アバン


あなたと私の歴史は同じだって思い込んでいた。
歴史は誰にとってもすべからく同じなんだって思っていた。
みんな同じ時間を生きているんだって思い込んでいた。

でもそれは違う。
人は経験、感情、宗教観、他人からの干渉によって見方を変える
流れる時間も、見える景色も、時には真実すら変わってしまう。

そう、離れた恋人同士が時には別れてしまうのと同じように・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



揚陸艇ひなぎく


九十九らがナデシコから逃げ去った後、アキト、アカツキ、リョーコそれにユリカ達がひなぎくで彼らを追いかけた。

前方を飛ぶテツジンの頭部を追いかけているのだが、その様子が酷く怪しい。
そんな様子を見たアキトは一人盛り上がる。

アキト「きっとメグミちゃんとミナトさんは敵に抵抗してるんだ!
 くそ、木星蜥蜴め!!!」
リョーコ「いや、抵抗しているというよりかは・・・」
ユリカ「楽しんでいるように見えますねぇ・・・」
アカツキ「よろしくやってたりして♪」
アキト「何だと!!!!」

さっきの戦闘の件もあるから素直にそう思えないアキトであるが・・・
実際に彼らの現状を知ればどう思うだろう?



テツジン頭部


元々は一人乗り用のコックピットに3人乗ればさぞかし窮屈であろう。
そして乗っている人達は三者三様であった。

ミナト「メグちゃんって頼られるのに弱いんだねぇ♪」
メグミ「何ですか、それ?」
ミナト「アキト君の時もそうだし、白鳥さんの時もそうだし。
 実は母性本能が強いでしょ?」
メグミ「そ、そんなんじゃありませんよ」
などと後ろでキャピキャピ言う女性陣を後目に一人緊張してシートの前の方にほとんど空気イスで操縦する九十九。

そしてミナトの好奇の矛先は今度は九十九に向かった。

ミナト「白鳥さん、そんな端っこに座らないでもっとこっちにいらっしゃいよ。
 このシートは元々あなたの物でしょ?」
九十九「い、いえ!軍人たる者、婦女子に席を譲るのは当然です!!!」
ミナト「でも、その姿勢も大変でしょ?」
九十九「女性が・・・男性に軽々しく触れるなど・・・以ての外です!!!」

ミナトにスリスリされて真っ赤になる九十九
それがどうもミナトのツボにハマったらしい。

ミナト「いや〜ん♪かわいい♪♪♪」
九十九「ですからつつかないで下さい〜!!!」
メグミ「ミナトさん、白鳥さんに悪いですよ」

で、冒頭の通りテツジンの頭部はフラフラ飛行するのであった(苦笑)



揚陸艇ひなぎく


ユリカ「でもさぁ・・・」
アキト「なんだよ」
唐突に話し始めるユリカ

ユリカ「ずっと思ってたんだけど、誰かに似てるのよねぇ〜」
アキト「似てるって?」
ユリカ「ゲキガンガーとか好きそうだし・・・」

そう唇に手を当てると閃いたようにユリカは言った。

ユリカ「そうそう、ヤマダ・ジロウさんに似てるんだな♪」
アキト「そんなバカな・・・」
ルリ『あ、それ私も思っていました』
ラピス『私も』
ウリバタケ『実は火星で死んだと見せかけ、敵に改造人間にされて再登場するとか!!!
 アイツの好きそうなパターンだな!』
ホウメイ『実は助かっているけど記憶を失って敵として現れるとか!』
アキト「ガイがそんなヤツな訳あるか!!!」

アキトはガイを軽々しく敵側に着くようなヤツと言われて怒った。
ガイは正義のヒーローに憧れていた。
それなのに!!!
だが、反面ホッとしたこともある。
アイツが忘れられておらず、むしろ好まれていたということに。
ガイははた迷惑なだけで、いなくなれば忘れ去られてしまうだけの存在ではなかったことに。

しかし一人盛り上がっているアキトがそんなことで矛が収まることもなく・・・

アキト「ガイはあいつらに殺されたんだ!
 あいつは一番ゲキガンガーを愛していたのに。
 そうとも知らずにあいつは火星の空に散ったんだ!
 そんなあいつがいくらゲキガン好きだからって敵の仲間になるだって?
 あいつのゲキガン魂はそんな紛い物じゃない!!!」
リョーコ「いやぁ、アレは奴の自爆だろう・・・」

遠くで訓練中のヤッ○ーマン1号「ヘックシュン!!!」

アキト「フクベ提督だって・・・提督だって俺達を助けるためにクロッカスと運命を共にしたんだ。
 あいつらから俺達を逃がすために奴らの盾になって戦った。
 それなのに!」
ユリカ「それは違うよ、アキト。提督は正義とかそんなんじゃなく、提督自身の大切な何かの為に戦ったのよ。それがたまたま私達を救う結果になっただけだよ」

遠くで訓練中のヤッ○ーワン「ぶうぇっくしょん!べらんめい!!」

アキト「じゃ、イツキちゃんを殺したのは!
 あいつの、あの機動兵器のジャンプに巻き込まれて彼女は死んだんだ!
 彼女はあいつに殺されたようなもんだぞ!」
アカツキ「未知の敵に対して不注意すぎた。それだけだよ。
 まぁ同じ事を僕らの誰かがやったもしれないけどね」

遠くで訓練中のヤッ○ーマン2号「くちゅん!!!」

アキト「なんだよ、なんだよお前ら・・・・あんな奴らを庇うのかよ・・・」
ユリカ「アキト・・・」
アカツキ「無駄話は終わりのようだ」
リョーコ「へぇ盛大なご歓迎だねぇ」
アカツキ「いや、僕たちを迎えに来たんじゃないと思うけど・・・
 っていうかここは既に敵の勢力下だし・・・」

そうこう言っていると、目の前には木星蜥蜴の艦隊が群を成して現れていた。

アカツキ「どうする?逃げる?」
アキト「味方を見捨てて逃げるのかよ!」
リョーコ「んじゃいっちょうおっぱじめるか!!!」
威勢良く敵の群に突っ込むひなぎくであったが・・・




数秒後


ダダダダダダ!!!!!!
ダダダダダダ!!!!!!
ダダダダダダ!!!!!!

