アバン


時の秘密の七不思議
みんなの持っている疑問、質問に
説明しましょう、解説しましょう
本家説明お姉さんのサリナ・キンジョウ・ウォンによるなぜなにナデシコの開幕です〜

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



前口上


それは九頭竜の格納庫の端っこでこじんまりと行われた。

サリナ「3」
ラピス「2」
サリナ「1」
サリナ&ラピス「どか〜ん♪
 わーい〜〜」
サリナ「一億数千万人のなぜなにナデシコファンの皆さん、初めまして
 私が本家なぜなにナデシコのお姉さん、サリナ・キンジョウ・ウォンです。
 メカニックに関してはちんぷんかんぷんの元祖お姉さんイネス・フレサンジュと混同しちゃうかもしれませんけど間違えないでね。
 あ、間違えないか。私はあんな年増のおばさんじゃなく、ぴちぴちの21歳ですからね♪」
ラピス「亀のラピス・・・
 って、知らないよ?そんなこと言って改造されても」
サリナ「大丈夫。そのうち商標違反で訴えてやるから」
ラピス「あ・・・一応私は反対意見を述べたので記録係の人、よろしく」
サリナ「・・・」

しばし沈黙・・・

ラピス「っていうか、わざわざこんな着ぐるみ着せて何をさせる気?」
サリナ「えっと、inverse編の各所で出てきた私の技術的な会話の内容がよくわからなかったという読者さんがいらっしゃったので大々的に解説しちゃいましょうというのが今回の趣旨です♪」
ラピス「ふぅ〜ん」
サリナ「やる気なさそうね・・・」
ラピス「だって、それでなくても誰かさんがべらべらしゃべった解説で本編押し気味だったのに、まだ話したりないんだもん」
サリナ「・・・でも読者さんの疑問には答えないと!!!」
ラピス「単に知識をひけらかしたいだけじゃないの?」
サリナ「・・・・・じゃ解説いってみましょう♪」
ラピス「誤魔化したわね・・・」

ってことで何とかなぜなにナデシコは始まるのであった(笑)



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第16話 「僕たちの戦争」を始めよう<inverse編のおまけ>



シェル〜バッチ〜フィルタースクリプト


サリナ「ラピス、ちゃんとアキセカンドのデータ持ってきた?」
ラピス「問題ない。ちゃんと持ってきた」
サリナ「レイの方のデータも?」
ラピス「レールカノン制御用のAIでしょ?持ってきたよ」
サリナ「んじゃ、時間がないからデータを転送して。
 2研のサーバーへのパスコードを送るわ。
 もう通信が繋がるはずよ」
ラピス「了解。・・・・ログイン完了。
 セキュリティーシェル起動。直ちにデータ転送を開始する」
サリナ「転送が終わったらさっそくデータコンバートを開始して。
 リモートでバッチを流せばいいから。
 ここの端末でやるより万倍早いし、リソースは開けさせておいたから」
ラピス「了解。今から作り始める。5分で出来る」
サリナ「マニュアル読むだけでフィルタースクリプト作れる?」
ラピス「サリナ、私をなめてない?」
サリナ「なめてないけど、アクチュエータとかジェネレータの特性とかかなり違うから気を付けて。一応変換パラメータは実験データで出ているけどあまりあてにしないで。
 気持ちそのデータよりかはピーキーに出来ていて調整しづらいから。
 まぁ最終的には本人乗せて実機で微調整しないといけないんだけどね。
 調整しやすいようにしといてよ」

サリナ「さてさて、まずはこの場面ね。何をやっていたかわかる?」
ラピス「わかるも何も、データのコンバート」
サリナ「そうね、LinuxやUnixを使った方なら想像が付くかもしれないけれど、WindowsやMacの人にはわかりにくいかもね」
ラピス「っていうかこの時代にLinuxもWindowsもないと思う・・・」
サリナ「(無視して)わかりやすくいうと、この場面はラピスちゃんが持ってきたアキセカンドの制御データを2研のホストコンピュータに転送するだけでなく、その場でデータの加工までやってしまおうっていう場面なんです」
ラピス「何でそんな事する必要があったの?」
サリナ「1研のあるネルガル工場がすぐに襲われる事が予期できたからよ。
 だから一刻も早くPODを稼働できる状態にしなければいけなかった。
 そのためには2研のホストコンピュータとアクセスできる距離まで繋がったら早速データの転送とコンバートを開始しなければいけなかったの。」

