アバン


まぁ月にアキトさんを迎えに行けるようになったからと言って、安心するのは早すぎるんじゃないですか?
自分たちの目的やビジョンを語るのも結構なんですけど、その思いは今のアキトさんには伝わっていないのかもしれません。

やがて黄昏は訪れる
心に闇の帳が訪れる
そのとき人は決断を迫られる
目を背けるのか?
真実を見据えるのか?

たとえ逃げ出した方が救われる真実だったとしても・・・

ああ、これってSecond Revengeのラストとほんのちょっぴり関係があったりしますのでそのつもりで〜



ネルガル月工場内居住区・食堂


「ただいま〜〜」
アキトは元気よく出前から帰って店ののれんをくぐった。
月に跳ばされてからすったもんだしたあげく、ここにお世話になっていたのだ。
結局、アキトはコックかパイロットしか出来ないらしい。

女将「お帰り、アキ坊。
 ヤマトなんとかと連絡はとれたかい?」
アキト「いや、えっと・・・」
大将「ヤマトなんとかじゃなくてナデシコだろ!
 それでどうだったんだ?」
アキト「ええ、なんとか。もうこっちに向かってるって・・・」
大将「良かったじゃねぇか♪」
女将「んじゃ、ウチの人にこき使われるのもあと数日だねぇ」
大将「ばぁろう!誰がいつこき使ったんだよ!」
アキト「俺は別に(汗)」
女将「まぁそんなのどうでもいいから、あがって食事にしな。
 久美があんたと一緒に食べるんだって待ってるよ♪」
アキト「あ、は〜い」

アキトは夫婦喧嘩がひどくならない内にさっさと店の奥の茶の間へ駆け込んだ。

久美「あ、お帰りなさい〜〜」
アキト「ただいま」

お帰りに、ただいま・・・
当たり前のように思えて、実はかなり久しぶりの事のように思う。
どこかのテレビドラマで観る少し昔の家庭の光景
父親がいて、母親がいて、帰ったら夕食の準備がしてあって・・・

どこかそんな環境にアキトは憧れていたのかもしれない。
だから数日前、目覚めてネルガルから解放されたとき、たまたま食事をとろうとこの食堂に入ったときは正直嬉しかった。ナデシコと連絡を取って迎えに来てもらうまでの間、行くところがないと言うとウチに泊まれと言ってくれたときは本当に嬉しかった。

代わりにこうやってコックやら出前やらを手伝っているのだが、本当の家族みたいに接してくれるのがたまらなく嬉しかった。

久美「はい、アキトさん」
アキト「ああ」
久美はご飯を一膳分アキトの方に投げた。
アキトは手慣れた様子でお茶碗で受け取るとお茶碗はプラスティックのふたを自動的にした。

月は地球の重力の6分の1である。
ご飯を投げるなんて芸当は月が6分の1だからこそ出来るのであり、また逆に簡単に飛び散ってしまわないようにいちいちふたをして食べなければいけないのだ。
なかなか不便である。

もう少し良い建物に行けば重力制御の行き届いた場所もあるし、実際月の住民も週に何回かはそこで肉体の筋力が落ちないように訓練をする。
だが、重力制御を行うには相転移エンジン並の高出力エンジンが必要であり、とても月工場全域に行き渡らせるほどの性能のものはない。
もっとも、重力が6分の1という利点を生かした製品生産をしているという理由もあるのだが。

それはともかく・・・
「やっぱり助けられなかった・・・」
アキトはぽつりと呟く。

久美「ああ、助けるんだって言っていた人の事?」
アキト「ああ。彼女は俺の代わりに死んだんだ・・・」

アキトは思い悩む。
自分の居るべき場所に代わりにいて戦った少女
イツキ・カザマ
ガイを慕っていて、結局ガイと同じく人のために死んだ少女
敵機動兵器のボソンジャンプに巻き込まれて死んでしまった

「もう少し早く俺が決断していれば・・・」
アキトは思い悩む。
自分がもう少し早く現場に駆けつけていれば、
敵をボソンジャンプさせていれば彼女は死なずに済んだ。

だが、久美はそんなアキトを戒めた。

久美「そんな風に自分の代わりに他人が死んだなんて考えるのはよそう?」
アキト「久美ちゃん・・・」
久美「月もこんなだからたくさん人が逝くのを見てきたけど、自分の代わりに隣の人が死んだなんて思ってないよ?
 そんな風に思ったらまるで・・・
 あれ?なんて言うんだっけ?」

アキトにもその先は言わなくてもわかっている。
そんなのは傲慢だ。
アキならそう言って怒るだろう。

でも思わずにはいられない。

アキト「最初の1週間はネルガルの研究所のベットの上だった。
 医者は巨大なジャンプフィールドをいきなり作った反動による精神疲労の為だろうって言ってたけど、自分でもそれが本当かどうかはわからない。
 次の1週間はネルガルに尋問され、テストされる毎日だった。
 そりゃ、地球にもう一人の自分がいて戦歴も作っているんだ。自分もテンカワ・アキトでございます・・・なんて言ってもいきなりジャンプで現れて1週間意識不明だった男の言うことなんて信じてもらえなくて当たり前かもしれない。
 でも事態が飲み込めて、過去に戻った事がわかりだして、やり直せるって思った。
 うじうじ悩んでいる過去の自分を叱りとばせば、もっと早く敵をボソンジャンプさせられていた・・・
 いや、ボソンジャンプに巻き込まれるのがどれほど危険なことが彼女に忠告することも出来た。
 ああも出来た、こうも出来た。そうやって悩んでいくうちに時間だけが過ぎていって、結局何にも出来なかった・・・」
久美「アキトさん・・・」
アキトの思い悩む様に久美は何も言えなかった。