アカツキ「なにをおっぱじめるって?」
リョーコ「うるせぇ!!!!」

まぁ、武装もないひなぎくが敵の艦隊に突入したところでどうにかなるわけもなく、すごすごと引き返すのであった(苦笑)



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第16話 「僕たちの戦争」を始めよう<前編>



ネルガル・月ドック


ナデシコはその後、ネルガルの月工場の地下ドックへ進路を進めた。
そう、先ほどダイマジンと月面フレームが激闘した傷跡も生々しい場所だ。

ユリカ「でもやっぱりヤマダさんじゃないんだよね・・・」
ブリッジに戻ったユリカはポツリと呟く。

ジュン「でも何で今更・・・」
イネス「今まで生命体はチューリップを通れなかった。
 でも通れるようになった。
 だから攻めてきたって事ね」
プロス「蜥蜴変じて人ですか・・・」
ヒカル「そうだよね。結局、私達は人間と戦ってたんだね」
アキト「そうさ、同じ人間さ。なのにあんな酷いことを・・・」
ルリ「同じ酷いことでも無人兵器ならそのぐらいやるかもと思ってましたけど、それを同じ人間にやられたとなるとショックですよね・・・」
アキト「・・・」
ルリ「ごめんなさい、無神経でした」
アキト「いいよ、別に」

アキトの痛々しい姿を見て思わず自分の発言を恥じるルリ

ともかく、諸人(もろびと)の感情に整理をつけられぬまま、ナデシコは月のネルガルドックに辿り着いた。

エリナ「ネルガルの地下ドックに着艇します」
ユリカ「あや、いつの間に・・・」
エリナ「あんたねぇ・・・(怒)」

ミナトが木星蜥蜴達に連れ去られたので、副操舵士のエリナが操艦していた。

・・・・本当に操舵士出来たんだ。てっきり会長秘書がナデシコに居座るための肩書きだけかと思っていた。

エリナ「違うわよ!!!!」



ナデシコ・格納庫


さてさて、月ネルガルドックに到着したナデシコであるが、クルーの面々は各々の行動をとる。警戒態勢は解かれていないので自由行動ではないが、それなりに思い思いの行動を許された。

そんな中、格納庫にはさっきアキトが乗り捨てていった月面フレームが鎮座していた。
で、ネルガルの工場側からスペアのパーツ一式と整備マニュアルが渡された。
月面にいる間、アキトに使わせろ、ということらしい。

さっそく、破損した右腕を交換して運用できるように調整をかけるウリバタケ達。

ウリバタケ「でかいったって基本は同じなんだ。
 時間はかかるが根性入れて行け!!!」
整備班「はい!!!」
ウリバタケ「ほら、ピット固定するぞ!!!」

そう指示した後、月面フレームの整備マニュアルを見て溜息をつくウリバタケ。

ウリバタケ「しかしなぁ・・・いくらレールカノンを撃ちたいからって相転移エンジンを積むか?
 作った奴、絶対エステバリスの基本コンセプトを理解してないだろう・・・」
???「そう思う?」
ウリバタケ「そう思うさ。一体何のために6m級のサイズに抑えたのかわかってるのかねぇ・・・」
???「そうよね、そうよね♪」
ウリバタケ「ああ、トルク重視で瞬発力の出ないアクチュエーターを使わないといけないから格闘戦は絶望的だし・・・」
???「そうなのよ。それなのに1研の奴ら全然わかってないのよ!!!」
ウリバタケ「・・・1研って何のことだ?」
整備班員「班長、誰と話してるんですか?」
ウリバタケ「誰って・・・」

とウリバタケが振り向いたがそこには誰もいなかった。



ナデシコ・医療室


さてさてアマガワ・アキは医療室にいた。
さっき九十九と格闘して開いた傷口を縫合してようやく麻酔が抜けてきたところである。

ラピス「アキ、大丈夫?」
アキ「大丈夫よ」
ラピス「・・・また傷残っちゃう?」
アキ「まぁ、今更ひとつやふたつ増えたところで・・・」
ラピス「ダメ!アキにこれ以上傷があっちゃダメ!」
看病してくれるのはうれしいけど、こうもベッタリは考え物だなぁ・・・と思うアキ。

アキ「そう言えばアキト君は?」
ラピス「さっき戻ってきた」
アキ「ちょっと呼んで・・・」

アキは少し話題を変えようとしたのだが・・・・

ドタドタドタ!!!!

バン!!!!
盛大な騒音をまき散らしながら部屋に入ってきたのは・・・

サリナ「アマガワ・アキいる?」
アキ「さ、サリナさん!?」
ラピス「あ、目黒区限定アーキテクト」
サリナ「誰が目黒区限定アーキテクトか!!!
 っていうかこの前は世田谷区じゃなかったのか!!!」
イネス「病室は静かにする!!!
 改造しましょうか?」
一同「・・・・済みません」

イネスに一喝されるが、騒がしく入ってきたのはエステバリス設計者サリナ・キンジョウ・ウォンである。ちなみにエリナの双子の妹である。

サリナ「いやぁ怪獣みたいなあんたでも怪我するんだねぇ。思わず見に来ちゃった♪」
アキ「サリナさん、なんでここに・・・」
サリナ「2研の月面ラボがこの近くにあるの。
 で、あんたが怪我してるっていうから見に来たわけ」
ラピス「笑いに来ただけなら追い出す!」
サリナ「まぁまぁ、ラピスじゃないの。いいところにいた。
 実はあんたにも用事があるのよ」
アキ「用事?」
いきなり押し掛けてきたサリナのことだ。
しかもラピスにまで用があるなんて・・・絶対良くないことに決まっている。

