人間達だ
それは本人の意思に関わりなく
どんな下種でもヒーローになりうる。
そしてどんなに願ってもヒーローになれない奴はいる
どんなに願ってもヒールにしかなれない奴もいる・・・

「ったく、提督の息子だから少しは気のいい奴かと思えば・・・」
「物覚えは悪い。要領は悪い。上手いのは逃げることぐらいだもんなぁ」
「俺、お前と二度とチーム組まねぇ!足手まといなんだよ!」
「いくら提督の息子さんだからっていい気になるなよ!」
「提督は出来た人なのになんでコイツはこんなに愚図で性悪なんだ?」

なによ、パパと比べることないじゃない!
そりゃパパにとってあたしは面汚しかもしれないけど、あたしだって頑張っているのよ!
それのどこが悪いのよ!

「今回は大目に見てやるが、それは提督の息子さんだから特別に猶予してやるんだ。
 次はないと思え!」
「提督も不肖の息子を持ったものだ・・・」
「戦略シミュレーションもダメ、戦闘訓練もダメ
 さてさてどうやって合格させてやるかだけど・・・」

なによ、人を見下して!
力があれば良いって言うの?
きっとあんた達を顎で使ってみせる!
そのためには偉くなる!
どんなことをしてものし上がってみせる!

それがパパの名前に傷を付けない方法なのだから・・・



Yナデシコ・格納庫


今日もムネタケ監視のためにウリバタケのジオラマスペースにやってきたアキト。
だが、ウリバタケはせっかく作ったエステバリスを手に持ってなにやらしていた。

アキト「セイヤさん何やってるんですか?」
ウリバタケ「これか?」
ウリバタケはせっかく奇麗に塗装できてるエステのプラモに対してデザインナイフでガリガリと引っ掻いていた。

アキト「あ〜〜!!!」
ウリバタケ「あ〜ってなんだよ」
アキト「せっかく奇麗に塗れているのに〜」
ウリバタケ「うるさい奴だなぁ、擦り傷の再現だろ?」
ウリバタケはさも当然のようにガリガリやっていた。

続いてダークグレーの水性塗料を付けたブラシを取り出しペタペタ塗った後、素早く布で表面を拭き取る。

アキト「何をやってるんッスか?」
ウリバタケ「これか?スジ入れだよ。
 ほら。」
ウリバタケはエステを見せる。
するとさっきガリガリやって溝になったところに塗料が残ったままとなっている。

アキト「これってわざと黒いのを残してるんですか?」
ウリバタケ「そうだ。こうすると塗装ハゲをリアルに再現できるし、傷にメリハリがつく。リアルだろ?」
アキト「確かに・・・」
ウリバタケ「ディテールが甘いときはさらに装甲の分割ラインなんかもスジ彫りしてやって、同様にスジ入れしてやるとさらにリアルになる」
アキト「うわぁ、細かい」
ウリバタケ「こういう小さい手間が作品の完成度を上げるんだ。
 やりすぎは良くないけどな。要はセンスとバランスだ。
 そして極めつけは・・・」

ウリバタケはハンドドリルを取り出すとプラモにちょんちょんと押しつけて穴を開けた。

アキト「何やってるんッスか?」
ウリバタケ「何って被弾跡の再現。あとでデザインナイフでこう、ウリウリすると・・・ほらリアル♪」
アキト「あ、あはは・・・」

確かにリアルだが・・・パイロットにはちと縁起でもない。
それが自分の機体カラーのエステだったりすると少しシャレにならない。
パイロットならお目にかかりたくないリアルさだ(苦笑)

と、そこに・・・・

???「甘い!!!大甘だわ!!!」
ウリバタケ「なに!?」
アキト「そ、その声は!?」

逆光を浴びて仁王立ちする白衣姿の女性の姿がそこにあった!!!

サリナ「プラモデルの事ならこのガンプラクイーンと呼ばれたサリナ様にお任せよ♪」
ウリバタケ「このメカフェチ女!!!」
アキト「あ・・・この人も乗ってたんだ・・・」
ウリバタケは天敵が現れて威嚇のポーズを取るし、アキトは面倒なことになったと頭を抱えた(笑)

サリナ「あなたは間違っているわ!」
ウリバタケ「どこが間違っているって言うんだ!」
サリナ「似非リアルだからよ!」
ウリバタケ「これのどこが似非だ!」
サリナ「まずエステにはディストーションフィールドがある。
 従って小さな銃弾はほぼ防げる」
ウリバタケ「う!」
サリナ「よしんば、フィールドを突き抜けるような銃弾だとしてもそれは質量の大きいインチ砲のものか、レールカノンにより高速射出されたもの!
 で、前者の場合はそんなに小さな穴は開かないし、もっと破損箇所は大きくなる!
 後者に至っては通常、貫通するので後ろにも貫通した穴を開かないといけない」
ウリバタケ「う!」
アキト「おお〜」
サリナ「第一、エステの装甲をなんだと思っているの?
 鉄板じゃないのよ?強化プラスティックよ。
 あ、プラスティックって言っても下手な鉄板より堅いし、丈夫よ。同じプラスティックっていっても20世紀では想像できないような素材ってことよ。
 で、その強化プラスティックが被弾してそんな穴みたいな開き方するわけ無いじゃない。
 衝撃を吸収するためにもっとこう波紋が出来たように歪むのよ。」
ウリバタケ「う!」
サリナ「しかもその汚しはなに?
 それゼロG戦でしょ?泥ハネ、油ハネなんてあるわけないじゃない。
 今時、ホコリを嫌ってエアフィルターや超音波洗浄で徹底的に機体を奇麗にしているのに、汚れがリアルなわけないじゃない」
ウリバタケ「う!」
アキト「そう言われれば・・・」
サリナ「ヤダヤダ。戦車なんて流行っていた旧世界のテクニックを使って今のエステをリアルに見せようなんてちゃんちゃらおかしくて鼻水が出ちゃいますわ」
ウリバタケ「さっきから黙って聞いていれば!!!」

