アバン


まぁ、いくら奇麗どころ集めて着飾らして並べても、軍人さん相手にご機嫌を取れるわけもなく、一部の親バカを喜ばせたり悲しませたりしただけで終わるのは当たり前なわけで。
まぁ振袖は奇麗だったから許してあげようかとは思うんですが・・・

それはいいとして一部お怒りモードの女パイロットさんがいるんですが、問題ないんですか?

ああ、これってSecond Revengeのラストとは何の関係もありませんのでそのつもりで。



宇宙ステーション・さくら


「でも本当にいいのかい?イッちゃん。」
「かまいません」
「そうは言ってもナデシコにはヤマダの馬鹿がいるんだぞ?」
なにもこんな戦いに出撃することもないのに・・・と彼は思う。

相手はネルガルの最新鋭の機動兵器だ。いささか時代遅れのデルフィニウムでかなうかどうかは怪しい。
それに戦う相手は木星蜥蜴ではなく同じ地球人、自分たちの元隊長だった男だ。しかも戦う理由がビックバリアを通せ通さないの話だったりする。
そんなもん、やるだけ労力の無駄なのだから、火星にいくバカなんて通してやりゃいいと思うのだが、軍の上層部はほとんどメンツにだけこだわっている状態だ。
そんななかでこの未来有望なパイロットを出撃させることもないのに・・・

「かまいません!!」
「・・・イッちゃんがそういうならかまわないが・・・」
整備員は何とか説得しようとしたが、その少女は決意が固いのかきっぱりそう答えた。

「わかったよ。とりあえず増槽をつけといた。高度を保ってれば一時間は飛べるから。
 必ずここへかえってくるんだぞ!」
「お気遣い、感謝します」
「ではイツキ・カザマ准尉、ご武運を!!」
「行って参ります!!」
少女は最近の若い者がなかなか出来ないほど凛々しい敬礼をして見せた。
その整備員は彼女がここに戻ってくることを願ってやまなかった・・・。

「ガイ隊長・・・・絶対許しませんからね!!!!」
イツキの顔には静かな怒りが満ち満ちていた!。



ナデシコ・アキト自室


「ジョー〜〜〜」
「わかるか!これが熱血、漢の生き様だよな!!」
当のガイ本人はくしゃみもせず、アキトと共にゲキガンガー第27話を見て泣いていた。

イツキちゃん・・・とことん報われないねぇ。



ナデシコ・ブリッジ


プロス「さて、そろそろ第3防衛ラインですかな」
ジュン「デルフィニウム部隊って出てくるかな?」
ゴート「おそらく」
ユリカ「大丈夫だよ!アキさんが出撃したらちょちょいのちょいだよ」
一同「確かに!」
みんなその点に関しては安心しきっていた。
しかし、意外なことに・・・。

『あの〜ゴートさん』
ウインドウが開いた。アキである。
「どうした、アマガワ。
 パイロットは格納庫で待機のはずだが?」
『それなんですけど・・・・お休みいただいてかまいませんか?』
「「「「「ええ!!」」」」」
一同が驚くのも無理はあるまい。
「は?何故だ?」
『あの・・・ちょっちおなかが痛くてですねぇ・・・IFSに集中できないんですよ』
「?
 コックが食あたりか?
 冗談にしても笑えんぞ?」
『いやぁ、非常に言いづらいんですけど・・・』
詰問するゴートに対して、アキには珍しく赤くなって悶えていた。
「かわいい♪」
・・・・あ、ラピスがノックアウトされてる。

「かまわん!言って見ろ!!」
『じゃぁ・・・ごにょごにょ』
「ポ!」
真っ赤な顔のアキのウインドウはゴートに耳元に近づいてこしょこしょ内緒話をする。その途端、ゴートの顔も真っ赤になった。
・・・・あ、ミナトが少しゴートに食指を動かされた。