サリナ「あんた達に実験付き合って欲しいの♪」
アキ「実験?」
ラピス「ダメ!アキはこの通り怪我してる!」

ラピスが怪我をしているラピスを庇おうとサリナの前に立ちふさがる。
するとサリナはにんまり笑ってあるものを取り出す。

サリナ「アキの為なのよ、ラピス」
ラピス「アキの為?」
サリナ「そうそう、これ見て♪」

サリナはコミュニケを開いてある書類を見せた。

数秒後・・・

ラピス「おおおおお〜」
サリナ「わかる?わかるよねぇ、ラピス。
 この子を育てたくはない?」
ラピス「育てる?」
サリナ「そう育てるのはあなた。
 この子がアキのために活躍するシーンを思い浮かべてみなさい」
ラピス「・・・・ウフフ」

どうやらサリナの見せたものはラピスの心の琴線に触れたようだ。

サリナ「あんたがこの子のお母さんになるのよ」
ラピス「ポッ・・・」
サリナ「アキがお父さん、ラピスがお母さん。二人でこの子を活躍させるの。
 どう?やる?」
ラピス「やる♪」

ラピスあっさり陥落(笑)

アキ「イヤだ〜私行かない〜すっごく悪い予感がする〜」
サリナ「そんなことないよ。ねぇラピス?」
ラピス「うん、アキ萌だから♪」
アキ「危険な香りしすぎ〜〜〜
 第一私怪我人だし〜〜」
サリナ「何言ってるのよ。
 ICBMに乗ってマイクロブラックホール砲に向かっていった女が腹に怪我したぐらいで今更なにを・・・」
アキ「アキト君に会って話をしないといけないし〜〜」
サリナ「いい加減に弟離れしなさい!」
アキ「嫌だぁ〜〜」
ラピス「アキ、行こう♪」
サリナ「そう行こう行こう♪」
アキ「あ〜〜れ〜〜」

哀れアキは二人に連れ去られるのであった(笑)

と、入れ違いにアキトが入ってきた。

アキト「あれ、アキさんは・・・」
ルリ「アキトさん、ラピスいませんか?」
その直後、ルリもやってきた。彼女はラピスを探しているようだ。
だが、そのルリもアキトの姿を見てあることに気づいた。

アキト「アキさんと話しておきたかったんだけどなぁ・・・」
ルリ「アキトさん、その花と果物は?」
アキト「ああ、これ?これはお見舞いだよ。
 食堂で貰ってきた」
ルリ「お見舞いって?」
アキト「こっちにいる間お世話になっていた食堂の女将さんに・・・」
ルリ「あ・・・・」

ルリはさっきアキトの乗ったエステの記録を見た。
彼の目の前で殺された彼の恩人
目の前であんな風に殺されたのだ。
アキトがさぞかし傷ついているだろう事が察せられた。
どんな思いで彼女に、いや彼女の家族の元に見舞いに行くのか、ルリには想像もつかなかった。

ルリ「・・・・気を落とさないで下さいね」
アキト「落としてないさ。第一俺は励ます方だから。
 大将や久美ちゃんの方が何倍も辛いはずだし・・・」
ルリ「・・・・」

アキトは少し辛そうに手を振ると月ドックに降りていった。
ルリは彼を励ます言葉もかけられない自分がつくづく子供なんだと思い知らされるのだった・・・。



ナデシコ・会議室


そこにはナデシコのネルガル社員が集められていた。
そして月工場のネルガル社員もいる。
会社の方針で大事な打ち合わせ(悪巧みともいう)をしているのだが、プロスペクターは一人気のない様子で窓の外を眺めていた。

ネルガル社員「敵は明らかに相転移エンジンとボソンジャンプの研究施設に狙いを集中している」
プロス「まぁ、敵が人間ならそう考えるでしょうなぁ」
エリナ「何か言いたそうねぇ・・・」
プロス「ほう、あれがシャクヤクですか・・・
 早い完成ですなぁ・・・」
エリナ「いい加減いじけてないで議論に加わりなさい!」
プロス「ですが、どうせ何も知らされない我々は道化ですから、せいぜい派手に踊ることしか出来ませんので、はい」
エリナ「・・・ったく、なんでこうもナデシコのクルー達はひがみっぽくなるのかしら」
プロス「済みません、人選したの私なんです」
エリナ「うぐぅ」
イヤミという名の香辛料たっぷりのツッコミに思わず閉口するエリナ

プロス「しかし3番艦のカキツバタより4番艦のシャクヤクの方が先にロールアップするというのも奇妙ですなぁ」
エリナ「3番艦は会長専用艦よ。最新デバイスの調整に手間取っているの。」
ネルガル社員「だから4番艦は1番艦の設計に戻してYユニットを平行建造した。
 最悪Yユニットなしでの運用を考えたが間に合ったので現在接合作業に入っている」
プロス「ま、Yユニットなしではナデシコの二の舞でしょうから・・・」
エリナ「いい加減にしなさい!4番艦は第3次火星攻略の切り札よ!
 ナデシコと比べられてそんなに不満?」
プロス「いいえ、そんなことありませんよ」

プロスはにっこり微笑み返すが、どうみたってひがみが入っているのはありありとわかった。

ネルガル社員「ネルガルと連合軍の協力で月勢力圏の木星蜥蜴もこれだけ追い返した。切り札たるシャクヤクもまもなく完成だ。今が好機なんだ」
エリナ「会長もそろそろスキャパレリプロジェクトを本来の姿に戻したいそうよ」
プロス「第3次火星攻略・・・ですか」
ネルガル社員「シャクヤクで火星を制圧する。ナデシコには木星蜥蜴の注意を引き受けて欲しい。幸いナデシコは今までの戦歴から敵の注目度も高い」
プロス「第13独立部隊・・・って所ですか。
 でも皆さんがやってくださるかどうか・・・」

火星を救うのは君達だ・・・そう言ってクルー達を集めたのはプロスであり、それにやりがいを覚えて多くのクルーがナデシコに集った。
それを今更シャクヤクの陽動のために働けとは・・・
火星の研究所に戻りたかったプロス自身がそう思うのであるから他のクルーの心証もいかばかりだろうか?