痛いところをいちいち突かれてとうとうウリバタケがキレた。

ウリバタケ「なにおう、俺様のテクにケチ付ける気か!」
サリナ「ええ、まぁあなたは○宮系だから、バリ取りとか分割ライン埋めてやるのがプラモの基礎だとか思っているんでしょうけど、時代は変わったのよ!
 バ○ダイ系は分割ラインが目立たないようにパーツ割りされているから塗装してから後ハメが出来るし、合いもピッタリ。
 成形色もほとんど塗装前と変わらないからサフェーサーもほとんど入らない。
 プロポーションもディテールもバッチリだからベストな状態がすぐ手に入るわ」
ウリバタケ「バカ野郎!そんなもののどこが楽しい!
 誰が作っても出来が良いって事は誰が作っても代わり映えしないって事だろうが!
 そんなんだからパテを盛って微妙なラインを修正しようとか、俺だけの解釈を入れてよりかっこいい作品に仕上げようとかそういう骨のあるモデラーがいなくなるんだ。
 第一、そんなもんキットにならなくてもフルスクラッチで組めるのが真のモデラーだろうが!!!」
サリナ「なに言ってるんだか。
 悔しかったら完全変形のバ○キリーでも作ってみなさいよ。
 どうせプロポーション重視とか言ってファイターしか作らないんでしょうけど。」
ウリバタケ「うるさい!
 んなにいうなら、いくら市販でポリキャップが出回っているからってむやみやたらに可動させれば良いってもんでもないだろうが!
 どう頑張ったって曲がるはずのない関節を無理矢理設定にない二重関節にして『ほら正座できました♪』っていったって全然リアルじゃないんだよ!
 そんな事するぐらいなら端からポーズ固定の方がかっこいいぜ!」
サリナ「なによ!ガイーンはモデラーのロマンよ!」
ウリバタケ「ポーズ固定をバカにするな!
 ポーズ固定は動きのあるシーンの臨場感を封じ込めるのがもっとも難しいんだ。
 ろくなポーズも取れなくて臨場感もへったくれもなくなったモデルを作って悦に浸っているようじゃまだまだだな。」
サリナ「だいたい汚しなんて今時古いのよ!
 今はつや出し!半透明!磨き上げられた美しい筐体が流行なのよ!!!」
ウリバタケ「んな、ラッカー吹きかけて終わりの仕上げなんて願い下げだね!!!」
サリナ「なんですって!!!」
ウリバタケ「なんだよ!」

互いの主義主張を譲り合わない二人。

ウリバタケ&サリナ「どっちが上だと思う!!!」
アキト「いや、聞かれても・・・よくわからなかったッス(汗)」

ほとんどマニアックな会話に全然付いていけなかったアキトであった。



???


「浸食深度は?」
「+5%増加」
「精神汚染が激しいわね。
 どうする?」
「自浄作用は働きますか?」
「難しいですね。思考がループ状にこう・・・スパイラルに固定されています。
 しかもアンカーとして抑圧された感情を利用しています」
「さながらクラインの壺って感じね」
「でも、どうします?」
「排除しかないでしょう」
「殺しちゃうんですか?」
「元々の歴史はそうなんだし、ほっといても自爆するでしょう」
「でも・・・」
「もし野放しにして歴史が逆転(inverse)されちゃったら?」
「・・・」
「・・・とりあえず三人に待機してもらって下さい。様子を見ましょう」



Yナデシコ・訓練施設


今日もアキトの訓練は続く。
だけど・・・

「・・・」
「アキト君、どうしたの?」
「いえ、何でもありません」

どうしても気になる。扉の影から見ているムネタケの視線が。
まるで殺気を漲らすようなその視線がアキトにはどうしても気になった。

アキト「アキさん・・・気にならないんですか?」
アキ「なにが?」
アキト「いや、外のアレが・・・」
アキ「別に」

アキは振り向きもせずあっさりと答えた。
彼女にとっては見られたからといってどうって事ないし、今はアキトの訓練の方が重要だった。

アキ「アキト君、それより訓練に集中する!」
アキト「は、はい!」

だが、このことがよけいムネタケを追いつめているなんて気づきもしないアキであった・・・



疼く夢


無視された。
イジメを受けているときの方がまだマシだった。
自分は人間として扱われた。

でも口も聞いてくれなくなった。
視線も合わせてもらえなくなった。

点呼で自分の名前を呼んでもらえなかったとき
自分の名札がはぎ取られていたとき
意見を聞いてもらえなかったとき
発言を聞かなかったことにされたとき

どれだけ辛かったか、あんた達にわかる?

『仕方がない、お前はとるに足らぬ存在だ』

そんなことないわ!
あたしは偉いのよ!

『そんなことはない。その証拠にお前の存在を無視している。
 気づいているはずなのに。
 わかっているはずなのに無視している。
 とるに足らない存在だから。
 お前が何をしても大したことなど出来ないと高を括っているから無視しているのだ』

あたしはやるときはやるのよ!
そうやって今までのし上がってきた!
提督にだって、准将にだって成り上がった!

『でも彼女は振り向かない。
 彼女はそんなものに魅力も感じない。
 彼女は強い男にしか興味がない。
 その証拠に若い男には目をかけている。
 強い男になら目をかけている。
 でもずるがしこいだけのお前など見向きもしない。
 いざとなればどうとでもあしらえる。
 何かしても脅せばビビって腰砕けになると知っているから
 だから無視している。』

なによ!
あたしはもう逃げないのよ!
崖っぷちなの!
絶対あんたを振り向かせてみせる!
あたしの足下に跪かせてみせる!
絶対に!!!