だが、そんなアキトを叱る人がいた。

大将「まだそんなことでうじうじ悩んでるのかよ!」
アキト「でも・・・」
大将「この世のことに意味なんてねぇ!
 その彼女が死んだのだって、お前が2週間前に跳ばされたのだって意味なんてねぇ。
 もしそんなものに意味があるように見えるならそれはお前の願望なんだよ。」
大将はそう言う。

この世は理不尽な事で溢れている。
そこに意味があるように見えるのは、そこに自らの望む理由を当てはめたがっている自分の心のせいだ。
意味がないことが不安で不安で仕方がなく、自分を落ち着けるために納得できる理由を求めているだけなのだと。
だから自分のせいで彼女が死に、自分の代わりに彼女が死んだと思い込もうとしているのだ。

でも間違えてはいけない。
今ここに自分がいるのは見えざる手の力のせいでも、神の力の為でも、ましてや誰かの書いたシナリオの通りでもない。自分が望み、選んだからここにいるのだ。
だから最後まで自分で考えて行動しなければいけない。

でも・・・

アキト「わかってるッス!
 でも何かあるって思いたいじゃないですか!
 俺だけが同じ時間を2度生きた意味を!
 なぜ俺だけがこんな力を持ってしまったのかを!
 繰り返した時間をなぜやり直せなかったのかを・・・」

アキトはそう思い悩むのであった・・・



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第15話 遠い星からきた「アイツ」<後編>



ナデシコ・ブリッジ


結局ムネタケが整備班とジュンに極秘で捜査させようとしていた木星蜥蜴らしき侵入者の件だが、結局はウリバタケ達の女湯の覗きのせいでバレてしまったのだ(苦笑)

で、艦内には警報が鳴り響く。
「艦内に侵入者が潜伏している形跡があります。
 クルーの皆さんはなるべく一人にならず、人のいる場所に集まって下さい。
 繰り返します・・・」
そんなアナウンスが艦内に流れている。

ゴート達ブリッジクルーは拳銃の携帯を促されていた。
みんな手に手に自分の拳銃を受け取る。
そんななか、ユリカはふと呟く。

ユリカ「私達って木星蜥蜴について何も知らなかったんだね・・・」

その呟きにブリッジにいたクルーはみんな声を出さずに同意した。
そしてさっきお風呂にいた乙女達はふとアキが言っていた言葉を思い出す。

『認める覚悟が必要よ・・・』

自分たちは一体何を認める必要があるのだろうか?
侵入した木星蜥蜴を見つけたら私達は何を知らされるのだろうか?
不安になりながらも今の自分たちは木星蜥蜴を見つけるしか仕様がなかった・・・



ナデシコ・メグミの自室前


ミナトはお風呂から帰って結局はブリッジへ寄らずにブラブラしていた。

「なんか、こうワクワク感ってのがねぇ・・・」
その原因は何となくわかっている。
木星蜥蜴を倒して地球を救う。
そんなヒーローみたいなワクワク感は失せ、敗北感とか、惰性とか、ただ機械のように木星蜥蜴達と戦う毎日。

そして
仕事と恋愛は別!とか、
ビジョンを持たなければダメ!とか、
・・・息が詰まりそうだった。

と、そんなときミナトはメグミの部屋の前を通りがかって中からTVの音が聞こえるのに気がついた。
警報が聞こえているはずだろうにまだ部屋にいるのだろうか?
ミナトはメグミの部屋を覗いてみることにした。



ナデシコ・メグミの部屋


「メグちゃん?」
ミナトは部屋の中を覗いて声をかける。
そこにはうさたんのぬいぐるみと並んでゲキガンガーのTVを観ているメグミの姿があった。

ミナトはメグミが少女趣味でもないだろう・・・と思いながらも不審に思い部屋の中に入っていった。

ミナト「メグちゃん、召集がかかっているのにこんなところで何してるの?」
メグミ「あ、ミナトさん(汗)」
ミナト「・・・ぬいぐるみと仲良くアニメ観賞?」
メグミ「いや・・・そのついハマっちゃって(汗)」

ゲキガンガーにハマる?
その台詞だけでも怪しいのに少し挙動も変だ。
ミナトは様子を見るためにもう少し部屋の奥へ入る。

ミナト「食堂かブリッジに集まれって艦内放送聞こえなかったの?
 早くしないと提督とかがピーピー言うわよ」
メグミ「ええ、すぐ行きますから・・・」
やたらうさたんのぬいぐるみに気を使うメグミ。
訝しがりながら近づくミナトだが、誤って床に転がっていたリモコンを踏んでしまった。

ピィ♪

少し早送りされる場面
そしてその場面は・・・

メグミ「ダメ!」
うさたん「アクアマリンが〜〜(泣)」
ミナト「え?」

メグミがあちゃ〜と顔に手を当てた。
すると声を発したうさたんのぬいぐるみは短い手足がまるで伸びたかのようにすっくと立ち上がった。
そしてうさたんはぬいぐるみの頭をとって敬礼する。

