アバン


誰かが勝手に始めた戦争
あちらの正義とこちらの正義
正義の御旗はどこへやら
でも巻き込まれてしまったら、それはもう僕たちの戦争

だからもう一度ここから始めよう
確かに人殺しと認めることは辛いけれど
この戦いに正義なんてないって認めるのは辛いけれど
憎しみだけで戦うのだけはもうイヤだから
戦う理由を誰かのせいにしたくないから
運命に翻弄されているって思いたくないから

だからここから始めよう
「僕たちの戦争」を始めるために・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



ネルガル月ドック


ユリカ『死ぬかもしれない人に、
 戦って死ぬかもしれない人に
 巻き込まれて死ぬかもしれない人に
 何のために死ぬのかを知らずに死ねなんて言えません!!!!』

ユリカの声は伝わる。

女将さんの死に涙する大将にも
真相を聞いてそんな身勝手な人達のせいで起こった戦争のために母親を殺されてしまった悔しさに震える久美にも
見舞いに来てそんな彼らに声をかけられないアキトの元にも

ユリカの声を聞きながらアキトは思う。

奴らが地球を攻める理由はわからなくもない。
でも、彼らが受けた仕打ちとこの人達が受けた仕打ちのどこが違うのだ?
どちらに正義があるにせよ、これはあんまりじゃないか!

アキトの心に彼らへの同情は湧かなかった・・・



ゆめみづき・ブリッジ


九十九「無限砲掘削準備!」
オペレータ「質量弾製造開始!」

九十九の指示でゆめみづきから掘削機が降下し月の岩石を掘り出し始める。
無限砲・・・つまりはレールガンで月の岩石を砲弾代わりにしようという戦法だ。
なにが無限なのかというと・・・掘削しさえすれば弾切れを起こさないというそれだけのことなのだが(苦笑)

月臣「よし、俺のダイマジンで中から敵のバリアを破る!」
九十九「任せたぞ!」
腕を打ち合い互いの健闘を誓い合う九十九と月臣。
その姿を見てメグミは思わず叫ぶ。

メグミ「戦うんですか!?
 あそこにはナデシコが・・・
 私達の艦が・・・」
月臣「慚愧に堪えんが・・・」
九十九「済みません。あの相転移炉式戦艦を見過ごすわけにはいかないのです。
 あれを見過ごしてしまえば火星が、ひいては木星が・・・」
メグミ「でも・・・」

彼らの言わんことはわからないわけではない。
彼らにとって火星陥落はすなわち本国木星へのルートを地球連合に明け渡すことになる。そうなれば数に劣る彼らが劣勢に陥るのは火を見るより明らかだ。
その理屈はわからなくはない。

だが・・・・
ついさっきまで私達はナデシコの乗員だった。
ナデシコで地球を守っていたのに。
それなのに・・・こんなところで味方が攻撃されようとしているのを指をくわえて黙ってみているなんて。
でもどうすればいいのかわからない。

止めるべきだと思う。
だけど彼らに同情している部分もある。
正直この人達が月を追放され、地球連合にされた仕打ちを考えれば彼らの行動は無理からぬ事かもと思う。自分たちがその咎を受けるべきなのかもと思い始めている。
だけど・・・
だけど・・・

メグミがその事を言おうとした時・・・

東郷「艦長、ご依頼のありましたディスクの複製が終わりました」
一人の士官がブリッジに入ってきた。
彼はディスクを乗せたトレイを持ってそれをメグミに手渡そうとした。

東郷「お返しいたします。ありがとうございました」
メグミ「え?そんなのいいのに・・・」
東郷「大丈夫です。全て複製しましたから、オリジナルはお返しいたします。」
九十九「終わったか。」
東郷「ええ、非常に良好な状態でしたよ♪」

そのディスクに目を付けたのは月臣であった。

月臣「おい、そのディスクってまさか・・・あの幻の13話か?」
九十九「それだけじゃない。第9話も第33話もあるぞ」
月臣「ま、マジかよ!うひょひょ〜最高だぜ!!!」
その言葉にブリッジが沸き上がる。
地球から持ち出せたゲキガンガーも全作揃っていたわけではない。歯抜けの回もある。
で、熱狂的なファンならわかると思うが、この抜けている回があるというのは、ほとんど渇望状態に陥る。前回の予告とその後の続きから察するになにかとんでもない話がその回にあったのでは?と思わせるものだ。

その話がここにあるとは・・・
ブリッジの志気は弥が上にも盛り上がった。
その光景に苦笑するメグミとミナト。
だから先ほどの疑問を呈するのをメグミもうっかり忘れてしまった・・・

東郷「それでは自分はこれで」
九十九「ああ、東郷君」
それを見てにんまり笑うとブリッジを辞去しようとする東郷。
だが、ふと気になった九十九は東郷に尋ねた。

東郷「なんでしょうか?艦長」
九十九「愚にも付かないことを聞くが・・・」
東郷「かまいませんけど、なにか?」
九十九「君は北辰を知っているか?」
九十九はナデシコでアキに言われたことを思い出した。

『北辰は地球で活動していた。暗殺を!』
『それじゃ、あと木連の誰が地球に潜伏しているの?
 東郷も来ているの?』

まさかとは思うが・・・そんな心の引っかかりを思わず口にしたのだ。

東郷「草壁閣下の研究会で顔だけ拝見したことがありますが・・・それがなにか?」
九十九「最近会ったことは?」
東郷「ご冗談を。自分はこのゆめみづきにずっと乗艦しております。
 会える道理がございません」
九十九「そうか、済まなかったな・・・」
東郷「北辰殿がどうかなさいましたか?」
九十九「いや、思い過ごしらしい」
東郷「では自分はこれで・・・」

九十九は東郷を見送った。彼がブリッジを出る瞬間、ほくそ笑んでいたなんて気づきもせずに・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第16話 「僕たちの戦争」を始めよう<後編>



