アバン


計算違いはいいとして、エリナさんを囮にしてサツキミドリを救おうとしたアキさんですが、あんまり上手く行っていないような気がするんですが・・・。
でもアキトさんの悩みをほったらかしにしておいてシリーズ初の本格戦闘シーンなんてやったって絶対失敗すると思うんですけど。
今回のお話ってとてつもなく慌ただしいんで、皆さんもしっかり着いてきて下さいね。

・・・それはいいんですけど、私達の出番ってあれっぽっちなんですか?

ああ、これってSecond Revengeのラストとは何の関係もありませんのでそのつもりで。



ナデシコ・格納庫


ユリカ、ゴートらの見守る中、3機のゼロG戦フレームを牽引してきた赤いエステバリスが格納庫に入っていた。ちなみにアキトとアキは既に戻ってきていてそれを見守っていた。
これから来るであろう修羅場を想像しながら・・・。

「こら!!!さっき俺を撃った奴は誰だ!!!!!!」
赤いゼロG戦フレームから降りてきたパイロットは開口一番みんなの予想通りの叫び声をあげた。

一同は少し困った顔をしてアキを指さした。
仕方がないのでアキは小さく挙手した。

「てめぇか!!このすっとこどっこいが!!」
「・・・着任報告」
ヘルメットを投げ捨てて近寄ってくるパイロット、スバル・リョーコの憤怒の形相をアキは平然と受け流して冷静に命令した。
「んなこたぁどうでもいいんだ!!それよりてめえ、何のつもりだ!!!」
「だから先に着任報告」
「はぁ?何様のつもりだ!!いい加減にしやがれ!!!」
怒り心頭のリョーコはアキに殴りかかろうとした。

『あ、危ない!!』
誰もがそう心の中で叫んだ。ただし、危ないのはリョーコだと思いながら。

3・・・・拳を右に流し
2・・・・流す勢いで相手の右手を脇に挟み込み
1・・・・そのまま全体重をかけて相手を床にねじ伏せた

「終了です」
アキは自分に殴りかかろうとしたリョーコをほんの一瞬で腕を逆手にとってねじ伏せてしまったのだ。
「こ、この野郎・・・・!」
「あら残念、私は女よん♪」
「なにを~!!」
「ちなみに私はエステバリス隊の隊長よん♪つまりあなたの上官。
 暫定だけどね」
「!#&?*!!!!!」
「それにあんな乱戦の中で識別出さずに戦闘するのって自殺行為よ。
 いくらいきなり襲われて気が動転してとはいえ、出し忘れたら味方から攻撃されても文句は言えないわ。そんなことは教習所の落ちこぼれだって知ってる事よん♪」
「にゃにぃ~~!!!!」
「それに、その識別不明の機体のパイロットに着任報告もされずに艦内をうろつかれたらやっぱまずいでしょう?
 しかも着任報告の命令を再三にわたって無視したらスパイと誤認されてもやむを得ないと思うんだけど・・・・あなたはどう思う?」
「あ、あのなぁ~~」
「あら、別に私はいいのよ?
 正体不明者が艦内に進入
 身分照会をしようと詰問した士官に対し、それを拒否した。
 発覚を恐れたのか武力による抵抗を試みようとした。
 取り押さえようとしたがなおも抵抗するので味方の安全を最優先と判断し処分する・・・
 なんてシナリオを書いても。」
リョーコはアキの目を見つめた。アキの目はほとんどマジだった。
『マジで殺されかねない』彼女の冷徹な瞳はそう思わせるのに十分だった。
リョーコは負けを認めざるを得なかった。

「わかったよ!スバル・リョーコ、1400着任しました」
「着任を確認しました。
 Welcome to the Nadesico!!
 私はコック兼エステバリス隊隊長のアマガワ・アキよ♪」
さっきまでの冷酷な表情が嘘のようにアキの顔は一転して笑顔になった。戒めを解いて彼女を立ち上がらせて、握手までした。
180度違うアキの表情に正直戸惑うリョーコであった・・・。



ガイ・自室


『ごめん、ナナコさん。海には行けそうに・・・・』
「ジョー!!!!」
「私のジョーが・・・・」
「死んじゃった!!!!」
ガイの自室ではガイとイツキが仲良くゲキガンガーのビデオを見ていた。
何故かヒカルも加えて・・・

ヒカル君、あんた何時の間に来たの?