Yナデシコ・格納庫


今日も作業の進捗具合を確認しに来て当たり散らしたムネタケ。
模型を作るフリをしてその様子を監視していたアキトであるが、そのムネタケの勝手な言い分に辟易していた。

ムネタケに言われ放題のウリバタケだが軽く聞き流しているようだった。
何で言い返さないのだろうとアキトは思う。

ウリバタケは

「ああいう手合いは理屈を言っても理解しないんだ。
 どうせあれは失敗作なんだ。完成品を見たら諦めるだろう。
 アキトも余計なこと言ってややこしくするなよ?」

などといってあしらうつもりのようだった。

でも・・・・
アキトには自分の出世のために他人の功績を横取りしようなんて考え方が許せなかった。
もちろん、そこにはアキの後をつけ回しているという彼への嫌悪が混じっていることは疑いもなかったのだが・・・



Yナデシコ・食堂


アカツキ「何やってるんですか?男二人見合いあって。
 とうとう提督にたらし込まれた?」
ホウメイ「どちらかというと俺の女に手を出すな・・・って奴かねぇ(苦笑)」
アカツキ「ふぅ〜ん。まぁ提督もちょっぴりストーカー入ってたからテンカワ君の気持ちもわからなくはないけど・・・余計なお世話じゃないのかなぁ」
ホウメイ「若さ故の過ちか・・・まぁ直球勝負がどこまで通じるのやら」

という外野のひそひそ話に気にすることなく、アキトはムネタケを呼びだし直接話を付けることにした。

ムネタケ「その暑苦しいアニメ、止めなさいよ」
アキト「いいじゃないですか」

アキトはあえてゲキガンガーのビデオを後ろのスクリーンに流した。
提督に熱血と正義をサブリミナルで刷り込もうという作戦らしいが・・・
そりゃ無理だろう(苦笑)

ムネタケ「何よ。用がないなら帰るわよ」
アキト「話聞いてもらうだけです。それにエクスバリスのパイロットが必要なんでしょ?」
ムネタケ「・・・わかったわよ」
アキト「提督、何を企んでるですか、エクスバリスなんか使って」

あまりに直球すぎる直球に後ろではダメダメって首を振っていたが、アキトはお構いなしに続けた。

ムネタケ「どうもしないわよ?軍は敵の巨大兵器と対等に渡り合える兵器が欲しい。
 ただそれだけよ」
アキト「何でですか?月面フレームだって、PODだってあるじゃないですか
 それを今更・・・」
ムネタケ「・・・」
ムネタケは答えない。
既に誰かが立ててしまった手柄じゃダメなのだが、それを正直に言う義理もなかった。

アキトは攻める方向を変えることにした。

アキト「提督はそんなに出世したいんですか?
 他人の功績を盗むようなマネをして・・・」
ムネタケ「・・・」
アキト「まだ軍を信じてるんですか?
 提督だって騙されてたんでしょ?
 軍に奴らが同じ人間だって教えてくれなかったんでしょ?
 なのになんでその軍で出世なんて・・・」

アキトはそういう。彼の正義感から言えばそうだ。
だが、ムネタケの口から出たのは『大人』の発言だった。

ムネタケ「・・・あんた、何にもわかっていないのよ」
アキト「な!」
ムネタケ「力のない正義なんて何の意味も持たない。
 それはあんたがこの前言った事じゃない」
アキト「いや、それは・・・」
ムネタケ「違うっていうの?
 じゃ何であんた達はこんなコッパ役人のあたしに使われているの。
 力がないから、権力がないからでしょ。
 力のない奴は自分の信念一つも貫けないのよ。
 だからあたしはあたしの正義のためにのし上がるのよ!」
アキト「・・・」

アキトは言い返せなかった。
信念を貫くだけの力が欲しくてアキに教えを請うているアキトに言い返せるはずもなかった。

アキト「・・・提督の正義ってなんですか?」
ムネタケ「そんなもん、あんたに教える義理なんかないわよ」

そういうとムネタケは席を立った。
アキトは首を振り、敗北を悟った。

不意にどこからか聞こえる。
『レッツゲキガイン!』
アキトがまだビデオをつけていたようだ。

「あたしにだって信じていた正義ぐらいあるわよ・・・」
ムネタケはそれを聞いてポツリと呟いた。誰にも聞こえない声で・・・

ヒカル「ホウメイさん、使い古した茶こしあります?」
ホウメイ「何に使うんだい?」
ヒカル「えへへへ♪」
ムネタケと入れ違いに入ってきたヒカルの声がなぜか食堂には場違いだった。



Yナデシコ・格納庫


で、もらった茶こしはというと、ジオラマの雪降らしに使われていた。

ヒカル「わぁ、奇麗♪」
ウリバタケ「だろ?雪は重曹で表現するのが一番リアルなんだ」
ヒカル「こっちに降らせてもいい?」
ウリバタケ「ああ」
ヒカル「わーい」

ヒカルは無邪気にジオラマの模型達に雪を積もらせていった。
雪の中での戦闘風景らしい。

何気なくヒカルを横目に見るウリバタケ。

すると普段はそうでもないのに女の子が可愛く見える一瞬があるみたいだ。
無邪気で装っていない笑顔
重曹の粉が体に付着しているのだがそれがキラキラ光って彼女を飾った。