エリナ「やるわよ。
 それが証拠にあのスチャラカクルーでも火星のためにここまでやってきたじゃない!」
プロス「ですが真実を知ってもまだ戦ってくれますかねぇ」

プロスは鋭い視線でエリナを見つめる。
彼女が隠している真実を求めて。
だが、エリナは上手くはぐらかそうとした。

エリナ「敵が有人のボソンジャンプを成功させた以上、こちらもボソンジャンプ技術を完成させなければいけない。
 そのための実験をもっともっとしなければいけない。
 大量のCCが必要になるわ。
 そのためには火星極冠の研究所を取り返さないと・・・」
ネルガル社員「ボソンジャンプ技術の取得は我が社の悲願だ。
 この戦争を勝利に導く鍵だ。
 なんとしても我々の手に・・・」
プロス「会社会社、会社ですか」

プロスは少し声を荒げる。
珍しく穏和を崩すプロスに驚く一同
だが、彼はすぐに穏和な表情に戻った。

プロス「まぁ私も人のことは言えませんが・・・」

プロスは思う。
真実が知りたい。
でも心はまだ組織人のままだ。
それはまだ会社という自分の組織を信じていたかったからだ。
だけど、今の自分を表すとすればナデシコの雰囲気がそのものだ。

なぜならそれは自分が作った組織、自分が願った組織そのままだから。

エリナがなにか言おうとしたが、それは続かなかった。

ムネタケ「あははははは♪♪♪♪」
エリナ「て、提督!?」
ホウメイ「ちょ、ちょっと暴れないでおくれよ・・・」

ドアを蹴破って入ってきたのはムネタケであった。
酔っぱらった勢いらしい。
やっと連合軍に従順になったと思ったナデシコ
これからナデシコを使って戦果を挙げ、提督として手柄を立てようかと思った矢先、あっさりとネルガルは連合軍の意向も聞かず月にやってきてしまったのだ。
自分の面目丸つぶれである。
これが飲まずにいられようか。

ホウメイ「提督がウォンさんにどうしても会わせろってうるさくてさぁ・・・」
ムネタケ「あたしにも聞かせなさいよ〜悪巧み♪」

酩酊してにやりと笑うムネタケ。
その顔にエリナは醜悪さえ覚えた。
だから少し意地悪を思いついた。

エリナ「いいわよ、教えてあげるわ。
 わ・る・だ・く・み♪」
エリナは忌々しくも少し微笑んだ。
世の中、知らない方が良い真実もあるという事を教えてやるのだから・・・
はたしてその事にこの中身のない提督が耐えられるだろうか?



ネルガル・食堂


ユリカ「え〜!アキトいないの?」

アキトを捜して三千里、ユリカは食堂まで探してみたが、やはり入れ違いになったようだった。

ホウメイ「ああ、いないよ。」
ユリカ「どこ行ったか知りません?」
ホウメイ「さぁ・・・そうそう見舞いには何がいいかって聞いたから月ドックにでも降りたんじゃないかい?」
ユリカ「お見舞い?」
ホウメイ「怪我人、いっぱい出たらしいからさ」
ユリカ「そっか・・・」

ルリに見せてもらった映像によればアキトの目の前で人が殺されたようだ。
それもむごい殺し方で。
だからあんなにアキトが怖かったのかと合点がいったのだが・・・

ユリカ「アキト、大丈夫かな・・・」
艦を離れることが出来ないユリカは仕方がなくブリッジに戻っていった。



ナデシコ・ブリッジ


プロスはあれからブリッジに戻った。
ユリカは艦長席で落ち込んでいた。
ジュンは医務室でまだ寝ているし、
パイロット達は待機シートでダイマジンのボソンジャンプ戦法を研究していた。
ゴートはミナトがいなくなって少し堪えているみたいだし、
ラピスはアキに着いていったようだ。

内緒の作業をするのにはもってこいである。

先ほどの件はムネタケの乱入でエリナを追いつめるのには失敗したみたいだ。
だが、代わりにムネタケがエリナの部屋に連れられていった。
うまくその会話が聞ければ真実がわかるかもしれない。

プロス「これでも私はその昔、火星極冠研究所で所長代理をやっておりまして」
誰とはなしにそう言うと、マニュアルの方のコンソールを触って映像を出した。

そう、エリナの自室の映像である。
そこにはエリナとムネタケの姿があった。



ナデシコ・エリナの自室


ムネタケ「なによ!ネルガルも軍も知ってたっていうの!?
 敵が同じ人間だってことを!
 同じ人間と戦っていたってことを!」
エリナ「そうね」
ムネタケ「なんで提督のあたしが知らなくて、あんたみたいな秘書風情が知ってるのよ!!!」
エリナ「たかが提督風情が何を言ってるんだか」
ムネタケ「何ですって!!!」

挑発されたムネタケがエリナに掴みかからんとしたその時!