ラピス「ふぅーん。でもシェルって何?」
サリナ「その前に、アキセカンドのデータを転送するだけでは意味がなかったという事を前提にして置いてね。」
ラピス「どういうこと?」
サリナ「PODは新品の機体だからいわゆるクラスチェンジ後で経験値はゼロ。そのままでは戦闘には使えない。だから少しでも経験値の存在する状態にしなければいけない。
 だからアキセカンドのデータを移し替えることでその差を埋めようとしたの」
ラピス「あ、ドラクエね」
サリナ「でもアキセカンドのデータをそのまま移植しても使えない。
 なぜなら全く別の機体で特性もかなり違うからね」
ラピス「F1と軽乗用車じゃ同じハンドルの切り方でも周り方に違いがあるってこと?」
サリナ「そう。でもある程度の共通点がある。
 つまりはデータを変換すれば使えるって事。
 だからそれを一刻も早く行うために九頭竜に着く前に変換処理をしていたってことになるわね。
 で、問題はその変換処理をどこでやっていたかということ」
ラピス「手元の端末じゃないの?」
サリナ「ぶぶ〜〜。この場合、ラピスちゃんは九頭竜にあるホストコンピュータで作業していたのね」
ラピス「でも私、連絡艇の中だから九頭竜に着く前にそんなコンピュータにさわれないよ?」
サリナ「さて、それで思い出して欲しいのがこの場面♪」

サリナ「んじゃ、時間がないからデータを転送して。
 2研のサーバーへのパスコードを送るわ。
 もう通信が繋がるはずよ」
ラピス「了解。・・・・ログイン完了。
 セキュリティーシェル起動。直ちにデータ転送を開始する」

サリナ「この場面はネットワーク越しにラピスちゃんは2研のホストコンピュータにアクセスしたことと同じなの。ちょうどダイヤルアップでプロパイダーにアクセスするようなものね♪」
ラピス「でもADSLならログインしなくても繋がるよ?」
サリナ「うちはまだアナログモデムなのよ!」
ラピス「・・・微妙に時代が違う気がするけど・・・」
サリナ「ともかく、私はラピスちゃんにログイン名とパスワードを発行し、ラピスちゃんを2研のホストコンピュータへアクセスさせてあげたの」

ラピス「でも最後のセキュリティーシェルってなに?」
サリナ「それにはまずシェルってなにか知らないといけないわね」
ラピス「シェルって・・・貝殻って意味?」
サリナ「元々の意味ではそうね。
 でもここではコンピュータのOSとオペレータを繋ぐユーザーインターフェイスって考えて」
ラピス「ユーザーインターフェイスってWindowsのスタートボタンやエクスプローラ、Dosのコマンドプロンプト、MacのアクアやLinuxのX-windowやCシェルってこと?」
サリナ「まぁ大体そんな感じね。
 でもここで言っているのはユーザーインターフェイスはホストコンピュータ自身にはなくラピスちゃんの手元の端末にあるという事。
 これをリモートアクセスと言い、ネットワーク越しに端末から操作コマンドが送られ、ホストが受け取り、実行結果を端末に返すの。この環境をここではシェルって言っているの」
ラピス「Linuxでいうtelnetやパソコン通信みたいな奴のこと?」
サリナ「そうだけど、セキュリティーシェルって付いているでしょ?」
ラピス「???」
サリナ「昔は実際のコマンドはアスキーコードっていって文字データが直接流れていたの。つまりネットワークを盗み見する人がいたら何をやっているのかわかるって事」
ラピス「そんなの危ない」
サリナ「だから今では暗号化して送受信しているの。
 今で言うところのSSHってのがそれね」
ラピス「でもさぁ・・・今って暗号化して送るの当たり前よね?
 なんでセキュリティーってわざわざ断るの?」
サリナ「・・・・・・
 さぁ次に行きましょう♪」
ラピス「誤魔化した・・・」

サリナ「転送が終わったらさっそくデータコンバートを開始して。
 リモートでバッチを流せばいいから。
 ここの端末でやるより万倍早いし、リソースは開けさせておいたから」
ラピス「了解。今から作り始める。5分で出来る」
サリナ「マニュアル読むだけでフィルタースクリプト作れる?」

サリナ「さて、このシーンだけど」
ラピス「リモートっていうのはネットワーク越しに九頭竜のホストコンピュータへアクセスする事ね?」
サリナ「そう思って良いわ」
ラピス「でもバッチを流すってどういう意味?」
サリナ「正確にはバッチ処理を流す・・・つまりはあらかじめ一括処理を投入して置いてって意味ね」
ラピス「だからそれがよくわからない」