そのぬいぐるみから現れたのは人・・・
まるでヤマダ・ジロウ似の成人男性であった。
しかもゲキガンガーに出てくる天空ケンと同じパイロットコスチュームである。

九十九「申し遅れました。
 自分は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパおよび他衛星小惑星国家間反地球共同連合体突撃宇宙優人部隊白鳥九十九少佐であります。」
ミナト「はぁ?」
ミナトは一瞬目が点になった。

『この人は一体何を言っているのだ?』

それが最初の感想だった。
そして相手が自分をからかっているのだろうと思って相手を非難した。

ミナト「あんた、私をからかってるの?」
九十九「とんでもありません!」
ミナト「あんた歴史の勉強したことないの?
 いい?人類は火星より外に植民した歴史なんてないのよ!
 それが木星ですって?X−FILEとかの見過ぎじゃないの!」
九十九「火星より外に植民したことがないなんて、それはあなた方だけの歴史です。
 我々木連人はこの100年もの間、木星圏にて独自の国家を築き、繁栄してきました。」

ミナトは何となくこの男の非常識な言い分がわかってきた。
が、それが嘘偽りでなく、本心から真実を言っているのか計りかねていた。
ミナトはメグミの方に目を向ける。するとメグミは沈痛な面もちで頷いた。
・・・やっぱり同じ台詞を聞いたらしい。

ミナトが九十九に何かを言おうとしたとき、部屋の外から人声がした。
警備班「あれ?まだ誰かいらっしゃいます?」
ミナト「あ、は〜い」
警備班「異常はありませんか?」
ミナト「特にありません♪」
警備班「出来ましたらブリッジか食堂に集まって下さい」
ミナト「は〜い、今すぐ行きます」

その声で見回っていた警備班の警備員が去っていった。
メグミや九十九はちょっと驚いたような目をしていた。ミナトは『つい♪』って顔で笑って誤魔化した。



ナデシコ・通路


メグミ「良いんですか?本当にこんな事して」
ミナト「良いの良いの♪」
九十九『いや、良いような悪いような・・・』

二人は洗濯物収集用のカーゴを押して歩いている。
そして九十九はその中に鼻血を抑えながら必死に隠れている。カーゴに押し込めている九十九の上を女性物の下着の山で覆っている。これならたとえ警備班の人間に見つかっても下着の山の中にまで手を突っ込んで探そうとはすまい。

ミナトは我ながらグッドアイディアだとニコニコ顔である。
が、メグミはそうでもなかった。

メグミ「ゴートさん、怒りますよ?」
ミナト「だって、怪我している人を突き出すの趣味じゃないし〜〜」

ゴートのことを言われて感情的になったのか、すねるミナト。
だが、噂をすれば影がさすのことわざの通り・・・

ゴート「こんなところで何をやっている!
 今は非常警戒態勢中だろう!!」
メグミ「ご、ゴートさん。これは・・・」
ミナト「すぐ行くわよ」
ゴート「どんな敵がいるかわからないんだ!
 自覚がないのか!」
叱るゴートにカチンとくるミナト。
さっきのブリッジの件もあって普通なら何でもないことでもいちいち気に触ってしまう。

ミナト「楽しそうだよねぇ」
ゴート「なに?」
ミナト「人を銃で追いかけ回したり、追い詰めたり」
ゴート「俺はお前の安全のために言ってるんだぞ?」
ミナト「いっそ俺のために死ねとか言えないの!」
ゴート「!!!」

言ってしまってハッとするミナト。
ゴートも思わず感情的になって手を挙げてしまう。
メグミは思わず息をのむが、それはミナトが殴られてしまうと思ったからではなかった。

九十九「女性に手を挙げるとはそれでも貴様は軍人か!
 女性は国の御宝ぞ!!!」
下着のカーゴから現れた九十九がゴートを止めようと銃を突きつけた。

ミナトとメグミは『あちゃ〜』と顔に手を当てたが、時既に遅し。

「御用だ!」
「御用だ!」
「御用だ!」
「うわぁ!」
様子を見て駆けつけてきた整備班の面々に飛びかかられて、九十九はあえなく御用になってしまったのだった(笑)



月・食堂の寝室


キラキラ光る謎の城
そう、それはまるで『宇宙に浮かぶ謎の城』
毎夜その夢を見て何故かうなされた。

『宇宙に浮かぶ謎の城』
それは禍禍しさとともに不安に陥れる

『宇宙に浮かぶ謎の城』
それはなぜか懐かしく、故郷を思わせるものもある
その綯い交ぜな気持ちが不安を掻き立てた・・・

「・・・さん、
 ・・トさん、
 ・キトさん、
 アキトさん!!!」
「ハッ!」
アキトは声をかけられて目を覚ます。
起こしたのは久美であった。

久美「アキトさん、どうしたの?うなされて・・・」
アキト「ああ、いや、何でもないんだ・・・」
久美「何でもなくないよ。汗びっしょりだよ?」
アキト「いつもの城の夢だよ・・・」
久美「ああ、あのキラキラ光るお城の夢?」
アキト「ああ・・・」

そう、久美が言うにはうなされているらしい。
でも淡き夢は目覚めとともに消え失せる。
それが何だったのか思い出せない。
大事なことのはずなのに・・・

でも、そんな不思議な夢を見るアキトを久美はなぜか憧憬の念で見つめていた。

久美「もしかしてアキトさんって古代火星人の戦士の生まれ変わりとか?」
アキト「え?じょ、冗談な・・・」
久美「冗談じゃないよぉ。だっていきなり素人なのにナデシコのエースパイロットになれたり、地球から月にワープしてきたり!」
アキト「いや、エースパイロットは別にいるよ・・・」