アカツキ「いけませんよ、提督。
 女子クルーの部屋に二人きりなんて。」
ムネタケ「あ、あんたいつの間に・・・」

ドアの近くに立っていたのはアカツキ・ナガレであった。

アカツキ「提督なんですから風紀は率先して守ってもらわないと。
 そうそう、あと女性には優しくすべきですよ」
ムネタケ「何ですって!」
アカツキ「ここでエリナ君がちょっと衣服を破って廊下に飛び出せばセクハラ成立。長年コツコツ卑怯な手を使ってのし上がってきた提督の地位もパァですよ」
ムネタケ「う、うるさいわねぇ!!!
 第一パイロットのあんたが何でこんなところにいるのよ!!!
 あんた達デキてるの!?」
エリナ「そうじゃないわよ。
 実は彼が・・・」

エリナはムネタケの耳元にそっとささやく。
するとムネタケの顔がみるみる変わった。

ムネタケ「こ、こいつが!?」
アカツキ「いいでしょう、提督。
 知りたいこと全部教えましょう。ただし、引き返すなら今のうちですよ♪」

ニッコリ笑ったアカツキはムネタケにそう言った。



ナデシコ・ブリッジ


プロスが見られたのはそこまでだった。
回線がプライベートモードに切り替えられて画面が映らなくなってしまった。

プロス「あちゃ〜〜どうも最新のプロテクトはオジサンには困りものですなぁ・・・」
いくら昔取った杵柄でも最新のプロテクトを破れるほど甘くはない。

だが、その様子を後ろで見ていた少女が彼に声をかけた。

ルリ「プライベート回線のプロテクトなら破れますよ?」
プロス「ルリさん・・・見てましたか?」
ルリ「ええ。見てました」
プロス「盗み見はいけませんよ」
ルリ「説得力がありません」

ルリはあくまでもポーカーフェイスである。
プロスは軽く目配せをする。
ルリはうなずいた。

ルリも知りたかった。
なぜ木星蜥蜴は同じ人間で、戦争になったのか。
アキトさんを苦しめるこの戦いはなぜ始まってしまったのか。
そしてネルガルは自分たちの知らない何を知っていて、それに基づいて自分たちにどんなピエロを演じさせようとしているのか。

とにかく真実が知りたかった。
例えそれがパンドラの箱であろうと・・・・




数十秒後・・・


ユリカ「アキト・・・・」
プロス「おお、すごいですなぁ」
落ち込んでいたユリカは感嘆の声を上げるプロスに気がついてそちらの方を見た。
するとルリの回りにウインドウがいっぱい飛び交っていた。

プロス「艦内に秘密があってはいけませんからなぁ〜」
ルリ「悪ですね、プロスさん」
プロス「そういうルリさんこそ」
ルリ「真実は知るべきです。たとえ痛くても。」
ルリはそう思う。
だからパンドラの箱を開いた。

たとえどんなにたくさんの災厄が溢れ出たとしても
知ることによって、希望だけは残されると信じているから
知らないまま死にゆくのだけはまっぴらだと思うから

ルリ「はい、お終い・・・」
ユリカ「ルリちゃん、何をやっているの・・・」
とユリカが言う前に目の前にウインドウが現れた。
そう、ルリはコミュニケを持つ全てのクルーにその映像を送ったのだ。

格納庫にも、
医療室にも、
もちろんブリッジにも
そして月ドックに見舞いに来ていたアキトの元にも
それらの映像が表示された。

そこにはエリナとムネタケの姿が映っていた。
ノイズ混じりながら音声は明瞭だった。

エリナ『彼らは正真正銘、100年前に月から追放された・・・』
ムネタケ『追放・・・された?』
エリナ『地球人よ』
ムネタケ『え!?』

ムネタケの驚きはその映像を見ていた全てのクルーの気持ちを代弁していた・・・。



突撃優人部隊戦艦・ゆめみづき


『レッツ!ゲキガイン!!!』
と、いつものテーマ曲が流れてオープニングが流れるアニメ「熱血ロボ・ゲキガンガー3」をミナトとメグミは苦笑いな表情で見ていた。

メグミ「これって歓待・・・されてるんですよねぇ?」
ミナト「まぁ、これもあの人達にしたらご機嫌なR&Bみたいなもんなのかもしれないよ。そう受け取っておきましょう、あははは・・・」

まぁパーティー会場でクラシックなどのBGMが流れているようなものだと思えば耐えられなくもないが・・・やはり文化面でギャップを感じる。

それはいいのだが・・・

メグミ「バカにされている気がするのは私だけですか?」
ミナト「まぁこれがあの人達の精一杯なんだからありがたく受け取っておこうよ」
メグミ「でも・・・」

ミナトはそう言うが・・・メグミは辺りを見回す。
目の前には鯛のお頭付き、刺身の盛り合わせ、伊勢エビにステーキ、カツ丼すらある。
何の芸もない、いかにもご馳走って感じがするが今時子供でも喜ばない。

それに部屋の周りは紅白の垂れ幕に数々のお花である。
『ようこそ木連へハルカ・ミナトさん、メグミ・レイナードさん、優人突撃部隊隊長 草壁春樹』
『熱烈歓迎ハルカ・ミナトさん、メグミ・レイナードさん江、ゆめみづき乗員一同』
『祝来訪、木連おかみさん会』
などなど、まるでお芝居や公演の初日のロビーみたいな様相である。
私達は芸能人か?とツッコミたくもなろう。
これが地球人にされたのならまずおちょくられていると思うだろう。

だが、相手は木星人、文化が違うのだと我慢するのであった。

と、ちょうどそこに・・・

九十九「どうですか?くつろいでいただけていますでしょうか?」
メグミ「白鳥さん」
ミナト「ええ、とっても」
白鳥九十九が入ってきて尋ねたが、二人は多少ひきつりながらもにっこり答えた。