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第4話 水色宇宙に「ドキドキ」<後編>



再びナデシコ・格納庫


「ったく、ここは軍隊か?」
リョーコは関節を決められた方の腕をさすりながら愚痴を言う。

そこに騒ぎが収まったのを確認したのかエリナがアキのところにやってきた。
エリナ「どう?アマガワ・アキスペシャルの乗り心地は♪」
アキ「ん・・・悪くないですよ。もう少し不安定かと思ってましたけど」
エリナ「ふ~ん、言うわね。妹なんて『本当にそんなチューニングして大丈夫?』とか聞かれたのに」
アキ「そりゃ、それなりにね」
アキは苦笑する。ブラックサレナに比べればどれもかわいいものだ。
ちなみにこのマシーンを作った人は・・・・やっぱりサリナさんらしい。

「おお!!!
 顔が違う!!
 ジェネレータもコンパクト!!
 おまけにお肌も黒マッド(注:艶消しの意味)で、なんて渋いんだ!!!」
ウリバタケは一人でアキのエステを褒めちぎっていた。

しかしこの言葉に反応したのはまたしてもリョーコだ。
リョーコ「おい、あたい達のエステが最新型じゃないのかよ!!」
エリナ「・・・・なによ、あんたは?」
リョーコ「最新のエステに乗せるからって請われて来たんだぞ!
 それなのにそいつの方が最新型だなんてどういう了見だよ!!」

まぁ、リョーコのお怒りももっともだ。彼女達はエースとして呼ばれてきたのだ。それをコック兼なんて但し書きの付く女性に最新型が宛われてはプライドを傷つけられもしよう。
しかしエリナは全く悪びれていなかった。

エリナ「あなた達のが最新型のゼロG戦フレームよ」
リョーコ「でもあれは・・・」
エリナ「あなた達のはプロダクションタイプの最新型。
 でも開発は常に先を進んでいるの。
 あれは次世代フレームのための試作機よ。」
リョーコ「試作機!?」
エリナ「そうよ。未検証のパーツを使い放題だからいつブチ壊れてもおかしくないけど、馬力だけはあるみたい。
 まぁあんなのに乗りたいっていうなら持ってきてあげてもいいけど・・・
 あなたに乗れて?」
エリナの見下すような一言がリョーコのプライドを大層刺激した。

「乗れるわい!!!」
リョーコがそういうのは必然だった。

余談ですが、このアキスペシャルは後のアカツキ専用機のプロトタイプとなるものだったりします。



ナデシコ周域


「にょえええええええええええ!!!」
リョーコの乗ったアキスペシャルが明後日の方向に飛んでいったのは言うまでもなかった。



ナデシコ・格納庫


「・・・・・・・誰もあけてくれない」
イズミは既に忘れられたツールボックスの中で完全にいじけていた



戦闘宙域外・????


Snow white:「なんかこのお話ってリョーコちゃんに厳しくない?」
Blue fairy:「そうですか?」
Snow white:「・・・シナリオ書いたのってBlue failyちゃんだよね?」
Blue fairy:「ええ、そうですが?」
Snow white:「・・・・・・ジロ」
Blue fairy:「いえいえ、別に将来リョーコさんが強力なライバルになるから今のうちにその芽を摘んでおこう・・・・なんて気持ちはこれっぽっちもありませんから」
Snow white:「・・・・・・」

まだいたんかい、あんたら



ナデシコ・格納庫


「アマノ・ヒカル1420着任しました♪」
「マキ・イズミ・・・・・着任しました」
「はいはい!!退いた!!!」
「「・・・・・私達の出番って・・・」」
ナデシコの格納庫はサツキミドリ2号からの避難者でごった返していた。コロニーの総人員から考えれば微々たるものだが、それでも救えたことには変わりない。
アキにとっては複雑な気分だが。