アキトはテレながらも自分がそんなモノと称されるなんておこがましいと思った。
アキトにとって、エースパイロットと言えば、強さの象徴と言えば・・・

アキト「俺なんてまだまだ弱いよ。
 誰も守れなかったんだから・・・」
久美「アキトさん・・・」

力が欲しかった。
アキトは切実に力が欲しかった。
今回のことでそう思った。
だけど・・・

『アキさんのようになりたい』
そう言ったことがある。
でもアキは少し困った顔をして寂しげに微笑んだ。

力を求めることはいけないのか?
でも・・・

だが、現実はそんなことを悩んでいる暇はなかった。
いや、悩んである程度心構えをすることすら許さなかった!

ドドン!!!!
建物が激しく揺れた!

久美「キャァ!」
アキト「な、何だ!?」

それと同時にアキトのコミュニケが光り始めた。
慌てて応答すると開いたウインドウには男の顔が映った。

ネルガル社員「テンカワ・アキト君だね?」
アキト「ええ、あなたは確か・・・」
ネルガル社員「良かった。君がまだこの工場にいて」
久美「うわぁ・・・空中に映像が・・・」
アキト「って一体なんですか?いきなり通信を送ってきて!
 それよりこの揺れは何ですか!?」
ネルガル社員「大変なんだ!この工場が木星蜥蜴の巨大機動兵器に襲われている!
 エステバリスのパイロットが必要なんだ!」
アキト「何ですって!?」

時はアキトに考える時間すら与えなかった・・・



???


「帰ったか、北辰」
「無理矢理跳ばされればイヤでも帰ってこざるを得まい」
「帰った早々で悪いが、もう一仕事だ」
「人使いが荒い」
「そう言うな。」
「で、何をするのだ?」
「なに、月臣の手伝いだ。」
「・・・あんな戦闘、我が手伝わなくても・・・」
「天秤は傾いている。均衡を図るためにはアイツを利用する。」
「・・・悪趣味だな」
「そう言うな。いるはずのない二人のテンカワ・アキト。
 どちらかが光に染まればどちらかが闇に染まるのが必定。
 そうだろ?」
「・・・」

その言葉を聞くと北辰は何も言わずまた無明の闇に消えていった・・・



月ドック・地表


「おのれ、憎き地球人め!!!
 悪の人型兵器も相転移炉式戦艦も作らせん!!!
 俺は俺の国を守る!
 この拳が砕け散るとも!!!」

外では月臣の乗るダイマジンが暴れていた。



ネルガル・月ドッグ


アキトはその後、すぐ近くのドッグに案内されていた。
そこでアキトが見たのは通常のエステバリスよりもふた周り以上の大きさの機動兵器であった。
早速、アキトは機動兵器に搭乗を促された。

ネルガル社員「エステのパイロットがいてくれたのは不幸中の幸いだ。
 連合軍が来る前に何とかしたい」
アキト「なぜ?」
ネルガル社員「理由はあれだよ」

社員が促した先には一隻の戦艦が建造中であった。

ネルガル社員「あれが極秘裏に建造中のナデシコ4番艦『シャクヤク』
 第二次火星攻略に向けて最終調整中だ」
アキト「あれがシャクヤクか・・・」

地球でアキに話を聞いた戦艦だ。
もうここまで出来上がっていたなんて・・・

アキト「軍を騙して火星を攻めようなんて考えているから罰が当たったんだ!」
ネルガル社員「だが火星攻略の切り札なんだ。頼む。
 ここの社員もみんなアレのために危険を省みずに残ってもらっているんだ」
アキト「勝手な理屈ッスね。人命より戦艦ですか・・・」
ネルガル社員「だが、それで地球圏が救われる。犠牲を払わずに平和を取り戻せる方法があるならぜひ教えてくれ」
アキト「・・・・もうどうだっていいんですよ。
 火星の研究所のこととか、戦争のこととか。
 ただ目の前で大切な人が死んでいくのが我慢できないだけなんッス!」

ネルガル社員はアキトの言葉をそれを肯定と受け取ったのか、それとも論議をするほど時間の余裕もないと判断したのか、さっさと機動兵器の説明を始めた。

ネルガル社員「この月面フレームは相転移エンジンを搭載しているのでスタンドアローンの機動が可能だ。操縦方法こそゼロG戦フレームと同じだが、相転移エンジンを積んでいる分、反応速度は鈍い。
 装備しているレールカノンは敵のディストーションフィールドに有効だが、外したときの周りの被害も甚大だ。なるべく接近して撃ってくれ」
アキト「わかっています!
 どのみち奴にグラビティーブラストを撃たせるわけには行かないですからね!」

アキトは肩のナノマシーンを操作してパイロットスーツに身を包む。
そしてハッチを閉じると月面フレームをリフトアップしてくれるよう指示した。



月ドック・地表


ダイマジンは地表にリフトアップされてきた月面フレームに気づいたのか、こっちの方を振り向いた。

ネルガル社員『くれぐれも工場には・・・』
アキト「わかってます!あそこには大事な人がいますからね。」
アキトは思い出す。
あそこにはたった数日だがお世話になった大将、女将さん、久美ちゃんがいる。
うまく避難できたであろうか?

今度こそ守る。
今まで守れなかった人の分まで!!!