サリナ「反対語にリアルタイム処理がある。
 つまりコンピュータに何か処理を与えて結果が出たらオペレータがその場で次の処理を指示してあげる。これがリアルタイム処理ね
 バッチ処理はその反対。
 あらかじめやりたいことをスクリプトファイルなどに記入しておいてそれを一括処理させるってことよ」
ラピス「う〜ん。リアルタイム処理でも処理をまとめて実行できるよ。
 何が違うの?」
サリナ「たとえば処理がA→B→C→Dの順番に実行するとしよう。
 リアルタイム処理の場合はAが終わったらBを実行し、Bが終わったらCを実行するという風に人間がいちいち指示しなければいけない。その処理が10分で終わるのか1時間で終わるのかわからない場合はずっと待っていなければいけない。」
ラピス「だからA→B→C→Dと連続で実行するようにプログラムを組めば・・・」
サリナ「ではその内のCとDだけをやり直したいとすればどう?」
ラピス「ん・・・プログラムの作り直しが必要」
サリナ「そうね。これでは柔軟に対応できない
 そこでバッチ処理はそれぞれのA,B,C,Dの処理を別々のプログラムにして置いて、それをスクリプトファイルと呼ばれるモノで順次呼び出してあげるようにするの。
 こうするとCとDだけ実行したい場合はA,Bを呼び出す記述を削除するだけで良いの。
 後はやりたい処理を全てまとめてスクリプトファイルにしてしまえば無人で自動的に結果が出るって寸法よ。」
ラピス「なるほど」
サリナ「意外かもしれないけど、開発用のワークステーションで使うシュミレーションプログラムはGUIなんかを使わずにコマンドベースのプログラムを使っているの。」
ラピス「ふぅーん」

納得した様子のラピスちゃん。
だが疑問はすぐに湧いてきた。

ラピス「ところでフィルタースクリプトってなに?」
サリナ「ああ、このシーンね」

サリナ「マニュアル読むだけでフィルタースクリプト作れる?」
ラピス「サリナ、私をなめてない?」
サリナ「なめてないけど、アクチュエータとかジェネレータの特性とかかなり違うから気を付けて。一応変換パラメータは実験データで出ているけどあまりあてにしないで。
 気持ちそのデータよりかはピーキーに出来ていて調整しづらいから。
 まぁ最終的には本人乗せて実機で微調整しないといけないんだけどね。
 調整しやすいようにしといてよ」

ラピス「そう。なにやっているの?」
サリナ「その前にまず、フィルターってなにか知っている?」
ラピス「エアコンに付いてるあれ?」
サリナ「まぁ、大体当たり・・・(汗)
 ここでは要らないデータを排除するって意味に捉えて」
ラピス「要らないデータ?」
サリナ「そう。アキセカンドのデータ全てが必要な訳じゃない。PODに全く存在しないデータは変換する必要がない。
 それをスクリプト言語で変換して削除してちょうだいって言っているのね。
 で、削除した後はアキセカンドのデータを実験で得られたPODのデータに合うように変換してってことね。ただ全く同じ機体じゃないから完全に同じにはならないし、実験データもあまり当てにはならないから参考程度にしてってことね」
ラピス「スクリプト言語?」
サリナ「まぁJavaScriptやperl、rubyみたいな奴ね」
ラピス「・・・よくわからない」
サリナ「普通のプログラミング言語はオールマイティーに使えるけど、こういうデータ変換に1回だけ作ってお終いっていうのは作りづらいのよ。
 こういうデータを加工するのに特化した言語があるって事ね」
ラピス「わかったような、わからないような・・・」
サリナ「WEBの掲示板なんかのCGI(ホームページ用のプログラム処理)にperlが多く使われるのはperlがデータ加工が得意からよ。無論、C言語でもCGIは作れるけど、お手軽さと出来上がりまでの期間とか考えるとやっぱりそういう専用言語の方が強いのよねぇ」
ラピス「なるほど・・・」←よくわかっていない



マスドライバー・九頭竜


ラピス「九頭竜ってDADDY FACEから採ったんですか?」
サリナ「違います(汗)」
ラピス「ちぇ・・・で、マスドライバーってなんですか?
 ドラグナーのパクリですか?」
サリナ「パクリって・・・
 私達が子供の頃は宇宙開発ブームで将来は宇宙に円筒形のコロニーがバンバン立つってやっていたんだけど・・・」
ラピス「なにそれ?もしかして婆さん?」
サリナ「ガンダムを見なさい、ガンダムを!!!
 コロニー落としやってるでしょう!!!」
ラピス「・・・ああ、あれがコロニーね。
 でもそれとマスドライバーが何か?」
サリナ「で、一番のネックは宇宙にどうやってコロニー建造用の物資を送り込むか。
 でもスペースシャトルのようなモノで毎回打ち上げるのは効率が悪い上にコストもかかる。」
ラピス「そうね。スペースシャトルの打ち上げ費用って一体いくらなんだろう?」
サリナ「そこで昔の人は考えました。地球から打ち上げるのは大変だけど月からならそんなに難しくないだろう・・・ってね。」
ラピス「なるほど、月は地球の重力の6分の1」
サリナ「それに大気ってやっかいな奴もないしね」