「仕方があるまい・・・。戦闘はヤマダとテンカワで行おう・・・」
「ゴートさん、アキさんはなんて言ってたんですか?」
「・・・・り休暇だそうです」
「は?」
「ですからその・・・せ・・休暇だそうで・・・」
真っ赤になって答えるゴート。
「何です?」
ユリカが大まじめに聞く。
ますますゴートの顔が赤くなった。
「ですからその・・・い・休暇だそうで・・・」

・・・しばらくお待ち下さい・・・

ポン!!
「ああ、女の子の日ですか!!」
カックン!
ユリカの言葉にうなずくゴート。糸の切れた人形みたいなところがかわいい。

「やっぱりアキさんってオカマさんじゃなかったのね」
「ラピスの言うこと信じてなかったの?メグミ・・・」
「いやぁ、そんなことなかったんだけど。あははは」
ラピスの冷たい視線にメグミはごまかし笑いをする。

「それはいいけど、じゃ・・・」
ジュンが不安げにつぶやく。

『よっしゃぁぁぁぁ!!!
 この俺様の出番だ!!!』
ウインドウを最大限に開いて熱血に叫ぶガイの姿を見て一同が不安に駆られたのは言うまでもなかった・・・。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第3話 遅すぎる「さようなら」<後編>



Attention


筆者はセガサターン版 the blank of 3yearsを未見です。
従ってこの物語に登場するイツキ・カザマという人物は筆者の独断と偏見で性格付けされております。
セガサターン版 the blank of 3yearsを遊ばれて、
『オレのイツキちゃんをこれ以上壊すな!!』とか
『オレのイツキちゃんをガイとくっつけるな!!』とか
と叫ばれても当方では一切責任を負えませんのであしからず。



ナデシコ・ブリッジ


ミナト「心配だよね」
メグミ「心配ですね」
ジュン「彼の腕は確かなんですか?」
プロス「腕は保証しますよ。腕は・・・」
ルリ「で、性格は?」
プロス「まぁ、あれでもデルフィニウム部隊の隊長をされていた方ですから」
ルリ「で、性格は?」
プロス「・・・・・・・・」

ルリの厳しいツッコミに思わず押し黙るプロス。
それで一同は事態を察したようだ。

ミナト「となるとアキさんが抜けた穴は大きいよね」
ユリカ「そんなことありません!!アキトがいます!!」
ジュン「ピク!」
メグミ「確かにアキトさんがいますよね」
ゴート「一応素人だがな」
ユリカ「でもでもアキトは私の王子様だし!!絶対大丈夫!!」
ジュン「ピクピク!!」
ルリ「ヤマダさんに期待がもてない以上、これはテンカワさんが活躍独り占めですね」
ジュン「ピクピク!!!」
ルリ「ああ、これで艦長もラブラブ度200%アップですか・・・」
ジュン「ピクピク!!!!!!」
ラピス「ルリ、IFSの注射器もらってきた。どうするの?」
ルリ「いえ、アキトさん一人を目立たせたくない方がいらっしゃるんじゃないかなぁ〜〜と思いまして」
ジュン「・・・・・」(←注射器を見つめながら葛藤してます)
ユリカ「フレー!フレー!アキト!!」
ルリ「まぁ、既に勝負ありかもしれませんが・・・」
ジュン「貸して!!」

プシュー!!

「待ってろ!!テンカワ・アキト!!」
ジュンは格納庫へ走っていった・・・。

「ルリルリ、あんた結構策士ね」
「いいえ、下手な鉄砲数打ちゃあたるですよ」
涼しい顔をして答えるルリであったが、ミナトにはルリがジュンを使って強力なライバルであるユリカを牽制しようとしているのを正確に見抜いていた・・・。



戦闘空域


「おい、ガイ待てよ・・・」
「うるせえ、テンカワ。もたもたしてると置いてくぞ!!」
ガイとアキトの空戦フレームがナデシコから出撃した。
もうすぐ宇宙ステーションから飛び出したデルフィニウム部隊が視認できるはずだ。