ミナト「でも私達捕虜なのにこれじゃまるで・・・」
九十九「女性は慈しむものです。女性は国の宝です。
 愚俗な地球人ならともかく、我々木連人は女性の扱い方を心得ています」
メグミ「あはは・・・そうですか」

いちいち価値観が違うようだ。
だが、ミナト達がもう少し注意深かったら先ほどの古めかしいご馳走の意味も、女性は慈しむべきものという考え方も想像に至っただろうが。

メグミ「どうしてゲキガンガーなんですか?」
九十九「ああ、これですか?
 我々の聖典なんです。」
メグミ「聖典?」
九十九「ええ、地球から持ち出せた数少ない映像ソフトですから。それに今の私達に勇気を与えてくれます。正義は決して負けないという勇気を・・・」
メグミ「それって一体・・・」
九十九「どうです?艦内を案内しましょうか?」
ミナト「ええ」

メグミの疑問を置き去りにしながら九十九は彼女達を艦内を案内する事にした。



ゆめみづき・艦内


九十九は二人に艦内を案内した。

九十九「ここが電算室です」
ミナト「木星蜥蜴・・・」
九十九「彼らは電算装置を兼ねています。
 一から開発している時間もお金も人手もありませんから」
ミナト「ありませんって・・・」

そう言われて二人は気づく。
この艦はナデシコと大違いだ。
ナデシコが内装のきちんとしたマンションだとすれば、ここは間に合わせで建てられたプレハブ小屋みたいなものだった。

メグミ「・・・」
九十九「ああ、済みません、汚いところで。
 男性しかいないとどうしても無骨な内装になってしまって」
メグミ「いえ、そういうつもりじゃ・・・」
九十九「全部あり合わせなので贅沢も言ってられないのです」
ミナト「そう言えば白鳥さんって艦長ですよね?
 なのに何でパイロットを?」
九十九「艦長とは全てに秀でた正義の戦士が選ばれるのです。
 当然エースパイロットを兼ねるわけで・・・
 まぁ優秀な人材が少ないと言えばそれまでなんですが(苦笑)」
メグミ「・・・人、あまりいませんね」
九十九「そんなことありません。じゃ、次は格納庫に行きましょう」

そして連れてこられたのは格納庫だ。

格納庫では多くの整備員がテツジンとダイマジンの整備を行っていた。
これを見ると彼らがはじめて木星蜥蜴だということがわかる。
彼らが今まで戦っていた木星蜥蜴だと言うことに・・・

と、メグミが物思いに耽っていると・・・

???「ピロピロピロ」
メグミ「え?・・・・ええ!!!」
なにかに足下をつつかれて視線を下げるとそこには小型のバッタがジュースを運んできていた。

メグミ「お、襲われる〜」
九十九「あはは・・・心配入りません。
 それは我々の忠実なペットです」
メグミ「ペット・・・これが?」
九十九「ええ。可愛いでしょ」
ミナト「か、可愛いかなぁ・・・(汗)」
九十九「可愛くありませんか・・・・」
九十九は可愛いと思っていたので少し頭をかく。まるで自分の趣味がダサイと言われた時みたいだ。でも気分を改めて九十九は言う。

九十九「ですが軍艦で生物を飼うわけにもいかないんですよ。もっとも生きているペット自体希少なのですが」
ミナト「希少?」
九十九「地球から持ち出せなかったという事です」
メグミ「持ち出す?」
九十九「まぁでもAIBOよりかは頭がいいのでこれでなかなか可愛いんですよ」
ミナト&メグミ「・・・」

彼女達にも木連の異質な文化が単にゲキガンガー好きというだけではない、何かのせいで仕方なくこうなっていることに気づき始めた。



ゆめみづき・大広間


壁の額縁には『優人』と書かれている。
「我々は生体跳躍実験の結果生み出された最高傑作なのです」

九十九はその額縁に書かれている文字を示してそう誇らしげに話した。
彼らはこの部隊に選ばれたことに誇りを持っている。
選ばれし者
故郷を守る誇りある戦士
ゲキガンガーの中にある天空ケンの様なヒーローだ
でも・・・

メグミ「・・・」
ミナト「どうしたのメグちゃん、具合悪い?」
九十九「それはいけません、誰か衛生兵を・・・」
メグミ「いえ、そうじゃないんです・・・」

何かおかしい

メグミはそう思う。
自らを称して実験の結果生み出された最高傑作?
遺伝子改良を行い、死ぬ危険を冒し、それで戦争に出て戦い勇敢に死ぬ?
何か違う
何かおかしい

メグミはそう思う。

そしてもっとおかしいと思うのは
同じ人間で、普通に話していて、こんなに優しくしてくれて
なんて事はない、話も通じる、血も通っている人達なのに・・・
でも・・・やっぱり木星蜥蜴なのだと思い知らされることだ。

メグミ「やっぱり木星蜥蜴なんですね。」
九十九「我々は木連・・・」
メグミ「やっぱり私達はあなた方と戦っていたんですね・・・」
九十九「ええ・・・」
メグミ「どうしてあんな酷いことをしたんですか?」
九十九「それは・・・」

九十九が泣きそうなメグミに訳を話そうとしたそのとき、乱入者がメグミを非難した。

月臣「酷いのはお前達だ!!!」
ミナト「あんただれ?」
九十九「元一朗、無事だったのか!」
月臣「ああ、2週間前の月に跳ばされたときにはどうなるかと思ったが、何とか首だけ脱出した」
メグミ「どうして私達が酷いんですか!先にチューリップを火星に落として火星の人達を全滅に追い込んだのはあなた達でしょ?」
月臣「チューリップ?」
九十九「時空跳躍門のことだ。」
月臣「かぁ!!!
 〜んな変な言葉使うな!べらぼうめい!」
ミナト「おかしいのはあんただ、あんた」
九十九「私達が戦争を始めたのは・・・二年前あなた方に攻撃されたからですよ」