『・・・・なんだよ』
ウリバタケは年甲斐もなくときめく自分に驚いていた。
そして思わず声をかけようとしたとき・・・

ウリバタケ「ヒカ・・・」
ヒカル「ん?」
ムネタケ「ちょっとあんた!いい加減にエステバエックス完成させなさいよ!!!」

とうとう業を煮やしたムネタケが最大級のボリュームで怒鳴り込んできた。
出鼻をくじかれて興ざめしたウリバタケは素っ気なく答えることにした。

ウリバタケ「もう出来てるよ」
ムネタケ「出来てるの♪」
ウリバタケ「だが・・・」
ムネタケ「だが?」
ウリバタケ「失敗作だ」
ムネタケ「失敗作!?」

ウリバタケの思いがけない言葉にムネタケは目を丸くした。



Yナデシコ・ウリバタケ秘密工房


そこにあるのは完成品のエクスバリスである。
ムネタケにはそれが失敗作かどうか見分けがつかなかった。
だが、ウリバタケは理由を滔々と述べた。

ウリバタケ「言ってなかったっけ?」
ムネタケ「聞いてないわよ!」
ウリバタケ「グラビティーブラストを撃てるように重力波の変換効率を上げたのは良いけど、ジェネレータからの戻りが酷くてねぇ。
 機体に大量のエネルギーの変動を吸収しきれないから、グラビティーブラストを発射する為のエネルギーが貯まる頃には・・・ドカン!
 とまぁこうなるわなぁ」
ムネタケ「そ、そんな・・・」

愕然とするムネタケ

ウリバタケ「まぁ俺が趣味で始めたことだ。失敗して文句を言われる筋合いは・・・」
その言葉を聞いたムネタケはウリバタケに掴みかかった。

ムネタケ「なんとかしなさいよ、あんた!
 あたしはエステバエックスに命かけてるのよ!」
ウリバタケ「出来ねぇものは出来ねぇって!
 エネルギーチャージをゆっくりすればせっかくのエステの機動力が無意味になる。とはいっても今のエネルギーを吸収できる素材が見つからねぇ。
 元々そういう素材が見つかるまで気長に作るつもりだったんだ。
 急かしたあんたが悪い!諦めろ!」
ムネタケ「こっちは崖っぷちなのよ!ギリギリなの!
 諦めろなんて簡単に言わないでよ!」

ウリバタケを思いっきり締め上げるムネタケ
だが、

ユリカ「提督、見苦しいですよ」
アキト「止めて下さい、提督」
それを救ったのはユリカとアキトであった。
アキトがムネタケを羽交い締めにして、ユリカが二人を引き離した。

ムネタケ「離しなさいよ!」
アキト「セイヤさんを責めたってどうにもなんないでしょうが!」
ムネタケ「あんたに何がわかるって・・・」
ユリカ「提督も軍人の端くれなら、引き際ぐらい心得て下さい。
 お父様の名前に傷が付きますよ?」
ムネタケ「!!!」

その言葉を聞いたムネタケは力無く項垂れた・・・



Yナデシコ・ブリッジ


アキト「これで提督、おとなしくするかな・・・」
ユリカ「結構気落ちしていたみたいだから・・・」
アキト「・・・・」
ユリカ「悪いことしたと思ってる?」
アキト「いや、そんなことないけど・・・」

人を踏み台にして成り上がろうとしたムネタケが嫌いだったアキトだが、憔悴したムネタケを見るのは忍びなかった。

いや、それ以上に力だけに固執した彼の姿を見てどこか疚しさがあったのかもしれない・・・

だが、事はこれで一件落着していなかった。



Yナデシコ・食堂


力無く項垂れて椅子に座るムネタケ
あまりにも気の毒すぎて声をかけるものもいなかった。
時折、ホウメイが閉店である旨を伝えているが聞こえていないのか、聞き流しているみたいだった。

仕方がなく、ムネタケの席以外は照明が落とされていた。
まるで今の彼にピッタリの光景だった。

と、そこに・・・

「て・い・と・く♪」
「・・・あんた、会長秘書・・・」
「ノンノン、私はその妹でエステバリスのエンジニアをしているサリナ・ウォンって言います♪」

彼に声をかけたのはサリナ・キンジョウ・ウォンであった。
誰も見向きもしないこの男にすり寄ってくるなんて下心があるに違いない。
ムネタケは素っ気のない返事をした。

ムネタケ「押し売りならゴメンよ」
サリナ「押し売りじゃないですよ。
 提督、あのエステバリス動かしたいでしょ?」
ムネタケ「・・・なんですって?」
サリナ「私ならあれの欠陥、直すこと出来ますよ♪」
ムネタケ「・・・何が目的よ」

ムネタケの目の色が変わったのを見て、サリナは餌に引っかかったと確信した。

サリナ「大したことじゃないですわ。
 ちょっと提督のパスコードで見たい資料があるだけですわ」
ムネタケ「見たい資料?」
サリナ「ええ。最近クリムゾンが欧州方面軍と共同で機動兵器を開発しているらしいんですけど、これがなかなかガードが堅くて。
 ほんのちょこっと提督のパス経由でアクセスすると情報が手には入ったりするですよねぇ・・・」
ムネタケ「あたしに軍を裏切ってネルガルに寝返れって?」
サリナ「そうじゃないです。提督がトイレに立った時、誰かが端末を触った・・・ただそれだけですわ。」
ムネタケ「あたしがそんな手に乗ると思う?」
サリナ「選ぶのは提督ですわ。
 まぁ座して待っても窓際の生活、
 上手く行けば中央に返り咲き、
 仮に事実が露見すれば情報漏洩で降格。
 どれを選ぶかは提督次第ですのよ?」

サリナはにっこり笑って決意を促した。

ムネタケは座して待つようなことはしなかった・・・



Yナデシコ・格納庫


ヒカル「・・・もう、ここには来ないね」
ウリバタケ「ヒカルちゃん・・・」

去っていくヒカルを追えなかったウリバタケ。
遅咲きの花を開かせようとアタックはしてみたものの、見事に玉砕してしまったらしい・・・

「同じ趣味同士だからって・・・恋愛に発展するとは限らなんよなぁ・・・」
ウリバタケはくしゃくしゃと頭をかいた。
自分勝手な理想を相手の女の子に押しつけた報いだということを改めて思い知らされた・・・