ゆめみづき


九十九の檄によりその戦闘は開始された。
九十九「例え如何に敵が強大とても!」
乗員「我々優人部隊は最後の切り札!」
月臣「正義の拳が叩いて砕く!!!」

ダイマジンに乗り込んだ月臣の準備も整ったようだ。
ダイマジンはリフトオフされ、その下にはゆめみづきに備え付けられていたチューリップが口を開いた。

九十九「レッツ!」
乗員「ゲキガイン!!!」
月臣「ダイマジン、GO!!!」

その言葉とともにダイマジンはボソンジャンプした。



月ネルガルドック・地上


次の瞬間、月ネルガルドッグにダイマジンは現れる。
一番手堅いのが月ネルガルドッグに張り巡らされたディストーションフィールドである。従来の無人兵器中心の戦法ではこれが有効に作用していた。
実際、この強力なフィールドのおかげで月ネルガルドックがこれまで大きな被害を免れ、この工場でコスモスが建造された。
結果、月の連合軍の勢力を盛り返すことが出来た。
だからこそ、木連は焦り、相転移炉式戦艦を増産出来るこの工場に的を絞り始めたのだ。
そこにボソンジャンプ可能な最新鋭の機動兵器と優人部隊を投入するのは当然のことだった。ダイマジンならディストーションフィールドをかいくぐって内部に侵入できる!

月臣「ゲキガンパンチ!!!」
バリア内に侵入したダイマジンが右手に仕込んだミサイルを放つ!
なすすべもなくディストーションフィールド発生装置の一つは破壊されてしまった・・・。



ゆめみづき


九十九「よし、バリアが弱まった!
 無限砲、撃て!!!」
発射された質量弾は一直線に月ネルガルドックへ直進した・・・



月ネルガルドック地下・ナデシコブリッジ


ルリ「基地フィールド1番から5番まで出力低下」
プロス「なすすべもありませんなぁ・・・」
ユリカ「ナデシコ、ディストーションフィールド出力上昇」

ルリの報告にユリカが指示を出す。
だが、エリナは窓の外に見える隣の同型艦の方を気にしていた。

エリナ「4番艦は?シャクヤクは!?」
プロス「無理ですな・・・」
ルリ「シャクヤクはただいま最終パーツ、Yユニットの接合作業中です。
 作業が完了するまで何も出来ません」
プロスの諦めの声に呼応するようにルリが補足した。

隣のゲージでは今まさにシャクヤクを接合しようとディストーションブレードにYユニットをかぶせようとしている最中だ。当然相転移エンジンなど始動していない。
いわゆる為すがままというヤツである。

もし、この時点で砲撃が直撃などしたりすれば・・・

ルリ「質量弾来ます」
エリナ「うそ!」

無限砲からの質量弾は見事頭上に直撃し、ドッグを支える地上の構造体とともに落下してきた。

エリナ「シャクヤクが〜〜!!!」
どんなに性能が良くても竣工前を狙われては手も足も出なかった・・・。



月ネルガルドック・地上


月臣「心が虚しいぜ・・・」
月臣も改めて相手が同じ人間であるということが身に染みていた。
メグミを、ミナトを見てしまったから。
分かり合えるかもしれないと思ってしまったから。
だけど、これは戦争だ。

『やめて!あの人は六郎兄さんなの!』
『だが今は暗黒戦士シックスだ!』
『お願い、やめて!あなた達が戦う理由なんてないわ!』
『ゴメン、ナナコさん・・・』
『お願い、行かないで、ケン!!!』

月臣「そうだ、ゴメンよ、ナナコさん!
 それでも俺達は故郷を守るために戦わなくてはいけないんだ!!!」
さっき手に入れたばかりの第13話を流しっぱなしにして心を慰める月臣。

だが、彼が優越感に浸っていられたのもそこまでだ。
敵も当然反撃をする。

ガボッ!!!!!!!

月臣「なに!?」
アキト「お前の好きなようにはさせない!!!」

突然地面を破って出てきたモノ、それは相転移エンジンを全開にして地表の岩盤をぶち破ってきたアキトの月面フレームであった。

アキト「行けぇぇぇぇぇ!!!!!!」
飛び出した早々、アキトは対艦ミサイルを放つ!
ディストーションフィールドを張っていても有効な数少ない武器だ。
不意を付かれて

月臣「くそ・・・ぐわぁぁぁぁ!!!」
アキト「よし!」
ウリバタケ『アキト、対艦ミサイルは試作品だ!
 換えは無いから大事に使え!』
アキト「わかってます!」

一撃目が命中したことに気を良くしたアキトは攻める手を緩めるつもりはなかった。
対艦ミサイルによろけたダイマジンに通常ミサイルを続けざまに撃ち込むアキト。

月臣「くそぉ!!!」
アキト「パターンさえ読めれば!」
月臣「のわぁ!!!」

たまらずボソンジャンプしたダイマジンだが、ジャンプアウトした地点を月面フレームのレールカノンに狙われて直撃した。



月ネルガルドック地下・ナデシコブリッジ


ナデシコは未だ飛び立っていない。
なぜならアキトがダイマジンを完全に押さえ込んでいると見るや、ユリカはなんとか無事だったYユニットをナデシコに取り付けると言い出したのだ。

ウリバタケ『所詮シャクヤクはナデシコのクローン艦だ。そのシャクヤクに付いて、オリジナルのナデシコに付かねぇ道理はない!
 お前ら気合い入れて行け!!!』
整備班『おー!!!』
ナデシコの整備班はユリカの指示に迷いもなく取りかかった。

けど・・・

ウリバタケ『でもよぉ、やっぱり無茶じゃねえのか?』
ユリカ「大丈夫です♪」
何が大丈夫なのか知らないが、ウリバタケからの通信にそう答えるユリカ。

ウリバタケ『ナデシコとシャクヤクは電装系からしてまるで違う。
 まぁコネクトラインなんかはどうにかするとしてだなぁ・・・
 本来Yユニットをコントロールするはずだったシャクヤクの制御ユニットがナデシコには無い。最悪制御しきれずにドカーンと・・・』
ユリカ「信じてますから♪」
ウリバタケ『う・・・』
ユリカ「ウリバタケさんと整備班さんの腕も、ルリちゃんのオペレーションも、エリナさんの操舵も全部信じてます。」
ウリバタケ『・・・わかった。三分待て!』

お姫様に信じると言われて、それでもグズグズ言うようならそれは男の名折れだ。
ウリバタケはユリカの天性の判断を信じることにした。

だが、当然信じない人もいた(笑)