アキト「うわぁ!!!!」
月面フレームでダイマジンに突っ込むアキト。

だが、敵は重い左手を振りかぶって迎え撃つ!

グワン!!
かろうじて月面フレームのディストーションフィールドがはじいてくれたが、当たるとかなりやばかった。

アキト「なにくそ!!!」
だが、アキトはあきらめにない。バランスを崩しながらもレールカノンの照準を合わせる。
遠距離からではむやみやたらにジャンプされる。だから接近して隙をついてレールカノンを撃つしかない。
こちらがよろめいたと思っている今がチャンスだ。

ダンダンダン!!!

1発目、2発目ハズレ!
3発目は惜しくもかすった!
ダイマジンはディストーションフィールドを貫通される砲撃があるとは思わず、驚いてよろめいた。

いける!

アキトはそうふんでさらに接近戦に持ち込む。
だが敵もその大きな手を振りかぶって月面フレームを振り払おうとする。

ブンブン!!!
そのどれもを紙一重でかわしていくアキト。
反応の遅い月面フレームでは至難の業である。
だが、今日のアキトは調子が良かった。

『よし、今度こそ守れる!』
そう確信するアキト。
だが、そこに綻びが生じた。

ダイマジンがキラメキに包まれた。

「しまった!」

ダイマジンは一瞬の隙をついてボソンジャンプしようとした。

「待て!」
だが、既に時遅く、ダイマジンは消え去ってしまった。



???


「北辰、出番だ」
東郷はまるで魔法の杖でも振るうかのごとく指を動かす。

次の瞬間、強制力は働いた・・・



月ドック・地表


「どこだ!?」
アキトは周囲を油断なく見回す。
どこかすぐ近くからジャンプアウトしてくるはずだ。

だが・・・・

ゾクゥゥゥゥ!!!!!

背筋に強烈な悪寒が走る!
なんだ!?この殺気は!!!

その気配に無意識に月面フレームを操るアキト。
だから間一髪致命傷を浴びるのを避けることが出来た。

吹っ飛ぶ月面フレーム。
片腕はレールカノンもろとももげてしまった。

「な、なんだって・・・」
倒れた月面フレームを起こして衝撃を受けた方を見る。
そこには・・・

さっきと同じ機体だ。
さっきと全く同じ機体のはずなのに、先ほどのように倒せる!という気持ちが湧いてこない。
こんなに絶望的な気分になったのははじめてだ。

ダイマジンはアキトを一瞥すると、まるで興味がないかのように背を向けた。

「な、なにを・・・
 まさか!?」
アキトはその行動を訝しがる。
だが、その真意はすぐにわかった。

「や、止めろ、そっちには・・・」
そう、ダイマジンが向かっていたのはネルガルの工場
それもあの大将や女将さん、久美ちゃんのいる工場の方だった。

「止めろ!そこには戦えない人が、戦えない人達がいるんだ!!!」
恐怖を押し殺し、力を振り絞って敵に突撃するアキト!
だが、それは無造作な右手の人振りで薙ぎ倒されてしまった。

全く動けなくなった月面フレーム。
アキトが再起動しようとジタバタしているその時・・・

『イッツショータイム♪』
そんなテロップと共に一つの映像がアキトのコックピットに送りつけられてきた。
どこかの監視モニターの画像。
正面には窓越しにダイマジンの歩み寄る姿が見える。
そしてそれに恐れおののいて逃げまどう工場の住人達。
だが備え付けられたシェルターには人でごった返していた。

そしてある一ヶ所がクローズアップされる。
同時に音声もノイズ混じりであるが流された。

『あんた達、早くお入り!』
『ば、バカ野郎!お前を置いて行けるか!』
『そうだよ。私が出るから母ちゃんが入って!』
『バカだねぇ、大柄のあたしが出ればあんた達二人が入れるじゃないか・・・』
『バカ!なら俺も一緒に・・・』
『私も!母ちゃんを置いて・・・』
『いいから早く入った!』

もう入るスペースのないシェルターに押し込まれる大将と久美ちゃん。
外から二人を押し込んだのは女将さんだった。

『素晴らしい♪
 勇気ある清々しい光景です♪』
その場面にそんなテロップが重なる。

閉まるドアを眺めて満足気に微笑む女将さんが映し出される。

『でも、その気高き表情がどこまで保つでしょう♪』
「お、おい・・・止めろ・・・・」

アキトが月面フレームを奮い立たそうとしながらうわごとのように呟く。
だがそれをあざ笑うかのようにテロップが吐き気を起こす言葉を紡ぎ出す。

『恐怖に引きつるその顔♪
 絶体絶命のシーン♪
 そう、こういう時こそ正義の味方を呼ぼう!』
そのテロップとともに窓のすぐ外で右手を振りかぶるダイマジンを見て恐怖に引きつる女将さんの顔がアップで映し出された!
「止めろ、止めろ!!!!」

だが、アキトの絶叫が絶望を覆すことはなかった。

『さぁみんなで呼ぼう、ゲキガンガーを!!!
 レッツ、ゲキガイン!!!
 ってゲキガンガーは俺のことじゃん(笑)』
そのテロップと同時にダイマジンの右手は振り下ろされた。

「止めろ!!!!!!!!!!!!!!!」
ようやく動いた月面フレームを駆ってアキトはダイマジンに突進した。
月面フレームがダイマジンに接触する瞬間、ダイマジンはボソンジャンプで消え失せた。
そしてアキトの眼前には・・・