ラピス「でも何をどうやって送ったの?」
サリナ「月の鉱石をマスドライバー・・・つまりリニアモーターの超高速バージョンで射出したの。高速で射出すれば月の重力圏から脱出できるから」
ラピス「鉱石を?鉄とかじゃなくて?」
サリナ「そうよ。溶鉱炉とか宇宙に作った方が安く付くから。
 だって太陽はタダだし」
ラピス「なるほどソーラーレイね」
サリナ「あんただってガンダム知ってるじゃん・・・
 で、高速に射出する方法として初期の頃には電磁力によるリニアレールが使われていたの。でも重力制御が出来るようになると重力カタパルトが使われるようになったわ。だけど惑星間航行が一般的になるとマスドライバーが廃れてくるの」
ラピス「なぜ?」
サリナ「ここを読んで」

サリナ「でも、やがて小惑星帯へ航行が可能になると直接小惑星を引っ張ってきた方が安上がりって事になって、この施設もほとんど稼働することは無くなったの。」
アキ「ああ、サツキミドリ2号とかがそれなのね」

ラピス「なんで小惑星を引っ張ってきた方が安く付くの?」
サリナ「マスドライバーの欠点はでっかい鉱石が宇宙を飛び交って航路を塞ぐの。
 そして送り出した以上、どこかでキャッチしてあげなければいけない。
 まぁネットで捕獲したりするんだけど、結局はそこから溶鉱炉まで運ぶ手間がかかるのよ。なんせ、溶鉱炉のすぐそばに打ち込むと万が一外れた場合溶鉱炉に直撃しちゃうでしょ?
 その点小惑星は穴をくりぬいて溶鉱炉に放り込めばいいし、くりぬいた空間は居住区やその他の施設に使える。そういう建造費なんかのコストを考えると小惑星の方がお得って訳ね♪」
ラピス「うん、よくわかった。」



ネルガル2研


サリナ「第1研究課は主に戦艦を、第2研究課は機動兵器を開発しているの。
 けど、ネルガルは元々重船工業で発展してきた会社だから造船関係・・・つまり1研のエリート意識が強いの。2研をいつもおまけ扱い!
 機動兵器は我々の作った戦艦のおまけ、付属物だ。せいぜい戦艦が売れるようなオプションを作ってくれよ・・・っていうのよ!?
 もう嫌みったらしいったらありゃしない!
 おまけにもう工場には場所がないから、この廃墟を使えですって!
 頭にくる!!!!」

ラピス「1研、2研って第1研究課、第2研究課の略なの?」
サリナ「そうよ。正確にはネルガル宇宙事業部・兵器開発本部・基礎研究部・第1研究課及び第2研究課というの」
ラピス「早い話が1研が戦艦作って、2研が機動兵器を作っているのね?」
サリナ「そうね。でもここでは試作品や基礎技術を用いた兵器を作製しているの。
 実際に量産するための製品を開発しているのは別の課よ。
 もっとも、軍需関係で試作品がそのまま商品になって量産なしってパターンが往々にしてあるのよ。」
ラピス「どういうこと?」
サリナ「ナデシコとかエステバリスとか今のところ本格量産する予定がないじゃない」
ラピス「あ、なるほど」

ラピス「でも、なんで1研と2研って仲が悪いの?」
サリナ「う〜ん、それはネルガルは今でこそ巨大企業だけど元々造船工業から興ったの。つまりは戦艦を作る部署が一番の花形ってことね」
ラピス「ああ、それで」
サリナ「で、戦艦だけではなくその他のオプション・・・つまり機動兵器にも手を染め始めたんだけど・・・社内ではいわゆる乗用車のカーステレオとかエアコンとかそんな扱いに見られているの。如何に収益率の高い戦艦を魅力的に見せるオプションパーツか・・・
 私達の作っているエステバリスもそんな位置づけになるのね」
ラピス「なんで?」
サリナ「だって、エステバリスって母艦がないと動かないわよね?」
ラピス「あ、そうか」
サリナ「エステバリスという魅力的な機動兵器、それを運用するためには重力波ビームを送信できる相転移エンジンを持った戦艦が必要・・・
 つまりそういったシステムを一体で売っていきたいってことね」