エリナ「あんた、何考えているの!?
 シャクヤクとはまるで電送系が違うのよ?
 動くはずないでしょ!!!」
ユリカ「信じてますから。
 せっかく無事だったのにYユニットがもったいないじゃないですか。
 それにご飯は一粒も残すなっていいますし。
 あ、ルリちゃん。工場の人達の収容も忘れずに」
ルリ「了解」
エリナ「あ、あんたねぇ・・・」
アカツキ「いやぁ、結構結構♪やっぱり勿体ないもんねぇ〜♪」
エリナ「くぅ・・・」
アカツキの言葉になぜか押し黙るエリナ

この瞬間、ネルガルのプランは書き変わった。
第3次火星攻略を行うプランは実行部隊の名前をシャクヤクからナデシコに書き換えた。だって、Yユニット付けた最強の戦艦がナデシコになってしまったから。
これでナデシコが囮として使いつぶされる事はなくなるだろう。
もっともユリカがこの一瞬でそこまで計算してYユニットを付けると言い出したかどうかは定かではないが・・・

一方、その作業を口惜しそうに眺める者たちもいた。
リョーコ「くそ!カタパルトさえ使えれば俺達も出撃できるのに!!」
イズミ「ナデシコからのエネルギー供給もないのにどうやって戦うつもり?
 5分と持たずに動けなくなって格好の的になるわよ」
ナデシコが出航できない以上、エステバリスも無用の長物となる。
この基地には重力波ビームを照射できる装置はないし、だからこそスタンドアローン起動が可能な月面フレームが開発されたとも言える。

だけど、本質はそんなところではなく・・・

ヒカル「アキト君、人間と戦っているんだよね・・・」
リョーコ「・・・そうだな」
ヒカル「一体どんな気持ちで戦っているんだろう。
 なんかアキト君に全て押しつけたみたいで・・・」
リョーコ「そりゃ・・・その・・・」
ヒカル「アキさんの言ってた『覚悟』ってこういうことなのかな・・・」
イズミ「確かに十分痛かったねぇ・・・」
リョーコ「・・・」

三人娘は押し黙る。
彼女達は与えられたモラトリアムのうちに気持ちの整理を付けなければいけなかった。
でもアキトは気持ちの整理を付けることが出来たのであろうか?



月ネルガルドック・地上


一気に劣勢に転じるダイマジン
だが月臣はまだ諦めていなかった。
月臣「俺の正義は負けはせん!
 優人部隊は最後の切り札!
 俺は俺の国を守る!
 たとえこの身が砕け散るとも!!!」
アキト「うるさいんだよ、お前は!!!」

月臣の熱血もアキトの前には何の感動ももたらさなかった。
次々と見舞われるレールカノンの連射がそんなダイマジンにトドメを指しつつある。

アキト「お前の正義なんて知ったこっちゃないんだよ!!!
 これが火星の人達の分!!!
 これがアイちゃんの分!!!
 これがガイの分!!!
 フクベ提督の分!!!
 イツキちゃんの分!!!
 それから月の人達の、女将さんの分だ!!!」
月臣「うわぁぁぁ!!!!」
思わず膝を折るダイマジン。
だが敵の状態にもかまわずアキトはレールカノンを撃ち込み続ける。
それこそ憎くて憎くてたまらず、殺してしまってもかまわないぐらいに容赦なく叩き込んだ!!!

メグミ『止めて下さい!』
アキト「まだだ!!!死んだ人達の恨みはこんなもんじゃない!!!」
メグミ『アキトさん、止めて下さい!!!』
ミナト『私達の話を聞いて!』
アキト「メグミちゃん?ミナトさん?」

倒すことに夢中になっていたアキト達のそばにテツジンがやってきた。
ウインドウが開き、メグミやミナト、それに九十九の姿が映る。

ミナト『この人達の名誉のために言っておきます。
 私達は捕虜ではありません。』
メグミ『私達は騙されていたんです。この人達は・・・』
アキト「人間なんだろ?月を追放された・・・」
九十九『どいて下さい、我々の目的はあくまでも相転移炉式戦艦で・・・』
アキト「うるさい!ナデシコは俺が守る!!!」
メグミ『戦うなんて止めて下さい!』

メグミは必死に説得しようとする。
こんなのアキトさんらしくない。
おかしい。彼らだって被害者だ。
なのに殺し合うなんて
彼らは優しくしてくれた。話せば分かり合える
なのになぜ憎しみ合うのか

アキト「君達を守る為じゃないか!!!」
メグミ『おかしいですよ!そんな100年前の戦争を引きずって!
 アキトさん達が戦う必要なんかないじゃないですか!』
アキト「わかっていないのは君の方だ!」

アキトはメグミの認識が甘いと言い放つ。

アキト「100年前の戦争だって!?
 昔の戦争を引きずっているだって!?
 そんなの関係ないよ!僕たちはもう巻き込まれてしまったんだ!
 死んだのは誰だ?
 100年前の人達か?
 違う!
 死んだのは僕たちの大切な人達だ!
 アイちゃんもガイもこいつらに殺された!
 女将さんは目の前でむごたらしく殺された!!!
 明日は君かも知れない!!!
 それでも昔の戦争だって言うのか!?」
メグミ「そ、それは・・・」
アキト「どちらに正義があるのか俺にもわからない
 でも巻き込まれてしまった!巻き込まれたのは僕たちの大切な人達だ!
 ならばこれはもう『僕たちの戦争』じゃないか!!!」
メグミ「・・・」
アキト「そこから降りろ、メグミちゃん。
 そいつも倒す」
メグミ「アキトさん・・・」

ぐうの音も出ないメグミ・・・

九十九『ならば仕方がない!勝負だ』
アキト「二対一かよ!やっぱり卑怯だな!」
九十九『そうじゃ・・・』
ユリカ『二対一なんて私が許しません!!!』

九十九が月臣を救おうとしたその時!
テツジンの足下の地面が割れ、盛り上がった!!!