「来た来た!!」
ガイは戦場のシチュエーションに燃えていた。しかし・・・

「待てったら!!ライフルも持たずにどうするつもりだ!!」
「男の勝負は黙って拳で語るんだよ!!!」
案の定、ガイの空戦フレームは武器を持っていなかった・・・。

『デルフィニウム部隊迎撃可能範囲に進入』
メグミの声がアキトのエステに聞こえたが、言われるまでもなく目視出来ていた。

「戦闘か・・・緊張するな・・・」
『・・・・るさない・・』
「ん?」
そんなアキトのつぶやきを無視するかのように、コミュニケから女性の唸るような声が聞こえた。

『隊長、許さない!!
 勝負しなさい!!!』
「は?」
美少女の怒りの顔が画面いっぱいに映ったのだった・・・。



ナデシコ・格納庫


『隊長って・・・・アキさんの知り合いですか?』
「ううん」
ウインドウ越しのアキトに問われて、ぶんぶん首を横に振るアキ。
『だって・・・・うちの隊長は・・・』
「ええ?そんなこと宇宙軍が知るわけないし・・・」
『それに女の子も泣かせてそうだから、恨まれそうなことしてそうだし』
「そりゃあんただろうが!!」
アキトの疑惑のまなざしを向けられて思わずツッコミかえすアキ。
・・・しかし自分で自分に言ってりゃ世話がない。

『よぉ、お竜じゃないか!』
「『へ?』」
ガイが懐かしそうに挨拶するのをアキトとアキはびっくりたまげて眺めた。

・・・そうだ。先ほどガイが自慢げに見せた写真に写っていた女の子だった。



戦闘空域


「久しぶりだな。実家は大丈夫だったか、お竜?」
「お竜って言わないで下さい!!!
 もう魂の名前は捨てたんです!!
 私は復讐の鬼イツキ・カザマに生まれ変わったんです!!」
呑気そうに聞くガイだが相手の少女が怒っていることに全然気がついていなかった。

『またバカ?』
「いや・・・たぶん本人達は大真面目なんだろうけど・・・」
ルリのツッコミにアキトが苦々しく笑った・・・。

「なぜだ?あれほど共に熱血に燃えてたのに!!」
「なぜ!?あなたは自分が何をしたのかご自分の胸に手を当ててよく考えてみなさい!!」
「・・・・わからん」
「それが原因だということがわからないのですか!!」
真面目な少女はひたすら自分の怒りをぶつけた。

「たかがロボットに手足が付いているという稚拙な理由で地球を守るという重要な役割を放棄し、あまつさえ地球を見捨てて逆賊になり果てようとは言語道断!!
 天が許しても私が許しません!!!」
イツキの咆吼はなおも続いた。

『私達って逆賊だったんですね・・・』
「あはは・・・あんまり気にしないで・・・」
『気にはしませんよ。でもあの口調で言われるとヤマダさんに非難されているような、なんか自分が非常識なんじゃないかって錯覚に陥るんですけど・・・』
「・・・ルリちゃん、手厳しいね」
ルリの厳しいツッコミに苦笑するアキト。

「ヤマダ・ジロウ!!
 私と一騎打ちしなさい!!
 あなたの正義が間違っていることを証明して見せます!!」
「ダイゴウジ・ガイだ!!
 わかった!!男と男の決闘だ!受けてたってやる!!!」
「私は女です!!」
勝手に盛り上がる二人であった。

「いくら一騎打ちだからって、何で残りが俺のところにくるんだ!!」
熱血バカ二人を残して、残りのデルフィニウムはアキトを取り囲もうと追いかけてきていた・・・。



ナデシコ・ブリッジ


「アキト!!」
『心配いらない!!
 あれぐらい、僕が蹴散らしてくれる!!』
ユリカは心配の声を上げるが、それに答えるようにウインドウが開いた。
ジュンである。

「なんかキャラ変わってない?」
「艦長にアピールできるチャンスですからね」
「アオイ機が発進許可を求めてますが」
ミナトとメグミがいらぬツッコミをいれている最中もルリは黙々と仕事をしている。
「んじゃジュンくん。アキトをお願い」
ユリカは何も気づかずに許可を出したが、ルリは願わくばジュンが活躍してくれることを望んだ。

だが・・・・

ジュンの空戦フレーム発進!