『やっぱ、俺って半端だよなぁ・・・・』
「アキトさん、ボサッとしないで!出前の途中ですよ」
「ああ、はいはい」
食堂班は避難者のための炊き出し中、運んできた食事は飛ぶようになくなっていった。
パイロット達はまだバッタが宙域にいるかもしれないので外で哨戒中である。
しかし、アキトだけは食堂班の唯一の男手ということでこちらに借り出されていた。そのことがアキトをよけい憂鬱にさせていたのかもしれない。

「ラピスちゃん、お手当部隊、行くわよ!!」
「わかった。」
メグミのかけ声にやる気のなさそうな返事を返すラピス。
何故か二人ともナース姿であった。
(そういえば河田さん作のSSにそんなのがあったなぁ・・・・)
ブリッジ要員もメインオペレータのルリと、責任者のユリカ(というか患者の生命に関わるので辞退願ったのだが)以外は彼らの世話をするためにここに来て働いていた。

「優ちゃん!!死んじゃイヤぁぁぁぁぁ!!!!」
重傷者が死んだであろう悲鳴がフロア一帯に響いた。
初めて見る戦場の惨状。
たぶんゴートやホウメイぐらいしか知らないその光景に、彼らナデシコクルーは慣れることが出来るのだろうか?

それが今の彼らにとって当たり前のはずの日常
『隣り合わせの死』を直視することだとしても・・・



ナデシコ・格納庫


「それではガイ隊長、お元気で!!」
「お竜、さらばだ!」
「・・・・・どうでもいいけど私の出番はこれで終わり?」
ガイとイツキが見つめ合う中、エリナは不満の声を漏らした。

エリナの乗ってきたシャトルは荷を降ろしたので、そこに避難者達が乗り込むことになり、そのまま避難者を地球に連れて帰ることになった。
当然、エリナが運転しなければいけないので短いナデシコ滞在となった。
イツキはシャトルの護衛のためにデルフィニウムで付き添って帰ることにした。まぁ、元々軍属だから仕方がないかもしれないが。

「ここは危険ですし、ナデシコはすぐに火星に向かいますから・・・」
見送りに来たユリカが必死になだめようとする。エリナもネルガルの人間なのでナデシコがどういう役割を担っているか承知して渋々我慢した。

「アマガワ・アキ!帰ってきたら覚えてらっしゃい!!」
「はいはい・・・」
『8ヶ月後もそのことを 覚えていれば・・・・ね』
アキはエリナに対して心の中で舌を出した。



ナデシコ・展望室


避難者を含むエリナとイツキがナデシコを去った後、アキトは労働から解放されて展望室でホゲーっとしていた。

『俺ってなんでパイロットをやってるんだろう・・・』
アキトの悩みはそれに尽きる。

さっきの出撃でただアキの背中を見守ることしか出来なかった自分・・・
避難者のためにただ料理を運ぶことしかできなかった自分・・・
アキさんは自分のことを気にかけてくれているが、ガイの方がよっぽどパイロットらしいじゃないか!!
それでなくともリョーコ達補充のパイロットは到着したんだ、
こんな中途半端なコックなんて必要ないんじゃないのか?

でもそこに『自分の目的』というものが明らかに欠けているアキトにとってそんなことを悩み始めれはどこまでも袋小路に追い込まれることに全然気づいていなかったのだ・・・。



テンカワ・アキト緊急対策委員会(自称)


『美』少女達お歴々は食堂で緊急会議を行っていた。
対策委員長 艦長「ここはやっぱりかわいい彼女による励ましよね!!」
対策委員 主席オペレータ「まぁ、それがお約束かもしれませんが・・・」
対策委員 通信士「でも誰が『彼女』なんですか?」
対策委員長 艦長「それはわた・・・」
対策委員 次席オペレータ「避けられてるくせに(ボソ)」
対策委員長 艦長「うわぁぁぁぁぁん!!次席オペレータちゃんがいじめたぁ~~」
対策委員 食堂アシスタントリーダー「よしよし」
対策委員 主席オペレータ「まぁ、アキトさんを慰められたら勝ちということでいいですよね?」
一同「うん!!」