外壁が壊され酸素のなくなった部屋の中で、喉元を掻きむしったまま苦悶の表情で息絶えた女将さんの姿がリアルな光景でメインスクリーンに映し出されていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
アキトの絶叫がコックピットに響き渡った。



ナデシコ・グリーフィングルーム


プロス「ほぉ〜多少DNAを弄くった跡はありますが、間違いなく地球人類です」
検査結果の内容を見たプロスは思わず驚いた。

九十九「我々を卑怯な地球人と一緒にするな!
 私は誇りある木連の兵士だ!」
プロス「と、さっきからこのようなことを仰られておりますが・・・
 どういたしましょう?」
ユリカ「どうしましょう・・・って言われても・・・」
ジュン「・・・認めがたいけど、彼が木星蜥蜴に乗っていたパイロットと考えた方がいいんでしょうか?」
九十九「蜥蜴ではない!テツジンだ!」
イネス「ジュン君の言う通りね。
 じゃなきゃ、こんな珍妙なコスチュームは着ないでしょうし・・・」

信じられない話だがイネスはそう結論づけた。
遺伝子学的な見地から見ても、
ゲキガンガーそっくりなコスチュームを好んで着ている様子から見ても着て、
ゲキガンガーのCDを恥ずかしげもなく大音響で鳴らすことから見ても、
ゲキガンガーっぽい機動兵器に喜んでいるところから見ても。

「参りましたなぁ・・・」
そのプロスの言葉に誰もが事実を実感せずにはおれなかった。誰も自分の頭の中で整理できないでいるのだ。
だが、戸惑うクルーの中でただ一人異なる眼光で白鳥九十九を見つめる人物がいた。

ラピス「・・・アキ、どうしたの?」
アキ「ん?なんでもないよ・・・」
不審に思ったラピスが声をかけるが、アキのさっきまで刺すような視線は消え失せた。
少し安心して視線を戻すラピス。

だが、アキの心の中はいろんなものが渦巻いていた。

『白鳥九十九!
 生きた白鳥九十九が・・・
 こんな風に捕まったのか・・・
 彼はどこまで知っているの?
 どこまで・・・』

しかし、時は駆け足で過ぎていく。
事態は刻一刻と変わった。

ブリッジに残っていたルリがウインドウ通信を送ってきた。
ルリ『艦長、月・・・
ユリカ「ああ、もう月に着くのね?
 月のネルガルドッグに着艇許可を・・・』
ルリ『そうじゃなくって、現在、月ネルガル工場にて木星蜥蜴出現。
 テンカワさんがエステバリスで応戦に出るところです!』
ユリカ「え?」

その報に驚く一同。
そしてユリカが指示した内容は・・・

ユリカ「ルリちゃん、急いで月への降下軌道に入って。
 皆さんは直ちに第一種戦闘態勢に。
 アキトを助けます」
プロス「よろしいのですか?」
エリナ「良いわけないでしょ!」
ユリカの指示を遮ったのはエリナであった。

エリナ「あなた、敵兵士の尋問はどうするの!
 彼を匿おうとしたハルカ操舵士とレイナード通信士の責任問題はどうするの!
 男と女の問題じゃないのよ!」
ミナト「だって私達、男と女だも〜ん」
ゴート「・・・」
ユリカ「今はアキトと月の人達を助けるのが先です。
 彼にはとりあえず独房に入ってもらいます。
 二人にはこの戦闘が終わってから事情を聞きます。
 それじゃ、ダメですか?」

ミナトのチャチャとかはあったが、厳しく咎めるエリナに真剣な表情で返すユリカ。
しばらく睨み合った後に・・・

エリナ「そんな甘いこと言って後でどうなっても知らないから」
ユリカ「じゃ、皆さん持ち場に戻って下さい。
 あと、蜥蜴さんは・・・」
九十九「蜥蜴ではない!白鳥九十九だ」
ユリカ「その白鳥さんを誰か独房まで・・・」
アカツキ「ああ、それなら僕が・・・」
アキ「私が連行するわ」
一同「え?」

一同は驚いた。
特にアカツキが。

アカツキ「いや、でももうすぐ出撃だし・・・」
アキ「月に着くまでまだ時間があるでしょう。独房に入れるのに大して手間のかかる仕事じゃないし。
 それとも私がやっちゃダメで、あなたがやりたい理由とかあるの?」
アカツキ「・・・・ないです(汗)」
アキの鋭い眼光を突きつけられてすごすご退却するアカツキであった。



ナデシコ・通路


アキ「この当たりで良いか・・・」
九十九を連行していたアキが途中で立ち止まった。

九十九「???」
アキ「あなたに聞きたいことがある・・・」
アキは九十九に突きつけている銃を降ろしてそう尋ねた。

九十九「聞きたいこと?」
アキ「そう・・・」
そう言うとアキはふわっと九十九に抱きつく。

九十九「ふ、婦女子がみだりに男性に抱きつくものでは〜〜(赤)」
アキ「し!静かに聞きなさい。
 北辰はなぜ地球に来たの?」
九十九「!!!
 あなたはどこでその名前を・・・」
アキは抱きつきながら耳元でささやいた名前に九十九は驚く。
そしてその真意に気づいてささやき返した。