サリナ「まぁそれでも今までは専門が違うから表面上はぶつかることはなかったけど、あいつら、なんと機動兵器に手を出し始めたの」
アキ「機動兵器って・・・エステバリス?」
サリナ「そう、あの月面フレームよ。
 相転移エンジンをつけんが為にサイズがべらぼうに大きくなってしまった。
 しかも私達に何の相談もなしにエステバリスブランドをつけるの!!!」

ラピス「戦艦作るはずの1研がなんで月面フレームなんて作り始めたの?」
サリナ「やつらが相転移エンジンの研究開発を他部署に渡さないから」
ラピス「渡さない?」
サリナ「だって相転移エンジンなんてテクノロジードライバーじゃない」
ラピス「テクノロジードライバー?」
サリナ「つまり今後中心となる技術・・・つまりお金になって利権を握れる技術って事ね。それを誰が他人に渡すもんですか!」
ラピス「あ、そう」

サリナ「でも月面フレームって結構引き合いがあるの」
ラピス「なんで?」
サリナ「スタンドアローンで使えるから」
ラピス「それがそんなに嬉しいの?」
サリナ「嬉しいわよ。だって戦艦買い換えないでいいもの」
ラピス「どういうこと?」
サリナ「エステバリスを採用するとしたら重力波ビーム照射装置とエステバリスの支援システムが必要でしょ?」
ラピス「そうだけど」
サリナ「となると、相転移エンジンクラスのジェネレータは必要だわ、コンピュータシステムは入れ替えになるわで、新品買った方がいいってことになる」
ラピス「でも、ネルガルはナデシコ売りたいんでしょ?」
サリナ「でもそのためには戦艦を買い換えるだけの費用が必要よ。
 とてもじゃないけどお金なんか払ってられないわ。
 それに兵士の教育も全く異なるモノになる・・・
 わかっていてもすぐに装備や組織がすぐに変わったりしないってことね」
ラピス「だからスタンドアローンで使えればすぐに導入したい・・・ってことね?」
サリナ「そうね。それに月面フレームってレールカノンさえ当たれば接近戦しなくてもいいし」
ラピス「ふぅ〜ん」



専用機と汎用機


アキ「なにやってるの?」
サリナ「だから、PODをあなた専用に調整してるんじゃない」
アキ「私専用?」
サリナ「そう。本当はね、汎用性を求めるなら万人に扱いやすいように調整するのよ。IFSとかイメージ変換用のデータベースとか。
 でもそれだとどうしても細かいニュアンス、繊細なタッチ、微妙なコントロールが出来なくなってしまう。
 既製品の洋服は誰にでも着れるけど、必ずしも着心地のいいモノじゃないでしょ?
 だからオーダーメイドの服はその本人の体型をきっちり計って作る。
 でもあつらえた当人にしか着れないの。
 今やっているのはそういう採寸をしていることと同じなの。」

ラピス「結局PODってむちゃくちゃ強いの?」
サリナ「むちゃくちゃって程じゃないわよ」
ラピス「そうなの?」
サリナ「そうはいっても総合的に見れば・・・ってことね。
 部分部分を見れば他の機体よりも飛び抜けているわ。
 犠牲にしているところも多いけど」
ラピス「う〜んよくわからない」
サリナ「本当にいい機体ってのはまんべんなく性能が良いの。
 誰が使っても一定以上の成果を出せるモノを性能が良いっていうの」
ラピス「どういうこと?」
サリナ「たとえば火加減が難しいオーブンと火加減が簡単なオーブンはどっちが使いやすい?」
ラピス「火加減が簡単なの」
サリナ「そう、でも火力の調整は簡単でも最大火力が弱いとしたら?」
ラピス「え?」
サリナ「そう、あまり熱することが出来ないオーブンだったら・・・調理に時間がかかるわよね?」
ラピス「そうね」
サリナ「反対に火力の加減が難しいけど最大火力が強いオーブンだったら早くモノが焼けるわよね?」
ラピス「道理ね」
サリナ「本当にいいオーブンは最大火力も高く、しかも火加減が簡単なのがいいオーブンでしょ?」
ラピス「それはそうね」
サリナ「でもそれは今現在の技術で無理としたら?
 火加減と最大火力、どちらかを犠牲にしないと実現しないとしたら?」
ラピス「どこか程々のところで妥協するの?」
サリナ「そう、それが汎用性のある製品ってことね。
 でも難しい火力の調整なんか自力で出来る人にとっては火加減の難しさを犠牲にしても火力があるオーブンが欲しい・・・それがノーマルのゼロG戦フレームとPODの違いってわけ」
ラピス「おお、なるほど!」