いや、勝ち負けの問題じゃないが、なぜかそうなる5人組であった・・・



トップバッター・ユリカ


ユリカ「ねぇねぇ、見て見てアキト♪
 水着新調したのよ♪
 アキトの為に選んできた・・・・」
アキト「・・・・お腹の肉、余ってるぞ・・・」

ピキーーーーン

ユリカ「うえぇぇぇぇぇぇん!!!」

ユリカたん、乙女の禁句にあっさりとふれられて撃沈
「そんなに太ってないんだから~~!!!」



がんばれ暫定ヒロイン・ルリ


ルリ「・・・・・・」
アキト「・・・・・・・」
ルリ「・・・・・・・・・」
アキト「・・・・・・・・・・」

ルリ「・・・・・・お邪魔しました」

会話が続かず、ルリルリ轟沈
「私に何を話せと?」



それいけ対抗馬・ラピス


ラピス「・・・・・・」
アキト「・・・・・・・」
ラピス「・・・・・・・・・」
アキト「・・・・・・・・・・」

ラピス「・・・・・・退却」

会話が続かず、ラピスも玉砕
「・・・・・筆者、手を抜くな!」



穴狙い・サユリ


サユリ「アキトさん、クッキー焼いたんですけど、どうですか?」
アキト「ああ、いただくよ」

モグモグ

サユリ「どうです?」
アキト「おいしいよ。」
サユリ「本当ですか?うれしい!!」
アキト「すごいな、サユリちゃんは。それに引き替え、俺なんてコックもパイロットも中途半端だし・・・」
サユリ「あ・・・・・」

サユリ、思いっきり地雷を踏んで自爆
「私にお料理ネタ以外に何を話せと?」



真打ち登場・メグミ


メグミ「どうしたんですか?アキトさん」
アキト「なんでも・・・」
メグミ「私もちょっとイヤなことがあって逃げ出してきたんですよ。」
アキト「・・・・メグミさんも?」
メグミ「手当していた人が亡くなったのを目の当たりにして・・・」
アキト「・・・・」
メグミ「私達の職場って死と隣り合わせなんだなぁ・・・って思ったら落ち込んじゃいそうになったんで。それで頭空っぽにしたくなって・・・」

押し黙るアキト。しかしメグミは辛抱強く待った。
そしてアキトはぽつりと漏らす。

アキト「・・・・やっぱ俺って逃げてるように見える?」
メグミ「見えないって言ったら嘘になるかな?
 でも私も逃げてきたし・・・・」
アキト「やっぱ情けないよね、こんな男・・・」
メグミ「そんなことない!!アキトさん、今まで頑張ってきたんだもん!!」

アキト「ごめん、俺やっぱり甘えてたね。もう少し頑張ってみるよ!」
メグミ「うん、頑張って!!」

メグミちゃん、ミッションコンプリートです♪
「ざっとこんなもんです!!」



ナデシコ・格納庫


「今回の任務はサツキミドリ内の物資搬出と敵残存兵力の掃討だ。」
ゴートが作戦指示を出していた。
元々ナデシコはサツキミドリ2号にて火星航路への航行のための物資を搬入するつもりでいた。それに先ほど避難者のために物資提供をしたばかりだ。
可能な限り物資を搬入しておきたい。
食料や生活必需品はもちろん、一番欲しかったのはやはり兵器である。
出来ればエステバリスゼロG戦フレームのパーツ。
予備機かあるいは整備用のパーツ類は欲しいところである。

「あんまり物資そのものには興味なかったみたいだぜ」
「まぁ、蜥蜴さん達が食料を欲しがるとも思えないけど」
とはリョーコとヒカルの談である。

「現地での指揮はアマガワに任す」
「ふえ~い・・・」
ゴートの指示にアキは気のない返事をする。やる気はあまりなさそうだ。

「ちょっと待てよ、ミスター!」
異議を唱えたのはやっぱりリョーコだった。
「あたい達はそいつが隊長だなんて認めてないぜ」
よっぽどさっきのことが腹に据えかねたらしい。ヒカルもイズミも反対らしい。

「そうだ!隊長はこの俺様ダイゴウジ・ガイが・・・・ボカ!!!」
「「お前は黙ってろ!!」」
アキトのパンチとリョーコのキックが決まって、ガイ轟沈(笑)