九十九は真実を話し始めた。
それはもう一つの場所、ナデシコで語られた事と視点は違えど、ほぼ同じ内容だった。



ナデシコ・エリナの自室


エリナとアカツキはムネタケに真実を話し始めた。

エリナ「彼らが正真正銘地球人。
 しかも100年前に月から追い出された人達よ」
ムネタケ「100年・・・前の?」

それだけでも十分衝撃的だった。
だが衝撃的な事実はそれだけでは済まなかった。

ムネタケ「木星蜥蜴が月の内戦で追放された独立派の地球人!?」
エリナ「そう、100年前、月でちょっとした内戦が起こり、地球からの独立派と地球と協調を望む穏健派の二手に分かれて争った・・・ったのは知ってらっしゃいますよね?」
ムネタケ「そのぐらい、小学校の歴史で学ぶわよ」

そのことがきっかけにして地球、月、その後植民が開始される火星などを束ねる組織として地球連合が設立。1世紀をかけてようやく機能し始めた。
まだまだ不協和音は所々あるが、平和という意味で欠かすことの出来ない存在になりつつある。

アカツキ「だが、実際には地球側は月の内政干渉をしないという方針とは裏腹に、極秘裏に内部干渉し、穏健派に肩入れした。」
ムネタケ「つ、月の内戦に地球は無関係よ!」
アカツキ「どうしてそう思うんです?
 その目で見た訳じゃないでしょう。
 学校で教わったから、
 政府がそう言ったから、
 TVのニュースがそう言ったから信じた。
 でもそのニュースソースを疑ってみた事なんてないでしょう?」
ムネタケ「そりゃそうだけど・・・」
アカツキ「人は自分に都合のいい情報だけをより分けて自らの真実にする。
 人にとって真実は無数にありますよ。
 唯一、真理だけは神のみぞ知る・・・ってやつですよ」

確かにそうだ。地球が月の内戦に干渉していなければ良心が痛むこともない。
流された血の量に罪悪感を覚えなくて良い。

エリナ「だけど、月を追い出された独立派の人々は火星、小惑星、そして木星へと流れていき、ジ・エンド・・・まさかそんな環境で生きていられるとは思わず、ましてや彼らは月の内戦時に死亡したとされ、歴史にも彼らの存在は残されなかった。」
アカツキ「はじめは彼らの復讐を恐れた地球側は地球連合を設立して備えるも、彼らの消息がしれないとなるとやがてその存在を忘れ、地球連合は地球の内戦を調停する機関に移行していった・・・」
ムネタケは彼らの話す真実に驚きを隠せなかった・・・



ナデシコ・ブリッジ


それを聞いていたクルー達は一つの疑問を持った。

ユリカ「でもさぁ、なんで地球連合はその事実を隠そうとしたの?」
ゴート「知られたくなかったんだろうな、内部工作をしたことが発覚することを恐れて・・・」
ルリ「でもたぶんそれだけじゃないですよ」

ゴートの言葉にルリはそう言う。

内戦への干渉なんてどこでも行われている。
そりゃ、事実を闇に葬るなんてもっと当たり前に行われていることだ。

だが、ほとんど着の身着のままで木星に辿り着いて、死ぬ思いをしてあんな劣悪な環境で生き延びて、100年ちょっとで国家を築くほど繁栄をすることなど奇跡とも言える。それなのに投げ捨てても戦争をしなければいけないことがあったのだ。
力の差があまりにも歴然であるにも関わらず。

それが憎しみなのかなんなのか・・・



ゆめみづき・大広間


九十九「月を追われた我々は当時惑星改造が進んでいた火星に到着しました。
 やっと手に入れたと思った安住の地でした。
 ですが・・・」
月臣「地球の奴らは卑怯にも火星に核を打ち込みやがった!!!」
ミナト&メグミ「!!!」

彼女達は思わず口を押さえた。
そこまでして火星を追い出したかったのか!?

月臣「我々は火星すら追い出された!!!」
九十九「我々はさらに火星を離れ、小惑星、木星へと逃れました。
 その旅は劣悪を極めたそうです。
 乏しい物資、足りないエネルギー、暖房すらままならず、
 食事は装置が作り出す不味いレーションでした。」
ミナト「じゃ、あのご馳走って・・・」
九十九「ああ、アレは心配入りません。
 最近やっと保存していたDNAから生物の栽培に成功しました。
 もう少ししたら量産が可能になります。
 もっとも、多種多様・・・というわけには行きません。
 持ち出せた食材以上には増やせませんから」

ミナトやメグミは今更ながらに思い知らされる。
彼らの心尽くし
それは彼らの出来る精一杯であり、止まった100年前の光景への憧憬の一念でようやく生み出したという事に。
それをバカにされたと思ってしまうなんてなんて愚かだったのだろうか。
彼らにそれを強いたのは自分たちの先祖だと言うのに・・・

九十九「木星への道のりは険しく、志半ばに力つきた同胞が何人いたかしれません。
 人口は半減したのですが、女性の方のがんばりがあったおかげで何とか現在の水準に戻る事が出来ました。もっともあのままでは絶滅寸前でした。
 しかし幸運なことに我々は木星であれを見つけたんです。」
ミナト「あれ?」

そう、何もかも無くし、地球の者すら息絶えるであろうと思われていた木星人達が生き残れた理由。
そしてこの第一次火星会戦を始まるきっかけにもなったモノ
さらには木連をして圧倒的兵力差を勝ち抜けると思わせるモノがそこにはあったのだ・・・