アキトをねらったミサイルの流れ弾が接近!!

あ、よけきれなかった・・・

吹っ飛ぶ空戦フレーム

ゴン!!

ジュンのエステはその反動でナデシコのエンジンブロックにぶつかった・・・

「相転移エンジン出力低下」
「フィールド出力最低までダウンしま〜〜す」
ルリとミナトがありがたくない報告をする。
『なんだなんだ!!
 どこの馬鹿だ!!エンジンにぶつかったのは!!!』
「「「「「副長で〜す」」」」」
ウリバタケが怒鳴り声をあげるウインドウに、一同は異口同音にそう答えた。

「んで、被害状況は?」
ユリカは有能な指揮官らしくすぐさま尋ねる。
『幸い大した被害はないが・・・ビッグバリア突破まではエンジンをまわせねえぞ!!』
ウリバタケは何とも厳しい現実をいう。

「すると、第二防衛ラインのミサイル群はおろか、デルフィニウム部隊の攻撃でもこの艦を沈められる、か・・・」
「頭の痛い話ですねぇ」
ゴートがこめかみをおさえ、プロスがそろばんをはじくのに大忙しだった。

「下手な鉄砲を打ったら、相手に当たらずに自分の足に当たっちゃいましたね・・・」
「・・・ちぇ」
メグミの台詞の陰でルリがこっそり舌打ちした。



ナデシコ・格納庫


「はい、アキ。
 これミナトから預かってきた」
「ありがとうラピスちゃん」
「・・・・・♪」
薬を受け取ったアキはお使いに来たラピスの頭をグリグリ撫でてあげる。

『すみません、アキさん。』
「・・・かまわないわよ。仕方ないもの」
謝るユリカに手を振るアキ。
そして痛み止めの薬を飲み込むとパイロットスーツに着替えて黒色の空戦フレームに乗り込んだ。

レッカーで搬入されてくるジュンのエステを横目にアキの黒色のエステバリスは重力カタパルトに移動した。



戦闘空域


「てめえら、よってたかって汚ねえぞ!!」
金魚の糞みたいにデルフィニウム十数機を従えて必死に逃げまくるアキトのエステバリス。
後ろからはミサイルの雨あられ。
アキトでなくとも叫びたくなるのは無理もなかった。
しかし、その追いかけっこも長くは続かなかった。

ガツン!!

「おハロ〜〜!アキト君お待た〜」
「アキさん♪」
そういってアキトを取り囲んでいたデルフィニウムを蹴り倒したのはアキのブラックエステバリスであった。

「大丈夫なんですか・・・・その・・・痛いの・・・」
「大丈夫よ。ミナトさんに重い日用の痛み止めを貰って飲んだの。
 とりあえずこれぐらいのデルフィニウム相手にできるぐらいには痛みが治まったから」
アキトも恥ずかしいのか口ごもって聞くので、アキもつられて恥ずかしげに答えた。

「とりあえず、ここは私が引き受けるから、アキト君はあの熱血バカの二人をたしなめてきて。
 もうそろそろ第二防衛ラインの射程に入る頃だからミサイル群がやってくる前に片づけておきたいわ」
「わかりました!!」
アキの指示にやる気まんまんで答えるアキトであった。



ナデシコ・ブリッジ


「ほえ〜〜
 やっぱアキさん、凄いね」
「アキ、凄い♪」
ユリカとラピスが感嘆の声を上げるが、全員の意見を代弁していた。

「きっかり5分。
 あれだけの数のデルフィニウムを生理痛を押して出撃し、わずかの時間に相手を殺さずに撃退するなんて、さすがですね」
ルリが珍しく尊敬の念を込めてつぶやいた。