そこから姿を現したのは・・・・Yユニットを装備したナデシコであった。
その登場シーンを知るものがいれば往年の某戦艦アニメの登場シーンと見まごうたろう(笑)

九十九『しまった!!!』
九十九は何をされたか瞬時に理解して急いで離脱しようとした。
だが、それよりも先にナデシコはディストーションフィールドを展開した。
脱出し損ねたテツジンはナデシコのフィールド内に取り残されてしまった。
見るとナデシコの表面にはエステバリスが4機、テツジンに向けて銃を向けていた・・・。



Yナデシコ・ブリッジ


Yユニットを装備したナデシコ・・・正式にはヤ○トナデシコというらしいが、諸事情により以降はYナデシコと呼称する(笑)・・・は月の岩盤をボロボロ落としながら浮上した。

・・・おまえら、いくら月ドックの人達を収容したからといってもう少し壊さずに発進しろよ

それはともかく、テツジンはYナデシコのディストーションフィールド内に閉じこめられて出られなくなった。その周りをリョーコ達のエステが取り囲み油断無くライフルを構える。

ユリカ「OK♪これで一対一!」
エリナ「OKじゃない!相手はボソンジャンプできるのよ?
 フィールドなんか簡単に逃げられちゃうわ!」
ユリカは嬉々として言う。
だがエリナは否定する。

ユリカ「しません」
エリナ「どうしてそう言いきれるの!」
ユリカ「だってあの機体にはメグミちゃんとミナトさんが乗っているから」
エリナ「するわよ!彼らにとって彼女達は敵なのよ!?」
ユリカ「・・・私はメグミさんもミナトさんも信じています」
エリナ「???」
ユリカ「だから彼女達が信じている白鳥さんも信じています。
 私達は人間と戦っているんですよね?」
エリナ「そりゃ、確かに人間だけど・・・」
ユリカ「相手は無人兵器じゃない、同じ人間です。
 エリナさん、私さっきお風呂で言いましたよね?
 私らしくしか出来ないって。
 だから私は信じてみます。彼女達を、そしてアキトを・・・」

ユリカは微笑みながらそう言う。
彼女にとってそれはもう未知の敵ではない。
ならば戦う以外の方法だってあるはずだ。

メグミは戦うことを拒絶した。
アキトは戦うことでしか解決できないと考えていた。
ユリカは・・・そのどちらも受け入れようとした。

そして彼女はアキトが戦う以外の術があることに気づいてくれることを祈った。



テツジン・コックピット


月臣『生体跳躍しろ、九十九!』
月臣の言葉に九十九はミナトやメグミを見ると即答した。

九十九「それは出来ん」
月臣『くそ!卑怯だぞ、地球人!!!
 男と男の決闘をなんだと・・・』
ユリカ『わたし、女だもん』
月臣『なんだと・・・うわぁ!!!!』
九十九「元一朗!!!」

月臣からの通信はノイズに消えた。
月面フレームからの一撃が致命傷になったようだ。



月面フレーム・コックピット


アキト「まだだ!!!
 みんなの恨みはこんなもんじゃない!!!」
倒れたダイマジンになおもレールカノンを撃ち込むアキト。
本当に殺すつもりのようだ。

そんなアキトを制止しようとする声がコックピットに響いた。

メグミ『止めて下さい、アキトさん!!!』
アキト「まだだ!!!コイツは報いを受けなきゃいけない!!!」

メグミの言葉も今のアキトには通じなかった。
だから九十九はアキトに伝えた。

九十九『わかった、二人を降ろす。
 だから一対一で決着を付けよう』
アキト「・・・いいだろう」

アキトは二人を助けるためにその条件を呑んだ。



月ネルガルドック・地上


地表にはアキトの月面フレームと九十九のテツジンが対峙していた。
そこから少し離された場所に宇宙服を着たメグミとミナトが降ろされた。
さらに少し離れたところでリョーコ達のエステバリスが決闘の立会人として二人を見守っていた。

だが、どうしても納得できないメグミがアキトに訴えてた。

メグミ「こんなのおかしいですよ!
 戦う人の方が、殺し合う人の方が偉いんですか?
 家で二人で笑っていたっていいじゃないですか!
 二人でゲキガンガー見ていたっていいじゃないですか!
 その方がアキトさんらしい
 アキトさんらしい・・・」
嗚咽に滲んだその声は誰の胸をも打つ。

誰が悪いわけでもないだろう
ただ互いの正義がぶつかっただけだ。
譲れぬものが、守りたいものがあっただけだ
だから彼らは戦っている
彼らは話し合えば分かり合える、優しい者たちだ

でも、それだけでは戦争はなくならないのも事実だ。
ユリカが、エリナが、ルリが、リョーコ達が、やりきれない思いで彼女の言葉を聞いていた。

やがてアキトが口を開く。

アキト「確かにその方が俺らしいかもしれないね。
 でも俺はゲキガンガーを見るのが好きだったんじゃないんだ。
 俺はゲキガンガーになりたかった。
 ゲキガンガーのように大切な人を守れる力が欲しかった。
 俺はいつも目の前の人達を助けられなかった。
 父さんも母さんも目の前で死んだ。
 火星の人達は死んだ。
 アイちゃんも助けられなかった。
 ナデシコに乗ってエステに乗って今度こそ助けられると思った。
 でも助けられなかった。
 ガイも、イツキちゃんも月の人も、女将さんも!
 みんな目の前でみすみす見殺しにしてしまった!!!」
メグミ「アキトさん・・・」
アキト「だから強くならなくちゃならない!!!
 そうしなければ今度はメグミちゃんが殺される!
 そう思って戦うことはいけないことなのかい!?
 戦わなければ誰も助けられない!!!
 ゲキガンガーを見ているだけじゃ誰も助けられなかったんだよ!?
 それでも君は俺に戦うなと言うのか!!!」
メグミ「アキトさん、私は・・・」

メグミにもアキトの気持ちは痛いほどわかっている。
でもこれはアキトじゃない
こんな憎しみに狂っているのはアキトじゃない。
しかし自分を助けるためだと言われれば黙るしかなかった。
彼の言うことは正しい。
でも、正しいと言った瞬間、アキトがアキトじゃ無くなる気がして・・・

メグミ「でも・・・」
そう言おうとした。
だが言えなかった。

それは言葉に詰まったからじゃなかった!!!

ゾクリ!!!!!
背筋に走る悪寒!!!

シャリーン・・・・

「そうだ、力がなければ何も守れぬ・・・」

誰かがそう言う。
とても暗く、陰湿で、深い闇・・・

誰もが虚をつかれた

ボース粒子増大!!!