地球人で木連の概要を知るものはほとんどいない。
しかもその中の特定個人・・・ましてや策謀活動をする北辰などという秘密部隊の個人名など知るなど不可能に近い。

ならば彼女は木連内部にかなり通じていることになる。
一体何者だ?
だが、北辰に関しては良い噂は聞かない。

とはいえ、どこまで話して良いものやら・・・

アキ「乙女の秘密」
九十九「ですが、しかし・・・」
アキ「しかしも、かかしもないの。
 北辰は地球で活動していた。
 暗殺を!」
九十九「!!!」
アキ「誰の指示で動いているの?」

九十九は彼女が焦っていることに気がついた。
それは北辰に原因であることは容易に想像できた。
本当に北辰が動いていたのなら、彼女の焦りは理解できる。
それほどまでに木連内部でも北辰の手段を選ばないやり方は問題視されていた。

九十九「・・・さぁそれはわかりません。
 彼は草壁指令の直属です。その行動はわかりません」
その言葉に偽りはない。
草壁は優人部隊のトップであるが、その腹心の行動は謎のままだ。自分たちの直接の上司である草壁に対して北辰の行動を直接どうこう言える立場にはない。

アキ「じゃ、草壁の指示で動いているの?」
九十九「さぁ・・・」
アキ「それじゃ、あと木連の誰が地球に潜伏しているの?
 東郷も来ているの?」
九十九「いや、彼は私の部下ですから月に来ているはずですが・・・」
アキ「くそ!何の目的で・・・」

そう言葉を続けようとしたアキであるが、ある気配に気がついて振り向いた。
驚いた九十九もつられてそちらの方向をみる。

カチャリ・・・

アキ「何のマネ?『アカツキ君』?」
そう、振り返るとそこにいたのはこちらに銃を突きつけているアカツキの姿があった。

アカツキ「何って・・・捕虜が女子クルーに襲いかかっているように見えます♪」
アキ「あ、あんたねぇ!」
アカツキ「いいじゃないですか、木星蜥蜴は謎の無人兵器のままで。
 それともなんですか?もしや隊長は木星蜥蜴と通じているとでも?」
アキ「!!!」
アカツキ「んじゃ決定。そこの捕虜が隊長に抱きついて格闘しているところを僕が通りがかった。僕は隊長の身を守るためにやむなく捕虜を射殺・・・って事でOK?」
九十九「き、貴様、卑劣な!」
アキ「あんたねぇ!」
アカツキ「イヤだねぇ〜僕は隊長を庇護するために・・・」

ゴォン!!!

アカツキが最後まで台詞を続けることは出来なかった。

メグミ「今のうちです!」
ミナト「白鳥さん、早く!」
九十九「ミナトさん、メグミさん・・・」
アカツキを殴り倒したのはミナトとメグミであった。

アキ「あ、あなた達!?」
アキは驚いたが同時に理解した。だから1周目でミナトとメグミが白鳥九十九に着いていったのか・・・

九十九「ですが・・・」
ミナト「チャンスは今しかありません!」
アキ「だ、ダメ!」

ミナトに促されて九十九は倒れたアカツキの持っていた銃を拾おうとする。
アキは慌てて九十九を取り押さえようとした。

アキ「止めなさい!」
九十九「許して下さい、自分は・・・」
アキ「あなたの為なの、あなたはナデシコにいて!」
九十九「ですが、しかし・・・」
アキ「このままじゃ何も変わらない。
 このまま木連に戻ったらあなたはいずれ殺される!」
九十九「!!!」

それが本当かどうか、ただ自分を縛り付けるためだけの虚言なのか九十九には判断できなかった。ただしばらくもみ合いになって・・・

アキ「うぐぅ!!!!」
九十九「あ、済みません!!!」
九十九は思わずアキの脇腹を殴ってしまった。
その脇腹は地球で北辰にやられた傷だ。まだ抜糸が出来ていなかったので今ので傷口が開いてしまったのだ。

そして運命は『時の記述』通りになぞる。
間が悪いことにそこにジュンが駆けつけたのだ。

ジュン「そ、そこで何をやっている!」
九十九「す、済まん!!!」
九十九はアキを無理矢理引きはがすとアカツキの銃を拾ってジュンに向けた。

バン!!!

乾いた銃声が廊下に響き渡った・・・



月ドック・地表


「ど、どうした?跳躍装置の故障か?」
再びジャンプアウトしてきた月臣は戸惑った。
確かに跳躍は実行したが、予定していたところとは違う場所にジャンプアウトしてきた。

風景がさっきと少し違う気がするが・・・
それよりも敵の人型兵器を探すことにした。

「どこだ!」
振り返るとそこにはアキトの月面フレームが立っていた。
違和感を感じつつも月臣は

「おのれ、敵の人型機動兵器め!
 正義の鉄槌を食らわせてやる!
 ゲキガン・・・・・」
月臣がグラビティーブラストを放とうとした瞬間、月面フレームは自分に向かって突っ込んできた。
正気か!?
グラビティーブラストの発射態勢に入っているので跳躍しては逃げられない。
だが、こちらの発射を阻止できなければ敵は真正面からグラビティーブラストを喰らうことになる。死ぬのは必死だ。
しかもこちらにはディストーションフィールドに阻まれて近づけない。
無謀な特攻行為だった。

だが、一瞬の躊躇もなかったのが功を奏したのか、
月面フレームの繰り出した渾身の一撃は十分スピードにのり、ダイマジンのディストーションフィールドを突き破ることに成功した。

ガキィ!!!!!