「それに比べて・・・」
メグミがジト目で上のフロアを睨んだ。
「・・・・・ごめん」
おでこにでっかいバンソウコウを貼ったジュンが平謝りに謝った・・・

「こっちは別の意味で凄いね・・・」
ミナトは反対側で戦っている二機の機動兵器同士が行う格闘戦を眺めてつぶやいた・・・



戦闘空域


ガイとイツキの二人は機動兵器でどつき合いのケンカをしていた。
機動兵器なのに器用なことで、

ガイが空戦フレームで飛び膝蹴りをしようとすると、イツキは短いデルフィニウムのマニピュレータで器用にそれを受け止めていた。
ガイが空戦フレームで回し蹴りをしようとすると、イツキは短いデルフィニウムのマニピュレータで軸足を払おうとする。
ガイが空戦フレームでアッパーをかまそうとすると、イツキは短いデルフィニウムのマニピュレータでカウンターを狙おうとする。

『機動兵器で格闘技なんかするんじゃねぇ!!』というウリバタケの至極まっとうなツッコミを度外視するとすれば、こと格闘戦においてこの二人は宇宙軍で一、二を争うだろう。

「お竜!なぜロボットに手足がなければいけないということがわからんのだ!!」
「笑止!!たかが手足などなくともそこに真の熱血がなければただの子供のおもちゃです!!」

ガイとイツキの恥ずかしげもない会話が外にだだ漏れだった。ある意味どうでもいいことで言い争っている二人を苦笑して見守るアキト。
「アキト君、ぼさっとしてないで止めて」
「あ、はい!」
アキにツッコまれて慌てて間に入ろうとするアキトだが・・・

ガイ「なに!!お前は俺様に熱血の魂がないというのか!!」
アキト「あの・・・二人とも」
イツキ「そうよ!!守るべきものを捨てて物欲に流れてしまったあなたの熱血などただの腑抜け!!」
アキト「落ち着いて話し合えばきっとわかりますから・・・」
ガイ「なに?俺がいつ守るべきものを捨てた!」
アキト「だから・・・」
イツキ「生きて人がいるかどうかもわからない火星なんかに向かおうとしていることがよ!!」
仲裁に入ろうとしていたアキトだが、イツキのその言葉に思わず『カチン!!』ときてしまった。

ガシ!!!!

「ちょっとイツキさん!それどういう意味ですか?」
いつの間にかガイとイツキの拳を受け止めてからアキトのエステの顔はイツキのデルフィニウムににじり寄る。
あの殴り合いの最中を割ってはいるなんて、怒りにまかせた無意識とはいえアキトも結構凄いかもしれない。
「な、なによ・・・」
アキトの静かな怒りに気圧されてイツキは思わず後ずさる。

アキト「それ、どういう意味ですか!」
イツキ「なにって、今地球で木星蜥蜴に命を脅かされている人がいるのに、それを見捨てて火星くんだりまで出かけようとしていることが・・・」
アキト「本気でそう思ってるんですか?」
イツキ「な、なにが」
アキト「だから火星の人達を助けに行くって事はくだらないことなんですか?」
イツキ「そ、そうよ」
アキト「・・・」
イツキ「だってそうじゃない。生きてるかどうかもわからない火星の人達を助けに行ってなんになるの?」
アキト「・・・」
イツキ「そんな不確実な情報に踊らされて、今、目の前の地球の人を見捨てて火星に行こうとするあなた達のどこに正義があるというの!!!」

アキト「バカ野郎!!!!!」

バシ!!!!
アキトのエステがイツキのデルフィニウムの顔らしき場所を殴った。



ナデシコ・ブリッジ


ジュン「テンカワ君、女の子に手を出しちゃいましたね」
ミナト「グーはまずいんじゃない?女の子相手に・・・」
メグミ「って機動兵器相手にグーもパーも関係ないんじゃないかと・・・」
ユリカ&ルリ「いま盛り上がってるところなんですから茶々入れないで下さい!!!」
一同「・・・・はい」



戦闘空域


「何するのよ!!パパにだってぶたれたことないのに!!」
イツキが悔し涙混じりで叫ぶがアキトの怒りはそれだけではすまなかった。
「そんなんだから軍はメンツなんかで落とせやしないチューリップと引き替えにコロニーを潰したりするんだ!!」
気圧されるイツキだが、彼が何のことを言っているのかわからなかった。