メグミ「え?きゃぁぁぁぁ!!!!!!!」
アキト「め、メグミちゃん!?」
九十九「お、お前達は!!!」

気が付いたときには遅かった。
何者かの手がメグミを掴んでいた。
掴んでいたのは鉄の腕

シャリーン・・・

「若造、お前の言うことは正しい。
 力が無ければ何も守れぬ。
 地位も名誉も、そして自分の女も・・・」
それは彼女を持ち上げて目の前に晒す。

そう、いきなり現れてメグミを人質に取ったのは頭部が三度笠の形をしたマジンの改造機であった。

アキト「お前、メグミちゃんをどうするつもりだ!」
九十九「お、お前は・・・北辰!」
北辰「久しぶりだな、白鳥・・・」
マジンに乗った男、北辰はそう言う。
いや、北辰だけではない。

ボース粒子増大

もう二機マジンが現れる。
九頭竜の方に向かわなかった六人衆の残り2名だった。

アキト「汚いぞ、木星人!!!!
 一対一とか言っておきながらメグミちゃんを人質に取るなんて!!!」
九十九「ち、違う!
 おい、北辰!何しに来た!!!」
そんなつもりが全然無かった九十九は慌てて北辰に尋ねる。
だが北辰は涼しい顔だった。

北辰「何をしに?お前を助けに来たんじゃないか」
九十九「これは男と男の正々堂々の決闘だ。
 第一女性を人質に取るなんて木連男子にとって恥ずべき事だろう!!!」
北辰「だからお前らは甘いというのだ。
 今ここで相転移炉式戦艦を破壊しなければ本国数百万の同胞に災いを及ぼす。
 倒すべきはどちらだ?」
九十九「しかし・・・」
北辰「その若造も言ったではないか。
 力がなければ何も守れぬ。
 そして失った後で如何にきれい事を言っても手遅れなのだ。
 ならばこういう方法もありだろう?」
北辰はにやりと笑ってメグミを握るマニピュレータの力を加える。

メグミ「痛い!!!」
アキト「メグミちゃん!!!」
北辰「おっと、若造。余計なことはしない方が良いぞ?
 驚いて思わず力を込めてしまうかもしれん♪」
アキト「くぅ!」
これ見よがしに北辰は力を入れてみせる。そのたびにメグミは悲鳴を上げ、アキトは手も足も出せないでいた。

北辰「それに後ろの人型兵器」
リョーコ「な!」
北辰「不意打ちはしない方が良い。驚いて跳躍してしまうかもしれん」
リョーコ「て、てめぇ!!!」

歯ぎしりするリョーコ達。
だがあからさまに人質を取られている以上、うかつに動けない。

北辰「白鳥、ほら一対一の戦いだ。存分にするが良い」
九十九「だがしかし・・・」
北辰「こいつらの正義を見せてもらおう
 女一人を見捨てて反撃するか
 女一人のために全てを失えるか
 見物じゃないか♪」
九十九「お、俺には・・・」
北辰「相変わらず甘いな。ならば・・・・やれ!」

北辰は自分の部下に指示を出す。
2体のマジンがアキトの機体に殺到した!!!

アキト「く!」
リョーコ「テンカワ!!!」
???『リョーコちゃん!』
リョーコが叫んだその時、彼女のコックピットにだけ通信が入った。
その瞬間、リョーコは全てを察した。
この声を自分は知っている。
自分のもっとも信頼する人の声だ。
だからリョーコは動いた。
その人が何をするかわかったから。

リョーコは北辰のマジンに駆け寄った!

北辰「うかつに動くなといったろ。
 跳や・・・・」
北辰がその台詞を最後まで言うことは出来なかった。

バシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

一筋の閃光が北辰のマジンの腕を撃ち抜いた!
リョーコ「メグミ!!!」
メグミ「きゃぁ!!!」
リョーコのエステは辛くも落下したメグミを受け止めた。

北辰「な、なんだ?」
北辰は光の軌跡の方に振り向いた。

そこには、遙か彼方より飛来する一筋の流星が見えていた。



ナデシコ・ブリッジ


ルリ「3時の方向、高速で飛来する機体より砲撃を確認。
 スクリーンに出します!」

ルリの言葉に応じてメインスクリーンには砲撃をした機体が最大望遠で映された。
白い紡錘型の物体から砲身が突き出しているだけだった。
それが弾丸のようなスピードでこの地に飛来しているのである。

ユリカ「敵?」
ルリ「いえ・・・」

ルリがそう言う間に二発が立て続けに放たれた。
二発とも見事に六人衆のマジンの足を撃ち抜いた!

ルリ「すごい・・・」
ルリは思わず感嘆の声を上げる。
高速移動中の精密射撃がどれだけ難しいか
ぶれる機体、当然移動している標的、刻々と変わる目標との相対位置を瞬時に予測、判断して射撃するのだ。ほとんど神業である。

ユリカ「ルリちゃん、識別は?」
ルリ「はい、あれは僚機です。
 あれは・・・」
言うまでもないだろう。こんな芸当が出来る人物をルリは一人しか知らなかった。

ルリ「識別、ネルガル所属・・・・エステバリス・・・」
ルリがその機体の識別を言い終える前にそれは本当の姿を現す。

バサァ・・・・
フサァ・・・・

それはまるで眠る白鳥が翼を開く様に似ていた・・・
覆われていた白い紡錘・・・それはまごうことなく翼であり、ストライク(強襲)モードを解いたそれは中から本当の姿を見せた。

ユリカ「奇麗・・・」
エリナ「本当・・・」
ウリバタケ『かあぁ!!!痺れるぜ!!!』

中から現れたのはまるで黒水晶で作られたかのようにキラキラ光るエステバリスであった。
その優雅なライン、気高さ、光り輝く様はまるで宝石で出来た女神のように見えた。
エステバリス・ゼロG戦フレーム・アマガワアキスペシャルThird Edition・・・通称「アキサード」
だが、人はその姿を評して「Princess of Darkness(闇の姫)」と呼んだ。