サリナ「全力疾走をして一瞬で止まり反転する。その一連の動きによって上手い下手が発生する。
 基本的にエステバリスは標準的な理想値で制御されるようになっているけど、それはあなたにとっての理想値じゃない。仮にあなたの走り方は一瞬も止まらずに右左に動ける走り方かもしれない。でも他人にとってはそれは走りにくいだけかもしれない。」
アキ「ほ〜お・・・」
サリナ「本来そういうのは機体の性能を上げて個人の特質を吸収していくように調整するんだけど、あなたの場合はそうはいかない。
 私達の技術水準を凌駕している」
アキ「んな大げさな」
サリナ「大げさじゃないわよ。
 それが証拠に・・・・
 ラピス、パラメータは脈動してもいいからもっと絞って。この人、IFSの反応速度に追いつかない方が問題らしいから。」
ラピス「この制御系でもぶれちゃうよ」
サリナ「大丈夫。この人はそんなの力でねじ伏せちゃうから。
 それよりもっとアグレッシブに反応するように調整して」

サリナ「ちなみに技術革新ってのは素人でも使えるようにすることに他ならないの。
 たとえば現在の乗用車は電子制御でABS(アンチロックブレーキ)なんて本来ならプロじゃないと出来ないようなブレーキングを実現しているわ。
 でも・・・」
ラピス「でも?」
サリナ「ドライバーにとってはその電子制御が余計なお世話になることが往々にしてあるの。ドライバーによってはその制御を切る人もいる。
 アマガワ・アキはそういう口ね。
 なぜならもう一歩踏み込んだ操縦が出来なくなってしまうの」
ラピス「踏み込んだ操縦って?」
サリナ「たとえば着地したとき、脚部はその衝撃を吸収しようと膝を折るでしょ?」
ラピス「うん」
サリナ「この制御はIFSを通じて奇麗に衝撃を吸収できるように各アクチュエーターの動きを制御するの。これは過去の稼働実績から割り出した最適のデータで制御される。
 結果として理想的な形で停止できる。
 つまり転けないってことね
 でもアマガワ・アキはこれを嫌うの」
ラピス「なぜ?」
サリナ「なぜならそこで運動エネルギーがゼロになって安定するの」
ラピス「安定したらまずいの?」
サリナ「一度安定したらそこから動き出すのに新たな運動エネルギーが必要でしょ?」
ラピス「あ・・・」
サリナ「上手くすればその勢いのベクトルを別の方向に逸らせて向きを変えられるかもしれない。不安定って事は次の行動開始までの時間がコンマ何秒速くなるの。
 でもコンマ何秒は死を分けた戦闘では大きく響くわ。
 同じ性能の機体でも数秒後には何メートルもの距離が開くことになる。」
ラピス「おお!」
サリナ「でも下手をすればそれは転倒という危険性も孕んでいるの。コンマ数秒の反応の遅れも許されない操縦になる。
 まるで一輪車で1本のロープの上を全速力で走れ!って言っているようなものね」
ラピス「う・・・難しいのね」
サリナ「ちなみにV字型の翼を持った戦闘機ってあるよね?
ラピス「ファイヤーバルキリーね?」
サリナ「そっちに行くかい・・・。で、これが直進時は結構不安定なんだけど、これは不安定をあえて狙っているの。不安定だからこそ旋回時に素早い反応が出来るの。」
ラピス「ふぅ〜〜ん」

サリナ「PODはそういう本来なら万人に使いやすい要素を極力廃して少しでもコンマ何秒の世界を追求していった機体なの。
 その代わり、操縦がすごくシビアになっている。
 スバル・リョーコですら全く乗れない代物になっている。それはコンマ数秒の遅れで曲がれるモノも曲がれなくなる。でもそれに反応が出来た場合、ほんのわずかの差だけど実戦では大きな差になって現れる。
 陸上でもそうでしょ?短距離走でヘッドアップが少し遅れただけでゴールでは大きな差になって現れているでしょ?」
ラピス「ん・・・・・つまりアレ?
 シャアザクが3倍速いのや、マグネットコーティングしたガンダムがいきなり性能が良くなったのはそういうこと?」
サリナ「あははは・・・それはどうかと思うけど・・・」