「スペシャル機に乗れるだけで隊長の資格十分だと思うが?」
「あんなバランスの悪い機体に乗れるぐらいで威張ってもらっても困る」
ゴートはあっさりと答えるが、元々納得していないリョーコ達がそれで承伏できるはずもなかった。
「別に私はいいわよ。隊長なんてやんなくても・・・・」
「・・・・・役職手当カット(ボソ)」
「いやぁ♪やっぱり私がみんなをまとめないとね♪」
ゴートのつぶやき攻撃に、朗らかな声ながらもなぜか涙目のアキであった。

「ガルルルルル!!」
そうなるとやはりリョーコ達の気が収まらないみたいだ。
アキはため息をついてある提案をした。
「仕方ない。んじゃこうしましょう。
 確かあの中にはゼロG戦フレームがもう一機残っていたのよね?」
「ああ・・・」
「んじゃ、あなた達三人と私達三人で競争で持ってくる。
 あれをあなた達が先に確保できたらあなたが隊長でいいわよ」
「よし、乗った!!その言葉忘れるなよ!!」
リョーコは吠えるようにガッツポーズをした。
「おい、アマガワ・・・・」
「まぁまぁ、ミスター・ゴート。私のこと信じてるんでしょ?」
「・・・・それはそうだが」
「まぁ見ていて下さい」
怪訝な顔をするゴートをなだめるアキであった。

リョーコ、ヒカル、イズミチームvsアキ、ガイ、アキトチームの賑やかな戦いが始まったのであった。



サツキミドリ2号宙域


「・・・・・やっぱり俺は半端モノなのかなぁ・・・・」
宇宙空間でポツンとエステで漂うアキトは愚痴をこぼす。



サツキミドリ2号内部


「素潜り開始~~♪」
ヒカルが能天気にはしゃぐ。
リョーコチームとアキチームはサツキミドリ内に侵入した。(アキトを除く)
当然、ナデシコからの重力波ビームは切れるので内蔵バッテリーによる如何に無駄のない作戦行動が要求される。

「なぁ、コックをひとり外に置いてきて余裕だなぁ」
リョーコはニヤニヤしながらアキに尋ねる。
「ん?」
「二人対三人であたい達に勝てるってか?」
「そうは言わないけど、まぁ作戦・・・ってところかな。」
リョーコの挑発にも乗らずにアキはそれを受け流した。



サツキミドリ2号宙域


さて、一人外でプカプカ浮かぶアキトは手持ちぶさたに任せて余計な事ばかり考えていた。
メグミの励ましやらでとりあえずやる気だけは取り戻したのだけれど、他のみんながサツキミドリに進入していったのに対して自分はここに取り残されたのだ。
まぁ、無重力下でしかも重力波ビーム圏外ということもあり、少しの無駄な動きも許されない環境下での活動がアキトには無理だというのもわかる。
それでもやはり残されるとかなりへこむものである。

一人だけ残される疎外感
場違いな場所にいる感覚
『俺って必要ないんじゃないのか?』
そんな感覚がアキトを包んでいた。

ちょうどそんなとき、彼の心情を察してか、アキのウインドウが開いた。
『どうした、少年。暗い顔をして』
「いえ・・・・」
『置いて行かれたのがそんなに堪えた?』
「・・・・・」
図星だった。アキはため息をついて優しい声で諭す。

『私達はチームよ。私には私の役割が、アキト君にはアキト君の役割があるの。
 君はそこで置いてきぼりを食らっているように思うかもしれないけど、君にもそこにいる必然性はちゃんとあるの。だからあなたはそこを守るのよ』
「・・・・わかってるっす。でも・・・・」
何かしている実感がなければ自分の存在価値を見いだせない。
アキトは結構重傷だった。

『アキト君は何でナデシコに乗ったの?』
「え?」
『答えてみて』
真剣なアキの顔に気圧されるアキトはやがて正直に答えた。
「火星に行って、火星の人達を救って・・・・
 それで自分に何が出来るのか
 自分が何かになれるのか知りたくて・・・」
『で、それはあなたがパイロットを辞めたら実現できるの?』
「え?」
アキトはその言葉に思ってもいなかったように驚いた。