ルリ「搭乗者アマガワ・アキさんです!」
そう、こんな事が出来るのは一人しかいない。
彼女だ!
ナデシコ中で歓声が沸き上がる。

ユリカ「だけど何でアキさんがあんな所に?」
エリナ「確かアマガワ・アキはお腹怪我して医務室じゃ・・・」
イネス『ああ、それならあなたの妹が勝手に連れていったわよ』←ウインドウで解説
エリナ「あのバカ妹がぁぁぁぁ!!!」
アキ『あの・・・そろそろ重力波ビームをコンタクトしてくれる?
 3発撃ってガス欠気味なの』
ユリカ「りょ、了解!ルリちゃんお願い!!」
ルリ「了解〜!」
アキの言葉に呆気にとられていた状態から脱するユリカ達であった(笑)



月ネルガルドック・地上


あっけに、そして期待に胸を膨らませる面々。
だが、一番喜んでいたのはこの男かもしれない。

北辰「おお、我が生涯の伴侶」
アキ『誰が伴侶かぁぁぁ!!!』
北辰「やつらめ、足止めに失敗したか・・・まぁいい。
 我も逢えて嬉しい」
アキ『ご生憎!今度は機動兵器戦、しかも機体はピカピカの新品
 雪辱戦よ!!!』
北辰「いいだろう・・・やれ!」

邂逅が終わると北辰は部下達に指示を出す。
足をやられたとはいえ、そんなことで怯む彼らではなかった。
2機のマジンはボソンジャンプを行った。



月ネルガルドック・上空


錫杖を振りかぶったマジンが滑走するPODに接近した。
振りかぶられる錫杖!
高速に飛行するPODには咄嗟に回避することなど出来ない。
誰もがそう思った。

だが・・・

アキ「いい、吸い付くようにこちらのイメージングに反応する。
 アキセカンドのようにワンテンポ遅れることもない。
 まるで私の癖を知っているみたい・・・ラピスちゃんね?」
調整された機体の仕上がり具合を見て満足するアキ。
ブラックサレナほどのパワーも装甲の厚さもないけれど、追従性だけを見れば十分合格点だった。

ならば・・・

六人衆その5「チェストォォォォ!!!!」
六人衆その6「死ねぇぇぇぇ!!!」
振りかぶる錫杖!
だが、

アキ「遅い!!!」

光が一閃する

PODは一寸もスピードを落とすことなく直進した。
だが、置いて行かれたマジン達の手足はバラバラに切り落とされた。
スローで見ていたのならレールカノン兼フィールドランサーが閃いた事に気づいただろう。
しかも敵の攻撃をほとんどギリギリ、体を踊るようにひねっただけでかわしたことに。

六人衆その5「無念!」
六人衆その6「離脱します!」
二人の機体はそのままボソンジャンプして脱出した。



月ネルガルドック・地上


誰もがその一瞬を呆然と眺めていた。
あまりの圧倒的な力の差に
今までの彼女は一体何だったんだろう?というほどの違いに
これが彼女の本当の力?
彼女が本当の実力を出せる機体を与えればここまで凄くなるのか?

誰もが呆然とし、そして尊敬と畏怖の念を覚えた。

だが一番狂喜していたのはこの男かもしれない。

北辰「勝負だ!!!」
アキ「望むところ!!!」
錫杖を構えるマジンに向かって少しもスピードを緩めることなく直進するPOD

誰もが感じていた。
勝負は一瞬で着くであろう事を

北辰「キェェェェェ!!!」
アキ「うぁぁぁぁぁ!!!」

二つの機体が一瞬交差し、閃光が瞬く!!!

勝負の判定はすぐに着いた。

北辰「やはり『この機体』では無理のようだな・・・」
マジンの胴はまっぷたつに割れた。
助かるはずがない
誰もがそう思った。

だが・・・

北辰「我が生涯の伴侶よ。また逢おう・・・」
マジンの頭部だけがボソンジャンプして消え去った。

頭部にジャンプ装置を仕込むことが可能だったのか、それとも誰かジャンパーに匹敵するモノの力のお陰なのか・・・
アキはボソンのキラメキを眺めながら忌々しげに思った。

戦いは終わった・・・

誰もがそう思っていた。
闇は去った・・・
アキ自身もそう思っていた。

だが、そう思っていない者がまだいた!

「あとはお前だけだ!!!!」
アキトの月面フレームは九十九のテツジンに襲いかかった!!!

メグミ「アキトさん、もう止めて!!!」
アキト「見たろ、あいつらの本性を!
 これは君を守るためなんだ!」
メグミ「その人はそんなことしない!」
アキト「君は騙されているんだ!」
メグミ「違う!そんなのアキトさんらしくない!」
アキト「うるさい!守られているくせに黙っていろ!!!」
メグミ「アキトさん!」
必死に止めようとするメグミの制止を無視して九十九に突進するアキト

九十九「や、止むを得ん!!!」
突進してくる月面フレームに身を構える九十九
彼もむざむざ殺されるわけにはいかない。
生きて守るモノがある。

アキト「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
九十九「南無三」
互いに拳を繰り出し合いながら激突しようとする二つの巨大機動兵器

アキ「あのバカ!!!」
それを見ていた彼女は舌打ちしながら方向転換をした。
突進した勢いで彼らから離れつつあるPODだ。
間に合うはずがない
誰もがそう思った。

次の一瞬、月面フレームとテツジンは激突した。

誰もが固唾を呑んでその光景を見守った。
まるでみんな魔法を見ているようだった。

拳は互いに反らされていた。
月面フレームとテツジンのちょうど真ん中にその機体はあった。
右手のフィールドランサーをテツジンの喉元に突きつけ、
左手のイミディエットナイフを月面フレームの首元に突きつけていた。

アキト「あ・・・」
九十九「う・・・」
アキ「二人ともいい加減にしなさい。それ以上やるならこの場でその首切り落とすわよ」

突きつけられたのは刃だけではない。
圧倒的な殺気を浴びて心胆冷やされる二人

もしその光景をスローモーションで見ていた者がいたら心底驚いたであろう。
勢いが付きすぎて反対方向に滑走していたPODがまるで月面をスケートリンクかのように軽やかに滑って反転してきたことも
そのPODが一瞬の躊躇いもなく二体の間に割って入ったのも
その翼で両機の視界を一瞬奪ったことも
互いに激突する寸前だった拳をPODは両足で軽く往なしたことも
そして彼らの両腕を足場にした瞬間素早く両手の刃を突き刺したことも
それらがどれ一つ取ってみても高難易度の動作のはずなのにそれをあの一瞬でやってのけたことに驚くだろう。

だが、彼女はそれが造作もなかったことのように二人に冷水を浴びせていた。

アキト「アキさん、なんで邪魔するんですか!?
 アキさんもこいつらの味方を・・・」
アキ「いい加減に頭を冷やしなさい!
 あんた最低よ!」
アキト「どうして!」
アキトはなぜ止められたのかわからなかった。
コイツらは倒すべき敵なのに!