「じゃなんですか!?
 地球で木星蜥蜴に脅えている人達は助ける価値はあっても、火星で脅えている人達には助ける価値もないって言うんっすか?」
「そ、それは・・・」
「火星じゃ、そりゃ怖かったっすよ。
 地球の人達からすればバッタを見てブルブル震えるのってそりゃ滑稽でしょうけど、本当に怖かったんっすよ!
 だって誰か助けてくれますか?
 軍隊はさっさとあきらめて引き上げちゃったし
 ナデシコやエステバリスなんて心強い兵器もなかった!
 ましてやデルフィニウムなんてロボットも戦闘機も戦艦もなかった。
 ミサイル衛星もビッグバリアもなかった!!」
「・・・」
「どこからも正義の味方なんて現れやしなかった。
 バッタと対峙したら死を意識せざるを得なかったんっすよ!!
 そんな中で恐怖に震えてるかもしれない火星の人達が、地球の人達より救う価値がないって言うんですか!!」
「・・・・・・・ごめんなさい」
真摯なアキトの言葉にイツキは自分の傲慢さに気づいてうなだれた・・・。



ナデシコ・ブリッジ


ユリカとメグミはアキトの言葉に思わずもらい泣きする。
ルリやラピスは無表情だがそれなりに感じ入ったようだった。
他の者も一様に何か感じているようだった。

ナデシコが火星に向かう意義・・・

自分たちは地球を見捨てて、価値のない火星に向かっているのではないのか?
そしてそれには何か意味があるのか?
たとえネルガルの意向がどうあれ、クルー一人一人が持つこの疑問や迷いをアキトの言葉が打ち抜いた。

みんなの気持ちはほんの少しアキトに近づいたのかもしれない・・・。
ただ一人、フクベ提督を除いては。



戦闘空域


「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい!」
「あんた達軍人が地球のことばかりじゃなくもっと月や火星の事も考えていてくれてれば・・・」
「はい、ストップ!」
謝り続けるイツキをなお責め立てようとするアキトを女性の声が制した。

「あ・・・アキさん!」
アキのエステバリスがデルフィニウム部隊を片づけてようやく駆けつけてきたのだ。
「それ以上はこの子の背負える話じゃないよ」
「でも・・・」
「人は手の伸ばせる範囲のものしか守れないし、それ以上を守る必要もない。
 人は残念だけど神様でもなければ万能でもないの。
 どんなに頑張っても手の届く範囲しか救えないのよ。
 でもあなたが火星の人達を救いたいように、彼女も地球の人達を救いたいの。
 それがお互いの手の届く範囲なの。
 だからそこに価値の差はないの。
 わかるかな?」
「・・・・」
「わかるわよね。さっきそういったのはあなた自身なんだから。」
「・・・言い過ぎました」
「よろしい♪」
アキに諭されてアキトは落ち着きを取り戻して謝った。
その言葉にアキはにっこり笑った。

そして今度はイツキに向かって諭した。
「そりゃ、確かに戦艦一隻で火星くんだりまで出かけるのってバカ以外の何者でもないわ。
 でも火星で震えてるかもしれない人達を助けようってバカが一人ぐらいいてもかまわないでしょ?」
「・・・はい・・・」
「じゃ、アキト君やヤマダ君の気持ちはわかってくれるよね」
「わかりました!ガイ隊長は木星蜥蜴から人類全体を救おうとなされているのですね!!!」
アキに励まされて元気に叫ぶイツキだった。

なんか違う気がするのだが、本人が納得しているようだから良しとしよう・・・。

「んじゃ、ヤマダ君」
「ダイゴウジだ!!」
ガイがそれだけは譲らないのでアキは仕方なく調子を合わせて指示を出した。
「ガイ君はお姫様をナデシコまでエスコート」
「ええ!これからミサイル群の相手をして目立とうと・・・」
「お姫様の護衛はナイトの栄誉。
 どうせ今からじゃ彼女、ステーションに帰れないでしょ?」
「・・・・わかった」
ナイトのところに触発されたのか、イツキに対して幾ばくかのやましさがあったのか、素直に従うガイであった。