試作機と量産機


ラピス「試作機は性能が良くて量産機がヘタレって本当?」
サリナ「え?」
ラピス「PODは試作機、ゼロG戦フレームは一応は量産機でしょ?
 試作機って性能がいいの?」
サリナ「あ、それは・・・」
ラピス「でもどっかで見たんだけど、試作機が量産機より性能がいいなんておかしい、ガンダムの見過ぎだ!!!っていうのよ?
 どっちが本当なの?」
サリナ「う〜ん。ある一面では正しいと言えるし、正しくないとも言えるわね・・・」
ラピス「どういうこと?」

サリナ「まず試作機は基本的に未完成品って思って」
ラピス「未完成品?」
サリナ「試作機っていうのが、組み立てたシステムが本当に上手く機能するか?
 要求された性能が本当に出るのか?
 ということを調整しながら作っていくの」
ラピス「ピンとこない」
サリナ「つまり陸戦フレームはスピード重視だから軽く作るわよね?
 とするとトルクの必要なアクチュエータではなく瞬発力のあるアクチュエータを選ぶ。
 でも、選んだアクチュエータは本当に必要な精度が出るのだろうか?
 本当にこの制御方法で、制御パラメータで要求性能は出るのだろうか?
 パンチは正しい位置に狂いもなく移動させられるのだろうか?
 パンチは要求される時間内に敵に当てることが出来るのか?
 避けられるような遅さになってしまわないか?
 エトセトラ・・・って事を実験しなければいけない。
 当然フレーム自体の重量の見直しとかいろんな調整が入るわ。
 つまりそれだけ設計が確立されていない、それが試作機ってこと。
 で、量産機は確立された設計を元に製作されるから当然最初から安定している
 ・・・もちろんゼロG戦フレームみたいに量産試作や量産のファーストロットでしばらく運用してみて改訂が入ることがあるけど」
ラピス「そうか。安定していないと売れないしね」
サリナ「そう。あともう一つは量産技術が確立されているかも重要ね」
ラピス「量産技術?」
サリナ「そう、パーツの加工精度とかがそれね。
 つまり試作機はそれまで誰も使ったことのない部品を使ったりするから手作りになる可能性がある。当然試作機にはバラツキが出るわ。
 加工精度が悪い物になってしまうこともある。
 でも量産機は当然生産技術が確立されているはずだから全般的に品質がいい。
 品質の善し悪しも性能の一つよ。長時間使ったり無茶な使い方をしたときの耐久性や安定性に関わってくる」
ラピス「自作パソコンは熱冷却が甘いのと同じ?」
サリナ「同じかどうかは知らないけど・・・つまり試作機の方が性能が悪いって言いたい人はそういうことを言っているの」
ラピス「ふぅ〜ん」

ラピス「でもそれじゃ、なんでガンダムが性能が良くて、GMはヤラレなの?」
サリナ「コラコラ(汗)
 それは実際には大きく二つの原因があるの。
 一つは量産コスト、もう一つは量産技術が確立しているかどうかよ」
ラピス「コストと量産技術?」
サリナ「まずはコスト。
 たとえば大気圏の近くで戦わないのに大気圏突入ユニットなんか必要ないわよね?」
ラピス「あ、そういえば・・・」
サリナ「それに大気圏突入のために装甲は耐熱の物を使用し、冷却用のラジエーターも高機能の物を付けなくても良い」
ラピス「なるほど」
サリナ「さらにはそのラジエーターの消費電力を賄う必要が無くなるので高出力ジェネレータである必要もない。
 まだまだあるわよ。
 ビームはどうせ防げないし、バルカン砲程度が防げれば後は盾を使えば何とかなる・・・そう思えば分厚い装甲も必要ない。
 そうなると重量も減るのでトルクの低いアクチュエータで何とかなる・・・
 とまぁこんな具合に実際の戦闘を考えれば妥協できるところは次々出てくる。
 それでガンダムの10分の1でGMが作れるとしたらあなたはどっちを採用する?」
ラピス「う〜ん」
サリナ「もちろん求められている性能っていうのがあって譲れないラインもあるけど、それ以外の要素は量産時になるべく低コストな部品に抑えられるの。
 もちろん、低コストな部品を使っても性能は落ちないってのも技術者の腕の見せ所なんだけどね」
ラピス「つまりガンダムは惜しみなく部品代使ったから優秀な訳ね」
サリナ「まぁ必ずしもそうじゃないけど・・・そんな感じね」