アキ「まったく、そんなこともわからないなんて、つくづく度し難いわねぇ。
 確かにあんたの言っていることは正しい。
 しかも相手の反論できない高見から高説垂れるのはさぞかし気持ちいいでしょうね」
アキト「え?」
アキ「でもさぁ、彼女だってそんなこと嫌ってほどわかっているのよ。
 だけどそれでもあなたらしさを無くして欲しくなくって言ったんでしょ?
 それを『守ってやってるんだから文句を言わずに見ていろ』ですって?
 しかも反論されない高見から。
 そんなのなじっているのと一緒だって気づかないの?」
アキト「それは・・・」
アキ「あんた、彼女を見てまだ守ってやってるって言い張れる?」

アキはアキトの視線を促す。
そこには・・・
ミナト「メグちゃん、もう終わったから泣くのは止めな?」
メグミ「そんなのアキトさんらしくない・・・アキトさんらしく・・・」
ミナトに慰められながらも傷ついて泣いているメグミの姿があった。

アキト「め、メグミちゃん・・・」
アキ「あんたのは守っているのでもなんでもない。
 ただ復讐のための言い逃れにしているだけよ。
 復讐したいなら、まず『守ってやる』なんて看板降ろしてからにしな」
アキト「・・・」

アキトは諭されて力無く項垂れた・・・。

九十九「ありがとうございます、あの・・・」
アキ「感謝されるようなことはしてないよ」
九十九は思わずアキに礼を言うが彼女は素っ気なく答えた。

九十九「済みません。同胞が卑劣な行為をして・・・」
アキ「いいわよ。そんなことより・・・」
九十九「なんですか?」
アキ「どう?私達はまだキョアック星人に見える?」
九十九「いや、それは・・・」
アキ「メグミちゃんを見て、アキト君を見て、まだキョアック星人に見える?
 彼らは血も涙もない敵に見える?
 確かに100年前、私達の祖先があなた達に酷いことをしたかも知れない。
 でも私達だって仲間を殺されたら悲しいし、憎いの。
 あなた達がかつて味わったのと同じようにね。」
九十九「・・・」
アキ「それでもまだ私達は倒すべき、滅ぶべきキョアック星人にしか見えないなら・・・その時は私も全力で戦うからそのつもりでね」
九十九「肝に銘じておきます」
アキ「なら、彼を連れて行きなさい・・・」

九十九はアキに深々と一礼した。
そして気絶した月臣のダイマジンを背負うとふと振り返ってこう言った。

九十九「北辰の件、調べてみます」
アキ「そうしてくれると助かるわ」
そう言うと九十九のテツジンはボソンジャンプして去っていった。

アキト「アキさん、ごめんなさい・・・・」
アキトは彼女に謝った。
だが、アキは溜息をついて、やれやれといった顔でこう言った。

アキ「あんた、本当にバカねぇ。謝る相手が違うでしょ?
 私に謝ってどうするのよ」
アキト「あ・・・」
アキトはメグミの姿を見て自分がつくづくバカだということを思い知らされた・・・



Yナデシコ・ブリッジ


ルリ「連合軍の艦隊、降下してきます」
プロス「様子見をしていたようですなぁ」
まるで全てを終えたと見計らってやってくる連合軍の艦隊。
それで仕事が済むのだから楽な仕事だと思うが・・・

エリナ「たまたま上手く行ったからいいようなものの、なんなの?
 この体たらくは!」
ユリカ「・・・」
エリナ「艦長、あなた一体何を考えているの?
 一体何を信じているわけ?」
ユリカ「・・・」

ユリカは答えない。
心を痛めながらも、ただ彼らの心の強さを信じるだけだった。



アキトの部屋


アキト「メグミちゃん、ごめん・・・
 言い過ぎた」
メグミ「いいんです。それよりこれ・・・」
謝るアキトにメグミは今までアキトから借りていたゲキガンガーグッズを返した。
アキトに近づきたいと思って借りていたモノだ。
それを突き返すという事は少なくとも拒絶の意志ありとみていいのだろうか?

メグミ「この前遭難したとき、アキトさんに聞きましたよね?
 私のこと好きかって」
アキト「それは・・・その・・・」
メグミ「そのときははぐらかされちゃって、とりあえずはアキさんを尊敬しているって聞いただけでしたけど・・・
 そのとき思ったんです。
 私もアキトさんに尊敬してもらえる存在になりたいって」
アキト「あはは・・・・それは・・・」
メグミ「今でも好きです。
 アキトさんがやさしくって、それで私達を守ろうと必死になっているって事も知ってます。大切な人が殺されてそれで平気だったら私もアキトさんを好きにならなかった。
 でも・・・
 今はアキトさんの思っているような尊敬している人になれる自信がないんです。
 だから・・・・ごめんなさい!!!」
アキト「メグミちゃん!!!」

そう言うとメグミは泣き出してたまらず部屋を飛び出した。
アキトは追おうとするが

ウリバタケ「止めとけ止めとけ、フラれたんだ、すっぱり諦めろ」
ジュン&ゴート&アカツキ「うんうん」
アキト「うわぁ!あんたらいつの間に!!!」
いつの間にか男やもめ4人組がアキトの部屋の外で立ち聞きしていたようだ。
彼らは次々と慰め(?)の言葉をかける。

ウリバタケ「まぁ失恋はほろ苦いけど、引き際も肝心だぞ
 ゴートの旦那みたいに・・・」
ゴート「な、なんだと!」
アカツキ「まぁモテモテなんだから一人減ってちょうどいいんじゃない?
 思い人に気づいてさえもらえない人もいるぐらいなんだし」
ジュン「そうそう・・・ってそれ僕のことですか!?」

アキト「メグミちゃんとはそんなんじゃ・・・」
ウリバタケ「なら何で泣いてるんだよ」
アキト「え?」
ウリバタケにそう言われてアキトははじめて気づいた。
自分が泣いてることに。