「すまなかったな・・・お竜」
「かまいませんよ、ガイ隊長・・・」
ラブ野郎二人組はそのままナデシコに向かった。



ナデシコ・ブリッジ


「どうでもいいですけど、ミサイル群がもうそこまで来てますよ?」
「そうだった〜〜!!」
ルリの鋭いツッコミにユリカが頭を抱えていた。

今のフィールドの出力ではあれだけ大量のミサイルを防ぎきれないからだ。



戦闘空域


「おお、いっぱいだね」
「んな、のんきな・・・」
盛大にやってくるミサイル達を眺めてアキはのほほんとした声を上げた。
「さてと、んじゃこれからミサイルたちを叩き落としますか。」
「ってあれ全部ですか!?
 無茶ですよ!!!」
「大丈夫!大丈夫!」
アキの言葉に不安をつぶやくアキトだが、とうのアキはあっけらかんとしていた。

「大丈夫じゃないっすよ。第一アキさん、・・り痛で苦しいんでしょ?」
「無理はしないわ。
 必ずしも全部落とす必要はない。要はナデシコのフィールドで防げるぐらいまで間引ければいいのよ。」
「それにしたって・・・」
「大丈夫。アキト君もいるし」
「オレっすか?」
戸惑うアキト。しかしアキはいつもの人を安心させる笑顔で答えた。

「そう、私が撃ち漏らしてもあなたが仕留めてくれる。
 だから私は無理をしなくてもいいのよ」
「・・・・オレ、自信がないっす」
「大丈夫!君はもう火星で震えていた頃の君じゃない。
 だから二人でやればきっとうまく行くわよ!!」
アキはにっこり笑う。まるでユリカのような笑顔で。
「わかりました!オレ、やるっす!!」
それがアキトの戦いの第一歩であった。



そして戦いの行方は


その後、アキの黒エステバリスはミサイル群に突っ込み、華麗な操縦テクニックで蹴散らして見せた。
まぁ、ご愛敬で3機ばかり撃ち漏らしたが、そこは後方に控えていたアキトが・・・かなり危なかっし気ではあるが・・・何とか打ち落とすことが出来た。
この日初めてアキトは自らの力で撃墜数3を記録する。

しかしそれは彼の心の中で「コックになりたい」という気持ちと「火星の人達を救う力が欲しい」という相反する感情を育ませることとなるのだが、それは以降の講釈の内容であろう。

まぁ、生真面目なお嬢さんを一人拾ってしまったまま、ナデシコはビックバリアを強行突破し、地球の電波に多大な影響をかけてしまったわけであるが、とにもかくにも宇宙の海原にこぎ出したわけで。

イツキちゃんをどこで降ろそうかとか、いろいろ悩みはあるのだけれど、とりあえずナデシコのクルー達は火星に向かう意義というものを再確認した。
それが歴史にどれほどの影響を与えるかわからないが、当人達にとっては意味のあることであった・・・。



ポストスプリクト


ということで黒プリ第3話をお届けしました。
たぶんひく方もいらっしゃるんじゃないでしょうか>アキの腹痛(爆)
まぁ、女アキトになる以上こういう男女のギャップに悩むのもいいのではと・・・
(でも好き嫌いは激しいと思う、たぶん。拒絶される方が多いかも・・・)

イツキは完全に女ガイになっちゃいましたね。真面目に熱血している人だし・・・

個人的には悪のり半分でノリノリで書いているんですが、賛否両論と思う今回のお話。
ちょっと感想が不安です・・・

なお、とりあえず現時点でガイは死にません。
で、その先はというと・・・・殺し所を探していたりします(爆)
生存嘆願は多いほど長生きすると思いますので教えて下さい。

ということでもしもおもしろかったなら感想をお願いします。
次回は5万ヒットぐらいでお会いしましょう。

では!

Special Thanks!
・日和見様
・朱玄 様
・Jade 様
・kakikaki 様