ナデシコ・エリナの部屋


エリナ「死んだと思っていた彼らは『あれ』を見つけたの。
 だから生き残れた」
ムネタケ「見つけたってなにを・・・」
アカツキ「プラント・・・僕らはそう呼んでいる。」
エリナ「それはさしずめ相転移エンジンやチューリップ、無人兵器の工場だった。
 どこかの誰かさんが残していったその謎のプラントを使って彼らは独自の国家を作り上げたの」
ムネタケ「そんな・・・」

アカツキ「もちろん、それだけなら彼らと我々の歴史が交わる事はなかった。
 だが、火星に遺跡が見つかって状況が変わったのさ」
ムネタケ「え?」
エリナ「核に汚染された大地がようやく植民できるようになると、ネルガルは火星の研究所であるモノを見つけた。」
ムネタケ「見つけた?」
アカツキ「そう、火星極冠の地下に広がる古代火星遺跡、そして戦艦、相転移エンジン・・・」
エリナ「地球の人達は色めき立った。だが、火星はそれまで誰も見向きもしなかった。
 唯一ネルガルがテラフォーミングから入植のいっさいを負担し、軍人の給料まで肩代わりしていた。つまりは火星はネルガル利権の地。
 一円も払っていなかった地球連合が今更権利を主張することも出来ない。
 だから連合軍はその食指を火星以外に求めた・・・」
ムネタケ「それって・・・」
アカツキ「最初はただ調査隊が接触しただけらしい。
 どちらが先に手を出したのか闇の中だが・・・
 ただ言えることは彼らの前線基地と武力衝突し、そして彼らはその行為を侵略と受け止めたという事だね」

ムネタケは驚きのあまり言葉を失ってしまった・・・



ゆめみづき・大広間


九十九「奴らの狙いは我々からプラントを奪うことです。
 これすらも奪われたら我々はもう生きてはいけないでしょう。」
月臣「いや、卑劣な地球人のことだ、今度こそ我々を根絶やしにするはずだ!」
九十九「圧倒的な国家規模の差がある中で我々が生き残る術は、これしかなかったのです・・・」

九十九は伏し目がちに言う。
民間人を巻き込んでしまったのを気に病んでいるようだった。
だが、月臣は言う。

月臣「気にするな、九十九。
 奴らは悪だ。我々を虐げて、土地を奪い、命を奪った。
 滅ぶべき悪だ!」
九十九「だが、それを知らない者達もいたはずだ。
 たとえば彼女達のように・・・」
月臣「知らぬ事は罪にはならないのか!?
 知ろうともせず、自分達だけが良ければいいと安眠を貪り、
 巨悪を野放しにして、挙げ句の果てに彼らのやったことを知らなかったのだから自分達には罪はないとでも言うのか!?
 自分たちは俺達の犠牲の上に平和を、幸せを謳歌しているのにか!?」
九十九「・・・」

九十九は反論できず、ミナトとメグミは言葉すら無くした。
彼女達には何が正義で、なにが悪なのかわからなくなっていた・・・



ナデシコ・エリナの部屋


ムネタケ「こ、こんな事、誰にも言えないわ・・・」
ムネタケは知った事実の大きさ、重大さにおののいた。だが、エリナは冷徹に言う。

エリナ「言う必要はないわ。あなたはこのまま胸に仕舞えばいいの。
 知ったって何も変わらない。
 戦争は続く。互いのこの地球圏で唯一の生存権を懸けた戦争がね
 相手を根絶やしにしなければ気のすまない、これはそういう戦いなのよ。
 だから知らない方がいい」

『知らずに被害者ぶって死んだ方がどれだけ幸せか・・・』
エリナがそう言おうとしたその時!

ユリカ『良いわけありません!!!』
エリナ「あんた、いつの間に!!!」
エリナは驚く。ユリカのウインドウがいきなり現れれば驚くだろう。

エリナ「あんた、覗いていたわね!」
ユリカ『知らなくてもいいわけなんてありません!!!』
ユリカの声はナデシコ中に伝わる。

格納庫にも
医務室にも
未だ怪我人の治療に大わらわの月ドックでも

ユリカ『死ぬかもしれない人に、
 戦って死ぬかもしれない人に
 巻き込まれて死ぬかもしれない人に
 何のために死ぬのかを知らずに死ねなんて言えません!!!!』

ユリカの声は伝わる。

女将さんの死に涙する大将にも
真相を聞いてそんな身勝手な人達のせいで起こった戦争のために母親を殺されてしまった悔しさに震える久美にも
見舞いに来てそんな彼らに声をかけられないアキトの元にも

ユリカの声は響いた。

そしてアキトは思う。

奴らが地球を攻める理由はわからなくもない。
でも、彼らが受けた仕打ちとこの人達が受けた仕打ちのどこが違うのだ?

誰かが勝手に始めた戦争
あちらの正義とこちらの正義
正義の御旗はどこへやら
でも、どちらに正義があるにせよ、これはあんまりじゃないか!

アキトの心に彼らへの同情は湧かなかった・・・

ってことでinverse編に続きます。



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので前回と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「今回はやっぱりシリアスだね・・・・」

−まぁ、仕方がないでしょう。前話があれですから

アキ「それにしても私はどこに連れ去られたの?」

−ああ、そのことですか?知りたいですか?

アキ「知りたいですかって・・・なによぉ〜」

−どれが良いですか?『天使光臨!』とか、『神に遣わされただいま参上!』とか

アキ「はぁ?」

−あとサクラ大戦3のリボルバーカノン撃つところのBGMとか欲しいんですけど

アキ「あたしに一体何をさせるつもりなの?」

−もちろん、登場ドラゴンガンガーですよ♪

アキ「誰がそんな登場の仕方するかぁぁぁぁぁ!!!!(木連式柔炸裂!!)」

−・・・・・・というわけでinverse編をどうぞ。

ちなみにinverse編の内容とは微妙に違うので予めご了承下さい(笑)

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・kakikaki 様