「あれ?なんで・・・」
アキトは初めて気づいた。
失ったモノが何であるかを
失って初めてわかった。
それがどれだけ大切であったかという事を。
これが恋愛感情かどうかはわからないけど、確かに守りたいものであったという事を・・・



ナデシコ・ブリッジ


ユリカ「・・・」
ミナト「・・・」
メグミ「・・・」
まんじりともせず頬杖を付く三人

エリナは我関せずでそっぽを向く。
そんな中で・・・ルリは息苦しくなって席を立った。



ナデシコ・食堂


アキとラピスは食堂にいた。
ラピスはあの後、無事に帰ってきていた。

アキ「ラピスちゃん、見てて飽きない?」
ラピス「飽きない♪」
アキ「まぁ・・・・そんなに見られると恥ずかしいんだけど・・・
 止めてとも言えないよねぇ(汗)」
ラピスはPODの活躍シーンの録画を何度も眺めていてすごくご満悦だ。
まぁナデシコ中どこに行っても重苦しい雰囲気なので落ち込まずに済むのなら理由は何でもいいのだが・・・それでもじろじろ見られると恥ずかしかったりする。

と、そこに・・・

ルリ「アキさん・・・ちょっといいですか?」
アキ「ん、どうしたの?ルリちゃん」

息苦しくなって食堂に逃げてきたルリ。
そこにアキを見つけて思わず尋ねてしまった。

ルリ「私って余計な事をしたんでしょうか?」
アキ「余計な事って?」
ルリ「私は真実を知る方が良いと思いました。
 たとえ痛みを伴っても、知らずに死ぬより良いと思いました。
 だからアキトさんにも見せたんです。
 でも、それでアキトさんを傷つけたんじゃないかって・・・」
ルリはアキトがあんな風になってしまったのを気に病んでいたのだ。
アキはルリの頭をクシャクシャ撫でるとこう言った。

アキ「『無知は幸福』・・・そんな言葉があるけど、私は嫌いね。
 確かに知らない方がいいって思う人もいるかもしれない。
 赤いクスリなんて飲まずに青いクスリを飲めば良かったと後悔する人もいるかもしれない。
 でも私はこう思うの。
 知らなければ後悔すら出来ない。
 自分が運命の奴隷だって知らずにいれば不満を感じることもないけど、抗うことも出来ない。
 知らなければ選ぶ自由もない。
 後悔する自由も、抗う自由もない。
 知らずに選ぶ自由すらないより、知って選ぶ自由があるほうがほんのわずかかもしれないけどマシだと思う。
 だから私は知りたい・・・そう思うけど?」
ルリ「・・・そうですよね」

それが慰みだということをルリは知っている。
人はそれほど強くない。
たとえ正義感を持っていても真実の前には容易にねじ曲がる。
実際アキトはああなった。

それでも・・・

ルリの願いが通じたのか、はたまた悪い方に転じたのか・・・

アキト「アキさん・・・」
ルリ「アキトさん!?」
アキ「・・・どうしたの?」
アキの後ろに立っていたのかアキトであった。

アキト「アキさん、俺、本当に強くなりたいんです」
アキ「ふぅ〜ん」
アキト「メグミちゃんには悪いことをしたと思っています。
 自分がつくづくバカだって思い知らされました。
 でもそれでも強くなりたいんです!
 みんなを守るために!
 誰も傷つけずに済むぐらいに!
 アキさんみたいになりたいんです!!」
アキ「わたしはそんなに強くないわよ・・・」
アキト「お願いします!
 メグミちゃんやみんなを守りたいんです!
 約束します、傷つけたりしません!
 だから俺に戦い方を教えて下さい!!!」
アキトが必死に頭を下げるのをアキは少し冷淡に扱う。

その理由をアキは今し方までわからなかった。
なぜさっきの戦闘であんなに突き放すような言い方をしたのか自分でもわからなかった。
だが、いまようやくそれに気づいた。

これはかつての自分だ。
大切な人を奪われ、夢や希望を奪われ心に憎悪を燃やしたかつての自分だ。
ただ大切な人を取り戻したくて力を求めた。
ひたすら力を求めた。
その行き着く先がなんなのか考えもせずに求め続けた。
大切な人を取り戻すためと自分に言い訳をして、結果は復讐に身を焦がし今も囚われ続けている。
あまりにも一途な純真さ、正義感
それが憎悪に変わったときの危うさを知っている。

だってそれはかつての自分だから

だからイライラしたのだ。
かつての自分を見せられて!!!

でも拒絶するのは簡単だ。
冷淡に突き放すのは簡単だ。
戦う術に長けていてもそれは強いこととは違う・・・そう諭すのは簡単だ。

だが、自分は知っている。
彼の一途さ、直向きさ、正義感は例え頭ごなしに否定しても決して収まることはないだろう。
押さえつけても別の方向に向く。
その時誤った方向に行けば・・・
自分のようになるのは目に見えていた。

だからアキはこう言った。
たとえそれが辛いとしても
昔の姿が闇に封じ込めた自分を苛むとしても・・・

アキ「憎しみのために使わないって約束できる?
 復讐のために使わないって約束できる?」
アキト「はい!」

かつて月臣に強くなりたいと言ったとき、彼もこんな複雑な思いをしたのだろうか?
だけど今は導くしかない
誤った方向に進まぬように・・・
アキは目を輝かせるアキトに不安を覚えながらもそう思うしかなかった・・・

ルリ「バカ・・・ばっか」
ラピス「ルリ、どうしたの?」
ルリ「何でもありません」
ラピスには大人の事情や恋する乙女の複雑な感情を伺うことなど出来ようもなかった・・・



ポストスプリクト


ということで黒プリ16話をお届けしました。

ああ、長かった(汗)
とりあえずこれで12話辺りから考えていた流れはあらかた書きました。
ちょっとガス欠気味です。
17話は本当に何を書きましょう(苦笑)

とはいえ、全てを認めた上で戦う・・・それはとても難しいことだと思います。
TV16話のテーマをもっと掘り下げたらこうなりました。
色々思うことはあると思いますが、今は皆さんがどういう風に感じたか・・・もやもやしたものでもあればいいなぁ〜とか思います。

長くなるのでこれで終わりにしますが、次回もどうぞよろしく(笑)

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・Dahlia 様