とはいえ、ウリバタケがヒカルのお尻を追いかけていた間、彼の秘密工房に入り浸っていた女性がいたことなど気に留めているはずもなかった・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ユリカ「PODと」
アキト「エクスバリスの模擬戦!?」
アキ「あたしッスか!?」
ムネタケ「そうよ!!!」

ムネタケがぶちあげた内容に誰もが驚いた。

ウリバタケ「おいおい、あれは欠陥品だって言っただろ!」
ムネタケ「あれ、この子が直したわ」
ウリバタケ「え?」
サリナ「おハロ〜」
ウリバタケ「お前!」
アキ「あ・・・・・・(妙に納得)」
エリナ「サリナ、あんたまた変なことに首突っ込んで!!!」
サリナ「提督が可哀想だったもんでつい〜」

可哀想だからといってこの女が手助けするか?
全員疑惑の視線を彼女にぶつけるが、そんな視線などどこ吹く風だ。

ウリバタケ「あれはエネルギーのキャパ・・・」
サリナ「キャパシタンスの容量が小さすぎる・・・っていいたいんでしょ?
 欠点ぐらいわかってるわよ」
ウリバタケ「ならなんで・・・」
サリナ「バカねぇ。私が今まで何を作ってきたと思っているのよ」
ウリバタケ「何って・・・あ!」

彼にもわかったようだ。
そう、PODだ。
あの機体はエクスバリスと同じ悩みを抱えているはずだ。
レールカノンを使用するための大電流を供給できなければいけない。
だがむやみにジェネレータだけを強力にしてもエクスバリスと同じジレンマに陥る。
そこで彼女が解決した方法とはCC組成の装甲を使用することだ。
これそのものが強力なキャパシタンスとして激しいエネルギー流入を調整してくれる。
その技術を応用すればエクスバリスの欠陥は直るはずだった。

アキト「サリナさん、なんで提督の為なんかに・・・」
サリナ「だって欠陥のあるメカがあったら直したくなるのがエンジニアの性だも〜ん」

嘘に決まっている!
誰もがそう思ったが、サリナは悪びれずにそっぽを向く。

ムネタケ「あんた、エステバエックスに乗ってアマガワ・アキと戦いなさい!」

ビシッとアキトに指さすムネタケだが・・・

アキト「や、やるわけないだろ!!!」
ムネタケ「何言ってるのよ!あんたがやらないで誰がやるのよ!」
アキト「って、提督本当にアキさんにアレで勝てると思っているんッスか?」
ムネタケ「・・・・・・ダメなの?」

アキトはフルフルと首を振る。
ムネタケが辺りを見回すが、アカツキも首を振る。
リョーコもヒカルもイズミも大慌てで首を振った。

そりゃそうだろう。
この前の戦闘を見たら。
テツジンや月面フレームが手も足も出なかった。
ゼロG戦フレームですら怪しいものだ。
なのにいくら月面フレームよりも多少機動性が良いぐらいの性能のエクスバリスが勝てるとも思えない。

アキ「まぁそういうことですから、提督も諦めて・・・」
ムネタケ「いいわよ!あんた達みたいな腰抜けに頼らないわよ!」
誰も尻込みしてやろうとはしないのに業を煮やしたムネタケはポケットから注射器を取り出した。

ジュン「そ、それは!」
彼には見覚えがあった。
ナノマシーンのインプラント用注射器である。
それをムネタケは迷わず首元に当てて注射した!

ユリカ「提督・・・」
誰もがその行動に驚いた。
地球人にはナノマシーン投与に対する抵抗感があった。
ナノマシーンを付けるなんてパイロットか手に職のない低所得者しか付けない。ましてや士官が付けるなんてプライドが許さないだろう。
それなのに躊躇いもなく注射するなんて・・・

ムネタケ「勝負よ、アマガワ・アキ!!!」
アキ「・・・・・・ハァ〜」

何故こうなったのか誰にもわからなかった。
もうこうなったら一度戦わないと彼にはわからないだろう・・・誰もがそう諦めていた。
年寄りの冷や水だ。すぐに敗北して諦めるだろう・・・

そう誰もが思っていた。
だが、それが大事件になるなんて誰も思っていなかった。
当のアキでさえ・・・



疼く夢


ゲキガンガーの何に惹かれたのかわからない。

緑の地球を守ることが格好良かったから?
戦うのが好きだったから?
正義の味方が格好良かったから?

問答無用で敵をなぶり殺しにしていいから?

違う
違うと思う
パパみたいになりたかったから
パパの軍が正義の味方だって思っていたから

でも現実は違う
木星蜥蜴も所詮は同じ人間だった
つまり軍はただの人殺しの組織だったのよ
ただその結果味方が守られるということで・・・
いや正確には違う
軍は自らの軍を守っているだけよ
結果その依り代である地球連合の政府と間接的にその民衆が守られているだけ
軍なんて所詮は組織防衛しかしないんだって軍人になってよくわかったわ

だからあたしはのし上がろうと思った
組織を変えるために
その為にはどんなものも利用しても権力を掴もうとした。

でも・・・あたしは今、何のために戦っているのだろう?

『それは正義のため』

そう、正義のため・・・

『父と自らの名誉のため』

そう、父の名声と自らの誇りのため

『レッツゲキガイン!』

レッツゲキガイン!