ラピス「あと量産技術って何?」
サリナ「量産技術は文字通り、量産するための技術が確立しているか?ってこと」
ラピス「???」
サリナ「たとえばモバイルノートを作るとき、外装をプラスチックじゃなくマグネシウム合金にすれば薄く軽く作れる。
 でもそのマグネシウム合金の加工が難しかったとしたらどう?」
ラピス「難しいかったら・・・たくさん作れないね」
サリナ「そう、手作業なら作れる形でもそれを量産して1万個も作れ!ってなったらやっぱり手じゃ出来ない。量産用の装置が必要よ。
 でもその装置が要求された精度で加工が出来るかどうか・・・
 出来なかったらその装置を改良しなければいけない。これが量産技術。
 量産技術が未熟だと歩留まり・・・つまり100個作ってどれだけ良品が出来るかによっても量産が可能かどうかに関わるの」
ラピス「歩留まり?」
サリナ「そう、あるCPUなんか1000個作って1個か2個しか正常品が作れない・・・なんてこともあったの」
ラピス「・・・それってほとんど作れないのと一緒じゃない!」
サリナ「そう、だから性能の低い物なら作れる。性能の低い物を選ばざるを得ない。
 量産技術が確立していないとそうなっちゃうの。
 まぁAMDが高速クロックのCPUを出せないのもそういう理由ね」
ラピス「こら・・・」

サリナ「最後に、量産機にはマージンがあるけど、試作機はそれを無視して使うって事もあるわね」
ラピス「つまりメーカー製のPCはオーバークロック出来る設定がないけど、自作PCはオーバークロック出来る設定があるってこと?」
サリナ「まぁ・・・そんな感じね」
ラピス「でも酷いと思う。もっと高速で動くはずなのに低い周波数で売るなんて」
サリナ「全然酷くないわよ」
ラピス「どうして?」
サリナ「それがマージンだから」
ラピス「マージン?」
サリナ「つまり余裕ってこと。
 たとえば温度が50度を1度でも越えたら壊れるCPUを50度で使ってもいいと思う?」
ラピス「越えないなら良いんじゃない?」
サリナ「おっと、CPUファンの電圧が下がっちゃって回転数が落ちました。冷却性能が落ちちゃうわね。
 じゃ、どうなる?」
ラピス「そ、それは・・・そんなこと・・・」
サリナ「安い電源使っていたらあり得るかもよ?」
ラピス「ず、ずるい・・・」
サリナ「ずるくない。多くの製品はマージンを持たせているの。5%とか10%とか。
 当然5Vを1%の狂いもなく作り出せる電源を製品として作るのは難しいし、値段も高いの。全ての部品に精度の高いものを使わないといけなくなるからね。
 さっきの量産技術にもかかわるんだけど、マージンがないと製造したときの歩留まりに関わってくる。少しでも狂ったらダメ・・・それじゃ良品は作れないわ。
 そして全ての部品の精度を掛け合わせて想定される外的要因を最高から最低まで振ってみる。こうして出てきたデータにプラスアルファを加えた物・・・それが最終的な製品が保証するマージンよ。
 もしこれがなかったら夏の暑い日にはパソコンが使えなくなっちゃうわね。
 PODも同じよ。精度の高い部品を限界ギリギリまで見極めて使っている。
 だから同じ様なパーツを使っていてもあと少しのところで性能差が出てくるの。
 そのかわり安定性も悪いけどね。
 どう、わかった?」
ラピス「うん、安物を使わずに高い部品ばかり使ったから少々オーバークロックしても大丈夫ってことね?」
サリナ「まぁ・・・・・・・・・・・・・・・・そういうことにしておくわ」

ラピス「ってことで今回はここまで!」
サリナ「うそ!?まだPODの解説とか残っているのに〜」
ラピス「これだけ話してまだ話し足りないの?」
サリナ「足りないわよ!!!」
ラピス「でも皆さん、いい加減小難しい話に飽きたと思うので終わりにします」
サリナ「そんなぁ〜」
ラピス「じゃ、さようなら〜」

おしまい



ポストスプリクト


ってことでなぜなにナデシコ・・・っていうよりかはinverse編の解説になりましたが(汗)

すごい難しい話になりましたが、製造業者の悩ましいお話がわかって頂ければ・・・いえ、私は作る側ではないのですが(笑)

アキスペシャルからアキセカンド、それにPODの系譜に関して高性能だけど実はそれほど他の機体と目立った性能差はないってのがわかって頂けたでしょうか?
いやぁこの当たりの話って一度書きたいなぁとか思っていたのですが、難しくてどうでもいい話、誰も読まないんじゃないか?とか思っているのですが・・・

それよりもはよ後編かけ!って言わないで下さいね(爆)
と、いうわけで感想・・・・・・・なんかもらえないですよね(汗)

では!

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・kakikaki 様
・悠 様
・kakikaki 様