月面フレームの一撃はダイマジンのグラビティーブラスト発射口を破壊することに成功した。

「くそぉ!やるな地球人め!!!
 だが俺はやられはしない!
 俺達の国は俺達が守る!
 お前達にはやらせはしない!!!」
ここで相転移炉式戦艦を叩かなければ月が、そして火星が攻略されてしまう。
そうなれば木星にある母艦まで敵が群がってくることは必至だ。
少数の木連が圧倒的多数の地球に勝ち残るには優位な状況を崩してはいけない。
だから月臣はそう叫んだ。

だが・・・・

『・・・・人間なのか?』
向こうと通信が繋がったようだった。
敵機動兵器のパイロットからの声のようだった。

アキト『答えろ!お前が木星蜥蜴なのか?』
月臣「失礼な!我々は木連の兵士だ!」
アキト『お前達がやったのか?お前達がこんな酷いことをやったのか?』
月臣「酷いのはお前達だろう!俺達は俺達の国を守るために・・・」
アキト『だからって同じ人間にこんな事をするのか!?』
月臣『それが戦争だ。もし俺とお前が同じ国に生まれていればもしかしたら友になれていたかも・・・』
敵パイロットの疑問に月臣はゲキガンガーの名ゼリフで答える。
だが、そこに熱い友情など生まれるはずもなかった。

ユリカ『アキト、無事だった?迎えに来たよ♪』
アキト『うるさい、お前は黙っていろ!』
月臣「クソ!援軍か!卑怯な!!!」
アキト『こら、待て!!!』

月臣はナデシコが来たことを察すると跳躍して退却した。
もし、月臣がもう少しそこに留まってアキトと会話をしたのなら、
あるいはアキトの絶叫を聞いていたのなら、誤解は解けていたのかもしれない。

「同じ人間なのにこんな酷いことをするのかよぉぉぉぉ!!!!!!!!」

アキトの叫びは月臣には届かなかった。



ナデシコ・通路


その後、知らせを受けたユリカが現場に到着するとジュンが足を撃たれて担架で運ばれる所だった。

エリナ「見なさい、これがあなたの甘さの結果よ」
ジュン「・・・残念だけど、同じ人間でも敵は敵ってことなんだ・・・」
エリナ「捕虜は逃亡、逃がしたハルカ操舵士とレイナード通信士は行方不明。
 アオイ副長とアマガワ・アキが負傷。アカツキ君が頭にたんこぶ・・・
 この始末、どうするつもり?」
ユリカ「それは・・・」
責め立てられながら途方に暮れるユリカ

と、そこに・・・

アキト「アキさん!!」
ユリカ「アキト!?」
確かにアキトの月面フレームを収容したが、アキトがパイロットスーツのまま駆け上がってくるなんて思っていなかった。
アキトは同じく担架で運ばれようとしているアキの様子を見ていた。

アキト「木星蜥蜴がやったんですね?」
アキ「違・・・これは・・・ッツ!」
九十九がやったわけじゃない・・・そう言おうとしたがそれが脇腹の傷に障って声を詰まらせるアキ。
だからそれはアキトの怒りに油を注いだだけだった。

アキト「あいつら、ナデシコにまで!!!」
アキ「違・・・・ッツ!!!」
イネス「こらこら、傷に障るわよ!せっかく塞がりかけてたのに!」
イネスがさっさと担架を医務室へ運ぶように指示する。
だからアキはアキトの誤解を解けなかった。

そこにユリカが駆け寄る。

ユリカ「アキト、私は自分が信じていると思うことを精一杯やったの。
 でもこんなことになるなんて・・・」
アキト「あいつら、許せない!
 絶対絶対許せない!!!!」
ユリカ「あ、アキト?」

ユリカはアキトの顔をのぞき込んでぞっとする。

恐い!
はじめてそう思った。
憎悪に歪むアキトの顔
アキトの顔を恐いと思ったのははじめてだった。

なに、この感じは?
知らない人みたい
まるで・・・

・・・まるで?
私はまるで誰に似ていると思ったのだろう?

ユリカがふとそんなことを思っていると・・・

アキト「奴を追う!」
ユリカ「追うって・・・」
アキト「ひなぎくが出るんだろ?」
ユリカ「そうだけど・・・」
アキト「俺も行く!」
ユリカ「あ、あたしも行く・・・」

ユリカはアキトを追いかけた。まるで自分の知っているアキトがどこかに行かないように・・・

その日、はじめてアキトの心に憎悪の炎が灯った・・・



ポストスプリクト


ということで黒プリ15話をお届けしました。

一応言っておきますが今は後味が悪くても後々を読めば多少マシになります(って読んでもマシかよ(苦笑))
16話と連作になりますから、多少暗い話でも我慢して下さいね♪

それはともかく、しかしよく外道な台詞を思いつくなぁと自分に感心する次第
・・・いや感心しなくてもいいって
あのシーン、わざと嫌らしくしたのは、そうじゃないとアキトが本気にならないから。
本気で憎むまで焚き付けてやろうとか思ってました。
最初は撲殺だったけど・・・・(汗)

最後に、本編では他の作品の言葉を引用してますけど
一つ目は小説 銀英伝のヤン・ウェンリーの言葉
二つ目は映画 マトリックスの予言者の言葉です。
正確な引用じゃないかもしれませんが
三つ目は同じくマトリックスのネオが現実の世界に戻るためにクスリを飲むシーンをなぞらえました。

ということでおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

Special Thanks!!
・AKF-11 様
・kakikaki 様