Yナデシコ周辺・宇宙空間


ムネタケ「いい、本当の本気でかかってくるのよ!」
アキ「はいはい」

一対一になって宇宙空間で対峙する二人
ヒカル達がどっちが勝つか賭をしようとしていたが誰もムネタケ勝利に賭けなかったので成立しなかった。

そんな下馬評はともかく、戦いは始まった。
最初は大方の予想通りアキが圧倒する形で進んだ。

アキ「提督、はやくギブアップして下さいよ」
ムネタケ「う、うるさいわねぇ!
 まだまだこれからよ!!!」
アキがムネタケのエクスバリスの周りをくるくる回りながらフィールドランサーでディストーションフィールドをつんつんつついた。
撃沈させるわけにも行かないのでそうやって諦めるまで待っているのである。
だが、ムネタケにはそれが屈辱だった。

テンカワ・アキトには出来てなぜあたしが出来ないの!
あたしは所詮ヒーローになれないっていうの?
あたしの方がゲキガンガーを好きだったというのに!
あたしの方が望む正義が高尚だというのに!
それなのにあんな奴らの方があたしより上だというの?

そんなの認めない!
そんなの・・・

だが、そんなムネタケに宇宙の彼方に一条の光が見えた。
それはなんと・・・彼方から飛来するゲキガンガーであった!!!

『そんなことないぜ!』
「あ、あんたは・・・」
『もはや魂の名といちいち断らなくても良くなったダイゴウジ・ガイ、推参!!!』
「ガイ・・・あんたゲキガンガーであたしを助けてくれるの?」
『俺は正義の魂に燃えるものの味方だ!』
「ガイ・・・」
『さぁ一緒にキョアック星人を倒そうぜ!!!』
「わかったわ!」
『レッツ!』
「ゲキガイン!!!」

ムネタケは拳を振り上げた。
目の前のアキがメカ怪獣に見えた・・・



Yナデシコ・ブリッジ


メグミ「提督、どうしたんですか?提督!」
ミナト「なんなの?ガイとかゲキガンガーって?」
メグミ「応答して下さい、提督!」
ムネタケのエクスバリスから漏れ聞こえる音声を聞いてブリッジのメンバーは訝しがった。様子を察するにゲキガンガーが来たらしいのだが・・・
そんなものどこにもいやしない。

ユリカ「アキさん、さっさと終わらせましょう。提督の様子がおかしいみたいです」
アキ「わかったわ」

そう言った矢先だった。

ムネタケ『ゲキガンフレア!!!』

バシュウウウウウウ!!!!!!!!

ルリ「エクスバリス、グラビティーブラスト発射」
ラピス「アキのPOD及び本艦直上を擦った。被害はゼロ」
ジュン「・・・・提督、マジで撃ってきた?」
ルリ「その様です」
プロス「提督は何を考えておられるのですか!直撃したらどれだけの損失が!!!」
ゴート「提督への通信回線を!」
メグミ「ダメです〜〜着信拒否されています!」

エクスバリスからの本気の砲撃にブリッジは騒然となった。

ウリバタケ「メカフェチ女!お前がエクスバリスを直したりするからこんな事に!」
エリナ「そうよ!どう始末を付けるつもりなのよ!」
サリナ「心配いらないわよ。どうせあと数発も撃てばおとなしくなるわ」
ウリバタケ「どういうことだ?」
サリナ「あのエクスバリスに使ったCC組成のキャパシタンスはPODを作ったときの余り・・・っていうか不純物の混じった不良品なの」
エリナ「不良品?」
サリナ「そう、不純物が混じると劣化が激しくて、2、3回使うと急激にエネルギー容量がダウンするの。」
ウリバタケ「お前、それって・・・」
サリナ「まぁPODを作るのですらひいこら言って良品かき集めたぐらいだから別に意地悪した訳じゃないわよ」

絶対この女、心の中で舌を出している・・・そう思う一同であった。

だが・・・事態は彼女の思うとおりには推移しなかった。

『ゲキガンフレア!!!』

メグミ「エクスバリスよりグラビティーブラスト!」
ミナト「もう、これで何回目よ!」
ユリカ「サリナさん、さっきの話って本当なんですか!?」
サリナ「・・・おかしいわねぇ。なんか使っている内に活性化しちゃった?」
ポリポリと頬をかくサリナ

サリナ「仕方ないわ。こんな事もあろうかと・・・」
サリナが取り出したのはボタンの付いた小さな箱だった。

ユリカ「なんなんですか、それ?」
サリナ「エクスバリスの自爆装置」
クルー一同「!!!!!!!!!!!」
サリナ「冗談よ。ただシステムをダウンさせるだけよ」
ユリカ「あなたの場合、冗談じゃ済まないんですから止めて下さい!!!」
サリナ「あたしなら・・・ってところが引っかかるけど・・・
 ポチっとな」

サリナは緊急停止のボタンを押す。

・・・・・・・・・・

ルリ「エクスバリスは元気にグラビティーブラストを発射してます」
サリナ「おかしいわね、えい!えい!」
イネス「解除されたんじゃない?」
サリナ「んなぁ、提督ごときにそんなマネが!?」

一同は騒然となった。
つまりそれはムネタケの暴走が止まらないということを意味していた。

ユリカ「エステバリス隊、発進して提督を取り押さえて下さい!
 もう模擬戦闘の域を越えています!」
ユリカが慌てて指示を出す。

だが・・・

アキト『誰だよ、俺のエステのデータを初期化したのは!』
リョーコ『なんで起動しないんだよ!』
ヒカル『早くゼロGに換装して〜〜』
イズミ『感想・・・飛び立てそうにない』
アカツキ『なんかよくわからないギャグだけど・・・右に同じ』

次々報告される出撃不可の回答

ユリカ「セイヤさん!?」
ウリバタケ「理由はわからんが、不幸な偶然が重なった!!!」
ユリカ「ってそんなことで済まされるんですか!?」
ウリバタケ「そうは言っても突発的に起こってるんだ!
 少し時間をくれ!!!」

格納庫は大混乱
何故そんなことが起こったのか誰にも説明は付かない。
ただウリバタケ達が怠慢をしていたからではなさそうだった・・・

ユリカ「アキさん・・・」
結局全てをアキに委ねなければいけなくなった・・・



???