『アキト君、ひょっとしてナデシコが火星の人達を救うために飛んでるなんて思ってないでしょうね?』
「・・・違うんですか?」
『ナデシコはネルガルの所有物よ。彼らの目的は別のところにある。
 それはアキト君の目的と近いところにあっても決してイコールじゃないわ。』
「そ、そんな・・・」
『そして、私が火星に行く理由も火星の人達を救う為じゃない』
「え!?じゃ何のために!?」
『それは言えないわ。言えることは私は私の目的のために火星に行くということよ』
「・・・・・」
『裏切られたと思ってる?』
「・・・・いえ、そんな・・・」
『前にも言ったわよね?
 あなたのなすべき事は他の誰でもない。あなたにしか出来ないって。
 それはみんながナデシコに乗った理由が同じではないのと同様に、
 ナデシコで何を成したいか決して同じじゃないからよ。』
「・・・・」
『あなたの思い描いた目的を実現させるのは他の誰でもない、あなたにしか出来ないの。
 この世界にゲキガンガーはないんだから・・・』

そう、相手には相手の生きる目的と意志がある。
例え自分の目的と彼の目的が似ているからといって、自分の成さねばならないことを身勝手に押しつけていいのか?
そしてそれを成してもらえないからといって勝手に恨んでいいのか?
そんな画面の向こうのヒーローに自分の思いを重ね合わせて満足していいのはTVの中だけの話だ。
アキの言わんとしていることはそういうことなのだ。

「アキさんの言葉はまだよくわからないけど・・・
 とりあえず俺自身が火星の人達を救い出す力を身につけなきゃいけないって事ですよね?」
『・・・・まぁ、今はそれだけわかっていればいいわ』
アキは苦笑しながらそう答えた。



サツキミドリ内部


「ああ♪大きい真珠みっけ!!」
「さてさっさと運んであの女の鼻でもあかすかな。」
リョーコはほくそ笑んで倉庫の隅のゼロG戦フレームに近づく。アキ達は別ルートを探索してるのでこちらにたどり着くにはしばらく時間がかかるはずだ。

だが・・・
「ちょっと待った!!」
「「え?」」
イズミが異変に気づいて制止する。
リョーコ達がその言葉に注意を奪われた次の瞬間、操縦者のいないはずのゼロG戦フレームは彼女達に敵対行動を行ったのだ・・・。

「あちゃー遅かったかな?」
アキとガイが現場に到着したときには現場ではバッタ達にコンピュータ系統を乗っ取られたゼロG戦フレーム(=デビルエステバリス:命名ヒカル)とリョーコ達が戦っていた。

「やっほー。ご苦労のようねぇ」
「あんだよ、女コックかよ」
「ほらほら、もうバッテリーももう残り少ないんでしょ?
 後は私達に任せて外に出てなさいよ」
「うるせい!!こいつをすぐに叩き出せば済む話だ!!」
アキの助力をリョーコははねのけた。

「しゃない。彼女の援護をするわよ」
「おい、いいのかよ!勝負に負けちまうぜ!?」
「全員が生きて帰るのが目的。いくわよ」
アキはため息をついてガイに指示する。

アキはガイのバックアップに入って援護射撃を行う。
その隙にガイはデビルエステバリスに突っ込んでいった。
「ガーイ、スーパーナッパー!!!!」
勇ましいかけ声もむなしく、素早く身をかわすデビルエステバリス。

だが、そのわずかな隙を見逃さなかったリョーコ達は特攻を仕掛けた。
三人は一直線に並んでデビルエステバリスに突っ込んだ。
「「「ジ○ット○トリームアタック!!!!!」」」
ギン!!
「ええ!私をかわした!?」
だが、デビルエステバリスは右にステップしてヒカルをかわした。
すかさずイズミはその進路に機体を割り込ましてナックルを見舞う。
ガシュ!!
「私を踏み台に!?」
デビルエステバリスはなんとイズミを踏み台にして彼女をやり過ごそうとした。
「甘いんだよ!!」
リョーコはきっちりとデビルエステバリスの眼前に躍り出た。
「そら、ボディーががら空きだ!!!!!!!」
リョーコのナックルがデビルエステバリスのボディーにヒットした。



サツキミドリ2号宙域


ドゴウゥゥゥゥ!!!!!