「どういうことなの?」
「ターミナライズ(端末化)ですよ。
 今の彼は『始まりの人』の影響を受けて同質化してるんです。
 おまけにCCまで活性化されてしまっている・・・」
「そんなバカなことが・・・」
「だから恐ろしいんです。この時代の人間は『始まりの人』が定めた因果律に誰も逆らえない。
 つまり彼を攻撃することが出来なくなっている。
 そう『必然』が組み込まれてしまっているんです。
 たとえば水は上から下に流れるのと同じぐらいの当たり前なんです。
 どんなに不条理なシナリオでも自覚なく演じざるを得ないんです」
「これが『始まりの人』の恐ろしさなのね・・・」
「あたし達が出ようか?」
「たぶん無理でしょう。今度は私達が過去の人間に干渉できません。
 比較的影響の少ないアキさんぐらいしか相手になりません」
「やっかいな相手!」
「ってことは・・・彼らの出番?」
「・・・ですね。気の進まない役目を押しつけちゃいますけど・・・」



Yナデシコ周辺・宇宙空間


何度もグラビティーブラストを受けながらも何とかかわし続けるPOD
だが、こうもむやみやたらとグラビティーブラストを撃たれると近づきようがなかった。

「とはいえ、撃ち落とすわけにも行かないしなぁ・・・」
アキは忌々しげに呟く。
なるべくなら助けたい。
このままではレールカノンでエクスバリスを撃破しなくてはならなくなる。
だがそれでは歴史が変わらない。
何とかして助けたかった。

だが・・・

アキト『アキさん、エクスバリスを破壊して下さい!』
そう進言してきたのはアキトだった。だが、アキはきっぱり否定した。

アキ「ダメよ。助けるの」
アキト『何でですか!
 提督の目的は端からアキさんを殺すことですよ?
 なんで助ける必要があるんですか!』
アキ「やり直せないのって、なんか悲しいじゃない・・・」
アキト『え?』

一瞬悲しそうな顔をするアキだったが、それもつかの間

アキ「それよりも見ておきなさい。
 これが日常を捨てて力だけを追い求めた男の末路よ!」
アキト『え?それって・・・』

アキトがそのことに気づく間もなくアキはPODをエクスバリスに近づけようとした。

ムネタケ「あんたを行かせたら東京は火の海になるのよ!」
アキ「提督、正気に戻って!」
ムネタケ「守るべき正義は厳然として存在する!
 そして滅ぶべき悪もまた然り!!!」
アキ「提督!!!」
ムネタケ「そして滅ぶべき悪はあんたよ!!!」

放たれるグラビティーブラストをギリギリでかわしながらエクスバリスに近づこうとするアキのPODであるが、敵もさるもので微妙に発射軸を変えてかわしすぎるとナデシコに命中するように撃っている。
無論ナデシコもフィールドを張れるがYユニットとの接合の関係であまり調子が良くない。
で、庇おうとまた同じポジションに戻ってしまうというという悪循環を繰り返していた。

「なんで、ムネタケがこんなに強い・・・」
アキは毒づくがその理由を知っていれば納得したかもしれない。

段々、ムネタケのエクスバリスがPODを圧倒し始めた・・・



エクスバリス・コックピット


「あははは!これこそ正義の力!
 熱血の力!ゲキガンガーとガイとあたしの友情パワーよ!!!」
『そうだ、俺達の正義の力の勝利だ!』

大丈夫、誰が無視してもあたしにはガイが着いている。
あたしは正義の味方になったのよ
無敵なのよ!
今まであたしをバカにした者たちを滅ぼすのよ!

「提督!正気に戻って!」

何言ってるのよ、あたしは正気よ、アマガワ・アキ
あなたにあたしの方が上だって思い知らせてあげる。
二度と無視できないように
あたしという絶対の存在を植え付けてみせるわ!

『そうだ、なんせ俺達は正義のヒーローなんだからな』

そうよ、ガイもゲキガンガーも着いて・・・

バッサリ!!!!!!!!!!!!!!

何者かがガイとゲキガンガーを切り裂いた・・・

ど、どうしたの、ガイ!!!

『すまねぇ。これ以上俺の偽物に正義を語らせておくわけにはいかないんでな』

え?
斬られたガイの後ろに・・・ガイとゲキガンガー?

『お前さんに恨みはない。が、あんたを絡め取っている因果の鎖が俺にしか斬れないと言うならあえて斬ろう。
 済まない、許せ・・・』

許せって、ガイ、あんたあたしを裏切るの?
あたしは正義の味方よ・・・

『自分の姿をよく見ろ』

え?自分の姿って・・・
嘘!なによ、あたしってばメカ怪獣になってるじゃない
嘘よ!あたしはゲキガンガーに、正義の味方に・・・

『お前とは違う出会い方をしていたら親友になれていたかもな・・・
 さらばだ!
 超熱血斬り!!!』

嘘よ!
あたしは・・・あたしは・・・
ただ正義の味方になりたかっただけなのに・・・
パパ・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ナデシコのブリッジには『自爆』したエクスバリスの光景が映った。

ルリ「エクスバリス、識別消失・・・」
ユリカ「なんで・・・」
サリナ「さぁ・・・やっぱりCCの活性化が上手く行ってなかったのかしら」

一同はムネタケの死をエクスバリスの無茶な運転によるエンジンの暴走による事故死と断定した。
たぶんそれが誰も傷つかず一番穏便に済む方法だと思ったからに違いなかった。

だが、一人虚空を見つめていたアキにはその理由がわかっていた。
誰かが気を利かして真相を闇に封じ込めたのだろう。
あらゆる記録データにハッキングして
誰も傷つかない方法とはいえ・・・
結局自分は歴史も変えられず、手を汚すということを他人に押しつけたことに心を痛めるのであった・・・



Yナデシコ・格納庫


アキトは呆然としながらウリバタケの前でエステバリスの模型を弄くる。

『アキさんはあれが力だけを追い求めた男の末路だと言った。
 だったら今俺が強くなろうとしていることは正しいのだろうか?
 悲しそうな顔をしていたという事はアキさんはかつて提督と同じ様な事があったのだろうか・・・』
そんなことばかりを考えて悩んでいた。
そんなアキトを見てウリバタケはこう言った。

ウリバタケ「信じていたものに裏切られるって辛いよなぁ・・・」
アキト「・・・」

アキトが押し黙っていたのでウリバタケは続けてこう言った。
手元のジオラマを完成させながら。

ウリバタケ「ほら、完成だ!」
アキト「あ、凄いリアルですね」
ウリバタケ「だろ?でも所詮は模造品・・・バーチャルだ。リアル(現実)じゃない」
アキト「そりゃ・・・模型ですから・・・」
ウリバタケ「でもリアルとバーチャルの境目ってなんだろうな?」
アキト「え?」

アキトはキョトンとしていたが、ウリバタケはなおも続ける。

ウリバタケ「たとえば写真はありのままを写すっていうけど、そんなこたぁない。
 カット割りや現像の仕方、キャプションの付け方、いくらでも撮影者の主観が入り込んでくる。それは撮影者というフィルターを通して既にリアルからは改竄されている。
 それにCGで修正だって出来る。
 ドキュメンタリー番組やニュース番組に新聞、必ず誰かの主観で歪められている。
 唯一自分の見たものだけがリアルかもしれないが、それもどこかの誰かの演出かもしれない」
アキト「それじゃ現実(リアル)なんて無いって事ですか?」
ウリバタケ「でも、アニメや小説、絵画に映画なんかを見て人生観が変わるほど影響されることもある。人生を永遠に縛り付けられることもある。
 アキトだってゲキガンガーを見るの止められないだろ?」
アキト「確かに・・・」
ウリバタケ「そいつにとっちゃ、そのバーチャルこそが現実(リアル)だったのかもしれないよなぁ・・・」
アキト「それじゃリアルとバーチャルをどうやって区別するんですか・・・」

アキトはそんなバカなと思う。
現実と空想に境目がないなんて、自分は何を信じればいいのだ・・・

ウリバタケ「俺にとっちゃこれがバーチャル。そしてあれがリアルだ」
そう言うとウリバタケはちらりとセーラーバリスを見た後に最初にジオラマを指さし、その後に整備中のエステバリスを指さした。

アキト「それってどういう・・・」
ウリバタケ「これはあくまでも趣味、あっちはやるべき日常
 まぁその距離感だけわかれば十分だと思うぜ」
アキト「あ・・・」

アキさんの言っていた日常を捨てて強くなっても仕方がないってこういうことなのか
日常を見失って強さを求めたのがムネタケなのか・・・

じゃ、自分のリアルって一体なんなんだろう・・・
もう一度考えてみようと思うアキトであった。

ちなみに余談であるが・・・

ユリカ「ウリバタケさん、これって全然リアルじゃないと思うんですけど!」
ウリバタケ「はぁ?」

ユリカがいきなり乱入してきて手に持ったフィギュアを見せた。
ユリカのフィギュアとルリ、ラピスのフィギュアである。

ユリカ「あたしってこんなに胸ちいさくないし、ルリちゃん達だってこんなに大きくは・・・」
ウリバタケ「それはいわゆるバーチャルというか主観ってやつで・・・」
ユリカ「それにあたしよりアキさんのフィギュアの方が大きいなんておかしいですよ!
 この前、お風呂で胸を計ったらアキさんよりユリカの方が大きかったんだから!」
ウリバタケ「ば、バカ!そんなものどこから・・・」

ウリバタケはユリカがアキさんフィギュアを取り出したのを見て大いに慌てた。
それは極秘中の極秘の作品だったからだ。

なぜなら・・・

アキ「セ・イ・ヤ・さ・ん〜〜!!!」
ウリバタケ「ギク!」
アキ「作るなって言ったのにやっぱり作りましたね?」
ウリバタケ「いや、これには深い事情が・・・」
アキ「問答無用!!!滅殺!!!!」
ウリバタケ「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

アキトはその光景を見てさっきまでの格好良かったセイヤさんはなんだったのだ?と溜息をつくのであった。



Yナデシコ・ブリッジ


ルリ&ラピス「よろしく」
ミナト「二人とも、フィギュアなんか握りしめてどうしたの?」
メグミ「全国の造形師さん達にお願いしているんですよ」
ミナト「ああ、なるほど・・・」

ちょっぴり宣伝モードの二人であった。



ポストスプリクト


ということで黒プリ17話をお届けしました。

うぎゃぁ、結局大幅増量中って感じになりました(苦笑)
まぁ何とか詰め込めて、中編もできずに一安心です。

最終的にはムネタケがゲキガンチームに入ることもなくお亡くなりになりましたが
(そういう可能性も考えていたという・・・恐ろしい)
ある意味、TV版より残酷かもしれません。
TV版は最後の最後で裏切られていないわけですから。
そういった意味でムネタケ自身には救いようの無い終わり方をしちゃったわけですが、アキトにとってそれがどういう意味を持つか考えて欲しいところです

(っていうか、アキトがあっさり立ち直っているわけでもないってことなんですよ)

あとウリバタケ×ヒカルのシーンはあっさり終わらせちゃいました。
今回のストーリーの流れからすると蛇足になっちゃうので。
でも男側の身勝手な処女願望ってのも書いてみたかった気がします(笑)

次回18話はたぶんルリ編とラピス編という変わった分け方をすると思います。
内容は・・・これから考えます(苦笑)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・kakikaki 様
・Dahlia 様