サツキミドリの外壁を突き破って表に吹き飛ばされたデビルエステバリス。
エステバリス隊がコロニー内に潜入している以上、ナデシコとデビルエステバリスの間を阻むものは何もなかった。
ただ一人を除いては・・・

『しまった!外には男の方のコックしかいねぇ!』

「え?お、俺っすか!?」
そう、宇宙でプカプカ浮かぶだけだったアキトがちょうどデビルエステバリスとナデシコの中間に漂っていたのだ。
ちょうど誰かが謀ったように。

『言ったでしょ!君には君の役割があるって』
「アキさんはこういう可能性を考えて俺を!!」
アキはウインドウの中でウインクする。アキトは自分が必要とされていたことを知ると俄然やる気になった。

俺はまだ人のバックアップしか出来ないかもしれない。
でも俺は強くなりたい。
『火星の人達を救いたい!』
自分のやりたいことをやるためには今はパイロットを続けるしかないんだ!!

アキトの決意はそのままIFSを通してエステバリスに魂を吹き込んだ。
「ゲキガンフレア!!!!!!!!!」

その結果がどうなったかを改めて述べる必要もないだろう。



ナデシコ・格納庫


ゴート「というわけでアマガワ・アキが隊長に決定」
アキ「ビクトリー♪」
リョーコ「だぁぁぁぁ!!何でそうなる!!」
リョーコが叫び声をあげて抗議した。

「エステバリスは敵に乗っ取られてたんだからノーカウントだろ!!」
リョーコの怒りはもっともだが続きは聞くものである。
「だって、私は『あれをあなた達が先に確保できたらあなたが隊長でいいわよ』って言ったわよね?」
「ってことはお前達が確保できなかったら、お前達が隊長になるのはチャラだな。」
アキの仕掛けた言葉のマジックをゴートが追認するように解説した。

「んなの詐欺だ!!!!」
リョーコが叫んだのは言うまでもない。



そんなこんなでやっと出発


詐欺みたいな手法に引っかかったリョーコ達であるが、そうはいっても最終的にデビルエステバリスを葬ったのはアキトであり、それを事前に予期してアキトを配置したのはアキの判断だ。
リョーコ達が功名心にかられたときに、アキはちゃんと戦場全体のことを考えていたのだ。
リョーコ達も子供じゃないんだから冷静に考えればそれくらいすぐわかったので渋々従った。

なんとか物資の搬入を行った後、ナデシコは火星へと向かう航路に進路を進めた。
結局サツキミドリ2号は史実通りバッタ達に攻撃され、歴史にとってはほんの誤差程度の人達しか救えなかったわけであるが、とりあえずアキトが自分の成すべき事を考え始めただけでも半歩前進かもしれない。

少しずつ、少しずつ
その歴史の中に生きる人の在りようだけは変わっていったのであった。

PS.

「ちょっと!!ここは私とアキトさんのキスシーンのはずですよ!!!」
メグミの叫び声がナデシコ中に響いたとか響かなかったとか(合掌)



ポストスプリクト


ということで黒プリ4話をお届けしました。
今回は少し趣が変わってアキvs.エリナ&リョーコとなってしまいましたね。
しかも慌ただしい事このうえない。

アキvs.エリナ&リョーコだけでもまるまる前後編を使うのにその上

ガイ&イツキのラブ野郎物語とか
アキト対策委員会5人組(いつの間に結成?)の暗躍とか
未来の奥さん's の登場とか

・・・・もうちょっとエピソード絞ってじっくり書いたほうがよかったかもしれない。

ちなみに未来の奥さん's のコードネームは
Snow white
Blue fairy
Pink fairy
Secretary
Actress
の計5名です。誰が誰かは・・・・すぐわかると思いますが(笑)

次回5話は一番難しいと思います。(っていうかアキの絡む場所がないような・・・)

ということでもしもおもしろかったなら感想をお願いします。
次回は6万ヒット(もしくは自サイト3万ヒット)ぐらいでお会いしましょう。

では!

Special Thanks!
・オクチン様
・YSKRB 様
・流宇 様
・朱玄 様